説明

双方向光通信モジュール

【課題】厳しい温度制御が必要なEA/LDを使うことなく、簡便な温度制御でGE−PONと10GE−PONとにおいて高速光信号を送受信可能な、小型で低消費電力の双方向光通信モジュールを提供する。
【解決手段】双方向光通信モジュール1は、波長λ1の信号光を送信する第1LD素子3と、波長λ1の信号光より伝送速度が高い波長λ2の信号光を送信する第2LD素子4と、波長λ3の信号光を受信するPD素子2を備えるものであって、第1LD素子3の信号光の光強度をモニタする第1モニタPD素子5と、第2LD素子4の信号光の光強度をモニタする第2モニタPD素子6と、第2LD素子4の信号光を「1」レベルの波長光と「0」レベルの波長光とに分波する分波フィルタ11と、「0」レベルの波長光の光強度をモニタする第3モニタPD素子7と、を備え、分波フィルタ11の分波特性が調整可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送速度の異なる2つの加入者系ネットワークの一方にそれぞれが対応した2つの光送信部と、上記の両ネットワークに対応した光受信部とを備える双方向光通信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信は、基幹系ネットワークのみならず、ユーザ宅に繋がる加入者系ネットワークにも適用されてきており、加入者系ネットワークに関する技術の開発に注力されるようになっている。
これまでに、加入者系ネットワークとして、伝送速度が約1Gbit/sのGE−PON(Gigabit Ethernet(登録商標)-Passive Optical Network)が実現されてきたが、より大きな伝送容量が求められる現在では、伝送速度が約10Gbit/sの10GE−PONの実現に向けて技術開発が行われている。
【0003】
GE−PONから10GE−PONへの移行に際し、センタ(局)側に配置されるOLT(Optical Line Terminal)として以下の送受信装置が用いられることが考えられる。
すなわち、1260〜1360nmの波長帯の光信号を用いた、GE−PONまたは10GE−PONにおける上り光信号を受信可能なバースト信号受光部と、1480nmの波長帯の光信号を用いたGE−PONにおける下り信号を送信可能な1GE光送信部と、1570nm以上の波長帯の光信号を用いた10GE−PONにおける下り信号を送信可能な10GE光送信部とを備える双方向光通信モジュールが用いられることが考えられる。
【0004】
また、10GE−PONでは、GE−PONと伝送線路を共通化するために約30dBのロスバジェットが要求される。したがって、10GE用の送信光に高い消光比特性(6dB以上)が必要とされ、その実現のためには、厳密に温度調整することにより上記要求を満たすことができる変調器集積型レーザ(EA/LD:Electro-Absorption/Laser Diode)が採用される。
【0005】
なお、10GE−PONに比べ光出力特性に対する要求が厳しくないGE−PONでは、LD素子をペルチェ素子等により温度調整する必要がないとされている。
また、GE−PONには、例えば、特許文献1に開示のように、LD素子と、フォトダイオード(PD:Photo Diode)素子とがそれぞれ1つずつPLC(Planer Lightwave Circuit)上に実装された双方向光通信モジュールを適用できる。特許文献2〜4に開示のように、LD素子とPD素子が一つずつCANパッケージ内に実装されたものも適用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−242366号公報
【特許文献2】特開2007−268539号公報
【特許文献3】特開2007−268537号公報
【特許文献4】特開2007−181025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
GE−PONと10GE−PONのいずれにおいても双方向伝送可能な光モジュールとしては、特許文献1〜4の開示のようなLD素子とPD素子を一つずつ有する構成に加えて、厳密に温度調整されるEA/LDを設けた光モジュールが考えられる。しかし、この構成の光モジュールでは、EA/LDの厳密な温度調整のためにペルチェ素子等の比較的大型の素子をモジュール筐体内に設ける必要があるので、光モジュールが大型化してしまう。また、温度調整を厳しく行うために電力が多く必要となってしまう。
【0008】
本発明は、上述のような実情に鑑み、厳しい温度制御が必要なEA/LDを使うことなく、簡便な温度制御でGE−PONと10GE−PONとにおいて高速光信号を送受信可能な、小型で低消費電力の双方向光通信モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の双方向光通信モジュールは、波長λ1の信号光を送信する第1の光送信部と、波長λ1の信号光より伝送速度が高い波長λ2の信号光を送信する第2の光送信部と、波長λ3の信号光を受信する光受信部を備えるものであって、第1の光送信部の信号光の光強度をモニタする第1モニタ受光部と、第2の光送信部の信号光の光強度をモニタする第2モニタ受光部と、第2の光送信部の信号光を「1」レベルの波長光と「0」レベルの波長光とに分波する分波フィルタと、「0」レベルの波長光の光強度をモニタする第3モニタ受光部と、を備え、分波フィルタの分波特性が調整可能とされていることを特徴とする。
【0010】
また、分波フィルタの分波特性が、温度依存性があり、第3モニタ受光部によるモニタ結果に基づいて、加熱手段により加熱制御可能とされていることが好ましく、第2の光送信部が、直接変調型のレーザダイオードで構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の双方向光送信モジュールによれば、厳しい温度制御が必要なEA/LDを使うことなく10GE−PON用の送信光の消光比特性を高くすることができるので、小型で低消費電力とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の双方向光通信モジュールの一構成例を説明する概略図である。
【図2】図1の双方向光通信モジュールの特徴的な動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を参照して、本発明の双方向光通信モジュールの構成例を説明する。
図1の例の双方向光通信モジュール(以下、光モジュールという)1は、PD素子2、第1,2LD素子3,4、第1〜第3モニタPD素子5〜7がPLC基板8上に実装されて成るもので、制御部Cにより制御される。
【0014】
PLC基板8は、InP基板、もしくは屈折率の温度特性がInP(0.08nm/℃)に近いSi基板上に、シリカ(0.086nm/℃)から成る光導波路8a〜8gが形成されたものである。また、光導波路8b,8e上には、一の光導波路を二つに分けるカプラ9a,9bが設けられる。PLC基板8上には、さらに、所定の波長の光信号を透過し他を反射する第1,第2WDM(Wavelength Division Multiplexing)フィルタ10a,10bや、後述の分波フィルタ11も設けられる。
【0015】
第1WDMフィルタ10aと第2WDMフィルタ10bとの間の光導波路8cからの信号光が、第1WDMフィルタ10aに反射されて、光ファイバFと第1WDMフィルタ10aとの間の光導波路8aに入射するよう、第1WDMフィルタ10aは設けられる。
それに対し、第2WDMフィルタ10bは以下のことが可能なように設けられる。すなわち、分波フィルタ11と第2WDMフィルタ10bとの間の光導波路8fからの信号光が当該フィルタ10bに反射されて光導波路8cに入射すると共に、第1LD素子3と当該フィルタ10bとの間の光導波路8bからの信号光が当該フィルタ10bを透過し光導波路8cに入射するよう設けられる。
【0016】
PD素子2は、GE−PONまたは10GE−PONにおける上り光信号を受信し電気信号に変換するバースト信号受光部である。光ファイバFを伝播してきた波長λ3(例えば1260〜1360nm)の信号光は、光導波路8aに結合し第1WDMフィルタ(多層膜エッジフィルタ)10aを透過し、PD素子2で電気信号に変換されて出力される。
【0017】
第1LD素子(本発明の「第1の光送信部」に相当)3は、GE−PONにおける下り信号光を送信する1GE光送信部である。第1LD素子3により直接変調された信号光(「1」レベルのときの波長λ1が例えば1480〜1500nmである信号光)は、光導波路8bに入力されるとカプラ9aにより分岐され、その大部分は第2WDMフィルタ10bに導波され該WDMフィルタ10bを透過する。そして、第1WDMフィルタ10aへ続く光導波路8cを通り、光導波路8aを通り光ファイバFへ出力される。
【0018】
また、第1LD素子3から出力されカプラ9aにより分けられた信号光の一部は、光導波路8dを介して第1モニタPD素子5により受信され、電気信号に変換されて、制御部Cに入力される。制御部Cでは、第1LD素子3からの光出力強度を一定にするために、すなわち、第1モニタPD素子5でのモニタ出力が一定になるように、モニタ結果に基づき、第1バイアス電流制御部C1により上記LD素子3に入力するバイアス電流を制御する。
【0019】
第2LD素子(本発明の「第2の光送信部」に相当)4は、10GE−PONにおける下り信号光を送信する10GE光送信部であり、GaInAsPやAlGaInAs等の材料で作成されたLD(無温調LD)で構成される。第2LD素子4により直接変調された信号光(「1」レベルのときの波長λ2が例えば1570nm以上である信号光)は、光導波路8eに入力されるとカプラ9bにより分岐され、その大部分は分波フィルタ11に導波される。残りは第2モニタPD素子6により受信され、電気信号に変換されて、制御部Cに入力される。制御部Cでは、第2LD素子4からの光出力強度を一定にするために、すなわち、第2モニタPD素子6でのモニタ出力が一定になるように、モニタ結果に基づき、第2バイアス電流制御部C2により上記LD素子4に入力するバイアス電流を制御する。
【0020】
分波フィルタ11は、入力された信号光を「1」レベルの波長光と「0」レベルの波長光とに分波し、「1」レベルに相当する波長の光を光ファイバ方向すなわち光ファイバFへと続く光導波路8fに導き、「0」レベルに相当する波長の光を非光ファイバ方向すなわち第2モニタPD6へと続く光導波路8gに導くことを目的として用いられるものである。この分波フィルタ11は、入力された光のうち光ファイバ方向に導く光の割合(分波率/透過率)が波長に依存しており、その波長依存性が温度により変化する。この分波フィルタ11の分波率/透過率の波長依存性を温度調整するために、ヒータ手段11aが双方向光通信モジュール1に設けられている。
【0021】
また、分波フィルタ11は、例えば、PLC基板8に一体に作られる。分波フィルタ11に入力され透過した信号光のうち、「1」レベルに相当する波長(λ2)の信号光は、光導波路8fへ入射した後に第2WDMフィルタ10bで反射されて光導波路8cに入射される。光導波路8cに入射された波長(λ2)の信号光は、第1WDMフィルタ10aで反射されて光導波路8aを介して光ファイバFに入射する。また、「0」レベルに相当する波長(λ2−Δλ)の信号光は光導波路8gを介して第3モニタPD素子7へ入射し電気信号に変換され制御部Cに入力される。
【0022】
そして、本光双方向光通信モジュール1では、第3モニタPD素子7からの入力結果に基づいて、制御部Cのヒータ制御部C3によりヒータ手段11aが制御され、光分波フィルタの分波率/透過率の波長依存性が制御される。これにより、厳密な温度調整の必要なEA/LDを用いずに厳密な温度調整無しに直接変調型のLDを用いた場合であっても、GE−PONと10GE−PONとの両方において通信するための条件(高い消光比特性(6dB以上)など)を満たすようにしている。
【0023】
より具体的には、第2LD素子4の消光比特性(「0」レベルの信号入力時に対する「1」レベルの信号入力時の発振光強度)は、図2(A)に示すように2〜3dBであるのに対し、以下のような制御が行われる。すなわち、図2(B)に示すような「1」レベルの信号入力時の発振波長λ2に対する分波率/透過率が「0」レベルの信号入力時の発振波長λ2−Δλに対する分波率/透過率に対して数dB以上大きくなる分波特性/透過特性となるように、光分波フィルタ11をヒータ手段11aにより温度調整する。これは、例えば、第2モニタPD素子6と第3モニタPD素子7で検出される光強度の比が一定になるように制御したり、第2モニタPD素子6と第3モニタPD素子7とがそれぞれ所定の値となるように制御することで達成できる。これにより、高い消光比特性が得られる。
【0024】
本光双方向光通信モジュール1では、ヒータ手段11aは、抵抗素子等の小型で簡易なもので構成できるため、モジュール全体を小型とすることができ、また、低消費電力とすることができる。
なお、分波フィルタ11としては、リング共振器型のものを用いてもよいし、リング共振器装荷マッハチェンダ型や、回折格子装荷マッハチェンダ型のものでもよい。
【0025】
また、図2で示した第2LD素子4の発振波長と分波フィルタ11の分波特性/透過特性との関係は、本発明が使用される最大温度においてヒータ手段11を用いない状態で調整され(チューニングされ)、それよりも低い温度になったときは、ヒータ手段11aにより分波フィルタ部分を加熱することで調整される。なお、分波フィルタ11を、In系の第2LD素子4の材料とほぼ屈折率の温度変化率が近い(=波長の温度変化率が近い)InP基板あるいはSi基板で作成しておけば、ヒータ手段11aにより分波フィルタの分波特性/透過特性の波長依存性を温度調整する割合が少なくてすむので好ましい。
【0026】
以上の例では、第1LD素子3と第2LD素子4とから同時に信号光を発しないものとして説明したが、本発明は、両素子3,4から同時に発するようにした双方向光通信モジュールにも適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1…双方向光通信モジュール、2…PD素子、10a…第1WDMフィルタ、10b…第2WDMフィルタ、11…光分波フィルタ、11a…ヒータ手段、3…第1LD素子、4…第2LD素子、5…第1モニタPD素子、6…第2モニタPD、7…第3モニタPD、8…PLC基板、8a〜8g…光導波路、9a,9b…カプラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長λ1の信号光を送信する第1の光送信部と、前記波長λ1の信号光より伝送速度が高い波長λ2の信号光を送信する第2の光送信部と、波長λ3の信号光を受信する光受信部を備える双方向光通信モジュールであって、
前記第1の光送信部の信号光の光強度をモニタする第1モニタ受光部と、前記第2の光送信部の信号光の光強度をモニタする第2モニタ受光部と、前記第2の光送信部の信号光を「1」レベルの波長光と「0」レベルの波長光とに分波する分波フィルタと、前記「0」レベルの波長光の光強度をモニタする第3モニタ受光部と、を備え、前記分波フィルタの分波特性が調整可能とされていることを特徴とする双方向光通信モジュール。
【請求項2】
前記分波フィルタの分波特性は、温度依存性があり、前記第3モニタ受光部によるモニタ結果に基づいて、加熱手段により加熱制御可能とされていることを特徴とする請求項1に記載の双方向光通信モジュール。
【請求項3】
前記第2の光送信部は、直接変調型のレーザダイオードで構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の双方向光通信モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−39117(P2011−39117A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183784(P2009−183784)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】