説明

反強磁性的層間結合磁性膜を用いた磁気記録媒体及び磁気記憶装置

【課題】Co、Ruなどの希少金属を用いることなく、磁気的に反平行状態で結合した構造を含む磁気記録媒体、垂直磁気記録媒体、磁気記憶装置、磁気メモリセルを提供すること。
【解決手段】第1磁性層と第2磁性層とが非磁性層を介さず、磁気的に反平行状態で結合した構造を含む磁気記録媒体磁気記録媒体ならびに垂直磁気記録媒体、磁気記憶装置、磁気メモリセルであって、第1磁性層がスピネル型または逆スピネル型のイオン結晶構造をもつ酸化物からなり、第2磁性層が単体で強磁性を有する金属または、単体で強磁性を有する金属を含む合金からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反強磁性的層間結合磁性膜を用いた磁気記録媒体及び磁気記憶装置に関する。さらに詳しくは、磁気的に反平行状態で結合した構造を含む磁気記録媒体、垂直磁気記録媒体、磁気記憶装置、磁気メモリセル及び酸化鉄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報処理技術の発達に伴い、磁気記録媒体の記録密度の向上が求められている。高密度化の要求を満たす磁気記録媒体に必要な特性には、例えばハードディスクでは、熱安定性の向上と低ノイズ化がある。特定の膜厚を有するRu(ルテニウム)などの非磁性層を介して反平行の磁化方向で交換結合する2層の強磁性層を構成し、これら2層に発生する反強磁性的層間結合を利用して、記録ビットの熱安定性を向上し、媒体ノイズを低減しうることが知られている(特許文献1等参照)。
【0003】
垂直磁気記録方式の構成に含まれる軟磁性裏打ち層の内部に、Ruなどの非磁性層を含む反強磁性的層間結合層を設けることにより、1つの軟磁性層の残留磁化を、別の軟磁性層の反平行磁化と結合させ、軟磁性裏打ち層に由来する巨視的な磁束を相殺して読み取りヘッドに到達しないようにすることで、記録磁化の読み取り時にスパイクノイズを抑制しうることが知られている(特許文献2等参照)。
【0004】
磁気ランダムアクセスメモリ(Magnetic Random Access Memory)に含まれる磁気メモリセルにおいては、フリー層または固定層の内部に、Ruなどの非磁性層を介した反強磁性的層間結合を利用する層構造が含まれることが知られている(非特許文献1等参照)。
【0005】
なお、発明者らは、単結晶酸化鉄膜を成膜する装置を用いて目的基板上に金属鉄膜を成膜しうるとともに、前記鉄をオゾンガスで酸化しながら単結晶絶縁酸化鉄膜を成膜しうる発明を出願している(特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第3848072号
【特許文献2】特許第3731640号
【特許文献3】特開平2006−327920
【非特許文献1】W.J.Gallagher and S.S.P.Parkin, IBM RES.&DEV., NO.1 page 5〜23A(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、CoやRuは希少金属であり、情報処理技術の発達によりコンピュータ用ハードディスク装置などの高密度の磁気記録媒体の需要が高まって価格が上昇し、また、産出地域の偏在や、政治情勢などの要因によりこれらの原料価格の高騰、供給不安定などの問題があった。
【0007】
本発明は、Co、Ruなどの希少金属を用いることなく、磁気的に反平行状態で結合した構造を含む磁気記録媒体、垂直磁気記録媒体、磁気記憶装置、磁気メモリセル及び酸化鉄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、蒸着法でエピタキシャル四酸化三鉄膜を成膜しうる装置を開発し、鉄薄膜と直接結合させた磁性膜において該2膜に反強磁性的層間結合が生じることを見出し、層間結合強度の絶対値は1ミリジュール/平方メートル以上であって、室温環境において反強磁性的層間結合を利用しうることを見出したことによって、本発明を完成するに至った。
【0009】
(1) 第1磁性層と第2磁性層とが非磁性層を介さず、磁気的に反平行状態で結合した構造を含む磁気記録媒体であって、第1磁性層がスピネル型または逆スピネル型のイオン結晶構造をもつ酸化物からなり、第2磁性層が単体で強磁性を有する金属または、単体で強磁性を有する金属を含む合金からなる、磁気記録媒体。
【0010】
(1)の第1磁性層には、スピネル型のイオン結晶構造をもつ酸化物として、例えばFeCrOを用いることができる。逆スピネル型のイオン結晶構造をもつ酸化物としては、例えばFe、FeNiOを用いることができる。第1磁性層に含まれる磁性酸化物は、スピネル型または逆スピネル型のイオン結晶構造を有すればよく、他の酸化物、例えばMnFe、CuFe、MgFeでもよい。
【0011】
(1)の第2磁性層には、例えばFe、Ni、またはこれらを含む合金を用いることができる。第2磁性層に含まれる金属または合金は、単体で強磁性を有する金属を含むものであれば何でもよい。
【0012】
(2) (1)に記載の磁気記録媒体であって、第1磁性層が四酸化三鉄(Fe)または四酸化三鉄を含む酸化物膜であり、第2磁性層が鉄(Fe)または鉄を含む合金からなる金属膜である磁気記録媒体。
【0013】
(2)の第1磁性層は、真空蒸着装置などを用いて成膜した四酸化三鉄または四酸化三鉄を含む酸化物膜を用いることができる。あらかじめ四酸化三鉄の結晶を用意してもよく、鉄と酸素とを反応させて得られる四酸化三鉄を膜状に並べてもよい。
【0014】
(2)の第2磁性層は、真空蒸着装置などを用いて成膜したFe膜またはFeを含む合金膜を用いることができる。
【0015】
(2)の第2磁性層の磁化容易方向は、真空蒸着法により成膜したFe結晶においてはFeの容易磁化方向である結晶[100]方向が膜面と平行になることが知られている。本発明の磁気記録媒体に含まれる第2磁性層の成膜においては、容易磁化方向を膜面と略並行に設けうる成膜法を適宜選択して用いることができる。
【0016】
本発明の磁気記録媒体に含まれる磁性膜の第1磁性層を製作する方法の好ましい例としては、基板材料として酸化マグネシウム(001)面を用いる。該基板は、例えば酸化マグネシウムヘキカイ基板および研磨基板を用いることができる。到達真空度0.00000133Pa程度の真空槽を用いて基板を700℃で1時間熱処理した後、基板温度220℃、酸素圧力0.0004Pa以上においてFeの反応性蒸着により四酸化三鉄層を基板上に成長させる。前記鉄は鉄成分が99.95%の金属鉄であり、前記酸化源である酸素ガスは酸素成分が100%の純酸素であることが好ましい。
【0017】
本発明の磁気記録媒体に含まれる磁性膜の製作においては、前記のように基板上に四酸化三鉄膜を成膜した後にFe膜を成膜してもよく、基板上にFe膜を成膜した後に四酸化三鉄膜を成膜してもよい。
【0018】
本発明の磁気記録媒体においては、金属膜/酸化物膜、特に鉄膜/四酸化三鉄膜の磁性層の構成があればよく、これらの一方または両方の、結合面でない膜面に、他の金属、合金、磁性体、非磁性体、絶縁体、電気的良導体が接触していてもよい。
【0019】
本発明の磁気記録媒体においては、金属膜/酸化膜の1層を用いてもよく、複数の層を重ねて多層膜を構成してもよく、多層膜を構成する際に磁性膜と磁性膜の間に本発明の磁性膜以外の構成による膜構造を介在させてもよく、反強磁性的層間結合を有する薄膜構造が本発明の磁性膜によれば、他の構造物の組成と構造は特に問わない。
【0020】
本発明の磁気記録媒体は、コンピュータ用ハードディスクなどの磁気記録媒体の磁気記録層において、従来のRu等を用いた非磁性層をもつ磁性多層膜を含む磁気記録層に置き換えて使用することができる。本発明の磁気記録媒体は、磁気情報の記録層の一部または全体に用いることができる。本発明の磁気記録媒体に含まれる磁気記録層の層構造の数は特に問わない。
【0021】
(3) 垂直磁気記録層と軟磁性裏打ち層とを有する垂直磁気記録媒体であって、軟磁性裏打ち層は第1軟磁性層と、第2軟磁性層とが非磁性層を介さず、磁気的に反平行状態で結合した構造を含む膜を有し、第1軟磁性層がスピネル型または逆スピネル型のイオン結晶構造をもつ酸化物からなり、前記第2軟磁性層が単体で強磁性を有する金属または、単体で強磁性を有する金属を含む合金からなる垂直磁気記録媒体。
【0022】
(3)の軟磁性裏打ち層を構成する第1軟磁性層には、スピネル型のイオン結晶構造をもつ酸化物として、例えばFeCrOを用いることができる。また、第1軟磁性層には逆スピネル型のイオン結晶構造をもつ酸化物として、例えばFe、FeNiOを用いることができる。第1軟磁性層に含まれる磁性酸化物は、スピネル型または逆スピネル型のイオン結晶構造を有すればよく、他の酸化物、例えばMnFe、CuFe,MgFeでもよい。
【0023】
(3)の第2軟磁性層には、例えばFe、Ni、またはこれらを含む合金を用いることができる。第2磁性層に含まれる金属または合金は、単体で強磁性を有する金属を含むものであれば何でもよい。
【0024】
(4) (3)の垂直磁気記録媒体であって、第1軟磁性層が四酸化三鉄(Fe)または四酸化三鉄を含む酸化物膜であり、第2軟磁性層が鉄(Fe)または鉄を含む合金からなる金属膜である垂直磁気記録媒体。
【0025】
(4)の第1軟磁性層は、真空蒸着装置などを用いて成膜した四酸化三鉄または四酸化三鉄を含む酸化物膜を用いることができる。あらかじめ四酸化三鉄の結晶を用意してもよく、鉄と酸素とを反応させて得られる四酸化三鉄を膜状に並べてもよい。
【0026】
(4)の第2軟磁性層は、真空蒸着装置などを用いて成膜したFe膜またはFeを含む合金膜を用いることができる。
【0027】
本発明に係る磁性膜を含む、垂直磁気記録方式の軟磁性裏打ち層は、従来のRu等を用いた非磁性層をもつ軟磁性裏打ち層に置き換えて使用することができる。本発明に係る磁性膜は、軟磁性裏打ち層の一部または全体に用いることができる。軟磁性裏打ち層に含まれる磁性膜の層の数は特に問わない。
【0028】
(5) (1)から(4)のいずれかの磁気記録媒体又は垂直磁気記録媒体と、該磁気記録媒体又は垂直磁気記録媒体に対して情報の記録及び/又は再生を行うヘッドとを備えた、磁気記憶装置。
【0029】
(5)の磁気記憶装置は、円板状の基板の上に磁気記録媒体を製作し、円板状の磁気記録媒体を回転させ、記録ヘッドを用いて磁気記録媒体の表面に磁気記録を書き込み、再生ヘッドを用いて記録磁気を読み取ることが知られている。コンピュータハードディスクなどで用いられている磁気記憶装置の基本構成自体は公知であり、その詳細な説明は本明細書では省略する。
【0030】
(5)の磁気記憶装置に含まれる磁気記録媒体の枚数は1枚に限らず2枚でもよく、3枚でもよく、枚数は問わない。1枚の磁気記録媒体の片面のみを磁気記録に用いてもよく、両面を磁気記録に用いてもよい。また、磁気記憶装置に含まれる磁気記憶媒体の形状は円板に限ったものではなく、細長いテープ状でもよく、形状は問わない。
【0031】
(6) 磁気記憶領域を有する磁気ランダムアクセスメモリであって、磁気記憶領域は第1磁性層と、第2磁性層とが非磁性層を介さず、磁気的に反平行状態で結合した構造を含む膜を有し、第1磁性層がスピネル型または逆スピネル型のイオン結晶構造をもつ酸化物からなり、第2磁性層が単体で強磁性を有する金属または、単体で強磁性を有する金属を含む合金からなる磁気ランダムアクセスメモリ。
【0032】
(6)の磁気ランダムアクセスメモリの磁気記憶領域に含まれる、反平行結合した磁性膜の第1磁性層には、スピネル型のイオン結晶構造をもつ酸化物として、例えばFeCrOを用いることができる。また、第1軟磁性層には逆スピネル型のイオン結晶構造をもつ酸化物として、例えばFe、FeNiOを用いることができる。第1軟磁性層に含まれる磁性酸化物は、スピネル型または逆スピネル型のイオン結晶構造を有すればよく、他の酸化物、例えばMnFe、CuFe,MgFeでもよい。
【0033】
(6)の第2軟磁性層には、例えばFe、Ni、またはこれらを含む合金を用いることができる。第2磁性層に含まれる金属または合金は、単体で強磁性を有する金属を含むものであれば何でもよい。
【0034】
(7) (6)の磁気ランダムアクセスメモリであって、第1磁性層が四酸化三鉄(Fe)または四酸化三鉄を含む酸化物膜であり、第2磁性層が鉄(Fe)または鉄を含む合金からなる金属膜である磁気ランダムアクセスメモリ。
【0035】
(7)の第1磁性層は、真空蒸着装置などを用いて成膜した四酸化三鉄または四酸化三鉄を含む酸化物膜を用いることができる。あらかじめ四酸化三鉄の結晶を用意してもよく、鉄と酸素とを反応させて得られる四酸化三鉄を膜状に並べてもよい。
【0036】
(7)の第2磁性層は、真空蒸着装置などを用いて成膜したFe膜またはFeを含む合金膜を用いることができる。
【0037】
本発明の磁気記録媒体は、磁気ランダムアクセスメモリの磁気メモリセルにおいて、従来のRu等を用いた非磁性層をもつ磁性層に置き換えて使用することができる。磁気メモリセルにおける磁性層の数は特に問わない。
【0038】
(8) 真空層内に置いた基板表面に、鉄を蒸着するとともに、基板に向けて酸素ガスを供給し、前記基板表面に、前記鉄を酸化しながら四酸化三鉄膜を成膜する、酸化鉄膜の製造方法。
【0039】
(8)の製造方法には、発明者らが出願済みの、オゾンガスで金属Feを酸化して単結晶三酸化二鉄(Fe)膜を成膜する装置において、酸化源ガスとして純酸素ガスを用い、酸素ガス圧0.00004Pa以上、基板温度220℃の製造条件で、四酸化三鉄膜を成膜できる。目的基板上に四酸化三鉄膜を成膜しうる製造条件であれば、酸素ガスの純度、酸素ガス圧、基板温度、基板材質等を適宜選択できる。
【0040】
(8)の製造方法においては、基板表面に鉄、四酸化三鉄を蒸着して成膜できればよく、同一の真空槽の中に他の材料を基板上に蒸着する装置を含んでもよく、基板上に成膜する材料の組成は問わない。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、Co、Ruなどの希少金属を使用することなく、反強磁性的層間結合を有する磁性膜を活用した応用品を提供することができる。すなわち、希少金属を使用することなく熱安定性の向上と低ノイズ化を図った磁気記録媒体を構成できる。また、希少金属を使用することなく、磁気記録媒体のスパイクノイズを抑制しうる軟磁性裏打ち層を有した垂直磁気記録方式による高密度記録が可能な垂直磁気記録媒体を提供できる。並びにこれらの磁気記録媒体を活用した磁気記憶装置を提供することができる。さらに、希少金属を使用することなく、反強磁性的層間結合を有する磁気メモリセルで構成した磁気ランダムアクセスメモリを提供することができる。
【0042】
本発明によれば、Co、Ruなどの希少金属の使用に伴う問題、すなわち、需要増加に伴い価格上昇し、また、産出地域の偏在や、政治情勢などの要因により原料価格の高騰、供給不安定などの問題を避けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、これはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
【0044】
<実施例1>
実施例1では、本発明の磁気記録媒体の製造方法により、製作した磁性膜に反強磁性的層間結合が発生することを示す。
【0045】
図1は、本発明の磁気記録媒体の構成を示す図であり、該磁気記録媒体は、基板3の上に第1磁性層2、第2磁性層3を設ける構成を有する。図2は、本発明の磁気記録媒体に含まれる磁性膜を製作するための成膜装置を示す図である。図3は、本発明の磁気記録媒体の酸化物膜を構成しうる四酸化三鉄のイオン結晶構造を示す図である。
【0046】
図2を用い、基板上に四酸化三鉄膜と鉄薄膜からなる磁性膜を製作する手順を示す。基板としては、例えば、縦10mm、横20mmの大きさの酸化マグネシウムヘキカイ基板および研磨基板を用意し、これらのMgO(001)面を用いることができる。
【0047】
到達真空度0.00000133Pa程度の真空槽13内において、原材料である鉄14はるつぼ15内に入れて、電子銃16の電子ビーム17を照射、加熱して蒸発させる。基板11は、四酸化三鉄膜2が成膜されるべき表面が鉄14の蒸発面を向くよう、真空槽13内に設置される。
【0048】
可変リークバルブ21を閉じた状態で、ヒータ25を用いて基板11を700℃で1時間熱処理した後、基板温度を220℃に維持する。次いで、可変リークバルブ21を開き、酸素発生装置19からノズル22を経由して真空槽13内へ酸素ガスを導入する。ノズル22は真空槽13内において基板11の方向を向くように配置されている。真空槽内の酸素ガス圧が0.0004Pa以上となるよう、可変リークバルブ21を調節する。Feの反応性蒸着によって四酸化三鉄層を膜厚13nmまで製作させる。この際に、Feの成長レートを0.005nm毎秒に制御すると、成長後の膜の電気抵抗率が最小になり、Verwey転移として知られる四酸化三鉄の金属絶縁物転移温度における電気伝導度変化が、Feの成長レートの異なる場合の膜製作と比べて急峻に表れることから、前記Feの成長レートにおいて構造が均一で良質な薄膜を得ることができる。
【0049】
図3は、四酸化三鉄のイオン結晶を模式的に示す図である。4配位のサイトAと6配位のサイトBに鉄原子が入った構造が3次元的に隣接し、ユニットセルサイズ0.84nmの単位格子を形成し、絶対温度120Kで金属絶縁物転移(Verwey転移)が見られることが知られている。
【0050】
図4に、本発明の磁気記録媒体の製造法により成膜した、四酸化三鉄膜の温度対電気抵抗率を示す。酸化源に純酸素ガスを使用して製作した四酸化三鉄膜の温度対電気抵抗特性7においては、横軸の絶対温度120K付近に注目すると、四酸化三鉄に特徴的なVerwey転移にともなう電気抵抗変化が明瞭である。室温297K付近に注目すると、縦軸の電気抵抗率の値は1Ωm以下である。
【0051】
一方、図4において、酸化源に10%オゾンガス、90%酸素ガスを使用して製作した四酸化三鉄膜の温度対電気抵抗率特性8に注目すると、絶対温度120K付近でのVerwey転移は不明瞭であり、室温付近での電気抵抗率は、純酸素で酸化した四酸化三鉄膜よりも高い値を示す。これらの現象は、純酸素で酸化した四酸化三鉄膜の結晶が、90%酸素ガスで酸化した四酸化三鉄膜の結晶よりも高い均一度をもつことを示唆する。すなわち、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、酸化ガスとして純酸素を用いることにより、四酸化三鉄膜と鉄薄膜が結合した磁性膜における反強磁性的層間結合を最大限に利用しうる。
【0052】
図5に、本発明の磁気記録媒体に含まれる四酸化三鉄膜の成膜中における、RHEED(反射高速電子線回折)像強度の時間変化の状況を示す。
【0053】
図5が振動波形を有することから、本発明の磁気記録媒体の製造方法においては、四酸化三鉄膜の表面は格子面方位がそろった状態で成長している。また、図5の振動波形の周期は、経過時間とFe成長レートとの積から計算される、膜厚の0.21nmごとの成長に相当する。像強度が一定速度の膜厚の成長にしたがい周期変化することから、本発明の製造装置と製造方法で作成した四酸化三鉄膜は、1層が形成された後にその上に次の層が形成されるように成長していることが明らかである。
【0054】
さらに、図3に示したように、四酸化三鉄結晶のユニットセルサイズは0.84nmであり、RHEED像強度の周期振動が示す膜厚0.21nmの値は、格子定数の4分の一に相当することから、製作した四酸化三鉄膜の表面は格子定数の4分の一程度の平坦性をもつと考えられ、本発明の磁気記録媒体の製造方法を用いることで、良好な平坦性を有する四酸化三鉄膜を製作できる。
【0055】
四酸化三鉄膜を製作した後に、基板温度を室温まで下げ、鉄のみを膜厚3nm程度に蒸着して、本発明の磁性膜が製作される。鉄の蒸着法は周知であり、その詳細な説明は本明細書では省略する。
【0056】
以上述べたように、本発明の磁気記録媒体の製造法により、図1に示すような基板上に第1磁性層、第2磁性層を設けた磁気記録媒体を製造できる。本発明の磁気記録媒体には、用途に応じてキャップ層、電気配線層などを含むことができる。直接結合した鉄膜/四酸化三鉄は単一の層として使用してもよく、複数の鉄膜/四酸化三鉄を積層して使用してもよく、積層間に絶縁層または非磁性層を含んでもよい。
【0057】
図6を用いて、本発明の磁気記録媒体に係る、膜厚13nmの四酸化三鉄膜の上に膜厚3nmの鉄膜を成膜した磁性膜の磁化特性を示す。外部磁場を印加した際に磁性膜に誘発されて生じる磁化の強度は、磁気円二色性計測法を用い、鉄膜表面での偏光の反射を観測することで計測できる。
【0058】
図6において、外部磁場をゼロから一方向に増加させていくと磁気円二色性強度の絶対値も増加するが、外部磁場の絶対値が増加するに従い、磁気円二色性強度の増加はゆるやかになる。外部磁場を減少し、ゼロ磁場を経由して極性を反転させると、磁気円二色性強度は符号反転して前記の磁気飽和と同様の状況を逆符号の領域でも示す。
【0059】
図7に、膜厚13nmの四酸化三鉄膜の上に、膜厚1.4nmのMgO膜を成膜し、さらにその上に膜厚3nmの鉄膜を成膜した磁性膜の磁化曲線を、鉄膜表面における磁気円二色性強度として示す。図7においては、横軸に示す外部磁場がゼロの値において、縦軸の磁気円二色性強度が、図6に示した本発明に係る磁性膜よりも有意に大きな絶対値をもつ値を有している。MgO膜が介在すると、鉄膜表面においては、外部磁化を取り去った後も、四酸化三鉄と鉄膜が直接結合した磁性膜よりも大きな残留磁化が発生することが明らかである。
【0060】
また、図7において、横軸に示す外部磁場の絶対値が5×79.6×1000[A/m]を超える領域では、縦軸の磁気円二色性強度はほとんど変化せず、鉄膜が磁気飽和したことが示されている。
【0061】
一方、図6においては、横軸に示す外部磁場の絶対値が5×79.6×1000[A/m]を超える領域においても、縦軸の磁気円二色性強度には増減が表れていることから、本発明に係る磁気記録媒体の磁性膜は磁束飽和に達していないことが明らかである。
【0062】
すなわち、本発明に該当しないMgO膜上に成膜した鉄膜の場合の残留磁化、磁束飽和の状況とは異なり、本発明の磁気記録媒体に含まれる鉄膜/四酸化三鉄膜からなる磁性膜においては、残留磁化が抑圧され、磁気飽和点の上昇が見られる。本発明の磁気記録媒体に含まれる、非磁性層を介しない鉄膜/四酸化三鉄膜からなる磁性膜においては、鉄膜と四酸化三鉄膜との2膜に反強磁性的層間結合が発生したことが明らかである。
【0063】
さらに、図6に示された磁化曲線において鉄膜/四酸化三鉄膜からなる磁性膜の磁化の符号と外部磁場の符号の関係は、図7に示された磁化曲線において表れたMgO介在積層膜に含まれる鉄膜の磁化の符号と外部磁場の符号の関係に等しく、鉄膜/四酸化三鉄膜からなる磁性膜の磁化の符号は反転しない。
【0064】
従来の磁性積層膜は、例えば、Ruなどの非磁性層を介して反強磁性的層間結合を発生させ、外部磁界にもっとも接近した磁性層が最大の残留磁化をもつよう構成されている。本発明に係る磁性膜は、Ruなどの希少材料を用いることなく、反強磁性的層間結合を利用する磁性膜を提供できる。
【0065】
<実施例2>
実施例2では、本発明に係る、鉄膜と四酸化三鉄膜との反強磁性的層間結合において、該2膜を直接結合させた構成が層間結合を最大に利用しうることを示す。
【0066】
非磁性体であるMgOは、反強磁性的層間結合を生じる磁性層間の非磁性層に用いうることが知られており、本発明において結合状態で反平行に磁性結合した鉄膜/四酸化三鉄膜の間にMgO膜を介在させれば、MgO膜厚を制御することで層間結合を制御しうることは十分に予想しうる。
【0067】
図8に、鉄膜(膜厚3nm)/MgO膜/四酸化三鉄膜(膜厚13nm)からなる積層膜について計測した、鉄膜と四酸化三鉄膜との反強磁性的層間結合定数のMgO膜厚依存性を示す。なお、MgO膜は、公知の真空蒸着法により製作できる。
【0068】
まず、層間結合定数の算出について説明する。磁気異方性を無視し、2つの磁性層の物理的配置が平行と仮定し、鉄膜の飽和磁化が四酸化三鉄膜の飽和磁化と比べて十分大きいと仮定し、次式を層間結合定数として定義する。
【数1】

ここに、Jは層間結合定数[ジュール/平方メートル]、Hsは飽和磁場[アンペア/メートル]、Msは磁性層の飽和磁化[テスラ、または、kg毎秒毎秒毎アンペア]、tは四酸化三鉄層の膜厚[メートル]である。
【0069】
一例として、図6に矢印M点で示した計測点における層間結合定数J値の算出を示す。横軸からHsの値は10×79.6×1000[A/m]、Msの値は約0.23[テスラ]相当、鉄膜の膜厚は3[nm]であるので、式1を用いて層間結合定数J値として約1.1[mJ/平方メートル]が得られる。
【0070】
MgO膜厚の異なる磁性多層膜を製作し、各試料について求めたJ値を補間することにより、図8に示した、鉄膜/四酸化三鉄膜における反強磁性的層間結合定数のMgO膜厚依存性が得られる。
【0071】
図8においては、層間結合定数Jが、非磁性層であるMgO膜の厚さに依存することが示され、その最大値はMgO膜厚がゼロ近傍、すなわち鉄膜と四酸化三鉄膜とが介在物なしに直接結合した場合に得られることが明らかである。
【0072】
すなわち、本発明の磁気記録媒体に含まれる、鉄膜と四酸化三鉄膜を用いる磁性膜においては、該2膜を直接結合させることにより、反強磁性的層間結合を最大に得ることができる。
【0073】
本発明においては、反強磁性的層間結合の強度を最大に利用しうる条件は、磁性薄膜の間に非磁性層を必要としない構成であるので、Ruなどの希少金属を用いることなく反強磁性的層間結合を有する磁性薄膜を提供できる。
【0074】
図8の計測結果は、鉄膜と四酸化三鉄膜との膜間隔が、四酸化三鉄膜の平坦性の程度かそれ以内に接近して直接結合した構成において、該2膜の反強磁性的層間結合力が最大となりうることを示している。すなわち、鉄膜と四酸化三鉄膜とがRu層などの介在なしに直接結合した構成は、本発明に係る反強磁性的層間結合を利用する磁性膜の構造においてもっとも適していることを示している。
【0075】
図9は、本発明の磁気記録媒体における反強磁性的層間結合の温度依存性を示す図である。図9は、本発明の磁気記録媒体においては、磁性膜に含まれる四酸化三鉄の金属絶縁物転移(Verwey転移)温度以上の温度領域において、反強磁性的層間結合の結合定数の顕著な減少がないことを示しており、このことから、本発明の磁気記録媒体に含まれる磁性膜は、室温または室温に近い温度環境下で、磁気記録媒体、軟磁性裏打ち層、磁気記憶装置、磁気ランダムアクセスメモリなどの形態に含まれて動作する場合に、反強磁性的層間結合を維持しうることは明らかである。
【0076】
以上示したように、本発明の磁気記録媒体においては、鉄膜/四酸化三鉄膜がRu層などの介在物なしに直接結合した状態において、該2膜に反強磁性的層間結合が発生し、該2膜が逆平行に磁化された状態を維持し、とりわけ室温近辺の温度環境において反強磁性的層間結合を維持しうる。
【0077】
<実施例3>
実施例3は、本発明に係る磁性膜を含む、垂直磁気記録方式の軟磁性裏打ち層に関するものである。
【0078】
図10を用いて、本発明の磁気記録媒体に係る、垂直磁気記録方式に含まれる軟磁性裏打ち層の構成を説明する。
【0079】
高密度記録が可能な垂直磁気記録方式の磁気記録媒体においては、記録ビット39を保持する垂直磁気記録層41、軟磁性裏打ち層42が存在し、磁気情報の書き込み時には書き込みヘッド37、磁気記録層41、軟磁性裏打ち層42が磁気回路を構成する。書き込みヘッド37が移動して記録磁化が供給されなくなると、軟磁性裏打ち層42を構成する金属層40には残留磁化が生じるが、金属層40と反強磁性的層間結合を有する酸化物層44に生じる反平行の磁化によって相殺され、軟磁性裏打ち層42に由来する巨視的な静磁化は減少する。これにより、磁気情報の読み取り時に、読み取りヘッド38に到達する軟磁性裏打ち層42由来の磁束を低減できる。典型的にはスパイクノイズとして読み取られる軟磁性裏打ち層42由来の磁束を低減することで、記録ビット39由来の磁束の読み出しをより安定に高精度に行える。
【0080】
図10に示した、本発明に係る軟磁性裏打ち層42を含む垂直磁気記録方式の磁気記録媒体においては、読み取りヘッド38が拾うノイズを低減する目的で反強磁性的層間結合を利用するにあたり、Ruなどの希少金属を用いる非磁性層を含む必要はない。
【0081】
本発明に係る垂直磁気記録方式の磁気記録媒体においては、従来型の軟磁性裏打ち層を、本発明に係る磁性膜を含む軟磁性裏打ち層で置き換えた構成を有する。本発明に係る磁性膜を含む垂直磁気記録方式の磁気記録媒体においては、Ruなどの希少金属を必要とせずに、垂直磁気記録媒体における軟磁性裏打ち層を構成しうる。
【0082】
本発明の金属膜/酸化物膜からなる磁性膜を含む垂直磁気記録方式の磁気記録媒体においては、軟磁性裏打ち層にRu等の非磁性層を含まないことによって、製造プロセスにおける該非磁性層の成膜工程を除くことができ、製造過程における工数の一部を削減しうる。
【0083】
本発明の金属膜/酸化物膜からなる磁性膜の1層を軟磁性裏打ち層に含んでもよく、複数の層を積層して含んでもよく、層間に磁性材、非磁性材、絶縁材、導体などを介在させてもよい。
【0084】
非磁性基板43には、前記の磁気記録媒体において示したように、例えばAl基板、ガラス基板、またはSi基板を用いることができ、これらの基板上にテクスチャ処理を施してもよい。
<実施例4>
実施例4は、本発明に係る金属膜/酸化物膜の磁性膜を含む磁気記録媒体に関するものである。
【0085】
図11を用いて、本発明に係る金属膜/酸化物膜を含む、磁気記録媒体の磁気記録層の構成を説明する。磁気記録媒体は非磁性基板43上に下から順に、シード層49、下地層35、非磁性中間層34、金属/酸化物層31、保護層29を設けた構造を有している。保護層29上にはさらに潤滑層28を設けてもよい。
【0086】
上記非磁性基板43は、例えばAl基板、ガラス基板、またはSi基板からなる。この基板上にテクスチャ処理を施してもよい。
【0087】
シード層49は、例えば、非磁性基板43がAlまたはAl合金の場合は、NiPを用いることができる。非磁性基板43がガラスからなる場合にはNiAl、FeAlなどを用いることができる。このシード層にテクスチャ処理または酸化処理を施してもよい。シード層49は、この上に設けられる下地層35の配向を良好にするために設けられる。下地層35にはCrまたはCr系合金などを用いることができる。
【0088】
非磁性中間層34は、この上に設けられる磁性多層膜の成膜および配向の均一性を促進するために設けられる。四酸化三鉄膜の成膜においてはMgO(001)面を非磁性中間層34として用いることができるが、非磁性中間層34の材質はこれに限ったものではなく、本発明に係る磁性膜を成膜しうるものであれば何でもよい。
【0089】
保護層29、潤滑層28は磁気記録媒体上の保護層構造を構成するもので、材質は特に問わない。
【0090】
図6、図7を用いて前述したように、非磁性層を介しない鉄膜/四酸化三鉄膜からなる磁性膜においては、鉄膜と四酸化三鉄膜との2膜に反強磁性的層間結合が発生したことが明らかであるので、従来の反強磁性的層間結合を有する積層膜に代替することが可能である。すなわち、本発明に係る磁性膜は、Ruなどの希少材料を用いることなく、反強磁性的層間結合を利用する磁気記録媒体を提供できる。
【0091】
以上示したように、本発明に係る金属層/酸化物層が直接結合した磁気記録媒体においては、金属/酸化物層31は、金属層30と酸化物層32を1層ずつ含んでもよく、金属層30と酸化物層32とが結合した磁性結合層を任意の枚数だけ適宜積層してもよい。1の金属層30と1の酸化物層32とが介在物なしに直接結合していれば、該結合層の上下に他の磁性層、非磁性層、導電物、絶縁物などを積層してもよく、それらの化学組成、表面形状、順序は問わない。
【0092】
本発明に係る磁気記録媒体は、従来型の反強磁性的層間結合を利用するために磁気記録層が含んでいるRu層などの非磁性絶縁層を不要とし、従来型の反強磁性的層間結合を利用する磁気記録媒体に代替して使用できる。
【0093】
<実施例5>
実施例5は、本発明の磁性膜を含む、磁気記憶装置に関するものである。
【0094】
図13は、本発明に係る磁気記憶装置の要部を示す平面図である。磁気記憶装置は大略ハウジング73、ハブ75、磁気記録媒体76、記録再生ヘッド77、サスペンション78、アーム79が設けられている。磁気記録媒体76は、モータ(図示せず)により回転するハブ75に取り付けられている。記録再生ヘッド77は、MRヘッドや、GMRヘッド等の読み取りヘッドと、インダクティブヘッド等の記録ヘッドからなる複合型の記録再生ヘッドである。記録再生ヘッド77は、アーム79の先端にサスペンション78を介して取り付けられている。磁気記録媒体76は、複数の枚数を適宜隔ててハブ75に接続してもよく、それぞれの磁気記憶媒体ごとに記録再生ヘッド、サスペンション、アームを設けてもよい。この磁気記憶装置の基本構成自体は公知であり、その詳細な説明は本明細書では省略する。
【0095】
前記磁気記憶装置の実施例で、磁気記録媒体76として、図11で説明した構成を有する磁気記録媒体を用いることができる。ハウジング73に収める磁気記録媒体76の枚数は1枚に限らず2枚でもよく、3枚でもよく、枚数は問わない。1枚の磁気記録媒体の片面のみを磁気記録に用いてもよく、両面を磁気記録に用いてもよい。
【0096】
本発明の磁気記録媒体を含む磁気記憶装置は、図13に示すものに限定されるものではない。また、本発明で用いる磁気記憶媒体は磁気ディスクに限定されるものではない。
【0097】
<実施例6>
実施例6は、本発明の磁性膜を含む、磁気ランダムアクセスメモリに関するものである。
【0098】
図12は、本発明に係る磁気ランダムアクセスメモリの磁気メモリセルの構成を示す図であり、基板63、シード層62、下地層61、反強磁性層56、固定層53、トンネル接合層60、フリー層52が積層された構造を有し、固定層53は金属層54、酸化物層55からなる。
本発明に係る磁気ランダムアクセスメモリの磁気メモリセルにおいては、反強磁性的層間結合を利用して磁極が固定されている固定層53において、Ru等の非磁性層を介することなく固定層を構成できる。
【0099】
本発明に係る磁気ランダムアクセスメモリの磁気メモリセルにおいては、固定層53は金属/酸化物からなる1つの層を用いてもよく、複数の磁性多層膜を積層して用いてもよい。フリー層52と固定層53の間に、また固定層53とピン層56の間に、非磁性層または絶縁層を介在してもよい。
【0100】
本発明に係る磁性膜は、従来方式の磁気ランダムアクセスメモリの磁気メモリセルにおいて、反強磁性的層間結合を利用するために内部にRu等の非磁性層を必要とした箇所に置き換えて、用いることができる。
【0101】
また、本発明に係る磁性膜は、磁気ランダムアクセスメモリの磁気メモリセルにおいて、反強磁性的層間結合を利用する磁性多層膜の組成にCoを必要とせず、希少金属の供給不安に係る問題を解消しうる。
【0102】
以上、本発明の実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることができる。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。例えば、酸化物としてFe2NiO4を用い、金属としてFeを用い、それぞれを順次成膜して製作される酸化物/金属磁性膜にも同様に対応することができる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の磁気記録媒体に含まれる磁性膜、とりわけ鉄膜/四酸化三鉄膜からなる磁性膜は、Co、Ruなどの希少金属を用いることなく、反強磁性的層間結合を利用する磁性多層膜として使用できるので、該層間結合を利用する磁気記録媒体、垂直磁化記録方式における軟磁性裏打ち層、磁気記憶装置、磁気メモリセルなどに使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の反強磁性的層間結合を有する磁気記録媒体の構成例を示す図である。
【図2】本発明に係る磁性膜を製作するための成膜装置を示す図である。
【図3】公知の四酸化三鉄の分子構造モデルを示す模式図である。
【図4】本発明の磁性多層膜に含まれる四酸化三鉄膜の温度対電気抵抗率の酸素濃度による差を示す図である。
【図5】本発明の磁気記録媒体の製造における、四酸化三鉄膜の成膜中RHEED像強度の時間変化を示す図である。
【図6】本発明に係る鉄膜/四酸化三鉄膜における鉄膜の磁化曲線を示す図である。
【図7】鉄膜/MgO膜/四酸化三鉄膜における、鉄膜の磁化曲線を示す図である。
【図8】鉄膜/MgO膜/四酸化三鉄膜における、層間結合定数のMgO膜厚依存性を示す図である。
【図9】本発明に係る鉄膜/四酸化三鉄膜における層間結合定数の温度特性を示す図である。
【図10】本発明に係る磁性膜を用いた、磁気記録媒体の磁気記録層を示す図である。
【図11】本発明に係る磁性膜を用いた、垂直磁気記録方式における軟磁性裏打ち層を示す図である。
【図12】本発明に係る磁性膜を用いた、磁気ランダムアクセスメモリの磁気メモリセルを示す図である。
【図13】本発明に係る磁性膜を用いた、磁気記憶装置を示す図である。
【符号の説明】
【0105】
1 基板
2 第1磁性層(酸化物層)
3 第2磁性層(金属層)
7 酸化源に純酸素ガスを使用して製作した結合膜の温度対電気抵抗率特性
8 酸化源に10%オゾンガス、90%酸素ガスを使用して製作した結合膜の温度対電気抵抗率特性
11 基板
13 真空槽
14 原材料である鉄
15 るつぼ
16 電子銃
17 電子ビーム
18 真空蒸着装置
19 酸化源ガス発生装置
20 配管
21 可変リークバルブ
22 ノズル
23 酸素ガス
24 鉄の蒸気
25 ヒータ
28 潤滑層
29 保護層
30 金属層
31 金属/酸化物層
32 酸化物層
34 非磁性中間層
35 下地層
37 垂直記録用ヘッド
38 読み取りヘッド
39 記録ビット
40 金属層
41 垂直磁気記録層
42 軟磁性裏打ち層
43 非磁性基板
44 酸化物層
49 シード層
52 フリー層
53 固定層
54 金属層
55 酸化物層
56 反強磁性層
60 トンネル接合層
61 下地層
62 シード層
63 基板
73 ハウジング
75 ハブ
76 磁気記録媒体
77 記録再生ヘッド
78 サスペンション
79 アーム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1磁性層と、第2磁性層とが非磁性層を介さず、磁気的に反平行状態で結合した構造を含む磁気記録媒体であって、
前記第1磁性層がスピネル型または逆スピネル型のイオン結晶構造をもつ酸化物からなり、
前記第2磁性層が単体で強磁性を有する金属又は、単体で強磁性を有する金属を含む合金からなる磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体であって、
前記酸化物が四酸化三鉄(Fe)または四酸化三鉄を含む酸化物であり、
前記金属が鉄(Fe)膜であり、前記合金が鉄を含む合金からなる金属である磁気記録媒体。
【請求項3】
垂直磁気記録層と軟磁性裏打ち層とを有する垂直磁気記録媒体であって、
前記軟磁性裏打ち層は第1軟磁性層と、第2軟磁性層とが非磁性層を介さず、磁気的に反平行状態で結合した構造を含む膜を有し、
前記第1軟磁性層がスピネル型または逆スピネル型のイオン結晶構造をもつ酸化物からなり、
前記第2軟磁性層が単体で強磁性を有する金属または、単体で強磁性を有する金属を含む合金からなる垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
請求項3に記載の垂直磁気記録媒体であって、
前記酸化物が四酸化三鉄(Fe)または四酸化三鉄を含む酸化物であり、
前記金属が鉄(Fe)膜であり、前記合金が鉄を含む合金からなる金属である垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体又は垂直磁気記録媒体と、該磁気記録媒体又は垂直磁気記録媒体に対して情報の記録及び/又は再生を行うヘッドとを備えた、磁気記憶装置。
【請求項6】
磁気記憶領域を有する磁気ランダムアクセスメモリであって、
前記磁気記憶領域は第1磁性層と、第2磁性層とが非磁性層を介さず、磁気的に反平行状態で結合した構造を含む膜を有し、
前記第1磁性層がスピネル型または逆スピネル型のイオン結晶構造をもつ酸化物からなり、
前記第2磁性層が単体で強磁性を有する金属または、単体で強磁性を有する金属を含む合金からなる磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気ランダムアクセスメモリであって、
前記酸化物が四酸化三鉄(Fe)または四酸化三鉄を含む酸化物であり、
前記金属が鉄(Fe)膜であり、前記合金が鉄を含む合金からなる金属である磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項8】
真空層内に置いた基板表面に、鉄を蒸着するとともに、基板に向けて酸素ガスを供給し、前記基板表面に、前記鉄を酸化しながら四酸化三鉄膜を成膜する、酸化鉄膜の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−287837(P2008−287837A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134048(P2007−134048)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年1月8日発行の「Antiferomaganetic interlayer coupling through a thin MgO layer in γ−Fe▲2▼O▲3▼/MgO/Fe(001) multilayers」(JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 101,09D101)、平成19年1月23日発行の「エピタキシャルFe▲3▼O▲4▼/MgO/Fe(001)三層膜のMgO層を介した層間結合」(社団法人日本応用磁気学会発行 第2号第31巻)及び、平成19年3月18日開催の社団法人日本物理学会 2007年春季大会にて配布の刊行物「日本物理学会講演概要集 第62巻 第1号 第3分冊」(平成19年2月28日発行)に掲載、同大会において文書をもって平成19年3月19日発表した。
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】