説明

回路接続用フィルム接着剤の製造法

【課題】熱硬化性樹脂による高い接続信頼性を有し、かつ、低温短時間硬化性と貯蔵安定性を両立でき、更には、基板への貼付性の良好な回路接続用フィルム接着剤を提供すること。
【解決手段】熱硬化性樹脂と、マイクロカプセル型硬化剤と、フィルム形成性高分子と導電粒子を含有する熱硬化性接着剤組成物を溶剤に溶解又は分散させた塗工液を製造する工程、剥離性基材上に該塗工液を塗布する工程、塗工液が塗布された剥離性基材を、該剥離性基材の弾性領域内で延伸しながら加熱して溶剤を揮散させる製膜工程を含む回路接続用フィルム接着剤の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板同士や半導体チップ等の電子部品と回路基板との接続に用いられる回路接続用フィルム接着剤の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイと半導体チップやTCP(Tape Carrier Package)との接続、FPC(Flexible Printed Circuit)とTCPとの接続、又は、FPCとプリント配線板との接続を簡便に行うための接続部材として、絶縁性の接着剤中に導電粒子を分散させた構造のフィルム状接続部材や導電粒子が分散されていない絶縁性接着剤が使用されている。例えば、ノート型パソコンや携帯電話の液晶ディスプレイと制御ICとの接続用として、あるいは最近では、半導体チップを直接プリント基板やフレキシブル配線板に搭載するフリップチップ実装にも、上記フィルム状接続部材が用いられている(以下、特許文献1、2、3参照)。
【0003】
この分野では、回路接続部の信頼性を考慮して、接着剤として、エポキシ樹脂系などの熱硬化性接着剤が使用されている。回路接続用の熱硬化性接着剤は、使用するまでは、熱硬化性樹脂と硬化剤が未反応の状態で安定に存在し、使用時には、生産性や回路部材へのダメージを極小化するために低温短時間で硬化することが要求される。この様な貯蔵安定性と硬化性の両立を図るために、熱硬化性接着剤に用いられる硬化剤としては、潜在性硬化剤、中でも高反応性の硬化剤をカプセル膜で被覆したマイクロカプセル型の潜在性硬化剤が一般的に用いられている。一方、熱硬化性接着剤をフィルム状にするには、フィルム形成性高分子を熱硬化性接着剤中に均一に混合してフィルム状に成形する必要があり、フィルム形成性高分子を含む熱硬化性接着剤組成物を溶剤に溶解又は均一分散した塗工液を剥離性基材上に塗布し、加熱により溶剤を除去して成膜する方法が一般的である。ここで、マイクロカプセル型硬化剤も溶剤を含む塗工液中に分散され、更に溶剤を除去するための加熱を受けることになるが、溶剤や塗工液中に含まれる水分との接触や加熱はマイクロカプセル型硬化剤のカプセル膜を膨潤又は破壊し、貯蔵安定性を低下する要因となり、各種検討が為されている(以下、特許文献4、5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−107888号公報
【特許文献2】特開平04−366630号公報
【特許文献3】特開昭61−195179号公報
【特許文献4】特開平05−295329号公報
【特許文献5】特開2000−80146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、益々強く求められる低温短時間硬化性を発現しつつ、高い貯蔵安定性を達成するには至っておらず、その改良が求められている。
本発明は、熱硬化性樹脂による高い接続信頼性を有し、かつ、低温短時間硬化性と貯蔵安定性を両立でき、更には、基板への貼付性の良好な回路接続用フィルム接着剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、塗工液から溶剤を除去するための加熱段階が非常に重要であり、剥離性基材の弾性領域内で延伸しながら加熱して溶剤を除去することで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
延伸しながら溶剤を除去することによって、高活性な硬化剤であっても高い貯蔵安定性が得られ、上記課題が解決できたことは、上記技術開示に鑑みて、当業者にとって予想できない、驚くべき発見であった。
【0007】
即ち、本発明は、下記の通りである。
[1]熱硬化性樹脂と、マイクロカプセル型硬化剤と、フィルム形成性高分子と導電粒子を含有する熱硬化性接着剤組成物を溶剤に溶解又は分散させた塗工液を製造する工程、剥離性基材上に該塗工液を塗布する工程、塗工液が塗布された剥離性基材を、該剥離性基材の弾性領域内で延伸しながら加熱して溶剤を揮散させる製膜工程を含む回路接続用フィルム接着剤の製造法。
【0008】
[2]前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、前記[1]に記載の回路接続用フィルム接着剤の製造法。
【0009】
[3]前記マイクロカプセル型硬化剤が、エポキシ樹脂用の硬化剤の周囲を高分子化合物で被覆した構造である、前記[1]又は[2]に記載の回路接続用フィルム接着剤の製造法。
【0010】
[4]前記マイクロカプセル型硬化剤の活性化温度が60℃以上100℃以下である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の回路接続用フィルム接着剤の製造法。
【0011】
[5]前記塗工液中の水分量が、前記マイクロカプセル型硬化剤に対して、0.5質量%以上10質量%以下である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の回路接続用フィルム接着剤の製造法。
【0012】
[6]前記成膜工程の加熱温度が50℃以上90℃以下である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の回路接続用フィルム接着剤の製造法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法で製造された回路接続用フィルム接着剤は、熱硬化性樹脂による高い接続信頼性を有し、かつ、低温短時間硬化性と貯蔵安定性を両立でき、更には、基板への良好な貼付性を有するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に用いられる塗工液は、熱硬化性接着剤組成物とそれを溶解又は分散する溶剤より構成される。熱硬化性接着剤組成物は熱硬化性樹脂、マイクロカプセル型硬化剤、フィルム形成性高分子、及び導電粒子を含有する。
【0015】
熱硬化性樹脂としては、加熱によりマイクロカプセル型硬化剤と反応して架橋する樹脂が用いられる。この様な熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリレート、ウレタン樹脂等が用いられる。それぞれの熱硬化性樹脂には、それに適したマイクロカプセル型硬化剤が用いられ、例えば、分子末端に反応性二重結合を有するアクリレートであれば、マイクロカプセル型硬化剤としては、加熱によってラジカルを発生する様な過酸化物等の硬化剤の周囲をカプセル膜で被覆したマイクロカプセル型硬化剤等が用いられる。
本発明においては、接続信頼性の高さから、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0016】
ここで用いられるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族エーテル型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエーテルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、脂環族エポキサイド等があり、これらエポキシ樹脂はウレタン変性、ゴム変性、シリコーン変性等の変性されたエポキシ樹脂でもよい。グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましく、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が、より好ましい。
【0017】
マイクロカプセル型硬化剤としては、ホウ素化合物、ヒドラジド類、アミン類、イミダゾール類、ジシアンジアミド、カルボン酸無水物、チオール類、イソシアネート化合物、ホウ素錯塩、尿素化合物、メラミン化合物又はそれらの誘導体等の硬化剤を用いることができる。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、アミンアダクト、イミダゾールアダクト等のアダクト型硬化剤が安定性と硬化性のバランスが優れており好ましい。アダクト型硬化剤は、アミン類やイミダゾール類と、エポキシ樹脂、イソシアネート化合物、尿素化合物等との反応により得られる。マイクロカプセル型硬化剤は、前記硬化剤の表面をカプセル膜で被覆し安定化したもので、接続作業時の温度や圧力でカプセル膜が破壊され、硬化剤がマイクロカプセル外に拡散し、熱硬化性樹脂と反応する。
【0018】
カプセル膜としては、室温での安定性と低温加熱による活性発現のバランス、即ち、潜在性が高いので、高分子化合物が好ましい。カプセル膜として用いられる高分子化合物としては、例えば、ポリウレタン化合物、ポリウレタンウレア化合物、ポリウレア化合物、ポリビニル化合物やメラミン化合物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂から得られる高分子化合物が例示される。
【0019】
マイクロカプセル型硬化剤は、微粉末状の硬化剤の表面をカプセル膜で被覆した構造が好ましく、その平均粒子径は0.2μm以上8μm以下が好ましい。硬化剤としての効率の観点から平均粒子径は0.2μm以上が好ましい。一方、硬化物の均一性の観点から、平均粒子径が8μm以下が、好ましい。マイクロカプセル型硬化剤の平均粒子径は、0.5μm以上6μm以下が塗工液中に分散する時に2次凝集や沈降が起こりにくいため、より好ましく、1μm以上4μm以下が、回路接続用フィルム接着剤の表面異物の発生が少ないため、さらに好ましい。
【0020】
マイクロカプセル型硬化剤の平均粒子径の測定方法としては、コールターカウンターを用いる方法が挙げられる。
マイクロカプセル型硬化剤の活性化温度は、回路接続用フィルム接着剤の硬化性に大きく影響する因子であり、低温短時間で性能発現するためには、活性化温度は低い方が好ましい。一方、回路接続用フィルム接着剤の製造時に熱硬化性樹脂とマイクロカプセル型硬化剤が反応することを防止するために、回路接続用フィルム接着剤の成膜時の加熱温度はマイクロカプセル型硬化材の活性化温度未満であることが好ましい。マイクロカプセル型硬化材の活性化温度は、貯蔵安定性を確保するために、溶剤が充分揮散できる温度以上が好ましい。マイクロカプセル型硬化剤の活性化温度は、好ましくは60℃以上100℃以下であり、より好ましくは70℃以上90℃以下である。
【0021】
本明細書中、「マイクロカプセル型硬化剤の活性化温度」とは、マイクロカプセル型硬化剤と熱硬化性樹脂を質量比1対2で混合した組成物のゲルタイムが5分となる温度を意味し、例えば、70℃のゲルタイムが5分を超えていて、80℃のゲルタイムが5分未満の場合、活性化温度は70℃より高く80℃未満である。尚、ここで用いる熱硬化性樹脂は、熱硬化性接着剤組成物に用いられる熱硬化性樹脂であって、熱硬化性接着剤組成物中の熱硬化性樹脂を、硬化性の観点で代表するものを用いる必要がある。
【0022】
マイクロカプセル型硬化剤は、熱硬化性樹脂の高い硬化率を得るために、熱硬化性樹脂100質量部に対して、5〜60質量部用いるのが好ましい。より好ましくは10〜50質量部であり、さらに好ましくは20〜40質量部であり、それによって硬化物の吸水率を低く抑えることができる。
【0023】
本発明に用いられるフィルム形成性高分子としては、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル樹脂、ナイロン、スチレン−イソプレン共重合体、ポリメチルメタクリレート樹脂が例示される。回路接続用フィルム接着剤が常態としてフィルム状であるために、フィルム形成性高分子のガラス転移温度は室温以上であることが好ましく、より好ましくはガラス転移温度が50℃以上である。より好ましくは60℃以上であり、さらに好ましくは70℃以上であり、それによって回路接続用フィルム接着剤のブロッキング性が大きく抑制できる。フィルム形成性高分子の重量平均分子量は5,000以上が好ましい。より好ましくは10,000以上800,000以下であり、さらに好ましくは20,000以上500,000以下である。それによって、熱硬化性接着剤組成物中で均一に存在しやすく、また、回路接続用フィルム接着剤の硬化物としたときに強い機械的強度が発現する。
【0024】
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、フィルム形成性高分子としては、エポキシ樹脂との相溶性が高いフェノキシ樹脂が好ましい。ここで用いられるフェノキシ樹脂としては、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールAビスフェノールF混合型フェノキシ樹脂、ビスフェノールAビスフェノールS混合型フェノキシ樹脂、フルオレン環含有フェノキシ樹脂、カプロラクトン変性ビスフェノールA型フェノキシ樹脂等が例示される。フィルム形成性高分子の含有量は、熱硬化性樹脂に対して10〜200質量%が好ましい。
【0025】
本発明に用いられる導電粒子としては、金属粒子、炭素からなる粒子や高分子核材に金属薄膜を被覆した粒子等を用いることができる。
金属粒子としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、錫、鉛、半田、インジウム、パラジウム等の単体や、2種以上のこれらの金属が層状又は傾斜状に組み合わされている粒子が例示される。
【0026】
高分子核材に金属薄膜を被覆した粒子としては、エポキシ樹脂、スチレン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ジビニルベンゼン架橋体、NBR、SBR等のポリマーの中から1種又は2種以上組み合わせた高分子核材に、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、錫、鉛、半田、インジウム、パラジウム等の中から1種又は2種以上組み合わせてメッキ等により金属被覆した粒子が例示される。金属薄膜の厚さは0.005μm以上1μm以下の範囲が、接続安定性と粒子の凝集性の観点から好ましい。金属薄膜は均一に被覆されていることが接続安定性上好ましい。これら導電粒子の表面を更に絶縁被覆した粒子も使用することができる。
【0027】
導電粒子の平均粒径は、0.5μm以上10μm未満の範囲が導電性と絶縁性の両立と粒子の凝集性との観点から好ましい。より好ましくは1μm以上7μm未満、さらに好ましくは1.5μm以上6μm未満、特に好ましくは2μm以上5.5μm未満、より特に好ましくは2.5μm以上5μm未満である。上記範囲の平均粒径の導電粒子を用いることで、ICチップや回路基板の電極高さのバラツキや、接続時の平行度のバラツキを吸収し、尚且つ、隣接電極間の粒子滞留による絶縁破壊を抑制できる。
【0028】
導電粒子の粒子径の標準偏差は小さいほど好ましく、平均粒径の50%以下が好ましい。より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下である。導電粒子の粒径は、コールターカウンターを用いて測定することができる。
【0029】
導電粒子の含有量は、本発明の回路接続用フィルム接着剤に対して0.1質量%以上30質量%未満が好ましい。より好ましくは0.13質量%以上25質量%未満、さらに好ましくは0.15質量%以上20質量%未満、特に好ましくは0.2質量%以上15質量%未満、より特に好ましくは0.25質量%以上10質量%未満である。導電粒子の含有量が0.1質量%以上30質量%未満の領域では、対向する電極間の導電性と隣接する電極間の絶縁性が両立し易い。
【0030】
熱硬化性接着剤組成物には、回路接続用フィルム接着剤の硬化時や使用環境下における熱ストレス、即ち、被接着体との線膨張係数差による応力による接着性や接続信頼性の低下を抑制するために、絶縁性フィラーを含有させても良い。絶縁性フィラーとしては、例えば、溶融シリカ、結晶質シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化チタン等の粉体が挙げられる。絶縁性フィラーの平均粒径は、コールターカウンターを用いて測定することができる。絶縁性フィラーの平均粒径は、熱ストレスによる接続信頼性の低下抑制効果を十分に発揮するために0.01μm以上が好ましく、接続端子間の電気抵抗を低く抑えるために5μm以下で、尚且つ、導電粒子よりも粒径が小さいことが好ましい。より好ましくは0.05μm以上3μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以上2μm以下である。これによって、塗工液中で凝集や沈降を抑制することができる。
【0031】
絶縁性フィラーの添加量は、熱ストレスによる接続信頼性の低下抑制効果を十分に発揮することができるとともに回路接続用フィルム接着剤の硬化物としての機械的強度を高く保つことができるので、熱硬化性樹脂に対して5質量%以上200質量%以下で用いることが好ましい。より好ましくは20質量%以上150質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上120質量%以下である。
【0032】
熱硬化性接着剤組成物には、接着性や硬化時の応力緩和性を付与する目的で、ポリエステル樹脂、アクリルゴム、SBR、NBR、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアセタール樹脂、尿素樹脂、キシレン樹脂、カルボキシル基、ヒドロシキシル基、ビニル基、アミノ基などの官能基を含有するゴム、エラストマー類等の弾性高分子を含有させても良い。これら弾性高分子の分子量は、10,000〜3,000,000であることが好ましい。弾性高分子成分の含有量は、熱硬化性樹脂に対して2〜80質量%であることが好ましい。
【0033】
熱硬化性接着剤組成物は、軟化剤、促進剤、老化防止剤、着色剤、難燃化剤、チキソトロピック剤等をさらに含有することができる。接着性の観点からカップリング剤を含有することが好ましい。カップリング剤としてはケチミン基、ビニル基、アクリル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基を含有するシランカップリング剤が、接着性の向上の観点から好ましい。
【0034】
本発明では、熱硬化性接着剤組成物中の各成分が均一でかつ膜厚バラツキの少ない回路接続用フィルム接着剤とするために、熱硬化性組成物を溶剤に溶解又は分散して、塗工液とする。熱硬化性接着剤組成物が溶剤中に均一に溶解又は分散するためには、本発明に用いられる溶剤は、熱硬化性接着剤組成物の各成分の溶解性あるいは分散性が高いことが好ましい。また、回路接続用フィルム接着剤の安定性を確保するために、溶剤はマイクロカプセル型硬化剤のカプセル膜を溶解しないことが求められる。このような溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート等が挙げられる。複数の溶剤を併用することもできる。
【0035】
溶剤の使用量は、塗工液が塗工に適した粘度となるように決定される。塗工液の25℃での粘度は、100mPa・s以上20000mPa・s以下であることが好ましい。より好ましくは、300mPa・s以上15000mPa・s以下であり、さらに好ましくは、400mPa・s以上10000mPa・s以下である。
【0036】
塗工液中の水分は、生産性の観点から、0.5質量%以上が好ましい。またマイクロカプセル型硬化剤の安定性を低下させるため、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。本発明では、剥離性基材上に塗工液が塗布される。剥離性基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、PET、PEN等のポリエステル、ナイロン、塩化ビニール、ポリビニルアルコール等のフィルムが例示される。厚みの安定性、耐溶剤性、経済性の観点から剥離性基材としては、ポリプロピレン、PETが好ましい。該剥離性基材としては、フッ素処理、シリコーン処理、アルキド処理等の表面処理がなされているものが好ましい。剥離性基材の厚みが30μm以上100μm以下であることは、塗工作業時のハンドリング性と厚みの安定性が優れるために、好ましい。
【0037】
剥離性基材の弾性領域は、剥離性基材のストレス−ストレインカーブ(以下、SSカーブと称す)において降伏点以内のひずみ領域を意味し、降伏点を有さない場合は、本発明においては、SSカーブが直線領域から外れる変極点を降伏点とする。剥離性基材の70℃における降伏応力は、延伸条件幅が広く取れるので高い方が好ましく、1MPa以上がより好ましい。より好ましくは2MPa以上であり、さらに好ましくは3MPa以上である。
剥離性基材の70℃のヤング率は、延伸装置の剛性と延伸安定性を両立するために、1MPa以上10GPa以下が好ましい。より好ましくは3MPa以上5GPa以下であり、さらに好ましくは5MPa以上3GPa以下である。
【0038】
次に、本発明の回路接続用フィルム接着剤の製造法について説明する。
本発明の回路接続用フィルム接着剤の製造法は、塗工液を製造する工程、剥離性基材上に塗工液を塗布する工程、加熱により成膜する成膜工程を含む。
塗工液を製造する工程では、溶剤に熱硬化性接着剤組成物の各成分を溶解又は均一分散させる。熱硬化性接着剤組成物の各成分は同時に混合しても構わないが、フィルム形成性高分子を先に溶剤に溶解させた後、マイクロカプセル型硬化剤を均一分散させることは、フィルム形成性高分子の溶け残りが少なく、貯蔵安定性が高い回路接続用フィルム接着剤が得られるために、好ましい。塗工液を製造する工程は、10℃以上100℃以下で実施するのが好ましい。
【0039】
剥離性基材上に塗工液を塗布する工程では、バーコーター、ブレードコーター、ロールコータ−、ダイコーター、グラビアコーター等を用いる方法により塗工することができる。
成膜工程は、塗工液が塗布された剥離性基材を、該剥離性基材の弾性領域内で延伸しながら加熱して溶剤を揮散させて製膜する。
【0040】
加熱の方法としては、ドライヤー内に熱風を供給する方法や、赤外線等の熱線を照射する方法、加熱ロールによって剥離性基材側から熱を供給する方法等が挙げられる。揮発した溶剤が系外に抜けやすく、溶剤の揮散効率が高いので熱風を用いる方法が好ましい。
加熱の温度は、溶剤の揮散効率を上げて、短時間に成膜させるためには高い方が好ましく、熱硬化性樹脂とマイクロカプセル型硬化剤とを反応させないため、マイクロカプセル型硬化剤の活性化温度以下が好ましい。成膜工程の加熱温度としては、50℃以上90℃以下が好ましい。溶剤の揮散効率の観点から、50℃以上が好ましく、成膜時の安定性の観点から90℃以下が好ましい。より好ましくは60℃以上80℃以下である。
【0041】
加熱時間は3分以上20分以下であることが好ましい。残存する溶剤を除去し、フィルム接着剤の貯蔵安定性を向上させる点から、3分以上が好ましく、成膜工程で熱硬化性樹脂とマイクロカプセル型硬化剤との反応を防ぎ、やはり回路接続用フィルム接着剤の貯蔵安定性を向上させる点から20分以下が好ましい。より好ましくは5分以上15分以下である。
【0042】
成膜工程において塗工液を塗布した剥離性基材が延伸される。成膜工程においては、マイクロカプセル型硬化剤の活性化温度近くまで加熱し、溶剤を揮散することが行なわれるが、この時に、マイクロカプセル型硬化剤の活性化を促進する様な外部刺激が加わると熱硬化性樹脂とマイクロカプセル型硬化剤の反応が開始し、回路接続用フィルム接着剤の貯蔵安定性が低下する。外部刺激としては、成膜工程で用いられる熱風によりフィルムが振動することにより起こる、マイクロカプセル型硬化剤同士又はマイクロカプセル型硬化剤と導電粒子や絶縁性フィラーとの接触による衝撃や水分との接触が挙げられる。本発明では、成膜工程において塗工液を塗布した剥離性基材が延伸される。延伸時の張力によって熱風によるフィルムの振動を抑えることができ、その結果、回路接続用フィルム接着剤の貯蔵安定性を高く保つことができる。更には、剥離性基材の弾性領域内で延伸することで、溶剤の揮散効率を上げると共に、上記外部刺激になり得る水分を速やかに系外に揮散させ、その結果、回路接続用フィルム接着剤の貯蔵安定性を高く保つことができる。
【0043】
延伸時に加える張力は、剥離性基材が弾性領域内の変形量である必要があり、剥離性基材断面積当たり0.3MPa以上200MPa以下が好ましい。貯蔵安定性を高く保つ効果を得るために0.3MPa以上が好ましく得られる回路接続用フィルム接着剤の膜厚ムラの抑制とフィルム接着剤の貼付け性の観点から200MPa以下が好ましい。より好ましくは断面積当たり0.5MPa以上100MPa以下であり、さらに好ましくは、1MPa以上50MPa以下であり、これによって、表面平滑性が高く、被着体に貼り付ける時の貼付性に優れた回路接続用フィルム接着剤が得られる。
【0044】
成膜工程における剥離性基材の延伸は一方向の延伸でも二方向の延伸でも構わない。延伸における剥離性基材の伸び率は0.1%以上20%以下が好ましい。貯蔵安定性を高く保つ効果を得るために、0.1%以上が好ましく、膜厚ムラの抑制、貼付性の観点から20%以下が好ましい。より好ましくは0.2%以上15%以下である。
【0045】
本発明の方法により得られた回路接続用フィルム接着剤の膜厚は、5μm以上50μm以下が好ましい。表面の異常抑制の観点から5μm以上が好ましく、フィルム接着剤の貯蔵安定性の点から、50μm以下が好ましい。より好ましくは10μm以上30μm以下である。
【0046】
本発明の方法により得られた回路接続用フィルム接着剤に残存する溶剤は貯蔵安定性を低下させる要因になり得るので、少ないほど好ましい。好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.7質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0047】
本発明の方法により得られた回路接続用フィルム接着剤は、そのまま使用してもよいし、回路接続用フィルム接着剤上に更に別の接着剤組成物を塗工又はラミネートして複層タイプの回路接続用フィルム接着剤としてもよい。
本発明の方法により得られた回路接続用フィルム接着剤は、所望の幅にスリットされ、リール状に巻き取られていてもよい。
【実施例】
【0048】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
<水分の測定>
ダイアインスツルメンツ社製カールフィッシャー水分計CA−100型を使用して測定した。
【0049】
<ゲルタイムの測定>
(株)テイ・エスエンジニアリング社製のキュラストメーターV型を使用し、JIS K6300に準拠して求めた。
【0050】
<ヤング率と降伏応力の測定>
INSTRON社製万能材料試験機5581を用い、試験速度:50mm/分、チャック間距離50mm、試験片幅25mmの条件でJIS K7161に準拠して求めた。
【0051】
<膜厚測定>
(株)ニコン製デジマイクロMH−15Mを用いて測定し、測定数25箇所の平均値を膜厚とした。
【0052】
<接続抵抗測定>
日置電機(株)製3541RESISTANCE HiTESTERを用いて、接続端子間の接続抵抗を四端子法で測定した。
【0053】
[実施例1]
フェノキシ樹脂(InChem社製、商品名:PKHC、以下同じ)100質量部、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名:AER2603、以下同じ)100質量部、シランカップリング剤(信越化学工業製、商品名:KBM−403、以下同じ)1.0質量部を酢酸エチル400質量部に溶解し、それに硬化剤として、マイクロカプセル型硬化剤とビスフェノール型液状エポキシ樹脂の質量比1:2の混合物(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名:ノバキュアHX−3932HP、活性化温度90℃、以下同じ)100質量部と平均粒径3μmの導電粒子(積水化学社製、商品名:ミクロパールAU203)50質量部を混合し、塗工液Aを得た。
尚、ここで用いた酢酸エチル以外の原材料は、50℃で24時間、真空乾燥を行ったものを使用した。酢酸エチルは1週間モレキュラーシーブス3Aを浸漬し、脱水処理したものを用いた。塗工液A中の水分量は、マイクロカプセル型硬化剤に対して9.1質量%であった。
【0054】
剥離性基材としてシリコーン系剥離処理を施した80μm厚の無延伸共重合ポリプロピレンフィルム(成膜温度の70℃でのヤング率と降伏応力は、それぞれ、27MPaと5MPaであった)を準備し、剥離処理面側に塗工液Aを、ブレードコーターを用いて塗布した。ここで得た塗工フィルムを、手動式延伸機を用いて、成膜温度での剥離性基材の伸び率が15%となる張力で一軸方向に引張りながら、熱風循環式の乾燥機で70℃(成膜温度)、10分間加熱し、溶剤を揮散させて成膜を行い、回路接続用フィルム接着剤Aを得た。回路接続用フィルム接着剤Aの膜厚は25μmであった。
【0055】
次に、25μm×100μmの金バンプがピッチ50μmで並んだ1.5mm×16.1mmのICチップと、これに対応した接続ピッチを有するITO配線(0.14μm)上にクロム配線(0.3μm)を形成した厚み0.7mmのガラス基板を3組準備し、ガラス基板のICチップ接続位置を覆う様に、2mm×20mmの回路接続用フィルム接着剤Aを貼り付けた。次に、70℃、0.5MPa、2秒間の条件で熱圧着し、剥離性基材を剥離した。3組とも剥離性基材を剥離することができ、貼付性は良好であった。回路接続用フィルム接着剤Aを貼り付けたガラス基板と、ICチップをフリップチップボンダー(東レエンジニアリング株式会社製FC2000)を用いて位置合わせをし、2秒後に180℃に到達し、その後一定温度となる条件で4MPa、10秒間加熱加圧し、ICチップをガラス基板に接続した。ICチップとガラス基板からは、4端子接続抵抗が5箇所測定でき、3組×5箇所(計15箇所)の接続抵抗の平均値は11.5Ωであり、安定に接続されていた。更に、85℃、相対湿度85%の環境下で1000時間放置後、同様に接続抵抗を測定した結果、接続抵抗の平均値は15.3Ωであり、優れた接続信頼性を有していた。
【0056】
次に、5℃で6か月貯蔵した回路接続用フィルム接着剤Aを用いて、上記と同様に貼付性と接続抵抗測定、1000時間後の接続抵抗測定を行った。貼付性は良好であり、接続抵抗は15.5Ω、1000時間後の接続抵抗は17.3Ωであり、回路接続用フィルム接着剤Aは高い貯蔵安定性を有していた。
【0057】
[実施例2〜7]
以下の表1に示す配合量と製造条件で、実施例1と同様にして、回路接続用フィルム接着剤を作成し、実施例1と同様に、塗工液の水分量、貼付性、接続抵抗測定、貯蔵安定性を評価した。得られた結果を以下の表1に示す。
【0058】
[比較例1]
以下の表1に示す配合量と製造条件で、実施例1と同様にして、回路接続用フィルム接着剤を作成し、実施例1と同様に、塗工液の水分量、貼付性、接続抵抗測定、貯蔵安定性を評価した。得られた結果を以下の表1に示す。比較例1で使用した回路接続用フィルム接着剤では、製造直後、貼付性が少し低く3枚中1枚貼付けできないものが有ったが、貼付けできたものは、安定な接続が可能であった。しかしながら、回路接続用フィルム接着剤を貯蔵すると、貼付性が低下し、更に、貼付けできたものも、接続抵抗が高く、安定に接続することはできず、回路接続用フィルム接着剤の貯蔵安定性が劣っていた。
【0059】
[比較例2]
以下の表1に示す配合量と製造条件で、実施例1と同様にして、回路接続用フィルム接着剤を作成し、実施例1と同様に、塗工液の水分量、貼付性を評価した。得られた結果を以下の表1に示す。比較例2で使用した回路接続用フィルム接着剤では、成膜時の延伸張力が剥離性基材の降伏応力を超えていたため、弾性領域外となり、部分的に剥離基材が大きく引き伸ばされ、回路接続用フィルム接着剤の膜厚も場所によって大きくばらついていた。更に、貼付性評価では、回路接続用フィルム接着剤の表面に、延伸ムラによる皺が発生したため、剥離性基材を回路接続用フィルム接着剤から剥離することができず、回路接続材の用を成さなかった。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の方法で製造される回路接続用フィルム接着剤は、熱硬化性樹脂による高い接続信頼性を有し、かつ、低温短時間硬化性と貯蔵安定性を両立でき、更には、基板への貼付性が良好であり、回路接続用途において好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と、マイクロカプセル型硬化剤と、フィルム形成性高分子と導電粒子を含有する熱硬化性接着剤組成物を溶剤に溶解又は分散させた塗工液を製造する工程、剥離性基材上に該塗工液を塗布する工程、塗工液が塗布された剥離性基材を、該剥離性基材の弾性領域内で延伸しながら加熱して溶剤を揮散させる製膜工程を含む回路接続用フィルム接着剤の製造法。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、請求項1に記載の回路接続用フィルム接着剤の製造法。
【請求項3】
前記マイクロカプセル型硬化剤が、エポキシ樹脂用の硬化剤の周囲を高分子化合物で被覆した構造である、請求項1又は2に記載の回路接続用フィルム接着剤の製造法。
【請求項4】
前記マイクロカプセル型硬化剤の活性化温度が60℃以上100℃以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の回路接続用フィルム接着剤の製造法。
【請求項5】
前記塗工液中の水分量が、前記マイクロカプセル型硬化剤に対して、0.5質量%以上10質量%以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の回路接続用フィルム接着剤の製造法。
【請求項6】
前記成膜工程の加熱温度が50℃以上90℃以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の回路接続用フィルム接着剤の製造法。

【公開番号】特開2010−174228(P2010−174228A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21876(P2009−21876)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】