説明

基板処理方法及び基板処理装置

【課題】IPA等の使用量を可能な限り減少させ、しかも液滴やミストの発生を最小限に抑えることによって、乾燥後の基板表面にウォーターマークが発生することを抑制できるようにする。
【解決手段】少なくとも一部に疎水性を有する基板Wの表面を乾燥させる基板処理方法であって、基板Wの表面と近接した位置に近接板16を該基板Wの表面に対向させて平行に配置して、基板Wの表面と近接板16との間に該基板Wの表面及び該近接板16にそれぞれ接する連続した被覆液膜28を形成し、基板Wと近接板16とを互いに平行に一方向に相対移動させて被覆液膜28の基板Wの表面に対する位置を変更させることで、基板Wの表面の近接板16で覆われなくなった領域に位置していた被覆液膜28を基板Wの表面から除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハやガラス基板等の基板の乾燥処理を行う基板処理方法及び基板処理装置に関し、特に、半導体デバイス製造に用いられる、少なくとも表面の一部が疎水性を有する基板の乾燥処理を行う基板処理方法及び基板処理装置に関する。基板としては、例えば直径が200mm以上、例えば200mm、300mmまたは450mmで、厚みが例えば0.6〜0.8mmのディスク状シリコン基板が用いられる。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造における多層銅配線形成工程では、ダマシンプロセスが広く用いられている。ダマシンプロセスは、絶縁膜中に配線用のトレンチを予め形成し、トレンチ内に配線材料である銅を電気めっき等によって埋め込んだ後、絶縁膜上の余分な銅をCMPで研磨除去して平坦化するプロセスである。近年、半導体デバイスの高集積化が更に進み、配線間の電気容量を低減させて信号伝達速度を向上させるため、絶縁膜(層間絶縁膜)材料として、シリコン酸化膜よりも低誘電率の、いわゆるLow−k材が用いられるようになってきている。
【0003】
Low−k材からなる絶縁膜は、従来一般に用いられていたシリコン酸化膜からなる絶縁膜と比較して疎水性が強い。このため、Low−k材の導入に伴い、CMP後の基板乾燥工程は益々困難なものとなっている。以下に、CMP後の基板乾燥工程について説明する。
【0004】
半導体デバイス製造や液晶製造における基板乾燥工程では、スピン乾燥法が広く用いられている。例えば、ダマシンプロセスにおけるCMPプロセスの後、基板表面のパーティクルをブラシ洗浄で除去した後、基板をスピン乾燥装置にセットして乾燥工程に入る。スピン乾燥では、基板表面に純水等の液体を供給しながら、基板を1000rpm程度の回転速度で回転させることで、基板表面の液滴を遠心力で表面から排除して表面を乾燥させる。このスピン乾燥の際、純水等の供給位置を基板の中心部から外周部に向かって徐々に移動させることで、基板の中心部から外周部に向かって乾燥が進むようにしている。
【0005】
例えば、絶縁膜材料としてシリコン酸化膜を用いた基板の場合、シリコン酸化膜は表面が親水性を有するため、スピン乾燥法で基板表面を乾燥させることで、乾燥後の基板表面に、例えば1ミクロン程度以上の大きさのウォーターマークが発生することを防止することができる。しかし、絶縁膜材料としてLow−k材を用いた基板の場合、Low−k材は表面が疎水性を有するため、基板表面で液滴を生じやすく、その結果ウォーターマークも生じやすい。
【0006】
ウォーターマークは、基板上に残留した液滴と雰囲気中または液滴中の酸素によって基板の構成材料であるシリコンが酸化して液滴中に溶解し、液滴が乾燥した後、その残さが析出することによって発生すると考えられている。スピン乾燥法で基板表面を乾燥させると、遠心力によって基板表面から飛散した液滴が乾燥装置の側壁に衝突し、跳ね返ることによって基板上に再付着し、ウォーターマークを生じ易くなると考えられている。また、疎水性基板表面では親水性基板表面と比較して液滴が生じやすく、その結果ウォーターマークが発生し易いと考えられる。
【0007】
ここで、基板表面が親水性であるということは、基板表面に水滴が生じた場合、水滴の基板表面との接触角が約45°未満であることを意味し、基板表面が疎水性であるということは、基板表面に水滴が生じた場合、水滴の基板表面との接触角が約45°以上であることを意味する。
【0008】
そこで近年は、基板表面の液膜の水・空気界面(表面)にIPA(イソプロピルアルコール)ガスを吹きかけ、マランゴニ力(IPAガス層と液膜層による表面張力の勾配に伴う力)を利用することによって、液膜(液体)の基板表面からの除去を容易にし、乾燥能力を高める方法が主流となっている。このマランゴニ力を利用したマランゴニ乾燥法としては、水中に浸漬させた基板を鉛直上方に引き上げながら、水面付近に位置する基板表面に向けてIPAガスを吹き付けて基板表面を乾燥させる方法と、スピン乾燥法と組合せる方法が実用化されている。マランゴニ乾燥法とスピン乾燥法とを組合せる方法は、ロタゴニ乾燥法と呼ばれ、回転中の基板表面にIPAガスを純水とを同時に滴下し、マランゴニ力によって基板表面からの純水等の液体の剥離を容易にさせて、基板表面に液滴が残留することを抑制するとともに、乾燥速度を向上させるようにしている。
【0009】
また、基板表面と該基板表面に近接させて配置した近接部材の対向面との間に液密層を形成し、近接部材を一方向に移動させながら、液密層の上流側界面に窒素ガスを吹き付けることによって、基板表面を乾燥させるようにしたものが提案されている(特許文献1参照)。また、基板表面と該基板表面に対向させて配置した液切りヘッドの対向面との間に液体を、基板を一方向に移動させながら吸引除去し、基板表面と液切りヘッドの対向面との間に残った液体をガスによって吹き飛ばして除去することによって、基板表面を乾燥させるようにしたものが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−310756号公報
【特許文献2】特開2007−012653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし近年、地球規模での環境問題の高まりとともに、揮発性の有機物質であるIPA等の使用量を可能な限り低減することが求められている。また、乾燥後の基板表面にウォーターマーク等の欠陥が発生することを更に低減することが求められている。
【0012】
特許文献1に記載の発明にあっては、液密層の上流側界面に窒素ガスを強力に吹き付け、このガスで基板表面の液体を吹き飛ばすことによって、液密層(液膜)の界面を移動させるようにしており、このため、液密層の界面の移動速度制御が困難で、しかもミストの発生が避けられず、このミストが基板表面に再付着すると、ウォーターマーク発生の原因となると考えられる。引用文献2に記載の発明にあってもほぼ同様に、基板表面と液切りヘッドの対向面との間の液体を吸引排除しつつ、基板表面と液切りヘッドの対向面との間に残った液体をガスによって吹き飛ばして除去するようにしており、このため、基板表面と液切りヘッドの対向面との間の液体の界面(水・空気界面)の移動速度制御が困難で、しかもミストの発生が避けられず、このミストが基板表面に再付着すると、ウォーターマーク発生の原因となると考えられる。
【0013】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、IPA等の使用量を可能な限り減少させ、しかも液滴やミストの発生を最小限に抑えることによって、乾燥後の基板表面にウォーターマークが発生することを抑制できるようにした基板処理方法及び基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の発明は、少なくとも一部に疎水性を有する基板表面を乾燥させる基板処理方法であって、基板表面と近接した位置に近接板を該基板表面に対向させて平行に配置して、基板表面と前記近接板との間に該基板表面及び該近接板にそれぞれ接する連続した被覆液膜を形成し、前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させて前記被覆液膜の基板表面に対する位置を変更させることで、基板表面の前記近接板で覆われなくなった領域に位置していた被覆液膜を基板表面から除去することを特徴とする基板処理方法である。
【0015】
この方法によると、基板表面と近接板との間に形成された連続した被覆液膜は、近接板と基板とを互いに平行に一方向に相対移動させることによって、被覆液膜の相対移動方向後方に位置する水・空気界面が近接板の相対移動方向後方に位置する側端面とほぼ同じ位置となるように移動する。これによって、被覆液膜の水・空気界面の移動速度を容易に制御でき、しかも液膜切れによるウォーターマークの発生が抑制できる。つまり、ウォーターマークの発生は、液膜移動速度の変動による液滴発生が原因の一つとなっているが、この発明では、近接板の相対移動方向後方に位置する側端面とほぼ同じ位置となるように、被覆液膜の水・空気界面(表面)が移動するので、液膜のちぎれによる液滴発生が起こりにくく、その結果、ウォーターマークの発生も減らすことができる。
【0016】
近接板は、少なくとも一部が基板の外周端部から外方に食み出す位置まで延出していることが好ましい。これにより、基板表面と近接板との間の被覆液膜を形成していた液体が基板外周端部から流れ出すようにして、該液体を容易に排除することができ、そのため、近接板を基板とをより高速で相対移動させても、被覆液膜の水・空気界面は、近接板の相対移動方向後方の側端面とほぼ同じ位置を移動できるようになる。また、近接板の大きさは大きい方が好ましい。基板表面に形成される液膜全体の面積に対する、基板と近接板に挟まれた領域に形成される被覆液膜の面積の比が大きいほど、被覆液膜の水・空気界面の位置が近接板の相対移動方向後方の側端面とほぼ同じ位置となるように制御しやすくなる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、前記近接板の前記基板表面と対向する対向面は、前記基板の全表面を覆うことが可能な大きさを有することを特徴とする請求項1に記載の基板処理方法である。
【0018】
これにより、基板の全表面を覆う位置に近接板を配置して、基板の全表面に被覆液膜を形成し、基板と近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させることで、近接板の相対移動方向後方の側端面とほぼ同じ位置に形成される被覆液膜の水・空気界面を一方向に移動させつつ基板表面を乾燥させることができる。このように、基板の全表面に連続した被覆液膜を形成した後、被覆液膜の水・空気界面を一方向に移動させつつ、基板表面を乾燥させることで、基板表面上の液膜がちぎれてウォーターマーク発生の原因となる液滴が発生することを確実に防止し、しかも被覆液膜の水・空気界面の位置や移動速度を容易に制御することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、前記近接板の前記基板表面と対向する対向面は、親水性を有することを特徴とする請求項1または2に記載の基板処理方法である。
このように、近接板の基板表面と対向する対向面が親水性の場合には、被覆液膜の水・空気界面は、近接板の相対移動方向後方の側端面とほぼ同じ位置を維持する作用が強くなり、基板と近接板とをより高速で相対移動させることも可能となる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させつつ、該近接板の前記基板との相対移動方向後方において、前記被覆液膜の水・空気界面に向けて不活性ガスを供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の基板処理方法である。
【0021】
このように、被覆液膜の水・空気界面に向けて窒素ガス等の不活性ガスを供給することで、基板と近接板とをより高速で相対移動させた場合でも、液膜のちぎれによって液滴が発生することを防止して、ウォーターマークが発生し難くすることができる。この不活性ガスには、被覆液膜をガス圧力で近接板の移動方向に押すことによって被覆液膜の移動を容易にさせる作用と、万が一基板表面に微小液滴が発生しても該微小液滴の乾燥を促進して、ウォーターマークを発生させ難くする作用がある。不活性ガスは、酸素等の純水に溶け込んで基板と反応する反応性ガスを含まないガスであり、窒素ガスや元素の周期表でいう0属の希ガスなどが挙げられる。不活性ガスは、基板表面の乾燥処理中、被覆液膜の水・空気界面に向けて常に供給することが好ましい。このことは、下記のIPAガスにあっても同様である。
【0022】
請求項5に記載の発明は、前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させつつ、該近接板の前記基板との相対移動方向後方において、前記被覆液膜の水・空気界面に向けてイソプロピルアルコールガスを供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の基板処理方法である。
【0023】
このように、被覆液膜の水・空気界面に向けてIPA(イソプロピルアルコール)ガスを供給することで、マランゴニ力によって基板表面からの液膜の排除を促進して、基板と近接板とをより高速で相対移動させた場合でも、液膜のちぎれによる液滴の発生を防止して、ウォーターマークが発生し難くすることができる。
【0024】
請求項6に記載の発明は、前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させつつ、前記被覆液膜を形成する液体を吸引することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の基板処理方法である。
【0025】
基板表面の被覆液膜を含む液膜は、基本的に基板表面の乾燥処理の進行と共に基板の外周端部から流れ出して基板表面から排除されるが、補助的な液膜排除手段として被覆液膜を形成する液体を吸引除去するようにしても良い。
【0026】
請求項7に記載の発明は、前記基板は水平面に対して5°以内の角度で傾斜していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の基板処理方法である。
【0027】
例えば、基板を固定して近接板を一方向に移動させる場合、基板は基本的に水平に設置されるが、例えば近接板の移動方向に向けて下方に下がるように基板を傾斜させて設置しても良い。このように基板を傾斜させることによって、液膜の排除能力が高まり、被覆液膜の水・空気界面が近接板の移動方向後方の側端面と同じ動きをし易くなる。基板を傾けるタイミングは、基板の全表面に液膜を形成する前でも良いし、基板の全表面に液膜を形成した後、基板表面に近接板を近接させて近接板と基板表面との間に被覆液膜を形成した後でも良い。基板をあまり大きく傾けると、被覆液膜の水・空気界面が近接板の側端面とほぼ同じ位置にこなくなるので、基板は水平面に対して5°以内の角度で傾斜していることが好ましい。
【0028】
請求項8に記載の発明は、前記被覆液膜を形成する液体として、酸化還元電位が−100mV(vs SHE)以下の水を使用することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の基板処理方法である。
【0029】
基板処理に使用する液体としては、通常純水が用いられるが、被覆液膜を形成する液体として、純水の代わりに還元性の機能水を用いても良い。還元性の機能水とは、例えば純水を電気分解して得られるカソード還元水や、純水に水素ガスを溶解させた水素水などが挙げられる。このような還元性の機能水を用いることで、基板表面での酸化反応を抑制して、ウォーターマークの発生を抑制することができる。機能水の還元作用は大きければ大きいほど好ましいが、酸化還元電位が約−100mV(vs SHE)以下であれば効果が得られる。
【0030】
請求項9に記載の発明は、前記基板と前記近接板とを、1mm/sec以上、40mm/sec以下の相対移動速度で互いに平行に一方向に相対移動させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の基板処理方法である。
【0031】
相対移動速度は、乾燥処理中における基板と近接板との相対移動速度の平均値であり、相対移動距離を相対移動開示時から相対移動終了時までに要した時間で除した値である。基板と近接板との相対移動速度が1mm/sec未満であると乾燥工程に求められるスループットを達成できず、また、基板と近接板との相対移動速度が40mm/secを超えると被覆液膜の水・空気界面が近接板の側端面と異なる動きになりやすくなる。
【0032】
請求項10に記載の発明は、前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させつつ、前記基板と前記近接板と間に液体を供給することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の基板処理方法である。
【0033】
例えば、純水を使用して基板表面に液膜を形成する場合、基板と近接板の間の被覆液膜に常に純水を供給し、被覆液膜を新鮮な状態に保つのが好ましい。これによって、液膜中のSiイオン濃度を低く保つことができるので、基板表面に残留した微小液滴が乾燥した場合でもウォーターマークがより小さくなり、歩留まりに影響し難くなる。
【0034】
請求項11に記載の発明は、前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させて基板の全表面から液体を除去した後、前記基板をスピンさせることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の基板処理方法である。
【0035】
乾燥処理によっては、近接板の対向面が基板表面から離れた後に、基板の外周端部に水滴が残る場合がある。このように、基板の外周端部に水滴が残る場合には、基板をスピンさせて、残留水滴を排除することが好ましい。このとき、残留水滴は微量であるため、液の飛散と跳ね返りによる基板上への液滴の再付着の影響は少ない。
【0036】
請求項12に記載の発明は、少なくとも一部に疎水性を有する基板表面を乾燥させる基板処理装置であって、基板を保持する基板ホルダと、前記基板ホルダで保持した基板の表面に近接した位置に該表面と対向させて平行に配置される近接板であって、基板表面と前記近接板との間に該基板表面及び該近接板にそれぞれ接する連続した被覆液膜を形成する近接板と、前記基板ホルダで保持した基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させる移動機構を有することを特徴とする基板処理装置である。
【0037】
請求項13に記載の発明は、前記近接板と一体に構成され、該近接板の前記基板との相対移動方向後方において、前記被覆液膜の水・空気界面に向けて不活性ガスまたはイソプロピルアルコールガスを供給するガス供給ノズルを有することを特徴とする請求項12に記載の基板処理装置である。
【0038】
請求項14に記載の発明は、前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させつつ、前記被覆液膜を形成する液体を吸引する液体吸引ノズルを有することを特徴とする請求項12または13に記載の基板処理装置である。
請求項15に記載の発明は、前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させつつ、前記基板と前記近接板と間に液体を供給する液体供給ノズルを有することを特徴とする請求項12乃至14のいずれかに記載の基板処理装置である。
【0039】
請求項16に記載の発明は、前記基板ホルダは、該基板ホルダで保持した基板を傾斜させる基板傾斜機構を有することを特徴とする請求項12乃至15のいずれかに記載の基板処理装置である。
請求項17に記載の発明は、前記基板ホルダは、該基板ホルダで保持した基板をスピンさせるスピン機構を有することを特徴とする請求項12乃至16のいずれかに記載の基板処理装置である。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、近接板と液膜との親和力と、基板の外周端部からの液落下により、基板表面の液体を排除して乾燥させることができるので、液はねによるウォーターマークの発生の恐れがない。しかも、近接板の相対的移動方向後方に位置する側端面に対応させて、基板表面と近接板との間に形成された被覆液膜の水・空気界面を移動させるので、液膜のちぎれによる液滴発生が起こりにくく、その結果、ウォーターマークの発生を減らすことができる。また、被覆液膜の水・空気界面が近接板の相対的移動方向後方に位置する側端面とほぼ同じ位置に存在するため、被覆液膜の水・空気界面への不活性ガスガスの供給やIPAガスの供給など、被覆液膜の水・空気界面のコントロール性が高まり、その結果、IPAガスの使用量を大幅に減らしつつ、乾燥能力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態の乾燥ユニットに適用した基板処理装置の概要を示す平面図である。
【図2】図1に示す乾燥ユニットの縦断正面図である。
【図3】図2の要部を拡大した要部拡大図である。
【図4】本発明の他の実施形態の乾燥ユニットに適用した基板処理装置の概要を示す縦断正面図である。
【図5】本発明の実施形態の乾燥ユニット(基板処理ユニット)を備えた研磨装置を示す全体平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同一または相当する部材には同一符号を付して重複した説明を省略する。
【0043】
図1乃至図3は、本発明の実施形態の乾燥ユニットに適用した基板処理装置の概要を示す。この乾燥ユニット(基板処理装置)10は、図2に示すように、互いに対向する位置に近離自在に配置され、表面(被処理面)を上向きにして半導体ウェーハ等の基板Wを着脱自在にほぼ水平に保持する一対のクランパ12を有する基板ホルダ14を備えている。
【0044】
このクランパ12の肉厚は、基板Wを基板ホルダ14のクランパ12で保持した時、基板Wの表面とクランパ12の上面、及び基板Wの裏面とクランパ12の下面が共に面一となって、クランパ12が基板Wの乾燥処理の邪魔とならないよう、基板Wの肉厚とほぼ等しくなるように設定されている。この例の基板ホルダ14は、一対のクランパ12を備えているが、3以上のクランパ、例えば円周方向に沿って90°間隔で配置された計4個のクランプを備えるようにしてもよい。
【0045】
基板ホルダ14で保持された基板Wの上方に位置して、基板Wの直径方向に延びて基板Wの直径よりも長い長さを有する近接板16が、該近接板16の下面の平坦な対向面16aが基板Wの表面と平行となるように配置されている。近接板16の長さ方向に沿った両端には、内部に雌ねじを刻設した走行体18がそれぞれ連結されており、この走行体18の雌ねじは、基板ホルダ14で保持した基板Wの側方に回転自在に水平に配置した駆動棒20の外周面に刻設した雄ねじにそれぞれ螺合している。この駆動棒20は、モータ22の駆動に伴って回転し、モータ22の回転速度は、近接板駆動部24からの出力によって制御される。これらの走行体18、駆動棒20、モータ22及び近接板駆動部24によって、基板ホルダ14で保持した基板Wと平行に近接板16を一方向(X方向)に移動させる近接板移動機構26が構成されている。つまり、モータ22を駆動して駆動棒20を回転させることで、連結棒20の外周面に刻設した雄ねじに螺合する雌ねじを有する走行体18が近接板16と一体となってX方向に移動し、モータ22の回転速度を制御することで、近接板16の移動速度が制御できるようになっている。そして、基板Wに対する乾燥処理を終了した後、駆動棒20を上記と逆方向に回転させることで、近接板16を元の位置に復帰させることができる。
【0046】
図示しないが、乾燥ユニット10には、近接板16を該近接板16の対向面16aを基板ホルダ14で保持した基板Wの表面と平行な状態に維持したまま、近接板移動機構26と一体に昇降させる昇降機構が備えられている。この昇降機構の駆動に伴って、近接板16は、その下面の対向面16aが基板ホルダ14で保持した基板Wの表面に近接した位置、例えば近接板16の対向面16aと基板Wの表面との距離Lが2mm程度以下となる位置まで下降し、この近接板16の下降により、図2及び図3に示すように、基板Wの表面に予め供給された純水等の液体によって、近接板16の対向面16aと基板Wの表面との間に、近接板16の対向面16aと基板Wの表面にそれぞれ接する連続した被覆液膜28が形成されるようになっている。
【0047】
図2に示すように、基板Wの表面には、予め供給された純水等の液体によって連続した液膜(露出液膜)30が形成され、近接板16を一方向(X方向)に移動させつつ基板Wの表面の乾燥処理を行うことによって、基板Wの表面の近接板16の移動方向(X方向)の後方に位置する領域に、基板Wの表面の液膜30を除去して乾燥させた乾燥領域32が形成される。
【0048】
この例では、基板Wを基板ホルダ14で保持して固定し、近接板14を基板Wと平行に一方向(X方向)に移動させながら、基板Wの表面を乾燥させるようにしているが、近接板を固定し、基板ホルダで保持した基板を近接板と平行に一方向に移動させながら、基板表面を乾燥させるようにしてもよく、また両者を組合せるようにしてもよい。また、図示しない昇降機構によって、近接板16を移動機構26と一体に昇降させるようにしているが、基板ホルダで保持した基板を昇降させるようにしてもよい。
【0049】
近接板16には、近接板16の移動方向(X方向)の前方に位置し、上下に貫通して対向面16aで開口する複数の液体吸引ノズル34が近接板16の長さ方向に沿って所定間隔離間して設けられている。この液体吸引ノズル34は、基板Wの表面と近接板16の対向面16aとの間に形成された被覆液膜28を形成する液体を吸引除去するためのもので、液体吸引ライン36を通じて、吸引ポンプ等の液体吸引部38に接続されている。液体吸引ノズル34の吸引口は、近接板16の長さ方向に沿ってスリット状に延びて直線状に並んでいる。
【0050】
また、近接板16には、近接板16の移動方向(X方向)の後方に位置し、上下に貫通して対向面16aで開口する複数の液体供給ノズル40が近接板16の長さ方向に沿って所定間隔離間して設けられている。この液体供給ノズル40は、基板Wの表面と近接板16の対向面16aとの間に形成された被覆液膜28に純水等の液体を供給するためのもので、液体供給ライン42を通じて液体供給源44に接続されている。液体供給ノズル40の供給口は、近接板16の長さ方向に沿ってスリット状に延びて直線状に並んでいる。
【0051】
更に、近接板16の移動方向(X方向)の後方の側端面16bには、近接板16の長さ方向の全長に亘って延びる支持体50がその下面を近接板16の対向面16aの上方に位置させて取り付けられている。この支持体50には、下方にゆくに従って近接板16の側端面16bに徐々に近づくように傾斜して上下に貫通する複数のガス供給ノズル52が支持体50の長さ方向に沿って所定間隔離間して設けられている。このガス供給ノズル52は、基板Wの表面と近接板16の対向面16aとの間に形成された被覆液膜28の水・空気界面28aに向けて、窒素ガス等の不活性ガスまたはIPAガス54を供給するためのもので、ガス供給ライン56を通じてガス供給源58に接続されている。ガス供給ノズル52の供給口は、支持体50の長さ方向に沿ってスリット状に延びて直線状に並んでいる。
【0052】
基板Wが円形の場合には、近接板16と基板Wとの位置関係によって近接板16と基板Wとの対向面の長さが変化する。この実施例では、液体吸引ノズル34、液体供給ノズル40、及びガス供給ノズル52が支持体50の長さ方向に沿ってスリット状に複数存在するため、基板Wが円形の場合に、液体吸引ノズル34、液体供給ノズル40、及びガス供給ノズル52の一部を遮断することによって、無駄な液吸引や液供給を行わないことができる。
【0053】
なお、図示しないが、基板ホルダ14で保持した基板Wの周囲に位置して、基板ホルダ14で保持した基板Wの表面に純水等の液体を供給する表面ノズルと、基板Wの裏面(下面)に純水等の液体を供給する裏面ノズルが配置されている。
【0054】
次に、乾燥ユニット(基板処理装置)10の操作例について説明する。
先ず、例えばCMP後の基板(半導体ウェーハ)Wを、表面を上向きにして基板ホルダ14のクランパ12でほぼ水平に保持する。そして、基板Wの表面に図示しない表面ノズルから純水等の液体を供給することで、基板Wの表面に連続した液膜(露出液膜)30を形成する。この時、近接板16は、移動方向(X方向)の後方の基板ホルダ14で保持された基板Wの端部に対応する上方の待避位置に待避している。
【0055】
次に、昇降機構を駆動して、近接板16を基板Wと平行な状態を維持したまま近接板移動機構26と一体に緩やかに下降させ、基板Wの表面に存在する液膜30の上面に近接板16の対向面16aを接触させて、近接板16の対向面16aと基板Wの表面との間に被覆液膜28を形成する。この例では、近接板16の移動方向(X方向)の後方に位置する基板Wの表面の端部に被覆液膜28を形成するようにしている。通常、疎水性基板の表面に形成される液膜は、2mm程度の厚さを有している。このため、近接板16の対向面16aと基板Wの表面との距離Lが約2mm以下となるまで近接板16を下降させることで、近接板16の対向面16aと基板Wの表面との間に被覆液膜28を形成することができる。
【0056】
このようにして、近接板16の対向面16aと基板Wの表面との間に被覆液膜28を形成する時、基板Wの表面の液膜30を形成する純水等の液体の一部は、基板Wの外周端部から下方に落下する。
【0057】
この状態で、近接板移動機構26を駆動して、近接板16の対向面16aを基板Wの表面と平行にした状態で、近接板16を一方向(X方向)に一定速度で移動させる。この近接板16の移動に伴って、基板Wの表面の被覆液膜28を含む液膜30を形成する液体は基板Wの外周端部から落下しつつ、被覆液膜28の水・空気界面28aは、近接板16の移動方向(X方向)の後方の側端面16bとほぼ同じ位置になるように移動する。このように、近接板16が被覆液膜28とともに移動して露出した後の基板Wの表面は、液膜および液滴が残留せず乾燥状態となる。これによって、基板Wの表面の近接板16の移動方向(X方向)の後方に位置する領域に乾燥領域32が形成される。
【0058】
このように、被覆液膜28の水・空気界面28aを近接板16の移動方向(X方向)の後方に位置する側端面16bとほぼ同じ位置となるように一方向に移動させつつ、基板Wの表面を乾燥させることで、基板Wの表面の液膜がちぎれてウォーターマーク発生の原因となる液滴が発生することを確実に防止し、しかも被覆液膜28の水・空気界面28aの位置や移動速度を容易に制御することができる。
【0059】
前述のように、基板Wの外周端部から液体が下方に落下すると、この落下した液体が基板ホルダ14で保持した基板Wの裏面に回り込む恐れがある。このため、この例では、基板ホルダ14で保持した基板Wの裏面に図示しない裏面ノズルから純水等の液体を供給しつつ、基板Wの裏面を乾燥するようにしている。
【0060】
近接板16の移動速度の平均値、つまり移動距離を移動開示時から移動終了時までに要した時間で除した値は、例えば1mm/sec以上、40mm/sec以下である。このように、近接板16の移動速度を1mm/sec以上とすることで、乾燥工程に求められるスループットを達成し、また近接板16の移動速度を40mm/sec以下とすることで、被覆液膜28の水・空気界面28aを近接板16の側端面16bに容易に追随させるようにすることができる。
【0061】
この近接板16の移動に同期して、必要に応じて、液体吸引ノズル34から被覆液膜28を形成する純水等の液体を吸引除去する。基板Wの表面の被覆液膜28を含む液膜30は、基本的に基板Wの表面の乾燥処理の進行と共に基板Wの外周端部から流れ出して基板Wの表面から排除されるが、補助的な液膜排除手段として、被覆液膜28を形成する液体を液体吸引ノズル34を通して吸引除去するようにしても良い。
【0062】
このように被覆液膜28を形成する液体を液体吸引ノズル34を通して吸引するとき、吸引速度が速すぎると液膜面積の減少速度が速くなり、近接板16の移動方向後方の側端面16bに対応する位置以外でも被覆液膜の水・空気界面(表面)が発生したり、近接板16の移動方向後方の側端面16bに対応する位置に位置する被覆液膜28の水・空気界面28aが、近接板16の下部に移動したりする可能性がある。これらの場合には、被覆液膜の水・空気界面の移動速度を近接板の移動速度によって制御できなくなるので、吸引はあくまでも補助手段とし、吸引速度を速くしすぎないことが望ましい。
【0063】
また、近接板16の移動に同期して、必要に応じて、液体供給ノズル40から被覆液膜28に純水等の液体を供給する。基板Wの表面と近接板16との間に形成された被覆液膜28は、Siウェーハ等の基板の表面から溶出したSi酸化物を取り込み、Si酸化物濃度が高い状態になる。この液体が液滴となって基板Wの表面に残り乾燥すると、ウォーターマークが生じ易くなる。このため、液体供給ノズル40から被覆液膜28に純水等の液体を供給して、被覆液体28を常に新鮮な状態に保つことが好ましい。供給された純水等の液体は基板Wの外周端部から下方に落下する。
【0064】
更に、近接板16の移動に同期して、必要に応じて、ガス供給ノズル52から被覆液体28の水・空気界面28aに向けて窒素ガス等の不活性ガスまたはIPAガス54を供給する。この不活性ガスまたはIPAガス54の供給は、基板Wの表面の乾燥処理中、常に行うことが好ましい。このように、被覆液膜28の水・空気界面28aに向けて窒素ガス等の不活性ガスを供給することで、基板Wと近接板28とをより高速で相対移動させた場合でも、液膜のちぎれによって液滴が発生することを防止して、ウォーターマークが発生し難くすることができる。特に、被覆液膜28の水・空気界面28aに向けてIPAガスを供給することで、マランゴニ力によって基板Wの表面からの液膜の排除を促進して、基板Wと近接板28とをより高速で相対移動させた場合でも、液膜のちぎれによる液滴の発生を防止して、ウォーターマークが発生し難くすることができる。
【0065】
この不活性ガスまたはIPAガス54には、被覆液膜28をガス圧力で近接板16の移動方向に押すことによって被覆液膜28の移動を容易にさせる作用と、万が一基板Wの表面に微小液滴が発生しても該微小液滴の乾燥を促進して、ウォーターマークを発生させに難くする作用がある。
【0066】
この例によれば、被覆液膜28の水・空気界面28aが近接板16の移動方向後方に位置する側端面16bとほぼ同じ位置に存在するため、被覆液膜28の水・空気界面28aへの不活性ガスガスの供給やIPAガス54の供給など、被覆液膜28の水・空気界面28aのコントロール性が高まり、その結果、IPAガスの使用量を大幅に減らしつつ、乾燥能力を高めることができる。
【0067】
そして、近接板16が移動方向(X方向)に移動して、近接板16が移動方向前方に位置する基板Wの外周端部を通過した時に、基板Wの表面の液膜はほぼ完全に基板Wの表面から排除され、基板Wの全表面が乾燥状態となって、基板Wの乾燥処理を終了する。基板Wの乾燥処理終了後、近接板16の移動を停止し、近接板16を近接板移動機構26と共に上昇させた後、元の位置に復帰させる。
【0068】
基板ホルダ14は、基板ホルダ14で保持した基板Wをスピンさせるスピン機構を有していることがこの好ましい。このように、スピン機能を有する基板ホルダを使用し、基板の乾燥処理終了後に基板をスピンさせることで、基板Wの外周端面や基板ホルダに少量の液滴が残留する場合であっても、この残留する液滴を除去することができる。基板の回転速度は、例えば500rpm程度で、10秒間程度、基板を回転させれば十分である。
【0069】
従来のスピン乾燥法では多量の液体を遠心力によって基板表面から排除していたため、排除された液滴がカップ等に衝突して微小液滴やミストになり、基板に再付着してウォーターマークを生成するという現象が見られていた。しかし、この方法では、最後の仕上げのみにスピン乾燥を用いるため、遠心力により排除される液量は通常のスピン乾燥に比べて遙かに少ない。そのため、ミストや微小液滴の発生量も通常のスピン乾燥に比べて大幅に低減でき、ウォーターマーク数を歩留まりに影響しないレベルに抑えることができる。
【0070】
例えば、直径300mmや450mmなど大型の半導体ウェーハを乾燥するのに使用する場合、基板ホルダ14は、基板ホルダ14で保持した基板を傾斜させる基板傾斜機構を有していることが好ましい。このように、基板傾斜機構を有する基板ホルダを使用し、例えば、基板の全表面に液膜を形成する前に、近接板の移動方向に向けて下方に下がるように基板を傾斜させることで、たとえ基板が300mmや450mmなど大型になって、近接板の作用のみでは基板表面の液膜を基板表面から排除することが困難になっても、液膜の基板表面からの排除を容易に行うことができる。基板を傾斜させる角度は、例えば5°以内で、基板の大きさなどによって角度を変えることが好ましい。
【0071】
上記の例では、純水等の液体を使用しているが、乾燥性能を更に高めるため、純水の代わりに水素水や電解還元水などの酸化還元電位の低い、例えば酸化還元電位が−100mV(vs SHE)以下の水を使用しても良い。このように酸化還元電位の低い水を使用して、水中の酸素との反応による基板表面の酸化が起こり難くすることで、ウォーターマークが発生し難くすることができる。
【0072】
還元性の機能水を使用する場合は、基板処理雰囲気を、不活性雰囲気または低酸素濃度雰囲気とするのが望ましい。これは、基板処理雰囲気に酸素が存在すると、酸素が水中に溶解し還元剤の作用を弱めるためである。ウォーターマークの原因となる液滴は、直径数μm以下の微小液滴であり、体積に対する表面積が非常に大きいため、雰囲気中に存在する酸素ガスや炭酸ガスが液滴中に溶解しやすい状態であるので、不活性雰囲気または低酸素濃度雰囲気とする効果は大きい。
【0073】
近接板16の基板Wの表面に対向する対向面16aは親水性であることが好ましい。このように、近接板16の基板Wの表面と対向する対向面16aを親水性とすることで、被覆液膜28の水・空気界面28aが近接板16の相対移動方向後方の側端面16bとほぼ同じ位置を維持する作用が強くなり、基板Wと近接板16とをより高速で相対移動させることも可能となる。近接板16の対向面16aの親水性の程度は高ければ高いほど好ましい。この場合、近接板16は、板自体がガラスなどの親水性材料で構成されていても良いし、親水性コーティング等により対向面16aのみを親水性にしてもよい。表面材料が親水性の場合は、表面に凹凸を付けることによって親水性を高めることができる。
【0074】
また、近接板16の移動方向(X方向)の後方に位置する側端面16bは疎水性であることが好ましく、このように、近接板16の側端面16bを疎水性とすることで、被覆液膜28の水・空気界面28aが近接板16の側端面16aとほぼ同じ位置に止まり易くすることができる。
【0075】
図4は、本発明の他の実施形態の乾燥ユニットに適用した基板処理装置の概要を示す。この例の乾燥ユニット(基板処理装置)60は、例えば図2に示す基板ホルダ14でほぼ水平に保持した基板Wの直径方向に延びて基板Wの直径より長い長さを有し、下面に平坦な対向面62aを有する、横断面等脚台形状の複数のセグメント62をヒンジ等で屈曲自在に連結して構成した近接板64を備えている。この近接板64を構成する複数のセグメント62の対向面62aは、セグメント62が水平に並んだ時に基板Wの全表面を覆う大きさに設定されている。
【0076】
この各セグメント62の両端は、例えば図2に示す基板ホルダ14でほぼ水平に保持した基板Wの両側方に配置された無端ベルトや無端チェーン等からなる走行体66を有する近接板移動機構68の該走行体66に回転自在に連結されている。これによって、近接板64を構成する各セグメント62は、走行体66の一方向への走行に伴って、基板Wの上面と平行に一方向(X方向)に移動し、基板Wの外周端面と通過して基板Wの上方から外れた後、上方に向かって移動するようになっている。
【0077】
近接板64の移動方向(X方向)の最後方に位置するセグメント62には、支持体70が後方に平行に突出して取り付けられ、この支持体70の長さ方向に沿って所定間隔離間した位置には、窒素ガス等の不活性ガスまたはIPAガス74を供給するガス供給ノズル72が配置されている。
【0078】
この乾燥ユニット(基板処理装置)60によれば、例えばCMP後の基板(半導体ウェーハ)Wを、例えば図2に示す基板ホルダ14で表面を上向きにしてほぼ水平に保持する。そして、基板Wの表面に図示しない表面ノズルから純水等の液体を供給することで、基板Wの表面に連続した液膜(露出液膜)を形成する。この時、近接板64を構成する各セグメント62は、水平方向に並んで該セグメント62の対向面62aが基板Wの全表面を覆う上方の待避位置に待避している。
【0079】
次に、図示しない昇降機構を駆動して、近接板64を基板Wと平行な状態を維持したまま近接板移動機構68と一体に緩やかに下降させ、基板Wの全表面に存在する液膜の上面に近接板64を構成する各セグメント62の対向面62aを接触させて、各セグメント62の対向面62aと基板Wの全表面との間に被覆液膜76を形成する。この各セグメント62の対向面62aと基板Wの表面との距離Lは、前述と同様に、例えば2mm以下であり、基板Wの表面の純水等の液体の一部は、基板Wの外周端部から下方に落下する。
【0080】
この状態で、近接板移動機構68の走行体66を一方向に走行させ、近接板64を構成する各セグメント62の対向面62aを基板Wの表面と平行にした状態で、各セグメント62を一方向(X方向)に一定速度で移動させる。この時、基板Wの外周端面を通過して基板Wの上方から離れた位置に達した後のセグメント62は、走行体66の走行に伴って上方に向けて順次移動する。この近接板64を構成する各セグメント62の移動に伴って、基板Wの表面の被覆液膜76を形成する液体は基板Wの外周端部から落下しつつ、被覆液膜76の水・空気界面76aは、移動方向(X方向)の最後方に位置するセグメント62の移動方向(X方向)の後方の側端面62bとほぼ同じ位置になるように移動する。このように、各セグメント62が被覆液膜76とともに移動して露出した後の基板Wの表面は、液膜および液滴が残留せず乾燥状態となる。これによって、基板Wの表面の近接板64の移動方向(X方向)の後方に位置する領域に乾燥領域78が形成される。
【0081】
近接板64の移動に同期して、必要に応じて、ガス供給ノズル72から被覆液体74の水・空気界面76aに向けて窒素ガス等の不活性ガスまたはIPAガス74を供給し、これによって、基板Wと近接板64を構成する各セグメント62とをより高速で相対移動させた場合でも、液膜のちぎれによって液滴が発生することを防止して、ウォーターマークが発生し難くする。
【0082】
なお、前述の例と同様に、近接板64の移動に同期して、被覆液膜76を形成する液体を吸引排除したり、被覆液膜76に純水等の液体を供給したりしてもよい。
【0083】
そして、近接板64を構成する各セグメント62が移動方向(X方向)に移動して、移動方向の最後方に位置するセグメント62が移動方向前方に位置する基板Wの外周端部を通過して基板Wの上方を外れた位置に達した時に、基板Wの表面の液膜はほぼ完全に基板Wの表面から排除され、基板Wの全表面が乾燥状態となって、基板Wの乾燥処理を終了する。基板Wの乾燥処理終了後、近接板64を構成する各セグメント62の移動を停止し、近接板64を構成する各セグメント62を近接板移動機構68と共に上昇させた後、元の位置に復帰させる。
【0084】
この例によれば、基板Wの全表面を覆う位置に近接板64を配置して、基板Wの全表面に被覆液膜76を形成した後、近接板64を構成する各セグメント62を基板Wと平行に一方向(X方向)に移動させることで、移動方向(X方向)の最後方に位置するセグメント62の側端面62bとほぼ同じ位置に形成される被覆液膜76の水・空気界面76aを一方向に移動させつつ基板Wの表面を乾燥させることができる。このように、基板Wの全表面に連続した被覆液膜76を形成した後、被覆液膜76の水・空気界面76aを一方向に移動させつつ、基板Wの表面を乾燥させることで、基板Wの表面上の液膜がちぎれてウォーターマーク発生の原因となる液滴が発生することを確実に防止し、しかも被覆液膜76の水・空気界面76aの位置や移動速度を容易に制御することができる。
【0085】
図5は、本発明の乾燥ユニット(基板処理装置)を備えた研磨装置を示す。図5に示すように、この研磨装置は、基板を搬入・搬出するロード・アンロード部100、基板表面を研磨して平坦化する研磨部102、研磨後の基板を洗浄する洗浄部104及び基板を搬送する基板搬送部106を備えている。ロード・アンロード部100は、半導体ウェーハ等の基板をストックする複数(図示では3個)の基板カセットを載置するフロントロード部108と、第1搬送ロボット110を備えている。
【0086】
研磨部102には、この例では、4つの研磨ユニット112が備えられ、基板搬送部106は、互いに隣接した2つの研磨ユニット108間で基板の搬送を行う第1リニアトランスポータ114a及び第2トランスポータ114bから構成されている。洗浄部104は、例えばロールブラシ方式を採用して粗洗浄を行う2つの洗浄ユニット116a,116b、スピンドライ方式を採用して仕上げ洗浄を行う洗浄ユニット118及び乾燥ユニット120を有している。更に、第1リニアトランスポータ114a、第2トランスポータ114b及び洗浄部104の間に位置して第2搬送ロボット122が配置されている。
【0087】
この例では、乾燥ユニット120として、前述の図1乃至図3に示す乾燥ユニット10が使用され、研磨し洗浄した後の基板を、乾燥ユニット120(10)で乾燥させるようにしている。なお、図1乃至図3に示す乾燥ユニット10の代りに、図4に示す乾燥ユニット60を使用しても良い。
【0088】
この研磨装置にあっては、フロントロード部108に搭載された基板カセットから第1搬送ロボット110で取り出された基板は、第1リニアトランスポータ114a、または第1リニアトランスポータ114a及び第2リニアトランスポータ114bを介して、研磨部102の少なくとも1つの研磨ユニット112に搬送される。そして、研磨ユニット112で研磨された基板は、第2搬送ロボット122で洗浄部104に搬送され、洗浄部104の洗浄ユニット116a,116b及び洗浄ユニット118で順次洗浄され、乾燥ユニット120で乾燥された後、第1搬送ロボット110でフロントロード部108に搭載された基板カセットに戻される。
【0089】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0090】
10 乾燥ユニット(基板処理装置)
14 基板ホルダ
16 近接板
16a 対向面
16b 側端面
18 走行体
20 駆動棒
22 モータ
24 近接板駆動部
26 近接板移動機構
28 被覆液膜
28a 水・空気界面
30 液膜(露出液膜)
32 乾燥領域
34 液体吸引ノズル
40 液体供給ノズル
50 支持体
52 ガス供給ノズル
54 素活性ガスまたはIPAガス
60 乾燥ユニット(基板処理装置)
62 セグメント
62a 対向面
62b 側端面
64 近接板
66 走行体
68 近接板移動機構
70 支持体
72 ガス供給ノズル
76 被覆液膜
76a 水・空気界面
78 乾燥領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部に疎水性を有する基板表面を乾燥させる基板処理方法であって、
基板表面と近接した位置に近接板を該基板表面に対向させて平行に配置して、基板表面と前記近接板との間に該基板表面及び該近接板にそれぞれ接する連続した被覆液膜を形成し、
前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させて前記被覆液膜の基板表面に対する位置を変更させることで、基板表面の前記近接板で覆われなくなった領域に位置していた被覆液膜を基板表面から除去することを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
前記近接板の前記基板表面と対向する対向面は、前記基板の全表面を覆うことが可能な大きさを有することを特徴とする請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記近接板の前記基板表面と対向する対向面は、親水性を有することを特徴とする請求項1または2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させつつ、該近接板の前記基板との相対移動方向後方において、前記被覆液膜の水・空気界面に向けて不活性ガスを供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させつつ、該近接板の前記基板との相対移動方向後方において、前記被覆液膜の水・空気界面に向けてイソプロピルアルコールガスを供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させつつ、前記被覆液膜を形成する液体を吸引することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記基板は、水平面に対して5°以内の角度で傾斜していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記被覆液膜を形成する液体として、酸化還元電位が−100mV(vs SHE)以下の水を使用することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記基板と前記近接板とを、1mm/sec以上、40mm/sec以下の相対移動速度で互いに平行に一方向に相対移動させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させつつ、前記基板と前記近接板と間に液体を供給することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項11】
前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させて基板の全表面から液体を除去した後、前記基板をスピンさせることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項12】
少なくとも一部に疎水性を有する基板表面を乾燥させる基板処理装置であって、
基板を保持する基板ホルダと、
前記基板ホルダで保持した基板の表面に近接した位置に該表面と対向させて平行に配置される近接板であって、基板表面と前記近接板との間に該基板表面及び該近接板にそれぞれ接する連続した被覆液膜を形成する近接板と、
前記基板ホルダで保持した基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させる移動機構を有することを特徴とする基板処理装置。
【請求項13】
前記近接板と一体に構成され、該近接板の前記基板との相対移動方向後方において、前記被覆液膜の水・空気界面に向けて不活性ガスまたはイソプロピルアルコールガスを供給するガス供給ノズルを有することを特徴とする請求項12に記載の基板処理装置。
【請求項14】
前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させつつ、前記被覆液膜を形成する液体を吸引する液体吸引ノズルを有することを特徴とする請求項12または13に記載の基板処理装置。
【請求項15】
前記基板と前記近接板とを互いに平行に一方向に相対移動させつつ、前記基板と前記近接板と間に液体を供給する液体供給ノズルを有することを特徴とする請求項12乃至14のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項16】
前記基板ホルダは、該基板ホルダで保持した基板を傾斜させる基板傾斜機構を有することを特徴とする請求項12乃至15のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項17】
前記基板ホルダは、該基板ホルダで保持した基板をスピンさせるスピン機構を有することを特徴とする請求項12乃至16のいずれかに記載の基板処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−9600(P2011−9600A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153290(P2009−153290)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】