説明

基板処理装置および基板処理方法

【課題】小型で、しかも基板表面を迅速に、かつ良好に処理することができる基板処理装置および基板処理方法を提供する。
【解決手段】処理空間162への乾燥窒素ガスの供給が2系統、つまり(1)基板Wの表面外周部から乾燥窒素ガスを供給する系統と、(2)基板Wの表面中心部から乾燥窒素ガスを供給する系統で同時に行われて処理空間162の湿度を均一に低下させることができる。また、処理空間162への乾燥窒素ガスの供給とともに処理空間162の排気を湿式処理時の排気よりも抑えているので、処理空間162の湿度を迅速に低下させることができる。そして、このようにして処理空間162の湿度を低下させた状態で乾燥処理を実行しているので、基板表面でのウォーターマーク等の発生を抑制しつつ基板を乾燥することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板の表面に処理液を供給して処理液により基板を湿式処理した後に基板を乾燥する基板処理装置および基板処理方法に関するものである。なお、処理対象となる基板には、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(電界放出ディスプレイ:Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板等が含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置などの電子部品の製造工程では、薬液による薬液処理および純水などのリンス液によるリンス処理が行われた後、基板表面に付着するリンス液を除去すべく、乾燥処理が実行される。例えば特許文献1に記載の装置は、基板を水平姿勢にて保持するベース部材と、ベース部材を回転させるモータと、ベース部材に対向して設けられた遮断部材と、遮断部材を回転させるモータと、ベース部材に保持された基板Wの周囲を取り囲むカップとを備えており、次のようにして薬液処理、リンス処理および乾燥処理を実行する。この装置では、搬送ロボットによって未処理の基板がベース部材に渡されて保持される。次に、遮断部材がベース部材に近接して基板の上方を覆うとともに、カップがベース部材および遮断部材の周囲を囲むように位置する。その後、ベース部材および遮断部材を回転しながら基板に対して薬液による薬液処理および純水によるリンス処理が行われる。そして、純水によるリンス処理が終了した後、基板をそのまま回転させ続けて基板に付着した水滴を遠心力によって振り切る(乾燥処理)。この装置では、遮断部材により基板表面を覆った状態で窒素ガスなどの不活性ガスが基板と遮断部材の間に供給され、不活性ガス雰囲気で乾燥処理が実行されるため、ウォーターマークの発生を抑制して基板処理を良好に行うことが可能となっている。
【0003】
また、ウォーターマークの発生を抑制する方法として、特許文献2や特許文献3に記載されたものがある。同文献2、3に記載の装置では、スピンチャックにウェハ(基板)が受け渡された後に、スピンチャックおよびウエハの回転を開始させ、薬液による薬液処理および純水によるリンス処理が実行される。このリンス処理後にウエハ表面にIPA(isopropyl alcohol:イソプロピルアルコール)液の液膜を形成することでウエハ表面において純水をIPA液に置換させた後に、ウエハ表面に沿って乾燥用ノズルアームをスキャンさせてウエハ乾燥を行っている。すなわち、スピンチャックに支持されたウエハの上方位置で乾燥用ノズルアームがウエハ表面に沿って往復移動自在に設けられるとともに、当該乾燥用ノズルアームの先端側に流体ノズルと不活性ガスノズルが取り付けられている。そして、乾燥処理が次のようにして実行される。流体ノズルと不活性ガスノズルがウエハの中心上方近傍に配置した状態において、流体ノズルからのIPA液の供給および不活性ガスノズルからの窒素ガスの供給を開始する。そして、スピンチャックによってウエハを回転させながら、IPA液と窒素ガスを供給しつつ、乾燥用ノズルアームを移動させる。これにより、流体ノズルと不活性ガスノズルが乾燥用ノズルアームと一体的に移動してウエハの中心から周縁までの間をスキャンする。このように、ウエハ表面全体にIPA液と窒素ガスを供給して基板乾燥を行っている。
【0004】
上記した従来技術では、基板表面に接する処理空間に不活性ガス雰囲気を形成して乾燥性能を高めているが、不活性ガス雰囲気を形成する方法として、上記した遮断部材を利用した方法(特許文献1)やノズルスキャン(特許文献2、3)以外に、特許文献4に記載された方法がある。この特許文献4では、スピンチャックに載置されるウエハの表面より高い位置で、かつ、上記ウエハの周縁より外側にガス供給パイプが配置されており、当該ガス供給パイプのガス噴出口から不活性ガスがウエハ表面に対して平行に噴出される。また、吸気ダクトがウエハを挟んでガス供給パイプと対向する状態に配置されており、ガス噴出口から噴出されたガスが吸気ダクトの吸気口を介して排気される。このため、ウエハ表面の上方において、ウエハ表面に対して所定間隔を保って平行にガス気流が形成される。
【0005】
【特許文献1】特許第3474055号公報(図1)
【特許文献2】特開2007−36180号公報(図1、図3)
【特許文献3】特開2007−263485号公報(図1、図6)
【特許文献4】特開平6−275506号公報(段落0014、図1、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明では、遮断部材を基板に近接させた状態のままベース部材および遮断部材が回転して基板の乾燥処理を行っているため、遮断部材の駆動用モータや該モータの駆動力を伝達させる駆動力伝達機構などが必要となり、これが基板処理装置の製造コストの増大要因のひとつとなっていた。また、上記基板処理装置を装備する基板処理システムのプットプリントを低減させるために、基板処理装置の積層配置が提案されているが、遮断部材の駆動用モータや駆動力伝達機構の存在がそれを阻害する要因のひとつとなっていた。というのも、遮断部材の駆動用モータや駆動力伝達機構は遮断部材の上方位置に配設せざるを得ず、その分だけ装置が上下方向に大型化する傾向にあったためである。そこで、遮断部材を回転させることなく基板処理を行うことも検討されている。しかしながら、遮断部材を静止したまま基板処理すると、基板表面にウォーターマーク等が発生してしまい、基板を良好に処理することができなかった。
【0007】
また、遮断部材を用いない方法、つまり特許文献2〜4に記載の発明では、上下方向における装置サイズを小型化することができるが、基板表面に接する処理空間に低湿度の不活性ガス雰囲気を良好に、かつ迅速に形成することが難しく、基板表面の全体を良好に乾燥させることが困難である。すなわち、特許文献2、3に記載の発明では、ノズルをスキャンさせているため、処理空間全体を低湿度状態に維持して乾燥性能を向上させるためにはノズルの移動速度およびウエハ(基板)回転数を高度に制御する必要があり、制御性の面で問題があった。また、ノズルをウエハの中心から周縁にスキャンさせるため、処理空間のうちウエハ表面の外周部に接する部分での湿度が中心部の湿度に比べて高くなる傾向にあり、外周部に乾燥不良が残りやすかった。また、特許文献4に記載の発明では、ガス供給パイプのガス噴出口から不活性ガスを噴出する一方、そのガスを吸気ダクトの吸気口を介して排気して処理空間にガス気流を形成しているに過ぎない。したがって、処理空間の湿度を速やかに低下させることは難しく、乾燥処理に長時間を要してしまうという問題があった。
【0008】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、小型で、しかも基板表面を迅速に、かつ良好に処理することができる基板処理装置および基板処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明にかかる基板処理装置は、基板の表面に処理液を供給して該基板表面に対して所定の湿式処理を施した後に、基板を乾燥させる基板処理装置であって、上記目的を達成するため、基板を略水平姿勢で保持する基板保持手段と、基板保持手段に保持された基板の表面外周部に乾燥気体を供給する第1気体供給手段と、基板保持手段に保持された基板の表面中央部に乾燥気体を供給する第2気体供給手段と、基板表面に接する処理空間を排気する排気手段と、処理空間の排気を調整する排気調整手段とを備え、第1気体供給手段から基板の表面外周部に乾燥気体を供給するとともに第2気体供給手段から基板の表面中央部に乾燥気体を供給しながら排気調整手段が処理空間の排気を湿式処理時よりも抑えることによって、処理空間の湿度を低下させた状態で基板を乾燥させることを特徴としている。
【0010】
また、この発明にかかる基板処理方法は、上記目的を達成するため、基板の表面に処理液を供給して該基板表面に対して所定の湿式処理を施す湿式工程と、湿式工程後の基板の表面外周部および表面中央部の各々に乾燥気体を供給するとともに処理空間の排気を湿式処理時よりも抑えて処理空間内の湿度を低下させる湿度低下工程と、湿度低下工程後に基板を乾燥させる乾燥工程とを備えたことを特徴としている。
【0011】
このように構成された発明(基板処理装置および基板処理方法)では、湿式処理を受けた基板の表面外周部に乾燥気体が供給されるとともに同基板の表面中央部に乾燥気体が供給されて基板表面に接する処理空間全体に乾燥気体が満たされて処理空間の湿度が均一に低下する。しかも、本発明では、乾燥気体の供給とともに処理空間の排気が湿式処理時の排気よりも抑えられているため、処理空間全体に乾燥気体が効率的に貯まって、処理空間の湿度が迅速に低下する。そして、このようにして処理空間の湿度を低下させた状態で乾燥処理が実行される。その結果、基板表面でのウォーターマーク等の発生が抑制されつつ基板が乾燥される。
【0012】
ここで、処理液よりも表面張力が低い低表面張力溶剤を基板の表面に供給して基板表面上の処理液を低表面張力溶剤に置換する溶剤供給手段を設け、低表面張力溶剤への置換後に、低表面張力溶剤を基板表面から除去して基板表面を乾燥させるように構成してもよい。このように低表面張力溶剤を用いることによって乾燥性能を高めることができる。このようにして基板表面上の処理液を低表面張力溶剤に置換する場合には後述するように低表面張力液の乾燥時に発生する気化熱に起因して乾燥不良を起こしやすくなるが、湿式処理後かつ低表面張力溶剤への置換前に第1気体供給手段からの乾燥気体の供給を開始することで当該置換を行っている間に乾燥不良が発生するのを防止することができる。そして、当該置換の完了後かつ乾燥処理前に第2気体供給手段からの乾燥気体の供給を開始することで乾燥不良を効果的に抑制することができる。
【0013】
また、排気管を介して処理空間を排気する場合には、排気調整手段を次のように構成してもよい。すなわち、排気調整手段が排気管よりも細い口径を有するとともに排気管から分岐して再び排気管に連通されたバイパス配管と、バイパス配管が排気管から分岐する分岐位置とバイパス配管が排気管に連通する連通位置との間で排気管に介挿された開閉弁とを備えるように構成してもよい。そして、そして、湿式処理時には開閉弁を開くことで比較的大きな排気量で処理空間を排気することができ、湿式処理時に処理空間内で発生する処理液雰囲気が効率よく処理空間から排出される。一方、湿度低下処理時には開閉弁を閉じて処理空間の排気量を湿式処理時よりも抑えることで処理空間の湿度を短時間で低下させることができる。
【0014】
また、湿式処理を開始する時点での装置内部の湿度が比較的高い場合には、処理空間への乾燥気体の供給によっても当該処理空間の湿度が十分に低下せず、所望の乾燥性能が得られないことがある。これに対応すべく、装置内部の湿度に基づき湿式処理の開始を制御してもよい。すなわち、装置内部の湿度を検出する第1湿度検出手段を設け、当該第1湿度検出手段により検出される、湿式処理の開始前における初期湿度が第1規定湿度を超えている場合には、湿式処理の開始を規制してもよい。
【0015】
また、処理空間への乾燥気体の供給によっても当該処理空間の湿度が十分に低下しない場合には、乾燥処理を規制するのが望ましい。すなわち、処理空間の湿度を検出する第2湿度検出手段を設け、当該第2湿度検出手段により検出される、乾燥処理の開始前における処理空間の湿度が第2規定湿度を超えている場合には、乾燥処理の開始を規制してもよい。
【0016】
また、湿式処理から乾燥処理までの基板処理を良好に行うために、ファンフィルタユニットからクリーンエアを基板保持手段に保持された基板に向けて送り込むように構成してもよく、この場合、乾燥気体については、クリーンエアよりも低湿度のものを用いるのが望ましい。
【0017】
また、このようにファンフィルタユニットからクリーンエアを送り込む場合、当該クリーンエアの風量を調整する風量調整手段を設けるとともに、風量調整手段により湿式処理後かつ乾燥処理前にクリーンエアの風量を湿式処理時の風量よりも抑えるのが望ましく、この風量調整によって処理空間の湿度を効果的に低下させることができる。
【0018】
さらに、上記したように湿式処理を開始する時点での装置内部の湿度が比較的高い場合があるが、クリーンエアの湿度を調整して装置内部の湿度を低下させてもよい。すなわち、クリーンエアの湿度を調整する調湿機構を設けるとともに、装置内部の湿度を検出する第1湿度検出手段を設け、第1湿度検出手段により検出される、湿式処理の開始前における初期湿度が第1規定湿度を超えている場合には、調湿機構によりクリーンエアの湿度を低下させるように構成してもよく、これによって初期湿度を第1規定湿度以下に抑えて基板乾燥を良好に行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、湿式処理を受けた基板の表面外周部に乾燥気体を供給するとともに同基板の表面中央部に乾燥気体を供給しながら、基板表面と接する処理空間の排気を湿式処理時の排気よりも抑えることで、処理空間の湿度を迅速に低下させ、その低湿度状態で乾燥処理を実行しているため、基板表面を迅速に、かつ良好に処理することができる。また、遮断部材を回転させる必要がなくなり、上下方向における装置サイズを小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は本発明を好適に適用することのできる基板処理システムを示す図である。より詳しくは、図1(a)は基板処理システムの上面図であり、図1(b)は基板処理システムの側面図である。この基板処理システムは、半導体ウエハ等の円盤状の基板Wに対して処理液や処理ガスなどによる処理を施すための枚葉式の基板処理装置としての処理ユニットを複数備える処理システムである。この基板処理システムは、基板Wに対して処理を施す基板処理部PPと、この基板処理部PPに結合されたインデクサ部IDと、処理流体(液体または気体)の供給/排出のための構成を収容した処理流体ボックス11、12とを備えている。
【0021】
インデクサ部IDは、基板Wを収容するためのカセットC(複数の基板Wを密閉した状態で収容するFOUP(Front Opening Unified Pod)、SMIF(Standard
Mechanical Interface)ポッド、OC(Open Cassette)など)を複数個保持することができるカセット保持部21と、このカセット保持部21に保持されたカセットCにアクセスして、未処理の基板WをカセットCから取り出したり、処理済の基板をカセットCに収納したりするためのインデクサロボット22とを備えている。
【0022】
各カセットCには、複数枚の基板Wが「ロット」という一単位で収容されている。複数枚の基板Wはロット単位で種々の基板処理装置の間に搬送され、各基板処理装置でロットを構成する各基板Wに対して同一種類の処理が施される。各カセットCは、複数枚の基板Wを微小な間隔をあけて上下方向に積層して保持するための複数段の棚(図示省略)を備えており、各段の棚に1枚ずつ基板Wを保持することができるようになっている。各段の棚は、基板Wの下面の周縁部に接触し、基板Wを下方から保持する構成となっており、基板Wは表面(パターン形成面)を上方に向け、裏面を下方に向けたほぼ水平な姿勢でカセットCに収容されている。
【0023】
基板処理部PPは、平面視においてほぼ中央に配置された基板搬送ロボット(基板搬送装置)13と、この基板搬送ロボット13が取付けられたフレーム30とを有している。このフレーム30には、図1(a)に示すように、水平方向に複数個(この実施形態では4個)の処理ユニット1A、2A、3A、4Aが基板搬送ロボット13を取り囲むように搭載されている。この実施形態では、処理ユニット1A〜4Aとして例えば半導体ウエハのようなほぼ円形の基板Wに対して所定の処理を施す処理ユニットがフレーム30に搭載されている。また、図1(b)に示すように、各処理ユニットの下段にはそれぞれもう1つの処理ユニットが設置されている。すなわち、処理ユニット1A〜4Aの下段に、処理ユニット1B〜4Bがそれぞれ設けられており、上下2段の積層構造が採用されている。
【0024】
基板搬送ロボット13は、インデクサロボット22から未処理の基板Wを受け取ることができ、かつ処理済の基板Wをインデクサロボット22に受け渡すことができる。より具体的には、例えば、基板搬送ロボット13は、当該基板処理部PPのフレーム30に固定された基台部と、この基台部に対して昇降可能に取付けられた昇降ベースと、この昇降ベースに対して鉛直軸回りの回転が可能であるように取付けられた回転ベースと、この回転ベースに取付けられた一対のハンドとを備えている。一対の基板保持ハンドは、それぞれ、上記回転ベースの回転軸線に対して近接/離間する方向に進退可能に構成されている。このような構成により、基板搬送ロボット13は、インデクサロボット22および処理ユニット1A〜4A、1B〜4Bのいずれかに対して基板保持ハンドを向け、その状態で基板保持ハンドを進退させることができ、これによって、基板Wの受け渡しを行うことができる。
【0025】
インデクサロボット22は、装置全体を制御する制御部により指定されたカセットCから未処理の基板Wを取り出して基板搬送ロボット13に受け渡すとともに、基板搬送ロボット13から処理済の基板Wを受け取ってカセットCに収容する。処理済の基板Wは、当該基板Wが未処理の状態のときに収容されていたカセットCに収容されてもよい。また、未処理の基板Wを収容するカセットCと処理済の基板Wを収容するカセットCとを分けておいて、未処理の状態のときに収容されていたカセットCとは別のカセットCに処理済の基板Wが収容されるように構成してもよい。
【0026】
次に、上記した基板処理システムに搭載される処理ユニットの実施形態について説明する。なお、図1の基板処理システムでは、8個の処理ユニットが搭載されているが、これらの処理ユニットはいずれも以下に説明する処理ユニット100と同一の構造とすることができる。
【0027】
<第1実施形態>
図2は本発明にかかる基板処理装置としての処理ユニットの第1実施形態を示す図であり、同図(a)は第1気体供給ノズルを下方から見た底面図であり、同図(b)は処理ユニットの構成を示す模式図である。また、図3は図2の処理ユニットを制御する電気的構成を示すブロック図である。この処理ユニット100は、半導体ウエハ等の基板Wの表面に付着している不要物を除去するための洗浄処理に用いられる枚葉式の処理ユニットである。より具体的には、基板表面に対してフッ酸などの薬液による薬液処理および純水やDIW(脱イオン水:deionized water)などのリンス液によるリンス処理を施し、さらに基板W上のリンス液をIPA液で置換した後に、基板Wを乾燥させる装置である。
【0028】
この処理ユニット100では、処理チャンバー102の天井部分にファンフィルタユニット(FFU)104が配置されている。このファンフィルタユニット104はファン104aおよびフィルタ104bを有しており、ファン104aによって外部から取り込んだ空気をフィルタ104bで清浄にしてクリーンエアを処理チャンバー102の中央空間に送り込む。この中央空間にはスピンチャック106が配置されている。このスピンチャック106は基板表面を上方に向けた状態で基板Wを略水平姿勢に保持して回転させるものである。また、このスピンチャック106では、回転支軸108がモータを含むチャック回転機構110の回転軸に連結されており、チャック回転機構110の駆動によりスピンチャック106が回転軸(鉛直軸)回りに回転可能となっている。これら回転支軸108およびチャック回転機構110は、円筒状のケーシング114内に収容されている。また、回転支軸108の上端部には、円盤状のスピンベース116が一体的にネジなどの締結部品によって連結されている。したがって、処理ユニット全体を制御するユニット制御部118からの動作指令に応じてチャック回転機構110を駆動させることによりスピンベース116が回転軸回りに回転する。また、ユニット制御部118はチャック回転機構110を制御してスピンベース116の回転速度を調整する。
【0029】
スピンベース116の周縁部付近には、基板Wの周縁部を把持するための複数個のチャックピン120が立設されている。チャックピン120は、円形の基板Wを確実に保持するために3個以上設けてあればよく、スピンベース116の周縁部に沿って等角度間隔で配置されている。チャックピン120のそれぞれは、基板Wの周縁部を下方から支持する基板支持部と、基板支持部に支持された基板Wの外周端面を押圧して基板Wを保持する基板保持部とを備えている。また、各チャックピン120は、基板保持部が基板Wの外周端面を押圧する押圧状態と、基板保持部が基板Wの外周端面から離れる解放状態との間を切り替え可能に構成されている。
【0030】
スピンベース116に対して基板Wが受渡しされる際には、複数個のチャックピン120を解放状態とし、後述する基板処理を基板Wに対して行う際には、複数個のチャックピン120を押圧状態とする。このように押圧状態とすることによって、複数個のチャックピン120は基板Wの周縁部を把持してその基板Wをスピンベース116から所定間隔を隔てて略水平姿勢に保持することができる。これにより、基板Wはその表面を上方に向け、裏面を下方に向けた状態で支持される。なお、基板保持機構としてはチャックピン120に限らず、基板裏面を吸引して基板Wを支持する真空チャックを用いてもよい。
【0031】
スピンチャック106により保持された基板Wの上方位置には、2種類のノズルアーム122、124が水平面内で揺動自在に設けられている。一方のノズルアーム122の先端部に薬液供給ノズル126とリンス液供給ノズル128が取り付けられている。また、他方のノズルアーム124の先端部にIPA液供給ノズル130と第2気体供給ノズル132が取り付けられている。
【0032】
これら4つのノズルのうち薬液供給ノズル126は薬液供給ユニット134(図3)と接続されている。この薬液供給ユニット134はフッ酸またはBHF(Buffered Hydrofluoric acid:バッファードフッ酸)などの基板洗浄に適した薬液をノズル126側に供給可能となっている。そして、ユニット制御部118からの指令に応じて薬液供給ユニット134が薬液供給ノズル126に向けて薬液を圧送すると、ノズル126から薬液が基板Wに向けて吐出される。また、薬液供給ノズル126と同様に、リンス液供給ノズル128にもリンス液供給ユニット136(図3)が接続されており、薬液処理された基板Wに向けてリンス液を吐出させてリンス処理を実行可能となっている。そして、これらのノズル126、128が取り付けられたノズルアーム122にはノズルアーム移動機構138が接続されており、ユニット制御部118からの動作指令に応じてノズルアーム移動機構138が駆動されることで、基板Wの表面上方の吐出領域と吐出領域から側方に退避した待機位置との間でノズル126、128は移動可能となっている。さらに、吐出領域においても、ノズルアーム移動機構138によりノズル126、128は基板表面の中央部上方と周縁部上方との間を往復移動可能となっている。
【0033】
また、IPA液供給ノズル130はIPA液供給ユニット140(図3)と接続されている。このIPA液供給ユニット140は100%IPA液あるいは純水で希釈したIPA液をノズル130側に供給可能となっている。そして、ユニット制御部118からの指令に応じてIPA液供給ユニット140がIPA液供給ノズル130に向けてIPA液を圧送すると、ノズル130からIPA液が基板Wに向けて吐出される。このようにIPA液供給ノズル130が本発明の「溶剤供給手段」として機能しており、薬液やリンス液よりも表面張力が低い低表面張力溶剤としてIPA液を基板Wの表面中央部に供給可能となっている。また、IPA液供給ノズル130と同様に、第2気体供給ノズル132に乾燥気体供給ユニット142(図3)が接続されており、乾燥窒素ガス(クリーンエアよりも低湿度、例えば相対湿度10%の窒素ガス)を基板Wに向けて吐出可能となっている。そして、これらのノズル130、132が取り付けられたノズルアーム124にはノズルアーム移動機構144が接続されており、ユニット制御部118からの動作指令に応じてノズルアーム移動機構144が駆動されることで、基板Wの表面上方の吐出領域と吐出領域から側方に退避した待機位置との間でノズル130、132は移動可能となっている。
【0034】
なお、この実施形態では、回転支軸108は中空管構造を有しており、リンス液供給ユニット136からリンス液が供給されて回転支軸108の内部空間に配置されたノズルの上端部に形成されたノズル孔(図示省略)からリンス液を基板裏面に向けて吐出することが可能となっている。
【0035】
ケーシング114の周囲には、受け部材146が固定的に取り付けられている。この受け部材146には、円筒状の仕切り部材が3個立設されている。そして、これらの仕切り部材とケーシング114の組み合わせにより3つの空間が排液槽148a〜148cとして形成されている。また、これらの排液槽148a〜148cの上方にはスプラッシュガード(カップ)150がスピンチャック106に水平姿勢で保持されている基板Wの周囲を包囲するようにスピンチャック106の回転軸に沿って昇降自在に設けられている。このスプラッシュガード150は回転軸に対して略回転対称な形状を有しており、スピンチャック106と同心円状に径方向内側から外側に向かって配置された2つのガードを備えている。そして、ガード昇降機構152の駆動によりスプラッシュガード150を段階的に昇降させることで、回転する基板Wから飛散する薬液やリンス液などを分別して排液させることが可能となっている。
【0036】
また、排液槽148aには、図2(b)に示すように排気管160の一方端が接続されている。この排気管160の他方端は図示を省略する排気装置に接続されている。このため、排気管160を介して排液槽148aおよび処理空間162を排気可能となっている。しかも、この実施形態では、排気管160に排気調整機構164が介挿されており、ユニット制御部118からの指令に応じて排気調整機構164が処理空間162からの排気量を調整可能となっている。このように、本実施形態では排気管160が本発明の「排気手段」として機能している。ここで、排気装置として、図1の基板処理システムを設置する工場の用力を用いてもよいし、また同システム内に真空ポンプや排気ポンプなどの排気ユニットを設けてもよい。いずれの排気装置を用いた場合であっても、排気管160を介して処理空間162を確実に排気可能となっている。なお、上記した処理空間162とは、スプラッシュガード150がスピンチャック106に保持された基板Wの周囲を取り囲むことで形成される空間内で基板表面と接した空間であり、当該処理空間162で薬液処理、リンス処理、置換処理および乾燥処理が実行される。
【0037】
この処理空間162の上方近傍に第1気体供給ノズル170が配置されている。この第1気体供給ノズル170は、図2に示すように、スプラッシュガード150の上端開口部150aよりも大きな外径を有するリング形状を有しており、リング内径は上端開口部150aとほぼ同一径となっている。そして、乾燥気体供給ユニット142から供給チューブ172を介して乾燥窒素ガスが第1気体供給ノズル170に圧送されると、そのリング内周面からリング中心に向けて乾燥窒素ガスが吐出されて基板Wの表面外周部に供給される。
【0038】
図4は第1気体供給ノズルの部分断面図であり、図2(a)のA−A線断面を示している。また、図5は第1気体供給ノズルの主要構成部材を示す図であり、同図(a)はカバー部材の底面図であり、同図(b)はベース部材の平面図である。第1気体供給ノズル170はベース部材174とカバー部材176を有している。このベース部材174では、リング形状を有するリング部位174aとリング部位174aを支持する3本の支持部位174bが一体的に形成されており、支持部位174bを装置本体(図示省略)に固定することによってベース部材174が図2に示すように処理空間162の上方近傍に配置される。リング部位174aの上面174cはリング状平面となっており、当該リング状上面174cに対してリング状の溝部174dが複数個形成されている。また、当該リング状平面には、リング状の溝部174dの外周側で複数のネジ孔174eがリング状に配置されるとともに、同内周側で複数のネジ孔174fがリング状に配置されている。
【0039】
一方、カバー部材176はリング部位174aの上面(リング状上面174c)と対向し、しかも同上面と同一形状を有するリング状平面176cを有している。このリング状平面176cにも、リング部位174aの上面と同様に、上記溝部174dと同一のリング状の溝部176dが形成されている。また、このリング状の溝部176dに対して4本の連通部176aが接続されている。これらの連通部176aは等角度間隔(この実施形態では90゜間隔)でリング状平面176cに設けられている。各連通部176aでは、その一方端は図4に示すようにリング状の溝部176dに接続される一方、他方端はリング状平面176cの外周側面で開口し、連通部176aの他方端に対して供給チューブ172が挿入されている。
【0040】
また、カバー部材176には、ネジ孔174eに対応する位置にネジ挿通孔176eが設けられている。つまり、図5(a)に示すように、リング状平面176cではリング状の溝部176dの外周側で複数のネジ挿通孔176eがリング状に配置されている。また、ネジ孔174fに対応する位置にネジ挿通孔176fが設けられている。つまり、図5(a)に示すように、リング状平面176cではリング状の溝部176dの内周側で複数のネジ挿通孔176fがリング状に配置されている。さらに、リング状平面176cのうちリング状の溝部176dに対して内周側に位置するリング状表面領域に対して複数の凹部176gが設けられている。各凹部176gでは、その一方端が図5(a)に示すように溝部176dに接続されるとともに他方端部がカバー部材176の径方向(スピンチャックの回転軸に向かう方向)に延設されている。
【0041】
そして、ネジ孔174e、174fとネジ挿通孔176e、176fがそれぞれ対応した状態でリング状上面174cおよびリング状平面176cを相互に密着させるとともに、ネジ挿通孔176e、176fにネジ178を挿通し、さらにネジ178の先端部をネジ孔174e、174fに螺合させてベース部材174とカバー部材176を一体化することによって、第1気体供給ノズル170が構成されている。こうして形成された第1気体供給ノズル170では、図4に示すように、リング状の溝部174dと、カバー部材176側の溝部176dが対向した状態で接続されてリング状のバッファ空間180が形成される。このため、乾燥気体供給ユニット142から供給チューブ172を介して乾燥窒素ガスが第1気体供給ノズル170に圧送されると、乾燥窒素ガスはリング状バッファ空間180で一時的に蓄えられた後で凹部176gとベース部材174側のリング状上面174cで挟まれたスリット空間を介してリング内周面からリング中心に向けて吐出される。したがって、基板Wの外周全体にわたって乾燥窒素ガスが均一に基板Wの表面外周部に供給される。
【0042】
なお、この実施形態にかかる基板処理装置では、装置内部および処理空間162の湿度を検出するための湿度センサ182が設けられている。この湿度センサ182は、次に説明する薬液処理やリンス処理(湿式処理)を行っている間においては処理空間162から上方に離れた退避位置に退避して装置内部の湿度を検出する一方、リンス処理完了後に処理空間162あるいは近傍に移動して乾燥処理直前まで処理空間162の湿度を検出する。そして、乾燥処理を行う前に再び退避位置に退避している。このように、本実施形態では、湿度センサ182が本発明の「第1湿度検出手段」および「第2湿度検出手段」の機能を兼ね備えているが、装置内部の湿度を検出する湿度センサと、処理空間162の湿度を検出する湿度センサを個別に設けてもよいことは言うまでもない。
【0043】
次に、上記のように構成された処理ユニット(基板処理装置)100の動作について図6および図7を参照しつつ詳述する。この実施形態では、ユニット制御部118がメモリ(図示省略)に記憶されているプログラムにしたがって装置各部を制御して基板Wに対して薬液処理、リンス処理、置換処理および乾燥処理を施す。これらのうち薬液処理およびリンス処理が本発明の「湿式処理」に相当しており、薬液処理ではフッ酸などの薬液が本発明の「処理液」として、またリンス処理ではDIWなどのリンス液が本発明の「処理液」として用いられる。
【0044】
ユニット制御部118はガード昇降機構152を制御してスプラッシュガード150を降下させてスピンチャック106をスプラッシュガード150の開口部150aから突出させる。このとき、第1気体供給ノズル170からの乾燥窒素ガスの供給は停止されている。また、全ノズル126、128、130、132ともスプラッシュガード150の外側に退避している。そして、この状態で基板搬送ロボット13により未処理の基板Wが処理チャンバー102内に搬入される。より具体的には、基板表面を上方に向けた状態で基板Wが装置内に搬入され、スピンチャック106に保持される。これに続いて、スプラッシュガード150が1段階上昇されるとともに基板Wに対して薬液処理が開始される(図6(a))。
【0045】
薬液処理では、薬液供給ノズル126が基板表面の中央部上方に位置するようにノズルアーム移動機構138がノズルアーム122を移動させるとともに、チャック回転機構110の駆動によりスピンチャック106に保持された基板Wを200〜1200rpmの範囲内で定められる回転速度(例えば800rpm)で回転させる。また、薬液供給ユニット134がフッ酸を薬液として薬液供給ノズル126に向けて圧送して当該ノズル126から基板表面に供給する。こうして基板表面の中央部に供給されたフッ酸は遠心力により径方向に広げられ、フッ酸による基板表面のエッチング処理(薬液処理)が実行される。
【0046】
薬液処理が完了すると、リンス液供給ノズル128が薬液供給ノズル126と入れ替わって基板表面の中央部上方に位置するようにノズルアーム移動機構138がノズルアーム122を移動させる。そして、リンス液供給ノズル128からリンス液が吐出される。また、回転支軸108の上端部に形成されたノズル孔(図示省略)からリンス液が基板裏面に向けて吐出される。こうして基板表裏面に吐出されたリンス液は基板Wの回転の遠心力によって基板Wの表裏全面に拡がり、リンス液によるリンス処理が行われる。なお、この実施形態では、リンス処理の最終時点では、基板Wの回転速度は300rpmに減速されている。
【0047】
リンス処理が終了すると、次にパドル形成処理が実行される。すなわち、ユニット制御部118は、リンス処理の終了後に、基板Wの回転速度をリンス処理時の回転速度よりも遅い回転速度(この実施形態では5rpm)に減速する。これによって、リンス液供給ノズル128から吐出されるリンス液が基板表面に溜められてリンス液膜がパドル状に形成される(パドル形成処理)。なお、パドル形成処理時の回転速度は5rpmに限定されるものではないが、リンス液に作用する遠心力がリンス液と基板表面との間で作用する表面張力よりも小さくなるという条件が満足する範囲で回転速度を設定する必要がある。というのも、リンス液の液膜をパドル状に形成するためには、上記条件の充足が必須だからである。
【0048】
こうしてパドル形成が完了すると、ノズルアーム移動機構138がノズルアーム122を基板Wから離間移動させて両ノズル126、128をスプラッシュガード150の外側に退避させた後、図示を省略する開閉弁を制御して乾燥気体供給ユニット142から第1気体供給ノズル170に対して乾燥窒素ガスを圧送させて第1気体供給ノズル170から乾燥窒素ガスを基板Wの表面外周部に供給する(同図(c))。また、乾燥窒素ガスの供給と同時あるいは前後して、ユニット制御部118は排気調整機構164を制御して処理空間162からの排気を抑えており(この実施形態では、−20Pa)、これらの設定により処理空間162内の湿度を効果的に低下させることができる。この実施形態では、乾燥窒素ガスとして相対湿度10%以下の窒素ガスを用いているため、処理空間162の湿度を当該乾燥窒素ガスの相対湿度と同程度にまで低下させることができる。
【0049】
それに続いて、基板Wの外周部側より乾燥窒素ガスを供給した状態のまま、置換処理、湿度低下処理および乾燥処理を連続して行う。すなわち、第2気体供給ノズル132が基板表面の中央部上方に位置するようにノズルアーム移動機構144がノズルアーム124を移動させる。これにより、IPA液供給ノズル130も第2気体供給ノズル132に並んで基板表面の中央部上方に位置する。なお、この実施形態では、後述する乾燥処理で基板表面の中央部を確実に乾燥させるために、第2気体供給ノズル132が回転軸上に位置させている。
【0050】
そして、IPA液供給ユニット140からIPA液が圧送されてIPA液供給ノズル130から基板Wの表面中央部に向けてIPA液が供給される(図7(a))。また、この実施形態では、置換処理の進行に伴って基板Wの回転速度を変化させている。つまり、IPA液供給の初期段階では、基板Wの表面中央部ではリンス液膜の中央部がIPA液に置換されて置換領域が液膜に形成される。このときの回転速度はパドル形成処理と同程度(この実施形態では10rpm)に設定されている。そして、IPA液供給から所定時間、例えば2.5秒が経過すると、IPA液供給を継続させたまま基板Wの回転速度を10rpmから100rpmに加速する。このように回転速度の加速によって基板表面上の液膜(リンス液領域+IPA液領域(置換領域))に作用する遠心力が増大してリンス液が振り切られるとともに置換領域が径方向に広がっていく。このとき、基板表面上の液膜厚みは回転速度に対応する厚みになるように薄くなり、所定時間(この実施形態では1秒)経過すると、基板Wの表面外周部に存在していたリンス液は全て基板Wから振り落とされるとともに、置換領域が基板表面の全面に均一に広がって基板表面はIPA液膜で全面的に覆われる。さらに、ユニット制御部118は0.5秒をかけて基板Wの回転速度を100rpmから300rpmに加速する。これは基板表面に形成された微細パターン(図示省略)の間隙内部に残留しているリンス液をIPA液に置換するために行われるものである。つまり、回転速度の加速によってIPA液が基板表面で大きく流動し、これによって微細パターンの間隙内部では残留リンス液がIPA液に置換される。これによって、基板表面に付着するリンス液がIPA液に確実に置換される。
【0051】
こうして、置換処理が完了すると、ユニット制御部118はIPA液の供給を停止した後に、置換処理での最終回転速度で基板Wを回転させるとともに排気を(−20Pa)に抑えた状態のまま、図示を省略する開閉弁を制御して乾燥気体供給ユニット142から第2気体供給ノズル132に対して乾燥窒素ガスを圧送させる。これによって、第2気体供給ノズル132を基板Wの表面中央部に対向させたまま第2気体供給ノズル132から乾燥窒素ガスが基板Wの表面中央部に供給される(同図(b))。このように基板Wの表面外周部のみならず表面中央部にも乾燥窒素ガスが供給されて処理空間162の湿度が効果的に低下する(湿度低下処理)。これによって、乾燥窒素ガスの相対湿度程度まで処理空間162の湿度を低下させることができる。なお、この湿度低下処理後、基板Wが300〜2500rpmで高速回転されて基板Wの乾燥処理が実行される(同図(c))。
【0052】
基板Wの乾燥処理が終了すると、ユニット制御部118はチャック回転機構110を制御して基板Wの回転を停止させる。そして、乾燥窒素ガスの供給を停止するとともに、ノズルアーム移動機構144がノズルアーム124を基板Wから離間移動させて両ノズル130、132をスプラッシュガード150の外側に退避させた後、スプラッシュガード150を降下させて、スピンチャック106をスプラッシュガード150の上方から突出させる。その後、基板搬送ロボット13が処理済の基板Wを処理ユニット100から搬出して、1枚の基板Wに対する一連の基板処理が終了する。そして、次の基板Wについても、上記と同様の処理が実行される。
【0053】
以上のように、この実施形態によれば、処理空間162への乾燥窒素ガスの供給が2系統、つまり(1)基板Wの表面外周部から乾燥窒素ガスを供給する系統と、(2)基板Wの表面中心部から乾燥窒素ガスを供給する系統で同時に行われて処理空間162の湿度を均一に低下させることができる。また、処理空間162への乾燥窒素ガスの供給とともに処理空間162の排気を湿式処理時の排気よりも抑えているので、処理空間162の湿度を迅速に低下させることができる。そして、このようにして処理空間162の湿度を低下させた状態で乾燥処理を実行しているので、基板表面でのウォーターマーク等の発生を抑制しつつ基板を乾燥することができる。
【0054】
このように処理空間162への乾燥窒素ガスの供給を2系統(外周部供給+中心部供給)で行うことの効果については、次の実験結果からも明らかである。以下、図8を参照しつつ実験内容および実験結果について詳述する。
【0055】
ここでは、上記のように構成された基板処理装置を用いてシリコンウエハ(基板)Wに対して一連の基板処理を行った。つまり、基板Wを800rpmで回転させながら、基板表面に薬液としてフッ酸を供給して薬液処理を施す。この薬液処理が終了すると、基板回転を同一回転速度で継続させたままリンス液としてDIWを基板表面に供給してリンス処理を実行する。このリンス処理後、基板Wの回転速度を5rpmに減速してパドル状DIW液膜の膜厚が基板Wの全面でほぼ均一になるのを待ってIPA液を用いた置換処理を行う。この置換処理では、上記したように基板Wの回転速度を10→100rpm→300rpmと徐々に加速して基板表面に付着するDIWをIPA液に置換する。この後、湿度低下処理を互いに異なる3種類の供給態様(1)〜(3)で実行し、さらにスピン乾燥を行った。なお、湿度低下処理では、乾燥窒素ガスの供給とともに排気を−20Paに設定している。
(1)外周部供給+中心部供給(図8の上段)
ノズル170からのガス供給流量=225(リッター/分)
ノズル132からのガス供給流量=60(リッター/分)
スピン乾燥時での基板の回転速度=800rpm
(2)外周部供給のみ(図8の中段)
ノズル170からのガス供給流量=240(リッター/分)
ノズル132からのガス供給流量=0(リッター/分)
スピン乾燥時での基板の回転速度=800rpm
(3)中心部供給のみ(図8の下段)
ノズル170からのガス供給流量=0(リッター/分)
ノズル132からのガス供給流量=60(リッター/分)
スピン乾燥時での基板の回転速度=800rpm
【0056】
そして、各基板Wについて、処理前と処理後の基板表面をKLA−Tencor社製のパーティクル評価装置SP1−TBIを用いてモニターしたところ、図8中の写真に示すパーティクル分布が観測された。なお、同図において、白丸ラインは基板Wの周端部を示すとともに、白点は基板表面に付着するパーティクルを示している。これらの実験結果から、乾燥を行う前に処理空間162の湿度を十分に低減させて基板乾燥を良好に行うためには、基板表面の外周部と中心部の両方に乾燥窒素ガスを供給することが重要であることがわかる。
【0057】
また、上記実施形態では、基板Wの表面外周部へのガス供給を開始し、さらに置換処理の完了後に基板Wの表面中心部へのガス供給を開始している。処理空間162への乾燥窒素ガスの供給開始順序を上記のように設定したことにより、次の作用効果が得られる。
【0058】
第2気体供給ノズル132から基板Wの表面中心部に乾燥窒素ガスを供給する場合、当該ノズル132を基板表面に近接させるほど処理空間162内での湿度低下範囲を広げることができる。その一方で、当該ノズル132を基板表面に近接させてしまうと、ノズル132から吐出された乾燥窒素ガスにより基板表面の中心部から乾燥が始まってしまい、基板表面の外周部で湿度が十分に下がっていないまま乾燥処理が進行して表面外周部での乾燥不良が発生してしまう可能性がある。これに対し、基板Wの表面中心部へのガス供給を開始する前に基板Wの表面外周部へのガス供給を開始して表面外周部の近傍での湿度を低下させることで基板表面の中心部での乾燥が始まった段階で既に表面外周部近傍の湿度は十分に低下している。その結果、基板乾燥を基板表面全体にわたって良好に行うことができる。
【0059】
また、上記実施形態では、乾燥性能を高めるためにIPA液を用いた置換処理を行っているが、乾燥処理前に表面外周部および表面中央部に乾燥窒素ガスを供給して処理空間162の湿度を低下させているため、図9に示す現象が発生するのを効果的に抑えて基板乾燥を良好に行うことができる。
【0060】
図9はIPA液の蒸発に起因する乾燥不良の発生メカニズムを模式的に示す図である。このようにIPA液などの比較的揮発性の高い溶剤が蒸発する際には、基板回転の遠心力とIPA蒸発に伴いIPA液膜が移動していく。また、IPA蒸発によりIPA液膜の端部では基板表面が乾燥されて露出するが、IPA蒸発と同時に気化熱が発生して露出領域の周辺温度が局部的にかつ急激に低下する(同図(a))。このとき、露出領域の周辺に多量の水蒸気成分が存在すると、上記温度低下により露出領域に凝集して水滴として付着することがある(同図(b))。このような現象はIPA液膜の乾燥移動にしたがって順次発生するため、帯状の乾燥不良が発生してしまう。このような乾燥不良は基板表面の周辺湿度に大きく依存しているため、本実施形態のように乾燥処理に先立って処理空間162の湿度を大幅に低減しておくことで上記乾燥不良を効果的に、しかも確実に防止することができる。したがって、IPA液などの低表面張力溶剤を用いて置換処理を行う基板処理装置や基板処理方法では、非常に有用な技術と言える。
【0061】
<第2実施形態>
上記第1実施形態では、ノズルアーム122の先端部に薬液供給ノズル126とリンス液供給ノズル128を取り付ける一方、ノズルアーム124の先端部にIPA液供給ノズル130と第2気体供給ノズル132を取り付けているが、ノズルの配置や構成などについては、これに限定されるものではなく、任意である。例えば全ノズルを1つのノズルアームに取り付けてもよい。また、1つのノズルに対し、IPA液用開閉弁を介してIPA液供給ユニット140を接続するとともにガス用開閉弁を介して乾燥気体供給ユニット142を接続し、両開閉弁を開閉制御して1つのノズルからIPA液と乾燥窒素ガスを選択的に吐出させるように構成してもよい。
【0062】
<第3実施形態>
図10は本発明にかかる基板処理装置の第3実施形態を示す図であり、第1気体供給ノズルの部分断面を示している。また、図11は第3実施形態における第1気体供給ノズルの主要構成部材を示す図であり、同図(a)はカバー部材の底面図であり、同図(b)はベース部材の平面図である。この第3実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は第1気体供給ノズル170の構成であり、その他の構成は同一である。そこで、以下においては、上記相違点を中心に説明する。
【0063】
この第3実施形態では、ベース部材174にはフランジ部が設けられており、当該フランジ部がリング部位174aとなっており、当該リング部位174aの上面(リング状上面174c)には、図11(b)に示すように、2種類のリング状の溝部174d、174hが形成されている。これらのうちリング状の溝部174dは第1実施形態と同様に供給チューブ172を介して圧送されてくる乾燥窒素ガスを一時的に蓄えるバッファ空間を形成するものである。これに対し、リング状の溝部174hはOリング圧入溝として機能するものであり、樹脂製のOリング184を圧入可能なサイズに仕上げられている。また、このリング状の溝部174hの外周側で複数のネジ孔174eがリング状に配置されている。
【0064】
一方、カバー部材176には、複数の貫通孔176hがリング状に、しかも溝部174dに対向するように設けられている。そして、各貫通孔176hに対して供給チューブ172の下端部(先端部)が上方側から挿入されてカバー部材176に取り付けられている(なお、図11(a)への供給チューブ172の図示は省略している)。また、それらの貫通孔176hの外周側で、複数のネジ挿通孔176eがネジ孔174eに対応する位置に設けられている。
【0065】
そして、リング状の溝部174hに樹脂製Oリング184を圧入した後、ネジ孔174eとネジ挿通孔176eが対応した状態でリング状上面174cおよびリング状平面176cを相互に近接させてリング状平面176cをOリング184の上端部に密着させるとともに、ネジ挿通孔176eにネジ178を挿通し、さらにネジ178の先端部をネジ孔174eに螺合させてベース部材174とカバー部材176を一体化することによって、第1気体供給ノズル170が構成されている。このように構成された第1気体供給ノズル170では、図10に示すように、リング状上面174cおよびリング状平面176cの間に隙間が形成されてリング状の吐出口170aが形成されている。そして、乾燥気体供給ユニット142から供給チューブ172を介して乾燥窒素ガスが第1気体供給ノズル170に圧送されると、乾燥窒素ガスはリング状バッファ空間、つまり溝部174dで一時的に蓄えられた後で吐出口170aを介してリング内周面からリング中心に向けて吐出される。したがって、基板Wの外周全体にわたって乾燥窒素ガスが均一に基板Wの表面外周部に供給される。
【0066】
<第4実施形態>
上記実施形態では、リング形状を有するベース部材174とカバー部材176で構成されたリング状ノズル170を本発明の「第1気体供給手段」として用いているが、複数のノズルを用いて基板Wの表面外周部に乾燥窒素ガスを供給してもよい。以下、図12を参照しながら、本発明の第4実施形態について説明する。
【0067】
図12は本発明にかかる基板処理装置の第4実施形態を示す図である。この第4実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は第1気体供給ノズル170の構成であり、その他の構成は同一である。以下においては、上記相違点を中心に説明する。
【0068】
この第4実施形態では、4つの第1気体供給ノズル186がスプラッシュガード150の直上位置で、かつ等角度間隔(ここでは90゜間隔)で配置されている。各ノズル186は乾燥気体供給ユニット142と接続されている。また、各ノズル186の先端部はスプラッシュガード150の開口部150aの近傍に配置されている。このように構成された基板処理装置では、乾燥気体供給ユニット142から乾燥窒素ガスが圧送されてくると、回転している基板Wの表面外周部に向けて4つのノズル186から乾燥窒素ガスが吐出される。したがって、基板Wの外周全体にわたって乾燥窒素ガスが均一に基板Wの表面外周部に供給される。このように、この第4実施形態では、4つの第1気体供給ノズル186が本発明の「第1気体供給手段」として機能しているが、ノズル186の個数および配置などについては、これに限定されるものではなく、複数のノズル186をスプラッシュガード150の開口部150aに沿って配置することができる。
【0069】
<第5実施形態>
上記した実施形態では、処理空間162からの排気量を調整するために、排気調整機構164を設けているが、その排気調整機構164としては、排気量をコントロールできるものであれば、その構成や動作等については特に限定されるものではなく、任意である。例えば図13に示す排気調整機構164を採用することができる。以下、同図を参照しながら本発明の第5実施形態について説明する。
【0070】
図13は本発明にかかる基板処理装置で採用可能な排気調整機構を示す図である。この排気調整機構164は、排気管160よりも細い口径を有するとともに排気管160から分岐して再び排気管160に連通されたバイパス配管164aと、バイパス配管164aが排気管160から分岐する分岐位置P1とバイパス配管164aが排気管160に連通する連通位置P2との間に介挿された開閉弁164bとを備えている。そして、湿式処理(薬液およびリンス処理)時には、ユニット制御部118からの指令にしたがって開閉弁164bを開いて比較的大容量で処理空間162を排気可能となっている。一方、湿度低下処理時にはユニット制御部118からの指令にしたがって開閉弁164bを閉じて処理空間162の排気量を湿式処理時のそれよりも抑える。
【0071】
<第6実施形態>
種々の実験や検証などを行ったところ、薬液処理を開始する時点での装置内部の湿度が比較的高い場合には、処理空間162に乾燥窒素ガスを供給しても当該処理空間162の湿度が十分に低下せず、所望の乾燥性能が得られないという現象を本願発明者は知見した。このように装置内部の湿度が比較的高いまま一連の処理を行うことは生産効率の面で大きなロスを発生させてしまい製品コストの増大を招いてしまう。また、湿度と乾燥性能との関係は薬液処理の開始前に限定されるものではなく、乾燥処理開始直前においても同様である。つまり、処理空間162への乾燥窒素ガスの供給によっても当該処理空間162の湿度が十分に低下しない場合(例えば相対湿度30%以下となっていない場合)には、乾燥処理を規制するのが望ましい。そこで、本発明の第6実施形態では、ユニット制御部118が装置内部の湿度に基づき薬液処理および乾燥処理の開始を制御している。すなわち、ユニット制御部118はメモリ(図示省略)に予め記憶されているプログラムにしたがって図14に示すように装置各部を制御して薬液処理および乾燥処理の開始を制御する。
【0072】
図14は本発明にかかる基板処理装置の第5実施形態を示すフローチャートである。この実施形態では、基板Wに対して一連の処理を実行する前には上記したよう湿度センサ182は処理空間162から上方に離れた退避位置に退避して装置内部の湿度を検出可能となっている。そして、ユニット制御部118は湿度センサ182による検出結果に基づき装置内部の湿度を得た(ステップS1)後、その検出結果を予め設定している第1規定湿度以下となっているか否かを判定する(ステップS2)。この「第1規定湿度」とは、上記したように良好な乾燥性能を得るために要求される、薬液処理を開始する時点での装置内部の湿度であり、例えば相対湿度40%に設定することができる。つまり、装置内部の湿度が第1規定湿度(例えば相対湿度40%)を超えている場合には、ステップS2で「NO」と判定され、基板処理が停止される(ステップS3)。また、ユニット制御部118はアラームを発報する(ステップS4)。これによって、装置内部の湿度が比較的高く、そのまま基板処理を行ったとしても良好な基板処理を行うことができず、基板処理の停止がユーザに知らされる。これを受けてユーザがマニュアル操作により、あるいはユニット制御部118が自動的に装置内部の湿度を低下させるプログラムを実行することにより、装置内部の湿度が高くなっている原因が解消される(ステップS5)と、ユニット制御部118はアラームを解除して(ステップS6)、ステップS1に戻る。
【0073】
一方、ステップS2で装置内部の湿度が第1規定湿度以下となっていることが確認されると、一連の基板処理が開始されるが、この実施形態では乾燥処理を実行する前に処理空間162の湿度が検出されて上記と同様に検出湿度に応じた処理が実行される。すなわち、薬液処理から湿度低下処理まで上記第1実施形態と同様にして実行される(ステップS7〜S11)。なお、この実施形態では、上記したように湿度センサ182は薬液処理およびリンス処理を行っている(ステップS7)間においては処理空間162から上方に離れた退避位置に退避して装置内部の湿度を検出しているが、リンス処理完了後に処理空間162あるいは近傍に移動している。
【0074】
湿度低下処理(ステップS11)後、つまり乾燥処理直前に、ユニット制御部118は湿度センサ182による検出結果に基づき処理空間162の湿度を検出する(ステップS12)。そして、ユニット制御部118は湿度センサ182の検出結果を予め設定している第2規定湿度以下となっているか否かを判定する(ステップS13)。この「第2規定湿度」とは、上記したように良好な乾燥性能を得るために要求される、乾燥処理を開始する時点での処理空間162の湿度であり、例えば相対湿度30%に設定することができる。つまり、処理空間162の湿度が第2規定湿度(例えば相対湿度30%)を超えている場合には、ステップS13で「NO」と判定され、基板処理が停止される(ステップS14)。また、ユニット制御部118はアラームを発報する(ステップS15)。これによって、湿度低下処理(ステップS11)によっても処理空間162の湿度が十分に低下せず、そのまま乾燥処理を行ったとしても良好に基板Wを乾燥させることができず、基板処理の停止がユーザに知らされる。これを受けてユーザがマニュアル操作により、あるいはユニット制御部118が自動的に処理空間162の湿度を低下させるプログラムを実行することにより、処理空間162の湿度が高くなっている原因が解消される(ステップS16)と、ユニット制御部118はアラームを解除して(ステップS17)、ステップS12に戻る。一方、ステップS13で処理空間162の湿度が第2規定湿度以下となっていることが確認されると、乾燥処理が実行される(ステップS18)。
【0075】
以上のように、第5実施形態では、装置内部の湿度が第1規定湿度以下であることを確認した上で基板処理を開始しているため、無駄な基板処理が実行されるのを防止することができる。また、処理空間162の湿度が十分に低下しているのを確認した上で乾燥処理を開始しているため、乾燥処理が不良に終わるのを確実に防止することができる。
【0076】
<第6実施形態>
第5実施形態では、装置内部の湿度が比較的高く、そのまま基板処理を行ったとしても良好な基板処理を行うことができないと判断した際には、基板処理を停止しているが、装置を次のように構成することで装置内部の湿度を第1規定湿度以下に維持することができる。以下、図15を参照しつつ本発明の第6実施形態について説明する。
【0077】
図15は本発明にかかる基板処理装置の第6実施形態を示す図である。この第6実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は、ファンフィルタユニット(FFU)104にシリカゲル層104dを設けてクリーンエアの湿度低下を図っている点である。これによって装置内部が低湿度に保たれる。なお、シリカゲル層などの湿度除去層104dはクリーンエア中の水分を除去するにしたがって吸水能力が低減していく。そこで、本実施形態では、湿度除去層104dの近傍に加熱層104cが配置されており、基板処理を行っていない間や装置内部の湿度が比較的高いと判定されて基板処理が停止されている間(第5実施形態のステップS3)に加熱層104cが作動する。これによって、湿度除去層104dの吸水能力が回復されて装置内部の湿度低下に大きく寄与する。
【0078】
以上のように、第6実施形態によれば、シリカゲル層などの湿度除去層104dによりクリーンエア中の水分を除去した上でクリーンエアを装置内部に供給しているので、装置内部の湿度が上昇するのを確実に防止することができる。また、湿度センサ182の検出結果により湿式処理の開始前における装置内部の湿度、つまり本発明の「初期湿度」が第1規定湿度(上記実施形態では相対湿度40%に設定されている)よりも高く、初期湿度が比較的高いと判定された場合には、加熱層104cにより湿度除去層104dの吸水能力を回復させてクリーンエアの湿度を低下させているので、初期湿度を第1規定湿度以下に抑えて基板乾燥を良好に行うことができる。このように、本実施形態では、加熱層104cおよび湿度除去層104dが本発明の「調湿機構」として機能している。
【0079】
<第7実施形態>
ところで、上記実施形態では乾燥性能を高めるためにIPA液を用いた置換処理を行っているが、IPA蒸発と同時に気化熱が発生して露出領域の周辺温度が局部的にかつ急激に低下することがIPA液の蒸発に起因する乾燥不良の発生メカニズムと大きく関わっている。このことは既に図9を参照しつつ詳述したとおりであるが、この温度低下による影響を抑制するために、基板Wの裏面側から基板Wを加熱しておくことが有益である。つまり、IPA液の蒸発による温度低下を見越して基板Wの温度を高めておくことで上記温度低下に伴う水滴付着を抑制して乾燥不良を未然に防止することができる。ただし、基板Wの温度を高めすぎると、IPA液が基板Wに供給されると短時間のうちに蒸発してしまい、基板Wの表面に供給されたIPA液が表面全体に行き渡る前に蒸発してしまい、置換処理を良好に行うことができず、乾燥不良を引き起こす可能性がある。したがって、これらの点を考慮すると、加熱処理により加熱した後の基板Wの温度、つまり目標温度TrをIPA液の吐出直前温度Tstよりも高く、しかもIPA液の沸点(約83゜C)よりも低く設定する必要がある。より好ましくは、目標温度Trを吐出直前温度TstにIPA液の蒸発による温度低下分ΔTを加えた値(=Tst+ΔT)程度に設定することができる。以下、図16を参照しつつ本発明の第7実施形態について説明する。
【0080】
図16は本発明にかかる基板処理装置の第7実施形態を示す図である。この第7実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は、基板Wの裏面側に高温気体を供給する高温気体供給機構190が追加されている点である。なお、その他の構成は第1実施形態のそれと同一である。
【0081】
第7実施形態では、回転支軸108と、当該回転支軸108を取り囲む中空管109との間に形成される流通経路に高温気体供給機構190が接続されている。この空間の上端部は基板Wの裏面中央部に対向しており、薬液処理の開始時点より高温気体供給機構190から高温の窒素ガスや空気などの加熱用気体が基板裏面に供給される。この高温気体の供給によって基板Wが加熱される。この種の基板処理装置では、基板表面へのIPA液の供給時における温度は常温(例えば25゜C)であるため、基板Wの温度をこれよりも高い値、例えば35〜40゜Cに加熱するのが望ましく、この基板加熱によってIPA液の蒸発による基板温度の低下に伴う水分凝縮を抑制することができる。
【0082】
この実施形態では薬液処理の開始時点より80〜100゜Cの窒素ガスを100(リッター/分)の流量で基板Wの裏面に供給して基板裏面の加熱を開始して置換処理を開始する時点での基板温度を35〜40゜Cに加熱している。なお、加熱開始タイミングはこれに限定されるものではなく、置換処理の開始前までのいずれかのタイミングで基板Wの加熱を開始して置換処理の開始時点で基板Wの温度を目標温度に加熱すればよい。ただし、次の点については考慮するのが望ましい。いわゆる枚葉式の基板処理装置では、薬液処理から置換処理までの時間が短く、プロセスの安定性を図る上でも基板温度を急激に昇温したり、逆に降温させることは避けるべきであり、この点を考慮すると、加熱用気体の供給時間を長く設定するのが望ましい。また、薬液処理中に基板温度が変化すると、薬液処理による処理の特性(例えばエッチング特性)に悪影響を及ぼす場合には、基板加熱が必要なタイミング以外においては基板裏面への加熱用気体の供給を停止し、基板加熱が必要なタイミングでのみ加熱用気体を供給するのが好ましい。より具体的には、上記流通経路と高温気体供給機構190の間に切替機構(図示省略)を設けて加熱用気体の流通先を基板裏面と排気経路に切替可能に構成するとともに、基板加熱時以外は加熱用気体を排気経路に回す一方、基板加熱時のみ切替機構を介して加熱用気体を基板裏面に供給してもよい。 また、第7実施形態では、加熱用気体として窒素ガスを用いているが、加熱用気体はこれに限定されるものではなく、空気などを用いてもよい。また、裏面加熱方式としては、加熱用気体を用いる代わりに、ホットプレート方式やマイクロウェーブ方式などの種々の加熱方式を採用することができる。
【0083】
<その他>
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。上記した実施形態では、本発明の「乾燥気体」として乾燥窒素ガスを用いているが、これ以外の乾燥気体、例えば乾燥空気などを用いることができる。
【0084】
また、上記実施形態では、処理空間162への乾燥窒素ガスの供給とともに処理空間162の排気を湿式処理時の排気よりも抑えることで、処理空間162の湿度を迅速に低下させているが、さらにファンフィルタユニット104から装置内部に送り込むクリーンエアの風量を調整してもよい。すなわち、ファンフィルタユニット104のファン104aはユニット制御部118に設けられるファン調整機構192により駆動制御されており、ファン調整機構192によりファン104aの回転速度がコントロールされて装置内部に送り込むクリーンエアの風量を調整可能となっている。そして、ユニット制御部118はファン調整機構192を制御することで湿式処理後かつ乾燥処理前にクリーンエアの風量を湿式処理時の風量よりも抑えることができ、この風量調整によって処理空間162の湿度を効果的に低下させることができる。このような実施形態では、ファン調整機構192が本発明の「風量調整手段」として機能することとなる。
【0085】
また、上記した実施形態の置換処理では、基板表面に形成されたパターンが倒壊するなどの不具合を防止して乾燥性能を高めるために低表面張力液としてIPA液を用いて置換処理を行っているが、IPA液以外に、エチルアルコール、メチルアルコールの各種有機溶媒を低表面張力液として用いるようにしてもよい。また、各種アルコールの蒸気を有機溶媒成分としてDIWに溶解させて低表面張力液を生成するようにしてもよい。なお、乾燥処理の前に置換処理を行っているが、これは必須処理ではなく、省略してもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、半導体ウエハ等の基板Wに対して薬液処理、リンス処理、置換処理および乾燥処置を行う装置および方法に本発明を適用しているが、基板Wの種類や処理内容はこれに限定されるものではなく、処理液を基板に供給して湿式処理を施した後に当該基板を乾燥する基板処理装置および方法に本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
この発明は、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などを含む基板全般に湿式処理および乾燥処理を施す基板処理装置および方法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明を好適に適用することのできる基板処理システムを示す図である。
【図2】本発明にかかる基板処理装置としての処理ユニットの第1実施形態を示す図である。
【図3】図2の処理ユニットを制御する電気的構成を示すブロック図である。
【図4】第1気体供給ノズルの部分断面図である。
【図5】第1気体供給ノズルの主要構成部材を示す図である。
【図6】図2の処理ユニットの動作を示す図である。
【図7】図2の処理ユニットの動作を示す図である。
【図8】実施例と比較例との対比結果を示す図である。
【図9】IPA液の蒸発に起因する乾燥不良の発生メカニズムを模式的に示す図である。
【図10】本発明にかかる基板処理装置の第3実施形態を示す図である。
【図11】第3実施形態における第1気体供給ノズルの主要構成部材を示す図である。
【図12】本発明にかかる基板処理装置の第4実施形態を示す図である。
【図13】本発明にかかる基板処理装置で採用可能な排気調整機構を示す図である。
【図14】本発明にかかる基板処理装置の第5実施形態を示すフローチャートである。
【図15】本発明にかかる基板処理装置の第6実施形態を示す図である。
【図16】本発明にかかる基板処理装置の第7実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
1A〜4A、1B〜4B、100…処理ユニット(基板処理装置)
104…ファンフィルタユニット
104c…加熱層(調湿機構)
104d…シリカゲル層(調湿機構)
106…スピンチャック(基板保持手段)
120…チャックピン(基板保持手段)
130…IPA液供給ノズル(溶剤供給手段)
132…第2気体供給ノズル
160…排気管(排気手段)
162…処理空間
164…排気調整機構
164a…バイパス配管(排気調整機構)
164b…開閉弁(排気調整機構)
170、186…第1気体供給ノズル
182…湿度センサ(第1湿度検出手段、第2湿度検出手段)
192…ファン調整機構(風量調整手段)
P1…分岐位置
P2…連通位置
W…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に処理液を供給して該基板表面に対して所定の湿式処理を施した後に、前記基板を乾燥させる基板処理装置において、
基板を略水平姿勢で保持する基板保持手段と、
前記基板保持手段に保持された前記基板の表面外周部に乾燥気体を供給する第1気体供給手段と、
前記基板保持手段に保持された前記基板の表面中央部に乾燥気体を供給する第2気体供給手段と、
前記基板表面に接する処理空間を排気する排気手段と、
前記処理空間の排気を調整する排気調整手段とを備え、
前記第1気体供給手段から前記基板の表面外周部に乾燥気体を供給するとともに前記第2気体供給手段から前記基板の表面中央部に乾燥気体を供給しながら排気調整手段が前記処理空間の排気を前記湿式処理時よりも抑えることによって、前記処理空間の湿度を低下させた状態で前記基板を乾燥させることを特徴とする基板処理装置。
【請求項2】
前記処理液よりも表面張力が低い低表面張力溶剤を前記基板の表面に供給して前記基板表面上の前記処理液を前記低表面張力溶剤に置換する溶剤供給手段を備え、
前記低表面張力溶剤への置換後に、前記低表面張力溶剤を前記基板表面から除去して前記基板表面を乾燥させる請求項1記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記第1気体供給手段は前記湿式処理後かつ前記低表面張力溶剤への置換前に前記乾燥気体の供給を開始する一方、前記第2気体供給手段は前記置換の完了後かつ前記乾燥処理前に前記乾燥気体の供給を開始する請求項2記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記排気手段は排気管を有し、当該排気管を介して前記処理空間は排気されており、
前記排気調整手段は前記排気管よりも細い口径を有するとともに前記排気管から分岐して再び前記排気管に連通されたバイパス配管と、前記バイパス配管が前記排気管から分岐する分岐位置と前記バイパス配管が前記排気管に連通する連通位置との間で前記排気管に介挿された開閉弁とを備え、前記湿式処理時には前記開閉弁を開く一方、前記湿度低下処理時には前記開閉弁を閉じて前記処理空間の排気量を前記湿式処理時の排気量よりも抑える請求項1ないし3のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項5】
装置内部の湿度を検出する第1湿度検出手段を備え、
前記第1湿度検出手段により検出される、前記湿式処理の開始前における初期湿度が第1規定湿度を超えている場合には、前記湿式処理の開始を規制する請求項1ないし4のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項6】
前記処理空間の湿度を検出する第2湿度検出手段を備え、
前記第2湿度検出手段により検出される、前記乾燥処理の開始前における前記処理空間の湿度が第2規定湿度を超えている場合には、前記乾燥処理の開始を規制する請求項1ないし5のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項7】
ファンフィルタユニットからクリーンエアを前記基板保持手段に保持された前記基板に向けて送り込みながら前記湿式処理から前記乾燥処理までを実行し、
前記乾燥気体は前記クリーンエアよりも低湿度である請求項1ないし4のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項8】
前記ファンフィルタユニットから送られるクリーンエアの風量を調整する風量調整手段を備え、
前記風量調整手段は前記湿式処理後かつ前記乾燥処理前に前記クリーンエアの風量を前記湿式処理時の風量よりも抑えて前記処理空間の湿度を低下させる請求項7記載の基板処理装置。
【請求項9】
前記ファンフィルタユニットから送り出される前記クリーンエアの湿度を調整する調湿機構と、
装置内部の湿度を検出する第1湿度検出手段とを備え、
前記第1湿度検出手段により検出される、前記湿式処理の開始前における初期湿度が第1規定湿度を超えている場合には、前記調湿機構により前記クリーンエアの湿度が低下されて前記初期湿度が前記第1規定湿度以下に抑えられる請求項7または8記載の基板処理装置。
【請求項10】
基板の表面に処理液を供給して該基板表面に対して所定の湿式処理を施す湿式工程と、
前記湿式工程後の前記基板の表面外周部および表面中央部の各々に乾燥気体を供給するとともに前記処理空間の排気を前記湿式処理時よりも抑えて前記処理空間内の湿度を低下させる湿度低下工程と、
前記湿度低下工程後に前記基板を乾燥させる乾燥工程と
を備えたことを特徴とする基板処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−200193(P2009−200193A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39561(P2008−39561)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】