説明

基準格子、基準格子の使用方法、及び、基準格子を備える光干渉断層画像診断装置

【課題】光干渉断層画像診断を精度よく行うのに好適な基準格子等を提供する。
【解決手段】本発明に係る基準格子100は、光干渉断層画像の診断に用いられる基準格子であって、光を透過する部材から構成され、当該部材に複数のグリッド線110を備え、複数のグリッド線110は、光干渉断層画像に表示される。そして、基準格子100を対象物に固定し、基準格子100及び対象物に低干渉光を照射し、当該基準格子100及び当該対象物により当該低干渉光が反射された反射光に基づいて、当該基準格子100及び当該対象物を測定し、基準格子100が備えるグリッド線110間の測定寸法と当該グリッド線110間の実寸法との差に基づいて、測定された対象物の測定寸法に含まれる誤差を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光干渉断層画像診断を精度よく行うのに好適な基準格子、基準格子の使用方法、及び、基準格子を備える光干渉断層画像診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科臨床において、歯牙に形成された窩洞に修復物や補綴物を装填することにより歯牙の治療が行われている。歯牙に形成された窩洞の形態情報及び口腔内の形態情報等を取得するには、印象材(例えば、石膏、寒天、アルジネート、ゴム、シリコン)を用いて、歯牙や口腔内の間接模型が作成され、当該間接模型を鋳型として、修復物・補綴物が作成される。
【0003】
しかしながら、印象材による歯牙等の形態情報の取得、当該印象材に基づく間接模型の作製、当該間接模型を鋳型とする修復物・補綴物の作成等、歯牙等の形態情報が取得されるまでに複数の工程を経ているため、様々な医療資源が消費され、また、時間がかかる場合があった。
【0004】
そこで、特許文献1には、簡易にかつ迅速に形態情報を取得できる光干渉断層画像診断(光コヒーレンストモグラフィ(OCT;Optical Coherence Tomography)、以下「OCT」という)装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−280449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、OCTにより取得されたOCT画像の一部は、所定のアルゴリズムから求められる計算値に基づく画像であるため、当該OCT画像は実寸法と異なる場合があった。従って、光干渉断層画像診断を精度よく行うのに好適な新たな手法が求められている。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、光干渉断層画像診断を精度よく行うのに好適な基準格子、基準格子の使用方法、及び、基準格子を備える光干渉断層画像診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る基準格子は、
光干渉断層画像の診断に用いられる基準格子であって、
光を透過する部材から構成され、
前記部材に複数のグリッド線を備え、
前記複数のグリッド線は、前記光干渉断層画像に表示される、
ことを特徴とする。
【0009】
前記グリッド線の間隔が、所定の距離にあらかじめ定められている、ことも可能である。
【0010】
前記グリッド線は、格子状に配置されている、ことも可能である。
【0011】
本発明のその他の観点に係る基準格子の使用方法は、
前記基準格子を対象物に固定し、
前記固定された基準格子及び前記対象物に低干渉光を照射し、当該基準格子及び当該対象物により当該低干渉光が反射された反射光に基づいて、当該基準格子及び当該対象物を測定し、
前記測定された基準格子が備えるグリッド線間の測定寸法と当該グリッド線間の実寸法との差に基づいて、前記測定された対象物の測定寸法に含まれる誤差を特定する、
ことを特徴とする。
【0012】
前記特定された誤差を補正し、当該補正された対象物の測定寸法に基づく光干渉断層画像を表示する、ことも可能である。
【0013】
本発明のその他の観点に係る基準格子を備える光干渉断層画像診断装置は、
前記基準格子及び対象物に低干渉光を照射し、当該基準格子及び当該対象物により当該低干渉光が反射された反射光に基づいて、当該基準格子及び当該対象物を測定する測定部と、
前記基準格子が備えるグリッド線間の実寸法を記憶する記憶部と、
前記測定された基準格子が備えるグリッド線間の測定寸法と前記グリッド線間の実寸法との差に基づいて、前記測定された対象物の測定寸法に含まれる誤差を補正する補正部と、
前期補正された対象物の測定寸法に基づく光干渉断層画像を表示する表示部と、を備える、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光干渉断層画像診断を精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】OCTの測定原理を説明するための図である。
【図1B】OCTの測定原理を説明するための図である。
【図2】OCTが実現される波長走査型光断層表示システムの全体構成を示すブロック図である。
【図3】OCTによる測定結果の一例を示す図である。
【図4】光の照射方法を示す図である。
【図5】対象物の歪みを示す図である。
【図6】歯牙の実画像とOCT画像とを比較した図である。
【図7】基準格子の概要構成を示す図である。
【図8A】図7のA−A線での断面図である。
【図8B】図7のA−A線での断面図である。
【図9】基準格子の設置位置を説明するための図である。
【図10】基準格子の使用方法を説明するための図である。
【図11】基準格子を含むOCT画像の一例である。
【図12】補正後のOCT画像の一例である。
【図13】光干渉断層画像診断装置の概要構成を示す図である。
【図14】基準格子を備える測定部を示す図である。
【図15】光干渉断層画像診断装置にて実行される画像補正処理を説明するためのフローチャートである。
【図16】基準格子の変形例を示す図である。
【図17】図7のA−A線での断面の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明の実施形態の一つについて説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0017】
本実施形態に係る基準格子は、組織内部の光学的情報を用いて、生体組織を診断することができる光コヒーレンストモグラフィ(OCT)により測定する際に使用される。
【0018】
OCT装置は、生体内組織をマイクロオーダで極めて高解像度に測定可能な装置である。また、OCTでは、体表面下にまで到達しうる近赤外線の光源を使用することで、被写体の表面部だけではなく深部までの測定が可能である。近赤外線は、レントゲン線(X線)のような生体に意外性がある放射線ではないため、厳密に非侵襲な被写体の検査を行うことができる。
【0019】
まず、OCTの測定原理について簡単に説明する。一般に光は電磁波としての性質を有するため、光を重畳させた場合に干渉するという性質を有する。干渉しやすいか干渉しにくいかの干渉性能はコヒーレンスとも呼ばれ、一般的なOCTでは干渉性の低い近赤外光が利用される。
【0020】
図1A及び1Bは、OCTの測定原理を説明するための図である。近赤外光は、横軸に時間、縦軸に電場をとった場合、同図に示すように、ランダムな信号となる。当該信号の各山は波連と呼ばれ、波連は一つ一つが相互に独立な位相と振幅とを持っている。このため、同じ波連同士が重なった場合は、図1Aに示すように、干渉して強めあう。一方、わずかな時間遅れがあった場合は、図1Bに示すように、波連同士が打ち消しあって、光干渉が観察されなくなる。
【0021】
OCTは、かかる性質を利用したものである。図2は、OCTが実現される波長走査型光断層表示システムの全体構成を示すブロック図である。同図に示すように、本システムの波長走査型光源には一定の周波数範囲の光信号を発振する近赤外光の光源10が用いられる。光源10の波長は、例えば、700nm〜2500nmであり、生体内へ浸入する近赤外光の波長に相当する。光源10の出力は、光ファイバ11に与えられる。光ファイバ11の中間部分には、他の光ファイバ12を接近させて干渉させる結合部13が設けられる。光ファイバ12の一端には、光源10から結合部13を介して得られた光信号を平行光とするコリメートレンズ14と、光をスキャニングするためのスキャニングミラー15と、が設けられる。
【0022】
スキャニングミラー15には、例えば、ガルバノミラー、メムスミラー、及び、ラウンド状に配列されたミラー等がある。スキャニングミラー15は、例えば、紙面に垂直な軸を中心にして一定範囲で回動することによって、平行光の反射角度を変化させる。そして、スキャニングミラー15を回動させて、光の入射位置を変化させることによって、対象物30の2次元情報である断面画像を得ることができる。また、平行光と垂直方向に対象物30をスキャニング(走査)することにより、対象物30の内部の層構造を示す三次元情報を取得できる。
【0023】
対物レンズ16は、反射光を受光する位置に配置され、対象物30の測定部位へ光を集束すると共に水平方向にスキャニング(走査)する。また、光ファイバ11の他端には、コリメートレンズ17を介して参照ミラー18が光軸に垂直に設けられている。ここで、結合部13から参照ミラー18までの光学距離L1と、結合部13から対象物30の測定部位である表面までの光学距離L2と、を等しくしておく。光ファイバ12の他端には、レンズ20を介して光検出器21が接続される。参照ミラー18では、対象物30から戻る後方散乱光と干渉し干渉光が作られる。光検出器21は、例えば、受光素子やCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサから構成され、参照ミラー18からの反射光と測定部位で反射された光の干渉光を受光することによって、ビート信号を電気信号として得る。ここで、光ファイバ11、光ファイバ12、結合部13、コリメートレンズ14、スキャニングミラー15、対物レンズ16、コリメートレンズ17、参照ミラー18、及び、コリメートレンズ20は、干渉光学計を構成している。
【0024】
光検出器21の出力は、増幅器22を介して信号処理部23に入力される。信号処理部25は、干渉光学計から得られる受光信号をフーリエ変換することによって、断層画像信号を得る。また、信号処理部23からの出力は、画像処理部24に与えられる。画像処理部24は、信号処理部23からの出力に基づいて、対象物30の2次元ないし3次元画像を生成する。そして、こうして生成された表示画像は、表示部25によって表示される。
【0025】
図3は、OCTにより測定された断層画像の一例を示す。OCTにより、例えば、OCTによりヒトの歯牙の表面が測定されると、同図に示されるように、歯肉、エナメル質、象牙質、及び、エナメル質と象牙質との境界等が断層状になった画像が表示される。つまり、OCT測定により、対象物30である歯牙の内部(深部)にあるエナメル質、象牙質、歯髄、歯肉、歯槽骨、血管、神経等を含む画像が得られる。
【0026】
図4は、光の照射方法を示す図である。同図に示される照射方法は、一般的にラスター方式と言われる。しかしながら、対象物30に照射される照射光は、同図に示すように、スキャニングミラー15が、所定の位置を中心とする回転運動を行うことにより、扇状に広がって対象物30に照射される。つまり、対象物30に照射される照射光は厳密に平行ではないため、対象物30の中心部と両端部とでは、当該照射光が到達するまでの僅かなタイムラグが発生する。このため、OCTにより測定された対象物30は、歪みが含まれる画像となる。なお、ラウンド方式などの他の照射方式においても、同様のタイムラグが発生する。
【0027】
図5は、対象物の歪みを示す図である。OCT測定において、照射光が対象物30に到達するまでの僅かなタイムラグにより、同図に示すように、歪みを含む画像が得られる。このため、歯牙のような対象物30を測定する際に、この画像に含まれる歪みや誤差が問題となる場合がある。
【0028】
図6は、歯牙の実画像とOCT画像とを比較した図である。同図の矢印により示される部分は、歯牙のエナメル質層(歯牙の表面からエナメル質と象牙質との境界までの層)であり、同一歯牙の同一部分である。同図に示されるように、実画像とOCT画像とでは、差異が生じている。そこで、当該差異を補正するために利用される基準格子について以下に説明する。
【0029】
図7は、本実施形態に係る基準格子100の概要構成を示す図である。本実施形態に係る基準格子100は、典型的には、OCTにより歯牙の形状を測定する際に使用される。歯牙のう蝕、いわゆる虫歯、を治療するために、当該う蝕が除去された窩洞(う蝕穴)に修復物や補綴物、いわゆるインレー、を装填することにより歯牙の治療が行われる。ここで、インレーとは、外傷やう蝕による歯冠の部分的な欠損に対して、歯牙を一定の形状に形成し、当該欠損部分に適合するように製作された金属または陶材の塊をいう。当該窩洞に装填される修復物や補綴物の形状及びサイズを決定するためには、窩洞の形状及びサイズを測定する必要がある。そこで、基準格子100を用いることにより、歪みや誤差を補正し、OCT測定を精度よく行う。
【0030】
基準格子100は、同図に示すように、ほぼ立方体状に形成される。基準格子100は、窩洞のサイズに適応する、例えば、1ミリ角、3ミリ角、5ミリ角等のサイズで形成される。
【0031】
なお、対象物30である歯牙の形状及びサイズ、また、歯牙に形成された窩洞の形状及びサイズは、それぞれ異なるため、基準格子100は、任意の形状及びサイズに形成され得る。
また、基準格子100は、立方体に限定されず、直方体、三角柱、円柱、もしくは、円錐等、任意である。
【0032】
基準格子100は、例えば、アクリル樹脂、もしくは、ポリメチルメタクリレート(Polymethyl Methacrylate)樹脂等から構成される。
【0033】
なお、基準格子100の素材については、光(近赤外線)を通し、OCT測定により当該基準格子100が写るものであれば、任意である。また、基準格子100の素材は、透過性を有する散乱係数のやや大きい素材であってもよい。
散乱係数を大きくすることで、正反射を抑えることができるためである。
【0034】
また、基準格子100は、図7に示すように、複数のグリッド線110を備える。
【0035】
グリッド線110は、あらかじめ定められた間隔で、基準格子100上に形成される。それぞれのグリッド線110は、同図に示すように、例えば、格子状になるよう基準格子100に形成される。グリッド線110は、例えば、100μm間隔おきに形成され、グリッド線110と基準格子100の外周部とが垂直となるように形成される。
【0036】
なお、グリッド線110の間隔は、等間隔である必要はなく、実寸法が測定できれば任意である、これは、OCTにより測定されたグリッド線110の間隔の測定値と、当該グリッド線110の間隔の実寸値とを比較することにより、測定により得られたOCT画像の歪みや誤差を補正するためである。
【0037】
また、グリッド線110の本数、太さ、溝の深さ、及び、配置位置等は、任意である。例えば、画像補正に対して有効に働く程度に、基準格子100に段違いのグリッド線110を配置することもできる。これにより、減衰及びアーチファクト等に対して対処できるためである。
【0038】
グリッド線110の間隔、太さ、及び、形状等は、OCT測定前に実寸法があらかじめ測定されており、当該実寸法に基づいて、OCT画像の歪みが補正される。
【0039】
図8A及び8Bは、図7に示されるA−A線での断面図である。グリッド線110は、図8Aに示すように、基準格子100の内部を貫くように形成される。また、グリッド線110は、図8Bに示すように、基準格子100の外周部(表面)のみに形成されてもよい。OCT画像に映し出されるグリッド線110と、実寸のグリッド線110と、の差に基づいて、OCT画像が補正される。このため、OCT画像を補正することができるグリッド線110であれば、任意である。
【0040】
なお、基準格子100にグリッド線110を形成する方法は任意である。例えば、基準格子100に所定のレーザー光を照射することにより、グリッド線110を形成することもできる。また、所定のサイズの立体を複数個結合することにより、各立体が結合された境界がグリッド線110となる基準格子100を形成することもできる。
【0041】
次に、基準格子100の使用方法について図面を参照して説明する。
【0042】
図9は、基準格子100の設置位置を説明するための図である。基準格子100は、典型的には、OCTにより歯牙の形状を測定する際に使用される。う蝕により形成されたう蝕穴、また、う蝕を治療するために当該う蝕が除去された窩洞に装填される修復物や補綴物の形状及びサイズを決定するためには、窩洞(う蝕穴)の形状及びサイズを測定する必要がある。そこで、基準格子100は、同図に示すように、歯牙に形成された窩洞に埋没させるように設置される。
【0043】
基準格子100は、例えば、光(近赤外線)を通す粘着性の部材を介して、歯牙の窩洞に固定される。歯牙の窩洞もしくは基準格子100に、粘着性の部材が塗布もしくは貼着され、基準格子100が窩洞に接着される。
【0044】
なお、基準格子100は、OCT測定の際に静止していればよい。このため、部材は、基準格子100を窩洞に一時的に固定できる程度の粘着性を有し、光を通す素材であれば、任意である。基準格子100を窩洞に固定するための部材の量は任意であり、また、部材を用いずに基準格子100を窩洞に固定してもよい。
【0045】
また、窩洞の形状及びサイズによって、任意の形状及びサイズの基準格子100を窩洞に設置することもできる。例えば、縦長に深い窩洞の場合、当該窩洞の形状に合わせた縦長の基準格子100を設置することもできる。
【0046】
図10は、基準格子100の使用方法を説明するための図である。基準格子100は歯牙の窩洞に固定され、典型的には、同図に示すように、当該窩洞が開口している方向から、歯牙及び基準格子100に対してOCTの光が照射される。OCT測定の際には、所定の位置を中心として扇状に広がって歯牙に照射される光のうち、照射領域の中心に位置する中心光と、基準格子100の中心となる中心グリッド線と、がほぼ一致するように照射されることが好ましい。これは、後述する画像の補正を容易にするためである。
【0047】
なお、中心光と中心グリッド線とが一致していない場合であっても、OCT画像を補正できる。このため、基準格子100の設定位置、及び、光の照射方向は任意である。
【0048】
図11は、基準格子100を含むOCT画像の一例である。OCT測定を行うことにより、同図に示すように、基準格子100のグリッド線110が表示されたOCT画像が取得される。当該OCT画像から窩洞の内形、斜面の角度、及び、深さ等が、当該窩洞の情報として測定される。
【0049】
しかしながら、上述したように、OCT画像には歪み等が存在するため、当該OCT画像上の基準格子100及びグリッド線110が歪み、さらに、深さ方向に対して距離が延長している。そこで、グリッド110の実寸法に基づいて、OCT画像上の基準格子100及びグリッド線110が、実寸法と一致するように補正が行われる。歪みを補正することによって、より正確に窩洞の内形等を測定することができる。以下に典型的な画像補正方法を示す。
【0050】
図12は、補正後のOCT画像の一例である。OCTにより測定される基準格子100が有するグリッド線110の実寸の間隔は、あらかじめ測定されている。このため、グリッド線110間の実寸値とグリッド線110間の測定値と、を比較することにより補正比(補正値)が求められる。そして、同図に示すように、グリッド線110の歪み等が補正されることにより、窩洞の内形、斜面の角度、及び、深さのより正確な窩洞の情報が取得される。
【0051】
OCT画像では、樽型歪みが比較的顕著に認められる。ここで、樽型歪みとは、被写体の直線部分が歪み、曲がって写ることにより、被写体が樽のように曲がる収差をいう。また、一般的に、幾何学的な歪みの中で最も顕著な影響を与えるのは、放射状歪みと接線歪みとされている。このため、OCT画像上においても放射状歪みと接線歪みとが、複合的に発生していると考えられる。
【0052】
放射状歪みは、理想的なレンズによる結像位置から内側または外側への位置のずれが生じ、内側への変位(負の変位)を樽型歪み、外側への変位(正の変位)を糸巻き型歪みと呼ばれる。放射状歪みは、次のような級数で表わされる。
σ=k+k+k+・・・、
ただし、r:光軸点からの距離、k、k、k・・・:歪み係数。
【0053】
また、全ての歪みが合わされた式は、次のように表される。この式中で,最も顕著な影響があるのはkを係数とする放射状歪みの項であり、多くの場合はこの要素のみが考慮される。
σ=s(u+v)+3p+p+2puv+ku(u+v)、
σ=s(u+v)+2puv+p+3p+kv(u+v)。
【0054】
歪みを有する補正前の画像上の点の座標を(x、y)とし、歪み補正後の画像上で対応する点の座標を(x、y)とすると、以下の式が成立する。
=(1+K1r+K2r)x+(2Pxy+P(r+2x))、
=(1+K1r+K2r)y+(P(r+2y)+2Pxy)、
ただし、x=x−C、y=y−C、r=x+y、C及びC:画像上光学的中心、K:樽型歪み変数、P:円周歪み変数。
【0055】
上述の式より、グリッド線110の測定値(測定座標)と実寸値(実寸座標)とから、補正値(補正座標)が求められる。このため、あらかじめ実寸法が測定されている基準格子100をOCTにより測定することにより、基準格子100が表示されるOCT画像を補正することにより、より正確なOCT画像を取得することができる。
【0056】
なお、樽型歪み、糸巻き型歪み、接線歪み、放射状歪み、もしくは、これらが組み合わされた歪み等、公知の手法により補正することができる。また、任意の手法により、画像を補正することもできる。また、基準格子100やグリッド線110を通過した光が、乱反射等した場合でも画像を補正することができる。
【0057】
また、歯牙及び基準格子100に任意の角度で照射光を照射することもできる。OCTでは、干渉により歯牙の内部から発せられる散乱光を増幅して検出することにより画像化が行われる。そのため、測定された生データでは、反射光は周囲の信号値に対して強すぎる輝度を持ち、アーチファクトとなってしまう可能性がある。つまり、基準格子100に光が照射される際、境界面で正反射しないようにする工夫が必要となる。また、素材自体にアンチリフレクト処理を行うこと、界面の処理によって屈折率の調整が必要になる。しかしながら、画像の補正に際して、90度の入射の方が高い精度を可能にすると考えられるが、補正前の画像に対して、90度以外の入射でも十分有効な精度向上ができるためである。
【0058】
これにより、基準格子100を使用することにより、OCT測定を行うことにより取得された歪みを含む画像を補正することができる。そして、歪みのない歯牙の画像から、当該歯牙の窩洞の形状が測定され、当該窩洞の形状に装填するための修復物や補綴物を作成することができる。
また、基準格子100を使用しても画像の歪みを完全に補正することができない場合、OCTからの光の軌道を修正するための焦点の異なる別のレンズを選択する必要性が明らかとなり、OCT測定に最適なレンズを選択することができる。
【0059】
次に、基準格子100を備える光干渉断層画像診断装置について説明する。図13は、光干渉断層画像診断装置200の概要構成を示す図である。光干渉断層画像診断装置200は、同図に示すように、測定部210、記憶部220、補正部230、表示部240等から構成される。以下に光干渉断層画像診断装置200の各構成要素について説明する。なお、各部の機能は互いに連関し合っているが、用途に応じて各部の採否を適宜変更することができる。
【0060】
測定部210は、図2に示すように、光源10、光ファイバ11、光ファイバ12、結合部13、コリメートレンズ14、スキャニングミラー15、対物レンズ16、コリメートレンズ17、参照ミラー18、及び、コリメートレンズ20等から、構成される。測定部210は、上述したOCTの基本原理に基づいて、対象物30(ここでは、ヒトの歯牙)を測定する。そして、測定部210は、測定された測定値に基づいて、OCT画像を出力する。
【0061】
図14は、基準格子100を備える測定部210を示す図である。測定部210は、同図に示すように、例えば、歯牙に光を照射するための先端部に基準格子100を備える。
【0062】
なお、測定部210は、生体組織の形態情報を測定できる一般的なOCTが備える測定プローブの先端部に基準格子100が接続されたものであってもよい。このため、測定部210は、例えば、スペクトルドメインOCT(SD−OCT)、又は、波長走査型OCT(SS−OCT)等のフーリエドメインOCT(FD−OCT)の公知の測定方法やその他の方式のOCTにおいても、歯牙等の生体組織を測定することができる。
【0063】
また、測定部210は、任意の位置に基準格子100を備えることもできる。また、測定部210から基準格子100を着脱することもできる。
【0064】
記憶部220は、例えば、RAM(Random Access Memory)やハードディスク等から構成され、測定部210が備える基準格子100のグリッド線110間の実寸値を記憶する。また、記憶部220は、測定部210により測定された測定値、補正部230により補正されたOCT画像等、任意の情報を記憶することもできる。
【0065】
補正部230は、測定部210が測定したグリッド線110の間隔の測定値と、記憶部220に記憶されるグリッド線110の間隔の実寸値と、に基づいて、OCT画像の補正を行う。補正部230は、グリッド線110間の測定値と実寸値とを比較して、任意の方法により当該測定値を補正して、OCT画像の補正を行う。
【0066】
表示部240は、例えば、液晶ディスプレイ等から構成され、補正部230によって補正されたOCT画像を表示する。また、表示部240は、例えば、補正前後のOCT画像等、任意の画像を表示することもできる。
【0067】
次に、本実施形態に係る光干渉断層画像診断装置200にて実行される画像補正処理を、図15のフローチャートを参照して説明する。
【0068】
まず、記憶部220は、測定部210が備える基準格子100の実寸値、及び、グリッド線110間の実寸値を記憶する(ステップS101)。基準格子100及びグリッド線110間の実寸値は、所定の装置及び方法によりあらかじめ測定されており、当該測定された値が実寸値として記憶される。
【0069】
なお、記憶部220は、複数の基準格子100のグリッド線110間の実寸値を記憶することもできる。例えば、測定部210が備える基準格子100が着脱可能な場合、記憶部220は、測定部210に取り付けられるすべての基準格子100に対応するグリッド線110間の実寸値を記憶することもできる。
【0070】
次に、測定部210は、対象物である歯牙の測定を行う(ステップS102)。図14に示すように、基準格子100を備える測定部210が、測定が所望される歯牙付近に配置される。そして、測定部210が所定の位置に配置されると、また、光干渉断層画像診断装置200を操作する操作者から測定開始を示す指示入力がなされると、歯牙の形状や、歯牙に形成された窩洞の形状が測定される。
【0071】
また、測定部210は、任意の歯牙の形状、及び、歯牙に形成された任意の窩洞の形状を測定することができる。
【0072】
次に、補正部230は、測定部210により測定されたグリッド線110間の測定値と、記憶部220に記憶されるグリッド線110間の実寸値と、を比較する(ステップS103)。測定部210が測定した測定値に基づくグリッド線110を示す画像は、図11に示すように、歪みを含む画像である。このため、補正部230は、測定値に基づくグリッド線110を、実寸値に基づくグリッド線110に一致させるように補正を行う。
【0073】
次に、補正部230は、測定値と実寸値との差に基づいて、グリッド線110間の測定値をグリッド線110間の実寸値と一致させるための補正値を算出する(ステップS104)。そして、補正部230は、当該補正値に基づくOCT画像を出力する。
【0074】
なお、補正部230は、測定値と実寸値とを一致させる任意の方法により、補正値を算出することができる。
【0075】
次に、表示部240は、補正部230が出力した補正値に基づくOCT画像を表示する(ステップS105)。図12に示すように、グリッド線110が補正された基準格子100が表示されたOCT画像が、モニタ等に表示される。
【0076】
以上説明したように、本発明によれば、光干渉断層画像診断を精度よく行うことができる。また、歪みのない歯牙の画像に基づいて、当該歯牙の窩洞の形状を測定できるため、当該窩洞の形状に装填するための修復物や補綴物を作成することができる。
【0077】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。
【0078】
図16は、基準格子100の変形例を示す図である。基準格子100は、同図に示すように、歯牙を覆う形状及びサイズであってもよい。当該基準格子100は、典型的には、いわゆるクラウン、を作成する際に使用される。ここで、クラウンとは、歯牙の大部分がう蝕等によって欠損している場合、歯冠のすべての面を切削し、金属または歯冠色材料で被覆することにより、当該歯牙の形態・機能・審美性を修復するものである。基準格子100により歯牙全体を覆うことにより、当該基準格子100に基づいて、歯牙全体を示すOCT画像を補正することができる。そして、当該歯牙に装填される修復物や補綴物を作成することもできる。
【0079】
図17は、図7のA−A線での断面の変形例を示す図である。グリッド線110は、同図に示すように、基準格子100の内部のみに形成されてもよい。グリッド線110間の測定寸法とグリッド線110間の実寸法とを比較することにより、OCT画像の含まれる歪みを補正できれば、グリッド線110の配置は任意である。
【0080】
光干渉断層画像診断装置200は、歯牙の窩洞に装填するための修復物や補綴物を作成する作成部を備えることもできる。作成部は、補正されたOCT画像上の窩洞の形状に基づいて、当該窩洞の形状に対応する修復物や補綴物を作成する。作成部は、任意の形状及びサイズの修復物や補綴物を作成することができる。
【0081】
なお、作成部は、修復物や補綴物を作成する際に、歯牙の窩洞と修復物や補綴物とを接着させるための接着領域だけ、いわゆるセメントラインだけ、修復物や補綴物を小さいサイズに作成することもできる。例えば、セメントラインが5μm〜50μmである場合、作成部は、修復物や補綴物の接着剤(セメント)が塗布される領域を、5μm〜50μmだけサイズを小さくした修復物や補綴物を作成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、本発明によれば、光干渉断層画像診断を精度よく行うのに好適な基準格子、基準格子の使用方法、及び、基準格子を備える光干渉断層画像診断装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0083】
10 光源
11、12 光ファイバ
13 結合部
14、17、20 コリメートレンズ
15 スキャニングミラー
16 対物レンズ
18 参照ミラー
21 光検出器
22 増幅器
23 信号処理部
24 画像処理部
25 表示部
30 対象物
100 基準格子
110 グリッド線
200 光干渉断層画像診断装置
210 測定部
220 記憶部
230 補正部
240 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光干渉断層画像の診断に用いられる基準格子であって、
光を透過する部材から構成され、
前記部材に複数のグリッド線を備え、
前記複数のグリッド線は、前記光干渉断層画像に表示される、
ことを特徴とする基準格子。
【請求項2】
前記グリッド線の間隔が、所定の距離にあらかじめ定められている、
ことを特徴とする請求項1に記載の基準格子。
【請求項3】
前記グリッド線は、格子状に配置されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の基準格子。
【請求項4】
請求項1に記載の基準格子の使用方法であって、
前記基準格子を対象物に固定し、
前記固定された基準格子及び前記対象物に低干渉光を照射し、当該基準格子及び当該対象物により当該低干渉光が反射された反射光に基づいて、当該基準格子及び当該対象物を測定し、
前記測定された基準格子が備えるグリッド線間の測定寸法と当該グリッド線間の実寸法との差に基づいて、前記測定された対象物の測定寸法に含まれる誤差を特定する、
ことを特徴とする基準格子の使用方法。
【請求項5】
前記特定された誤差を補正し、当該補正された対象物の測定寸法に基づく光干渉断層画像を表示する、
ことを特徴とする請求項4に記載の基準格子の使用方法。
【請求項6】
請求項1に記載の基準格子を備える光干渉断層画像診断装置であって、
前記基準格子及び対象物に低干渉光を照射し、当該基準格子及び当該対象物により当該低干渉光が反射された反射光に基づいて、当該基準格子及び当該対象物を測定する測定部と、
前記基準格子が備えるグリッド線間の実寸法を記憶する記憶部と、
前記測定された基準格子が備えるグリッド線間の測定寸法と前記グリッド線間の実寸法との差に基づいて、前記測定された対象物の測定寸法に含まれる誤差を補正する補正部と、
前期補正された対象物の測定寸法に基づく光干渉断層画像を表示する表示部と、を備える、
ことを特徴とする基準格子を備える光干渉断層画像診断装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図3】
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【図6】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−158309(P2011−158309A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18928(P2010−18928)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】