説明

変速制御装置

【課題】アップシフト制御中にアクセル開度が低開度状態に変化した場合でも、入力部材の回転速度を精度良く制御でき、トルクショックが車輪側に伝達されることを抑制する。
【解決手段】回転電機を有する駆動力源に連結される入力部材と、車輪に連結される出力部材と、入力部材の回転速度を各変速段の変速比で変速して出力部材に伝達する変速機構と、を備えた変速装置を制御する変速制御装置であって、解放側の摩擦係合要素の油圧指令を制御する解放側油圧制御部と、駆動力源から出力される駆動力を増加させる駆動力増加制御の指示を行う駆動力増加制御指示部と、アクセル低開度状態である場合に、解放側の摩擦係合要素が解放状態であるか否かを判定する解放判定部と、を備え、解放状態でないと判定された場合に解放側要素の油圧指令を入力部材の回転速度の変化に応じて制御し、解放状態であると判定された場合に駆動力増加制御の指示を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも回転電機を有する駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の摩擦係合要素の係合及び解放が制御されることにより複数の変速段が切り替えられ、前記入力部材の回転速度を各変速段の変速比で変速して前記出力部材に伝達する変速機構と、を備えた変速装置を制御するための変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機を駆動力源として備えるハイブリッド車両用の変速制御装置として、例えば、下記の特許文献1に記載された装置が既に知られている。この変速制御装置では、車両の減速時に、回転電機に回生トルクを出力させ、所望の減速度で車両を減速させて車両の制動を行ないつつ、運動エネルギーを電気エネルギーとして回収し、燃費の向上を図っている。
【0003】
特許文献1に記載の技術では、アクセル開度が所定値以下の状態でアップシフトが行われる場合に車両の運転者の意思によりブレーキ操作が行われる場合には、回転電機による回生制動が行われる場合がある。そのような場合に、アップシフトによる摩擦係合要素の架け替えが行われると、回転電機が出力する比較的大きな負トルク(回生トルク)により入力部材の回転速度は大きく引き下げられて急激に変化し、変速ショックが生じる可能性が高い。そのため、特許文献1に記載の技術では、回転電機が回生を行う際には、回転電機が出力する負トルクの大きさを一定の大きさ以下に制限するように構成されている。これにより、回転電機に駆動連結される入力部材の回転速度が急激に低下して、車両に変速ショックが生じるのを抑制している。
【0004】
しかし、特許文献1に記載された技術のように回生トルクの大きさを制限する構成とすると、変速ショックの発生は抑制できるが、その分だけ回生できるエネルギーが減少するので、エネルギー効率が低下してしまうという問題がある。
【0005】
このため、アップシフト制御中における、摩擦係合要素の係合状態に応じて、回転電機を含む駆動力源が負トルクを出力している状態でも、入力部材の回転速度を精度良く制御できるような制御方法を実現することが望まれるが、特許文献1に記載の技術では、対応し得ないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−94332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、アップシフト制御中であってアクセル低開度状態である場合に、摩擦係合要素の係合状態に応じて制御方法を切り替えて、入力部材の回転速度を精度良く制御することができるともに、係合側の摩擦係合要素の係合に伴いトルクショックが車輪側に伝達されることを抑制することができる変速制御装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る、
少なくとも回転電機を有する駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の摩擦係合要素の係合及び解放が制御されることにより複数の変速段が切り替えられ、前記入力部材の回転速度を各変速段の変速比で変速して前記出力部材に伝達する変速機構と、を備えた変速装置を制御するための変速制御装置の特徴構成は、変速比の小さい前記変速段への切替を行うアップシフト制御中に、解放される側の摩擦係合要素となる解放側要素の油圧指令を制御する解放側油圧制御部と、前記駆動力源から出力される駆動力を増加させる駆動力増加制御を指示する駆動力増加制御指示部と、前記アップシフト制御中であって、且つ車両のアクセル開度が所定値以下のアクセル低開度状態である場合に、前記解放側要素の係合圧が所定値以下である解放側要素解放状態であるか否かを判定する解放判定部と、を備え、前記解放判定部により解放側要素解放状態でないと判定された場合に、前記解放側油圧制御部が前記解放側要素の油圧指令を前記入力部材の回転速度の変化に応じて制御し、前記解放判定部により解放側要素解放状態であると判定された場合に、前記駆動力増加制御指示部が前記駆動力増加制御の指示を行う点にある。
【0009】
なお、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合要素、例えば摩擦クラッチや噛み合い式クラッチ等が含まれていてもよい。
また、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0010】
上記の特徴構成によれば、アップシフト制御中であって、且つアクセル開度が所定値以下のアクセル低開度状態である場合に、解放側要素解放状態でなければ、解放側要素を解放させずに入力部材の回転速度の変化に応じて解放側要素の油圧指令を制御することにより、アクセル低開度状態であるために入力部材の回転速度が低下しやすい状況でも、入力部材の回転速度を精度良く制御できる。よって、係合側要素を係合するときにトルクショックが生じて車輪側に伝達されることを抑制できる。
一方、アップシフト制御中であって、且つアクセル開度が所定値以下のアクセル低開度状態である場合に、解放側要素解放状態であれば、仮に、解放側要素の油圧指令を入力部材の回転速度の変化に応じて制御するようにしても、解放側要素の係合圧が再び上昇するまでに遅れが生じるために、入力部材の回転速度を応答性良く制御できない恐れがある。しかし、上記の特徴構成によれば、解放側要素解放状態であると判定された場合は、係合側要素が完全係合される前に、駆動力源の出力トルクを増加させる駆動力増加制御の指示を行うように制御方法が切り替えられる。従って、アクセル低開度状態であるために入力部材の回転速度が低下しやすい状況でも、解放側要素の油圧指令を入力部材の回転速度の変化に応じて制御しなくとも、入力部材の回転速度を応答性良くかつ精度良く制御できる。よって、係合側要素を係合するときにトルクショックが生じて車輪側に伝達されることを抑制できる。
【0011】
ここで、前記駆動力増加制御指示部は、前記アップシフト制御の進行状態である変速進行状態が、係合される側の摩擦係合要素となる係合側要素が完全係合される前の予め定めた状態まで進行したと判定したときに、前記駆動力増加制御の指示を開始する構成とすると好適である。
【0012】
この構成によれば、駆動力増加制御の指示を開始するタイミングを、変速進行状態により判定しているので、係合側要素が完全係合される前の所定の状態で、駆動力源から出力される駆動力を増加させることができる。よって、係合側要素が完全係合されるときの入力部材の回転速度を精度良く制御でき、トルクショックが生じることを抑制できる。
【0013】
ここで、前記駆動力増加制御指示部は、前記駆動力源から出力されている駆動力が予め定めたしきい値以下であることを条件として、前記駆動力増加制御の指示を行う構成とすると好適である。
【0014】
アクセル開度がアクセル低開度状態になった場合でも、係合側要素が完全係合される前に、駆動力源から出力されている駆動力が所定のしきい値より大きい場合は、駆動力源から出力されている駆動力を増加させると、駆動力が必要以上に増加して、入力部材の回転速度の制御精度がむしろ悪くなる。また、車輪側に伝達される駆動力が低開度のアクセル開度により指令されている駆動力より大幅に高くなるので、車両の押し出し感が生じて運転者の意図した動きから外れる。上記の構成によれば、アクセル開度がアクセル低開度状態になった場合でも、係合側要素が完全係合される前に、駆動力源から出力されている駆動力が所定のしきい値より大きい場合には、駆動力源から出力されている駆動力を増加させないので、入力部材の回転速度の制御精度が悪化することを抑制できるともに、車両の押し出し感が生じてドライバビリティが悪化することを抑制できる。
【0015】
また、前記駆動力増加制御指示部は、係合される側の摩擦係合要素となる係合側要素における入出力部材間の回転速度差の減少速度を減少させるように、前記駆動力を増加させる指示を行う構成とすると好適である。
【0016】
この構成によれば、係合側要素の入出力部材間の回転速度差の減少速度が減少するように、駆動力を増加させる指示を行うので、係合側要素の入出力部材間の回転速度差がなくなる前後における、係合側要素を伝達しているトルクの変化量を減少させることができ、係合側要素を係合するときのトルクショックを低減することができる。
【0017】
また、前記駆動力増加制御指示部は、係合される側の摩擦係合要素となる係合側要素における入出力部材間の回転速度差の減少速度に基づいて、前記駆動力の増加量を決定する構成とすると好適である。
【0018】
この構成によれば、係合側要素の入出力部材間の回転速度差の減少速度が変動した場合でも、変動した回転速度差の減少速度に基づいて、駆動力の増加量を決定することができる。よって、回転速度差の減少速度が変動しても、係合側要素の入出力部材間の回転速度差の減少速度の制御精度を向上することができ、係合側要素を係合するときのトルクショックを低減することができる。
【0019】
また、前記駆動力増加制御中に、係合される側の摩擦係合要素となる係合側要素を完全係合させる構成とすると好適である。
【0020】
この構成によれば、駆動力増加制御により係合側要素の入出力部材間の回転速度差の減少速度が制御されているときに、係合側要素を完全係合させることができ、係合側要素を係合するときのトルクショックを低減することができる。
【0021】
また、前記駆動力増加制御指示部は、前記駆動力を増加させる指示を行った後、前記駆動力増加制御を行わせない場合の目標駆動力まで次第に前記駆動力源から出力される駆動力を減少させる指示を行う構成とすると好適である。
【0022】
この構成によれば、係合側要素が係合された後、車輪側に伝達される駆動力の変化量を小さくすることができ、トルクショックの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用駆動装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る変速制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の本実施形態に係る変速制御装置の処理を示すタイミングチャートである。
【図4】本発明の本実施形態に係る変速制御装置の処理を示すタイミングチャートである。
【図5】本発明の本実施形態とは異なる処理を示すタイミングチャートである。
【図6】本発明の本実施形態に係る変速制御装置の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る変速制御装置31の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置1の概略構成を示す模式図である。この図に示すように、車両用駆動装置1を搭載した車両は、駆動力源として内燃機関としてのエンジンEと回転電機MGを備えたハイブリッド車両とされている。この図において、実線は駆動力の伝達経路を示し、破線は作動油の供給経路を示し、一点鎖線は電力の供給経路を示している。この図に示すように、本実施形態に係る車両用駆動装置1は、概略的には、エンジンE及び回転電機MGを駆動力源として備え、これらの駆動力源の駆動力をトルクコンバータTC及び変速装置2を介して車輪Whへ伝達する構成となっている。変速装置2は、エンジンE及び回転電機MGに駆動連結される入力部材としての中間軸Mと、車輪Whに駆動連結される出力部材としての出力軸Oと、複数の摩擦係合要素C1、B1・・・を有し、当該複数の摩擦係合要素の係合及び解放が制御されることにより複数の変速段が切り替えられ、中間軸Mの回転を各変速段の変速比で変速して出力軸Oに伝達する変速機構TMと、を備えている。変速制御装置31は、変速装置2の制御を行う。また、この車両用駆動装置1は、トルクコンバータTCや変速機構TM等の各部に所定油圧の作動油を供給するための油圧制御装置PCを備えている。車両用駆動装置1は、入力軸I、中間軸M、出力軸Oのそれぞれの回転速度を検出する入力軸回転速度センサSe1、中間軸回転速度センサSe2、出力軸回転速度センサSe3を備えている。また、車両用駆動装置1は、エンジンE及び回転電機MGを制御する動力制御装置32を備えている。
【0025】
このような構成において、本実施形態に係る変速制御装置31は、変速比の小さい変速段への切替を行うアップシフト制御中に、解放される側の摩擦係合要素となる解放側要素の油圧指令を制御する解放側油圧制御部41と、駆動力源から出力される駆動力を増加させる駆動力増加制御を指示する駆動力増加制御指示部42と、アップシフト制御中であって、且つ車両のアクセル開度が所定値以下のアクセル低開度状態である場合に、解放側要素の係合圧が所定値以下である解放側要素解放状態であるか否かを判定する解放判定部43と、を備えている。そして、変速制御装置31は、解放判定部43により解放側要素解放状態でないと判定された場合に、解放側油圧制御部41が解放側要素の油圧指令を中間軸Mの回転速度の変化に応じて制御する解放側スリップ制御を行い、解放判定部43により解放側要素解放状態であると判定された場合に、駆動力増加制御指示部42が駆動力増加制御の指示を行う点に特徴を有している。なお、本実施形態では、変速制御装置31に備えられた制御切替部44が、解放側要素解放状態であるか否かに応じて、解放側スリップ制御と、駆動力増加制御の指示との間で、制御方法の切り替えを行うように構成されている。以下、本実施形態に係る変速制御装置31について、詳細に説明する。
【0026】
1.車両用駆動装置の駆動伝達系の構成
まず、本実施形態に係る車両用駆動装置1の駆動伝達系の構成について説明する。図1に示すように、車両用駆動装置1は、車両駆動用の駆動力源としてエンジンE及び回転電機MGを備え、これらのエンジンEと回転電機MGとが直列に駆動連結されるパラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置となっている。本実施形態では、車両用駆動装置1は、トルクコンバータTCと変速機構TMとを備えており、当該トルクコンバータTC及び変速機構TMにより、駆動力源としてのエンジンE及び回転電機MGの回転速度を変速すると共にトルクを変換して出力軸Oに伝達する。
【0027】
エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、エンジンEのクランクシャフト等の出力回転軸が、伝達クラッチECを介して入力軸Iに駆動連結されている。これにより、入力軸Iは伝達クラッチECを介してエンジンEと選択的に駆動連結される。この伝達クラッチECは、動力制御装置32により制御されて、係合又は解放する摩擦係合要素である。なお、エンジンEの出力回転軸が、入力軸Iと一体的に駆動連結され、或いはダンパ等の他の部材を介して駆動連結された構成としても好適である。
【0028】
回転電機MGは、図示しないケースに固定されたステータMGaと、このステータMGaの径方向内側に回転自在に支持されたロータMGbと、を有している。この回転電機MGのロータMGbは、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。すなわち、本実施形態においては、入力軸IにエンジンE及び回転電機MGの双方が駆動連結される構成となっている。回転電機MGは、蓄電装置としてのバッテリ(不図示)に電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。すなわち、回転電機MGは、バッテリからの電力供給を受けて力行し、或いはエンジンEや車輪Whから伝達される回転駆動力により発電した電力をバッテリに蓄電する。なお、バッテリは蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。なお、以下では回転電機MGによる発電を回生と称し、発電中に回転電機MGが出力する負トルクを回生トルクと称する。回転電機の目標出力トルクが負トルクの場合には、回転電機MGは、車輪Whから伝達される回転駆動力により発電しつつ回生トルクを出力する状態となる。
【0029】
入力軸Iには、トルクコンバータTCが駆動連結されている。トルクコンバータTCは、駆動力源としてのエンジンE及び回転電機MGに駆動連結された入力軸Iの回転駆動力を、中間軸Mを介して変速機構TMに伝達する装置である。このトルクコンバータTCは、入力軸Iに駆動連結された入力側回転部材としてのポンプインペラTCaと、中間軸Mに駆動連結された出力側回転部材としてのタービンランナTCbと、これらの間に設けられ、ワンウェイクラッチを備えたステータTCcと、を備えている。そして、トルクコンバータTCは、内部に充填された作動油を介して、駆動側のポンプインペラTCaと従動側のタービンランナTCbとの間で駆動力の伝達を行う。
【0030】
ここで、トルクコンバータTCは、ロックアップ用の摩擦係合要素として、ロックアップクラッチLCを備えている。このロックアップクラッチLCは、ポンプインペラTCaとタービンランナTCbとの間の回転速度差(滑り)を無くして伝達効率を高めるために、ポンプインペラTCaとタービンランナTCbとを一体回転させるように連結するクラッチである。従って、トルクコンバータTCは、ロックアップクラッチLCの滑りのない係合状態である完全係合状態では、作動油を介さずに、駆動力源(入力軸I)の駆動力を直接変速装置2(中間軸M)に伝達する。本実施形態においては、このロックアップクラッチLCは、基本的には滑りのない係合状態である完全係合状態とされ、入力軸Iと中間軸Mとが一体回転する状態で動作する。従って、本実施形態では、入力軸Iと中間軸Mとは基本的には互いに等しい回転速度で回転する。ロックアップクラッチLCを含むトルクコンバータTCには、油圧制御装置PCにより調圧された作動油が供給される。
【0031】
トルクコンバータTCの出力軸としての中間軸Mには、変速装置2が駆動連結されている。すなわち、中間軸Mは変速装置2の入力軸として機能する。変速装置2は、変速比の異なる複数の変速段を有する有段の自動変速装置である。変速装置2は、これら複数の変速段を形成するため、遊星歯車機構等の歯車機構と複数の摩擦係合要素B1、C1、・・・とを備えている。本例では、複数の摩擦係合要素B1、C1、・・・は、それぞれ摩擦材を有して構成されるクラッチやブレーキ等の係合要素である。これらの摩擦係合要素B1、C1、・・・は、供給される油圧を制御することによりその係合圧を制御して伝達トルク容量の増減を連続的に制御することが可能とされている。このような摩擦係合要素としては、例えば湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキ等が好適に用いられる。ここで、変速比は、変速機構TMにおいて各変速段が形成された場合の、出力部材の回転速度に対する入力部材の回転速度の比であり、本願では中間軸Mの回転速度を出力軸Oの回転速度で除算した値である。
【0032】
摩擦係合要素は、その入出力部材間の摩擦により、入出力部材間でトルクを伝達する。伝達トルク容量とは、摩擦係合要素が摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさである。摩擦係合要素の入出力部材間に回転速度差(滑り)がある場合は、回転速度の大きい方の部材から小さい方の部材に伝達トルク容量の大きさのトルクが伝達される。摩擦係合要素の入出力部材間に回転速度差(滑り)がない場合は、摩擦係合要素は、伝達トルク容量の大きさを上限として、摩擦係合要素の入出力部材に作用するトルクを伝達する。伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素の係合圧に比例して変化する。係合圧とは、入力側摩擦板と出力側摩擦板とを相互に押し付け合う圧力である。本実施形態では、係合圧は、供給されている油圧の大きさに比例して変化する。すなわち、本実施形態では、伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素に供給されている油圧の大きさに比例して変化する。
【0033】
変速機構TMの各摩擦係合要素は、リターンばねを備えており、ばねの反力により解放側に付勢されている。そして、各摩擦係合要素に供給される油圧により生じる力がばねの反力を上回ると、各摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じ始め、各摩擦係合要素は、解放状態から係合状態に変化する。この伝達トルク容量が生じ始めるときの油圧を、ストロークエンド圧と称す。各摩擦係合要素は、供給される油圧がストロークエンド圧を上回った後、油圧の増加に比例して、その伝達トルク容量が増加するように構成されている。ここで、解放状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じていない状態であり、係合状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じている状態である。
【0034】
図1には、複数の摩擦係合要素の一例として、第一クラッチC1及び第一ブレーキB1が模式的に示されている。複数の摩擦係合要素の係合又は解放を切り替えることにより、歯車機構が有する複数の回転要素の回転状態が切り替えられて、変速段の切り替えが行われる。
変速段の切り替えに際しては、変速前において係合している摩擦係合要素のうちの一つ(以下、解放側要素と称す)を解放させると共に、変速前において解放されている摩擦係合要素のうちの一つ(以下、係合側要素と称す)を係合させる、いわゆる架け替え変速が行われる。以下では、変速機構TMに形成されている変速段を、変速比が大きい低速段から変速比が小さい高速段へ移行させる(例えば、第二速段から第三速段)アップシフトが行われる場合について説明する。
【0035】
変速機構TMは、各変速段について設定された所定の変速比で、中間軸Mの回転速度を変速すると共にトルクを変換して、出力軸Oへ伝達する。変速装置TMから出力軸Oへ伝達されたトルクは、ディファレンシャル装置DFを介して左右二つの車輪Whに分配されて伝達される。なお本例では、車両用駆動装置1は、中間軸M及び出力軸Oが同軸上に配置された一軸構成とされている。なお本例では、入力軸I、中間軸M、及び出力軸Oの全てが同軸上に配置された一軸構成とされている。
【0036】
2.油圧制御系の構成
次に、上述した車両用駆動装置1の油圧制御系について説明する。油圧制御系は、図示しないオイルパンに蓄えられた作動油を吸引し、車両用駆動装置1の各部に作動油を供給するための油圧源として、図1に示すように、機械式ポンプ23及び電動ポンプ24の二種類のポンプを備えている。機械式ポンプ23は、トルクコンバータTCのポンプインペラTCaを介して入力軸Iに駆動連結され、エンジンE及び回転電機MGの一方又は双方の回転駆動力により駆動される。電動ポンプ24は、ポンプ駆動用の電動モータ25の駆動力により動作するオイルポンプである。電動ポンプ24を駆動する電動モータ25は、低電圧バッテリ(不図示)と電気的に接続され、低電圧バッテリからの電力の供給を受けて駆動力を発生する。この電動ポンプ24は、機械式ポンプ23を補助するためのポンプであって、車両の停止中や低速走行中など、機械式ポンプ23から必要な油量が供給されない状態で動作する。
【0037】
また、油圧制御系は、機械式ポンプ23及び電動ポンプ24から供給される作動油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置PCを備えている。ここでは詳しい説明を省略するが、油圧制御装置PCは、油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、ロックアップクラッチLC、トルクコンバータTC、及び変速装置TMの複数の摩擦係合要素C1、B1、・・・に供給される。
【0038】
3.制御装置の構成
車両用駆動装置1は、変速制御装置31及び動力制御装置32を備えている。変速制御装置31及び動力制御装置32は、互いに情報の受け渡しを行い、協調して制御を行うことができるように構成されている。以下、各制御装置について説明する。
【0039】
3−1.動力制御装置
動力制御装置32は、エンジン制御部33、回転電機制御部34、及び伝達クラッチ制御部35、並びにこれらの制御部を統合して制御を行う統合制御部36を備えている。エンジン制御部33、回転電機制御部34、伝達クラッチ制御部35、及び統合制御部36は、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。
【0040】
3−1−1.統合制御部
統合制御部36は、エンジンE、回転電機MG、並びに伝達クラッチECに対して行われる各種トルク制御を統合する制御を行う機能部である。
統合制御部36は、アクセル開度、及び車速、並びにバッテリの充電量等に応じて、エンジンE及び回転電機MGの駆動力源から入力軸Iに出力されて中間軸Mに伝達される駆動力の目標値である目標出力トルクを算出し、目標出力トルクを各駆動力源に割り振り、エンジン目標出力トルク及び回転電機目標出力トルクを算出するとともに、伝達クラッチECの目標伝達トルク容量を算出し、それらを他の制御部33から35に指令する機能部である。なお、エンジン目標出力トルク及び回転電機目標出力トルクの合計が、目標出力トルクとなる。
【0041】
統合制御部36は、アクセル開度、車速、及びバッテリの充電量等に基づいて、駆動力源から入力軸Iに出力する出力トルクのドライバ要求値であるドライバ要求出力トルクを算出するとともに、ドライバ要求出力トルクを各駆動力源へ割り振り、エンジン目標出力トルク及び回転電機目標出力トルクを算出する。本実施形態では、ドライバ要求出力トルクは、アクセル開度の変化に対して遅れを持って変化するように構成されている。
【0042】
本実施形態では、統合制御部36は、変速制御装置31から後述する駆動力増加制御による駆動力増加が指令されていない場合は、ドライバ要求出力トルクを目標出力トルクに設定し、エンジン目標出力トルク及び回転電機目標出力トルクを、そのままエンジン制御部33及び回転電機制御部34に指令する。
【0043】
一方、統合制御部36は、変速制御装置31から駆動力増加制御が指示されている場合は、駆動力増加制御を行う。本実施形態では、統合制御部36は、変速制御装置31から駆動力増加が指令されている場合は、変速制御装置31から指令された増加目標出力トルクを目標出力トルクに設定して、駆動力増加制御を行う。もしくは、統合制御部36は、変速制御装置31からトルク増加量が指令されている場合は、ドライバ要求出力トルクにトルク増加量を加算した値を、目標出力トルクに設定するようにしてもよい。そして、ドライバ要求出力トルクから増加目標出力トルクまで増加されたトルク増加量は、本実施形態では、回転電機MGに割り振られ、回転電機目標出力トルクがトルク増加量だけ増加される。回転電機MGは、目標出力トルクに対する実出力トルクの応答遅れが、エンジンEに比べて小さい。本実施形態によると、トルク増加量が、回転電機MGに割り振られるので、トルク増加量がステップ的に変化しても、応答性よく入力軸I及び中間軸Mに出力される出力トルクを増加させることができる。よって、中間軸Mの回転速度の制御性を向上することができ、変速によるトルクショックの発生を防止することができる。
【0044】
統合制御部36は、各駆動力源に指令したエンジン目標出力トルク及び回転電機目標出力トルクと、それらの合計である目標出力トルクと、ドライバ要求出力トルクと、実際に各駆動力源から出力されているエンジンの実出力トルク及び回転電機の実出力トルクと、それらの合計である駆動力源出力トルクと、を変速制御装置31に伝達するように構成されている。
【0045】
3−1−2.エンジン制御部
エンジン制御部33は、エンジンEの動作制御を行う機能部である。本実施形態では、エンジン制御部33は、統合制御部36から指令されたエンジン目標出力トルクをトルク指令値に設定し、エンジンEがトルク指令値のトルクを出力するようにエンジンEを制御する。また、エンジン制御部33は、エンジンEから実際に出力されている実出力トルクの情報を統合制御部36に伝達するように構成されている。エンジン制御部33は、トルク指令値に基づき実出力トルクの情報を算出して伝達するようにしてもよいし、エンジンEが実際に出力しているトルクを推定し、推定したトルクをエンジンEの実出力トルクの情報として伝達するようにしてもよい。
【0046】
3−1−3.回転電機制御装置
回転電機制御部34は、回転電機MGの動作制御を行う機能部である。回転電機制御部34は、統合制御部36から指令された回転電機目標出力トルクをトルク指令値に設定し、回転電機MGがトルク指令値のトルクを出力するように回転電機MGを制御する。なお、アクセル開度が小さく減速時などの回生発電中には、回転電機目標出力トルクは負に設定される。これにより、回転電機MGは正方向に回転しつつ負方向の回生トルクを出力して発電する。また、回転電機制御部34は、回転電機MGから実際に出力されている実出力トルクの情報を統合制御部36に伝達するように構成されている。回転電機制御部34は、トルク指令値に基づき実出力トルクの情報を算出して伝達するようにしてもよいし、回転電機MGが実際に出力しているトルクを回転電機MGに流れる電流等から推定し、推定したトルクを回転電機MGの実出力トルクの情報として伝達するようにしてもよい。
【0047】
3−1−4.伝達クラッチ制御部
伝達クラッチ制御部35は、伝達クラッチECを制御する機能部である。ここで、伝達クラッチ制御部35は、統合制御部36から指令された目標伝達トルク容量に基づき、伝達クラッチECに供給される油圧を制御することにより、伝達クラッチECの係合又は解放を制御する。本実施形態においては、伝達クラッチECは、基本的に滑りのない係合状態である完全係合状態に制御されている。
【0048】
3−2.変速制御装置
次に、本実施形態に係る変速制御装置31の構成について説明する。変速制御装置31は、図2に示すように、変速装置2の動作制御を行う中核部材としての機能を果たしている。この変速制御装置31は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えると共に、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている(不図示)。そして、ROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、変速制御装置31の各機能部41〜45が構成される。
【0049】
また、車両用駆動装置1は、センサSe1〜Se5を備えており、各センサから出力される電気信号は変速制御装置31に入力される。変速制御装置31は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。
入力軸回転速度センサSe1は、入力軸Iの回転速度を検出するためのセンサである。変速制御装置31は、入力軸回転速度センサSe1の入力信号に基づいて入力軸Iの回転速度を検出する。中間軸回転速度センサSe2は、中間軸Mの回転速度を検出するためのセンサである。変速制御装置31は、中間軸回転速度センサSe2の入力信号に基づいて中間軸Mの回転速度を検出する。出力軸回転速度センサSe3は、出力軸Oの回転速度を検出するためのセンサである。変速制御装置31は、出力軸回転速度センサSe3の入力信号に基づいて変速装置2の出力側の回転速度を検出する。また、出力軸Oの回転速度は車速に比例するため、変速制御装置31は、出力軸回転速度センサSe3の入力信号に基づいて車速を算出する。
また、アクセル開度センサSe4は、運転者により操作されるアクセルペダルの操作量を検出することによりアクセル開度を検出するためのセンサである。変速制御装置31は、アクセル開度センサSe4の入力信号に基づいてアクセル開度を検出する。シフト位置センサSe5は、シフトレバーの選択位置(シフト位置)を検出するためのセンサである。変速制御装置31は、シフト位置センサSe5からの入力情報に基づいて、「ドライブレンジ」、「セカンドレンジ」、「ローレンジ」等のいずれの走行レンジが運転者により指定されたかを検出する。
【0050】
図2に示すように、変速制御装置31は、変速制御部40と、変速制御部40の下位の機能部として解放側油圧制御部41、駆動力増加制御指示部42、解放判定部43、及び制御切替部44を備えている。
【0051】
また、本実施形態では、変速制御装置31は、ロックアップクラッチLCを制御する機能部であるロックアップクラッチ制御部45も備えている。ロックアップクラッチ制御部45は、油圧制御装置PCを介してロックアップクラッチLCに供給される油圧を制御することにより、ロックアップクラッチLCの係合又は解放を制御する。本実施形態では、ロックアップクラッチ制御部45は、少なくともパワーオフ状態である場合は、ロックアップクラッチLCを滑りのない係合状態である完全係合状態に制御して、回生発電効率を高めるように構成されている。よって、駆動力源から入力軸Iに出力される目標出力トルク及び駆動力源出力トルクは、中間軸Mに伝達されるトルクに等しくなる。
【0052】
3−2−1.変速制御部
変速制御部40は、変速機構TMの変速段を切り替える変速制御を行う機能部である。変速制御部40は、車速、アクセル開度、及びシフト位置などのセンサ検出情報に基づいて変速機構TMにおける目標変速段を決定し、目標変速段が変更された場合に変速段を切り替えると判定する。そして、変速制御部40は、変速段を切り替えると判定した後、油圧制御装置PCを介して変速機構TMに備えられた各摩擦係合要素B1、C1、・・・の油圧指令を制御して、各摩擦係合要素の係合又は解放を行い、変速機構TMに形成される変速段を目標変速段に切り替える。
【0053】
本実施形態では、変速制御部40は、不図示のメモリに格納された変速マップを参照し、目標変速段を決定する。変速マップは、アクセル開度及び車速と、変速機構TMにおける目標変速段との関係を規定したマップである。変速マップには複数のアップシフト線と複数のダウンシフト線とが設定されており、車速及びアクセル開度が変化して変速マップ上でアップシフト線又はダウンシフト線を跨ぐと、変速制御部40は、変速機構TMにおける新たな目標変速段を決定して変速段を切り替えると判定する。また、変速制御部40は、シフト位置の変更があった場合も、目標変速段を変更して変速段を切り替えると判定する場合がある。例えば、セカンドレンジ、又はローレンジに変更されたと検出した場合に、目標変速段が変更される場合がある。なお、アップシフトとは変速比の大きい変速段である低速段から変速比の小さい変速段である高速段への切替を意味する。また、ダウンシフトは変速比の小さい変速段である高速段から変速比の大きい変速段である低速段への切替を意味する。
【0054】
変速制御部40は、新たな目標変速段に応じて複数の摩擦係合要素C1、B1、・・・の油圧指令を制御することにより、変速機構TMにおける変速段を切り替える。具体的には、変速制御部40は、油圧制御装置PCに各摩擦係合要素の目標油圧(指令圧)を指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(指令圧)の油圧を各摩擦係合要素に供給する。この際、変速制御部40は、解放側要素を解放させると共に、係合側要素を係合させる。例えば、アップシフトが行われる場合には、変速制御部40は、低速段を形成する摩擦係合要素の1つである解放側要素を解放させるとともに、高速段を形成する摩擦係合要素の1つである係合側要素を係合させるアップシフト制御を行う。以下では、変速段の切替制御として、アップシフト制御を行う場合について説明する。
【0055】
3−2−2.駆動力増加制御及び解放側スリップ制御
変速制御部40は、アップシフト制御中に、解放側要素の油圧指令を制御する解放側油圧制御部41と、駆動力源から出力される駆動力を増加させる駆動力増加制御を指示する駆動力増加制御指示部42と、アップシフト制御中であって、且つアクセル開度が低開度状態判定値以下のアクセル低開度状態である場合に、解放側要素の係合圧が解放側判定値以下である解放側要素解放状態であるか否かを判定する解放判定部43と、解放判定部43により解放側要素解放状態でないと判定された場合に、解放側油圧制御部41に解放側要素の油圧指令を中間軸Mの回転速度の変化に応じて制御する解放側スリップ制御を行わせ、解放判定部43により解放側要素解放状態であると判定された場合に、駆動力増加制御指示部42に駆動力増加制御の指示を行わせる制御切替部44と、を備える。以下で、本実施形態に係る各機能部41から44の処理について、図3、4に示すタイムチャートの例に基づき説明する。
【0056】
図3に示すタイムチャートは、解放判定部43が、アップシフト制御中であって、且つアクセル低開度状態となった場合に、解放側要素解放状態であると判定した場合における処理の例を示している。すなわち、図3の時刻t11でアップシフト制御が開始されてアップシフト制御中になり、且つ時刻t14でアクセル開度が低開度状態判定値以下になりアクセル低開度状態となった場合に、解放判定部43が、解放側要素の係合圧が解放側判定値以下である解放側要素解放状態であると判定している。
【0057】
図4に示すタイムチャートは、解放判定部43が、アップシフト制御中であって、且つアクセル低開度状態となった場合に、解放側要素の係合圧が解放側判定値より大きく解放側要素解放状態でないと判定した場合における処理の例を示している。すなわち、図4の時刻t31でアップシフト制御が開始されてアップシフト制御中になり、且つ時刻t32でアクセル開度が低開度状態判定値以下になりアクセル低開度状態となった場合に、解放判定部43が、解放側要素の係合圧が解放側判定値より大きく解放側要素解放状態でないと判定している。
【0058】
なお、解放判定部43は、アップシフト制御が開始される前に、アクセル開度が低開度状態判定値以下となっている場合には、アップシフト制御が開始された場合に、アップシフト制御中であって、且つアクセル低開度状態となるため、解放側要素解放状態であるか否かを判定する。この判定時点は、アップシフト制御の開始時点であり解放側要素の解放開始前の状態であるため、解放側要素の係合圧は、解放側判定値より大きくなり、解放判定部43は、解放側要素解放状態でないと判定する。
【0059】
3−2−3.アップシフト制御中に駆動力増加制御を行う場合
まず、図3に例を示すように、解放判定部43が、アップシフト制御中であって、且つアクセル低開度状態となった場合に、解放側要素解放状態であると判定する場合を説明する。
【0060】
3−2−3−1.パワーオンアップシフト制御
変速制御部40は、目標変速段が変速比の大きい変速段から変速比の小さい変速段へ変更され、アップシフトを行うと判定した場合に、一連のアップシフト制御のシーケンスを開始する(時刻t11)。図3に示す例は、アップシフトを開始した時点では、アクセル開度は、低開度状態判定値より大きいアクセル高開度状態となっており、駆動力源からの出力トルクは少なくともゼロより大きくなり、変速制御部40は、パワーオンアップシフト制御を開始する。
【0061】
3−2−3−2.プレ制御相
変速制御部40は、パワーオンアップシフト制御を開始した場合、制御フェーズを通常制御相からプレ制御相に移行させる(時刻t11)。プレ制御相は、変速機構TMの解放側要素及び係合側要素の係合圧を、予め変化させておくフェーズである。本実施形態では、変速制御部40は、プレ制御相に移行させた後(時刻t11)に、変速機構TMの係合側要素に、伝達トルク容量を生じ始めさせるために、係合側要素に供給される油圧を、所定の係合側予備圧にする制御を開始する。本例では、この係合側予備圧は、係合側要素のストロークエンド圧より所定圧だけ小さい圧に設定される。ここで、「ストロークエンド圧」は、摩擦係合要素が伝達トルク容量を発生させる直前の係合圧である。変速制御部40は、図3の例に示すように、係合側予備圧の制御の開始後、一時的に係合側予備圧より高い指令圧を設定し、実圧の立ち上がりを早める制御を行っている。
【0062】
変速制御部40は、プレ制御相に移行した後に、変速機構TMの解放側要素に供給されている油圧を、完全係合圧から駆動力源出力トルクに応じて設定される解放側予備圧まで減少させる。ここで、解放側予備圧は、駆動力源から出力されている駆動力源出力トルクを解放側要素が車輪Wh側に伝達できる最小限の油圧である直結限界圧より所定圧だけ大きくなるように設定される。完全係合圧は、駆動力源出力トルクが駆動力源としてのエンジンE及び回転電機MGの最大出力トルクの合計となっても摩擦係合要素に滑りを生じない油圧である。
【0063】
3−2−3−3.トルク制御相
変速制御部40は、プレ制御相の開始後所定期間が経過した場合に、制御フェーズをプレ制御相からトルク制御相に移行させる(時刻t12)。
パワーオンアップシフト制御のトルク制御相では、トルクの関係は、低速段から高速段の状態に移行されるが、回転速度の関係は、変化せず低速段の状態の回転速度のままに維持され、係合側要素はトルクを摩擦により伝達しながら滑っている状態にされ、解放側要素は解放状態にされる。つまり、トルク制御相では、回転速度の関係は、低速段の関係のままで変化がなく、トルク分担だけが低速段から高速段の関係に移行される。
【0064】
変速制御部40は、トルク制御相への移行後(時刻t12)に、係合側要素の供給油圧を係合側予備圧から直結限界圧まで次第に増加させる。ここで、係合側要素の直結限界圧は、係合側要素が駆動力源から中間軸Mに伝達されている出力トルクである駆動力源出力トルクを車輪Wh側に伝達できる最小限の油圧であり、駆動力源出力トルクに応じて設定される。一方、変速制御部40は、トルク制御相への移行後、解放側要素の供給油圧を、解放側予備圧からステップ的に所定圧だけ減少させた後、ゼロまで次第に減少させる。本例では、解放側要素の供給油圧が解放側要素のストロークエンド圧に到達する時点が、係合側要素の供給油圧が直結限界圧に到達する時点と概ね一致するように設定されている。
【0065】
解放側要素の供給油圧が次第に減少されていくと、解放側要素の係合圧としての供給油圧(本例では指令圧)が解放判定値以下になる(時刻t13)。ここで、解放判定値は、本実施形態では、解放側要素のストロークエンド圧に設定されており、解放側要素の供給油圧(指令圧)が解放判定値以下になる時点は、トルク制御相の終了時点であって、イナーシャ制御相の開始時点にほぼ一致する。あるいは、解放判定値は、解放側要素のストロークエンド圧より所定圧だけ小さい又は大きい圧力に設定されてもよい。
【0066】
3−2−3−4.イナーシャ制御相
変速制御部40は、係合側要素の供給油圧(指令圧)が直結限界圧に到達した場合(時刻t13)に、制御フェーズをトルク制御相からイナーシャ制御相に移行させる。
パワーオンアップシフト制御のイナーシャ制御相では、係合側要素の供給油圧を直結限界圧より大きくすることにより、係合側要素の入出力部材間の摩擦により中間軸Mから車輪Wh側に伝達されるトルクである変速機構伝達トルクを、駆動力源から中間軸Mに伝達されている出力トルクである駆動力源出力トルクの大きさより上回らせる(時刻t13以降)。係合側要素により車輪Wh側に駆動力源出力トルク以上のトルクが伝達されるので、入力部材側(中間軸M)に作用する総計トルク(中間軸作用トルク)は負トルクになり、係合側要素の入力部材側の回転速度を出力部材側の回転速度まで減少させ、係合側要素の入出力部材間の回転速度差(滑り)がない状態に移行させる。この入力部材側の回転速度の減少速度は、負トルクとなる総計トルク(中間軸作用トルク)の大きさに比例し、入力部材側のイナーシャ(慣性モーメント)に反比例する。
【0067】
変速制御部40は、イナーシャ制御相への移行後(時刻t13)に、係合側要素の供給油圧を直結限界圧から次第に増加させる。これにより、中間軸Mに作用している負トルクとなる総計トルクの大きさが増加し、中間軸Mの回転速度の減少速度が増加する。図3の例では、イナーシャ制御相の途中(時刻t14)でパワーオフ状態となるので示されていないが、通常のパワーオンアップシフト制御では、変速制御部40は、中間軸Mの回転速度が、変速後の変速段である高速段の目標回転速度に近づいてくると、係合側要素の供給油圧を減少させ、係合側要素の伝達トルク容量を減少させて伝達トルクを減少せる。これにより、負トルクとなる総計トルクの大きさを減少させて、中間軸Mの回転速度の減少速度を減少させていき、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度に到達した時の、中間軸Mの回転速度の加速度が、高速段の目標回転速度の加速度に一致するように制御する。ここで、各変速段における中間軸Mの目標回転速度は、出力軸Oの回転速度に各変速段の変速比を乗算した回転速度に設定される。
【0068】
3−2−3−5.パワーオンアップシフト制御中のパワーオフ
図3に示す例では、イナーシャ制御相へ移行するとともに、解放側要素の係合圧としての供給油圧(指令圧)が解放判定値以下に減少してから(時刻t13以降)、アクセル開度が、低開度状態判定値以下に低下している(時刻t14)。
アクセル開度が低開度状態判定値以下に低下すると、アクセル開度に基づき算出されるドライバ要求出力トルクは負トルクまで低下する。よって、図3に示す例では、パワーオンアップシフト制御中に、パワーオフ状態に変化している。なお、本実施形態では、ドライバ要求出力トルクは、アクセル開度の変化に対して遅れを持って変化するように構成されており、図3に示す例では、駆動力源出力トルクは、アクセル開度が低開度状態判定値以下に低下してから、遅れを持って低下している。また、アクセル開度が低開度状態判定値以下に低下すると、回転電機目標出力トルクが負トルクに設定され、回転電機MGは回生発電を行う。
【0069】
変速制御部40は、係合側要素の直結限界圧を、常時、駆動力源出力トルクに応じて算出し、駆動力源出力トルクの変化に応じて、係合側要素の供給油圧を変更するように構成されている。よって、変速制御部40は、駆動力源出力トルクが低下してくると、係合側要素の供給油圧を低下させていく(時刻t14以降)。この係合側要素の供給油圧の低下とともに、係合側要素の摩擦により中間軸Mから車輪Wh側に伝達されるトルクである変速機構伝達トルクも低下していく。
【0070】
駆動力源出力トルクが負トルクになると、係合側要素の入力部材側(中間軸M)に作用する総計トルク(中間軸作用トルク)は、係合側要素の摩擦により中間軸Mから車輪Wh側に伝達される変速機構伝達トルクの反作用として中間軸Mに作用する負トルクと、駆動力源出力トルクの負トルクとの合計となり、総計トルクは負トルクになる。変速制御部40は、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度に近づいてきた場合に、係合側要素の供給油圧を低下させて変速機構伝達トルクによる負トルクの大きさを減少させても、駆動力源出力トルクが負トルクであるため、総計トルクは負トルクのままとなり、上記した通常のパワーオンアップシフト制御のように、総計トルクを所望の値に制御できなくなる。また、本例では、解放側要素は解放状態となっており、解放側スリップ制御を行って、解放側要素の供給油圧を増加させて解放側要素から中間軸Mに作用する正トルクを増加させるためには、解放側要素に予備圧を供給して解放側要素を供給油圧を増加させる必要がある。このため、解放側要素が解放されてから解放側要素の解放側スリップ制御を開始するように構成しても、十分な応答性を持って総計トルクを所望の値に制御できない恐れがある。このような課題に対して、本実施形態では、以下で詳細に説明する駆動力増加制御の指示を行う。
【0071】
3−2−3−6.駆動力増加制御の指示を行わない場合の課題
駆動力増加制御の説明を行う前に、本実施形態とは異なり、駆動力増加制御の指示を行わない場合に生じる課題を、図5に示す例を用いて、より具体的に説明する。図5の時刻t25の前までは、図3の時刻t15の前までと同様の制御が行われている。
中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度に近づいてきた場合(時刻t24から時刻t25)に、係合側要素の供給油圧を低下させて変速機構伝達トルクによる負トルクの大きさを減少させても、駆動力源出力トルクが負トルクであるため、総計トルクは負トルクのままとなり、中間軸Mの回転速度の減少速度は増加している。また、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度に十分近づいた場合(時刻t25)に、係合側要素を滑りなく完全係合させるために、係合側要素の供給油圧を完全係合圧まで増加させる制御を開始している。よって、負トルクとなる総計トルクの大きさが更に増加している。このため、中間軸Mの回転速度は、高速段の目標回転速度に対して下側にオーバーシュートする(時刻t26〜時刻t28)。
【0072】
中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度より高い場合(時刻t26より前)は、係合側要素の入力部材の回転速度は、係合側要素の出力部材の回転速度より高く、係合側要素の入力部材から出力部材に、伝達トルク容量のトルクが伝達される。中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度を下回ると(時刻t26より後)、係合側要素の入力部材の回転速度は、係合側要素の出力部材の回転速度より低くなり、トルク伝達の向きが逆転して、係合側要素の出力部材から入力部材に、伝達トルク容量のトルクが伝達される。よって、図5の時刻t26付近に示しているように、係合側要素の摩擦により中間軸Mから車輪Wh側に伝達されるトルクである変速機構伝達トルクの正負が反転してステップ的に変化するため、車輪Whにトルクショックが伝達される。
【0073】
係合側要素の供給油圧がさらに増加されていくと(時刻t26以降)、係合側要素の伝達トルク容量が増加していって変速機構伝達トルクの負トルクの大きさが増加していく。変速機構伝達トルクが、駆動力源出力トルクを下回ると(時刻t27)、中間軸Mに作用する総計トルク(中間軸作用トルク)は正トルクになり、中間軸Mの回転速度は上昇し始める。中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度まで上昇すると(時刻t28)、係合側要素の入出力部材間の回転速度差(滑り)がなくなり、係合側要素は、駆動力源出力トルクをそのまま変速機構伝達トルクとして車輪Wh側に伝達するようになる。このとき、駆動力源出力トルクを下回っていた変速機構伝達トルクは、駆動力源出力トルクまでステップ的に増加するため、車輪Whにトルクショックが伝達されてしまう(時刻t28)。また、中間軸Mの回転速度が、高速段の目標回転速度を下回ってから、高速段の目標回転速度まで再び上昇させるために、係合側要素の供給油圧(伝達トルク容量)が大きく増加されている。よって、変速機構伝達トルクの変化量が大きくなり、トルクショックが大きくなっている。また、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度をオーバーシュートしている期間分、アップシフト制御期間が延長している。
【0074】
従って、本実施形態とは異なり、駆動力増加制御の指示を行わない場合は、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度を下側にオーバーシュートしてしまい、車輪Wh側に伝達されるトルクショックが大きくなり、アップシフト制御期間が遅延する課題がある。このような課題を解消するため、本実施形態では、以下で詳細に説明する駆動力増加制御の指示を行う。
【0075】
3−2−3−7.パワーオフへの変化による駆動力増加制御の指示の実行
図3に示す例では、解放側要素の係合圧としての供給油圧(指令圧)が解放判定値以下に減少してから(時刻t13)、アクセル開度が、低開度状態判定値以下に減少している(時刻t14)。よって、本例では、解放判定部43は、アップシフト制御中であって、且つアクセル開度が低開度状態判定値以下になりアクセル低開度状態となった場合に、解放側要素の係合圧が解放側判定値以下である解放側要素解放状態であると判定する(時刻t14)。
【0076】
制御切替部44は、解放判定部43により解放側要素解放状態であると判定された場合には、解放側油圧制御部41に解放側要素の解放側スリップ制御を行わせず、駆動力増加制御指示部42に駆動力増加制御の指示を行わせる制御の切替を行う(時刻t14)。上記したように、解放側要素は解放であるので、解放側要素の供給油圧をストロークエンド圧より増加させて解放側スリップ制御を行うためには、解放側要素の供給油圧を増加させる必要がある。よって、解放側要素が解放されてから解放側スリップ制御を開始するように構成しても、十分な応答性を持って解放側要素から中間軸Mに作用する正トルクを増加させることができない恐れがある。このため、制御切替部44は、応答性良く中間軸Mに作用する正トルクを増加させることができる駆動力増加制御の指示を行わせるように制御の切替を行っている。
制御切替部44が駆動力増加制御の指示を行わせるように制御の切替を行った場合、駆動力増加制御指示部42は、係合側要素が完全係合される前に駆動力源から出力される駆動力を増加させる駆動力増加制御を指示する。本実施形態では、駆動力増加制御指示部42は、駆動力の増加量を算出し、駆動力の増加量を動力制御装置32に指令することにより、動力制御装置32に駆動力を増加させる駆動力増加制御の指示を行っている。
【0077】
3−2−3−8.駆動力増加制御の指示の開始判定
本実施形態では、駆動力増加制御指示部42は、アップシフト制御の進行状態である変速進行状態が、係合側要素が完全係合される前の予め定めた状態まで進行したと判定したときに、駆動力増加制御の指示を開始する。本例では、変速制御部40は、変速進行状態を、中間軸Mの回転速度が低速段の目標回転速度に一致する場合に0%になり、高速段の目標回転速度に一致する場合に100%になるような割合で正規化して算出している。駆動力増加制御指示部42は、変速進行状態が、所定割合に設定されている増加開始判定値(例えば90%)以上になったと判定したときに、駆動力増加制御の指示を開始する(時刻t15)。もしくは、中間軸Mの回転速度から高速段の目標回転速度を減算して求めた回転速度差である差回転速度Wが、所定値以下となったと判定したときに、駆動力増加制御の指示を開始するようにしてもよい。
【0078】
また、本実施形態では、駆動力増加制御指示部42は、上記の変速進行状態の判定に加えて、駆動力源から出力されている駆動力が予め定めたしきい値以下であることを条件として、駆動力増加制御の指示を開始する。本例では、駆動力増加制御指示部42は、駆動力源出力トルクが増加開始判定トルク以下であることを条件としている。ここで、増加開始判定トルクは、係合側要素により中間軸Mから車輪Wh側に伝達されるトルクである変速機構伝達トルクの反作用として中間軸Mに作用する負トルクに抗して、差回転速度Wの減少速度(中間軸Mの回転速度の減少速度)を減少できるような、正トルク(例えば、100[N])に設定される。変速機構伝達トルクの大きさは、係合側要素の伝達トルク容量に応じて変化するため、駆動力増加制御指示部42は、係合側要素の供給油圧に基づき係合側要素の伝達トルク容量を算出し、伝達トルク容量を増加開始判定トルクに設定するようにしてもよい。
【0079】
一方、駆動力源出力トルクが増加開始判定トルクより大きい場合は、駆動力を増加させなくとも、差回転速度Wの減少速度(中間軸Mの回転速度の減少速度)を減少できるため、駆動力増加制御の指示を開始しない。
【0080】
3−2−3−9.駆動力増加制御の指示の開始
駆動力増加制御指示部42は、駆動力増加制御の指示を開始した場合、係合側要素における入出力部材間の回転速度差の減少速度を減少させるように、駆動力源から出力される駆動力を増加させる制御の指示を行う。本実施形態では、駆動力増加制御指示部42は、差回転速度Wの減少速度に応じて、差回転速度Wの減少速度を減少させるように、駆動力源から出力される駆動力の増加量を算出する。より具体的には、駆動力増加制御指示部42は、駆動力を増加させる前の差回転速度Wの減少速度を算出し、減少速度に係合側要素の入力部材側のイナーシャを乗算した値をトルク増加量に設定する。ここで、トルク増加量は、ドライバ要求出力トルクからの増加量である。また、係合側要素の入力部材側のイナーシャは、変速機構TMにおける係合要素の入力部材側の歯車機構、中間軸M、トルクコンバータTC、入力軸I、回転電機MG、及びエンジンEなどの中間軸Mと一体的に回転している各回転部材のイナーシャの合計である。なお、入力部材側のイナーシャは、伝達クラッチECの係合状態、及びロックアップクラッチLCの係合状態に応じて変化する、中間軸Mと一体的に回転する各回転部材のイナーシャの合計に基づき、変更されるように構成されている。もしくは、駆動力増加制御指示部42は、差回転速度Wの減少速度に係合側要素の入力部材側のイナーシャを乗算した値を所定値又は所定割合だけ増加又は減少した値を、トルク増加量に設定してもよい。もしくは、算出した差回転速度Wの減少速度から目標とする減少速度を減算した値に、係合側要素の入力部材側のイナーシャを乗算した値をトルク増加量に設定してもよい。もしくは、駆動力増加制御指示部42は、差回転速度Wの減少速度に応じてトルク増加量を予め設定したマップを備え、差回転速度Wの減少速度及びマップに基づきトルク増加量を算出するようにしてもよい。あるいは、駆動力増加制御指示部42は、上記した増加開始判定トルクの設定と同様に、係合側要素の供給油圧に基づき係合側要素の伝達トルク容量を算出し、算出した伝達トルク容量からドライバ要求出力トルクを減算した値をトルク増加量に設定するようにしてもよい。
【0081】
駆動力増加制御指示部42は、トルク増加量が、正の値の場合は、ドライバ要求出力トルクにトルク増加量を加算した値を増加目標出力トルクとして動力制御装置32に指令する(時刻t15)。なお、駆動力増加制御指示部42は、動力制御装置32に、トルク増加量を直接指令するようにしてもよい。またこの際、駆動力増加制御指示部42が、駆動力を増加させる駆動力源(本例では、回転電機MG)を指定するようにしてもよい。動力制御装置32は、上記したように、回転電機MGの出力トルクを応答性良く増加させる。これにより、駆動力源出力トルクを、変速機構伝達トルクの反作用として中間軸Mに作用する負トルクと同じ大きさの正トルクまで、増加させることができる。よって、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度に到達する直前に、差回転速度Wの減少速度をゼロ付近まで減少できる。従って、本実施形態では、図5に示した駆動力増加制御の指示を行わない場合の例とは異なり、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度を下側にオーバーシュートすることを防止できるとともに、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度に到達するときの、中間軸Mの回転速度の加速度を、高速段の目標回転速度の加速度に近づけることができる。また、係合側要素の供給油圧を完全係合圧まで増加させる際に、係合側要素の供給油圧が低い段階で、係合側要素の入出力部材間の回転速度差(滑り)をなくすことができる(時刻t16)。よって、当該回転速度差がなくなる前後(時刻t16の前後)における変速機構伝達トルクの変化量を小さくすることができ、トルクショックの発生を抑制することができる。また、アップシフト制御期間の延長を抑制できる。
【0082】
本実施形態では、駆動力増加制御指示部42は、トルク増加量を増加量制限値により上限制限するように構成されており、ドライバ要求出力トルクに上限制限されたトルク増加量を加算した値を増加目標出力トルクとして動力制御装置32に指令するように構成されている。この上限制限により、差回転速度Wの減少速度の算出誤差などにより、トルク増加量が、差回転速度Wの減少速度を減少させるために必要な増加量以上に大きくなった場合でも、上限制限することができ、差回転速度Wが増加してアップシフト完了までの期間が延長することを抑制できるとともに、車輪Wh側に伝達されるトルクが増加することを抑制できる。
【0083】
3−2−3−10.駆動力増加制御の指示の終了
駆動力増加制御指示部42は、駆動力源から出力される駆動力を増加させる指示を行った後、駆動力増加制御を行わせない場合の目標駆動力まで、次第に駆動力源から出力される駆動力を減少させる指示を行って、駆動力増加制御の指示を終了する。
本実施形態では、上記のように差回転速度Wの減少速度及びイナーシャに基づきトルク増加量を算出した後、トルク増加量をゼロまで所定のトルク減少勾配で減少させる(時刻t15以降)。あるいは、トルク減少勾配の大きさは、増加目標出力トルクの減少勾配がドライバ要求出力トルクの減少勾配よりも大きくなる(例えば、2倍)ように設定されるように構成してもよい。そして、駆動力増加制御指示部42は、トルク増加量がゼロまで減少した場合に、動力制御装置32への指令を終了して駆動力増加制御の指示を終了する(時刻t18)。このように、係合側要素が完全係合される前に、駆動力の増加により差回転速度Wの減少速度を一旦減少させた後、駆動力の増加量を次第に減少させているので、差回転速度Wの減少速度を次第に増加させて差回転速度Wをゼロまで緩やかに減少させることができる。また、駆動力の増加量を次第に減少させているので、中間軸Mから車輪Wh側に伝達される変速機構伝達トルクの変化量を小さくすることができ、トルクショックの発生を抑制することができる。
【0084】
3−2−3−11.係合側要素の完全係合
変速制御部40は、駆動力増加制御指示部42が駆動力増加制御の指示を開始した場合に、係合側要素の係合圧(指令圧)を、完全係合圧まで増加させる制御を開始する。本実施形態では、変速制御部40は、駆動力増加制御指示部42が駆動力増加制御の指示を開始した場合(時刻t15以降)に、係合側要素の供給油圧(指令圧)を、所定の傾きで次第に増加させた後(時刻t15〜t17)、ステップ的に完全係合圧まで増加させる(時刻t17)。このように、係合側要素の係合圧を次第に増加させているので、駆動力の増加により差回転速度Wの減少速度が減少した後、差回転速度Wの減少速度を次第に増加させて差回転速度Wをゼロまで緩やかに減少させつつ、係合側要素を滑りのない係合状態である完全係合状態に移行させることができる。もしくは、変速制御部40は、差回転速度Wの大きさが所定値以下(例えば、50rpm以下)になった場合に、係合側要素の係合圧を、完全係合圧まで増加させる制御を開始するようにしてもよい。
【0085】
変速制御部40は、係合側要素の係合圧(指令圧)が完全係合圧まで増加するとともに、駆動力増加制御の指示が終了した場合に、一連のアップシフト制御を終了する。
【0086】
3−2−4.アップシフト制御中に解放側スリップ制御を行う場合
次に、図4に例を示すように、解放判定部43が、アップシフト制御中であって、且つアクセル低開度状態となった場合に、解放側要素解放状態でないと判定する場合を説明する。
【0087】
3−2−4−1.パワーオンアップシフト制御
変速制御部40は、図3に示した場合と同様に、アップシフトを行うと判定した場合に、一連のアップシフト制御のシーケンスを開始する(時刻t31)。図4に示す例も、アップシフトを開始した時点では、アクセル開度は、低開度状態判定値より大きいアクセル高開度状態となっており、変速制御部40は、パワーオンアップシフト制御を開始する。
【0088】
3−2−4−2.プレ制御相
変速制御部40は、パワーオンアップシフト制御を開始した場合、図3に示した場合と同様に、制御フェーズを通常制御相からプレ制御相に移行させてプレ制御相の制御を開始する(時刻t31)。変速制御部40は、係合側要素の供給油圧を、所定の係合側予備圧にする制御を開始する。また、変速制御部40は、解放側要素の供給油圧を、完全係合圧から解放側予備圧まで減少させる。解放側予備圧は、駆動力源から出力されている駆動力源出力トルクを解放側要素が車輪Wh側に伝達できる最小限の油圧である直結限界圧より所定圧だけ大きくなるように設定される。
【0089】
3−2−4−3.パワーオフへの変化による解放側スリップ制御の実行
図4に示す例では、プレ制御相中に、アクセル開度が解放側判定値以下になりアクセル低開度状態となっている(時刻t32)。すなわち、解放側要素の係合圧が解放側判定値以下になるより前に、アクセル開度が解放側判定値以下になりアクセル低開度状態となっている。よって、本例では、解放判定部43は、アップシフト制御中であって、且つアクセル開度が低開度状態判定値以下になりアクセル低開度状態となった場合に、解放側要素の係合圧が解放側判定値より大きく解放側要素解放状態でないと判定する(時刻t32)。
制御切替部44は、解放判定部43により解放側要素解放状態でないと判定された場合には、駆動力増加制御指示部42に駆動力増加制御の指示を行わせず、解放側油圧制御部41に解放側要素の油圧指令を中間軸Mの回転速度の変化に応じて制御する解放側スリップ制御を行わせる制御の切替を行う(時刻t32)。すなわち、本例では、解放側要素が解放状態になる前に、パワーオフ状態になるので、解放側要素を解放させずに、解放側スリップ制御を行って、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度に近づいてきた場合に、解放側要素の供給油圧を増加させて解放側要素から中間軸Mに作用する正トルクを増加させる。駆動力源出力トルクが負トルクになっても、解放側油圧制御部41は、解放側要素の係合圧を変化させることにより、中間軸Mに作用する総計トルクを所望の値に制御できる。解放側油圧制御部41は、中間軸Mの回転速度の変化に応じて、解放側要素の油圧指令をフィードバック制御して、中間軸Mの回転速度が、高速段の目標回転速度に対して下側にオーバーシュートすることを抑制する。本例では、解放側油圧制御部41は、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度に近づくにつれて、差回転速度Wの減少速度が減少するように、解放側要素の油圧指令をフィードバック制御する。例えば、解放側油圧制御部41は、差回転速度Wに応じて予め設定された差回転速度Wの減少速度の目標値と、実際の差回転速度Wの減少速度と、の偏差が減少するように、解放側要素の油圧指令をフィードバック制御する。ここで、差回転速度Wの減少速度の目標値は、差回転速度Wが減少するにつれて、減少するように設定される。上記したように、差回転速度Wは、中間軸Mの回転速度から高速段の目標回転速度を減算して求めた回転速度差である。
【0090】
3−2−4−4.解放側スリップ制御
変速制御部40は、プレ制御相の開始後所定期間が経過した場合に、解放側スリップ制御を実行する場合は、制御フェーズをプレ制御相からイナーシャ制御相に移行させる(時刻t33)。解放側スリップ制御のイナーシャ制御相では、解放側要素の供給油圧を直結限界圧より低下させることにより、解放側要素の入出力部材間の摩擦により中間軸Mから車輪側に伝達される負トルクの変速機構伝達トルクの大きさを、駆動力源から中間軸Mに伝達されている負トルクの駆動力源出力トルクの大きさより減少させる(時刻t33以降)。解放側要素の摩擦(滑り)により車輪Wh側に駆動力源出力トルクより小さい大きさの負トルクが伝達されるので、入力部材側(中間軸M)に作用する総計トルク(中間軸作用トルク)は負トルクになり、中間軸Mの回転速度を高速段の目標回転速度まで減少させることができる。ここで、解放側要素の供給油圧における直結限界圧からの低下量に比例して、負トルクとなる総計トルク(中間軸作用トルク)の大きさを増加できる。また、中間軸Mの回転速度の減少速度は、負トルクとなる総計トルク(中間軸作用トルク)の大きさに比例し、中間軸Mと一体的に回転する各回転部材のイナーシャ(慣性モーメント)に反比例する。よって、解放側油圧制御部41は、解放側要素の供給油圧における直結限界圧からの低下量を増減することにより、差回転速度Wの減少速度を増減させる。
【0091】
解放側油圧制御部41は、イナーシャ制御相への移行後(時刻t33)、解放側要素の供給油圧を解放側予備圧からステップ的に直結限界圧まで減少させた後、直結限界圧から次第に減少させる。これにより、解放側要素の入出力部材間に回転速度差(滑り)が生じる状態になるとともに、中間軸Mに作用している負トルクとなる総計トルクの大きさが増加し、差回転速度Wの減少速度が増加する。解放側油圧制御部41は、係合側要素の供給油圧を係合側予備圧に維持する。解放側油圧制御部41は、中間軸Mの回転速度が、高速段の目標回転速度に近づいてくると(時刻t34)、解放側要素の供給油圧を次第に増加させる。これにより、負トルクとなる総計トルクの大きさが次第に減少されて、差回転速度Wの減少速度が減少されていく。よって、解放側油圧制御部41は、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度に到達した時の、中間軸Mの回転速度の加速度が、高速段の目標回転速度の加速度に一致するように、解放側要素の供給油圧を増加させる。そして、解放側油圧制御部41は、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度に到達した場合(時刻t35)に、解放側要素の供給油圧を次第にゼロまで減少させて、解放側スリップ制御を終了する。
【0092】
3−2−4−5.係合側要素の完全係合
変速制御部40は、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度に到達した場合に、係合側要素の係合圧(指令圧)を、完全係合圧まで増加させる制御を開始する。本実施形態では、変速制御部40は、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度に到達した場合(時刻t35)に、係合側要素の供給油圧(指令圧)を、完全係合圧までステップ的に増加させる。もしくは、変速制御部40は、差回転速度Wの大きさが所定値以下(例えば、50rpm以下)になった場合に、係合側要素の係合圧を、完全係合圧まで増加させる制御を開始するようにしてもよい。
【0093】
図4に示す例に基づき説明したように、解放側要素解放状態でないと判定された場合に解放側スリップ制御を実行することにより、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度を下側にオーバーシュートすることを防止できるとともに、中間軸Mの回転速度が高速段の目標回転速度に到達するときの、中間軸Mの回転速度の加速度が、高速段の目標回転速度の加速度に一致するようにできる。また、係合側要素の入出力部材間の回転速度差がない状態で、係合側要素の供給油圧を完全係合圧まで増加させることができる。よって、係合側要素が完全係合されるときの変速機構伝達トルクの変化量を小さくすることができ、トルクショックの発生を抑制することができる。また、アップシフト制御期間の延長を抑制できる。
【0094】
3−2−5.アップシフト制御のフローチャート
次に、変速制御部40におけるアップシフト制御の処理について、図6のフローチャートを参照して説明する。まず、変速制御部40は、アップシフトを行うと判定した場合には、一連のアップシフト制御を開始する(ステップ#11:Yes)。解放判定部43は、アップシフト制御を開始した場合に、アクセル開度が低開度状態判定値以下のアクセル低開度状態であるか判定する(ステップ#12)。アクセル低開度状態であると判定された場合には(ステップ♯12:Yes)、解放判定部43は、解放側要素の係合圧が解放側判定値より大きく解放側要素解放状態でないと判定し、制御切替部44は、駆動力増加制御の指示ではなく、解放側スリップ制御を行わせる制御の切替を行う(ステップ♯22)。そして、解放側油圧制御部41は、解放側要素を解放させずに、一連の解放側スリップ制御を開始する(ステップ♯23)。変速制御部40は、一連の解放側スリップ制御が終了して、アップシフト制御が終了したと判定した場合には(ステップ♯24:Yes)、アップシフト制御の処理を終了する。
【0095】
一方、アクセル低開度状態でないと判定された場合には(ステップ♯12:No)、変速制御部40は、パワーオンアップシフト制御を開始する(ステップ#13)。解放判定部43は、パワーオンアップシフト制御の開始後、アクセル開度が低開度状態判定値以下のアクセル低開度状態となったか判定する(ステップ#14)。アクセル開度がアクセル低開度状態でないと判定された場合には(ステップ♯14:No)、一連のアップシフト制御が終了するまで(ステップ♯15:No)、解放判定部43は、繰り返し、ステップ♯14のアクセル低開度状態であるかの判定を行う。一方、アクセル開度がアクセル低開度状態にならないまま(ステップ♯14:No)、一連のアップシフト制御が終了した場合には(ステップ♯15:Yes)、アップシフト制御の処理を終了する。
【0096】
一方、アクセル開度がアクセル低開度状態になったと判定された場合には(ステップ♯14:Yes)、解放判定部43は、解放側要素の係合圧が解放側判定値以下である解放側要素解放状態であるか否かを判定する(ステップ#16)。解放側要素解放状態であると判定された場合には(ステップ♯16:Yes)、制御切替部44は、解放側スリップ制御ではなく、駆動力増加制御の指示を行わせる制御の切替を行う(ステップ♯17)。そして、駆動力増加制御指示部42は、変速進行状態が所定状態まで進行するとともに、駆動力源から出力されている駆動力が所定値以下となり、駆動力増加制御の指示の開始条件が成立したか判定する(ステップ#18)。駆動力増加制御の指示の開始条件が成立していないと判定された場合には(ステップ♯18:No)、一連のアップシフト制御が終了するまで(ステップ♯20:No)、駆動力増加制御指示部42は、繰り返し、ステップ♯18の駆動力増加制御の指示の開始条件が成立したかの判定を行う。
【0097】
一方、駆動力増加制御の指示の開始条件が成立したと判定された場合には(ステップ♯18:Yes)、駆動力増加制御指示部42は、上述したように、駆動力源から出力される駆動力を増加させる一連の駆動力増加制御の指示を開始する(ステップ♯19)。変速制御部40は、一連の駆動力増加制御の指示が終了して、アップシフト制御が終了したと判定した場合には(ステップ♯21:Yes)、アップシフト制御の処理を終了する。
【0098】
一方、解放側要素解放状態でない判定された場合には(ステップ♯16:No)、制御切替部44は、駆動力増加制御の指示ではなく、解放側スリップ制御を行わせる制御の切替を行う(ステップ♯22)。そして、解放側油圧制御部41は、解放側要素を解放させずに、一連の解放側スリップ制御を開始する(ステップ♯23)。変速制御部40は、一連の解放側スリップ制御が終了して、アップシフト制御が終了したと判定した場合には(ステップ♯24:Yes)、アップシフト制御の処理を終了する。
【0099】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態においては、変速制御装置31が、制御部40から45を備える場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速制御装置31が、エンジン制御部33、回転電機制御部34、伝達クラッチ制御部35、及び統合制御部36の何れか1つ又は複数と統合されて、備えられるようにすることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0100】
(2)上記の実施形態においては、車両用駆動装置1が、駆動力源として回転電機MG及びエンジンEを備える場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、車両用駆動装置1が、駆動力源として少なくとも1つの回転電機MGを備えれば良く、例えば、エンジンEを備えないように構成したり、2つの回転電機MGを備えるように構成したりすることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0101】
(3)上記の実施形態においては、車両用駆動装置1がトルクコンバータTCを備える場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、車両用駆動装置1がトルクコンバータTCを備えずに、入力軸Iと中間軸Mが一体的に駆動連結されるように構成することも本発明の好適な実施形態の一つである。もしくは、車両用駆動装置1が、トルクコンバータTCの替わりに伝達クラッチECと同様のクラッチを備え、当該クラッチにより入力軸Iと中間軸Mとの間を、選択的に係合又は解放するように構成するようにしてもよい。この場合、少なくともパワーオフ状態である場合は、当該クラッチは滑りのない係合状態である完全係合状態にされる。
【0102】
(4)上記の実施形態においては、変速制御部40が、アップシフトを行う際に、低速段の解放側要素の係合圧を制御して解放し、高速段の係合側要素の係合圧を制御して係合する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、低速段の解放側要素が、その係合圧が制御されなくとも解放状態になるワンウェイクラッチで構成され、変速制御部40が、高速段の係合側要素の係合圧を制御して係合するだけで、アップシフトを行えるように構成することも本発明の本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、解放判定部43は、アップシフト制御中であって、且つアクセル低開度状態となった場合に、解放側要素解放状態であると判定し、制御切替部44は駆動力増加制御の指示を行わせるように判定する。
【0103】
(5)上記の実施形態においては、駆動力増加制御指示部42が、差回転速度Wの減少速度に応じて、差回転速度Wの減少速度を減少させるように、駆動力源から出力される駆動力の増加量を算出する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、駆動力増加制御指示部42が、差回転速度Wの減少速度に依らずに、駆動力増加制御の指示において、駆動力源から出力される駆動力の増加量を固定値とするように構成することも本発明の本発明の好適な実施形態の一つである。
【0104】
(6)上記の実施形態においては、統合制御部36が、変速制御装置31から指令されたトルク増加量を回転電機MGに割り振り、回転電機目標出力トルクをトルク増加量だけ増加させる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、統合制御部36が、変速制御装置31から指令されたトルク増加量をエンジンEに割り振り、エンジン目標出力トルクをトルク増加量だけを増加させるようにしてもよい。この場合であっても、変速制御装置31は、エンジンEの目標出力トルクに対する応答性を考慮して、駆動力増加のタイミングを設定するように構成すれば、タイミングよく、中間軸Mの回転速度を制御することができ、変速によるトルクショックの発生を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、少なくとも回転電機を有する駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の摩擦係合要素の係合及び解放が制御されることにより複数の変速段が切り替えられ、前記入力部材の回転速度を各変速段の変速比で変速して前記出力部材に伝達する変速機構と、を備えた変速装置を制御するための変速制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0106】
MG:回転電機
E:エンジン(内燃機関)
EC:伝達クラッチ
TM:変速機構
Wh:車輪
W:差回転速度
I:入力軸
M:中間軸(入力部材)
O:出力軸(出力部材)
PC:油圧制御装置
Se1:入力軸回転速度センサ
Se2:中間軸回転速度センサ
Se3:出力回転速度センサ
Se4:アクセル開度センサ
Se5:シフト位置センサ
TC:トルクコンバータ
LC:ロックアップクラッチ
1:車両用駆動装置
2:変速装置
31:変速制御装置
32:動力制御装置
33:エンジン制御部
34:回転電機制御部
35:伝達クラッチ制御部
36:統合制御部
40:変速制御部
41:解放側油圧制御部
42:駆動力増加制御指示部
43:解放判定部
44:制御切替部
45:ロックアップクラッチ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも回転電機を有する駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の摩擦係合要素の係合及び解放が制御されることにより複数の変速段が切り替えられ、前記入力部材の回転速度を各変速段の変速比で変速して前記出力部材に伝達する変速機構と、を備えた変速装置を制御するための変速制御装置であって、
変速比の小さい前記変速段への切替を行うアップシフト制御中に、解放される側の摩擦係合要素となる解放側要素の油圧指令を制御する解放側油圧制御部と、
前記駆動力源から出力される駆動力を増加させる駆動力増加制御を指示する駆動力増加制御指示部と、
前記アップシフト制御中であって、且つ車両のアクセル開度が所定値以下のアクセル低開度状態である場合に、前記解放側要素の係合圧が所定値以下である解放側要素解放状態であるか否かを判定する解放判定部と、を備え、
前記解放判定部により解放側要素解放状態でないと判定された場合に、前記解放側油圧制御部が前記解放側要素の油圧指令を前記入力部材の回転速度の変化に応じて制御し、前記解放判定部により解放側要素解放状態であると判定された場合に、前記駆動力増加制御指示部が前記駆動力増加制御の指示を行う変速制御装置。
【請求項2】
前記駆動力増加制御指示部は、前記アップシフト制御の進行状態である変速進行状態が、係合される側の摩擦係合要素となる係合側要素が完全係合される前の予め定めた状態まで進行したと判定したときに、前記駆動力増加制御の指示を開始する請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項3】
前記駆動力増加制御指示部は、前記駆動力源から出力されている駆動力が予め定めたしきい値以下であることを条件として、前記駆動力増加制御の指示を行う請求項1又は2に記載の変速制御装置。
【請求項4】
前記駆動力増加制御指示部は、係合される側の摩擦係合要素となる係合側要素における入出力部材間の回転速度差の減少速度を減少させるように、前記駆動力を増加させる指示を行う請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記駆動力増加制御指示部は、係合される側の摩擦係合要素となる係合側要素における入出力部材間の回転速度差の減少速度に基づいて、前記駆動力の増加量を決定する請求項1から4のいずれか一項に記載の変速制御装置。
【請求項6】
前記駆動力増加制御中に、係合される側の摩擦係合要素となる係合側要素を完全係合させる請求項1から5のいずれか一項に記載の変速制御装置。
【請求項7】
前記駆動力増加制御指示部は、前記駆動力を増加させる指示を行った後、前記駆動力増加制御を行わせない場合の目標駆動力まで次第に前記駆動力源から出力される駆動力を減少させる指示を行う請求項1から6のいずれか一項に記載の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−40998(P2012−40998A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185451(P2010−185451)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】