説明

導体ペースト、並びに、セラミック多層基板及びその製造方法

【課題】 低温焼結セラミックグリーンシートとの同時焼成後に隆起、亀裂、セラミック割れ等が発生しにくい導体ペーストを提供すること。
【解決手段】 導体粉末と有機ビヒクルとからなる導体ペーストであって、前記導体粉末が、酸化銅粉末を60.0〜80.0重量%、銅粉末を20.0〜40.0重量%、それぞれ混合してなる導体ペースト。或いは、酸化銅粉末を55.0〜79.5重量%、銅粉末を20.0〜40.0重量%、酸化ニッケル、パラジウム及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粉末を0.5〜5.0重量%、それぞれ混合してなる導体ペースト。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ビアホール形成等に用いる導体ペースト、並びに、この導体ペーストを用いたセラミック多層基板及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、エレクトロニクス分野における電子部品の性能向上は著しく、情報化社会を支える大型コンピュータ、パーソナルコンピュータ、携帯端末機器等に代表される情報処理装置では、情報処理速度の高速化、装置の小型化、多機能化が進められている。これらの情報処理装置に用いる電子部品として高性能の半導体ICをセラミック基板上に複数実装した、いわゆるマルチチップモジュールが実用化されている。マルチチップモジュールにおいて、半導体ICの実装密度を高め、各半導体IC間を電気的に良好に接続するためには、電極や回路等の導体パターンの配設された複数のセラミック層を多層化し、さらに内部の導体パターンをビアホール(via hole)によって3次元的に接続したセラミック多層基板が有用である。
【0003】一般に、セラミック多層基板は、(1)セラミックグリーンシートにドリルやパンチ等を用いてビアホール用孔を形成する。
【0004】(2)ビアホール用孔に導体ペースト或いは導電性金属粉末を充填する。
【0005】(3)セラミックグリーンシート表面にスクリーン印刷等の手法により、電極や回路等の導体パターンを形成する。
【0006】(4)ビアホール及び導体パターンが形成されたセラミックグリーンシートを積層及び圧着し、適当な基板サイズにカットした後、焼成する。
【0007】といった工程を経て製造される。
【0008】上述した製造方法において、一般的に、ビアホール用孔に充填する導体粉末には、比抵抗が小さく、マイグレーションが発生しにくい、しかも安価である銅粉末が好適に用いられている。また、ビアホール形成用の導体ペーストとしては、エチルセルロース等を樹脂成分とする有機ビヒクル中に銅粉末を混合、分散せしめた導体ペーストが多用されている。
【0009】また、銅粉末を主成分とする導体ペーストを用いる場合、銅は比較的融点の低い金属であることから、セラミックグリーンシートとしては、銅等の低融点金属と同時焼結可能なガラス複合材料等の低温焼結セラミック材料が用いられている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述したセラミック多層基板の製造方法においては、焼成工程にてセラミックグリーンシートとビアホール用孔に充填された導体ペーストとが同時に焼成されるが、導体ペーストとセラミックグリーンシートの焼成時の収縮量差等によって、焼成後の導体ペースト(以下、ビアホール導体と称することがある。)が隆起したり、セラミック割れが発生することがある。或いは、ビアホール導体に亀裂が生じたりすることがある。
【0011】即ち、セラミックグリーンシートの収縮量よりも導体ペーストの収縮量が小さい場合、図7(A)に示すように、セラミックグリーンシート22中のビアホール用孔24に充填された導体ペースト23は、図7(B)に示すように、焼成後には、ビアホール導体26が隆起し、さらに、ビアホール導体26の圧力によってセラミック層25に割れ27が生じることがある。一方、セラミックグリーンシートの収縮量よりも導体ペーストの収縮量が大きい場合、図7(C)に示すように、焼成後のビアホール導体26に亀裂28が生じることがある。
【0012】ビアホール導体の隆起やセラミック割れ、或いはビアホール導体の亀裂は、ビアホールと導体パターンとの接続不良や、セラミック多層基板の構造欠陥等を引き起こし、セラミック多層基板の信頼性を大きく低下させる要因となる。
【0013】特に、焼成時の表面導体層の収縮による精度バラツキを抑制するプロセスであって、アルミナ等の収縮抑制層をセラミックグリーンシート積層体の両主面に設け、その面方向への収縮を抑制するといった、いわゆる無収縮プロセスでは、セラミックグリーンシート22の厚みt1に比べて、焼成後のセラミック層25の厚みt2が一次元的に大きく減少するため、ビアホール導体の隆起、セラミック割れ、ビアホール導体の亀裂といった不良が発生し易い。
【0014】本発明は、上述した問題点を解決するものであり、その目的は、セラミックグリーンシートとの同時焼成後に隆起、亀裂、セラミック割れ等が発生しにくく、優れた特性を有する導体ペーストを提供することにある。
【0015】さらに本発明の他の目的は、ビアホールと導体パターンとの接続不良や基板の構造欠陥が少なく、信頼性の高いセラミック多層基板及びその製造方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明は、導体粉末と有機ビヒクルとからなる導体ペーストであって、前記導体粉末が、酸化銅粉末を60.0〜80.0重量%、銅粉末を20.0〜40.0重量%、それぞれ混合してなることを特徴とする導体ペースト(以下、本発明の第1の導体ペーストと称する。)に係るものである。
【0017】また、本発明は、導体粉末と有機ビヒクルとからなる導体ペーストであって、前記導体粉末が、酸化銅粉末を55.0〜79.5重量%、銅粉末を20.0〜40.0重量%、酸化ニッケル、パラジウム及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉末を0.5〜5.0重量%、それぞれ混合してなることを特徴とする導体ペースト(以下、本発明の第2の導体ペーストと称する。)に係るものである。
【0018】また、本発明は、ビアホールを有し、低温焼結セラミック材料からなるセラミックグリーンシートを積層し、焼成してなるセラミック多層基板において、前記ビアホールが請求項1又は2に記載の導体ペーストで形成されていることを特徴とするセラミック多層基板を提供するものである。
【0019】本発明のセラミック多層基板は、前記低温焼結セラミック材料がBaO−Al23−SiO2系材料であることを特徴とする。
【0020】また、本発明は、低温焼結セラミック材料からなるセラミックグリーンシートに、ビアホール用孔を形成する工程と、前記ビアホール用孔に請求項1又は2に記載の導体ペーストを充填してビアホールを形成する工程と、前記セラミックグリーンシート上に所定の導体パターンを形成する工程と、得られたセラミックグリーンシートを積層して第1積層体を作製する工程と、前記第1積層体の両主面に収縮抑制層を形成し、これを圧着して第2積層体を作製する工程と、前記第2積層体を非酸化雰囲気下で焼成する工程と、前記収縮抑制層を剥離する工程とを有するセラミック多層基板の製造方法を提供するものである。
【0021】本発明のセラミック多層基板の製造方法は、前記低温焼結セラミック材料をBaO−Al23−SiO2系材料とすることを特徴とする。
【0022】本発明の第1の導体ペーストは、酸化銅粉末と銅粉末を所定量混合してなる導体粉末を含むので、焼成時の導体粉末の体積収縮量がセラミックグリーンシートの収縮量とほぼ等しくなり、セラミックグリーンシートとの同時焼成後にビアホール導体に隆起、亀裂が発生しにくく、さらにはセラミックの割れ(クラック)が抑制され、優れた特性を有する導体ペーストである。
【0023】また、本発明の第2の導体ペーストは、酸化銅粉末と銅粉末と酸化ニッケル、パラジウム及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉末とを所定量混合してなる導体粉末を含むので、焼成時の導体粉末の体積収縮量がセラミックグリーンシートの収縮量とほぼ等しくなると共に、導体粉末の経時的な収縮率(熱収縮曲線)もセラミックグリーンシートの経時的な収縮率とほぼ等しくなり、セラミックグリーンシートとの同時焼成後にビアホール導体に隆起、亀裂が発生しにくく、さらにはセラミックの割れが抑制された、優れた特性を有する導体ペーストである。
【0024】なお、本発明の第1の導体ペースト及び本発明の第2の導体ペーストは、体積収縮量や経時的な収縮率の点から、特にBaO−Al23−SiO2系材料等の低温焼結セラミック材料からなるセラミックグリーンシートのビアホール形成用の導体ペーストとして用いることが望ましい。低温焼結セラミック材料からなるセラミックグリーンシートはガラス成分を含んでいるので強度が低く割れ易いが、本発明による導体ペーストを導体パターン形成に用いれば、セラミックの割れが十分に抑制される。また、本発明の第1の導体ペースト及び本発明の第2の導体ペーストは、その体積収縮量及び経時的な熱収縮率から、無収縮プロセスに適用することが望ましい。
【0025】また、本発明のセラミック多層基板によれば、前記ビアホールが本発明の第1の導体ペースト又は本発明の第2の導体ペーストによって形成されているので、焼成後に、ビアホール導体の隆起、セラミック割れ、ビアホール導体の亀裂等が抑えられ、ビアホールと導体パターンとの接続不良や基板の構造欠陥が少ない、信頼性の高いセラミック多層基板が得られる。
【0026】また、本発明のセラミック多層基板の製造方法によれば、いわゆる無収縮プロセスにおいて、前記ビアホール用孔に本発明の第1の導体ペースト又は本発明の第2の導体ペーストを充填してビアホールを形成するので、表面導体パターンを精度良く形成することができると共に、焼成後に、ビアホール導体の隆起、セラミック割れ、ビアホール導体の亀裂等が発生しにくく、ビアホールと導体パターンとの接続不良や基板の構造欠陥が少なく、信頼性の高いセラミック多層基板を製造できる。
【0027】
【発明の実施の形態】図1〜図6を参照に、本発明のセラミック多層基板の製造方法を説明する。
【0028】まず、図1に示すように、低温焼結セラミック材料からなるセラミックグリーンシート2bにドリル加工、パンチ加工、レーザ加工等の手法により、ビアホール用孔3a、3b…を形成する。次いで、ビアホール用孔3a、3b…中にスクリーン印刷法等によって、本発明の第1の導体ペースト又は第2の導体ペースト4a、4b…を充填し、乾燥させる。
【0029】次いで、図2に示すように、セラミックグリーンシート2bに、電極や回路等を形成するための導体ペーストをスクリーン印刷して、所定の導体パターン5a、5b…を形成する。また、図示省略するが、セラミックグリーンシート2a、2c、2d及び2eを同様にして作製する。
【0030】次いで、図3に示すように、所定の導体パターン4及びビアホール5が形成されたセラミックグリーンシート2a、2b、2c、2d及び2eを順次積層して、セラミックグリーンシート2a〜2eからなる積層体2(前記第1積層体に相当)を作製する。
【0031】次いで、図4に示すように、積層体2の両主面に収縮抑制層7a及び7bを積み重ね、圧着処理を経て、積層体11(前記第2積層体に相当)を形成した後、積層体11を所定の寸法にカットする。ここで、積層体2部分の厚みはT1である。
【0032】次いで、図5に示すように、非酸化雰囲気中で所定温度、所定時間焼成すると、実質的に面方向には収縮せず、厚み方向にのみ収縮したセラミック層6a、6b、6c、6d及び6eが収縮抑制層7a及び7bに挟持された構造の積層体12が得られる。ここで、セラミック層6a〜6eの合計の厚みはT2となり、積層体2の厚みT1に比べておおよそ60%程度収縮する。即ち、積層体12中のビアホール15も実質的に厚み方向にのみ収縮することになる。次いで、焼成後の積層体12から、収縮抑制層7a及び7bを剥離して、所定の導体パターン14及びビアホール15を有するセラミック多層基板13を得る。
【0033】得られたラミック多層基板13は、セラミックグリーンシートとして低温焼結セラミックグリーンシートが用いられており、かつ、ビアホール形成用の導体ペースト4として、本発明の第1の導体ペースト或いは本発明の第2の導体ペーストが用いられているので、いわゆる無収縮プロセスであっても、セラミックグリーンシートと導体ペーストとの焼成収縮量差によるビアホール導体の隆起、セラミック割れ、ビアホール導体の亀裂等が発生しにくく、ビアホール4と導体パターン5との接続不良や、セラミック多層基板のボイド等による構造欠陥の少ない、信頼性の高いセラミック多層基板となる。
【0034】また、セラミックグリーンシート2a〜2eとして、BaO−Al23−SiO2系材料を用いると、BaO−Al23−SiO2系材料(熱収縮率約15%)と本発明の第1の導体ペースト或いは第2の導体ペースト(いずれも熱収縮率14〜16%)とは収縮量差が小さいので、ビアホール導体の隆起、セラミック割れ、ビアホール導体の亀裂等がさらに抑制され、信頼性の高いセラミック多層基板が得られる。
【0035】さらに、いわゆる無収縮プロセスを利用して製造されているので、セラミック多層基板13の主面に形成されるビアホールや導体パターンの位置精度が高く、半導体ICやチップコンデンサ等の表面実装部品を高精度に搭載できる。
【0036】次に、本発明に係る導体ペーストの作用を説明する。
【0037】本発明の第1の導体ペーストは、酸化銅粉末を60.0〜80.0重量%、銅粉末を20.0〜40.0重量%、それぞれ混合してなる導体粉末を含んでいる。
【0038】CuO及び/又はCu2Oの酸化銅粉末をN2−H2O等の非酸化雰囲気下で焼成すると、CuO→Cu+1/2O2Cu2O→2Cu+1/2O2の反応が起こり、酸化銅粉末(CuO及び/又はCu2O)の体積が収縮する。上述した配合量範囲内で酸化銅粉末と銅粉末とを混合した本発明の第1の導体ペーストは、その体積収縮量が、特にBaO−Al23−SiO2系材料である低温焼結セラミックグリーンシートの焼成時の収縮量とほぼ等しいので、焼成処理後の隆起、セラミック割れ、亀裂の発生が抑制される。また、酸化銅の還元時に発生する酸素ガスは有機ビヒクル中の樹脂成分を取り除く作用も有している。
【0039】さらに、無収縮プロセスにおいては、通常のプロセスに比べて、セラミックグリーンシートが厚み方向へ1次元的に大きく収縮するので、導体ペーストとセラミックグリーンシートとの収縮量差の厳密な管理が必要である。本発明の第1の導体ペーストは、この無収縮プロセスに好適に使用可能である。
【0040】なお、酸化銅粉末の含有量が80重量%を超え、銅粉末の含有量が20重量%未満になると、ビアホールに図7(C)に示したような亀裂が生じる。また、酸化銅粉末の含有量が60重量%未満であって、銅粉末の含有量が40重量%を超えると、図7(b)に示したように、ビアホール中の導体材料が隆起し、セラミック層に割れが発生する。
【0041】また、本発明の第2の導体ペーストは、酸化銅粉末を55.0〜79.5重量%、銅粉末を20.0〜40.0重量%、酸化ニッケル、パラジウム及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉末を0.5〜5.0重量%それぞれ混合してなる導体粉末を含んでいる。
【0042】CuO及び/又はCu2Oの酸化銅粉末と酸化ニッケルとを含む導体粉末を、N2−H2O等の非酸化雰囲気下で焼成すると、CuO→Cu+1/2O2Cu2O→2Cu+1/2O2NiO→Ni+1/2O2の反応が起こり、酸化銅粉末及び酸化ニッケルの体積が収縮する。さらに、パラジウム、タングステンは銅粉末等の早急な収縮を阻害し、これによって銅粉末、酸化銅粉末等の経時的な収縮量変化(即ち熱収縮曲線)をセラミックグリーンシートのそれに近づける作用を有している。従って、特にBaO−Al23−SiO2系材料である低温焼結セラミックグリーンシートの焼成時の収縮量と上述の導体粉末の収縮量とがほぼ等しくなって、かつ、導体粉末とセラミックグリーンシートとの熱収縮曲線もほぼ等しくなって、ビアホール導体の隆起、セラミック割れ、ビアホール導体の亀裂が発生しにくくなる。また、酸化銅や酸化ニッケルの還元時に発生する酸素ガスは有機ビヒクル中の樹脂成分を取り除く作用も有している。
【0043】さらに、無収縮プロセスにおいては、通常のプロセスに比べて、セラミックグリーンシートの厚み方向へ1次元的に大きく収縮するので、導体ペーストとセラミックグリーンシートとの収縮量の差、及び、導体ペーストとセラミックグリーンシートとの熱収縮曲線の差を小さくする必要がある。即ち、本発明の第2の導体ペーストも、この無収縮プロセスに好適に使用可能である。
【0044】なお、酸化銅粉末の含有量が79.5重量%を超え、銅粉末の含有量が20重量%未満であると、ビアホール導体に図7(C)に示したような亀裂が生じる。また、酸化銅粉末の含有量が60重量%未満であって、銅粉末の含有量が40重量%を超えると、図7(B)に示したように、ビアホール導体が隆起し、セラミック層に割れが発生する。同時に、酸化ニッケル、パラジウム及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の導体金属の含有量が0.5重量%未満である場合、若しくは、5.0重量%を超える場合は、ビアホール導体が隆起し、セラミック層に割れが発生する。
【0045】特に、上述した理由から、本発明の第2の導体ペーストは、所定量の酸化銅粉末及び銅粉末を有し、かつ、少なくとも酸化ニッケルを含み、パラジウム又はタングステンのいずれか一方を有していることがさらに望ましい。
【0046】以上、本発明を実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。
【0047】例えば、低温焼結セラミック材料としては、Al23にガラス成分を混合せしめたガラス−セラミック複合系の低温焼結セラミック材料や、結晶化ガラス系の低温焼結セラミック材料、セラミック複合系の低温焼結セラミック材料を用いることができる。また、回路や電極等の内層導体パターン、表層導体パターン用の導体材料としては、銅や銀等の低融点金属以外にも、金、銀−パラジウム合金等の低融点金属を使用してよい。
【0048】さらに、本発明のセラミック多層基板は、チップ多層ディレイラインやチップ多層LCフィルタ等の他、例えば、電圧制御発振器、デュプレクサ等の誘電体フィルタ、弾性表面波フィルタ等の多層デバイスや、ハイブリッドIC等の多層モジュール、セラミックパッケージなど、種々の用途に適用できる。
【0049】
【実施例】以下、本発明を具体的な実施例について説明する。
【0050】例1〜例15まず、本発明の第1の導体ペーストを用いたセラミック多層基板について、ビアホール導体の亀裂、ビアホール導体の隆起、セラミックの割れの発生の有無を調べた。
【0051】セラミック多層基板を作製するためのセラミックグリーンシート、収縮抑制層、及び、ビアホール形成用導体ペーストは、以下の要領に従って作製した。
【0052】[セラミックグリーンシート]BaO−Al23−SiO2系材料に、結合剤としてのポリビニルブチラール、可塑剤としてのジオクチルフタレート、及び、有機溶媒を加えてスラリーを形成し、これをドクターブレード法にてシート状に成形して、セラミックグリーンシートを作製した。
【0053】[収縮抑制層]Al23(アルミナ)粉末にポリビニルブチラール、ジオクチルフタレート、有機溶媒等を加えて、ドクターブレード法によってシート状に形成し、収縮抑制層を作製した。
【0054】[ビアホール形成用導体ペースト]下記表1に示す組成及び配合量の酸化銅粉末と銅粉末の混合粉末を用い、この混合粉末100重量%を、エチルセルロース樹脂をテルピネオール系溶剤に溶解してなる有機ビヒクル15.0重量%中に混合、分散して、ビアホール形成用の導体ペーストを作製した。
【0055】次に、図1〜図6と同様の工程で、セラミック多層基板を製造した。
【0056】即ち、まず、図1に示したように、上述したセラミックグリーンシート2bにドリルによってビアホール用孔3a、3b…を形成し、引き続いて、ビアホール用孔3a、3b…中にスクリーン印刷法を用いて、ビアホール形成用の導体ペースト4a、4b…を充填し、乾燥した。次いで、図2に示したように、セラミックグリーンシート2bに導体パターン形成用の導体ペーストをスクリーン印刷して、所定の導体パターン5a、5b…を形成した。同様にして、セラミックグリーンシート2a、2c、2d及び2eを作製した。
【0057】次いで、図3に示したように、導体パターン4及びビアホール5を形成したセラミックグリーンシート2a、2b、2c、2d及び2eを順次積層して積層体2を作製した後、図4に示したように、積層体2の両主面に上述した収縮抑制層7a及び7bを積み重ね、圧着処理を経て、積層体11を形成し、これを所定の寸法にカットした。
【0058】次いで、図5に示したように、N2−H2Oの非酸化雰囲気中、950度で1時間焼成した後、焼成後の積層体12から、収縮抑制層7a及び7bを超音波振動法を利用して剥離し、図6に示したように、ビアホール15及び導体パターン14を有するセラミック多層基板13を得た。
【0059】このようにして作製したセラミック多層基板を切断し、その切断面を実体顕微鏡で観察することにより、ビアホール導体の亀裂の有無、隆起の有無、及び、セラミック層の割れの有無を調べた。その測定結果を下記表1に併せて示す。
【0060】
【表1】


【0061】表1から、酸化銅粉末と銅粉末とを所定の割合混合してなる導体粉末を含む導体ペーストを用いることによって、導体ペーストとセラミックグリーンシートとの収縮量差を小さくし、ビアホール導体の亀裂、隆起、さらにはセラミックの割れを抑制できることが分かる。
【0062】即ち、例4〜例11のように、酸化銅(CuO及び/又はCu2O)粉末60.0〜80.0重量%と銅(Cu)粉末20.0〜40.0重量%とを混合してなる導体ペーストを用いた場合、BaO−Al23−SiO2系材料をセラミックグリーンシートとして用いた無収縮プロセスにおいて、ビアホール導体の亀裂や隆起、セラミック割れが発生していなかった。これは、ビアホールと導体パターンとの接続不良やセラミック多層基板の構造欠陥等が殆ど無く、信頼性の高いセラミック多層基板であることを意味する。
【0063】また、例6、7及び11の場合、ビアホールどう合いの亀裂や隆起、セラミック割れが発生していなかったことに加えて、ビアホール導体の表面形状が極めて優れており、導体ペーストにおいては、CuO、Cu2Oの両者を含むことが望ましいことが分かった。
【0064】これに対して、酸化銅の割合が80.0重量%よりも多い導体ペーストを用いた例1〜例3では、導体ペーストの収縮量がセラミックグリーンシートの収縮量よりも大きかったことによるビアホール導体の亀裂が発生してしまい、他方、所定量よりも、酸化銅の割合が60.0重量%よりも少ない導体ペーストを用いた例12〜例15では、セラミックグリーンシートの収縮量に比べて導体ペーストの収縮量が少なかったことによる、ビアホール導体の隆起及びセラミック割れが発生してしまった。
【0065】例16〜例42次に、本発明の第2の導体ペーストを用いたセラミック多層基板について、ビアホール導体の亀裂、ビアホール導体の隆起、セラミックの割れの発生の有無を調べた。
【0066】なお、セラミックグリーンシート、収縮抑制層、及び、ビアホール形成用導体ペーストは、上述した例1〜例15と同様の要領で作製し、また、例1〜例15と同様の工程で、セラミック多層基板を製造した。また、ビアホール形成用導体ペーストの成分組成は下記表2に示す。ここでは、有機ビヒクルの量はすべて導体粉末全量に対して15重量%とした。
【0067】例1〜例15と同様に、作製したセラミック多層基板を切断し、その切断面を実体顕微鏡で観察することにより、ビアホール内の導体金属の亀裂の有無、隆起の有無、及び、セラミック層の割れの有無を調べた。その測定結果を下記表2に併せて示す。
【0068】
【表2】


【0069】表2から、酸化銅粉末と銅粉末とを所定の割合混合してなり、かつ、酸化ニッケル、パラジウム及びタングステンからなる群より選ばれた少なくとも1種の導体粉末を含む導体ペーストを用いることによって、導体ペーストとセラミックグリーンシートとの収縮量差を小さくし、ビアホール導体の亀裂、隆起、さらにはセラミックの割れを抑制できることが分かる。
【0070】即ち、例20〜例22、例27〜例34のように、酸化銅粉末55.0〜79.5重量%、銅粉末20.0〜40.0重量%、酸化ニッケル、パラジウム及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粉末0.5〜5.0重量%をそれぞれ混合してなる導体ペーストを用いた場合、BaO−Al23−SiO2系材料をセラミックグリーンシートとして用いた無収縮プロセスにおいても、亀裂、隆起、セラミック割れが発生しておらず、これは、ビアホールと導体パターンとの接続不良や、セラミック多層基板の構造欠陥等が無く、信頼性の高いセラミック多層基板であることを意味する。
【0071】また、例22、29、30、33及び34の場合、ビアホール導体の亀裂や隆起、セラミック割れが発生していなかったことに加えて、ビアホール導体の表面形状が極めて優れており、導体ペーストにおいては、CuO、Cu2Oの両者を含むことが望ましいことが分かった。また、例30及び31の場合、より一層優れた表面形状を有していたので、酸化ニッケル、パラジウム、タングステンの全てを含んでいることがさらに望ましいことが分かった。
【0072】これに対して、酸化銅の割合が79.5重量%よりも多い導体ペーストを用いた例16〜例19では、導体ペーストの収縮量がセラミックグリーンシートの収縮量よりも大きかったことによるビアホール導体の亀裂が発生してしまった。他方、酸化銅の割合が55.0重量%よりも少ない導体ペーストを用いた例39〜例42では、セラミックグリーンシートの収縮量に比べて導体ペーストの収縮量が少なかったことによるビアホール導体の隆起及びセラミック割れが発生してしまった。
【0073】また、酸化ニッケル、パラジウム及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の導体材料の割合が0.5重量%よりも少ない例23〜例26、或いは、前記導体材料の割合が5.0重量%よりも多い例35〜例38では、セラミックグリーンシートの収縮量に比べて導体ペーストの収縮量が少なかったことによるビアホール導体の隆起及びセラミック割れが発生してしまった。
【0074】
【発明の効果】本発明の第1の導体ペーストによれば、酸化銅粉末及び銅粉末からなる導体粉末の焼成時の体積収縮量がセラミックグリーンシートの焼成時の収縮量とほぼ等しくなり、ビアホール導体の隆起、セラミック割れ、ビアホール導体の亀裂等が発生しにくい優れた導体ペーストが得られる。
【0075】本発明の第2の導体ペーストによれば、酸化銅粉末、銅粉末及び金属粉末からなる導体粉末の焼成時の体積収縮量がセラミックグリーンシートの焼成時の収縮量とほぼ等しくなると共に、導体粉末とセラミックグリーンシートとの経時的な収縮率(熱収縮曲線)もほぼ等しくなるので、ビアホール導体の隆起、セラミック割れ、ビアホール導体の亀裂等がより一層発生しにくい導体ペーストが得られる。
【0076】本発明のセラミック多層基板によれば、前記ビアホールが本発明の第1の導体ペースト又は本発明の第2の導体ペーストで形成されているので、ビアホール導体の隆起、セラミック割れ、ビアホール導体の亀裂等が発生しにくく、ビアホールと導体パターンとの接続不良や基板の構造欠陥が少ない、信頼性の高いセラミック多層基板が得られる。
【0077】本発明のセラミック多層基板の製造方法によれば、いわゆる無収縮プロセスにおいて、前記ビアホール用孔に本発明の第1の導体ペースト又は本発明の第2の導体ペーストを充填してビアホールを形成しているので、表面導体パターンを精度良く形成でき、また、焼成時のビアホール導体の隆起、セラミック割れ、ビアホール導体の亀裂等が発生しにくく、ビアホールと導体パターンとの接続不良や基板の構造欠陥が少なくて信頼性の高いセラミック多層基板を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のセラミック多層基板の製造方法の一工程段階であって、ビアホールの形成されたセラミックグリーンシートの概略断面図である。
【図2】同、セラミック多層基板の製造方法の他の一工程段階であって、電極パターンが印刷されたセラミックグリーンシートの概略断面図である。
【図3】同、セラミック多層基板の製造方法の他の一工程段階であって、セラミックグリーンシートが積層されてなる第1積層体の概略断面図である。
【図4】同、セラミック多層基板の製造方法の他の一工程段階であって、両主面に収縮抑制層が形成されてなる第2積層体の概略断面図である。
【図5】同、セラミック多層基板の製造方法の他の一工程段階であって、焼成処理が施された後の第2積層体の概略断面図である。
【図6】同、セラミック多層基板の製造方法に従って形成されたセラミック多層基板の概略断面図である。
【図7】(A)は、ビアホール用孔に導体ペーストが充填されたせラミックグリーンシートの概略断面図、(B)は、導体ペーストの隆起及びセラミック割れが発生した時のセラミック層の概略断面図、(C)は、亀裂が発生した導体ペーストを有するセラミック層の概略断面図である。
【符号の説明】
2…積層体
2a、2b、2c、2d、2e…セラミックグリーンシート、
3a、3b…ビアホール(ビアホール導体)、
4a、4b、4、14…導体ペースト、
5a、5b、5、15…導体パターン、
6a、6b、6c、6d、6e…セラミック層、
7a、7b…収縮抑制層、
11、12…積層体、
13…セラミック多層基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 導体粉末と有機ビヒクルとからなる導体ペーストであって、前記導体粉末が、酸化銅粉末を60.0〜80.0重量%、銅粉末を20.0〜40.0重量%、それぞれ混合してなることを特徴とする、導体ペースト。
【請求項2】 導体粉末と有機ビヒクルとからなる導体ペーストであって、前記導体粉末が、酸化銅粉末を55.0〜79.5重量%、銅粉末を20.0〜40.0重量%、酸化ニッケル、パラジウム及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉末を0.5〜5.0重量%、それぞれ混合してなることを特徴とする、導体ペースト。
【請求項3】 ビアホールを有し、低温焼結セラミック材料からなるセラミックグリーンシートを積層し、焼成してなるセラミック多層基板において、前記ビアホールが請求項1又は2に記載の導体ペーストで形成されていることを特徴とする、セラミック多層基板。
【請求項4】 前記低温焼結セラミック材料がBaO−Al23−SiO2系材料であることを特徴とする、請求項3に記載のセラミック多層基板。
【請求項5】 低温焼結セラミック材料からなるセラミックグリーンシートに、ビアホール用孔を形成する工程と、前記ビアホール用孔に請求項1又は2に記載の導体ペーストを充填してビアホールを形成する工程と、前記セラミックグリーンシート上に所定の導体パターンを形成する工程と、得られたセラミックグリーンシートを積層して第1積層体を作製する工程と、前記第1積層体の両主面に収縮抑制層を形成し、これを圧着して第2積層体を作製する工程と、前記第2積層体を非酸化雰囲気下で焼成する工程と、前記収縮抑制層を剥離する工程とを有する、セラミック多層基板の製造方法。
【請求項6】 前記低温焼結セラミック材料をBaO−Al23−SiO2系材料とすることを特徴とする、請求項5に記載のセラミック多層基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2000−138309(P2000−138309A)
【公開日】平成12年5月16日(2000.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−308491
【出願日】平成10年10月29日(1998.10.29)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】