説明

導電体およびその製造方法

【課題】導電性および柔軟性の高い導電体及びその製造法の提供。
【解決手段】導電体100は、金属および導電性金属酸化物の少なくとも一方を含む第1導電層10と、第1導電層10の表面の少なくとも一部を覆う第2導電層20と、を有し、第2導電層20は、導電性高分子を含む。導電体100の製造方法は、凹凸パターンを有する版の凸部に、被転写層を形成する工程と、前記被転写層を基板に転写する工程と、を有し、前記被転写層を形成する工程は、前記版の凸部の上に導電性高分子を含む第1前駆体層を形成する工程と、前記第1前駆体層の上に、金属の前駆体および導電性金属酸化物の前駆体の少なくとも一方を含む第2前駆体層を形成する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種デバイスの製造工程において、導電性の配線パターンを製造するときに、インクジェット法、スクリーン印刷法、およびマイクロコンタクトプリント法(μCP法)などの印刷技術が用いられることがある。このような印刷法によって導電性の配線パターンを形成する場合、銀インクなどの金属インク、インジウム錫酸化物(ITO)インクなどの金属酸化物インクを用いることが検討されている。しかし、金属または金属酸化物からなる導電性の配線パターンには、いくつかの課題がある。たとえば、配線パターンの材料を金属または金属酸化物とすると、動作中に材料がマイグレーションを起こすことが知られている。また、このような材料で形成された配線パターンは、屈曲されると割れるなど、柔軟性が小さいことも課題として知られている。
【0003】
一方、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)にポリ(スチレンスルホン酸)を添加した導電性高分子(PEDOT/PSS)等は、柔軟性の高い導電性材料として、配線パターンに用いることが検討されている。このような高分子溶液のインクを用いれば、印刷法によって配線パターンを形成することができるが、導電性高分子による配線は、金属配線に比較して導電性に劣ることが知られている。
【0004】
上記のような課題に対して、たとえば、特開2005−166502号公報には、導電性高分子に金属粉末を分散させたペーストおよびこれを用いた配線等が開示されている。
【特許文献1】特開2005−166502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、金属または金属酸化物の導電性を維持しつつ、柔軟性を付与するためには、両者を単に混合しただけでは、いずれの特性も不十分な配線しか得ることができなかった。
【0006】
本発明の目的の1つは、導電性および柔軟性の高い導電体を得ることである。
【0007】
本発明の目的の1つは、導電性および柔軟性の高い導電体を印刷法によって製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる導電体は、
金属および導電性金属酸化物の少なくとも一方を含む第1導電層と、
前記第1導電層の表面の少なくとも一部を覆う第2導電層と、
を有し、
前記第2導電層は、導電性高分子を含む。
【0009】
このような導電体は、第1導電層の高い導電性と、第2導電層の高い柔軟性とを有し、両特性を兼ね備えた、導電性および柔軟性の高い導電体である。
【0010】
本発明にかかる導電体において、
前記第1導電層は、基体の上に形成され、
前記第2導電層は、前記第1導電層の上面に形成されることができる。
【0011】
本発明にかかる導電体において、
前記第1導電層は、基体の上に形成され、
前記第2導電層は、前記第1導電層の上面および側面に形成されることができる。
【0012】
本発明にかかる導電体において、
前記金属は、銀、金、ニッケル、銅、白金、およびアルミニウムのいずれか、または2種以上の合金であることができる。
【0013】
本発明にかかる導電体において、
前記金属酸化物は、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、亜鉛酸化物、アンチモン亜鉛酸化物、およびガリウム亜鉛酸化物のいずれか、または2種以上の混合物であることができる。
【0014】
本発明にかかる導電体において、
前記導電性高分子は、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)およびポリ(スチレンスルホン酸)の混合物、およびポリアニリンの少なくとも1種であることができる。
【0015】
本発明にかかる導電体の製造方法は、
凹凸パターンを有する版の凸部に、被転写層を形成する工程と、
前記被転写層を基板に転写する工程と、
を有し、
前記被転写層を形成する工程は、
前記版の凸部の上に導電性高分子を含む第1前駆体層を形成する工程と、
前記第1前駆体層の上に、金属の前駆体および導電性金属酸化物の前駆体の少なくとも一方を含む第2前駆体層を形成する工程と、
を含む。
【0016】
このようにすれば、導電性および柔軟性の高い導電体を印刷法によって製造することができる。
【0017】
本発明にかかる導電体の製造方法において、
前記第1前駆体層を形成する工程の後に、前記第2前駆体層を形成する工程が行われ、
前記第2前駆体層を形成する工程の後に、さらに、前記第2前駆体層の一部を除去して前記第1前駆体層の一部を露出させる工程、を有することができる。
【0018】
本発明にかかる導電体の製造方法において、
前記被転写層を前記基板に転写する工程の後に、さらに、前記基板を加熱して前記第1前駆体層を変形させる工程を含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例を説明するものである。
【0020】
1.導電体
図1は、本実施形態にかかる導電体100を模式的に示す断面図である。図2は、本実施形態にかかる導電体200を模式的に示す断面図である。図1および図2には、導電体100または導電体200がそれぞれ3つずつ描かれ、基板50とともに描かれている。
【0021】
本実施形態の導電体100、および導電体200は、第1導電層10と、第2導電層20と、を有する。
【0022】
第1導電層10は、図1および図2に示すように、たとえば、基板50の上に形成されることができる。基板50は、任意である。基板50は、たとえば、ガラス基板、シリコン基板、ステンレス板(表面に絶縁処理等が施されたもの)、および、酸化シリコン等の酸化物基板などであることができる。また、基板50は、半導体装置等が形成された構造体であってもよい。さらに、基板50は、プラスチック(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリシクロオレフィン、ポリイミドなど)のフレキシブル基板、であることができる。第1導電層10は、図示の例では、断面が矩形の形状を有しているが、断面形状は、任意である。たとえば、第1導電層10の断面形状は、台形やその他の曲線形状を有していてもよい。第1導電層10の厚みは、0.1μmないし50μmであることが望ましい。第1導電層10の厚み0.1μmよりも小さいと、十分な導電性が得られず、50μmよりも大きいと、製造が難しくなることがある。第1導電層10は、金属および金属酸化物の少なくとも一方を含んで構成される。第1導電層10に含まれることのできる金属としては、配線等にしたときに、安定で高い導電性を有する金属が選ばれる。第1導電層10に含まれることのできる金属としては、銀、金、ニッケル、銅、白金、およびアルミニウムのいずれか、または2種以上の合金を挙げることができる。第1導電層10に含まれることのできる金属酸化物は、導電性を有するものが選ばれる。第1導電層10に含まれることのできる金属酸化物としては、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、亜鉛酸化物、アンチモン亜鉛酸化物、およびガリウム亜鉛酸化物のいずれか、または2種以上の混合物を挙げることができる。これらの金属または金属酸化物は、高い導電性を示す。そのため、第1導電層10は、導電性が高く、これを配線として用いる場合には、配線の低抵抗化に寄与することができる。第1導電層10は、金属および金属酸化物の少なくとも一方が主成分となって形成される。そのため、樹脂中に金属粉等が分散したものとは異なり導電経路の連通性等を考慮する必要がない。よって、導電体100または導電体200は、上記のような第1導電層10によって、低抵抗で高い導電性を示すことができる。
【0023】
第2導電層20は、第1導電層10の表面の少なくとも一部を覆って設けられる。第2導電層20は、導電性高分子を含んで形成される。
【0024】
第2導電層20は、たとえば、図1に示すように、第1導電層10の上に形成されることができる。図1の例では、第2導電層20は、第1導電層10の上面を覆って形成されている。図1の例では、第2導電層20は、第1導電層10の側面には形成されていない。また、たとえば、第2導電層20は、図2に示すように、第1導電層10の上面および側面に形成されることができる。第2導電層20の少なくとも一部は、第1導電層10の表面に沿った形状を有している。第2導電層の第1導電層10に接する部分以外の部分の形状は、任意である。第2導電層20は、たとえば、図1に示すような、矩形の断面形状を有していてもよい。また、図2に示す例のように、第2導電層20は、第1導電層10の上面および側面を被覆する形状を有していてもよい。第2導電層20の厚みは、0.01μmないし5μmであることが望ましい。第2導電層20の厚み0.01μmよりも小さいと、導電体100全体に柔軟性を十分に付与できず、5μmよりも大きいと、製造が難しくなることがある。第1導電層10および第2導電層20の合計の厚みは、0.15μmないし55μmであることが望ましい。第1導電層10および第2導電層20の合計の厚み0.15μmよりも小さいと、十分な導電性が得られず、55μmよりも大きいと、製造が難しくなることがある。第2導電層20は、導電性高分子を含んで形成される。第2導電層20に含まれる導電性高分子は、高分子であって導電性を有するものであればよい。たとえば、第2導電層20に含まれる導電性高分子としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)およびポリ(スチレンスルホン酸)の混合物(PEDOT/PSS)、およびポリアニリンの少なくとも1種を挙げることができる。これらの導電性高分子は、一定の導電性を有し、かつ高い柔軟性を示す。そのため、第2導電層20は、柔軟性が高く、これを配線の材質として用いる場合には、配線の柔軟化に寄与することができる。第2導電層20は、導電性高分子を含み、さらにその他の物質を含んで形成されることができる。たとえば、導電性高分子の他に、有機物や他の高分子を含んで形成されることができる。第2導電層20は、全体が導電性高分子を含む可とう性を有する物質で形成されると、柔軟性がより高くなる。このようにすれば、樹脂中に金属粉等が分散した導電体とは異なり、異物が樹脂中に分散することにより生じ易いクラックやボイド等の発生を抑制できる。このように第2導電層20は、導電体100または導電体200において、柔軟性を付与する作用を有する。そして、第2導電層20自体も導電性を有し、導電体100または導電体200の導電性を低下させないように寄与することができる。
【0025】
本実施形態の導電体100および導電体200は、上述した第1導電層10および第2導電層20を有している。上述したように第1導電層10および第2導電層20は、少なくとも一部が接して設けられている。したがって、導電体100および導電体200は、第1導電層10によって高い導電性を示すことができる。同時に、導電体100および導電体200は、第2導電層20によって、高い柔軟性を示すことができる。そのため、たとえば、フレキシブル基板に導電体100および導電体200が設けられ、フレキシブル基板が屈曲等した場合、該導電体に発生する歪みを第2導電層20によって吸収することができる。そして、第2導電層20に歪みが吸収されるため、第1導電層10に発生する応力が小さく抑えられる。これにより、導電体100および導電体200の破損を抑制することができる。また、第2導電層20が第1導電層10の面の少なくとも一部を覆って設けられているため、第1導電層10を構成する物質の散逸(マイグレーション等)を抑えることができる。
【0026】
以上のように、本実施形態の導電体100および導電体200は、低抵抗で、柔軟性の高い導電体である。本実施形態の導電体100および導電体200は、有機トランジスタ、圧電素子、表示素子、半導体素子、光学素子等の電子装置の電極や配線に好適に用いることができる。
【0027】
2.導電体の製造方法
図3〜図6は、本実施形態の導電体100の製造工程を模式的に示す断面図である。図7〜図9は、本実施形態の導電体200の製造工程の一部を模式的に示す断面図である。
【0028】
本実施形態の導電体の製造方法は、凹凸パターンを有する版の凸部に、被転写層を形成する工程と、被転写層を基板に転写する工程と、を有する。
【0029】
まず、図3に示すような、凹凸パターン66を有する版60を作成する。版60は、たとえば、図3に示すような原版となるマスター版70の形状をナノインプリント法などの複製技術を用いて作成することができる。マスター版70は、たとえば、シリコン、ガラスなどの加工しやすい板を用いて形成することができる。マスター版70の凹部72の形状は、導電体10のパターンに対応することになる。マスター版70の凹部72の底面74と、マスター版70の凹部72の側面76とがなす角度(図3のθ)は、後の工程でパターンの制御を行いやすくするために、80°以上とすることが好ましい。マスター版70の凹部72と凸部73とによって形成される段差は、0.5μmないし50μmであることが望ましい。凹部72と凸部73とによって形成される段差が0.5μmよりも小さいと、後述する版60の凹部63に被転写層20bが形成された場合に、該被転写層20bが基板50に転写されることがあり、好ましくない。マスター版10の材質は、パターンを形成しやすいものが望ましく、たとえば、シリコン基板、ガラス基板を用いることができる。マスター版10は、該基板を、たとえば、フォトリソグラフィ法によって、パターニングおよびエッチングして、形成されることができる。
【0030】
次に、マスター版70の形状を導電体100のパターン形成に使用する版60に転写する。転写方法としては、一般的にナノインプリント法と称される方法を用いることができる。これにより、マスター版70に形成された凹部72の形状が、版60における凸部62の形状に転写される。これにより、版60に凹凸パターン66が形成される。上述したマスター版70における角度θは、版60の凸部62の上面64と凸部62の側面とがなす角に対応し、上記と同様に、後の工程でパターンの制御を行いやすくするために、80°以上とすることが好ましい。角度θは、80°よりも小さいと、凹部63に転写されるべきでない層(被転写層20b)が形成された場合に、該層を転写してしまうことがあるため、望ましくない。版60の凸部62と凹部63とによって形成される段差は、0.5μmないし50μmであることが望ましい。凸部62と凹部63とによって形成される段差が0.5μmよりも小さいと、版60の凹部63に被転写層20bが形成された場合に、該被転写層20bが基板50に転写されることがあり、好ましくない。版60の材質としては、マスター版70の形状の転写性に優れるものであればよいが、後の工程で、欠陥を生じにくくして効率よく転写を行うために、表面自由エネルギーの低い材料がより好ましい。このような表面自由エネルギーの低い材料としては、たとえば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)がある。また、版60の材質として、ガラス等の表面自由エネルギーの高い材料を用いる場合でも、自己組織化単分子膜(SAMs)や、フッ化アルキルシラン等の表面制御層を版60の凸部62の上面に形成すれば、後の工程で、欠陥が生じにくく、効率よく凸部62に形成される被転写層20aを転写させることができる。また、版60のたわみ等を抑制するために、たとえば、版60の凹凸パターン66が形成された面の反対側の面に、補強板をさらに有していてもよい。補強板としては、ガラス板や金属板などが挙げられる。
【0031】
次に、版60の凸部62の上に被転写層30aを形成する。この被転写層30aを形成する工程は、図4および図5に示すように版60の凸部62の上に導電性高分子を含む第1前駆体層20aを形成する工程と、第1前駆体層20aの上に、金属の前駆体および導電性金属酸化物の前駆体の少なくとも一方を含む第2前駆体層10aを形成する工程と、を含む。そして、図5に示すように、本実施形態の転写前の被転写層30aは、第1前駆体層20aと第2前駆体層10aとが下から順に積層したものである。
【0032】
まず、図4に示すように、版60の凸部62の上に導電性高分子を含む第1前駆体層20aを形成する。第1前駆体層20aは、たとえば、PEDOT/PSSを水に分散させた溶液、ポリアニリンを水に分散させた溶液、または、それらの混合溶液を塗布し、必要に応じて乾燥を行って設けることができる。このような導電性高分子を含む原料溶液には、たとえば、可塑剤などの他の成分をさらに含んでいてもよい。このような原料溶液は、適宜加熱等をされることによって、導電性高分子を含む第2導電層20を構成することができる。このような原料溶液を、スピンコート法、スリットコート法、ダイコート法、バーコート法、スプレーコート法、ディッピング法、インクジェット法などによって版60の凹凸パターン66に塗布し、凸部62の上に第1前駆体層20aを設けることができる。これらの方法のうち、インクジェット法のように版60の凸部62の上のみに原料溶液を塗布することができる方法を用いれば、原料溶液の消費を抑えることができる。一方、スピンコート法等の版60の凹凸パターン66全面に原料溶液を塗布する方法によると、版60の凹部63にも第1前駆体層20bが形成される。版60の凹部63に第1前駆体層20bが形成されても、転写の工程で凸部62上の被転写層30aのみが基板50へ転写されるため導電体100および導電体200の製造には不都合は生じにくい。なお、スピンコート法等の版60の凹凸パターン66全面に原料溶液を塗布する場合であっても、版60の凹部63に表面制御層等を設けることにより、凸部62のみに第1前駆体層20aを設けるようにすることもできる。また、版60の表面が撥液性を有する場合は、版60の表面に真空紫外線(VUV)処理やプラズマ処理を施せば、原料溶液塗布の際に濡れ性を高めることができる。このような表面処理は、第1前駆体層20aの原料となる高分子溶液が、水系の溶媒を用いている場合に特に効果的である。第1前駆体層20aは、必要に応じて加熱、乾燥等されることができる。
【0033】
次に、図5に示すように、第1前駆体層20aの上に、金属の前駆体および導電性金属酸化物の前駆体の少なくとも一方を含む第2前駆体層10aを形成する。第2前駆体層10aは、たとえば、金属の前駆体および金属酸化物の前駆体のいずれか、または両者を混合した前駆体溶液を第1前駆体層20aの上に塗布して設けることができる。金属の前駆体溶液としては、たとえば、銀、金、ニッケル、銅、白金、およびアルミニウムのいずれかのナノ粒子をエタノールに分散させたものを単独または複数種を混合して用いることができる。金属の前駆体溶液は、たとえば、適宜乾燥等を行えば、第1導電層10を構成する金属を生成することができる。金属酸化物の前駆体溶液としては、たとえば、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、亜鉛酸化物、アンチモン亜鉛酸化物、およびガリウム亜鉛酸化物のいずれか、または2種以上のナノ粒子をデカリンに分散させたものを用いることができる。金属および金属酸化物の前駆体溶液は、さらに、分散安定剤などを含有していてもよい。このような前駆体溶液を、スピンコート法、スリットコート法、ダイコート法、バーコート法、スプレーコート法、ディッピング法、インクジェット法などによって版60の凹凸パターン66に塗布し、第1前駆体層20aの上に第2前駆体層10aを設ける。第1前駆体層20aを設ける場合と同様に、インクジェット法のように版60の凸部62の上のみに前駆体溶液を塗布することができる方法を用いれば、前駆体溶液の消費を抑えることができる。一方、スピンコート法等の版60の凹凸パターン66全面に溶液を塗布する方法によると、版60の凹部63にも前駆体層10bが形成される。前駆体層10bが凹部63に形成されても、凸部62の被転写層30aのみが基板50へ転写されるため導電体100および導電体200の製造には不都合は生じにくい。しかし、スピンコート法等の版60の凹凸パターン66全面に前駆体溶液を塗布する場合であっても、版60の凹部63、あるいは、凹部63に形成された第1前駆体層20bの上に、表面制御層等を設けることにより、凸部62の第1前駆体層20aの上のみに第2前駆体層10aを設けることができる。第2前駆体層10aは、形成された後、必要に応じて加熱、乾燥等されることができる。
【0034】
次に、図6に示すように、被転写層30aを基板50に転写する。本工程は、マイクロコンタクトプリント(μCP)法で一般的に行われる方法により行うことができる。本工程は、図6に示すように、版60の凸部62の下に形成された被転写層30aを基板50に接触させ、版60を剥離することにより行われる。なお図6では、版60の上下が図5とは逆に描いてある。この工程を経て、基板50の上に、第2前駆体層10a、第1前駆体層20aが順に積層された被転写層30aが形成される。この工程の後、必要に応じて、乾燥・加熱等を行うことにより、図1に示すような基板50の上に、第1導電層10、第2導電層20が順に積層された導電体100が製造される。なお、乾燥、加熱等の工程は、上述した工程のどの段階で行われてもよく、また何回行われてもよい。
【0035】
図7ないし図9は、本実施形態の導電体200の製造工程の一部を模式的に示す断面図である。導電体200は、導電体100の製造工程に、第2前駆体層10aの一部を除去して第1前駆体層20aの一部を露出させる工程、および、基板50を加熱して第1前駆体層を変形させる工程、を加えて製造することができる。第2前駆体層10aの一部を除去して第1前駆体層20aの一部を露出させる工程は、第1前駆体層20aの上に、第2前駆体層10aが形成された後に行われる(図5)。ここで、第1前駆体層20aは、導電性高分子の溶液状態であっても、溶媒を乾燥した状態であってもよい。また、基板50を加熱して第1前駆体層を変形させる工程は、上述の被転写層30aを基板50に転写する工程の後に行われる(図9)。
【0036】
第2前駆体層10aの一部を除去して第1前駆体層20aの一部を露出させる工程について述べる。本工程は、図5に示すような第2前駆体層10aが形成された後で行われる。本工程により露出する第1前駆体層20aの上面は、図7に示すように、版60の凸部62の周縁部65の上方に位置する。これは、第2前駆体層10aの一部が除去された結果、第2前駆体層10aの体積が小さくなり、第2前駆体層10aの端部が版60の凸部62の上面に形成された第1前駆体層20aの端部から後退することによる。第2前駆体層10aの一部を除去する方法としては、たとえば、第2前駆体層10aを構成する溶液の溶媒を気化させる方法がある。これにより、第2前駆体層10aの一部が除去され、第2前駆体層10aの体積が減少して、図7に示すような第2前駆体層10a’が形成される。第2前駆体層10aの一部を除去するためには、第2前駆体層10aを構成する成分に、気化しやすい溶媒が含まれることが好ましい。このような溶媒としては、たとえば、エタノール、クロロホルム、イソプロピルアルコール、水などが挙げられる。
【0037】
第2前駆体層10aの一部を除去して第1前駆体層20aの一部を露出させる工程において、第1前駆体層20aを効率よく露出させるために、第2前駆体層10aを構成する溶液の性質と、第1前駆体層20aの上面の表面自由エネルギーの大きさと、を適切に選ぶことができる。第1前駆体層20aの上面の表面自由エネルギーを小さくすれば、前駆体溶液の後退接触角が大きくなり、第2前駆体層10aの端部が第1前駆体層20aの上面の端部から後退しやすくなる。また、導電体200において第1前駆体層20aが占める割合を増加させたい場合には、上述のように、第2前駆体層10aを構成する溶液の溶媒として気化しやすい(沸点の低い)ものを選ぶ方法がある。このようにすれば、第2前駆体層10aの体積がより減少しやすくなり、導電体200の柔軟性を一層高めることができる。逆に、第2前駆体層10aの体積が小さくなりすぎないように調節する方法として、第2前駆体層10aを構成する溶液に比較的高沸点の、たとえば、酢酸ブチル、キシレン、デカリン、トリクロロベンゼンなどの溶媒を配合する方法がある。また、第2前駆体層10aの体積が小さくなりすぎないように調節する方法としては、第1前駆体層20aの上面の表面自由エネルギーを大きくする方法がある。第1前駆体層20aの上面の表面自由エネルギーを大きくする方法としては、たとえば、第1前駆体層20aを形成した後に、上方から紫外線および真空紫外線の少なくとも一方を照射する方法がある。また、本工程において、第2前駆体層10aの一部を除去するときに、版60を、第2前駆体層10aに含まれる溶媒の沸点以下の温度に加熱することができる。このようにすると、第2前駆体層10aに含まれる溶媒の蒸発が促進され、第1前駆体層20aの上面の一部を露出させるために要する時間を短縮することができる。このようにして、図7に示すように、版60の凸部62の上に、第1前駆体層20aおよび第2前駆体層10a’からなる被転写層30aが形成される。
【0038】
次に、図8に示すように、被転写層30aを基板50に転写する。本工程は上述したと同様である。本工程を経て、基板50の上に前駆体層10a’および第1前駆体層20aからなる被転写層30aが転写される(図9)。なお、図9に示すような被転写層30aは、本実施形態の導電体の一態様である。
【0039】
次に、基板50を加熱して第1前駆体層20aを変形させる工程について述べる。被転写層30aが基板50に転写されると、図9に示すように、基板50の上に、第2前駆体層10a’と第1前駆体層20aとが積層した構造が形成される。ここで、必要に応じて、基板50を加熱し、第1前駆体層20aを構成する高分子を流動(リフロー)させ、第1前駆体層20aを変形させることができる。第1前駆体層20aを変形させるための温度は、第1前駆体層20aに含まれる導電性高分子がPEDOT/PSSである場合には、たとえば、200℃ないし250℃とすることができる。また、第1前駆体層20aが他の高分子成分を含むのであれば、各高分子成分のガラス転移温度のうち最も高い温度よりも高い温度を加えることで該高分子成分を流動させ、第1前駆体層20aを変形させることができる。基板50を加熱する際の温度が高すぎると、導電性高分子や、他の部材(基板等)が劣化することがあり、250℃以下であることが望ましい。本工程により、高分子が流動すると、図9および図2に示すように第1前駆体層20aを変形させることができる。そして、必要に応じて熱処理等を行うことにより、図2に示すような金属および導電性金属酸化物の少なくとも一方を含む第1導電層10の上面および側面に導電性高分子を含む第2導電層20が形成された、導電体200を製造することができる。
【0040】
基板50を加熱して第1前駆体層20aを変形させる工程は、必要に応じ、図1に示すような導電体100に対して適用することもできる。図1に示す導電体100において、本工程を行うと、第2導電層20を構成する導電性高分子を含む成分は流動(リフロー)し、第2導電層20を変形させることができる。この変形は、上述の第1前駆体層20aが流動して変形することに相当している。このような方法によっても図2に示すような金属および導電性金属酸化物の少なくとも一方を含む第1導電層10の上面および側面に導電性高分子を含む第2導電層20が形成された、導電体200を製造することができる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の導電体の製造方法によれば、導電性および柔軟性の高い導電体を印刷法によって容易に製造することができる。
【0042】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。たとえば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(たとえば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施形態にかかる導電体100を模式的に示す断面図。
【図2】実施形態にかかる導電体200を模式的に示す断面図。
【図3】実施形態にかかる導電体の製造工程を模式的に示す断面図。
【図4】実施形態にかかる導電体の製造工程を模式的に示す断面図。
【図5】実施形態にかかる導電体の製造工程を模式的に示す断面図。
【図6】実施形態にかかる導電体の製造工程を模式的に示す断面図。
【図7】実施形態にかかる導電体の製造工程を模式的に示す断面図。
【図8】実施形態にかかる導電体の製造工程を模式的に示す断面図。
【図9】実施形態にかかる導電体の製造工程を模式的に示す断面図。
【符号の説明】
【0044】
10 第1導電層、10a,10a’,10b 第2前駆体層、20 第2導電層、
20a,20b 第1前駆体層、30a 被転写層、50 基板、60 版、
62,73 凸部、63,72 凹部、64 上面、66 凹凸パターン、
70 マスター版、74 底面、76 側面、100,200 導電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属および導電性金属酸化物の少なくとも一方を含む第1導電層と、
前記第1導電層の表面の少なくとも一部を覆う第2導電層と、
を有し、
前記第2導電層は、導電性高分子を含む、導電体。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1導電層は、基体の上に形成され、
前記第2導電層は、前記第1導電層の上面に形成された、導電体。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1導電層は、基体の上に形成され、
前記第2導電層は、前記第1導電層の上面および側面に形成された、導電体。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかにおいて、
前記金属は、銀、金、ニッケル、銅、白金、およびアルミニウムのいずれか、または2種以上の合金である、導電体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかにおいて、
前記金属酸化物は、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、亜鉛酸化物、アンチモン亜鉛酸化物、およびガリウム亜鉛酸化物のいずれか、または2種以上の混合物である、導電体。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかにおいて、
前記導電性高分子は、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)およびポリ(スチレンスルホン酸)の混合物、およびポリアニリンの少なくとも1種である、導電体。
【請求項7】
凹凸パターンを有する版の凸部に、被転写層を形成する工程と、
前記被転写層を基板に転写する工程と、
を有し、
前記被転写層を形成する工程は、
前記版の凸部の上に導電性高分子を含む第1前駆体層を形成する工程と、
前記第1前駆体層の上に、金属の前駆体および導電性金属酸化物の前駆体の少なくとも一方を含む第2前駆体層を形成する工程と、
を含む、導電体の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記第1前駆体層を形成する工程の後に、前記第2前駆体層を形成する工程が行われ、
前記第2前駆体層を形成する工程の後に、さらに、前記第2前駆体層の一部を除去して前記第1前駆体層の一部を露出させる工程、を有する、導電体の製造方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8において、
前記被転写層を前記基板に転写する工程の後に、さらに、前記基板を加熱して前記第1前駆体層を変形させる工程を含む、導電体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−140790(P2009−140790A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316751(P2007−316751)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超フレキシブルディスプレイ部材技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】