説明

強誘電体素子、インクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式画像形成装置

【課題】エッチング残渣が少なく信頼性が良好であり、かつリーク電流を抑制することができる強誘電体素子を提供する。
【解決手段】シリコン基板10の上に順に、振動板11、下部電極20、強誘電体層30、上部電極40を形成し、強誘電体層30の側面の傾斜角はθ2=30°、上部電極40の側面の傾斜角はθ1=30°としている。これにより、エッチングガスやプラズマ粒子の衝突角度が平面に近づき、傾斜面でのエッチング残渣の除去率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体素子、該強誘電体素子を有するインクジェット式記録ヘッド、該インクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式画像形成装置(複合機を含む)に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電体層を含む強誘電体素子としての圧電素子は、アクチュエータとして機能することができるため、インクジェットプリンタの液体噴射ヘッドやジャイロセンサ等、幅広く応用することができる。
たとえば液体噴射ヘッドとして圧電素子を利用する場合には、強誘電体膜の変位量を大きくすることが、液体噴射量の増加につながる。
また圧電素子は、強誘電体層を下部電極と上部電極とが挟むキャパシタ構造を有する。このようなキャパシタ構造を高密度で配列することにより、高画質な画像を印刷することができる。
一方で、変位量が大きく高密度な圧電素子を製造する際には、高精度な成膜工程およびパターニング工程が必要不可欠であるが、これらの工程において強誘電体層がダメージを受けリーク電流が増加することがあった。
【0003】
このようなリーク電流を抑制するために、たとえば特許文献1には、基体の上方に形成された下部電極と、下部電極の上方であって、前記基体の一部の領域の上方に形成された強誘電体層と、強誘電体層の上方に形成された上部電極とを含み、強誘電体層の側面と、前記基体の上面とがなす角度θを45°〜75°とすることで、変位量が良好であり、かつリーク電流を抑制することができる圧電素子、インクジェット式記録ヘッド、およびインクジェットプリンタが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で、変位量が良好であると記載されている割には、同文献の図7から明らかなように、変位量の改善値はわずか2.5%に留まっている。
本発明者らが同様な角度にてテストしたところによると、45°〜75°としたことによって、強誘電体および上部電極エッチング時の残渣が、傾斜部に現れ、その後の工程である保護層成膜時の障害となることが判った。
さらに、保護層が被覆された後において、駆動電圧を与えるための配線加工をした際に、配線膜の剥離・強誘電体のリーク電流の増大に影響することが判った。すなわち、特許文献1の傾斜角度を実施した場合、信頼性を劣化させる新たな問題が発生することが判ったのである。
さらに、導電性酸化物電極の場合には、上記残渣が顕著に発生し、エッチング後の残渣の影響が次の工程にまで影響が及び、デバイスの信頼性を大きく劣化させることことがわかった。
すなわち、後の工程で層間絶縁層を施した後、配線パターンを形成する、あるいは耐湿保護層を形成して信頼性を確保するという場合に、電極エッチング時に形成された残渣により、被覆率が劣化しリークや短絡(ショート)の原因となることが予想されるのである。
【0005】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、エッチング残渣が少ないため信頼性が良好であり、かつリーク電流を抑制することができる強誘電体素子の提供を、その主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、基板と、該基板上に配置された絶縁体からなる振動板とを備え、該振動板上に順に、導電性酸化物からなる下部電極、強誘電体層、金属および導電性酸化物からなる上部電極を積層してなる強誘電体素子において、前記基板に平行に配置される前記上部電極と該上部電極の側面とのなす角度θ1、前記下部電極と前記強誘電体層の側面とのなす角度θ2、前記基板に平行に配置される下部電極と該下部電極の側面とのなす角度θ3が、それぞれ45°未満であることを特徴とする。
また、本発明は、基板と、該基板上に配置された絶縁体からなる振動板とを備え、該振動板上に順に、導電性酸化物からなる下部電極、強誘電体層、金属および導電性酸化物からなる上部電極を積層してなる強誘電体素子において、前記上部電極の側面が、前記強誘電体層の側面の延長線より内側に形成されていることを特徴とする。
ここで、「上部電極の側面」とは、上下方向の高さを有する外周面を意味する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エッチング残渣が少ないため信頼性が良好であり、かつリーク電流を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る強誘電体素子の一部断面図である。
【図2】下部電極の傾斜角を含む強誘電体素子の断面図である。
【図3】上部電極の側面(外周面)が強誘電体層の上面端よりも内側に位置する例の強誘電体素子の断面図である。
【図4】保護層を形成した強誘電体素子の断面図である。
【図5】エッチング残渣の有無の原理を示す模式図で、(a)は従来例における傾斜角度での残渣が残る理由を説明するための断面図、(b)はその平面図、(c)は本発明の傾斜角度での残渣が残らない理由を説明するための断面図である。
【図6】インクジェット式記録ヘッド単体の分解斜視図である。
【図7】強誘電体素子の製作工程を示すフローチャートである。
【図8】インクジェット式画像形成装置の概要斜視図である。
【図9】同概要断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図を参照して説明する。
通常の数μm以下の膜厚で形成される薄膜強誘電体アクチュエータの製造方法に関して、その概略を記載する。
圧電体アクチュエータは、Si基板上に振動板層、電極層(下部)、強誘電体膜層、電極層(上部)、保護層、層間絶縁層、電極配線層を積層することにより形成される。
強誘電体素子の形状を形成するためには、強誘電体膜または上部電極層を形成した後に、所望の形状に強誘電体素子の形状と上部電極の形状をエッチング技術により形成する。また、保護層、層間絶縁層は所望の部分にのみ形成すれば良いので、所望の形状とするために、圧電体膜または上部電極層と同じくエッチング技術により形成する。
概略は、このような構成となるが、使用される材料およびプロセスに関してさらに詳しく説明を加える。
【0010】
基板としては、必要とされる機械的強度および化学的耐性を備えた加工しやすい材料で、強誘電体膜形成時に熱プロセスを多く通過することから熱的な耐性も必要とされる。そのような背景からSi(シリコン)基板が好適であり、主としてSi基板が用いられている。
振動板層は、Si基板上に酸化物あるいは窒化物の単層膜または積層膜によりプラズマCVD、スパッタ成膜、熱酸化などにより形成される。簡単には、Siの熱酸化により形成されることが多いが、圧電アクチュエータ、特にインクジェットヘッドとして用いる場合は、必要となる強度、振動特性を考慮して形成される。
具体的には、SiO2熱酸化膜、SiO2膜とSiN膜の積層膜、ZrO2膜、SiO2膜とZrO2膜の積層膜などが用いられる。膜厚は、トータルで数μm程度である。
【0011】
電極材料としては、従来からPt、Ir、Ru、Ti、Ta、Rh、Pd等の金属材料が用いられてきた。伝統的にPtが主として利用されているが、Ptが多用された背景は最密充填構造である面心立方格子(FCC)構造をとるため自己配向性が強く、振動板の材料であるSiO2のようなアモルファス上に成膜しても(111)に強く配向し、その上の強誘電体膜も配向性が良いためである。
しかしながら、配向性が強いため柱状結晶が成長し、粒界に沿ってPbなどが下地電極に拡散しやすくなるといった問題もあった。また、PtとSiO2との密着性にも問題があり、Pt膜の剥離が起こった。
そこで、PtとSiO2との密着性の改善のためにTi、Zr、Taなどの金属膜、TiO2、Ta25、ZrO2などの酸化膜、あるいはTiNなどの窒化膜などが用いられている。
【0012】
最終的には、電極材料として、繰り返し行われる熱プロセスによる材料の相互拡散、次に積層される強誘電体の結晶性への影響、さらに、素子として形成した場合の電気特性、すなわちP−Eヒステリシス特性、リーク電流特性、ファティーグ特性などの特性を見て総合的に選択される。
近年では、強誘電体との電極として強誘電体と同じペロブスカイト構造を有する導電性酸化物電極材料が研究されている。具体的には、IrO2、LaNiO3、RuOx、SrO、SrRuO3、CaRuO3などが知られている。
選択できる導電性酸化物電極の範囲は、BaRuO3、SrRuO3、(Ba,Sr)RuO3、BaPbO3、LaCuO3、LaNiO3、LaCoO3、LaTiO3、(La,Sr)CoO3、(La,Sr)VO3、(La,Sr)MnO3、LuNiO3、CaVO3、CaIrO3、CaRuO3、CaFeO3、SrVO3、SrCrO3、SrIrO3、SrFeO3、ReO3、等で、これらの列挙した構成材料の中でも、電気伝導性が低く、取り扱い性が容易で特性の安定が高い観点から、ルテニウム酸化物(例えばRuO3、BaRuO3、SrRuO3、(Ba,Sr)RuO3)が特に好適である。
【0013】
後に記載する本実施形態では、下部電極および上部電極として適用した形態をSrRuO3により説明したが、これに限定されるわけではない。
また、使用される電極形成プロセスとしては、主にスパッタ成膜方式が取られている。その他、真空蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などの公知の方法で行うことができる。
電極材料として要求される特性は、以下のように整理できる。
(1)電気抵抗が十分低いこと。
(2)強誘電体材料と格子定数のミスマッチが小さいこと。
(3)耐熱性が高いこと。
(4)反応性が低いこと。
(5)拡散バリア性が高いこと。
(6)基板、密着層材料、強誘電体との密着性が良いこと。
(7)素子としての電気特性が良好であること。
膜厚としては、密着層−電極層−酸化物電極層の総和で50〜400nm程度の範囲で形成することができる。
【0014】
強誘電体としては、Zr:Ti比が52:48のチタン酸ジルコン酸鉛(lead Zirconate Titanate、以下PZTという)が通常良く用いられ、圧電性能も良好で特性も安定しているため主流として用いられている。チタン酸ジルコン酸鉛として、上記組成にこだわらず、鉛、ジルコニウム、チタンを構成元素として含む酸化物として、様々な比率により、また、添加物を混合したり置換したりして用いられている。
その他の材料系としては、一般式ABO(Aは、Pbを含み、Bは、ZrおよびTiを含む。)で示されるペロブスカイト型酸化物が好適に用いられ、Nbを用いたニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(PZTN)、などが知られている。
さらに、環境対応の観点からPbを用いないBaTiO(チタン酸バリウム、BT)、バリウム、スロトンチウム、チタンの複合酸化物(BST)、スロトンチウム、ビスマス、タンタルの複合酸化物(SBT)なども用いることができる。
【0015】
プロセスとしては、ゾル‐ゲル法、有機金属熱塗布分解法(MOD法)等の液相法やスパッタ法、アブレーション法、CVD法等の気相法などが利用される。
たとえば、ゾル‐ゲル法を用いる場合には、Pb、Zr、およびTiをそれぞれ含有する有機金属化合物を溶媒に溶解させた溶液を下部電極膜上に塗布し、その後、乾燥工程および脱脂工程、および結晶化熱処理工程を経ることにより、強誘電体層を形成することができる。乾燥工程および結晶化加熱処理工程は、塗布1層ごとに行っても良いし、数層まとめて行っても良い。1層または数層まとめて行う場合は、一連の工程を繰り返すことにより、所望の膜厚の強誘電体層を得ることができる。乾燥工程の温度は350〜550℃、結晶化加熱処理工程の温度は600〜750℃程度である。加熱時間的には、数十秒〜数分程度である。
【0016】
強誘電体層の膜厚は、たとえば数十nm〜数μmとすることができる。
次に、強誘電体層素子部の形成を行う。素子部の形成には、通常感光性レジストのパターニングによりエッチング時のマスク層を形成し、ドライまたはウエットのエッチングにより素子部を形成する。感光性レジストのパターニングは、公知のフォトリソグラフィー技術により実施することができる。
すなわち、エッチング対象試料基板に感光性レジストをスピンコータまたはロールコータにより塗布し、その後予め所望のパターンが形成されたガラスフォトマスクにより紫外線露光後、パターン現像―水洗―乾燥して感光性レジストマスク層を形成する。
形成された感光性レジストマスク層は、そのパターンの端部傾斜が、エッチング時の傾斜断面に影響するので、所望の傾斜角度に応じ、レジスト選択比(被エッチング材料とマスク材料のエッチングレートの比)を考慮して選択すれば良い。エッチング後膜上に残った感光性レジストは、専用の剥離液または酸素プラズマ・アッシングにより除去することができる。
【0017】
エッッチングは、形状の安定性から反応性ガスを用いたドライエッチングが選択されるが、エッチングガスは塩素系、フッ素系などハロゲン系のガスあるいはハロゲン系のガスにArや酸素を混合させたガスにより実施することができる。
エッチングガスあるいはエッチング条件を変化させることにより、上部電極さらに、強誘電体と連続してエッチングすることもできるし、一度レジストパターンをやり直して数回に分けてエッチングを実施することもできる。
導電性酸化物電極を用いる場合、重要なことはエッチング時の残渣が生じないように、パターンエッチング時の角度に注意する。常に、エッチングガスにより、表面および側面が処理されるような角度とするのが良く、その角度は45°未満とするのが良い。
【0018】
強誘電体層の上層には、上部電極層を形成する。上部電極層の材料は、下部電極層の材料と同じ材料を用いることができる。上部電極の材料は、下部電極材料層とは異なり、強誘電体層を形成する際のような高温のプロセスが後の工程で無く、強誘電体との格子定数マッチングも必要とならないため材料選択幅下部電極に比較し広くなる。
ただし、強誘電体動作時に、経時的に強誘電体中の酸素欠損が増大するという可能性が従来技術として示されているので、その欠損酸素成分の補給源として導電性の酸化物電極が利用されるに至っている。すなわち、下部電極材料の項で記載した酸化物電極層が誘電体材料との接触界面で用いられるようになってきている。
したがって、具体的に使用される材料系は、下部電極と同じで、酸化物電極層として、IrO2、LaNiO3、RuO2、SrO、SrRuO3、CaRuO3などが用いられ、また、金属電極層として、Pt、Ir、Ru、Ti、Ta、Rh、Pd等が用いられている。
【0019】
上部電極の形成プロセスは、主にスパッタ成膜方式が取られている。その他、真空蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などの公知の方法で行うことができる。
上部電極の膜厚としては、酸化物電極層−電極層の総和で50〜300nm程度の範囲で形成することができる。
また、この工程は強誘電体層の素子部形成前に電極形成後、上部電極層を成膜し連続して上部電極形状強誘電体層形状を形成するというプロセスの順序としても良い。
保護層は、電極に挟まれた強誘電体素子部分および、素子の形状を形成したその断面部分を湿度等駆動環境から受ける影響から遮蔽する目的で配置される。保護層の材料は酸化物が用いられ、緻密性が要求されることから、特にALD(Atomic Layer Deposition)法のプロセスが用いられている。具体的には、Al23のALD膜が用いられる。膜厚は、30〜100nm程度である。
【0020】
次に、層間絶縁層は、次工程で積層される配線電極と強誘電体素子の上下電極とのコンタクトのための絶縁層として用いられる。材料としては、酸化物、窒化物あるいはこれらの混合物により形成される。
膜厚は、300〜700nmである。層間絶縁層形成後、配線電極と上下電極とのコンタクトのためのスルーホールをフォトリソグラフィーを用いた後エッチングを行い形成する。残ったレジストは、酸素プラズマによるアッシング等を行い除去する。
配線電極層としては、強誘電体素子の個別の電極および共通電極の取り出しとして用い、上下電極材料とオーミックなコンタクトが取れる材料を選択して成膜する。具体的には、純AlまたはAlに数atomic%のSiなどヒーロック形成阻止成分を含有させた配線材料を用いることができる。または、導電性の点からすれば、Cuを主成分とした半導体用の配線材料を用いても良い。
【0021】
膜厚は、引き回し距離による抵抗分も考慮した強誘電体駆動に支障の無い配線抵抗となるように設定する。具体的には、Al系配線なら約1μmの膜厚とする。このように形成された配線電極層は、フォトリソグラフィーの技術を用いて所望の形状を形成する。残ったレジストは、酸素プラズマによるアッシング等を行い除去する。
配線材料層は、電気的接続に必要な部分を除き耐環境性確保のために、酸化物または窒化物の保護層により被覆する。
最後に、液室部分は、フォトリソグラフィー技術を用いて振動板部分まで、Si基板をICP(Inductively Coupled Plasma)エッチングで深堀をして強誘電体アクチュエータ素子が形成された基板が完成する。
【0022】
ここで、本発明の目的とする、信頼性が良好であり、かつリーク電流を抑制することができる強誘電体素子に関して記載する。
上記説明のように、上部電極まで成膜後、素子の形状を作るためのエッチング工程が入るが、このエッチング工程ではエッチングに伴う被エッチング物の再デポジション(残渣の堆積)が問題となる。
再デポジションが問題となる理由は、強誘電体や電極材料など被エッチング物質が難エッチング物質であるため、再デポジションで付着した残渣も難エッチングとなり、継続したプロセスの進行と共にエッチングされにくい場所に付着した場合は、特に残渣としての残り、後の工程での被覆不良および残渣を介してリーク電流が発生する原因となる。
ただし、傾斜角を45°未満とした場合は、後述するように、反応性エッチングおよびプラズマ処理により有効に残渣部に接触するため、エッチング不足や再デポジションが起き難い。したがって、層間絶縁層被覆の際も有効に働き、リークの少ない強誘電体素子構造が実現できることとなる。
【0023】
なぜ45°未満が良いかという点に関しては、実験的に求めた。
図5(a)、(b)に示したように、55°付近(55.2°)では、傾斜部に残渣Rが発生した。また、45°でも、傾斜部に残渣の発生が認められた。
その理由は、傾斜角度θが45°以上であると、傾斜面(強誘電体層と上部電極の側面)に対するエッチングガスやプラズマ粒子Pの衝突角度αが小さいため、傾斜面に残渣Rが存在し易く、あるいはその除去率が低下するからである。
一方、45°未満とした構成では、傾斜部に残渣は認められず、素子とした場合のリーク電流も小さく、短絡も無かった。
本発明の角度(45°未満)では、図5(c)に示すように、傾斜面に対するエッチングガスやプラズマ粒子Pの衝突角度αが大きくなり、残渣Rの発生が抑制され、あるいはその除去率が高くなるからである。
【0024】
[実施例1]
(SGプロセスによりピエゾヘッドを形成する場合の実施例)
図1に示す構成において、薄膜強誘電体アクチュエータを作製した例を示す。この実施例では、θ=30°とした。
まず、Si(100)基板材料10の表面上にCVDにより振動板11を形成した。詳細な積層構造は、SiO膜を膜厚600nmで形成した。次に、ポリシリコンを250nm成膜後、順次SiO膜100nmおよびSiN膜膜150nmを4層積層し、さらにSiO膜を100nm形成した。再度ポリシリコンを250nm成膜した後SiO膜を600nm形成し、積層構造の振動板11とした。
これらの積層構造は、振動板の耐久性を上げるためであり、簡単にはSiO膜のみを1〜3μm形成した膜としても良い。
次に、振動板11を形成した基板の上に下部電極層20を形成する。密着層材料21として、Ti膜を50nmの膜厚でスパッタ法により形成し、次いで電極膜22、23をPt膜250nm、SrRuO膜を60nm形成し下部電極層20とした。
このときの、TiおよびPtのスパッタ条件は、真空度0.5Pa、スパッタガスはAr30sccm、投入パワー500wで、基板温度は300℃とした。SrRuO膜に関しては、基板温度300℃では、十分な結晶化が得られなかったため、RTA装置(Rapid Thermal Annealing、ハイソル社製Accu Thermo AW410)により、550℃の条件で5分間アニールした。
【0025】
このように形成した下部電極20は(111)面に配向し、(111)面の半値幅は2.34°であった。
次に、下部電極膜20上に強誘電体膜(強誘電体層)30となるチタン酸鉛系圧電体薄膜をゾルゲル法により形成した。具体的には、出発原料として酢酸鉛三水化物、チタンイソプロポキシド、ジルコニウムプロポキシドを用い、溶媒として2メトキシエタノールを使用した。
まず、酢酸鉛三水化物を2メトキシエタノール中に溶解させ、137°Cで蒸留し結晶水を排出させる。次に、最も一般的に極簡便に特性が得られる組成(この場合はPb/Ti/Zr=100/47/53)になるように秤量したZrとTiのアルコキシドを、上記脱水した酢酸鉛溶液に加え、127°Cで還流させることによりPb、Ti、Zrに複合アルコキシド溶液を作成した。
【0026】
この溶液を用い、(111)面が膜厚方向に配向するSrRuO/Pt/Ti/振動板11/Si基板上に、3000rpmでのスピンコート法により薄膜を作成した。
次いで、これを乾燥した後、350〜500°Cの温度条件で、それぞれ保持時間:3〜5分間、有機物熱分解を10〜25回繰り返した後、昇温速度30°C/secで700°C、5分間の焼成をO雰囲気中で行い、膜厚300nm〜1μmのPb(Ti0.47Zr0.53)O薄膜30を形成した。
強誘電体膜30を成膜後、強誘電体パターン形成として、フォトレジストによるフォトリソグラフィーの技術を用い、フォトレジストのパターン出しを行った後、フッ素系エッチャングガスを用いて、RIEドライエッチング装置にて強誘電体素子部を形成した。
この時の強誘電体部の傾斜角はθ2=30°となるように、フォトレジストの形状も適合させ、強誘電体素子部の断面傾斜角測定はSEMの断面測定により実施した。
【0027】
さらに、上部電極膜40を形成した。作成条件は、下部電極と同様にして、導電性酸化物電極層41としてSrRuOを40nm、次に、金属電極層42としてPt膜電極を300℃の基板温度で、100〜150nmの膜厚で形成した。プロセス条件は、RF投入パワー500W、Arガス圧0.5Paである。
上部電極40も、強誘電体の場合と同じく、フォトリソグラフィーの技術を用いて、感光性レジストパターンを形成し、今度は塩素系のエッチングガスにより上部電極層40をエッチングし上部電極形成を行った。この時の上部電極部の傾斜角はθ1=30°となるように、フォトレジストの形状も適合させ、強誘電体素子部の断面傾斜角測定はSEMの断面測定により実施した。
【0028】
さらに、強誘電体パターンおよび上部電極パターンより広いパターン部分として、下部電極のフォトリソ・パターニングを感光性レジストで実施し、上記、強誘電体素子形成および上部電極形成と同様にして下部電極20の形成を行った。
下部電極20は、上部電極と同じく塩素系のエッチングガスにより上部電極層40をエッチングし上部電極形成を行った。図2に示すように、この時の上部電極部の傾斜角はθ2=30°となるように、フォトレジストの形状も適合させ、強誘電体素子部の断面傾斜角測定はSEMの断面測定により実施した。
さらに、このように形成した積層膜の状態で感光性レジストを用いて、図4のような形状となるように、まずSi基板側をパターン形成しエッチィングして、加圧液室70となるキャビティーを形成した。
このとき、振動板11となるSiO膜がエッチングストップ層となる。次に、加工したSi基板側に保持基板を接合し、強誘電体膜30側を同様に感光性レジストを用いて、マスク層を作った後、ICPにより加工した。ICP加工後、感光性レジストにより形成したマスク層は除去した。これにより、下部電極膜20/強誘電体膜30/上部電極膜40からなる圧電体素子とする。
【0029】
その後、加圧液室70の圧電体素子と反対側にはSUS316(板厚50μm)に加圧液室70に対応したノズル孔79を形成したノズル板80をエポキシ樹脂により接合して、図4の圧電アクチュエータ構造体(液滴吐出ヘッド1)を完成させた。
ここで、用いた寸法上のパラメータは、強誘電体のピッチは85μm、強誘電体幅46μm、長さ750μm、強誘電体の厚み2μmである。
また、液室幅は60μm、液室長さ800μm、液室深さ55μmとした。
このように形成した強誘電体素子に対して、電気的な計測を実施した。測定した項目は、リーク電流および機械的な強誘電体の変動量とした。測定環境は、湿度を遮断し34−37%RHとし、デシケータ内で実施した。電気的には、リークおよび短絡は無く変動量は30−50V印加で、0.15−0.2μmであった。
【0030】
[実施例2]
(上部電極がPZT(強誘電体膜30)より狭いサイズとした場合の実施例)
上部電極側面(上下方向に高さを有する外周面)および強誘電体側面のリークを無くすために、さらに、上部電極幅の寸法をPZT幅より狭くすることもできる。図3には、片側Xの範囲に相当する寸法分PZTよりサイズを小さくした。具体的にはX=2μmとした。電気特性を測定の結果、リークおよびショートは無かった。リークの具体的な、判定は50V印加した時に、μA流れた場合をリーク有り判定した。
通常は、300dpi相当の85μピッチパターンで、60μm幅×800μm長さの短冊タイプのパターンにより同条件の電圧を印加した場合、その素子に流れる電量はpA程度である。
【0031】
[実施例3]
(さらに保護層を含むことの実施例)
実施例1で、上部電極上に保護層50を形成した。通常の25℃60%RHの室内の状態であったが、リークおよび電極の放電等は、DC0〜200Vの電圧をスイープして印加し、通常数μA検知される電流が、1桁以上上昇した場合、リーク電流有りと判定した。
また、短絡(ショ−ト)の場合は完全に導通状態または完全オープンの状態で判定した。保護層ありの場合は、リークおよび短絡が発生しなかった。
【0032】
[比較例]
(比較例1)θ=45°以上の場合
θを45°以上の55.2°とした場合の斜めSEM像を図5(a)に示した。傾斜部にエッチングされた再デポジション物が残渣物Rとして堆積している。このような、堆積物が存在すると、層間絶縁層が十分に被覆できなくなり、リークの原因となる。
(比較例2)上部電極上に保護層が無い場合
上部電極上に、保護層を形成しない状態で、電気特性を計測した。その結果、電極間において放電が生じ、上部電極の溶解と放電痕が観察された。
【0033】
インクジェット式記録ヘッド単体の実施形態を図6に示す。ノズル板80が接合された圧電アクチュエータ基板71に共通流路板72が接合され、圧電体駆動のための駆動回路が搭載されたフレキシブルプリント基板により強誘電体素子としての圧電アクチュエータ73が駆動される。
本耐熱性密着層を用いることにより、電極層の剥離等が生じないため、断線による駆動不良が起きず安定したインクジェットヘッドを得ることができる。
図6において、符号31は加圧液室、32は流体抵抗部、33は共通液室、33aはインク供給部、74は圧電体素子保護空間をそれぞれ示している。
図7は、強誘電体素子の製作工程を示すフローチャートである。
【0034】
次に、本発明に係るインクジェット式記録ヘッドを搭載したインクジェット式画像形成装置の一例(インクジェット記録装置)について図8及び図9を参照して説明する。なお、図8は同記録装置の斜視説明図、図9は同記録装置の機構部の側面説明図である。
インクジェット記録装置は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ、キャリッジに搭載した上記インクジェット式記録ヘッドからなる記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部82等を収納し、装置本体81の下方部には前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット(給紙トレイ)84を抜き差し自在に装着する構成となっている。
また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができ、給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
【0035】
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する上記インクジェット式記録ヘッドからなるヘッド94を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
キャリッジ93にはヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェット式記録ヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力によりインクジェット式記録ヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。
記録ヘッドとしてここでは各色のヘッド94を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0036】
キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌めて装着され、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置されている。
キャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を掛け回し、タイミングベルト100をキャリッジ93に固定している。主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
一方、給紙カセット84にセットした用紙83をヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット84から用紙83を分離給紙する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103と、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0037】
キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、さらに用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115,116とを配設している。
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。
記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
【0038】
キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段でヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。
また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。
また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
このように、このインクジェット記録装置においては耐熱性密着層を用いることで、電極層の剥離が生じないため、駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像の抜け等もなく画像品質が向上する。
【符号の説明】
【0039】
10 基板
11 振動板
20 下部電極
30 強誘電体層
40 上部電極
50 保護膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0040】
【特許文献1】特開2008−235569号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に配置された絶縁体からなる振動板とを備え、該振動板上に順に、導電性酸化物からなる下部電極、強誘電体層、金属および導電性酸化物からなる上部電極を積層してなる強誘電体素子において、
前記基板に平行に配置される前記上部電極と該上部電極の側面とのなす角度θ1、前記下部電極と前記強誘電体層の側面とのなす角度θ2、前記基板に平行に配置される下部電極と該下部電極の側面とのなす角度θ3が、それぞれ45°未満であることを特徴とする強誘電体素子。
【請求項2】
請求項1に記載の強誘電体素子において、
前記上部電極の側面が、前記強誘電体層の側面の延長線より内側に形成されていることを特徴とする強誘電体素子。
【請求項3】
基板と、該基板上に配置された絶縁体からなる振動板とを備え、該振動板上に順に、導電性酸化物からなる下部電極、強誘電体層、金属および導電性酸化物からなる上部電極を積層してなる強誘電体素子において、
前記上部電極の側面が、前記強誘電体層の側面の延長線より内側に形成されていることを特徴とする強誘電体素子。
【請求項4】
請求項3に記載の強誘電体素子において、
前記下部電極の上面と前記強誘電体層の側面とがなす角度θは、45°未満であることを特徴とする強誘電体素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の強誘電体素子において、
少なくとも前記強誘電体層の側面を覆う保護膜を有していることを特徴とする強誘電体素子。
【請求項6】
請求項5に記載の強誘電体素子において、
前記保護膜は、酸化シリコンまたは酸化アルミニウムからなることを特徴とする強誘電体素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の強誘電体素子において、
前記強誘電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛を含むことを特徴とする強誘電体素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の強誘電体素子を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項9】
請求項8に記載のインクジェット式記録ヘッドを有することを特徴とするインクジェット式画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−16738(P2013−16738A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150212(P2011−150212)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】