説明

微小高さ測定方法、測定装置、および測定プログラム

【課題】 本発明は、段差パターンのエッジ等により高さが急激に変化する箇所の算出高さを、空間キャリア法の原理を利用し、対象の表面形状をナノメートルオーダの精度で計測する技術を提供する。
【解決手段】
配線等のパターンを有する対象の表面形状を測定する方法であって、空間キャリア法の原理を利用して、対象に重畳するキャリア縞の方向を、影響を受けるパターンの方向と平行にならないよう傾斜角を調整し、パターンに沿って高さ演算を施し、対象のパターンエッジ近傍の表面形状を高精度に測定することを特徴とする微小高さ測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉光を利用した対象物の微小高さ測定において、配線等のパターンを有する対象物の表面形状を一枚の干渉縞データから高精度に測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、それに使用される電子部品や材料の形状、サイズは多様化し、微細化している。加えて、MEMS(Micro-Electro-Mechanical System :微小電気機械システム)に代表されるデバイスには、微細化しつつ可動部を持つものが多く、温度等の外的要因により微細部や可動部の形状がナノメートルからサブミクロンオーダで動くものもある。このようなデバイスは、駆動時はもちろん、駆動していない場合でも周囲環境によって表面形状が微小に変動する場合がある。こうした環境下においては、常に動いている対象物の表面形状をナノメートルオーダの精度で測定する技術の開発が求められている。
【0003】
従来、対象物の高さを高精度に測定する方法には、干渉光を使った位相シフト法および空間キャリア法がある。位相シフト法による測定は、複数枚の対象表面の位相データを得る必要があり、かつ、その間対象物が静止していることが条件となるため、振動、温度変形等の影響が無視できない場合には適用することができない。
【0004】
他方、空間キャリア法は、一枚の干渉画像から位相(高さ)情報を復元する方法である。この空間キャリア法の一つとしてのフーリエ変換法は、対象表面に干渉縞 (キャリア縞) を重畳させてフーリエ変換し、キャリア縞の空間周波数近傍のみをフィルタリングして逆変換することにより表面の位相成分を復元するものである(例えば、非特許文献1)。このフ−リエ変換法は、充分なキャリア縞本数が得られる滑らかな表面形状の高さ計測を、一枚の干渉画像から行う場合に適している。
【0005】
しかしながら、測定対象が配線やパッド等の段差パターンを有する場合は、パターンのエッジ付近でキャリア縞が途切れるため、フーリエ変換の計算誤差が大きくなってしまう。したがって、高さを計測しなければならない場所が配線エッジ等の近傍にある場合には、その場所の正確な高さが計測できなくなるという問題を抱える。
【0006】
さらに、上記フーリエ変換法について、図7〜9を用いて以下に説明する。図7は、測定する従来の干渉計による表面形状測定の構成を示している。光源104からの光は、フィルタ105によって単色光化され、ハーフミラー103によって干渉対物レンズ106に向かう。干渉対物レンズ106を介した光は、ハーフミラー103’によって参照ミラー107と対象物108への光に振り分けられる。対象物108からの反射光と参照ミラー107からの反射光は、ハーフミラー103’によって上方へ向かい、ハーフミラー103と結像レンズ102を介してカメラ101で干渉画像として結像する。
【0007】
干渉縞は、ステージ109の上に載った対象物108に対しフィルタ105を介した単色光(λ)で照明することにより、参照ミラー107からの反射による光路1と対象物108の表面からの反射による光路2との光路差から発生する。なお、干渉縞の光強度は、対象表面の位相を表し、図7の光学系の場合、一つの縞の間隔に相当する測定対象表面の高低差はλ/2となる。
【0008】
図8に、一次元フーリエ変換法による表面形状測定の従来例を示す。フーリエ変換法では、対象物108の表面形状を示す緩やかな干渉縞変化に対し、参照ミラー107あるいは対象物108を傾けることにより生じる干渉縞(キャリア縞) を重ね合わせて高さ算出を行う。
【0009】
図8(1)に示した段差状高さをフーリエ変換法で測定する場合、対象物108を傾けることにより(2)に示すような干渉縞画像が得られる。(2)の実線で示した場所の高さを算出する際に、キャリア縞が充分に高周波であれば、(2)の右図に示した明るさプロファイルをフーリエ変換することによって、(3)に示すように、対象表面形状の位相が含まれたキャリア周波数成分とその他のバイアス成分とに分離することができる。このキャリア周波数成分のみを取り出すフィルタを掛け、(4)のようにキャリア周波数成分をシフトしてフーリエ逆変換することにより、(5)のごとく、元の表面形状を算出することができる。しかしながら、段差のエッジ部分等におけるように、形状変化が急激な箇所は、(3)のフィルタリング時に高周波成分が切り取られてしまうため、(5)の点線で示すように段差のエッジ部分等形状変化が急激な箇所は正確に形状を算出することができていない。
【0010】
また、図9に、二次元フーリエ変換法による表面形状測定の従来例を示す。段差の繰返し形状を持つ対象表面の高さを、二次元フーリエ変換を使って算出した結果を示している。図9(1)は、段差が縦横に並んだ形状を持つモデルデータである。(1)の実線で示した箇所の高さプロファイルを(1)の右図に示す。このモデルデータを傾けてキャリア縞を重畳させた結果が(2)である。(2)の干渉縞画像を二次元フーリエ変換した結果が(3)に示される。点線内がキャリア周波数成分、実線内がバイアス成分である。
【0011】
図2と同様に、キャリア周波数成分をフィルタリングしてシフトし、逆変換した結果を(4)に示される。(4)の実線で示した箇所の高さプロファイルと(1)の高さプロファイルを比べると、段差間高さや段差高さを正確に算出できていないことがわかる。これは、段差パターン表面にフーリエ変換に必要な数の干渉縞を生成できなかったことに起因している。
【0012】
以上説明したように、従来の空間キャリア法では、段差状パターンエッジ付近の形状を精度良く再現できないという問題があった。
【非特許文献1】Fourier transform profilometry for the automatic measurement of 3-D object shapes, Mitsuo Takeda and Kazuhiro Mutoh, Applied Optics, Vol.22 , No.24,(1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記問題点を解決するため、本発明では、空間キャリア法の原理を利用して対象の表面形状をナノメートルオーダの精度で測定する方法において、段差パターンのエッジ等により高さが急激に変化する箇所の算出高さ精度を向上させて、精度良く対象の表面形状を計測できる方法を提供することを目的とする。
【0014】
また、対象パターンの直線性を利用し、対象の表面パターンに従って投影したキャリア縞から一次元フーリエ変換を行うことにより得られる二枚以上の高さデータから、表面特性の良いデータを選択して再構成することにより、二次元フーリエ変換法とほぼ変わらない計算コストで、エッジ付近の高さ精度を格段に向上させた表面形状を得る方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第一の発明は、干渉計によって得られる干渉縞画像の位相情報を解析して対象の表面形状高さを算出する空間キャリア法を利用した、段差パターンを有する物体表面の形状を測定する微小高さ測定方法であって、対象表面において重畳させる干渉縞の方向を注目する段差パターン方向と平行にならないように前記対象表面または光学系の傾斜角が調整された一枚の干渉縞画像を取得する干渉縞画像取得ステップと、取得した前記一枚の干渉縞画像を用いて、前記注目する段差パターン方向に沿って前記空間キャリア法を適用することによって前記対象表面の高さを算出する高さ演算ステップと、前記高さ演算ステップで算出された前記対象表面の高さデータをもとに、前記段差パターンのエッジと交差しない方向を選択して前記高さデータを再構成する再構成ステップと、を有することを特徴とする微小高さ測定方法に関する。
【0016】
すなわち、第一の発明によれば、配線等のパターンを有するデバイスの表面形状を干渉計によって測定する方法において、干渉縞画像取得手段が、測定対象となる表面において重畳させる干渉縞の方向を注目する段差パターン方向と平行にならないように対象表面または光学系を傾け、傾斜角を調整することによって一枚の干渉縞画像を取得し、高さ演算手段が、取得した一枚の干渉縞画像を用いて、注目する段差パターン方向に沿ってフーリエ変換等による空間キャリア法を適用することによって対象表面の高さを算出し、再構成手段が、段差パターンのエッジと交差することのない方向を選ぶことによって高さデータを再構成する仕組みとすることで、ナノメートルオーダの表面形状を高精度に測定することが可能となる。
【0017】
第二の発明は、前記対象表面において、注目する段差パターン方向が複数ある場合、前記段差パターン方向のどの方向とも平行にならないように投影した干渉縞から得られた干渉縞データを使って、当該段差パターン方向毎に、前記注目する段差パターン方向に沿って高さ演算を行うことにより得られた複数の高さ演算結果から、さらにより精度の良い表面高さを選択して高さを再構成することを特徴とする上記第一の発明に記載の微小高さ測定方法に関する。
【0018】
すなわち、第二の発明によれば、対象表面において、とくに、段差パターン等のエッジの影響から対象表面の高さが急激に変化する場合であっても、干渉縞の重畳方向や空間キャリア法の計算方向を選ぶことにより、当該箇所の算出高さ精度を大きく向上させることが可能となる。
【0019】
第三の発明は、前記再構成ステップにおいて、前記干渉縞画像のある画素に関して選択すべき高さ演算方向は、注目する方向と平行ではない方向の高さばらつき、あるいは明るさばらつきが、最も小さい方向の干渉縞データを選んで高さの再構成を行うことを特徴とする上記第一または第二の発明に記載の微小高さ測定方法に関する。
【0020】
すなわち、第三の発明によれば、高さデータの再構成は、干渉縞画像のある画素に関して選択すべき高さ演算方向について、注目する方向と平行ではない方向の高さばらつき、あるいは明るさばらつきが最も小さくなる方向の干渉縞データとすることによって、ナノメートルオーダの表面形状をより高精度に測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば以下の効果が生じる。
(1)配線等のパターンを有するデバイスの表面形状を干渉計によって測定する方法において、干渉縞画像取得手段が、測定対象となる表面において重畳させる干渉縞の方向を注目する段差パターン方向と平行にならないように対象表面または光学系を傾け、傾斜角を調整することによって一枚の干渉縞画像を取得し、高さ演算手段が、取得した一枚の干渉縞画像を用いて、注目する段差パターン方向に沿ってフーリエ変換等による空間キャリア法を適用することによって対象表面の高さを算出し、再構成手段が、段差パターンのエッジと交差することのない方向を選ぶことによって高さデータを再構成する仕組みとすることで、ナノメートルオーダの表面形状を高精度に測定することが可能となる。
(2)対象表面において、とくに、段差パターン等のエッジの影響から対象表面の高さが急激に変化する場合であっても、干渉縞の重畳方向や空間キャリア法の計算方向を選ぶことにより、当該箇所の算出高さ精度を大きく向上させることが可能となる。
(3)高さデータの再構成は、干渉縞画像のある画素に関して選択すべき高さ演算方向について、注目する方向と平行ではない方向の高さばらつき、あるいは明るさばらつきが最も小さくなる方向の干渉縞データとすることによって、ナノメートルオーダの表面形状をより高精度に測定することが可能となる。
【0022】
以上、本発明によって、配線等の段差パターンが混在した対象の表面形状を精度良く計測することができ、電子材料等の形状計測の高精度化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面にもとづいて本発明の実施形態を説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態になる微小高さ測定装置の基本構成を示す。本発明の微小高さ測定装置は、干渉縞画像を捉えるカメラ11、光源部12、干渉対物レンズ13、対象物15を載せたステージ16、ステージ16のx−y方向への移動と光軸に対する傾き(傾斜角)を駆動する駆動部17、およびこれらの部材を保持する架台18を備え、対象物15の表面において重畳させた干渉縞画像を撮影して測定に供する干渉計1と、ステージ16や干渉光学系(参照ミラー14)の傾きによって干渉縞を制御し、カメラ11で撮影した干渉縞画像からフーリエ変換等の空間キャリア法によって対象表面の高さを算出するための高さ演算を行う測定制御装置2とから構成される。
【0025】
さらに、測定制御装置2は、干渉計1における光源部12、カメラ11、および駆動部17の信号を制御する制御手段23、微小高さ測定プログラム24、出力手段28、および記憶部29を備え、かつCPU(Central Processing Unit )21およびメモリ22を有するコンピュータである。微小高さ測定プログラム24は、図示していない補助記憶装置に格納され、当該装置の起動時に、メモリ22に展開され、干渉縞画像取得手段25、高さ演算手段26、および再構成手段27の各手段がCPU21によって実行される。
【0026】
また、当該プログラムは、フレキシブルディスク、コンパクトディスク、ROM(Read Only Memory)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、また、特に図には示していないが、内蔵あるいは外部接続された媒体読取装置にセットし、インストールすることによって実行可能な状態としてもよい。
【0027】
以下に、本発明になる微小高さ測定装置の動作を説明する。
【0028】
まず、図示していないハンドラ等から対象物15をステージ16上に設置する。設置したことが制御手段23に出力されると、制御手段23は駆動部17によりステージを水平方向あるいは高さ方向あるいは傾き方向に駆動して、対象物15を所定位置まで動かして測定準備を行う。つぎに、制御手段23は、対象物15のパターンを入力し、あるいは予め決められた干渉縞の向きと間隔になるように、駆動部17によりステージを水平方向、あるいは高さ方向、さらには傾き方向に駆動して、対象物15の表面に所定の干渉縞を重畳させる。干渉縞は、光源部12から射出した光(レーザ光またはフィルタを介して単色光化した光)が干渉対物レンズ13を通り、対象物15と干渉対物レンズ内の参照ミラー14との相対距離に応じて光波干渉することにより生じる。生じた干渉縞像は再び干渉対物レンズ13を通ってカメラ11で結像し撮像される。
【0029】
測定準備が整ったことが制御手段23に出力されると、制御手段23は、ステージ16を駆動部17を介して所定の初期位置まで動かして干渉縞の撮像を行う。カメラ11で撮影された撮像データは記憶部29に蓄積される。撮像データが記憶部29に蓄積されたことが制御手段23に出力されると、制御手段23は、微小高さ測定プログラム24にしたがって対象の表面高さの算出を行う。そして、ある領域の表面高さの算出が終了すると、制御手段23は、ステージ16を適宜動かして対象上の次の測定点に移動する。制御手段23は、算出結果を適宜出力手段28に出力する。制御手段23は、測定領域あるいは測定対象が無くなるまで上述の動作を繰り返す。
【0030】
図2は、本発明の実施の形態になる微小高さ測定装置に用いるサンプルと干渉画像を示す。図2(a)は、モデルデータの高さ画像と高さプロファイルを示すが、モデルデータには、図9の従来例で用いたものと同じものを使う。このモデルデータにキャリア縞を重畳するときに、縞の方向がモデルデータのパターン方向と平行にならないように対象表面を傾ける。図示したモデルパターンの場合、パターンの方向が縦横であるので、重畳する干渉縞の方向を斜め約45°にするとどちらのパターン方向とも平行にならないようにできる。
【0031】
図2(b)に、その干渉縞画像を示す。このようにして得られた一枚の干渉縞画像からx方向とy方向のフーリエ変換(または空間キャリア法の処理)を行って高さを別々に算出することができる。ただし、今回のモデルのパターン方向には、対象表面の配線等の方向としてポピュラーである縦横方向を用いたため、縞方向は斜め約45°方向とし、フーリエ変換方向は互いに直交しているx、y方向となっているが、縞方向とフーリエ変換方向は対象のパターンに合わせて設定すれば良い。以下の説明においては、便宜上、縞方向は斜め約45°方向、フーリエ変換方向は互いに直交しているx、y方向としている。
【0032】
図3は、本発明の実施の形態になる微小高さ測定装置におけるフーリエ変換法の適用結果を示す。図3(a)は、図2(b)の干渉縞を使って、まず、x方向のフーリエ変換を行って高さを算出した結果を示している。図2(a)の高さプロファイルと図3(a)の結果との比較から、y方向のパターン高さが正確に出ていないが、x方向の高さがパターンの左右端を除いて正確に出ていることがわかる。y方向のパターン高さが正確に出ないのは急激な高さ変動が続いたためであり、x方向のパターン高さが左右端エッジを除いて正確に出ているのは、x方向のパターン上にフーリエ変換に必要な数の縞を重畳でき、フーリエ変換の計算を精度良くx方向パターンに沿って行えたためである。
【0033】
同様に、図3(b)は、図2(b)の干渉縞を使ってy方向のフーリエ変換を行って高さを算出した結果を示している。図2(a)の高さプロファイルと図3(b)との結果の比較から、x方向のパターン高さが正確に出ていないが、y方向の高さがパターンの上下端を除いて正確に出ていることがわかる。x方向のパターン高さが正確に出ないのは急激な高さ変動が続いたためであり、y方向のパターン高さが上下端エッジを除いて正確に出ているのは、y方向パターン上にフーリエ変換に必要な数の縞を重畳でき、フーリエ変換の計算を精度良くy方向パターンに沿って行えたためである。
【0034】
以上のように、対象物15を傾けて重畳する干渉縞方向を注目するパターン方向と平行にならないように設定し、パターン方向に沿った一次元フーリエ変換によるフーリエ変換法の適用結果から、精度の良い高さデータを選択して高さを再構成することで、パターンエッジ近傍の高さ精度をより向上させた表面形状を得ることが可能となる。
【0035】
図4は、本発明の実施の形態になるフーリエ変換法による微小高さ演算の処理フローを示す。本処理フローは、一次元フーリエ変換によるフーリエ変換法の結果から、精度の良い高さデータを選択して高さを再構成する方法について、干渉画像入力後の各ステップを示したものである。
【0036】
まず、ステップS1において、精度良く高さを算出したいエッジ方向に平行にならないよう縞方向を設定した干渉画像を入力した後、ステップS2において、x、y方向のフーリエ変換法を実施する。その結果、得られたx方向の位相データをhx(x,y)、y方向の位相データをhy(x,y)とする。ただし、求まる位相データは−π〜πの間の値であるため、ステップS3において、アンラップ(位相接続)を行って、離散値をとる位相を接続する。このアンラップ処理を2次元面内で行うことにより、位相が滑らかに繋がっている領域の高さが精度良く求まった位相データが得られる。ただし、パターン方向に依存してエッジ近傍の高さ精度は低下する。また、位相が滑らかに繋がっていない領域の高さはλ/2の整数倍のオフセットが載っている可能性がある。
【0037】
なお、対象物15の表面形状は、配線やパッド領域といった段差パターン以外では滑らかに変化していることを想定している。
【0038】
ステップS3において、アンラップを行った位相あるいは高さデータの内、x方向のデータをh’x(x,y)、y方向のデータをh’y(x,y)とする。
【0039】
その後、ステップS4において、フーリエ変換時の周波数領域でのシフト量を考えて面の傾きを補正し、対象表面の適切な領域の高さを一致させることにより高さ方向のオフセットを補正して、h’x(x,y)とh’y(x,y)の姿勢を補正する。補正後の高さデータをh”x(x,y)とh”y(x,y)とする。オフセット補正を行う領域には縞本数が充分確保できる滑らかな領域を選ぶと良い。
【0040】
ステップS5において、選択して再構成を行うべき画素(xm,yn)を選ぶ。選択・再構成を行う画素は画面全体でも良いし、算出高さ精度が必要なエッジ近傍を含む領域を優先的に選んでも良い。優先的にエッジ近傍を含む画素を選んだ場合、他の画素の計算を行う必要がなくなるので、選択・再構成にかかる計算時間を短縮でき、高さ算出時間の高速化を図ることができる。選択・再構成を行わなかった画素の内、エッジを含まない滑らかな画素(xo,yp)の算出高さ値h”x(xo,yp)とh”y(xo,yp)は、原理的にほぼ同じになっているため、再構成を行う際の高さ値の採用にあたっては、1)予め決めた一方の高さを選択する、2)規則的に選択する、3)両方の高さの平均値を採用する、および4)全くランダムに選択するなどの方法が考えられる。
【0041】
つぎに、ステップS6において、(xm,yn)を基準とし、フーリエ変換を行った方向の滑らかさの特徴量を算出する。滑らかさの特徴量は、特徴量の算出方向に段差パターンがある場合とそうでない場合とが区別できる値であれば良い。段差パターンとそれ以外の領域の局所的な高さが違うことから算出方向の高さ変動量を特徴量としても良いし、段差パターンとそれ以外の領域の明るさが違う場合は明るさ変動量を特徴量としても良いし、縞コントラストを特徴量としても良い。すなわち、対象に合わせた最適な特徴量を選ぶことが可能である。
【0042】
以下の説明では、高さ変動量を滑らかさの特徴量としている。高さ変動量を求める一つの方法として、(xm,yn)を基準としフーリエ変換を行った方向の高さを取得し、得られた高さから算出できる近似直線からの距離のばらつきとして算出する。高さを取得する画素数は、対象の段差エッジの配置具合から適切に決める。このように高さ変動量を求めると、局所的な高さ勾配に影響されること無く段差部分の影響を加味した特徴量として算出できる。この場合、段差エッジを跨ぐ方向の高さ変動量は大きくなり、段差エッジに沿った方向の高さ変動量は小さくなる。
【0043】
h”x(xm,yn)あるいはh’x(xm,yn)画像の高さ変動量をdx、h”y(xm,yn)あるいはh’y(xm,yn)の高さ変動量をdyとすると、ステップS7において、dxとdyの比較をすることにより、上記した高さ変動量の定義から、dx<dyの場合、h”x(xm,yn)のデータを選択し(ステップS8)、dx>dyの場合h”y(xm,yn)のデータを選択して(ステップS9)、再構成データH(xm,yn)とする。
【0044】
その後、ステップS10において、選択・再構成を行うべき画素があるかどうかを判断し、ある場合には、新たな(xm,yn)を設定して(ステップS11)、ステップS6の処理に戻り、ない場合には終了となる。
【0045】
以上説明した操作を行うことにより、エッジ近傍の高さ精度が向上した再構成データH(x,y)を得ることができる。具体的な結果例を以下に示す。
【0046】
図5は、本発明の実施の形態になるエッジ近傍の高さ精度に関する再構成データの選択例を示す。これは高さ変動量を基準として選んだ結果である。白画素がh”y(x,y)を選んだ箇所であり、黒画素がh”x(x,y)を選んだ箇所である。
【0047】
図6は、本発明の実施の形態になるエッジ近傍の高さを再構成して得られた結果例を示す。本実施例は、図5の選択結果を基に高さを再構成した例を示している。図2(a)に示したモデルデータと比較してほぼ正確な段差形状が得られている。
【0048】
なお、モデルデータに示したような縦横の段差パターンは、実際の対象素子の配線パターン等に類似しているため、ほとんどの対象に対して上記で説明した斜め約45°の縞方向と、互いに直交したフーリエ変換方向とで同様の効果を発揮できると考えられるが、上述した縞方向、フーリエ変換方向に限るものではない。
【0049】
以上、上記してきたように、空間キャリア法の原理を利用して、対象の表面形状をナノメートルオーダの精度で測定する方法において、対象表面上の段差パターン等のエッジにより高さが急激に変化する箇所の算出高さ精度を、干渉縞の重畳方向や空間キャリア法の計算方向を選ぶことにより向上させて、精度良く対象の表面形状を計測できる方法の提供を可能とすることができる。
【0050】
以上述べてきた本発明の実施の態様は、以下の付記に示す通りである。
(付記1) 干渉計によって得られる干渉縞画像の位相情報を解析して対象の表面形状高さを算出する空間キャリア法を利用した、段差パターンを有する物体表面の形状を測定する微小高さ測定方法であって、
対象表面において重畳させる干渉縞の方向を注目する段差パターン方向と平行にならないように前記対象表面または光学系の傾斜角が調整された一枚の干渉縞画像を取得する干渉縞画像取得ステップと、
取得した前記一枚の干渉縞画像を用いて、前記注目する段差パターン方向に沿って前記空間キャリア法を適用することによって前記対象表面の高さを算出する高さ演算ステップと、
前記高さ演算ステップで算出された前記対象表面の高さデータをもとに、前記段差パターンのエッジと交差しない方向を選択して前記高さデータを再構成する再構成ステップと、
を有することを特徴とする微小高さ測定方法。
(付記2) 前記対象表面において、注目する段差パターン方向が複数ある場合、前記段差パターン方向のどの方向とも平行にならないように投影した干渉縞から得られた干渉縞データを使って、当該段差パターン方向毎に、前記注目する段差パターン方向に沿って高さ演算を行うことにより得られた複数の高さ演算結果から、さらにより精度の良い表面高さを選択して高さを再構成することを特徴とする付記1に記載の微小高さ測定方法。
(付記3) 前記再構成ステップにおいて、前記干渉縞画像のある画素に関して選択すべき高さ演算方向は、注目する方向と平行ではない方向の高さばらつき、あるいは明るさばらつきが、最も小さい方向の干渉縞データを選んで高さの再構成を行うことを特徴とする付記1または2に記載の微小高さ測定方法。
(付記4) 前記高さ演算ステップにおいて、前記干渉縞画像のある画素に関して選択すべき高さ演算方向は、干渉縞のコントラストが最も大きい方向のデータを選んで高さを再構成することを特徴とする付記1乃至3に記載の微小高さ測定方法。
(付記5) 前記注目する段差パターンの方向として、干渉計において撮像した対象画像に対し0°と90°方向である縦横方向が多い場合、対象に重畳する干渉縞の方向を撮像した前記対象画像に対し約45°方向とし、高さ演算方向が得られる干渉画像に対して前記縦横方向とすることを特徴とする付記1乃至4に記載の微小高さ測定方法。
(付記6) 前記再構成ステップにおける高さデータの選択と再構成は、前記干渉縞画像に予め選択の制限領域を設定しておくことによって行われることを特徴とする付記1乃至5に記載の微小高さ測定方法。
(付記7) 干渉計によって得られる干渉縞画像の位相情報を解析して対象の表面形状高さを算出する空間キャリア法を利用した、段差パターンを有する物体表面の形状を測定する微小高さ測定装置であって、
対象表面において重畳させる干渉縞の方向を注目する段差パターン方向と平行にならないように前記対象表面または光学系の傾斜角が調整された一枚の干渉縞画像を取得する干渉縞画像取得手段と、
取得した前記一枚の干渉縞画像を用いて、前記注目する段差パターン方向に沿って前記空間キャリア法を適用することによって前記対象表面の高さを算出する高さ演算手段と、 前記高さ演算手段で算出された前記対象表面の高さデータをもとに、前記段差パターンのエッジと交差しない方向を選択して前記高さデータを再構成する再構成手段と、
を有することを特徴とする微小高さ測定装置。
(付記8) 干渉計によって得られる干渉縞画像の位相情報を解析して対象の表面形状の高さを算出する空間キャリア法を利用した、段差パターンを有する物体表面の形状を測定する微小高さ測定プログラムであって、
コンピュータに、
対象表面において重畳させる干渉縞の方向を注目する段差パターン方向と平行にならないように前記対象表面または光学系の傾斜角が調整された一枚の干渉縞画像を取得する干渉縞画像取得ステップと、
取得した前記一枚の干渉縞画像を用いて、前記注目する段差パターン方向に沿って前記空間キャリア法を適用することによって前記対象表面の高さを算出する高さ演算ステップと、
前記高さ演算ステップで算出された前記対象表面の高さデータをもとに、前記段差パターンのエッジと交差しない方向を選択して前記高さデータを再構成する再構成ステップと、
を実行させる微小高さ測定プログラム。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態になる微小高さ測定装置の基本構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態になる微小高さ測定装置に用いるサンプルと干渉画像を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態になる微小高さ測定装置におけるフーリエ変換法の適用結果を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態になるフーリエ変換法による微小高さ演算の処理フローを示す図である。
【図5】本発明の実施の形態になるエッジ近傍の高さ精度に関する再構成データの選択例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態になるエッジ近傍の高さを再構成して得られた結果例を示す図である。
【図7】従来の干渉計による表面形状測定の構成を示す図である。
【図8】一次元フーリエ変換法による表面形状測定の従来例を示す図である。
【図9】二次元フーリエ変換法による表面形状測定の従来例を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 干渉計
2 測定制御装置
11 カメラ
12 光源部
13 干渉対物レンズ
14 参照ミラー
15 対象物
16 ステージ
17 駆動部
18 架台
21 CPU
22 メモリ
23 制御手段
24 微小高さ測定プログラム
25 干渉縞画像取得手段
26 高さ演算手段
27 再構成手段
28 出力手段
29 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
干渉計によって得られる干渉縞画像の位相情報を解析して対象の表面形状高さを算出する空間キャリア法を利用した、段差パターンを有する物体表面の形状を測定する微小高さ測定方法であって、
対象表面において重畳させる干渉縞の方向を注目する段差パターン方向と平行にならないように前記対象表面または光学系の傾斜角が調整された一枚の干渉縞画像を取得する干渉縞画像取得ステップと、
取得した前記一枚の干渉縞画像を用いて、前記注目する段差パターン方向に沿って前記空間キャリア法を適用することによって前記対象表面の高さを算出する高さ演算ステップと、
前記高さ演算ステップで算出された前記対象表面の高さデータをもとに、前記段差パターンのエッジと交差しない方向を選択して前記高さデータを再構成する再構成ステップと、
を有することを特徴とする微小高さ測定方法。
【請求項2】
前記対象表面において、注目する段差パターン方向が複数ある場合、前記段差パターン方向のどの方向とも平行にならないように投影した干渉縞から得られた干渉縞データを使って、当該段差パターン方向毎に、前記注目する段差パターン方向に沿って高さ演算を行うことにより得られた複数の高さ演算結果から、さらにより精度の良い表面高さを選択して高さを再構成することを特徴とする請求項1に記載の微小高さ測定方法。
【請求項3】
前記再構成ステップにおいて、前記干渉縞画像のある画素に関して選択すべき高さ演算方向は、注目する方向と平行ではない方向の高さばらつき、あるいは明るさばらつきが、最も小さい方向の干渉縞データを選んで高さの再構成を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の微小高さ測定方法。
【請求項4】
干渉計によって得られる干渉縞画像の位相情報を解析して対象の表面形状高さを算出する空間キャリア法を利用した、段差パターンを有する物体表面の形状を測定する微小高さ測定装置であって、
対象表面において重畳させる干渉縞の方向を注目する段差パターン方向と平行にならないように前記対象表面または光学系の傾斜角が調整された一枚の干渉縞画像を取得する干渉縞画像取得手段と、
取得した前記一枚の干渉縞画像を用いて、前記注目する段差パターン方向に沿って前記空間キャリア法を適用することによって前記対象表面の高さを算出する高さ演算手段と、
前記高さ演算手段で算出された前記対象表面の高さデータをもとに、前記段差パターンのエッジと交差しない方向を選択して前記高さデータを再構成する再構成手段と、
を有することを特徴とする微小高さ測定装置。
【請求項5】
干渉計によって得られる干渉縞画像の位相情報を解析して対象の表面形状の高さを算出する空間キャリア法を利用した、段差パターンを有する物体表面の形状を測定する微小高さ測定プログラムであって、
コンピュータに、
対象表面において重畳させる干渉縞の方向を注目する段差パターン方向と平行にならないように前記対象表面または光学系の傾斜角が調整された一枚の干渉縞画像を取得する干渉縞画像取得ステップと、
取得した前記一枚の干渉縞画像を用いて、前記注目する段差パターン方向に沿って前記空間キャリア法を適用することによって前記対象表面の高さを算出する高さ演算ステップと、
前記高さ演算ステップで算出された前記対象表面の高さデータをもとに、前記段差パターンのエッジと交差しない方向を選択して前記高さデータを再構成する再構成ステップと、
を実行させる微小高さ測定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−163279(P2007−163279A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359365(P2005−359365)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】