説明

方向提示システム、及びこれを適用した電動車椅子、杖、ゲーム用コントローラ

【課題】簡易な構造でユーザの触覚を刺激して、方向指示情報に基づいた方向提示を確実に実行できる方向提示システムを提案する。
【解決手段】前後左右方向及び斜め方向にスライド可能な移動部を有する電磁駆動アクチュエータATと、外部から提供される方向指示情報GPSに基づいて、前記移動部のスライド方向を制御する駆動制御手段DC−Pとを備えている方向提示システムである。本発明によると、駆動制御手段が外部から提供される方向指示情報に基づいて電磁駆動アクチュエータの移動部をスライド制御するので、この移動部によってユーザの指、手、肘などを一定の長さを持って触角刺激することができる。よって、視覚や聴覚でなく、ユーザの触覚刺激により方向を提示できるので、仮にユーザが視覚や聴覚に障害のある者であっても提示したい方向を確実に伝達できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータを用いて方向の提示を行う方向提示システムに関する。より詳細には、種々の構造体に組込まれ、ユーザ(操作者や使用者)の触覚を刺激することにより適切な方向提示を行う方向提示システムに関し、また、この方向提示システムを適用した電動車椅子などの装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1はナビゲーションを利用するユーザを支援するシステムについて提案している。特に、特許文献1は感覚方向指示装置を介してユーザに方向を提示するナビゲーション支援システムを提案している。このシステムに含まれる触覚方向指示装置は、ユーザに随伴して必要な触覚キューイングを決定して可動ペグを引込ませたり、起立させたり、また振動させたりする。可動ペグによって、ユーザの触覚を刺激して進行方向を示唆する。よって、ユーザは触覚刺激によって進行方向を認識できるので、ディスプレイへの注意を払う割合を軽減することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2000−352521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、特許文献1で開示する技術は、従来にあっては視覚或いは聴覚を介して伝達されていたナビゲーション情報を、ユーザの触覚にも働き掛けて補足するようにしている。これによって、ナビゲーション情報を取得するために、ユーザがディスプレイや音声に注意するように求められる環境(状況)を軽減できる。
【0005】
触覚方向指示装置は上記のように可動ペグを移動させて方向を提示する。ここでの可動ペグは釘(くぎ)ある杭(くい)状の棒状体であり、これを引込ませたり、起立させたり、また振動させたりして方向を示唆する。すなわち、特許文献1の触覚方向指示装置では複数の可動ペグを配備しておき、これを提示する情報に対応して出没(引込・起立)させることでユーザの触覚を刺激する。
【0006】
しかしながら、複数の可動ペグを位置情報に応じて選択的に出没させる駆動機構や論理回路を必要とするので可動ペグ周辺の構成が複雑化してしまう。また、可動ペグを出没させてユーザの指を押すような触覚刺激を与えて情報を示唆する構成である。可動ペグが細い針状であって、強い力で押上げると危険なデバイスとなってしまう。その一方、押上げ力を弱くするとユーザが触覚刺激を認識できないという事態が想定される。また、可動ペグをある程度の太さの棒状体にすると、これを駆動させる構造も大型化してしまう。また、特許文献1で開示する触覚方向指示装置は、ユーザの視覚や聴覚を介してナビゲーションの位置情報を伝達するときの補足装置として採用が可能である。しかし、この触覚方向指示装置単独では、進行方向を確実に伝達することが困難である。よって、ユーザが視覚障害者や聴覚障害者である場合には、特許文献1で開示する技術を適用することには困難がある。
【0007】
したがって、本発明の主な目的は、簡易な構造でユーザの触覚を刺激して、方向指示情報に基づいた方向提示を確実に実行できる方向提示システムを提案することであり、更にはこのシステムを採用することで、提示した方向をユーザに確実に伝達できる電動車椅子、杖やゲーム用コントローラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、前後左右方向及び斜め方向にスライド可能な移動部を有する電磁駆動アクチュエータと、外部から提供される方向指示情報に基づいて、前記移動部のスライド方向を制御する駆動制御手段とを備えていることを特徴とする方向提示システムによって達成できる。
【0009】
本発明によると、駆動制御手段が外部から提供される方向指示情報に基づいて電磁駆動アクチュエータの移動部をスライド制御するので、この移動部によってユーザの指、手、肘などを一定の長さ(距離)を持って触角刺激することができる。よって、視覚や聴覚でなく、ユーザの触覚刺激により方向を提示できるので、仮にユーザが視覚や聴覚に障害のある者であっても提示したい方向を確実に伝達できる。
【0010】
そして、外部の位置情報提供設備から現在位置情報を取得すると共に、地図情報を用いて事前に設定した目的地へ向かう経路を特定するナビゲーション部を更に含み、前記駆動制御手段は、前記ナビゲーション部が前記方向指示情報として提示する経路情報に基づいて、前記電磁駆動アクチュエータを制御するものでもよい。
【0011】
また、進行方向の周囲に存在する障害物を検出する障害物検知センサを更に備え、前記駆動制御手段は、前記障害物検知センサからの障害物情報に応じて前記電磁駆動アクチュエータの制御を変更するようにしてもよい。
【0012】
そして、上記方向提示システムを備えている電動車椅子によっても上記目的を達成できる。このような電動車椅子は、操作者が触覚刺激によって進行すべき方向を確認できる。
【0013】
また、前記電磁駆動アクチュエータは運転操作するための操作部又はアームレストに設置することができる。また、前記電磁駆動アクチュエータは、前記操作部又はアームレストに対して位置変更可能または着脱可能に設定してもよい。
【0014】
そして、上記方向提示システムを備えている杖によっても上記目的を達成できる。このような杖は、使用者が触覚刺激によって進行すべき方向を確認できる。
【0015】
そして、前記電磁駆動アクチュエータは、掌握部の上部または側部に設置されていてもよい。また、前記電磁駆動アクチュエータは、前記掌握部に対して位置変更可能または着脱自在に設定されていてもよい。また、掌握部に握り位置が特定されるように凹部が形成してあることがより好ましい。
【0016】
そして、上記方向提示システムを備えているゲーム用コントローラであって、前記駆動制御手段は、ゲーム装置本体から供給される前記方向指示情報に基づいて前記電磁駆動アクチュエータを制御することを特徴とするゲーム用コントローラによっても上記目的を達成できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な構造でユーザの触覚を刺激して、方向指示情報に基づいた方向提示を確実に実行できる方向提示システムを提供できる。そして、このシステムを採用する電動車椅子、杖、ゲーム用コントローラは提示した方向をユーザに確実に伝達できるので、使い勝手の良い装置或いはデバイスとして提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る方向提示システムでは、前後左右方向及び斜め方向にスライド可能な移動部を有する平面型の電磁駆動アクチュエータが採用されている。以下では、図面に基づいて、先ずこの電磁駆動アクチュエータについて説明し、更にこの電磁駆動アクチュエータを採用して方向提示する装置例について説明する。
【0019】
電磁駆動アクチュエータは、操作者(ユーザ)の手指など触覚刺激する後述する移動部(以下、キートップと称する)が前後左右方向及び斜め方向にスライド可能に設定してある。図を参照して、電磁駆動アクチュエータの構造について説明する。この電磁駆動アクチュエータは所謂、フレミングの左手の法則を応用して構成されている。より詳細には、フレミングの左手の法則に基づいて発生する電磁力を利用してキートップが平面移動する(スライドする)ように構成されている。
【0020】
図1は電磁駆動アクチュエータの主要構成と位置関係を模式的に示した図であり、(A)は4個の磁石1(1−1〜1−4)と4個のコイル2(2−1〜2−4)との関係を示した斜視図、(B)は平面図、(C)は底面図である。4個の磁石1−1〜1−4がヨークとして作用する基板3上に固定配置されている。この磁石1に対して、4個のコイル2−1〜2−4が対面するように配置されている。このコイル2に供給する電流を制御すると磁石1に対向した状態で相対移動して、2次元(面内)移動させることができる。すなわち、コイル2を磁石1に対してスライドさせる構造を実現できる。磁石1は所謂、永久磁石であっても電磁石であってもよい。永久磁石を採用する場合には、単体の磁石を複数、組合せてもよいし、1つの磁性体に着磁処理で複数の磁極を形成するようにしてもよい。例えば図1(B)で示した磁石1の場合、単体2個の磁石を用いて形成してもよいし、1つの磁性体に4磁極を着磁処理して形成してもよい。また、図1ではコイル2を固定側とし、磁石1を移動するように構成することも可能である。以下で示す実施例は、磁石1を固定側とし、コイル2を移動させる形態例である。
【0021】
図2及び図3は、より具体的な形状とした電磁駆動アクチュエータ(以下、アクチュエータAT)について示している図である。なお、これらの図2、図3では、図1で示す部位と対応する部位に同じ符号を使用している。図2は組立状態にあるアクチュエータATの外観斜視図、図3はアクチュエータATの分解斜視図である。なお、本アクチュエータATは、後述するように電動車椅子、杖、ゲームコントローラなどの装置やデバイスに組込まれ、外部から提供される方向指示情報に基づいてスライドする駆動部品の形態に形成されている。
【0022】
アクチュエータATは基板として機能する下ヨーク3上に形成されている。下ヨーク3上には、図1で説明したと同様の磁石(マグネット)1が配置されている。下ヨーク3上にフレーム4が配備され、このフレーム4の4隅にはスペーサ及び支持部材として機能する支持柱5が立設されている。この支持柱5により、下ヨーク3の上方に所定空間を形成して上ヨーク6が配設されている。上下のヨーク3、6の間に形成される空間内には、コイル2が固定されたスライダ10が移動可能な状態で収納される。スライダ10は、コイル2に電流を供給したときに磁石1との間で生じた推力を受けて2次元内をスライド可能に形成してある。上ヨーク6上にはスライダ10を2次元内の所定領域を移動(XY面移動)させるためのガイド機構が形成されている。
【0023】
スライダ10は下面にコイル2を保持している。このコイル2はスライダ10の上方に配置されるコイルホルダ11を介して、スライダ10の下面に固定されている。コイルホルダ11はスライダ10と一体に移動する。また、コイルホルダ11の上面側には突起部12が形成されている。この突起部12上にキートップ13が嵌合されている。このキートップ13は上ヨーク6の中央に形成した開口6HL内に収納される。本アクチュエータATが組上げられたときには、図2で示すように、キートップ13は上ヨーク6の上部に頭を出した状態となる。キートップ13が配置される位置は、スライダ10の下面に固定したコイル2の中央位置2CT(図1参照)である。また、スライダ10の下面には、コイル2との間に介在するように回路基板が嵌め込まれている。この回路基板には電気部品EPなどが配置され、所定の回路パターンが形成されている。
【0024】
スライダ10を2次元の所定領域で移動させる機構が上ヨーク6に形成されている。この移動機構について説明する。本実施例のアクチュエータATでは、スライダ10と一体に移動するキートップ13がガイド部材に係合することで2次元の所定領域を移動するようになっている。
【0025】
本アクチュエータATは、キートップ13をX軸方向及びY軸方向に案内するため、第1ガイド部材16と第2ガイド部材17とを備えている。図3を参照すると、第1ガイド部材16はY軸方向の所定範囲で上記キートップ13をガイドする。第1ガイド部材16は中央に長方形の開口16HLを有し、この開口16HL内にキートップ13を収納してY軸方向へガイドする。
【0026】
さらに、上記第1ガイド部材16は第2ガイド部材17によって、Y軸方向とは直角なX軸方向へガイドされるようになっている。第2ガイド部材17は、開口17HL内で第1ガイド部材16をX軸方向へ案内するように配置されている。
【0027】
上記のような構成では、キートップ13が第1ガイド部材16によってY軸方向にガイドされ、さらに第1ガイド部材16が第2ガイド部材17によってY軸方向とは直角なX軸方向にガイドされる。よって、本アクチュエータではコイル2を有するスライダ10が所定の推力を受けたときに、キートップ13が2次元領域(XY平面)をスライドする構造を実現できることになる。より具体的には、4個のコイル2(2−1〜2−4)に供給する電流を制御することにより、Y軸方向(前後方向)及びこれと垂直なX軸方向(左右方向)、並びにこれら方向を合成して得られる斜め方向へキートップ13をスライドさせることができる。
【0028】
上記構成のアクチュエータATは、コイル2へ供給する電気信号を制御することでキートップ13を前後方向、左右方向、更には斜め方向にスライドできる。よって、アクチュエータATを種々の装置やデバイスなどに組込むことで、キートップ13により操作者の手、指などを触覚刺激して指示したい方向を提示できる方向提示システムとなる。すなわち、コイル2へ供給する電流を制御しキートップ13を提示したい方向にスライドさせることで、操作者に提示したい方向を認識させることができる。更に、スライド動作を繰返すようにすれば、提示したい方向を操作者により確実に認識させることができる。
以下では、実施例として上記アクチュエータATを含む方向提示システムを適用した、経路ガイド機能を備え電動車椅子、杖、及び、障害者の補助機能を備えたゲーム用コントローラを順に説明する。
【実施例1】
【0029】
図4は、アクチュエータATを適用した実施例1に係る電動車椅子MWについて示している図である。この電動車椅子MWの操作部WRにアクチュエータATが適用されている。ここでは楕円内に操作部WRを拡大して示している。操作部WRは棒形状であり、例えばこの操作部WRを進みたい方向へ傾倒させることによって電動車椅子MWを進めることができる。この操作部WRの上端部に、アクチュエータATが埋め込まれている。操作者が操作部WRを掌握したときに、親指がアクチュエータATのキートップ13に触れる状態となるように設定してある。よって、キートップ13が所定の方向へスライドすると、操作者はその方向を触覚刺激で確認できる。
【0030】
図5は、電動車椅子MWの進行方向を提示するアクチュエータATを制御するための構成を示したブロック図である。電動車椅子MWは、経路を検索して進行方向を特定するナビゲーション部となる位置情報処理部PF−Pと、この位置情報処理部PF−Pから供給される信号に基づいてアクチュエータATを制御する駆動制御部DC−Pとを備えている。
【0031】
この電動車椅子MWは、ナビゲーション装置を搭載する車両の場合と同様に、GPS(Global Positioning System)信号を受信して自己位置を確認して経路を特定する機能を備えている。図5における位置情報処理部PF−Pは、外部の位置情報提供設備から現在位置情報を取得すると共に、地図情報を用いて事前に設定した目的地へ向かう経路をガイドするナビゲーション装置として機能する。位置情報処理部PF−Pは外部情報処理部及び演算CPU(Central Processing Unit)を備えている。外部情報処理部はGPS信号を受信して自己位置を確認し、演算CPUは内蔵している地図情報を用いて自己の現在位置の確認及び目的地までの経路を検索して決定して、これに応じた信号を出力する。
【0032】
駆動制御部DC−Pは、上記位置情報処理部PF−Pからの信号に基づいて、アクチュエータATを制御する駆動制御手段として機能する。駆動制御部DC−Pは、演算CPUから供給される信号に基づいて、電動車椅子MWが進行すべき方向にアクチュエータATのキートップ13をスライドさせる。駆動制御部DC−Pは、電源回路、電圧調整回路及び発信回路を含んでいる。
【0033】
なお、上記位置情報処理部PF−P及び駆動制御部DC−Pは、図示のように、車椅子駆動モータを駆動させるために配置してある搭載バッテリを活用して駆動すればよい。
【0034】
図6は、位置情報処理部PF−Pからの信号に応じて、駆動制御部DC−PがアクチュエータATの駆動を制御するときの電圧波形の一例を示した図である。(A)は、例えばX軸方向(例えば電動車椅子の横方向)にアクチュエータATのキートップ13を短時間に往復スライドさせる場合、(B)は時間的にインターバルを持ってキートップ13を往復スライドさせる場合、更に(C)はキートップ13を例えば一定時間右側へスライドさせて戻す場合である。これらの動作を提示したい方向情報と予めリンクしておくことで、操作者の触覚を刺激してその提示方向を伝達できる。Y軸方向についても駆動制御する電圧波形を同様に形成してキートップ13をスライド動作させることで、操作者の触覚を刺激して方向を伝達できる。
【0035】
図7は、X軸方向とY軸方向とを組合わせた場合のアクチュエータATのスライド動作の一例を示した図である。(A)はY軸方向だけに正電圧を印加して、進行方向と平行な前方へアクチュエータATのキートップ13をスライドさせる場合を示している。図7(A)は、キートップ13が進行方向と平行にスライドして、一定時間前端に留まって中央位置に戻る様子を示している。このスライド動作をしたときに、例えば真っ直ぐに進むことの提示であることを予め定めておくことで、操作者の親指を刺激して進行方向を伝達できる。同様に、(B)はX軸方向及びY軸方向に正電圧を印加した場合を示している。アクチュエータATのキートップ13が進行方向に対して右斜め前へスライドして、一定時間前端に留まる。このスライド動作をしたときには、例えば右斜めに進むことの提示であることを予め定めておけばよい。
【0036】
図8は、図5で示した位置情報処理部PF−P及び駆動制御部DC−Pが協働して実行する進行方向ガイドの処理をまとめて示した図である。なお、図5で示すブロック図では、発明の理解を容易とするため、位置情報処理部PF−Pの演算CPUと駆動制御部DC−Pとを個別に図示しているが、1つのCPUでこれらを実現するようにしてもよい。
【0037】
前述したように位置情報処理部PF−Pは、ナビゲーション装置と同様の機能を備えている。図示を省略しているが電動車椅子には目的地を入力するための入力装置が配備されており、目的地が入力されると(S1)、位置情報処理部PF−Pの外部情報受信部が外部より位置情報(GPS信号など)を受信する(S2)。そして、演算CPUが、内蔵したマップデータ(地図情報)で現在地点の照合(S3)、目的地点の照合(S4)、現在地点から目的地までのルート情報検索などを実行する(S5)。
【0038】
上記のようにして電動車椅子MWの現在地と目的地への経路が特定されると、曲がり角地点(交差点)に到達したときに(S6)、演算CPUが進行方向情報をX、Y軸の電圧波形データに変換する(S7)。この電圧波形データが駆動制御部DC−Pに伝達され(S8)、駆動制御部DC−PがアクチュエータATに所定の電圧を印加する(S9)。これにより、キートップ13が進行方向と平行にスライドするなどの動作を実行する(S10)。このスライド動作は電動車椅子MWの操作部を掌握する操作者の指を刺激するので、触覚を介して提示方向を操作者へ確実に伝達できる。
【0039】
以上で説明した、ナビゲーション機能付きの電動車椅子MWはアクチュエータを用いることにより、操作者の触覚を刺激して進行方向を提示する。よって、操作者の視覚、聴覚以外の感覚である触覚を介して方向提示を行える。特に触覚刺激のデバイスとして、キートップ13(移動部)が平面をスライドする電磁駆動アクチュエータATを採用するので、移動距離を一定以上に長く設定して操作者の手指などを触覚刺激できる。よって、操作者に提示したい方向を、触角刺激だけでも確実に伝達できる。
【0040】
(変形例1)
以下、更に実施例1に関連した変形例を説明する。図9は、実施例1の第1の変形例について示したブロック図である。このブロック図は、先に説明した図5と対応して示している。この図9で示すように、変形例1では障害物検知センサBSが新たに付加されており、その検出信号が演算CPUへ供給されている。なお、このような障害物検知センサBSとしては、周囲の障害物を検出する超音波センサ、光学センサ、ミリ波レーダなどを採用して、電動車椅子MWに適宜に設置すればよい。
【0041】
図10は、障害物検知センサを採用して進行方向に存在する障害物を回避できるように改善した変形例1の進行方向ガイドの処理をまとめて示した図である。ただし、図10における前半の処理は、図8で示した進行方向ガイドのフローチャートの前半(S1〜S6)と同様であるので、これ以後をステップS21以下として説明する。
【0042】
曲がり角地点に到達したとき(S6)、障害物検知センサBSが障害物を検知すると(S21)、その検出信号を演算CPUが受信する(S22)。演算CPUは障害物情報を加味してX、Y軸の電圧波形データに変換する(S23)。この電圧波形データが駆動制御部DC−Pに伝達され(S24)、駆動制御部DC−PがアクチュエータATに所定の電圧を印加する(S25)。この場合には、アクチュエータATが振動する、クリック感などを感じさせる動作を実行する。これにより障害物の存在を提示する(S26)。障害物が存在するが注意することで通行可能である場合には、その後に通常のスライド動作を実行して変更後の進行方向を提示してもよい。また、障害物により、進行することが不可能である場合は、所定の警告を発するようにするのが好ましい。
【0043】
(変形例2)
実施例1に関連した第2の変形例を説明する。図11は、操作部WRとは反対のアームレスト(肘掛)ARにアクチュエータATを配置した変形例2に係る電動車椅子MWについて示している。前述した実施例では操作部WRのレバーにアクチュエータATを組込む場合を例示している。この場合には、アクチュエータATの設置位置が限定され、小型化を促進する必要がある。これに対し図11で示すように反対側のアームレストARにアクチュエータATを設置すれば、自由度をもってアクチュエータATを設計し、配置することができる。図11で示す変形例2の場合には、指を触覚刺激する場合に限らす、操作者の手の平部分、腕や肘部分に触覚刺激を与えて方向を提示することもできる。
【0044】
(変形例3)
実施例1に関連した第3の変形例を説明する。図12はアクチュエータATを着脱可能に形成した場合の変形例3について示している図である。変形例3では、アクチュエータATに第1の電気接点CT−1が形成されている。一方、操作部WRの上端には、第1接点CT−1に対する第2接点CT−2及びアクチュエータATを支持する構造が設けられている。同様に、アームレストAR側にも第1接点CT−1に対する第3接点CT−3及びアクチュエータATを支持する構造が設けられている。
【0045】
図12で示す変形例3の構造を採用すれば、電動車椅子MWを使用する操作者の要求に応じてアクチュエータATを着脱することができる。このようにアクチュエータATを着脱自在にしておくと、操作者が特定の箇所に障害がある場合に対処できる。左腕を失った身障者が操作者である場合には、操作部WRにアクチュエータATを設置する。右手の指先に不自由がある操作者である場合にはアームレストARにアクチュエータATを設置する。この変形例3による電動車椅子MWは、操作者の状態や要求に応じて、アクチュエータATを配備する箇所を変更できるので1台を複数の人で共有できる。なお、図12で例示したアクチュエータATの設置箇所は単なる例示である。例えば足を置くステップSTにアクチュエータATを設置するようにしてもよい。変形例3は、アクチュエータATを着脱可能に構成して設置位置の変更を可能とする構造を提案するものであるが、アクチュエータATをスライド可能に配置して所定範囲内で位置変更可能とする構造を採用してもよい。
【実施例2】
【0046】
実施例1の電動車椅子MWに適用したのと同様の構成を杖に適用した場合を実施例2として説明する。なお、実施例2の説明では、実施例1と同じ部位に同一の符号を付すことで重複する説明を省略する。図13は、方向提示の機能を備えた実施例2に係る視覚障害者用の白杖WSについて示した図である。この白杖WSも実施例1の電動車椅子の場合と同様にナビゲーション機能を備え、アクチュエータATのスライド動作で視覚障害者の手を触覚刺激して進行方向などを提示する。より具体的には、白杖WSの上部の掌握部GPの上端にアクチュエータATがセットされている。よって、前述した実施例1の場合と同様に、キートップ13が使用者の親指を触覚刺激して方向を提示できる。なお、白杖の掌握部GPには、使用者の指で握る位置を特定されるように凹部CSが形成してある。よって、使用するときには、杖WSの向きは常に同じになるのでキートップ13のスライド動作で方向を提示できる。
【0047】
図14は、白杖WSにセットしたアクチュエータATを駆動制御するための構成を示したブロック図である。実施例1で説明した電動車椅子の場合には、駆動バッテリ、ナビゲーション機能を果す位置情報処理部PF−P、アクチュエータATのスライド動作を制御する駆動制御部DC−Pなど全てを搭載することが可能である。これに対して、実施例2の白杖WSの場合にはスペースに限界がある。そこで、アクチュエータAT及びこの駆動を制御する駆動制御部DC−P及び受信機を杖側にコンパクトに設定する。残る位置情報処理部PF−Pは別体に形成して、アクチュエータATの駆動信号を送信するように構成する。別体に形成する位置情報処理部PF−Pは、単独の装置として構成してもよいが、例えば携帯電話やPDA(Personal Digital Assistance)の一部機能として構成するのが好ましい。このように構成した位置情報処理部PF−Pを、使用者自身或いは同伴者が保持することで白杖WSを電動車椅子MWの場合と同様に使用できる。
【0048】
(変形例1)
以下、更に実施例2に関連した変形例を説明する。図15は、アクチュエータATの設置位置を掌握部GPの側部に変更した実施例2の変形例1について示した図である。図15で示すように、指で握る凹部CSと反対側にアクチュエータATを設定すると使用者の親指、若しくは手の平で触覚刺激を受けることができる。ただし、このようにアクチュエータATを横向きで使用する場合には、上側が前方、下側が後方などと予め設定することが必要である。
【0049】
(変形例2)
実施例2に関連した第2の変形例を説明する。図16は、掌握部GPに対してアクチュエータATを移動できる構造を設けた変形例2について示している図である。掌握部GPに移動用のガイド部30と任意位置でアクチュエータATを固定するためのネジ部31を備えている。この変形例の白杖WSを採用すれば、使用者の身体の状態や好みに応じてアクチュエータATの位置を変更できる。白杖WSは、このように使用者の状態や要求に応じてアクチュエータATの位置を変更できるので複数の人で共有できる。
【0050】
(変形例3)
実施例2に関連した第3の変形例を説明する。図17はアクチュエータATを着脱可能に形成した場合の変形例3について示している図である。変形例3では、アクチュエータATに第1の電気接点CT−1が形成されている。一方、白杖WSの掌握部GPの上端には、第1接点CT−1を着脱自在とする第2接点CT−2、また側部にも第1接点CT−1を着脱自在とする第3接点CT−3が設けられている。この変形例3による白杖WSは使用者の状態や要求に応じてアクチュエータATを配備する箇所を変更できる。白杖WSも使用者の状態や要求に応じてアクチュエータATの位置を変更できるので複数の人で共有できる。
【実施例3】
【0051】
更に図を参照して、本発明の第3の実施例について説明する。この実施例3はゲーム用コントローラに係るものである。図18は、実施例に係るゲーム用コントローラGCを示しており、(A)は使用状態にあるゲーム用コントローラGCの外観斜視図、(B)はゲーム用コントローラGCの側部断面である。このゲーム用コントローラGCは、図18(A)で示すように、ゲーム装置本体40に接続され、ディスプレイ装置45に表示されるゲームなどをコントロールするときに使用される。
【0052】
ゲームの遊戯者(プレーヤ)は、通常、ゲーム装置本体40にセットされたアプリケーションソフトに応じてゲーム用コントローラGCのジョイスティックJSや入力ボタンBTを操作する。図18(B)で示すように、ゲーム用コントローラGCのジョイスティックJSの基幹部には前述したアクチュエータATが採用されている。また、ゲーム装置本体40内にはアプリケーションソフトの内容に応じた方向指示情報を確認し、この方向指示情報に基づいてX、Y軸の電圧波形データを生成する回路が内蔵してある。よって、ゲーム装置本体40から供給する出力信号を駆動指示情報として、ゲーム用コントローラGC内のアクチュエータATのキートップ13をスライド動作させることができる。
【0053】
例えば、アプリケーションソフトとして車両が道路を走行するサーキットゲームを実行しているときに、ゲーム用コントローラGCのジョイスティックJSを左右にスライドさせてプレーヤの手の平などに触覚刺激を与えることができる。このようなゲーム用コントローラGCは、視覚障害のあるプレーヤがゲームするときの補助として、また、幼い子供にゲームを体感させる場合など、補助機能をを備えたものとして提案できる。
【0054】
以上本発明の好ましい一実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】電磁駆動アクチュエータの主要構成と位置関係を模式的に示した図であり、(A)は4個の磁石と4個のコイルとの関係を示した斜視図、(B)は平面図、(C)は底面図である。
【図2】組立状態にあるアクチュエータの外観斜視図である。
【図3】アクチュエータの分解斜視図である。
【図4】アクチュエータを適用した実施例1に係る電動車椅子について示している図である。
【図5】電動車椅子の進行方向を提示するアクチュエータを制御するための構成を示したブロック図である。
【図6】駆動制御部がアクチュエータの駆動を制御するときの電圧波形の一例を示した図である。
【図7】X軸方向とY軸方向とを組合わせた場合のアクチュエータのスライド動作の一例を示した図である。
【図8】位置情報処理部及び駆動制御部が協働して実行する進行方向ガイドの処理をまとめて示した図である。
【図9】実施例1の第1の変形例について示しているブロック図である。
【図10】障害物を回避できるように改善した変形例1の進行方向ガイドの処理をまとめて示した図である。
【図11】操作部とは反対のアームレストにアクチュエータを配置した変形例2に係る電動車椅子について示してる図である。
【図12】アクチュエータを着脱可能に形成した場合の変形例3について示している図である。
【図13】方向提示の機能を備えた実施例2に係る視覚障害者用の白杖について示した図である。
【図14】実施例2の白杖にセットしたアクチュエータを駆動制御するための構成を示したブロック図である。
【図15】アクチュエータの設置位置を掌握部の側部に変更した実施例2の変形例1について示した図である。
【図16】掌握部に対してアクチュエータを移動できる構造を設けた変形例2について示している図である。
【図17】アクチュエータを着脱可能に形成した場合の変形例3について示している図である。
【図18】実施例に係るゲーム用コントローラを示しており、(A)は使用状態にあるゲーム用コントローラGCの外観斜視図、(B)はゲーム用コントローラGCの側部断面である。
【符号の説明】
【0056】
1(1−1〜1−4) 磁石
2(2−1〜2−4) コイル
10 スライダ
13 キートップ(移動部)
AT 電磁駆動アクチュエータ
MW 電動車椅子
WR 操作部
AR アームレスト
BS 障害物検知センサ
WS 白杖(杖)
GP 掌握部
GC ゲーム用コントローラ
駆動制御部DC−P 駆動制御手段
位置情報処理部PF−P ナビゲーション部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後左右方向及び斜め方向にスライド可能な移動部を有する電磁駆動アクチュエータと、
外部から提供される方向指示情報に基づいて、前記移動部のスライド方向を制御する駆動制御手段とを備えている、ことを特徴とする方向提示システム。
【請求項2】
外部の位置情報提供設備から現在位置情報を取得すると共に、地図情報を用いて事前に設定した目的地へ向かう経路を特定するナビゲーション部を更に含み、
前記駆動制御手段は、前記ナビゲーション部が前記方向指示情報として提示する経路情報に基づいて、前記電磁駆動アクチュエータを制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の方向提示システム。
【請求項3】
進行方向の周囲に存在する障害物を検出する障害物検知センサを更に備え、
前記駆動制御手段は、前記障害物検知センサからの障害物情報に応じて前記電磁駆動アクチュエータの制御を変更する、ことを特徴とする請求項1に記載の方向提示システム。
【請求項4】
請求項2または3に記載の方向提示システムを備えている、ことを特徴とする電動車椅子。
【請求項5】
前記電磁駆動アクチュエータは、運転操作するための操作部又はアームレストに設置されている、ことを特徴とする請求項4に記載の電動車椅子。
【請求項6】
前記電磁駆動アクチュエータは、前記操作部又はアームレストに対して位置変更可能または着脱可能に設定されている、ことを特徴とする請求項4に記載の電動車椅子。
【請求項7】
請求項2または3に記載の方向提示システムを備えている、ことを特徴とする杖。
【請求項8】
前記電磁駆動アクチュエータは、掌握部の上部または側部に設置されている、ことを特徴とする請求項7に記載の杖。
【請求項9】
前記電磁駆動アクチュエータは、前記掌握部に対して位置変更可能または着脱自在に設定されている、ことを特徴とする請求項7に記載の杖。
【請求項10】
掌握部に握り位置が特定されるように凹部が形成してある、ことを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の杖。
【請求項11】
請求項1に記載の方向提示システムを備えているゲーム用コントローラであって、
前記駆動制御手段は、ゲーム装置本体から供給される前記方向指示情報に基づいて前記電磁駆動アクチュエータを制御する、ことを特徴とするゲーム用コントローラ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2008−180652(P2008−180652A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15421(P2007−15421)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(501398606)富士通コンポーネント株式会社 (848)
【Fターム(参考)】