説明

旋回制御装置及び旋回制御方法

【課題】車両を旋回させる際に消費されるエネルギーを小さくすることができ、ヨーレートを十分に大きくすることができるようにする。
【解決手段】車両のボディと、車輪WLF、WRF、WLB、WRBと、車輪にキャンバ角を付与する車輪駆動部と、車両を操舵するために操作される操舵部材と、操舵部材の操作量を検出する操作量検出部と、検出された操作量に基づいて、車両が旋回させられていると判断されると、車輪のうちの後輪に、操舵方向と反対側にタイヤを傾ける方向のキャンバ角を付与するキャンバ角付与処理手段とを有する。車両が旋回させられていると判断されると、車輪のうちの後輪に、操舵方向と反対側にタイヤを傾ける方向のキャンバ角が付与されるので、ヨーレートを十分に大きくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回制御装置及び旋回制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両を走行させる際には、タイヤと路面との間の摩擦によって、タイヤが転がる方向を表すタイヤの向きと逆方向に転がり抵抗が発生する。また、車両を旋回させるために、運転者がステアリングホイールを操作して、タイヤの向きを変えると、タイヤと路面との間の摩擦によって、タイヤの向きに対して垂直の方向に横力が発生する。したがって、車両の旋回時には、前記転がり抵抗と横力との合力がタイヤ力となってタイヤに加わる。
【0003】
このとき、前記タイヤ力におけるタイヤの進行方向に対して垂直の方向の成分はコーナリングフォースとなり、該コーナリングフォースは、車両を旋回させる際に遠心力に抗して必要になる求心力として機能する。また、前記タイヤ力におけるタイヤの進行方向の成分はコーナリング抵抗となり、該コーナリング抵抗は、車両の走行抵抗として機能する。
【0004】
ところで、車両を旋回させる際に消費されるエネルギーを小さくするためには、前記コーナリング抵抗を小さくするのが好ましいが、該コーナリング抵抗を小さくするためには、車両を旋回させるときのタイヤの向きとタイヤの進行方向とが成す角度、すなわち、スリップ角を小さくする必要がある。
【0005】
ところが、スリップ角を小さくすると、コーナリングフォースがその分小さくなり、旋回性が低下して、車両の旋回状態を維持することができなくなってしまう。
【0006】
そこで、前輪にキャンバ角を付与することによって、キャンバスラストを発生させ、コーナリングフォースを維持したままスリップ角を小さくし、コーナリング抵抗を小さくするようにした車両が提供されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−15473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の車両においては、キャンバスラストを発生させた分だけスリップ角を小さくする必要があるので、車両の旋回速度を表す値、すなわち、ヨーレートを十分に大きくすることができない。
【0008】
本発明は、前記従来の車両の問題点を解決して、車両を旋回させる際に消費されるエネルギーを小さくすることができ、ヨーレートを十分に大きくすることができる旋回制御装置及び旋回制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために、本発明の旋回制御装置おいては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された車輪と、前記ボディと前記車輪との間に配設され、該車輪にキャンバ角を付与する車輪駆動部と、車両を操舵するために運転者によって操作される操舵部材と、該操舵部材の操作量を検出する操作量検出部と、該操作量検出部によって検出された操作量に基づいて、車両が旋回させられていると判断されると、前記車輪のうちの後輪に、操舵方向と反対側にタイヤを傾ける方向のキャンバ角を付与するキャンバ角付与処理手段とを有する。
【0010】
本発明の他の旋回制御装置においては、さらに、前記操作量が閾値以上であるかどうかを判断する操作量判定処理手段を有する。
【0011】
そして、前記キャンバ角付与処理手段は、前記操作量が閾(しきい)値以上である場合、前記車輪のうちの前輪に、操舵方向側にタイヤを傾ける方向のキャンバ角を付与する。
【0012】
本発明の更に他の旋回制御装置においては、さらに、前記車輪駆動部は、前記操舵部材の操作量に基づいて車輪に舵角を付与する。
【0013】
本発明の旋回制御方法においては、車両のボディ、該ボディに対して回転自在に配設された車輪、前記ボディと前記車輪との間に配設され、該車輪にキャンバ角を付与する車輪駆動部、車両を操舵するために運転者によって操作される操舵部材、及び該操舵部材の操作量を検出する操作量検出部を備えた車両に適用される。
【0014】
そして、該操作量検出部によって検出された操作量に基づいて、車両が旋回させられていると判断されると、前記車輪のうちの後輪に、操舵方向と反対側にタイヤを傾ける方向のキャンバ角を付与する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、旋回制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された車輪と、前記ボディと前記車輪との間に配設され、該車輪にキャンバ角を付与する車輪駆動部と、車両を操舵するために運転者によって操作される操舵部材と、該操舵部材の操作量を検出する操作量検出部と、該操作量検出部によって検出された操作量に基づいて、車両が旋回させられていると判断されると、前記車輪のうちの後輪に、操舵方向と反対側にタイヤを傾ける方向のキャンバ角を付与するキャンバ角付与処理手段とを有する。
【0016】
この場合、前記操作量検出部によって検出された操作量に基づいて、車両が旋回させられていると判断されると、前記車輪のうちの後輪に、操舵方向と反対側にタイヤを傾ける方向のキャンバ角が付与されるので、車輪に発生させられるキャンバスラストによって車両にヨーレートが与えられる。したがって、車輪の操舵だけによる旋回と比較してコーナリング抵抗が少なくなるので、消費されるエネルギーを小さくすることができ、車両の走行性を向上させることができる。また、操舵方向と反対側に向けてキャンバスラストが発生させられるので、ヨーレートを十分に大きくすることができる。
【0017】
本発明の他の旋回制御装置においては、さらに、前記操作量が閾値以上であるかどうかを判断する操作量判定処理手段を有する。
【0018】
そして、前記キャンバ角付与処理手段は、前記操作量が閾値以上である場合、前記車輪のうちの前輪に、操舵方向側にタイヤを傾ける方向のキャンバ角を付与する。
【0019】
この場合、前記操作量が閾値以上である場合に、後輪に、操舵方向と反対側にタイヤを傾ける方向のキャンバ角が、前輪に、操舵方向側にタイヤを傾ける方向のキャンバ角が付与されるので、車輪にキャンバスラストを発生させることができ、ヨーレートを確実に大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図2は本発明の実施の形態における車両の概念図、図3は本発明の実施の形態における車輪駆動部ユニットの平面図、図4は本発明の実施の形態におけるアクチュエータの動作を説明する図である。
【0022】
図において、11は車両の本体を表すボディ、WLF、WRF、WLB、WRBは、ボディ11に対して回転自在に配設された前方左側、前方右側、後方左側及び後方右側の車輪であり、互いに独立させて回転させることができるようになっている。そして、車輪WLF、WRFによって前輪が、車輪WLB、WRBによって後輪が構成される。
【0023】
また、13は操舵装置としてのステアリングホイール、14は加速操作部材としてのアクセルペダル、15は減速操作部材としてのブレーキペダルであり、運転者がステアリングホイール13を操作して回転させると、該ステアリングホイール13の回転に応じて車輪WLF、WRFに舵角が付与されるので、車両を旋回させることができる。また、運転者がアクセルペダル14を踏み込むと、該アクセルペダル14の踏込量に応じて車両を加速させることができ、運転者がブレーキペダル15を踏み込むと、ブレーキペダル15の踏込量に応じて車両を制動することができる。なお、前記舵角は、ステアリングホイール13の回転に応じて車輪WLF、WRFの向きが変化させられたときに、車両の前後方向と車輪WLF、WRFの向きとが成す角度である。
【0024】
そして、16は車両の全体の制御を行う制御部、31〜34は、ボディ11と各車輪WLF、WRF、WLB、WRBとの間にそれぞれ配設され、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBを独立させて回転させ、かつ、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに舵角を独立させて形成し、キャンバ角を独立させて付与する車輪駆動部、38は、舵角を形成し、キャンバ角を付与するために油圧を発生させる油圧制御部である。
【0025】
なお、前記ステアリングホイール13、制御部16、車輪駆動部31〜34、旋回制御装置38等によって旋回制御装置が、各車輪WLF、WRF、WLB、WRB及び各車輪駆動部31〜34によって、前方左側、前方右側、後方左側及び後方右側の車輪駆動部ユニット41〜44が構成される。また、前記各車輪駆動部31〜34は各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに対応させて配設されるようになっているが、ボディ11における所定の1箇所に配設することもできる。
【0026】
次に、前記各車輪駆動部ユニット41〜44の構造について説明する。この場合、各車輪駆動部ユニット41〜44の構造は互いに等しいので、車輪駆動部ユニット41についてだけ説明する。
【0027】
図3において、41は車輪駆動部ユニットであり、該車輪駆動部ユニット41は車輪WLF及び車輪駆動部31を備え、前記車輪WLFは、アルミニウム合金等によって形成されたホイール18、及び該ホイール18の外周に嵌(かん)合させて配設されたタイヤ19を備え、前記車輪駆動部31は、円形の形状を有する車輪駆動板としてのキャンバプレート45、該キャンバプレート45に取り付けられ、ホイール18内に収容された走行用の駆動部としてのモータ(ホイールモータ)46、前記キャンバプレート45を揺動させる揺動用の駆動部としてのアクチュエータ47、前記キャンバプレート45とアクチュエータ47とを連結する連結部材としてのジョイント部(ユニバーサルジョイント)51等を備える。
【0028】
前記モータ46は、前記キャンバプレート45に固定されたステータ48、該ステータ48内に配設され、回転自在に配設された図示されないロータ、該ロータに取り付けられ、先端にホイール18が固定された出力軸49等を備える。そして、前記アクセルペダル14が踏み込まれると、アクセルペダル14の踏込量に比例してモータ46が駆動され、回転速度が増減させられる。
【0029】
また、前記アクチュエータ47は、第1〜第3の駆動部材としての油圧シリンダ53〜55を備え、該各油圧シリンダ53〜55は、前記ボディ11に固定されたシリンダ部61〜63、及び該各シリンダ部61〜63に対して進退自在に配設されたロッド部64〜66を備え、該各ロッド部64〜66はジョイント部51を介してキャンバプレート45と連結される。
【0030】
ところで、前記キャンバプレート45の中心Oを通り、車両の前後方向(長さ方向)に延びる軸をxa軸とし、車両の左右方向(幅方向)に延びる軸をya軸とし、車両の上下方向(高さ方向)に延びる軸をza軸としたとき、前記油圧シリンダ53〜55を駆動し、各ロッド部64〜66を矢印A、B方向に進退させることによって、キャンバプレート45を、xa軸を中心にして矢印C、D方向に回動させたり、za軸を中心にして矢印E、F方向に回動させたりすることができる。そのために、前記キャンバプレート45におけるza軸上の上端の近傍の所定の位置を第1の位置st1とし、該第1の位置st1より車両の前後方向における後側の所定の位置を第2の位置st2とし、前記第1の位置st1より車両の前後方向における前側の所定の位置を第3の位置st3としたとき、第1〜第3の位置st1〜st3に各ジョイント部51が配設され、該各ジョイント部51を介してキャンバプレート45と各ロッド部64〜66とが全方向に回動自在に連結される。なお、本実施の形態において、前記第1〜第3の位置st1〜st3は、前記キャンバプレート45の円周方向において等ピッチ角で、120〔°〕の間隔を置いて設定される。
【0031】
そして、前記油圧制御部38によって油圧を発生させ、前記各シリンダ部61〜63に対して選択的に給排することによって、車輪WLFに舵角及びキャンバ角を付与することができる。すなわち、図3に示されるように、車輪WLFが図示されない路面に対して垂直に、かつ、ボディ11に対して平行に置かれる状態を中立状態としたとき、該中立状態において、ロッド部64を所定の量だけ矢印A方向に移動(後退)させ、ロッド部65、66を同じ量だけ矢印B方向に移動(前進)させると、車輪WLFは矢印C方向に回動させられ、車輪WLFに負の値のキャンバ角(ネガティブキャンバ)が付与される。また、前記中立状態において、ロッド部64を所定の量だけ矢印B方向に移動させ、ロッド部65、66を同じ量だけ矢印A方向に移動させると、車輪WLFは矢印D方向に回動させられ、車輪WLFに正の値のキャンバ角(ポジティブキャンバ)が付与される。
【0032】
さらに、前記中立状態において、ロッド部65を所定の量だけ矢印A方向に移動させ、ロッド部66を同じ量だけ矢印B方向に移動させると、車輪WLFは矢印E方向に回動させられ、車輪WLFに正の値の舵角(トウアウト)が付与される。また、前記中立状態において、ロッド部64を所定の量だけ矢印B方向に移動させ、ロッド部66を同じ量だけ矢印A方向に移動させると、車輪WLFは矢印F方向に回動させられ、車輪WLFに負の値の舵角(トウイン)が付与される。
【0033】
なお、本実施の形態においては、走行用の駆動部としてモータ46が配設されるようになっているが、該モータ46に代えてエンジンを使用することができる。その場合、エンジンによって発生させられた回転を、プロペラシャフト、ディファレンシャル装置、ドライブシャフト等の回転伝達系を介して駆動輪として機能する車輪に伝達することができる。
【0034】
次に、前記構成の車両の制御装置について説明する。
【0035】
図1は本発明の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【0036】
図において、16は制御部、WLF、WRF、WLB、WRBは車輪、20は、運転者がステアリングホイール13を操作したときの操舵方向における操作量を検出する操作量検出部としての操作量センサ、s1は各シリンダ部61(図3)に対して油圧の給排を行う制御弁、s2は各シリンダ部62に対して油圧の給排を行う制御弁、s3は各シリンダ部63に対して油圧の給排を行う制御弁、ε1は各車輪WLF、WRFに付与された舵角を検出する舵角検出部としての舵角センサ、ε2は各車輪WLF、WRF、WLB、WRBのキャンバ角を検出するキャンバ角検出部としてのキャンバ角センサである。
【0037】
本実施の形態においては、運転者がステアリングホイール13を操作したときの操作量に基づいてアクチュエータ47が駆動され、各車輪WLF、WRFに舵角が付与されるようになっているが、ステアリングホイール13を操作することによって直接各車輪WLF、WRFを揺動させて舵角を付与することができる。なお、前記舵角センサε1によって舵角を検出することができるほかに、制御部16の図示されない舵角検出処理手段が舵角検出部として機能し、舵角を検出することができる。この場合、前記舵角検出処理手段は、舵角検出処理を行い、操作量を読み込み、図示されない記憶装置に配設された舵角マップを参照し、ステアリングホイール13の操作量に基づいて各車輪WLF、WRFに付与された舵角を検出することができる。なお、本実施の形態において、ステアリングホイール13の操作量と各車輪WLF、WRFに付与された舵角とは必ずしも一致しない。
【0038】
前記制御部16は、ステアリングホイール13の操作量が操作量センサ20によって検出されると、アクチュエータ47を駆動し、各車輪WLF、WRFに前記操作量に応じた舵角を付与する。付与された舵角は舵角センサε1によって検出され、制御部16に送られ、フィードバック制御が行われる。また、制御部16は、後述されるように、アクチュエータ47を駆動し、検出された舵角に応じたキャンバ角を各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与する。付与されたキャンバ角は、キャンバ角センサε2によって検出され、制御部16に送られ、フィードバック制御が行われる。
【0039】
次に、車両を旋回させるに当たり、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与したときの旋回特性について説明する。
【0040】
図5は本発明の実施の形態におけるキャンバスラストの発生のメカニズムを説明する図、図6は本発明の実施の形態における車輪にキャンバ角を付与したときのコーナリング抵抗を説明する第1の図、図7は本発明の実施の形態における車輪にキャンバ角を付与したときのコーナリング抵抗を説明する第2の図、図8は本発明の実施の形態における車輪にキャンバ角を付与したときのコーナリング抵抗を説明する第3の図である。この場合、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBのうちの車輪WLFについて説明する。
【0041】
図5において、Trは車輪WLFのタイヤ19の図示されないトレッドの中心、GNDは路面、θはキャンバ角である。
【0042】
車輪WLFにキャンバ角θを付与すると、図5に示されるように、車輪WLFにスリップ角が付与されていなくても、トレッドの中心Trを上方から見ると、矢印Hで示されるような楕(だ)円の軌跡を描く。この場合、仮に、キャンバ角θが付与された車輪WLFを、路面GNDに沿って自由に移動させると、接地面の中心も、同様に矢印Hで示されるような楕円の軌跡を描くが、実際には、接地面の中心は、矢印Kで示されるような直線の軌跡を描く。したがって、トレッドの中心Trの描く楕円と接地面の中心が描く直線とによってタイヤ19に剪(せん)断変形が生じ、該剪断変形に応じた横力が、キャンバスラストとして発生する。
【0043】
次に、車両を旋回させるときのコーナリング抵抗について説明する。
【0044】
図6において、Mは車両を旋回させるときのタイヤ19の進行方向、Nはタイヤ19の進行方向Mに対して垂直の方向、Rはタイヤ19が転がる方向を表すタイヤ19の向き、Sはタイヤ19の向きRに対して垂直の方向、β1はスリップ角である。前記車両を直進走行させているときにステアリングホイール13を操作して、車輪WLFに所定の舵角を付与すると、舵角に応じてタイヤ19の向きRが変化する。このとき、タイヤ19は路面GND上を滑り、進行方向Mに向けて移動する。前記スリップ角β1は、このときのタイヤ19の向きRと進行方向Mとが成す角度である。
【0045】
ところで、車両を走行させる際には、タイヤ19と路面GNDとの間の摩擦によって、タイヤの向きRと逆方向に転がり抵抗Frが発生する。また、車両を旋回させるために、運転者がステアリングホイール13(図2)を操作して、タイヤ19の向きRを変えると、タイヤ19と路面GNDとの間の摩擦によって、タイヤ19の向きRに対して垂直の方向Sに横力Fsが発生する。したがって、車両の旋回時に、前記転がり抵抗Frと横力Fsとの合力がタイヤ力Ftとなってタイヤ19に加わる。
【0046】
このとき、前記タイヤ力Ftにおけるタイヤ19の進行方向Mに対して垂直の方向Nの成分はコーナリングフォースFnとなり、該コーナリングフォースFnは車両を旋回させる際に遠心力に抗して必要になる求心力として機能する。また、前記タイヤ力Ftにおけるタイヤ19の進行方向Mの成分はコーナリング抵抗Fmとなり、該コーナリング抵抗Fmは、車両の走行抵抗として機能する。
【0047】
ところで、車両を旋回させる際に消費されるエネルギーを小さくするためには、前記コーナリング抵抗Fmを小さくするのが好ましいが、該コーナリング抵抗Fmを小さくするためには、スリップ角β1を小さくする必要がある。
【0048】
ところが、スリップ角β1を小さくすると、コーナリングフォースFnがその分小さくなり、旋回性が低下して車両の旋回状態を維持することができなくなってしまう。
【0049】
その場合、車輪WLFにキャンバ角θを付与すると、タイヤ19にキャンバスラストが発生させられ、前記横力Fsがその分大きくなるので、コーナリングフォースFnを維持したままスリップ角β1を小さくし、コーナリング抵抗Fmを小さくすることができる。
【0050】
すなわち、図7に示されるように、車両の旋回時に、車輪WLFに正の値のキャンバ角θを、操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向に付与すると、スリップ角β1を維持した状態で、転がり抵抗Frは変化しないが、キャンバ角θを付与した分だけ横力Fsが大きくなる。したがって、タイヤ力Ftが大きくなり、コーナリングフォースFn及びコーナリング抵抗Fmも、その分大きくなる。
【0051】
そこで、図8に示されるように、図6における車輪WLFにキャンバ角θを付与しない状態と同じ大きさのコーナリングフォースFnを発生させた状態で、スリップ角を小さくし、β2とすることができる。その結果、コーナリング抵抗Fmを小さくすることができる。このように、車両の旋回時に、車輪WLFにキャンバ角θを、操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向に付与することによって、スリップ角をβ1からβ2に小さくすることができるので、車両の旋回性を向上させることができ、消費されるエネルギーを小さくすることができる。
【0052】
次に、車両の旋回時に、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに操舵角及びキャンバ角θを選択的に付与したときの旋回性について評価する。
【0053】
この場合、車両を左右方向の一方、本実施の形態においては、左方向に旋回させるに当たり、車輪WLF、WRFに舵角を付与し、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角θを付与しないパターンを標準パターンとし、車輪WLF、WRFに舵角を付与し、各車輪WLF、WLBに正の値のキャンバ角θ(操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θ)を、各車輪WRF、WRBに負の値のキャンバ角θ(操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θ)を付与するパターンをパターンI とし、車輪WLF、WRFに舵角を付与し、車輪WLFに正の値のキャンバ角θ(操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θ)を、車輪WRFに負の値のキャンバ角θ(操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θ)を付与するパターンをパターンIIとし、車輪WLF、WRFに舵角を付与し、車輪WLFに正の値のキャンバ角θ(操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θ)を、車輪WRBに正の値のキャンバ角θ(操舵方向と反対側に側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θ)を、車輪WRFに負の値のキャンバ角θ(操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θ)を、車輪WLBに負の値のキャンバ角θ(操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θ)を付与するパターンをパターンIII とし、車輪WLF、WRFに舵角を付与し、車輪WLBに負の値のキャンバ角θ(操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θ)を、車輪WRBに正の値のキャンバ角θ(操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θ)を付与するパターンをパターンIVとする。
【0054】
この場合、4輪モデルを構築し、各パターンについてステップ応答解析による解析を行い、解析によって取得されたヨーレートの最大値を比較することにより旋回性を評価した。そして、解析を行うに当たり、必要となるタイヤ力Ft(図6)として、タイヤ19を図示されない路面・タイヤ走行模擬試験装置に搭載し、実際に発生するタイヤ力Ftを測定した値を使用した。
【0055】
図9は本発明の実施の形態における4輪モデルを示す図、図10は本発明の実施の形態における前後方向のタイヤ力マップを示す図、図11は本発明の実施の形態における左右方向のタイヤ力マップを示す図である。なお、図10において、横軸にスリップ角βを、縦軸にキャンバ角θを、高さ軸に前後力係数ηxを、図11において、横軸にスリップ角βを、縦軸にキャンバ角θを、高さ軸に左右力係数ηyを採ってある。
【0056】
本実施の形態においては、模型車両を模擬した6自由度の4輪モデルを構築した。該4輪モデルにおいては、図9に示されるように、車両10が一つの剛体として表され、各車輪WLF、WRF、WLB、WRB(図9においては、車輪WLF、WLBだけが示されている。)のタイヤ19の位置にタイヤ力Ft(図6)が入力される。座標系は、車両10の重心に固定した座標を基準とし、車両10の前後方向にx軸が、車両10の左右方向にy軸が、車両10の高さ方向にz軸が設定され、x軸を中心にロール方向が、y軸を中心にピッチ方向が、z軸を中心にヨー方向が採られる。また、慣性モーメントについては、二本吊り法によって測定した。
【0057】
前記4輪モデルを定式化するために、以下の運動方程式を使用する。該運動方程式において、mは車両10の重量、Ix はロール方向における車両10のイナーシャ、Iy はピッチ方向における車両10のイナーシャ、Iz はヨー方向における車両10のイナーシャ、uは車両10の長さ方向の速度、vは車両10の幅方向の速度、wは車両10の高さ方向の速度、pはロール角速度、qはピッチ角速度、rはヨーレートを表すヨー角速度、Lf は前輪重心間距離、Lr は後輪重心間距離、bf はフロントトラック、br はリヤトラック、hf はフロントロールセンタ高さ、hr はリヤロールセンタ高さ、hRCはロールセンタ高さ、gは重力加速度、Fx1〜Fx4は各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに発生する前後力、Fy1〜Fy4は各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに発生する左右力、Fz1〜Fz4は各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに発生する垂直力である。
【0058】
この場合、車両10の前後方向に関する並進の運動方程式は、
m(du/dt−v・r)=Fx1+Fx2+Fx3+Fx4 ……(1)
で表され、車両10の左右方向の運動方程式は、
m(dv/dt−u・r)=Fy1+Fy2+Fy3+Fy4 ……(2)
で表され、車両10の垂直方向の運動方程式は、
m・du/dt+m・g=Fz1+Fz2+Fz3+Fz4 ……(3)
で表され、車両10のロール方向の運動方程式は、
x ・dp/dt=(Fy1+Fy2)hf +(Fy3+Fy4)hr
+(Fz1−Fz2)bf /2+(Fz3−Fz4)br /2
……(4)
で表され、車両10ピッチ方向の運動方程式は、
y ・dq/dt=−(Fz1+Fz2)Lf +(Fz3+Fz4)Lr
−(Fx1+Fx2+Fx3+Fx4)hRC ……(5)
で表され、車両10のヨー方向の運動方程式は、
z ・dr/dt=(Fy1+Fy2)Lf −(Fy3+Fy4)Lr
+(Fx2−Fx1)bf /2+(Fx4−Fx3)br /2
……(6)
で表される。
【0059】
したがって、車両から見た座標系での運動方程式は、
m(du/dt−v・r)=ΣFx
m(dv/dt−u・r)=ΣFy
m・du/dt+m・g=ΣFz
x ・dp/dt=(Fy2+Fy1)hf +(Fy4+Fy3)hr
+(Fz1−Fz2)bf /2+(Fz3−Fz4)br /2
y ・dq/dt=−(Fz2+Fz1)Lf +(Fz4+Fz3)Lr
−(Fx1+Fx2+Fx3+Fx4)hRC
z ・dr/dt=(Fy2+Fy1)Lf −(Fy4+Fy3)Lr
+(Fx2−Fx1)bf /2+(Fx4−Fx3)br /2
……(7)
となる。
【0060】
一方、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBについて前後方向のタイヤ力マップ及び左右方向のタイヤ力マップを作成するために、タイヤ19を前記路面・タイヤ走行模擬試験装置に搭載し、スリップ角β及びキャンバ角θを変化させて、実際に発生するタイヤ力Ftを、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに発生する前後力Fx1〜Fx4、左右力Fy1〜Fy4及び垂直力Fz1〜Fz4として測定した。そして、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBについて、前後力Fx1〜Fx4をそれぞれ垂直力Fz1〜Fz4で除算して前後力係数ηxを算出し、左右力Fy1〜Fy4をそれぞれ垂直力Fz1〜Fz4で除算して左右力係数ηyを算出し、前後方向のタイヤ力マップ及び左右方向のタイヤ力マップにおいてプロットした。
【0061】
続いて、前記各パターンについて、舵角及びキャンバ角θを設定し、前記各タイヤ力マップを利用し、前記各運動方程式を解くことによって各パターンについてヨー角速度rを算出した。
【0062】
そのために、本実施の形態においては、車速Vを2.5〔m/s〕とし、舵角を18〔°〕とし、キャンバ角θを10〔°〕とし、車両10の重量mを所定の値に設定し、重量mに対応させて垂直力Fz1〜Fz4を算出した。また、スリップ角βを、舵角、車速V等に基づいて算出した。
【0063】
続いて、前記前後方向のタイヤ力マップ及び左右方向のタイヤ力マップを参照して、スリップ角β及びキャンバ角θに対応する前後力係数ηx及び左右力係数ηyを読み出し、前後力係数ηxに車両10の重量mに基づいて算出された垂直力Fz1〜Fz4を乗算して前後力Fx1〜Fx4を算出し、左右力係数ηyに垂直力Fz1〜Fz4を乗算して左右力Fy1〜Fy4を算出した。
【0064】
このようにして算出された前後力Fx1〜Fx4及び左右力Fy1〜Fy4を前記各運動方程式に代入して、運動方程式を解き、各パターンにおけるヨー角速度rの最大値、すなわち、最大ヨーレートrmaxを算出した。
【0065】
その結果、パターンIII 、IVにおける最大ヨーレートrmaxが、標準パターン及びパターンI 、IIにおける最大ヨーレートrmaxより大きいことが分かった。
【0066】
パターンI においては、車輪WLFに正の値のキャンバ角θが、車輪WRFに負の値のキャンバ角θが、操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向に付与されるので、車輪WLF、WRFに操舵方向側に向けてキャンバスラストが発生するが、車輪WLBにも正の値のキャンバ角θが、車輪WRBにも負の値のキャンバ角θが付与されるので、車輪WLB、WRBにも操舵方向側に向けてキャンバスラストが発生してしまう。したがって、車両10は旋回方向に平行移動することになるので、最大ヨーレートrmaxを大きくすることができない。
【0067】
また、パターンIIにおいては、車輪WLFに正の値のキャンバ角θが、車輪WRFに負の値のキャンバ角θが、操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向に付与されるので、車輪WLF、WRFに旋回方向と同方向に向けてキャンバスラストが発生するが、車輪WLB、WRBにはキャンバ角θが付与されないので、キャンバスラストが発生しない。そこで、車輪WLB、WRBにキャンバスラストが発生しない分、舵角を大きくする必要があるが、舵角を大きくすると、車輪WLF、WRFにおいてタイヤ19の路面GNDに対するグリップ力が限界値に近くなるので、横力Fsを大きくすることができない。したがって、最大ヨーレートrmaxを大きくすることができない。
【0068】
これに対して、パターンIII においては、車輪WLFに正の値のキャンバ角θが、車輪WRFに負の値のキャンバ角θが、操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向に付与されるので、車輪WLF、WRFに操舵方向側に向けてキャンバスラストが発生するとともに、車輪WLBに負の値のキャンバ角θが、車輪WRBに正の値のキャンバ角θが、操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向に付与され、これに伴い、車輪WLB、WRBに操舵方向と反対側に向けてキャンバスラストが発生する。この場合、車輪WLB、WRBにおいてタイヤ19の路面GNDに対するグリップ力を大きくすることができるので、標準パターンと比較して、最大ヨーレートrmaxを大きくすることができる。
【0069】
また、パターンIVにおいては、車輪WLF、WRFにキャンバ角θは付与されず、キャンバスラストは発生しないが、舵角による横力Fsが発生する。また、車輪WLBに負の値のキャンバ角θが、車輪WRBに正の値のキャンバ角θが、操舵方向と反対側に向けてタイヤ19を傾ける方向に付与されるので、車輪WLB、WRBに旋回方向と逆方向に向けてキャンバスラストが発生する。この場合も、車輪WLB、WRBにおいてタイヤ19の路面GNDに対するグリップ力を大きくすることができるので、標準パターンと比較して、最大ヨーレートrmaxを大きくすることができる。
【0070】
そこで、本実施の形態において、制御部16の図示されない旋回制御処理手段は、旋回制御処理を行い、車両の旋回時に、車輪WLB、WRBに、操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向にキャンバ角θを付与する。
【0071】
図12は本発明の実施の形態における旋回制御処理手段の動作を示すフローチャート、図13は本発明の実施の形態における車輪の状態を示す第1の図、図14は本発明の実施の形態における車輪の状態を示す第2の図である。
【0072】
まず、前記旋回制御処理手段の舵角取得処理手段は、舵角取得処理を行い、舵角センサε1(図1)によって検出された舵角を読み込む。続いて、前記旋回制御処理手段の操舵判定処理手段は、操舵判定処理を行い、舵角が旋回判断用の閾値としての第1の閾値(遊び舵角)以上であるかどうかを判断する。舵角が第1の閾値以上である場合、前記旋回判定処理手段は、運転者によってステアリングホイール13が操作されていると判断する。
【0073】
運転者によってステアリングホイール13が操作されている場合、前記旋回制御処理手段の舵角判定処理手段は、舵角判定処理を行い、舵角が第1の閾値より大きく設定された、旋回用の閾値としての第2の閾値以上であるかどうかを判断する。
【0074】
舵角が前記第1の閾値以上であり、かつ、第2の閾値より小さい場合、前記旋回制御処理手段のキャンバ角付与処理手段は、キャンバ角付与処理を行い、アクチュエータ47(図3)を駆動し、車輪WLB、WRB(後輪)に、操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θを付与する。このとき、車輪WLF、WRF(前輪)にスリップ角β及びキャンバ角θのいずれも付与されない。
【0075】
この場合、車輪WLF、WRFにスリップ角を付与することなく、車輪WLB、WRBに発生するキャンバスラストによって車両を旋回させることができるので、コーナリング抵抗を小さくすることができる。したがって、車両の旋回時に消費されるエネルギーを小さくすることができる。
【0076】
一方、舵角が第2の閾値以上である場合、前記旋回判定処理手段は、運転者が車両を大きく旋回させようとしていると判断する。運転者が車両を大きく旋回させようとしている場合、前記舵角判定処理手段は、舵角が第2の閾値より大きく設定された、旋回アシスト用の閾値としての第3の閾値以上であるかどうかを判断する。
【0077】
舵角が第2の閾値以上であり、かつ、第3の閾値より小さい場合、前記キャンバ角付与処理手段は、アクチュエータ47を駆動し、車輪WLB、WRBに、操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θを付与し、車輪WLF、WRFに操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θを付与する。このとき、車輪WLF、WRFにスリップ角βは付与されない。
【0078】
この場合、車輪WLF、WRFにスリップ角を付与することなく、車輪WLF、WRF、WLB、WRBに発生するキャンバスラストによって車両を旋回させることができるので、コーナリング抵抗を小さくすることができる。したがって、車両の旋回時に消費されるエネルギーを小さくすることができる。また、車輪WLF、WRFに発生するキャンバスラストだけでなく、車輪WLB、WRBに発生するキャンバスラストによって車両を旋回させることができるので、車両の旋回性を向上させることができる。
【0079】
一方、舵角が第3の閾値以上である場合、前記旋回判定処理手段は、運転者が車両を更に大きく旋回させようとしていると判断する。運転者が車両を更に大きく旋回させようとしている場合、図13に示されるように、前記キャンバ角付与処理手段は、アクチュエータ47を駆動し、車輪WLB、WRBに、操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θを付与し、車輪WLF、WRFに操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θを付与する。また、前記旋回制御処理手段のスリップ角付与処理手段は、スリップ角付与処理を行い、アクチュエータ47を駆動し、車輪WLF、WRFに操舵方向側にスリップ角βを付与する。
【0080】
この場合、車輪WLF、WRF、WLB、WRBに発生するキャンバスラストによって車両を旋回させることができるので、車両の旋回性を向上させることができる。
【0081】
なお、図14に示されるように、車輪WLB、WRBに、操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θを付与し、車輪WLF、WRFに操舵方向側にスリップ角βを付与し、車輪WLB、WRBに、操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θを付与しないようにすると、車輪WLF、WRFに発生する横力、及び車輪WLB、WRBに発生するキャンバスラストによって車両を旋回させることができるので、車両の旋回性を更に向上させることができる。
【0082】
このように、本実施の形態においては、舵角が第3の閾値以上である場合に、車輪WLF、WRFに操舵方向側にスリップ角βが付与され、車輪WLF、WRF、WLB、WRBのうちの少なくとも車輪WLB、WRBに、操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θが付与されるので、車輪WLB、WRBに発生するキャンバスラストによって車両を旋回させることができる。したがって、車両の旋回性を向上させることができ、ヨーレートrを大きくすることができる。
【0083】
次に、フローチャートについて説明する。
ステップS1 舵角を読み込む。
ステップS2 舵角が第1の閾値以上であるかどうかを判断する。舵角が第1の閾値以上である場合はステップS3に、舵角が第1の閾値より小さい場合はリターンする。
ステップS3 舵角が第2の閾値以上であるかどうかを判断する。舵角が第2の閾値以上である場合はステップS4に、舵角が第2の閾値より小さい場合はステップS5に進む。
ステップS4 舵角が第3の閾値以上であるかどうかを判断する。舵角が第3の閾値以上である場合はステップS6に、舵角が第3の閾値より小さい場合はステップS7に進む。
ステップS5 車輪WLB、WRB(後輪)に操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向に(逆方向の)キャンバ角θを付与し、リターンする。
ステップS6 車輪WLB、WRB(後輪)に操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向に(逆方向の)キャンバ角θを付与する。
ステップS7 車輪WLB、WRB(後輪)に操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向に(逆方向の)キャンバ角θを付与する。
ステップS8 車輪WLF、WRF(前輪)に操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向に(正方向の)キャンバ角θを付与する。
ステップS9 車輪WLF、WRF(前輪)に操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向に(正方向の)キャンバ角θを付与し、リターンする。
ステップS10 車輪WLF、WRF(前輪)に操舵方向の(正方向の)スリップ角を付与し、リターンする。
【0084】
本実施の形態においては、舵角が第2の閾値以上であり、かつ、第3の閾値より小さい場合に、ステップS7で、車輪WLB、WRBに、操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θが付与され、ステップS8で、車輪WLF、WRFに、操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θが付与されるようになっているが、実際は、各キャンバ角θは同時に付与される。また、舵角が第3の閾値以上である場合に、ステップS6で、車輪WLB、WRBに、操舵方向と反対側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θが付与され、ステップS8で、車輪WLF、WRFに、操舵方向側にタイヤ19を傾ける方向のキャンバ角θが付与され、ステップS9で車輪WLF、WRFに操舵方向側にスリップ角βが付与されるようになっているが、実際は、各キャンバ角θ及びスリップ角βは同時に形成される。
【0085】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における車両の概念図である。
【図3】本発明の実施の形態における車輪駆動部ユニットの平面図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるアクチュエータの動作を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態におけるキャンバスラストの発生のメカニズムを説明する図である。
【図6】本発明の実施の形態における車輪にキャンバ角を付与したときのコーナリング抵抗を説明する第1の図である。
【図7】本発明の実施の形態における車輪にキャンバ角を付与したときのコーナリング抵抗を説明する第2の図である。
【図8】本発明の実施の形態における車輪にキャンバ角を付与したときのコーナリング抵抗を説明する第3の図である。
【図9】本発明の実施の形態における4輪モデルを示す図である。
【図10】本発明の実施の形態における前後方向のタイヤ力マップを示す図である。
【図11】本発明の実施の形態における左右方向のタイヤ力マップを示す図である。
【図12】本発明の実施の形態における旋回制御処理手段の動作を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態における車輪の状態を示す第1の図である。
【図14】本発明の実施の形態における車輪の状態を示す第2の図である。
【符号の説明】
【0087】
10 車両
11 ボディ
13 ステアリングホイール
16 制御部
31〜34 車輪駆動部
38 油圧制御部
WLF、WRF、WLB、WRB 車輪
ε1 舵角センサ
θ キャンバ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された車輪と、前記ボディと前記車輪との間に配設され、該車輪にキャンバ角を付与する車輪駆動部と、車両を操舵するために運転者によって操作される操舵部材と、該操舵部材の操作量を検出する操作量検出部と、該操作量検出部によって検出された操作量に基づいて、車両が旋回させられていると判断されると、前記車輪のうちの後輪に、操舵方向と反対側にタイヤを傾ける方向のキャンバ角を付与するキャンバ角付与処理手段とを有することを特徴とする旋回制御装置。
【請求項2】
前記操作量が閾値以上であるかどうかを判断する操作量判定処理手段を有するとともに、前記キャンバ角付与処理手段は、前記操作量が閾値以上である場合、前記車輪のうちの前輪に、操舵方向側にタイヤを傾ける方向のキャンバ角を付与する請求項1に記載の旋回制御装置。
【請求項3】
前記車輪駆動部は、前記操舵部材の操作量に基づいて車輪に舵角を付与する請求項1に記載の旋回制御装置。
【請求項4】
車両のボディ、該ボディに対して回転自在に配設された車輪、前記ボディと前記車輪との間に配設され、該車輪にキャンバ角を付与する車輪駆動部、車両を操舵するために運転者によって操作される操舵部材、及び該操舵部材の操作量を検出する操作量検出部を備えた車両の旋回制御方法において、該操作量検出部によって検出された操作量に基づいて、車両が旋回させられていると判断されると、前記車輪のうちの後輪に、操舵方向と反対側にタイヤを傾ける方向のキャンバ角を付与することを特徴とする旋回制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−241854(P2009−241854A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92868(P2008−92868)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】