説明

樹脂組成物、これを用いたシート、プリプレグ状材料、金属箔付シート、積層板、電気絶縁用材料、及び、レジスト材料

【課題】 耐熱性に優れ、高周波領域において高誘電率、低誘電正接である樹脂組成物、これを用いたシート、プリプレグ状材料、金属箔付シート、積層板、電気絶縁用材料、及び、レジスト材料を提供する。
【解決手段】 樹脂組成物は、分子鎖末端にアリールオキシカルボニル基もしくはアリールカルボニルオキシ基を有する、芳香族多価カルボン酸残基と芳香族多価ヒドロキシ化合物残基とからなるポリエステルと、エポキシ樹脂と、硬化促進剤と、誘電体粉末とを含み、誘電率が少なくとも4であり、Q値が少なくとも250である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、これを用いたシート、プリプレグ状材料、金属箔付シート、積層板、電気絶縁用材料、及び、レジスト材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子、情報通信機器の発展に伴い、プリント基板、電子部品等には、種々の特性が一層厳しく要求されるようになっている。例えば、プリント基板には小型化の要求があり、その具体的な手法として、信号の波長を短くすることが求められている。波長は、数式1に示すように、誘電率が高いほど短くなり、回路の小型化を図ることが可能になる。
【0003】
(数式1)
(波長)=(光速)/{(周波数)×(誘電率)1/2
【0004】
また、プリント基板等は、1[GHz]を超える高周波を扱う高周波回路を含んだ装置(例えば、携帯端末等)に用いられることも多いため、高周波領域における伝送損失の低減が求められている。伝送損失は、数式2に示すように、誘電損失と導体損失との和で求められる。誘電損失は、数式3に示すように、誘電率及び誘電正接が低いほど低くなる。このため、誘電率及び誘電正接を低くすることにより、伝送損失を低くすることができる。
【0005】
(数式2)
(伝送損失)=(誘電損失)+(導体損失)
【0006】
(数式3)
(誘電損失)=(係数)×(周波数)×(誘電率)1/2×(誘電正接)
【0007】
ところで、プリント基板や電子部品等に用いられる多層基板用絶縁材料としては、電気的特性、機械的特性、接着性などに優れたエポキシ樹脂が用いられている。また、エポキシ樹脂の硬化剤としては、アミン化合物、フェノール化合物などの活性水素を有する化合物が使用されている。しかし、これら活性水素を有する硬化剤を使用してエポキシ樹脂を硬化させた場合には、エポキシ基と活性水素との反応によって極性の高いヒドロキシ基が発生してしまい、誘電正接を低くすることが困難である。
【0008】
このため、極性の高いヒドロキシル基を発生させないように、例えば、カルボン酸と芳香族ヒドロキシ化合物とからなるエステル化合物を、エポキシ樹脂の硬化剤として使用する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、カルボン酸と芳香族ヒドロキシ化合物とからなるエステル化合物の有するエステル結合がエポキシ基に対して高い反応活性を持つことを利用しており、このエステル化合物を硬化剤としてエポキシ樹脂を硬化させた場合には、極性の高いヒドロキシ基を生じることがないため、得られる硬化物は低い誘電正接を示すことができる。
【0009】
しかし、エステル化合物の分子または分子鎖の末端にしか、活性の高いエステル結合が存在しないため、このエステル化合物を硬化剤に用いてエポキシ樹脂を硬化させても、その架橋密度が高くならず、また、硬化物内部で水素結合が形成されることもない。このため、鉛フリーのはんだ加工に耐え得るだけの高いガラス転移温度(Tg)を有するエポキシ樹脂硬化物を得ることができなかった。
【0010】
エポキシ基に対して高い反応活性を持つエステル化合物のなかで、高いガラス転移温度を有するエポキシ樹脂硬化物を与えるエステル化合物としては、分子鎖を形成する全てのエステル結合がエポキシ基に対して反応活性を有する多官能性ポリエステル、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジヒドロキシ化合物とから得られる多官能性ポリエステルが知られている(例えば、特許文献2参照)。このような多官能性ポリエステルを硬化剤として使用してエポキシ樹脂を硬化させた場合には、分子鎖を形成する全てのエステル結合が硬化反応に関与できるので、エポキシ樹脂硬化物の架橋密度が高くなり、ガラス転移温度を高くすることができる。
【0011】
しかし、このような多官能性ポリエステルの分子鎖の両末端が極性の高いヒドロキシ基、またはカルボキシ基であるため、この多官能性ポリエステルをエポキシ樹脂の硬化剤として用いた場合には、ヒドロキシ基が硬化物中に残存するうえに、カルボキシ基がエポキシ基と反応してヒドロキシ基を生成してしまう。このため、エポキシ樹脂硬化物の誘電正接を低くすることが困難であった。また、未反応のカルボキシ基が硬化物中に残存すると、吸湿による加水分解により、該カルボキシ基を有する低分子量の芳香族ジカルボン酸が遊離し、高湿度の環境下で誘電正接が増大してしまう。さらに、芳香族ジカルボン酸や芳香族ジヒドロキシ化合物として、嵩高い構造を持たないフタル酸類やビスフェノール類などを使用した場合には、得られるポリエステルが結晶化しやすく、該ポリエステルを含有した樹脂組成物の溶媒への溶解性が十分に得られない。
【0012】
また、上記多官能性ポリエステルと同様に、分子鎖を形成する全てのエステル結合が硬化反応に関与できるエステル化合物としては、芳香族多価カルボン酸と芳香族多価ヒドロキシ化合物とから得られる、両末端にヒドロキシ基を有するポリエステルの、ヒドロキシ基をモノカルボン酸でエステル化したポリエステルがある(例えば、特許文献3参照)。このようなポリエステルを硬化剤として使用してエポキシ樹脂を硬化させた場合には、ガラス転移温度を高くでき、かつ分子鎖末端のヒドロキシ基をモノカルボン酸でエステル化しているため、エポキシ樹脂を硬化させた際に極性の高いヒドロキシ基を生じることがない。
【0013】
しかし、このようなポリエステルの分子鎖末端がアルキルカルボニルオキシ基、あるいはアリールカルボニルオキシ基であるため、このポリエステルを硬化剤として用いた場合には、加水分解により容易に低分子量のカルボン酸が遊離してしまい、誘電正接が低くならず、高湿度の環境下では誘電正接が増加してしまう。また、誘電率が増加してしまう。
【特許文献1】特開昭62−53327号公報
【特許文献2】特開平5−51517号公報
【特許文献3】特開平10−101775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、従来のエステル化合物を硬化剤として使用した樹脂組成物は、鉛フリーの半田加工に耐えうる耐熱性を有し、高周波領域における高誘電率、低誘電正接を実現できるものではなかった。このため、耐熱性に優れ、高周波領域において高誘電率、低誘電正接であるなど、使用目的に応じた誘電特性を実現可能な樹脂組成物およびこれを用いたシート等が求められていた。
【0015】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、使用目的に応じた誘電特性を実現可能な樹脂組成物、これを用いたシート、プリプレグ状材料、金属箔付シート、積層板、電気絶縁用材料、及び、レジスト材料を提供することを目的とする。
また、本発明は、耐熱性に優れ、高周波領域において高誘電率、低誘電正接である樹脂組成物、これを用いたシート、プリプレグ状材料、金属箔付シート、積層板、電気絶縁用材料、及び、レジスト材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかる樹脂組成物は、
分子鎖末端にアリールオキシカルボニル基もしくはアリールカルボニルオキシ基を有する、芳香族多価カルボン酸残基と芳香族多価ヒドロキシ化合物残基とからなるポリエステルと、エポキシ樹脂と、硬化促進剤と、誘電体粉末とを含み、誘電率が少なくとも4であり、Q値が少なくとも250である、ことを特徴とする。
【0017】
前記芳香族多価ヒドロキシ化合物残基が、下記式(1)〜(4)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、前記芳香族多価カルボン酸残基が、下記式(5)〜(7)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、前記アリールオキシカルボニル基もしくはアリールカルボニルオキシ基中のアリール基が、下記式(8)〜(10)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも一種のアリール基であることが好ましい。
【0018】
【化1】

(1)

(式(1)中、kは0または1である。)
【0019】
【化2】

(2)
【0020】
(式(2)中、Yは酸素原子、メチレン基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたメチレン基、フェニル基で置換されたメチレン基、ナフチル基で置換されたメチレン基、ビフェニル基で置換されたメチレン基、9−フルオレニル基で置換されたメチレン基、または該フェニル基、該ナフチル基、あるいは該ビフェニル基に更に炭素数1〜4のアルキル基が核置換したメチレン基を表す。nおよびmは、各々1〜3の整数を表す。)
【0021】
【化3】

(3)
【0022】
【化4】

(4)
【0023】
【化5】

(5)
【0024】
【化6】

(6)
【0025】
【化7】

(7)
【0026】
(式中A、B、D、E、Gは置換基であり、各々炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子を表す。a、e、gは各々0〜4の整数を示し、b、dは各々0〜3の整数を表す。Xは単結合、−S−、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、または−SO−を表す。)
【0027】
【化8】

(8)
【0028】
【化9】

(9)
【0029】
【化10】

(10)
【0030】
(式中、P、Q、R、T、Uは置換基であり、各々炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、またはハロゲン原子を表す。p、rは0〜5の整数、q、tは0〜4の整数、uは0〜3の整数を表す。Zは単結合、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、または−SO−を表す。)
【0031】
前記誘電体粉末は、誘電率が15〜10000であり、Q値が300〜100000であることが好ましい。
前記誘電体粉末は、例えば、MgTiO、ZnTiO、ZnTiO、CaTiO、SrZrO、BaTi、BaTiO、BaTi20、Ba(Ti,Sn)20、ZrTiO、(Zr,Sn)TiO、BaNdTi14、BaNdTi12、BaSmTiO14、BaO−CaO−Nd−TiO系、BaO−SrO−Nd−TiO系、Bi−BaO−Nd−TiO系、PbO−BaO−Nd−TiO系、(Bi,PbO)−BaO−Nd−TiO系、LaTi、NdTi、(Li,Sm)TiO、Ba(Mg1/3Nd2/3)O、Ba(Zn1/3Ta2/3)O、Ba(Zn1/3Nd2/3)O、Sr(Zn1/3Nd2/3)O、のいずれか1種あるいはこれらの組み合わせを含む。
【0032】
前記誘電体粉末は、樹脂組成物の総量100体積部に対して15〜65体積部配合されていることが好ましい。
前記誘電体粉末は、樹脂組成物の誘電率が1以上高くなり、Q値が10以上高くなるように配合されていることが好ましい。
【0033】
スチレン系エラストマーとポリブタジエン系ポリマーとの少なくとも一つを含むことが好ましい。
また、難燃剤をさらに含むことが好ましい。前記難燃剤は、臭素化芳香族系難燃剤とエタン−1,2−ビス(ベンタブロモフェニル)との少なくとも1つを含有する、ことが好ましい。
【0034】
本発明の第2の観点にかかるシートは、難燃剤を含む第1の観点にかかる樹脂組成物を金属箔、あるいはフィルムに塗工し、半硬化させて得られる、ことを特徴とする。
【0035】
本発明の第3の観点にかかるシートは、第2の観点にかかるシートを貼りあわせる、あるいは複数枚重ねて硬化させて得られる、ことを特徴とする。
【0036】
本発明の第4の観点にかかるプリプレグ状材料は、難燃剤を含む第1の観点にかかる樹脂組成物を含浸基材に含浸させて得られる、ことを特徴とする。
【0037】
前記含浸基材は、例えば、Eガラスのガラスクロス、Dガラスのガラスクロス、NEガラスのガラスクロス、Hガラスのガラスクロス、Tガラスのガラスクロス、及びポリ4弗化エチレンの多孔質膜からなる群から選択される。例えば、前記含浸基材にガラスクロスが選択された場合、誘電率が少なくとも5であり、Q値が少なくとも200であることが好ましい。
【0038】
本発明の第5の観点にかかるシートは、本発明の第4の観点にかかるプリプレグ状材料を1枚以上重ねて硬化させた、ことを特徴とする。
【0039】
本発明の第6の観点にかかる金属箔付シートは、本発明の第4の観点にかかるプリプレグ状材料を1枚以上重ねて、その上下に金属箔を重ねて硬化させた、ことを特徴とする。
【0040】
本発明の第7の観点にかかる積層板は、本発明の第2の観点にかかるシートの間に含浸基材を挟んで硬化させた、ことを特徴とする。
【0041】
本発明の第8の観点にかかる電気絶縁用材料は、本発明の第1の観点にかかる樹脂組成物から得られることを特徴とする。
【0042】
本発明の第9の観点にかかるレジスト材料は、本発明の第1の観点にかかる樹脂組成物から得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、使用目的に応じた誘電特性を実現可能な樹脂組成物、これを用いたシート、プリプレグ状材料、金属箔付シート、積層板、電気絶縁用材料、及び、レジスト材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の樹脂組成物、これを用いたシート、プリプレグ状材料、金属箔付シート、積層板、電気絶縁用材料、及び、レジスト材料について説明する。
【0045】
本発明の樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、分子鎖末端にアリールオキシカルボニル基もしくはアリールカルボニルオキシ基を有する、芳香族多価カルボン酸残基と芳香族多価ヒドロキシ化合物残基とからなるポリエステル(以下、「ポリエステル(A)」という。)と、硬化促進剤と、誘電体粉末と、を含んでいる。また、本発明の樹脂組成物は、誘電率が少なくとも4であり、Q値が少なくとも250である。誘電率及びQ値をかかる数値以上にすることにより、Q値を低下させることなく、波長短縮効果を得ることができる。この樹脂組成物は、誘電率が4〜200であることが好ましく、Q値が250〜2000であることが好ましい。
【0046】
本発明に使用するエポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限されず、例えば、クレゾールノボラック、フェノールノボラック、α−ナフトールノボラック、β−ナフトールノボラック、ビスフェノールAノボラック、ビフェニルノボラック、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、ビフェノール、テトラメチルビフェノール、1、1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(ビスフェノールフルオレン)、ジヒドロキシナフタレンなどの多価フェノールのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエニルジフェノールとエピクロルヒドリンとから得られるジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジオールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、トリフェニル型エポキシ樹脂、テトラフェニル型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール、水添ビスフェノールAなどのアルコール系のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ヘキサヒドロ無水フタル酸やダイマー酸などを原料としたグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンなどのアミンを原料としたグリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ベンゾピラン型エポキシ樹脂、およびそれらの混合物などが挙げられる。
【0047】
なかでも、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニル型エポキシ樹脂、テトラフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、および臭素化エポキシ樹脂を使用すると、耐熱性に優れた硬化物を与える樹脂組成物が得られる。
【0048】
本発明に使用するポリエステル(A)は、分子鎖末端にアリールオキシカルボニル基もしくはアリールカルボニルオキシ基を有する、芳香族多価カルボン酸残基と芳香族多価ヒドロキシ化合物残基とからなるポリエステルであり、エポキシ樹脂の硬化剤として好適に用いることができる。これは、ポリエステル(A)の有するエステル結合が、エポキシ基に対して高い反応活性を有するためであり、ポリエステル(A)を硬化剤として使用した場合には極性の高いヒドロキシ基を生じることがなく、得られるエポキシ樹脂硬化物は低い誘電正接を示す。更に、誘電率の増加を抑制する。
【0049】
また、ポリエステル(A)は、エポキシ基に対して反応活性を持つエステル結合を分子鎖内部にも有するため、ポリエステル(A)を硬化剤として使用したエポキシ樹脂硬化物は架橋密度が高く、ガラス転移温度が高い。
【0050】
ポリエステル(A)の分子鎖末端にアリールオキシカルボニル基を有する場合には、得られるエポキシ樹脂硬化物の架橋点のエステル結合が吸湿によって加水分解されても、誘電正接を増大させる低分子量のカルボン酸が遊離せず、得られるエポキシ樹脂硬化物は高湿度条件下においても低い誘電正接を示す。更に、誘電率の増加を抑制する。
【0051】
さらに、芳香族多価ヒドロキシ化合物が式(1)〜(4)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基を残基として与える芳香族ジヒドロキシ化合物である場合には、式(1)〜(4)で表される基はいずれも嵩高い芳香環や脂環式構造を分子内に複数有するため、ポリエステル(A)は分子鎖の結晶化が抑えられ、有機溶媒中への溶解性に優れる。このため、ポリエステル(A)を含有する樹脂組成物を溶媒に溶解させる際や、ワニスを調整する際に、使用する溶媒量が少量でよい。
【0052】
【化11】

(1)

(式(1)中、kは0または1である。)
【0053】
【化12】

(2)

(式(2)中、Yは酸素原子、メチレン基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたメチレン基、フェニル基で置換されたメチレン基、ナフチル基で置換されたメチレン基、ビフェニル基で置換されたメチレン基、9−フルオレニル基で置換されたメチレン基、または該フェニル基、該ナフチル基、あるいは該ビフェニル基に更に炭素数1〜4のアルキル基が核置換したメチレン基を表す。nおよびmは、各々1〜3の整数を表す。)
【0054】
【化13】

(3)
【0055】
【化14】

(4)
【0056】
また、下記一般式(11)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物残基を有するポリエステル(A)を用いることも好ましい。この場合、ポリエステル(A)は、一般式(11)で表される、臭素原子を持つ芳香族ジヒドロキシ化合物残基を有するため、このポリエステル(A)を含有する樹脂組成物の硬化物は、優れた難燃性を示す。
【0057】
【化15】

(11)

(式(11)中、Jは−CH−、−C(CH−、または−SO−からなる群から選ばれる二価の基を表す。)
【0058】
本発明に使用するポリエステル(A)は、例えば、芳香族多価カルボン酸と芳香族多価ヒドロキシ化合物とを重縮合させ、両末端にカルボキシ基もしくはヒドロキシル基を有するポリエステルを合成しておき、該カルボキシ基を芳香族モノヒドロキシ化合物で、もしくは該ヒドロキシル基を芳香族モノカルボン酸でエステル化して得られる。該ポリエステル(A)は、上記脱水エステル化反応以外にエステル交換反応やショッテン・バウマン反応によって製造することもできる。一般に芳香族ヒドロキシ化合物の反応性は低いので、前記エステル交換反応、あるいはショッテン・バウマン反応を利用するのが好ましい。
【0059】
ショッテン・バウマン反応を利用する場合、該反応を界面で行わせる界面重縮合法と、均一溶液中で行わせる溶液重縮合法とがある。界面重縮合法では、芳香族多価カルボン酸の酸ハロゲン化物、および芳香族モノカルボン酸の酸ハロゲン化物を含む有機溶液相と、芳香族多価ヒドロキシ化合物を含む水相とを接触させ、酸捕捉剤の共存下で界面重縮合させることによりポリエステル(A)が得られる。また、溶液重縮合法では、芳香族多価カルボン酸の酸ハロゲン化物、および芳香族モノカルボン酸の酸ハロゲン化物を含む溶液と、芳香族多価ヒドロキシ化合物を含む溶液とを、酸捕捉剤の存在下で混合し、脱ハロゲン化水素反応させることによってポリエステル(A)が得られる。
【0060】
以下、ショッテン・バウマン反応を利用する製造方法を例として、本発明に使用するポリエステル(A)について具体的に説明する。ポリエステル(A)の製造に使用する芳香族多価ヒドロキシ化合物としては、芳香族ヒドロキシ基を2個以上有する化合物であればよいが、例えば上記式(1)〜(4)、(11)で表される基を与える化合物であり、具体的には下記式(12)〜(16)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0061】
【化16】

(12)

(式(12)中、kは0または1である。)
【0062】
【化17】

(13)

(式(13)中、Yは酸素原子、メチレン基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたメチレン基、フェニル基で置換されたメチレン基、ナフチル基で置換されたメチレン基、ビフェニル基で置換されたメチレン基、9−フルオレニル基で置換されたメチレン基、または該フェニル基、該ナフチル基、あるいは該ビフェニル基に更に炭素数1〜4のアルキル基が核置換したメチレン基を表す。nおよびmは、1〜3の整数を表す。)
【0063】
【化18】

(14)
【0064】
【化19】

(15)
【0065】
【化20】

(16)

(式(16)中、Jは−CH−、−C(CH−、または−SO−からなる群から選ばれる二価の基を表す。)
【0066】
上記式(12)〜(16)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物のなかでも、式(12)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物を使用して得られるポリエステル(A)を硬化剤とするエポキシ樹脂硬化物は、構造中に疎水性の脂環式構造を有するため、吸水が少なく、高湿度環境下においても安定な誘電特性を示す。
【0067】
ただし、式(12)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物のうちkの平均値が0.2を越えるものは、溶媒に溶解してポリエステルを合成する際にゲル化が生じるおそれがあるため、式(12)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物を使用する場合には、kの平均値が0〜0.2の範囲にあるものを使用するか、あるいは、式(13)〜(16)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物と混合して使用することが好ましい。式(13)〜(16)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物と共に使用する場合には、式(12)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物の使用量をkの値に応じて適宜調整する必要があり、例えば、kが1の場合には、ポリエステル(A)を合成する際の式(12)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物の使用量は、使用する芳香族多価ヒドロキシ化合物全量に対して20mol%以下とすることが好ましい。
【0068】
一般式(16)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物を使用して得られるポリエステル(A)を硬化剤としたエポキシ樹脂硬化物は、構造中に臭素原子を有するため、該エポキシ樹脂硬化物が熱分解した際に臭化水素が生じ、臭化水素の酸素遮断効果と、燃焼時の高活性なフリーラジカルを捕捉して燃焼エネルギーを低下させる効果によりエポキシ樹脂硬化物は難燃性を有する。
【0069】
ただし、ポリエステル(A)を合成する際に、上記一般式(16)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物のみを使用した場合には、ポリエステル(A)の結晶性が高くなり、該ポリエステル(A)を含有する樹脂組成物の溶媒への溶解性が十分得られないことがあるため、上記一般式(16)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物以外に、十分な溶剤溶解性を与える芳香族多価ヒドロキシ化合物を併用することが好ましい。このときの一般式(16)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物の使用量は、使用する芳香族多価ヒドロキシ化合物全量に対して、30〜60質量%の範囲であることが好ましい。
【0070】
十分な溶媒溶解性を与える芳香族多価ヒドロキシ化合物としては、上記式(12)〜(15)で表される化合物が挙げられる。ただし、式(12)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物を一般式(16)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物と共に用いる場合、式(12)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物は、kの平均値が0〜0.2の範囲にあるものを使用するか、あるいは、式(13)〜(16)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物と混合して使用することが好ましいことなどは上述した通りである。
【0071】
ショッテン・バウマン反応を利用してポリエステル(A)を製造する場合においては、芳香族多価カルボン酸は酸ハロゲン化物の形で使用する。ここで使用する酸ハロゲン化物のハロゲンとしては、塩素、または臭素を使用するのが一般的である。酸ハロゲン化物の形で使用する芳香族多価カルボン酸としては、カルボキシ基を2個以上有する化合物であればよく、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、あるいは、下記一般式(17)〜(19)で表される芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0072】
【化21】

(17)
【0073】
【化22】

(18)
【0074】
【化23】

(19)

(一般式(17)〜(19)中、A、B、D、E、Gは置換基を表し、各々炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子を表す。a、e、gは各々0〜4の整数を表し、b、dは各々0〜3の整数を示す。A〜Gで表される置換基は、それぞれ、すべて同一であっても異なっていてもよい。Xは単結合、−S−、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、または−SO−を表す。)
【0075】
上記芳香族多価カルボン酸のなかでも、一般式(17)〜(19)で表される芳香族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物から得られるポリエステル(A)は各種溶媒に対して優れた溶解性を示し、また、該ポリエステル(A)を硬化剤として使用したエポキシ樹脂硬化物は、高いガラス転移温度、低い誘電正接を示す。一般式(17)〜(19)で表される芳香族ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−、2,3−、あるいは2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。なかでも、イソフタル酸とテレフタル酸の混合物を使用して得られるポリエステル(A)は、特に各種溶媒への溶解性に優れる。
【0076】
芳香族モノヒドロキシ化合物としては、下記一般式(20)〜(22)で表される芳香族モノヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0077】
【化24】

(20)
【0078】
【化25】

(21)
【0079】
【化26】

(22)

(一般式(20)〜(22)中、P、Q、R、T、Uは置換基を表し、各々炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、またはハロゲン原子を表す。p、rは0〜5の整数、q、tは0〜4の整数、uは0〜3の整数を示す。P〜Uで表される置換基は、それぞれ、すべて同一であっても異なっていてもよい。Zは単結合、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、または−SO−を表す。)
【0080】
一般式(20)〜(22)で表される芳香族モノヒドロキシ化合物としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、3,5−キシレノール、o−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、2−ベンジルフェノール、4−ベンジルフェノール、4−(α―クミル)フェノール、α―ナフトール、β−ナフトールなどが挙げられる。なかでも、α−ナフトール、β−ナフトール、o−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、4−(α―クミル)フェノールを使用したポリエステル(A)を硬化剤とするエポキシ樹脂硬化物は特に低い誘電正接を有する。
【0081】
ポリエステル(A)を界面重縮合法により製造する場合の有機溶液相に用いる溶媒としては、芳香族多価カルボン酸の酸ハロゲン化物を溶解し、酸ハロゲン化物に不活性で、かつ水と非相溶の溶媒であればよく、例えば、トルエン、ジクロロメタンなどが挙げられる。水相には芳香族多価ヒドロキシ化合物と酸捕捉剤であるアルカリを溶解する。
【0082】
溶液重合法により製造する場合に用いる溶媒としては、芳香族多価カルボン酸の酸ハロゲン化物、芳香族多価ヒドロキシ化合物、および芳香族モノヒドロキシ化合物を溶解し、かつ、酸ハロゲン化物に不活性な溶媒であればよく、トルエン、ジクロロメタンなどが使用できる。また、重縮合反応に使用する酸捕捉剤としては、ピリジンやトリエチルアミンなどを使用することができる。
【0083】
得られたポリエステル(A)は、洗浄や再沈殿などの操作によって精製し、不純物含有量を低減することが好ましい。ポリエステル(A)中にモノマー、ハロゲンイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、あるいは塩類などの不純物が残存すると、誘電正接を増大させる要因となる。
【0084】
ポリエステル(A)のポリスチレン換算の数平均分子量は550〜7000の範囲にあることが好ましい。数平均分子量が550未満であると、エポキシ樹脂硬化物の架橋密度が十分に高くならずに、ガラス転移温度に及ぼす効果が不十分となる場合があり、7000を越えると、溶媒へ溶解した際にゲル化が生じる場合がある。
【0085】
本発明に使用する硬化促進剤としては、公知慣用のエポキシ樹脂硬化促進剤を用いることができる。例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾールなどのイミダゾール化合物、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンなどの有機ホスフィン化合物、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトなどの有機ホスファイト化合物、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートなどのホスホニウム塩、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのトリアルキルアミン、4−ジメチルアミノピリジン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7(以下、DBUと略記する。)などのアミン化合物およびDBUとテレフタル酸や2,6−ナフタレンジカルボン酸との塩、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラヘキシルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリドなどの第4級アンモニウム塩、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、クロロフェニル尿素、3−(4−クロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチル尿素などの尿素化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ、カリウムフェノキシドやカリウムアセテートなどのクラウンエーテルの塩などが挙げられ、これらは単独あるいは複数で用いることができる。これらの中でもイミダゾール化合物が好ましく用いられる。
【0086】
本発明に使用する誘電体粉末は、1GHzの高周波領域においてベースとなる樹脂よりも高い誘電率(ε)とQ値を有することが必要である。誘電体粉末には、誘電率が15以上かつ、Q値が300以上の誘電特性を示す誘電体セラミック粉末を用いることが好ましく、誘電率が15〜1000、特に、15〜500程度、かつ、Q値が300〜100000の範囲であることがさらに好ましい。
【0087】
具体的には、MgTiO{ε=17、Q=22000}、ZnTiO{ε=26、Q=800}、ZnTiO{ε=15、Q=700}、CaTiO{ε=170、Q=1800}、SrZrO{ε=30、Q=1200}、BaTi20{ε=90、Q=1700}、Ba(Ti,Sn)20{ε=37、Q=5000}、ZrTiO{ε=39,Q=7000}、(Zr,Sn)TiO{ε=38、Q=7000}、BaNdTi14{ε=83、Q=2100}、BaNdTi12{ε=92、Q=1700}、BaSmTiO14{ε=74、Q=2400}、BaO−CaO−Nd−TiO系{ε=90、Q=2200}、BaO−SrO−Nd−TiO系{ε=90、Q=1700}、Bi−BaO−Nd−TiO系{ε=88、Q=2000}、PbO−BaO−Nd−TiO系{ε=90、Q=5200}、(Bi、PbO)−BaO−Nd−TiO系{ε=105、Q=2500}、LaTi{ε=44、Q=4000}、NdTi{ε=37、Q=1100}、(Li,Sm)TiO{ε=81、Q=2050}、Ba(Mg1/3Nd2/3)O{ε=25、Q=35000}、Ba(Zn1/3Ta2/3)O{ε=30、Q=14000}、Ba(Zn1/3Nd2/3)O{ε=41、Q=9200}、Sr(Zn1/3Nd2/3)O{ε=40、Q=4000}の組成を主成分とし、1種類もしくは2種類以上を使用してよい。
【0088】
誘電体粉末の形状は、破砕状、球状、円柱状、針状、不定形のいずれでもよく、必要とする物性等により使い分けることができ、1種類もしくは2種類以上を配合、混合してもよい。
【0089】
誘電体粉末の粒径は、平均粒径で0.01〜100μmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜20μmの範囲である。上記範囲より粒径が小さくなるとペーストの粘度増加、溶融粘度増加を引き起こし、良好なシート形成および多層基板形成時の密着不良を引き起こす可能性がある。上記範囲より粒径が大きくなると、ペースト作成時の誘電体粉末の沈降を引き起こし、分散が充分でなくなる可能性がある。また、誘電体粉末の粒径は、形成するシート厚みよりも小さい粒径である必要がある。具体的には、誘電体粉末の平均粒径がシート厚みの1/2以下であることが好ましい。
【0090】
本発明の樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂とポリエステル(A)との配合量は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1molに対して、ポリエステル(A)中のアリールオキシカルボニル基もしくはアリールカルボニルオキシ基が0.15〜5molとなる配合量が好ましく、0.5〜2.5molとなる配合量であればさらに好ましい。ポリエステル(A)の配合量が該範囲外であると、ポリエステル(A)によるエポキシ樹脂の硬化反応が十分に進行せず、誘電正接やガラス転移温度に及ぼす効果が不十分になる。
【0091】
硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、0.01〜5質量部の範囲であることが好ましい。硬化促進剤の配合量が0.01質量部未満であると硬化反応速度が遅くなり、5質量部より多いとエポキシ樹脂の自己重合が生じてポリエステル(A)によるエポキシ樹脂の硬化反応が阻害されることがある。
【0092】
誘電体粉末と前記樹脂組成物との配合比については、例えば、樹脂組成物の固形分と誘電体粉末の総量を100体積部としたとき、15〜65体積部の範囲とすればよく、必要とされる誘電率、Q値、その他物性に応じて適時選択することができる。上記範囲より配合量が少なくなると誘電体粉末を入れることによる誘電率、Q値向上の効果が得られにくくなる。具体的には、誘電体粉末を配合することにより、樹脂組成物の誘電率が1以上高くなることが好ましく、Q値が10以上高くなることが好ましいが、上記範囲より配合量が少なくなると、誘電率が1以上高くならず、Q値が10以上高くならない。一方、上記範囲より配合量が多くなると、ペースト化が困難になると同時に溶融粘度の増加を引き起こし、良好なシート形成および多層基板形成時の密着不良を引き起こす可能性がある。
【0093】
さらに必要に応じてエポキシ樹脂の難燃化のために公知の難燃剤を使用してもよい。難燃剤としては、臭素化芳香族系、縮合リン酸エステル系、金属水酸化物系、アンチモン系、リン系などの公知慣用の難燃剤を用いることができる。特に、臭素化芳香族系難燃剤は、構造中に臭素原子を有するため、エポキシ樹脂硬化物が熱分解した際に臭化水素が生じ、臭化水素の酸素遮断効果と、燃焼時の高活性なフリーラジカルを捕捉して燃焼エネルギーを低下させる効果とにより、樹脂組成物に優れた難燃性を付与できる。しかも、樹脂組成物の硬化物の伝送損失を悪化させにくいので好ましい。この観点から特に好適な難燃剤は、エタン−1,2−ビス(ベンタブロモフェニル)である。
【0094】
さらに、シート化した際のハンドリング性向上や硬化物の弾性率低下を目的として、スチレン系エラストマー、およびポリブタジエン系ポリマーなどの可とう性付与材を使用してもよい。スチレン系エラストマーとしては、スチレンと、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(エチレン/ブチレン)、ポリ(エチレン/プロピレン)、ポリ(ビニル/イソプロピレン)、およびポリエチレンから選択される1種または2種以上とのジブロック共重合体またはトリブロック共重合体が挙げられる。また、ポリブタジエン系ポリマーとしては、1,2―ポリブタジエンまたは1,4−ポリブタジエンの二重結合の一部をエポキシ化した重合体を用いることができる。
【0095】
樹脂組成物を金属箔やフィルムなどに塗工し、半硬化させてシートを製造する場合(製造方法の詳細は後述する)、樹脂組成物の可とう性が不足すると、クラックの発生、ハンドリング性の低下、切断の際の樹脂落ち(粉落ち)等の問題が生じることがある。そこで、樹脂組成物に上記の可とう性付与材を添加しておくと、樹脂組成物をBステージ状態まで半硬化させたときに、該半硬化物が優れた可とう性を示し、上述の問題を防止できる。
【0096】
なお、可とう性付与材は必須のものではなく、半硬化物に可とう性が要求されない用途では、特に添加する必要はない。このような用途としては、例えば、樹脂組成物をガラスクロスなどの含浸基材に含浸させてプリプレグ状材料を製造するなどの用途が挙げられる。
【0097】
可とう性付与材は、エポキシ樹脂100質量部に対して、5〜30質量部添加することが好ましい。可とう性付与材の量が前記以下だと、樹脂組成物の改質効果がほとんどなく、脆い物性が改良されないおそれがある。また、前記以上だと樹脂組成物の本来の物性が発揮できなくなり、溶剤中での配合の際に固形分濃度が上げられず、溶液粘度が上がり、吸水率が増加する等の問題が生じるおそれがある。
【0098】
本発明の樹脂組成物に使用する有機溶媒は、用いるエポキシ樹脂の種類によって異なるが、エポキシ樹脂、ポリエステル(A)および硬化促進剤を均質に溶解できるものであればよい。例としては、N−メチルピロリドン、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、アニソールなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのモノエーテルグリコール系溶媒などが挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いることができる。
【0099】
本発明の樹脂組成物は、例えば、ポリエステル(A)、エポキシ樹脂、硬化促進剤、誘電体粉末、有機溶剤、さらに必要に応じて添加される難燃剤、可とう性付与材などの所望の種類および量の添加剤を均一に混合することにより調製することができる。
【0100】
このようにして得られた樹脂組成物の混合液は、公知慣用の熱硬化法により硬化させ、成型することができる。例としては、上記混合液によりワニスを調整し、該ワニスを金属箔やフィルムなどの基材に塗布して型に注入する方法、あるいはガラス布基材などの含浸基材に含浸させ、加熱乾燥により溶媒を除去し、樹脂を予備硬化させた後、再度加熱しながら加圧成型する方法などが挙げられる。
【0101】
本発明の樹脂組成物を金属箔、あるいはフィルムに塗工して半硬化させてシートとすることができる。金属箔としては、銅箔、金箔、銀箔、アルミ箔、ニッケル―クロム箔、ニッケル箔等が例示される。フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルやポリイミドなどが例示される。さらに、このシートを貼りあわせる、あるいは複数枚重ねて硬化させてシートとすることができる。
【0102】
また、本発明の樹脂組成物を含浸基材に含浸させてプリプレグ状材料とすることができる。ここで、含浸基材とは、上記ワニス等の液状組成物を含浸させるための多孔質の基材であり、特に、Eガラスのガラスクロス、Dガラスのガラスクロス、NEガラスのガラスクロス、Hガラスのガラスクロス、Tガラスのガラスクロス、及びポリ4弗化エチレンの多孔質膜が好ましい。
【0103】
例えば、含浸基材にガラスクロスが選択された場合には、プリプレグ状材料の誘電率が少なくとも5であって、Q値が少なくとも200であることが好ましい。誘電率及びQ値をかかる数値以上にすることにより、Q値を低下させることなく、波長短縮効果を得ることができる。
【0104】
プリプレグ状材料を1枚以上重ねて硬化させてシートとすることができる。また、プリプレグ状材料を1枚以上重ねて、その上下に金属箔を重ねて硬化させ金属箔付シートとすることができる。また、シートの間に含浸基材を挟んで硬化させ積層板とすることができる。
【0105】
このようなシート、プリプレグ状材料、金属箔付シート、積層板、電機絶縁用材料、レジスト材料は、本発明の樹脂組成物を用いて製造されるものであるので、高い誘電率、低い誘電正接、高い耐熱性、および難燃性を備え、特に高湿度の環境下でも誘電率や誘電正接が増大しにくくなる。
【0106】
シートまたは、金属箔付シートの製造時の塗工方法については特に限定されるものはなく、既知の方法を用いればよい。具体例としてはドクターブレード法、スピンコート法、カーテンコ−ト法、スプレーコート法、スクリーン印刷法などが挙げられる。
【0107】
得られる膜厚は特に限定されないが1〜1000μmの範囲であることが好ましく、成膜性、経済性の観点から考えると1〜100μmの範囲がより好ましい。詳しくは1μm以下では下地にもよるが連続した皮膜形成が困難となり、1000μm以下の膜厚だと、溶剤乾燥に非常に時間がかかること、平滑な塗工面が得られなくなるという問題がある。
【0108】
以上説明したように、本実施の形態によれば、分子鎖末端にアリールオキシカルボニル基もしくはアリールカルボニルオキシ基を有する、芳香族多価カルボン酸残基と芳香族多価ヒドロキシ化合物残基とからなるポリエステル(A)をエポキシ樹脂組成物の硬化剤とすることで、硬化時に極性の高いヒドロキシ基が生成せず、誘電正接の低い樹脂硬化物が得られる。該硬化物は吸湿にともなう加水分解により誘電正接を増加させる低分子量のカルボン酸が遊離せず、高湿度条件下においても低い誘電正接を示す。更に、誘電率の増加を抑制する。また、分子鎖内部にもエポキシ基に対して反応活性を持つエステル結合を有するため、ポリエステル(A)をエポキシ樹脂の硬化剤として使用すると、エポキシ樹脂硬化物の架橋密度が高くなり、ガラス転移温度が高く、耐熱性に優れた硬化物が得られる。さらに、誘電率が少なくとも4、Q値が少なくとも250となるように誘電体粉末を含むので、高誘電率・低誘電正接を実現できる。また、Q値を低下させることなく、波長短縮効果を得ることができる等、目的に応じて誘電率やQ値を自由にコントロールすることができる。
【実施例】
【0109】
以下に実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0110】
<合成例1>
反応容器に水1000ml、および水酸化ナトリウム20gを入れ、窒素気流中で、表1の合成例1の欄に示した量の芳香族モノヒドロキシ化合物と芳香族多価ヒドロキシ化合物とを投入し、ファードラー翼により毎分300回転で1時間攪拌した。次いで、30℃に保った反応容器に、塩化メチレン1000ml中に表1の合成例1の欄に示した量の芳香族多価カルボン酸の酸ハロゲン化物を溶解した溶液を15秒かけて滴下し、4時間攪拌を続けた。得られた混合液を静置分液して水相を除去し、残った塩化メチレン相を0.5%濃度の水酸化ナトリウム水溶液による洗浄、および水相の除去を3回繰り返し、さらに、脱イオン水による洗浄と水相の除去を3回繰り返した。洗浄後の塩化メチレン相を400mlまで濃縮した後、ヘプタン1000mlを15秒かけて滴下し、析出物をメタノールにより洗浄し、ろ過、乾燥してポリエステル(A1)を得た。
【0111】
<合成例2、3>
合成例1における、表1の合成例1の欄に示した量の芳香族モノヒドロキシ化合物、芳香族多価ヒドロキシ化合物の代わりに、表1の合成例2、3の欄に示した量の芳香族モノヒドロキシ化合物、芳香族多価ヒドロキシ化合物を使用した以外は合成例1と同様にして、ポリエステル(A2)、(A3)を得た。
【0112】
<合成例4>
反応容器に水1000ml、および水酸化ナトリウム20gを入れ、窒素気流中で、表1の合成例4の欄に示した量の芳香族モノヒドロキシ化合物を投入し、ファードラー翼により毎分300回転で1時間攪拌した。次いで、30℃に保った反応容器に、塩化メチレン1000ml中に表1の合成例4の欄に示した量の芳香族多価カルボン酸の酸ハロゲン化物を溶解した溶液を15秒かけて滴下し、4時間攪拌を続けた。得られた混合液を静置分液して水相を除去し、残った塩化メチレン相を0.5%濃度の水酸化ナトリウム水溶液による洗浄、および水相の除去を3回繰り返し、さらに、脱イオン水による洗浄と水相の除去を3回繰り返した。洗浄後の塩化メチレン相を400mlまで濃縮した後、ヘプタン1000mlを15秒かけて滴下し、析出物をメタノールにより洗浄し、ろ過、乾燥してエステル(B1)を得た。
【0113】
<合成例5>
反応容器に水1000ml、および水酸化ナトリウム20gを入れ、窒素気流中で、表1の合成例5の欄に示した量の芳香族モノカルボン酸と芳香族多価ヒドロキシ化合物とを投入し、ファードラー翼により毎分300回転で1時間攪拌した。次いで、30℃に保った反応容器に、塩化メチレン1000ml中に表1の合成例5の欄に示した量の芳香族多価カルボン酸の酸ハロゲン化物を溶解した溶液を15秒かけて滴下し、4時間攪拌を続けた。得られた混合液を静置分液して水相を除去し、残った塩化メチレン相を0.5%濃度の水酸化ナトリウム水溶液による洗浄、および水相の除去を3回繰り返し、さらに、脱イオン水による洗浄と水相の除去を3回繰り返した。洗浄後の塩化メチレン相を400mlまで濃縮した後、ヘプタン1000mlを15秒かけて滴下し、析出物をメタノールにより洗浄し、ろ過、乾燥してポリエステル(A4)を得た。
【0114】
<合成例6>
合成例5における、表1の合成例5の欄に示した量の芳香族多価ヒドロキシ化合物、芳香族モノカルボン酸の代わりに、表1の合成例6の欄に示した量の芳香族多価ヒドロキシ化合物、芳香族モノカルボン酸を使用した以外は合成例5と同様にして、ポリエステル(A5)を得た。
【0115】
<合成例7>
反応容器にテトラヒドロフラン400mlを入れ、窒素気流中で、トリエチルアミン11gとレゾルシノール5.1gとを溶解させ、氷冷しながらイソフタル酸クロリド5.1gをテトラヒドロフラン100mlに溶解した溶液を30分かけて滴下した。4時間撹拌した後、p−アセトキシ安息香酸クロリド19.9gをテトラヒドロフラン100mlに溶解した溶液を滴下した。滴下終了後、溶液を5%濃度の炭酸ナトリウム水溶液中に注ぎ、析出物を吸引濾過、水およびメタノールで洗浄し、減圧乾燥して、下記式(23)で表される、ポリエステル(H1)(数平均分子量2900)を得た。
【0116】
【化27】

(23)
【0117】
<合成例8>
反応容器に水1000ml、および水酸化ナトリウム20gを入れ、窒素気流中で、ビスフェノールA45.7g、およびテトラブチルアンモニウムブロミド1.2gを溶解させた。30℃に保った反応容器に、イソフタル酸クロリド32.5g、およびテレフタル酸クロリド8.1gを溶解させた塩化メチレン溶液1000mlを30秒で滴下した。1時間撹拌した後、静置して分液し、水相を取り除いた。残った塩化メチレン相を0.5%濃度の水酸化ナトリウム水溶液による洗浄、水相の除去を3回繰り返し、さらに、脱イオン水による洗浄と水相の除去を3回繰り返した。洗浄後の塩化メチレン相を400mlまで濃縮した後、ヘプタン1000mlを15秒かけて滴下した後、析出物をメタノールにより洗浄し、ろ過、乾燥して、下記式(24)で表される、ポリエステル(H2)(数平均分子量8600)を得た。
【0118】
【化28】

(24)
【0119】
<合成例9>
反応容器に、トルエン500gとエチレングリコールモノエチルエーテル200gの混合溶媒にトリメチルヒドロキノン152gを溶解した溶液を入れ、該溶液にp−トルエンスルホン酸4.6gを加えた後、ベンズアルデヒド64gを滴下して、水分を留去しながら120℃で15時間撹拌した。次いで、冷却して析出した結晶をろ別し、ろ液が中性になるまで繰り返し水で洗浄して、下記式(25)で表されるジヒドロキシベンゾピランを得た。
【0120】
【化29】

(25)
【0121】
<合成例10>
反応容器に、上記式(25)で表されるジヒドロキシベンゾピラン187g、エピクロルヒドリン463g、n−ブタノール53g、およびテトラエチルベンジルアンモニウムクロリド2.3gを仕込み、窒素気流中で溶解させ、65℃の温度で共沸する圧力まで減圧した後、49%水酸化ナトリウム水溶液82gを5時間かけて滴下し、30分撹拌した。未反応のエピクロルヒドリンを減圧蒸留して留去した後、メチルイソブチルケトン550gとn−ブタノール55gとを加えて得られた溶液に、10%水酸化ナトリウム水溶液15gを添加して80℃で2時間反応させ、反応物を水洗して下記式(26)で表されるベンゾピラン型エポキシ樹脂を得た。
【0122】
【化30】

(26)
【0123】
【表1】

【0124】
表1に示す芳香族多価ヒドロキシ化合物は、各々下記を表す。
DHDBP:ジヒドロキシベンゾピラン(式(13)におけるYがフェニル基で置換されたメチレン基であり、n、mが共に3である、合成例9で得られた式(25)で表される芳香族多価ヒドロキシ化合物。ヒドロキシ基当量187g/eq)。
DCPDDP:日本石油株式会社製ジシクロペンタジエニルジフェノール「DPP−6085」(式(12)においてkの平均値が0.16である芳香族ジヒドロキシ化合物。ヒドロキシ基当量165g/eq)。
DHDN:東京化成工業株式会社製ジヒドロキシジナフタレン(式(14)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物。ヒドロキシ基当量143g/eq)。
【0125】
<実施例1〜15>
合成例1〜3、5〜6で得られたポリエステルA1〜A5とエステルB1を硬化剤とし、これら硬化剤とエポキシ樹脂、硬化促進剤、誘電体粉末、溶媒、および必要に応じて難燃剤とスチレン系エラストマー等を表2に示す組成で25℃で混合し、樹脂組成物からなるワニスを調製した。
【0126】
<比較例1〜8>
表3に示す組成にて実施例と同様な手法を用い樹脂組成物からなるワニス作製した。
【0127】
【表2】

【0128】
【表3】

【0129】
表2と表3中に示すエポキシ樹脂、硬化促進剤、誘電体粉末、難燃剤、スチレン系エラストマーは各々下記を表す。また、表2と表3中のエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、誘電体粉末、溶媒、難燃剤、及びスチレン系エラストマーの欄の数値は質量(g)を表す。
【0130】
EPICLON HP−7200H:大日本インキ化学工業株式会社製ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量280g/eq)。
ベンゾピラン型エポキシ樹脂(エポキシ当量265g/eq)。
DMAP:4−ジメチルアミノピリジン。
BaNdTi12誘電体粉末:TDK株式会社製(平均粒径1.6μm、ε=92、Q=1700)。
MgTiO誘電体粉末:共立マテリアル製(ε=17、Q=22000)。
BaTi20誘電体粉末:TDK株式会社製(平均粒径1.7μm、ε=39、Q=9000)。
KBM573:信越化学工業株式会社製シランカップリング剤。
SAYTEX8010:アルベマールコーポレーション製のエタン−1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)。
KRATON G1701:クレイトンポリマー製のスチレン−エチレン−プロピレンのジブロック共重合体。
【0131】
実施例1〜15および比較例1〜8で得られた樹脂組成物を用いて下記の方法により、実施例1〜15および比較例1〜8の半硬化シート、RCC、プリプレグ状シート、硬化物シート、両面銅箔付硬化物シート、ガラスクロス入硬化物シート、両面銅箔付ガラスクロス入硬化物シート、両面銅箔付ガラスクロス入硬化物シートを製造した。
【0132】
[半硬化シート、片面銅箔付半硬化シート(RCC)]
実施例1〜15および比較例1〜8で得られた樹脂組成物からなるワニスを横型塗工機(ヒラノテクシード社製)により、ドクターブレードにてギャップを制御し、塗工を行った。
支持体にはポリエチレンテレフタレートシート(厚み50μm)もしくは、18μm電解銅箔(日鉱マテリアルズ JTC箔)を使用し、ギャップは100〜150μmで速度0.3m/min、乾燥は120℃/5分の熱風乾燥にて行い、ロールtoロールにて巻取った。これを100×100mmのサイズに裁断し、絶縁層厚み50μmの片面PET支持体付半硬化シートおよび片面銅箔付半硬化シートを得た。
比較例1〜8についても同様の手順により、片面にPET支持体が付いた半硬化シートおよび片面に銅箔が付いた片面銅箔付半硬化シートを作製した。
【0133】
[プリプレグ状シート]
実施例1〜15で得られた樹脂組成物からなるワニスを、縦型含浸塗工装置(市金エンジニアング社製)を用い、ガラスクロス(1080タイプ、Eガラス、旭シェーベル社製)に含浸塗工を行った。塗工速度は0.3m/minでギャップは300μm、乾燥条件は80℃/5分+120℃/5分で行い、ロールtoロールで巻き取った。さらに100×100mmに裁断し、厚み100μmの実施例1〜15に係るプリプレグ状シートを得た。
比較例1〜8についても同様の手順により、プリプレグ状シートを作製した。
【0134】
[硬化物シート]
上記実施例1〜15、比較例1〜8に係る半硬化シートを、100℃に加熱したホットプレート上にて貼り付け、支持体除去を16回繰り返し、厚み0.8mmの厚い半硬化シートを得、さらに高温真空プレス(KVHC型、北川精機株式会社製)を用い、4℃/分→130℃/60分キープ→4℃/分→190℃/3時間、圧力1MPaの条件にて高温真空プレスを行った。得られた硬化物シートの厚みは0.7mmであった。
【0135】
[両面銅箔付硬化物シート]
上記実施例1〜15、比較例1〜8に係る銅箔付きの半硬化シートを、絶縁層(樹脂層)を合わせて重ね合わせ、高温真空プレス(KVHC型、北川精機株式会社製)を用い、4℃/分→130℃/60分キープ→4℃/分→190℃/3時間、圧力2MPaの条件にて高温真空プレスを行った。得られた両面銅箔付硬化物シートの厚みは0.12mmであった。
【0136】
[ガラスクロス入硬化物シート]
実施例1〜15、比較例1〜8に係るプリプレグ状シートを8枚重ねあわせ、高温真空プレス(KVHC型、北川精機株式会社製)を用い、4℃/分→130℃/60分キープ→4℃/分→190℃/3時間、圧力1MPaの条件にて高温真空プレスを行った。得られたガラスクロス入硬化物シートの厚みは0.7mmであった。
【0137】
[両面銅箔付ガラスクロス入硬化物シート]
実施例1〜15、比較例1〜8に係るプリプレグ状シートの上下両面に、18μ厚の電解銅箔(日鉱マテリアルズ社製、JTC箔)を重ね合わせ、高温真空プレス(KVHC型、北川精機株式会社製)を用い、4℃/分→130℃/60分キープ→4℃/分→190℃/3時間、圧力2MPaの条件にて高温真空プレスを行った。得られた両面銅箔付ガラスクロス入硬化物シートの厚みは0.1mmであった。
【0138】
[両面銅箔付ガラスクロス入硬化物シート2]
実施例1〜15、比較例1〜8に係る銅箔付きの半硬化シートの間にガラスクロス(1080タイプ、Eガラス、旭シェーベル社製)をはさみ、高温真空プレス(KVHC型、北川精機株式会社製)を用い、4℃/分→130℃/60分キープ→4℃/分→190℃/3時間、圧力2MPaの条件にて高温真空プレスを行った。得られた両面銅箔付ガラスクロス入硬化物シートの厚みは0.15mmであった。
【0139】
以上のように製造したRCC、硬化物シート、ガラスクロス入硬化物シートの評価を以下の方法により行った。その結果を表4に示す。
【0140】
(塗工性)
片面銅箔付半硬化シート(RCC)について、横型塗工機(ヒラノテクシード社製)を用いたドクターブレードによる塗工の適否を目視により評価した。目視により、良好なものを○、そうでないものを×とした。
【0141】
(プレス流動性)
片面銅箔付半硬化シート(RCC)について、100mm角に裁断し、高温真空プレスにて4℃/分→130℃/60分キープ、圧力2MPaの条件にてプレスを行い、下記計算式により算出した。判定基準は流出率が5%以上を○とし、それ以下を×とした。
流出率(%)=(プレス後シート面積−プレス前シート面積)×100/プレス前シート面積
【0142】
(RCC可とう性)
片面銅箔付半硬化シート(RCC)について、それぞれ100mm角に裁断し、絶縁層が外側になるように直径2mmのステンレス棒に25℃で巻き付け、樹脂のひび割れと剥がれが共にないものを○、そうでないものを×とした。
【0143】
(誘電特性)
硬化物シートおよびガラスクロス入硬化物シートについて、TDKオリジナル測定方法である摂動法により、絶乾後23℃、湿度50%の室内に24時間保管した後のエポキシ樹脂硬化物、および85℃/85%RH恒温恒湿槽にて96時間吸水させたあと、湿度50%の室内に24時間保管したエポキシ樹脂硬化物の2GHzでの誘電率およびQ値(誘電正接の逆数)を測定した。
【0144】
(銅箔引き剥がし(ピール強度)試験)
硬化物シートおよびガラスクロス入硬化物シートについて、JIS C 6481に基づき、幅10mmの箔を50mm/分の速さで垂直に引き剥がしたときの強度を測定した。
【0145】
(曲げ強度・弾性率)
硬化物シートを25×50×0.8mmに切断し、JIS C 6481に基づいた方法にて測定した。
【0146】
(ガラス転移温度(Tg))
硬化物シートおよびガラスクロス入硬化物シートについて、セイコー電子工業株式会社製粘弾性スペクトロメータ「DMS200」により、1Hzにおけるtanδのピーク値の温度をガラス転移温度として測定した。
【0147】
(UL―94難燃性試験)
硬化物シートおよびガラスクロス入硬化物シートについて、UL―94の規格に準拠した垂直燃焼試験により、合格するものをV−0、不合格なものを×とした。
【0148】
(はんだ耐熱性試験)
硬化物シートおよびガラスクロス入硬化物シートについて、JIS−C−6481に準拠した方法により、300℃のはんだ浴に120秒間浸漬したエポキシ樹脂硬化物の状態を目視により評価した。目視により、膨れ、割れなどがないものを○、膨れ、割れなどが発生したものを×とした。
【0149】
【表4】

【0150】
表4に示す結果から明らかなように、本発明の樹脂組成物を用いて作製された実施例1〜15の各種シートでは、高い誘電率及びQ値を有するとともに、ピール強度等のプリント基板、電子部品用の材料に求められる各種の物性に優れていることが確認できた。なお、実施例1及び9ではRCC可とう性を×と評価したが、これは評価基準に基づいて厳格に評価したためであり、現実の使用において問題が生じるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子鎖末端にアリールオキシカルボニル基もしくはアリールカルボニルオキシ基を有する、芳香族多価カルボン酸残基と芳香族多価ヒドロキシ化合物残基とからなるポリエステルと、エポキシ樹脂と、硬化促進剤と、誘電体粉末とを含み、誘電率が少なくとも4であり、Q値が少なくとも250である、ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族多価ヒドロキシ化合物残基が、下記式(1)〜(4)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、前記芳香族多価カルボン酸残基が、下記式(5)〜(7)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、前記アリールオキシカルボニル基もしくはアリールカルボニルオキシ基中のアリール基が、下記式(8)〜(10)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも一種のアリール基である、ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。

【化1】

(1)

(式(1)中、kは0または1である。)

【化2】

(2)

(式(2)中、Yは酸素原子、メチレン基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたメチレン基、フェニル基で置換されたメチレン基、ナフチル基で置換されたメチレン基、ビフェニル基で置換されたメチレン基、9−フルオレニル基で置換されたメチレン基、または該フェニル基、該ナフチル基、あるいは該ビフェニル基に更に炭素数1〜4のアルキル基が核置換したメチレン基を表す。nおよびmは、各々1〜3の整数を表す。)

【化3】

(3)

【化4】

(4)

【化5】

(5)

【化6】

(6)

【化7】

(7)

(式中A、B、D、E、Gは置換基であり、各々炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子を表す。a、e、gは各々0〜4の整数を示し、b、dは各々0〜3の整数を表す。Xは単結合、−S−、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、または−SO−を表す。)

【化8】

(8)

【化9】

(9)

【化10】

(10)

(式中、P、Q、R、T、Uは置換基であり、各々炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、またはハロゲン原子を表す。p、rは0〜5の整数、q、tは0〜4の整数、uは0〜3の整数を表す。Zは単結合、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、または−SO−を表す。)
【請求項3】
前記誘電体粉末は、誘電率が15〜10000であり、Q値が300〜100000である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記誘電体粉末は、MgTiO、ZnTiO、ZnTiO、CaTiO、SrZrO、BaTi、BaTiO、BaTi20、Ba(Ti,Sn)20、ZrTiO、(Zr,Sn)TiO、BaNdTi14、BaNdTi12、BaSmTiO14、BaO−CaO−Nd−TiO系、BaO−SrO−Nd−TiO系、Bi−BaO−Nd−TiO系、PbO−BaO−Nd−TiO系、(Bi,PbO)−BaO−Nd−TiO系、LaTi、NdTi、(Li,Sm)TiO、Ba(Mg1/3Nd2/3)O、Ba(Zn1/3Ta2/3)O、Ba(Zn1/3Nd2/3)O、Sr(Zn1/3Nd2/3)O、のいずれか1種あるいはこれらの組み合わせを含む、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記誘電体粉末は、樹脂組成物の総量100体積部に対して15〜65体積部配合されている、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記誘電体粉末は、樹脂組成物の誘電率が1以上高くなり、Q値が10以上高くなるように配合されている、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
スチレン系エラストマーとポリブタジエン系ポリマーとの少なくとも一つをさらに含む、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
難燃剤をさらに含む、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記難燃剤は、臭素化芳香族系難燃剤とエタン−1,2−ビス(ベンタブロモフェニル)との少なくとも1つを含有する、ことを特徴とする請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項8または9に記載の樹脂組成物を金属箔、あるいはフィルムに塗工し、半硬化させて得られる、ことを特徴とするシート。
【請求項11】
請求項10に記載のシートを貼りあわせる、あるいは複数枚重ねて硬化させて得られる、ことを特徴とするシート。
【請求項12】
請求項8または9に記載の樹脂組成物を含浸基材に含浸させて得られる、ことを特徴とするプリプレグ状材料。
【請求項13】
前記含浸基材は、Eガラスのガラスクロス、Dガラスのガラスクロス、NEガラスのガラスクロス、Hガラスのガラスクロス、Tガラスのガラスクロス、及びポリ4弗化エチレンの多孔質膜からなる群から選択される、ことを特徴とする請求項12に記載のプリプレグ状材料。
【請求項14】
前記含浸基材にガラスクロスが選択され、
誘電率が少なくとも5であり、Q値が少なくとも200である、ことを特徴とする請求項12に記載のプリプレグ状材料。
【請求項15】
請求項12乃至14のいずれか1項に記載のプリプレグ状材料を1枚以上重ねて硬化させた、ことを特徴とするシート。
【請求項16】
請求項12乃至14のいずれか1項に記載のプリプレグ状材料を1枚以上重ねて、その上下に金属箔を重ねて硬化させた、ことを特徴とする金属箔付シート。
【請求項17】
請求項10に記載のシートの間に含浸基材を挟んで硬化させた、ことを特徴とする積層板。
【請求項18】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の樹脂組成物から得られることを特徴とする電気絶縁用材料。
【請求項19】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の樹脂組成物から得られることを特徴とするレジスト材料。

【公開番号】特開2006−56981(P2006−56981A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239888(P2004−239888)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】