説明

樹脂組成物、それを用いたプリプレグ、積層板および印刷配線板

【課題】金属水和物などの無機充填剤の分散性を向上させると共に、耐熱性が高く、かつハロゲンを含有せずに難燃性を有する樹脂組成物、これを用いた積層板および印刷配線板を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)金属水和物、(D)シロキサン骨格中にフェニル基を有し、かつ少なくとも1つの末端に官能基を2個以上有するシリコーン重合体を必須成分として含み、(C)の含有量が(A)と(B)の合計量に対して50〜150重量%であることを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、それを用いたプリプレグ、積層板および印刷配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂積層板はエポキシ樹脂組成物のワニス溶液をガラス織布に含浸し、乾燥してBステージ化したプリプレグを積層し、加熱加圧して製造されている。
【0003】
エポキシ樹脂積層板は各種電子機器等に用いられており、火災に対する安全性を確保するために難燃性が付与されている。難燃化には様々な手法が用いられているが、その優れた難燃性からこれまでハロゲン化合物、特に臭素化合物が広く用いられてきた。しかしながら、地球規模で環境破壊に関する問題意識が高まる中、ハロゲン化合物は焼却時に腐食性の臭素だけでなく、ダイオキシン類などの有害な化合物を形成する可能性があるため、臭素化合物に代わる難燃システムが検討されている。
【0004】
一方、実装部品のはんだ材料に関しても、従来Sn−Pb系が主に使用されているが、廃棄処理時などに土壌等を汚染する可能性があるため、鉛フリーはんだ材料の検討も進んでいる。鉛フリーはんだ材料に関する報告等によると、そのようなはんだは融点が上昇することが予想されており、これに伴ってリフロー温度も上昇する可能性が高い。
【0005】
こうした状況において、今後のエポキシ樹脂積層板にはハロゲン化合物を用いないことと同時にこれまで以上に高い耐熱性が要求される。
【0006】
ハロゲン化合物に代わる難燃化の手法としては、従来からリンや窒素化合物の添加や樹脂骨格の導入等が行われている(特開平11−124489号公報、特開平11−199753号公報)。しかしながら、リンや窒素により難燃性を確保するためにはある程度の量を配合する必要があり、これによって吸水率の増加や耐熱性の低下等を引き起こす問題があった。このため、リンや窒素の導入量の低減を目的に、金属水和物を併用する方法がある。
【0007】
しかしながら、金属水和物は燃焼時に冷却効果を発現する水を多くトラップしているため、ある程度の量以上配合すると樹脂組成物や積層板の耐熱性が急激に低下する問題がある。これは、金属水和物が水を放出する温度がはんだの溶融温度よりも低いことに起因しており、今後溶融温度が更に高くなることが予想されている鉛フリーのはんだではより顕著になると思われる。
【0008】
さらに金属水和物などの無機充填剤を配合したエポキシ樹脂積層板において、無機充填剤の分散性が大きな課題となる。樹脂組成物中に無機充填剤の凝集が存在すると、耐熱性の低下や吸水率の増加、機械強度の低下、絶縁性の低下等、様々な問題を引き起こす。金属水和物の分散性の向上や引張り強度や伸びの向上等を目的として、金属水和物の表面にシラン化合物モノマでシラン処理を施す方法もあるが(特開平11−181380号公報、特開平11−217467号公報)、シラン化合物モノマでは、金属水和物表面への処理効率が低いことやモノマ自体の耐熱性が低いこともあり、金属水和物を高いレベルで分散させることが困難であり、耐熱性の向上も認められない。
【0009】
【特許文献1】特開平11−124489号公報
【特許文献2】特開平11−199753号公報
【特許文献3】特開平11−181380号公報
【特許文献4】特開平11−217467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記従来技術の問題点を解消し、金属水和物などの無機充填剤の分散性を向上させると共に、耐熱性が高く、かつハロゲンを含有せずに難燃性を有する樹脂組成物、これを用いた積層板および印刷配線板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(1)(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)金属水和物、(D)シロキサン骨格中にフェニル基を有し、かつ少なくとも1つの末端に官能基を2個以上有するシリコーン重合体を必須成分として含み、(C)の含有量が(A)と(B)の合計量に対して50〜150重量%であることを特徴とする樹脂組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、(2)(C)が水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上である、前記(1)に記載の樹脂組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、(3)(D)の少なくとも1つの末端が3個の官能基を有する、前記(1)〜(2)のいずれか一項に記載の樹脂組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、(4)(D)の少なくとも1つの末端が2個の官能基と1個のアルキル基を有する、前記(1)〜(2)のいずれか一項に記載の樹脂組成物に関する。
【0015】
また、本発明は、(5)(D)の含有量が(C)の含有量に対して0.1〜10重量%である、前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の樹脂組成物に関する。
【0016】
また、本発明は、(6)(D)の末端の官能基が水酸基、またはアルコキシ基である、前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の樹脂組成物に関する。
【0017】
また、本発明は、(7)(D)のシロキサン単位の数が2〜70個である、前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の樹脂組成物に関する。
【0018】
また、本発明は、(8)全シロキサン単位の25%以上が、少なくとも1個のフェニル基を有する、前記(1)〜(7)のいずれか一項に記載の樹脂組成物に関する。
【0019】
また、本発明は、(9)前記(1)〜(8)のいずれか一項に記載の樹脂組成物を使用して製造されるプリプレグに関する。
【0020】
また、本発明は、(10)前記(9)に記載のプリプレグを積層し、硬化させて得られる難燃性積層板に関する。
【0021】
また、本発明は、(11)金属張積層板である、前記(10)に記載の難燃性積層板に関する。
【0022】
また、本発明は、(12)前記(10)に記載の積層板または前記(11)に記載の金属張積層板を使用して作製される印刷配線板に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の樹脂組成物より作製した積層板は、ハロゲンを含有せずに優れた難燃性や高い耐熱性を発現する。また樹脂組成物に含まれる金属水和物等の無機充填剤の分散が良好であることから、積層板は優れた耐電食性を有する。このような積層板から回路を形成して得られる印刷配線板は、信頼性が高く、ワイヤボンディング性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)金属水和物、(D)シロキサン骨格中にフェニル基を有し、かつ少なくとも1つの末端に官能基を2個以上有するシリコーン重合体を必須成分として含むものである。
【0025】
本発明で使用する(A)のエポキシ樹脂は、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であればよい。かかるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多官能フェノール類のグリシジルエーテル化合物、多官能アルコール類のグリシジルエーテル化合物、およびそれらの水素添加物等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また、硬化後の樹脂組成物のTgや耐熱性を向上するために、分子内に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を用いることが好ましい。このような樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられ、なかでもビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0026】
本発明で使用する(B)の硬化剤は、特に限定されず従来公知の種々のものを使用することができる。かかる硬化剤としては、ジシアンジアミド、1−トリルビグアニド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノマレオニトリル、アジピン酸ヒドラジド、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、フェノールノボラック樹脂やクレゾールノボラック樹脂等の多官能性フェノール樹脂等をあげることができる。なかでも、フェノールノボラック樹脂が好ましい。これら硬化剤は何種類か併用することも可能である。
【0027】
本発明では、硬化促進剤を用いてもよい。その種類や配合量は特に限定するものではなく、例えばイミダゾール系化合物、有機リン系化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等が用いられ、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
本発明で使用する(C)の金属水和物は、通常、周期律表2族または3族の金属酸化物の水和物が用いられ、酸化アルミニウム水和物、水酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウム等が挙げられる。酸化アルミニウム水和物には、水酸化アルミニウムと言われるものを包含し、ベーマイト、ジアスポアのような一水和物、およびギブサイト、バイエライトのような三水和物(水酸化アルミニウム)が挙げられる。なかでも、水酸化アルミニウムが好ましい。これらの金属水和物は2種類以上を併用してもよい。また、金属水和物の形状、粒径、純度等は特に制限されない。
【0029】
(C)成分の配合量は(A)と(B)の合計量に対して50〜150重量%、好ましくは70〜120重量%である。(C)成分の配合量が50重量%未満の場合は、充分な難燃性が得られず、150重量%を超える場合は配合時にワニスが増粘して取り扱いし難くなり、積層板において成形性が不十分となる。さらには150重量%を超える場合には、実装温度領域において金属水和物が水を放出する量が多くなり過ぎることから、充分な耐熱性が得られない。
【0030】
本発明では、(C)成分の金属水和物以外の無機充填剤を併用することもできる。併用する無機充填剤の種類や形状、粒径は特に限定するものではなく、例えば炭酸カルシウム、アルミナ、酸化チタン、マイカ、炭酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、ガラス短繊維やホウ酸アルミニウムや炭化ケイ素等の各種ウィスカ等が挙げられる。これらは2種類以上を併用してもよい。
【0031】
本発明で使用する(D)のシリコーン重合体は、シロキサン骨格中にフェニル基を有し、かつ少なくとも1つの末端に官能基を2個以上有する重合体である。かかる(D)のシリコーン重合体は、(C)成分および任意に配合される(C)成分以外の無機充填剤の表面処理剤である。
【0032】
(D)のシリコーン重合体は、樹脂硬化物の耐熱性を高めるために、シロキサン骨格中にフェニル基を含有する。これにより、(C)成分の金属水和物が水を放出する温度が上昇し、はんだ付けなどの加工により樹脂にふくれを生じることがなく、かつ難燃性を損なうことがない。金属水和物の配合量が50〜150重量%の範囲において積層板として必要な耐熱性を得るためには、全シロキサン単位の25%以上が少なくとも1個のフェニル基を有することが好ましく、全シロキサン単位の50%以上が少なくとも1個のフェニル基を有することがより好ましい。
【0033】
また(D)のシリコーン重合体は少なくとも1つの末端に官能基を2個以上有する構造をとる。シロキサン骨格中に立体障害の大きなフェニル基を多く含むと、必然的に(C)成分および任意に配合される(C)成分以外の無機充填剤に対する反応性は低下する。そのため本発明のシリコーン重合体は、少なくとも1つの末端に(C)成分および任意に配合される(C)成分以外の無機充填剤と反応する官能基を2個以上有する構造をとることにより、(C)成分および任意に配合される(C)成分以外の無機充填剤との反応性を高めている。末端の官能基は2個以上であればよいが、前記反応性をより高めるためには、末端の官能基が3個であることがより好ましい。また末端の官能基が2個である場合、残りの1個の置換基については立体障害の少ない、アルキル基であることが好ましく、例えば、メチル基やエチル基、n−プロピル基等の低級アルキル基がより好ましい。シリコーン重合体の末端の官能基としては、(C)成分および任意に配合される(C)成分以外の無機充填剤の表面と反応するものであれば特に限定はないが、反応がより容易な水酸基(ケイ素原子を含めてシラノール基とも言う)、またはアルコキシ基であることが好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基の低級アルキル基または水酸基であることが特に好ましい。
【0034】
シリコーン重合体において、フェニル基および末端に存在する官能基以外の置換基に関しては特に限定はなく、例えば非反応性の炭化水素基や反応性の水酸基、アルコキシ基等が挙げられる。さらに炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基であることが好ましく、合成および取り扱いが容易であり、かつ立体障害が小さいことから、メチル基、エチル基であることが特に好ましい。
【0035】
シリコーン重合体のシロキサン骨格は、直線状、分岐状、環状、網状のいずれであってもよい。また、シリコーン重合体のシロキサン単位の数(重合度)は2〜70個であることが好ましく、2〜50個がさらに好ましい。
【0036】
本発明におけるシリコーン重合体は、フェニル基を含有する2官能性以上のシラン化合物を必須成分として、加水分解、重縮合させて合成することができる。フェニル基を含有する2官能性以上のシラン化合物を単独で用いて合成してもよいし、2種類以上を併用してもよい。さらにジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリプロポキシメチルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランなどのフェニル基を含有しない2官能性以上のシラン化合物を適宜混合して加水分解、重縮合させて合成することもできる。合成方法は特に限定するものではないが、シリコーン重合体の少なくとも1つの末端を2官能性とするためには、加水分解、重縮合反応によって一旦フェニル基を含有するシロキサン骨格を作った後、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリプロポキシメチルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランなどの3官能以上のシラン化合物を添加して反応させる、2段階の合成手順で行なうことが好ましい。
【0037】
フェニル基を含有する2官能性以上のシラン化合物は、例えば、アルコキシシラン化合物、シラノール化合物が挙げられ、具体的には、PhSi(OCH、PhSi(OC、PhSi(OC、PhSi(OC、PhSi(OCH、PhSi(OC、PhSi(OC、PhSi(OC(ただし、Phはフェニル基を示す。以下同様)等のアルコキシシラン化合物、PhSi(OH)、PhSi(OH)、CHPhSi(OH)等のシラノール化合物等が挙げられる。これらのなかでもアルコキシシラン化合物が好ましい。
【0038】
本発明におけるシリコーン重合体は、シラン化合物を加水分解、重縮合して製造されるが、このとき触媒としては、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸、シュウ酸、マレイン酸、スルホン酸、ギ酸等の有機酸を使用することが好ましく、アンモニア、トリメチルアンモニウムなどの塩基性触媒を用いることもできる。これら触媒は、シラン化合物の量に応じて適当量用いられるが、好適にはシラン化合物1モルに対し0.001〜1.0モルの範囲で用いられる。
【0039】
また、この反応に際して、水が存在させられる。水の量も適宜決められるが、多すぎる場合には得られたシリコーン重合体の保存安定性が低下したり、樹脂組成物や積層板の耐熱性が低下する等の問題が生じるので、水の量は、シラン化合物が有する加水分解性基(例えばアルコキシル基等)1モルに対して、0〜5モルが好ましく、0.5〜2モルの範囲とすることがより好ましい。
【0040】
また、上記の加水分解・重縮合は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては特に限定するものではい。シリコーン重合体の反応は、シラン化合物と触媒、水、溶媒を適宜配合・攪拌して得られるが、その際のシラン化合物の濃度や反応温度、反応時間等は特に限定するものではない。
【0041】
(D)成分の含有量は特に限定されないが、(C)の含有量に対して0.1〜10重量%であることが好ましく、前記範囲とすることにより(C)成分の分散性を高め、(C)成分の表面に適度な厚さのポリシロキサン層を形成することができ、樹脂との間の界面接着性が向上し、かつ残留応力を低減することができ、樹脂に優れた耐熱性を与えることができる。また、(C)成分以外の無機充填剤を配合する場合には、(D)成分の含有量は、(C)成分と(C)成分以外の無機充填剤の合計含有量に対して0.1〜10重量%とすることが好適であり、前記同様の効果を奏することができる。
【0042】
(C)成分および任意に配合される(C)成分以外の無機充填剤に対するシリコーン重合体の処理方法は特に限定されるものではなく、シリコーン重合体を直接添加する乾式法や、有機溶媒などで希釈された処理液を用いる湿式法等がある。
【0043】
またシリコーン重合体以外に、各種カップリング剤を併用してもよい。カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等が用いられる。シラン系カップリング剤としては、炭素官能性シランが用いられ、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、2−(2、3−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシ基含有シラン;3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル(メチル)ジメトキシシランのようなアミノ基含有シラン;ビニルトリエトキシシランのようなビニル基含有シラン;3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのようなアクリル基含有シラン;および3−メルカプトプロピルトリメトキシシランのようなメルカプト基含有シランが例示される。チタネート系カップリング剤としては、チタンプロポキシド、チタンブトキシドのようなチタン酸アルキルエステルが例示される。このようなカップリング剤は2種以上併用してもよく、その配合量は、特に制限はない。
【0044】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、さらに着色剤、酸化防止剤、還元剤、紫外線遮蔽剤などを適宜配合することができる。ただし、本発明の樹脂組成物は、その課題から有機臭素化合物、有機塩素化合物等のハロゲン化合物を実質的に含有しないため、それらの構造を含んだ添加剤は使用することができない。
【0045】
本発明の樹脂組成物を溶剤で希釈してワニス化し、それを基材に含浸させて、乾燥することによりプリプレグを得ることができる。希釈してワニス化するための溶剤は特に限定はなく、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、N−メチルピロリドン、N、N’−ジメチルホルムアミド、N、N’−ジエチルアセトアミドなどのアミド系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤、酢酸エチル、メチルセロソルブアセテートなどのエステル系溶剤、ブチロニトリルなどのニトリル系溶剤等があり、これらは単独で用いても何種類かを混合して用いてもよい。また、ワニスの固形分濃度は特に制限はなく、樹脂の組成や無機充填剤の種類及び配合量等により適宜変更できるが、50重量%〜80重量%の範囲が好ましい。50重量%未満の場合はワニス粘度が低く、プリプレグの樹脂分が低くなりすぎ、80重量%を越える場合はワニスの増粘等によりプリプレグの外観等が著しく低下しやすい。
【0046】
前記各成分を配合して得たワニスを含浸させる基材としては、金属箔張り積層板や印刷配線板を製造する際に用いられるものであれば特に制限されないが、通常、織布や不織布等の繊維基材が用いられる。繊維基材としては、たとえばガラス、アルミナ、アスベスト、ボロン、シリカアルミナガラス、シリカガラス、チラノ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア等の無機繊維やアラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、カーボン、セルロース等の有機繊維等及びこれらの混抄系があり、特にガラス繊維の織布が好ましく用いられる。ガラス織布の種類には特に指定はなく、厚さ0.02〜0.4mmまでのものを、目的のプリプレグまたは積層板の厚さに合わせて使用することができる。樹脂ワニスを基材に含浸させる方法としては、特に制限されず、例えば、ウェット方式やドライ方式などの樹脂液に基材を含浸させる方法などが挙げられる。含浸量は樹脂分として示されるが、樹脂分とはプリプレグの全重量に対する有機樹脂固形分と無機充填剤類の合計重量の割合のことであり、30〜90重量%であると好ましく、40〜80重量%であるとより好ましい。樹脂分は目的のプリプレグの性能、および積層後の絶縁層の厚さに合わせて適宜決定される。プリプレグを製造する時の乾燥条件は乾燥温度60〜200℃、乾燥時間1〜30分間の間で目的のプリプレグ特性に合わせて自由に選択することができる。
【0047】
かくして得られたプリプレグを少なくとも一枚以上、目的とする積層板の厚みに合わせて積層し、その片側または両側に金属箔を配して、加熱加圧成形して金属張り積層板を製造する。金属箔としては主に銅箔やアルミ箔を用いるが、他の金属箔を用いてもよい。金属箔の厚みは通常3〜200μmである。また、ニッケル、ニッケル−リン、ニッケル−スズ合金、ニッケル−鉄合金、鉛、鉛−スズ合金等を中間層とし、この両面に0.5〜15μmの銅層と10〜300μmの銅層を設けた3層構造の複合箔あるいはアルミニウムと銅箔を複合した2層構造複合箔を用いることができる。
【0048】
金属張り積層板製造時の加熱温度は130〜250℃、より好ましくは150〜200℃で、圧力は0.5〜10Mpa、より好ましくは1〜8Mpaであり、プリプレグ特性や、プレス機の能力、目的の積層板の厚み等により適宜決定する。
【0049】
かくして得られた金属張り積層板に回路加工を施して印刷配線板とすることができる。
【0050】
本発明の樹脂組成物は、金属水和物を樹脂に対して50〜150重量%配合することにより、燃焼の際に水を放出するので、樹脂組成物を硬化して得られた積層板に難燃性を付与することができる。
【0051】
さらに金属水和物の表面処理剤として用いるシリコーン重合体は、シロキサン骨格中にフェニル基を含有しているので、耐熱性が向上し、はんだ付けのような加工の際に水の放出に起因した樹脂のふくれが発生することがない。また、シリコーン重合体の少なくとも1つの末端に2個以上の官能基を有しているため、シロキサン骨格中に嵩高いフェニル基が存在するにもかかわらず、金属水和物などの無機充填剤表面への反応性が高く、無機充填剤を分散させることができ、凝集による絶縁性の低下や耐熱性の低下等を防ぐことができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。以下の実施例および比較例において、部は重量部を表す。
実施例1
メタノール10部に、ジフェニルジメトキシシラン40部とジメチルジメトキシシラン20部を配合して溶液を調整した。これを攪拌しながら、蒸留水6部と酢酸0.5部の溶液を添加し、50℃で4時間加熱して加水分解、重縮合反応を行った。一旦、0℃に冷却した後、トリメトキシメチルシラン8部を滴下して室温で2時間攪拌して、シロキサン骨格中にフェニル基を含有し、末端が2官能性のシリコーン重合体を得た。得られたシリコーン重合体のシロキサン単位の数の平均(数平均重合度)は8であった。なお、シリコーン重合体のシロキサン単位の数はゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレンの検量線を利用して測定した数平均分子量から算出したものである。
【0053】
このシリコーン重合体2部と以下の樹脂および無機充填剤を配合し、メチルエチルケトンを加えて固形分70重量%のワニスを調整した。
【0054】
ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(大日本インキ製EPICLON N865、エポキシ当量:205) 100部
フェノールノボラック樹脂(明和化成製HF−4、水酸基当量:108) 54部
2−エチル−4−メチルイミダゾール 0.2部
水酸化アルミニウム(住友化学製CL310) 120部
焼成クレー(ケイ酸アルミニウム、J.M.Huber社製Huber40C) 20部
【0055】
実施例2
メタノール10部に、トリエトキシフェニルシラン50部を配合して溶液を調整した。これを攪拌しながら、蒸留水6部と酢酸0.5部の溶液を添加し、80℃で4時間加熱して加水分解、重縮合反応を行った。一旦、0℃に冷却した後、テトラエトキシシラン6部を滴下して室温で2時間攪拌して、シロキサン骨格中にフェニル基を含有し、末端が3官能性のシリコーン重合体を得た。得られたシリコーン重合体のシロキサン単位の数の平均(数平均重合度)は13であった。
このシリコーン重合体2部を用いて、実施例1と同様にワニスを作製した。
【0056】
実施例3
メタノール10部に、トリエトキシフェニルシラン30部とジエトキシジフェニルシラン5部を配合して溶液を調整した。これを攪拌しながら、蒸留水8部と酢酸0.5部の溶液を添加し、50℃で4時間加熱して加水分解、重縮合反応を行った。一旦、0℃に冷却した後、テトラエトキシシラン6部を滴下して室温で2時間攪拌して、シロキサン骨格中にフェニル基を含有し、末端が3官能性のシリコーン重合体を得た。得られたシリコーン重合体のシロキサン単位の数の平均(数平均重合度)は10であった。
このシリコーン重合体2部を用いて、実施例1と同様にワニスを作製した。
【0057】
比較例1
実施例1のワニスにシリコーン重合体を配合せずに、ワニスを作製した。
比較例2
実施例1のシリコーン重合体の代わりに、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(日本ユニカー製A−187)を1部とした以外は、実施例1と同様にワニスを作製した。
比較例3
実施例1のシリコーン重合体の代わりに、トリフェニルシラノール化合物を1部とした以外は、実施例1と同様にワニスを作製した。
比較例4
実施例1のワニスの水酸化アルミ配合量を30部とした以外は、実施例1と同様にワニスを作製した。
【0058】
実施例1〜3及び比較例1〜4で作製したワニスを厚さ約0.1mmのガラス布(#2116、E−ガラス)に含浸後、150℃で3〜10分加熱乾燥して樹脂分48重量%のプリプレグを得た。これらプリプレグ4枚を重ね、その両側に厚みが18μmの銅箔を重ね、175℃、90分、3.0MPaのプレス条件で両面銅張積層板を作製した。
【0059】
得られた両面銅張積層板について、難燃性、耐熱性、耐電食性の評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0060】
試験方法は以下の通りである。
難燃性:JIS C 6481に準じて測定した。
耐熱性 :両面銅張積層板を50mm×50mmに切断し、288℃のはんだにフローティングし、ふくれが発生するまでの時間を測定した。
耐電食性:両面銅張積層板を、直径0.4mmのドリルで、穴間隔0.3mmに加工し、穴の間に電圧50Vを印加して、85℃、85%RHの条件で500時間放置後の絶縁抵抗の測定を行った。
【0061】
【表1】


表1の結果より、実施例1〜3は、難燃性、耐熱性、耐電食性に優れた銅張積層板が得られる。これに対し、シリコーン重合体を配合しない比較例1、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いた比較例2、およびトリフェニルシラノール化合物を用いた比較例3の銅張積層板は耐熱性、耐電食性に劣り、水酸化アルミ配合量が少ない比較例4の銅張積層板は耐熱性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)金属水和物、(D)シロキサン骨格中にフェニル基を有し、かつ少なくとも1つの末端に官能基を2個以上有するシリコーン重合体を必須成分として含み、(C)の含有量が(A)と(B)の合計量に対して50〜150重量%であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
(C)金属水和物が水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(D)シリコーン重合体の少なくとも1つの末端が3個の官能基を有する、請求項1〜2のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(D)シリコーン重合体の少なくとも1つの末端が2個の官能基と1個のアルキル基を有する、請求項1〜2のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
(D)シリコーン重合体の含有量が(C)の含有量に対して0.1〜10重量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
(D)シリコーン重合体の末端の官能基が水酸基、またはアルコキシ基である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
(D)シリコーン重合体のシロキサン単位の数が2〜70個である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
(D)シリコーン重合体の全シロキサン単位の25%以上が、少なくとも1個のフェニル基を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物を使用して製造されるプリプレグ。
【請求項10】
請求項9に記載のプリプレグを積層し、硬化させて得られる積層板。
【請求項11】
金属張積層板である、請求項10に記載の積層板。
【請求項12】
請求項10または11に記載の積層板を使用して作製される印刷配線板。

【公開番号】特開2006−131749(P2006−131749A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322176(P2004−322176)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】