説明

気相成長装置

【課題】工具による手作業もヒータユニットの移動も必要とすることなくサセプタを簡単に着脱することができる構造の気相成長装置を提供する。
【解決手段】サセプタ130が盤面と平行に支持機構140にスライド自在に支持されることで、ヒータユニット120に対向される。このため、工具による手作業もヒータユニット120の移動も必要とすることなく、ヒータユニット120と対向する位置にサセプタ130が着脱される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象を加熱しながら層膜を気相成長させる気相成長装置に関し、特に、円盤状のサセプタで処理対象を保持する構造の気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造工程において、気相成長法を用いて基板上に膜を形成することは一般的である。また、厚膜成長による基板自体の形成に気相成長法が用いられることもある。この種の成長法を用いた気相成長装置としては、基板を保持するとともにヒータからの受熱を基板に伝える役目を持つサセプタを備えたものが一般的に知られている。
【0003】
サセプタ上面に基板を載せる構造をフェイスアップ方式、サセプタ下面に基板を保持する構造をフェイスダウン方式と呼ぶことが多い。サセプタ下面に基板を保持するフェイスダウン方式の構造例としては、図5に示すように、サセプタ1と伝熱板2の間に半導体ウェハWを挟み込んで支持する構造が一般的に用いられている。
【0004】
このようなサセプタ1は、回転部材3−1にネジ部品4で締結するか、もしくはヒータユニット5を移動させた後にサセプタ1を回転部材3−1の上方から内側に落とし込む等の手段によって脱着可能に支持されている。図6は図5をC方向から矢印したサセプタ1の底面図である。
【0005】
なお、回転部材3−1の内側にはサセプタ1の上面と正対するようヒータユニット5を配し、成膜時には伝熱板2およびサセプタ1が加熱される。成膜用原料ガスはサセプタ1の下方もしくは側方から半導体ウェハW表面に供給される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2001−506803
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板の交換時には、図5に示すように、ネジ部品4を弛めてサセプタ1を回転部材から取り外すか、ヒータユニット5を上方に移動させた後にサセプタ1を上方に引き出す必要がある。
【0007】
しかし、ネジ部品4を使用する場合は、成膜時の付着物のため工具が掛からなくなることがある。また、サセプタ1を上方に引き出す場合は、事前にヒータユニット5の移動が必要になる。つまり、いずれの場合も半導体ウェハWの交換が容易ではなく、人手による脱着やサセプタ1の自動搬送化が困難であった。
【0008】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、工具による手作業もヒータユニットの移動も必要とすることなくサセプタを簡単に着脱することができる構造の気相成長装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の気相成長装置は、処理対象を加熱しながら層膜を気相成長させる気相成長装置であって、処理対象を加熱するヒータユニットと、処理対象を保持する円盤状のサセプタと、サセプタを盤面と平行な方向にスライド自在に支持してヒータユニットと対向する位置に配置する支持機構と、を有する。
【0010】
本発明のサセプタは、本発明の気相成長装置のサセプタであって、処理対象を保持する円盤状に形成されており、支持機構に盤面と平行な方向にスライド自在に支持されてヒータユニットと対向する位置に配置される。
【0011】
従って、本発明では、サセプタが支持機構にスライド自在に支持されることで、ヒータユニットに対向される。このため、工具による手作業もヒータユニットの移動も必要とすることなく、ヒータユニットと対向する位置にサセプタが着脱される。
【0012】
なお、本発明の各種の構成要素は、必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、サセプタが支持機構にスライド自在に支持されることで、ヒータユニットに対向される。このため、工具による手作業もヒータユニットの移動も必要とすることなく、ヒータユニットと対向する位置にサセプタを着脱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の一形態を図1ないし図4を参照して以下に説明する。ただし、本実施の形態に関して前述した一従来例と同一の部分は、同一の名称を使用して詳細な説明は省略する。
【0015】
また、本実施の形態では説明を簡単とするため、図示するように、前後左右上下の方向を規定して説明する。ただし、その前後左右の方向は説明を簡単とするために便宜的に規定するものであり、本発明の気相成長装置を実施する場合の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
【0016】
本実施の形態の気相成長装置100は、処理対象である半導体ウェハWを加熱しながら層膜を気相成長させる。このため、気相成長装置100は、図1に示すように、半導体ウェハWを加熱するヒータユニット120と、半導体ウェハWを保持する円盤状のサセプタ130と、サセプタ130を盤面と平行な方向にスライド自在に支持してヒータユニット120と対向する位置に配置する支持機構140と、を有する。
【0017】
より詳細には、気相成長装置100は、軸心方向が上下方向となる状態に配置されている中空の円筒状の回転部材110を、さらに有する。この回転部材110は、図4(b)に示す軸心Cを中心に回転自在に軸支されている。
【0018】
ヒータユニット120は、回転部材110の内部に配置されている。支持機構140は、例えば、ボルト孔143を貫通されたボルト(図示せず)により、回転部材110の下端に一体に固定されている。
【0019】
サセプタ130は、上面に三つの凹穴132が形成されており、図1に示すように、これらの凹穴132に半導体ウェハWが上方から伝熱板150とともに着脱自在に個々に装填される。
【0020】
図2ないし図4に示すように、サセプタ130は、スライド方向と平行な一対のガイド部131が外周部の左右に形成されている。支持機構140は、一対のガイド部131がスライド自在に個々に係合する平行な一対のレール部141が形成されている。なお、図2(b)は図2(a)のA−A断面図である。
【0021】
支持機構140は、一端である後端が開口して他端である前端が閉塞した凹部142の両内側面にレール部141が形成されている。このため、支持機構140は、全体的にU字状の平面形状に形成されている。
【0022】
サセプタ130のガイド部131は、スライド方向である前後方向と直交する断面形状で上半部が外側に突出しており、支持機構140のレール部141は、前後方向と直交する断面形状で下半部が内側に突出している。
【0023】
サセプタ130は、前端までガイド部131が形成されており、支持機構140は、前端までレール部141が形成されている。そして、サセプタ130は、支持機構140の凹部142に開口した後端から挿入され、閉塞した前端に当接することで保持される。
【0024】
回転部材110は、図4(b)に示す軸心Cを中心に回転自在に軸支されている。サセプタ130は、半導体ウェハWが装填される凹穴132に緩衝しない位置で、上面に異形の肉抜穴133が形成されている。
【0025】
この肉抜穴133は、上面の後半部に集中的に形成されている。このため、サセプタ130は、上述のように支持機構140に保持された状態で、その重心Gが回転部材110の軸心Cより凹部142の閉塞した前端に近接している。
【0026】
上述のような構成において、本実施の形態の気相成長装置100で半導体ウェハWに層膜を気相成長させる場合、図1(a)に示すように、サセプタ130の凹穴132に処理対象である半導体ウェハWが伝熱板150とともに装填される。
【0027】
つぎに、図1(b)および図4に示すように、上述のような状態のサセプタ130が支持機構140に後方から装着される。このとき、サセプタ130の左右に平行に形成されているガイド部131が支持機構140のレール部141に係合する。
【0028】
このため、サセプタ130は水平にスライドされて支持機構140に装着される。このように装着されることにより、半導体ウェハWはヒータユニット120と対向する。このため、ヒータユニット120により半導体ウェハWが加熱される。
【0029】
また、回転部材110が回転駆動されるので、このような状態で半導体ウェハWに層膜が気相成長される。そこで、この気相成長が完了すると、サセプタ130は水平にスライドされて支持機構140から取り外され、その凹穴132から半導体ウェハWが取り出される。
【0030】
本実施の形態の気相成長装置100では、上述のようにサセプタ130が支持機構140にスライド自在に支持される。このため、工具による手作業もヒータユニット120の移動も必要とすることなく、ヒータユニット120と対向する位置にサセプタ130を着脱することができる。
【0031】
従って、回転部材110の下端にサセプタ130を手作業で着脱する場合でも、その作業負担を軽減して作業効率を向上させることができる。さらに、回転部材110の下端にサセプタ130を着脱する作業を機械化することも容易である。
【0032】
特に、サセプタ130は、スライド方向と平行な一対のガイド部131が外周部の左右に形成されており、支持機構140は、ガイド部131がスライド自在に係合する平行な一対のレール部141が形成されている。このため、簡単な構造でサセプタ130を支持機構140にスライド自在に装着することができる。
【0033】
さらに、支持機構140は、後端が開口して前端が閉塞した凹部142の両内側面にレール部141が形成されている。このため、サセプタ130を支持機構140に適切な位置に保持させることができる。
【0034】
特に、サセプタ130は前端までガイド部131が形成されており、支持機構140は凹部142の前端までレール部141が形成されている。このため、サセプタ130は両側部だけではなく前端でも支持機構140に支持される。従って、支持機構140によりサセプタ130を強固に支持することができる。
【0035】
それでいて、サセプタ130の前端のガイド部131は両外側部のガイド部131と同一形状に形成されている。支持機構140の凹部142の前端のレール部141も両内側部のレール部141と同一形状に形成されている。
【0036】
このため、サセプタ130の前端にガイド部131を形成する加工は、両外側部にガイド部131を形成する加工とともに実行できる。従って、サセプタ130の前端にガイド部131を簡単に形成することができる。
【0037】
同様に、支持機構140の凹部142の前端にレール部141を形成する加工も、両内側部にレール部141を形成する加工とともに実行できる。従って、支持機構140の前端にレール部141を簡単に形成することができる。
【0038】
しかも、支持機構140に保持された状態のサセプタ130の重心Gが回転部材110の軸心Cより凹部142の閉塞した前端に近接している。このため、回転部材110が軸心Cを中心に回転駆動されると、サセプタ130は遠心力により支持機構140の凹部142に圧接されるので、サセプタ130が遠心力により支持機構140から脱落することがない。
【0039】
換言すると、サセプタ130を支持機構140にロックする専用の機構が必要ないので、気相成長装置100の構造が簡単である。さらに、サセプタ130を支持機構140にロックする機構を作動させる必要もないので、サセプタ130を支持機構140に簡単に着脱することができる。
【0040】
特に、サセプタ130は上面に肉抜穴133が形成されている。このため、上述のような重心Gと軸心Cとの関係が、簡単な構造で実現されている。しかも、肉抜穴133は従来から必須の凹穴132とともにサセプタ130に切削加工などで形成することができる。このため、肉抜穴133を形成するためにサセプタ130の生産性が低下することもない。
【0041】
なお、本発明は本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で各種の変形を許容する。例えば、上記形態では支持機構140に保持された状態のサセプタ130の重心Gが回転部材110の軸心Cより凹部142の閉塞した前端に近接していることのみ例示した。
【0042】
しかし、上述の条件を満足したうえで、さらに、サセプタ130が支持機構140に保持された状態で、サセプタ130と支持機構140と回転部材110との合成された重心Gが軸心Cに位置してもよい。
【0043】
この場合、回転部材110とともに支持機構140とサセプタ130とが回転しても、その合成された重心Gが偏心していないので、偏心した重心Gの回転のために回転部材110などが振動することを防止できる。
【0044】
さらに、上記形態ではサセプタ130の重心Gを回転部材110の軸心Cより前方に位置させるため、その後部に肉抜穴133が形成されていることを例示した。しかし、サセプタの前方にウエイトが付加されていてもよい(図示せず)。
【0045】
また、上記形態ではサセプタ130の両外側部の左右にガイド部131が形成されており、支持機構140の凹部142の両内側面にレール部141が形成されていることを例示した。
【0046】
しかし、サセプタの上面にガイド部がフランジ状などに形成されており、その一対のガイド部がスライド自在に個々に係合するレール部が支持機構の下面に形成されているような構造も可能である(図示せず)。
【0047】
さらに、上記形態ではサセプタ130のガイド部131が両外側部から前端まで形成されており、支持機構140のレール部141が凹部142の両内側部から前端まで形成されていることを例示した。
【0048】
しかし、サセプタ130のガイド部131が両外側部のみ形成されており、支持機構140のレール部141が凹部142の両内側部のみ形成されていてもよい(図示せず)。また、サセプタの前端と支持機構の凹部の前端とに、ガイド部やレール部とは相違する構造で着脱自在に係合する専用の係合部が形成されていてもよい(図示せず)。
【0049】
さらに、上記形態では支持機構140が回転部材110とは別体に形成されていてボルト等で固定されていることを例示した。しかし、支持機構を回転部材と一体に形成しておくことも不可能ではない(図示せず)。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態の気相成長装置の支持機構にサセプタが着脱される状態を示す模式的な縦断側面図である。
【図2】サセプタの形状を示す三面図である。
【図3】支持機構の形状を示す三面図である。
【図4】支持機構にサセプタが着脱される状態を示す模式的な底面図である。
【図5】一従来例の気相成長装置にサセプタが着脱される状態を示す模式的な分解斜視図である。
【図6】サセプタの形状を示す底面図である。
【符号の説明】
【0051】
100 気相成長装置
110 回転部材
120 ヒータユニット
130 サセプタ
131 ガイド部
132 凹穴
133 肉抜穴
140 支持機構
141 レール部
142 凹部
143 ボルト孔
150 伝熱板
C 軸心
G 重心
W 半導体ウェハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象を加熱しながら層膜を気相成長させる気相成長装置であって、
前記処理対象を加熱するヒータユニットと、
前記処理対象を保持する円盤状のサセプタと、
前記サセプタを盤面と平行な方向にスライド自在に支持して前記ヒータユニットと対向する位置に配置する支持機構と、
を有する気相成長装置。
【請求項2】
前記サセプタは、スライド方向と平行な一対のガイド部が外周部に形成されており、
前記支持機構は、一対の前記ガイド部がスライド自在に個々に係合する平行な一対のレール部が形成されている請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項3】
前記支持機構は、一端が開口して他端が閉塞した凹部の両内側面に前記レール部が形成されている請求項2に記載の気相成長装置。
【請求項4】
軸心方向が上下方向となる状態に配置されている中空の円筒状の回転部材を、さらに有し、
前記ヒータユニットが前記回転部材の内部に配置されており、
前記支持機構が前記回転部材の下端に形成されており、
前記回転部材が軸心を中心に回転自在に軸支されており、
前記支持機構の凹部に開口した前記一端から挿入される前記サセプタが閉塞した前記他端に当接することで保持され、
前記支持機構に保持された状態の前記サセプタの重心が前記回転部材の軸心より前記凹部の閉塞した他端に近接している請求項3に記載の気相成長装置。
【請求項5】
前記サセプタは、前記支持機構に保持された状態で前記凹部の閉塞した他端より開口した一端に近接した位置に肉抜穴が形成されている請求項4に記載の気相成長装置。
【請求項6】
前記サセプタの上面に前記肉抜穴が形成されている請求項5に記載の気相成長装置。
【請求項7】
前記支持機構に前記サセプタが保持された状態の前記サセプタと前記支持機構と前記回転部材との合成された重心が前記軸心に位置している請求項4ないし6の何れか一項に記載の気相成長装置。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか一項に記載の気相成長装置のサセプタであって、
前記処理対象を保持する円盤状に形成されており、
前記支持機構に盤面と平行な方向にスライド自在に支持されて前記ヒータユニットと対向する位置に配置されるサセプタ。
【請求項9】
スライド方向と平行な一対のガイド部が外周部に形成されている請求項8に記載のサセプタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−60292(P2008−60292A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234957(P2006−234957)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】