説明

気相成長装置

【課題】気相成長中に基板の回転を防止することを目的とする。
【解決手段】ホルダ2に規制治具10が設置される規制治具設置部11を設け、規制治具10および規制治具設置部11の底面に基板4方向が低くなる傾斜12を設けることにより、基板4が外側に広がるときには規制治具10が傾斜12を上って基板4にかかる力を緩和し、基板4と規制治具10に隙間が生じるような動きをするときには規制治具10が傾斜12を下って基板4を規制することにより、基板4の破損を抑制しながら基板4の回転を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応ガスを供給して基板の表面に半導体薄膜を形成する気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は従来の規制治具の構成を説明するための図である。
気相成長装置では、加熱手段により加熱されるディスクに、薄膜が形成される基板が載置されて薄膜形成処理が行われる。ディスクには、ディスクの上面に基板を規制した基板ホルダが設置され、薄膜形成時には、ディスクを回転させながら、ディスクと基板ホルダを介して基板を加熱するとともに、基板上に反応ガスを供給して薄膜を形成させる。
【0003】
さらに、図5に示すように、基板ホルダ2の上面に基板の直径より大きな円形の基板保持凹部を形成するとともに、基板保持凹部の周壁に、基板4の結晶の方位を一定に保つために基板4の外周に設けられている基板4のオリフラ(外周部をカットした部分)における切り落とし部の切り落とし寸法に対応した突出量を有し、先端の当接部が円弧面となった基板回転防止用突起を突設する気相成長装置が用いられる場合もある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−232488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ディスクに設置されたホルダの基板が挿入される内径寸法は、ホルダと基板との熱膨張の違いや基板の寸法公差も考慮して寸法を設定するため、どうしても基板とホルダとの間に隙間が発生する。このため、成膜中のディスクの公転またはホルダの自転により、基板はセットした位置から自由に回転してしまい、反応ガスの供給が基板内で一定とならず、成膜分布が悪化することがあった。
【0006】
また、基板は結晶の方位を確認するために、外周部にオリフラがもうけられているものがある。その方位に分布があり、分布が温度に依存するためにレーザやLEDなどの発光波長に影響を与える。基板がセットした位置から回転して動くと、基板の分布に対応した熱伝達が損なわれ波長分布が大きくなる原因となる。
【0007】
一方、基板の回転を防止するために、ホルダに基板のオリフラを規制する部分を設けておけば、回転を防止できる。しかし、基板とホルダの熱膨張率の関係から、基板のオリフラの部分とホルダの間に隙間を設けておかなければならないため、隙間の範囲で基板が回転してしまい、基板のオリフラ部分のエッジと、回転の規制部分が接触して、基板やホルダが損傷したり、基板が割れることがあった。
【0008】
そこで、本発明は、気相成長中に基板の回転を防止することができる気相成長装置を提供することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の気相成長装置は、反応ガスが供給される反応炉と、前記反応炉内に設置される加熱手段と、前記反応炉内に設けられて基板が載置される回転可能なディスクと、前記ディスクに設けられて前記基板を保持するためのホルダと、前記ホルダに形成されて底面に前記基板から離れるほど高くなるように前記基板の平面方向に対して傾斜が形成される規制治具設置部と、前記規制治具設置部に載置されて先端部で前記基板の回転を規制する規制治具とを有し、前記規制治具の底面に傾斜が形成され、前記規制治具の底面全面が前記規制治具設置部の底面に接しており、前記規制治具が前記規制治具設置部内を移動可能であることを特徴とする。
【0010】
また、前記規制治具設置部の底面に形成された傾斜と前記規制治具の底面に形成された傾斜が略同一で、2度〜60度の範囲の傾斜であることを特徴とする。
また、前記先端部の厚みが前記基板の厚みより厚いことを特徴とする。
【0011】
また、前記先端部の形状が前記基板の側面に平行な面であることを特徴とする。
また、前記先端部の形状が前記基板に対する上面側が長くなるような傾斜を有する面であることを特徴とする。
【0012】
また、前記先端部の断面形状が前記基板の側部を上下から保持するように円弧状であることを特徴とする。
また、前記規制治具の材質は、前記ホルダと同じ材質、もしくは熱膨張係数が前記ホルダの材質と同等であることを特徴とする。
【0013】
また、前記ホルダ内において、前記基板の主面に対する裏面側に前記加熱手段が来るように前記基板が載置され、前記基板と前記加熱手段との間に均熱板を有することを特徴とする。
【0014】
以上により、気相成長中に基板の回転を防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の気相成長装置では、ホルダに規制治具が設置される規制治具設置部を設け、規制治具および規制治具設置部の底面に基板方向が低くなる傾斜を設けることにより、基板が外側に広がるときには規制治具が傾斜を上って基板にかかる力を緩和し、基板と規制治具に隙間が生じるような動きをするときには規制治具が傾斜を下って基板を規制することにより、基板の破損を抑制しながら基板の回転を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の規制治具の構成を説明するための図
【図2】本発明の規制治具の先端形状を示す図
【図3】本発明の気相成長装置の構成を示す断面図
【図4】規制治具を複数箇所に設置した時の設置状態を説明する図
【図5】従来の規制治具の構成を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1〜図4を用いて、本発明における気相成長装置について説明する。
図1は本発明の規制治具の構成を説明するための図を示し、図2は本発明の規制治具の先端形状を示す図を示し、図3は本発明の気相成長装置の構成を示す断面図を示し、図4は規制治具を複数箇所に設置した時の設置状態を説明する図を示す。
【0018】
気相成長装置の構成は、図3に示すように、反応炉内に、基板4を加熱するヒータ6とディスク1に複数のホルダ2を配置して、そのホルダ2に基板4をフェイスダウンでセットしてヒータ6と基板4の間に均熱板3をセットする構成である。ここで、ヒータ6の熱を基板4に直接伝導するのではなく、均熱板3を介することで、成膜する意図の熱を伝導するために均熱板3を設置している。
【0019】
また、ディスク1を公転させることで、遊星ギア5によってホルダ2が自転する。そのとき、反応炉下部中心にあるガス導入口8から反応ガス7を噴出させ排気口9へ排出する。ヒータ6を加熱しながら、基板4を自公転させて成膜を行うことができる構造を有する気相成長装置で、成長時の加熱により基板4が熱膨張することを考慮して、基板4の寸法より大きく設計されたホルダ2との隙間を、規制治具10を当てることでなくし、低温状態下の自公転開始で起こる基板回転を防止できる。
【0020】
なお、基板4の回転を規制するため、規制治具10は、基板4のオリフラ部に設置する。規制治具10は、基板4の熱膨張による伸縮にあわせて規制治具自体が、前後しながら常に規制し続ける。
【0021】
図1を用いて規制治具10が基板4の回転を規制する構造について説明する。図1(a)は規制治具10と規制治具設置部11の構造を説明するための図であり、図1(b)は基板4と規制治具10との位置関係を示す図である。
【0022】
図1に示すように、ホルダ2に基板4と水平に規制治具10が外周部へ移動できるように掘り込みを設けて規制治具設置部11を形成し、さらに、規制治具10が接する規制治具設置部11の底面にホルダ2内径から外径に向かって2〜60度の傾斜、例えば約30度の傾斜を持たせ、規制治具10を規制治具設置部11に収納できるように構成する。傾斜は基板4側からホルダ2外周側に向かって高くなるように形成する。また、規制治具10の底面にも規制治具設置部11の傾斜面が接するように、ホルダ2内径から外径に向かって2〜60度の間の角度で傾斜12を持たせる。この時、規制治具10の傾斜と規制治具設置部11の傾斜を概ね同じにすることにより、規制治具10が自重により規制治具設置部11の傾斜を滑って基板4の方向に移動し、確実に規制治具10の先端が基板4を規制する。
【0023】
また、図1(b)に示すように、ホルダ2は、基板4の載置領域として基板保持凹部が形成されており、基板4と接触して保持するように、2mm以内で突き出している複数のホルダ爪13が設けられている。
【0024】
規制治具10において、ディスク1の回転初期時には、ディスク1内に設置されたホルダ2内の基板4は基板4の自重のみでホルダ2に保持されているためにホルダ2の自転方向に回転しようとするが、オリフラとホルダ2内の規制治具10とが接触しており、基板4の回転を抑制する。その際、オリフラと規制治具10が接触した際のショックを吸収する為に、基板4が回転しようとする力を、規制治具10が規制治具設置部11の傾斜12に沿って規制治具設置部11内を移動することにより逃がし、規制治具10と基板4との接触により生じる基板クラックの発生を防止する。ディスク1の回転の遠心力により、ホルダ2内の基板4が回転しなくなり、基板4のオリフラと規制治具10との間に隙間が発生しそうになった場合は、ホルダ2内に収納されている規制治具10が自重により傾斜12を基板4のオリフラ側に移動し、基板4の位置を規制するように働く。
【0025】
その後、反応室内が加熱されると共に、ホルダ2内の基板4が熱により外周方向に向かって膨張する際に、オリフラと接触している規制治具10は、ホルダ2外周部に向かって押される力が働くが、同様の動作によりホルダ2内の規制治具設置部11内を移動することにより押される力を逃がし、規制治具10と熱膨張により外周方向に径が大きくなった基板4との間に生じる応力による基板4にかかるストレスを緩和して基板4のクラックの発生を防止する。
【0026】
その後、反応室での加熱処理が終了し、基板4温度が低下すると、熱膨張していた基板4が収縮し、初期の基板4径に戻ろうとする。そこで加熱処理の際、オリフラにより押し出されてホルダ内に一旦収納されていた規制治具10が自重により傾斜12を滑ってオリフラ部を規制する位置に戻る。
【0027】
上記動作により、ホルダ2内の基板4位置は常に規制された状態となり基板4の回転を防止することができ、且つ、規制治具と基板4が接触した場合の基板4へのダメージを規制治具10がクッションの役割を果たす事で防止することができる。
【0028】
なお、規制治具設置部11は、基板4が載置されるホルダ2の2つのホルダ爪13間の中心位置に、ホルダ2の内周側から、外周側に規制治具10が収納できる容積の加工を行うことにより形成される。規制治具設置部11の低面は、規制治具10が自重で可動するように2〜60度の傾斜12の加工を行う。ホルダ2の回転に対して、遠心力が外周側に働くことに対応するために、例えば30度の角度に加工して、回転による遠心力に対応できる角度とする。遠心力が大きく規制できない場合は、45度または60度等の角度に加工しても良い。
【0029】
ホルダ2の内周側上部の規制治具設置部11端部には突起等を形成し、規制治具10が規制治具設置部11から基板4側に飛び出さないようにストッパーの役割を果たすようにする。
【0030】
規制治具10の材質は、ホルダ2と同じ材質もしくは、材質の膨張係数がホルダ2と同等であるものを選択する。
図2に示すように、規制治具10の基板4と接触する先端部の形状は、基板4より厚くして、基板4の側面に平行に形成されたフラットな面の先端14の形状にする(図2(a))。また、基板4が反った時も規制し続けるために、基板4を上面から押える形状として、先端の基板4の上面側が長い傾斜12する先端15の形状にして良い。また、基板4を規制する方法として、先端の断面を円弧状にする先端16の形状にすることにより、円弧内で基板4を上下から保持することができ、基板4の伸縮による反りに対応することができる。
【0031】
規制治具10の胴体部分は直方体の形状をしているが、下面は規制治具設置部11の傾斜12と接するように傾斜させる。その傾斜の角度は、規制治具設置部11と概ね同じ角度にし、傾斜12の角度が30度の場合には30度とする。
【0032】
したがって、ホルダ2の規制治具設置部11に規制治具10を組み込み、基板4をホルダ2にセットした時、規制治具10は基板4を隙間なく規制している。自公転を開始し、成膜するために、温度を上昇させても、基板4の膨張に合わせて規制治具10が、可動するので、常に基板4は隙間のない状態が規制できるため基板4は回転することはない。
【0033】
一方、図4に示すように、基板4の回転を規制するための規制治具10を複数箇所設置することも可能である。
ホルダ2の対角の2箇所に、規制治具加工部11の加工と、その箇所に規制治具10を組み込み、基板4を両方向から、規制治具10で基板4外周のエッジ部分を規制する。この方法によると、基板4にオリフラがない場合でも、基板4を常にホルダ2の中央に規制することができ、基板4にオリフラがなくても、基板4を規制することができる。これにより、基板4の回転を抑制することができる。
【0034】
以上のように気相成長中に基板の回転を防止することができるため、成膜分布の悪化を抑制し、波長分布が大きくなることを抑制し、基板やホルダの損傷を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、気相成長中に基板の回転を防止することができ、反応ガスを供給して基板の表面に半導体薄膜を形成する気相成長装置等に有用である。
【符号の説明】
【0036】
1 ディスク
2 ホルダ
3 均熱板
4 基板
5 自転歯
6 ヒータ
7 反応ガス
8 ガス導入口
9 排気口
10 規制治具
11 規制治具設置部
12 傾斜
13 ホルダ爪
14 先端
15 先端
16 先端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスが供給される反応炉と、
前記反応炉内に設置される加熱手段と、
前記反応炉内に設けられて基板が載置される回転可能なディスクと、
前記ディスクに設けられて前記基板を保持するためのホルダと、
前記ホルダに形成されて底面に前記基板から離れるほど高くなるように前記基板の平面方向に対して傾斜が形成される規制治具設置部と、
前記規制治具設置部に載置されて先端部で前記基板の回転を規制する規制治具と
を有し、前記規制治具の底面に傾斜が形成され、前記規制治具の底面全面が前記規制治具設置部の底面に接しており、前記規制治具が前記規制治具設置部内を移動可能であることを特徴とする気相成長装置。
【請求項2】
前記規制治具設置部の底面に形成された傾斜と前記規制治具の底面に形成された傾斜が略同一で、2度〜60度の範囲の傾斜であることを特徴とする請求項1記載の気相成長装置。
【請求項3】
前記先端部の厚みが前記基板の厚みより厚いことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の気相成長装置。
【請求項4】
前記先端部の形状が前記基板の側面に平行な面であることを特徴とする請求項3記載の気相成長装置。
【請求項5】
前記先端部の形状が前記基板に対する上面側が長くなるような傾斜を有する面であることを特徴とする請求項3記載の気相成長装置。
【請求項6】
前記先端部の断面形状が前記基板の側部を上下から保持するように円弧状であることを特徴とする請求項3記載の気相成長装置。
【請求項7】
前記規制治具の材質は、前記ホルダと同じ材質、もしくは熱膨張係数が前記ホルダの材質と同等であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の気相成長装置。
【請求項8】
前記ホルダ内において、前記基板の主面に対する裏面側に前記加熱手段が来るように前記基板が載置され、前記基板と前記加熱手段との間に均熱板を有することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−18662(P2011−18662A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160306(P2009−160306)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】