説明

気相結晶作成装置

【課題】 GaNなどの結晶の原料ガスとして原料酸化物と還元材との還元反応によって生成されたガスを用いる。
【解決手段】 酸化物原料と還元材との反応によって原料ガスを生成する還元反応部と、前記で生成された原料ガスと他の原料ガスとを反応させて結晶を生成し成長させる結晶成長反応部と、前記還元反応部および結晶成長反応部を内部に備える密閉反応容器1とを備え、還元反応部と前記結晶成長反応部とは、それぞれヒータ2a、2bなどによって独立して雰囲気温度が調整可能となっている。所望量の原料ガスを安価に安定して供給できる。結晶成長反応部では所望の結晶が効率よく生成・成長する。また、原料ガスの供給量を調整して、針状、羽毛状、板状、膜状の所望の形態の結晶を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸化物原料の還元反応により得られる原料ガスと他の原料ガスとの反応によってIII−V族化合物などの結晶を作成する気相結晶作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体などに利用されるIII−V族化合物結晶は、例えばGaNのように優れた高温特性などを有し、電気光学材料などとして期待されている。このIII−V族化合物結晶などを作成する従来既知の方法として、有機金属気相結晶成長法(以下MOCVD)やハイドライド気相成長法(以下HVPE)といった気相成長法が知られている。両者ともに、加熱可能な反応容器内に基板を設置した後、反応温度に維持した状態で2種類の原料ガスを容器内に導入すると、基板上に結晶が成長する、という方法である。以下GaNを作成する場合を例にとり説明する。Ga源ガスはMOCVDではトリメチルガリウムやトリエチルガリウムなどの有機液体ガリウムにキャリアガスであるHやNを流すことで得る場合が多い。HVPEではGaClをGa源ガスとし、金属GaとHClガスとの反応から得ている場合が多い。N源ガスは両方法ともにNHガスが良く用いられている。
【0003】
以下、各作成法の概略を添付図を用いてGaNを作成する場合について説明する。
図4に示すMOCVD装置は、その外周に電気炉などのヒータ21を備えた密閉反応容器20と、トリメチルガリウムなどの有機液体ガリウム22をHやNなどのキャリアガスで前記密閉反応容器20に導入する系23と、NHなどのN源ガスを密閉反応容器20に導入する系24と、密閉反応容器20内に配置される基板支持台25と、排ガスの排気系26とで構成される。
上記基板支持台25上には、表面に結晶を成長させる基板27が置かれる。結晶作成に際しては、基板27を目的とする結晶生成反応が起こる所望の温度になるようヒータ21で調整する。キャリアガスおよびN源ガスをそれぞれ系23、系24を通して所望する流量で密閉反応容器20内に流すことにより、基板27上に目的とする結晶28が成長する。
【0004】
一方、図5に示すHVPE装置は、その外周に電気炉などのヒータ21を備えた密閉反応容器20と、NなどのキャリアガスにGa金属と反応してGa源ガスGaClを生成するHClガスを混合した混合ガスを密閉反応容器20内に導入する系31と、NHなどのN源ガスを密閉反応容器20に導入する系32と、密閉反応容器20内に配置される基板支持台33と、排ガスの排気系34とで構成される。混合ガスを導入する系31が接続されている密閉反応容器20の内部部分には原料搭載部35が設けられ、この部分にGa金属36が配置される。基板支持台33上には表面に結晶を成長させる基板37が置かれる。前記混合ガスとN源ガスとを系31、32を通して密閉反応容器20内に導入するとともに基板37が目的とする結晶生成反応が起こる所望の温度になるようヒータ21で調整する。するとGa金属36が反応してGa源ガスGaClが生成され、さらにGa源ガスGaClとN源ガスとの反応によって基板37上に目的とする結晶38が成長する。
【0005】
また、Gaを出発原料として、NHガスを直接反応させてGaNを得るGaN生成法が特許文献1に提案されている。しかし、この方法は、GaNの形状が出発原料であるGaの形状、形態によって決まり、気相結晶成長法のように条件によりさまざまな形状の結晶を作成することはできないという欠点がある。
さらに近年、所定比のGa粉末とグラファイトの混合物を加熱することでGaOガスを得て、このガスとNHガスとを反応させることで基板上にGaN単結晶が得られるという報告がある(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−29713号公報
【非特許文献1】日本セラミックス協会年会/2003年3月、Journal of Crystal Growth、第263巻(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のMOCVDおよびHVPEに関する製法および装置は以上のように構成されているので、Ga源ガスの供給量の調整が難しいという問題がある。すなわちMOCVD法では有機液体ガリウムの蒸気圧に基づき、温度やキャリアガスの流量などを制御しなければならない。またHVPE法では気−固相反応を用いてGa源ガスを生成するため、所望の流量のGa源ガスを安定して供給するためには、金属Ga搭載部の温度やキャリアガスとHClガスの混合比や混合ガスの総流量などを十分に制御する必要がある。特に温度に関しては、金属から原料ガスを生成する反応を起こす最適温度と結晶生成反応の最適温度とが大きい異なる場合にはその制御が大変困難になる。またMOCVD法においては有機液体金属は大変高価で有毒であることも問題である。
【0007】
一方、Ga粉末とグラファイトからGaOガスを得て、NHガスと反応させてGaNを得る方法は、出発原料のGa粉末および還元剤として働くグラファイトが有機液体ガリウムと比べてはるかに安価であるという利点を有している。しかし、GaOガスを得る反応と、GaOガスとNHガスとからGaNを得る反応の両方を的確に制御することが難しく、特にGaOガスを安定して供給することが難しく、所望とする結晶を得るのが大変困難であるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、出発原料が比較的安価な固体材料を用いて原料ガスを安定して供給し、所望とする結晶を効率よく作成することが可能な気相結晶作成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明の気相結晶作成装置のうち、請求項1記載の発明は、酸化物原料と還元材との反応によって原料ガスを生成する還元反応部と、前記で生成された原料ガスと他の原料ガスとを反応させて結晶を生成し成長させる結晶成長反応部と、前記還元反応部および結晶成長反応部を内部に備える密閉反応容器とを備え、前記還元反応部と前記結晶成長反応部とは、それぞれ独立して雰囲気温度が調整可能とされていることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の気相結晶作成装置の発明は、請求項1記載の発明において、前記他の原料ガスが、前記密閉容器外部から供給されるものであることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の気相結晶作成装置の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記還元反応部は、2以上の原料ガスを生成するものであることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の気相結晶作成装置の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記還元反応部を2以上備え、各還元反応部には、異なる酸化物原料を用いて異なる原料ガスを生成するものを含むことを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の気相結晶作成装置の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記還元反応部を加熱する加熱手段と、前記結晶成長反応部を加熱する加熱手段とを備え、各加熱手段はそれぞれ独立して加熱温度を制御可能であることを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の気相結晶作成装置の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の発明において、前記還元反応部を加熱する加熱手段は、2以上の還元反応部のうち一部または全部に対し独立して加熱温度を制御可能であることを特徴とする。
【0015】
請求項7記載の気相結晶作成装置の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記還元反応部で生成された原料ガスを前記結晶成長反応部に移送するキャリアガスを、該還元反応部に導入するキャリアガス導入手段を備えており、該キャリアガス導入手段は、キャリアガスの流量を調整するキャリアガス流量調整手段を有していることを特徴とする。
【0016】
請求項8記載の気相結晶作成装置の発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の発明において、前記還元反応部を加熱する加熱手段とキャリアガス流量調整手段とを制御して、前記結晶成長反応部に対する原料ガス供給量を調整する原料ガス供給量制御手段を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項9記載の気相結晶作成装置の発明は、請求項8記載の発明において、前記原料ガス供給量に応じて前記結晶成長反応部の加熱温度を制御可能としたことを特徴とする。
【0018】
請求項10記載の気相結晶作成装置の発明は、請求項1〜9のいずれかに記載の発明において、前記還元反応部の少なくとも一つはGa系酸化物を前記原料酸化物としてGaOガスを生成し、前記結晶成長反応部は少なくとも前記GaOガスとN源ガスとを原料ガスとしてGaN系結晶を生成するものであることを特徴とする。
【0019】
請求項11記載の気相結晶作成装置の発明は、請求項10記載の発明において、前記Ga系酸化物がGaであり、前記N源ガスがNHガスであることを特徴とする。
【0020】
すなわち、本発明によれば、還元反応部において独自に制御された温度で酸化物原料が還元材によって還元され、所望の原料ガスを所望の量で得ることができる。この原料ガスは、結晶成長反応部において独自に制御された温度で他の原料ガスと反応をして所望の結晶が生成され効率よく成長する。
【0021】
還元反応部は、複数を備えるものであっても良く、それらの一部または全部では、異なる酸化物原料を用いて異なる原料ガスを生成するものであってもよい。この場合、異なる酸化物原料を用いて異なる原料ガスを生成する還元反応部では、必要に応じて他の還元反応部と独立して雰囲気温度が調整可能とされているものであってもよい。また、各還元反応部は全て独立して雰囲気温度が調整可能とされているものであってもよい。
上記酸化物原料としては、Ga、Inなどが挙げられる。 該酸化物原料から生成される原料ガスとしては、Gaから生成されるGaO、Inから生成されるInOなどが挙げられる
また、還元材は原料酸化物とともに還元反応部に配置されるものであり、グラファイトなどの非金属や非金属のかわりにGaに対するIn、Inに対するGaなどの金属を用いることができる。通常は固体として提供される。これら還元材によって酸化物原料が還元されて原料ガスが生成される。また、還元材が部分酸化されることにより生成されるガスを原料ガスの一部として含むものであっても良い。
また、上記還元反応によって得られる原料ガス以外の他の原料ガスとしては、N源ガス、As源ガス、P源ガスなどが挙げられる。N源ガスとしては、NHなど、As源ガスとしてはAsHなど、P源ガスとしてはPHなどが挙げられる。
なお、酸化物原料とグラファイトとの反応によって得られる原料ガスは、キャリアガスによって結晶成長反応部に移送することができる。キャリアガスとしてはNなどを挙げることができる。
【0022】
上記還元反応部を加熱する手段および結晶成長反応部を加熱する手段には、ヒータなどの既知のものを用いることができ、本発明としては、それぞれ独立して加熱温度の調整が可能であれば特定のものに限定されるものではない。
なお、上記各反応部の雰囲気温度調整は、予め設定した温度となるように定温制御するものであってもよく、また、還元反応による原料ガスの発生量が一定にするなどのフィードバック制御によって温度調整を行うなどの変温制御を行うものであってもよい。また、結晶成長の段階によって各反応部の雰囲気温度の調整を行うようにしてもよい。すなわち、本発明の装置では、これらの種々の要請に容易に応えて所望の結晶を容易に得ることができる。
【0023】
また、還元反応によって生成される原料ガスを移送するためのキャリアガスの流量を調整する手段を設けることもできる。該手段としては流量制御弁などを用いることができる。
上記した還元反応部における温度調整と、キャリアガス流量調整とによって結晶成長反応部に移送する上記原料ガスの流量を調整することができ、還元反応による原料ガスの供給をより的確に行うことができる。
上記した各加熱手段の加熱制御や、キャリアガス流量調整手段の流量調整は、制御部によって行うことができ、該制御部は例えばCPUとこれを制御するプログラムとにより構成することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明の気相結晶作成装置によれば、酸化物原料と還元材との反応によって原料ガスを生成する還元反応部と、前記で生成された原料ガスと他の原料ガスとを反応させて結晶を生成し成長させる結晶成長反応部と、前記還元反応部および結晶成長反応部を内部に備える密閉反応容器とを備え、前記還元反応部と前記結晶成長反応部とは、それぞれ独立して雰囲気温度が調整可能とされているので、還元反応部で還元反応による原料ガスの供給が的確に行われ、原料ガスを安価にかつ安定して供給できる。そして、結晶成長反応部では所望の結晶が効率よく成長する。例えば異なる速度で原料ガスを供給して、針状、羽毛状、板状、膜状の所望の形態の結晶を効率よく成長させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明の一実施形態を図1に基づいて説明する。
気相結晶作成装置は、筒型の密閉反応容器1を有しており、該密閉容器1は、小径部1aと大径部1bとが軸方向に連なった形状を有し、前記小径部1a内に還元反応部、大径部1b内に結晶成長反応部が設けられている。上記小径部1aの外周部には、小径部1a内を加熱する電気炉などのヒータ2aが配置され、上記大径部1bの外周部には、大径部1b内を加熱するヒータ2bが配置されている。
該密閉反応容器1の小径部1a側の端部に、キャリアガス導入管3が接続され、大径部1b側の端部にN源ガス導入管4が接続されている。これら導入管3、4には、それぞれ流量調整弁3a、4aが介設されている。
【0026】
上記キャリアガス導入管3が接続されている密閉反応容器1の内部には、キャリアガス導入管3に連通するガス流路5が設けられており、該ガス流路5は、小径部1aが大径部1bに連なる位置にまで伸長している。また、該ガス流路5の中途の底部には、凹部形状とされた原料載置部6が設けられている。ガス流路5内の原料載置部6周辺が還元反応部に割り当てられる。
また、N源ガス導入管4が接続されている密閉反応容器1の内部には、N源ガス導入管4に連通するN源ガス流路7が設けられており、該N源ガス流路7は、大径部1b内に伸長している。上記構成により、ガス流路5の端部とN源ガス流路7の端部とが略対向している。また、N源ガス導入管4が接続されている大径部1bの一端には、反応済みガスが排出される排ガス管8が接続されている。
【0027】
大径部1b内部には、基板支持台10が設置されており、該基板支持台10の周辺が結晶成長反応部となる。また、この気相結晶作成装置では、装置を制御する制御部12を有しており、該制御部12によって前記したヒータ2a、2bや流量調整弁3aが制御されている。
【0028】
次に、上記気相結晶作成装置の動作について説明する。
この実施形態の目標結晶はGaNであり、以下、該結晶を得るための動作について説明する。
原料搭載部6に、原料酸化物としてのGaと還元材としてのグラファイトとが所定比からなる混合物15を配置する。一方、基板支持台10上には表面に結晶を成長させる基板17を設置する。なお、基板17の材質は特に限定されるものではなく、目的の結晶を成長させるのに最適な材質や結晶面をもてばよい。また基板の代わりに種結晶を置くことで種結晶の成長装置として使用することもできる。
ヒータ2a、2bは還元反応部(原料搭載部6周辺)と結晶成長反応部(基板17周辺)が各々所望の温度になるように、制御部12によって制御、動作させる。
原料搭載部6では、好適には950℃で加熱されて、Gaがグラファイトに還元され、原料ガスとしてGa源ガスGaOが発生する。この際に、制御部12によって流量調整弁3aが制御され、流量が調整されたキャリアガス(Nガス)が、キャリアガス導入路3を通してガス流路5に導入され、上記で生成されたGaOガスが所望の供給量で結晶成長反応部へと移送される。
【0029】
一方、N源ガス導入管4およびN源ガス流路7を通してN源ガスとしてNHガスが結晶成長反応部に導入される。キャリアガスおよびN源ガスを所望する流量で流すことにより、それぞれのガスが交流して反応し基板17上に目的とする結晶18が成長する。
【0030】
Ga源ガスGaOはGaとグラファイトとの混合比および原料搭載部6の温度で定まる発生速度で安定して発生する。例えばGaとグラファイトとの比が1:20の混合物を950℃で保持したときの混合物の重量減少変化の様子を図2に示す。長時間にわたり一定の割合で重量変化している、すなわちGaが還元されGaOが一定の速度で発生していることがわかる。密閉反応容器1内へのGa源ガスGaO供給量はこのような発生速度とキャリアガスの流量とを調整することで容易に定められる。該調整は、上記したように制御部12を通して容易に行うことができる。すなわち、制御部12は、本発明の原料ガス供給量制御手段としても機能する。
また、結晶成長反応部では、供給される原料ガスの流量などに従って適切な温度(例えば800〜1200℃、好適には1100℃)で加熱することで所望の結晶を効率的に生成・生長させることができる。該温度の調整も制御部12を通して容易に行うことができる。
【0031】
なお、それぞれが独立に温度制御されるヒータの個数は原料搭載部加熱用と基板加熱用の2つに限定されない。還元反応と結晶成長反応との各々の最適温度が大きく異なる場合にその間をある温度に制御するなど3ヶ所以上の温度制御が必要となる場合がある。
また、この実施形態では、キャリアガスを密閉反応容器1に導入する系とN源ガスを密閉反応容器1に導入する系とが密閉反応容器1の反対側から平行に配置されている構成を示したが、それぞれが密閉反応容器の同一側にあるものであってもよい。本発明では、単結晶や多結晶、薄膜状や柱状といった目的の結晶を得るのに最適な気流が生じるようこれらを配置すればよく、特定の配置方法に限定されない。
【0032】
また、この実施形態では、2元系であるGaNを例としているが、GaIn1−XNなど3元系以上の多元系を目的の結晶とする場合には、反応の温度に差がなく原料ガスの制御が可能ならば、複数の酸化物をグラファイトと混合する。また温度が異なり、複数を混合することでは安定して原料ガスを供給できない場合には、還元反応部を複数にしたり、原料ガスを導入する系を複数にするといった構成にし、さらに上述したように必要に応じた箇所の温度制御を行う。
また、ここではGaNを例に挙げて説明したが、本装置で生成される結晶はGaNにかぎらない。すなわち以下の反応式(1)および反応式(2)が成り立つ元素ならばよい
+ グラファイト → AO + CO ・・・ (1)
O + BH → AB + H ・・・ (2)
例えばInN、GaIn1-xN、GaAs、InPなどである。また、GaN以外の結晶は、上記のように3元系以上からなるものであってもよい。
【0033】
(実施形態2)
次に、他の実施形態を説明する。この実施形態は、3元系の結晶を作成するための装置を示すものである。なお、この実施形態で、前記実施形態1と同様の構成については同一の符号を付してその説明を省略または簡略化する。
この実施形態では、密閉反応容器100は三又の筒形状からなり、2つの小径部100a、110aと大径部1bとで構成されている。前記小径部100a、110aには、それぞれ異なる原料酸化物によって異なる原料ガスを生成する還元反応部が設けられ、大径部1b内に結晶成長反応部が設けられている。上記小径部100aの外周部に、小径部100a内を加熱する電気炉などのヒータ200aが配置され、小径部110aの外周部に、小径部110a内を加熱するヒータ210aが配置され、上記大径部1bの外周部には、大径部1b内を加熱するヒータ2bが配置されている。
該密閉反応容器100の小径部100a側の端部に、キャリアガス導入管300が接続され、小径部110a側の端部に、キャリアガス導入管310が接続され、大径部1b側の端部にN源ガス導入管4が接続されている。これら導入管300、310、4には、それぞれ流量調整弁300a、310a、4aが介設されている。
【0034】
上記キャリアガス導入管300が接続されている小径部100aの内部に、キャリアガス導入管300に連通するガス流路500が設けられており、該ガス流路500は、大径部1bに連続する端部にまで伸長している。また、該ガス流路500の中途の底部には、凹部形状とされた原料載置部600が設けられている。ガス流路500内の原料載置部600周辺が還元反応部に割り当てられる。
また同じくキャリアガス導入管310が接続されている小径部110aの内部にも同様にガス流路510が設けられ、該ガス流路510の中途の底部に、凹部形状とされた原料載置部610が設けられている。ガス流路510内の原料載置部610周辺が還元反応部に割り当てられる。
【0035】
大径部1b内部では、前記実施形態1と同様に基板支持台10が設置され、該基板支持台10の周辺が結晶成長反応部となっている。
また、この気相結晶作成装置では、装置を制御する制御部12を有しており、該制御部12によって前記したヒータ200a、210a、2b、流量調整弁300a、310aが制御されている。
【0036】
次に、上記気相結晶作成装置の動作について説明する。
この実施形態の目標結晶はGaInNであり、以下、該結晶を得るための動作について説明する。
原料搭載部600に、原料酸化物としての所定比のGaとグラファイトの混合物15を配置し、 原料搭載部610に、原料酸化物としての所定比のInとグラファイトの混合物16を配置する。一方、基板支持台10上には表面に結晶を成長させる基板17を設置する。
ヒーター200a、210a、2bは還元反応部(原料搭載部600、610周辺)と結晶成長反応部(基板17周辺)が各々所望の温度になるように、制御部12によって制御、動作させる。
原料搭載部600では、Gaがグラファイトに還元されて、原料ガスとしてGa源ガスGaOが発生する。この際に、制御部12によって流量調整弁300aが制御されたキャリアガス導入路300を通してガス流路500にキャリアガスとしてNガスが導入され、上記で生成されたGaOガスが所望の供給量で結晶成長反応部へと移送される。また、 原料搭載部610では、Inがグラファイトに還元されて、原料ガスとしてInOが発生する。この際に、制御部12によって流量調整弁310aが制御されたキャリアガス導入路310を通してガス流路510にキャリアガスとしてNガスが導入され、上記で生成されたInOガスが所望の供給量で結晶成長反応部へと移送される。
【0037】
結晶成長反応部にはN源ガスとしてのNHガスが導入される。キャリアガスおよびN源ガスを所望する流量で流すことにより、基板17上に目的とする結晶18が成長する。Ga源ガスGaOはGaとグラファイトとの混合比および原料搭載部600の温度で定まる発生速度で安定して発生し、In源ガスInOはInとグラファイトとの混合比および原料搭載部610の温度で定まる発生速度で安定して発生する。
密閉反応容器100内への還元反応によるこれらの原料ガス供給量は上記発生速度とキャリアガスの流量とを調整することで容易に定められる。該調整は、上記したように制御部12を通して容易に行うことができる。
また、結晶成長反応部では、供給される原料ガスの流量などに従って適切な温度で加熱することで所望の結晶を効率的に生成・生長する。
【0038】
以上本発明について上記実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態の説明に限定されるものではなく、本発明の範囲内において適宜変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態の気相結晶作成装置の概略正面断面図である。
【図2】同じく、還元反応による原料酸化物の経時的な重量変化を示すグラフである。
【図3】本発明の他の実施形態の気相結晶作成装置の概略平面断面図である。
【図4】従来のMOCVD装置の概略を示す正面断面図である。
【図5】同じく、従来のHVPE装置の概略を示す正面断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1、100 密閉反応容器
1a、100a、110a 小径部
1b 大径部
2a、200a、210a、2b ヒータ
3、300a、310a キャリアガス導入管
4、400a、410a N源ガス導入管
5、500a、510a ガス流路
17 基板
18 結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物原料と還元材との反応によって原料ガスを生成する還元反応部と、前記で生成された原料ガスと他の原料ガスとを反応させて結晶を生成し成長させる結晶成長反応部と、前記還元反応部および結晶成長反応部を内部に備える密閉反応容器とを備え、前記還元反応部と前記結晶成長反応部とは、それぞれ独立して雰囲気温度が調整可能とされていることを特徴とする気相結晶作成装置。
【請求項2】
前記他の原料ガスが、前記密閉容器外部から供給されるものであることを特徴とする請求項1記載の気相結晶作成装置。
【請求項3】
前記還元反応部は、2以上の原料ガスを生成するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の気相結晶作成装置。
【請求項4】
前記還元反応部を2以上備え、各還元反応部には、異なる酸化物原料を用いて異なる原料ガスを生成するものを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の気相結晶作成装置。
【請求項5】
前記還元反応部を加熱する加熱手段と、前記結晶成長反応部を加熱する加熱手段とを備え、各加熱手段はそれぞれ独立して加熱温度を制御可能であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の気相結晶作成装置。
【請求項6】
前記還元反応部を加熱する加熱手段は、2以上の還元反応部のうち一部または全部に対し独立して加熱温度を制御可能であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の気相結晶作成装置。
【請求項7】
前記還元反応部で生成された原料ガスを前記結晶成長反応部に移送するキャリアガスを、該還元反応部に導入するキャリアガス導入手段を備えており、該キャリアガス導入手段は、キャリアガスの流量を調整するキャリアガス流量調整手段を有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の気相結晶作成装置。
【請求項8】
前記還元反応部を加熱する加熱手段とキャリアガス流量調整手段とを制御して、前記結晶成長反応部に対する原料ガス供給量を調整する原料ガス供給量制御手段を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の気相結晶作成装置。
【請求項9】
前記原料ガス供給量に応じて前記結晶成長反応部の加熱温度を制御可能としたことを特徴とする請求項8記載の気相結晶作成装置。
【請求項10】
前記還元反応部の少なくとも一つはGa系酸化物を前記原料酸化物としてGaOガスを生成し、前記結晶成長反応部は少なくとも前記GaOガスとN源ガスとを原料ガスとしてGaN系結晶を生成するものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の気相結晶作成装置。
【請求項11】
前記Ga系酸化物がGaであり、前記N源ガスがNHガスであることを特徴とする請求項10記載の気相結晶作成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−89811(P2006−89811A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277270(P2004−277270)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】