説明

洗浄液に周期的せん断応力を印加することにより半導体ウエハー表面を洗浄する方法

【課題】ウエハー表面に付着した粒子状汚染物質を洗浄するためのシステム並びに方法を提供する。
【解決手段】その内部に分散結合体を懸濁させた洗浄媒体をウエハー表面上に供給する。外部エネルギーを洗浄媒体に印加して、洗浄媒体内部に周期的せん断応力を発生させる。発生した周期的せん断応力により、結合体上で運動量および/あるいは抗力が作用する。この結果、結合体と粒子状汚染物質との間に相互作用が生じて、ウエハー表面から粒子状汚染物質が除去される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
集積回路、記憶素子等の半導体装置の製造の際には、一連の製造工程が実行され、半導体ウエハー(「ウエハー」)上に特徴構造が形成される。ウエハーは、シリコン基板上に形成されるマルチレベル構造の形で集積回路装置を備える。基板レベルには、拡散領域を有するトランジスタ装置が形成される。次のレベルには、相互接続用メタライズ配線がパターン形成され、トランジスタ装置と電気的に接続されて、所望の集積回路装置を形成する。さらに、誘電材料により、パターン形成された導電層を他の導電層から絶縁させる。
【0002】
一連の製造工程の間、ウエハー表面は、さまざまな種類の汚染物質に晒される。基本的には、製造工程に村内するあらゆる物質が、汚染物質となる可能性がある。たとえば、処理ガス、化学物質、堆積物質、液体等が汚染物質となりえる。さまざまな汚染物質が、所定の形態で、ウエハー表面に堆積する。粒子状汚染物質を除去しない限り、汚染物質近傍の装置は動作不能となる。したがって、ウエハー上に形成された特徴構造に損傷を与えることなく、ウエハー表面から汚染物質をほぼ完全に洗浄することが必要になる。ただし、粒子状汚染物質の大きさが、ウエハー上に形成された特徴構造の限界寸法と同等の大きさの場合がある。ウエハー上に形成された特徴構造に悪影響を与えることなく、このように小さな粒子状汚染物質を除去することは困難である。
【0003】
従来のウエハー洗浄方法では、主に、機械的な力を利用して、ウエハー表面から粒子状汚染物質を除去している。特徴構造の大きさがどんどん小さくなり、壊れやすくなっているため、機械的な力をウエハー表面に加えることにより特徴構造が損傷を受ける可能性は増大している。たとえば、アスペクト比の高い特徴構造は、十分に機械的な力が加えられると、倒れたり破壊されたりする危険性が高い。洗浄の問題をさらに複雑にする要因は、特徴構造の大きさが小さくなると、粒子状汚染物質の大きさも小さくなることである。非常に小さな粒子状汚染物質が、高アスペクト比の特徴構造で囲まれた溝部等、ウエハー表面上の所定の領域に付着した場合、その洗浄は困難である。したがって、半導体製造の際に効率よく、かつ、損傷を与えることなく、汚染物質を除去することができるウエハー洗浄方法が求められている。フラットパネル・ディスプレイの製造工程でも、上述の集積回路製造工程における問題と同様の問題が存在している。
【0004】
上述した従来技術の問題点を考慮して、より効率的、より効果的、かつ、浸襲性の低いウエハー洗浄方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一つの実施形態は、ウエハー洗浄方法である。洗浄方法は、粒子が付着する表面を有するウエハーを準備する工程を備える。洗浄方法は、また、内部に一つあるいは複数の分散結合体を懸濁させた洗浄媒体を前記表面上に供給する工程を備える。洗浄方法は、さらに、前記洗浄媒体に外部エネルギーを印加して、前記洗浄媒体内部に周期的せん断応力を発生させる工程を備える。前記周期的せん断応力により、前記一つあるいは複数の結合体のうち少なくとも一つの結合体上で力を作用させ、この結果、前記一つあるいは複数の結合体のうち少なくとも一つの結合体と前記粒子との間に相互作用を生じさせて、前記表面から前記粒子を除去する。
【0006】
本発明の別の実施形態は、ウエハー洗浄システムである。洗浄システムは、粒子が付着する表面を有するウエハーを保持する保持体を備える。洗浄システムは、また、基部と前記基部から伸長する一つあるいは複数の側壁とにより規定される空洞を有するタンクを備える。前記タンクは、前記ウエハーを浸すための所定量の洗浄媒体で、内部に一つあるいは複数の分散結合体を懸濁させた洗浄媒体を前記空洞内に収容するように構成される。洗浄システムは、さらに、前記一つあるいは複数の側壁のうち少なくとも一つの側壁あるいは前記基部に接続される一つあるいは複数のトランスデューサで、前記洗浄媒体に音響エネルギーを印加する一つあるいは複数のトランスデューサを備える。前記音響エネルギーは、前記洗浄媒体内部に周期的せん断応力を発生させる。前記周期的せん断応力により、前記一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体上で力を作用させ、この結果、前記一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体と前記粒子との間に相互作用を生じさせて、前記表面からの前記粒子の除去を促進する。
【0007】
本発明のまた別の実施形態は、ウエハー洗浄システムである。洗浄システムは、保持体を備える処理チャンバを備える。前記保持体は、ウエハー粒子が付着するウエハー表面を露出させるように、前記処理チャンバ内にウエハーを保持可能である。洗浄システムは、さらに、噴出部を備える。前記噴出部は、音響エネルギーを発生させて、洗浄媒体が前記噴出部の流路を流れる際に、前記洗浄媒体に前記発生させた音響エネルギーを印加するように構成される。前記洗浄媒体は、その内部に懸濁させた一つあるいは複数の分散結合体を含む。前記噴出部により発生された前記音響エネルギーは、前記露出したウエハー表面に前記洗浄媒体を供給する前に、前記各分散結合体の物理的特性を変化させる。前記噴出部は、さらに、前記噴出部の噴流による流体運動が、前記物理的特性を変化させた一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体上で力を作用させて、この結果、前記物理的特性を変化させた一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体と前記粒子との間に相互作用を生じさせ、前記露出したウエハー表面から前記粒子を除去するように構成される。
【0008】
本発明のさらに別の実施形態は、ウエハー洗浄システムである。洗浄システムは、保持体を備える処理チャンバで、粒子が付着するウエハー表面を露出させるように、前記保持体が前記処理チャンバ内にウエハーを保持可能な処理チャンバを備える。洗浄システムは、また、内部に一つあるいは複数の分散結合体を懸濁させた洗浄媒体を前記表面に供給するように構成された流体供給部を備える。洗浄システムは、さらに、音響エネルギーを発生可能なエネルギー源を備える。前記発生した音響エネルギーを前記洗浄媒体の表面に印加することにより、前記洗浄媒体内部に周期的せん断応力を発生させる。前記周期的せん断応力により、前記一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体上で力を作用させる。この結果、前記一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体と前記粒子との間に相互作用を生じさせて、前記表面から前記粒子を除去する。
【0009】
本発明の別の実施形態は、ウエハー洗浄システムである。洗浄システムは、裏面と前記裏面の反対側で粒子が付着する表面とを備えるウエハーの前記裏面の近傍で、音響エネルギーを発生可能なトランスデューサを備える。洗浄システムは、また、前記ウエハーの前記裏面と前記トランスデューサとの間に液体層を供給可能な第1流体供給部を備える。洗浄システムは、さらに、内部に一つあるいは複数の分散結合体を懸濁させた洗浄媒体を前記ウエハーの前記表面上に供給可能な第2流体供給部を備える。前記音響エネルギーが、前記トランスデューサから、前記液体層と前記ウエハーとを介して、前記ウエハーの前記表面上の前記洗浄媒体に移動することにより、前記洗浄媒体内部に周期的せん断応力を発生させる。前記周期的せん断応力により、前記一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体上で力を作用させ、この結果、前記一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体と前記粒子との間に相互作用を生じさせて、前記表面から前記粒子を除去する。
【0010】
本発明の別の態様および本発明の利点は、以下、本発明の要旨を例示するための実施形態並びに添付の図面を用いた、発明の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明およびその利点は、添付の図面を用いた以下の発明の詳細な説明により、十分に理解できるであろう。
【0012】
【図1】洗浄媒体への外部エネルギーの印加により引き起こされる、洗浄媒体内で懸濁される分散結合体と粒子状汚染物質との間の相互作用を示す説明図。
【0013】
【図2】周期的せん断応力により結合体上で抗力を作用させて、接着力によりウエハー表面に付着する粒子状汚染物質を除去する様子を示す説明図。
【0014】
【図3】粒子状汚染物質を除去するために必要な臨界周期的応力を比較する図。
【0015】
【図4】分散結合体を含む洗浄媒体内部に周期的せん断応力を発生させることにより、ウエハー表面から汚染物質を除去する一つのシステムを示す説明図。
【0016】
【図5】分散結合体を含む洗浄媒体内部に周期的せん断応力を発生させることにより、ウエハー表面から汚染物質を除去する別のシステムを示す説明図。
【0017】
【図6】分散結合体を含む洗浄媒体内部に周期的せん断応力を発生させることにより、ウエハー表面から汚染物質を除去するさらに別のシステムを示す説明図。
【0018】
【図7】分散結合体を含む洗浄媒体内部に周期的せん断応力を発生させることにより、ウエハー表面から汚染物質を除去するまた別のシステムを示す説明図。
【0019】
【図8】分散結合体を含む洗浄媒体内部に周期的せん断応力を発生させることにより、ウエハー表面から汚染物質を除去する方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態は、ウエハー表面を洗浄するシステムおよび方法を提供する。さらに詳しくは、本発明の実施形態は、多相状態洗浄技術で用いる洗浄媒体内に懸濁される結合体に運動量および/あるいは抗力を印加する手段を多相状態洗浄技術と組み合わせることにより、ウエハー表面上の粒子状汚染物質に外部の機械的エネルギーを印加する効率的な手法を提供する。露出したウエハー表面に洗浄媒体を供給し、洗浄媒体に外部エネルギーを印加することにより、洗浄媒体内部に、周期的せん断応力すなわち圧力勾配が発生する。発生した周期的せん断応力すなわち圧力勾配によって、結合体上で抗力および/あるいは運動量が働き、その結果、結合体と粒子状汚染物質との間に相互作用が生じる。結合体と粒子状汚染物質との間の相互作用により、ウエハー表面からの粒子状汚染物質の除去が促進される。この手法では、多相状態洗浄媒体内に懸濁される結合体に対して、攪拌制御および/あるいは運動制御を実施することにより、汚染物質の除去効率を上げることができる。さらに、洗浄媒体に外部エネルギーを印加する方法や印加の程度を制御することにより、外部エネルギーの印加により発生する運動量および抗力をより正確に制御することが可能になり、この結果、装置の損傷を防ぐことができる。
【0021】
ここでいう洗浄媒体は、「多相状態技術」に基づく物質であり、分散懸濁した「結合体」あるいは「固体」を含むように調製された他の任意の洗浄流体、溶液、材料でもよい。多相状態物質は、任意の三相流体すなわち「三相状態」流体でも、任意の二相流体すなわち「二相状態」流体でもよい。ここで用いられる三相状態洗浄流体は、気相成分と、液相成分と、固相成分とを含む。これに対して、二相状態洗浄流体は、液相成分と固相成分のみを含む。三相状態洗浄流体および二相状態洗浄流体の固相成分を、本明細書では「結合体」あるいは「固体」と称する。(三相状態流体/材料)の気相成分や(三相状態および二相状態流体/材料)の液相成分は、ウエハー表面上の汚染物質粒子の近傍に固相成分を運ぶ媒介として働く。固相成分は、液相成分および気相成分に溶解するものではなく、気相成分全体に分散可能な表面機能性を有する。以下に、二相状態洗浄技術および三相状態洗浄技術で利用可能な成分に関して簡単に説明するが、三相状態洗浄技術で利用可能な成分並びにその機構に関する詳細な説明は、以下を参照されたい。2006年2月3日出願の米国特許出願(11/346,894)(Atty.Docket No.LAM2P546)「Method for removing contamination from a substrate and for making a cleaning solution(基板から汚染物質を除去する方法および洗浄溶液を作成する方法)」。2006年2月3日出願の米国特許出願(11/347,154)(Atty.Docket No.LAM2P547)「Cleaning compound and method and system for using the cleaning compound(洗浄化合物および洗浄化合物を用いる方法並びにシステム)」。2006年1月20日出願の米国特許出願(11/336,215)(Atty.Docket No.LAM2P545)「 Method and Apparatus for removing contamination from a substrate(基板から汚染物質を除去するための方法並びに装置)」。また、二相状態洗浄技術すなわち二相洗浄技術で利用可能な成分並びにその機構に関する詳細な説明は、以下を参照されたい。 2006年10月4日出願の米国特許出願(11/543,365)(Atty.Docket No.LAM2P562)「Method and Apparatus for Particle Removal(粒子除去の方法並びに装置)」。
【0022】
三相状態流体あるいは三相状態材料の気相成分は、体積比で三相状態洗浄流体の約5%から約99.9%を占める。気相成分を構成する一種類あるいは複数種類のガスは、窒素(N2)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスでも、あるいは、酸素(O2)、オゾン(O3)、過酸化水素(H22)、空気、水素(H2)、アンモニア(NH3)、フッ化水素(HF)、塩化水素酸(HCl)等の反応性ガスでもよい。一つの実施形態において、気相成分は、単一種類のガスのみからなり、たとえば、窒素(N2)でもよい。別の実施形態において、気相成分は、さまざまな種類のガスの混合体である気体混合物であり、たとえば、オゾン(O3)と酸素(O2)と二酸化炭素(CO2)と塩化水素酸(HCl)とフッ化水素酸(HF)と窒素(N2)とアルゴン(Ar)とを含む気体混合物、オゾン(O3)と窒素(N2)とを含む気体混合物、オゾン(O3)とアルゴン(Ar)とを含む気体混合物、オゾン(O3)と酸素(O2)と窒素(N2)とを含む気体混合物、オゾン(O3)と酸素(O2)とアルゴン(Ar)とを含む気体混合物、オゾン(O3)と酸素(O2)と窒素(N2)とアルゴン(Ar)とを含む気体混合物、酸素(O2)とアルゴン(Ar)と窒素(N2)とを含む気体混合物でもよい。結果として得られる気体混合物が、液相成分および固相成分と結合して、基板洗浄あるいは準備操作に用いられる三相状態洗浄流体あるいは三相状態洗浄材料を形成可能なものであれば、気相成分を基本的にどのような組み合わせのガスから形成してもかまわない。
【0023】
二相状態並びに三相状態流体あるいは二相状態並びに三相状態材料の固相成分は、いくつかの異なる形態のいずれか一つあるいは複数をとる。たとえば、固相成分は、凝集体、コロイド、ゲル、合体球状体、その他いかなる種類の接合、凝固、凝集、集塊、合体した形態のものでもよい。上記した固相成分の形態は、例示に過ぎず、本明細書に開示される実施形態の要旨の範囲内で、さまざまな代替や拡張が可能である。基本的には、ウエハー表面および汚染物質粒子との相互作用に関して本明細書に記載するような機能を有する任意の固体材料を固相成分として用いることができる。たとえば、固相成分を形成するために用いられる材料の例として、脂肪族酸、カルボン酸、パラフィン、ワックス、高分子、ポリスチレン、ポリペプチド、その他粘弾性材料が挙げられる。固相成分材料の濃度は、液相成分における溶解度の限界を超えるものでなければならない。ここで、脂肪族酸とは、基本的に、炭素原子が開鎖構造を形成する有機化合物からなる任意の酸を意味する。脂肪酸は、二相状態洗浄流体および三相状態洗浄流体内の固相成分として利用可能な脂肪族酸の一例である。固相成分として利用可能な脂肪酸の例としては、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ガドレイン酸、エルカ酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、ミリスチン酸、マルガリン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ネルボン酸、パリナリン酸、ティムノドン酸、ブラシジン酸、クルパノドン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、並びに、これらの混合物が挙げられる。一実施形態において、固相成分は、C−1からC−26あたりまでの範囲の種々の長さを持つ炭素鎖を有する脂肪酸の混合物である。ここで、カルボン酸とは、基本的には、一つあるいは複数のカルボキシル基(COOH)を有する任意の有機酸を意味する。二相状態洗浄流体および三相状態洗浄流体内の固相成分として利用可能なカルボン酸としては、C−8あたりからC−100あたりまでの範囲の種々の長さを持つ炭素鎖の混合物が挙げられる。カルボン酸は、さらに、他の化学官能性を持つものでもよい(たとえば、アルコール、エーテルおよび/あるいはケトン)。
【0024】
二相状態流体あるいは材料並びに三相状態流体あるいは材料の液相成分は水性のものでも非水性のものでもよい。たとえば、水性液相成分は、水(脱イオン水あるいはその他の水)単体でもよいし、あるいは、水と溶液を形成する他の成分を水と組み合わせたものでもよい。別の実施形態で用いられる非水性液相成分の例としては、炭化水素、フッ化炭素、鉱油、アルコールが挙げられる。液相成分が水性であるか非水性であるかにかかわらず、イオン性あるいは非イオン性溶媒およびその他の化学添加物を含むように、液相成分を調製するものでもよい。たとえば、液相成分に加える化学添加物の例としては、共溶媒、pH調整剤(酸および塩基等)、キレート剤、極性溶媒、界面活性剤、水酸化アンモニウム、過酸化水素、フッ酸、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、並びに、高分子、粒子状物質、ポリペプチド等のレオロジー調整剤が挙げられる。
【0025】
ここで用いられる「ウエハー」は、以下に限定されるものではないが、基板、半導体ウエハー、ハードドライブ・ディスク、光ディスク、ガラス基板、フラットパネル表示面、液晶表示面等を意味する。実際のウエハー表面は、さまざまな形で汚染される可能性がある。汚染の許容レベルや汚染の種類は、ウエハーを処理する産業によって異なる。
【0026】
本発明の実施形態を理解するために、成分および/あるいは方法の例示等、本発明の実施例の詳細を具体的に説明する。ただし、当業者には自明のように、本発明の実施例は、以下の具体的な詳細のいずれか一つあるいは複数を省略しても実現可能であり、また、他の装置、システム、アセンブリ、方法、成分、材料、部品等を用いて実現することも可能である。本発明の実施形態の要旨が曖昧にならないように、周知の構造、材料、あるいは操作に関しては、図示や詳しい説明を避ける。以下、本発明のいくつかの態様を、図面を参照して、実施例に基づき説明する。
【0027】
本発明の一実施例において、図1に示すように、二相状態洗浄流体あるいは三相状態洗浄流体102に外部エネルギー108を印加することによって、ウエハー表面に付着した粒子状汚染物質104と洗浄流体102内に懸濁させた分散結合体106との間に相互作用が生じる。さらに詳しく説明すると、洗浄流体102に外部エネルギー108を印加することにより、洗浄流体102内部に周期的せん断応力すなわち圧力勾配109が発生する。詳細に関しては図2を参照して後述するが、周期的せん断応力すなわち圧力勾配109は、洗浄流体102内に懸濁させた結合体106上に運動量および/あるいは抗力を与える。この運動量および/あるいは抗力により、結合体106とウエハー表面101に付着した粒子状汚染物質104との間に相互作用が生じ、ウエハー表面101から粒子状汚染物質104が離昇する、離される、あるいは、取り除かれる。図1の103、105および107に示すように、また、図2を参照して詳細を後述するように、さまざまな機構により、結合体106と汚染物質104との間に相互作用が確立される。この機構としては、以下に限定されるものではないが、化学的あるいは物理的接着、衝突(すなわち、運動量あるいは運動エネルギーの移動)、反発力、引力(たとえば、立体力、静電力など)、物理的および化学的結合(たとえば、共有結合や水素結合など)が挙げられる。
【0028】
従来のウエハー洗浄方法では、ジェット装置あるいはノズルを用いてウエハー表面に洗浄媒体を流す、ウエハーを洗浄媒体内に浸す、あるいは、振動、攪拌、回転等の手段でウエハーあるいは洗浄媒体を機械的にかきまぜる等の操作により、多相状態洗浄材料内にのみ運動量および抗力が発生する。これに対して、本発明の実施形態では、洗浄流体102への外部エネルギー108の印加を選択的に制御することにより、運動量および抗力が発生する。本発明の実施形態では、さまざまな技術を用いて、洗浄流体102内部にせん断応力すなわち圧力勾配109を発生させる。この技術としては、以下に限定されるものではないが、メガソニック、超音波処理、圧電駆動、圧電音響駆動、キャビテーション、蒸発技術や、これらの任意の組み合わせが挙げられる。本発明の一実施形態において、このような技術により発生したエネルギー108をウエハー100に印加してもよい、この場合、印加されたエネルギー108は、ウエハー100から洗浄流体102に移動する。本発明の別の実施形態において、エネルギー108を密閉源から洗浄流体102に直接印加してもよいし、あるいは、システム全体に印加してもよい。
【0029】
図2に示すように、本発明の実施形態において、外部エネルギー108が洗浄流体102に印加されると、洗浄流体102内部に周期的せん断応力τすなわち圧力勾配が発生する。物質表面近傍の流体の運動に関係するせん断応力τは、物質表面の接線方向の応力である。これとは逆に、法線応力は、物質表面の法線方向の応力である。エネルギー入力が周期的であるため、せん断応力も周期的になる。本発明の一実施例において、外部エネルギー108の印加により発生する周期的せん断応力τは、洗浄流体102内の結合体106上に抗力Fdを与え、その結果、結合体106は、ウエハー表面101に付着した汚染物質104にごく接近して、これに接触する。さらに詳しく説明すると、外部エネルギー108を洗浄流体102に選択的に印加することにより、十分な大きさのせん断力Fdが、結合体106から汚染物質104に移動する。このせん断力Fdは、汚染物質104とウエハー表面101との間の付着力FAにも、また、結合体106と汚染物質104との間のいかなる反発力にも打ち勝つ。結合体106が移動して、汚染物質104にごく接近して、これに接触し、付着力FAに打ち勝つと、さまざまな機構により、結合体106と汚染物質104との間に相互作用(すなわち「結合」)が生じる。
【0030】
このような結合機構の一つとして、結合体106と汚染物質104との間の機械的結合がある。たとえば、汚染物質104よりも結合体106の展性が高い場合には、汚染物質104は、容易に結合体106に付着する。ここで、せん断力Fdによりウエハー表面101から結合体106が離昇すると、系都合体106に物理的に付着している汚染物質104も同様にウエハー表面101から離昇する。結合体および汚染物質104の展性が低く、剛性が高い場合には、汚染物質104に接触している結合体106の力により、実質的な弾性衝突が起こり、汚染物質104がウエハー表面101から離昇し、取り除かれる。ここで、結合体106と汚染物質104との間の衝突により、結合体106から汚染物質104に、エネルギー(すなわち運動量)のかなりの部分が移動する。
【0031】
利用可能な結合機構の別の例として、化学的結合がある。結合体106と汚染物質104とが化学的に適合する場合、結合体106と汚染物質104との間を物理的に接触させることにより、結合体106と汚染物質104との間が化学的に接着される。
【0032】
上述した機械的結合機構および化学的結合機構に加えて、静電結合も利用可能である。たとえば、結合体106と汚染物質104の表面電荷が逆の場合、結合体106と汚染物質104とは、互いに電気的に引き付けられる。このような電気的引力が十分に大きければ、ウエハー表面101に汚染物質104を付着させている付着力FAに打ち勝つことができる。あるいは、実質的に同じ表面電荷をもつ結合体106と汚染物質104との間に生じる静電反発相互作用が十分に大きければ、ウエハー表面101から汚染物質104を取り除くことができる。これらに限定されるものではないが、上述した機械的結合、化学的結合、静電結合等の結合機構の一つあるいは複数を、ウエハー表面101上の一種類あるいは複数種類の汚染物質に対して、いつでも発生させることができる。
【0033】
図3に示すように、印加された外部エネルギー108は、周期的せん断応力(すなわち、圧力勾配)の形で洗浄流体102から結合体106に移動し、ウエハーの洗浄効率を増大させる。さらに詳しく説明すると、図3に示すように、他の洗浄方法と比べて、本発明の方法は、所定の大きさおよび体積の汚染物質104を除去するのに必要な限界応力をかなり減少させることができる。たとえば、約0.1μmの粒径の汚染物質104を除去するのに必要な限界応力の量は、結合体106を含まない洗浄流体を用いる場合には、約2000Paである(応力は、付着方向に加えられる)。一方、結合体106を含む洗浄流体を用いる場合には、上述の汚染物質104を除去するのに必要な限界応力の量は、約0.3Paである(結合体と粒子の両方の表面積上にせん断応力が作用する(抗力乗数)一方で、粒子とウエハー表面の間でのみ付着力が生じるため、粒子の除去に必要なせん断力が非常に小さくなる)。本発明の実施形態に従う方法で、上述の汚染物質104を除去するのに必要な限界応力の量は、流体のみを用いる方法で必要な限界応力の量の約6000分の1である。したがって、流体のみを用いる方法と比べて、非常に低い出力レベルでシステムを駆動可能なため、ウエハー上の構造に損傷を及ぼす可能性を抑制できる。
【0034】
図4に示す本発明の実施例に従うシステム400は、分散結合体106を含む洗浄流体102に周期的応力を印加することにより、ウエハー100の表面101から汚染物質104を除去する。システム400はタンク402を備え、タンク402は、基部404と、基部404から伸長して空洞408を形成する側壁406とを有する。タンク402の空洞408には、洗浄流体102が収容される。ウエハー100を洗浄流体102に浸し、ウエハー保持体410により保持する。本発明の実施形態において、これらに限定されるものではないが、カセット、グリッパー、ホルダー等の任意の適当な手段を用いて、ウエハーを洗浄流体102内に浸し、保持することができる。
【0035】
本発明の一実施例において、システム400は、タンク402の基部404および/あるいは側壁406に接続される、一つあるいは複数のメガソニック・トランスデューサ412を備える。本発明の一実施例において、メガソニック・トランスデューサ412は、洗浄流体102に高周波メガソニック音響エネルギー414を印加することができる。メガソニック・トランスデューサ412により洗浄流体102に印加される音響エネルギー414の周波数は、約600MHzから約3MHzの範囲で選択可能である。メガソニック・トランスデューサに関する詳細な説明は、以下を参照されたい。2002年12月19日出願の米国特許第7,165,563号「Method and apparatus to decouple power and cavitation for megasonic cleaning(メガソニック洗浄のための力分離およびキャビテーション装置並びに方法)」。2003年2月28日出願の米国特許第7,040,332号「Method and apparatus for megasonic cleaning with reflected acoustic waves(反射音響波を用いたメガソニック洗浄の方法並びに装置)」。2003年2月20日出願の米国特許第7,040,330号「Method and apparatus for megasonic cleaning of patterned substrates(パターン形成基板のメガソニック洗浄の方法並びに装置)」。以下に、二相状態洗浄技術および三相状態洗浄技術で利用可能な成分に関して簡単に説明するが、三相状態洗浄技術で利用可能な成分並びにその機構に関する詳細な説明は、以下を参照されたい。2006年2月3日出願の米国特許出願(11/346,894)(Atty.Docket No.LAM2P546)「Method for removing contamination from a substrate and for making a cleaning solution(基板から汚染物質を除去する方法および洗浄溶液を作成する方法)」。2006年2月3日出願の米国特許出願(11/347,154)(Atty.Docket No.LAM2P547)「Cleaning compound and method and system for using the cleaning compound(洗浄化合物および洗浄化合物を用いる方法並びにシステム)」。2006年1月20日出願の米国特許出願(11/336,215)(Atty.Docket No.LAM2P545)「 Method and Apparatus for removing contamination from a substrate(基板から汚染物質を除去するための方法並びに装置)」。上記の特許並びに特許出願は、本明細書にその全体を参照することによって組み込まれる。洗浄流体102にメガソニック・エネルギー414を印加することにより、周期的せん断応力が生じ、結合体106上に抗力Fdを与える。この結果、結合体106とウエハー表面101に付着する汚染物質104との間に相互作用が生じ、ウエハー表面101から汚染物質104が除去される。さらに、洗浄流体102にメガソニック・エネルギー414を印加することにより、キャビテーションに基づくエネルギー寄与に応じて、結合体106上に作用する抗力Fdの大きさが増大する。キャビテーションとは、音響エネルギー(たとえば、メガソニック・エネルギーや超音波エネルギーなど)を液体媒体に印加することによって、液体媒体に溶解している気体から発生する微細な泡が急速に形成され、崩壊する現象である。泡が崩壊する際に、エネルギーが放出され、放出されたエネルギーと、メガソニック・トランスデューサ412により印加されるエネルギー414とを組み合わせることにより、さらに大きな抗力Fdが生じる。
【0036】
システム400の別の実施例として、超音波処理を利用して、洗浄流体102にエネルギー414を印加するようにしてもよい。さらに詳しく説明すると、システム400のメガソニック・トランスデューサの代わりに、洗浄流体102に超音波エネルギーやその他の音響エネルギーを印加するトランスデューサを用いる。当業者には周知のように、超音波処理は、通常、媒体に超音波エネルギーを印加し、媒体内に含まれる粒子をかきまぜる。本発明の一実施例において、洗浄流体102に超音波エネルギーを印加することによっても、周期的せん断応力が生じ、結合体106上に抗力Fdを与える。この結果、結合体106と汚染物質104との間に相互作用が生じ、ウエハー表面101から汚染物質104が除去される。本発明の一実施例において、超音波エネルギーの周波数は、約50Hzから約100KHzの範囲で選択可能である。
【0037】
さらに別の実施例においては、システム400のメガソニック・トランスデューサ412や他のトランスデューサを用いることなく低周波音響エネルギーを、保持体410を介して、洗浄流体102に印加する。さらに詳しく説明すると、低周波音響エネルギー(たとえば、超音波エネルギー)が、保持体410のホルダー410を通って、保持体410に移動し、さらに、保持体410から洗浄流体102に低周波音響エネルギーが移送される。一実施例において、低周波音響エネルギーは、約50Hzから約100KHzの範囲の周波数を有する。上述したように、エネルギー414を洗浄流体102に印加することにより、洗浄流体102内で運動が生じ、洗浄流体102内に懸濁される結合体106に抗力および/あるいは運動量が与えられる。このような力により、結合体106とウエハー表面101上の汚染物質104との間に相互作用が生じ、ウエハー表面101から汚染物質104が除去される。
【0038】
図5に示す本発明の一実施例に従うシステム500は、ジェット装置502を用いて、ウエハー100の表面101から粒子状汚染物質104を除去する。システム500は、保持体506あるいはウエハー100を保持する他の適当な手段を有する処理チャンバ504を備える。本発明の実施例において、ジェット装置502は、音響エネルギー508(たとえば、メガソニック・エネルギーや超音波エネルギー等)を生成可能である。結合体106を含む洗浄流体102がジェット装置502の流路510を流れる際に、ウエハー100の露出表面101上に洗浄流体102を噴射する前に、音響エネルギー508を洗浄流体102に印加して、洗浄流体の特性を変化させる。さらに詳しく説明すると、本発明の一実施例において、洗浄流体102に音響エネルギー508を印加することにより、各結合体106の物理的特性(たとえば、大きさや形状等)が変化する。たとえば、物理的特性を変化させた結合体106のサイズ分布は、広くなる、狭くなる、あるいは、より小さな平均サイズにシフトする。この結果、物理的特性を変化させた結合体106とウエハー表面100上の汚染物質104との相互作用が増強され、物理的特性を変化させた各結合体106は、汚染物質104をより高い効率で除去することができる。さらに、ジェット装置502の噴流に基づく流体の運動により、物理的特性を変化させた結合体106上で力が作用し、一種類あるいは複数種類の物理的特性を変化させた結合体106と粒子状汚染物質104との相互作用が生じて、ウエハー表面100から汚染物質104が除去される。
【0039】
図6に示す本発明の一実施例に従うシステム600は、ウエハー100の露出表面101から汚染物質104を除去する。システム600は、保持体604あるいはウエハー100を保持する他の適当な手段を有する処理チャンバ602を備える。システム600は、さらに、分散結合体106を含む洗浄流体102に音響エネルギー608を放射するエネルギー源606を備える。同時に、流体供給装置610を用いて、露出したウエハー表面101上に洗浄流体102が噴射される。本発明の一実施例において、エネルギー源606は、(メガソニックや超音波等の)トランスデューサ素子あるいは音響エネルギー608を発生させて洗浄流体102に印加可能な他の素子を備える。この場合にも、本発明の実施例において、洗浄流体102内に懸濁される結合体106は、音響的に生成された対流によって、露出したウエハー表面101に接触し、汚染物質104との間に相互作用を生じさせて、露出したウエハー表面101から汚染物質104を除去する。
【0040】
図7に示す本発明の一実施例に従うシステム700は、ウエハー100の露出した表面101から汚染物質104を除去する。システム700は、保持体704あるいはウエハー100を保持する他の適当な手段を有する処理チャンバ702を備える。システム700は、さらに、露出したウエハー表面101の反対側であるウエハー100の裏面706の側に、裏面706に近接し、ウエハー裏面706とトランスデューサ710との間に位置する液体層708を備える。本発明の実施例において、トランスデューサ710としては、これらに限定されるものではないが、メガソニック・エネルギーや超音波エネルギー等の音響エネルギー712を発生可能な任意のトランスデューサを用いることができる。本発明の一実施例において、液体層708は、トランスデューサ710により発生した音響エネルギー712をウエハー100に移動させるための媒体として機能する。本発明の一実施例において、液体層708を形成する液体は、たとえば、脱イオン水、アンモニア‐過酸化水素混合物(APM)、界面活性剤溶液、あるいは、非水性液体である。本発明の一実施例において、液体ポンプ716を介して、供給タンク714から液体層708に、さらに、供給タンク714へと液体を循環することにより、液体層708を形成する液体の供給および再利用が可能になる。当業者に周知のいかなる方法で、裏面706とトランスデューサ710との間に液体層708を形成してもよい。
【0041】
さらに、図7に示す本発明の一実施例において、トランスデューサ710により発生した音響エネルギー712は、液体層708を介して、ウエハー100に加えられ、さらに、ウエハー100から、ウエハー100前面側の露出したウエハー表面101上の洗浄流体102に移動する。この場合、音響エネルギー712はウエハー100に印加され、ウエハー100が、エネルギー712を洗浄流体102に移動させる。洗浄流体102に直接エネルギーを印加する方法と比較して、ウエハー100にエネルギー712を印加する方法は、エネルギーの散逸が少ないという利点がある。
【0042】
本発明の別の実施形態において、上述した別のさまざまな手法を用いて、外部エネルギーを洗浄流体102に印加して、ウエハー表面101から汚染物質を除去することができる。たとえば、本発明の一実施例において、圧電駆動あるいは圧電音響駆動を利用することも可能である。圧電駆動の場合には、格納容器の壁部あるいは所定の面積を(圧電物質を介して)周期的に摂動させて、格納容器内で、容積変化と流体運動とを生じさせる。流体運動により、ウエハー表面における抗力を増大させて、汚染物質を効率的に除去する。あるいは、本発明の別の実施例において、蒸発技術を利用することも可能である。この場合には、蒸発により、流体のバルク運動が誘導され、ウエハー表面における抗力が増大するため、汚染物質の除去が促進される。
【0043】
本発明の一実施例に従い、ウエハー100の表面101から汚染物質104を除去する方法を図8に示す。ステップ800で、表面101に粒子状汚染物質104が付着したウエハー100を準備する。ステップ802で、内部に分散結合体106を懸濁させた洗浄流体102をウエハー表面101に供給する。前述したように、洗浄流体102は、二相状態流体でも三相状態流体でもよく、あるいは、分散懸濁固相成分(結合体)106を含むように調製された他の任意の洗浄流体、溶液、材料でもよい。本発明の一実施例において、ウエハー100全体を洗浄流体102に浸すことにより、ウエハー表面101に洗浄流体102を供給するようにしてもよい。たとえば、図4に示すように、タンクシステム400を用いて、ウエハー100を洗浄流体102内に浸すようにしてもよい。ただし、本発明の実施形態は、洗浄流体102にウエハー100を浸すシステムに限定されるものではない。本発明の別の実施例において、図5ないし図7に示すように、ジェット装置や噴射ノズル等を用いて、ウエハー100の一つあるいは複数の露出表面101上に洗浄流体102を噴射するようにしてもよい。
【0044】
ステップ804で、外部エネルギーを洗浄流体102に印加して、洗浄流体102内部に周期的せん断応力(すなわち圧力勾配)を発生させる。前述したように、周期的せん断応力は、洗浄流体102内に懸濁された結合体106上で、抗力および/あるいは運動量を作用させる。この結果、結合体106がウエハー表面101に衝突し、結合体106と汚染物質104との間に相互作用が生じて、ウエハー表面101に付着した汚染物質104が容易に除去される。すなわち、洗浄流体102内に懸濁された結合体106が、音響的、機械的、あるいはその他の手法で生成された対流によりウエハー表面101に接触して、汚染物質104との間に相互作用を生じ、ウエハー表面101から汚染物質104を除去する。本発明の実施形態において、これらに限定されるものではないが、メガソニック、超音波処理、圧電駆動、圧電音響駆動、キャビテーション、蒸発技術等のさまざまな技術を用いて、せん断応力すなわち圧力勾配を発生させる。たとえば、図4ないし図7に、メガソニック、超音波処理、キャビテーション技術のうちいずれか一つあるいはその組み合わせを利用して、洗浄流体に外部エネルギーを印加する例を示す。本発明の一実施形態において、図4ないし図6に示すように、エネルギーを密閉源から直接洗浄流体102に印加してもよいし、あるいは、システム全体にエネルギーを印加してもよい。あるいは、本発明の別の実施形態において、図7に示すように、エネルギーをウエハー100に印加して、ウエハー100がエネルギーを流体102に移動させるようにしてもよい。
【0045】
以上、説明してきたように、本発明の実施例は、一連の処理作業の中のエッチング後洗浄用途、独立したウエハー洗浄用途、その他、ウエハー表面からの汚染物質の除去を必要とするウエハー洗浄手法や用途における効率的な洗浄方法を提供する。本発明の実施形態に従って、固相結合体を含む洗浄流体に外部エネルギーを印加する際に、洗浄流体内に懸濁された結合体に対して攪拌制御および/あるいは運動制御を実施することにより、汚染物質の除去効率を上げることができる。さらに、洗浄媒体に外部エネルギーを印加する方法や印加の程度を制御することにより、このような外部エネルギーの印加により発生するせん断応力をより正確に制御することが可能になり、この結果、装置の損傷を防ぐことができる。また、運動量の移動を制御する機構により汚染物質が除去されるため、低濃度の結合体を含む洗浄溶液や流体を用いることができる。
【0046】
以上、理解を助ける目的で本発明を実施例に基づき詳細に説明してきたが、本発明の要旨範囲内で、さまざまに変更や修正が可能なのは言うまでもない。上述した実施例は、何ら発明をこれらの実施例に限定するものではなく、発明を例示するものに過ぎない。すなわち、本発明は、何ら上述した実施例の詳細に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲ならびにその等価の範囲内でいかなる変更も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子が付着する表面を有するウエハーを準備する工程と、
内部に一つあるいは複数の分散結合体を懸濁させた洗浄媒体を前記表面上に供給する工程と、
前記洗浄媒体に外部エネルギーを印加して、前記洗浄媒体内部に周期的せん断応力を発生させる工程と、
を備える洗浄方法で、
前記周期的せん断応力により、前記一つあるいは複数の結合体のうち少なくとも一つの結合体上で力を作用させ、この結果、前記一つあるいは複数の結合体のうち少なくとも一つの結合体と前記粒子との間に相互作用を生じさせて、前記表面から前記粒子を除去する、
洗浄方法。
【請求項2】
請求項1記載の洗浄方法で、
前記洗浄媒体に外部エネルギーを印加する前記工程は、メガソニック、超音波処理、圧電駆動、圧電音響駆動、キャビテーション、蒸発技術のうち一つあるいは複数を用いて、前記外部エネルギーを印加する、
洗浄方法。
【請求項3】
請求項2記載の洗浄方法で、
前記ウエハーを介して前記洗浄媒体に前記外部エネルギーを印加し、前記ウエハーは前記印加された外部エネルギーを前記洗浄媒体に移動させる、
洗浄方法。
【請求項4】
請求項2記載の洗浄方法で、
密閉源から前記洗浄媒体に、前記外部エネルギーを直接印加する、
洗浄方法。
【請求項5】
請求項1記載の洗浄方法で、
前記外部エネルギーが、約600KHzから約3MHzの周波数域の高周波メガソニック音響エネルギーである、
洗浄方法。
【請求項6】
請求項1記載の洗浄方法で、
前記外部エネルギーが、約50Hzから約100KHzの周波数域の超音波エネルギーである、
洗浄方法。
【請求項7】
請求項1記載の洗浄方法で、
前記相互作用が、前記一つあるいは複数の結合体のうち少なくとも一つの結合体と前記粒子との間の機械的結合、化学的結合、静電結合のうちのいずれか一つあるいは複数により実現される、
洗浄方法。
【請求項8】
請求項7記載の洗浄方法で、
前記機械的結合が、前記一つあるいは複数の結合体のうち少なくとも一つの結合体と前記粒子との間の接着により実現され、前記一つあるいは複数の結合体のうち少なくとも一つの結合体と共に、前記粒子が前記表面から離昇する、
洗浄方法。
【請求項9】
請求項7記載の洗浄方法で、
前記機械的結合が、前記一つあるいは複数の結合体のうち少なくとも一つの結合体と前記粒子との間の物理的衝突により実現され、前記一つあるいは複数の結合体のうち少なくとも一つの結合体から前記粒子へのエネルギー移動により、前記粒子が前記表面から離昇する、
洗浄方法。
【請求項10】
請求項7記載の洗浄方法で、
前記化学的結合が、前記一つあるいは複数の結合体のうち少なくとも一つの結合体と前記粒子との間の物理的接触および化学的適合性により実現され、前記物理的接触により、前記一つあるいは複数の結合体のうち少なくとも一つの結合体と前記粒子との間の化学的接着が促進される、
洗浄方法。
【請求項11】
請求項7記載の洗浄方法で、
前記静電結合が、前記一つあるいは複数の結合体のうち少なくとも一つの結合体と前記粒子との間の引力相互作用あるいは反発相互作用により実現する、
洗浄方法。
【請求項12】
請求項1記載の洗浄方法で、
前記力が、抗力、運動量、あるいはその組み合わせである、
洗浄方法。
【請求項13】
請求項1記載の洗浄方法で、
前記洗浄媒体が、
液体成分と気体成分と固体成分、あるいは、
液体成分と固体成分
のいずれかを含む、
洗浄方法。
【請求項14】
請求項13記載の洗浄方法で、
前記固体成分が、前記一つあるいは複数の分散結合体に対応する、
洗浄方法。
【請求項15】
請求項14記載の洗浄方法で、
前記固体成分が、脂肪族酸、カルボン酸、パラフィン、ワックス、高分子、ポリスチレン、ポリペプチド、脂肪酸、粘弾性材料のいずれか一つである、
洗浄方法。
【請求項16】
請求項13記載の洗浄方法で、
前記気体成分が、
オゾン(O3)と酸素(O2)と塩化水素酸(HCl)とフッ化水素酸(HF)と窒素(N2)とアルゴン(Ar)とを含む気体混合物、
オゾン(O3)と窒素(N2)とを含む気体混合物、
オゾン(O3)とアルゴン(Ar)とを含む気体混合物、
オゾン(O3)と酸素(O2)と窒素(N2)とを含む気体混合物、
オゾン(O3)と酸素(O2)とアルゴン(Ar)とを含む気体混合物、
オゾン(O3)と酸素(O2)と窒素(N2)とアルゴン(Ar)とを含む気体混合物、
酸素(O2)とアルゴン(Ar)と窒素(N2)とを含む気体混合物、
のいずれか一つである、
洗浄方法。
【請求項17】
請求項13記載の洗浄方法で、
前記液体成分が、水性あるいは非水性である、
洗浄方法。
【請求項18】
粒子が付着する表面を有するウエハーを保持する保持体と、
基部と前記基部から伸長する一つあるいは複数の側壁とにより規定される空洞を有するタンクで、前記ウエハーを浸すための所定量の洗浄媒体で、内部に一つあるいは複数の分散結合体を懸濁させた洗浄媒体を前記空洞内に収容するように構成されたタンクと、
前記一つあるいは複数の側壁のうち少なくとも一つの側壁あるいは前記基部に接続される一つあるいは複数のトランスデューサで、前記洗浄媒体に音響エネルギーを印加する一つあるいは複数のトランスデューサと、
を備える洗浄システムで、
前記音響エネルギーは、前記洗浄媒体内部に周期的せん断応力を発生させ、
前記周期的せん断応力により、前記一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体上で力を作用させ、この結果、前記一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体と前記粒子との間に相互作用を生じさせて、前記表面からの前記粒子の除去を促進する、
システム。
【請求項19】
請求項18記載のシステムで、
前記トランスデューサが、メガソニック・トランスデューサあるいは超音波トランスデューサである、
システム。
【請求項20】
請求項19記載のシステムで、
前記トランスデューサがメガソニック・トランスデューサで、前記音響エネルギーの周波数が約600KHzから約3MHzの範囲である、
システム。
【請求項21】
請求項19記載のシステムで、
前記トランスデューサが超音波トランスデューサで、前記音響エネルギーの周波数が約50Hzから約100KHzの範囲である、
システム。
【請求項22】
洗浄システムで、
保持体を備える処理チャンバで、粒子が付着するウエハー表面を露出させるように、前記保持体が前記処理チャンバ内にウエハーを保持可能な処理チャンバと、
音響エネルギーを発生させるように構成された噴出部で、内部に一つあるいは複数の分散結合体を懸濁させた洗浄媒体が前記噴出部の流路を流れる際に、前記露出したウエハー表面に前記洗浄媒体を供給する前に、前記洗浄媒体に前記発生させた音響エネルギーを印加することにより、前記音響エネルギーが前記各分散結合体の物理的特性を変化させ、前記噴出部の噴流による流体運動が、前記物理的特性を変化させた一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体上で力を作用させて、この結果、前記物理的特性を変化させた一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体と前記粒子との間に相互作用を生じさせ、前記露出したウエハー表面から前記粒子を除去する噴出部と、
を備えるシステム。
【請求項23】
請求項22記載のシステムで、
前記物理的特性を変化させた各結合体は、前記露出したウエハー表面からの前
記粒子の除去を促進する、
システム。
【請求項24】
請求項22記載のシステムで、
前記物理的特性を変化させた各結合体のサイズ分布は、広くなる、狭くなる、あるいは、より小さな平均サイズにシフトする、
システム。
【請求項25】
請求項22記載のシステムで、
前記各結合体の前記物理的特性は、サイズと形状の一つあるいは複数である、
システム。
【請求項26】
洗浄システムで、
保持体を備える処理チャンバで、粒子が付着するウエハー表面を露出させるように、前記保持体が前記処理チャンバ内にウエハーを保持可能な処理チャンバと、
内部に一つあるいは複数の分散結合体を懸濁させた洗浄媒体を前記表面に供給するように構成された流体供給部と、
音響エネルギーを発生可能なエネルギー源で、前記発生した音響エネルギーを前記洗浄媒体の表面に印加することにより、前記洗浄媒体内部に周期的せん断応力を発生させて、前記周期的せん断応力により、前記一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体上で力を作用させ、この結果、前記一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体と前記粒子との間に相互作用を生じさせて、前記表面から前記粒子を除去するエネルギー源と、
を備えるシステム。
【請求項27】
裏面と前記裏面の反対側で粒子が付着する表面とを備えるウエハーの前記裏面の近傍で、音響エネルギーを発生可能なトランスデューサと、
前記ウエハーの前記裏面と前記トランスデューサとの間に液体層を供給可能な第1流体供給部と、
内部に一つあるいは複数の分散結合体を懸濁させた洗浄媒体を前記ウエハーの前記表面上に供給可能な第2流体供給部と、
を備える洗浄システムで、
前記音響エネルギーが、前記トランスデューサから、前記液体層と前記ウエハーとを介して、前記ウエハーの前記表面上の前記洗浄媒体に移動することにより、前記洗浄媒体内部に周期的せん断応力を発生させて、前記周期的せん断応力により、前記一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体上で力を作用させ、この結果、前記一つあるいは複数の分散結合体のうち少なくとも一つの分散結合体と前記粒子との間に相互作用を生じさせて、前記表面から前記粒子を除去する、
システム。
【請求項28】
請求項27記載のシステムで、
前記トランスデューサが、メガソニック・トランスデューサあるいは超音波トランスデューサである、
システム。
【請求項29】
請求項28記載のシステムで、
前記トランスデューサがメガソニック・トランスデューサで、前記音響エネルギーの周波数が約600KHzから約3MHzの範囲である、
システム。
【請求項30】
請求項28記載のシステムで、
前記トランスデューサが超音波トランスデューサで、前記音響エネルギーの周波数が約50Hzから約100KHzの範囲である、
システム。
【請求項31】
請求項27記載のシステムで、
前記液体層が、脱イオン水、アンモニア‐過酸化水素混合物(APM)、界面活性剤溶液、非水性液体のいずれか一つである、
システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−524234(P2010−524234A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502095(P2010−502095)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際出願番号】PCT/US2008/004033
【国際公開番号】WO2008/123945
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(592010081)ラム リサーチ コーポレーション (467)
【氏名又は名称原語表記】LAM RESEARCH CORPORATION
【Fターム(参考)】