説明

潤滑剤供給体並びに前記潤滑剤供給体を備える転がり軸受、リニアガイド及びボールねじ

【課題】100〜120℃の高温での使用が可能で、機械的強度に優れ、極性の大きい潤滑油及びその潤滑油を基油としたグリースを安定に保持した潤滑剤供給体を提供する。
【解決手段】A)芳香族ポリエステルからなるハード成分と、特定の脂肪族ポリエステルまたは芳香族ポリエーテルからなるソフト成分とから形成されるポリエステルエラストマーと、B)ポリエステルエラストマーとの相溶性が高い第1の潤滑油またはそのグリースと、ポリエステルエラストマーとの相溶性が低い第2の潤滑油またはそのグリースとの混合物であって、かつ該混合物全量に対して第2の潤滑油またはそのグリースが3〜25wt%を占める混合潤滑剤とを含み、前記ポリエステルエラストマーが前記混合潤滑剤を含有した状態で固化してなり、かつ表面から第1及び第2の潤滑油が滲み出ている潤滑剤供給体、並びに前記潤滑剤供給体を備える転がり軸受、リニアガイド及びボールねじ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被潤滑部位に潤滑剤を供給する潤滑剤供給体、並びに前記潤滑剤供給体を備える転がり軸受、リニアガイド及びボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に軸受等の潤滑性が要求される部品には、潤滑油や半固形状のグリース等の潤滑性組成物が充填されている。しかしながら、これら潤滑性組成物は潤滑油は勿論のこと、半固体状のグリースにおいても軸受回転時の温度上昇に伴って流動化するため、これら潤滑性組成物の飛散を防止するためにシール板等の密封部材で充填部を密封しなければならず、構造が複雑になり、例えば小型軸受のように、場合によっては密封部材を取り付けることができないこともある。
【0003】
そこで、密封部材を必要としない潤滑方式として、潤滑油と樹脂とを混合して固形化させた潤滑剤供給組成物が開発され、実用化されている。この樹脂ベースの潤滑剤供給組成物は、樹脂内に保持された潤滑油が樹脂表面に滲み出て潤滑作用を発現するもので、例えば、潤滑油を含有するポリエチレン(特許文献1〜3参照)や、分子量が1×106 〜5×106 程度の超高分子量ポリエチレンに、潤滑グリースを保持させた潤滑性組成物(特許文献4参照)が知られている。これらの潤滑剤供給組成物は、例えば転がり軸受の内・外輪、転動体及び保持器で形成される軸受空間の充填物等、潤滑箇所に応じて加工されて、潤滑剤供給体として使用される。
【0004】
【特許文献1】米国特許第3729415号明細書
【特許文献2】米国特許第3547819号明細書
【特許文献3】米国特許第3541011号明細書
【特許文献4】特公昭63−23239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記ポリエチレンと潤滑油あるいはグリースとからなる潤滑剤供給組成物は、ポリエチレンをべースとしているため、約80℃ぐらいから軟化し始め、130〜140℃で完全に融解してしまう。そのため、80℃以上の高温下では、機械的強度が低下し、軸受等に充填して使用した際に転動体の回転に伴い変形や破壊を起こして充填部位から離脱する危険性があった。また、ポリオレフィン系合成樹脂であるポリエチレンは、分子中に極性が大きい官能基、結合(例えばアミド結合)、あるいは芳香環等が存在しないため、エステル油、ポリフェニルエーテル油等の極性の大きい潤滑油及びその潤滑油を基油としたグリースとは、相溶性が悪く、これらの潤滑剤を単独あるいは極性の低い油と組み合せた場合でも50wt%以上含有させると、潤滑剤供給組成物全体の中で潤滑剤量が50wt%以上になるような潤滑剤供給体を形成するのが困難であった。また、形成ができたとしても、ポリエチレンが極性の大きい潤滑剤を保持する能力に乏しいため、潤滑剤が早期に滲み出し、潤滑剤供給能力を失ってしまう可能性があった。
【0006】
そこで本発明の目的は、以上の問題点を解決することにより、100〜120℃の高温での使用が可能になり、しかも機械的強度に優れ、主成分としてエステル油、ポリフェニルエーテル油等の極性の大きい潤滑油及びその潤滑油を基油としたグリースを安定に保持した潤滑剤供給体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の潤滑剤供給体は、A)芳香族ポリエステルからなるハード成分と、下記一般式(I)で表される脂肪族ポリエステルまたは下記一般式(II)で表される芳香族ポリエーテルからなるソフト成分とから形成されるポリエステルエラストマーと、B)前記ポリエステルエラストマーとの相溶性が高い第1の潤滑油あるいは該第1の潤滑油を基油とするグリースと、前記ポリエステルエラストマーとの相溶性が低い第2の潤滑油あるいは該第2の潤滑油を基油とするグリースとの混合物であって、かつ該混合物の全量に対して第2の潤滑油またはそのグリースが3〜25wt%を占める混合潤滑剤とを含み、
前記ポリエステルエラストマーが前記混合潤滑剤を含有した状態で固化してなり、かつその表面から前記第1及び第2の潤滑油が滲み出ていることを特徴とする。
【0008】
【化2】

【0009】
また、本発明は、前記潤滑剤供給体を備える転がり軸受、リニアガイド及びボールねじを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑剤供給体は、ベースとなるポリエステルエラストマーの耐熱性が高いため、従来のポリエチレンをべースとしたものでは使用できなかった高温(100〜120℃)での使用が可能である。
また、潤滑剤として、ポリエステルエラストマーと相溶性の高いエステル油のような極性の高い潤滑剤と相溶性の低いポリα−オレフィン油のような極性の低い潤滑剤とを混合することにより、潤滑剤全体として適度に相溶性(極性)が下がり、潤滑剤供給体として外部に潤滑剤を供給する量が長期間に渡って増加し、それに伴って潤滑寿命も向上する。
更に、ポリエチレンに比べて、ポリエステルエラストマーは柔軟性を有するので、シールなど変形を要する必要があるような用途に特に好適である。
また、ポリカルボジイミド(多価カルボジイミド)を添加することにより、分子構造中に存在するカルボジイミド基が加水分解によって生成するカルボン酸と反応して加水分解を抑制するため、本発明の潤滑剤供給体を水が多量に存在する用途に使用しても、加水分解による機械的強度の低下を少なくすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る潤滑剤供給体に関して詳細に説明する。
まず、本発明に使用できるポリエステルエラストマーについて説明する。このポリエステルエラストマーは、芳香族ポリエステルからなるハード成分と、下記一般式(I)で表される脂肪族ポリエステルまたは下記一般式(II)で表される芳香族ポリエーテルからなるソフト成分とから形成される。ハード成分は、ポリエステルエラストマー全体としての機械的特性、特に硬度や耐熱性等を担い、ソフト成分はその構造中に潤滑剤を保持する作用がある。従って、本発明の潤滑剤供給体は、優れた耐熱性及び機械的特性と、潤滑剤保持能力とを兼ね備えたものとなる。また、ポリエステルエラストマーは、ポリエチレンに比べて柔軟性が高く、軸受のシールのように変形を要する用途に特に好適となる。
【0012】
【化3】

【0013】
ハード成分となる芳香族ポリエステルは、結晶性のポリエステルであり、具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレングリコールと2,6−ナフタレンジカルボン酸との重合物等が挙げられる。また、これら芳香族ポリエステルは単独でも、2種類以上を混合してもよい。
【0014】
上記したハード成分とソフト成分とは、どのような組み合わせも可能であるが、本発明の主たる用途(転がり軸受のグリースに代わる充填物、リニアガイド装置のサイドシールとスライダ本体とに挟みこまれたシールを兼用した部材、あるいはボールねじの端面に取付ける部材、自動調心ころ軸受のころと、内輪、外輪、案内輪との空所への充填物等)を考慮すると、特にポリブチレンテレフタレートをハード成分とするポリエステルエラストマーが好ましい。
【0015】
また、前記の用途においては、ポリエステルエラストマーとしての硬度が40〜60(ショアD)、特に45〜55(ショアD)の範囲であることが好ましい。硬度はより低い物の方が、潤滑剤をより多く含有させることができるが、含有させることによって軟化するので、機械的強度を考えると40(ショアD)が下限である。一方、硬度が60(ショアD)を越えると、潤滑剤を保持しているソフト成分がそれだけ減少することになり、50重量%を越えるような多量の潤滑剤を含有させることが難しくなる。従って、ポリエステルエラストマーの硬度が上記の範囲となるように、ハード成分とソフト成分との比率を調整する。また、この硬度は、ソフト成分となる一般式(I)または一般式(II)の繰返し単位の長さa,bの大小によっても調整可能である。
【0016】
上記のポリエステルエラストマーに潤滑剤を含有させて、本発明の潤滑剤供給体が得られる。本発明で使用できる潤滑剤は、上記のポリエステルエラストマーと相溶性が高い第1の潤滑油あるいはこの第1の潤滑油を基油とするグリースと、上記のポリエステルエラストマーと相溶性が低い第2の潤滑油あるいはこの第2の潤滑油を基油とするグリースとの混合潤滑剤である。
【0017】
第1の潤滑油は、ポリエステルエラストマーの融点以上で加熱した時点で相溶性が高い必要がある。ここで言う相溶性が高いとは、重量比で1:1程度の潤滑剤が非常に多い系で、融点以上で完全に相溶し、冷却固化後も二層に分離せずに、均一に一体化するような状態のことである。ポリエステルエラストマーと相溶性が高い具体的な潤滑剤としては、下記に示すテトラフェニルエーテル、
【0018】
【化4】

【0019】
ペンタフェニルエーテル等のポリフェニルエーテル油、ジオクチルセバケート、ジオクチルフタレート、トリオクチルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート、ペンタエリスリトールテトラエステル、ジペンタエリスリトールヘキサエステル等のエステル油、ポリアルキレングリコール油等があり、その中でも構造中にフェニル基を有するものがより相溶性が高く好適である。
【0020】
グリースとする場合は、第1の潤滑油を基油とし、これにLi石鹸・ウレア等の増ちょう剤を配合する。グリースを用いた方が、固化前の状態が半固形状であるため軸受等に充填しやすく好適である。但し、ポリエステルエラストマーがペレット状である場合、融点以上で加熱混合しても、均一に混合するのが困難であり、ペレットを冷凍粉砕等で粉末状にした物を用いた方がよい。尚、潤滑油の場合は、特に粉末状である必要はない。
【0021】
第2の潤滑油としては、オクタデシルジフェニルエーテルのような長いアルキル鎖長の付いたアルキルジフェニルエーテル油、ポリα−オレフィン油、鉱油等の極性の小さいものを用いることができる。また、グリースとする場合は、この第2の潤滑油を基油とし、これにLi石鹸・ウレア等の増ちょう剤を配合する。
【0022】
第1の潤滑油またはそのグリースと、第2の潤滑油またはそのグリースとの混合比は、混合潤滑剤の全量に対して第2の潤滑油またはそのグリースが3〜25wt%、より好ましくは5〜15wt%を占めるようにする。第2の潤滑油またはそのグリースの量が3wt%未満の場合は、ポリエステルエラストマーと混合潤滑剤との相溶性が良すぎて経時的に放出される潤滑剤量が少なく、潤滑剤供給体としての機能を長期間に渡って維持することが難しくなる。それに対して、混合量が25wt%を越える場合は、混合潤滑剤全体の極性が低くなり、ポリエステルエラストマーと後述するような潤滑剤量で、固形化させるのが難しくなる。
【0023】
混合潤滑剤とポリエステルエラストマーとの割合は、混合潤滑剤が潤滑剤供給体の中で40〜80wt%、好ましくは50〜70wt%である。潤滑剤が40wt%未満では、供給される潤滑剤量が少な過ぎて早期に潤滑剤供給能力が失われる。また、80wt%を超えると、構成するポリエステルエラストマー量が少なすぎるため、所定の機械的強度を得るのが難しくなる。
【0024】
尚、本発明の潤滑剤供給体は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤などの劣化を防止する添加剤やガラス繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等の強化材、あるいはグラファイト、h−BN、PTFE,MoS2 等の固体潤滑剤等を添加してもよい。酸化防止剤としては、以下の構造のペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等のヒンダードフェノール系のものが、耐熱性、耐酸化性に対して優れた効果を与え好適である。その添加量としては、潤滑剤供給体全量の0.05〜2wt%である、この酸化防止剤が0.05wt%未満では、耐熱性及び耐酸化性の改良に殆ど効果を示さない。2wt%を超えて添加しても耐熱性及び耐酸化性の改良効果があまり変わらないと同時に、添加量が増えることにより、相対的に樹脂及び潤滑剤の含有量が減少し、物性低下につながり好ましくない。
【0025】
【化5】

【0026】
更に、成形時及び水が多く存在する環境では、本発明のベース樹脂であるポリエステルエラストマーは、水等によって樹脂中のエステル基が加水分解により開裂し、その結果分子量が低下して機械的強度が低下する。また、ポリエステル原料由来のカルボキシル基及び加水分解により生成するカルボキシル基が酸触媒として働き、加水分解を促進することも考えられる。このようなカルボキシル基に対して、下記に示す反応を起こして加水分解促進触媒能を失活させる第1の機能と、エステル基の加水分解により生じたポリエステルエラストマー中のカルボキシル基と架橋反応することで、切断された分子をつなぎ合わせる第2の機能とを備え、ポリエステルエラストマーの加水分解を抑制し、潤滑剤供給体の初期の機械的特性を維持させる耐加水分解安定剤として、分子構造中にカルボジミド基を有するポリカルボジイミド(多価カルボジイミド)がある。このポリカルボジイミド(多価カルボジイミド)を添加することにより、本発明の潤滑剤供給体を水が多量に存在するような用途で使用しても、初期の機械的強度の低下を少なくすることが可能になる。尚、ポリカルボジイミド(多価カルボジイミド)の添加量としては、潤滑剤供給体全量の0.2〜5wt%。特に0.3〜3wt%とすることが好ましい。ポリカルボジイミド(多価カルボジイミド)の添加量が0.2wt%未満では耐加水分解安定性の改良効果が現れず、5wt%を超えて添加しても耐加水分解安定性の改良効果があまり変わらないと同時に、添加量が増えることにより、相対的に樹脂及び潤滑剤の含有量が減少し、物性低下につながり好ましくない。
【0027】
【化6】

【0028】
本発明の潤滑剤供給体は、以下のように製造される。まず、ペレット状あるいは粉末状のポリエステルエラストマーと混合潤滑剤とを、ポリエステルエラストマーの融点以上の温度で混合して、均一に相溶させる。次いで、この溶解状態にある混合物を、目的とする形状の金型等に流し込んで冷却固化させる。また、射出成形による製造も可能であるが、その場合通常の自重式ホッパーを備えた射出成形機では、上記の一度冷却固化させた材料を粉砕機等で粉末もしくはぺースト状にした材料をそのまま計量、成形するのは困難である。そこで、本出願人による特開平8−309793号公報に記載されたホッパー部を圧送式に改良した射出成形機を用いると、材料がスクリューにうまく噛み合うようになって計量可能になり、成形できるようになる。尚、この射出成形による製造では、ポリエステルエラストマーとして通常の射出成形グレードの原材料を用いると、混合潤滑剤の混入によって溶融粘度が低くなりすぎてバリ等が多くなり、満足な成形が困難となる。そこで、溶融粘度を適正にするために、もともとの溶融粘度が高い押出しグレード(220〜230℃で、メルトインデックスが3.0以下)を用いると、混合潤滑剤の混入により溶融粘度が適度に低下して安定な射出成形が可能になる。
【0029】
本発明の潤滑剤供給体の具体的な応用例としては、転がり軸受のグリースに代わる充填物、リニアガイド装置のサイドシールとスライダ本体とに挟まれたシールを兼用した潤滑剤供給部材、ボールねじの端面に取付ける潤滑剤供給部材等がある。以下に、好ましい実施形態を示す。
【0030】
(第1実施形態:玉軸受)
玉軸受は、図1にラジアル方向断面図として示すように、内輪1と外輪2との間に保持器3を介して複数個の転動体4を転動自在に保持して構成される。
そして、本発明においては、従来はグリース等が充填される、内輪1、外輪2、保持器3及び転動体4で形成される空間に、上記したポリエステルエラストマーと潤滑剤との溶融混合物を注入し、固化させて潤滑剤供給体5とする。充填方法は特に制限されるものではなく、加熱機構の付いたグリース注入装置を用いて前記溶融混合物を注入し、放置して潤滑剤供給体5を固化させてもよいし、軸受の空間に溶融前の混合物を充填してから、加熱後、放置することで行ってもよい。また、軸受を金型中に入れた状態で成形する、所謂インサート成形も可能である。
【0031】
玉軸受への潤滑剤供給体5の充填構造は、図1に示す構造の他にも例えば図2(a)、(b)に示すように、保持器3の転動体4と転動体4との間の空間(凹部)に充填させることもできる。また、本例の転がり軸受はシール部材6を備えている。充填方法は、例えば加熱機構の付いたグリース注入装置を用いて一方の側面を上にして前記凹部に、ポリエステルエラストマーと潤滑剤との溶融混合物を注入し、放置することにより固化させ、次いで反対側の側面に同様に溶融混合物を注入、固化させる。そして、固化終了後に、シール部材6,6を外輪の両側端部に装着する。
尚、図2(a)は、ラジアル方向断面図であり、図2(b)は図1においてシール部材6を取り外した状態で示す側面図である。また、符号7は一対の保持器3を環状に連結するリベットである。
上記の如く構成される各玉軸受は、潤滑剤供給体5から内部に保持されている潤滑剤が徐々に滲み出て、内輪1、外輪2、保持器3及び転動体4に供給される。
【0032】
(第2実施形態:リニアガイド装置)
リニアガイドは、図3に示すように、外面に転動体転動溝13A、13Bを有して軸方向に延びる案内レール10と、その案内レール10を跨いで組み付けられたスライダ20とを備えている。
スライダ20は、スライダ本体20Aとその両端部に取り付けられたエンドキャップ20Bとからなり、スライダ本体20Aは両袖部の内側面に案内レール10の転動体転動溝13A、13Bに対向する図示されない負荷転動体転動溝を有するとともに、袖部の肉厚部分を軸方向に貫通する転動体戻し路を有している。エンドキャップ20Bは、スライダ本体20Aの転動体転動溝とこれに平行な転動体戻し路とを連通させる図示されない湾曲路を有しており、それらの転動体転動溝と転動体戻し路と両端の湾曲路とで転動体循環回路が形成されている。その転動体循環回路内には例えば、鋼球からなる多数の転動体が装填されている。尚、図中27はグリースニップルである。
【0033】
また、エンドキャップ20Bは、合成樹脂の射出成形品で、断面ほぼコ字形に形成されている。そして、スライダ20の端部の組立て状態を示す斜視図である図4にも示すように、両エンドキャップ20Bのそれぞれの外面側には、エンドキャップ20Bに近い側から順に、補強板21、潤滑剤供給部材22およびサイドシール23が、重ね合わされた状態で固定されている。
補強板21は、エンドキャップ20Bの外形に合わせたほぼコ字形状の鋼板であり、その両袖部には、取付ネジ26を貫通させる貫通孔21a、21bが形成されるとともに、両袖部を連結する連結部には、グリースニップル用の貫通孔21cが形成されている。なお、この補強板21は、案内レール10とは非接触である。
また、サイドシール23は、エンドキャップ20Bの外形にあわせたほぼコ字形状の鋼板と、この鋼板と相似の形状を有してその外面に一体的に成形されたニトリルゴムとから構成されている。かかるサイドシール23の案内レール10と接触するリップ部Lは、その内側の面は、スライダ20と案内レール10との間の隙間をシールできるように、その案内レール10の断面形状に合わせて案内レール10の上面10aおよび外側面10b、また転動体転動溝13A、13Bにも摺接可能な形状に成形されている。
尚、このサイドシール23にも、取付けネジ貫通用の貫通孔23a、23及びグリースニップル用の貫通孔23cが形成されている。
【0034】
そして、これら補強板21とサイドシール23との間に挟まれている潤滑剤供給部材22は、図5に示すように、エンドキャップ20Bの外形に合わせたほぼコ字形状に形成されていて、そのコ字形状の内側の面は案内レール10の上面10a及び側面10bに沿う形状となっており、更に案内レール10の上の転動体転動溝13Bに対応する突起22a、22b、並びに下の転動体転動溝13Aに対応する突起22c、22dがそれぞれ形成されて案内レール10の横断面外形形状に整合されている。また、潤滑剤供給部材22は、取付けネジ貫通用の22e、22f及びグリースニップル用の貫通孔22gが形成されている。
本発明においては、この潤滑剤供給部材22が、ポリエステルエラストマーと潤滑剤とからなる潤滑剤供給体であり、その内部に保持される潤滑剤が案内レール10との接触面に供給される。
尚、図4及び図5において、符号25a〜25cは、リング状スリーブ部材である。
【0035】
(第3実施形態:ボールねじ装置)
ボールねじ装置は、図6に示すように、ボールナット30がねじ軸31を内包するように配置され、ボールナット30の内周に形成されたねじ溝30aと、それに対向するねじ軸31の外周に形成されたねじ溝31bとの間には、複数のボール32が転動自在に配置されている。
ボールナット30の一側端(図中右方端)には、潤滑剤供給部材33を介して、円筒状のシールキャップ34がボルト35により取り付けられている。ボルト35の軸部外周には、スリーブ36がそれぞれ介装されている。シールキャプ34の端部には、ラビリンスシール37が取り付けられ、ねじ軸31とシールキャップ34との間を介して塵芥等の異物が侵入することを防止している。
本発明においては、この潤滑剤供給部材33が、ポリエステルエラストマーと潤滑剤とからなる潤滑剤供給体であり、その外周に細い溝33aを形成しており、ここに配置されたガータスプリング38により一定の圧力でねじ軸31の外周に向かってラジアル方向に加圧されている。そのため、例えば長期運転により潤滑剤供給部材33の内周面が摩耗しても、常時、ねじ軸31との適切な接触が保たれ、良好な潤滑が確保されるようになっている。
【0036】
(第4実施形態:自動調心ころ軸受)
自動調心ころ軸受は、図7に示すように、内輪41と外輪42とを有する。内輪41には、2列の軌道41aが形成されているとともに、各軌道41aの外端部位に脱落防止つば41bがそれぞれ設けられている。外輪42には、内輪41の各軌道41aに対向した軌道42aが形成されている。内輪41の各軌道41aと外輪42の軌道42aとの間には2列のころ43が配置され、各列のころ43は一体型に構成された保持器46により保持されている。すなわち1つの保持器46で各列のころ43が保持されていることになる。保持器46の材質は、高力黄銅、ガラス繊維などの強化材入りのプラスチック(例えばナイロン66)などからなり、強度などの信頼性を考慮すると、材質を高力黄銅にすることが好ましい。また、保持器46を、鉄製の分離型保持器を軸受組立後に電子ビーム溶接によって一体化して構成するようにしてもよい。保持器46と内輪41との間には案内輪47が各列のころ43を案内するように配置されている。
そして、内輪41と外輪42との間に存在する空所、内輪41の各脱落防止つば41bと各列のころ43の外端面との間の間隙および各列のころ43の内端面と案内輪47との間の間隙には、第1実施形態である転がり軸受と同様にして、ポリエステルエラストマーと潤滑剤との溶融混合物を注入、固化してなる潤滑剤供給体48が充填されている。
上記の如く構成される自動調心ころ軸受は、潤滑剤供給体48から内部に保持されている潤滑剤が徐々に滲み出て、内輪41、外輪42、保持器43及びころ43に供給され、ころと各軌道41a,42a及びつば41bとの潤滑が長期にわたり維持される。
【0037】
(第5実施形態:玉軸受)
玉軸受において、保持器を本発明の潤滑剤供給体で形成することもでき、例えば、特開平8−21450号公報に記載された玉軸受において、冠型保持器を本発明の潤滑剤供給体で形成することができる。
即ち、図8(a)に断面図として示すように、玉軸受は、内輪51と外輪52との間に転動体である複数個の玉53,53を冠型保持器54を介して転動自在に保持して構成されている。また、この玉軸受は、シール板55を備えている。ここで、冠型保持器54は、同図(b)に示されるように、円環状の主部56と、この主部56の片面に設けられた複数組の保持部57,57とを備えており、更に各保持部57,57は互いに間隔をあけて配置された1対の弾性片58,58から構成されている。
本発明においては、この冠型保持器54が上記したポリエステルエラストマーと潤滑剤とからなる潤滑剤供給体であり、従って、この玉軸受では、冠型保持器54から潤滑剤が徐々に滲み出て、内輪51や外輪52、玉53に供給され、これらの部材間の潤滑が長期にわたり維持される。
【実施例】
【0038】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明する。
〔融点以上での相溶性及び冷却固化テスト〕
潤滑剤10gに対して、ポリブチレンテレフタレートエラストマー〔ペルプレンP−70B、東洋紡績(株);硬度46(ショアD)〕10gを加え、ポリブチレンテレフタレートエラストマーの結晶融点(200℃)以上の温度、具体的には210〜230℃で加熱混合した後、室温まで冷却した。潤滑剤の種類と、相溶性及び冷却固化テストの結果とを表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、ポリエステルエラストマーとの相溶性が低い潤滑油でも、規定量の相溶性の高い潤滑油と混合して使用することにより、ポリエステルエラストマーと相溶するようになる。
また、ポリエステルエラストマーとの相溶性が低い潤滑油の中でも、極性の少し高いアルキルジフェニルエーテルの方が、ポリα−オレフィン油に比べて多い含有量にしても、均一に固化することが判明した。
【0041】
(実施例1)
(1)ポリブチレンテレフタレートエラストマー 40wt%
〔ハイトレル4777、押出グレード、硬度:47ショアD、
メルトインデックス:1.5(220℃)、東レ・デュポン(株)〕
(2)トリオクチルトリメリテート〔TOTM、大八化学工業(株)〕 57wt%
(3)アルキルジフェニルエーテル〔LB−100、(株)松村石油研究所〕 3wt%
上記(1)〜(3)を230℃で加熱混合して、完全に相溶させた。その後、冷却して固化させてから、粉砕機で粉砕した。粉砕後の材料を、圧送式ホッパー付き射出成形機で成形した。出来上がった成形体(潤滑剤供給体)は、潤滑油が滲み出すものであった。
【0042】
(実施例2)
(1)ポリブチレンテレフタレートエラストマー 40wt%
〔ハイトレル4777:押出グレード、硬度:47ショアD、
メルトインデックス:1.5(220℃)、東レ・デュポン(株)〕
(2)トリオクチルトリメリテート〔TOTM、大八化学工業(株)〕 54wt%
(3)アルキルジフェニルエーテル〔LB−100、(株)松村石油研究所〕 6wt%
上記(1)〜(3)を230℃で加熱混合して、完全に相溶させた。その後、冷却して固化させてから、粉砕機で粉砕した。粉砕後の材料を、圧送式ホッパー付き射出成形機で成形した。出来上がった成形体(潤滑剤供給体)は、潤滑剤が滲み出すものであった。
【0043】
(実施例3)
(1)ポリブチレンテレフタレートエラストマー 39wt%
〔ハイトレル4777:押出グレード、硬度:47ショアD、
メルトインデックス:1.5(220℃)、東レ・デュポン(株)〕
(2)トリオクチルトリメリテート〔TOTM、大八化学工業(株)〕 52wt%
(3)アルキルジフェニルエーテル〔LB−100、(株)松村石油研究所〕 4wt%
(4)ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−t−ブチル−4−ヒロド キシフェニル)プロピオネート〕 〔IRGANOX(登録商標)1010、Chiba Specialty Chemicals K.K 〕 1wt%
(5)ポリカルボジイミド(多価カルボジイミド)〔カルボジライトHMV−8CA、
日清紡(株)〕 1wt%
(6)黒鉛粉末〔GA−4、日本カーボン(株)〕 3wt%
上記(1)〜(6)を220℃で加熱混合して、完全に相溶させた。その後、冷却して固化させてから、粉砕機で粉砕した。粉砕後の材料を、圧送式ホッパー付き射出成形機で成形した。出来上がった成形体(潤滑剤供給体)は、潤滑剤が滲み出すものであった。
【0044】
(比較例)
(1)ポリブチレンテレフタレートエラストマー 40wt%
〔ハイトレル4777:押出グレード、硬度:47ショアD、
メルトインデックス:1.5(220℃)、東レ・デュポン(株)〕
(2)トリオクチルトリメリテート〔TOTM、大八化学工業(株)〕 60wt%
上記(1)及び(2)を230℃で加熱混合して、完全に相溶させた。その後、冷却して固化させてから、粉砕機で粉砕した。粉砕後の材料を、圧送式ホッパー付き射出成形機で成形した。出来上がった成形体(潤滑剤供給体)は、潤滑剤が滲み出すものであった。
【0045】
〔潤滑剤供給量比較テスト〕
上記の実施例1、2及び比較例について、それぞれJIS3号引張り試験用試験片を成形し、80℃で放置し、潤滑剤供給量比較テストを行った。
テストは、経時的に重量測定を行い、初期からの重量変化から潤滑剤供給量(重量変化率、wt%)を求めた。結果を図9に示す。
実施例1及び2は、比較例に比べて直線の傾きが大きく、時間当たりの潤滑剤供給量が多くなっていることがわかる。また、実施例1と実施例2との比較から、アルキルジフェニルエーテルの混合量が多くなることによっても、直線の傾きが大きくなることもわかる。
【0046】
〔耐加水分解比較テスト〕
上記の実施例1及び3について、それぞれJIS3号引張り試験用試験片を成形し、80℃、90%HR(相対湿度)で放置した。そして、1000時間後に取り出し、同規格に従って引張り強度を測定した。試験片作製当初の測定値を100%とし、これと1000時間経過後の測定値とを比較し、その比率を強度保持率とした。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示すように、ポリカルボジイミド(多価カルボジイミド)を添加することにより、配合成分の加水分解が抑えられて、強度の低下が少なくなることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の潤滑剤供給体を転がり軸受に適用した実施形態を示す要部断面図である。
【図2】本発明の潤滑剤供給体を転がり軸受に適用した他の実施形態を示す要部断面図であり、同図(a)はラジアル方向断面図、同図(b)は側面図である。
【図3】本発明の潤滑剤供給体をリニアガイド装置に適用した実施形態を示す斜視図である。
【図4】図3に示すリニアガイド装置において、潤滑剤供給部材を含むスライダの構成を示す図である。
【図5】図4に示す潤滑剤供給部材の斜視図である。
【図6】本発明の潤滑剤供給体をボールねじ装置に適用した実施形態を示す要部断面図である。
【図7】本発明の潤滑剤供給体を自動調心ころ軸受に適用した実施形態を示す要部断面図である。
【図8】本発明の潤滑剤供給体を転がり軸受に適用した他の実施形態を示す図であり、同図(a)はその全体を示す要部断面図、同図(b)は保持器の斜視図(B)である。
【図9】実施例における潤滑剤供給量比較テストの結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1 内輪
2 外輪
3 保持器
4 転動体
5 潤滑剤供給体
10 案内レール
20 スライダ
21 補強板
22 潤滑剤供給部材(潤滑剤供給体)
23 サイドシール
30 ボールナット
31 ねじ軸
32 ボール
33 潤滑剤供給体
41 内輪
42 外輪
43 ころ
46 保持機
47 案内輪
48 潤滑剤供給体
51 内輪
52 外輪
53 玉
54 冠型保持器(潤滑剤供給体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)芳香族ポリエステルからなるハード成分と、下記一般式(I)で表される脂肪族ポリエステルまたは下記一般式(II)で表される芳香族ポリエーテルからなるソフト成分とから形成されるポリエステルエラストマーと、
B)前記ポリエステルエラストマーとの相溶性が高い第1の潤滑油あるいは該第1の潤滑油を基油とするグリースと、前記ポリエステルエラストマーとの相溶性が低い第2の潤滑油あるいは該第2の潤滑油を基油とするグリースとの混合物であって、かつ該混合物の全量に対して第2の潤滑油またはそのグリースが3〜25wt%を占める混合潤滑剤とを含み、
前記ポリエステルエラストマーが前記混合潤滑剤を含有した状態で固化してなり、かつその表面から前記第1及び第2の潤滑油が滲み出ていることを特徴とする潤滑剤供給体。
【化1】

【請求項2】
第1の潤滑油がエステル油であり、第2の潤滑油がアルキルジフェニルエーテル油、ポリα−オレフィン油または鉱油であることを特徴とする請求項1記載の潤滑剤供給体。
【請求項3】
ポリエステルエラストマー:混合潤滑剤(重量比)=20:80〜60:40であることを特徴とする請求項1または2記載の潤滑剤供給体。
【請求項4】
混合潤滑剤における第2の潤滑油またはそのグリースの割合が5〜15wt%であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の潤滑剤供給体。
【請求項5】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の潤滑剤供給体。
【請求項6】
射出成形により成形されることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の潤滑剤供給体。
【請求項7】
転がり軸受の潤滑用であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の潤滑剤供給体。
【請求項8】
ボールねじの潤滑用であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の潤滑剤供給体。
【請求項9】
リニアガイドの潤滑用であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の潤滑剤供給体。
【請求項10】
請求項1〜8の何れか1項に記載の潤滑剤供給体を具備することを特徴とする転がり軸受。
【請求項11】
請求項1〜8の何れか1項に記載の潤滑剤供給体を具備することを特徴とするリニアガイド。
【請求項12】
請求項1〜8の何れか1項に記載の潤滑剤供給体を具備することを特徴とするボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−206917(P2006−206917A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102175(P2006−102175)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【分割の表示】特願2000−57397(P2000−57397)の分割
【原出願日】平成12年3月2日(2000.3.2)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】