生体光計測装置および生体計測用半導体レーザ装置
【課題】生体計測用装置に用いられる光源を軽量化し、複数の光源からの光出力変動を0.1%以下に低減すること。また、生体計測用に望ましい700nm〜760nmの波長で発振する高信頼な半導体光素子を供給することが課題である。
【解決手段】異なる波長で発振する複数の発光素子が近接して搭載されたサブマウントと、その発光素子の光出力を検出する一つの光出力モニタ素子とが同一のヒートシンクに搭載され、ひとつのカンパッケージに収納された光源装置と、生体からの信号を検出する受光素子と、発光素子からの光出力信号を分離する回路とを持つ生体計測用装置であって、少なくとも一つの発光素子は、GaAs基板上のIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を持ち、歪εが0.4%≦ε≦1.4%、量子井戸層の組成が0.10≦y≦0.45で、波長が700nm以上760nm以下であることを特徴とする。
【解決手段】異なる波長で発振する複数の発光素子が近接して搭載されたサブマウントと、その発光素子の光出力を検出する一つの光出力モニタ素子とが同一のヒートシンクに搭載され、ひとつのカンパッケージに収納された光源装置と、生体からの信号を検出する受光素子と、発光素子からの光出力信号を分離する回路とを持つ生体計測用装置であって、少なくとも一つの発光素子は、GaAs基板上のIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を持ち、歪εが0.4%≦ε≦1.4%、量子井戸層の組成が0.10≦y≦0.45で、波長が700nm以上760nm以下であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体発光素子を用いた光計測装置に関するものであり、特に光を用いた生体計測用の装置およびその装置に用いられる可視から赤外の波長範囲の発光光源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
可視から赤外の波長範囲の光源を用いた分光は広く行われており、その中で、生体内部の情報を計測するために適した波長が示されてきた。たとえば、特許文献1によると、可視から赤外に至る光は、代謝物質により波長特異的に吸収されることがよく知られており、特に生体組織中での散乱が少なく、また水による吸収が少ない700nm〜1300nmの波長を選択するのが望ましいことが示されている。
【0003】
前記特許文献1には血液中の還元型ヘモグロビン濃度を計測する場合に用いる光源の波長として、この物質の特異的吸収波長である760nmおよびこの近傍(例えば、800nm)の2波長を用いたり、この物質の吸収係数の差の大きな2種の波長とその中間の1波長との合計3波長を用いたりすることが開示されている。また、前記還元型ヘモグロビンと同時に酸素型ヘモグロビンの濃度を計測するには両ヘモグロビンにて吸収係数に差を有する特異的吸収波長である例えば650nmとこの近傍の波長と両ヘモグロビンにて等しい吸収波長を示す例えば805nmとこの近傍の波長との合計4波長を用いることが開示されている。前記特許文献1は生体光計測の前にあらかじめ生体形状をX線CTまたはNMRCTを用いて測定する必要があった。
【0004】
また、特許文献2は光だけで生体内の情報を計測する装置において、信号処理方法として、光源を任意の周波数で強度変調して生体からの信号をロックインアンプなどで処理して時系列データとして表示するする方法が開示されている。このとき、光源として半導体レーザを用いてもよいことがあげられているが、その波長以外は詳細についての記述はない。
【0005】
これらの計測に用いられる発振波長の異なる複数の光源として半導体レーザを用いる場合は、市販のカンパッケージに入った素子を並べて使用していた。従来の半導体レーザ素子は、ひとつのカンパッケージの中にひとつの波長の半導体レーザが入っているものが主流である。
【0006】
例外としては特許文献3に示されるような光ディスク記録再生装置に用いられるCD再生用の波長780nm帯とDVD記録再生用の波長650nm帯の2つの波長の半導体レーザがひとつのサブマウント上に実装されてカンパッケージに収納されたものが市販されている。さらには、特許文献4には前記2つの波長にブルーレイまたはHD−DVDの記録再生用の波長405nm帯の半導体レーザを合わせた3波長の半導体レーザを同様にひとつのカンパッケージに収納する技術が開示されている。これらの複数波長の半導体レーザはその用途から同時に発振させることはない。
【0007】
また、特許文献5には、3波長の半導体レーザを近接して配置しひとつのパッケージに一体収納した光源が開示されている。前記3波長は、例えばディスプレイ用途の赤色、緑色、青色に相当する波長である。このような複数波長の半導体レーザを一体収納したカンパッケージを用いることにより、この光源を含む装置の小型化を実現することができる。
【0008】
計測装置、光ディスク記録再生装置、ディスプレイ装置などの光源となる半導体レーザは、光出力を検出して、光出力を安定化するためのフィードバック回路を持つことが必要である。その光出力検出方式には、たとえば、光ディスク記録再生装置に多く採用されている前方検出方式(特許文献6)、および民生品用途の半導体レーザで採用されている後方検出方式(非特許文献1)の2つがある。
【0009】
前者の前方検出方式では複数の波長の半導体レーザを同時に動作させることは少ないためひとつの光出力モニタ素子を持つことが多いが、前記特許文献6は複数個のレーザを時分割で動作させてその動作期間に同期して光出力を検出する装置が開示されている。
【0010】
後者の後方検出方式では特許文献7のように複数発光点の光をひとつの光出力モニタ素子を用いた光量補正手段を持つ書込装置がある。この複数ビーム発光素子の場合は書込用途のため、光を検知する感光体の感度のよい同一の波長であり、同時に光らせることはない。
【0011】
さらに特許文献1の中で望ましい波長とされた700nm〜1300nmの波長帯の中で、700nm〜760nmの波長で発振する半導体レーザは特性や信頼性の向上が困難なため市場にほとんど出回っていない。活性層材料としては、AlGaAsのAl組成を増やすか、GaInPを高歪にするか、GaInPにAsを加えた材料などがある。非特許文献2によると量子井戸層はInGaAsP(歪1.6%)で波長730nmが得られているが、歪量が大きく信頼性が課題であった。また、 特許文献8にはIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層においてy≦0.15を数値限定しているが、波長が635nmであり本発明の波長範囲に含まれない。
【0012】
【特許文献1】特開平2−290534号公報
【特許文献2】特開平8−103434号公報
【特許文献3】特開平11−186651号公報
【特許文献4】特開2001−230502号公報
【特許文献5】特開2006−186243号公報
【特許文献6】特開2004−207420号公報
【特許文献7】特開平9−164722号公報
【特許文献8】特開平9−307183号公報
【非特許文献1】伊藤良一・中村道治、半導体レーザ[基礎と応用]、培風館、(1989)、p.236
【非特許文献2】IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTRONICS、 VOL. 5、 NO. 3、 p.785−791(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
生体計測装置は従来、少数の医療機関や研究機関で用いられることが多かったが、多くの場所で用いることができるようにするためには小型軽量化が必要である。その部品のひとつである複数の波長の異なる発光素子を持つ光源も同様に小型化が求められている。そこで、前記光ディスク記録再生装置用途やディスプレイ用途に開示されているような複数の波長をひとつのサブマウント上に実装し、ひとつのカンパッケージに収納した光源を用いることがひとつの解決法となる。
【0014】
また、生体計測装置の精度を上げるためには、生体の状態は常に変化しており観測信号と雑音との区別が難しくあいまいになりやすいのを防ぐため、光源の光出力や波長が安定していることが必要である。そのとき、生体からの信号の雑音は1%程度となるため、光源の光出力変動は0.1%以下が求められる。
【0015】
それぞれの半導体レーザの光出力を検出する方法として、従来の前方検出方式の問題点は検出用の光出力モニタ素子が半導体レーザを収納しているカンパッケージの外部に出されて部品点数が増えることである。一方、後方検出方式では検出用の光出力モニタ素子を発光素子と同じヒートシンクに実装してひとつのカンパッケージに収納することができる。前記特許文献5においては半導体レーザ素子と同数の光出力モニタ素子が各半導体レーザの後方に配置されている図面が示されているが、検出方式に関する詳細な説明はない。生体計測のような複数の半導体レーザをある時間間隔の中で同時に動作させる使用方法では、前記特許文献5の配置ではひとつの光出力モニタ素子に前置きした半導体レーザの後方光出力と隣接する半導体レーザの後方光出力の両方が入力され、正しい光出力を検出することができない可能性があり、隣接素子の影響を分離することが課題となる。
【0016】
さらに特許文献1の中で望ましい波長とされた700nm〜1300nmの波長帯の中で、700nm〜760nmの波長で発振する半導体レーザは。活性層材料としては、780nm帯レーザに用いられるAlGaAsのAl組成を増やしたものか、600nm帯で用いられるGaInPを高歪にしたものか、結晶成長の難しいInGaAsPなどがある。AlGaAs系のAl組成が大きいと酸化されやすく信頼性が低下したり、AlGaAsクラッド層との組成差が小さいためにキャリアの閉じ込めが悪く特性劣化につながったりする恐れがある。また、GaInPを高歪にすると結晶欠陥が入りやすくなり信頼性が低下する。InGaAsPは結晶成長が難しいといわれるため実施例が非常に少ない。そのため、この波長帯の発光素子は特性や信頼性の向上が困難なため市場にほとんど出回っていない。
【0017】
そこでこの波長帯の半導体レーザの特性と信頼性を向上させ、安定に製造できる技術を立ち上げることが課題となる。
そこで、本発明は生体計測用の光源として、可視から赤外の複数の異なる波長で発振する半導体発光素子をひとつのカンパッケージに収納した小型光源装置およびその光源装置を搭載した生体光計測装置を提供することを目的とする。また、もうひとつには、生体計測用の光源として市場で入手困難であった700nm〜760nmの波長で発振する半導体レーザの特性安定化、高信頼化が可能となる構成を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明では可視から赤外の複数の異なる波長で発振する複数の半導体発光素子を近接してひとつのサブマウント上に搭載し、前記半導体発光素子の光出力を検出する光出力モニタ素子1個とともに同一のヒートシンクに搭載して、ひとつのカンパッケージに収納し、光出力モニタ素子の検出信号から、前記それぞれの発光素子からの光出力信号を分離する回路を持つ構成とする。前記回路の方式としては、各半導体発光素子を異なる周波数で変調してロックインアンプで分離する方式、各半導体発光素子を時分割で動作させその動作と同期して検出する方式、またはその両方式の併用が考えられる。
【0019】
図1、図2は本発明の基本構成を示す。図1は本発明の生体光計測装置に用いる光源の構成で、複数の半導体レーザとして3個の場合を図示する。半導体レーザ1〜3はサブマウント4に半田を介して接合されている。電極パッドのアノード側5〜7、カソード側8は半導体レーザを駆動するための配線が接続される。この例ではカソード側を共通としたが、アノード側を共通にしてもよい。一方、光出力モニタ素子9は半導体レーザ1〜3の後方に配置され、サブマウント4とともにヒートシンク10に搭載される。光出力モニタ素子9の受けた信号はモニタ信号分離回路11へ到達する。分離された信号に従い、各半導体レーザ1〜3の光出力が一定となるようなフィードバック信号を発光素子駆動電源12〜14に送る。
【0020】
この光源を生体計測用に用いる場合には、被測定物質の特異的吸収波長を目安として波長を選ぶ必要がある。例えば還元型ヘモグロビン濃度を計測する場合に用いる光源の波長として、図3に示す還元型および酸素型ヘモグロビンの吸収係数を参考にすると、この物質の特異的吸収波長である760nmおよびこの近傍(例えば、800nm)の2波長を用いたり、この物質の吸収係数の差の大きな2種の波長とその中間の1波長との合計3波長を用いたりするとよい。図3よりその3波長のうち一つ目は、還元型ヘモグロビンの吸収係数の大きな730nm付近以下で信号強度を確保できるように生体の吸収の大きすぎない650nm以上の領域からひとつ(例えば690nm)を選ぶ。二つ目は酸化型ヘモグロビンの吸収係数の大きな830nm付近以上の領域からひとつ(例えば830nm)を選ぶ。三つ目は前記二つの波長の間で760nmを選ぶ。この波長は還元型ヘモグロビンの吸収係数が750nm〜760nmの間に極大値をもつことから、吸収される信号が大きくなり、計測精度向上に役立つ特異的吸収波長であるといえる。したがって、光源波長のひとつを750nm〜760nmに選ぶことには意味がある。
【0021】
ところで、一つ目の波長を選ぶ際には、レーザ製品の放射安全基準(JIS C 6802)、世界基準(IEC 60825)を考慮して、700nm以上の波長を選ぶと同じクラスでも許容される強度を大きくでき、計測の信号を大きくすることができるため精度を上げることができる。このように、生体組織中での散乱が少ないことと安全上の基準を考慮しても測定精度を上げることができるので、波長を700nm以上にすることには意味がある。
【0022】
図1の構成を持つ光源から発生した光は、そのまま光ファイバに導入して伝送させたり、空中伝播させたり、直接生体に照射してもよい。光ファイバに導入する場合は光ファイバ内で元の光出力が減衰されるので、ファイバ出力に対して安全上の配慮をした、光源光出力の設計が必要である。一方、空中伝播と生体照射の場合は、光源そのものの光出力に前記波長に応じた安全上の制限が加わる。前記安全基準により、観測者の目に対する安全を確保するために、焦点の合う最短距離である10cm離れたところでの瞳の大きさに相当する直径7mmの円内での光強度に制限があるため、レンズなどの光を広げる手段を用いて光を広げるとよい。
【0023】
また、図3より還元型ヘモグロビンの805nm以下の領域の吸収係数は波長変動に対し敏感なので、波長変動は小さいほうがよい。通常半導体レーザのカタログでは波長の仕様は±10nmに設定されているが、光源を生体に近接して配置する場合は、温度変化が室温の25℃から、生体体温の約40℃に素子発熱分の10℃を加えた50℃程度までとなると考えると、温度変化に対する波長変動率は0.2nm/Kなので、波長変動を5nm程度にすることができる。これに作製ロットごとの活性層の組成ずれなど、作製上必要な余裕を持たせると、波長変動は倍の±5nm程度にすることができる。
【0024】
このような直接光源を被検体に照射する光計測装置では戻り光による光源の光出力変動は計測誤差につながるので、戻り光耐性を持つことが必要である。ひとつの解決方法は被検体からの反射戻り光が半導体レーザの共振器に入らないように、前端面の反射率を高く設定することが望ましい。端面発光型の半導体レーザの場合、よく知られている材料である、酸化珪素と窒化珪素とをそれぞれ四分の一波長の膜厚で積層すると約50%の高反射膜となる。さらに複数周期積み上げるとさらに高反射膜を作ることができ、よりよい戻り光耐性が得られる。また、面発光レーザでは半導体AlGaAsの積層膜で95%を超える反射率を用いることが多い。また、発光素子として発光ダイオードを用いることもでき、この場合は最初からコヒーレント光ではないので、戻り光には強い。
【0025】
また、特に光源の反射率を低くして、前面からの光出力を多くしたい場合には、もうひとつの解決方法として、公知の技術であるセルフパルセーション動作により、縦モードを多モードにして結合しにくくすることができる。
【0026】
このような光源を用いて、生体に近接して生体情報を測定する場合には、生体に光源装置を密着させ、生体内で一部吸収されて戻った光を検出する検出器を光源位置に対して最適化された位置に配置したようなプローブを用いると位置決めがしやすい。光源装置は少なくとも2種類の異なる発光波長を持つ発光素子を含み、それぞれの発光素子を光らせるタイミングとしては周波数の異なる強度変調か時分割で動作させる。このような光源装置と検出器を複数個用意し、2次元的に配置したプローブを用いることで、広範囲の生体情報を一度に得ることもできる。
【0027】
次に700nm〜760nmの波長で発振する半導体発光素子を実現する手段を詳しく述べる。
この波長範囲を満たすことのできる活性層として結晶成長方法が確立されていなかったために作製が困難であったGaAs基板上のInGaAsPを選ぶ。有機金属気層成長(MOVPE)装置を用いて、成長条件を実験的に最適化することでGaAs基板上にレーザの活性層相当の膜厚をもつInGaAsPを成長させることに成功した。成長条件はGaAs基板を用いた成長の常識的な範囲内のあるものであったが、装置ごとに最適化するべきものである。
【0028】
700nm〜760nmの波長で発振する半導体発光素子は図12を基本構成とする。n型GaAs基板201上に、n型GaAsバッファ層202、n型AlGaInPクラッド層203、n型AlGaInP光ガイド層204、歪量子井戸活性層205、p型AlGaInP光ガイド層206、第1p型AlGaInPクラッド層207、第2p型AlGaInPクラッド層208、p型GaInPキャップ層209、p型GaAsキャップ層210を、順次、MOVPE法で成長する。第2p型AlGaInPクラッド層208、p型GaInPキャップ層209、p型GaAsキャップ層210は、所定のエッチングによってストライプ形状に形成され、ストライプの側壁は絶縁膜211で保護される。また、p型GaAsキャップ層210上にはp電極212、n型GaAs基板201下にはn電極213が設けられる。
【0029】
上記歪量子井戸活性層205はIn1−xGaxAsyP1−y(0.10≦y≦0.45)量子井戸層(面内の格子定数aw)および(AlzGa1−z)wIn1−wP障壁層からなる。InGaAsP量子井戸層の歪量は、実験を行ない特性や信頼性を評価することで決定できる。理論計算および実験の結果、波長に関わらず、ε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εは0.4%≦ε≦1.4%が望ましいことが明らかになった。特に、波長が700nm以上720nm以下の場合は、0.4%≦ε≦1.2%が望ましく、さらに0.4%≦ε≦0.9%が最適範囲である。また、波長が725nm以上760nm以下の場合は、0.6%≦ε≦1.4%の歪の範囲が望ましいことが明らかになった。
なお、上記GaAs基板201は面方位が(100)面から<011>方向へ傾いたオフ基板でも良く、また、上記歪量子井戸活性層205は、障壁層に引張り歪を加えた歪補償構造でも良い。
【0030】
ここで、本発明と従来技術との差異を述べる。
特許文献1は生体の情報を得るために、光計測に先立ってCT計測が必要であるが、本発明では、光計測のみで生体情報を得る。特許文献2は光計測により生体情報を時系列表示できるが、その光源については波長以外の詳細な記述がない。本発明では特許文献2の信号処理理論をそのまま用いて、光計測装置に用いる光源の構成と光出力安定化の制御を提案した。
【0031】
特許文献3、4、7は複数の半導体発光素子を搭載した半導体光源で、主な用途が光記録および光書込であるため、それぞれの発光点を同時に光らせて使用する用法はないが、本発明は複数の異なる波長を持つ半導体発光素子を同時に発光させて用いる。特許文献7とはひとつの光出力モニタ素子を用いている点は共通であるが、ある特定の時間に光っている1つの素子のみに制御信号を返して光出力を安定化させる構成であるのに対し、本発明は同時に複数の半導体発光素子を光らせ、それぞれを異なる周波数または時分割で動作させることでひとつの光出力モニタ素子に入った信号を分離してそれぞれの半導体発光素子の光出力安定化ができるようになっており、光出力安定化に関する構成が異なる。
【0032】
この光出力安定化方法の構成により、特許文献5とも区別できる。なぜなら、特許文献5では複数の波長の異なる半導体発光素子を搭載した半導体光源で、主な用途はディスプレイのため、複数の発光素子を同時に発光させることがあるが、それぞれの発光素子の光出力を測定するために同数の光出力モニタ素子が用意されている。本発明ではそのことを安定化させるための課題として挙げて、ひとつの光出力モニタ素子に入った信号を分離する構成としている。
【0033】
特許文献6は複数の発光素子の前方で行路の途中に光出力モニタ素子を置いているが、本発明は、光源を生体に近接させる用法を含むため行路の途中に光出力モニタ素子を置くことができず、発光素子の発光点より後方に光出力モニタ素子を置いた。
【0034】
特許文献8の半導体発光素子は活性層にInGaAsPを用いているが、発光波長が635nmで、従来技術でも安定に結晶成長できる範囲の組成を用いており、同じ構成では本発明の700nm以上の波長帯での組成を達成することができない。一方、非特許文献2は本発明と発光波長帯は同じであるが、本発明では、より信頼性の高い、発光波長700nm〜760nmの発光素子を与える結晶の供給を実現するために、歪に着目して組成の限定を加えたことが従来と異なる。
【0035】
これら、従来の技術をすべて組み合わせても、生体に近接して情報を計測する場合には対応できず、本発明では、生体に近接して光源と生体からの信号を検出する検出器とを配置し、光源を光らせるタイミングを選ぶ方式と光出力安定化および発光波長安定化について言及している点が従来と異なる。
【0036】
また、発光波長700nm〜760nmの発光素子を高信頼の半導体発光素子で供給することができなかったため、従来はこれとは異なる波長範囲の半導体光源を生体光計測に用いていた。本発明による高信頼性の得られる構成によって初めて発光波長700nm〜760nmの発光素子を生体光計測の光源として用いることができるようになった。
【発明の効果】
【0037】
生体光計測装置として、半導体発光素子の入ったカンパッケージを複数個並べるのに比べ、複数波長の半導体発光素子の入ったひとつのカンパッケージを使用するので小型・軽量化できる。また、前記半導体光素子の光出力検出用にひとつの光出力モニタ素子を前記複数の発光素子を近接して搭載した後方に配置して、前記複数の発光素子からの信号を分離する回路を持つことにより、隣接素子の影響を分離できる。そして、生体計測用光源として、これまで実現困難であった700nm〜760nmの波長の半導体レーザを供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳述する。
【実施例1】
【0039】
本発明の第1の実施例を、図1、および図2に示す装置に従い説明する。半導体レーザ1〜3はそれぞれ有機金属気相成長(MOVPE)装置を用いて、図4に断面構造を示すようにn型GaAs基板101上にn型クラッド層102、活性層103、p型クラッド層104、p型コンタクト層105の順に結晶成長する。3個の半導体レーザのうち発振波長760nm以下を狙う1、2は、p型、n型クラッド層102、104に厚さ1.5μmのAlGaInP層を用いて、活性層103には厚さ10nmのGaIn(As)Pの井戸層と厚さ15nmのAlGaInPの障壁層からなる多重量子井戸構造とそれを挟んだ厚さ25nmのAlGaInP層からなる光ガイド層を持ち、p型コンタクト層105にはGaAs層を用いる。残りの1個の発振波長800nm台を狙う半導体レーザ3は、p型、n型クラッド層102、104に厚さ1.5μmのAlGaAs層を用いて、活性層103には厚さ10nmのGaAsの井戸層と厚さ15nmのAlGaAsの障壁層からなる多重量子井戸構造とそれを挟んだ厚さ25nmのAlGaAs層からなる光ガイド層を持ち、p型コンタクト層105にはGaAs層を用いる。
【0040】
フォトリソグラフィー工程により、ストライプ状のパターニングをした後、ドライエッチング装置によりストライプを残してエッチングし、メサ形状を形成する。半導体レーザ3のみ、ストライプのパターニングをしたときに用いたマスクを利用してMOVPE装置による選択成長でストライプ以外の部分にn型ドープAlGaAsとn型ドープGaAsからなるブロック層を成長させ、マスクを除去した後、p型ドープGaAsコンタクト層を成長させてメサを埋め込む。
【0041】
ストライプ以外の場所に厚さ350nmの酸化珪素膜によるパッシベーションを施し、p側電極となるチタン、白金、金を順に電子ビーム蒸着する。GaAs基板の裏面を研磨して厚さ100μmとしてから、裏面にn側電極となる金―ゲルマニウム、ニッケル、チタン、白金、金を順に電子ビーム蒸着したあと、合金化する。各ウェハは半導体レーザの共振器長が800μmとなるように劈開する。劈開端面にはスパッタリング装置で、前面にアルミナを付着させ反射率を13%程度とし、後面にはアルミナと酸化チタンの積層膜を付着させ反射率を90%以上とした。
【0042】
こうして作製した半導体レーザ1〜3をジャンクションダウンでサブマウント4に実装する。ヒートシンク10には半導体レーザの光出力安定化のための光出力モニタ素子としてモニタ用フォトダイオード(以下、モニタPD)9を先に半田で固定してから、半導体レーザ1〜3を実装したサブマウント4を半田で固定する。半導体レーザ1〜3からの配線を電極パッド5〜8を介してヒートシンクの入出力側ピンに接続する。図1ではカソードコモンの接続を例に示しているが、アノードコモンとしてもよく、まったく同様に制御可能である。このあとキャップ(図示せず)をつけて封じることでカンパッケージが完成する。モニタPD9からの出力はモニタ信号分離回路11へ導かれ、ここで分離された信号は半導体レーザ1〜3の駆動電源12〜14にフィードバックされ光出力変動をなくすように補正をかけられる。
ここでは、生体計測の分光分析の精度を上げるために、半導体レーザ1〜3は、非常に近いが異なる周波数で変調されており、このときモニタ信号分離回路11としてはロックインアンプを用いるとよい。
【0043】
本実施例で作製した半導体レーザ1〜3の発振波長はそれぞれ、690nm、760nm、830nmで、25℃から50℃において光出力50mWで動作し、その温度範囲の発振波長の変動は±5nm以内であった。また、50℃、50mWでの一定光出力の寿命試験では2000時間以上の動作を確認した。さらに、各半導体レーザを異なる周波数で変調して、後方で受光した光出力モニタ信号はロックインアンプを用いて分離することができ、半導体レーザ駆動電源12〜14にフィードバックすることにより、光出力の変動量は0.1%以下に抑えることができた。
【実施例2】
【0044】
本発明の第2の実施例を、図5に示す生体光計測装置に従い説明する。複数波長の半導体レーザを搭載した光源15は、第1の実施例と同様の作製方法で得られる。制御・表示用パソコン17により制御された、送信機18内のパルス発生器19によるパルス信号をCDMAエンコード回路20により変調信号として、光源ドライバ16に供給して、光源15を駆動する。この光源15は発振波長695nm、780nm、850nmで発振し、25℃から60℃において光出力50mWでは光出力変動量0.1%以下で動作する。この光源15から発光される3波長の光は発光点間隔が220μmで、この光を直径1mmのコア部分を持つバンドルファイバ21に導入する。そのファイバ出力光を周波数変調して生体22に照射し、生体物質での光吸収後に戻ってきた光を受光素子モジュール23で捉える。この光源15と受光素子モジュール23は信号処理に最適な間隔でプローブ24に着脱可能な状態で固定されており、生体22の表面での位置決めが容易であると同時に、故障時のモジュール交換が可能となっている。アナログ増幅器25とCDMAデコード回路26をあわせた受信機27を用いて信号処理を行い、生体からの信号として制御・表示用パソコン17で解析・表示する。光源15の光出力変動が小さいので、信号の信頼度を高くすることができた。
【実施例3】
【0045】
本発明の第3の実施例は、図5に示す装置と同じ構成である。複数波長の半導体レーザを搭載した光源15は、第1の実施例と同様の作製方法で得られ、発振波長680nm、755nm、830nmで発振し、25℃から60℃において光出力50mWでは光出力変動量0.1%以下で動作する。この波長の選び方は、図3により還元型ヘモグロビンの吸収係数が非常に大きい680nmと酸化型ヘモグロビンの吸収係数が比較的大きい830nmとその中間の波長755nmである。この光源15から発光される3波長の光を直径1mmのコア部分を持つバンドルファイバ21に導入する。そのファイバ出力光を周波数変調して生体22に照射し、生体物質での光吸収後に戻ってきた光を受光素子モジュール23で捉え、第2の実施例と同様に受信機27により信号処理を行い、生体からの信号として解析する。光源15の光出力変動が小さく、計測対象の還元型ヘモグロビンと酸化型ヘモグロビンの吸収係数の差の大きな2波長とその中間の波長を選んでいるので精度よく測定することができた。
【実施例4】
【0046】
本発明の第4の実施例は、図1に示した光源装置の半導体レーザの波長を限定したものである。半導体レーザ1、2、3の発振波長はそれぞれ705±5nm、755±5nm、830±5nmとなるように活性層組成を決める。半導体レーザ1、2は活性層にInGaAsPの井戸層を持つ量子井戸構造を用いて製造し、半導体レーザ3は活性層にGaAsの井戸層を持つ量子井戸構造を用いて製造すればよい。
【0047】
特に、生体組織中での散乱が少なく水による吸収が少ない700nm〜1300nmの波長を選択しているため精度よく生体からの信号を取り出すことができた。この中の半導体レーザ1は最も短い波長705±5nmを持つが、生体組織中での散乱が少ないことと安全上の基準を考慮した700nm以上の波長で最大限に還元型ヘモグロビンの吸収係数の大きい波長である。また、半導体レーザ2は、還元型ヘモグロビンの吸収係数が極大値を持つ特異的吸収波長である750〜760nmの波長で発振するため、吸収される信号が大きくなる。これらのことから半導体レーザの発振波長として705±5nm、755±5nmを選ぶことは測定精度向上に役立っている。
【実施例5】
【0048】
本発明の第5の実施例を、図6、および7に示す装置に従い説明する。図6は本発明の光源を発光面から見た図であり、図7はそれを横から見た断面図である。半導体レーザ120、121、122は垂直共振器面発光型レーザで、波長は780nm、805nm、830nmである。これらの半導体レーザはサブマウント123の上に実装され、モニタPD124とともにヒートシンク125に固定されている。その後、上記波長における反射率が10%程度で光伝播方向に対して垂直から若干傾いた窓の付いたキャップ126で封じる。この光源28はこれらの3つの波長のおのおので光出力2mWが得られた。
【0049】
光出力を安定化する構成は図8を用いて説明する。モニタPD124からの出力はモニタ信号分離回路11へ導かれ、ここで分離された信号は半導体レーザ120〜122の光源ドライバ16にフィードバックされ光出力変動をなくすように補正をかけられる。ここでは、生体計測の分光分析の精度を上げるために、半導体レーザ120〜122は、時分割で駆動されており、このときモニタ信号はモニタ信号分離回路11によって半導体レーザ120〜122に同期した信号のみが検出される。この全体で光源モジュール29を形成する。
【0050】
本実施例の光源は生体から数mmの距離に近接して使用され、使用温度がほぼ40℃に保たれていたため、波長変動が小さく、素子ごとに±5nm以内の変動であった。また、面発光型レーザでは光の放出面の反射率が約95%のため、戻り光耐性があり、光出力変動が0.05%以内であった。このことから安定して雑音の少ない生体からの信号を得ることができた。
【0051】
なお、半導体レーザ120、121、122は発光ダイオードに置き換えてもよい。それは発光ダイオードがコヒーレント光でないために、垂直共振器面発光型レーザと同等の良好な戻り光耐性を持つためである。
【実施例6】
【0052】
本発明の第6の実施例を、図9に示す装置に従い説明する。複数波長の半導体レーザを搭載した光源モジュール29は第5の実施例と同様の作製方法で得られ、ここでは発振波長780nm、830nmの2種類の波長で発振し、使用温度25℃から40℃の範囲では、光出力2mWで、波長変動は±5nm以内、光出力変動は0.05%以内であった。この光源モジュール29は送信機18により動作のタイミングを決める信号を受け、生体22に光を照射する。生体物質での光吸収後に戻ってきた光を受光素子モジュール23で捉える。その信号を受信機27で信号処理し、生体からの信号として制御・表示用パソコン17で解析・表示する。
【0053】
この光源モジュール29と受光素子モジュール23は信号処理に最適な間隔でプローブ24に着脱可能な状態で固定されており、生体22の表面での位置決めが容易であると同時に、故障時のモジュール交換が可能となっている。プローブ24の断面の一部は図10に示すようになっている。光源モジュール29は光源28とその光出力安定化回路30とともにケース31に入っており、給電コネクタ32で外から電源供給を受ける。受光素子モジュール23はアバランシェフォトダイオード33と増幅器や高圧電源部を含む制御回路34とがケース31に入っており、給電コネクタ32で外から電源供給を受ける。ケース31はプローブ24から着脱可能となっている。図には光源モジュール29と受光素子モジュール23が2個ずつ固定されているが、さらに多くのモジュールをアレイ状に配置して、生体からの広い面積の信号を得ることもできる。
【0054】
光源モジュール29が生体に光を導入するための光ファイバを不要とし小型軽量化できたために、生体光計測装置の小型化が実現し、従来どおりの測定精度も実現することができた。
【実施例7】
【0055】
本発明の第7の実施例を、図11に示す装置に従い説明する。半導体レーザ130は公知の2波長集積半導体レーザの技術で作製された端面発光型レーザであり、発振波長は690nm、760nmである。光の放出端面の反射率は酸化珪素と窒化珪素の四分の一波長積層膜を2周期形成することにより68%とした。光出力はそれぞれの波長で4mWが得られた。観測者の目に直接入ることを想定したときの安全性の問題を回避するために、光源のパッケージには光を広げる手段、たとえばレンズ131を持つ。
【0056】
光出力を安定化する構成は図8の構成と同じである。半導体レーザ130は、時分割で駆動されており、このときモニタ信号は図8に示すモニタ信号分離回路11と同様の回路によって半導体レーザ130の各波長の光に同期した信号のみが検出される。ここで、計測精度を上げるためには複数の波長で同時に光っているほうが、同じ時刻での複数の信号を得られるために望ましく、半導体レーザ130の各波長の光を異なる周波数で強度変調し、モニタ信号を分離する回路11としてロックインアンプを用いて各波長の光強度を安定化する方法を使ってもよい。さらに精度を上げるために、時分割および、異なる周波数での強度変調との両方の駆動タイミングを掛け合わせたもので、複数の波長の光を駆動してもよい。いずれにしても発光素子の駆動タイミングにあわせて、モニタPD9に入った信号を分離するように図8に示すモニタ光出力分離回路11と同様の回路を作ればよい。
【0057】
本実施例の光源は生体から数mmの距離に近接して使用され、使用温度がほぼ40℃に保たれていたため、波長変動が小さく、素子ごとに±5nm以内の変動であった。光の放出面の反射率が68%のため、戻り光耐性があり、光出力変動が0.08%以内であった。このことから安定して雑音の少ない生体からの信号を得ることができた。
【実施例8】
【0058】
本発明の第8の実施例を、図11を用いて説明する。ここでは半導体レーザ130は光を放出する端面付近に過飽和領域を設けることによりパルセーション動作を発生させることにより戻り光耐性を高くしている。光出力を安定化させるのは例えば図2の構成と同様に、各半導体レーザを異なる周波数で駆動して、モニタPDの信号をロックインアンプで分離するとよい。
【0059】
本実施例の光源は生体から数mmの距離に近接して使用され、使用温度がほぼ40℃に保たれていたため、波長変動が小さく、素子ごとに±5nm以内の変動であった。パルセーション動作ため戻り光が結合しにくく、光出力変動が0.08%以内であった。このことから安定して雑音の少ない生体からの信号を得ることができた。
【実施例9】
【0060】
第9の実施例について、半導体レーザの断面構造図(図12)を使って説明する。所定のn型GaAs基板201上に、n型GaAsバッファ層202、n型AlGaInPクラッド層203、n型AlGaInP光ガイド層204、歪量子井戸活性層205、p型AlGaInP光ガイド層206、第1p型AlGaInPクラッド層207、第2p型AlGaInPクラッド層208、p型GaInPキャップ層209、p型GaAsキャップ層210が、順次、有機金属気相成長法(MOVPE法)で積層される。第2p型AlGaInPクラッド層208、p型GaInPキャップ層209、p型GaAsキャップ層210は、所定のエッチングによってストライプ形状に形成され、ストライプの側壁は絶縁膜211で保護される。また、p型GaAsキャップ層210上にはp電極212、n型GaAs基板201にはn電極213が設けられる。
【0061】
第9の実施例では、上記歪量子井戸活性層205はIn0.5Ga0.5As0.16P0.84量子井戸(圧縮歪0.7%)および(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5P障壁層からなる。この場合、量子井戸幅を7〜12nmの間で調整することによって波長705nmで発振する半導体レーザ装置が得られる。
【0062】
これを第1の実施例の半導体レーザ1に適用することで生体光計測に適した光源を供給することができる。
【実施例10】
【0063】
第10の実施例について、半導体レーザの断面構造図(図12)を使って説明する。本実施例では、上記歪量子井戸活性層205はIn0.5Ga0.5As0.32P0.68量子井戸(圧縮歪1.2%)および(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5P障壁層からなる。この場合、量子井戸幅を7〜12nmの間で調整することによって波長755nmで発振する半導体レーザ装置が得られる。
これを第1の実施例の半導体レーザ2に適用することで生体光計測に適した光源を供給することができる。
【0064】
なお、上記GaAs基板201は面方位が(100)面から<011>方向へ傾いたオフ基板でも良く、また、上記歪量子井戸活性層205は、障壁層に引張り歪を加えた歪補償構造でも良い。また、上記InGaAsP量子井戸層の歪量は、実験を行ない特性や信頼性を評価することで決定できる。理論計算および実験の結果、波長に関わらず、0.4%≦ε≦1.4%が望ましいことが明らかになった。特に、波長が700nm以上720nm以下の場合は、0.4%≦ε≦1.2%が望ましく、さらに0.4%≦ε≦0.9%が最適範囲である。また、波長が725nm以上760nm以下の場合は、0.6%≦ε≦1.4%の歪の範囲が望ましいことが明らかになった。
【0065】
なお、本実施例およびその変形で実現できるのは下記の半導体レーザ装置である。
1.格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦1.4%で、その組成が0.10≦y≦0.45であり、発光する波長が700nm以上760nm以下であることを特徴とする半導体レーザ装置。
2.格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦1.2%で、その組成が0.10≦y≦0.25であり、発光する波長が700nm以上730nm以下であることを特徴とする半導体レーザ装置。
3.格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦0.9%で、その組成が0.10≦y≦0.2であり、発光する波長が700nm以上720nm以下であることを特徴とする半導体レーザ装置。
4.格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.6%≦ε≦1.4%で、その組成が0.20≦y≦0.35であり、発光する波長が700nm以上760nm以下であることを特徴とする半導体レーザ装置。
5.格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.1%≦ε≦0.45%で、その組成が0.4≦y≦1.4であり、発光する波長が700nm以上760nm以下であることを特徴とする半導体レーザ装置。
6.格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦1.2%で、その組成が0.10≦y≦0.25であり、発光する波長が700nm以上730nm以下であることを特徴とする半導体レーザ装置。
7.所定のGaAs基板(格子定数a)上に設けられた、In1−xGaxAsyP1−y量子井戸層(面内の格子定数aw)および障壁層からなる発光層において、ε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦0.9%、量子井戸層の組成が0.10≦y≦0.20、波長が700nm以上720nm以下であることを特徴とする半導体発光装置を搭載したことを特徴とする半導体レーザ装置。
8.所定のGaAs基板(格子定数a)上に設けられた、In1−xGaxAsyP1−y量子井戸層(面内の格子定数aw)および障壁層からなる発光層において、ε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.6%≦ε≦1.4%、量子井戸層の組成が0.20≦y≦0.35、波長が725nm以上760nm以下であることを特徴とする半導体発光装置を搭載したことを特徴とする半導体レーザ装置。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、複数の波長の光を用いた高精度生体計測およびその光源として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザ集積光源を示す図。
【図2】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザ集積光源とその光出力制御系統を示す図。
【図3】還元型ヘモグロビンと酸化型ヘモグロビンの吸収係数の波長依存性を示す図。
【図4】本発明に用いた半導体レーザの結晶成長構造を示す図。
【図5】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザ集積光源を用いた生体計測装置を示す図。
【図6】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザ集積光源を示す図。
【図7】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザ集積光源の断面図。
【図8】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザ集積光源とその光出力制御系統を示す図。
【図9】本発明の一実施形態を示す、光源モジュールを用いた生体光計測装置を示す図。
【図10】本発明の一実施形態を示す、光源モジュールを用いた生体光計測装置のプローブ断面図。
【図11】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザ集積光源の断面図。
【図12】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザの断面図。
【符号の説明】
【0068】
1,2,3:半導体レーザ素子、4:サブマウント、5,6,7,8:電極配線用パッド、9:半導体レーザ光出力光出力モニタ素子、10:ヒートシンク、11:モニタ信号分離回路、12,13,14:発光素子駆動電源、15:光源、16:光源ドライバ、17:制御・表示用パソコン、18:送信機、19:パルス発生器、20:CDMAエンコード回路、21バンドルファイバ、22生体、23:受光素子モジュール、24:プローブ、25:アナログ増幅器、26:CDMAデコード回路、27:受信機、28:光源、29:光源モジュール、30:光出力安定化回路、31:ケース、32給電コネクタ、33:アバランシェフォトダイオード、34:制御回路、101:n型GaAs基板、102:n型クラッド層、103:活性層、104:p型クラッド層、105:p型コンタクト層、120,121:垂直共振器面発光型レーザ、122:垂直共振器面発光型レーザ、123:サブマウント、124:半導体レーザ光出力光出力モニタ素子、125:ヒートシンク、126:キャップ、130:半導体レーザ素子、131:レンズ、201:n型GaAs基板、202:n型GaAsバッファ層、203:n型AlGaInPクラッド層、204:n型AlGaInP光ガイド層、205:歪量子井戸活性層、206:p型AlGaInP光ガイド層、207:第1p型AlGaInPクラッド層、208:第2p型AlGaInPクラッド層、209:p型GaInPキャップ層、210:p型GaAsキャップ層、211:絶縁膜、212:p電極、213:n電極。
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体発光素子を用いた光計測装置に関するものであり、特に光を用いた生体計測用の装置およびその装置に用いられる可視から赤外の波長範囲の発光光源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
可視から赤外の波長範囲の光源を用いた分光は広く行われており、その中で、生体内部の情報を計測するために適した波長が示されてきた。たとえば、特許文献1によると、可視から赤外に至る光は、代謝物質により波長特異的に吸収されることがよく知られており、特に生体組織中での散乱が少なく、また水による吸収が少ない700nm〜1300nmの波長を選択するのが望ましいことが示されている。
【0003】
前記特許文献1には血液中の還元型ヘモグロビン濃度を計測する場合に用いる光源の波長として、この物質の特異的吸収波長である760nmおよびこの近傍(例えば、800nm)の2波長を用いたり、この物質の吸収係数の差の大きな2種の波長とその中間の1波長との合計3波長を用いたりすることが開示されている。また、前記還元型ヘモグロビンと同時に酸素型ヘモグロビンの濃度を計測するには両ヘモグロビンにて吸収係数に差を有する特異的吸収波長である例えば650nmとこの近傍の波長と両ヘモグロビンにて等しい吸収波長を示す例えば805nmとこの近傍の波長との合計4波長を用いることが開示されている。前記特許文献1は生体光計測の前にあらかじめ生体形状をX線CTまたはNMRCTを用いて測定する必要があった。
【0004】
また、特許文献2は光だけで生体内の情報を計測する装置において、信号処理方法として、光源を任意の周波数で強度変調して生体からの信号をロックインアンプなどで処理して時系列データとして表示するする方法が開示されている。このとき、光源として半導体レーザを用いてもよいことがあげられているが、その波長以外は詳細についての記述はない。
【0005】
これらの計測に用いられる発振波長の異なる複数の光源として半導体レーザを用いる場合は、市販のカンパッケージに入った素子を並べて使用していた。従来の半導体レーザ素子は、ひとつのカンパッケージの中にひとつの波長の半導体レーザが入っているものが主流である。
【0006】
例外としては特許文献3に示されるような光ディスク記録再生装置に用いられるCD再生用の波長780nm帯とDVD記録再生用の波長650nm帯の2つの波長の半導体レーザがひとつのサブマウント上に実装されてカンパッケージに収納されたものが市販されている。さらには、特許文献4には前記2つの波長にブルーレイまたはHD−DVDの記録再生用の波長405nm帯の半導体レーザを合わせた3波長の半導体レーザを同様にひとつのカンパッケージに収納する技術が開示されている。これらの複数波長の半導体レーザはその用途から同時に発振させることはない。
【0007】
また、特許文献5には、3波長の半導体レーザを近接して配置しひとつのパッケージに一体収納した光源が開示されている。前記3波長は、例えばディスプレイ用途の赤色、緑色、青色に相当する波長である。このような複数波長の半導体レーザを一体収納したカンパッケージを用いることにより、この光源を含む装置の小型化を実現することができる。
【0008】
計測装置、光ディスク記録再生装置、ディスプレイ装置などの光源となる半導体レーザは、光出力を検出して、光出力を安定化するためのフィードバック回路を持つことが必要である。その光出力検出方式には、たとえば、光ディスク記録再生装置に多く採用されている前方検出方式(特許文献6)、および民生品用途の半導体レーザで採用されている後方検出方式(非特許文献1)の2つがある。
【0009】
前者の前方検出方式では複数の波長の半導体レーザを同時に動作させることは少ないためひとつの光出力モニタ素子を持つことが多いが、前記特許文献6は複数個のレーザを時分割で動作させてその動作期間に同期して光出力を検出する装置が開示されている。
【0010】
後者の後方検出方式では特許文献7のように複数発光点の光をひとつの光出力モニタ素子を用いた光量補正手段を持つ書込装置がある。この複数ビーム発光素子の場合は書込用途のため、光を検知する感光体の感度のよい同一の波長であり、同時に光らせることはない。
【0011】
さらに特許文献1の中で望ましい波長とされた700nm〜1300nmの波長帯の中で、700nm〜760nmの波長で発振する半導体レーザは特性や信頼性の向上が困難なため市場にほとんど出回っていない。活性層材料としては、AlGaAsのAl組成を増やすか、GaInPを高歪にするか、GaInPにAsを加えた材料などがある。非特許文献2によると量子井戸層はInGaAsP(歪1.6%)で波長730nmが得られているが、歪量が大きく信頼性が課題であった。また、 特許文献8にはIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層においてy≦0.15を数値限定しているが、波長が635nmであり本発明の波長範囲に含まれない。
【0012】
【特許文献1】特開平2−290534号公報
【特許文献2】特開平8−103434号公報
【特許文献3】特開平11−186651号公報
【特許文献4】特開2001−230502号公報
【特許文献5】特開2006−186243号公報
【特許文献6】特開2004−207420号公報
【特許文献7】特開平9−164722号公報
【特許文献8】特開平9−307183号公報
【非特許文献1】伊藤良一・中村道治、半導体レーザ[基礎と応用]、培風館、(1989)、p.236
【非特許文献2】IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTRONICS、 VOL. 5、 NO. 3、 p.785−791(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
生体計測装置は従来、少数の医療機関や研究機関で用いられることが多かったが、多くの場所で用いることができるようにするためには小型軽量化が必要である。その部品のひとつである複数の波長の異なる発光素子を持つ光源も同様に小型化が求められている。そこで、前記光ディスク記録再生装置用途やディスプレイ用途に開示されているような複数の波長をひとつのサブマウント上に実装し、ひとつのカンパッケージに収納した光源を用いることがひとつの解決法となる。
【0014】
また、生体計測装置の精度を上げるためには、生体の状態は常に変化しており観測信号と雑音との区別が難しくあいまいになりやすいのを防ぐため、光源の光出力や波長が安定していることが必要である。そのとき、生体からの信号の雑音は1%程度となるため、光源の光出力変動は0.1%以下が求められる。
【0015】
それぞれの半導体レーザの光出力を検出する方法として、従来の前方検出方式の問題点は検出用の光出力モニタ素子が半導体レーザを収納しているカンパッケージの外部に出されて部品点数が増えることである。一方、後方検出方式では検出用の光出力モニタ素子を発光素子と同じヒートシンクに実装してひとつのカンパッケージに収納することができる。前記特許文献5においては半導体レーザ素子と同数の光出力モニタ素子が各半導体レーザの後方に配置されている図面が示されているが、検出方式に関する詳細な説明はない。生体計測のような複数の半導体レーザをある時間間隔の中で同時に動作させる使用方法では、前記特許文献5の配置ではひとつの光出力モニタ素子に前置きした半導体レーザの後方光出力と隣接する半導体レーザの後方光出力の両方が入力され、正しい光出力を検出することができない可能性があり、隣接素子の影響を分離することが課題となる。
【0016】
さらに特許文献1の中で望ましい波長とされた700nm〜1300nmの波長帯の中で、700nm〜760nmの波長で発振する半導体レーザは。活性層材料としては、780nm帯レーザに用いられるAlGaAsのAl組成を増やしたものか、600nm帯で用いられるGaInPを高歪にしたものか、結晶成長の難しいInGaAsPなどがある。AlGaAs系のAl組成が大きいと酸化されやすく信頼性が低下したり、AlGaAsクラッド層との組成差が小さいためにキャリアの閉じ込めが悪く特性劣化につながったりする恐れがある。また、GaInPを高歪にすると結晶欠陥が入りやすくなり信頼性が低下する。InGaAsPは結晶成長が難しいといわれるため実施例が非常に少ない。そのため、この波長帯の発光素子は特性や信頼性の向上が困難なため市場にほとんど出回っていない。
【0017】
そこでこの波長帯の半導体レーザの特性と信頼性を向上させ、安定に製造できる技術を立ち上げることが課題となる。
そこで、本発明は生体計測用の光源として、可視から赤外の複数の異なる波長で発振する半導体発光素子をひとつのカンパッケージに収納した小型光源装置およびその光源装置を搭載した生体光計測装置を提供することを目的とする。また、もうひとつには、生体計測用の光源として市場で入手困難であった700nm〜760nmの波長で発振する半導体レーザの特性安定化、高信頼化が可能となる構成を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明では可視から赤外の複数の異なる波長で発振する複数の半導体発光素子を近接してひとつのサブマウント上に搭載し、前記半導体発光素子の光出力を検出する光出力モニタ素子1個とともに同一のヒートシンクに搭載して、ひとつのカンパッケージに収納し、光出力モニタ素子の検出信号から、前記それぞれの発光素子からの光出力信号を分離する回路を持つ構成とする。前記回路の方式としては、各半導体発光素子を異なる周波数で変調してロックインアンプで分離する方式、各半導体発光素子を時分割で動作させその動作と同期して検出する方式、またはその両方式の併用が考えられる。
【0019】
図1、図2は本発明の基本構成を示す。図1は本発明の生体光計測装置に用いる光源の構成で、複数の半導体レーザとして3個の場合を図示する。半導体レーザ1〜3はサブマウント4に半田を介して接合されている。電極パッドのアノード側5〜7、カソード側8は半導体レーザを駆動するための配線が接続される。この例ではカソード側を共通としたが、アノード側を共通にしてもよい。一方、光出力モニタ素子9は半導体レーザ1〜3の後方に配置され、サブマウント4とともにヒートシンク10に搭載される。光出力モニタ素子9の受けた信号はモニタ信号分離回路11へ到達する。分離された信号に従い、各半導体レーザ1〜3の光出力が一定となるようなフィードバック信号を発光素子駆動電源12〜14に送る。
【0020】
この光源を生体計測用に用いる場合には、被測定物質の特異的吸収波長を目安として波長を選ぶ必要がある。例えば還元型ヘモグロビン濃度を計測する場合に用いる光源の波長として、図3に示す還元型および酸素型ヘモグロビンの吸収係数を参考にすると、この物質の特異的吸収波長である760nmおよびこの近傍(例えば、800nm)の2波長を用いたり、この物質の吸収係数の差の大きな2種の波長とその中間の1波長との合計3波長を用いたりするとよい。図3よりその3波長のうち一つ目は、還元型ヘモグロビンの吸収係数の大きな730nm付近以下で信号強度を確保できるように生体の吸収の大きすぎない650nm以上の領域からひとつ(例えば690nm)を選ぶ。二つ目は酸化型ヘモグロビンの吸収係数の大きな830nm付近以上の領域からひとつ(例えば830nm)を選ぶ。三つ目は前記二つの波長の間で760nmを選ぶ。この波長は還元型ヘモグロビンの吸収係数が750nm〜760nmの間に極大値をもつことから、吸収される信号が大きくなり、計測精度向上に役立つ特異的吸収波長であるといえる。したがって、光源波長のひとつを750nm〜760nmに選ぶことには意味がある。
【0021】
ところで、一つ目の波長を選ぶ際には、レーザ製品の放射安全基準(JIS C 6802)、世界基準(IEC 60825)を考慮して、700nm以上の波長を選ぶと同じクラスでも許容される強度を大きくでき、計測の信号を大きくすることができるため精度を上げることができる。このように、生体組織中での散乱が少ないことと安全上の基準を考慮しても測定精度を上げることができるので、波長を700nm以上にすることには意味がある。
【0022】
図1の構成を持つ光源から発生した光は、そのまま光ファイバに導入して伝送させたり、空中伝播させたり、直接生体に照射してもよい。光ファイバに導入する場合は光ファイバ内で元の光出力が減衰されるので、ファイバ出力に対して安全上の配慮をした、光源光出力の設計が必要である。一方、空中伝播と生体照射の場合は、光源そのものの光出力に前記波長に応じた安全上の制限が加わる。前記安全基準により、観測者の目に対する安全を確保するために、焦点の合う最短距離である10cm離れたところでの瞳の大きさに相当する直径7mmの円内での光強度に制限があるため、レンズなどの光を広げる手段を用いて光を広げるとよい。
【0023】
また、図3より還元型ヘモグロビンの805nm以下の領域の吸収係数は波長変動に対し敏感なので、波長変動は小さいほうがよい。通常半導体レーザのカタログでは波長の仕様は±10nmに設定されているが、光源を生体に近接して配置する場合は、温度変化が室温の25℃から、生体体温の約40℃に素子発熱分の10℃を加えた50℃程度までとなると考えると、温度変化に対する波長変動率は0.2nm/Kなので、波長変動を5nm程度にすることができる。これに作製ロットごとの活性層の組成ずれなど、作製上必要な余裕を持たせると、波長変動は倍の±5nm程度にすることができる。
【0024】
このような直接光源を被検体に照射する光計測装置では戻り光による光源の光出力変動は計測誤差につながるので、戻り光耐性を持つことが必要である。ひとつの解決方法は被検体からの反射戻り光が半導体レーザの共振器に入らないように、前端面の反射率を高く設定することが望ましい。端面発光型の半導体レーザの場合、よく知られている材料である、酸化珪素と窒化珪素とをそれぞれ四分の一波長の膜厚で積層すると約50%の高反射膜となる。さらに複数周期積み上げるとさらに高反射膜を作ることができ、よりよい戻り光耐性が得られる。また、面発光レーザでは半導体AlGaAsの積層膜で95%を超える反射率を用いることが多い。また、発光素子として発光ダイオードを用いることもでき、この場合は最初からコヒーレント光ではないので、戻り光には強い。
【0025】
また、特に光源の反射率を低くして、前面からの光出力を多くしたい場合には、もうひとつの解決方法として、公知の技術であるセルフパルセーション動作により、縦モードを多モードにして結合しにくくすることができる。
【0026】
このような光源を用いて、生体に近接して生体情報を測定する場合には、生体に光源装置を密着させ、生体内で一部吸収されて戻った光を検出する検出器を光源位置に対して最適化された位置に配置したようなプローブを用いると位置決めがしやすい。光源装置は少なくとも2種類の異なる発光波長を持つ発光素子を含み、それぞれの発光素子を光らせるタイミングとしては周波数の異なる強度変調か時分割で動作させる。このような光源装置と検出器を複数個用意し、2次元的に配置したプローブを用いることで、広範囲の生体情報を一度に得ることもできる。
【0027】
次に700nm〜760nmの波長で発振する半導体発光素子を実現する手段を詳しく述べる。
この波長範囲を満たすことのできる活性層として結晶成長方法が確立されていなかったために作製が困難であったGaAs基板上のInGaAsPを選ぶ。有機金属気層成長(MOVPE)装置を用いて、成長条件を実験的に最適化することでGaAs基板上にレーザの活性層相当の膜厚をもつInGaAsPを成長させることに成功した。成長条件はGaAs基板を用いた成長の常識的な範囲内のあるものであったが、装置ごとに最適化するべきものである。
【0028】
700nm〜760nmの波長で発振する半導体発光素子は図12を基本構成とする。n型GaAs基板201上に、n型GaAsバッファ層202、n型AlGaInPクラッド層203、n型AlGaInP光ガイド層204、歪量子井戸活性層205、p型AlGaInP光ガイド層206、第1p型AlGaInPクラッド層207、第2p型AlGaInPクラッド層208、p型GaInPキャップ層209、p型GaAsキャップ層210を、順次、MOVPE法で成長する。第2p型AlGaInPクラッド層208、p型GaInPキャップ層209、p型GaAsキャップ層210は、所定のエッチングによってストライプ形状に形成され、ストライプの側壁は絶縁膜211で保護される。また、p型GaAsキャップ層210上にはp電極212、n型GaAs基板201下にはn電極213が設けられる。
【0029】
上記歪量子井戸活性層205はIn1−xGaxAsyP1−y(0.10≦y≦0.45)量子井戸層(面内の格子定数aw)および(AlzGa1−z)wIn1−wP障壁層からなる。InGaAsP量子井戸層の歪量は、実験を行ない特性や信頼性を評価することで決定できる。理論計算および実験の結果、波長に関わらず、ε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εは0.4%≦ε≦1.4%が望ましいことが明らかになった。特に、波長が700nm以上720nm以下の場合は、0.4%≦ε≦1.2%が望ましく、さらに0.4%≦ε≦0.9%が最適範囲である。また、波長が725nm以上760nm以下の場合は、0.6%≦ε≦1.4%の歪の範囲が望ましいことが明らかになった。
なお、上記GaAs基板201は面方位が(100)面から<011>方向へ傾いたオフ基板でも良く、また、上記歪量子井戸活性層205は、障壁層に引張り歪を加えた歪補償構造でも良い。
【0030】
ここで、本発明と従来技術との差異を述べる。
特許文献1は生体の情報を得るために、光計測に先立ってCT計測が必要であるが、本発明では、光計測のみで生体情報を得る。特許文献2は光計測により生体情報を時系列表示できるが、その光源については波長以外の詳細な記述がない。本発明では特許文献2の信号処理理論をそのまま用いて、光計測装置に用いる光源の構成と光出力安定化の制御を提案した。
【0031】
特許文献3、4、7は複数の半導体発光素子を搭載した半導体光源で、主な用途が光記録および光書込であるため、それぞれの発光点を同時に光らせて使用する用法はないが、本発明は複数の異なる波長を持つ半導体発光素子を同時に発光させて用いる。特許文献7とはひとつの光出力モニタ素子を用いている点は共通であるが、ある特定の時間に光っている1つの素子のみに制御信号を返して光出力を安定化させる構成であるのに対し、本発明は同時に複数の半導体発光素子を光らせ、それぞれを異なる周波数または時分割で動作させることでひとつの光出力モニタ素子に入った信号を分離してそれぞれの半導体発光素子の光出力安定化ができるようになっており、光出力安定化に関する構成が異なる。
【0032】
この光出力安定化方法の構成により、特許文献5とも区別できる。なぜなら、特許文献5では複数の波長の異なる半導体発光素子を搭載した半導体光源で、主な用途はディスプレイのため、複数の発光素子を同時に発光させることがあるが、それぞれの発光素子の光出力を測定するために同数の光出力モニタ素子が用意されている。本発明ではそのことを安定化させるための課題として挙げて、ひとつの光出力モニタ素子に入った信号を分離する構成としている。
【0033】
特許文献6は複数の発光素子の前方で行路の途中に光出力モニタ素子を置いているが、本発明は、光源を生体に近接させる用法を含むため行路の途中に光出力モニタ素子を置くことができず、発光素子の発光点より後方に光出力モニタ素子を置いた。
【0034】
特許文献8の半導体発光素子は活性層にInGaAsPを用いているが、発光波長が635nmで、従来技術でも安定に結晶成長できる範囲の組成を用いており、同じ構成では本発明の700nm以上の波長帯での組成を達成することができない。一方、非特許文献2は本発明と発光波長帯は同じであるが、本発明では、より信頼性の高い、発光波長700nm〜760nmの発光素子を与える結晶の供給を実現するために、歪に着目して組成の限定を加えたことが従来と異なる。
【0035】
これら、従来の技術をすべて組み合わせても、生体に近接して情報を計測する場合には対応できず、本発明では、生体に近接して光源と生体からの信号を検出する検出器とを配置し、光源を光らせるタイミングを選ぶ方式と光出力安定化および発光波長安定化について言及している点が従来と異なる。
【0036】
また、発光波長700nm〜760nmの発光素子を高信頼の半導体発光素子で供給することができなかったため、従来はこれとは異なる波長範囲の半導体光源を生体光計測に用いていた。本発明による高信頼性の得られる構成によって初めて発光波長700nm〜760nmの発光素子を生体光計測の光源として用いることができるようになった。
【発明の効果】
【0037】
生体光計測装置として、半導体発光素子の入ったカンパッケージを複数個並べるのに比べ、複数波長の半導体発光素子の入ったひとつのカンパッケージを使用するので小型・軽量化できる。また、前記半導体光素子の光出力検出用にひとつの光出力モニタ素子を前記複数の発光素子を近接して搭載した後方に配置して、前記複数の発光素子からの信号を分離する回路を持つことにより、隣接素子の影響を分離できる。そして、生体計測用光源として、これまで実現困難であった700nm〜760nmの波長の半導体レーザを供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳述する。
【実施例1】
【0039】
本発明の第1の実施例を、図1、および図2に示す装置に従い説明する。半導体レーザ1〜3はそれぞれ有機金属気相成長(MOVPE)装置を用いて、図4に断面構造を示すようにn型GaAs基板101上にn型クラッド層102、活性層103、p型クラッド層104、p型コンタクト層105の順に結晶成長する。3個の半導体レーザのうち発振波長760nm以下を狙う1、2は、p型、n型クラッド層102、104に厚さ1.5μmのAlGaInP層を用いて、活性層103には厚さ10nmのGaIn(As)Pの井戸層と厚さ15nmのAlGaInPの障壁層からなる多重量子井戸構造とそれを挟んだ厚さ25nmのAlGaInP層からなる光ガイド層を持ち、p型コンタクト層105にはGaAs層を用いる。残りの1個の発振波長800nm台を狙う半導体レーザ3は、p型、n型クラッド層102、104に厚さ1.5μmのAlGaAs層を用いて、活性層103には厚さ10nmのGaAsの井戸層と厚さ15nmのAlGaAsの障壁層からなる多重量子井戸構造とそれを挟んだ厚さ25nmのAlGaAs層からなる光ガイド層を持ち、p型コンタクト層105にはGaAs層を用いる。
【0040】
フォトリソグラフィー工程により、ストライプ状のパターニングをした後、ドライエッチング装置によりストライプを残してエッチングし、メサ形状を形成する。半導体レーザ3のみ、ストライプのパターニングをしたときに用いたマスクを利用してMOVPE装置による選択成長でストライプ以外の部分にn型ドープAlGaAsとn型ドープGaAsからなるブロック層を成長させ、マスクを除去した後、p型ドープGaAsコンタクト層を成長させてメサを埋め込む。
【0041】
ストライプ以外の場所に厚さ350nmの酸化珪素膜によるパッシベーションを施し、p側電極となるチタン、白金、金を順に電子ビーム蒸着する。GaAs基板の裏面を研磨して厚さ100μmとしてから、裏面にn側電極となる金―ゲルマニウム、ニッケル、チタン、白金、金を順に電子ビーム蒸着したあと、合金化する。各ウェハは半導体レーザの共振器長が800μmとなるように劈開する。劈開端面にはスパッタリング装置で、前面にアルミナを付着させ反射率を13%程度とし、後面にはアルミナと酸化チタンの積層膜を付着させ反射率を90%以上とした。
【0042】
こうして作製した半導体レーザ1〜3をジャンクションダウンでサブマウント4に実装する。ヒートシンク10には半導体レーザの光出力安定化のための光出力モニタ素子としてモニタ用フォトダイオード(以下、モニタPD)9を先に半田で固定してから、半導体レーザ1〜3を実装したサブマウント4を半田で固定する。半導体レーザ1〜3からの配線を電極パッド5〜8を介してヒートシンクの入出力側ピンに接続する。図1ではカソードコモンの接続を例に示しているが、アノードコモンとしてもよく、まったく同様に制御可能である。このあとキャップ(図示せず)をつけて封じることでカンパッケージが完成する。モニタPD9からの出力はモニタ信号分離回路11へ導かれ、ここで分離された信号は半導体レーザ1〜3の駆動電源12〜14にフィードバックされ光出力変動をなくすように補正をかけられる。
ここでは、生体計測の分光分析の精度を上げるために、半導体レーザ1〜3は、非常に近いが異なる周波数で変調されており、このときモニタ信号分離回路11としてはロックインアンプを用いるとよい。
【0043】
本実施例で作製した半導体レーザ1〜3の発振波長はそれぞれ、690nm、760nm、830nmで、25℃から50℃において光出力50mWで動作し、その温度範囲の発振波長の変動は±5nm以内であった。また、50℃、50mWでの一定光出力の寿命試験では2000時間以上の動作を確認した。さらに、各半導体レーザを異なる周波数で変調して、後方で受光した光出力モニタ信号はロックインアンプを用いて分離することができ、半導体レーザ駆動電源12〜14にフィードバックすることにより、光出力の変動量は0.1%以下に抑えることができた。
【実施例2】
【0044】
本発明の第2の実施例を、図5に示す生体光計測装置に従い説明する。複数波長の半導体レーザを搭載した光源15は、第1の実施例と同様の作製方法で得られる。制御・表示用パソコン17により制御された、送信機18内のパルス発生器19によるパルス信号をCDMAエンコード回路20により変調信号として、光源ドライバ16に供給して、光源15を駆動する。この光源15は発振波長695nm、780nm、850nmで発振し、25℃から60℃において光出力50mWでは光出力変動量0.1%以下で動作する。この光源15から発光される3波長の光は発光点間隔が220μmで、この光を直径1mmのコア部分を持つバンドルファイバ21に導入する。そのファイバ出力光を周波数変調して生体22に照射し、生体物質での光吸収後に戻ってきた光を受光素子モジュール23で捉える。この光源15と受光素子モジュール23は信号処理に最適な間隔でプローブ24に着脱可能な状態で固定されており、生体22の表面での位置決めが容易であると同時に、故障時のモジュール交換が可能となっている。アナログ増幅器25とCDMAデコード回路26をあわせた受信機27を用いて信号処理を行い、生体からの信号として制御・表示用パソコン17で解析・表示する。光源15の光出力変動が小さいので、信号の信頼度を高くすることができた。
【実施例3】
【0045】
本発明の第3の実施例は、図5に示す装置と同じ構成である。複数波長の半導体レーザを搭載した光源15は、第1の実施例と同様の作製方法で得られ、発振波長680nm、755nm、830nmで発振し、25℃から60℃において光出力50mWでは光出力変動量0.1%以下で動作する。この波長の選び方は、図3により還元型ヘモグロビンの吸収係数が非常に大きい680nmと酸化型ヘモグロビンの吸収係数が比較的大きい830nmとその中間の波長755nmである。この光源15から発光される3波長の光を直径1mmのコア部分を持つバンドルファイバ21に導入する。そのファイバ出力光を周波数変調して生体22に照射し、生体物質での光吸収後に戻ってきた光を受光素子モジュール23で捉え、第2の実施例と同様に受信機27により信号処理を行い、生体からの信号として解析する。光源15の光出力変動が小さく、計測対象の還元型ヘモグロビンと酸化型ヘモグロビンの吸収係数の差の大きな2波長とその中間の波長を選んでいるので精度よく測定することができた。
【実施例4】
【0046】
本発明の第4の実施例は、図1に示した光源装置の半導体レーザの波長を限定したものである。半導体レーザ1、2、3の発振波長はそれぞれ705±5nm、755±5nm、830±5nmとなるように活性層組成を決める。半導体レーザ1、2は活性層にInGaAsPの井戸層を持つ量子井戸構造を用いて製造し、半導体レーザ3は活性層にGaAsの井戸層を持つ量子井戸構造を用いて製造すればよい。
【0047】
特に、生体組織中での散乱が少なく水による吸収が少ない700nm〜1300nmの波長を選択しているため精度よく生体からの信号を取り出すことができた。この中の半導体レーザ1は最も短い波長705±5nmを持つが、生体組織中での散乱が少ないことと安全上の基準を考慮した700nm以上の波長で最大限に還元型ヘモグロビンの吸収係数の大きい波長である。また、半導体レーザ2は、還元型ヘモグロビンの吸収係数が極大値を持つ特異的吸収波長である750〜760nmの波長で発振するため、吸収される信号が大きくなる。これらのことから半導体レーザの発振波長として705±5nm、755±5nmを選ぶことは測定精度向上に役立っている。
【実施例5】
【0048】
本発明の第5の実施例を、図6、および7に示す装置に従い説明する。図6は本発明の光源を発光面から見た図であり、図7はそれを横から見た断面図である。半導体レーザ120、121、122は垂直共振器面発光型レーザで、波長は780nm、805nm、830nmである。これらの半導体レーザはサブマウント123の上に実装され、モニタPD124とともにヒートシンク125に固定されている。その後、上記波長における反射率が10%程度で光伝播方向に対して垂直から若干傾いた窓の付いたキャップ126で封じる。この光源28はこれらの3つの波長のおのおので光出力2mWが得られた。
【0049】
光出力を安定化する構成は図8を用いて説明する。モニタPD124からの出力はモニタ信号分離回路11へ導かれ、ここで分離された信号は半導体レーザ120〜122の光源ドライバ16にフィードバックされ光出力変動をなくすように補正をかけられる。ここでは、生体計測の分光分析の精度を上げるために、半導体レーザ120〜122は、時分割で駆動されており、このときモニタ信号はモニタ信号分離回路11によって半導体レーザ120〜122に同期した信号のみが検出される。この全体で光源モジュール29を形成する。
【0050】
本実施例の光源は生体から数mmの距離に近接して使用され、使用温度がほぼ40℃に保たれていたため、波長変動が小さく、素子ごとに±5nm以内の変動であった。また、面発光型レーザでは光の放出面の反射率が約95%のため、戻り光耐性があり、光出力変動が0.05%以内であった。このことから安定して雑音の少ない生体からの信号を得ることができた。
【0051】
なお、半導体レーザ120、121、122は発光ダイオードに置き換えてもよい。それは発光ダイオードがコヒーレント光でないために、垂直共振器面発光型レーザと同等の良好な戻り光耐性を持つためである。
【実施例6】
【0052】
本発明の第6の実施例を、図9に示す装置に従い説明する。複数波長の半導体レーザを搭載した光源モジュール29は第5の実施例と同様の作製方法で得られ、ここでは発振波長780nm、830nmの2種類の波長で発振し、使用温度25℃から40℃の範囲では、光出力2mWで、波長変動は±5nm以内、光出力変動は0.05%以内であった。この光源モジュール29は送信機18により動作のタイミングを決める信号を受け、生体22に光を照射する。生体物質での光吸収後に戻ってきた光を受光素子モジュール23で捉える。その信号を受信機27で信号処理し、生体からの信号として制御・表示用パソコン17で解析・表示する。
【0053】
この光源モジュール29と受光素子モジュール23は信号処理に最適な間隔でプローブ24に着脱可能な状態で固定されており、生体22の表面での位置決めが容易であると同時に、故障時のモジュール交換が可能となっている。プローブ24の断面の一部は図10に示すようになっている。光源モジュール29は光源28とその光出力安定化回路30とともにケース31に入っており、給電コネクタ32で外から電源供給を受ける。受光素子モジュール23はアバランシェフォトダイオード33と増幅器や高圧電源部を含む制御回路34とがケース31に入っており、給電コネクタ32で外から電源供給を受ける。ケース31はプローブ24から着脱可能となっている。図には光源モジュール29と受光素子モジュール23が2個ずつ固定されているが、さらに多くのモジュールをアレイ状に配置して、生体からの広い面積の信号を得ることもできる。
【0054】
光源モジュール29が生体に光を導入するための光ファイバを不要とし小型軽量化できたために、生体光計測装置の小型化が実現し、従来どおりの測定精度も実現することができた。
【実施例7】
【0055】
本発明の第7の実施例を、図11に示す装置に従い説明する。半導体レーザ130は公知の2波長集積半導体レーザの技術で作製された端面発光型レーザであり、発振波長は690nm、760nmである。光の放出端面の反射率は酸化珪素と窒化珪素の四分の一波長積層膜を2周期形成することにより68%とした。光出力はそれぞれの波長で4mWが得られた。観測者の目に直接入ることを想定したときの安全性の問題を回避するために、光源のパッケージには光を広げる手段、たとえばレンズ131を持つ。
【0056】
光出力を安定化する構成は図8の構成と同じである。半導体レーザ130は、時分割で駆動されており、このときモニタ信号は図8に示すモニタ信号分離回路11と同様の回路によって半導体レーザ130の各波長の光に同期した信号のみが検出される。ここで、計測精度を上げるためには複数の波長で同時に光っているほうが、同じ時刻での複数の信号を得られるために望ましく、半導体レーザ130の各波長の光を異なる周波数で強度変調し、モニタ信号を分離する回路11としてロックインアンプを用いて各波長の光強度を安定化する方法を使ってもよい。さらに精度を上げるために、時分割および、異なる周波数での強度変調との両方の駆動タイミングを掛け合わせたもので、複数の波長の光を駆動してもよい。いずれにしても発光素子の駆動タイミングにあわせて、モニタPD9に入った信号を分離するように図8に示すモニタ光出力分離回路11と同様の回路を作ればよい。
【0057】
本実施例の光源は生体から数mmの距離に近接して使用され、使用温度がほぼ40℃に保たれていたため、波長変動が小さく、素子ごとに±5nm以内の変動であった。光の放出面の反射率が68%のため、戻り光耐性があり、光出力変動が0.08%以内であった。このことから安定して雑音の少ない生体からの信号を得ることができた。
【実施例8】
【0058】
本発明の第8の実施例を、図11を用いて説明する。ここでは半導体レーザ130は光を放出する端面付近に過飽和領域を設けることによりパルセーション動作を発生させることにより戻り光耐性を高くしている。光出力を安定化させるのは例えば図2の構成と同様に、各半導体レーザを異なる周波数で駆動して、モニタPDの信号をロックインアンプで分離するとよい。
【0059】
本実施例の光源は生体から数mmの距離に近接して使用され、使用温度がほぼ40℃に保たれていたため、波長変動が小さく、素子ごとに±5nm以内の変動であった。パルセーション動作ため戻り光が結合しにくく、光出力変動が0.08%以内であった。このことから安定して雑音の少ない生体からの信号を得ることができた。
【実施例9】
【0060】
第9の実施例について、半導体レーザの断面構造図(図12)を使って説明する。所定のn型GaAs基板201上に、n型GaAsバッファ層202、n型AlGaInPクラッド層203、n型AlGaInP光ガイド層204、歪量子井戸活性層205、p型AlGaInP光ガイド層206、第1p型AlGaInPクラッド層207、第2p型AlGaInPクラッド層208、p型GaInPキャップ層209、p型GaAsキャップ層210が、順次、有機金属気相成長法(MOVPE法)で積層される。第2p型AlGaInPクラッド層208、p型GaInPキャップ層209、p型GaAsキャップ層210は、所定のエッチングによってストライプ形状に形成され、ストライプの側壁は絶縁膜211で保護される。また、p型GaAsキャップ層210上にはp電極212、n型GaAs基板201にはn電極213が設けられる。
【0061】
第9の実施例では、上記歪量子井戸活性層205はIn0.5Ga0.5As0.16P0.84量子井戸(圧縮歪0.7%)および(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5P障壁層からなる。この場合、量子井戸幅を7〜12nmの間で調整することによって波長705nmで発振する半導体レーザ装置が得られる。
【0062】
これを第1の実施例の半導体レーザ1に適用することで生体光計測に適した光源を供給することができる。
【実施例10】
【0063】
第10の実施例について、半導体レーザの断面構造図(図12)を使って説明する。本実施例では、上記歪量子井戸活性層205はIn0.5Ga0.5As0.32P0.68量子井戸(圧縮歪1.2%)および(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5P障壁層からなる。この場合、量子井戸幅を7〜12nmの間で調整することによって波長755nmで発振する半導体レーザ装置が得られる。
これを第1の実施例の半導体レーザ2に適用することで生体光計測に適した光源を供給することができる。
【0064】
なお、上記GaAs基板201は面方位が(100)面から<011>方向へ傾いたオフ基板でも良く、また、上記歪量子井戸活性層205は、障壁層に引張り歪を加えた歪補償構造でも良い。また、上記InGaAsP量子井戸層の歪量は、実験を行ない特性や信頼性を評価することで決定できる。理論計算および実験の結果、波長に関わらず、0.4%≦ε≦1.4%が望ましいことが明らかになった。特に、波長が700nm以上720nm以下の場合は、0.4%≦ε≦1.2%が望ましく、さらに0.4%≦ε≦0.9%が最適範囲である。また、波長が725nm以上760nm以下の場合は、0.6%≦ε≦1.4%の歪の範囲が望ましいことが明らかになった。
【0065】
なお、本実施例およびその変形で実現できるのは下記の半導体レーザ装置である。
1.格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦1.4%で、その組成が0.10≦y≦0.45であり、発光する波長が700nm以上760nm以下であることを特徴とする半導体レーザ装置。
2.格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦1.2%で、その組成が0.10≦y≦0.25であり、発光する波長が700nm以上730nm以下であることを特徴とする半導体レーザ装置。
3.格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦0.9%で、その組成が0.10≦y≦0.2であり、発光する波長が700nm以上720nm以下であることを特徴とする半導体レーザ装置。
4.格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.6%≦ε≦1.4%で、その組成が0.20≦y≦0.35であり、発光する波長が700nm以上760nm以下であることを特徴とする半導体レーザ装置。
5.格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.1%≦ε≦0.45%で、その組成が0.4≦y≦1.4であり、発光する波長が700nm以上760nm以下であることを特徴とする半導体レーザ装置。
6.格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦1.2%で、その組成が0.10≦y≦0.25であり、発光する波長が700nm以上730nm以下であることを特徴とする半導体レーザ装置。
7.所定のGaAs基板(格子定数a)上に設けられた、In1−xGaxAsyP1−y量子井戸層(面内の格子定数aw)および障壁層からなる発光層において、ε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦0.9%、量子井戸層の組成が0.10≦y≦0.20、波長が700nm以上720nm以下であることを特徴とする半導体発光装置を搭載したことを特徴とする半導体レーザ装置。
8.所定のGaAs基板(格子定数a)上に設けられた、In1−xGaxAsyP1−y量子井戸層(面内の格子定数aw)および障壁層からなる発光層において、ε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.6%≦ε≦1.4%、量子井戸層の組成が0.20≦y≦0.35、波長が725nm以上760nm以下であることを特徴とする半導体発光装置を搭載したことを特徴とする半導体レーザ装置。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、複数の波長の光を用いた高精度生体計測およびその光源として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザ集積光源を示す図。
【図2】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザ集積光源とその光出力制御系統を示す図。
【図3】還元型ヘモグロビンと酸化型ヘモグロビンの吸収係数の波長依存性を示す図。
【図4】本発明に用いた半導体レーザの結晶成長構造を示す図。
【図5】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザ集積光源を用いた生体計測装置を示す図。
【図6】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザ集積光源を示す図。
【図7】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザ集積光源の断面図。
【図8】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザ集積光源とその光出力制御系統を示す図。
【図9】本発明の一実施形態を示す、光源モジュールを用いた生体光計測装置を示す図。
【図10】本発明の一実施形態を示す、光源モジュールを用いた生体光計測装置のプローブ断面図。
【図11】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザ集積光源の断面図。
【図12】本発明の一実施形態を示す、半導体レーザの断面図。
【符号の説明】
【0068】
1,2,3:半導体レーザ素子、4:サブマウント、5,6,7,8:電極配線用パッド、9:半導体レーザ光出力光出力モニタ素子、10:ヒートシンク、11:モニタ信号分離回路、12,13,14:発光素子駆動電源、15:光源、16:光源ドライバ、17:制御・表示用パソコン、18:送信機、19:パルス発生器、20:CDMAエンコード回路、21バンドルファイバ、22生体、23:受光素子モジュール、24:プローブ、25:アナログ増幅器、26:CDMAデコード回路、27:受信機、28:光源、29:光源モジュール、30:光出力安定化回路、31:ケース、32給電コネクタ、33:アバランシェフォトダイオード、34:制御回路、101:n型GaAs基板、102:n型クラッド層、103:活性層、104:p型クラッド層、105:p型コンタクト層、120,121:垂直共振器面発光型レーザ、122:垂直共振器面発光型レーザ、123:サブマウント、124:半導体レーザ光出力光出力モニタ素子、125:ヒートシンク、126:キャップ、130:半導体レーザ素子、131:レンズ、201:n型GaAs基板、202:n型GaAsバッファ層、203:n型AlGaInPクラッド層、204:n型AlGaInP光ガイド層、205:歪量子井戸活性層、206:p型AlGaInP光ガイド層、207:第1p型AlGaInPクラッド層、208:第2p型AlGaInPクラッド層、209:p型GaInPキャップ層、210:p型GaAsキャップ層、211:絶縁膜、212:p電極、213:n電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の表面に複数の光信号を出射する光源装置と、前記生体の内部を前記複数の光信号が通過して該生体の表面から放出される複数の光信号を検出する受光素子と、前記受光素子で検出された複数の光信号を受信し、該複数の光信号を波長ごとに分離する信号分離回路と、を備え、
前記光源装置は、サブマウント上に搭載され可視から赤外の波長範囲で互いに異なる波長を有する複数の半導体発光素子と、前記複数の半導体発光素子に接続され光信号出力を制御する駆動用回路と、前記複数の半導体発光素子から放射される各々の光信号出力を検知する一つの光出力モニタ素子とが一つに収納されたパッケージを具備してなり、
前記一つの光出力モニタ素子で検出された複数の光信号を波長ごとに分離するモニタ信号分離回路を備え、
前記モニタ信号分離回路により分離されたそれぞれの波長を有する光信号を、該それぞれの波長を発する前記半導体発光素子に接続された前記駆動用回路の各々に帰還させることにより、前記複数の半導体発光素子の光信号出力の制御を行うことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項2】
前記複数の半導体発光素子から発する光信号は、前記生体を組成する複数の生体物質に対する前記複数の半導体発光素子から発する光信号の波長ごとの吸収係数の差が、所定値より大きくなるように選定された2種類の波長と、前記2種類の波長の中間の波長を少なくとも1種類含むことを特徴とする請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項3】
前記複数の光信号の波長の中で最も短い波長が、705±5nmであることを特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。
【請求項4】
前記複数の光信号が、755±5nmを含む波長を有することを特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。
【請求項5】
前記光源装置および前記受光素子が、前記生体の体温を検知できる程度の距離に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項6】
前記半導体発光素子から放射される光を拡げる手段を有することを特徴とする請求項5に記載の生体光計測装置。
【請求項7】
使用環境における前記半導体発光素子の波長変動が、前記半導体発光素子ごとに±5nm以内であることを特徴とする請求項5に記載の生体光計測装置。
【請求項8】
前記半導体発光素子の光放出端面における、該光放出端面から放射される光の波長の反射率が、50%以上であることを特徴とする請求項5に記載の生体光計測装置。
【請求項9】
前記半導体発光素子が、セルフパルセーション動作をすることを特徴とする請求項5に記載の生体光計測装置。
【請求項10】
前記半導体発光素子の少なくとも一つが、格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、
前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦1.4%で、その組成が0.10≦y≦0.45であり、発光する波長が700nm以上760nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項11】
前記半導体発光素子の少なくとも一つが、格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、
前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦1.2%で、その組成が0.10≦y≦0.25であり、発光する波長が700nm以上730nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項12】
前記半導体発光素子の少なくとも一つが、格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、
前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦0.9%で、その組成が0.10≦y≦0.2であり、発光する波長が700nm以上720nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項13】
前記半導体発光素子の少なくとも一つが、格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、
前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.6%≦ε≦1.4%で、その組成が0.20≦y≦0.35であり、発光する波長が725nm以上760nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項14】
計測対象とすべき生体を組成する複数の生体物質のそれぞれが有する計測用の光の波長ごとの吸収係数の差が、所定値より大きくなるような2種類の波長と、前記2種類の波長の中間の波長の少なくとも1つとをそれぞれ発する複数のレーザ装置が一つのパッケージに搭載された半導体レーザ装置。
【請求項15】
前記レーザ装置が有する複数の波長の中で最も短い波長が、705±5nmである請求項14記載の半導体レーザ装置。
【請求項16】
前記複数の波長に、755±5nmの波長を含む請求項14記載の半導体レーザ装置。
【請求項17】
前記レーザ装置から発するレーザ光を広げる手段を有する請求項14に記載の半導体レーザ装置。
【請求項18】
前記レーザ装置を構成する素子ごとの使用環境に応じた波長変動が、±5nm以内である請求項14に記載の半導体レーザ装置。
【請求項19】
前記レーザ装置を構成する素子の少なくとも一つが、格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、
前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦1.4%で、その組成が0.10≦y≦0.45であり、発光する波長が700nm以上760nm以下であることを特徴とする請求項14に記載の半導体レーザ装置。
【請求項1】
生体の表面に複数の光信号を出射する光源装置と、前記生体の内部を前記複数の光信号が通過して該生体の表面から放出される複数の光信号を検出する受光素子と、前記受光素子で検出された複数の光信号を受信し、該複数の光信号を波長ごとに分離する信号分離回路と、を備え、
前記光源装置は、サブマウント上に搭載され可視から赤外の波長範囲で互いに異なる波長を有する複数の半導体発光素子と、前記複数の半導体発光素子に接続され光信号出力を制御する駆動用回路と、前記複数の半導体発光素子から放射される各々の光信号出力を検知する一つの光出力モニタ素子とが一つに収納されたパッケージを具備してなり、
前記一つの光出力モニタ素子で検出された複数の光信号を波長ごとに分離するモニタ信号分離回路を備え、
前記モニタ信号分離回路により分離されたそれぞれの波長を有する光信号を、該それぞれの波長を発する前記半導体発光素子に接続された前記駆動用回路の各々に帰還させることにより、前記複数の半導体発光素子の光信号出力の制御を行うことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項2】
前記複数の半導体発光素子から発する光信号は、前記生体を組成する複数の生体物質に対する前記複数の半導体発光素子から発する光信号の波長ごとの吸収係数の差が、所定値より大きくなるように選定された2種類の波長と、前記2種類の波長の中間の波長を少なくとも1種類含むことを特徴とする請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項3】
前記複数の光信号の波長の中で最も短い波長が、705±5nmであることを特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。
【請求項4】
前記複数の光信号が、755±5nmを含む波長を有することを特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。
【請求項5】
前記光源装置および前記受光素子が、前記生体の体温を検知できる程度の距離に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項6】
前記半導体発光素子から放射される光を拡げる手段を有することを特徴とする請求項5に記載の生体光計測装置。
【請求項7】
使用環境における前記半導体発光素子の波長変動が、前記半導体発光素子ごとに±5nm以内であることを特徴とする請求項5に記載の生体光計測装置。
【請求項8】
前記半導体発光素子の光放出端面における、該光放出端面から放射される光の波長の反射率が、50%以上であることを特徴とする請求項5に記載の生体光計測装置。
【請求項9】
前記半導体発光素子が、セルフパルセーション動作をすることを特徴とする請求項5に記載の生体光計測装置。
【請求項10】
前記半導体発光素子の少なくとも一つが、格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、
前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦1.4%で、その組成が0.10≦y≦0.45であり、発光する波長が700nm以上760nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項11】
前記半導体発光素子の少なくとも一つが、格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、
前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦1.2%で、その組成が0.10≦y≦0.25であり、発光する波長が700nm以上730nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項12】
前記半導体発光素子の少なくとも一つが、格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、
前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦0.9%で、その組成が0.10≦y≦0.2であり、発光する波長が700nm以上720nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項13】
前記半導体発光素子の少なくとも一つが、格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、
前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.6%≦ε≦1.4%で、その組成が0.20≦y≦0.35であり、発光する波長が725nm以上760nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項14】
計測対象とすべき生体を組成する複数の生体物質のそれぞれが有する計測用の光の波長ごとの吸収係数の差が、所定値より大きくなるような2種類の波長と、前記2種類の波長の中間の波長の少なくとも1つとをそれぞれ発する複数のレーザ装置が一つのパッケージに搭載された半導体レーザ装置。
【請求項15】
前記レーザ装置が有する複数の波長の中で最も短い波長が、705±5nmである請求項14記載の半導体レーザ装置。
【請求項16】
前記複数の波長に、755±5nmの波長を含む請求項14記載の半導体レーザ装置。
【請求項17】
前記レーザ装置から発するレーザ光を広げる手段を有する請求項14に記載の半導体レーザ装置。
【請求項18】
前記レーザ装置を構成する素子ごとの使用環境に応じた波長変動が、±5nm以内である請求項14に記載の半導体レーザ装置。
【請求項19】
前記レーザ装置を構成する素子の少なくとも一つが、格子定数aを有するGaAs基板上に設けられ、面内の格子定数awを有するIn1−xGaxAsyP1−y量子井戸層および障壁層からなる発光層を有し、
前記発光層は、前記量子井戸層がε(%)=(aw−a)/a×100で定義される歪εが0.4%≦ε≦1.4%で、その組成が0.10≦y≦0.45であり、発光する波長が700nm以上760nm以下であることを特徴とする請求項14に記載の半導体レーザ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−229239(P2008−229239A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76844(P2007−76844)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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