説明

発光ダイオードおよびその製造方法、発光ダイオードアレイ

【課題】窒化物半導体を使って、発光効率が高く、スペクトル線幅の狭い青色乃至紫色発光ダイオードを提供する。
【解決手段】発光ダイオードは下側クラッド層と、前記下側クラッド層上に形成された窒化物半導体よりなる発光層と、前記発光層上に形成された上側クラッド層と、前記下側クラッド層に接触した下側オーミック電極と、前記上側クラッド層に接触し、光学窓を形成された上側オーミック電極と、を含み、前記下側クラッド層と前記発光層と前記上側クラッド層とは、マイクロキャビティを形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に発光ダイオードに係り、特に窒化物半導体を使った発光ダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体は大きなバンドギャップを有し、かかる窒化物半導体を発光層として使った青色〜紫色波長の発光ダイオードが実現されている。
【0003】
発光ダイオードは、発光層中において生じるフォトンの自発放出を動作原理とする素子であるが、従来、発光ダイオードにいわゆる光マイクロキャビティ(optical microcavity)を形成した場合、フォトンの自発放出速度が変化し、その結果、発光効率が向上し発光スペクトルが鋭くなるなどの好ましい効果が得られることが知られている。
【0004】
光マイクロキャビティは、ファブリ・ペロ共振器の一種であるが、共振器長が数波長程度と短く、その結果、共振器中に生じるモードが制約され、このためこのような光マイクロキャビティを発光ダイオードと組みあわせると、発光スペクトル中にフォトンの自発放出が抑制される禁制帯が出現する。その結果、上記の発光スペクトルが鋭くなる効果、あるいは発光効率が向上する効果を得ることが可能となる。
【特許文献1】特許第2735057号
【特許文献2】特許第2780691号
【特許文献3】特許第2890396号
【特許文献4】特許第3135041号
【特許文献5】特許第3538275号
【非特許文献1】J. D. Joannopoulos et al., Photonic Crystals, Princeton University Press, Princeton, U.S.A., 1995
【非特許文献2】E. F. Shubert, Light-Emitting Diodes Second Ed., p.257, Cambridge University Press, Cambridge, U.K., 2006
【非特許文献3】E. F. Schubert et al., Science 265, 943, 1994
【非特許文献4】T. Ichinohe et al., Thin Solid Films 377-378, vol.87, 2000
【非特許文献5】D. Byrne, et al., Jpn. J. Appl. Phys. Vol.42, (2003) pp.L1509-L1511
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このような光マイクロキャビティを、青色ないし青紫色で発光する窒化物発光ダイオードに適用しようとしても、従来の窒化物発光ダイオードは、図1に示すように一般に厚いサファイア基板上に形成されるため、また発光波長が約450nmと短いため、所望のマイクロキャビティを実現することが不可能であった。
【0006】
図1を参照するに、従来の窒化物発光ダイオードは、サファイア基板11上に形成されたGaNよりなる下側クラッド層12と、前記下側クラッド層12上に形成されたGaInN層あるいはGaInN/GaN量子井戸構造などよりなる発光層13と、前記発光層13上に形成されたGaNよりなる上側クラッド層14を含み、前記上側クラッド層14上には透明導電膜15を介して上部電極16Aが、また前記下側クラッド層12の一部には下側電極16Bが形成されている。
【0007】
さらに前記サファイア基板11の下面に金属反射膜17が形成され、出力光は、前記上部クラッド層14から、前記透明導電膜15を介して上方に取り出される。
このような構造の従来の窒化物発光ダイオードでは、前記金属反射膜17から上部クラッド層14の上端面までの距離Lcavが、必然的に数百ミクロン以上となり、様々な定在波のモードが可能であるため、前記発光層13中において生じる自発放出は制御されることがなく、広い発光スペクトルが生じてしまう。またこれに伴って、発光効率も低下する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一の側面によれば本発明は上記の課題を、反射面を有し下側オーミック電極をなす金属基板と、前記金属基板の前記反射面上に形成された下側クラッド層と、前記下側クラッド層上に形成された窒化物半導体よりなる発光層と、前記発光層上に形成された上側クラッド層と、前記上側クラッド層の上面に接触し、光学窓を形成された上側オーミック電極と、を含み、前記下側クラッド層と前記発光層と前記上側クラッド層とは、前記上側クラッド層の上面と前記金属基板の反射面との間にマイクロキャビティを形成し、前記マイクロキャビティは前記発光ダイオードの発光波長の1/2波長の整数倍のキャビティ長を有することを特徴とする発光ダイオードにより、解決する。
【0009】
他の側面によれば本発明は上記の課題を、反射面を有する下側オーミック電極と、前記金属基板の前記反射面上に形成された下側クラッド層と、前記下側クラッド層上に形成された窒化物半導体よりなる発光層と、前記発光層上に形成された上側クラッド層と、前記上側クラッド層の上面に接触し、光学窓を形成された上側オーミック電極と、を含み、前記下側クラッド層と前記発光層と前記上側クラッド層とは、前記上側クラッド層の上面と前記下側オーミック電極の反射面との間にマイクロキャビティを形成し、前記マイクロキャビティは前記発光ダイオードの発光波長の1/2波長の整数倍のキャビティ長を有することを特徴とする発光ダイオードの製造方法であって、前記上側クラッド層を支持基体上にMOCVD法によりエピタキシャルに成長させる工程と、前記上側クラッド層上に発光層をMOCVD法によりエピタキシャルに成長させる工程と、前記発光層上に前記下側クラッド層をMOCVD法によりエピタキシャルに成長させる工程と、前記下側クラッド層上に、反射膜を形成する工程と、前記反射膜上に、前記下側オーミック電極を形成する工程と、前記支持基体を、前記上側クラッド層から剥離する工程と、前記上側クラッド層をエッチングし、前記上側クラッド層の膜厚を、前記上側クラッド層と前記発光層と前記下側クラッド層とよりなる光キャビティがマイクロキャビティを形成するような厚さに設定する工程と、前記上側クラッド層上に前記上側オーミック電極を形成する工程と、を含むことを特徴とする発光ダイオードの製造方法。により、解決する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、窒化物半導体よりなる発光層を有する発光ダイオードにおいても、マイクロキャビティを形成することが可能となり、鋭い発光スペクトルと高い発光効率を実現することが可能となる。その際、本発明ではこのようなマイクロキャビティを有する発光ダイオードを、下側オーミック電極を構成する金属基板上に直接形成することができ、例えばこのような発光ダイオードをサファイアなどの絶縁結晶基板上に形成した場合に比べて放熱特性を格段に向上させることが可能となる。このため、本発明の発光ダイオードを金属基台上に多数集積化して高密度発光ダイオードアレイを構成することが可能となる。特に本発明による製造方法では、前記下側クラッド層、発光層および上側クラッド層を全てMOCVD法で形成する場合であっても、前記上側クラッド層上に酸化等の誘電体多層膜からなる多層反射膜を形成することが可能であり、MOCVD法を使った効率のよい発光ダイオードの製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[原理]
マイクロキャビティのQ(quality factor)を表すフィットネス値(F値)は、式
F=π(1−√R
で与えられる。ここで、R,Rは,図2に示す、ファブリ・ペロ干渉計を構成する2枚の反射鏡1,2の反射率である。
【0012】
前記F値を使って、マイクロキャビティのスペクトル半値幅は、
Δλ=λcav/F
で与えられる。ただしλcavは、前記ファブリ・ペロ干渉計の共振波長である。
【0013】
マイクロキャビティによる自然放出の発光制御は、キャビティ内の光学モード密度が自由空間の値に比べて、共振波長において非常に高くなり、非共振波長において低くなることを原理としている。この効果が顕著になるのは、キャビティ長Lcav(前記反射鏡1,2の間の距離)が発光波長に近い場合であり、λ/2の場合(Lcav=λ/2)において最高になる。
【0014】
そこで、この原理を利用すれば、従来の発光ダイオードより圧倒的に効率の高い発光ダイオードを実現できる可能性がある。本発明は、マイクロキャビティを青色発光ダイオード,紫外発光ダイオードに適用することで従来の発光ダイオードの効率の限界を超える素子を実現するものである。
【0015】
以下では、例えばGaN発光ダイオードの発光波長が450nmであるとして、マイクロキャビティのキャビティ長を900nm(発光波長の2倍)とした時に、どの程度の利得があるかを計算する。
【0016】
図2のマイクロキャビティ内にGaN発光ダイオードの発光層を置いた場合に得られる利得(integrated enhancement ratio)Gintは、式
Gint=(ξ/2)(2/π)(1−R)/(1−/R)√πln2(λ/Δλn)(λcav/Lcav)(τcav/τ)
で与えられる(非特許文献2)。
【0017】
ここでξはキャビティ内の活性層の位置で決まるパラメータであり、前記活性層がキャビティ中に形成される定在波の腹に当たる位置の場合は値2を、節に当たる部分にあれば値0を、一様に活性層が分布している場合には値1をとる。以下では、腹に近い位置に活性層を設置できるとして、前記パラメータξの値として値1.5を仮定することにする。Δλnは、発光スペクトルの半値幅である。またτとτcavは、それぞれ、自然放出におけるライフタイムおよびキャビティ内でのライフタイムの値であり、ここではτcav/τ=1とする。
【0018】
前記利得Gintの値は反射率RとRの値によって変化するが、以下では、前記反射鏡2は全反射するものとして、反射率Rの値は1とする。
【0019】
前記反射鏡1の反射率Rをまず0.5として計算してみると、フィットネス値Fは10、スペクトル半値幅は45nm、利得Gintは9(F=10、Δλ=45nm、Gint=9)となる。また、反射率Rの値を0.8とすると、フィットネス値Fは30、スペクトル半値幅は15nm(F=30、Δλ=15nm)となり、利得Gintとして値11(Gint=11)が得られる。マイクロキャビティの効果が大きくなるのは当然ながらRの値が大きい場合である。GaN系発光ダイオードの半値幅は20nm程度であるので、これよりΔλの値が小さい方がマイクロキャビティ効果は増大する。一方、GaN系発光ダイオードの発光波長の温度依存性は約0.07nm/℃であるので、あまりFを大きくすると、実用上の問題が生じる。
【0020】
上記原理を利用した、高効率の赤色発光ダイオードは、既に実現されている(参考文献3)。出願人も以前、マイクロキャビティを利用して、シリコンナノクリスタルからの発光を制御する試みを行い、スペクトルの先鋭化と発光強度の上昇を確認している(参考文献4)。
【0021】
一方、先にも述べたように、図1のGaN発光ダイオードにこの原理を適用しようとしても、ファブリ・ペロ共振器が厚いサファイア基板11を含むことになり、その実現は不可能である。
【0022】
最近、GaN系半導体膜をサファイア基板から剥離する技術が実用化され、これを利用した発光ダイオードが市販されている。
【0023】
そこで、本発明は、このようなサファイア基板から剥離した発光ダイオードを使い、一方の表面に金属反射鏡を前記反射鏡R2として形成し、他方の表面である剥離面をエッチング処理してキャビティ長を所定値に設定することにより、所望のマイクロキャビティを実現する技術を提供する。
【0024】
好ましくは、前記エッチング面上に多層膜反射鏡を前記反射鏡1として形成し、前記多層反射膜1の反射率R1を、金属反射鏡2の反射率(銀で約0.95以上)以下、03以上とする。この範囲の反射率は、例えばSiOとTaのような屈折率の大きく異なる2種類の誘電体膜をイオンビームスバッタ法などの膜厚の厳密な制御ができる薄膜形成法で堆積すれば容易に実現できる。
【0025】
本発明の技術により達成される利点として、以下が挙げられる。
【0026】
(1)自然放出をキャビティ構造で制御することにより、発光効率が大きく向上する。
【0027】
(2)キャビティ構造の採用により、出力光の出射方向が反射鏡1に対して垂直方向に揃い、指向性が向上する。
【0028】
(3)前記(2)の結果、表面からの光取り出し効率が大きく向上する。
【0029】
(4)前記(2)の結果、横方向への光の損失が減少する。
【0030】
このように、本発明は、従来実現されなかった高輝度紫色〜緑色発光ダイオードをMOCVD法で実現することを可能とする。
【0031】
上記(2)の効果を積極的に利用すると、1枚のチツプ内に多数のマイクロ発光ダイオードを形成した発光ダイオードアレイを形成することができる。

[第1の実施形態]
次に、本発明の第1の実施形態による青色発光ダイオードの製造工程を、図3A〜3Jを参照しながら説明する。図示の例では、青色発光ダイオードの発光波長を450nmとする。ただし本発明はかかる特定の発光波長に限定されるものではなく、本発明は発光波長が550nm〜330nmの範囲の緑色〜紫色発光ダイオードに適用が可能である。
【0032】
最初に図3Aを参照するに、本実施形態では厚さが例えば300μmのサファイア基板21上にGaNよりなる犠牲層22をMOCVD法により、例えば20nmの膜厚で、エピタキシャルに形成する。
【0033】
次に前記図3Aの工程ではさらに、前記GaN犠牲層22上に、GaNに対してエッチングマーカとして作用するInGaN膜23をMOCVD法により、例えば10nmの膜厚でエピタキシャルに形成し、前記エッチングマーカ層23上にn型GaNよりなる第1クラッド層24を前記犠牲層22と同様にして、ただし前記青色発光ダイオードの発光波長の3/2波長+55nmの厚さに相当する730nmの膜厚で、エピタキシャルに形成する。
【0034】
次に前記図3Aの工程ではさらに、前記第1クラッド層22上にInGaN/GaN量子井戸構造を有する発光層25が、厚さが7nmのInGaN膜と厚さが10nmのGaN膜を交互に繰り返し堆積することにより、全体として、前記発光波長の約1/4波長である110nmの膜厚に形成される。さらに前記発光層25上に、p型GaNよりなる第2クラッド層26を、前記第1クラッド層24と同様にして、60nmの膜厚でエピタキシャルに形成する。
【0035】
図3Aの例では、前記第1クラッド層24、発光層25および第2クラッド層26が、全体で2波長分のキャビティ長Lcavを有するマイクロキャビティCavを形成し、前記発光層25は、このようにして形成されたマイクロキャビティ内に生じる定在波の腹の部分に位置するように設計されている。
【0036】
次に図3Bの工程において前記図3Aの第2クラッド層26上に、Ag膜27が反射層として、例えば1000nmの膜厚に、例えばスパッタ法により形成され、さらに前記Ag膜27上にCu膜28が、例えば電解メッキ法により、任意の膜厚に形成される。前記Ag膜27はその下の第2クラッド層26に対してオーミック接触し、このため前記Ag膜27およびCu膜28は、前記第2のクラッド層のオーミック電極を形成する。
【0037】
次に、図3Cの工程において前記図3Bの構造が上下反転され、さらに前記GaN犠牲層22に前記サファイア基板21を介してレーザビームを照射することによって、図3Dに示すように前記サファイア基板21が剥離・除去される。
【0038】
次に図3Eの工程において前記GaN犠牲層22を、塩素ガスなどをエッチングガスとしたドライエッチングにより除去し、さらに前記エッチングマーカ層23を構成する元素、例えばInを質量分析計によりモニタしながらエッチングを継続し、前記エッチングマーカ層23までをエッチング・除去することにより、図3Fに示す、マイクロキャビティ中に発光層25を配置した構造が得られる。
【0039】
さらに、このようにして露出した前記エッチングマーカ層23を、例えばInの消失を質量分析計によりモニタしながらエッチング・除去することにより、図3Fに示す、マイクロキャビティ中に発光層25を配設した構造が得られる。なお、このエッチングマーカ層23は残しておいてもよい。その場合には、以後の構造に、前記エッチングマーカ層23が含まれることになる。
【0040】
次に図3Gの工程で、前記図3Fの構造上に厚さが77nmのSiO2膜と厚さが52nmのTa25膜を交互に繰り返し積層した構造の多層反射膜29を形成し、図3Hの工程において前記多層反射膜29の一部を、平面図上の中央部において覆うレジストパターンRを形成する。
【0041】
さらに図3Hの工程では、前記レジストパターンRをマスクに、Siあるいは酸素を例えば200keVの加速電圧下、3×1014cm-2のドーズ量で、主に前記マイクロキャビティCavの下部、特に前記第2クラッド層26にイオン注入し、素子の周辺部に高抵抗電流狭窄構造24Iを形成する。
【0042】
さらに図3Iの工程において、前記レジストパターンRをマスクに前記多層反射膜29をパターニングし、前記第1クラッド層24を前記レジストパターンRの周辺部で、リング状に露出する。
【0043】
さらに図3Hの工程において、前記第1クラッド層24のリング状露出部にリング状のオーミック電極30を、厚さが1.7μmのAl膜と厚さが0.25μmのNi膜と厚さが0.5μmのAu膜の積層の形で形成される。本実施形態では、前記リング状オーミック電極30は、その開口部が、径が0.2mmの光学窓30Aを画成し、前記発光層25で発生した青色光は、前記光学窓30Aを通って外部へと出射する。
【0044】
図4は、前記マイクロキャビティCavをより詳細に示す図である。
【0045】
図4を参照するに、前記マイクロキャビティCavは全体として2λの共振器長を有しており、前記発光層25の中央が前記マイクロキャビティ中に形成される定在波の腹に位置するように形成されている。ここで、前記発光層25の中央は前記マイクロキャビティ中に形成される定在波の別の腹の位置に形成してもよく、また前記マイクロキャビティ長Lcavは1/2λの整数倍であればよいが、前記キャビティ長Lcavが増大すると多数のモードの発光が可能となるため、4λ以下であることが望ましい。このような共振器長の短いマイクロキャビティでは、先にも述べたように可能なモードが制限され、このため基本モードにエネルギが集中し、鋭い発光スペクトルが得られると同時に、発光効率が大きく向上する。また、前記多層反射膜29を通って出射する出力光の指向性が向上し、前記出力光は前記多層反射膜29に垂直方向に、高い指向性をもって出射する。
【0046】
前記多層反射膜29は、30〜90%の透過率を有するのが好ましい。例えば前記多層反射膜29中における前記SiO2膜とTa25膜の繰り返し回数を2回とすると前記30%の透過率が得られ、一方前記繰り返し回数を6回とすると、前記90%の透過率が得られる。あるいは前記多層反射膜29は省略することも可能である。
【0047】
例えば、前記多層反射膜29を構成する2種類の誘電体膜の屈折率をそれぞれn1,n2とすると、波長λの光に対する前記多層反射膜29の反射率を、一方の誘電体膜の膜厚L1がλ/4n1で他方の誘電体膜の膜厚Lがλ/4n2である場合に最大にすることができる(非特許文献2)。そこで、前記SiO2膜の屈折率が1.46でTa25膜の屈折率が2.16であることから、例えば波長が450nmの光を発光する発光ダイオードの場合、前記SiO2膜の膜厚を77nmに、Ta25膜の膜厚を52nmとすることで、前記多層反射膜29の反射率を最大にすることができる。
【0048】
また図示の例では、前記発光層25を多重量子井戸構造としているが、本発明は、かかる特定の構成に限定されるものではなく、前記発光層25として単一の量子井戸層、あるいはバルクInGaN層を使うことも可能である。さらに前記発光層中のInGaN層は、他の元素、例えばAlなどを含むことも可能である。
【0049】
本実施形態では、発光波長が450nmの場合を想定して説明したが、前記InGaN/GaN発光層25中におけるInの濃度を調整することにより、他の波長での発光も可能である。その場合には、前記クラッド層24,26の膜厚および前記発光層25の膜厚は、上記の値から変化するが、図4で説明した関係は維持される必要がある。
【0050】
本願発明では、多層反射膜29が、前記発光ダイオードの本体部分、すなわち第1クラッド層24、発光層25および第2クラッド層26の積層構造が形成された後で形成されることに注意すべきである。このため、本発明では、多層反射膜29の形成工程が前記第1クラッド層24、発光層25および第2クラッド層26の形成工程に影響することがなく、前記第1クラッド層24、発光層25および第2クラッド層26を、成膜効率の高いMOCVD法を使って効率よく形成することができる。
【0051】
これに対し、例えば前記非特許文献4の技術では、マイクロキャビティ構造を有する青色発光ダイオードをサファイア基板上に直接に形成しているため、多層反射膜を、青色発光ダイオードの本体をなす下側クラッド層とその下のサファイア基板との間に設ける必要がある。このため前記非特許文献4の技術では、発光ダイオードの本体部分は多層反射膜を形成した後、その上に形成され、多層反射膜として、前記発光ダイオードの本体部分がエピタキシャル成長により形成できるように、窒化物半導体を使う必要がある。しかし、窒化物半導体を使った多層反射膜で大きな反射率を得るためには、前記多層反射鏡をGaN膜とAl組成の大きいAlGaN膜の積層により形成する必要がある。しかし、AlGaN膜はAl組成が大きくなるとMOCVD法で成長させた場合、多量の欠陥を含むようになるため、MOCVD法を使うことができない。このため前記非特許文献4では成長レートが低く結晶性が悪い、その結果発光効率の低い、MBE法により成膜を行っている。
【0052】
これに対し本発明は、成長レートが高く結晶性の優れた成膜法であるMOCVD法を使って発光ダイオードを効率良く、安価に製造することを可能とする。
【0053】
なお、本実施形態において、図5に示すように、前記多層反射膜29を必要に応じて省略することも可能である。この場合には、前記第1クラッド層24の上面が反射鏡として作用する。
【0054】
また、本実施形態において、図6に示すように、第1クラッド層24と多層反射膜29との間に、ITO(In23・SnO2)などの透明導電膜30Bを、前記オーミック電極30の一部として設けることも可能である。このような構成によれば、前記オーミック電極30より、より均一な電流注入を行うことが可能となる。

[第2の実施形態]
図7は、本発明の第2の実施形態による発光ダイオードアレイの構成を示す。ただし図中、先に説明した部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0055】
図7を参照するに、前記第2クラッド層26、発光層25および第1クラッド層24を積層しマイクロキャビティCavを構成する積層体が、例えばCuよりなる支持基台61上に絶縁膜62を介して支持されており、前記積層体には素子領域I,II,III,・・・が画成されている。
【0056】
また各々の素子領域I,II,III,・・・では、前記リング状電極30およびリング状電流狭窄構造25Iが形成されており、また前記図5の紙面に垂直方向に前記Ag反射膜27とCu電極膜28を積層した配線パターンが連続的に延在している。
【0057】
また各素子領域I,II,III,・・・において前記リング状電極30に対応して、リング状に電流狭窄構造25Iが形成されている。
【0058】
かかる構成の発光ダイオードアレイでは、先の実施形態で説明した発光ダイオードが行列状に配列しているが、一つの配線パターンを選択し、一つのリング状電極30を選択することにより、任意の素子領域の発光ダイオードを発光させることができる。
【0059】
このような発光ダイオードアレイを用いれば、微小な近接画像伝送装置を実現することが可能となる。
【0060】
図8は、前記図7の発光ダイオードアレイの一変形例を示す。
【0061】
図8を参照するに、本実施形態では前記支持基台61および絶縁膜62が省略され、その代わりに前記下側電極28が支持基台61を兼用している。
【0062】
前記下側電極28はその上面にAg反射膜27を一様に担持しており、それぞれの素子領域上に前記第1の実施形態で説明した発光ダイオードが多数形成されている。
【0063】
かかる構成では、前記発光ダイオード中で発生した熱が前記支持基台を兼用する下側電極に効率的に吸収され、前記発光ダイオードを高い密度で配列し、これを同時に駆動するような場合でも、発光ダイオードの昇温を効果的に抑制することができる。すなわち、本実施形態では、前記下側電極28は、支持基台として作用するのみならず、効果的なヒートシンクとしても作用する。
【0064】
以上、本発明を好ましい実施形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した要旨内において様々な変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】従来のGaN発光ダイオードの構成を示す図である。
【図2】マイクロキャビティの原理を説明する図である。
【図3A】本発明の第1の実施形態による発光ダイオードの製造工程を説明する図(その1)である。
【図3B】本発明の第1の実施形態による発光ダイオードの製造工程を説明する図(その2)である。
【図3C】本発明の第1の実施形態による発光ダイオードの製造工程を説明する図(その3)である。
【図3D】本発明の第1の実施形態による発光ダイオードの製造工程を説明する図(その4)である。
【図3E】本発明の第1の実施形態による発光ダイオードの製造工程を説明する図(その5)である。
【図3F】本発明の第1の実施形態による発光ダイオードの製造工程を説明する図(その6)である。
【図3G】本発明の第1の実施形態による発光ダイオードの製造工程を説明する図(その7)である。
【図3H】本発明の第1の実施形態による発光ダイオードの製造工程を説明する図(その8)である。
【図3I】本発明の第1の実施形態による発光ダイオードの製造工程を説明する図(その9)である。
【図3J】本発明の第1の実施形態による発光ダイオードの製造工程を説明する図(その10)である。
【図4】前記第1の実施形態による発光ダイオードの細部を示す図である。
【図5】第1の実施形態の一変形例による発光ダイオードの構成を示す図である。
【図6】第1の実施形態の一変形例による発光ダイオードの構成を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態による発光ダイオードアレイの構成を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態による発光ダイオードアレイの一変形例の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1,2 反射鏡
21 サファイア基板
22 第1クラッド層
23 エッチングマーカ層
24 第2クラッド層
25 発光層
25I 電流狭窄構造
26 第3クラッド層
27 Ag反射膜
28 下側電極
29 多層反射膜
30 上側電極
30A 光学窓
30B 透明導電膜
61 支持基体
62 絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射面を有し下側オーミック電極をなす金属基板と、
前記金属基板の前記反射面上に形成された下側クラッド層と、
前記下側クラッド層上に形成された窒化物半導体よりなる発光層と、
前記発光層上に形成された上側クラッド層と、
前記上側クラッド層の上面に接触し、光学窓を形成された上側オーミック電極と、
を含み、
前記下側クラッド層と前記発光層と前記上側クラッド層とは、前記上側クラッド層の上面と前記金属基板の反射面との間にマイクロキャビティを形成し、
前記マイクロキャビティは前記発光ダイオードの発光波長の1/2波長の整数倍のキャビティ長を有することを特徴とする発光ダイオード。
【請求項2】
さらに前記上側クラッド層上面のうち、前記上側オーミック電極が前記光学窓を形成する部分には多層反射膜が設けられ、前記マイクロキャビティは、前記上側クラッド層と前記多層反射膜との界面と、前記金属基板上の反射面との間に形成されることを特徴とする請求項1記載の発光ダイオード。
【請求項3】
前記多層反射膜は酸化膜の積層よりなることを特徴とする請求項2記載の発光ダイオード。
【請求項4】
前記上側オーミック電極は、前記上側クラッド層の前記上面を前記光学窓において覆う透明導電膜を含むことを特徴とする請求項1記載の発光ダイオード。
【請求項5】
前記透明導電膜上には、30〜90%の透過率を有する反射膜が形成されていることを特徴とする請求項4記載の発光ダイオード。
【請求項6】
前記上側クラッド層中には、前記上側オーミック電極より導入されたキャリアを狭窄する電流狭窄構造が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のうち、いずれか一項記載の発光ダイオード。
【請求項7】
前記電流狭窄構造は、酸素原子を含む高抵抗領域であることを特徴とする請求項6記載の発光ダイオード。
【請求項8】
絶縁膜を担持した金属基台と、
前記金属基台上に前記絶縁膜を介して形成された複数の発光ダイオード素子を含み、
前記複数の発光ダイオード素子の各々は、請求項1記載の発光ダイオードよりなることを特徴とする発光ダイオードアレイ。
【請求項9】
反射面を有する下側オーミック電極と、前記金属基板の前記反射面上に形成された下側クラッド層と、前記下側クラッド層上に形成された窒化物半導体よりなる発光層と、前記発光層上に形成された上側クラッド層と、前記上側クラッド層の上面に接触し、光学窓を形成された上側オーミック電極と、を含み、前記下側クラッド層と前記発光層と前記上側クラッド層とは、前記上側クラッド層の上面と前記下側オーミック電極の反射面との間にマイクロキャビティを形成し、前記マイクロキャビティは前記発光ダイオードの発光波長の1/2波長の整数倍のキャビティ長を有することを特徴とする発光ダイオードの製造方法であって、
前記上側クラッド層を支持基体上にMOCVD法によりエピタキシャルに成長させる工程と、
前記上側クラッド層上に発光層をMOCVD法によりエピタキシャルに成長させる工程と、
前記発光層上に前記下側クラッド層をMOCVD法によりエピタキシャルに成長させる工程と、
前記下側クラッド層上に、反射膜を形成する工程と、
前記反射膜上に、前記下側オーミック電極を形成する工程と、
前記支持基体を、前記上側クラッド層から剥離する工程と、
前記上側クラッド層をエッチングし、前記上側クラッド層の膜厚を、前記上側クラッド層と前記発光層と前記下側クラッド層とよりなる光キャビティがマイクロキャビティを形成するような厚さに設定する工程と、
前記上側クラッド層上に前記上側オーミック電極を形成する工程と、
を含むことを特徴とする発光ダイオードの製造方法。
【請求項10】
前記上側クラッド層はエッチングマーカ層を含み、前記エッチング工程は、前記エッチングマーカ層でエッチングを停止する工程を含むことを特徴とする請求項9記載の発光ダイオードの製造方法。
【請求項11】
前記エッチング工程の後、さらに前記エッチングマーカ層を除去する工程を含むことを特徴とする請求項10記載の発光ダイオードの製造方法。
【請求項12】
前記基体を剥離する工程は、前記基体にレーザ光を照射する工程を含むことを特徴とする請求項9〜11のうち、いずれか一項記載の発光ダイオードの製造方法。
【請求項13】
さらに前記エッチング工程の後、前記上側クラッド層上に多層反射膜を、屈折率が互いに異なる第1および第2の酸化膜の積層により形成する工程を含むことを特徴とする請求項9〜12のうち、いずれか一項記載の発光ダイオードの製造方法。

【図2】
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【図1】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図3H】
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【図3I】
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【図3J】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−188249(P2009−188249A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27725(P2008−27725)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(501045021)株式会社ナノテコ (9)
【Fターム(参考)】