説明

発光素子の製造方法および発光素子

【課題】 結晶性を向上させることが可能な発光素子の製造方法および発光素子を提供する。
【解決手段】 本発明の発光素子1の製造方法は、窒化アルミニウムからなる多結晶基板2(2a)を酸素雰囲気中で加熱して多結晶基板2(2a)の表面を酸化させることによって、多結晶基板2(2a)の表面に酸窒化アルミニウムからなる酸化領域を形成する工程と、多結晶基板2(2a)を窒化アルミニウムの融点よりも低い温度であって酸窒化アルミニウムの融点よりも高い温度で加熱して酸化領域を溶解した後、多結晶基板2(2a)を酸窒化アルミ二ウムの融点よりも低い温度に冷却することによって、溶解した酸化領域を固化して緩衝層3を形成する工程と、緩衝層3上に窒化アルミニウムを含む光半導体層4を成長させる工程とを有している。これにより、緩衝層3上に成長させる光半導体層4の結晶性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子の製造方法および発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)を始めとする発光素子またはフォトダイオードを始めとする受光素子について、その層構成あるいはその層のうちの半導体層を基板上に積層させる方法が種々提案されている。特に、発光素子または受光素子に用いられる、窒化アルミニウムを用いた半導体層を、基板上に結晶成長させる場合には半導体層の結晶品質を向上させる必要があった。
【0003】
そこで、基板上に窒化アルミニウムからなる半導体層を結晶成長させる技術として、例えば、サファイアの単結晶基板上に窒化アルミニウムからなる半導体層を成長させる技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−281553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された半導体層成長の技術によれば、サファイアからなる単結晶基板上に窒化アルミニウムからなる半導体層を成長させることから、窒化アルミニウムとサファイアの熱膨張係数が異なるため、窒化アルミニウムからなる半導体層の結晶性を向上させることが困難だった。
【0006】
一方、基板として窒化アルミニウムの単結晶を用いた場合は、例えば直径1cm以上2cm以下程度と小径であり、1つの基板から取ることができる発光素子が少なく、生産性が低いという問題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、半導体層を成長させる際にクラックの発生を抑制することが可能な発光素子の製造方法を提供することにある。また本発明の他の目的は、光半導体層で発光した光を平面方向に拡散させることが可能な発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態にかかる発光素子の製造方法は、窒化アルミニウムからなる多結晶基板を酸素雰囲気中で加熱して該多結晶基板の表面を酸化させることによって、前記多結晶基板の前記表面に酸窒化アルミニウムからなる酸化領域を形成する工程と、前記多結晶基板を前記窒化アルミニウムの融点よりも低い温度であって前記酸窒化アルミニウムの融点よりも高い温度で加熱して前記酸化領域を溶解した後、前記多結晶基板を前記酸窒化アルミ二ウムの融点よりも低い温度に冷却することによって、溶解した前記酸化領域を固化して緩衝層を形成する工程と、前記緩衝層上に窒化アルミニウムを含む光半導体層を成長させる工程とを有する。
【0009】
また、本発明の一実施形態にかかる発光素子は、窒化アルミニウムからなる多結晶基板と、該多結晶基板上に設けられた、前記窒化アルミニウムよりも低い屈折率を持つ酸窒化アルミニウムからなる緩衝層と、該緩衝層上に設けられた光半導体層とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態にかかる発光素子の製造方法によれば、窒化アルミニウムの多結晶基板の表面を酸化させて溶解し、その後固化させることにより緩衝層を形成して、緩衝層上に窒化アルミニウムを含む光半導体層を成長させることから、多結晶基板上に発生する光半導体層のクラックを抑制した状態で形成することができる。
【0011】
また、本発明の一実施形態にかかる発光素子によれば、窒化アルミニウムからなる多結晶基板および光半導体層の間に、窒化アルミニウムよりも低い屈折率を持つ酸窒化アルミニウムからなる緩衝層が設けられていることから、光半導体層で発光した光を、厚み方向と垂直な平面方向に拡散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態にかかる発光素子の製造方法によって製造された発光素子の実施形態の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる発光素子を示す断面図であり、図1のA−A’線で切断したときの断面に相当する。
【図3】本発明の変形例にかかる発光素子を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる発光素子の製造方法に用いる多結晶基板を示す図である。
【図5】本発明の発光素子の製造方法の実施形態の一例の一工程を示す断面図であり、図1のA−A’線で切断したときの断面に相当する。
【図6】本発明の一実施形態にかかる発光素子の製造方法の実施形態の一例の一工程を示す断面図である。
【図7】本発明の変形例にかかる発光素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
【図8】本発明の変形例にかかる発光素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
【図9】本発明の変形例にかかる発光素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の例について図を参照しながら説明する。
【0014】
本発明は以下の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を施すことができる。
【0015】
<発光素子>
図1は本発明の実施の形態の一例の発光素子1の斜視図であり、図2は図1に示す発光素子1の断面図であり、図1のA−A’線で切断したときの断面に相当する。発光素子1は、図1および図2に示すように、多結晶基板2、緩衝層3および光半導体層4を有する。本例において、発光素子1の外部は、屈折率が、例えば1の空気に設定されている。
【0016】
多結晶基板2は、窒化アルミニウムの多結晶体によって構成されている。多結晶体は、窒化アルミニウムの単結晶を複数有するように構成される。窒化アルミニウムの単結晶は、直径が、例えば0.1μm以上10μm以下となるように設定することができる。また、窒
化アルミニウムの単結晶同士の間には小さな空間である結晶粒界を有している。多結晶基板2は、平面視形状が例えば四角形状などの多角形状または円形状などに設定することができる。多結晶基板2は、厚みが、例えば1μm以上1500μm以下に設定される。
【0017】
多結晶基板2の主面2A上には、緩衝層3が設けられている。緩衝層3は、窒化アルミニウムよりも低い屈折率を持つ酸窒化アルミニウムから構成されている。ここで、窒化アルミニウムの屈折率が例えば2.05以上2.15以下となるように設定されることから、酸窒化
アルミニウムの屈折率は、例えば1.74以上1.85以下となるように設定されている。緩衝層3は、厚みが例えば0.01μm以上2μm以下となるように設定されている。
【0018】
緩衝層3上には、窒化アルミニウムを含む光半導体層4が設けられている。本例では、複数の半導体層として、第1半導体層4a、発光層4bおよび第2半導体層4cを用いた場合について説明する。
【0019】
第1半導体層4aは、厚みが0.3μm以上8μm以下に設定されている。第1半導体層
4aには、導電型を付与するために、例えばシリコンなどが添加されている。このようにシリコンを添加することにより、第1半導体層4a内において電子を多数キャリアとすることができる。
【0020】
発光層4bは、第1半導体層4a上に設けられている。発光層4bは、禁制帯幅の広い障壁層と禁制帯幅の狭い井戸層とからなる量子井戸構造が複数回繰り返し規則的に積層された、多層量子井戸構造(MQW:Multiple Quantum Well)を用いることができる。障
壁層および井戸層としては、アルミニウム、インジウムおよびガリウムのうち少なくとも一方を含む窒化物からなる混晶においてインジウムとガリウムとの組成比を調整したものを用いることができる。このように構成された発光層4bは、例えば250nm以上400nm以下の波長の光を発光することができる。
【0021】
第2半導体層4cは、発光層4b上に設けられている。第1半導体層4aとは逆導電型を示すように設定されている。第2半導体層4cに第1半導体層4aとは逆導電型を付与する方法としては、例えばマグネシウムを不純物として添加する方法を用いることができる。このように第2半導体層4cにはマグネシウムを添加することにより、正孔を多数キャリアとすることができる。
【0022】
光半導体層4には、一対の電極5が配置されている。一対の電極5は、第1半導体層4と電気的に接続される第1電極5a、および第2半導体層4cと電気的に接続される第2電極5bを有している。このように光半導体層4に設けられた一対の電極5によって、光半導体層4に電圧が印加され、発光するようになる。
【0023】
本例の発光素子1は、上述した通り、多結晶基板2と光半導体層4との間に、光半導体層4よりも屈折率が低い緩衝層3が設けられている。そのため、光半導体層4内で発生した光を、光半導体層4と緩衝層3との境界面において、入射角よりも屈折角が大きくなるようにすることができることから、厚み方向とは垂直な平面方向に拡散させることができる。その結果、発光素子1で発光した光の強度分布について、光半導体層4の平面方向におけるばらつきを小さくすることができる。
【0024】
(発光素子の変形例1)
多結晶基板2と緩衝層3との間に結晶粒界による凹部2’を有していてもよい。具体的には、図3に示すように、多結晶基板2と緩衝層3との間に凹部2’を有するとともに、当該凹部2’内に緩衝層3の一部が埋設されている。これにより、多結晶基板2光半導体層4で発光した光が、緩衝層3を経由して、多結晶基板2に入射する際に、凹部2’を有することから、緩衝層3と多結晶基板2との間で反射されにくくすることができる。その結果、発光素子1の光取出し効率を向上させることができる。
【0025】
(発光素子の変形例2)
緩衝層3は、酸窒化アルミニウムの微粒子などを含むように構成されていてもよい。このような微粒子は、酸窒化アルミニウムの結晶体または非晶質体によって構成される。ここで、微粒子とは、直径が、例えば1nm以上1μm以下程度のものを指す。
【0026】
このように、緩衝層3が微粒子によって構成されていることにより、緩衝層3に入射した光が緩衝層3によって乱拡散されやすくなり、厚み方向と垂直な平面方向により多く拡散させることができる。その結果、発光素子1で発光した光の強度分布について、光半導体層4の平面方向におけるばらつきをさらに小さくすることができる。
【0027】
<発光素子の製造方法>
図4−図7は、それぞれ発光素子1の製造工程を示す断面図であり、いずれも図1のA−A’線で切断したときの断面に相当する。上述した発光素子1と重複する部分については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0028】
続いて、本発明の実施の形態の発光素子1の製造方法を説明する。本発明の実施の形態の発光素子1に係る製造方法は、単結晶基板を準備する工程、光半導体層を成長させる工程を有している。
【0029】
(多結晶基板の表面に酸化領域を形成する工程)
多結晶基板2の表面2Aに酸化領域を形成する工程について、図4および図5を参照しつつ説明する。
【0030】
多結晶基板2は、図4に示すように、窒化アルミニウムの複数の単結晶7からなる多結晶によって構成されている。図4は多結晶基板2を示す図であり、(a)は多結晶基板2を主面2A側から平面視した平面図であり、(b)は、(a)のB−B’線で切断したときの断面図に相当する。
【0031】
窒化アルミニウムの単結晶7同士の間には小さな空間である結晶粒界を有している。このような結晶粒界によって多結晶基板2の主面2Aには凹部2’を有している。多結晶基板2は、平面視形状を例えば四角形状などの多角形状または円形状などに設定することができる。多結晶基板2は、厚みが例えば1μm以上1500μm以下に設定される。また、多結晶基板2は、主面2Aを有している。なお、図4(b)において、主面は2Aは、点線で示しており、略同一平面上にある面を指す。なお、略同一平面とは、ある特定の位置から厚み方向に1μm以内の範囲に収まる面を含むものである。
【0032】
多結晶基板2としては、窒化アルミニウム質焼結体などを用いることができる。また、このように多結晶基板2として焼結体を用いた場合には、多結晶基板2を構成する窒化アルミニウム単結晶の粒径などを調整することができる。このように多結晶基板2の構成を変化させる方法としては、例えば、窒化アルミニウムを焼結する際に用いる焼結助剤、焼結方法、焼結条件、添加剤または結晶の配向性等を変化させる方法などを用いることができる。
【0033】
また、このように窒化アルミニウムの焼結条件を変化させる方法を用いることにより、窒化アルミニウム単結晶の粒径を、例えば0.1μm以上10μm以下となるように調整する
ことができる。このように窒化アルミニウム単結晶の粒径を調整することにより、結晶粒界の大きさを制御することができる。結晶粒界の大きさは、直径または間隔が、例えば0.01μm以上2μm以下となるように設定することができる。
【0034】
本例の多結晶基板2は主面2Aに結晶粒界を有することにより、多結晶基板2の主面2Aが露出するとともに、結晶粒界によって露出した多結晶基板2の凹部2’が露出している。そのため、多結晶基板2の主面2A側は、凹部2’によって凸凹な状態になっている。多結晶基板2の凹部2’は、底部から頂部までの高さが、例えば1nm以上1μm以下となるように設定されている。以後の説明において、多結晶基板2の主面2Aおよび凹部
2’を、総じて多結晶基板2の表面2A’と称することがある。
【0035】
このような多結晶基板2を、酸素雰囲気中で加熱することにより、多結晶基板2の一部を酸化させる。具体的には、図5に示すように、多結晶基板2の表面2A’を全体に渡って酸化することにより、多結晶基板2の表面2A’を酸化領域6とする。多結晶基板2を加熱する第1温度は、例えば400℃以上1800℃以下となるように設定することができる。
ここで、酸素雰囲気とは、一酸化炭素(CO)などを含む雰囲気でも良く、さらに窒素(N)またはアンモニア(NH3)等が含まれていてもよい。
【0036】
本例においては、多結晶基板2の主面2Aに結晶粒界による凹部2’を有していることから、多結晶基板2内に酸素が侵入しやすくなっており、多結晶基板2の表面2A’が酸化されやすくすることができる。
【0037】
多結晶基板2を加熱する際の第1温度としては、多結晶基板2の基板温度を用いればよい。多結晶基板2の基板温度は、例えば、多結晶基板2の基板温度を制御するヒーター温度、および多結晶基板2の基板温度を測定するサセプター温度について、多結晶基板2にレーザを照射して、反射した光を測定することによって基板温度を測定する照射温度計の温度を用いることができる。なお、サセプターは、多結晶基板2の表面2A’以外の面と接するように配置すればよい。
【0038】
一方、第1温度として、光半導体層4を結晶成長させるための密封された成長装置内の温度を用いてもよい。成長装置内における温度を測定する方法としては、例えば、成長装置内に熱電対を配置して測定する方法または成長容器外から放射温度計で測定する方法などを用いることができる。
【0039】
(緩衝層を形成する工程)
次に、緩衝層3を形成する工程について説明する。
【0040】
酸化領域6を形成した多結晶基板2を、第2温度で加熱することによって酸化領域6を溶解する。第2温度は、窒化アルミニウムの融点よりも低い温度であって、酸窒化アルミニウムの融点よりも高い温度となるように設定すればよく、例えば1850℃以上2150℃以下となるように設定されている。
【0041】
このように酸化領域6を第2温度で加熱することにより、多結晶基板2の酸化領域6以外の窒化アルミニウムからなる領域は溶解しにくくした状態で、酸化領域6の多結晶基板2を溶解することができる。このように酸化領域6の多結晶基板2を溶解することにより、酸窒化アルミニウムを含む中間体を形成することができる。なお、中間体には、酸化アルミニウムを一部含んでいてもよい。ここで、溶解とは、例えば多結晶基板2が溶ける場合、多結晶基板2が酸化されることにより再構成される場合を含むものである。
【0042】
さらに、中間体が形成された付近の多結晶基板2にも、多結晶基板2の酸化・溶解が進行するようになる。そのため、酸化領域6を形成した多結晶基板2を加熱する加熱時間を長くすることにより、多結晶基板2の溶解が進行して、中間体を大きくすることができる。
【0043】
その後、中間体を形成した多結晶基板2を、第3温度に冷却することにより、多結晶基板2が溶解した中間体を固化させて緩衝層3を形成することができる。第3温度は、酸窒化アルミニウムの融点よりも低い温度に設定すればよく、例えば15℃以上1500℃に設定することができる。なお、以下の説明において、多結晶基板2の緩衝層3以外の部分を、多結晶基板2の残余部分2aと称することがある。
【0044】
(光半導体層を成長させる工程)
次に、緩衝層3上に光半導体層を成長させる工程について、図6に示す。光半導体層4としては、窒化アルミニウムを含む材料を用いることができる。光半導体層4は、第1半導体層4a、発光層4bおよび第2半導体層4cを有している。なお、第1半導体層4aは、凹部2’を埋めるように成長されている。
【0045】
緩衝層3の上面3Aに第1半導体層3を成長させる方法としては、分子線エピタキシャル法、有機金属気相成長法、ハイドライド気相成長法またはパルスレーザデポジション法などを用いることができる。光半導体層4の成長時における温度は、窒化アルミニウムの融点および酸窒化アルミニウムの融点よりも低い温度である第4温度であればよく、例えば800℃以上1800℃以下となるように設定することができる。
【0046】
本例の発光素子1の製造方法は、多結晶基板2に、緩衝層3を形成した後、当該緩衝層3上に光半導体層4を成長させる。そのため、緩衝層3上に光半導体層3を成長させる際に、光半導体層4と多結晶基板2の残余部分2aとの間で発生する熱応力を緩衝層3で緩和することができる。その結果、光半導体層4内に発生する転位またはクラック等を抑制することができるため、光半導体層4の結晶性が向上することにより、発光素子1の発光効率を向上させることができる。
【0047】
また、本例の多結晶基板2は、結晶粒界を有していることから、多結晶基板2の主面2Aだけでなく結晶粒界によって多結晶基板2の一部が露出した凹部2’を有している。そのため、多結晶基板2の主面2Aからだけでなく、凹部2’からも酸化領域6を形成しやすくすることができ、多結晶基板2の表面2A’の反応が進行しやすくすることができる。その結果、多結晶基板2の主面2A側に、平坦な緩衝層3を形成しやすくすることができる。
【0048】
また、酸窒化アルミニウムを含む緩衝層3上に光半導体層4を成長させることから、光半導体層4と緩衝層3との熱膨張係数の差を小さくすることができるため、緩衝層3と光半導体層4との間で発生する熱応力を小さくすることができる。さらに、緩衝層3として酸窒化アルミニウムを含む材料を用いることから、緩衝層3と多結晶基板2の残余部分2aとの熱膨張係数の差を小さくすることができ、緩衝層3と多結晶基板2の残余部分2aとの間で発生する熱応力を小さくすることができる。
【0049】
そのため、このような緩衝層3上に光半導体層3を形成した場合は、平坦な緩衝層3上に半導体層を成長させることから、クラックまたは転位の発生を抑制することができ、光半導体層4の結晶性を向上させることができる。
【0050】
さらに、多結晶基板2の表面2A’には、窒化アルミニウムを溶解・固化することによって緩衝層3が設けられているため、配向性を考慮せずに光半導体層4を緩衝層3上に成長させた場合でも、当該緩衝層3によって多結晶基板2の残余部分2aと光半導体層4との間に発生する応力を緩和することができる。
【0051】
一方、仮に、多結晶基板の表面上に、緩衝層を設けずに光半導体層を成長させた場合には、多結晶基板の上面には結晶粒界の一部が露出していることから、光半導体層内にクラック、転位または凹部等が発生しやすくなり、光半導体層の結晶性を向上させることが困難であった。さらに、多結晶基板上に光半導体層を成長させる場合には、多結晶基板を構成する単結晶の結晶配向が一定方向ではないことから、多結晶基板上に光半導体層を成長させることが困難であった。
【0052】
(発光素子の製造方法の変形例1)
緩衝層3を形成する工程において、緩衝層3の上面3Aを平坦化してもよい。具体的には、酸化領域6をさらに加熱する際に、図7に示すように、酸化領域6付近の多結晶基板2の残余部分2aに酸化反応を促進させて、中間体を大きくすることにより、凹部2’を中間体によって埋設すればよい。この後、中間体を冷却させることにより、図8に示すように、緩衝層3の上面3Aを平坦化することができる。なお、多結晶基板2の残余部分2aにおける酸化反応を促進させることにより、中間体を溶解した場合、かかる中間体を冷却して固化させることにより緩衝層3を平坦化してもよい。
【0053】
このように平坦化された緩衝層3の上面3Aに、光半導体層4を成長させることにより、緩衝層3の上面3Aからの不要な転位が延びることを抑制することができるため、光半導体層4の結晶性を向上させることができる。
【0054】
(発光素子の製造方法の変形例2)
緩衝層3を形成する工程において、図9に示すように、酸化領域6を形成した多結晶基板2を保持体8に配置し、保持体8によって多結晶基板2を一定方向Cに回転させた状態で加熱してもよい。このように多結晶基板2を回転させながら加熱して酸化領域6を溶解させた場合には、中間体の平面方向における平坦性を向上させることができる。多結晶基板2を回転させる際の回転速度は、例えば10rpm以上3500rpm以下に設定すればよい。
【0055】
緩衝層3を形成する工程において、中間体を冷却させる場合に、多結晶基板2を回転させながら冷却してもよい。多結晶基板2を回転させながら冷却することにより、中間体の平坦性を維持しつつ固化させることができる。これにより、緩衝層3の平坦性を向上させることができる。
【0056】
このように緩衝層3の平坦性を向上させることにより、緩衝層3上に形成する光半導体層4の結晶性を向上させることができるため、光半導体層4で発光する光の発光効率を向上させることができる。
【0057】
さらに、緩衝層3を形成する工程において、工程全体に渡って多結晶基板2を回転させ続けてもよい。このように工程全体に渡って多結晶基板2を回転させ続けることにより、緩衝層3の平坦性をさらに向上させることができる。
【0058】
(発光素子の製造方法の変形例3)
緩衝層3を形成する工程において、酸素または一酸化炭素を供給しながら多結晶基板2を加熱してもよい。酸素を供給しながら多結晶基板2を加熱することにより、多結晶基板2の酸化領域6を溶解させた後も、多結晶基板2を酸化・溶解しやすくすることができる。これにより、緩衝層3の厚みをさらに厚くすることができる。そのため、多結晶基板2の加熱時間または酸素濃度を調整することにより、緩衝層3の厚みを調整することができる。
【0059】
(発光素子の製造方法の変形例4)
緩衝層3を形成する工程を、酸化領域6を形成する工程における酸素雰囲気の第1圧力よりも高い第2圧力の雰囲気中で行なってもよい。第2圧力は、例えば第1圧力の1.1倍
以上1.6倍以下の圧力に設定することができる。このように緩衝層3を形成する工程の第
2圧力を第1圧力よりも高くすることにより、多結晶基板2に酸素が侵入しやすくなり、多結晶基板2を酸化させやすくすることができる。
【0060】
(発光素子の製造方法の変形例5)
緩衝層3を形成する工程の後、緩衝層3の上面3Aを研磨してもよい。緩衝層3の上面3Aを研磨する方法としては、機械的・化学的研磨法などを用いることができる。このように緩衝層3を平坦化することにより、緩衝層3の上面3Aに成長させる光半導体層4の結晶性を向上させることができる。
【0061】
(発光素子の製造方法の変形例6)
光半導体層を成長させる工程は、緩衝層3に凹部2’を有する場合には、光半導体層を成長させる際に、凹部2’を利用してファセットを形成することによって横方向成長させてもよい。このように光半導体層4を横方向成長させた場合には、光半導体層4の厚み方向に延びる転位を少なくすることができるため、光半導体層4の発光効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 発光素子
2 多結晶基板
2A 主面
2A’ 表面
2a 残余部分
2’ 凹部
3 緩衝層
3A 上面
4 光半導体層
4a 第1半導体層
4b 発光層
4c 第2半導体層
5 一対の電極
5a 第1電極
5b 第2電極
6 酸化領域
7 単結晶
8 保持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウムからなる多結晶基板を酸素雰囲気中で加熱して該多結晶基板の表面を酸化させることによって、前記多結晶基板の前記表面に酸窒化アルミニウムからなる酸化領域を形成する工程と、
前記多結晶基板を前記窒化アルミニウムの融点よりも低い温度であって前記酸窒化アルミニウムの融点よりも高い温度で加熱して前記酸化領域を溶解した後、前記多結晶基板を前記酸窒化アルミ二ウムの融点よりも低い温度に冷却することによって、溶解した前記酸化領域を固化して緩衝層を形成する工程と、
前記緩衝層上に窒化アルミニウムを含む光半導体層を成長させる工程と
を有する発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記緩衝層を形成する工程において、酸素を供給しながら前記多結晶基板を加熱する請求項1に記載の発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記緩衝層を形成する工程を、前記酸化領域を形成する工程における前記酸素雰囲気の圧力よりも高い圧力の雰囲気中で行なう請求項1または2に記載の発光素子の製造方法。
【請求項4】
窒化アルミニウムからなる多結晶基板と、
該多結晶基板上に設けられた、前記窒化アルミニウムよりも低い屈折率を持つ酸窒化アルミニウムからなる緩衝層と、
該緩衝層上に設けられた、窒化アルミニウムを含む光半導体層と
を有する発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−160540(P2012−160540A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18450(P2011−18450)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】