説明

直動機構を備えた装置及びスタビライザ装置

【課題】 小型の直動機構を備えた装置及びスタビライザ装置を提供する。
【解決手段】 ケーシング5とプレート12との間に転がり直動ガイド21を配設する。転がり直動ガイド21は、プレート12の外周側に形成された略コ字形状のプレート側ガイド溝22と、外周側がプレートケース6の廻止め溝6Dに圧入され内周側がプレート側ガイド溝22内に摺動可能に嵌合されたガイド片23と、ガイド片23とプレート側ガイド溝22との間に溝部22A,23Aを介して軸方向に転動可能に設けられた球体24と、球体24をプレート側ガイド溝22とガイド片23との間で転動可能に保持するホルダ25と、プレート側ガイド溝22とガイド片23との間に形成される球体収容空間26内に向けて球体24をホルダ25とリテーナ28の間で付勢するばね27とにより構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載される直動機構を備えた装置及び車体のロール運動を抑制するのに好適なスタビライザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、コーナリングなどの走行状態で、車体の姿勢を安定させるためにスタビライザ装置を備えているものがある。昨今では従前から開発されている油圧のスタビライザ装置の他に搭載性に優れた電動スタビライザ装置の開発が行われている。電動スタビライザ装置の一例は特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−120175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スタビライザ装置は、車両に搭載され、車両の走行性を向上するために使用される。このようなスタビライザ装置は、搭載のために必要となる車両のスペースを少なくすることが望ましく、小型化が望まれている。また、スタビライザ装置に限らず、回転運動を直線運動に変換する直動機構を備えた装置は、例えば車両への搭載スペースを小さくすることが望ましく、小型化が望まれている。
【0005】
本発明の目的は、小型の直動機構を備えた装置及びスタビライザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明が採用した直動機構を備えた装置は、筒状のケーシングと、該ケーシング内に設けられ回転運動を直線運動に変換する直動機構とを備え、該直動機構は、前記ケーシング内での軸方向変位を規制した状態で回転運動を行い、軸方向一側の表面に周方向に延びる第1の傾斜部が複数個形成された第1のプレートと、該第1のプレートと軸方向で対向して前記ケーシング内に設けられ、該第1のプレートと対向する軸方向他側の表面に周方向に延びる第2の傾斜部が複数個形成された第2のプレートと、前記第1の傾斜部と第2の傾斜部との間に挟んだ状態で前記第1,第2のプレート間に転動可能に設けられ、前記第1,第2のプレートが相対回転するときに両者を軸方向で接近,離間させる複数の転動部材と、前記ケーシングと前記第2のプレートとの間に設けられ、前記第2のプレートがケーシング内で軸方向に変位するのを許し両者の相対回転を規制する複数の回転規制機構とにより構成し、該各回転規制機構は、前記第2のプレートに設けられ前記ケーシングに向けて開口したプレート側ガイド溝と、該プレート側ガイド溝に嵌合して前記ケーシングに設けられ前記プレート側ガイド溝との間に転動子収容空間を形成するケーシング側ガイド部材と、該ケーシング側ガイド部材と前記プレート側ガイド溝との間に転動可能に設けられ前記転動子収容空間内で軸方向に転動する軸方向転動子と、該軸方向転動子を前記転動子収容空間内で軸方向に付勢する付勢部材とにより構成している。
【0007】
また、本発明が採用したスタビライザ装置は、筒状のケーシングと、該ケーシングに相対回転可能に設けられる第1のスタビライザバーと、前記ケーシングに固定して設けられる第2のスタビライザバーと、該各スタビライザバーを連結するように前記ケーシング内に設けられ前記各スタビライザバー間の捩り剛性を調整する可変剛性部とからなり、前記可変剛性部は、前記第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転に応じて直線運動する直動機構と、前記直線運動を抑制する方向に前記直動機構を付勢する付勢機構と、該付勢機構の付勢する力を調整する付勢力調整機構とを有し、前記直動機構は、前記第1のスタビライザバーに連結して前記ケーシング内に回転可能に設けられ、軸方向一側の表面に周方向に延びる第1の傾斜部が複数個形成された第1のプレートと、該第1のプレートと軸方向で対向して前記ケーシング内に設けられ、該第1のプレートと対向する軸方向他側の表面に周方向に延びる第2の傾斜部が複数個形成された第2のプレートと、前記第1の傾斜部と第2の傾斜部との間に挟んだ状態で前記第1,第2のプレート間に転動可能に設けられ、前記第1,第2のプレートが相対回転するときに両者を軸方向で接近,離間させる複数の転動部材と、前記ケーシングと前記第2のプレートとの間に設けられ、前記第2のプレートがケーシング内で軸方向に変位するのを許し両者の相対回転を規制する回転規制機構とにより構成し、該回転規制機構は、前記第2のプレートに設けられ前記ケーシングに向けて開口したプレート側ガイド溝と、該プレート側ガイド溝に嵌合して前記ケーシングに設けられ前記プレート側ガイド溝との間に転動子収容空間を形成するケーシング側ガイド部材と、該ケーシング側ガイド部材と前記プレート側ガイド溝との間に転動可能に設けられ前記転動子収容空間内で軸方向に転動する軸方向転動子と、該軸方向転動子を前記転動子収容空間内で軸方向に付勢する付勢部材とにより構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、直動機構を備えた装置及びスタビライザ装置を小型にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】スタビライザ装置を使用した車両の全体構成の一例を示すシステム図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るスタビライザ装置を示す縦断面図である。
【図3】スタビライザ装置を示す分解斜視図である。
【図4】回転規制機構を図2中の矢示IV−IV方向からみた拡大断面図である。
【図5】各スタビライザバー間のトルクと捩れ角との関係を示す特性線図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るスタビライザ装置を示す縦断面図である。
【図7】回転規制機構を図6中の矢示VII−VII方向からみた拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態による直動機構を備えた装置としてスタビライザ装置を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0011】
図1にスタビライザ装置1を前輪側および後輪側に使用した車両の全体構成を示す。車体がコーナーに入ったことを例えばステアリングの角度や車速などからの信号を受けて、制御装置100は路面のロールの程度を予測して制御し、前後に設けられたスタビライザ装置1はそれぞれ、車両のロール運動を抑制するように動作する。これによりスタビライザ装置1は、車両の横転防止、操縦安定性の向上あるいは乗り心地の向上を図るものである。
【0012】
図2ないし図5は本発明の第1の実施の形態を示している。スタビライザ装置1は、長さ方向の中央部分が車両を構成する車体側にブッシュを介して回転可能に取付けられ、図1に示す如く、両端側が左,右の車輪側にそれぞれ接続(連結)されている。また、スタビライザ装置1は、第1のスタビライザバー2と、第2のスタビライザバー3と、該各スタビライザバー2,3間を連結し、各スタビライザバー2,3の間の捩り剛性を調整する可変剛性部4とを備えている。
【0013】
車体の左側に配設された第1のスタビライザバー2は柔軟性をもったばね鋼からなり、車体のレイアウト等に応じて図1に示す如く所望の形状に曲げられている。第1のスタビライザバー2の基端側は、可変剛性部4を介して第2のスタビライザバー3に連結され、先端側が左車輪側に接続されている。また、第1のスタビライザバー2の基端側は、捩り剛性を持って捩り運動を互いに伝達するための機構(以下、直動機構と記す)として作用する後述のボールアンドランプ機構9にボルト20等を用いて接続(連結)されている。
【0014】
車体の右側に配設された第2のスタビライザバー3は、第1のスタビライザバー2とほぼ同様に、柔軟性をもったばね鋼からなり、図1に記載の如く第1のスタビライザバー2とほぼ対称形状をなすように曲げられている。第2のスタビライザバー3の基端側が可変剛性部4を介して第1のスタビライザバー2に連結され、先端側が右車輪側に接続されている。また、第2のスタビライザバー3の基端部は、後述するケーシング5のモータケース8と機械的に接続(連結)されている。
【0015】
第1のスタビライザバー2の基端側と第2のスタビライザバー3の基端側とは、図2に示すように軸線O−O上に配置され、車体側に対して軸線O−Oを中心にした捩り方向で回動自在となるように支持されている。
【0016】
第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3との間を連結して設けられた可変剛性部4は、各スタビライザバー2,3の間の捩り剛性を調整するものである。そして、可変剛性部4は、ケーシング5、ボールアンドランプ機構9、コイルばね15、付勢力調整機構16を備えている。
【0017】
可変剛性部4の外形をなすケーシング5は、軸線O−Oに沿って軸方向に延びる円筒状の容器として形成されている。また、ケーシング5は、高い剛性をもった金属材料等からなり、プレートケース6と蓋体7とモータケース8とを備えている。そして、プレートケース6は、図2に示すように軸線O−Oに沿って軸方向に延びた円筒状の筒部6Aと、該筒部6Aの軸方向一側(図2中の右端部)を閉塞するように設けられた底部6Bと、該底部6Bの内周側に位置し後述の軸取付部18Aが出力軸19Cと共に回転可能に挿通される軸挿通孔6Cと、筒部6Aの内周面に間隔をもって形成され、後述する第2のプレート12、ピストン17をケーシング5内で廻止め状態に保持する複数の廻止め部としての廻止め溝6Dとを含んで構成されている。
【0018】
また、ケーシング5の軸方向他側(図2中の左端側)に位置する蓋体7は、段付円筒状をなし、筒部6Aの左端部を閉塞するようにプレートケース6の左端側に後述の締結ボルト30等を用いて固着されている。また、蓋体7の内周側には、例えば一対のアンギュラ玉軸受からなる2個の軸受7Aが設けられている。該各軸受7Aは、蓋体7内で後述の第1のプレート10と共に第1のスタビライザバー2を回転可能に支持し、第1のプレート10に作用する軸方向のスラスト荷重を蓋体7と共に受承するものである。
【0019】
一方、プレートケース6の右側に設けられたモータケース8は、後述の電動モータ19を収容するもので、図2に示すように軸線O−Oに沿った筒部8Aと、該筒部8Aの右端部を閉塞した底部8Bとにより有底筒状に形成されている。また、筒部8Aは、その開口側がプレートケース6の筒部6Aに後述の締結ボルト30等を用いて固着され、底部8Bの中心位置には、電動モータ19の固定軸19Bが回転不能に挿嵌される軸固定穴8Cが形成されている。そして、底部8Bの中心部は、第2のスタビライザバー3の基端部に一体的に接続され、これにより、ケーシング5は、第1のスタビライザバー2に対して相対回転するように、第2のスタビライザバー3と一体的に回動するものである。
【0020】
この場合、ケーシング5は、直動機構としてのボールアンドランプ機構9や後述のコイルばね15(前記直動機構に推力を加える付勢機構)を内部に収納するだけでなく、ケーシング5自身が、捩り力すなわち捩りトルクを伝えるための伝達部材として作用する。これにより、スタビライザ装置1の構造をシンプルにすることができ、可変剛性部4のケーシング5は、構造の簡素化を図る上でも有効な構成を備えたものである。
【0021】
第1のスタビライザバー2は、ボールアンドランプ機構9の一方端に機械的に接続され、第2のスタビライザバー3は、ボールアンドランプ機構9の他方端に機械的に接続されている。ボールアンドランプ機構9は、上記直動機構の一例であり、第1のプレート10と第2のプレート12とボール14を備えている。第1のプレート10と第2のプレート12には、付勢機構に基づく推力が作用しており、この推力(即ち、コイルばね15の付勢力)により、第1のプレート10と第2のプレート12にそれぞれ形成されたランプ11,13に前記ボール14が押し付けられる。そして、ボールアンドランプ機構9は、前記推力とランプ11,13の溝形状とに基づきトルクの伝達係数が調整される。
【0022】
ここで、直動機構としてのボールアンドランプ機構9は、プレートケース6の軸方向他側となる左側寄りに位置してケーシング5内に収容されている。このボールアンドランプ機構9は、第1のスタビライザバー2と一体に回転する第1のプレート10と、該第1のプレート10と軸方向で対向してプレートケース6内に設けられた第2のプレート12と、これらのプレート10,12間に配置されランプ11,13の溝形状に沿って転動可能となった剛体からなる転動部材としてのボール14と、後述する回転規制機構としての転がり直動ガイド21とにより構成されている。なお、転動部材としては、球形のボール14に限るものではなく、転動するものであれば、円錐ころ等の転動部材を用いてもよい。
【0023】
ボールアンドランプ機構9は、第2のスタビライザバー3と機械的に接続されたケーシング5と第1のスタビライザバー2との間に相対回転運動が生じると、これに応じて軸線O−Oに沿った軸方向(図2中の矢示A,B方向)の直線運動を発生させるものである。そして、ボールアンドランプ機構9は、ランプ11,13の溝形状に従ってトルクの伝達係数が調整され、スタビライザ装置1としての捩り剛性、即ち特性が調整される。
【0024】
即ち、ボールアンドランプ機構9は、第1のスタビライザバー2とケーシング5との相対回転による位相差、即ち両者の相対回転角度によって第2のプレート12の軸方向のストロークを変化させることができる。その際、ランプ11,13の溝形状により相対回転角度に対するストローク量を調整することができる。また、第2のプレート12のストローク量によりコイルばね15の反力が決まり、それが可変剛性部4のトルクとなる。その際、ランプ11,13のリード角の設定によりトルクを調整することができる。
【0025】
プレートケース6内の左部に設けられた第1のプレート10は、図2、図3に示すように、軸線O−Oに沿って軸方向に延びた嵌合筒部10Aと、該嵌合筒部10Aの右端部から径方向外向きに突出し周方向で互いに離間した3個のセクタ腕部10Bとを含んで構成され、各セクタ腕部10Bは、図3に示すように略扇形状をなした板状体として形成されている。そして、第1のプレート10の各セクタ腕部10Bは、後述するリテーナ28の各ばね受部28Aに対して周方向で互い違いとなる位置に配置されている。
【0026】
ここで、第1のプレート10の嵌合筒部10A内には、第1のスタビライザバー2の基端側がスプライン等の廻止め手段を用いて連結され、この状態で第1のプレート10は、後述のボルト20等により第1のスタイビライザバー2に固定されている。これにより、第1のプレート10は、第1のスタビライザバー2と一緒に、第2のスタビライザバー3に対して回動することができる。
【0027】
また、第1のプレート10の各セクタ腕部10Bには、その右端面(表面)側に第1の傾斜部としての第1のランプ11がプレート10の円周方向に延びて、例えば合計3個設けられている。ここで、各セクタ腕部10Bに設けられたランプ11は、円弧状に湾曲した凹形状の傾斜溝として形成されている。また、各ランプ11は、長さ方向の中央部が最深部となり、最深部から両端側に向けて所望の曲率で浅くなる傾斜部としての円弧状溝として形成されている。
【0028】
一方、第1のプレート10の右側に対面して設けられた第2のプレート12は、図2、図3に示すように、軸線O−Oを中心とする厚肉な円板状に形成され、その外周側から軸方向に延びる延出筒部12Aを有している。そして、該延出筒部12Aは、後述するコイルばね15の左側部分を径方向外側から取囲み、コイルばね15を外側から保護すると共に、その付勢力が第2のプレート12に安定して作用するようにコイルばね15を案内するものである。また、第2のプレート12の内周側には、後述のボルト20等が隙間をもって挿入される軸方向の貫通穴12Bが設けられている。
【0029】
ここで、第2のプレート12の外周側には、図2、図3に示すように、周方向にほぼ等間隔に配置される後述の転がり直動ガイド21が設けられ、転がり直動ガイド21のガイド片23は、プレートケース6の各廻止め溝6Dに嵌合して設けられている。そして、第2のプレート12は、後述の転がり直動ガイド21によりケーシング5内での相対回転が規制され、ケーシング5内での軸方向移動が円滑化されるものである。
【0030】
また、第1のプレート10に対面する第2のプレート12の左端面(表面)には、第2の傾斜部としての第2のランプ13が3個設けられている。この3個のランプ13は、第1のランプ11とほぼ同様に、円弧状に湾曲して形成され、長さ方向の中央部が最深部となり、この最深部から両端側に向けて浅くなる傾斜部としての円弧状溝として形成されている。
【0031】
第1,第2のランプ11,13は、その溝形状(湾曲形状)により、車両の乗り心地を調整することができる。即ち、第1のプレート10と第2のプレート12との捩れ角が小さい範囲では、後述するコイルばね15の付勢力を小さくし、車両の乗り心地に影響を与えないことが望まれ、捩れ角が大きい範囲ではコイルばね15の付勢力を大きくし、旋回時のロールを抑えることが望まれている。
【0032】
このような要求を実現するため、第1,第2のランプ11,13の溝形状は、第1のプレート10と第2のプレート12との捩れ角が小さい範囲では、捩りトルクがほとんど発生しないように曲率半径が大きい円弧状とし、捩れ角が大きい範囲に入ったら急激にトルクが立ち上がるように曲率半径を小さくするといった非線形特性を溝の形状により調整することができる。また、曲線と直線を組合せる等、所望の特性に合わせてランプ11,13の溝形状、プロフィールを決めればよい。
【0033】
第1のプレート10の各セクタ腕部10Bと第2のプレート12とに挟まれた3個のボール14は、第1のランプ11と第2のランプ13との間に収められている。また、各ボール14は、各ランプ11,13の間に収められた状態で、第1のプレート10の各セクタ腕部10Bと第2のプレート12とが互いに当接しないような外径寸法をもった金属球等として形成されている。
【0034】
そして、このように構成されたボールアンドランプ機構9は、後述するコイルばね15の付勢力により、第1のプレート10と第2のプレート12とを互いに接近する方向に押付けることにより、通常はボール14が各ランプ11,13の最深部に配置される。これにより、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とは、後述するコイルばね15の付勢力で常に初期角度(車が傾斜してない角度)となるように付勢される。
【0035】
一方、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3(ケーシング5)とが軸線O−Oを中心に相対回転した場合には、第1のランプ11と第2のランプ13とが周方向に相対的に位置ずれするから、ボール14は、各ランプ11,13の中央部から端部側に移動する。これにより、各プレート10,12は、各ランプ11,13の傾斜に従って軸方向に互いに離間する方向に変位する。この場合、第2のプレート12を第1のプレート10に向けて押付けているコイルばね15の付勢力を、後述の付勢力調整機構16で大きくすることにより、このときの捩り剛性を大きくすることができる。
【0036】
第2のプレート12の右側に位置してプレートケース6内に設けられた付勢機構としてのコイルばね15は、第2のプレート12の直線運動を抑制する方向に該プレート12を付勢するもので、第1のプレート10に向け第2のプレート12を押付ける押付力を発生する弾性部材により構成されている。弾性部材としてコイルばね15を用いると一部材で済み、例えば複数枚の皿ばねを用いる場合よりも、組立時の作業性を向上することができる。
【0037】
コイルばね15の付勢力を調整するためにケーシング5内に設けられた付勢力調整機構16は、コイルばね15の伸縮方向に任意の大きさの初期荷重を付与する荷重付与部として構成されている。また、付勢力調整機構16は、プレートケース6内に設けられた移動手段としてのピストン17、ねじ部材18と、モータケース8内に設けられた駆動手段としての電動モータ19と、コントローラ等の制御装置100とにより大略構成されている。
【0038】
ここで、電動モータ19はモータケース8内に収め、ボールアンドランプ機構9や後述のピストン17、ねじ部材18と軸方向に並べて配置する構成としている。しかし、本発明はこれに限らず、例えばケーシング5の軸方向長さに制約がある場合には、ねじ部材18と並列に駆動手段としての電動モータを配置し、例えば複数の歯車等からなる動力伝達機構を介してねじ部材18を回転駆動する構成としてもよい。
【0039】
移動手段としてのピストン17は、図2に示すように段付筒状に形成され、第2のプレート12との間にコイルばね15を挟むように該プレート12に対向して設けられている。そして、ピストン17は、その軸方向端部(右端)側から径方向外向きに突出する環状鍔部としての大径なばね受部17Aを有している。また、ばね受部17Aの外周側には、周方向に間隔をもって3個の係合突起17Bが形成され、該各係合突起17Bは、プレートケース6の各廻止め溝6Dに係合している。これにより、ピストン17は、ケーシング5に対し回転が規制された状態で軸方向に移動可能に連結されている。
【0040】
また、ピストン17の内周側には、例えば台形ねじからなる雌ねじ17Cが形成され、該雌ねじ17Cは、後述するねじ部材18の雄ねじ18Bと共に、後述の電動モータ19による回転運動をピストン17の直線運動に変換する直動変換機構としてのねじ機構を構成している。
【0041】
ピストン17の内周側に螺合して設けられたねじ部材18は、基端側の軸取付部18Aが電動モータ19の出力軸19Cに取付けられ、軸取付部18Aは出力軸19Cと一体に回転する。また、ねじ部材18の外周側には、ピストン17の雌ねじ17Cに螺合する台形ねじからなる雄ねじ18Bが形成され、該雄ねじ18Bは、雌ねじ17Cと一緒にねじ機構を構成している。
【0042】
ここで、ピストン17は、台形ねじからなる雌ねじ17Cと雄ねじ18Bを介してねじ部材18に螺合している。このため、電動モータ19でねじ部材18を回転駆動しない限りは、ピストン17が図2中の矢示A,B方向のいずれにも変位することはなく、コイルばね15の付勢力によってピストン17が軸方向(図2中の矢示A,B方向)に動くことはない。
【0043】
駆動手段としての電動モータ19は、固定子、回転子等(いずれも図示せず)を内蔵した本体部19Aと、該本体部19Aの右端部から突出し、モータケース8の軸固定穴8Cに回転不能に挿嵌された固定軸19Bと、前記本体部19Aの左端部から突出し、前記回転子に接続された出力軸19Cとにより大略構成されている。また、出力軸19Cは、プレートケース6の軸挿通孔6C内でねじ部材18の軸取付部18Aに一体回転するように挿嵌されている。
【0044】
このように構成された付勢力調整機構16では、図2に示すように、コイルばね15の初期荷重は、第2のプレート12とピストン17のばね受部17Aとの間隔寸法によって決定される。この場合、電動モータ19によってねじ部材18を回転駆動し、ピストン17を第2のプレート12側(図2中の矢示A方向)に直線移動したときには、第2のプレート12とピストン17のばね受部17Aとの間隔寸法を小さくすることができ、コイルばね15の初期荷重を大荷重側に調整することができる。
【0045】
一方、電動モータ19によってねじ部材18を逆方向に回転駆動し、ピストン17を第2のプレート12から離れる方向(図2中の矢示B方向)に移動したときには、第2のプレート12とピストン17のばね受部17Aとの間隔寸法が大きくなり、これにより、コイルばね15の初期荷重を小荷重側に調整することができる。
【0046】
従って、付勢力調整機構16は、電動モータ19によってねじ部材18を回転駆動し、コイルばね15の初期荷重を調整することにより、図5に示す特性線31の如く、各スタビライザバー2,3間の捩れ角に対する捩り剛性としてのトルクを可変に調整する。即ち、スタビライザバー2,3間の捩れ角に対するトルクは、直進走行時またはコーナリング走行時等の走行状態に応じて図5中にハッチングを付した範囲で可変に調整されるものである。よって、コイルばね15の初期荷重を調整してもスタビライザバー2,3間の捩れ角0に向かって力が作用することは変わらない。
【0047】
ケーシング5(プレートケース6)の筒部6Aと第2のプレート12との間には、周方向に互いに離間して合計3組の回転規制機構としての転がり直動ガイド21が設けられている。各転がり直動ガイド21は、第2のプレート12の周方向で各ランプ13とは互いに異なる位置に均等な間隔をもって配設されている。そして、これらの転がり直動ガイド21は、第2のプレート12がプレートケース6の筒部6A内で相対回転するのを規制し、第2のプレート12が筒部6A内で軸方向に円滑に変位するのを補償するものである。
【0048】
ここで、転がり直動ガイド21は、図2〜図4に示すように、プレートケース6の各廻止め溝6Dと径方向で対向して第2のプレート12の外周側に設けられ筒部6Aに向けて開口するように略コ字形状の凹溝として形成されたプレート側ガイド溝22と、プレートケース6の内周側に固定して設けられプレート側ガイド溝22内に摺動可能に嵌合されるケーシング側ガイド部材としてのガイド片23と、該ガイド片23とプレート側ガイド溝22との間に転動可能に設けられる軸方向転動子としての球体24と、該球体24をプレート側ガイド溝22とガイド片23との間で転動可能に保持するホルダ25と、プレート側ガイド溝22とガイド片23との間に形成される転動子収容空間としての球体収容空間26内に向けて球体24をホルダ25と一緒に付勢する付勢部材としてのばね27と、後述のリテーナ28とにより構成されている。
【0049】
ここで、プレート側ガイド溝22は、図2に示すように第2のプレート12の軸方向に延び、これにより延出筒部12Aは部分的に切欠かれている。また、プレート側ガイド溝22の底部側には、球体24の外径よりも僅かに大きい曲率をもった円弧状の溝部22Aが形成され、該溝部22Aは、図3に示すように第2のプレート12の軸方向に延びている。
【0050】
ガイド片23は、図4に示すようにプレートケース6の廻止め溝6Dに圧入等の手段で嵌合され、プレートケース6の内周側に強固に固定されている。また、ガイド片23には、球体24を挟んでプレート側ガイド溝22の溝部22Aと径方向で対向する位置に球体24の外径よりも僅かに大きい曲率をもった円弧状の溝部23Aが設けられ、該溝部23Aはガイド片23の軸方向に延びる凹溝として形成されている。
【0051】
そして、球体24は、2つの溝部22A,23A間に挟まれた状態で両者の間を転動し、溝部22A側の第2のプレート12が溝部23A側のガイド片23に対して軸方向に変位するときの摩擦抵抗を低減する。即ち、軸方向転動子としての球体24は、第2のプレート12がケーシング5(プレートケース6)の筒部6A内を軸方向に円滑に移動するのを補償するものである。
【0052】
この場合、ホルダ25は、図3に示すように略コ字形状をなす小型部品として形成され、その内側に球体24を転動可能に挟んだ状態で、図4に示すようにプレート側ガイド溝22とガイド片23との間に配置される。そして、ホルダ25は、球体24が溝部22A,23A間から外側に抜出すのを抑える脱落防止部材として機能するものである。また、ホルダ25は、初期位置を保つためにも機能する。
【0053】
また、ホルダ25の端部には、リテーナ28の各ばね受部28Aと対向する位置に円形の浅溝部25Aが複数(例えば2個)設けられ、これらの浅溝部25Aとリテーナ28の各ばね受部28Aとの間には、コイルばね15よりも十分に小さい付勢力で球体24を座金29(図2参照)側に向けて付勢するばね27が配設されている。
【0054】
座金29は、延出筒部12A内に位置して第2のプレート12の端面に当接または固定して設けられた環状平板からなり、コイルばね15の付勢力を第2のプレート12と共に受承している。そして、座金29は、プレート側ガイド溝22とガイド片23との間に形成される球体収容空間26内から球体24が外側に抜出すのをホルダ25と共に抑える機能を有している。このため、ホルダ25と座金29とは、球体収容空間26内の球体24を前,後(軸方向両側)から挟む位置に配設されている。
【0055】
リテーナ28は、第1のプレート10と第2のプレート12との間に挟むように配設され、付勢部材としてのばね27を背面側から支持するバックアップ部材である。リテーナ28は、図3に示すように径方向外側に延びた合計3個のばね受部28Aを有し、該各ばね受部28Aは、各ホルダ25の浅溝部25Aとの間に各ばね27がプリセット状態で配設される。これにより、各ばね27は、ホルダ25と一緒に球体24を球体収容空間26内に向けて付勢するものである。
【0056】
また、リテーナ28の各ばね受部28Aは、第1のプレート10の各セクタ腕部10Bと軸方向で重ならないように、ケーシング5の周方向で互い違いとなる位置に配置されている。これにより、3組の転がり直動ガイド21の各球体24は、ボールアンドランプ機構9の各ボール14とはケーシング5の周方向で互いに異なる位置に配置され、それぞれが均等な間隔をもって配設されている。
【0057】
さらに、ケーシング5の外周側には、複数の締結ボルト30が周方向に間隔をもって設けられている。即ち、図2中の左側に位置する蓋体7は、プレートケース6(筒部6A)の左端側に締結ボルト30等を用いてフランジ結合されている。また、プレートケース6(筒部6A)の右端側には、モータケース8の筒部8Aが締結ボルト30等を用いてフランジ結合されている。
【0058】
第1の実施の形態によるスタビライザ装置1は、上述のように構成されるもので、次に、その作動について説明する。
【0059】
まず、車両が直進している場合には、車体がロールすることはほとんどない。このために、スタビライザ装置1に求められる捩り剛性は小さく、各スタビライザバー2,3は比較的容易に独立して回動することができる。これにより、例えば直進走行時に一方の車輪が凹部に落ちることがあっても、この一方の車輪だけをストロークさせることができ、安定した走行姿勢を得ることができる。
【0060】
即ち、ステアリング角、アクセル開度、ブレーキの操作状況、横加速度等の情報を基にして走行状況を判断し、直進走行(大きなロールが発生するようなステアリング操作が行われていない状態)していると判断した場合には、電動モータ19によってねじ部材18を任意の方向に回転させ、図2に示すように、第2のプレート12とピストン17のばね受部17Aとを比較的大きな間隔寸法で離間させる。
【0061】
これにより、コイルばね15に付加される初期荷重が小さくなるから、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とを相対回転させるのに必要な捩り力となるトルクも小さくなる。従って、スタビライザ装置1の捩り剛性を小さくできるから、左,右の車輪は、路面の凹凸に合わせて独立してストロークすることができ、良好な乗り心地を得ることができる。
【0062】
次に、ステアリングを操作してコーナを走行する場合には、外側へのロールを抑える必要がある。そこで、スタビライザ装置1は、電動モータ19によってねじ部材18を先程とは逆方向に回転させ、第2のプレート12とピストン17のばね受部17Aとの間隔寸法を小さくするように、ピストン17を図2中の矢示A方向に移動させる。
【0063】
これにより、コイルばね15に付加される初期荷重が大きくなるから、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とを相対回転させるのに必要な捩り力も大きくなる。従って、スタビライザ装置1は、各スタビライザバー2,3間の捩り剛性を高めることで、車体が外側にロールするのを抑えることができ、コーナリング時等の車両の走行姿勢を安定させることができる。
【0064】
このコーナリング時の制御では、左コーナを走行する場合、右コーナを走行する場合のいずれでも、付勢力調整機構16によってコイルばね15の初期荷重(ばね力)を大きくすることになる。これにより、山道を走行する場合、スラローム走行を行う場合のように、左コーナと右コーナとが交互に続く場合でも、各スタビライザバー2,3間の捩り剛性を一度高めた後には、速度やコーナの大きさに応じて微調整するだけでよく、電動モータ19の頻繁な駆動を不要にすることができる。
【0065】
よって、ステアリング角、アクセル開度、ブレーキの操作状況、横加速度等の情報やカーナビ情報を基にして比較的大きなロールが発生するロール走行状況であると判断したとき、そのロール走行状況である間は、付勢力調整機構16によって、コイルばね15の初期荷重(ばね力)を大きくする。そして、所定時間、直進走行が継続したときに、コイルばね15の初期荷重(ばね力)を小さくすればよい。
【0066】
かくして、第1の実施の形態によれば、ランプ11,13のプロフィール、つまり溝形状を円弧状とすることにより非線形特性を得ることができ、乗り心地の向上を図ることができる。
【0067】
第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とを連結して両者間の捩り剛性を調整する可変剛性部4を、前記各スタビライザバー2,3間の相対回転運動を直線運動に変換するボールアンドランプ機構9と、前記直線運動を抑制するためにボールアンドランプ機構9の第2のプレート12を第1のプレート10に向けて軸方向に付勢するコイルばね15と、該コイルばね15の付勢力を調整する付勢力調整機構16とにより構成している。
【0068】
従って、可変剛性部4は、捩り剛性を調整する場合、付勢力調整機構16によってコイルばね15の付勢力を小さくするか、大きくするかの調整となるから、左コーナと右コーナとで同様の制御とすることができる。
【0069】
この結果、左コーナと右コーナとが交互に続く場合でも、付勢力調整機構16のピストン17とねじ部材18との間には、台形ねじからなる雌ねじ17Cと雄ねじ18Bとを形成しているため、各スタビライザバー2,3間の捩り剛性を一度高めるだけでよく、電動モータ19の頻繁な駆動を不要にすることができるから、調整動作の回数削減による省電力化、構成を簡略化したことによる小型化等を図ることができる。
【0070】
しかも、ボールアンドランプ機構9は、第1のスタビライザバー2に連結され第1のランプ11が形成された第1のプレート10と、第2のスタビライザバー3に連結され第2のランプ13が形成された第2のプレート12と、前記第1のランプ11と第2のランプ13に収められた状態で前記第1のプレート10と第2のプレート12とに挟まれた合計3個のボール14と、これらのボール14とは互い違いとなるようにケーシング5と第2のプレート12との間に配設された3組の転がり直動ガイド21とにより構成している。
【0071】
これによって、ボールアンドランプ機構9は、各スタビライザバー2,3間の捩れとなる相対回転運動を、簡単な構成で直線運動に変換することができ、構成を簡略化することができる。これにより、スタビライザ装置1を小型化することができ、車体に対する取付けの自由度を高めることができる。
【0072】
特に、転がり直動ガイド21は、図2〜図4に示すように、プレートケース6の各廻止め溝6Dと径方向で対向して第2のプレート12の外周側に略コ字形状の凹溝として形成されたプレート側ガイド溝22と、外周側がプレートケース6の廻止め溝6Dに圧入され内周側がプレート側ガイド溝22内に摺動可能に嵌合されたガイド片23と、該ガイド片23とプレート側ガイド溝22との間に溝部22A,23Aを介して軸方向に転動可能に設けられた球体24と、該球体24をプレート側ガイド溝22とガイド片23との間で転動可能に保持するホルダ25と、プレート側ガイド溝22とガイド片23との間に形成される球体収容空間26内に向けて球体24をホルダ25とリテーナ28の間で付勢するばね27とにより構成されている。
【0073】
このように、ケーシング5(プレートケース6)の筒部6Aと第2のプレート12との間には、周方向に互いに離間して合計3組の転がり直動ガイド21を設けているため、第2のプレート12がプレートケース6の筒部6A内で相対回転するのを規制することができ、第2のプレート12が筒部6A内で軸方向へと円滑に変位するのを補償することができる。
【0074】
即ち、ボールアンドランプ機構9により各スタビライザバー2,3間の相対回転を直線運動に変換するときに、第1のプレート10と第2のプレート12との相対回転に従って第2のプレート12が第1のプレート10から離れる方向(図2中の矢示B方向)に変位する。このとき、転がり直動ガイド21の球体24は、プレート側ガイド溝22の溝部22Aとガイド片23の溝部23Aとの間で軸方向(図2中の矢示B方向)に転動し、プレート側ガイド溝22とガイド片23との間に生じる摩擦抵抗を低減する。
【0075】
また、各スタビライザバー2,3間の捩れを戻す方向で両者が相対回転するときには、第2のプレート12がコイルばね15の付勢力により第1のプレート10に近付く方向(図2中の矢示A方向)に変位する。このため、転がり直動ガイド21の球体24は、プレート側ガイド溝22の溝部22Aとガイド片23の溝部23Aとの間で軸方向(図2中の矢示A方向)に転動し、プレート側ガイド溝22とガイド片23との間に生じる摩擦抵抗を低減する。
【0076】
このとき、球体24は、座金29によりプレート側ガイド溝22とガイド片23との間の球体収容空間26内に収められ、ホルダ25と座金29との間にばね27の付勢力で挟まれた状態に戻される。ばね27は、ホルダ25を介して球体24を矢示B方向に付勢することにより、スタビライザバー2,3間にトルクが発生(球体24に摩擦力が作用)していないときに、球体24が車体の移動による慣性力で溝部22A,23A間を移動するのを防ぎ、常に予め決められた初期位置(例えば、図2に示す位置)から転動(動作)を開始するのを補償すると共に、最小のスペースで必要なストロークを確保することができる。
【0077】
この結果、ボールアンドランプ機構9により各スタビライザバー2,3間の相対回転を直線運動に変換するときに、ケーシング5の筒部6Aと第2のプレート12との間に大きなトルクが発生しても、プレート側ガイド溝22とガイド片23との間に生じる摩擦抵抗を球体24の転動により低減することができ、ヒステリシス等の発生を抑えて、小型で抵抗の少ない転がり直動ガイドを実現することができる。
【0078】
また、合計3組の転がり直動ガイド21は、第2のプレート12の周方向で各ランプ13とは互いに異なる位置に均等な間隔をもって配設されている。このため、ボールアンドランプ機構9のプレート10,12が転がり直動ガイド21により大型化するのを防ぎ、その外径寸法を小さく抑えることができる。そして、スタビライザとしての作動時に第2のプレート12が第1のプレート10から離れる方向に変位するときには、転がり直動ガイド21の球体24がプレート10,12間に部分的に突出するように転動し、3個のボール14間で周方向に形成される空間を球体24用のスペースとして有効に活用することができる。
【0079】
また、付勢力調整機構16は、コイルばね15に当接するピストン17と、回転運動をピストン17の直線運動に変換するためピストン17に螺合したねじ部材18と、該ねじ部材18に連結された電動モータ19と、コントローラ等の制御装置100とにより構成しているから、制御が容易な電動モータ19を用いてコイルばね15の初期荷重を調整することができ、構成の簡略化による小型化、製造コストの低減等を図ることができる。
【0080】
さらに、各プレート10,12に設けたランプ11,13は、長さ方向の中央部が最深部となり両端側に向けて浅くなる円弧状溝として形成している。これにより、各スタビライザバー2,3間の捩れ角が小さい範囲では、トルクに影響するコイルばね15のばね荷重を低くして乗り心地を良好にすることができる。また、各スタビライザバー2,3間の捩れ角が大きい範囲では、コイルばね15のばね荷重を高くして捩り剛性を高めることができ、コーナを走行するときのロールを抑制して走行姿勢を安定させることができる。
【0081】
次に、図6および図7は本発明の第2の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、回転規制機構の軸方向転動子を、円柱形のころにより構成したことにある。なお、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0082】
図6において、第2の実施の形態で採用した回転規制機構としての転がり直動ガイド41は、第1の実施の形態で述べた転がり直動ガイド21とほぼ同様に、プレート側ガイド溝42、ガイド片43、軸方向転動子としてのころ44、ホルダ45、転動子収容空間としてのころ収容空間46、付勢部材としてのばね47およびリテーナ48により構成されている。
【0083】
この場合、プレート側ガイド溝42は、第1の実施の形態で述べたプレート側ガイド溝22と同様に第2のプレート12の軸方向に延びて形成されている。しかし、プレート側ガイド溝42の底部側には、図7に示すように円柱状のころ44を軸方向にガイドするため断面コ字形状の溝部42Aが、第2のプレート12の軸方向に延びる凹溝として形成されている。
【0084】
また、ガイド片43は、図7に示すようにプレートケース6の廻止め溝6Dに圧入等の手段で嵌合され、プレートケース6の内周側に強固に固定されている。しかし、ガイド片43には、ころ44を挟んでプレート側ガイド溝42の溝部42Aと対向する位置にころ44の外径よりも僅かに大きい溝幅をもったコ字形状の溝部43Aが設けられ、該溝部43Aはガイド片23の軸方向に延びる凹溝として形成されている。
【0085】
そして、円柱体として形成されたころ44は、2つの溝部42A,43A間に挟まれた状態で両者の間を軸方向に転動し、溝部42A側の第2のプレート12が溝部43A側のガイド片43に対して軸方向に変位するのを円滑化する。即ち、軸方向転動子としてのころ44は、第2のプレート12がケーシング5(プレートケース6)の筒部6A内を軸方向に移動するときに摩擦抵抗を低減するものである。
【0086】
また、ホルダ45は、第1の実施の形態で述べたホルダ25とほぼ同様に形成され、その内側にころ44を転動可能に挟んだ状態で、図7に示すようにプレート側ガイド溝42とガイド片43との間に配置される。そして、ホルダ45は、ころ44が溝部42A,43A間から外側に抜出すのを抑える脱落防止部材として機能するものである。
【0087】
また、付勢部材としてのばね47とリテーナ48とは、第1の実施の形態と同様に構成され、ばね47は、リテーナ48の各ばね受部48Aとホルダ45との間にプリセット状態で配設され、ころ44を座金29(図6参照)側に向けて付勢している。そして、ホルダ45と座金29とは、プレート側ガイド溝42とガイド片43との間に形成されるころ収容空間46内でころ44を前,後(軸方向両側)から挟み、ころ44が外側に抜出すのを抑える機能を有している。
【0088】
かくして、このように構成された第2の実施の形態においても、前述した第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、第2の実施の形態によれば、軸方向転動子として円柱形状のころ44を用いることにより、例えば第1の実施の形態で用いた球体24よりも安価に形成でき、高い剛性を有する部材とすることができる。
【0089】
なお、前記第1の実施の形態では、ケーシング側ガイド部材としてのガイド片23を、プレートケース6の廻止め溝6Dに圧入等の手段で嵌合してプレートケース6の内周側に固定する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばプレートケース6等からなるケーシングの内周側にケーシング側ガイド部材を一体に形成する構成としてもよい。そして、このような変更は第2の実施の形態にも適用してもよいものである。
【0090】
また、前記各実施の形態では、ボールアンドランプ機構9の各プレート10,12に3本のランプ11,13を設け、該各ランプ11,13に3個のボール14を収容する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばランプ11,13を2本または4本以上設け、ボール14を2個または4個以上設ける構成としてもよい。また、回転規制機構としての転がり直動ガイド21,41についても、ボール14とは周方向で互い違いとなるように、2組または4組以上設ける構成としてもよいものである。
【0091】
また、前記各実施の形態では、直線運動を抑制する方向に第2のプレート12を付勢する付勢機構としてコイルばね15を用いる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば皿ばね、ゴムばね等の他の弾性部材を用いる構成としてもよい。
【0092】
また、前記各実施の形態では、ピストン17の雌ねじ17Cとねじ部材18の雄ねじ18Bとからなるねじ機構を、台形ねじによって構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばボールねじ等の他のねじ機構を用いる構成としてもよい。ここで、台形ねじを用いた場合とボールねじを用いた場合とを比較する。台形ねじは、逆作動性が低いため、一度剛性を高くする側に移動すると、電力を消費することなく特性を保持できる。しかし、電気系統等のフェイル時に、ピストン17の位置が決まってしまい、所定のロール剛性に戻すことが難しい場合がある。
【0093】
一方、ボールねじは機械効率が高く、逆作動性が良いのでフェイル時にはソフトな特性に落ち着き、前後のロール配分を狙い通りにできる反面、制御時にはピストン位置を保持するためモータに電流を流し続けなければならない。それぞれにメリットとデメリットがあるので、要求に応じて適宜選択するとよい。
【0094】
また、上記各実施の形態では、第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーを柔軟性を持つもので説明したが、本発明においては、実質的に柔軟性を持たない剛性の極めて高い剛体でもよい。よって、第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーを軽く、剛性の高い材料を用いることもできる。
【0095】
さらに、前記実施の形態では、直動機構を備えた装置としてスタビライザ装置1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば特許第3297706号公報に記載のディスクブレーキのように、アクチュエータの回転運動を軸方向変位に変換してブレーキパッドに伝える構成とした装置等、種々の直動機構を備えた装置にも適用することができる。
【0096】
次に、上記の実施の形態に含まれる発明について述べる。複数の回転規制機構は、第2のプレートの周方向で各第2の傾斜部とは互いに異なる位置に配設している。これにより、直動機構の第1,第2のプレートが回転規制機構により大型化するのを防ぎ、その外径寸法を小さく抑えることができる。そして、スタビライザとしての作動時に第2のプレートが第1のプレートから離れる方向に変位するときには、回転規制機構の軸方向転動子を第1、第2のプレート間に部分的に突出するように転動でき、直動機構の各転動部材間で周方向に形成される空間を軸方向転動子用のスペースとして有効に活用することができる。
【0097】
特に、各回転規制機構を第2のプレートの周方向に均等な間隔をもって配設することにより、直動機構の各転動部材間で周方向に形成される空間を軸方向転動子用のスペースとしてより有効に活用することができる。
【0098】
また、第1のプレートと一体に回転するようにケーシングに回転可能に設けられる第1のスタビライザバーと、前記ケーシングに固定して設けられる第2のスタビライザバーと、前記ケーシング内に設けられ前記第2のプレートが軸方向に直線運動するのを抑制するように前記第2のプレートを第1のプレートに向けて付勢する付勢機構とを備える構成とすることにより、簡単な構成で回転運動を直線運動に変換することができ、構成を簡略化することができる。これにより、スタビライザ装置を小型化することができ、車体に対する取付けの自由度を高めることができる。
【0099】
また、直動機構を、第1の傾斜部が形成された第1のプレートと、第2の傾斜部が形成された第2のプレートと、前記第1の傾斜部と第2の傾斜部に収められたボールまたは円錐ころ等の転動部材とにより構成しているから、簡単な構成で回転運動を直線運動に変換することができ、構成を簡略化することができる。これにより、スタビライザ装置を小型化することができ、車体に対する取付けの自由度を高めることができる。
【0100】
さらに、前記付勢機構の付勢する力を調整する付勢力調整機構を備える構成とすることにより、付勢力調整機構は、例えばねじ機構を用いて回転運動を直線運動に変換することができるから、駆動源として電動モータ等の駆動手段を用いることができ、構成の簡略化、製造コストの低減化等を図ることができる。
【符号の説明】
【0101】
1 スタビライザ装置
2 第1のスタビライザバー
3 第2のスタビライザバー
4 可変剛性部
5 ケーシング
9 ボールアンドランプ機構(直動機構)
10 第1のプレート
11 第1のランプ(第1の傾斜部)
12 第2のプレート
13 第2のランプ(第2の傾斜部)
14 ボール(転動部材)
15 コイルばね(付勢機構)
16 付勢力調整機構
17 ピストン
17C 雌ねじ(ねじ機構)
18 ねじ部材
18B 雄ねじ(ねじ機構)
19 電動モータ(駆動手段)
21,41 転がり直動ガイド(回転規制機構)
22,42 プレート側ガイド溝
23,43 ガイド片(ケーシング側ガイド部材)
24 球体(軸方向転動子)
25,45 ホルダ
26 球体収容空間(転動子収容空間)
27,47 ばね(付勢部材)
28,48 リテーナ
29 座金
44 ころ(軸方向転動子)
46 ころ収容空間(転動子収容空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のケーシングと、該ケーシング内に設けられ回転運動を直線運動に変換する直動機構とを備え、
該直動機構は、
前記ケーシング内での軸方向変位を規制した状態で回転運動を行い、軸方向一側の表面に周方向に延びる第1の傾斜部が複数個形成された第1のプレートと、
該第1のプレートと軸方向で対向して前記ケーシング内に設けられ、該第1のプレートと対向する軸方向他側の表面に周方向に延びる第2の傾斜部が複数個形成された第2のプレートと、
前記第1の傾斜部と第2の傾斜部との間に挟んだ状態で前記第1,第2のプレート間に転動可能に設けられ、前記第1,第2のプレートが相対回転するときに両者を軸方向で接近,離間させる複数の転動部材と、
前記ケーシングと前記第2のプレートとの間に設けられ、前記第2のプレートがケーシング内で軸方向に変位するのを許し両者の相対回転を規制する複数の回転規制機構とにより構成し、
該各回転規制機構は、
前記第2のプレートに設けられ前記ケーシングに向けて開口したプレート側ガイド溝と、
該プレート側ガイド溝に嵌合して前記ケーシングに設けられ前記プレート側ガイド溝との間に転動子収容空間を形成するケーシング側ガイド部材と、
該ケーシング側ガイド部材と前記プレート側ガイド溝との間に転動可能に設けられ前記転動子収容空間内で軸方向に転動する軸方向転動子と、
該軸方向転動子を前記転動子収容空間内で軸方向に付勢する付勢部材とにより構成してなる直動機構を備えた装置。
【請求項2】
前記複数の回転規制機構は、前記第2のプレートの周方向で前記各第2の傾斜部とは互いに異なる位置に配設してなる請求項1に記載の直動機構を備えた装置。
【請求項3】
前記複数の回転規制機構は、前記第2のプレートの周方向に均等な間隔をもって配設してなる請求項2に記載の直動機構を備えた装置。
【請求項4】
前記第1のプレートと一体に回転するように前記ケーシングに回転可能に設けられる第1のスタビライザバーと、
前記ケーシングに固定して設けられる第2のスタビライザバーと、
前記ケーシング内に設けられ前記第2のプレートが軸方向に直線運動するのを抑制するように前記第2のプレートを前記第1のプレートに向けて付勢する付勢機構とを備えてなる請求項1,2または3に記載の直動機構を備えた装置。
【請求項5】
前記付勢機構の付勢する力を調整する付勢力調整機構を備えてなる請求項4に記載の直動機構を備えた装置。
【請求項6】
筒状のケーシングと、該ケーシングに相対回転可能に設けられる第1のスタビライザバーと、前記ケーシングに固定して設けられる第2のスタビライザバーと、該各スタビライザバーを連結するように前記ケーシング内に設けられ前記各スタビライザバー間のねじり剛性を調整する可変剛性部とからなり、
前記可変剛性部は、前記第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転に応じて直線運動する直動機構と、前記直線運動を抑制する方向に前記直動機構を付勢する付勢機構と、該付勢機構の付勢する力を調整する付勢力調整機構とを有し、
前記直動機構は、
前記第1のスタビライザバーに連結して前記ケーシング内に回転可能に設けられ、軸方向一側の表面に周方向に延びる第1の傾斜部が複数個形成された第1のプレートと、
該第1のプレートと軸方向で対向して前記ケーシング内に設けられ、該第1のプレートと対向する軸方向他側の表面に周方向に延びる第2の傾斜部が複数個形成された第2のプレートと、
前記第1の傾斜部と第2の傾斜部との間に挟んだ状態で前記第1,第2のプレート間に転動可能に設けられ、前記第1,第2のプレートが相対回転するときに両者を軸方向で接近,離間させる複数の転動部材と、
前記ケーシングと前記第2のプレートとの間に設けられ、前記第2のプレートがケーシング内で軸方向に変位するのを許し両者の相対回転を規制する回転規制機構とにより構成し、
該回転規制機構は、
前記第2のプレートに設けられ前記ケーシングに向けて開口したプレート側ガイド溝と、
該プレート側ガイド溝に嵌合して前記ケーシングに設けられ前記プレート側ガイド溝との間に転動子収容空間を形成するケーシング側ガイド部材と、
該ケーシング側ガイド部材と前記プレート側ガイド溝との間に転動可能に設けられ前記転動子収容空間内で軸方向に転動する軸方向転動子と、
該軸方向転動子を前記転動子収容空間内で軸方向に付勢する付勢部材とにより構成してなるスタビライザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−112208(P2011−112208A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271822(P2009−271822)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】