説明

真空処理装置およびプラズマ処理方法

【課題】大型の基板にも安定したプラズマ処理を行え、かつプラズマ処理基板の生産量を向上させることのできる真空処理装置を提供する。
【解決手段】平行に対向配置され、その間にプラズマが生成されるリッジ電極21a,21bを有するリッジ導波管からなる放電室2と、その長さ方向両端に隣設され、高周波電源5A,5Bを放電室2に伝送してプラズマを発生させる一対の変換器3A,3Bと、プラズマ処理前の基板Sをリッジ電極21a,21bの所定位置に送り込み、プラズマ処理後の基板Sをリッジ電極21a,21bの所定位置から送り出す基板搬送装置44と、高周波電力を供給する高周波電源5A,5Bと、リッジ電極21a,21bと基板Sとの間の気体を排気する排気手段とを有し、リッジ電極21a,21bの幅方向(H方向)の寸法を、長さ方向(L方向)の寸法よりも大きく設定し、基板Sの搬送方向Cを、リッジ電極21a,21bの幅方向Hに沿わせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理装置に関し、特に、プラズマCVD装置、ドライエッチング装置、スパッタリング装置に例示される真空処理装置、即ち、基板や製膜済の基板に真空または減圧雰囲気のもとで処理を実施する真空処理装置およびプラズマ処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、薄膜太陽電池の生産性を向上させるためには、高品質なシリコン薄膜を、高速に、かつ、大面積で製膜することが重要である。このような高速かつ大面積な製膜を行う方法としては、プラズマCVD(化学気相成長)法による製膜方法が知られている。
【0003】
プラズマCVD法による製膜を行うためには、プラズマを発生させるプラズマ生成装置(真空処理装置)が必要であり、効率良くプラズマを発生させるプラズマ生成装置として、例えば特許文献1に開示されているリッジ導波管を利用したプラズマ生成装置が知られている。この種のプラズマ生成装置は、同文献1の図10に示されるように、高周波電源(RF電源)を強い電界に変換させる左右一対の変換器(分配室)と、これらの変換器の間に接続される放電室(有効空間)とを備えて構成されている。
【0004】
放電室の内部には、互いに対向する上下一対の平面状のリッジ電極が設けられており、この間にプラズマが発生する。したがって、ガラス基板等に製膜処理を施す場合には、このようなリッジ電極の間に基板を設置して製膜処理を施すことが考えられる。具体的には、上下のリッジ電極が水平になるように装置全体を設置し、上下の電極の間に基板を搬入して、この基板を下側のリッジ電極の上面に載置する。そして、放電室の内部を真空状態に近づけると同時に、プラズマの生成と薄膜の形成に必要な製膜材料ガスを含む材料ガスを供給し、リッジ電極の間にプラズマを発生させて、基板に薄膜等を形成する。
【0005】
従来のこのようなプラズマ生成装置では、リッジ導波管に対して、横方向からマイクロ波電力を供給する構造になっていて、リッジ導波管に沿った長手方向における電界強度分布が生じていた。即ち、リッジ導波管に沿った長手方向(伝播方向)における電界強度分布は分配室と称されるリッジ導波管に併設された部分および分配室からリッジ導波管にマイクロ波を供給するための結合穴の構成により定まる。そのため、リッジ導波管と分配室は同じ長さが必要であり、かつ分配室や結合穴における取りうる構成が制限されると、電界強度分布の均一性も制限されることからプラズマの均一化が困難になるという問題があった(特許文献1参照)。
また、このようなリッジ導波管を利用したプラズマ生成装置において、上下のリッジ電極間に発生する電界の強度は、リッジ電極の幅方向(両側のリッジ導波管の間を結ぶ方向)においては均一に分布するが、リッジ導波管に沿った長手方向(伝播方向)においては定在波の影響により電界の分布が不均一になり、これにともない製膜時における膜厚や膜質が不均一になるという課題があった。
【0006】
一方、特許文献2に開示されている放電電極に高周波を供給するプラズマCVD装置のように、位相変調方式などのプラズマ制御により、放電電極の高周波伝播(長手方向)における定在波の影響を低減させた電界強度の均一化が図られてきた。このプラズマCVD装置は、複数に分割した放電電極から材料ガスを供給し、複数の放電電極へ供給する高周波電力の位相を時間的に変調させることで、電界強度分布を時間平均的に均一になるよう調整することで、プラズマ状態の均一化を図り、もって放電電極の長手方向に沿う膜厚分布の均一化に努めていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平4−504640号公報
【特許文献2】特許第3316490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、昨今の世界的な環境保全傾向に伴い、クリーンなエネルギー源である太陽電池(光電変換装置)の生産量拡大が早急な課題となっており、これまでのプラズマCVD装置では大型の基板に均一で高速に製膜を行うのに限界があった。また、製膜基板を増産するにあたり、プラズマCVD装置のような真空処理装置をより小型化して、工場敷地内に多数配置できるようにすることが望まれていた。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、面積が1mを超える大型の基板にも安定したプラズマ処理を行えるようにし、しかも装置を小型化して工場敷地内に多数配置できるようにし、プラズマ処理基板の生産量を向上させることのできる真空処理装置およびプラズマ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
即ち、本発明に係る真空処理装置は、平板状に形成されて互いに平行に対向配置され、その間にプラズマが生成させて該プラズマにより基板にプラズマ処理を施す一方および他方のリッジ電極を有するリッジ導波管からなる放電室と、前記リッジ電極の長さ方向に沿って前記放電室の両端に隣接して配置され、互いに平行に対向配置された一対のリッジ部を有するリッジ導波管からなり、高周波電源から供給された高周波電力を方形導波管の基本伝送モードに変換して前記放電室に伝送し、前記一方および他方のリッジ電極間にプラズマを発生させる一対の変換器と、プラズマ処理前の前記基板を前記リッジ電極の所定位置に送り込み、プラズマ処理後の前記基板を前記リッジ電極の所定位置から送り出す基板搬送手段と、高周波電力を前記リッジ部に供給する電源手段と、前記基板にプラズマ処理を施すのに必要な材料ガスを前記一方および他方のリッジ電極の間に供給する材料ガス供給手段と、前記リッジ電極と前記基板との間の気体を排気する排気手段と、を有し、前記リッジ電極の幅方向の寸法を、長さ方向の寸法よりも大きく設定し、前記基板搬送手段による前記基板の搬送方向を、前記リッジ電極の幅方向に沿わせたことを特徴とする。
【0011】
上記発明によれば、対向する一方および他方のリッジ電極の幅方向においては、リッジ導波管の特性として電界強度の分布が均一になるため、例えばプラズマCVD法により基板表面に製膜処理を施す場合には、リッジ電極の幅方向に沿って均一な膜質が得られる。一方、リッジ電極の長さ方向には、定在波の位相位置によって電界強度分布の偏りが生じやすい。このため、リッジ電極の幅方向の寸法を長さ方向の寸法よりも大きく設定し、基板搬送手段による基板の搬送方向をリッジ電極の幅方向に沿わせることにより、電界強度分布が不安定になりがちなリッジ電極の長さ方向には基板を大きくさせずに、リッジ電極の幅方向に拡大可能にして、面積が1m以上の大型の基板にも歩留まり良く安定したプラズマ処理を行うことができる。
【0012】
また、本発明に係る真空処理装置は、前記一対の変換器に供給する電力の少なくとも一方の位相を時間に対して変調させたことを特徴とする。これによれば、定在波の位相位置によって電界の強度分布が不均一になやすいリッジ電極の長さ方向においても電界強度分布を均一化することができ、これによって基板のサイズをリッジ電極の長さ方向にも拡大することができ、大面積な基板へのプラズマ処理を行うことができる。
【0013】
さらに、本発明に係る真空処理装置は、函体状の第1の真空容器内に前記放電室および変換器が気密的に収容されてプラズマ生成ユニットが構成されるとともに、函体状の第2の真空容器内に前記基板搬送手段が気密的に収容されて基板搬送ユニットが構成され、前記基板搬送ユニットは前記リッジ電極の幅方向に沿う方向で前記プラズマ生成ユニットに交差して接続され、前記排気手段により前記プラズマ生成ユニットおよび前記基板搬送ユニットの内部の気体が排気されるように構成されたことを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、放電室と変換器と基板搬送手段とを1つの共通の真空容器にまとめて収容した場合に比べて、真空処理装置全体の容積を大幅に縮小して小型化することができる。また、函体状の第2の真空容器は底浅容器状に形成できるため、元々容積が小さいので、共通の真空容器としても真空処理装置全体の容積を増加することが無い。これにより、真空処理装置を工場敷地内に多数配置できるようになり、結果的にプラズマ処理基板の生産量を向上させることができる。
【0015】
また、本発明に係る真空処理装置は、前記基板搬送ユニットが、前記プラズマ生成ユニットと交差する部分に画成されて前記基板搬送手段により搬送されてきた前記基板が前記リッジ電極の位置に整合して前記プラズマ処理を施されるプロセス室と、前記プロセス室に対して前記基板搬送手段の搬送方向上流側に位置して前記基板に前記プラズマ処理の前工程が施されるロード室と、前記プロセス室に対して前記基板搬送手段の搬送方向下流側に位置して前記基板に前記プラズマ処理の後工程が施されるアンロード室と、前記プロセス室、ロード室、アンロード室の上下流側端部および接続部を開閉し、かつその閉鎖時には、これら各室の真空気密性を個別に維持可能なゲート弁とを備えてなることを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、基板搬送ユニットを構成する3つの部屋、即ちプロセス室、ロード室、アンロード室において、それぞれプラズマ処理、前工程、後工程がなされ、これら3つの部屋がゲート弁により真空気密性を維持されて区画されるため、排気手段として用いられる真空ポンプ等の容量を小型化でき、ひいては真空処理装置全体の小型化に寄与することができる。しかも、プラズマ処理が施されるプロセス室では、ゲート弁を閉鎖することにより、プロセス室の内容積を最小限に保つことができるため、真空排気にかかる時間を飛躍的に短縮することができ、これによりプラズマ処理速度、即ちプラズマ処理基板の生産量を向上させることができる。
【0017】
さらに、本発明に係る真空処理装置は、前記基板搬送ユニット1基に対して前記プラズマ生成ユニットが複数基、直列的に配置されたことを特徴とする。こうすれば、例えば本発明をプラズマ製膜装置に適用した場合には、複数のプラズマ生成ユニットに、それぞれ別な種類のプラズマ製膜処理を行わせて、1枚の基板に複数の種類の膜を順次重ねて形成したり、あるいは複数の基板に同時に製膜処理を施したりすることができる。このため、プラズマ処理基板の生産量を向上させることができる。
【0018】
また、本発明に係る真空処理装置は、前記プラズマ生成ユニットが設けられた前記基板搬送ユニットが複数並列に配置され、これら各々の基板搬送ユニットの前後両端が、それぞれ前記基板搬送ユニットに対して直交する方向に延びる第1の共通搬送室と第2の共通搬送室に連通し、前記第1の共通搬送室の少なくとも一端にはプラズマ処理前の基板を待機させるロード室が設けられ、前記第2の共通搬送室の少なくとも一端にはプラズマ処理後の基板を待機させるアンロード室が設けられたことを特徴とする。
【0019】
このように構成することにより、ロード室とアンロード室とを1つずつ設けるだけで、複数のプラズマ生成ユニットにてプラズマ処理が施される基板の全てを、待機させたり、あるいは前後処理することができる。このため、プラズマ生成ユニットが複数設けられていても、ロード室とアンロード室は1つずつ設ければよく、これによって真空処理装置全体を小型化し、その分設置台数を多くしてプラズマ処理基板の生産量を向上させることができる。
【0020】
さらに、本発明に係る真空処理装置は、上記の各構成において、前記基板の面方向が鉛直方向に対して0°〜15°の角度で搬送されて前記プラズマ処理が施されるように構成されたことを特徴とする。これにより、大面積の基板にプラズマ処理を施すべく大型に形成された放電室や変換器等が全て略鉛直方向を向くため、真空処理装置のフットプリント(平面視の投影面積)を著しく減少させ、同じ敷地面積であれば、より多くの真空処理装置を整列させることができる。このため、プラズマ処理基板の生産量を向上させることができる。
【0021】
そして、本発明に係るプラズマ処理方法は、前記各態様における真空処理装置を用いて基板にプラズマ処理を施すことを特徴とする。これにより、高品質なプラズマ処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明に係る真空処理装置およびプラズマ処理方法によれば、1m以上の大型の基板にも歩留まり良く安定したプラズマ処理を行うことができ、しかも装置を小型化することができるので工場敷地内に多数配置することができ、プラズマ製膜基板等の生産量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係るダブルリッジ型の製膜装置の概略構成を説明する模式的な斜視図である。
【図2】同じく第1実施形態に係る製膜装置の放電室付近における、より詳細な概略構成を説明する模式的な分解斜視図である。
【図3】図2のIII-III線に沿う製膜装置の縦断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る製膜装置の放電室と変換器と基板搬送装置の分解斜視図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る製膜装置のプラズマ生成ユニットと基板搬送ユニットを示す斜視図である。
【図6】図5のVI-VI線に沿う製膜装置の縦断面図である。
【図7】製膜装置の基板搬送装置の第1の構造例を示す斜視図である。
【図8】製膜装置の基板搬送装置の第2の構造例を示す斜視図である。
【図9】第1実施形態における第1応用例を示す製膜装置の縦断面図である。
【図10】第1実施形態における第2応用例を示す製膜装置の縦断面図である。
【図11】第1実施形態における第3応用例を示す製膜装置の縦断面図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る製膜装置の斜視図である。
【図13】図12のXIII-XIII線に沿う製膜装置の縦断面図である。
【図14】本発明の第3実施形態に係る製膜装置の斜視図である。
【図15】図14のXV-XV線に沿う製膜装置の縦断面図である。
【図16】本発明の第4実施形態に係る製膜装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の各実施形態について、図1〜図16を参照して説明する。本実施形態においては、本発明を、一辺が1mを越える大面積な基板Sに対して、アモルファス太陽電池や微結晶太陽電池等に用いられる非晶質シリコン、微結晶シリコン等の結晶質シリコン、窒化シリコン等からなる膜の製膜処理をプラズマCVD法によって行うことが可能な、リッジ型電極構造の製膜装置(真空処理装置)に適用した場合について説明する。
【0025】
〔第1実施形態〕
まず、本発明の第1実施形態を図1〜図11に基づいて説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る製膜装置1の概略構成を説明する模式的な斜視図であり、図2は特に製膜装置1の放電室付近における、より詳細かつ模式的な分解斜視図である。また、図3は図2のIII-III矢視断面による製膜装置1の縦断面図である。
【0026】
この製膜装置1は、放電室2と、この放電室2の両端に隣接して配置された変換器3A,3Bと、これらの変換器3A,3Bに一端が接続される電源ラインとしての同軸ケーブル4A,4Bと、これらの同軸ケーブル4A,4Bの他端に接続される高周波電源5A,5B(電源手段)と、同軸ケーブル4A,4Bの中間部に接続された整合器6A,6Bおよびサーキュレータ7A,7Bと、放電室2に接続される排気手段9および材料ガス供給手段10と、均熱温調器11と、熱吸収温調ユニット12を主な構成要素として備えている。排気手段9としては、公知の真空ポンプ等を用いることができ、本発明において特に限定されるものではない。
【0027】
図1〜図4において、製膜装置1は、例えば後述する製膜チャンバ35,39(図5、図6参照)のような函体状の真空容器に収納されるものである。これらの真空容器は、その内外の圧力差に耐え得る構造とされている。例えば、ステンレス鋼(JIS規格におけるSUS材)や、一般構造用圧延材(JIS規格におけるSS材)などから形成され、リブ材などで補強された構成を用いることができる。上記の真空容器の内部や、放電室2、変換器3Aおよび変換器3Bの内部は、排気手段9により真空状態とされる。この排気手段9は、本発明において特に限定されることはなく、たとえば公知の真空ポンプ、圧力調整弁と真空排気配管等を用いることができる。
【0028】
放電室2は、アルミニウム合金材料等の、導電性を有し非磁性または弱磁性を有する材料から形成された容器状の部品であって、所謂ダブルリッジ型の導波管状に形成されたものである。図1〜図4に示すように、放電室2には、後述するE方向に重なる上下一対の放電用のリッジ電極21a(一方のリッジ電極)と、リッジ電極21b(他方のリッジ電極)が設けられている。これらの一対のリッジ電極21a,21bは、ダブルリッジ導波管である放電室2における主要部分となるリッジ形状を構成するものであり、互いに平行に対向配置された平板状の部分である。
【0029】
リッジ電極21a,21bは、厚さ0.5mm以上、3mm以下の、比較的薄い金属板で形成されている。リッジ電極21a,21bの材質としては、線膨張率が小さく、熱伝達率が高いことが望ましい。具体的にはSUS304等が好適であるが、線膨張率が大きい反面熱伝達率が格段に大きいアルミニウム系金属を用いてもよい。これらのリッジ電極21a,21bには複数の通気孔23a,23b(図3参照)が穿設されていて、ガスの通過が可能である。
【0030】
なお、本実施形態では、放電室2が延びる方向をL方向(図1における左右方向)とし、リッジ電極21a,21bの面に直交してプラズマ放電時に電気線が延びる方向をE方向(図1における上下方向)とし、リッジ電極21a,21bに沿い、かつE方向と直交する方向をH方向(図1における紙面に対して直交する方向)とする。
【0031】
図2に示すように、リッジ電極21a,21bの幅方向の寸法(H方向寸法)は、後述するリッジ導波管の特性により電界の均一性が得られるので、定在波による電界分布が生じ易い長さ方向の寸法(L方向寸法)の寸法よりも設定の自由度が大きい。このため、リッジ電極21a,21bの幅方向(H方向)のサイズを長さ方向(L方向)より大きくしてもよい。また、一方のリッジ電極21aから他方のリッジ電極21bまでの距離がリッジ対向電極間隔:d1(mm)と定められる。このリッジ対向電極間隔d1は、高周波電源5A,5Bの周波数、基板Sの大きさやプラズマ製膜処理の種類等に応じて、凡そ3〜30mm程度の範囲に設定される。そして、これら一対のリッジ電極21a,21bの両側に、一対の非リッジ部導波管22a,22bが設けられている。上下のリッジ電極21a,21bと、左右の非リッジ部導波管22a,22bによって、放電室2の縦断面形状が略「H」字形状に形成されている。
【0032】
一方、図1に示すように、変換器3A,3Bは、放電室2(リッジ電極21a,21b)の長さ方向(L方向)に沿って放電室2の両端に隣接して配置されており、放電室2と同様に、アルミニウム合金材料等の導電性を有し非磁性または弱磁性を有する材料から形成された容器状の部品であって、放電室2と同じくダブルリッジ導波管状に形成されている。
【0033】
変換器3A,3Bには、図1および図4、図5に示すように、それぞれ上下一対の平板状のリッジ部31a,31bが設けられている。これらのリッジ部31a,31bは、ダブルリッジ導波管である変換器3A,3Bにおけるリッジ形状を構成するものであり、互いに平行に対向して配置されている。ここで、一方のリッジ部31aから他方のリッジ部31bまでの距離がリッジ対向間隔:d2(mm)と定められる(図1参照)。また、これら一対のリッジ部31a,31bの両側に、一対の非リッジ部導波管32a,32bが設けられている。上下のリッジ部31a,31bと、左右の非リッジ部導波管32a,32bによって、変換器3A,3Bの縦断面形状が放電室2と同じく略「H」字形状に形成されている。
【0034】
変換器3A,3Bにおけるリッジ対向間隔d2は、高周波電源5A,5Bの周波数、基板Sの大きさやプラズマ製膜処理の種類等に応じて、凡そ50〜200mm程度の範囲に設定される。即ち、変換器3A,3Bにおけるリッジ部31a,31b間のリッジ対向間隔d2(凡そ50〜200mm)よりも、放電室2におけるリッジ電極21a,21b間のリッジ対向電極間隔d1(凡そ3〜30mm)の方が狭く設定されているため、リッジ部31a,31bとリッジ電極21a,21bとの境界部に数十〜百数十ミリのリッジ段差D(図1参照)が存在している。
【0035】
ところで、同軸ケーブル4A,4Bは、外部導体41および内部導体42を有しており、外部導体41が変換器3A,3Bの例えば上側のリッジ部31aに電気的に接続され、内部導体42が上側のリッジ部31aと変換器3A,3Bの内部空間を貫通して下側のリッジ部31bに電気的に接続されている。同軸ケーブル4A,4Bは、それぞれ、高周波電源5A,5Bから供給された高周波電力を変換器3A,3Bに導くものである。なお、高周波電源5A,5Bとしては、公知のものを用いることができ、本発明において特に限定されるものではない。
【0036】
変換器3A,3Bは、リッジ導波管の特性を利用して高周波電力の伝送モードを同軸伝送モードであるTEMモードから方形導波管の基本伝送モードであるTEモードに変換して放電室2に伝送する。変換器3A,3Bのリッジ部31a,31bと放電室2のリッジ電極21a,21bとの境界部にリッジ段差Dが存在しているため、リッジ電極21a,21bの間隔を狭く設定することで強い電界を発生し、リッジ電極21a,21bの間に材料ガスを導入することで材料ガスが電離されてプラズマが発生する。
【0037】
本発明では、高周波電源5A,5Bは、周波数が13.56MHz以上、好ましくは30MHzから400MHz(VHF帯からUHF帯)である。これは、13.56MHzより、周波数が低いとダブルリッジ導波管(放電室2と変換器3A,3B)のサイズが基板サイズに対して大型化するために装置設置スペースが増加し、周波数が400MHzより高いと放電室2が延びる方向(L方向)に生じる定在波の影響が増大してプラズマの均一性が低下するためである。
【0038】
さらに、導波管の特性により、このリッジ電極21a,21bの間ではリッジ電極に沿う方向(H方向)の電界強度分布がほぼ均一になる。リッジ導波管を用いることにより、このリッジ電極21a,21bの間ではプラズマを生成可能な程度の強い電界強度を得ることができる。なお、放電室2、変換器3Aおよび変換器3Bは、図1〜図6に示すようにダブルリッジ導波管により構成されていてもよいし、シングルリッジ導波管より構成されていてもよい。
【0039】
その一方で、放電室2には、高周波電源5Aから供給された高周波電力と、高周波電源5Bから供給された高周波電力により、定在波が形成される。このとき、電源5Aおよび電源5Bから供給される高周波電力の位相が固定されていると、定在波の位置(位相)が固定され、リッジ電極21a,21bにおける放電室2が延びる方向であるL方向の電界強度の分布に偏りが生じる。そこで、高周波電源5Aおよび高周波電源5Bの少なくとも一方から供給される高周波電力の位相を調節することにより、放電室2に形成される定在波の位置の調節が行われる。これにより、リッジ電極21a,21bにおけるL方向の電界強度の分布が時間平均的に均一化される。
【0040】
具体的には、定在波の位置が、時間の経過に伴いL方向に、sin波状や、三角波状や、階段(ステップ)状に移動するように高周波電源5Aおよび高周波電源5Bから供給される高周波電力の位相が調節される。定在波が移動する範囲や、定在波を移動させる方式(sin波状、三角波状、階段状等)や、位相調整の周期の適正化は、電力の分布や、プラズマからの発光の分布や、プラズマ密度の分布や、製膜された膜に係る特性の分布等に基づいて行われる。膜に係る特性としては、膜厚や、膜質や、太陽電池等の半導体としての特性などを挙げることができる。
【0041】
このように、リッジ部を形成したリッジ導波管の特性と、高周波電源5A,Bから供給された高周波電力の位相変調により、基板Sに対してH方向とL方向のいずれの方向にも均一なプラズマを広い範囲に生成することができ、大面積基板へ製膜するにあたり、高品質な膜を均一に製膜することができる。
【0042】
図2〜図4および図6に示すように、一対のリッジ電極21a,21bは、上側(+E方向)が排気側リッジ電極21aであり、下側(−E方向)が基板側リッジ電極21bとして構成されている。また、均熱温調器11が基板側リッジ電極21bの下方(−E方向)に設けられている。この均熱温調器11は、その上面11aが平坦で基板側リッジ電極21bに平行しており、熱媒体流通路11bが接続されて内部に純水やフッ素系オイル等の熱媒が循環する。そして、この均熱温調器11の上面11aに、プラズマ製膜処理が施される基板Sが載置される。つまり、基板Sは放電室2の外部に配置され、均熱温調器11によって所定温度に均等に加熱されながらプラズマ製膜処理を受ける。均熱温調器11は図示しないアクチュエータの駆動力により±E方向である上下に昇降することができ、基板Sのプラズマ製膜処理時には、その上面11aが基板側リッジ電極21bの下面に対して数mmから数十mm程度の間隔となる高さまで上昇する。
【0043】
基板Sとしては透光性ガラス基板を例示することができる。例えば、太陽電池パネルに用いられるものでは、縦横の大きさが1.4m×1.1m、厚さが3.0mmから4.5mmのものが挙げられる。
【0044】
一方、熱吸収温調ユニット12は、真空排気の均一化が可能な多岐管状のマニホールド12aと、熱吸収が可能な温調器12bとが一体化された構造であり、排気側リッジ電極21aの外面側(上部)に密着して設置され、排気側リッジ電極21aの温度を制御することで、プラズマ処理が施される基板Sの板厚方向を通過する熱流束を制御するものであり、基板Sの反り変形を抑制することができる。
【0045】
熱吸収温調ユニット12のマニホールド12aと温調器12bは、アルミ合金の機械加工やアルミダイキャスト製法等によって剛性のある一体構造物として形成され、その平面形状が排気側リッジ電極21aの平面形状と略同一の平面形状を有している。熱吸収温調ユニット12の下面には排気側リッジ電極21aに対向する平坦な平面部12cが形成され、この平面部12cに排気側リッジ電極21aが強く熱的に接触されつつ保持される。排気側リッジ電極21aは、熱吸収温調ユニット12の平面部12cに密着して一体となり、排気側リッジ電極21aが変形しないよう固定される。もしくは、排気側リッジ電極21aは平面部12cから離れないように図示しない固定部材によって保持され、その熱膨張時には平面部12cに対して面方向に相対移動可能に保持され、寸法差を吸収可能にされてもよい。
【0046】
図3に示すように、マニホルド12aの内部には水平方向に拡がる広い共通空間12dが形成されている。そして、マニホルド12aの上面中央部に、マニホルド12aのヘッダー部となる排気管12eが立設され、この排気管12eに排気手段9、即ち図示しない真空ポンプ等が接続される。さらに、マニホルド12aの下面(平面部12c)には複数の吸引口12fが開口形成されている(図2も参照)。これらの吸引口12fは共通空間12dを介して排気管12eに連通する。
【0047】
熱吸収温調ユニット12の共通空間12dは、吸引口12fと、排気側リッジ電極21aに設けられた多数の通気孔23aとを経て放電室2に連通している。さらに、熱吸収温調ユニット12の内部には、温調器12bの主要部となる熱媒(温調媒体)が流通する温調媒体流通路12gが配設されている(図2、図3参照)。この温調媒体流通路12gは、一端部の中央付近に設けた熱媒流路入口より導入され、マニホールド12aの内部において各吸引口12fの周囲を取り巻き、再び外周側に出るようにレイアウトされ、その内部には純水やフッ素系オイル等の熱媒が循環する。このため、平面部12bに密着して設けられた排気側リッジ電極21aの温度の均一化が図られる。
【0048】
さらに、熱吸収温調ユニット12は、セルフクリーニング時の反応(Si(膜や粉)+4F→SiF(ガス)+1439kcal/mol)による発熱を吸収するので、構造物の温度が高温化して構成材料がセルフクリーニング時にF系ラジカルで腐食が加速されないためにも有効である。熱吸収温調ユニット12は、放電室2内のヒートバランスを考慮して所定の温度に制御した熱媒を所定の流量で循環すること等による熱吸収や加熱を行うことで、排気側リッジ電極21aの温調が可能となっている。従って、熱吸収温調ユニット12は、高周波電源5A,5Bから供給されプラズマで発生するエネルギーを適切に吸収するとともに、リッジ電極21a,21bのプラズマから基板Sを設置する均熱温調器11への通過熱量や、均熱温調器11から基板Sを通過して熱吸収温調ユニット12へ通過する熱量に伴って基板Sの表裏に生じる温度差の発生を低減するので、基板Sが凹や凸に熱変形することの抑制に有効である。
【0049】
他方、材料ガス供給手段10は、例えば放電室2の両端に設けられた非リッジ部導波管22a,22bの内部に収容され、その内部空間の長手方向に沿って配設された材料ガス供給管10aと、この材料ガス供給管10aから放電室2の内部においてリッジ電極21a,21bの間に、基板Sの表面にプラズマ製膜処理を施すのに必要な原料ガスを含む材料ガス(例えば、SiHガス等の材料ガス)を噴き出させる複数の材料ガス噴出孔10bとを備えている。ガス噴出孔10bは、リッジ電極21a,21bの間に材料ガスを略均一に噴き出せるように、その孔径が適正化されて複数設けられている。なお、材料ガス噴出孔10bから噴出した材料ガスがすぐに拡散せずに、上下のリッジ電極21a,21bの間を奥まで進んで均等に拡散するように、材料ガス供給管10aの側面に一列に形成された複数の材料ガス供給管10aの上下に庇状のガイド板10cが設けられている。
【0050】
例えば、各ガス噴出孔10aが噴出すガス流速は、音速を超えることによりチョーク現象を発生させることで均一なガス流速になるので好ましい。材料ガス流量と圧力条件によるが、このような噴出し径としてφ0.3mm〜φ0.5mmを用いてガス噴出孔10aの数量を設定することが例示される。また、庇状のガイド板10cは、そのスリット状のガイド板対の間隔が0.5mmから2mm程度で、ガス助走長となるガイド板10cの幅(図3ではH方向)は、材料ガス供給管10の径の1倍から3倍程度が例示される。
【0051】
先述のように、一対のリッジ電極21a,21bは厚さ0.5mm〜3mmの薄い金属板である。排気側リッジ電極21aは熱吸収温調ユニット12の下面(平面部12c)に密着保持されているため、この排気側リッジ電極21aが撓んだり、反ったりする懸念はない。しかし、基板側リッジ電極21bは、その両面が何にも接していないため、そのままでは特に中央部が自重により下方に撓んでしまう。このため、図3に示すように、熱吸収温調ユニット12から下方に垂下させた複数の索状吊持部材27により、基板側リッジ電極21bを全面に亘って吊持する構成となっている。吊持部材27の材質は、放電室2内における電界を乱さないように、セラミックス等の誘電体か、金属棒の周囲を誘電体で覆った径の細いものにするのが望ましい。吊持部材27は、基板側リッジ電極21bの周囲および中央部を含む複数の点を保持し、各々の長さを調整できるようになっている。このため、基板側リッジ電極21bが排気側リッジ電極21aに対して平行かつ平坦に支持されている。
【0052】
また、図3に示すように、基板側リッジ電極21bのH方向の両辺部が、非リッジ部導波管22a,22bの電極固定部22cに締結固定されている。電極固定部22cの位置は、スライド調整部147と、ボルト、ナット等の締結部材148によって、非リッジ部導波管22a,22bに対して上下(±E方向)にスライドさせて固定することができる。このように基板側リッジ電極21bのE方向の高さを可変させることにより、リッジ電極21a,21b間のリッジ対向電極間隔d1を調整することができる。その際、電極固定部22cの位置をスライドさせても、非リッジ部導波管22a,22bのL方向断面形状が変化しないため、その導波管特性が維持され、伝送特性は変化しないので好ましい。
【0053】
上記構成によれば、一対のリッジ電極21a,21bの間を平行に保ちながらリッジ電極対向間隔d1を最適値に設定できる。また、基板側リッジ電極21bが複数の吊持部材27によって水平かつ平面度を維持した状態で、電極面方向で拘束することなく吊持されるため、基板側リッジ電極21bの厚みが薄くても、自重による湾曲や反り等の変形が起こらず、これによって基板側リッジ電極21bを薄板化させて熱伝達率を高め、表裏温度差や熱膨張による変形を抑制することができる。さらに、リッジ電極21bの表裏面には細い吊下部材27を除いて構造物がないため、放電室2内でプラズマを発生させ、製膜種を基板Sへと拡散させるのに影響がない。これらのため、放電室2内において均一なプラズマを発生させ、基板Sに高品質なプラズマ製膜処理を行うことができる。
【0054】
さらに、図3に示すように、基板側リッジ電極21bと、均熱温調器11とを下方から(−E方向から+E方向へ)囲む形状の防着板29が設けられている。この防着板29は均熱温調器11の下面から延びる支持柱30に対して軸方向(±E方向)に摺動可能に設けられるとともに、支持柱30の中間部に形成された鍔状のストッパ30a,30b間に介装された防着板押圧部材31との間に弾装されたスプリング33によって基板側リッジ電極21b側に常時付勢されている。なお、支持柱30は、均熱温調器11を支持しつつ、後述する製膜チャンバ35の外側の大気側からOリングシールなどで真空シールを維持されながら、±E方向である上下に昇降することができ、基板Sの搬送時などにおいて均熱温調器11を±E方向へ移動させるとともに、均熱温調器11へ熱媒など循環供給するための配管を内部に設置することが可能である。
【0055】
この防着板29を設けることにより、均熱温調器11の上面11aに載置された基板Sへの製膜時に拡散する製膜ラジカルおよび粉類が付着したり蓄積される場所を限定し、製膜装置1の製膜に関与しない領域への製膜材料の付着が抑制される。防着板29は、スプリング33の付勢力に抗して下方(−E方向へ)スライドして押し下げることで、基板搬送時など必要に応じて均熱温調器11との位置関係を変更ができ、これによって防着板29と下側のリッジ電極21bとの間に間隔が空くので、均熱温調器11の上面11aに載置する基板Sの搬入、搬出を容易にすることができる。なお、上述した均熱温調器11は、所定温度と所定流量の熱媒の循環により温度を制御された均熱板と基板テーブルとにより構成される従来構造を採用してもよい。また、均熱温調器11を一定の温度に加熱維持し、吸熱が不要な製膜条件で運用する製膜装置には、熱媒循環ではなく電気ヒータを保有した均熱板であってもよく、コスト削減と制御の簡易化が可能となる。
【0056】
そして、図5および図6に示すように、ステンレス(SUS材)や、アルミニウム合金、または一般構造用圧延材(SS材)等の金属板で矩形の函体状に形成された圧力容器である製膜チャンバ35(第1の真空容器)の中に、放電室2、変換器3A,3B、材料ガス供給手段10、均熱温調器11、熱吸収温調ユニット12等がまとめて気密的に収容されてプラズマ生成ユニット36が構成されている。製膜チャンバ35の内部は、排気手段9により0.1kPaから10kPa程度の真空状態とされるため、製膜チャンバ35はその内外の圧力差に耐え得る構造とされ、リブ材などで補強された構成を用いることができる。
【0057】
熱吸収温調ユニット12の排気管12eは、製膜チャンバ35の上面を気密的に貫通して外部に突出し、その先に前述の通り真空ポンプ等の排気手段9が接続される。このため、排気手段が作動すると、プラズマ生成ユニット36(製膜チャンバ35)の内部全体の気体が排気され、これにより、放電室2および変換器3A,3Bの内部と、防着板29の内部(放電室2の下側のリッジ電極21bと、均熱温調器11および基板Sとの間)の気体も排気されて真空化され、基板Sへのプラズマ製膜処理が可能になる。
【0058】
プラズマ生成ユニット36の下部には、基板搬送ユニット38が設けられている。この基板搬送ユニット38は、プラズマ生成ユニット36の製膜チャンバ35と同様に、ステンレスやアルミニウム合金等の金属板により矩形で浅底の函体状に形成された圧力容器である搬送チャンバ39(第2の真空容器)の中に、基板搬送装置44(基板搬送手段)が気密的に収容されて構成されたユニットである。この搬送チャンバ39の内部は、製膜チャンバ35と同じように、別途に設けた真空ポンプを経て外部へと排気する排気手段9により0.1kPaから10kPa程度の真空状態とされるため、搬送チャンバ39はその内外の圧力差に耐え得る構造である必要がある。
【0059】
基板搬送装置44は、プラズマ処理前の基板Sを、基板側リッジ電極21bの下方(−E方向)の位置に順次送り込み、ここで製膜などのプラズマ処理がなされた後の基板Sを、基板側リッジ電極21bの下方から送り出すコンベアラインであり、その搬送方向C(図4〜図6参照)がリッジ電極21a,21bの幅方向(H方向)に沿うように設置されている。このため、基板搬送ユニット38はリッジ電極21a,21b(放電室2)の幅方向(H方向)に沿う方向でプラズマ生成ユニット36の下面に重なるように接続され、平面視でプラズマ生成ユニット36と基板搬送ユニット38とが十字状に交差している。
【0060】
図6に示すように、基板搬送ユニット38は、プラズマ生成ユニット36と交差する部分、つまり放電室2の直下に画成されたプロセス室46と、このプロセス室46に対し基板搬送装置44の搬送方向Cの上流側に繋がるロード室47と、プロセス室46に対し搬送方向Cの下流側に繋がるアンロード室48の3室に区画されている。これら各室46,47,48の搬送方向Cの上下流側端部および接続部にはそれぞれゲート弁49,50,51,52が設けられており、これらのゲート弁49,50,51,52の閉鎖時には、各室46,47,48の相互間の真空気密性が個別に維持されるようになっている。
【0061】
プロセス室46は浅底で容積の小さい真空容器であり、プラズマ生成ユニット36(製膜チャンバ35)に連通しているため、製膜チャンバ35に設けられた排気管12eから内気が排気されることによりプロセス室46の内部も排気されて真空化される。また、ロード室47とアンロード室48には、それぞれその下面に排気管47a,48aが設けられており、これらの排気管47a,48aから排気手段によりロード室47とアンロード室48の内部が真空化される。このため、基板搬送ユニット38の内部全体が排気されて真空になる。
【0062】
プロセス室46は、後述するように基板搬送装置44により搬送されてきた基板Sが、リッジ電極21a,21bの位置に整合し、均熱温調器11の上面で温調されながらプラズマ処理を施される部屋である。一方、ロード室47は、基板Sにプラズマ処理の前工程が施される部屋であり、例えばその内部に基板予熱器54が設置され、基板搬送装置44により搬送されてきた基板Sが基板予熱器54の上でプロセス室46への搬入可能なタイミングまで待機しながら適温になるまで予熱される。他方、アンロード室48は、基板Sにプラズマ処理の後工程が施される部屋であり、例えばその内部に基板温調器55が設置され、プラズマ処理を終えて高温になった基板Sが基板温調器55の上で所定の温度に降下するまで徐冷されてから外部に搬出され、外部搬出時における急激な冷却による熱割れが防止されるようになっている。
【0063】
ロード室47の内部に設けた基板予熱器54と、アンロード室48の内部に設けた基板温調器55は、図示しないアクチュエータの駆動力により、搬送チャンバ39の外側の大気側からOリングシールなどで真空シールを維持されながら、±E方向である上下に昇降することができ、基板Sに対して加熱や冷却の温度処理を可能としている。
【0064】
基板搬送装置44の基本構成は、図4〜図7に示すように、放電室2の幅方向(H方向=基板搬送ユニット38の長手方向)に沿って延びる2本の搬送レール57が設けられ、この搬送レール57の対向する内面に多数の搬送ローラ58が軸支され、搬送ローラ58が同期して回転することで、これらの搬送ローラ58の上を基板Sが走行するようになっている。しかし、均熱温調器11に基板Sを載設するにあたり、複数の基板Sを自動的に搬送するために、図7に示すように、2本の搬送レール57の間に挟まるようにして四角い枠状の搬送体59が移動自在に設けられている。この搬送体59は、2本の搬送レール57の内側に設けられた直動レール60に、リニヤベアリングを内蔵した直動ガイド61を掛止させて±H方向へスムーズに走行でき、この搬送体59の上面に多数の支持ローラ62を介して基板Sが載置される。
【0065】
搬送体59は、駆動部63に駆動されて搬送レール57沿いに移動し、ロード室47とプロセス室46の間と、プロセス室46とアンロード室48の間を移動する。図7では便宜上、ロード室47とプロセス室46の間の搬送体59の移動について記載してあるが、プロセス室46とアンロード室48の間は搬送体59の記載を省略しており、同様である。駆動部63としては、例えば搬送体59の側面に固定された長い水平ラックレール64と、この水平ラックレール64に歯車噛合する鉛直ピニオン軸65と、鉛直ピニオン軸65を回転させる図示しないアクチュエータとからなる。鉛直ピニオン軸65は、搬送チャンバ39の外側の大気側からOリングシールなどで真空シールを維持されながら回転することができる。なお、搬送体59の幅は基板Sの幅よりも狭くなっており、基板Sの両端が搬送体59の外周輪郭から突出する。
【0066】
また、基板搬送装置44の一部として、プロセス室46内に基板昇降機構67が設けられている。この基板昇降機構67は、搬送方向C(H方向)への基板Sの搬送に支障がないように均熱温調器11の±L方向の両側に位置して直動ガイド68により鉛直方向(E方向)に昇降自在な一対の基板支持板保持プレート69と、これら一対の基板支持板保持プレート69の内面に固定された複数の逆L字形ブラケット70および基板支持板71と、基板支持板保持プレート69を昇降させる昇降部72とを有して構成されている。
【0067】
昇降部72は、例えば基板支持板保持プレート69の内面に固定された鉛直ラックレール73と、この鉛直ラックレール73に噛合する2本の水平ピニオン軸74と、これら2本の水平ピニオン軸74を同時に逆回転させる逆回転駆動部75を備えている。逆回転駆動部75は、図示しないアクチュエータの回転を、搬送チャンバ39の外側の大気側からOリングシールなどで真空シールを維持しながら導入し、一対の傘歯車76を介して2本の水平ピニオン軸74に伝達し、2本の水平ピニオン軸74を逆方向に回転駆動する構成である。これにより、一対の基板支持板保持プレート69が同時に鉛直方向(±E方向)に昇降し、逆L字形ブラケット70および基板支持板71も昇降する。
【0068】
このように構成された基板昇降機構67において、基板Sは搬送体59上に載置されて搬送方向C(+H方向)に移動し、プロセス室46に搬入されて、均熱温調器11の上面側、且つ複数の基板支持板71よりも鉛直方向(+E方向)に高い位置に停止する。基板Sは必ずしも1枚だけではなく、例えば2枚が隙間を小さくして並んでいてもよく、限定されるものではない。この時、均熱温調器11の鉛直方向(E方向)の高さは搬送レール57よりも低い位置にあって基板Sの搬入を妨げない。均熱温調器11は基板Sの定位置停止後に上昇する。搬送体59上に載置された基板Sは、一対の基板支持板保持プレート69の内面に固定された複数の逆L字形ブラケット70の先端にある基板支持板71で支持されると、搬送体59は搬送方向Cと逆方向(−H方向)に戻り移動する。
【0069】
均熱温調器11の上面11aには基板支持板71が没入する図示しない複数の溝が刻設されているため、一対の基板支持板保持プレート69と複数の逆L字形ブラケット70と基板支持板71が鉛直下方向(−E方向)に下降することで、上面11aは基板Sの下面に密着でき、基板Sの温調を行うことができる。均熱温調器11は、基板Sのプラズマ製膜処理時に、その上面11aが基板側リッジ電極21bの下面に対して数mm〜数十mm程度の所定の間隔となる高さまで上昇し、基板Sへの製膜などプラズマ処理が可能となる。基板Sへの製膜等のプラズマ処理が終了した後は、上述の逆動作を行い、基板Sを搬送体59上に戻すことができるが、搬送体59はプロセス室46とアンロード室48の間のものを用いる。
【0070】
また、基板昇降機構67に加えて、搬送体59自体にも昇降機能を持たせたい場合には、図8に示すように、例えば搬送体59を、搬送レール57に沿って移動する下部搬送体59aと、その上に位置して上下に昇降できる上部搬送体59bとを有するように構成してもよい。例えば下部搬送体59aは、図7の搬送体59と同様に、2本の直動レール79に、リニヤベアリングを内蔵した直動ガイド80を掛止させて長手方向(H方向)にスムーズに移動でき、その外側面に固定された長い水平ラックレール81と、この水平ラックレール81に歯車噛合する鉛直ピニオン軸82によって搬送レール57沿いに駆動される。
【0071】
上部搬送体59bは四角い枠状に形成され、下部搬送体59aに立設された直動レール83に、リニヤベアリングを内蔵した直動ガイド84を掛止させて鉛直方向(±E方向)にスムーズに移動でき、その上面に支持ローラ85を介して基板Sが載置される。この上部搬送体59bは昇降部86により鉛直上下方向(±E方向)に駆動される。昇降部86は、例えば上部搬送体59bの外側面に固定された鉛直ラックレール87と、この鉛直ラックレール87に噛合する水平ピニオン軸88と、図示しないアクチュエータの回転を、搬送チャンバ39の外側の大気側からOリングシールなどで真空シールを維持しながら導入し、傘歯車89を介して水平ピニオン軸88に伝達する回転駆動軸90を備えている。水平ピニオン軸88は、スプライン軸88aと、このスプライン軸88aの軸方向に摺動自在で、且つスプライン軸88aと一体に回転するピニオンギヤ88bとから構成されている。
【0072】
上記構成において、回転駆動軸90が回転すると、水平ピニオン軸88のスプライン軸88aとピニオンギヤ88bとが一体に回転して鉛直ラックレール87を鉛直方向に駆動し、これによって上部搬送体59bが基板Sを載置したまま上下に昇降する。このため、例えば搬送レール57の鉛直方向高さに対して放電室2(基板側リッジ電極21b)の鉛直方向高さが高い場合や、基板昇降機構67を省略する場合等に、基板Sを基板側リッジ電極21bの直下の高さまで上昇させることができる。また、均熱温調器11の上下方向(±E方向)の移動ストロークを小さくすることが可能となり、装置全体の小型化に貢献できる。なお、前述の鉛直ピニオン軸65、逆回転駆動部75の入力回転軸、鉛直ピニオン軸82、回転駆動軸90が、基板搬送ユニット38(搬送チャンバ39)の外部から挿通される場合には、これらの回転軸が搬送チャンバ39を貫通する部分に磁性流体シールやO−リングシール等を介装することにより、回転アクチュエータ(サーボモータなど)を大気側に設置可能でその取り扱いが容易となり、搬送チャンバ39内部の真空状態が維持される。
【0073】
以上のように構成された製膜装置1において、基板Sにプラズマ製膜処理が施される順序を説明する。ロード室47はゲート弁49,50を閉じた状態で大気圧にベントされ、ゲート弁49のみが開放される。まず、基板Sが1枚もしくは複数枚、隙間少なく並べられ、搬送レール57の搬送ローラ58により、ゲート弁49を通過して基板搬送ユニット38のロード室47に搬送された後、ゲート弁49が閉じられ、排気管47aから排気手段により真空排気される。ここで、基板Sは基板予熱器54により前工程である予熱処理が施される。この予熱処理を短時間で高速に行うにはIRランプヒータを利用するが、タクトタイムに余裕がある場合は、基板予熱器54を均熱温調器11に類する平板状のヒータとし、これに基板Sを密着もしくは近接させることにより温度分布を均一化させてもよい。
【0074】
次に、ゲート弁50が開かれ、基板Sが搬送ローラ58によりロード室47からゲート弁50を通過してプロセス室46に搬送され、搬送体59へと搬送される。この時には前述したように防着板29が鉛直下方側に下がり、均熱温調器11と基板側リッジ電極21bの間に基板Sが搬送され易いようにする。そして、基板Sは搬送体59から、基板昇降機構67の基板支持板保持プレート69に設置された基板支持板71へと移載され、基板支持板71により基板Sが保持されて基板側リッジ電極21bの近傍まで鉛直上方向(+E方向)に上昇する。同時に、均熱温調器11も上昇することで均熱温調器11の上面11aに基板Sが密着して、基板Sがプラズマ処理の所定位置に設置される。その後、再び防着板29が上昇して基板側リッジ電極21bに鉛直下方から当接し、基板Sと均熱温調器11とが防着板29に覆われる(図3の状態となる)。
【0075】
ここで、基板Sがプロセス室46に搬送される前に、排気手段9により放電室2、変換器3A,3B、およびプロセス室46の空気は排気されていて、真空状態になっている。排気される空気は一対のリッジ電極21a,21bに穿設された通気口23a,23bから熱吸収温調ユニット12(マニホールド12a)の吸引口12fを経由し、その後、共通空間12dと排気管12eを通り、図示しない圧力調整弁と真空ポンプを経て外部に排気される。
【0076】
次に、材料ガス供給手段10から一対のリッジ電極21a,21b間に、例えばSiHガス等の材料ガスが供給される。この材料ガスが放電室2(プロセス室46)内に行き渡るとともに、排気手段9で排気量が制御されて放電室2等の内部が所定の圧力(0.1kPaから10kPa程度)に保たれていて、高周波電源5A,5Bからは高周波電力が変換器3A,3Bに供給される。高周波電源5A,5Bは、周波数が13.56MHz以上、好ましくは30MHzから400MHzの高周波電力をサーキュレータ7A,7Bおよび整合器6A,6Bおよび同軸ケーブル4A,4Bを介して変換器3A,3Bに供給し、ここで高周波電力の伝送モードが同軸伝送モードであるTEMモードから方形導波管の基本伝送モードであるTEモードに変換されて放電室2に伝送され、一対のリッジ電極21a,21bに供給される。
【0077】
ここで、高周波電源5A,5Bから変換器3A,3Bに供給される電力は、少なくとも一方から供給される高周波電力の位相が時間的に変調され、これによって放電室2に形成される定在波の位置を変化させ、定在波の位相位置により電界の強度分布が不均一になやすいリッジ電極21a,21bの長さ方向(L方向)における電界強度の時間的分布が均一化される。その際、整合器6A,6Bでは高周波電力を伝送する系統におけるインピーダンス等の値が調節される。そして、変換器3A,3Bにおいて同軸伝送モードであるTEMモードから方形導波管の基本伝送モードであるTEモードに変換されてからリッジ電極21a,21bに伝達される。
【0078】
このような状態において、リッジ電極21a,21bの間に材料ガスが導入されて材料ガスが電離(分解)されてプラズマが発生する。このプラズマにより材料ガスが分解または活性化して製膜種が生成され、基板側リッジ電極21bの鉛直下側に設置した基板Sの上に均一な膜、例えばアモルファスシリコン膜や結晶質シリコン膜が均一に形成される。この時、長寿命ラジカル(SiH等)は基板側リッジ電極21bに設けられた通気孔23bを拡散で通過して、基板Sの表面に到達して製膜が行われる。一方、製膜に寄与しなかったガス成分は、ナノクラスタなど高次シランガスとともに排気側リッジ電極21aの通気孔23aを通過して排気管12eから真空排気される。
【0079】
なお、排気側リッジ電極21aの鉛直上部に熱吸収温調ユニット12が設置され、この熱吸収温調ユニット12によって一対のリッジ電極21a,21bの温度を制御することで、基板Sの板厚方向(E方向)を通過する熱流束が制御されるため、基板Sの表裏温度差による変形(反り)が抑制される。また、一対のリッジ電極21a,21bも、固定方向や支持方法を熱膨張による拘束がない構造にするとともに、薄い金属板として表裏温度差の発生を防止し、変形(反り)を抑制する。これにより、一対のリッジ電極21a,21b間の均一なプラズマ特性を確保し、高品質なプラズマ製膜処理を行うことができる。
【0080】
また、基板Sの製膜時においては、基板Sと均熱温調器11とが防着板29に覆われるため、拡散してきた製膜ラジカルや粉類等の製膜材料が防着板29によって遮蔽され、これらの製膜材料が製膜に関与しない領域に付着、蓄積して基板Sの搬送に支障が生じること等を防止できる。
【0081】
プラズマ製膜処理の終了後、排気手段9で放電室2(プロセス室46)の内部が高真空へと排気される。また、基板Sと基板支持板71と均熱温調器11とが一体となって鉛直下方向(−E方向)へ下降し、所定位置で基板支持板71のみにより基板Sが支持され、均熱温調器11はさらに下降する。同時に防着板29も下降して基板側リッジ電極21bから離間し、基板側リッジ電極21bと均熱温調器11の間から基板Sが搬出され易いようにする。そして、ゲート弁51が開放され、基板Sの下にアンロード室48側より搬送体59が挿入され、基板支持板71が基板Sを搬送体59の上に載置する。基板Sを受け取った搬送体59はゲート弁51を通過して基板Sをアンロード室48に搬送し、ゲート弁51は閉鎖される。
【0082】
アンロード室48では、ベントにより大気圧へと戻されながら、基板Sを搬出するタイミングが図られるとともに、基板温調器55により、後工程である基板冷却処理(徐冷処理)または基板温調処理が施される。基板Sを冷却する場合は、例えば冷却水循環による輻射冷却と、ベントN2ガス噴き付けにより基板Sの冷却を行い、基板Sの搬出時における急速な冷却による温度分布で基板Sが熱割れしないよう100℃以下へ冷却することが望ましい。なお、タクトタイムに余裕がある場合は、基板温調器55を均熱温調器11に類する平板状の冷却器とし、これに基板Sを密着もしくは近接させることで、基板S全体の温度を目標温度へ均一に分布とさせてもよい。
【0083】
アンロード室48における後工程が完了したら、ゲート弁52を開放して、基板Sは搬送レール57の搬送ローラ58により、ゲート弁52を通過して所定の保管区画に搬送される。なお、プロセス室46とロード室47とアンロード室48の上下流側端部および接続部に設けられたゲート弁49〜52により、各室46,47,48の真空気密性が個別に維持されるようになっているため、基板Sの搬入/搬出の連続処理においてプロセス室46およびプラズマ生成ユニット36内部を常に真空状態に維持することができ、排気手段9の負荷を低減させることができる。
【0084】
以上のように構成された製膜装置1は、その放電室2が、リッジ部(リッジ電極21a,21b)を形成したリッジ導波管であるため、その特性により、リッジ電極21a,21bの間では幅方向(H方向、且つ基板Sの搬送方向C)の電界強度分布がほぼ均一になる。また、高周波電源5Aおよび高周波電源5Bの少なくとも一方から供給される高周波電力の位相を時間的に変調することにより、放電室2に形成される定在波の位置を変化させ、リッジ電極21a,21bにおけるL方向の電界強度の分布が時間平均的に均一化される。さらに、リッジ導波管を用いることにより、伝送損出が小さい効果も加わり、H方向とL方向ともに電界強度分布がほぼ均一化された領域を容易に大面積化できる。
【0085】
したがって、一対のリッジ電極21a,21bのH方向、L方向、共に電界強度の分布を均一化し、基板Sが面積1mを超える大型なものであっても、安定したプラズマ製膜処理を行うことができる。本実施形態では、特にH方向への電界均一性を活用して、リッジ電極21a,21bのH方向の寸法をL方向の寸法に比較して制限無く大きく設定するとともに、基板Sの搬送方向をH方向に沿わせたため、基板SのサイズをH方向へ大幅に拡大可能、もしくは複数枚の基板を同時処理可能にし、歩留まり良く安定したプラズマ処理を行って、基板Sの生産性を向上させることができる。
【0086】
上述の効果によれば、電極21a,21bのH方向の寸法をL方向の寸法より大きく設定することができる。一例として、基板SのH方向のサイズをL方向のサイズの1〜3倍程度、例えばL方向の長さを1100mm、H方向の長さを1400mmに設定し、この基板SをH方向に搬送させてプラズマ製膜処理を実施することにより、基板Sの全面に亘って均一な製膜を行うことができる。さらに大面積な基板としては、例えばL方向の長さを1400mm、H方向の長さを1100mm×2=2200mmに設定し、この基板SをH方向に搬送させてプラズマ製膜処理を実施してもよい。また、このようにH方向に基板Sを複数枚並べて、同時に製膜処理を施すようにしてもよい。これにより、基板Sの生産性を格段に向上させることができる。
【0087】
また、この製膜装置1では、函体状の製膜チャンバ35(第1の真空容器)の内部に放電室2および変換器3A,3Bが気密的に収容されてプラズマ生成ユニット36が構成されるとともに、同じく函体状で浅底に形成された搬送チャンバ39(第2の真空容器)の内部に基板搬送装置44が気密的に収容されて基板搬送ユニット38が構成され、この基板搬送ユニット38が、リッジ電極21a,21bの幅方向(H方向)に沿う方向でプラズマ生成ユニット36の下部に交差して接続され、排気手段9によりプラズマ生成ユニット36および基板搬送ユニット38の内部の気体がそれぞれ排気されるように構成されている。
【0088】
このため、仮に放電室2と変換器3A,3Bと基板搬送装置44とを1つの共通の真空容器にまとめて収容した場合に比べて、製膜装置1全体の容積を大幅に縮小して小型化することができる。また、プラズマ処理をする基板SはH方向に比べてL方向を短く選定することができるので、ゲート弁49〜52の開口幅を狭くして小型化が計れる。したがい、全体に無駄となる容積を削減して、真空ポンプ等の排気手段の大型化を抑制でき、真空排気時間を短縮することができる。これらにより、製膜装置1を工場敷地内に多数配置できるとともに、基板Sの生産量を向上させることができる。
【0089】
さらに、この製膜装置1では、基板搬送ユニット38が、プラズマ生成ユニット36との交差部に位置して基板Sにプラズマ製膜処理を施すプロセス室46と、このプロセス室46の搬送方向上流側に位置する前工程用のロード室47と、プロセス室46の搬送方向下流側に位置する後工程用のアンロード室48と、これら各室46,47,48の上下流側端部および接続部を開閉してこれら各室46,47,48の真空気密性を個別に維持可能なゲート弁49〜52とを備えて構成されている。
【0090】
このように、基板搬送ユニット38が小さな容積の3つの部屋46,47,48に区画され、これら各部屋46,47,48がそれぞれゲート弁49〜52により真空気密性を維持されるため、排気手段9として用いられる真空ポンプ等の負荷を低減させてその容量を小型化でき、ひいては製膜装置1全体の小型化にも寄与することができる。特に、大気圧と真空を繰り返すロード室47とアンロード室48には、その容積の縮小により真空排気時間が短縮され、タクトタイムを短縮させる効果が大きい。しかも、プラズマ製膜処理が施されるプロセス室46では、ゲート弁50,51を閉鎖することによってプロセス室46の内容積を最小限に保つことができるので、プロセス室46の真空排気にかかる時間を飛躍的に短縮することができ、放電室2での未利用材料ガスの効率的な排気をも助長でき、膜質の向上効果もある。これによりプラズマ製膜処理速度を高め、もって基板Sの生産量を向上させることができる。
【0091】
(第1応用例)
図9は、第1実施形態における製膜装置1の基本構造を応用し、その放電室2における基板側リッジ電極21bの支持方法が異なる製膜装置101を示す縦断面図である。この製膜装置101では、基板側リッジ電極21bを下方(−E方向)から支える電極支持部材153が設けられており、この電極支持部材153は、例えば外枠部153aと、この外枠部153aの内側にて十字状に架設された桟部153bとを有して、平面視で略「田」の字形に形成され、その上面の平面度が正確に出されている。
【0092】
この電極支持部材153の上面に、基板側リッジ電極21bが載置され、複数のスライドピン154によって電極支持部材153に保持されている。基板側リッジ電極21bにはスライドピン154を挿通させる複数のピン孔155が穿設されており、これらのピン孔155は、1箇所の円孔状の位置決めピン孔と、位置決めピン孔から熱伸方向である放射方向に延びる長孔状に形成されており、リッジ電極21bは電極支持部材153上に相対位置を保ちながら密着するように平面度を維持して保持された状態で、熱膨張を起こしても拘束されないので、反りや歪を生じることがない。なお、またスライドピン154の頭が電極面内側(プラズマ生成側)へ突出しないよう、スライドピン154の頭が薄く曲面を持つなどの工夫がされ、桟部153bは、スライドピン54を固定できる範囲で幅が狭いことが好ましい。
【0093】
以上のように構成された製膜装置101によれば、基板側リッジ電極21bが排気側リッジ電極21aに対して平行かつ平坦に支持され、しかも基板側リッジ電極21bの表裏面がプラズマ処理に差し支えない程度に露出しているため、薄い金属板でなる基板側リッジ電極21bが自重により撓むことを防止して平面度を高い精度で保ちながら、放電室2内において均一なプラズマを発生させ、基板Sに高品質なプラズマ製膜処理を行うことができる。
【0094】
一方、基板側リッジ電極21bのH方向の両辺部は、非リッジ部導波管22a,22bの電極固定部22cに締結固定され、電極固定部22cの位置を非リッジ部導波管22a,22bに対して上下(±E方向)にスライドさせるスライド調整部147が設けられ、締結部材148に締結されることによりその高さが固定される。このため、電極固定部22cの位置をスライドさせ、非リッジ部導波管22a,22bのL方向断面形状を変化させることがなく、導波管特性を維持して伝送特性は変化せずに、基板側リッジ電極21bの高さを調整することで、リッジ電極対向間隔が所定の間隔:d1となる。
【0095】
他方、材料ガス供給手段としては、図3に示すように非リッジ部導波管22a,22bの内部に材料ガス供給管10aを収容して構成する代わりに、熱吸収温調ユニット12の内部の共通空間12d内に材料ガス分配部163として設けてもよい。材料ガス分配部163は、共通空間12d内にてリッジ電極21aの面方向に沿って複数本平行に張り巡らされた材料ガス供給管163aと、これら各材料ガス供給管163aの両端部が集合するヘッダー管163bと、各材料ガス供給管163aの下面に穿設された複数の材料ガス噴出孔163cと、両ヘッダー管163bにそれぞれ接続される材料ガス導入管163dとを備えて構成されている。複数の材料ガス供給管163aと一対のヘッダー部163bはラダー状に組み立てられている。
【0096】
材料ガス導入管163dは図示しない主配管から分岐して均一に材料ガスが供給され、この材料ガスが材料ガス噴出孔163cから熱吸収温調ユニット12の内部を経て上下のリッジ電極21a,21bの間に均一に噴き出される。各材料ガス噴出孔163cには、排気側リッジ電極21aまで材料ガスを逆流させずに導通させるように、熱吸収温調ユニット12の吸引口12fを通って下方に延びるガイドパイプ163eが設けられ、材料ガス噴出孔163cから噴き出す材料ガスが、真空排気ガスが通過する吸引孔12fや排気側リッジ電極21aの通気孔23aにおいても、拡散しないでリッジ電極21aと21bとの間の空間に入るようにされ、これによって均一なプラズマ分布と均一な製膜種の形成が行なわれる。
【0097】
本構成によれば、プラズマ生成時にリッジ電極21a,21bの間で生成されるSiナノクラスター等の高次シランガス成分を、その流れ方向をそのままUターンさせて素早く製膜雰囲気から排出できるため、SiHラジカル拡散主体とした高性能、高品質製膜を得ることができる。しかもこの場合、各材料ガス噴出孔163cから噴出した材料ガスは、排気側リッジ電極21aよりも上方から、一旦排気側リッジ電極21a下方の略全面の広い面積に略均一に排出された後に、通気孔23aから吸引孔12fを経由して排気口12eより排気手段9により真空排気されるので、基板Sの全面にわたり製膜条件を維持し管理できるので、さらに好ましい。
【0098】
(第2応用例)
図10は、第1実施形態における製膜装置1の基本構造を応用し、その放電室2における基板側リッジ電極21bの支持方法が異なる製膜装置201を示す縦断面図である。この製膜装置201では、プラズマ製膜処理を施す基板Sが排気側リッジ電極21aと基板側リッジ電極21bとの間に挟まれるように設置され、基板側リッジ電極21bの上に載置される。これにより、プラズマと基板Sとの距離が短くなるので、プラズマ処理の迅速化(製膜速度の向上)および安定化を図り、高品質な製膜をより高速で施すことができる。基板側リッジ電極21bは、均熱温調器11の上面11aと一体となるように形成することで、剛体構造化により変形がないものとしてもよい。または、基板側リッジ電極21bは、図9で示した第1応用例と同様に、スライドピン54と長孔状に形成された複数のピン孔55により、熱膨張差を許容できるように保持されても良い。
【0099】
また、基板搬送時には、基板側リッジ電極21bを降下させて排気側リッジ電極21aと基板側リッジ電極21bとの間隔を広げ、両リッジ電極21a,21bに干渉することなく基板Sの搬入・搬出を容易に実施できる。この時、両端部分の矩形状の非リッジ部導波管22a,22bは、例えばオーバーラップ構造を採用することにより、固定側の上部非リッジ部導波管22a’,22b’に対して下部非リッジ導波管22a”,22b”が下方向(−E方向)へ分離・移動するので、基板Sの搬送に支障が生じることはない。なお、非リッジ部導波管22a,22bの上下分離部分には、電位均一性のため、金属ウールや薄板によるシールド材を設けてプラズマ発生時には上部非リッジ部導波管22a’,22b’対して下部導波管22a”,22b”の電気的接触特性を維持しても良い。
【0100】
(第3応用例)
図11は、第1実施形態における製膜装置1の基本構造を応用し、その放電室2における基板側リッジ電極21bの支持方法が異なる製膜装置301を示す縦断面図である。この製膜装置301では、基板側リッジ電極21bが均熱温調器11Aで支持され、この基板側リッジ電極21bの上にプラズマ製膜処理を施す基板Sが載置されるとともに、リッジ電極21a,21bの両端部分が繋がる矩形状の非リッジ部導波管がシングルリッジ型に形成されて上部非リッジ部導波管22a’,22b’とされ、均熱温調器11Aの両端が上部非リッジ部導波管22a’,22b’の部分まで拡大されている。
【0101】
この場合、基板Sの搬送時には、均熱温調器11Aが±E方向へ上下動するように構成されており、基板Sの搬入・搬出時においては、均熱温調器11Aが降下して上部非リッジ部導波管22a’,22b’から分離することで、排気側リッジ電極21aと基板側リッジ電極21bとの間隔を広げ、基板Sの搬入・搬出を容易に実施できる。このような均熱温調器11Aの上下動に伴い、均熱温調器11Aの両端が上部非リッジ部導波管22a’,22b’から分離する部分は、均熱温調器11Aの表面(上面)になるので、図10に示す第2応用例のオーバーラップ構造と比較して簡易な構造とすることができる。
【0102】
また、均熱温調器11Aは剛性が高く変形が少ないので、両端の上部非リッジ部導波管22a’,22b’を閉動作した状態では、電気的接触安定性が向上し、上部非リッジ部導波管22a’,22b’内の電位分布を低減し、プラズマの均一化に好ましい。さらに、上部非リッジ部導波管22a’,22b’の、均熱温調器11Aの表面(上面)との接触部分は、電位均一性のため、金属ウールや薄板によるシールド材を設けてプラズマ発生時には均熱温調器11Aとの電気的接触特性を向上させても良い。なお、基板側リッジ電極21bは、剛体構造の均熱温調器11Aと一体の構造としても良いし、図9に示す第1応用例と同様に、スライドピン54と長孔状に形成された複数のピン孔55により、熱膨張差を許容できるように保持させても良い。
【0103】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態を図12に基づいて説明する。図12は、本発明の第2実施形態に係る製膜装置401の斜視図であり、図13は図12のXIII-XIII線に沿う製膜装置の縦断面図である。この製膜装置401において、図5および図6に示す第1実施形態の製膜装置1と異なるのは、製膜装置1が1基の基板搬送ユニット38に対して1基のプラズマ生成ユニット36が設置されていたのに対し、この製膜装置401では、1基の基板搬送ユニット38に対して複数基、例えば3基のプラズマ生成ユニット36A,36B,36Cが直列的(インライン)に配置されている点である。
【0104】
各プラズマ生成ユニット36A,36B,36Cと、基板搬送ユニット38の構成は、第1実施形態の製膜装置1とほぼ同様であるため、同一部分には符号を付さない、または同一符号を付して説明を省略する。各プラズマ生成ユニット36A,36B,36Cは、各々の上面に設けられた各々の排気管12eから各々の排気手段9により真空排気がなされる。また、プラズマ製膜処理を施される基板Sの搬送方向Cは、第1実施形態の製膜装置1と同じく、一対のリッジ電極21a,21bの幅方向(H方向)に沿っている。
【0105】
基板搬送ユニット38は、浅底で容積の小さい真空容器である搬送チャンバ39(第2の真空容器)の中に、基板搬送装置44が気密的に収容されて構成されたユニットであり、プラズマ生成ユニット36A,36B,36Cと交差する部分、即ち3つの放電室2の直下にそれぞれ画成された3室のプロセス室46A,46B,46Cと、プロセス室46Aに対して基板搬送装置44の搬送方向Cの上流側に繋がるロード室47と、プロセス室46Cに対し搬送方向Cの下流側に繋がるアンロード室48に区画されている。そして、図13に示すように、これら各室47,46A,46B,46C,48の上下流側端部および接続部にはそれぞれゲート弁49,50A,50B,50C,51,52が設けられ、これらのゲート弁49,50A,50B,50C,51,52が閉鎖すると各室47,46A,46B,46C,48の真空気密性が個別に維持されるようになっている。
【0106】
基板搬送ユニット38は、搬送チャンバ39(第2の真空容器)の中に、基板搬送装置44が気密的に収容されて構成されたユニットであり、プラズマ生成ユニット36A,36B,36Cと交差する部分、即ち3つの放電室2の直下にそれぞれ画成された3室のプロセス室46と、このプロセス室46に対し基板搬送装置44の搬送方向Cの上流側に繋がるロード室47と、プロセス室46に対し搬送方向Cの下流側に繋がるアンロード室48に区画されている。そして、これら各室46,47,48の上下流側端部および接続部にはそれぞれゲート弁49…が設けられ、これらのゲート弁49…が閉鎖すると各室46,47,48の真空気密性が個別に維持されるようになっている。
【0107】
このように、1基の基板搬送ユニット38に対して複数基のプラズマ生成ユニット36A,36B,36Cを直列的に配置したレイアウトとした場合、例えばこの製膜装置401によって太陽電池(光電変換パネル)の基板光電変換層を製膜する時には、まずプラズマ生成ユニット36Aにおいて基板光電変換層のp層を製膜し、次に基板Sを搬送してプラズマ生成ユニット36Bにおいてi層を製膜し、さらに基板Sを搬送して最後にプラズマ生成ユニット36Cにおいてn層を製膜するというように、各プラズマ生成ユニット36A,36B,36Cにおいて異なる種類のプラズマ製膜処理を行い、積層膜を形成することができる。あるいは、複数の基板Sを各プラズマ生成ユニット36A,36B,36Cに配置して同時にプラズマ製膜処理を施すこと等ができる。このため、プラズマ製膜処理基板の生産量を向上させることができる。しかも、第1実施形態の製膜装置1と同じく、基板Sの搬送方向であるH方向に電界強度が均一に確保できているので、順次連続した基板処理においても、歩留まり高く安定性の高い生産を行うことができる。
【0108】
その上、基板搬送ユニット38の長さは延びるものの、基板搬送ユニット38におけるロード室47およびアンロード室48の数と、排気管47a,48aからの各々の排気手段9の数が第1実施形態と同様な数量と仕様で足りるため、少ない部品点数と、比較的狭い敷地面積で、複数の複雑なプラズマ製膜処理を行うことができ、製膜装置401自体およびその製品としての基板Sの価格を低減させることができる。
【0109】
なお、上述したように光電変換パネルの基板光電変換層を製膜する時には、メンテナンス頻度が高いi層を製膜するプラズマ生成ユニットを複数設けておき、製膜対応室と休止(基板スルー搬送)室を区分けすることで、製膜装置401の稼働率を維持することができる。
【0110】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態を図14、図15に基づいて説明する。図14は本発明の第3実施形態に係る製膜装置501の斜視図であり、図15は図14のXV-XV線に沿う製膜装置501の縦断面図である。これらの図において、図5および図6に示す第1実施形態の製膜装置1と同様な構成の部分には、符号を付さない、または同一符号を付して説明を省略する。
【0111】
この製膜装置501は、それぞれ1基ずつプラズマ生成ユニット36A,36B,36Cが設けられた基板搬送ユニット38A,38B,38Cが3列、並列に配置され、これら各々の基板搬送ユニット38A,38B,38Cの前後両端が、それぞれ基板搬送ユニット38A,38B,38Cに対して直交する方向に延びる共通搬送室112(第1の共通搬送室)と共通搬送室113(第2の共通搬送室)に連通している。また、共通搬送室112の一端にはプラズマ処理前の基板を待機させるロード室114が設けられ、共通搬送室113の一端にはプラズマ処理後の基板を待機させるアンロード室115が設けられている。プラズマ生成ユニット36A,36B,36Cおよび基板搬送ユニット38A,38B,38Cの構成は、第1実施形態の製膜装置1のものと同様である。
【0112】
各基板搬送ユニット38A,38B,38Cの両端は、それぞれゲート弁117,118を介して共通搬送室112,113に連通している。共通搬送室112,113の内部には、一対の搬送レール120と、その上を走行する基板搬送台121からなる基板搬送システム122が内蔵されていて、ロード室114とアンロード室115と各基板搬送ユニット38A,38B,38Cとの間で基板Sを1枚毎、または複数枚単位で搬送する。また、ロード室114とアンロード室115は、それぞれゲート弁124,125を介して共通搬送室112,113に連通している。
【0113】
ロード室114とアンロード室115には、それぞれ外部に通じるゲート弁126,127が設けられるとともに、多数の基板Sをストックできる基板カセット128,129が内蔵されていて、基板カセット単位で基板製膜装置501へ搬入・搬出ができる。さらに、各プラズマ生成ユニット36A,36B,36Cは、その上面に設けられた各々の排気管12eから排気手段9により真空排気がなされ、共通搬送室112,113とロード室114とアンロード室115は、その各々の下面に設けられた排気管112a,113a,114a,115aから排気手段9により真空排気がなされる。
【0114】
図15に示すように、各基板搬送ユニット38A,38B,38Cにおいて、各プラズマ生成ユニット36A,36B,36Cの直下にあたる位置にはプロセス室130が設けられている。プロセス室130には、第1、第2実施形態のものと同様な均熱温調器11が設けられている。また、このプロセス室130の前後には、基板Sの予熱領域131と温調領域132が設けられている。予熱領域131には基板予熱器133が設置され、温調領域132には基板温調器134が設置されている。共通搬送室112と予熱領域131との間がゲート弁117で仕切られ、共通搬送室113と温調領域132との間がゲート弁118で仕切られる。
【0115】
ここでは、各プラズマ生成ユニット36A,36B,36Cとプロセス室130の前後の予熱領域131と温調領域132とに対して、排気手段9に通じる排気管12eが設けられている。即ち、プラズマ製膜処理と基板予熱と基板温調が同じ圧力雰囲気にて行なわれている。一般にプラズマ製膜処理は数10Pa〜数1000Paの間で処理され、高真空状態より高い圧力雰囲気であるため、基板予熱と基板温調においても熱伝導率を向上できる圧力雰囲気となり、温度調整の時間短縮ができる。プラズマ製膜処理時間に対して、基板予熱時間と基板温調時間を短く達成できるようシステム設計することで、プラズマ製膜処理工程時間を短縮してタクトタイムを短縮することができる。さらに、予熱領域131とプロセス室130の間、およびプロセス室130と温調領域132の間にゲート弁を設けたり、予熱領域131と温調領域132に個別に排気手段9を設置したりすることを省略できるので、コストダウンと、構造簡素化による信頼性向上に効果的である。
【0116】
このように構成された製膜装置501において、プラズマ製膜処理を施される基板Sは、基板カセット単位、または複数枚まとめて基板カセット128に格納され、ゲート弁126からロード室114に搬入される。そして、基板搬送システム122により、1枚ずつ、もしくは複数枚ずつゲート弁124を通って共通搬送室112に送られ、さらにゲート弁117を通って目的とする基板搬送ユニット38A,38B,38Cの何れかに搬送され、そのプラズマ生成ユニット36A,36B,36Cによって所定のプラズマ製膜処理を施された後、共通搬送室113を経てアンロード室115に搬送されて基板カセット129にストックされ、複数枚まとめてゲート弁127から基板カセット単位、または複数枚まとめて外部に搬出される。
【0117】
なお、3基のプラズマ生成ユニット36A,36B,36Cによって、1枚の基板Sに異なる3種類のプラズマ製膜処理を順次行い積層膜を得る場合は、ロード室114→共通搬送室112→基板搬送ユニット38A(プラズマ生成ユニット36A)→共通搬送室113→基板搬送ユニット38B(プラズマ生成ユニット36B)→共通搬送室112→基板搬送ユニット38C(プラズマ生成ユニット36C)→共通搬送室113→アンロード室115の順に基板Sが搬送される。なお、各プラズマ生成ユニット36A,36B,36Cの前後に設けられた予熱領域131および温調領域132に基板Sを待機させることで、基板搬送システム122における基板搬送の待ち時間を吸収し、製膜装置501全体のタクトタイムを大幅に短縮することができる。
【0118】
ここで、各プラズマ生成ユニット36A,36B,36Cにおける処理時間と、基板搬送システム122における基板搬送の時間とのバランスは、図15に示す予熱領域131とプロセス室130の間、およびプロセス室130と温調領域132の間にゲート弁を追加設置し、予熱領域131と温調領域132に排気手段9を追加設置することで、さらにタクトタイム短縮への待ち時間を吸収した調整が可能となる。
【0119】
この製膜装置501によれば、ロード室114とアンロード室115とを1つずつ設けるだけで、複数のプラズマ生成ユニット36A,36B,36Cにてプラズマ製膜処理が施される基板Sの全てを、待機させたり、あるいは前後処理することができる。このため、複数のプラズマ生成ユニット36A,36B,36Cが設けられていても、ロード室114およびアンロード室115と、その排気手段9は1つずつ設ければよく、これによって製膜装置501全体を小型化し、その分設置台数を多くしてプラズマ製膜処理を施す基板Sの生産量を向上させることができる。
【0120】
共通搬送室112,113は、その各々に設けた排気管112a,113aから排気手段9により真空排気がなされるが、元々浅底で容積の小さい真空容器なので、各プラズマ生成ユニット36A,36B,36Cや、ロード室114,アンロード室115と一緒に真空排気をするようにしてもよい。また、共通搬送室112,113とロード室114とアンロード室115を個別に真空排気して、各基板搬送と各製膜工程での並列処理を可能とし、生産性を向上させることもできる。さらに、各基板搬送ユニット38A,38B,38Cが並列に配置されたパラレル構造であるため、例えば基板搬送ユニット38A,38Bのプラズマ生成ユニット36A,36Bでプラズマ製膜処理を行いながら、基板搬送ユニット38Cのプラズマ生成ユニット36Cでセルフクリーニングなどのメンテナンスを行うことも可能となり、製膜装置501の稼働率を向上させることができる。
【0121】
なお、各基板搬送ユニット38A,38B,38Cにはプラズマ生成ユニット36A,36B,36Cが1基ずつ設けられているが、図12,図13に示すように複数のプラズマ生成ユニットが直列に設けられ、複数のプラズマ生成ユニットに対応する複数のプロセス室の各間にゲート弁を追加した基板搬送ユニットにしてもよい。この場合、1基の基板搬送ユニット38の中で基板Sに積層膜の形成を対応できるとともに、稼働するプラズマ生成ユニットと休止するプラズマ生成ユニット(基板Sがスルー搬送されるユニット)を区分けすることで、特定のプラズマ生成ユニットのメンテナンス時等における製膜装置の稼働率が低下することを防止できる。
【0122】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態を図16に基づいて説明する。図16は本発明の第4実施形態に係る製膜装置601の斜視図である。この製膜装置601の構成部品および基本レイアウト、ならびに基板Sへのプラズマ製膜処理の順序や、基板Sの搬送ルート等は、第3実施形態の製膜装置501と同様であるが、製膜装置501と異なる点は、それぞれ1基のプラズマ生成ユニット36A,36B,36Cが設けられた基板搬送ユニット38A,38B,38Cが、製膜装置501のように水平ではなく、ほぼ鉛直方向に起立した縦型配置となっている点である。つまり、プラズマ製膜処理を施される基板Sの面方向は水平ではなく、そのL方向が鉛直方向に対して傾斜角度θだけ傾斜している。それ以外の構成は製膜装置501と同様であるため、各部に同一符号を付して説明を省略する。傾斜角度θは、鉛直方向に対して0°〜15°の角度に設定するのが望ましいが、鉛直方向に対して7°〜15°の角度がより好ましい。
【0123】
このようにプラズマ生成ユニット36A,36B,36Cおよび基板搬送ユニット38A,38B,38Cがほぼ起立した状態で配置されているため、プラズマ生成ユニット36A,36B,36C内において、基板Sは、その自重のsinθ成分で均熱温調器11の基板載置面に安定して支持されながらプラズマ製膜処理される。リッジ電極21a,21bや基板Sにとっては、(自重×sinθ)が自重変形に影響する成分となるので、その傾斜角度θを15°以下に設定することにより、リッジ電極21a,21bおよび基板Sの自重変形量を大幅に減らすことができ、各構造部の適正化を図る上で好ましい。しかも、基板搬送時においても、基板Sをほぼ鉛直方向に起立させた縦型搬送となるため、基板Sの自重変形が少なくなるとともに、自重のsinθ成分で安定して支持されるので搬送が容易である。なお、放電室2での基板支持は、図7に示した基板支持板71に基板Sの下端面部を支持する突起を設けることで、容易に対応が可能である。
【0124】
さらに、大面積の基板Sにプラズマ処理を施すべく大型に形成された放電室2や変換器3A,3B等が全て略鉛直方向を向くため、高さ方向の空間を有効に利用して、製膜装置601のフットプリント(平面視の投影面積)を著しく減少させ、同じ敷地面積であればより多くの製膜装置601を整列させることができる。このため、プラズマ製膜処理基板の生産量を向上させることができる。
【0125】
上述したように、基板Sの傾斜角度θは、0°〜15°の範囲が適切であり、15°を越えると装置のフットプリントが増大し、縦型配置である効果が低減する。基板Sの搬送時における安定性を考慮するとθは7°以上が好ましいが、基板Sの鉛直上下部の基板面をローラ等で支持して基板Sの傾斜角度θを維持できるようにすればθ=0°でも可能である。図16における基板搬送システム122は、一例として、複数枚の基板Sを同時に搬送できる基板搬送台121を用いることで、基板搬送時間の待ち時間縮小を図っている。なお、ロード室114とアンロード室115からは、複数枚の基板Sを同時にセットして搬入・搬出するようにすれば、大気/真空を繰り返す時間を有効に活用できる。
【0126】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、本発明はダブルリッジ導波管状の製膜装置のみには限定されず、シングルリッジ導波管状の製膜装置にも適用することができる。また、導波管断面は正方形でも長方形でも、またシングルリッジ型でも良い。
【符号の説明】
【0127】
1,101,201,301,401,501,601 製膜装置(真空処理装置)
2 放電室
3A,3B 変換器
5A,5B 高周波電源(電源手段)
9 排気手段
10 材料ガス供給手段
11 均熱温調器
12 熱吸収温調ユニット
21a,21b リッジ電極
22a,22b 非リッジ部導波管
31a,31b リッジ部
35 製膜チャンバ(第1の真空容器)
36 プラズマ生成ユニット
38 基板搬送ユニット
39 搬送チャンバ(第2の真空容器)
44 基板搬送装置(基板搬送手段)
46,130 プロセス室
47,114 ロード室
48,115 アンロード室
49,50,51,52 ゲート弁
112 共通搬送室(第1の共通搬送室)
113 共通搬送室(第2の共通搬送室)
C 基板の搬送方向
E リッジ電極の厚さ方向
H リッジ電極の幅方向
L リッジ電極の長さ方向
S 基板
θ 基板の鉛直方向からの傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状に形成されて互いに平行に対向配置され、その間にプラズマが生成させて該プラズマにより基板にプラズマ処理を施す一方および他方のリッジ電極を有するリッジ導波管からなる放電室と、
前記リッジ電極の長さ方向に沿って前記放電室の両端に隣接して配置され、互いに平行に対向配置された一対のリッジ部を有するリッジ導波管からなり、高周波電源から供給された高周波電力を方形導波管の基本伝送モードに変換して前記放電室に伝送し、前記一方および他方のリッジ電極間にプラズマを発生させる一対の変換器と、
プラズマ処理前の前記基板を前記リッジ電極の所定位置に送り込み、プラズマ処理後の前記基板を前記リッジ電極の所定位置から送り出す基板搬送手段と、
高周波電力を前記リッジ部に供給する電源手段と、
前記基板にプラズマ処理を施すのに必要な材料ガスを前記一方および他方のリッジ電極の間に供給する材料ガス供給手段と、
前記リッジ電極と前記基板との間の気体を排気する排気手段と、を有し、
前記リッジ電極の幅方向の寸法を、長さ方向の寸法よりも大きく設定し、
前記基板搬送手段による前記基板の搬送方向を、前記リッジ電極の幅方向に沿わせたことを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
前記一対の変換器に供給する電力の少なくとも一方の位相を時間に対して変調させたことを特徴とする請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項3】
函体状の第1の真空容器内に前記放電室および変換器が気密的に収容されてプラズマ生成ユニットが構成されるとともに、
函体状の第2の真空容器内に前記基板搬送手段が気密的に収容されて基板搬送ユニットが構成され、
前記基板搬送ユニットは前記リッジ電極の幅方向に沿う方向で前記プラズマ生成ユニットに交差して接続され、
前記排気手段により前記プラズマ生成ユニットおよび前記基板搬送ユニットの内部の気体が排気されるように構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の真空処理装置。
【請求項4】
前記基板搬送ユニットは、
前記プラズマ生成ユニットと交差する部分に画成されて前記基板搬送手段により搬送されてきた前記基板が前記リッジ電極の位置に整合して前記プラズマ処理を施されるプロセス室と、
前記プロセス室に対して前記基板搬送手段の搬送方向上流側に位置して前記基板に前記プラズマ処理の前工程が施されるロード室と、
前記プロセス室に対して前記基板搬送手段の搬送方向下流側に位置して前記基板に前記プラズマ処理の後工程が施されるアンロード室と、
前記プロセス室、ロード室、アンロード室の上下流側端部および接続部を開閉し、かつその閉鎖時には、これら各室の真空気密性を個別に維持可能なゲート弁と、を備えてなることを特徴とする請求項3に記載の真空処理装置。
【請求項5】
前記基板搬送ユニット1基に対して前記プラズマ生成ユニットが複数基、直列的に配置されたことを特徴とする請求項3に記載の真空処理装置。
【請求項6】
前記プラズマ生成ユニットが設けられた前記基板搬送ユニットが複数並列に配置され、
これら各々の基板搬送ユニットの前後両端が、それぞれ前記基板搬送ユニットに対して直交する方向に延びる第1の共通搬送室と第2の共通搬送室に連通し、
前記第1の共通搬送室の少なくとも一端にはプラズマ処理前の基板を待機させるロード室が設けられ、
前記第2の共通搬送室の少なくとも一端にはプラズマ処理後の基板を待機させるアンロード室が設けられたことを特徴とする請求項3または5に記載の真空処理装置。
【請求項7】
前記基板の面方向が鉛直方向に対して0°〜15°の角度で搬送されて前記プラズマ処理が施されるように構成されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の真空処理装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の真空処理装置を用いて基板にプラズマ処理を施すことを特徴とするプラズマ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−43908(P2012−43908A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182563(P2010−182563)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】