説明

磁気スタックおよびこのようなスタックを備えたメモリセル

【課題】磁気スタックおよびこのようなスタックを備えたメモリセルを提供すること。
【解決手段】本発明は、平面外磁化を有する磁気スタック(4)に関し、前記スタックは、
−コバルト、鉄およびニッケル、ならびにこれらの材料をベースとする磁気合金の群から選択される1つまたは複数の材料で構成された第1の磁気層(1)と、
−第1の層の材料と共有界面を形成すると界面起源の垂直異方性を与えることができる金属材料で構成された第2の層(2)と
を備え、スタック(4)は、第1の層(1)の上に堆積した第3の層(3)をさらに備え、第2の層(2)が第3の層(3)の上に堆積し、第3の層(3)が、第1の層の材料との10%未満の混和性を有する金属材料で構成されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面外磁化を有する磁気スタックに関する。「平面外磁化を有する磁気スタック」または「垂直磁化を有する磁気スタック」とは、スタックが延在している平面に対して実質的に垂直の磁化を有する磁気スタックを表している。また、本発明は、このような磁気スタックを備えた、平面外磁化を有する多層、ならびにこのような多層を備えたメモリポイント、およびこのようなメモリポイントを備えた磁気ランダムアクセスメモリに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ランダムアクセスメモリすなわちMRAMは、記憶密度、電力消費および信頼性の点で有効なメモリセルを得るための有望なルートとして提供されている。これらのMRAMには、通常、
−「基準層」として知られている、磁化方向が固定された磁化を有する磁気層と、
−「記憶層」として知られている、磁化方向が可変であり、かつ、基準層の磁化方向に対して平行または反平行のいずれかに自から配向させることができる磁化を有する磁気層と、
−基準層および記憶層を分離しているトンネル障壁と
を備えたメモリセルが含まれている。
【0003】
特許文献1に、例えばこのようなメモリセルが記述されている。
【0004】
個々のメモリセルは、通常、「読取り」モードおよび「書込み」モードの2つの動作モードを有している。書込みモードでは、電子の流れが層を介して送られ、あるいは磁界がメモリポイントの記憶層に印加され、それにより記憶層の磁化方向が反転し、次に基準層の磁化方向に対して平行または反平行になる。記憶層の磁化方向が基準層の磁化方向に対して平行であるか、あるいは反平行であるかどうかに応じて、「1」または「0」が記憶層に記憶される。
【0005】
読取りモードでは、電子の流れがメモリセルを介して注入され、それによりその抵抗が読み取られる。基準層の磁化方向および記憶層の磁化方向が平行である場合、メモリポイントの抵抗は小さく、一方、基準層および記憶層の磁化方向が反平行である場合、メモリポイントの抵抗は大きい。基準抵抗と比較することにより、記憶層に記憶されている値(「0」または「1」)を決定することができる。
【0006】
通常、基準層および記憶層は、前記層の各々の平面に対して平行の磁化方向を有している。したがって磁気層は、平面内に磁化を有している、あるいは平面磁化を有していると言える。
【0007】
しかしながら、平面磁化を有し、かつ、磁界による切換えを有するメモリセルに基づく第一世代のMRAMメモリは、利用可能な記憶密度が依然として極端に低いため、フラッシュタイプのメモリと競合することができるようになるまでの道程は長い。さらに、これらのMRAMメモリの場合、メモリポイントのサイズの縮小は、磁力線が耐えることができる電流密度によって制限されており、また、長期間、例えば10年にわたる情報保存安定性の判定基準によって制限されており、この判定基準は、熱活性化によって情報が失われないよう、最小磁気体積を課している。
【0008】
この問題を解決するために、平面外磁化を有する層を備えたメモリセルが開発された。本明細書では、「平面外磁化を有する層または多層」は、層または多層の平面に対して垂直の磁化を有する層または多層を表している。これを拡張して、「平面外磁化を有するメモリセル」は、このような層を備えたメモリセルを表している。
【0009】
平面外磁化を有するメモリセルは、平面内磁化を有するメモリセルよりはるかに小さい寸法を有することができ、その一方で満足すべき安定性を維持している。さらに、これらのメモリセルは、スピン分極電流によって書き込むことができる。
【0010】
したがって、メモリセルのサイズを小さくすることができるようにするために可能な限り強い異方性を有する平面外磁化を有し、かつ、スピン転移による臨界切換え電流を小さくするために磁気厚さが最小である材料を製造することができることが極めて重要である。
【0011】
過去においては、垂直磁化を有する、情報記憶用途のための、例えば希土類/磁気遷移金属合金などの多くの材料が開発されている。非特許文献1に、平面外磁化を有するこのような材料が記述されている。
【0012】
平面外磁化を有するコバルト−クロム−白金合金などの粒状材料も同じく知られている。前記材料は、例えば、非特許文献2に記載されている。
【0013】
平面外磁化を有する規則L1合金タイプのFePt、CoPt、FePd、CoPd等々も同じく知られている。前記材料は、例えば、非特許文献3、または非特許文献4、あるいはその代わりに、非特許文献5に記載されている。
【0014】
平面外磁化を有する材料の他の例が、同じく、非特許文献6に記載されている。
【0015】
また、非特許文献7、および非特許文献8に、平面外磁化を有するスタックが記述されている。前記スタックは、通常、磁気金属、例えばコバルトまたはCo、NiおよびFeをベースとする合金の第2の層がその上に堆積される非磁気金属の第1の層、例えば白金またはパラジウムの層の反復で構成されている。
【0016】
それにもかかわらず前記スタックは、単独ではメモリセルに使用することはできない。実際、前記スタックに有意な平面外磁化を持たせるためには、それらの厚さは1nm未満でなければならない。一方、最適磁気抵抗トンネルを有するメモリセルを得るためには、少なくとも1.5nmの磁気厚さを有する、トンネル障壁と接触している多層を持たせなければならない。したがってMgO障壁の場合、少なくとも100%の磁気抵抗を得ることが可能である。この問題を解決するための解決法は、磁気抵抗の大きい振幅(言い換えると少なくとも60%)を保証するだけの十分な厚さの追加層を、平面外磁化を有するスタックの上に堆積させることである。スタックの垂直異方性が十分である場合、前記追加層と、平面外磁化を有する層との間の界面を介した交換バイアスにより、追加層の磁化を平面から引き出すことができる。結合が強い場合で、また、形状効果によって追加層の異方性が唯一無二であると仮定すると、垂直異方性を得るための判定基準は、
eff>Keff=2πtMs (1)
であり、Keffは、平面外の前記層の磁化を引き出す垂直異方性と、その形状異方性の両方を考慮した、垂直磁化を有するスタックの単位体積当たりの有効異方性であり、平面中にその磁化を引き込む傾向があり、
は、垂直磁化を有するスタックの磁気厚さであり、
Msは追加層の磁化であり、
また、tは追加層の厚さである。
【0017】
2πtMsは、薄い磁気層中の減磁界による形状異方性の項である。
【0018】
次に、メモリセルの安定性判定基準は、S(Keff−2πtMs)>50kTで表され、Sはメモリセルの断面である。円筒状メモリセルの場合、
【0019】
【数1】

【0020】
に等しい最小の直径が得られる。最小の直径dminは可能な限り小さく、式(2)の分母を最大化することが賢明である。これは、スタックの総合厚さtを大きくするか、あるいは垂直異方性Keff1を有するスタックの有効異方性を最大化することによって実施することができるが、スタックの総合厚さtを大きくすることは、スピン転移によって前記層の磁化の整流に必要な電流密度が高くなるため、スピン転移による書込みのためには望ましくない。
【0021】
したがって最も強い可能有効異方性Kefflを有する平面外磁化を有する磁気スタックを有することは、とりわけ有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】仏国特許第2817999号明細書
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】X. Liu、A. Morisako、H. Sakurai、Y. Sakurai、M. Itou、およびA. Koizumi、「Perpendicular magnetic anisotropy in sputtered amorphous TbFeCo films」、J. Magn. Magn. Mater. 310、1744〜1746頁(2007)
【非特許文献2】D. Watanabe、S. Mizukami、F. Wu、M. Oogane、H. Naganuma、Y. Ando、およびT. Miyazaki、「Interlayer exchange coupling in perpendicularly magnetized synthetic ferrimagnet structure using CoCrPt and CoFeB」、Journal of Physics: Conference Series 200、072104頁(2010)
【非特許文献3】F. Casoli、F. Albertini、L. Pareti、S. Fabbrici、L. Nasi、C. Bocchi、およびR. Ciprian、「Growth and Characterization of Epitaxial Fe−Pt Films」、IEEE Trans. Magn. 41、3223〜3225頁(2007)
【非特許文献4】M. Yoshikawa、E. Kitagawa、T. Nagase、T. Daibou、M. Nagamine、K. Nishiyama、T. Kishi、およびH. Yoda、「Tunnel Magnetoresistance Over 100% in MgO−Based Magnetic Tunnel Junction Films With Perpendicular Magnetic L10−FePt Electrodes」、IEEE Trans. Magn.44、2573〜2576頁(2008)
【非特許文献5】K. Barmak、J. Kim、L.H. Lewis、K.R. Coffey、A.J. Kellock、およびJ.−U. Thiele、「On the relationship of magnetocrystalline anisotropy and stoichiometry in epitaxial L10 CoPt (001) and FePt (001) thin films」、J. Appl. Phys 98、033904頁(2005)
【非特許文献6】L. E. Nistor、B. Rodmacq、S. Auffret、およびB. Dieny「Pt/Co/oxide and oxide/Co/Pt electrodes for perpendicular magnetic tunnel junctions」、Appl. Phys. Lett. 94、012512頁(2009)
【非特許文献7】F.J.A. den Broeder、W. Hoving、およびP.J.H. Bloemen、「Magnetic anisotropy of multilayers」、J. Magn. Magn. Mater. 93、562〜570頁(1991)
【非特許文献8】J.J. de Vries、「Magnetic anisotropy in metallic multilayers」、Rep. Prog. Phys. 59、1409〜1458頁(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
したがって本発明の目的は、可能な限り最も強い有効異方性を有する平面外磁化を有する磁気スタックを提案することである。そのために、本発明によれば、非磁気金属の第1の層と磁気金属の第2の層の間への、磁気材料との混和性が小さい銅、マグネシウムまたは任意の材料の層の挿入が提案される。
【課題を解決するための手段】
【0025】
より詳細には、本発明の第1の態様は、平面外磁化を有する磁気スタックに関しており、前記スタックは、
−コバルト、鉄およびニッケル、ならびにこれらの材料をベースとする磁気合金の群から選択される1つまたは複数の材料で構成された第1の磁気層と、
−金属材料で構成された第2の層であって、金属材料が、第2の層が第1の層との共有界面を有すると、第1および第2の層によって形成されるアセンブリに界面起源の垂直異方性を付与することができる材料である、第2の層と
を備えており、スタックは、さらに、第1の層の上に堆積した第3の層を備えており、第2の層は第3の層の上に堆積し、第3の層は、第1の層の材料との10%未満の混和性を有する金属材料で構成されている。
【0026】
混和性は、一般に、様々な材料が一体に混合する能力を表している。実際、2つの成分AおよびBからなる二元合金の場合、A中におけるBの混和性とは、材料A中に均質に希釈する材料Bの能力を表している。材料A中に均質に希釈する材料Bの能力が低い場合、材料Bは、A中への混和性が小さい、あるいはA中への溶解度が小さい、と言われる。ある材料が他の材料中に均質に希釈するこの能力は、二元合金A−Bの相線図によって、知られている方法で表される。
【0027】
磁気スタックは、周囲温度で平面外磁化方向を有している。
【0028】
驚くべきことには、磁気金属の第1の層と非磁気金属の第2の層の間に、第1の層の材料との混和性が小さい金属材料の第3の層を追加することにより、スタックの平面外異方性を大きくすることができる。前記第3の層の厚さが最適化され、典型的には1原子平面ないし数原子平面程度になると、スタックは、第3の層がない場合に有することになる平面外異方性より大きい平面外異方性を有することになる。
【0029】
第3の層を形成するために使用される材料は、第1の層を構成している材料と混合しないか、あるいは混合が乏しい材料である。言い換えると、第3の層は、第1の層が形成される材料中に拡散しないか、あるいは実質的に拡散しない材料から作製される。
【0030】
既に言及したように、第1の層の上に直接堆積し、また、その上に第2の層が直接堆積した第3の層を存在させることにより、スタックの平面外異方性を大きくすることができる。一方、その逆の場合、言い換えると第3の層が第2の層の上に堆積し、また、第1の層が第3の層の上に堆積している場合、スタックの平面外異方性は大きくならず、その代わりに小さくなる。
【0031】
さらに、本発明によるスタックは、250℃と350℃の間のアニーリング後においても良好な平面外異方性を維持する点でとりわけ有利である。
【0032】
さらに、第1の層と第2の層の間に第3の層を追加することにより、スタックは、第3の層を備えていない場合に有することになるキュリー温度と比較すると、低いキュリー温度を有することができ、その一方で平面外磁化を維持することができる。
【0033】
また、スタックは、個々に選択された、あるいは技術的に可能な任意の組合せに基づいて選択された以下の特徴のうちの1つまたは複数を有することも可能である。
【0034】
第2の層は、白金、パラジウム、金、イリジウム、モリブデンの群から選択される1つまたは複数の材料で構成されることが好ましい。
【0035】
第3の層は、銅、銀、マグネシウム、アルミニウムの群から選択される材料で構成されることが好ましい。これらの材料は、第1の層の材料との10%未満の混和性を有している。
【0036】
非制限の実施形態によれば、第3の層は、0.2nmと1.5nmの間の厚さを有している。実際、0.2nm未満では、第1の層は第3の層によって完全に覆われない。さらに、第3の層の厚さが1.5nmより分厚くなると、スタックの平面外異方性を大きくすることができなくなる。したがって1.5nmより厚い第3の層を堆積させることは無意味である。
【0037】
非制限の実施形態によれば、第1の層は、0.3nm未満の厚さ、好ましくは厳格に0.3nm未満の厚さを有するコバルトの層である。したがってスタックは150℃程度のキュリー温度を有しており、スタックの磁化を温度によって平面外磁化から平面内磁化へ容易に転換することができる。
【0038】
非制限の実施形態によれば、第1の層は2nm以下の厚さを有している。実際、2nmを超えると、第1の層と第2の層の間に第3の層を挿入しても、もはやスタックの平面外異方性を有意に大きくすることはできない。
【0039】
非制限の実施形態によれば、第1および第2の層は、それぞれ0.2nmより厚い厚さを有している。実際、0.2nm未満では、前記層は、それらがその上に堆積される層を完全に覆うことができない。
【0040】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様による少なくとも1つの第1のスタックおよび1つの第2のスタックを備えた多層に関しており、この多層は平面外磁化を有しており、第2のスタックの第1の層は、第1のスタックの第2の層の上に堆積されている。
【0041】
多層は、周囲温度で平面外の磁化方向を有している。
【0042】
実際、可能な限り大きい平面外異方性を個々のスタックに有する多層を有するためには、第1の層の上に第3の層を堆積させなければならず、また、この第3の層の上に第2の層を堆積させなければならない。一方、第2のスタックの第1の層は、第1のスタックの第2の層の上に直接堆積させなければならない。
【0043】
本発明の第1の態様による複数のスタックを積み重ねることにより、平面外異方性を有する、1nmより厚い多層を形成することができる。
【0044】
また、多層は、個々に選択された、あるいは技術的に可能な任意の組合せで選択された以下の特徴のうちの1つまたは複数を有することも可能である。
【0045】
非制限の実施形態によれば、多層は、さらに、スタックの上に堆積した、磁気材料の追加層を備えている。スタックの上に追加層を堆積させることにより、磁気厚さを分厚くすることができ、その一方で多層の平面外異方性を維持することができる。実際、多層のスタックは、それらが、追加層と多層のスタックとの間の界面を介した磁気結合によって追加層の磁化を平面から「引き出す」ことができるよう、極めて重要な平面外異方性を有している。そのためには、追加層ではなく、スタックが追加層の磁化を平面から引き出すよう、言い換えると追加層の平面磁化が多層の磁化を平面中に引き出さないよう、多層のスタックの総異方性エネルギーが追加層の総異方性エネルギーより大きくなるようにしなければならない。
【0046】
非制限の実施形態によれば、追加層は、コバルト、鉄、ニッケルまたは前記材料をベースとする合金のうちの1つの材料から作製される。
【0047】
追加層は、B、V、Cr、Zr、Hf、Pt、Pdの元素のうちの1つまたは複数を含むことも可能である。
【0048】
非制限の実施形態によれば、MRAMタイプのメモリ用途の範囲内におけるとりわけ重要なことには、多層は、0.5nmと4nmの間の厚さを有している。実際、多層は、トンネル障壁によるサポート可能な電流密度、言い換えると典型的には2.10A/cm未満の電流密度のスピン転移によって反転させることができるようにするために適度の磁気厚さを維持するためには、好ましくは4nm未満の厚さを有していなければならない。さらに、0.5nmより厚い厚さを有することにより、多層をメモリポイント内の基準層または記憶層として使用することができる。
【0049】
また、本発明の第3の態様は、
−「基準層」として知られている第1の磁気多層と、
−可変磁化方向を有する「記憶層」として知られている第2の磁気多層と、
−基準層および記憶層を分離しているスペーサと
を備えたメモリセルに関しており、基準層および/または記憶層は、本発明の第2の態様による多層を備えている。
【0050】
したがって形成されるメモリセルは、極めて小さい横方向の寸法、言い換えると典型的には45nm未満の寸法を有することができ、その一方で良好な熱安定性を有することができるため、とりわけ有利である。
【0051】
本発明の第4の態様は、本発明の第3の態様によるメモリセルを備えた磁気ランダムアクセスメモリに関している。
【0052】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図を参照して以下の説明を読むことにより、より明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1a】本発明の一実施形態によるスタックの断面図である。
【図1b】二元合金Co−Cuの相線図である。
【図2】本発明の一実施形態による多層の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態による多層および従来技術の多層であって、コバルトの層を備えた多層中の、コバルトの層の厚さの関数としての有効磁気異方性Keffの展開を示す曲線である。
【図4】従来技術の多層および図2の多層中のコバルトの層の厚さの関数としての有効磁気異方性Keffの展開を示す曲線である。
【図5】コバルト層の厚さの関数としての、図2の多層中および従来技術の多層中の飽和磁化Msの展開を示す曲線である。
【図6】前記多層のアニーリング温度の関数としての、図2の多層中および従来技術による多層中の有効磁気異方性Keffの展開を示す曲線である。
【図7a】本発明の一実施形態による多層の断面図である。
【図7b】従来技術による多層の断面図である。
【図8】a〜dは、極カー効果によって測定された従来技術の多層中のヒステリシスループであり、e〜hは、極カー効果によって測定された本発明の異なる実施形態による多層中のヒステリシスループである。
【図9】本発明の一実施形態による多層の25℃における飽和磁化に対する、温度Tにおける飽和磁化の展開を温度の関数として示す曲線である。
【図10a】極カー効果によって測定された、異なる温度における本発明の一実施形態による多層中のヒステリシスループである。
【図10b】極カー効果によって測定された、異なる温度における本発明の他の実施形態による多層中のヒステリシスループである。
【図11】本発明の一実施形態によるメモリセルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
より明確にするために、全く同じ部材または同様の部材には、すべての図において全く同じ参照符号が付されている。
【0055】
図1aは、本発明の一実施形態によるスタック4を示したものである。前記スタック4は、磁気材料から作製された第1の層1を備えている。前記第1の層1はコバルトで構成されることが好ましいが、鉄、ニッケルまたは前記材料の合金で構成することも可能である。
【0056】
また、スタック4は、非磁気材料から作製された第2の層2を備えることも可能である。第2の層2は白金で構成されることが好ましいが、パラジウム、金、または第1の層1の材料との共有界面を形成すると、界面垂直異方性を付与する金属材料で構成することも可能である。このような材料の例については、非特許文献7、および非特許文献8を参照されたい。
【0057】
第1の層1は、0.2nmと1nmの間の厚さを有していることが好ましい。より詳細には、第1の層1がコバルトから作製される場合、その厚さは、連続膜が形成されるよう、0.2nmより厚いことが好ましい。第1の層1が鉄から作製される場合、その厚さは、連続膜が形成されるよう、0.2nmより厚いことが好ましい。第1の層1がニッケルから作製される場合、その厚さは、連続膜が形成されるよう、0.3nmより厚いことが好ましい。
【0058】
非制限の実施形態によれば、第2の層2は0.2nmより厚い厚さを有している。実際、0.2nm未満では、第2の層は下方の層を完全に覆うことはできない。
【0059】
また、スタック4は、第1の層1と第2の層2の間に挿入される第3の層3を備えている。より詳細には、第3の層3は第1の層1の上に直接堆積され、また、第2の層2は、この第3の層3の上に直接堆積される。
【0060】
本明細書では、これらの層は、陰極スパッタリング、蒸着または任意の他の物理蒸着法によって堆積させることができる。
【0061】
第3の層3は、第1の層1との混和性が小さい金属材料、言い換えると混和性が10%未満の金属材料から作製される。
【0062】
前記金属材料は、例えば銅、銀、マグネシウム、アルミニウムであってもよい。これらの材料は、それらが第1の層と第2の層の間の拡散障壁として働くよう、第1の層1を構成している材料中への拡散係数が極めて小さい材料である。
【0063】
一例として図1bは、二元合金Co−Cuの相線図を示したものである。この相線図には、コバルト中の銅の濃度を表している2つの分岐30および31の存在によってコバルト中における銅の低混和性が示されている。前記2つの分岐30、31が垂直軸に対して事実上接線であるということは、周囲温度に向かって補外すると、コバルト中に銅を均質に導入することはほとんど不可能であり、ここでは周囲温度で1%未満であることを示している。同様に、銅中にコバルトを均質に導入することもほとんど不可能である。
【0064】
これは、大量の銅をコバルト中に混合させようとすると、コバルト基質中に分散した銅の微小粒子またはフィラメントの形態で銅が本質的に沈殿し、均質には混合しないことを意味している。この場合、銅は、コバルトとの混和性が小さい、と言われる。
【0065】
それとは逆に、例えば合金CoNiは、コバルト中のニッケルの全濃度範囲にわたって固溶体を形成することが知られている。この場合、Niは、コバルトとの混和性が大きい、と言われる。
【0066】
第3の層3により、スタックは強い垂直異方性を有することができる。
【0067】
本明細書では、スタック、層、多層は、前記スタック、前記層、前記多層が基準平面、ここでは平面xyに対して平行に延在している場合、「垂直異方性」または「平面外異方性」を有している、と言われ、また、前記スタック、前記層または前記多層は、基準平面に対して垂直の軸、ここではz軸に沿った方向に磁化を有している、と言われる。
【0068】
図2は、本発明の一実施形態による多層10を示したものである。
【0069】
前記多層10はバッファ層5を備えることができる。前記バッファ層5は、多層10の他の層を成長させるためのベースとして働き、また、基板の上に多層を接着させる働きをしている。前記バッファ層5は非磁気材料から作製されることが好ましい。前記バッファ層5は、例えばタンタルで構築することができる。前記バッファ層5は、例えば3nmの厚さを有することができる。
【0070】
バッファ層5の上には、非磁気材料から作製された層6を堆積させることができる。非磁気材料から作製された前記層6により、多層の残りの部分に良好な結晶構造を付与することができる。非磁気材料から作製された前記層6は、例えば白金で構築することができ、また、5nmの厚さを有することができる。
【0071】
多層10は、次に、連続するn個のスタック4a、4b、...4nを備えている。個々のスタック4a、4b、...4nは、図1を参照して説明したスタック4と全く同じである。
【0072】
これらのスタックは、第2のスタック4bの第1の層1bが第1のスタック4aの第2の層2aの上に堆積されるよう、互いの上に堆積されている。同様に、n番目のスタック4nの第1の層1nは、スタックn−1の第2の層2(n−l)の上に堆積され、以下、同様である。したがって多層の総合厚さは、反復数の関数として0.5nmから50nmまで変化させることができる。
【0073】
したがって多層10内では、コバルトの個々の第1の層1a、1b、...、1nの上に、これらの層1a、1b、...、1nとの混和性が小さい銅、銀、マグネシウム、アルミニウムまたは任意の他の金属の第3の層3a、3b、...、3nが位置しており、これらの第3の層は、第1の層1a、1b、...、1nと第2の層2a、2b、...、2nの間に挿入されている。一方、個々の第1の層1a、1b、1nのすぐ下には、白金、パラジウム、またはこれらの層1a、1b、...1nを構成している材料と共有界面を形成すると、界面垂直異方性を付与することが知られている他の金属から作製された層2a、2b、...、2n−1が位置しており、上側のスタックの第1の層と下側のスタックの第2の層の間には銅の層は挿入されていない。この配置によれば、強い平面外異方性を有する多層10を有することができる。
【0074】
また、多層10は、スタックの頂部に堆積した、例えば空気中における酸化からスタックを保護するための、保護を目的とした層7または一連の層7および8を備えることも可能である。これらの保護層は、例えば厚さ2nmのタンタルの層7および同じく厚さ2nmの白金の層8で構築することができる。
【0075】
したがって製造される多層は平面外磁化を有している。
【0076】
図3は、コバルトの層を備えた3つの多層中の、コバルト層の厚さの関数としての有効磁気異方性の展開を示したものである。
【0077】
したがって曲線303は、
−厚さ3nmのタンタルのバッファ層
−厚さ5nmの白金の層
−厚さtCoが可変であるコバルトの第1の層
−厚さ2nmの白金の第2の層
を備えた従来技術による多層中の有効磁気異方性Keffの、コバルトの第1の層の厚さの関数としての展開を示している。
【0078】
曲線302は、
−厚さ3nmのタンタルのバッファ層
−厚さ5nmの白金の層
−スタックであって、
厚さtCoが可変であるコバルトの第1の層
厚さ0.4nmの銅の第3の層
厚さ2nmの白金の第2の層
を備えたスタック
を備えた本発明の実施形態による多層中の有効磁気異方性Keffの、コバルトの第1の層の厚さの関数としての展開を示している。
【0079】
これらの曲線から分かるように、コバルトの第1の層の厚さtCoが1nm未満である場合、コバルトの第1の層の上に銅の第3の層を存在させることによって有効磁気異方性Keffを大きくすることができ、これは、第1の層の上に第3の層が存在すると、スタックは、前記第3の層がない場合にスタックが有することになる平面外磁気異方性より大きい平面外磁気異方性を有することを示している。実際、
−厚さ3nmのタンタルの層
−厚さ5nmの白金の層
−厚さ0.5nmのコバルトの第1の層
−厚さ2nmの白金の第2の層
を備えた従来技術によるスタックは、95.10A/mに対応する実質的に950emu/cmに等しい磁化を有しており、また、4.130.10J/mに対応する4.13Merg/cmの有効磁気異方性Keffを有している。
【0080】
厚さ0.4nmの第3の銅層が前記スタックの第1の層と第2の層の間に追加されると、スタックは、102.10A/mに対応する実質的に1020emu/cmに等しい磁化を有し、また、9.18.10J/mに対応する9.18Merg/cmの有効磁気異方性Keffを有することになる。
【0081】
厚さ0.4nmのマグネシウムの第3の層が、上で説明した従来技術によるスタックの第1の層と第2の層の間に追加されると、スタックは、102.10A/mに対応する実質的に1020emu/cmに等しい磁化を有し、また、7.270.10J/mに対応する7.27Merg/cmの有効異方性Keffを有することになる。
【0082】
したがって本発明によるスタックは、第1の層と第2の層の間に第3の層が存在しているため、従来技術によるスタックの磁化より大きい磁化を有しており、したがって第1の層を構成している材料の第2の層2中への拡散、あるいはその逆の第2の層2を構成している材料の第1の層中への拡散が回避される。さらに、本発明によるスタックは、従来技術の垂直磁気異方性より大きい垂直磁気異方性を有している。
【0083】
図4は、それぞれコバルトの第1の層を備えた複数の全く同じスタックを備えた2つの多層中の、コバルトの第1の層の厚さの関数としての有効磁気異方性Keffの展開を示したものである。
【0084】
したがって曲線401は、コバルトの第1の層の厚さの関数としての、図2の多層と同様の多層中の異方性係数の展開を示している。
【0085】
曲線402は、前記多層がコバルトの第1の層の上に第3の層を備えていない点が異なる、図2の多層と同様の多層中の異方性係数の展開を示している。
【0086】
図4から分かるように、そのコバルトの第1の層の各々の上に銅の第3の層を備えた多層は、第3の層を備えていない多層より重要な有効磁気異方性Keffを有している。したがってコバルトの個々の第1の層と白金の個々の第2の層の間に銅の第3の層を備えた多層は、第3の層を備えていない多層の界面起源の平面外異方性より大きい界面起源の平面外異方性を有している。
【0087】
図5は、コバルトの第1の層を備えた2つの多層中の、コバルトの第1の層の厚さの関数としての飽和磁化の展開を示したものである。
【0088】
したがって曲線501は、第1のコバルト層の厚さの関数としての、図2の多層と同様の多層中の飽和磁化の展開を示している。
【0089】
曲線502は、前記多層が第1のコバルト層の上に第3の層を備えていない点が異なる、図2の多層と同様の多層中の飽和磁化の展開を示している。
【0090】
図5から分かるように、その第1のコバルトの層の各々の上に銅の第3の層を備えた多層は、第3の層を備えていない多層より高い飽和磁化を有している。
【0091】
図6は、2つの多層のアニーリング温度の関数としての有効磁気異方性Keffの展開を示したものである。
【0092】
より詳細には、曲線602は、
−厚さ3nmのタンタルの層
−厚さ5nmの白金の層
−3つのスタックであって、それぞれ、
厚さ0.6nmのコバルトの第1の層
厚さ0.4nmの白金の第2の層
を備えた3つのスタック
−厚さ2nmのタンタルの層
−厚さ2nmの白金の第2の層
を備えた多層中の有効磁気異方性Keffの展開を示したものである。
【0093】
曲線601は、
−厚さ3nmのタンタルの層
−厚さ5nmの白金の層
−3つのスタックであって、それぞれ、
厚さ0.4nmのコバルトの第1の層
厚さ0.4nmの銅の第3の層
厚さ0.4nmの白金の第2の層
を備えた3つのスタック
−厚さ2nmのタンタルの層
−厚さ2nmの白金の第2の層
を備えた多層中の異方性係数Keffの展開を示したものである。
【0094】
これらの曲線から分かるように、0℃と350℃の間のアニーリング温度Tであれば、曲線601および602の多層がどの温度でアニーリングされても、コバルトの個々の第1の層の上に銅の第3の層を備えた曲線601の多層は、第3の層を備えていない曲線602の多層の有効磁気異方性より大きい有効磁気異方性を有している。
【0095】
この方法によれば、多層の垂直異方性を破壊するメモリポイントのアニーリングを必要とすることなく、とりわけ酸化マグネシウムまたは酸化アルミニウムのトンネル障壁を有するメモリセルに本発明による多層を使用することができるため、この特性はとりわけ重要である。
【0096】
図7aは、本発明の一実施形態による多層11を示したものである。前記多層11は、
−厚さ3nmのタンタルの層13
−厚さ5nmの白金の層14
−3つのスタックであって、それぞれ、
厚さ0.3nmのコバルトの第1の層
厚さ0.4nmの銅の第3の層
厚さ0.4nmの白金の第2の層
を備えた3つのスタック4a、4b、4c
−厚さtCoFeBのコバルト−鉄−ホウ素合金の追加層15
−厚さ0.55nmの酸化アルミニウムの層16
−厚さ2nmのタンタルの層17
−厚さ2nmの白金の層18
を備えている。
【0097】
図7bは、これらのスタックが銅の個々の第1の層の上に第3の層を備えていないことを除き、図7aの多層と全く同じ組成の多層12を示したものである。より詳細には、多層12は、
−厚さ3nmのタンタルの層13
−厚さ5nmの白金の層14
−3つのスタックであって、それぞれ、
厚さ0.3nmのコバルトの第1の層
厚さ0.4nmの白金の第2の層
を備えた3つのスタック19a、19b、19c
−厚さtCoFeBのコバルト−鉄−ホウ素合金の追加層15
−厚さ0.55nmの酸化アルミニウムの層16
−厚さ2nmのタンタルの層17
−厚さ2nmの白金の層18
を備えている。
【0098】
図8aは、極カー効果によって測定された、追加層15の厚さが0.5nmである場合の図7bの多層12のヒステリシスループを示したものである。
【0099】
図8bは、極カー効果によって測定された、追加層15の厚さが1nmである場合の図7bの多層12のヒステリシスループを示したものである。
【0100】
図8cは、極カー効果によって測定された、追加層15の厚さが1.5nmである場合の図7bの多層12のヒステリシスループを示したものである。
【0101】
図8dは、極カー効果によって測定された、追加層15の厚さが2nmである場合の図7bの多層12のヒステリシスループを示したものである。
【0102】
図8eは、極カー効果によって測定された、追加層15の厚さが0.5nmである場合の図7aの多層11のヒステリシスループを示したものである。
【0103】
図8fは、極カー効果によって測定された、追加層15の厚さが1nmである場合の図7aの多層11のヒステリシスループを示したものである。
【0104】
図8gは、極カー効果によって測定された、追加層15の厚さが1.5nmである場合の図7aの多層11のヒステリシスループを示したものである。
【0105】
図8hは、極カー効果によって測定された、追加層15の厚さが2nmである場合の図7aの多層11のヒステリシスループを示したものである。
【0106】
前記ヒステリシスループは、これらの層の平面に対して垂直に磁界を印加することによって極カー効果によって得られたものである。極カー効果によって前記ヒステリシスループを得ることができる実験的プロトコルは、従来技術で知られており、例えば、「Magnetisme, Fondements (Tome 1)」および「Magnetisme, Materiaux et applications (Tome 2)」、E.Du Tremolet de Lacheisserie編、Grenoble Sciencesと題する本に記載されている。これらの測定は、直線偏光された、632ナノメートルの波長のヘリウム−ネオンレーザを使用して実施された。
【0107】
図8eないし8fは、コバルトの第1の層1の上に銅の第3の層3を存在させることにより、多層の平面に対して垂直の磁化を多層11に付与することができることを示しており、その有効異方性は、追加層15の磁化を平面から「引き出す」には十分である。実際、スタック4aないし4cが、層1中への混和性が小さい銅、マグネシウムまたは任意の他の金属の第3の層を備えている場合、これらのスタックは、2nm程度の値を達成することができる相当な厚さを追加層15が有している場合であってもそれらが追加層の磁化を平面から引き出すよう、より大きい平面外異方性を有している。
【0108】
一方、図8aないし8dは、多層12中に第3の層3が存在しない場合、多層は、層の平面内に磁化を有することを示している。実際、この場合、スタック19aないし19cの異方性は、追加層の磁化を追加層15の平面から「引き出す」には不十分である。
【0109】
したがってスタック中に第3の層を存在させることにより、多層の磁化を多層の平面に対して垂直にすることができ、一方、第3の層がない場合、多層は、多層の平面に対して平行の磁化を有することになる。
【0110】
図9は、多層中における磁化の展開を前記多層の温度の関数として示したものである。
【0111】
より詳細には、曲線801、802、803は、それぞれ、温度Tにおける多層の飽和磁化Ms(T)の、25℃におけるこの同じ多層の飽和磁化Ms(25℃)に対する比率の展開を温度Tの関数として示したものである。
【0112】
曲線801、802および803に対して使用された多層は、以下の構成を有している。
−厚さ3nmのタンタルの層
−厚さ5nmの白金の層
−5つのスタックであって、それぞれ、
厚さtCoのコバルトの第1の層
厚さ0.4nmの銅の第3の層
厚さ0.4nmの白金の第2の層
を備えた5つのスタック
−厚さ0.5nmのコバルトの層
−厚さ0.9nmのルテニウムの層
−厚さ2nmのタンタルの層
−厚さ2nmの白金の層
【0113】
曲線801を生成するために使用された多層は、それぞれ厚さtCo=0.4nmのコバルトの第1の層を有している。
【0114】
曲線802を生成するために使用された多層は、それぞれ厚さtCo=0.3nmのコバルトの第1の層を有している。
【0115】
曲線803を生成するために使用された多層は、それぞれ厚さtCo=0.2nmのコバルトの第1の層を有している。
【0116】
これらの曲線は、個々のスタックのコバルトの第1の層の厚さtCoが薄くなると、キュリー温度、言い換えると多層の自然磁化がゼロになる温度が低くなることを示している。
【0117】
キュリー温度のこの低減は、本質的に有限サイズ効果とリンクしており、言い換えるとコバルトの原子の配位の低減、言い換えるとそれらのコバルトの近隣の原子の数の減少により、コバルトの層内における交換相互作用が効果的に減少する。したがってそれは、第1の層と接触している第3の層の性質にかかわらず一般的な現象である。前記キュリー温度は、P.J. Jensenら、Phys. Rev. B 42、849頁(1990)の刊行物に記載されている現象である、異方性切換え温度を制御するための極めて重要な要因である。
【0118】
一般に、実質的に150℃に等しいキュリー温度を得るためには、個々のスタック内のコバルトの第1の層の厚さtCoを0.3nm未満、好ましくは厳格に0.3nm未満にしなければならない。しかしながらコバルトの第1の層をこのような厚さにしても、スタックの個々の第1の層の上に第3の層が存在している場合、スタックにできることは、周囲温度で平面外異方性を維持することのみである。したがってコバルトの第1の層との混和性が小さい銅、マグネシウム、または任意の他の金属の第3の層を存在させることにより、周囲温度で垂直異方性を有し、かつ、低いキュリー温度を有する多層を有することができる。
【0119】
図10aは、極カー効果によって測定された、
−厚さ3nmのタンタルの層
−厚さ5nmの白金の層
−5つのスタックであって、それぞれ、
厚さ0.25nmのコバルトの第1の層
厚さ0.4nmの銅の第3の層
厚さ0.4nmの白金の第2の層
を備えた5つのスタック
−厚さ1.5nmのコバルト−鉄−ホウ素合金の層
−厚さ0.55nmの酸化アルミニウムの層
−厚さ2nmのタンタルの層
−厚さ2nmの白金の層
を備えた本発明の一実施形態による多層中のヒステリシスループを示したものである。
【0120】
図10bは、極カー効果によって測定された、個々のスタックのコバルトの第1の層が0.25nmの厚さを有する代わりに0.3nmの厚さを有していることを除き、図10aの多層と同様の多層のヒステリシスループを示したものである。図10aおよび10bのヒステリシスループを生成するため、これらの層の平面に対して垂直に磁界が印加された。
【0121】
図10aから分かるように、温度が高くなると多層の磁化方向が切り換わる。実際、多層の温度が周囲温度である場合、多層は、コバルトの第1の層の厚さに無関係に、多層の平面に対して垂直の磁化方向を有する。一方、温度が高くなると、平面外磁化を引き出す垂直有効異方性が小さくなり、特定の温度で符号が変化する。符号の前記変化は、磁気層の磁化を平面内に引き込む傾向がある形状異方性が、次に、平面外磁化を引き出す傾向がある体積起源または界面起源の垂直異方性に打ち勝つことに対応している。有効異方性の符号が変化する前記臨界温度では、磁気層の磁化は、前記温度未満の平面に対して垂直の方向から、前記温度より高い平面内の方向へ突発的に再配向される。図10aでは、コバルトの第1の層の厚さが0.25nmである場合、切換え温度は150℃に近く、一方、コバルトの第1の層の厚さが0.3nmである場合、切換え温度は200℃より高いことが分かる。
【0122】
さらに、多層が、とりわけ、図11を参照して説明するメモリセル内の記憶層として使用される場合、異方性切換え温度が低い多層、言い換えると異方性切換え温度が150℃程度の多層を有することは、とりわけ有利である。
【0123】
図11は、本発明の一実施形態によるメモリセルを示したものである。
【0124】
前記メモリポイントは、「基準層」21として知られている第1の多重磁気層を備えている。基準層21は、基準層の平面に対して垂直の磁化方向を有している。さらに、基準層は、固定磁化方向を有している。そのために、例えば基準層21と接触している反強磁性層24によって基準層21の磁化方向をトラップすることができる。基準層21は、既に説明した本発明による多層中に形成することができる。
【0125】
また、メモリポイントは、「記憶層」22として知られている、可変磁化方向を有する第2の磁気多層を備えることも可能である。メモリセルが書き込まれていない周囲温度では、記憶層の磁化方向は、
−基準層の磁化方向に対して平行になり、この場合「0」が記憶層に書き込まれる
−あるいはその代わりに基準層の磁化方向に対して反平行になり、この場合「1」が記憶層に書き込まれる
ように配置することができる。
【0126】
記憶層22は、本発明による多層の中に製造され、この例では以下の要素を備えている。
−厚さ3nmのタンタルの層
−厚さ5nmの白金の層
−5つのスタックであって、それぞれ、
コバルトの第1の層
厚さ0.4nmの銅の第3の層
厚さ0.4nmの白金の第2の層
を備えた5つのスタック
−厚さ1.5nmのコバルト−鉄−ホウ素合金の追加層15
【0127】
個々のスタックの第1の層は、0.25nmまたは0.3nmの厚さを有することができる。図10aおよび10bを参照して説明したように、個々のスタックのコバルトの第1の層の厚さが0.25nmである場合、記憶層22は、150℃程度の異方性切換え温度を有し、一方、個々のスタックのコバルトの第1の層の厚さが0.3nmである場合、記憶層22は、200℃より高い異方性切換え温度を有する。
【0128】
また、メモリセルは、基準層21および記憶層22を分離しているスペーサ23を備えている。スペーサ23は、基準層21と記憶層22の間のトンネル障壁を形成している。スペーサ23は、この例では、厚さ0.55nmの酸化アルミニウムの層で構成されている。
【0129】
また、メモリセルはトランジスタ25を備えており、このトランジスタ25は、電子の流れがメモリセルを通って流れることができるよう、通過段に配置することができる。
【0130】
メモリセルは、スピン転移によって書き込まれることが好ましい。したがって電子の流れは、メモリセルを通って流れる。前記電子の流れが磁気である基準層21を通過すると、電子が分極スピンで前記基準層21から出るよう、電子のスピンが自からスピン分極されることになる。前記電子が記憶層22を通過すると、それらの電子は、記憶層22を磁化させるスピンと交換相互作用することになる。電流密度が十分に高い場合、この交換相互作用によって記憶層の磁化が再配向され、また、記憶層22の磁気モーメントで分極された電子の角モーメントの転移によって記憶層22の磁化が整列することになる。この現象は、スピン転移としても知られている。したがって電子の流れが基準層から記憶層へ流れると、スピン転移によって記憶層および基準層の磁化が平行に配向されることになる。一方、電子の流れが記憶層から基準層へ流れると、記憶層および基準層の磁化は反平行に整列することになる。
【0131】
さらに、スピン転移トルクは、電子のスピン分極の方向と前記トルクが加えられる磁化の間の角度の正弦として変化する。したがって記憶層および基準層が互いに垂直の磁化方向を有すると、前記トルクが大きくなる。さらに、静止状態では、基準層21および記憶層22はいずれも、周囲温度で、前記層の平面に対して垂直の磁化方向を有し、したがって基準層21および記憶層22は、周囲温度で、互いに平行または反平行の磁化方向を有する。
【0132】
しかしながら、記憶層への情報の書込みを可能にするために電流がメモリセルを通って流れると、前記電流によってメモリセルが加熱され、詳細には記憶層が加熱され、それにより記憶層の磁化方向が切り換わり、記憶層の平面内の磁化方向により接近する。記憶層のキュリー温度が低いほど、異方性切換え温度が低くなり、また、メモリセルに書き込むために必要な電流が小さくなる。したがって記憶層が、厚さ0.25nmのコバルトの第1の層を個々のスタック中に備えた多層で構成されている場合、メモリセルを通って流れる電流は、記憶層の磁化を90°だけ切り換え、それにより記憶層の磁化方向を基準層の磁化方向に対して垂直になるようにするには十分である。したがってスピン転移の効果が最大限に発揮され、それにより電流の方向に応じて記憶層の磁化を「下側の」半球中に引き込むことができ、あるいは「上側の」半球中に引き込むことができる。次に、電流が遮断されると、記憶層の磁化方向がまっすぐになり、また、電子の流れが記憶層の磁化方向を基準層の磁化方向に対して平行または反平行に配向したかどうかに応じて、基準層の磁化方向に対して平行または反平行になる。
【0133】
したがって、記憶層に情報を書き込んでいる間、スピン転移させるためには、厚さ0.25nmのコバルトの層で構成される第1の層を個々のスタック内に有することがとりわけ重要である。そうすることにより、記憶層に情報を書き込むために必要な電流密度を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0134】
1 第1の層(磁気層)
1a 第1のスタックの第1の層(磁気層)
1b 第2のスタック4bの第1の層(磁気層)
1n n番目のスタック4nの第1の層(磁気層)
2 第2の層
2a 第1のスタック4aの第2の層
2b 第2のスタック4bの第2の層
2(n−1) スタックn−1の第2の層
2n スタックnの第2の層
3 第3の層
3a、3b、3n 個々のスタックの第3の層
4 スタック(磁気スタック)
4a、19a 第1のスタック(磁気スタック)
4b、19b 第2のスタック(磁気スタック)
4c、19c 第3のスタック
4n n番目のスタック(磁気スタック)
5 バッファ層
6 非磁気材料から作製された層
7 保護タンタル層
8 保護白金層
10、11、12 多層
13、17 タンタルの層
14、18 白金の層
15 追加層
16 酸化アルミニウムの層
21 基準層
22 記憶層
23 スペーサ
24 反強磁性層
25 トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面外磁化を有する磁気スタック(4、4a、4b、4n)であって、
コバルト、鉄およびニッケル、ならびにこれらの材料をベースとする磁気合金の群から選択される1つまたは複数の材料で構成された第1の磁気層(1、1a、1b、1n)と、
金属材料で構成された第2の層(2、2a、2b、2n)であって、前記金属材料が、前記第2の層が前記第1の層との共有界面を有すると、前記第1および前記第2の層によって形成されるアセンブリに界面起源の垂直異方性を与えることができる材料である、第2の層(2、2a、2b、2n)と
を備え、前記スタック(4、4a、4b、4n)が、前記第1の層(1、1a、1b、1n)の上に堆積された第3の層(3、3a、3b、3n)をさらに備え、前記第2の層(2、2a、2b、2n)が前記第3の層(3、3a、3b、3n)の上に堆積され、前記第3の層(3、3a、3b、3n)が、前記第1の層の材料との10%未満の混和性を有する金属材料で構成されていることを特徴とするスタック。
【請求項2】
前記第2の層(2、2a、2b、2n)が、白金、パラジウム、金、イリジウム、モリブデンの群から選択される1つまたは複数の材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のスタック。
【請求項3】
前記第3の層(3、3a、3b、3n)が、銅、銀、マグネシウム、アルミニウムの群から選択される材料で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のスタック。
【請求項4】
前記第3の層(3、3a、3b、3n)が0.2nmと1.5nmの間の厚さを有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のスタック。
【請求項5】
前記第1の層(1、1a、1b、1n)が2nm以下の厚さを有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のスタック。
【請求項6】
前記第1の層(1、1a、1b、1n)および前記第2の層(2、2a、2b、2n)が、それぞれ0.2nmより厚い厚さを有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のスタック。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の少なくとも1つの第1のスタック(4a)および1つの第2のスタック(4b)を備えた、平面外磁化を有する多層(11、12)であって、前記第2のスタック(4b)の前記第1の層(1b)が、前記第1のスタック(4a)の前記第2の層(2a)の上に堆積されている多層。
【請求項8】
前記スタック(4a、4b、4n)の上に堆積された磁気材料の追加層(15)をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載の多層。
【請求項9】
前記追加層(15)が、コバルト、鉄、ニッケルまたは前記材料をベースとする磁気合金の材料のうちの1つから作製されていることを特徴とする請求項8に記載の多層。
【請求項10】
前記追加層が、B、V、Cr、Zr、Hf、Pt、Pdの元素のうちの1つまたは複数をさらに含む、請求項9に記載の多層。
【請求項11】
「基準層」(21)として知られている第1の磁気多層と、
可変磁化方向を有する「記憶層」(22)として知られている第2の磁気多層と、
前記基準層(21)および前記記憶層(22)を分離しているスペーサ(23)と
を備えたメモリセルであって、前記基準層(21)および/または前記記憶層(22)が、請求項7から10のいずれか一項に記載の多層(10、11)を備えることを特徴とするメモリセル。
【請求項12】
請求項11に記載のメモリセルを備えた磁気ランダムアクセスメモリ。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−12733(P2013−12733A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−130285(P2012−130285)
【出願日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【出願人】(502124444)コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ (383)
【Fターム(参考)】