磁気メモリ構造およびトンネル磁気抵抗効果型再生ヘッドならびにそれらの製造方法
【課題】十分に高い抵抗変化率および絶縁破壊電圧を確保しつつ、安定した製造に適した磁気トンネル接合素子を備えた磁気メモリ構造を提供する。
【解決手段】この磁気メモリ構造は、基体上に、第1シード層と導電層とを順に有する下部電極と、導線としての上部電極と、下部電極と上部電極との間に配置され、かつ、下部電極の側から順に、下部電極と接すると共に窒化タンタルを含む第2シード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、上部電極と接するキャップ層とを有する磁気トンネル接合素子とを備える。窒化タンタルは、窒素プラズマをタンタルのターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成されたものである。
【解決手段】この磁気メモリ構造は、基体上に、第1シード層と導電層とを順に有する下部電極と、導線としての上部電極と、下部電極と上部電極との間に配置され、かつ、下部電極の側から順に、下部電極と接すると共に窒化タンタルを含む第2シード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、上部電極と接するキャップ層とを有する磁気トンネル接合素子とを備える。窒化タンタルは、窒素プラズマをタンタルのターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成されたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気トンネル接合素子を備えた磁気メモリ構造およびトンネル磁気抵抗効果型再生ヘッドならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンピュータやモバイル通信機器などの情報処理装置に用いられる汎用メモリとして、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)などの揮発性メモリが使用されている。これらの揮発性メモリは、常に電流を供給しておかなければ全ての情報が失われる。そのため、状況を記憶する手段としての不揮発性メモリ(例えば、フラッシュEEPROMなど)を別途設ける必要がある。この不揮発性メモリに対しては処理の高速化が強く求められていることから、近年、不揮発性メモリとして磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetic Random Access Memry)が注目されてきている。
【0003】
MRAMは、磁気抵抗効果素子を備えた磁気メモリセルがマトリクス状に配列されたアレイ構造をなすものである。磁気抵抗効果素子としては、より大きな抵抗変化率の得られる磁気トンネル接合(MTJ;magnetic tunnel junction)素子が好適である。このMTJ素子は、トンネルバリア層によって隔てられた2つの強磁性層(磁化方向が印加磁界に応じて変化する磁化自由層および磁化方向が磁化容易軸に沿って平行をなすように恒久的に固着された磁化固着層)を有している。なお、磁化自由層は自由に回転可能な磁化方向を有するものであるが、結晶磁気異方性を示す磁化容易軸に沿って磁化方向が揃うことによりエネルギー的に安定する。トンネルバリア層は、絶縁材料からなる薄膜であり、量子力学に基づくトンネル効果によって電荷キャリア(一般的には電子)が透過できる程度の厚みをなしている。電荷キャリアが透過する確率は、2つの強磁性層の磁化方向と関連した電子スピン方向に依存するので、電圧を印加した状態において上記の磁化方向が変化すると、トンネル電流も変化することとなる。トンネル電流の大きさは、アップスピンとダウンスピンとの比によって左右される。
【0004】
上記のようなMTJ素子では、ある基準状態からのトンネル電流の変化を検出することにより、磁化自由層および磁化固着層における各磁化方向の決定が可能となる。なぜなら、2つの強磁性層の磁化方向が互いになす角度に応じてMTJ素子の抵抗が異なるからである。具体的には、磁化自由層の磁化方向が磁化固着層の磁化方向と反平行をなすとき、そのトンネル電流は最小(接合抵抗は最大)となり、一方で、自由層の磁化方向が磁化固着層の磁化方向と平行をなすとき、そのトンネル電流は最大(接合抵抗は最小)となるのである。
【0005】
MRAMアレイは、一般的に、第1の階層において互いに平行に並んだ複数の第1の導線と、第1の階層とは異なる第2の階層において複数の第1の導線と直交するように互いに平行に並んだ複数の第2の導線とを備え、それらの交差点にMTJ素子を配置するように構成されている。第1の導線がワード線であるとすると、一方の第2の導線はビット線である。また、第1の導線が下部電極であるとすると、第2の導線はビット線(またはワード線)である。第3の導線がワード線またはビット線として、第2の階層を基準として第1の階層と反対側に位置する第3の階層に形成されることもある。任意に、第1の階層の下側(第2の階層とは反対側)に別の複数の導線を設けることもできる。さらに、トランジスタやダイオードなどを含むデバイスを第1の階層の下側に設けることもできる。
【0006】
図7は、TMR(tunneling magneto-resistance)効果を発現するMTJ素子1を備えた従来の磁気メモリ構造の断面構成例を示したものである。この磁気メモリ構造では、MTJ素子1が、第1の導線としての下部電極2と、第2の導線としての上部電極9との間に設けられている。
【0007】
下部電極2は、一般的に、シード層と導電層とキャップ層とが順に積層されたものであり、例えば、「タンタル(Ta)層/銅(Cu)層/タンタル(Ta)層」や、「ニッケルクロム(NiCr)/ルテニウム(Ru)層/タンタル(Ta)層」といった構造をなしている。
【0008】
MTJ素子1は、下部電極2の側から、下地層3と、ピンニング層4と、ピンド層5と、トンネルバリア層6と、フリー層7と、キャップ層8とが順に積層されたものであり、ボトムスピンバルブ構造と呼ばれる構造をなしている。一方、下部電極2の側から、フリー層とトンネルバリア層とピンド層とピンニング層とが順に積層されたものがトップスピンバルブ構造と呼ばれる。下地層3は、例えばニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)もしくはニッケルクロム合金(NiFe)のいずれかよりなる単層構造またはタンタル(Ta)層とNiFeCr層、NiFe層もしくはNiFe層のいずれかとの2層構造からなり、その上に形成される<111>方向における結晶層の、平滑かつ緻密な結晶の成長を促進するものである。ピンニング層4は、白金マンガン合金(PtMn)やイリジウムマンガン合金(IrMn)などの反強磁性材料により構成されており、ピンド層5の磁化方向を固着するものである。ピンド層5は、コバルト鉄合金(CoFe)層が複数積層されてなるものである。トンネルバリア層6は、例えばアルミニウム層をインサイチュー(in-situ)酸化することによって得られる酸化アルミニウム
(Al2O3)などの誘電材料により構成されている。フリー層7は、CoFe層もしくはNiFe層のいずれか、またはそれらの積層構造となっている。ピンド層5は、ピンニング層4との交換結合によって、例えばx方向に固着された磁気モーメントを有している。その場合、ピンニング層4はx方向に磁化されている。フリー層7は、ピンド層5と互いに平行または逆平行の磁気モーメントを有している。トンネルバリア層6は、量子力学に基づく伝導電子のトンネリングによって説明されるトンネル電流が流れることのできる程度の厚みを有している。フリー層7の磁気モーメントは、外部磁場に応じて変化する。フリー層7の磁気モーメントとピンド層5の磁気モーメントとの相対的な方向が、トンネル電流や接合抵抗の大きさの決定要因となる。
【0009】
センス電流10は、上部電極9から下部電極2へ積層面と直交するようにMTJ素子1を流れる。この際、フリー層7の磁化方向とピンド層5の磁化方向とが互いに平行な状態(例えば1に対応する状態)にあるとすると、MTJ素子1は低抵抗を示す。逆に、フリー層7の磁化方向とピンド層5の磁化方向とが互いに逆平行な状態(例えば0に対応する状態)にあるとすると、MTJ素子1は高抵抗を示す。
【0010】
このような磁気メモリ構造においては、磁気情報の読出動作の際、所望のMTJ素子1に対して積層面と直交するようにセンス電流を流すことにより、MTJ素子1の磁化状態を検知するようにする。一方、磁気情報の書込動作の際には、外部磁場を付与することによって所望のMTJ素子1におけるフリー層7をしかるべき磁化状態とする。MTJ素子1の上下を挟んで交差するビット線およびワード線(すなわち上部電極9または下部電極2)に書込電流を流すことにより外部磁場を形成するようにする。このように、上部電極9または下部電極2が、読出動作および書込動作の双方に使用される。
【0011】
高いパフォーマンスを発揮するMTJ素子は、高い磁気抵抗変化率(MR比)dR/Rを示すものと言える。ここで「R」はMTJ素子の最小の抵抗値であり、「dR」はフリー層の磁化状態が変化することによって得られる抵抗変化量である。高い抵抗変化率dR/Rに加え、高い絶縁破壊電圧Vbを得るには、トンネルバリア層が平滑であることが望ましい。そのような平滑なトンネルバリア層の結晶成長は、例えばピンニング層やピンド層における<111>方向の平滑かつ緻密な結晶面によって促進される。上述したように、ピンニング層やピンド層における組織、構成は、タンタル、NiCrあるいはNiFeCrなどからなるシード層によってもたらされる。このような材料からなるシード層は、形成する際に、下地の表面状態に敏感に反応して成長する。実際に、タンタル層は、下地の表面状態に応じてα相(非晶質)またはβ相(結晶質)のいずれかの結晶構造を取ることとなる。NiCrやNiFeCrなどのバッファ層は、アモルファスの酸化アルミニウム(Al2O3)の上で、<111>方向に成長することができる。なお、MTJ素子を形成する際のシード層としてタンタル層が用いるようにした例は、特許文献1に開示されている。また、磁気メモリ構造において、導線と連結された窒化タンタル(TaN)からなる電極上に、タンタルからなるシード層を配置するようにしたものが特許文献2に開示されている。
【0012】
図8に、従来の他の構成を有する磁気メモリ構造15を示す。磁気メモリ構造15は、下部電極2と、上部電極9と、厚み方向においてそれらの間に挟まれたMTJ素子1と、上部電極9を挟んでMTJ素子1の反対側に設けられた第3の電極14とを備えている。MTJ素子1の詳細な構成は図7に示したものと同等であり、ここでは簡略化して図示している。MTJ素子1は、第1絶縁層11によって取り囲まれており、この第1絶縁層11と共に共平面をなしている。上部電極9は、第1絶縁層11の上に形成された第2絶縁層12によって取り囲まれており、この第2絶縁層12と共に共平面を有している。上部電極9の上には、第3絶縁層13を介して、ワード線またはビット線としての第3の電極14が設けられている。下部電極2および上部電極9の構成は、図7に示したものと同様である。この磁気メモリ構造15は、上方から眺めると、下部電極16が形成する複数の列と、上部電極19が形成する複数の行とが互いに直交しており、それらの各交差点にMTJ素子が配置され、全体としてアレイを形成している。
【0013】
また、MTJ素子を使用したデバイスとしては、例えば図9に示した構造を有するTMRヘッドがある。図9は、TMRヘッドの一部を記録媒体対向面(ABS:air bearing surface)から眺めた断面図である。TMRヘッド20は、基体21と、下部シールド層
S1も兼ねる下部リード層22と、MTJ素子23と、上部シールド層S2も兼ねる上部リード層30とを備えている。MTJ素子23は、シード層24と、反強磁性ピンニング層25と、ピンド層26と、トンネルバリア層27とフリー層28とキャップ層29とが下部リード層22の側から順に積層されたものである。その他の詳細な構造や機能は、先に述べたMTJ素子1に類似している。一般的に、下部リード層22は、2μm以下の厚みのNiFe層と、タンタル層との2層構造であり、上部リード層30は、ルテニウム(Ru)層とタンタル層と2μm以下の厚みのNiFe層との3層構造となっている。下部リード層22におけるタンタル層は、図8の磁気メモリ構造15における下部電極2のタンタルキャップ層と同様の構成である。
【0014】
MTJ素子に関連する従来技術としては、さらに以下のようなものがある。例えば、特許文献3では、2つのNiCr層の間に中間層としてのルテニウム層を挟むようにした3層構造の下部電極を有するMRAMが開示されている。中間層としてルテニウム(Ru)のほか、ロジウム(Rh)やイリジウム(Ir)などの高融点金属を用い、結晶粒の微細化を促進することにより下部電極の表面における平滑性を向上させている。
【0015】
また、窒化タンタル(TaN)に関し、プラズマ成膜条件により結晶またはアモルファスのいずれかとなることが特許文献4に開示されている。結晶性のTaN薄膜は、銅(Cu)との密着性に優れる。一方のアモルファスのTaN薄膜は、拡散バリア層との密着性に優れる。
【0016】
さらに、TaNからなるバリア層をセルプレートとTMR素子との間に配置することにより、金属の拡散を阻止するようにしたものが特許文献5に記載されている。但し、特許文献5では、TaNが結晶性のものかアモルファスかについては触れておらず、TaNと、TMR素子の結晶方位や結晶化度(crystallinity)の制御との関連性についても記載
がみられない。
【0017】
さらに、特許文献6には、TaNからなるシード層を用いることにより導線の腐食を防止するようにしたMRAMが開示されている。但し、TaNが結晶性のものかアモルファスかについては触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第6114719号明細書
【特許文献2】米国特許第6518588号明細書
【特許文献3】米国特許第6703654号明細書
【特許文献4】米国特許第6538324号明細書
【特許文献5】米国特許第6473336号明細書
【特許文献6】米国特許第6704220号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、タンタル層を、MTJ素子を形成する際のシード層として用いた場合には、その上に形成されるMTJ素子の結晶成長が不安定となりやすく、素子としての特性劣化を招く可能性がある。その上、製造工程に起因するセンス電流の分流(短絡)による特性劣化という問題もある。例えばAl2O3のようなアモルファス基板の上に形成されるタンタル層は180〜200μΩ・cmという大きな比抵抗を有する正方晶(tetragonal)のβ相となる。これに対し、クロム(Cr)やタングステン(W)あるいはチタンタングステン合金(TiW)などの体心立方(bcc)構造をなすシード層上に形成されるタンタル層は25〜50μΩ・cm程度の低い比抵抗を有するα相となる。残念ながら、NiCr/Ru/Taといった3層構造からなる一般的な下部電極では、最上層のタンタル層は比抵抗の低いα相となる。通常、MTJ素子を形成する際には、上記の下部電極上にスパッタリング等により多層膜を形成したのち、その上の所定の領域にレジストマスクを形成し、不要な領域の多層膜をエッチング処理することによりパターニングを行う。その際、エッチング領域におけるα相のタンタルの一部が跳ね上がり、パターニングされたMTJ素子の端面に再付着することがある。特にMTJ素子におけるトンネルバリア層の端面に付着すると、センス電流の短絡の原因となる。その場合には、素子として十分に機能しないものとなる。
【0020】
さらに、タンタルは酸化し易いことから、良好な電気的接続を図るため、MTJ素子の形成直前にスパッタエッチング処理やイオンビームエッチング処理などによりタンタル層表面に形成される酸化物を除去しておく必要がある。このようなクリーニング処理(前処理)を行うことで余分な時間を要するという問題のほか、NiCrのようなMTJ素子のシード層の成長が、上記クリーニング処理後のタンタル層の表面状態に強く影響されるという問題も生じており、製造時における歩留まり向上の妨げとなっている。したがって、MTJ素子のシード層の安定した結晶成長を促し、かつ、前処理を要しないことが下部電極のキャップ層に望まれる。
【0021】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたもので、その目的は、十分に高い抵抗変化率および絶縁破壊電圧を確保しつつ、安定した製造に適した磁気トンネル接合素子を備えた磁気メモリ構造およびトンネル磁気抵抗効果型再生ヘッドを提供することにある。さらに、十分に高い抵抗変化率および絶縁破壊電圧を示す磁気トンネル接合素子を備えた磁気メモリ構造およびトンネル磁気抵抗効果型再生ヘッドを、効率よく安定して製造することのできる磁気メモリ構造およびトンネル磁気抵抗効果型再生ヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の磁気メモリ構造は、以下の(B1)〜(B3)の各構成要件を備えるようにしたものである。ここで、窒化タンタルは、窒素プラズマをタンタルのターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成されたものである。
(B1)基体上に、第1シード層と導電層とを順に有する下部電極。
(B2)導線としての上部電極。
(B3)下部電極と上部電極との間に配置され、かつ、下部電極の側から順に、下部電極と接すると共に窒化タンタルを含む第2シード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、上部電極と接するキャップ層とを有する磁気トンネル接合素子。
【0023】
本発明の磁気メモリ構造では、磁気トンネル接合素子が、反応性スパッタリング処理によって形成された窒化タンタルを含む第2シード層の上に、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とが順に積層されたものであるので、磁気トンネル接合素子の各層が、均質かつ緻密な結晶構造をなすものとなる。
【0024】
本発明の磁気メモリ構造では、第1シード層をタンタル(Ta)またはニッケルクロム合金(NiCr)により構成し、導電層については銅(Cu)により構成することができる。あるいは、第1シード層をニッケルクロム合金(NiCr)により構成し、導電層をルテニウム(Ru)または銅(Cu)により構成することもできる。
【0025】
本発明の磁気メモリ構造では、第2シード層については、上記の窒化タンタルとして窒素含有率が25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下のものを用いて、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすようにするとよい。あるいは、上記の窒化タンタルからなる第1の層と、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)からなる第2の層とを有する複合層として第2シード層を構成するようにしてもよい。その場合、第1の層が5.0nm以上40.0nm以下の厚みを有し、第2の層が4.0nm以上10.0nm以下の厚みを有するようにするとよい。
【0026】
本発明の磁気メモリ構造では、反強磁性ピンニング層を、マンガン白金合金(MnPt)またはイリジウムマンガン合金(IrMn)により構成することができる。ピンド層については、第1のコバルト鉄合金(CoFe)層と、ルテニウム(Ru)からなる結合層と、第2のコバルト鉄合金(CoFe)層とが順に積層されたシンセティック構造とするとよい。トンネルバリア層については、アルミニウム層を酸化処理したものとし、1.0nm以上1.5nm以下の厚みを有するようにするとよい。磁化自由層についてはは、ニッケル鉄合金(NiFe)により構成するとよい。
【0027】
本発明のトンネル接合型再生ヘッドは、以下の(D1)〜(D3)の各構成要件を備えるようにしたものである。ここで、窒化タンタルは、窒素プラズマをタンタルのターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成されたものである。
(D1)基体上に形成された磁性層からなる下部シールド層。
(D2)下部シールド層の上に、下部シールド層と接すると共に窒化タンタルを含むシード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とが順に積層されてなる磁気トンネル接合素子。
(D3)キャップ層と接するように配置された上部シールド層。
【0028】
本発明のトンネル接合型再生ヘッドでは、磁気トンネル接合素子が、下部シールド層の側から順に、下部シールド層と接すると共に反応性スパッタリング処理によって形成された窒化タンタルを含むシード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とを順に備えるようにしたので、磁気トンネル接合素子の各層が、均質かつ緻密な結晶構造をなすものとなる。
【0029】
本発明のトンネル接合型再生ヘッドでは、シード層を、上記の窒化タンタルとして窒素含有率が25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下のものを用いて、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすように構成することが望ましい。あるいは、上記の窒化タンタルからなる第1の層と、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)からなる第2の層とを有する複合層としてシード層を構成するようにしてもよい。その場合、第1の層が5.0nm以上30.0nm以下の厚みを有し、第2の層が4.0nm以上10.0nm以下の厚みを有するようにするとよい。
【0030】
本発明のトンネル接合型再生ヘッドでは、反強磁性ピンニング層については、マンガン白金合金(MnPt)またはイリジウムマンガン合金(IrMn)により構成することができる。ピンド層については、第1のコバルト鉄合金(CoFe)層と、ルテニウム(Ru)からなる結合層と、第2のコバルト鉄合金(CoFe)層とが順に積層されたシンセティック構造とするとよい。トンネルバリア層については、アルミニウム層を酸化処理し、0.7nm以上1.1nm以下の厚みを有するようにするとよい。磁化自由層については、ニッケル鉄合金(NiFe)層と、コバルト鉄合金(CoFe)層と有する複合層としてもよい。
【0031】
本発明における磁気メモリ構造の製造方法は、以下の(F1)〜(F3)の各工程を含むようにしたものである。
(F1)基体上に、第1シード層と、導電層とを順に積層することにより下部電極を形成する工程。
(F2)下部電極の上に、下部電極と接すると共に窒化タンタルを含む第2シード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とを有する磁気トンネル接合素子を形成する工程。
(F3)磁気トンネル接合素子の上に、キャップ層と接するように上部電極を形成する工程。
ここで、第2シード層を、窒素プラズマをタンタルのターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成する。
【0032】
本発明における磁気メモリ構造の製造方法では、下部電極の上に、反応性スパッタリング処理によって形成された窒化タンタルからなる第2シード層を有する磁気トンネル接合素子を形成するようにしたので、磁気トンネル接合素子のうちの第2シード層の上に形成される各層において、均質かつ緻密な結晶成長が促進される。
【0033】
本発明における磁気メモリ構造の製造方法では、上記の窒化タンタルとして窒素含有率が25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下のものを用いて、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすように第2シード層を形成することが望ましい。あるいは、上記の窒化タンタルを用いて5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすように第1の層を形成する工程と、この第1の層の上に、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)を用いて4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなすように第2の層を形成する工程とを順に行うことにより、第2シード層を形成するようにしてもよい。
【0034】
本発明におけるトンネル接合型再生ヘッドの製造方法は、以下の(H1)〜(H3)の各工程を含むようにしたものである。
(H1)基体上に、磁性層からなる下部シールド層を形成する工程。
(H2)下部シールド層の上に、下部シールド層と接すると共に窒化タンタルを含むシード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とを有する磁気トンネル接合素子を形成する工程。
(H3)磁気トンネル接合素子の上に、キャップ層と接するように上部シールド層を形成する工程。
【0035】
本発明におけるトンネル接合型再生ヘッドの製造方法では、下部シールド層の上に、上記の窒化タンタルを含むシード層を有する磁気トンネル接合素子を形成するようにしたので、磁気トンネル接合素子のうちのシード層の上に形成される各層において、均質かつ緻密な結晶成長が促進される。
【0036】
本発明におけるトンネル接合型再生ヘッドの製造方法では、上記の窒化タンタルの窒素含有率を25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下とし、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすようにシード層を形成するとよい。あるいは、上記の窒化タンタルを用いて5.0nm以上30.0nm以下の厚みをなすように第1の層を形成する工程と、この第1の層の上に、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)を用いて4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなすように第2の層を形成する工程とを順に行うことにより、シード層を形成するようにすることもできる。また、磁性層についてはニッケル鉄合金(NiFe)を用いて2μmの厚みをなすように形成するとよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明の磁気メモリ構造またはトンネル接合型再生ヘッドによれば、反応性スパッタリング処理によって形成された窒化タンタルを含む第2シード層(またはシード層)と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とが順に積層された構造の磁気トンネル接合素子を備えるようにしたので、磁気トンネル接合素子の各層における結晶構造を、十分に均質化および緻密化することができる。この結果、十分な抵抗変化率および絶縁破壊電圧の双方を安定かつ容易に実現することが可能となる。
【0038】
本発明における磁気メモリ構造の製造方法またはトンネル接合型再生ヘッドの製造方法によれば、下部電極(または下部シールド層)の上に、反応性スパッタリング処理によって形成された窒化タンタルを含む第2シード層(またはシード層)を有する磁気トンネル接合素子を形成するようにしたので、磁気トンネル接合素子の各層における結晶構造を、十分に均質化および緻密化することができる。この結果、十分な抵抗変化率および絶縁破壊電圧の双方を安定かつ容易に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施の形態としての磁気メモリ構造を備えたMRAMアレイの平面構成を示した概略図である。
【図2】図1に示した磁気メモリ構造の要部を拡大した積層断面図である。
【図3】図1に示した磁気メモリ構造を製造する際の一工程を表す断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態としての磁気メモリ構造の要部を拡大した積層断面図である。
【図5】本発明における第3の実施の形態としてのTMRヘッドの断面構成を示したものである。
【図6】本発明における第4の実施の形態としてのTMRヘッドの断面構成を示したものである。
【図7】従来の磁気メモリ構造の積層断面構成を表す概略図である。
【図8】従来の他の磁気メモリ構造の積層断面構成を表す概略図である。
【図9】従来のTMRヘッドにおけるMTJ素子の積層断面構成を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0041】
[第1の実施の形態]
まず、図1および図2を参照して、本発明の第1実施の形態としての磁気メモリ構造について説明する。図1は、本実施の形態の磁気メモリ構造40Aを複数備えたMRAMアレイにおける平面構成の一部を示した概略図である。図2は、図1に示したMRAMアレイにおける任意の磁気メモリ構造の断面構成を拡大して示したものである。
【0042】
図1に示したように、本実施の形態の磁気メモリ構造40Aは、全体としてマトリクス状をなすように、互いに直交するように延在する複数のビット線54および複数のワード線45と、それらの各交差点に配置された複数のMTJ素子37Aとを備えたものである。ここで、複数のビット線54は互いに平行をなすようにX軸方向へ延在すると共にY軸方向へ配列されて複数の行を形成し、一方の複数のワード線45は互いに平行をなすようにY軸方向へ延在すると共にすると共にX軸方向へ配列されて複数の列を形成している。各MTJ素子37Aは、各交差点においてビット線54とワード線45との間に厚み方向に挟まれている。ビット線54は上部電極として、ワード線45は下部電極としてそれぞれ機能することにより、MTJ素子37Aに対して積層面と直交する方向にセンス電流が流れるように構成されている。
【0043】
図1では、4つの磁気メモリ構造40Aと、2つのワード線45と、2つのビット線54とを示している。ワード線45はX軸方向に幅bを有し、ビット線54はY軸方向に幅vを有する。複数のビット線54は互いに絶縁層58によって電気的に分離されており、その上面は水平断面(X−Y平面)において共平面を形成するようにほぼ同じ高さに位置している。絶縁層58は、複数のワード線45についても、それぞれ電気的に分離している。MTJ素子37Aは水平断面において楕円形をなしており、長軸方向(Y軸方向)に長さwを有し、短軸方向(X軸方向)に長さaを有している。なお、MTJ素子37Aは円形または矩形(rectangular)であってもよい。ビット線54の幅vは、MTJ素子3
7Aの幅wよりも大きく、ワード線45の幅bはMTJ素子37Aの幅aよりも大きい。
【0044】
図2に示したように、磁気メモリ構造40Aは、シリコンなどにトランジスタやダイオードなどの電子デバイス(図示せず)が組み込まれた基体41上に設けられたものであり、下部電極としてのワード線45と、MTJ素子37Aと、上部電極としてのビット線54とを順に備えている。
【0045】
具体的には、ワード線45は、シード層42と、導電層43と、キャップ層44とが順に形成された積層構造となっている。基体41の上に設けられたシード層42は、例えばニッケルクロム合金(NiCr)からなり、4.0nm以上10.0nm以下の厚みを有している。シード層42の上に形成される導電層43は、例えばルテニウム(Ru)または銅(Cu)からなり、5.0nm以上100.0nm以下の厚みを有している。あるいは、イリジウム(Ir)やロジウム(Rh)などの高融点金属のうち、微小な結晶粒を有し、表面が平滑なものを導電層43に適用してもよい(本出願人が、米国特許第6703654号明細書において開示している)。これらシード層42および導電層43は、従来からよく知られたスパッタリング法やイオンビームデポジッション(IBD:Ion Beam Deposition)法により形成される。ワード線45の鍵となる構成要素としてのキャップ層
44は、窒化タンタル(TaN)により構成されている。キャップ層44は、例えば、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスなどの窒素含有ガスのプラズマを、タンタルの
ターゲットに衝突させるようにする反応性スパッタリング処理(例えば、DC/RFマグネトロンスパッタリング装置を使用する。)によって形成されるものである。このTaNは、例えば、窒素含有率が25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下(好ましくは30at%)であり、5.0nm以上40.0nm以下の厚みを有している。キャップ層44は、その上に形成されるMTJ素子37Aの均質化および緻密化を促進するように機能する。
【0046】
ワード線45は、タンタル(Ta)からなるシード層42と、銅(Cu)からなる導電層43と、TaNからなるキャップ層44とが順に積層された構造としてもよい。この場合、シード層42の厚みは2.0nm以上10.0nm以下であり、導電層43の厚みは5.0nm以上100.0nm以下であり、キャップ層44の厚みは5.0nm以上40.0nm以下であることが望ましい。
【0047】
ワード線45の上に設けられたMTJ素子37Aは、自らの周囲が絶縁層53によって取り囲まれ、かつ、この絶縁層53と共平面を形成している。絶縁層53は珪素酸化物などの低誘電率材料により構成されている。MTJ素子37Aはワード線45と電気的に接続されており、下から順に例えばシード層46A、ピンニング層47、シンセティックピンド層(SyAP層)48、トンネルバリア層49、フリー層(磁化自由層)50、第2キャップ層51が形成された積層体である。
【0048】
シード層46Aは、例えばクロム(Cr)の含有率が35at%以上45at%以下のNiCrからなり、例えば4.0nm以上10.0nm以下の厚みを有するものである。また、ニッケル鉄合金(NiFe)やニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)を第2シード層46Aに用いてもよい。シード層46Aは、TaNからなるキャップ層44の上に形成されるので、111方向に成長し、緻密かつ平滑な表面を有するものとなる。平滑かつ緻密なシード層46は、続いて形成するMTJ素子の各層(ピンニング層47〜第2キャップ層51)における平滑化および緻密化に関し、非常に重要な決定要因となるものである。
【0049】
反強磁性のピンニング層47は、例えば8.0nm以上20.0nm以下の厚みをなすマンガン白金合金(MnPt)により構成されている。あるいは、5.0nm以上10.0nm以下の厚みをなすイリジウムマンガン(IrMn)により構成するようにしてもよい。
【0050】
SyAP層48は、第2ピンド層と、結合層と、第1ピンド層とを順に備えるようにしたものである。ピンニング層47の上に形成される第2ピンド層は、コバルト鉄合金(CoFe)からなり、例えば1.5nm以上3.0nm以下の厚みを有するものである。結合層は、例えばルテニウムからなり、0.75nmの厚みを有している。結合層としては、ルテニウムのほか、ロジウム(Rh)やイリジウム(Ir)などを用いることもできる。結合層の上に形成される第1ピンド層は、鉄含有率が25at%以上50at%以下であるCoFeからなり、例えば1.0nm以上2.5nm以下の厚みを有するものである。この第1ピンド層は、2つのCoFe層の間にFeTaOやCoFeOなどのナノ酸化層(NOL:nano-oxide layer)を挟むようにした3層構造としてもよい。このようなNOLは、第1ピンド層の平滑性を向上させるために用いられる。
【0051】
ここで、第1ピンド層の磁気モーメントと第2ピンド層の磁気モーメントとは互いに逆平行をなすように固着されている。第2ピンド層の厚みと、第1ピンド層の厚みとのわずかな差が微小なネット磁気モーメントを発生させ、それがSyAP層48全体の磁化方向として現れる。第2ピンド層と第1ピンド層との交換結合は、結合層によって促進される。
【0052】
SyAP層48の上に設けられるトンネルバリア層49は、アルミニウム膜をラジカル酸化(ROX:radical oxidation)法により酸化処理したものであり、例えば化学量論
組成がAl2O3(以下AlOXと記す)となっているものである。トンネルバリア層49
の厚みは、例えば1.0nm以上1.5nm以下である。トンネルバリア層49は、TaNからなるキャップ層キャップ層44の作用により、優れた平滑性と均質性とを有するものとなっている。
【0053】
フリー層50は、例えばNiFeからなり、例えば2.5nm以上6.0nm以下の厚みを有するものである。
【0054】
フリー層50の上に設けられたキャップ層51は、ルテニウムやタンタルにより構成され、例えば、6.0nm以上25.0nm以下の厚みを有している。ワード線45のキャップ層44を構成するTaNとの調和(integration)により、MTJ素子の各層(
シード層46A〜キャップ層51)の結晶構造は、平滑性に優れ、かつ緻密なものとなっている。
【0055】
ビット線54は、MTJ素子37A(第2キャップ層51)の上面51aと電気的に接するように、MTJ素子37Aおよび絶縁層53の上に設けられている。ビット線54は、例えば、銅、金またはアルミニウムなどにより形成され、その周囲が絶縁層によって覆われている。
【0056】
このような構成の磁気メモリ構造40Aにおいては、ビット線54に+X方向または−X方向への電流が流れ、ワード線45にY方向への電流が流れる。書込動作の際にビット線54に電流が流れると、右手の法則により、フリー層50の磁化容易軸に沿った第1の電流磁界が生じる。一方、ワード線45に電流が流れると、右手の法則により、フリー層50の磁化困難軸に沿った第2の電流磁界が生じる。ある特定のビット線54およびワード線45に電流が流れると、その交差点にある特定のMTJ素子37Aにおけるフリー層50が、第1の電流磁界と第2の電流磁界との合成磁界により、特定の方向へ磁化される。
【0057】
続いて、図1および図2に加えて図3を参照して、本実施の形態の磁気メモリ構造40Aを備えたMRAMアレイの製造方法について説明する。本実施の形態のMRAMアレイの製造方法では、水平断面において、複数のMTJ素子37AをX軸方向へ配列して複数の行を形成すると共にY軸方向へ配列して複数の列を形成することにより、全体としてマトリクスを形成する。また、スパッタリング用チャンバ(超高真空DCマグネトロンスパッタチャンバ)と酸化用チャンバとを備えた超高真空スパッタリング装置(例えば、アネルバ7100システム)において、一回のポンプダウン操作ののちに磁気メモリ構造40Aを構成する全ての層を順次形成するようにする。スパッタデポジッション操作を行う際には、例えばアルゴン(Ar)ガスを充填するようにする。
【0058】
まず、図3に示したように、基体41の上に、例えばスパッタリング法やイオンビームデポジッション(IBD:Ion Beam Deposition)法を用いて、シード層42と電極層43とを順に積層する。こののち、反応性スパッタリング処理によって、電極層43の上にTaNからなるキャップ層44を形成することにより3層構造のワード線45を形成する。具体的には、例えば、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスなどの窒素含有ガスのプラズマを、タンタル(Ta)のターゲットに衝突させることにより、TaNを生成するようにする。
【0059】
次に、ワード線45の上にMTJ素子37Aを形成する。ここでは、ワード線45の上にシード層46Aと、ピンニング層47と、SyAP層48と、トンネルバリア層49と、フリー層50と、キャップ層51とを予め決められた順序で積層して多層膜を形成したのち、フォトレジストパターン52によってその多層膜を選択的に覆い、保護されていない領域の多層膜をエッチングにより除去するようにする。その結果、幅wを有する第2キャップ層51を最上層とした台形状のMTJ素子37Aが形成される。すなわち、MTJ素子37Aは、キャップ層51からシード層46Aへ向かうほど徐々に広がるように傾斜した側壁(端面)を有するものとなり、シード層46Aの幅はキャップ層51の幅wよりも大きくなる。TaNからなるキャップ層44は、この多層膜のエッチング処理によってMTJ素子37Aの両隣に表出することとなるが、その際、厚み方向の一部が除去されて跳ね上がり、MTJ素子37Aの端面に再付着する可能性が高い。従来、キャップ層はタンタルにより構成されていたが、上述したように、MTJ素子の端面への付着により、センス電流の短絡の問題を引き起こすことがあった。しかしながら、本実施の形態では高抵抗のα−TaNをキャップ層44として用いているので、図2に示したように積層面と直交する方向にセンス電流Isを流した場合において短絡の心配が無く、正確なセンシング動作を行うことができる。
【0060】
なお、多層膜の形成が終了した段階で、アニール処理を行う。例えば、Y軸方向に沿った外部磁界を付与しながら所定温度で所定時間に亘ってアニール処理を行うことにより、SyAP層48の磁化方向を設定するようにする。
【0061】
トンネルバリア層49を形成する際には、0.7nm以上1.0nm以下の厚みをなすようにアルミニウム膜をSyAP層48の上に形成したのち、このアルミニウム膜に対してラジカル酸化処理を行うようにする。ラジカル酸化処理については、酸化用チャンバの内部において、上部イオン化電極と、SyAP層48の上に形成されたアルミニウム膜との間に格子状のキャップを配置したのち、プラズマ酸化をおこなうようにする。
【0062】
MTJ素子37Aを形成したのち、例えばウェットストリッパや酸素アッシングなどの従来からよく知られた手法により、フォトレジストパターン52を除去する。こののち、エッチングにより露出したワード層45の上面を覆うと共にMTJ素子37Aの両隣を充填するように絶縁層53を形成する。このようにして形成した絶縁層53を、例えばCMP(chemical mechanical polish)によりMTJ素子37Aの厚みと同等の厚みとなるまで平坦化(planarization)することにより、MTJ素子37Aの上面51aと絶縁層53との共平面を形成する。キャップ層51は、この平坦化による浸食からMTJ素子37Aを保護するように機能する。
【0063】
最後に、MTJ素子37Aと絶縁層53との共平面上に、複数のMTJ素子37Aの上面51aと接すると共に互いに平行をなすようにX軸方向へ延在する複数のビット線54を形成する。以上により、本実施の形態のMRAMアレイの製造が完了する。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態の磁気メモリ構造40Aを備えたMRAMアレイによれば、反応性スパッタリング処理によって形成された所定のTaNからなるキャップ層44を有するワード線45の上にMTJ素子37Aを設けるようにしたので、いくつかの利点が得られる。第1に、上記のTaNは、タンタルとは異なり極めて酸化しにくい。このため、ワード線45の上にMTJ素子37Aを形成するにあたって、事前に重度のクリーニング処理を行う必要がない。したがって、製造工程の簡略化を図ることができる。そのうえ、クリーニング処理に伴う表面状態の変化による結晶成長の不安定化という問題を回避することができるので、製造時の歩留まり向上に有利である。第2に、上記のTaNはタンタルよりも比抵抗が高いので、製造工程におけるMTJ素子37Aのパターニングの際、その端面への再付着が生じた場合であっても、使用時におけるセンス電流の短絡は発生しない。第3に、上記のTaNは、MTJ素子37Aの各層(シード層46A、ピンニング層47、SyAP層48、トンネルバリア層49、フリー層50およびキャップ層51)における平滑かつ緻密な結晶成長を一貫して(安定して)行うことを可能する(すなわち、MTJ素子37Aの均質化および緻密化を促進する)。この結果、MTJ素子37Aに関し、十分な抵抗変化率および絶縁破壊電圧の双方を安定かつ容易に確保することが可能となる。したがって、磁気メモリ構造40Bとしての信頼性および信号磁界に対する応答特性を高めることができる。
【0065】
[第2の実施の形態]
次に、図4を参照して、本発明の第2の実施の形態としての磁気メモリ構造について説明する。図4は、本実施の形態の磁気メモリ構造40Bの断面構成を拡大して示したものであり、上記第1の実施の形態における磁気メモリ構造40Aの断面構成(図2)に対応するものである。本実施の形態では、上記第1の実施の形態との相違点について主に説明する。
【0066】
図4に示したように、磁気メモリ構造40Bは、基体41上に、下部電極としてのワード線55と、MTJ素子37Bと、上部電極としてのビット線54とを順に備えている。
【0067】
ワード線55は、シード層42および導電層43のみ有しており、ワード線45のようにキャップ層44を有していない。シード層42および導電層43は、上記第1の実施の形態と同様の構造(構成材料および厚みが同等)である。具体的には、ワード線55は、NiCrからなるシード層42と、Ruからなる導電層43との積層構造「NiCr/Ru」、NiCrからなるシード層42と、Cuからなる導電層43との積層構造「NiCr/Cu」、あるいはタンタルからなるシード層42と、銅からなる導電層43との積層構造「Ta/Cu」といった積層構造をなしている。ルテニウムや銅は、タンタルと比べて(その上に他の層を形成する前の)クリーニング処理が容易である。但し、TaNなどからなるキャップ層をワード線55の最上層として設けるようにしてもよい。
【0068】
下部電極55の上に形成されるMTJ素子37Bは、シード層46B、ピンニング層47、ピンド層48、トンネルバリア層49、フリー層50およびキャップ層51とが順に積層されたものである。
【0069】
シード層46Bは、TaNからなるものである。シード層46Bは、5.0nm以上40.0nm以下の厚みを有するものであり、MTJ素子37Bの各層(ピンニング層47、ピンド層48、トンネルバリア層49、フリー層50およびキャップ層51)における結晶の平滑性および緻密性を促進するものである。従来のようにシード層をタンタルにより構成した場合よりも安定した結晶構造のMTJ素子37Bが得られる。
【0070】
シード層46Bについては、TaNからなり5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなす第1の層と、NiCr、NiFeまたはNiFeCrからなり4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなす第2の層との複合構造としてもよい。このような複合層とする場合、TaNからなる第1の層によって、ワード線45の影響がMTJ素子37Bにおけるシード層46B以外の各層(ピンニング層47〜キャップ層51)へ及ぶのを防ぐことができる。
【0071】
MTJ素子37Bの他の部分の構成は、上記第1の実施の形態におけるMTJ素子37Aと同様である。
【0072】
このような構成の磁気メモリ構造40Bは、以下のようにして製造する。まず、基体41の上に、例えばスパッタリング法やIBD法を用いて、シード層42と電極層43とを順に積層することにより2層構造のワード線55を形成する。次いで、所定のクリーニング処理を必要に応じて行ったのち、ワード線55の上にMTJ素子37Bを形成する。ここでは、ワード線55の上にシード層46Bと、ピンニング層47と、SyAP層48と、トンネルバリア層49と、フリー層50と、キャップ層51とを予め決められた順序で積層して多層膜を形成したのち、所定形状となるようにパターニングする。シード層46Bについては、窒素プラズマを用いた反応性スパッタリング処理によって形成することが望ましい。具体的には、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスなどの窒素含有ガス
のプラズマを、タンタル(Ta)のターゲットに衝突させることにより、TaNを生成する。複合構造のシード層46Bとする場合には、例えば、TaNを用いて5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすように第1の層を形成したのち、この第1の層の上に、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)を用いて4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなすように第2の層を形成するようにする。これ以降の工程については上記第1の実施の形態と同様であるので省略する。
【0073】
以上説明したように、本実施の形態の磁気メモリ構造40Bを備えたMRAMアレイによれば、TaNからなるシード層46Bを設けるようにしたので、その上に形成されるMTJ素子37Bの各層(ピンニング層47、SyAP層48、トンネルバリア層49、フリー層50およびキャップ層51)における均質化および緻密化を促進することができる。また、MTJ素子37Bをパターニングする際、その端面へシード層46Bの一部が再付着した場合であっても、センス電流の短絡は発生しない。この結果、MTJ素子37Bに関し、十分な抵抗変化率および絶縁破壊電圧の双方を安定かつ容易に確保することが可能となる。したがって、磁気メモリ構造40Bとしての信頼性および信号磁界に対する応答特性を高めることができる。
【0074】
[第3の実施の形態]
次に、図5を参照して、本発明の第3の実施の形態としてのMTJ素子を備えたTMRリードヘッドの構成について以下に説明する。図5は、本実施の形態のTMRリードヘッド60A(以下、単にTMRヘッド60Aという。)における、磁気記録媒体(図示せず)と対向する面(記録媒体対向面)と平行な断面構成を表したものである。TMRヘッド60Aは、例えば磁気ディスク装置などに搭載されて、磁気記録媒体に記録された磁気情報を読み出す磁気デバイスとして機能する磁気再生ヘッドのセンサ部として用いられるものである。
【0075】
TMRヘッド60Aは、例えばアルティック(Al・TiC)からなる基体61の上に、下部シールド層65と、MTJ素子80Aと、上部シールド層75とを順に備えている。さらに、MTJ素子80Aの両隣には、絶縁層72と、ハードバイアス層73と、絶縁層74とがそれぞれ順に設けられている。
【0076】
下部シールド層65は、NiFeからなる主要部としての磁性層62と、TaNからなるキャップ層64との複合構造となっている。磁性層62の厚みは、例えば2μmである。一方、キャップ層64の厚みは、例えば5.0nm以上40.0nm以下である。このキャップ層64は、その上に形成されるMTJ素子80Aの各層における平滑性や緻密性を促進する作用を発揮するものである。TaNは、タンタルよりも耐酸化性に優れ、その上に形成される結晶の安定した成長を促進する。
【0077】
MTJ素子80Aは、下部シールド層65の側から、シード層66A、ピンニング層67、SyAP層68、トンネルバリア層69、フリー層70およびキャップ層71を順に備えている。
【0078】
シード層66Aは、4.0nm以上10.0nm以下の厚みを有しており、例えば、クロム含有率が35at%以上45at%以下のNiCrにより構成されている。NiFeやNiFeCrなどもシード層66Aの構成材料とすることができる。シード層66Aは、α−TaNからなるキャップ層64の上に形成されるので、平滑かつ緻密な<111>方向の結晶面を有することとなる。このようなシード層66Aは、その上に形成されるMTJ素子の他の層における均質性および緻密性を決定する重要な因子である。ピンニング層67は、8.0nm以上20.0nm以下の厚みを有するマンガン白金合金(MnPt)または5.0nm以上10.0nm以下の厚みを有するイリジウムマンガン合金(IrMn)により構成される。SyAP層68は、第2ピンド層と結合層と第1ピンド層とが順に積層されたシンセティック構造を有している。ピンニング層67の上に形成される第2ピンド層は、鉄含有率が10at%以上25at%以下のCoFeからなり、例えば1.5nm以上2.5nm以下の厚みを有していることが望ましい。結合層は、例えばルテニウムからなり、0.75nmの厚みを有している。結合層の上に形成される第1ピンド層は、鉄含有率が25at%以上50at%以下であるCoFeからなり、例えば2.0nm以上3.0nm以下の厚みを有するものである。この第1ピンド層は、2つのCoFe層の間に、例えば0.5〜0.6nmの厚みをなすFeTaOやCoFeOなどのNOLを挟むようにした3層構造としてもよい。このようなNOLは、第1ピンド層の平滑性を向上させるために用いられる。
【0079】
ここで第1ピンド層の磁気モーメントと第2ピンド層の磁気モーメントとは、互いに逆平行をなすように固着されている。第2ピンド層の厚みと、第1ピンド層の厚みとのわずかな差が微小なネット磁気モーメントを発生させ、それがSyAP層68全体の磁化方向として現れる。第2ピンド層と第1ピンド層との交換結合は、結合層によって促進される。
【0080】
SyAP層68の上層としてのトンネルバリア層69は、アルミニウム層を酸化処理したAlOXである。トンネルバリア層69は、例えば0.7nm以上1.1nm以下の厚
みを有しており、キャップ層64の作用により、優れた平滑性と均質性とを兼ね備えている。
【0081】
フリー層70は、トンネルバリア層69の上にCoFe層とNiFe層とが順に積層された複合構造をなしている。CoFe層の厚みは、例えば0.5nm以上1.5nm以下であり、NiFe層の厚みは、例えば2.0nm以上4.0nm以下である。CoFe層は、例えば上記したSyAP層68の第1ピンド層と同様の構成であり、NiFe層は、ニッケル含有率が75at%以上85at%以下であるNiFeにより構成されていることが望ましい。さらに、CoFe層とNiFe層との間にナノ酸化層を設けるようにしてもよい。
【0082】
フリー層70の上には、ルテニウム層とタンタル層との積層構造からなるキャップ層71が形成されている。例えば、ルテニウム層の厚みは1.0nm以上3.0nm以下であり、タンタル層の厚みは10.0nm以上25.0nm以下である。下部シールド層65のキャップ層64を構成するα−TaNとの調和(integration)により、MTJ素子の
各層(シード層66A〜キャップ層71)の結晶構造は、平滑性に優れ、かつ緻密なものとなっている。
【0083】
このような構成のTMRヘッド60Aを形成する際には、基体61の上に、例えばスパッタリング法やIBD法を用いて磁性層62を形成する。こののち、反応性スパッタリング処理によって、磁性層62の上にTaNからなるキャップ層64を形成することにより2層構造の下部シールド層65を完成させる。具体的には、例えば、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスなどの窒素含有ガスのプラズマを、タンタル(Ta)のターゲットに衝突させることにより、TaNを生成するようにする。
【0084】
次に、下部シールド層65の上にMTJ素子80Aを形成する。ここでは、超高真空のスパッタリング用チャンバと酸化用チャンバとを備えた装置(例えばアネルバ7100システムなど)により、一回のポンプダウン操作ののち一括してMTJ素子の各層(具体的には、シード層66A、ピンニング層67、SyAP層68、トンネルバリア層69、フリー層70およびキャップ層71)を順次成膜することにより、多層膜を形成する。
【0085】
トンネルバリア層69を形成する際には、0.5nm以上0.6nm以下の厚みとなるようにアルミニウム層をSyAP層68の上に形成したのち、自然酸化(NOX:natural oxidation)法またはラジカル酸化(ROX:radical oxidation)法により、その場でアルミニウム膜を酸化処理するようにする。
【0086】
多層膜を形成したのち、例えばY軸方向への外部磁界を付与しつつアニール処理することにより、SyAP層68の磁化方向を設定する。さらに、(上記のY軸方向への外部磁界よりも小さな)X軸方向への外部磁界を付与しつつアニール処理することにより、フリー層70の磁化方向を設定する。
【0087】
さらに、多層膜を選択的に覆うようにフォトレジストパターン(図示せず)を形成したのち、IBEによって多層膜を選択的にエッチングすることにより、MTJ素子80Aを形成する。TaNからなるキャップ層64は、この多層膜のエッチング処理によってMTJ素子80Aの両隣に表出することとなるが、その際、厚み方向の一部が除去されて跳ね上がり、MTJ素子80Aの端面に再付着する可能性が高い。従来、キャップ層はタンタルにより構成されていたが、上述したように、MTJ素子の端面への付着により、センス電流の短絡の問題を引き起こすことがあった。しかしながら、本実施の形態では高抵抗のTaNをキャップ層64として用いているので、積層面と直交する方向にセンス電流Isを流した場合において短絡の心配が無く、正確なセンシング動作を行うことができる。
【0088】
こののち、例えば10.0nm以上15.0nm以下の厚みをなす酸化アルミニウム(Al2O3)からなる絶縁層72を、MTJ素子80Aの側壁および、IBEによって露出したキャップ層64を覆うようにCVD(chemical vapor deposition)法またはPVD(physical vapor deposition)法を利用して形成する。さらに、絶縁層72の上に、例えばチタンタングステン合金(TiW)層とコバルトクロム白金合金(CoCrPt)層とタンタル層との3層構造からなるハードバイアス層73と、例えば酸化アルミニウム(Al2O3)からなる絶縁層74とを順に形成する。ハードバイアス層73は、例えば20.0nm以上40.0nm以下の厚みをなし、絶縁層74は、例えば15.0nm以上25.0nm以下の厚みをなしている。ハードバイアス層73および絶縁層74を形成したのち、フォトレジストパターンを除去することにより、MTJ素子80Aの上面71aが露出する。
【0089】
次いで、上面71aと、絶縁層74の上面とが共平面をなすように、CMP(chemical mechanical polish)処理を行い、最後に上面71aと絶縁層74とを覆うように上部シールド層75を形成することにより、TMRヘッド60Aが完成する。
【0090】
以上説明したように、本実施の形態のTMRヘッド60Aによれば、TaNからなるキャップ層64を有する下部シールド層65の上にMTJ素子80Aを設けるようにしたので、上記第1の実施の形態と同様の効果が得られる。具体的には、第1に、TaNは極めて酸化しにくいので、下部シールド層65の上にMTJ素子80Aを形成するにあたって、事前に重度のクリーニング処理を行う必要がない。第2に、TaNは比較的高い比抵抗を有するので、製造工程におけるMTJ素子80Aのパターニングの際、その端面への再付着が生じた場合であっても、使用時におけるセンス電流の短絡を防ぐことができる。第3に、TaNは、MTJ素子80Aの各層(シード層66A、ピンニング層67、SyAP層68、トンネルバリア層69、フリー層70およびキャップ層71)における平滑かつ緻密な結晶成長を一貫して(安定して)行うことを可能とし、MTJ素子80Aの均質化および緻密化を促進する。よって、MTJ素子80Aに関し、十分な抵抗変化率および絶縁破壊電圧の双方を安定かつ容易に確保することが可能となる。したがって、TMRヘッド60Aとしての信頼性および信号磁界に対する応答特性を高めることができる。
【0091】
[第4の実施の形態]
次に、図6を参照して、本発明の第4の実施の形態としてのTMRヘッドについて説明する。図6は、本実施の形態のTMRヘッド60Bにおける、磁気記録媒体と対向する面(記録媒体対向面)と平行な断面構成を表したものである。本実施の形態では、上記第3の実施の形態との相違点について主に説明する。
【0092】
TMRヘッド60Bは、基体61の上に、下部シールド層としての磁性層62と、MTJ素子80Bと、上部シールド層75とを順に備えている。さらに、MTJ素子80Bの両隣には、絶縁層72と、ハードバイアス層73と、絶縁層74とがそれぞれ順に設けられている。
【0093】
TMRヘッド80Bでは、磁性層62のみによって下部シールド層65を構成しており、TMRヘッド80A(第3の実施の形態)のようにキャップ層64を有していない。磁性層64は、第3の実施の形態と同様の構造(構成材料および厚みが同等)である。
【0094】
MTJ素子80Bは、下部シールド層65(磁性層62)の側から、シード層66B、ピンニング層67、SyAP層68、トンネルバリア層69、フリー層70およびキャップ層71を順に備えている。
【0095】
本実施の形態の特徴部分であるシード層66Bは、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなし、α−TaNによって構成されている。TaNにおける窒素含有率は25at%以上35at%以下である。シード層66Bは、MTJ素子80Bの各層(ピンニング層67、ピンド層68、トンネルバリア層69、フリー層70およびキャップ層71)における結晶の平滑性および緻密性を促進するものである。従来のようにシード層をタンタルにより構成した場合よりも安定した結晶構造のMTJ素子80Bが得られる。
【0096】
シード層66Bについては、TaNからなり5.0nm以上30.0nm以下の厚みをなす第1の層と、NiCr、NiFeまたはNiFeCrからなり4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなす第2の層との複合構造としてもよい。このような複合層とする場合、TaNからなる第1の層によって、下部シールド層65の影響がMTJ素子80Bにおけるシード層66B以外の各層(ピンニング層67〜キャップ層71)へ及ぶのを防ぐことができる。
【0097】
MTJ素子80Bの他の部分の構成は、第3の実施の形態におけるMTJ素子80Aと同様である。
【0098】
このような構成のTMRヘッド60Bは、以下のようにして製造する。まず、基体61の上に、例えばスパッタリング法やIBD法を用いて磁性層62(下部シールド層65)を形成する。次いで、所定のクリーニング処理を必要に応じて行ったのち、磁性層62の上にMTJ素子80Bを形成する。ここでは、磁性層62の上にシード層66Bと、ピンニング層67と、SyAP層68と、トンネルバリア層69と、フリー層70と、キャップ層71とを予め決められた順序で積層して多層膜を形成したのち、所定形状となるようにパターニングする。シード層66Bについては、窒素プラズマを用いた反応性スパッタリング処理によって形成することが望ましい。具体的には、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスなどの窒素含有ガスのプラズマを、タンタル(Ta)のターゲットに衝突
させることにより、TaNを生成する。複合構造のシード層66Bとする場合には、例えば、TaNを用いて5.0nm以上30.0nm以下の厚みをなすように第1の層を形成したのち、この第1の層の上に、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)を用いて4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなすように第2の層を形成するようにする。これ以降の工程については上記第3の実施の形態と同様であるので省略する。
【0099】
以上説明したように、本実施の形態のTMRヘッド60Bによれば、反応性スパッタリング処理によって形成されたTaNからなるシード層66Bを設けるようにしたので、その上に形成されるMTJ素子80Bの各層(ピンニング層67、SyAP層68、トンネルバリア層69、フリー層70およびキャップ層71)における均質化および緻密化を促進することができる。また、MTJ素子80Bをパターニングする際、その端面へシード層66Bの一部が再付着した場合であっても、センス電流の短絡は発生しない。この結果、MTJ素子80Bに関し、十分な抵抗変化率および絶縁破壊電圧の双方を安定かつ容易に確保することが可能となる。したがって、TMRヘッド60Bとしての信頼性および信号磁界に対する応答特性を高めることができる。
【実施例】
【0100】
本発明の実施例について以下に説明する。
【0101】
ここでは、上記の第1の実施の形態(図1および図2)に対応した磁気メモリ構造を作製し、その特性確認実験を実施した。その結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
実施例における下部電極およびMTJ素子の具体的な構造は、以下の通りである。
「NiCr/Ru/TaN//NiCr/MnPt/CoFe/Ru/CoFe/AlOX/CoFe/NiFe/Ru」
である。ここで、左側から「NiCr/Ru/TaN」が下部電極、「NiCr」がシード層、「MnPt」がピンニング層、「CoFe/Ru/CoFe」がSyAP層、「AlOX」がトンネルバリア層、「CoFe/NiFe」がフリー層、「Ru25」がキャップ層である。一方、比較例では、下部電極のキャップ層をタンタルとした以外はすべて実施例と同様の構成とした。
【0104】
評価項目については、表1に示したように、抵抗変化率dR/R、接合抵抗RA、接合抵抗RAの標準偏差σ、絶縁破壊電圧VbおよびV50とした。
【0105】
表1に示したように、本実施例における磁気メモリ構造は、従来のタンタルからなるキャップ層を備えた比較例と遜色のない良好な特性を有していることが確認された。
【0106】
以上、いくつかの実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。すなわち当技術分野を熟知した当業者であれば理解できるように、上記実施の形態等は本発明の一具体例であり、本発明は、上記の内容に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に規定する内容および思想に基づき、方法、材料、構造または寸法について修正や改良がなされてもよい。
【符号の説明】
【0107】
41…基体、40A,40B…磁気メモリ構造、37A,37B,80A,80B…MTJ素子、42…シード層、43…導電層、44…キャップ層、45,55…ワード線、46A,46B,66A,66B…シード層、47,67…ピンニング層、48,68…SyAP層、49,69…トンネルバリア層、50,70…フリー層、51,71…キャップ層、54…ビット線、60A,60B…TMRヘッド、65…下部シールド層、64…キャップ層、75…上部シールド層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気トンネル接合素子を備えた磁気メモリ構造およびトンネル磁気抵抗効果型再生ヘッドならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンピュータやモバイル通信機器などの情報処理装置に用いられる汎用メモリとして、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)などの揮発性メモリが使用されている。これらの揮発性メモリは、常に電流を供給しておかなければ全ての情報が失われる。そのため、状況を記憶する手段としての不揮発性メモリ(例えば、フラッシュEEPROMなど)を別途設ける必要がある。この不揮発性メモリに対しては処理の高速化が強く求められていることから、近年、不揮発性メモリとして磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetic Random Access Memry)が注目されてきている。
【0003】
MRAMは、磁気抵抗効果素子を備えた磁気メモリセルがマトリクス状に配列されたアレイ構造をなすものである。磁気抵抗効果素子としては、より大きな抵抗変化率の得られる磁気トンネル接合(MTJ;magnetic tunnel junction)素子が好適である。このMTJ素子は、トンネルバリア層によって隔てられた2つの強磁性層(磁化方向が印加磁界に応じて変化する磁化自由層および磁化方向が磁化容易軸に沿って平行をなすように恒久的に固着された磁化固着層)を有している。なお、磁化自由層は自由に回転可能な磁化方向を有するものであるが、結晶磁気異方性を示す磁化容易軸に沿って磁化方向が揃うことによりエネルギー的に安定する。トンネルバリア層は、絶縁材料からなる薄膜であり、量子力学に基づくトンネル効果によって電荷キャリア(一般的には電子)が透過できる程度の厚みをなしている。電荷キャリアが透過する確率は、2つの強磁性層の磁化方向と関連した電子スピン方向に依存するので、電圧を印加した状態において上記の磁化方向が変化すると、トンネル電流も変化することとなる。トンネル電流の大きさは、アップスピンとダウンスピンとの比によって左右される。
【0004】
上記のようなMTJ素子では、ある基準状態からのトンネル電流の変化を検出することにより、磁化自由層および磁化固着層における各磁化方向の決定が可能となる。なぜなら、2つの強磁性層の磁化方向が互いになす角度に応じてMTJ素子の抵抗が異なるからである。具体的には、磁化自由層の磁化方向が磁化固着層の磁化方向と反平行をなすとき、そのトンネル電流は最小(接合抵抗は最大)となり、一方で、自由層の磁化方向が磁化固着層の磁化方向と平行をなすとき、そのトンネル電流は最大(接合抵抗は最小)となるのである。
【0005】
MRAMアレイは、一般的に、第1の階層において互いに平行に並んだ複数の第1の導線と、第1の階層とは異なる第2の階層において複数の第1の導線と直交するように互いに平行に並んだ複数の第2の導線とを備え、それらの交差点にMTJ素子を配置するように構成されている。第1の導線がワード線であるとすると、一方の第2の導線はビット線である。また、第1の導線が下部電極であるとすると、第2の導線はビット線(またはワード線)である。第3の導線がワード線またはビット線として、第2の階層を基準として第1の階層と反対側に位置する第3の階層に形成されることもある。任意に、第1の階層の下側(第2の階層とは反対側)に別の複数の導線を設けることもできる。さらに、トランジスタやダイオードなどを含むデバイスを第1の階層の下側に設けることもできる。
【0006】
図7は、TMR(tunneling magneto-resistance)効果を発現するMTJ素子1を備えた従来の磁気メモリ構造の断面構成例を示したものである。この磁気メモリ構造では、MTJ素子1が、第1の導線としての下部電極2と、第2の導線としての上部電極9との間に設けられている。
【0007】
下部電極2は、一般的に、シード層と導電層とキャップ層とが順に積層されたものであり、例えば、「タンタル(Ta)層/銅(Cu)層/タンタル(Ta)層」や、「ニッケルクロム(NiCr)/ルテニウム(Ru)層/タンタル(Ta)層」といった構造をなしている。
【0008】
MTJ素子1は、下部電極2の側から、下地層3と、ピンニング層4と、ピンド層5と、トンネルバリア層6と、フリー層7と、キャップ層8とが順に積層されたものであり、ボトムスピンバルブ構造と呼ばれる構造をなしている。一方、下部電極2の側から、フリー層とトンネルバリア層とピンド層とピンニング層とが順に積層されたものがトップスピンバルブ構造と呼ばれる。下地層3は、例えばニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)もしくはニッケルクロム合金(NiFe)のいずれかよりなる単層構造またはタンタル(Ta)層とNiFeCr層、NiFe層もしくはNiFe層のいずれかとの2層構造からなり、その上に形成される<111>方向における結晶層の、平滑かつ緻密な結晶の成長を促進するものである。ピンニング層4は、白金マンガン合金(PtMn)やイリジウムマンガン合金(IrMn)などの反強磁性材料により構成されており、ピンド層5の磁化方向を固着するものである。ピンド層5は、コバルト鉄合金(CoFe)層が複数積層されてなるものである。トンネルバリア層6は、例えばアルミニウム層をインサイチュー(in-situ)酸化することによって得られる酸化アルミニウム
(Al2O3)などの誘電材料により構成されている。フリー層7は、CoFe層もしくはNiFe層のいずれか、またはそれらの積層構造となっている。ピンド層5は、ピンニング層4との交換結合によって、例えばx方向に固着された磁気モーメントを有している。その場合、ピンニング層4はx方向に磁化されている。フリー層7は、ピンド層5と互いに平行または逆平行の磁気モーメントを有している。トンネルバリア層6は、量子力学に基づく伝導電子のトンネリングによって説明されるトンネル電流が流れることのできる程度の厚みを有している。フリー層7の磁気モーメントは、外部磁場に応じて変化する。フリー層7の磁気モーメントとピンド層5の磁気モーメントとの相対的な方向が、トンネル電流や接合抵抗の大きさの決定要因となる。
【0009】
センス電流10は、上部電極9から下部電極2へ積層面と直交するようにMTJ素子1を流れる。この際、フリー層7の磁化方向とピンド層5の磁化方向とが互いに平行な状態(例えば1に対応する状態)にあるとすると、MTJ素子1は低抵抗を示す。逆に、フリー層7の磁化方向とピンド層5の磁化方向とが互いに逆平行な状態(例えば0に対応する状態)にあるとすると、MTJ素子1は高抵抗を示す。
【0010】
このような磁気メモリ構造においては、磁気情報の読出動作の際、所望のMTJ素子1に対して積層面と直交するようにセンス電流を流すことにより、MTJ素子1の磁化状態を検知するようにする。一方、磁気情報の書込動作の際には、外部磁場を付与することによって所望のMTJ素子1におけるフリー層7をしかるべき磁化状態とする。MTJ素子1の上下を挟んで交差するビット線およびワード線(すなわち上部電極9または下部電極2)に書込電流を流すことにより外部磁場を形成するようにする。このように、上部電極9または下部電極2が、読出動作および書込動作の双方に使用される。
【0011】
高いパフォーマンスを発揮するMTJ素子は、高い磁気抵抗変化率(MR比)dR/Rを示すものと言える。ここで「R」はMTJ素子の最小の抵抗値であり、「dR」はフリー層の磁化状態が変化することによって得られる抵抗変化量である。高い抵抗変化率dR/Rに加え、高い絶縁破壊電圧Vbを得るには、トンネルバリア層が平滑であることが望ましい。そのような平滑なトンネルバリア層の結晶成長は、例えばピンニング層やピンド層における<111>方向の平滑かつ緻密な結晶面によって促進される。上述したように、ピンニング層やピンド層における組織、構成は、タンタル、NiCrあるいはNiFeCrなどからなるシード層によってもたらされる。このような材料からなるシード層は、形成する際に、下地の表面状態に敏感に反応して成長する。実際に、タンタル層は、下地の表面状態に応じてα相(非晶質)またはβ相(結晶質)のいずれかの結晶構造を取ることとなる。NiCrやNiFeCrなどのバッファ層は、アモルファスの酸化アルミニウム(Al2O3)の上で、<111>方向に成長することができる。なお、MTJ素子を形成する際のシード層としてタンタル層が用いるようにした例は、特許文献1に開示されている。また、磁気メモリ構造において、導線と連結された窒化タンタル(TaN)からなる電極上に、タンタルからなるシード層を配置するようにしたものが特許文献2に開示されている。
【0012】
図8に、従来の他の構成を有する磁気メモリ構造15を示す。磁気メモリ構造15は、下部電極2と、上部電極9と、厚み方向においてそれらの間に挟まれたMTJ素子1と、上部電極9を挟んでMTJ素子1の反対側に設けられた第3の電極14とを備えている。MTJ素子1の詳細な構成は図7に示したものと同等であり、ここでは簡略化して図示している。MTJ素子1は、第1絶縁層11によって取り囲まれており、この第1絶縁層11と共に共平面をなしている。上部電極9は、第1絶縁層11の上に形成された第2絶縁層12によって取り囲まれており、この第2絶縁層12と共に共平面を有している。上部電極9の上には、第3絶縁層13を介して、ワード線またはビット線としての第3の電極14が設けられている。下部電極2および上部電極9の構成は、図7に示したものと同様である。この磁気メモリ構造15は、上方から眺めると、下部電極16が形成する複数の列と、上部電極19が形成する複数の行とが互いに直交しており、それらの各交差点にMTJ素子が配置され、全体としてアレイを形成している。
【0013】
また、MTJ素子を使用したデバイスとしては、例えば図9に示した構造を有するTMRヘッドがある。図9は、TMRヘッドの一部を記録媒体対向面(ABS:air bearing surface)から眺めた断面図である。TMRヘッド20は、基体21と、下部シールド層
S1も兼ねる下部リード層22と、MTJ素子23と、上部シールド層S2も兼ねる上部リード層30とを備えている。MTJ素子23は、シード層24と、反強磁性ピンニング層25と、ピンド層26と、トンネルバリア層27とフリー層28とキャップ層29とが下部リード層22の側から順に積層されたものである。その他の詳細な構造や機能は、先に述べたMTJ素子1に類似している。一般的に、下部リード層22は、2μm以下の厚みのNiFe層と、タンタル層との2層構造であり、上部リード層30は、ルテニウム(Ru)層とタンタル層と2μm以下の厚みのNiFe層との3層構造となっている。下部リード層22におけるタンタル層は、図8の磁気メモリ構造15における下部電極2のタンタルキャップ層と同様の構成である。
【0014】
MTJ素子に関連する従来技術としては、さらに以下のようなものがある。例えば、特許文献3では、2つのNiCr層の間に中間層としてのルテニウム層を挟むようにした3層構造の下部電極を有するMRAMが開示されている。中間層としてルテニウム(Ru)のほか、ロジウム(Rh)やイリジウム(Ir)などの高融点金属を用い、結晶粒の微細化を促進することにより下部電極の表面における平滑性を向上させている。
【0015】
また、窒化タンタル(TaN)に関し、プラズマ成膜条件により結晶またはアモルファスのいずれかとなることが特許文献4に開示されている。結晶性のTaN薄膜は、銅(Cu)との密着性に優れる。一方のアモルファスのTaN薄膜は、拡散バリア層との密着性に優れる。
【0016】
さらに、TaNからなるバリア層をセルプレートとTMR素子との間に配置することにより、金属の拡散を阻止するようにしたものが特許文献5に記載されている。但し、特許文献5では、TaNが結晶性のものかアモルファスかについては触れておらず、TaNと、TMR素子の結晶方位や結晶化度(crystallinity)の制御との関連性についても記載
がみられない。
【0017】
さらに、特許文献6には、TaNからなるシード層を用いることにより導線の腐食を防止するようにしたMRAMが開示されている。但し、TaNが結晶性のものかアモルファスかについては触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第6114719号明細書
【特許文献2】米国特許第6518588号明細書
【特許文献3】米国特許第6703654号明細書
【特許文献4】米国特許第6538324号明細書
【特許文献5】米国特許第6473336号明細書
【特許文献6】米国特許第6704220号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、タンタル層を、MTJ素子を形成する際のシード層として用いた場合には、その上に形成されるMTJ素子の結晶成長が不安定となりやすく、素子としての特性劣化を招く可能性がある。その上、製造工程に起因するセンス電流の分流(短絡)による特性劣化という問題もある。例えばAl2O3のようなアモルファス基板の上に形成されるタンタル層は180〜200μΩ・cmという大きな比抵抗を有する正方晶(tetragonal)のβ相となる。これに対し、クロム(Cr)やタングステン(W)あるいはチタンタングステン合金(TiW)などの体心立方(bcc)構造をなすシード層上に形成されるタンタル層は25〜50μΩ・cm程度の低い比抵抗を有するα相となる。残念ながら、NiCr/Ru/Taといった3層構造からなる一般的な下部電極では、最上層のタンタル層は比抵抗の低いα相となる。通常、MTJ素子を形成する際には、上記の下部電極上にスパッタリング等により多層膜を形成したのち、その上の所定の領域にレジストマスクを形成し、不要な領域の多層膜をエッチング処理することによりパターニングを行う。その際、エッチング領域におけるα相のタンタルの一部が跳ね上がり、パターニングされたMTJ素子の端面に再付着することがある。特にMTJ素子におけるトンネルバリア層の端面に付着すると、センス電流の短絡の原因となる。その場合には、素子として十分に機能しないものとなる。
【0020】
さらに、タンタルは酸化し易いことから、良好な電気的接続を図るため、MTJ素子の形成直前にスパッタエッチング処理やイオンビームエッチング処理などによりタンタル層表面に形成される酸化物を除去しておく必要がある。このようなクリーニング処理(前処理)を行うことで余分な時間を要するという問題のほか、NiCrのようなMTJ素子のシード層の成長が、上記クリーニング処理後のタンタル層の表面状態に強く影響されるという問題も生じており、製造時における歩留まり向上の妨げとなっている。したがって、MTJ素子のシード層の安定した結晶成長を促し、かつ、前処理を要しないことが下部電極のキャップ層に望まれる。
【0021】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたもので、その目的は、十分に高い抵抗変化率および絶縁破壊電圧を確保しつつ、安定した製造に適した磁気トンネル接合素子を備えた磁気メモリ構造およびトンネル磁気抵抗効果型再生ヘッドを提供することにある。さらに、十分に高い抵抗変化率および絶縁破壊電圧を示す磁気トンネル接合素子を備えた磁気メモリ構造およびトンネル磁気抵抗効果型再生ヘッドを、効率よく安定して製造することのできる磁気メモリ構造およびトンネル磁気抵抗効果型再生ヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の磁気メモリ構造は、以下の(B1)〜(B3)の各構成要件を備えるようにしたものである。ここで、窒化タンタルは、窒素プラズマをタンタルのターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成されたものである。
(B1)基体上に、第1シード層と導電層とを順に有する下部電極。
(B2)導線としての上部電極。
(B3)下部電極と上部電極との間に配置され、かつ、下部電極の側から順に、下部電極と接すると共に窒化タンタルを含む第2シード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、上部電極と接するキャップ層とを有する磁気トンネル接合素子。
【0023】
本発明の磁気メモリ構造では、磁気トンネル接合素子が、反応性スパッタリング処理によって形成された窒化タンタルを含む第2シード層の上に、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とが順に積層されたものであるので、磁気トンネル接合素子の各層が、均質かつ緻密な結晶構造をなすものとなる。
【0024】
本発明の磁気メモリ構造では、第1シード層をタンタル(Ta)またはニッケルクロム合金(NiCr)により構成し、導電層については銅(Cu)により構成することができる。あるいは、第1シード層をニッケルクロム合金(NiCr)により構成し、導電層をルテニウム(Ru)または銅(Cu)により構成することもできる。
【0025】
本発明の磁気メモリ構造では、第2シード層については、上記の窒化タンタルとして窒素含有率が25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下のものを用いて、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすようにするとよい。あるいは、上記の窒化タンタルからなる第1の層と、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)からなる第2の層とを有する複合層として第2シード層を構成するようにしてもよい。その場合、第1の層が5.0nm以上40.0nm以下の厚みを有し、第2の層が4.0nm以上10.0nm以下の厚みを有するようにするとよい。
【0026】
本発明の磁気メモリ構造では、反強磁性ピンニング層を、マンガン白金合金(MnPt)またはイリジウムマンガン合金(IrMn)により構成することができる。ピンド層については、第1のコバルト鉄合金(CoFe)層と、ルテニウム(Ru)からなる結合層と、第2のコバルト鉄合金(CoFe)層とが順に積層されたシンセティック構造とするとよい。トンネルバリア層については、アルミニウム層を酸化処理したものとし、1.0nm以上1.5nm以下の厚みを有するようにするとよい。磁化自由層についてはは、ニッケル鉄合金(NiFe)により構成するとよい。
【0027】
本発明のトンネル接合型再生ヘッドは、以下の(D1)〜(D3)の各構成要件を備えるようにしたものである。ここで、窒化タンタルは、窒素プラズマをタンタルのターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成されたものである。
(D1)基体上に形成された磁性層からなる下部シールド層。
(D2)下部シールド層の上に、下部シールド層と接すると共に窒化タンタルを含むシード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とが順に積層されてなる磁気トンネル接合素子。
(D3)キャップ層と接するように配置された上部シールド層。
【0028】
本発明のトンネル接合型再生ヘッドでは、磁気トンネル接合素子が、下部シールド層の側から順に、下部シールド層と接すると共に反応性スパッタリング処理によって形成された窒化タンタルを含むシード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とを順に備えるようにしたので、磁気トンネル接合素子の各層が、均質かつ緻密な結晶構造をなすものとなる。
【0029】
本発明のトンネル接合型再生ヘッドでは、シード層を、上記の窒化タンタルとして窒素含有率が25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下のものを用いて、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすように構成することが望ましい。あるいは、上記の窒化タンタルからなる第1の層と、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)からなる第2の層とを有する複合層としてシード層を構成するようにしてもよい。その場合、第1の層が5.0nm以上30.0nm以下の厚みを有し、第2の層が4.0nm以上10.0nm以下の厚みを有するようにするとよい。
【0030】
本発明のトンネル接合型再生ヘッドでは、反強磁性ピンニング層については、マンガン白金合金(MnPt)またはイリジウムマンガン合金(IrMn)により構成することができる。ピンド層については、第1のコバルト鉄合金(CoFe)層と、ルテニウム(Ru)からなる結合層と、第2のコバルト鉄合金(CoFe)層とが順に積層されたシンセティック構造とするとよい。トンネルバリア層については、アルミニウム層を酸化処理し、0.7nm以上1.1nm以下の厚みを有するようにするとよい。磁化自由層については、ニッケル鉄合金(NiFe)層と、コバルト鉄合金(CoFe)層と有する複合層としてもよい。
【0031】
本発明における磁気メモリ構造の製造方法は、以下の(F1)〜(F3)の各工程を含むようにしたものである。
(F1)基体上に、第1シード層と、導電層とを順に積層することにより下部電極を形成する工程。
(F2)下部電極の上に、下部電極と接すると共に窒化タンタルを含む第2シード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とを有する磁気トンネル接合素子を形成する工程。
(F3)磁気トンネル接合素子の上に、キャップ層と接するように上部電極を形成する工程。
ここで、第2シード層を、窒素プラズマをタンタルのターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成する。
【0032】
本発明における磁気メモリ構造の製造方法では、下部電極の上に、反応性スパッタリング処理によって形成された窒化タンタルからなる第2シード層を有する磁気トンネル接合素子を形成するようにしたので、磁気トンネル接合素子のうちの第2シード層の上に形成される各層において、均質かつ緻密な結晶成長が促進される。
【0033】
本発明における磁気メモリ構造の製造方法では、上記の窒化タンタルとして窒素含有率が25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下のものを用いて、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすように第2シード層を形成することが望ましい。あるいは、上記の窒化タンタルを用いて5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすように第1の層を形成する工程と、この第1の層の上に、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)を用いて4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなすように第2の層を形成する工程とを順に行うことにより、第2シード層を形成するようにしてもよい。
【0034】
本発明におけるトンネル接合型再生ヘッドの製造方法は、以下の(H1)〜(H3)の各工程を含むようにしたものである。
(H1)基体上に、磁性層からなる下部シールド層を形成する工程。
(H2)下部シールド層の上に、下部シールド層と接すると共に窒化タンタルを含むシード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とを有する磁気トンネル接合素子を形成する工程。
(H3)磁気トンネル接合素子の上に、キャップ層と接するように上部シールド層を形成する工程。
【0035】
本発明におけるトンネル接合型再生ヘッドの製造方法では、下部シールド層の上に、上記の窒化タンタルを含むシード層を有する磁気トンネル接合素子を形成するようにしたので、磁気トンネル接合素子のうちのシード層の上に形成される各層において、均質かつ緻密な結晶成長が促進される。
【0036】
本発明におけるトンネル接合型再生ヘッドの製造方法では、上記の窒化タンタルの窒素含有率を25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下とし、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすようにシード層を形成するとよい。あるいは、上記の窒化タンタルを用いて5.0nm以上30.0nm以下の厚みをなすように第1の層を形成する工程と、この第1の層の上に、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)を用いて4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなすように第2の層を形成する工程とを順に行うことにより、シード層を形成するようにすることもできる。また、磁性層についてはニッケル鉄合金(NiFe)を用いて2μmの厚みをなすように形成するとよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明の磁気メモリ構造またはトンネル接合型再生ヘッドによれば、反応性スパッタリング処理によって形成された窒化タンタルを含む第2シード層(またはシード層)と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とが順に積層された構造の磁気トンネル接合素子を備えるようにしたので、磁気トンネル接合素子の各層における結晶構造を、十分に均質化および緻密化することができる。この結果、十分な抵抗変化率および絶縁破壊電圧の双方を安定かつ容易に実現することが可能となる。
【0038】
本発明における磁気メモリ構造の製造方法またはトンネル接合型再生ヘッドの製造方法によれば、下部電極(または下部シールド層)の上に、反応性スパッタリング処理によって形成された窒化タンタルを含む第2シード層(またはシード層)を有する磁気トンネル接合素子を形成するようにしたので、磁気トンネル接合素子の各層における結晶構造を、十分に均質化および緻密化することができる。この結果、十分な抵抗変化率および絶縁破壊電圧の双方を安定かつ容易に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施の形態としての磁気メモリ構造を備えたMRAMアレイの平面構成を示した概略図である。
【図2】図1に示した磁気メモリ構造の要部を拡大した積層断面図である。
【図3】図1に示した磁気メモリ構造を製造する際の一工程を表す断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態としての磁気メモリ構造の要部を拡大した積層断面図である。
【図5】本発明における第3の実施の形態としてのTMRヘッドの断面構成を示したものである。
【図6】本発明における第4の実施の形態としてのTMRヘッドの断面構成を示したものである。
【図7】従来の磁気メモリ構造の積層断面構成を表す概略図である。
【図8】従来の他の磁気メモリ構造の積層断面構成を表す概略図である。
【図9】従来のTMRヘッドにおけるMTJ素子の積層断面構成を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0041】
[第1の実施の形態]
まず、図1および図2を参照して、本発明の第1実施の形態としての磁気メモリ構造について説明する。図1は、本実施の形態の磁気メモリ構造40Aを複数備えたMRAMアレイにおける平面構成の一部を示した概略図である。図2は、図1に示したMRAMアレイにおける任意の磁気メモリ構造の断面構成を拡大して示したものである。
【0042】
図1に示したように、本実施の形態の磁気メモリ構造40Aは、全体としてマトリクス状をなすように、互いに直交するように延在する複数のビット線54および複数のワード線45と、それらの各交差点に配置された複数のMTJ素子37Aとを備えたものである。ここで、複数のビット線54は互いに平行をなすようにX軸方向へ延在すると共にY軸方向へ配列されて複数の行を形成し、一方の複数のワード線45は互いに平行をなすようにY軸方向へ延在すると共にすると共にX軸方向へ配列されて複数の列を形成している。各MTJ素子37Aは、各交差点においてビット線54とワード線45との間に厚み方向に挟まれている。ビット線54は上部電極として、ワード線45は下部電極としてそれぞれ機能することにより、MTJ素子37Aに対して積層面と直交する方向にセンス電流が流れるように構成されている。
【0043】
図1では、4つの磁気メモリ構造40Aと、2つのワード線45と、2つのビット線54とを示している。ワード線45はX軸方向に幅bを有し、ビット線54はY軸方向に幅vを有する。複数のビット線54は互いに絶縁層58によって電気的に分離されており、その上面は水平断面(X−Y平面)において共平面を形成するようにほぼ同じ高さに位置している。絶縁層58は、複数のワード線45についても、それぞれ電気的に分離している。MTJ素子37Aは水平断面において楕円形をなしており、長軸方向(Y軸方向)に長さwを有し、短軸方向(X軸方向)に長さaを有している。なお、MTJ素子37Aは円形または矩形(rectangular)であってもよい。ビット線54の幅vは、MTJ素子3
7Aの幅wよりも大きく、ワード線45の幅bはMTJ素子37Aの幅aよりも大きい。
【0044】
図2に示したように、磁気メモリ構造40Aは、シリコンなどにトランジスタやダイオードなどの電子デバイス(図示せず)が組み込まれた基体41上に設けられたものであり、下部電極としてのワード線45と、MTJ素子37Aと、上部電極としてのビット線54とを順に備えている。
【0045】
具体的には、ワード線45は、シード層42と、導電層43と、キャップ層44とが順に形成された積層構造となっている。基体41の上に設けられたシード層42は、例えばニッケルクロム合金(NiCr)からなり、4.0nm以上10.0nm以下の厚みを有している。シード層42の上に形成される導電層43は、例えばルテニウム(Ru)または銅(Cu)からなり、5.0nm以上100.0nm以下の厚みを有している。あるいは、イリジウム(Ir)やロジウム(Rh)などの高融点金属のうち、微小な結晶粒を有し、表面が平滑なものを導電層43に適用してもよい(本出願人が、米国特許第6703654号明細書において開示している)。これらシード層42および導電層43は、従来からよく知られたスパッタリング法やイオンビームデポジッション(IBD:Ion Beam Deposition)法により形成される。ワード線45の鍵となる構成要素としてのキャップ層
44は、窒化タンタル(TaN)により構成されている。キャップ層44は、例えば、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスなどの窒素含有ガスのプラズマを、タンタルの
ターゲットに衝突させるようにする反応性スパッタリング処理(例えば、DC/RFマグネトロンスパッタリング装置を使用する。)によって形成されるものである。このTaNは、例えば、窒素含有率が25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下(好ましくは30at%)であり、5.0nm以上40.0nm以下の厚みを有している。キャップ層44は、その上に形成されるMTJ素子37Aの均質化および緻密化を促進するように機能する。
【0046】
ワード線45は、タンタル(Ta)からなるシード層42と、銅(Cu)からなる導電層43と、TaNからなるキャップ層44とが順に積層された構造としてもよい。この場合、シード層42の厚みは2.0nm以上10.0nm以下であり、導電層43の厚みは5.0nm以上100.0nm以下であり、キャップ層44の厚みは5.0nm以上40.0nm以下であることが望ましい。
【0047】
ワード線45の上に設けられたMTJ素子37Aは、自らの周囲が絶縁層53によって取り囲まれ、かつ、この絶縁層53と共平面を形成している。絶縁層53は珪素酸化物などの低誘電率材料により構成されている。MTJ素子37Aはワード線45と電気的に接続されており、下から順に例えばシード層46A、ピンニング層47、シンセティックピンド層(SyAP層)48、トンネルバリア層49、フリー層(磁化自由層)50、第2キャップ層51が形成された積層体である。
【0048】
シード層46Aは、例えばクロム(Cr)の含有率が35at%以上45at%以下のNiCrからなり、例えば4.0nm以上10.0nm以下の厚みを有するものである。また、ニッケル鉄合金(NiFe)やニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)を第2シード層46Aに用いてもよい。シード層46Aは、TaNからなるキャップ層44の上に形成されるので、111方向に成長し、緻密かつ平滑な表面を有するものとなる。平滑かつ緻密なシード層46は、続いて形成するMTJ素子の各層(ピンニング層47〜第2キャップ層51)における平滑化および緻密化に関し、非常に重要な決定要因となるものである。
【0049】
反強磁性のピンニング層47は、例えば8.0nm以上20.0nm以下の厚みをなすマンガン白金合金(MnPt)により構成されている。あるいは、5.0nm以上10.0nm以下の厚みをなすイリジウムマンガン(IrMn)により構成するようにしてもよい。
【0050】
SyAP層48は、第2ピンド層と、結合層と、第1ピンド層とを順に備えるようにしたものである。ピンニング層47の上に形成される第2ピンド層は、コバルト鉄合金(CoFe)からなり、例えば1.5nm以上3.0nm以下の厚みを有するものである。結合層は、例えばルテニウムからなり、0.75nmの厚みを有している。結合層としては、ルテニウムのほか、ロジウム(Rh)やイリジウム(Ir)などを用いることもできる。結合層の上に形成される第1ピンド層は、鉄含有率が25at%以上50at%以下であるCoFeからなり、例えば1.0nm以上2.5nm以下の厚みを有するものである。この第1ピンド層は、2つのCoFe層の間にFeTaOやCoFeOなどのナノ酸化層(NOL:nano-oxide layer)を挟むようにした3層構造としてもよい。このようなNOLは、第1ピンド層の平滑性を向上させるために用いられる。
【0051】
ここで、第1ピンド層の磁気モーメントと第2ピンド層の磁気モーメントとは互いに逆平行をなすように固着されている。第2ピンド層の厚みと、第1ピンド層の厚みとのわずかな差が微小なネット磁気モーメントを発生させ、それがSyAP層48全体の磁化方向として現れる。第2ピンド層と第1ピンド層との交換結合は、結合層によって促進される。
【0052】
SyAP層48の上に設けられるトンネルバリア層49は、アルミニウム膜をラジカル酸化(ROX:radical oxidation)法により酸化処理したものであり、例えば化学量論
組成がAl2O3(以下AlOXと記す)となっているものである。トンネルバリア層49
の厚みは、例えば1.0nm以上1.5nm以下である。トンネルバリア層49は、TaNからなるキャップ層キャップ層44の作用により、優れた平滑性と均質性とを有するものとなっている。
【0053】
フリー層50は、例えばNiFeからなり、例えば2.5nm以上6.0nm以下の厚みを有するものである。
【0054】
フリー層50の上に設けられたキャップ層51は、ルテニウムやタンタルにより構成され、例えば、6.0nm以上25.0nm以下の厚みを有している。ワード線45のキャップ層44を構成するTaNとの調和(integration)により、MTJ素子の各層(
シード層46A〜キャップ層51)の結晶構造は、平滑性に優れ、かつ緻密なものとなっている。
【0055】
ビット線54は、MTJ素子37A(第2キャップ層51)の上面51aと電気的に接するように、MTJ素子37Aおよび絶縁層53の上に設けられている。ビット線54は、例えば、銅、金またはアルミニウムなどにより形成され、その周囲が絶縁層によって覆われている。
【0056】
このような構成の磁気メモリ構造40Aにおいては、ビット線54に+X方向または−X方向への電流が流れ、ワード線45にY方向への電流が流れる。書込動作の際にビット線54に電流が流れると、右手の法則により、フリー層50の磁化容易軸に沿った第1の電流磁界が生じる。一方、ワード線45に電流が流れると、右手の法則により、フリー層50の磁化困難軸に沿った第2の電流磁界が生じる。ある特定のビット線54およびワード線45に電流が流れると、その交差点にある特定のMTJ素子37Aにおけるフリー層50が、第1の電流磁界と第2の電流磁界との合成磁界により、特定の方向へ磁化される。
【0057】
続いて、図1および図2に加えて図3を参照して、本実施の形態の磁気メモリ構造40Aを備えたMRAMアレイの製造方法について説明する。本実施の形態のMRAMアレイの製造方法では、水平断面において、複数のMTJ素子37AをX軸方向へ配列して複数の行を形成すると共にY軸方向へ配列して複数の列を形成することにより、全体としてマトリクスを形成する。また、スパッタリング用チャンバ(超高真空DCマグネトロンスパッタチャンバ)と酸化用チャンバとを備えた超高真空スパッタリング装置(例えば、アネルバ7100システム)において、一回のポンプダウン操作ののちに磁気メモリ構造40Aを構成する全ての層を順次形成するようにする。スパッタデポジッション操作を行う際には、例えばアルゴン(Ar)ガスを充填するようにする。
【0058】
まず、図3に示したように、基体41の上に、例えばスパッタリング法やイオンビームデポジッション(IBD:Ion Beam Deposition)法を用いて、シード層42と電極層43とを順に積層する。こののち、反応性スパッタリング処理によって、電極層43の上にTaNからなるキャップ層44を形成することにより3層構造のワード線45を形成する。具体的には、例えば、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスなどの窒素含有ガスのプラズマを、タンタル(Ta)のターゲットに衝突させることにより、TaNを生成するようにする。
【0059】
次に、ワード線45の上にMTJ素子37Aを形成する。ここでは、ワード線45の上にシード層46Aと、ピンニング層47と、SyAP層48と、トンネルバリア層49と、フリー層50と、キャップ層51とを予め決められた順序で積層して多層膜を形成したのち、フォトレジストパターン52によってその多層膜を選択的に覆い、保護されていない領域の多層膜をエッチングにより除去するようにする。その結果、幅wを有する第2キャップ層51を最上層とした台形状のMTJ素子37Aが形成される。すなわち、MTJ素子37Aは、キャップ層51からシード層46Aへ向かうほど徐々に広がるように傾斜した側壁(端面)を有するものとなり、シード層46Aの幅はキャップ層51の幅wよりも大きくなる。TaNからなるキャップ層44は、この多層膜のエッチング処理によってMTJ素子37Aの両隣に表出することとなるが、その際、厚み方向の一部が除去されて跳ね上がり、MTJ素子37Aの端面に再付着する可能性が高い。従来、キャップ層はタンタルにより構成されていたが、上述したように、MTJ素子の端面への付着により、センス電流の短絡の問題を引き起こすことがあった。しかしながら、本実施の形態では高抵抗のα−TaNをキャップ層44として用いているので、図2に示したように積層面と直交する方向にセンス電流Isを流した場合において短絡の心配が無く、正確なセンシング動作を行うことができる。
【0060】
なお、多層膜の形成が終了した段階で、アニール処理を行う。例えば、Y軸方向に沿った外部磁界を付与しながら所定温度で所定時間に亘ってアニール処理を行うことにより、SyAP層48の磁化方向を設定するようにする。
【0061】
トンネルバリア層49を形成する際には、0.7nm以上1.0nm以下の厚みをなすようにアルミニウム膜をSyAP層48の上に形成したのち、このアルミニウム膜に対してラジカル酸化処理を行うようにする。ラジカル酸化処理については、酸化用チャンバの内部において、上部イオン化電極と、SyAP層48の上に形成されたアルミニウム膜との間に格子状のキャップを配置したのち、プラズマ酸化をおこなうようにする。
【0062】
MTJ素子37Aを形成したのち、例えばウェットストリッパや酸素アッシングなどの従来からよく知られた手法により、フォトレジストパターン52を除去する。こののち、エッチングにより露出したワード層45の上面を覆うと共にMTJ素子37Aの両隣を充填するように絶縁層53を形成する。このようにして形成した絶縁層53を、例えばCMP(chemical mechanical polish)によりMTJ素子37Aの厚みと同等の厚みとなるまで平坦化(planarization)することにより、MTJ素子37Aの上面51aと絶縁層53との共平面を形成する。キャップ層51は、この平坦化による浸食からMTJ素子37Aを保護するように機能する。
【0063】
最後に、MTJ素子37Aと絶縁層53との共平面上に、複数のMTJ素子37Aの上面51aと接すると共に互いに平行をなすようにX軸方向へ延在する複数のビット線54を形成する。以上により、本実施の形態のMRAMアレイの製造が完了する。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態の磁気メモリ構造40Aを備えたMRAMアレイによれば、反応性スパッタリング処理によって形成された所定のTaNからなるキャップ層44を有するワード線45の上にMTJ素子37Aを設けるようにしたので、いくつかの利点が得られる。第1に、上記のTaNは、タンタルとは異なり極めて酸化しにくい。このため、ワード線45の上にMTJ素子37Aを形成するにあたって、事前に重度のクリーニング処理を行う必要がない。したがって、製造工程の簡略化を図ることができる。そのうえ、クリーニング処理に伴う表面状態の変化による結晶成長の不安定化という問題を回避することができるので、製造時の歩留まり向上に有利である。第2に、上記のTaNはタンタルよりも比抵抗が高いので、製造工程におけるMTJ素子37Aのパターニングの際、その端面への再付着が生じた場合であっても、使用時におけるセンス電流の短絡は発生しない。第3に、上記のTaNは、MTJ素子37Aの各層(シード層46A、ピンニング層47、SyAP層48、トンネルバリア層49、フリー層50およびキャップ層51)における平滑かつ緻密な結晶成長を一貫して(安定して)行うことを可能する(すなわち、MTJ素子37Aの均質化および緻密化を促進する)。この結果、MTJ素子37Aに関し、十分な抵抗変化率および絶縁破壊電圧の双方を安定かつ容易に確保することが可能となる。したがって、磁気メモリ構造40Bとしての信頼性および信号磁界に対する応答特性を高めることができる。
【0065】
[第2の実施の形態]
次に、図4を参照して、本発明の第2の実施の形態としての磁気メモリ構造について説明する。図4は、本実施の形態の磁気メモリ構造40Bの断面構成を拡大して示したものであり、上記第1の実施の形態における磁気メモリ構造40Aの断面構成(図2)に対応するものである。本実施の形態では、上記第1の実施の形態との相違点について主に説明する。
【0066】
図4に示したように、磁気メモリ構造40Bは、基体41上に、下部電極としてのワード線55と、MTJ素子37Bと、上部電極としてのビット線54とを順に備えている。
【0067】
ワード線55は、シード層42および導電層43のみ有しており、ワード線45のようにキャップ層44を有していない。シード層42および導電層43は、上記第1の実施の形態と同様の構造(構成材料および厚みが同等)である。具体的には、ワード線55は、NiCrからなるシード層42と、Ruからなる導電層43との積層構造「NiCr/Ru」、NiCrからなるシード層42と、Cuからなる導電層43との積層構造「NiCr/Cu」、あるいはタンタルからなるシード層42と、銅からなる導電層43との積層構造「Ta/Cu」といった積層構造をなしている。ルテニウムや銅は、タンタルと比べて(その上に他の層を形成する前の)クリーニング処理が容易である。但し、TaNなどからなるキャップ層をワード線55の最上層として設けるようにしてもよい。
【0068】
下部電極55の上に形成されるMTJ素子37Bは、シード層46B、ピンニング層47、ピンド層48、トンネルバリア層49、フリー層50およびキャップ層51とが順に積層されたものである。
【0069】
シード層46Bは、TaNからなるものである。シード層46Bは、5.0nm以上40.0nm以下の厚みを有するものであり、MTJ素子37Bの各層(ピンニング層47、ピンド層48、トンネルバリア層49、フリー層50およびキャップ層51)における結晶の平滑性および緻密性を促進するものである。従来のようにシード層をタンタルにより構成した場合よりも安定した結晶構造のMTJ素子37Bが得られる。
【0070】
シード層46Bについては、TaNからなり5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなす第1の層と、NiCr、NiFeまたはNiFeCrからなり4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなす第2の層との複合構造としてもよい。このような複合層とする場合、TaNからなる第1の層によって、ワード線45の影響がMTJ素子37Bにおけるシード層46B以外の各層(ピンニング層47〜キャップ層51)へ及ぶのを防ぐことができる。
【0071】
MTJ素子37Bの他の部分の構成は、上記第1の実施の形態におけるMTJ素子37Aと同様である。
【0072】
このような構成の磁気メモリ構造40Bは、以下のようにして製造する。まず、基体41の上に、例えばスパッタリング法やIBD法を用いて、シード層42と電極層43とを順に積層することにより2層構造のワード線55を形成する。次いで、所定のクリーニング処理を必要に応じて行ったのち、ワード線55の上にMTJ素子37Bを形成する。ここでは、ワード線55の上にシード層46Bと、ピンニング層47と、SyAP層48と、トンネルバリア層49と、フリー層50と、キャップ層51とを予め決められた順序で積層して多層膜を形成したのち、所定形状となるようにパターニングする。シード層46Bについては、窒素プラズマを用いた反応性スパッタリング処理によって形成することが望ましい。具体的には、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスなどの窒素含有ガス
のプラズマを、タンタル(Ta)のターゲットに衝突させることにより、TaNを生成する。複合構造のシード層46Bとする場合には、例えば、TaNを用いて5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすように第1の層を形成したのち、この第1の層の上に、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)を用いて4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなすように第2の層を形成するようにする。これ以降の工程については上記第1の実施の形態と同様であるので省略する。
【0073】
以上説明したように、本実施の形態の磁気メモリ構造40Bを備えたMRAMアレイによれば、TaNからなるシード層46Bを設けるようにしたので、その上に形成されるMTJ素子37Bの各層(ピンニング層47、SyAP層48、トンネルバリア層49、フリー層50およびキャップ層51)における均質化および緻密化を促進することができる。また、MTJ素子37Bをパターニングする際、その端面へシード層46Bの一部が再付着した場合であっても、センス電流の短絡は発生しない。この結果、MTJ素子37Bに関し、十分な抵抗変化率および絶縁破壊電圧の双方を安定かつ容易に確保することが可能となる。したがって、磁気メモリ構造40Bとしての信頼性および信号磁界に対する応答特性を高めることができる。
【0074】
[第3の実施の形態]
次に、図5を参照して、本発明の第3の実施の形態としてのMTJ素子を備えたTMRリードヘッドの構成について以下に説明する。図5は、本実施の形態のTMRリードヘッド60A(以下、単にTMRヘッド60Aという。)における、磁気記録媒体(図示せず)と対向する面(記録媒体対向面)と平行な断面構成を表したものである。TMRヘッド60Aは、例えば磁気ディスク装置などに搭載されて、磁気記録媒体に記録された磁気情報を読み出す磁気デバイスとして機能する磁気再生ヘッドのセンサ部として用いられるものである。
【0075】
TMRヘッド60Aは、例えばアルティック(Al・TiC)からなる基体61の上に、下部シールド層65と、MTJ素子80Aと、上部シールド層75とを順に備えている。さらに、MTJ素子80Aの両隣には、絶縁層72と、ハードバイアス層73と、絶縁層74とがそれぞれ順に設けられている。
【0076】
下部シールド層65は、NiFeからなる主要部としての磁性層62と、TaNからなるキャップ層64との複合構造となっている。磁性層62の厚みは、例えば2μmである。一方、キャップ層64の厚みは、例えば5.0nm以上40.0nm以下である。このキャップ層64は、その上に形成されるMTJ素子80Aの各層における平滑性や緻密性を促進する作用を発揮するものである。TaNは、タンタルよりも耐酸化性に優れ、その上に形成される結晶の安定した成長を促進する。
【0077】
MTJ素子80Aは、下部シールド層65の側から、シード層66A、ピンニング層67、SyAP層68、トンネルバリア層69、フリー層70およびキャップ層71を順に備えている。
【0078】
シード層66Aは、4.0nm以上10.0nm以下の厚みを有しており、例えば、クロム含有率が35at%以上45at%以下のNiCrにより構成されている。NiFeやNiFeCrなどもシード層66Aの構成材料とすることができる。シード層66Aは、α−TaNからなるキャップ層64の上に形成されるので、平滑かつ緻密な<111>方向の結晶面を有することとなる。このようなシード層66Aは、その上に形成されるMTJ素子の他の層における均質性および緻密性を決定する重要な因子である。ピンニング層67は、8.0nm以上20.0nm以下の厚みを有するマンガン白金合金(MnPt)または5.0nm以上10.0nm以下の厚みを有するイリジウムマンガン合金(IrMn)により構成される。SyAP層68は、第2ピンド層と結合層と第1ピンド層とが順に積層されたシンセティック構造を有している。ピンニング層67の上に形成される第2ピンド層は、鉄含有率が10at%以上25at%以下のCoFeからなり、例えば1.5nm以上2.5nm以下の厚みを有していることが望ましい。結合層は、例えばルテニウムからなり、0.75nmの厚みを有している。結合層の上に形成される第1ピンド層は、鉄含有率が25at%以上50at%以下であるCoFeからなり、例えば2.0nm以上3.0nm以下の厚みを有するものである。この第1ピンド層は、2つのCoFe層の間に、例えば0.5〜0.6nmの厚みをなすFeTaOやCoFeOなどのNOLを挟むようにした3層構造としてもよい。このようなNOLは、第1ピンド層の平滑性を向上させるために用いられる。
【0079】
ここで第1ピンド層の磁気モーメントと第2ピンド層の磁気モーメントとは、互いに逆平行をなすように固着されている。第2ピンド層の厚みと、第1ピンド層の厚みとのわずかな差が微小なネット磁気モーメントを発生させ、それがSyAP層68全体の磁化方向として現れる。第2ピンド層と第1ピンド層との交換結合は、結合層によって促進される。
【0080】
SyAP層68の上層としてのトンネルバリア層69は、アルミニウム層を酸化処理したAlOXである。トンネルバリア層69は、例えば0.7nm以上1.1nm以下の厚
みを有しており、キャップ層64の作用により、優れた平滑性と均質性とを兼ね備えている。
【0081】
フリー層70は、トンネルバリア層69の上にCoFe層とNiFe層とが順に積層された複合構造をなしている。CoFe層の厚みは、例えば0.5nm以上1.5nm以下であり、NiFe層の厚みは、例えば2.0nm以上4.0nm以下である。CoFe層は、例えば上記したSyAP層68の第1ピンド層と同様の構成であり、NiFe層は、ニッケル含有率が75at%以上85at%以下であるNiFeにより構成されていることが望ましい。さらに、CoFe層とNiFe層との間にナノ酸化層を設けるようにしてもよい。
【0082】
フリー層70の上には、ルテニウム層とタンタル層との積層構造からなるキャップ層71が形成されている。例えば、ルテニウム層の厚みは1.0nm以上3.0nm以下であり、タンタル層の厚みは10.0nm以上25.0nm以下である。下部シールド層65のキャップ層64を構成するα−TaNとの調和(integration)により、MTJ素子の
各層(シード層66A〜キャップ層71)の結晶構造は、平滑性に優れ、かつ緻密なものとなっている。
【0083】
このような構成のTMRヘッド60Aを形成する際には、基体61の上に、例えばスパッタリング法やIBD法を用いて磁性層62を形成する。こののち、反応性スパッタリング処理によって、磁性層62の上にTaNからなるキャップ層64を形成することにより2層構造の下部シールド層65を完成させる。具体的には、例えば、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスなどの窒素含有ガスのプラズマを、タンタル(Ta)のターゲットに衝突させることにより、TaNを生成するようにする。
【0084】
次に、下部シールド層65の上にMTJ素子80Aを形成する。ここでは、超高真空のスパッタリング用チャンバと酸化用チャンバとを備えた装置(例えばアネルバ7100システムなど)により、一回のポンプダウン操作ののち一括してMTJ素子の各層(具体的には、シード層66A、ピンニング層67、SyAP層68、トンネルバリア層69、フリー層70およびキャップ層71)を順次成膜することにより、多層膜を形成する。
【0085】
トンネルバリア層69を形成する際には、0.5nm以上0.6nm以下の厚みとなるようにアルミニウム層をSyAP層68の上に形成したのち、自然酸化(NOX:natural oxidation)法またはラジカル酸化(ROX:radical oxidation)法により、その場でアルミニウム膜を酸化処理するようにする。
【0086】
多層膜を形成したのち、例えばY軸方向への外部磁界を付与しつつアニール処理することにより、SyAP層68の磁化方向を設定する。さらに、(上記のY軸方向への外部磁界よりも小さな)X軸方向への外部磁界を付与しつつアニール処理することにより、フリー層70の磁化方向を設定する。
【0087】
さらに、多層膜を選択的に覆うようにフォトレジストパターン(図示せず)を形成したのち、IBEによって多層膜を選択的にエッチングすることにより、MTJ素子80Aを形成する。TaNからなるキャップ層64は、この多層膜のエッチング処理によってMTJ素子80Aの両隣に表出することとなるが、その際、厚み方向の一部が除去されて跳ね上がり、MTJ素子80Aの端面に再付着する可能性が高い。従来、キャップ層はタンタルにより構成されていたが、上述したように、MTJ素子の端面への付着により、センス電流の短絡の問題を引き起こすことがあった。しかしながら、本実施の形態では高抵抗のTaNをキャップ層64として用いているので、積層面と直交する方向にセンス電流Isを流した場合において短絡の心配が無く、正確なセンシング動作を行うことができる。
【0088】
こののち、例えば10.0nm以上15.0nm以下の厚みをなす酸化アルミニウム(Al2O3)からなる絶縁層72を、MTJ素子80Aの側壁および、IBEによって露出したキャップ層64を覆うようにCVD(chemical vapor deposition)法またはPVD(physical vapor deposition)法を利用して形成する。さらに、絶縁層72の上に、例えばチタンタングステン合金(TiW)層とコバルトクロム白金合金(CoCrPt)層とタンタル層との3層構造からなるハードバイアス層73と、例えば酸化アルミニウム(Al2O3)からなる絶縁層74とを順に形成する。ハードバイアス層73は、例えば20.0nm以上40.0nm以下の厚みをなし、絶縁層74は、例えば15.0nm以上25.0nm以下の厚みをなしている。ハードバイアス層73および絶縁層74を形成したのち、フォトレジストパターンを除去することにより、MTJ素子80Aの上面71aが露出する。
【0089】
次いで、上面71aと、絶縁層74の上面とが共平面をなすように、CMP(chemical mechanical polish)処理を行い、最後に上面71aと絶縁層74とを覆うように上部シールド層75を形成することにより、TMRヘッド60Aが完成する。
【0090】
以上説明したように、本実施の形態のTMRヘッド60Aによれば、TaNからなるキャップ層64を有する下部シールド層65の上にMTJ素子80Aを設けるようにしたので、上記第1の実施の形態と同様の効果が得られる。具体的には、第1に、TaNは極めて酸化しにくいので、下部シールド層65の上にMTJ素子80Aを形成するにあたって、事前に重度のクリーニング処理を行う必要がない。第2に、TaNは比較的高い比抵抗を有するので、製造工程におけるMTJ素子80Aのパターニングの際、その端面への再付着が生じた場合であっても、使用時におけるセンス電流の短絡を防ぐことができる。第3に、TaNは、MTJ素子80Aの各層(シード層66A、ピンニング層67、SyAP層68、トンネルバリア層69、フリー層70およびキャップ層71)における平滑かつ緻密な結晶成長を一貫して(安定して)行うことを可能とし、MTJ素子80Aの均質化および緻密化を促進する。よって、MTJ素子80Aに関し、十分な抵抗変化率および絶縁破壊電圧の双方を安定かつ容易に確保することが可能となる。したがって、TMRヘッド60Aとしての信頼性および信号磁界に対する応答特性を高めることができる。
【0091】
[第4の実施の形態]
次に、図6を参照して、本発明の第4の実施の形態としてのTMRヘッドについて説明する。図6は、本実施の形態のTMRヘッド60Bにおける、磁気記録媒体と対向する面(記録媒体対向面)と平行な断面構成を表したものである。本実施の形態では、上記第3の実施の形態との相違点について主に説明する。
【0092】
TMRヘッド60Bは、基体61の上に、下部シールド層としての磁性層62と、MTJ素子80Bと、上部シールド層75とを順に備えている。さらに、MTJ素子80Bの両隣には、絶縁層72と、ハードバイアス層73と、絶縁層74とがそれぞれ順に設けられている。
【0093】
TMRヘッド80Bでは、磁性層62のみによって下部シールド層65を構成しており、TMRヘッド80A(第3の実施の形態)のようにキャップ層64を有していない。磁性層64は、第3の実施の形態と同様の構造(構成材料および厚みが同等)である。
【0094】
MTJ素子80Bは、下部シールド層65(磁性層62)の側から、シード層66B、ピンニング層67、SyAP層68、トンネルバリア層69、フリー層70およびキャップ層71を順に備えている。
【0095】
本実施の形態の特徴部分であるシード層66Bは、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなし、α−TaNによって構成されている。TaNにおける窒素含有率は25at%以上35at%以下である。シード層66Bは、MTJ素子80Bの各層(ピンニング層67、ピンド層68、トンネルバリア層69、フリー層70およびキャップ層71)における結晶の平滑性および緻密性を促進するものである。従来のようにシード層をタンタルにより構成した場合よりも安定した結晶構造のMTJ素子80Bが得られる。
【0096】
シード層66Bについては、TaNからなり5.0nm以上30.0nm以下の厚みをなす第1の層と、NiCr、NiFeまたはNiFeCrからなり4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなす第2の層との複合構造としてもよい。このような複合層とする場合、TaNからなる第1の層によって、下部シールド層65の影響がMTJ素子80Bにおけるシード層66B以外の各層(ピンニング層67〜キャップ層71)へ及ぶのを防ぐことができる。
【0097】
MTJ素子80Bの他の部分の構成は、第3の実施の形態におけるMTJ素子80Aと同様である。
【0098】
このような構成のTMRヘッド60Bは、以下のようにして製造する。まず、基体61の上に、例えばスパッタリング法やIBD法を用いて磁性層62(下部シールド層65)を形成する。次いで、所定のクリーニング処理を必要に応じて行ったのち、磁性層62の上にMTJ素子80Bを形成する。ここでは、磁性層62の上にシード層66Bと、ピンニング層67と、SyAP層68と、トンネルバリア層69と、フリー層70と、キャップ層71とを予め決められた順序で積層して多層膜を形成したのち、所定形状となるようにパターニングする。シード層66Bについては、窒素プラズマを用いた反応性スパッタリング処理によって形成することが望ましい。具体的には、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスなどの窒素含有ガスのプラズマを、タンタル(Ta)のターゲットに衝突
させることにより、TaNを生成する。複合構造のシード層66Bとする場合には、例えば、TaNを用いて5.0nm以上30.0nm以下の厚みをなすように第1の層を形成したのち、この第1の層の上に、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)を用いて4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなすように第2の層を形成するようにする。これ以降の工程については上記第3の実施の形態と同様であるので省略する。
【0099】
以上説明したように、本実施の形態のTMRヘッド60Bによれば、反応性スパッタリング処理によって形成されたTaNからなるシード層66Bを設けるようにしたので、その上に形成されるMTJ素子80Bの各層(ピンニング層67、SyAP層68、トンネルバリア層69、フリー層70およびキャップ層71)における均質化および緻密化を促進することができる。また、MTJ素子80Bをパターニングする際、その端面へシード層66Bの一部が再付着した場合であっても、センス電流の短絡は発生しない。この結果、MTJ素子80Bに関し、十分な抵抗変化率および絶縁破壊電圧の双方を安定かつ容易に確保することが可能となる。したがって、TMRヘッド60Bとしての信頼性および信号磁界に対する応答特性を高めることができる。
【実施例】
【0100】
本発明の実施例について以下に説明する。
【0101】
ここでは、上記の第1の実施の形態(図1および図2)に対応した磁気メモリ構造を作製し、その特性確認実験を実施した。その結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
実施例における下部電極およびMTJ素子の具体的な構造は、以下の通りである。
「NiCr/Ru/TaN//NiCr/MnPt/CoFe/Ru/CoFe/AlOX/CoFe/NiFe/Ru」
である。ここで、左側から「NiCr/Ru/TaN」が下部電極、「NiCr」がシード層、「MnPt」がピンニング層、「CoFe/Ru/CoFe」がSyAP層、「AlOX」がトンネルバリア層、「CoFe/NiFe」がフリー層、「Ru25」がキャップ層である。一方、比較例では、下部電極のキャップ層をタンタルとした以外はすべて実施例と同様の構成とした。
【0104】
評価項目については、表1に示したように、抵抗変化率dR/R、接合抵抗RA、接合抵抗RAの標準偏差σ、絶縁破壊電圧VbおよびV50とした。
【0105】
表1に示したように、本実施例における磁気メモリ構造は、従来のタンタルからなるキャップ層を備えた比較例と遜色のない良好な特性を有していることが確認された。
【0106】
以上、いくつかの実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。すなわち当技術分野を熟知した当業者であれば理解できるように、上記実施の形態等は本発明の一具体例であり、本発明は、上記の内容に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に規定する内容および思想に基づき、方法、材料、構造または寸法について修正や改良がなされてもよい。
【符号の説明】
【0107】
41…基体、40A,40B…磁気メモリ構造、37A,37B,80A,80B…MTJ素子、42…シード層、43…導電層、44…キャップ層、45,55…ワード線、46A,46B,66A,66B…シード層、47,67…ピンニング層、48,68…SyAP層、49,69…トンネルバリア層、50,70…フリー層、51,71…キャップ層、54…ビット線、60A,60B…TMRヘッド、65…下部シールド層、64…キャップ層、75…上部シールド層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、第1シード層と導電層とを順に有する下部電極と、
導線としての上部電極と、
前記下部電極と前記上部電極との間に配置され、かつ、前記下部電極の側から順に、前記下部電極と接すると共に窒化タンタル(TaN)を含む第2シード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、前記上部電極と接するキャップ層とを有する磁気トンネル接合素子と
を備え、
前記窒化タンタルは、窒素プラズマをタンタル(Ta)のターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成されたものである
ことを特徴とする磁気メモリ構造。
【請求項2】
前記第1シード層はタンタル(Ta)またはニッケルクロム合金(NiCr)からなり、前記導電層は銅(Cu)からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項3】
前記第1シード層はニッケルクロム合金(NiCr)からなり、前記導電層はルテニウム(Ru)または銅(Cu)からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項4】
前記第2シード層は、窒素含有率が25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下である前記窒化タンタルからなり、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなしている
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項5】
前記第2シード層は、前記窒化タンタルからなる第1の層と、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)からなる第2の層とを有する複合層である
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項6】
前記第1の層は5.0nm以上40.0nm以下の厚みを有し、前記第2の層は4.0nm以上10.0nm以下の厚みを有している
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項7】
前記反強磁性ピンニング層は、マンガン白金合金(MnPt)またはイリジウムマンガン合金(IrMn)からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項8】
前記ピンド層は、第1のコバルト鉄合金(CoFe)層と、ルテニウム(Ru)からなる結合層と、第2のコバルト鉄合金(CoFe)層とが順に積層されたシンセティック構造をなしている
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項9】
トンネルバリア層は、アルミニウム層を酸化処理したものであり、1.0nm以上1.5nm以下の厚みを有している
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項10】
前記磁化自由層は、ニッケル鉄合金(NiFe)からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項11】
基体上に形成された磁性層からなる下部シールド層と、
前記下部シールド層の上に、前記下部シールド層と接すると共に窒化タンタル(TaN)を含むシード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とが順に積層されてなる磁気トンネル接合素子と、
前記キャップ層と接するように配置された上部シールド層と
を備え、
前記窒化タンタルは、窒素プラズマをタンタル(Ta)のターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成されたものである
ことを特徴とするトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項12】
前記シード層は、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなし、
前記シード層を構成する前記窒化タンタルの窒素含有率が25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下である
ことを特徴とする請求項11に記載のトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項13】
前記シード層は、前記窒化タンタルからなる第1の層と、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)からなる第2の層とを有する複合層である
ことを特徴とする請求項11に記載のトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項14】
前記第1の層は5.0nm以上30.0nm以下の厚みを有し、前記第2の層は4.0nm以上10.0nm以下の厚みを有している
ことを特徴とする請求項11に記載のトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項15】
前記反強磁性ピンニング層は、マンガン白金合金(MnPt)またはイリジウムマンガン合金(IrMn)からなる
ことを特徴とする請求項11に記載のトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項16】
前記ピンド層は、第1のコバルト鉄合金(CoFe)層と、ルテニウム(Ru)からなる結合層と、第2のコバルト鉄合金(CoFe)層とが順に積層されたシンセティック構造をなしている
ことを特徴とする請求項11に記載のトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項17】
前記トンネルバリア層は、アルミニウム層を酸化処理したものであり、0.7nm以上1.1nm以下の厚みを有している
ことを特徴とする請求項11に記載のトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項18】
前記磁化自由層は、ニッケル鉄合金(NiFe)層と、コバルト鉄合金(CoFe)層と有する複合層である
ことを特徴とする請求項11に記載のトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項19】
基体上に、第1シード層と、導電層とを順に積層することにより下部電極を形成する工程と、
前記下部電極の上に、前記下部電極と接すると共に窒化タンタル(TaN)を含む第2シード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とを有する磁気トンネル接合素子を形成する工程と、
前記磁気トンネル接合素子の上に、前記キャップ層と接するように上部電極を形成する工程とを含み、
前記第2シード層を、窒素プラズマをタンタル(Ta)のターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成する
ことを特徴とする磁気メモリ構造の製造方法。
【請求項20】
前記窒化タンタルの窒素含有率を25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下とし、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすように前記第2シード層を形成する
ことを特徴とする請求項19に記載の磁気メモリ構造の製造方法。
【請求項21】
前記窒化タンタルを用いて5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすように第1の層を形成する工程と、前記第1の層の上に、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)を用いて4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなすように第2の層を形成する工程とを順に行うことにより、前記第2シード層を形成する
ことを特徴とする請求項19に記載の磁気メモリ構造の製造方法。
【請求項22】
窒素プラズマを用いた反応性スパッタリング処理によって前記第2シード層を形成する
ことを特徴とする請求項19に記載の磁気メモリ構造の製造方法。
【請求項23】
基体上に、磁性層からなる下部シールド層を形成する工程と、
前記下部シールド層の上に、前記下部シールド層と接すると共に窒化タンタル(TaN)を含むシード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とを有する磁気トンネル接合素子を形成する工程と、
前記磁気トンネル接合素子の上に、前記キャップ層と接するように上部シールド層を形成する工程と
を含み、
前記シード層を、窒素プラズマをタンタル(Ta)のターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成する
ことを特徴とするトンネル接合型再生ヘッドの製造方法。
【請求項24】
前記窒化タンタルの窒素含有率を25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下とし、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすように前記シード層を形成する
ことを特徴とする請求項23に記載のトンネル接合型再生ヘッドの製造方法。
【請求項25】
前記窒化タンタルを用いて5.0nm以上30.0nm以下の厚みをなすように第1の層を形成する工程と、前記第1の層の上に、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)を用いて4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなすように第2の層を形成する工程とを順に行うことにより、前記シード層を形成する
ことを特徴とする請求項23に記載のトンネル接合型再生ヘッドの製造方法。
【請求項26】
ニッケル鉄合金(NiFe)を用いて2μmの厚みをなすように前記磁性層を形成する
ことを特徴とする請求項23に記載のトンネル接合型再生ヘッドの製造方法。
【請求項27】
窒素プラズマを用いた反応性スパッタリング処理によって前記シード層を形成する
ことを特徴とする請求項24に記載のトンネル接合型再生ヘッドの製造方法。
【請求項1】
基体上に、第1シード層と導電層とを順に有する下部電極と、
導線としての上部電極と、
前記下部電極と前記上部電極との間に配置され、かつ、前記下部電極の側から順に、前記下部電極と接すると共に窒化タンタル(TaN)を含む第2シード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、前記上部電極と接するキャップ層とを有する磁気トンネル接合素子と
を備え、
前記窒化タンタルは、窒素プラズマをタンタル(Ta)のターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成されたものである
ことを特徴とする磁気メモリ構造。
【請求項2】
前記第1シード層はタンタル(Ta)またはニッケルクロム合金(NiCr)からなり、前記導電層は銅(Cu)からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項3】
前記第1シード層はニッケルクロム合金(NiCr)からなり、前記導電層はルテニウム(Ru)または銅(Cu)からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項4】
前記第2シード層は、窒素含有率が25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下である前記窒化タンタルからなり、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなしている
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項5】
前記第2シード層は、前記窒化タンタルからなる第1の層と、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)からなる第2の層とを有する複合層である
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項6】
前記第1の層は5.0nm以上40.0nm以下の厚みを有し、前記第2の層は4.0nm以上10.0nm以下の厚みを有している
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項7】
前記反強磁性ピンニング層は、マンガン白金合金(MnPt)またはイリジウムマンガン合金(IrMn)からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項8】
前記ピンド層は、第1のコバルト鉄合金(CoFe)層と、ルテニウム(Ru)からなる結合層と、第2のコバルト鉄合金(CoFe)層とが順に積層されたシンセティック構造をなしている
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項9】
トンネルバリア層は、アルミニウム層を酸化処理したものであり、1.0nm以上1.5nm以下の厚みを有している
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項10】
前記磁化自由層は、ニッケル鉄合金(NiFe)からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ構造。
【請求項11】
基体上に形成された磁性層からなる下部シールド層と、
前記下部シールド層の上に、前記下部シールド層と接すると共に窒化タンタル(TaN)を含むシード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とが順に積層されてなる磁気トンネル接合素子と、
前記キャップ層と接するように配置された上部シールド層と
を備え、
前記窒化タンタルは、窒素プラズマをタンタル(Ta)のターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成されたものである
ことを特徴とするトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項12】
前記シード層は、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなし、
前記シード層を構成する前記窒化タンタルの窒素含有率が25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下である
ことを特徴とする請求項11に記載のトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項13】
前記シード層は、前記窒化タンタルからなる第1の層と、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)からなる第2の層とを有する複合層である
ことを特徴とする請求項11に記載のトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項14】
前記第1の層は5.0nm以上30.0nm以下の厚みを有し、前記第2の層は4.0nm以上10.0nm以下の厚みを有している
ことを特徴とする請求項11に記載のトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項15】
前記反強磁性ピンニング層は、マンガン白金合金(MnPt)またはイリジウムマンガン合金(IrMn)からなる
ことを特徴とする請求項11に記載のトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項16】
前記ピンド層は、第1のコバルト鉄合金(CoFe)層と、ルテニウム(Ru)からなる結合層と、第2のコバルト鉄合金(CoFe)層とが順に積層されたシンセティック構造をなしている
ことを特徴とする請求項11に記載のトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項17】
前記トンネルバリア層は、アルミニウム層を酸化処理したものであり、0.7nm以上1.1nm以下の厚みを有している
ことを特徴とする請求項11に記載のトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項18】
前記磁化自由層は、ニッケル鉄合金(NiFe)層と、コバルト鉄合金(CoFe)層と有する複合層である
ことを特徴とする請求項11に記載のトンネル接合型再生ヘッド。
【請求項19】
基体上に、第1シード層と、導電層とを順に積層することにより下部電極を形成する工程と、
前記下部電極の上に、前記下部電極と接すると共に窒化タンタル(TaN)を含む第2シード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とを有する磁気トンネル接合素子を形成する工程と、
前記磁気トンネル接合素子の上に、前記キャップ層と接するように上部電極を形成する工程とを含み、
前記第2シード層を、窒素プラズマをタンタル(Ta)のターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成する
ことを特徴とする磁気メモリ構造の製造方法。
【請求項20】
前記窒化タンタルの窒素含有率を25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下とし、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすように前記第2シード層を形成する
ことを特徴とする請求項19に記載の磁気メモリ構造の製造方法。
【請求項21】
前記窒化タンタルを用いて5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすように第1の層を形成する工程と、前記第1の層の上に、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)を用いて4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなすように第2の層を形成する工程とを順に行うことにより、前記第2シード層を形成する
ことを特徴とする請求項19に記載の磁気メモリ構造の製造方法。
【請求項22】
窒素プラズマを用いた反応性スパッタリング処理によって前記第2シード層を形成する
ことを特徴とする請求項19に記載の磁気メモリ構造の製造方法。
【請求項23】
基体上に、磁性層からなる下部シールド層を形成する工程と、
前記下部シールド層の上に、前記下部シールド層と接すると共に窒化タンタル(TaN)を含むシード層と、反強磁性ピンニング層と、ピンド層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、キャップ層とを有する磁気トンネル接合素子を形成する工程と、
前記磁気トンネル接合素子の上に、前記キャップ層と接するように上部シールド層を形成する工程と
を含み、
前記シード層を、窒素プラズマをタンタル(Ta)のターゲットに衝突させる反応性スパッタリング処理によって形成する
ことを特徴とするトンネル接合型再生ヘッドの製造方法。
【請求項24】
前記窒化タンタルの窒素含有率を25原子パーセント(at%)以上35原子パーセント(at%)以下とし、5.0nm以上40.0nm以下の厚みをなすように前記シード層を形成する
ことを特徴とする請求項23に記載のトンネル接合型再生ヘッドの製造方法。
【請求項25】
前記窒化タンタルを用いて5.0nm以上30.0nm以下の厚みをなすように第1の層を形成する工程と、前記第1の層の上に、ニッケルクロム合金(NiCr)、ニッケル鉄合金(NiFe)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)を用いて4.0nm以上10.0nm以下の厚みをなすように第2の層を形成する工程とを順に行うことにより、前記シード層を形成する
ことを特徴とする請求項23に記載のトンネル接合型再生ヘッドの製造方法。
【請求項26】
ニッケル鉄合金(NiFe)を用いて2μmの厚みをなすように前記磁性層を形成する
ことを特徴とする請求項23に記載のトンネル接合型再生ヘッドの製造方法。
【請求項27】
窒素プラズマを用いた反応性スパッタリング処理によって前記シード層を形成する
ことを特徴とする請求項24に記載のトンネル接合型再生ヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2013−58768(P2013−58768A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232207(P2012−232207)
【出願日】平成24年10月19日(2012.10.19)
【分割の表示】特願2005−192226(P2005−192226)の分割
【原出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(500475649)ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド (251)
【出願人】(505121419)アプライド スピントロニクス インコーポレイテッド (14)
【氏名又は名称原語表記】Applied Spintronics Inc.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月19日(2012.10.19)
【分割の表示】特願2005−192226(P2005−192226)の分割
【原出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(500475649)ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド (251)
【出願人】(505121419)アプライド スピントロニクス インコーポレイテッド (14)
【氏名又は名称原語表記】Applied Spintronics Inc.
【Fターム(参考)】
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