説明

磁気メモリ

【課題】データ記憶層が強い垂直磁気異方性を有し、かつ、データ記憶層とその下方に設けられた磁化固定層との間の磁気的結合が強い磁気メモリを提供する。
【解決手段】磁気メモリが、垂直磁気異方性を有し、磁化方向が固定された磁化固定層50a、50bと、層間絶縁層60と、磁化固定層50a、50bと層間絶縁層60の上面に形成された下地層40と、下地層40の上面に形成された、垂直磁気異方性を有するデータ記憶層10とを備えている。下地層40は、磁性材料で形成された第1磁性下地層41と、第1磁性下地層41の上に形成された非磁性下地層42とを備えている。第1磁性下地層41の膜厚は、層間絶縁層60の上において第1磁性下地層41が面内磁気異方性を発現しないように調節されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気メモリに関し、特に、各メモリセルにおいてデータを記憶するデータ記憶層として垂直磁気異方性を有する磁化膜を使用する磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気メモリ、特に磁気ランダムアクセスメモリ(Magnetic Random Access Memory; MRAM)は、高速動作および無限回の書き換えが可能な不揮発性メモリである。このことから、MRAMの実用化は一部で始まっており、また、より汎用性を高めるための開発が行われている。磁気メモリは、記憶素子として磁性体膜を用い、その磁性体膜の磁化の向きに対応させてデータを記憶する。磁性体膜に所望のデータを書き込むためには、磁性体膜の磁化が、そのデータに対応した向きにスイッチされる。この磁化方向のスイッチング方法としていくつかの方式が提案されているが、いずれも電流(以下、「書き込み電流」と参照される)を使う点では共通している。MRAMを実用化する上では、この書き込み電流をどれだけ低減できるかが非常に重要である。書き込み電流の低減の重要性については、例えば、非特許文献1(N.Sakimura et al., “MRAM Cell Technology for Over 500-MHz SoC”, IEEE
JOURNAL OF SOLID-STATE CIRCUITS, VOL.42, NO.4, pp.830-838, 2007)において議論されている。
【0003】
書き込み電流を低減するための一つの手法は、電流誘起磁壁移動(Current Driven Domain Wall
Motion)を用いてデータを書き込むことである。非特許文献2(A.Yamaguchi et al.,“Real-Space
Observation of Current-Driven Domain Wall Motion in Submicron Magnetic Wires”,
PHYSICAL REVIEW LETTERS,VOL.92,NO.7,077205,2004)で報告されているように、磁壁を貫通する方向に電流を流したとき、その磁壁は伝導電子の方向に移動する。従って、データ記憶層に書き込み電流を流すことにより、その電流方向に応じた向きに磁壁を移動させ、所望のデータを書き込むことが可能となる。電流誘起磁壁移動を利用したMRAMは、例えば、特開2005−191032号公報に開示されている。
【0004】
また、米国特許第6,834,005号公報には、スピン注入を利用した磁気シフトレジスタが開示されている。この磁気シフトレジスタは、磁性体中の磁壁を利用してデータを記憶する。多数の領域(磁区)に分けられた磁性体において、磁壁を通過するように電流が注入され、その電流により磁壁が移動する。各領域の磁化の向きが、記録データとして扱われる。このような磁気シフトレジスタは、例えば、大量のシリアルデータの記録に利用される。
【0005】
電流誘起磁壁移動によってデータ書き込みを行う磁気メモリにおいて、データを記憶するデータ記憶層に垂直磁気異方性(PMA ;perpendicular magnetic anisotropy))を有する磁性体膜を使用することで書き込み電流を更に低減することが知られている。このような技術は、例えば、非特許文献3(S.Fukami et al., “Micromagnetic analysis of current driven domain wall
motion in nanostrips with perpendicular magnetic anisotropy”, JOURNAL OF APPLIED
PHYSICS, VOL.103, 07E718, (2008))に開示されている。
【0006】
加えて、データを記憶するデータ記憶層に垂直磁気異方性を有する磁性体膜を使用し、電流誘起磁壁移動によってデータ書き込みを行う磁気メモリが、国際公開WO2009/001706 A1に開示されている。図1は、公知のその磁気メモリに集積化された磁気抵抗効果素子200を模式的に示す断面図である。磁気抵抗効果素子200は、データ記憶層110と、スペーサ層120と、参照層130とを具備している。データ記憶層110は、垂直磁気異方性を有する磁性体膜で形成されている。スペーサ層120は、非磁性の絶縁層で形成されている。参照層130は、磁化方向が固定された強磁性体膜で形成されている。
【0007】
データ記憶層110は、2つの磁化固定領域111a、111b、及び磁化自由領域113を有している。磁化固定領域111a、111bは磁化自由領域113の両側に配置されている。磁化固定領域111a、111bの磁化は、磁化固定層115a、115bによって互いに逆方向(反平行)に固定されている。より具体的には、磁化固定領域111aの磁化方向は、磁化固定層115aとの磁気的結合によって+z方向に固定され、磁化固定領域111bの磁化方向は磁化固定層115bとの磁気的結合により−z方向に固定されている。一方、磁化自由領域113の磁化方向は、磁化固定領域111a、111bの一方から他方へ流れる書込み電流により反転可能であり、+z方向あるいは−z方向となる。従って、磁化自由領域113の磁化方向に応じて、データ記憶層110内には磁壁112a又は磁壁112bが形成される。データは、磁化自由領域113の磁化の向きとして記憶される。磁壁112の位置(112a又は112b)として記憶されると見ることもできる。
【0008】
参照層130、スペーサ層120及びデータ記憶層110の磁化自由領域113は、磁気トンネル接合(MTJ)を形成している。MTJの抵抗値は、磁化自由領域113の磁化の向き、即ち、データ記憶層110に書き込まれているデータに応じて変化する。データは、MTJの抵抗値の大きさとして読み出される。
【0009】
垂直磁気異方性を有するデータ記憶層を使用する磁気メモリにおいて重要な点は、強い垂直磁気異方性を有するデータ記憶層を形成することである。例えば、Co/Ni多層膜(薄いCo膜とNi層とが交互に積層された積層体)をデータ記憶層として使用する場合、強いfcc(111)配向を有するCo/Ni多層膜を形成することで強い垂直磁気異方性を実現することができる。しかしながら、十分に強いfcc(111)配向を有するCo/Ni多層膜を形成することは必ずしも容易なことではない。
【0010】
特開2006−114162号公報は、基板上に積層された、密着層、軟磁性下地層、中間層、及び垂直記録層を有する垂直磁気記録媒体を開示している。この特許文献は、軟磁性下地層の磁気特性や表面平坦性を改善し、さらに基板との密着性を高めるための技術を開示している。具体的には、密着層が、第1の下地層及び第2の下地層から構成されている。第1の下地層は、Ni、Al、Ti、Ta、Cr、Coから選ばれる少なくとも2種類の元素からなる合金で構成されており、第2の下地層は、Ta単体、もしくはTaに、Ni、Al、Ti、Cr、Zrから選ばれる少なくとも1種類の元素を含む非晶質構造の合金からなる。
【0011】
非特許文献4(F.J.A. den Broeder et al., Perpendicular MagneticAnisotropy
and Coercivity of Co/Ni Multilayers, IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS,VOL. 28,
NO. 5, pp.2760-2765, (1992))は、下地層無しでガラス基板の上に成膜をすると、面内方向に強い異方性が現れる事を開示しており、垂直磁気異方性を得るためには下地層が必要であると議論している。この文献は、好適な下地層として(111)配向性を有するAu膜を開示している。ここで、非特許文献4に開示されている下地層は、非磁性体であり、また、その膜厚が20nm以上と比較的厚いことに留意されたい。
【0012】
非特許文献4に記載されているような厚い非磁性層を下地層として使用することは、図1に図示された磁気メモリのように、データ記憶層の下に形成された磁化固定層によってデータ記憶層の磁化固定領域の磁化を固定する構造の磁気メモリには好ましくない。例えば、図1の磁気メモリで下地層を用いるならば、データ記憶層110と磁化固定層115a、115bの間に下地層が挿入されることになる。この場合、下地層として厚い非磁性層が介在すると、データ記憶層110と磁化固定層115a、115bの間の磁気的な結合が切断され、磁化固定領域111a、111bの磁化が固定できなくなる。これは、磁気メモリを正常に動作させるためには好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−191032号公報
【特許文献2】米国特許第6,834,005号公報
【特許文献3】国際公開WO2009/001706 A1
【特許文献4】特開2006−114162号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】N.Sakimura et al., “MRAM Cell TechnologyforOver 500-MHz SoC”, IEEE JOURNAL OF SOLID-STATE CIRCUITS, VOL.42, NO.4,pp.830-838,2007.
【非特許文献2】A.Yamaguchi et al.,“Real-Space ObservationofCurrent-Driven Domain Wall Motion in Submicron Magnetic Wires”, PHYSICAL REVIEWLETTERS,VOL.92,NO.7,077205,2004.
【非特許文献3】S.Fukami et al., “Micromagnetic analysisofcurrent driven domain wall motion in nanostrips with perpendicularmagneticanisotropy”, JOURNAL OF APPLIED PHYSICS, VOL.103, 07E718, (2008).
【非特許文献4】F.J.A. den Broeder et al., Perpendicular MagneticAnisotropy and Coercivity of Co/Ni Multilayers, IEEE TRANSACTIONSONMAGNETICS,VOL. 28, NO. 5, pp.2760-2765, (1992).
【非特許文献5】A.Thiaville et al., “Domain wall motion by spin-polarizedcurrent: a micromagnetic study”, JOURNAL OF APPLIED PHYSICS, VOL.95,NO.11,pp.7049-7051, 2004.
【非特許文献6】G.H.O.Daalderop et al., “PredictionandConfirmation of Perpendicular Magnetic Anisotropy in Co/Ni Multilayers”,PHYSICALREVIEW LETTERS, VOL.68, NO.5, pp.682-685,1992.
【非特許文献7】T.Suzuki et al., “Evaluation ofScalabilityfor Current-Driven Domain Wall Motion in a Co/Ni Multilayer Stripfor MemoryApplications”, IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL.45, NO.10,pp.3776-3779, (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、垂直磁気異方性を有するデータ記憶層を備えた磁気メモリであって、データ記憶層が強い垂直磁気異方性を有し、かつ、データ記憶層とその下方に設けられた磁化固定層との間の磁気的結合が強い磁気メモリを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一の観点では、磁気メモリが、垂直磁気異方性を有し、磁化方向が固定された磁化固定層と、層間絶縁層と、磁化固定層と層間絶縁層の上面に形成された下地層と、下地層の上面に形成された、垂直磁気異方性を有するデータ記憶層とを備えている。下地層は、磁性材料で形成された第1磁性下地層と、第1磁性下地層の上に形成された非磁性下地層とを備えている。第1磁性下地層が、層間絶縁層の上において面内磁気異方性を発現しないような膜厚で形成されている。
【0017】
一実施形態では、第1磁性下地層の膜厚は、層間絶縁層の上において第1磁性下地層が強磁性を発現しないように調節されている。
【0018】
本発明の更に他の観点では、磁気メモリが、垂直磁気異方性を有し、磁化方向が固定された磁化固定層と、層間絶縁層と、磁化固定層と層間絶縁層の上面に形成された下地層と、下地層の上面に形成された、垂直磁気異方性を有するデータ記憶層とを備えている。下地層は、磁性材料で形成された第1磁性下地層と、第1磁性下地層の上に形成された非磁性下地層とを備えている。第1磁性下地層は、NiFeを主成分として含み、且つ、Zr、Ta、W、Hf及びVからなる群から選択された少なくとも一の非磁性元素を含む。第1磁性下地層の膜厚は、0.5nm以上、3nm以下である。
【0019】
本発明の更に他の観点では、磁気メモリが、垂直磁気異方性を有し、磁化方向が固定された磁化固定層と、層間絶縁層と、磁化固定層と層間絶縁層の上面に形成された下地層と、下地層の上面に形成された、垂直磁気異方性を有するデータ記憶層とを備えている。下地層は、第1磁性下地層と、第1磁性下地層の上に形成された非磁性下地層
とを備えている。第1磁性下地層は、Co又はFeを主成分として含み、且つ、Zr、Ta、W、Hf及びVからなる群から選択された少なくとも一の非磁性元素を含む。第1磁性下地層の膜厚は、0.5nm以上、3nm以下である。
【0020】
本発明の更に他の観点では、磁気メモリが、強磁性体の下地層と、下地層上に設けられた非磁性体の中間層と、中間層上に設けられ、垂直磁気異方性を有する強磁性体のデータ記憶層と、非磁性層を介してデータ記憶層に接続された参照層と、下地層の下側に接して設けられた第1磁化固定層及び第2磁化固定層とを具備する。データ記憶層は、反転可能な磁化を有し参照層とオーバーラップする磁化自由領域と、磁化自由領域の第1境界に接続され、第1磁化固定層に磁化の向きが第1方向に固定された第1磁化固定領域と、磁化自由領域の第2境界に接続され、第2磁化固定層に磁化の向きが第1方向と反平行な第2方向に固定された第2磁化固定領域とを備えている。中間層は、膜厚0.1nm以上2.0nm以下のTaである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、データ記憶層が強い垂直磁気異方性を有し、かつ、データ記憶層とその下方に設けられた磁化固定層との間の磁気的結合が強い磁気メモリを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来の磁気抵抗効果素子の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の概略的な構成を示す断面図である。
【図3A】データ“0”が書き込まれた磁気抵抗効果素子の状態を示す概念図である。
【図3B】データ“1”が書き込まれた磁気抵抗効果素子の状態を示す概念図である。
【図4A】NiFeW膜の、膜厚に対する磁化の大きさの変化を示すグラフである。
【図4B】NiFeZr膜の、膜厚に対する磁化の大きさの変化を示すグラフである。
【図4C】NiFeTa膜の、膜厚に対する磁化の大きさの変化を示すグラフである。
【図5A】非磁性下地層に対応するPt膜を介して作用する結合磁界のPt膜厚に対する変化を示す表である。
【図5B】非磁性下地層に対応するPd膜を介して作用する結合磁界のPd膜厚に対する変化を示す表である。
【図5C】非磁性下地層に対応するIr膜を介して作用する結合磁界のIr膜厚に対する変化を示す表である。
【図6A】第1の実施形態の実施例1において、第2磁性下地層がない場合のデータ記憶層の磁化−磁界曲線を示すグラフである。
【図6B】第1の実施形態の実施例1において、第2磁性下地層におけるCo膜、Pt膜の積層回数が1回である場合のデータ記憶層の磁化−磁界曲線を示すグラフである。
【図6C】第1の実施形態の実施例1において、第2磁性下地層におけるCo膜、Pt膜の積層回数が2回である場合のデータ記憶層の磁化−磁界曲線を示すグラフである。
【図6D】第1の実施形態の実施例1において、第2磁性下地層におけるCo膜、Pt膜の積層回数が3回である場合のデータ記憶層の磁化−磁界曲線を示すグラフである。
【図6E】非磁性下地層に相当するPt膜の上に形成されたCo/Pt積層膜の磁化−磁界曲線を示すグラフである。
【図7】飽和磁界Hsの定義を説明するグラフである。
【図8】第1の実施形態の実施例1における、第2磁性下地層におけるCo膜、Pt膜の積層回数と飽和磁界Hsの関係を示すグラフである。
【図9】第1の実施形態の実施例1における、第2磁性下地層におけるCo膜、Pt膜の積層回数、飽和磁界Hs及び書き込み電流の関係を示すグラフである。
【図10】第1の実施形態の比較例1の構成を示す断面図である。
【図11A】第1の実施形態の実施例1における、第2磁性下地層におけるCo膜、Pt膜の膜厚比と飽和磁界Hsの関係を示すグラフである。ただし、第1磁性下地層としてはNiFeW膜、非磁性下地層としてはPt膜が使用されている。
【図11B】第1の実施形態の実施例1における、第2磁性下地層におけるCo膜、Pt膜の膜厚比と飽和磁界Hsの関係を示すグラフである。ただし、第1磁性下地層としてはNiFeV膜、非磁性下地層としてはAu膜が使用されている。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の概略的な構成を示す断面図である。
【図13A】磁気トンネル接合の第1磁性下地層の材料による依存性を示すグラフである。
【図13B】第1磁性下地層がNiFeZrである場合のデータ記憶層と磁化固定層の結合状態を示す磁化−磁界曲線である。
【図13C】第1磁性下地層がNiFeZrである場合のデータ記憶層と磁化固定層の結合状態を示す磁化−磁界曲線である。
【図13D】第1磁性下地層がCoTaである場合のデータ記憶層と磁化固定層の結合状態を示す磁化−磁界曲線である。
【図13E】第1磁性下地層がCoTaである場合のデータ記憶層と磁化固定層の結合状態を示す磁化−磁界曲線である。
【図14A】第1磁性下地層がCoTaである場合の第1磁性下地層の膜厚と磁化−磁界曲線の関係を示す図である。
【図14B】第1磁性下地層がCoTaである場合の第1磁性下地層の膜厚と磁化の大きさの関係を示す図である。
【図15A】第2の実施形態において、第2磁性下地層がない場合のデータ記憶層の磁化−磁界曲線を示すグラフである。
【図15B】第2の実施形態において、第2磁性下地層におけるCo膜、Pt膜の積層回数が1回である場合のデータ記憶層の磁化−磁界曲線を示すグラフである。
【図15C】第2の実施形態において、第2磁性下地層におけるCo膜、Pt膜の積層回数が2回である場合のデータ記憶層の磁化−磁界曲線を示すグラフである。
【図16】第2の実施形態における、第2磁性下地層におけるCo膜、Pt膜の積層回数と飽和磁界Hsの関係を示すグラフである。
【図17】第2の実施形態における、第2磁性下地層におけるCo膜、Pt膜の積層回数、飽和磁界Hs及び書き込み電流の関係を示すグラフである。
【図18】第2の実施形態における、第2磁性下地層におけるCo膜、Pt膜の膜厚比と飽和磁界Hsの関係を示すグラフである。ただし、第1磁性下地層としてはCoTa膜が使用されている。
【図19A】本発明の第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成を示す断面図である。
【図19B】第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の磁気記録層の構成を示す断面図である。
【図20A】図20Aは、比較例1の磁気抵抗効果素子の構成を示す断面図である。
【図20B】図20Bは、比較例1の磁気抵抗効果素子の構成を示す断面図である。
【図21A】図20A及び図20Bの構成を有するデータ記憶層の膜に外部磁場を印加した場合の磁化曲線の一例を示すグラフである。
【図21B】図20A及び図20Bの構成を有するデータ記憶層の膜に外部磁場を印加した場合の磁化曲線の一例を示すグラフである。
【図22A】図20A及び図20Bの構成を有するデータ記憶層の膜に熱処理を施した後に外部磁場を印加した場合の磁化曲線の一例を示すグラフである。
【図22B】図20A及び図20Bの構成を有するデータ記憶層の膜に熱処理を施した後に外部磁場を印加した場合の磁化曲線の一例を示すグラフである。
【図23A】実施例1の磁気抵抗効果素子の構成を示す断面図である。
【図23B】実施例1の磁気抵抗効果素子の構成を示す断面図である。
【図24A】図23A及び図23Bの構成を有するデータ記憶層の膜に外部磁場を印加した場合の磁化曲線の一例を示すグラフである。
【図24B】図23A及び図23Bの構成を有するデータ記憶層の膜に外部磁場を印加した場合の磁化曲線の一例を示すグラフである。
【図25】図25は、中間層の膜厚及び熱処理の温度と飽和磁界との関係の一例を示すグラフである。
【図26】図26は、図23A及び図23Bの構成を有するデータ記憶層の膜に外部磁場を印加した場合の磁化曲線の一例を示すグラフである。
【図27】本発明の一実施形態における磁気メモリの構成例を示すブロック図である。
【図28】本発明の一実施形態におけるメモリセルの構成例を示す模式回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付図面を参照して、本発明の電流誘起磁壁移動型の磁気抵抗効果素子、及びそれを用いた磁気ランダムアクセスメモリの実施形態について説明する。
【0024】
第1の実施形態:
図2は、本発明の第1の実施形態の磁気抵抗効果素子100の構成を示す概略断面図である。磁気抵抗効果素子100は、データ記憶層10と、スペーサ層20と、参照層30と、下地層40と、磁化固定層50a、50bとを備えている。
【0025】
データ記憶層10は、垂直磁気異方性を有する強磁性体で形成されている。データ記憶層10は、磁化方向が反転可能な領域を含んでおり、その磁化状態に応じてデータを記憶する。より詳細には、データ記憶層10は、2つの磁化固定領域11a、11bと磁化自由領域13とを有している。
【0026】
磁化固定領域11a、11bは、磁化自由領域13にそれぞれ隣接して設けられている。磁化固定領域11a、11bの磁化は互いに逆方向(反平行)に固定されている。図2の例では、磁化固定領域11aの磁化方向は+z方向に固定され、磁化固定領域11bの磁化方向は−z方向に固定されている。
【0027】
一方、磁化自由領域13の磁化は反転可能であり、+z方向又は−z方向のいずれにも向けられ得る。従って、磁化自由領域13の磁化方向に応じて、データ記憶層10内には磁壁が形成される。詳細には、図3Aに図示されているように、磁化自由領域13の磁化方向が+z方向の場合、磁化自由領域13と磁化固定領域11bとの間に磁壁12が形成される。一方、図3Bに図示されているように、磁化自由領域13の磁化方向が−z方向の場合、磁化自由領域13と磁化固定領域11aとの間に磁壁12が形成される。すなわち、データ記憶層10は磁壁12を有し、その磁壁12の位置は磁化自由領域13の磁化方向に対応している。
【0028】
スペーサ層20は、データ記憶層10に隣接して設けられている。スペーサ層20は、少なくともデータ記憶層10の磁化自由領域13の上面に接するように設けられている。このスペーサ層20は非磁性の絶縁体で形成されている。
【0029】
参照層30は、スペーサ層20の上面に接するように設けられている。つまり、参照層30は、スペーサ層20を介してデータ記憶層10(磁化自由領域13)に接続されている。データ記憶層10と同様に、参照層30も垂直磁気異方性を有する強磁性体で形成され、その磁化方向は+z方向又は−z方向に固定される。図2の例では、参照層30の磁化方向は、+z方向に固定されている。
【0030】
以上に説明されたデータ記憶層10の磁化自由領域13と、スペーサ層20と、参照層30とは、磁気トンネル接合(Magnetic
Tunnel Junction; MTJ)を形成している。すなわち、データ記憶層10(磁化自由領域13)、スペーサ層20、及び参照層30は、MTJにおけるフリー層、バリア層、及びピン層に相当する。
【0031】
下地層40は、データ記憶層10の下面に(即ち基板側に)設けられている。下地層40は、データ記憶層10の配向性を向上させてデータ記憶層10に強い垂直磁気異方性を発現させるために使用される。下地層40の構造と機能については、後に詳細に議論する。
【0032】
磁化固定層50a、50bは、垂直磁気異方性を有する磁気的にハードな強磁性体で形成され、その磁化方向は+z方向又は−z方向に固定される。磁化固定層50a、50bは、データ記憶層10の磁化固定領域11a、11bの磁化を固定するためのものである。磁化固定領域11aの磁化は磁化固定層50aとの磁気的な結合によって固定され、磁化固定領域11bの磁化は磁化固定層50bとの磁気的な結合によって固定される。本実施形態では、磁化固定層50a、50bは、層間絶縁層60に埋め込まれている。本実施形態では、磁化固定層50a、50bとしてCoPt合金膜、又は、Co/Pt積層膜(薄いCo膜とPt膜とが交互に積層された積層膜)が用いられる。これらの硬質磁性材料は、強い垂直磁気異方性を示す。
【0033】
層間絶縁層60は、一般的な半導体集積回路で使用される層間分離のための絶縁膜である。層間絶縁層60としては、例えば、SiO膜、SiN膜、又はそれらの積層膜が使用され得る。
【0034】
なお、上記に加えて、図示されない電極層が、データ記憶層10の磁化固定領域11a、11bのそれぞれに電気的に接続されている。これらの電極層は、データ記憶層10に書き込み電流を導入するために用いられる。一実施形態では、該電極層は、上述した磁化固定層50a、50bを介してデータ記憶層10の磁化固定領域11a、11bに接続することができる。また、他の電極層(図示されず)が参照層30に電気的に接続されている。
【0035】
本実施形態の磁気抵抗効果素子100では、データ記憶層10の磁化状態、すなわち、データ記憶層10中の磁壁の位置に対応して、2つの記憶状態が実現される。図3Aに図示されているように、データ記憶層10の磁化自由領域13の磁化方向が+z方向の場合、磁化自由領域13と磁化固定領域11bとの境界に、磁壁12が形成される。また、磁化自由領域13の磁化方向と参照層30の磁化方向は、互いに平行である。従って、MTJの抵抗値は比較的小さくなる。このような磁化状態は、例えばデータ“0”の記憶状態に対応付けられる。
【0036】
一方、図3Bに図示されているように、データ記憶層10の磁化自由領域13の磁化方向が−z方向の場合、磁化自由領域13と磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12が形成される。また、磁化自由領域13の磁化方向と参照層30の磁化方向は、互いに反平行である。従って、MTJの抵抗値は比較的大きくなる。このような磁化状態は、例えばデータ“1”の記憶状態に対応付けられる。
【0037】
但し、データ記憶層10の磁化状態と2つの記憶状態との間の対応関係は上記に限られないことに留意されたい。すなわち、データ記憶層10が磁壁12を有しており、その磁壁12の位置が磁化自由領域13の磁化方向に対応している。結果として、データ記憶層10は、その磁壁12の位置に対応してデータを記憶していることになる。
【0038】
本実施形態の磁気抵抗効果素子100は、電流誘起磁壁移動を用いてデータ書き込みが行われる。図3Aに図示されているようなデータ“0”が記憶されている状態(磁化自由領域13の磁化方向と参照層30の磁化方向が互いに平行)においてデータ“1”を書き込む場合、磁化固定領域11aから磁化自由領域13を経由して磁化固定領域11bへ書き込み電流が流される。この場合、伝導電子は、磁化固定領域11bから磁化自由領域13を経由して磁化固定領域11aへと流れる。このとき、磁化固定領域11bと磁化自由領域13の境界近傍に位置している磁壁12にスピントランスファートルク(Spin Transfer Torque; STT)が働き、磁壁12が磁化固定領域11aに向けて移動する。すなわち、電流誘起磁壁移動が起こる。書き込み電流の電流密度は、磁化固定領域11aと磁化自由領域13との境界よりも磁化固定領域11aの側で減少するため、磁壁12の移動はその境界の近傍で停止する。このようにして、磁壁12が磁化固定領域11aと磁化自由領域13の境界近傍に移動し、データ“1”の書き込みが実現される。
【0039】
一方、図3Bに図示されているようなデータ“1”が記憶されている状態(磁化自由領域13の磁化方向と参照層30の磁化方向は互いに反平行)においてデータ“0”を書き込む場合、磁化固定領域11bから磁化自由領域13を経由して磁化固定領域11aへ書き込み電流を流す。この場合、伝導電子は、磁化固定領域11aから磁化自由領域13を経由して磁化固定領域11bへと流れる。このとき、磁化固定領域11aと磁化自由領域13の境界近傍に位置している磁壁12にはスピントランスファートルクが働き、磁壁12は、磁化固定領域11bに向けて移動する。すなわち、電流誘起磁壁移動が起こる。書き込み電流の電流密度は、磁化固定領域11bと磁化自由領域13との境界よりも磁化固定領域11bの側で減少するため、磁壁12の移動はその境界近傍で停止する。このようにして、磁壁12が第2磁化固定領域11bと磁化自由領域13の境界近傍に移動し、データ“0”の書き込みが実現される。
【0040】
なお、データ“0”が記憶されている状態においてデータ“0”の書き込みが行われた場合、及びデータ“1”が記憶されている状態においてデータ“1”の書き込みが行われた場合には状態変化は起こらない。すなわち、本実施形態の磁気抵抗効果素子100は、オーバーライトが可能である。
【0041】
一方、データ読み出しは、トンネル磁気抵抗効果(Tunneling Magnetoresistive effect;
TMR effect)を利用して行われる。具体的には、データ読み出しのために、MTJ(データ記憶層10の磁化自由領域13、スペーサ層20、参照層30)を貫通する方向に、読み出し電流が流される。なお、読み出し電流の方向は任意である。磁気抵抗効果素子100にデータ“0”が記憶されている状態の場合、MTJの抵抗値は相対的に小さくなる。一方、データ“1”が記憶されている状態の場合、MTJの抵抗値は比較的大きくなる。従って、この抵抗値の値を検出することで、データを読み出すことができる。
【0042】
続いて、データ記憶層10の好適な態様について説明する。データ記憶層10に求められる望ましい特性は、飽和磁化が小さく、スピン分極率が大きいことである。例えば非特許文献5(A.Thiaville et al.,“Domain wall motion by spin-polarized current: a micromagnetic
study”,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,VOL.95,NO.11,pp.7049-7051,2004.)に開示されているように、電流誘起磁壁移動は、パラメータ:gμBP/2eMsが大きいほど起こり易い。ここで、gはランデのg因子、μBはボーア磁子、Pはスピン分極率、eは電子の素電荷、Msは飽和磁化である。g、μB、eは物理定数であるので、書き込み電流を低減するためには、データ記憶層10の飽和磁化Msを小さく、スピン分極率Pを大きくすることが有効であることが分かる。
【0043】
まず、飽和磁化の観点からは、データ記憶層10として使用される垂直磁気異方性を有する磁性膜としては、Co/Ni、Co/Pt、Co/Pd、CoFe/Ni、CoFe/Pt、CoFe/Pdなどの遷移金属系の交互積層膜が有望である。これらの材料の飽和磁化は比較的小さいことが知られている。より一般的に言えば、データ記憶層10は、第1層と第2層が積層された積層構造を有する。第1の層は、Fe、Co、Niのいずれか、またはこれらの群から選択される複数の材料からなる合金を含有する。第2の層は、Pt、Pd、Au、Ag、Ni、Cuのいずれか、またはこれらの群から選択される複数の材料からなる合金を含有する。
【0044】
上記の積層膜の中でも特にCo/Ni積層膜はスピン分極率が高い。従って、データ記憶層10としてはCo/Ni積層膜が特に好適であると言える。実際に、発明者は、Co/Niを用いることにより制御性の高い磁壁移動が実現されることを、実験を通して確認した。
【0045】
ところで、遷移金属系の交互積層膜(例えば、Co/Ni)は、fcc構造を有し、且つ、(111)面が基板垂直方向に積層したfcc(111)配向結晶構造を有する場合に垂直磁気異方性を発現する。また、非特許文献6(G.H.O.Daalderop et al., “Prediction and Confirmation of Perpendicular
Magnetic Anisotropy in Co/Ni Multilayers”, PHYSICAL REVIEW LETTERS, VOL.68,
NO.5, pp.682-685,1992.)によれば、上述のような積層膜の垂直磁気異方性は、それら膜の界面における界面磁気異方性によって発現する。従って、データ記憶層10に良好な垂直磁気異方性を実現させるためには、上述の遷移金属系の交互積層膜が良好なfcc(111)配向で成長できるような「下地層」を設けることが好ましい。
【0046】
本実施形態の磁気抵抗効果素子100は、データ記憶層10を良好なfcc(111)配向した状態で成長でき、良好な垂直磁気異方性が実現されるような下地層40を有している。以下、下地層40について説明する。
【0047】
本実施形態では、下地層40は、3つの層:第1磁性下地層41、非磁性下地層42及び第2磁性下地層43で構成されている。第1磁性下地層41は、磁化固定層50a、50bの上面と、層間絶縁層60の磁化固定層50a、50bの間に位置する部分の上面を被覆するように形成されている。非磁性下地層42は、第1磁性下地層41の上面を被覆するように形成され、第2磁性下地層43は、非磁性下地層42の上面を被覆するように形成されている。第1磁性下地層41は、本質的には強磁性を発現する材料で形成される一方、層間絶縁層60のようなアモルファスの膜の上に形成された場合には強磁性を発現しないような膜厚で形成される。本実施形態では、第1磁性下地層41は、NiFeを主成分として含み、Zr、Ta、W、Hf、Vからなる群から選択された少なくとも一種類の非磁性元素が添加され、該非磁性元素の添加量が10at%〜25at%の範囲である磁性材料で形成されており、且つ、0.5nm〜3nmの膜厚を有している。非磁性下地層42は、fcc構造を有し、且つ、(111)配向性を強く発現する非磁性膜で形成される。本実施形態では、非磁性下地層42は、Pt、Au、Pd、Irのいずれかで構成され、膜厚は0.3nm〜4.0nmの範囲である。第2磁性下地層43は、Pt又はPdのいずれか一つの元素からなる第一の層とFe又はCo又はNiのいずれか一つの元素からなる第二の層が少なくとも1回以上交互に積層された積層磁性膜からなる。
【0048】
このような第1磁性下地層41と非磁性下地層42の組み合わせは、データ記憶層10に強い垂直磁気異方性を発現させながら、データ記憶層10と磁化固定層50a、50bとの間の磁気的結合を強くすることを可能にする。詳細には、第1磁性下地層41と非磁性下地層42は、図2に図示されているように、層間絶縁層60の上方にある部分と磁化固定層50a、50bの上方にある部分とに大別される。一般に、アモルファスの膜の上に形成された膜は配向性が悪いから、アモルファスであるSiO膜又はSiN膜で形成された層間絶縁層60の上方にある部分については、データ記憶層10をfcc(111)配向構造を有するように形成して強い垂直磁気異方性を発現させるという要求が問題になる。一方、磁化固定層50a、50bの上方にある部分については、データ記憶層10と磁化固定層50a、50bとの間の磁気的結合を強くするという要求が問題になる。即ち、下地層40の構造が不適切であると(例えば、下地層40として従来技術に開示されて
いるような厚い非磁性膜を使用すると)、データ記憶層10と磁化固定層50a、50bとの間の磁気的結合が弱くなる。本実施形態の第1磁性下地層41と非磁性下地層42の組み合わせは、このような2つの要求を同時に実現することができる。
【0049】
まず、層間絶縁層60の上方にある部分について議論する。第1磁性下地層41は、層間絶縁層60のようなアモルファスの膜の上に形成された場合、0.5nm〜3nmのような膜厚が薄い領域ではアモルファス状に成長し、その表面エネルギーが大きくなる。その一方で、第1磁性下地層41の層間絶縁層60に接して成膜された部分は、上述したようにアモルファス状に成長すると共に、その磁化がほとんど消失した状態で形成される。このような第1磁性下地層41は、その上に成長する結晶の最稠密面(最低表面エネルギー面)配向を生み出すことが可能となる。さらに、第1磁性下地層41の上に積層される非磁性下地層42は、上述したようにPt、Au、Pd、Irのいずれかで構成されてなり、これらからなる膜はそれ自体がfcc構造を有しているため、結晶の最稠密面がfcc(111)面に配向して成長する。このような構造の非磁性下地層42の上方に、fcc構造を有し、(111)配向した場合に強い垂直磁気異方性を発現する磁性膜を形成することにより、強い垂直磁気異方性を有するデータ記憶層10を実現することができる。ここで、第1磁性下地層41が形成されていることにより、非磁性下地層42の膜厚が薄くても強い垂直磁気異方性を有するデータ記憶層10を形成できることに留意されたい。
【0050】
その一方で、磁化固定層50a、50bの上方にある部分については、データ記憶層10と磁化固定層50a、50bとの間の磁気的結合を強くすることができる。一般的な磁化固定層50a、50bとしてCo/Pt膜やCo−Pt合金のような強い垂直磁気異方性を発現する硬質磁性材料を使用した場合、磁化固定層50a、50bの上に上述した軟磁性体で形成される第1磁性下地層と非磁性下地層とを積層すると、磁化固定層50a、50bからの磁気的作用により、第1磁性下地層41の磁化が磁化固定層50a、50bと同じ垂直方向にそろう現象がみられる。この磁気的な相互作用は、さらに非磁性下地層42を介して、データ記憶層10の一部分(磁化固定領域11a、11b)の磁化を固定し、結果として、データ記憶層10に磁化固定領域11a、11bが形成される。本実施形態では、非磁性下地層42の膜厚が薄い(0.5nm〜4.0nm)ため、データ記憶層10と磁化固定層50a、50bとの間に強固な磁気的結合が得られることに留意されたい。
【0051】
ここで、磁性材料である第1磁性下地層41を層間絶縁層60に直接に接して成膜すると、垂直磁気異方性を低下させる方向への磁気的な影響を及ぼす可能性があるという懸念があるかもしれない。即ち、アモルファスである層間絶縁層60の上に磁性材料である第1磁性下地層41を形成すると、第1磁性下地層41において面内磁気異方性が発現し、データ記憶層10の垂直磁気異方性が低下するという懸念があるかもしれない。しかしながら、実際には、本実施形態では層間絶縁層60の上において第1磁性下地層41の磁化が実質的に消失した状態で形成され、第1磁性下地層41が垂直磁気異方性を有したデータ記憶層10に対して、垂直磁気異方性を低下させるような磁気的な影響を及ぼすことがない。そのため、データ記憶層10においても良好な垂直磁気異方性が実現される。
【0052】
一方、第2磁性下地層43は、データ記憶層10の結晶配向のテンプレートとして働き、データ記憶層10のfcc(111)配向を向上させて垂直磁気異方性をより強くする作用がある。本実施形態では、第2磁性下地層43は、Pt又はPdのいずれかからなる第一の層とFe、Co又はNiのいずれかからなる第二の層とからなる積層膜が、少なくとも1つ積層された積層体で構成されている。このような構造の第2磁性下地層43は、Co/Ni積層膜からなるデータ記憶層10に関して、fcc(111)配向を向上させて垂直磁気異方性を強くすることができる。加えて、このような構造の第2磁性下地層43を使用する場合、積層される積層体の数によってデータ記憶層10の垂直磁気異方性を調節することができる。データ記憶層10の垂直磁気異方性が過剰に強いと書き込み電流が増加するため、データ記憶層10の垂直磁気異方性は適切な範囲に調節されることが望ましい。
【0053】
ここで、fcc(111)配向構造が形成されやすい磁性膜がデータ記憶層10として使用される場合には、第2磁性下地層43は必ずしも必要でないことに留意されたい。Co/Ni積層膜がデータ記憶層10として使用される場合には、Pt、Au、Pd、Irのいずれかで構成される非磁性下地層42の上に直接にデータ記憶層10を成膜しても、強い垂直磁気異方性が得られない。このような場合には、第2磁性下地層43を使用することにより、相対的にfcc(111)配向構造が形成されにくいCo/Ni積層膜がデータ記憶層10として使用されても、強い垂直磁気異方性を得る事ができる。一方、Pt又はPdのいずれかからなる第一の層とFe、Co又はNiのいずれかからなる第二の層とからなる積層磁性膜のようにfcc(111)配向構造が形成されやすい磁性膜がデータ記憶層10として使用される場合には、非磁性下地層42の上に直接にデータ記憶層10を形成してもよい。
【0054】
以上に議論されているように、下地層40として、第1磁性下地層41と非磁性下地層42と第2磁性下地層43の積層構造を用いることで、データ記憶層10に強い垂直磁気異方性を発現させ、かつ、データ記憶層10と磁化固定層50a、50bとの間の磁気的結合を強くする事ができる。発明者は、以上に述べたことを実験により確認した。以下では、その実験結果について説明する。
【0055】
(実験1:第1磁性下地層41の磁気特性)
まず、第1磁性下地層41の磁気特性、及び、好適な膜厚範囲について述べる。前述したように、第1磁性下地層41は、図2に図示されているように、層間絶縁層60(SiN膜又はSiO膜)と接する部分と磁化固定層50a、50bと接する領域とに大別される。
【0056】
まず、第1磁性下地層41の層間絶縁層60(SiN膜又はSiO2膜)に接した部分について考察するために、Si基板の表面にSiN膜又はSiO膜が20nm成膜された基板上にNiFeW膜が形成され、その磁化が測定された。成膜されたNiFeW膜の膜厚は、1nm〜10nmの範囲にあった。また、成膜されたNiFeW膜の組成は、Wが12.5(at%)であり、残部がNiFe母材であった。ここで、NiFe母材におけるNiとFeとの比は、Niが77.5に対してFeが22.5であった。各々の試料は真空中で350℃2時間のアニール処理が行われている。磁化の計測時には膜面垂直方向に磁界が印加された。しかしながら、NiFeW膜の膜厚が1nm〜10nmの範囲では角型性の良いヒステリシスを有したM−Hループが得られず、NiFeW膜は強磁性を示さない膜又は面内磁化膜であることが確認できた。
【0057】
図4Aに、NiFeW膜の膜厚に対する磁化の大きさをプロットした図を示す。図4Aに図示されているように、NiFeW膜の直下にある膜がSiN膜及びSiO膜のいずれであるかに関わらず、膜厚が4nm以上では、膜厚の増加に伴い磁化が単調に増加する傾向がみられた。一方、0.5nm以上、3nm以下の範囲、特に、2nm未満の範囲ではSiN膜及びSiO膜の両方の場合について磁化が4nm以上の膜厚のNiFeW膜の磁化に比べかなり小さい磁化が観測された。この結果は、層間絶縁層60上にNiFeW膜を成膜した場合、膜厚が薄い領域では磁化が発現できないことを示している。
【0058】
このように、0.5nm〜3nmの範囲のNiFeW膜を第1磁性下地層として用いた場合、非磁性下地層を介して、第2磁性下地層に磁気的な影響を与えることがないため、第2磁性下地層が有する垂直磁気異方性が乱されることなく形成でき、Co/Niからなるデータ記憶層の垂直磁気異方性に影響を与えることはない。従って、Co/Niからなるデータ記憶層10においても良好なfcc(111)配向が実現される。
【0059】
一方、3nmより厚いNiFeW膜を第1磁性下地層41として用いた場合、非磁性下地層42を介して、第2磁性下地層43及びデータ記憶層10に磁気的な影響を及ぼすためにデータ記憶層10の垂直磁気異方性が弱まるため好ましくない。また、0.5nmより薄いNiFeW膜を第1磁性下地層41として用いた場合、層間絶縁層60の凹凸の影響が第1磁性下地層41を介して、非磁性下地層42に影響を及ぼすため、データ記憶層10の良好なfcc(111)配向が阻害される。以上の議論から、第1磁性下地層として好適なNiFeW膜の厚さは、0.5nm〜3nmの範囲であることが分かる。
【0060】
同様の議論は、上述したNiFeにWを添加したNiFeW膜のみならず、Zr、Ta、Hf、Vからなる群から選択された少なくとも一種類の非磁性元素を添加した場合においてもあてはまる。例えば、図4Bは、NiFeZr膜の膜厚に対する磁化の大きさをプロットした図であり、図4Cは、NiFeTa膜の膜厚に対する磁化の大きさをプロットした図である。ここで、図4B、図4Cは、Si基板の表面にSiN膜が20nm成膜された基板上に、それぞれNiFeZr膜、NiFeTa膜を形成し、その磁化を測定することによって得られたものである。NiFeZr膜、NiFeTa膜についても同様に、0.5nm以上、3nm以下の範囲、特に、2nm未満の範囲において、かなり小さい磁化が観測された。この結果は、層間絶縁層60上にNiFeZr膜、NiFeTa膜を成膜した場合、膜厚が薄い領域では磁化が発現できないことを示している。
【0061】
以上に述べたことから、好適な第1磁性下地層41の膜厚範囲は、0.5nm以上3nm以下であり、一層に好適な膜厚範囲は、0.5nm以上、2nm未満である。
【0062】
(実験2:第1磁性下地層41の結晶構造)
続いて、上述したNiFeを主成分として含み、Zr、Ta、W、Hf、Vからなる群から選択された少なくとも一種類の非磁性元素を含む第1磁性下地層41について、非磁性元素の添加量と結晶構造の関係についての実験結果について述べる。この実験では、NiFe母材に、Zr、Ta、W、Hf及びVのいずれかが添加された膜が形成され、形成された膜の結晶構造がX線回折装置を用いて調べられた。ここで主成分であるNiFe母材の組成比は、Ni:Fe=77.5:22.5であった。また、形成された膜の膜厚は、15nmであった。
【0063】
その結果、Zr、Ta、W、Hf及びVからなる群から選択された少なくとも一種類の非磁性元素を添加したNiFeX膜(X:Zr、Ta、W、Hf、V)は、非磁性元素の添加量が10at%〜25at%の範囲では、いずれの非磁性元素を添加した場合においてもブロードな回折プロファイルを発現し、アモルファス構造を有していることを確認した。非磁性元素の添加量が10at%未満ではNiFe由来の結晶構造が観測され、25at%を超えた範囲ではNiFeと非磁性元素の化合物及び混合物の回折ピークが観測された。このことは、Zr、Ta、W、Hf及びVからなる群から選択された少なくとも一種類の非磁性元素を添加したNiFeX膜(X:Zr、Ta、W、Hf、V)を第1磁性下地層41として使用する場合、非磁性元素の添加量の好ましい範囲が10at%〜25at%であることを示している。
【0064】
以上に述べたように、NiFeを主成分として含み、Zr、Ta、W、Hf、Vからなる群から選択された少なくとも一種類の非磁性元素を含む第1磁性下地層41は、膜厚を0.5nm〜3nmの範囲とすることで磁化がほぼ消失した。このような現象を発現させるためには、非磁性元素(Zr、Ta、W、Hf、V)の添加量は、10at%〜25at%の範囲であることが好ましい。
【0065】
(実験3:データ記憶層10と磁化固定層50a、50bとの間の磁気的結合)
続いて、データ記憶層10と磁化固定層50a、50bとの間の磁気的結合の強さと非磁性下地層42の膜厚の関係についての実験結果について述べる。この実験では、磁化固定層50a、50b、第1磁性下地層41、非磁性下地層42、第2磁性下地層43及びデータ記憶層10にそれぞれに対応する膜を備える積層構造が形成された。ここでは、磁化固定層50a、50bに対応する磁性膜としては、Co膜とPt膜が交互に積層されたCo/Pt積層膜が用いられた。また、第1磁性下地層41に対応する膜として膜厚1.5nmのNiFeZr膜、非磁性下地層42に対応する膜としてPt膜、第2磁性下地層43に対応する膜として膜厚0.4nmのCo膜と膜厚0.8nmのPt膜とが交互に複数回積層されたCo/Pt積層膜が用いられた。更に、データ記憶層10に対応する膜としては、膜厚0.3nmのCo膜と膜厚0.6nmのNi膜とが交互に5回積層されたCo/Ni積層膜が用いられた。上述した構成を有し、且つ、非磁性下地層42に対応するPt膜の膜厚が0.3nm〜5nmの範囲で異なる試料が作製され、その磁気特性が測定された。作成された各々の試料は真空中で350℃2時間のアニール処理を行っている。
【0066】
図5Aは、(非磁性下地層42に対応する)Pt膜の各膜厚に対する、当該Pt膜を介して作用する結合磁界の大きさの関係を示す表である。図5Aに示されているように、非磁性下地層42に対応するPt膜の膜厚が0.5nm〜4.0nmの範囲では、1900(Oe)〜1975(Oe)の結合磁界が観測された。これは、以下の要因によるものと考えている。磁化固定層50a、50bに対応するCo/Pt積層膜が第1磁性下地層41に対応するNiFeZr膜の下地として機能するため、このCo/Pt積層膜の磁化の影響により、薄いNiFeZr膜が垂直磁気異方性を持つ。さらに、Co/Pt積層膜及びNiFeZr膜の垂直方向の磁化は、非磁性下地層42に対応するPt膜を介して、第2磁性下地層43に対応するCo/Pt積層膜に影響を及ぼし、Pt膜厚が比較的薄い範囲では、磁気的に結合する。さらに第2磁性下地層43に対応するCo/Pt積層膜は、その上に積層されるデータ記憶層10に対応するCo/Ni積層膜と磁気的に結合する。結果として、非磁性下地層42に対応するPt膜を介して1900(Oe)〜1975(Oe)程度の結合磁界が作用する。これは、磁化固定層50a、50bとデータ記憶層10との間の磁気的結合によってデータ記憶層10の磁化固定領域11a、11bの磁化を固定することができる事を意味している。
【0067】
一方、非磁性下地層42に対応するPt膜の膜厚が4.5nm以上の範囲では結合磁界がゼロとなった。これは、非磁性下地層42として膜厚が4.5nm以上のPt膜を使用した場合には、磁化固定層50a、50bとデータ記憶層10の磁化が磁気的に結合しない、即ち、データ記憶層10の磁化固定領域11a、11bの磁化を固定できない事を意味している。
【0068】
なお、非磁性下地層42に対応するPt膜の膜厚が0.3nmと薄い場合には、磁化固定層50a、50bに対応するCo/Pt積層膜とデータ記憶層10に対応するCo/Ni積層膜とが磁気的に結合はしているが、結合磁界は相対的に小さい。これは、Pt膜厚が薄いためにPt膜がfcc(111)方向に十分に配向せず、その上に積層されるCo/Ni積層膜もfcc(111)配向が弱まるためである。以上のことから、非磁性下地層42としてPt膜を用いた場合、Pt膜の膜厚としては0.5nm〜4.0nmの範囲が望ましいことが分かる。
【0069】
同様の結果は、Au膜、Pd膜及びIr膜のいずれの膜を用いた場合でも得られる。例えば、図5Bは、第1磁性下地層41に対応する膜として膜厚1.5nmのNiFeTa膜、非磁性下地層42に対応する膜としてPd膜を用いた場合の、Pd膜の各膜厚に対する、当該Pd膜を介して作用する結合磁界の大きさの関係を示す表である。図5Bに示されているように、非磁性下地層42に対応するPd膜の膜厚が0.5nm〜4.0nmの範囲では、1910(Oe)〜1975(Oe)の結合磁界が観測された。一方、非磁性下地層42に対応するPd膜の膜厚が4.5nm以上の範囲では結合磁界がゼロ、又はゼロに近い値となった。また、非磁性下地層42に対応するPd膜の膜厚が0.3nmと薄い場合には、やや結合磁界が低下し、1630(Oe)の結合磁界が観測された。
【0070】
更に、図5Cは、第1磁性下地層41に対応する膜として膜厚1.5nmのNiFeTa膜、非磁性下地層42に対応する膜としてIr膜を用いた場合の、Ir膜の各膜厚に対する、当該Ir膜を介して作用する結合磁界の大きさの関係を示す表である。図5Cに示されているように、非磁性下地層42に対応するIr膜の膜厚が0.5nm〜4.0nmの範囲では、1930(Oe)〜1965(Oe)の結合磁界が観測された。一方、非磁性下地層42に対応するIr膜の膜厚が4.5nm以上の範囲では結合磁界がゼロとなった。また、非磁性下地層42に対応するIr膜の膜厚が0.3nmと薄い場合には、やや結合磁界が低下し、1700(Oe)の結合磁界が観測された。
【0071】
以上の結果は、非磁性下地層42の膜厚としては、0.5nm〜4.0nmの範囲が望ましいことを示している。
【0072】
(実験4:磁気抵抗効果素子100の磁気的特性)
更に、上述の下地層40が適用された磁気抵抗効果素子100の磁気的特性についての実験結果を述べる。この実験では、上述の下地層40が適用された磁気抵抗効果素子100が実際に作成され、データ記憶層10の磁気的特性が測定された。
【0073】
実施例1として、次のような構造の磁気抵抗効果素子100が作成された。下地層40としては、第1磁性下地層41と非磁性下地層42と第2磁性下地層43が順次この順に形成された。第1磁性下地層41として膜厚1.5nmのNiFeZr膜、非磁性下地層42として膜厚2nmのPt膜、第2磁性下地層として膜厚0.4nmのCo膜と膜厚0.8nmのPt膜とが交互に複数回積層された積層磁性膜を用いた。またデータ記憶層10としては、膜厚0.3nmのCo膜と膜厚0.6nmのNi膜を交互に5回積層したCo/Ni積層膜を用いた。上述した構成において、第2磁性下地層43として用いたCo膜とPt膜の積層回数を0回〜4回の間で変化させた磁気抵抗効果素子100を作製した。なお、磁気抵抗効果素子100の幅は100nmであった。また、これらの磁気抵抗効果素子100は、下地層40及びデータ記憶層10を形成後に、真空中で350℃、2時間のアニール処理を行っている。
【0074】
図6A〜図6Dに、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数を0回〜3回の範囲で変化させた場合の、データ記憶層10の磁化−磁界曲線を測定した図を示す。図6Aに示されているように、積層回数がゼロの場合はデータ記憶層10の垂直磁気異方性が相対的に弱く面内成分が混ざった膜となっている。一方、図6B〜図6Dに図示されているように、積層回数が増えるに従い、M−Hループの角型性が向上し、垂直磁気異方性が強くなる傾向にあることが判る。このことは、データ記憶層10として比較的fcc(111)配向が得られにくいCo/Ni積層膜について、第2磁性下地層43を使用することによって350℃、2時間のアニール処理を行った後も強い垂直磁気異方性を得る事ができる事を意味している。
【0075】
また、第1磁性下地層41として膜厚1.5nmのNiFeZr膜、非磁性下地層42として膜厚2nmのPt膜を用い、その非磁性下地層42の上に、膜厚0.4nmのCo膜と膜厚0.8nmのPt膜とが交互に複数回積層されたCo/Pt積層磁性膜を積層した場合についても、同様の測定が行われた。当該積層磁性膜におけるCo膜とPt膜の積層回数は、1回であった。図6Eは、Co/Pt積層磁性膜が使用された場合の磁化−磁界曲線を測定した図を示す。図6Eに図示されているように、比較的fcc(111)配向が形成されやすいCo/Pt積層磁性膜については、角型性が良好な磁化−磁界曲線が得られる。
【0076】
このことには、2つの技術的意味がある。第1に、データ記憶層10としてCo/Pt積層磁性膜を使用することで、垂直磁気異方性が強いデータ記憶層10が得られることが分かる。第2に、Co/Pt積層磁性膜を第2磁性下地層43として用いることによって、良好なfcc(111)配向を持つ第2磁性下地層43を形成でき、更には、その上に形成されるデータ記憶層10(例えば、Co/Ni積層磁性膜)の垂直磁気異方性を向上させることができる。
【0077】
更に、第2磁性下地層43としてCo/Pt積層磁性膜を用い、データ記憶層10としてCo/Ni積層磁性膜を使用した場合のデータ記憶層10について飽和磁界Hsが測定された。本明細書でいう飽和磁界Hsの定義を図7に示す。本明細書でいう飽和磁界Hsとは、データ記憶層10の面内方向に外部磁界を印加し、データ記憶層10の磁化が外部磁界の方向に揃った時点での磁界の大きさである。例えば、図7において、Hs1は試料(1)の飽和磁界を示しており、Hs2は試料(2)の飽和磁界を示している。飽和磁界Hsが大きいということは、垂直磁気異方性が大きい事を意味している。例えば、図7では、試料(1)の方が試料(2)に比べて飽和磁界Hs、即ち、磁化の向きが外部磁界の方向に揃う磁界が大きく、これは、試料(1)の方が垂直磁気異方性が大きいことを意味している。
【0078】
図8に、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数を0回〜4回の範囲で変化させた場合のデータ記憶層10の飽和磁界Hsと積層回数の関係を示す。図8より、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数の増加に伴って飽和磁界Hsが増加し、垂直磁気異方性が強くなっていることが判る。
【0079】
図9に、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数と、飽和磁界Hs及び書き込み電流の関係を示す。書き込み電流の電流値は、データ記憶層10で磁壁移動を起こすために必要な書き込み電流の最小値を示している。なお、実験方法の詳細については、非特許文献7(T.Suzuki et al., “Evaluation of Scalability for Current-Driven Domain
Wall Motion in a Co/Ni Multilayer Strip for Memory Applications”,IEEE TRANSACTIONS
ON MAGNETICS, VOL.45, NO.10, pp.3776-3779, (2009).)に記載されている。
【0080】
第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数がゼロの場合(即ち、第2磁性下地層43が存在しない場合)、電流による明確な磁壁移動が観測されなかったため、書き込み電流の計測ができなかった。これは、図6Aに示されているように、データ記憶層10の垂直磁気異方性が相対的に弱く面内成分が混ざった膜であることに起因していると考えられる。
【0081】
第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数がゼロでない場合、積層回数が増加するに従い書き込み電流は徐々に増加した。積層回数が4回になると、飽和磁界Hsが10000(Oe)近傍になると共に、急激に書き込み電流が増加し、0.5mAを超えた。上述した非特許文献1によれば、書き込み電流を0.5mA以下に低減することでセル面積が既存の混載SRAMと同等になることが示されている。
【0082】
以上に説明されているように、データ記憶層10としてCo/Ni積層膜を使用した場合、このように、第2磁性下地層43としてCo/Pt積層膜を使用することによってデータ記憶層10の垂直磁気異方性を強化できることが分かった。加えて、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数を調節することにより、データ記憶層10の垂直磁気異方性を適当な大きさに制御し、磁壁移動を起こすための書き込み電流(磁壁移動電流)をより低くすることができることが分かった。垂直磁気異方性を適当な大きさにする飽和磁界Hsの範囲は3000(Oe)≦Hs≦10000(Oe)であり、これに対応する第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数は1回〜3回の範囲であった。
【0083】
比較例1として、図10に図示されているように、下地層70が、第1磁性下地層71と非磁性下地層72で構成され、第1磁性下地層71に膜厚2nmのNiFeB膜、非磁性下地層72に膜厚2nmのPt膜が用いられた磁気抵抗効果素子300が作製された。その上に、データ記憶層10として、膜厚0.3nmのCo膜と膜厚0.6nmのNi膜を交互に5回積層したCo/Ni積層膜が形成された。この磁気抵抗効果素子300は、実施例1と同様に、下地層70及びデータ記憶層10を形成後に、真空中で350℃、2時間のアニール処理を行っている。
【0084】
この磁気抵抗効果素子300のデータ記憶層10の飽和磁界Hsを計測したところ、飽和磁界Hsは約1050(Oe)の値を示した。また、膜面垂直方向に磁界を印加して測定された磁化−磁界曲線から、磁気抵抗効果素子300のデータ記憶層10は、面内成分を含んだ垂直磁気異方性が非常に弱い膜であることが確認できた。NiFeB膜は、膜厚に依らず面内磁気異方性を有した面内膜であり、さらに熱処理により磁化が増加する。このため、非磁性下地層72を介してデータ記憶層10(Co/Ni積層膜)の磁化を面内方向に倒す作用が働き、結果として、データ記憶層10は垂直磁気異方性の弱い面内膜となってしまったためと考えられる。
【0085】
更に、実施例2として、第1磁性下地層41として膜厚1.5nmのNiFeW膜が使用された磁気抵抗効果素子100が作成された。他の構成は、実施例1の磁気抵抗効果素子100と同じである。詳細には、下地層40として第1磁性下地層41と非磁性下地層42と第2磁性下地層43が順次この順に形成された。第1磁性下地層41として膜厚1.5nmのNiFeW膜、非磁性下地層42として膜厚2nmのPt膜が使用された。また、第2磁性下地層43としては、Co膜とPt膜とが交互に複数回積層された積層磁性膜を用いた。またデータ記憶層10としては、膜厚0.3nmのCo膜と膜厚0.6nmのNi膜を交互に5回積層したCo/Ni積層膜を用いた。各々の磁気抵抗効果素子100は真空中で350℃、2時間のアニール処理を行っている。上述した構成において、第2磁性下地層43のPt膜とCo膜の膜厚の比と積層回数を変化させた場合の飽和磁界Hsとの関係を調べた。図11Aに、Pt膜厚とCo膜厚の比を変化させて、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数を逐次変化させた場合の飽和磁界Hsとの関係を示す。図11Aより、Pt膜厚とCo膜厚の比が1.0〜5.0の範囲では、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数が1回〜3回の場合に飽和磁界Hsが3000(Oe)〜5500(Oe)の範囲となり、データ記憶層10が電流による磁壁駆動が可能となる垂直磁気異方性を有していることが判る。
【0086】
更に、実施例3として、第1磁性下地層41として膜厚1.5nmのNiFeV膜が使用され、非磁性下地層42として膜厚2nmのAu膜が使用されている磁気抵抗効果素子100が作成された。他の構成は、実施例1、実施例2と同様である。この構成において、第2磁性下地層43のPt膜とCo膜の膜厚の比と積層回数を変化させた場合の飽和磁界Hsとの関係を調べた。図11Bに、Pt膜厚とCo膜厚の比を変化させて、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数を逐次変化させた場合の飽和磁界Hsとの関係を示す。図11Bでも同様に、Pt膜厚とCo膜厚の比が1.0〜5.0の範囲において飽和磁界Hsが3000(Oe)〜5500(Oe)の範囲となり、データ記憶層10が電流による磁壁駆動が可能となる垂直磁気異方性を有していることが判る。
【0087】
以上の結果は、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜におけるPt膜厚とCo膜厚の比が1.0〜5.0の範囲が望ましいことを示している。
【0088】
以上に述べた実施例では、第1磁性下地層41としてNiFeZr膜又はNiFeW膜を用い、非磁性下地層42としてPt膜を用い、第2磁性下地層43としてCo膜とPt膜からなる積層膜を用いた場合について説明したが、これらの材料に限定されることはない。第1磁性下地層41の添加元素として、ZrやW以外のTa、Hf又はVから選択された少なくとも一種類の非磁性元素を主成分元素であるNiFeに添加して得られる薄膜材料を用いることで同様の効果が得られることを確認している。また非磁性下地層42として、Pt膜以外にAu膜、Pd膜、Ir膜を用いても同様の効果が得られることを確認している。また、第2磁性下地層43として、上述したCo膜とPt膜の組み合わせ以外に、Pt又はPdのいずれか一つの元素からなる層とFe又はCo又はNiのいずれか一つの元素からなる層の組み合わせでも同様の効果が得られることを確認している。
【0089】
第2の実施形態:
図12は、本発明の第2の実施形態における磁気抵抗効果素子100Aの構成を示す断面図である。第2の実施形態の磁気抵抗効果素子100Aは、第1の実施形態の磁気抵抗効果素子100と類似した構造を有しているが、下地層の構造が異なっている。第1の実施形態では、下地層40の第1磁性下地層41が、本質的には強磁性を発現する材料で形成される一方で、強磁性を発現しないような膜厚で形成されている。一方、第2の実施形態では、下地層40Aの第1磁性下地層41Aが、本質的には面内磁気異方性を示す磁性材料で形成される一方で、垂直磁気異方性を発現するような薄い膜厚(具体的には、0.5nm〜3nm)で形成されている。第1磁性下地層41Aは、Co又はFeを主成分として含み、且つ、Zr、Ta、W、Hf及びVからなる群から選択された少なくとも一の非磁性元素を含むアモルファス磁性体として形成される。
【0090】
一方、第2の実施形態における非磁性下地層42、第2磁性下地層43、及びデータ記憶層10の構成は、第1の実施形態と同様である。非磁性下地層42は、fcc構造を有し、且つ、(111)配向性を強く発現する非磁性膜で形成される。本実施形態では、非磁性下地層42は、Pt、Au、Pd、Irのいずれかで構成され、膜厚は0.3nm〜4.0nmの範囲である。第2磁性下地層43は、Pt又はPdのいずれか一つの元素からなる第一の層とFe又はCo又はNiのいずれか一つの元素からなる第二の層が少なくとも1回以上交互に積層された積層磁性膜からなる。また、データ記憶層10として使用される垂直磁気異方性を有する磁性膜としては、Co/Ni、Co/Pt、Co/Pd、CoFe/Ni、CoFe/Pt、CoFe/Pdなどの遷移金属系の交互積層膜が有望である。これらの材料の飽和磁化は比較的小さいことが知られている。より一般的に言えば、データ記憶層10は、第1層と第2層が積層された積層構造を有する。第1の層は、Fe、Co、Niのいずれか、またはこれらの群から選択される複数の材料からなる合金を含有する。第2の層は、Pt、Pd、Au、Ag、Ni、Cuのいずれか、またはこれらの群から選択される複数の材料からなる合金を含有する。上記の積層膜の中でも特にCo/Ni積層膜はスピン分極率が高い。従って、データ記憶層10としてはCo/Ni積層膜が特に好適であると言える。
【0091】
以下では、第2の実施形態の第1磁性下地層41Aの有利性について議論する。第1の実施形態の第1磁性下地層41と同様に、層間絶縁層60のようなアモルファスの膜の上に形成された場合、第1磁性下地層41Aは、0.5nm〜3nmのような膜厚が薄い領域ではアモルファス状に成長し、その表面エネルギーが大きくなる。このような第1磁性下地層41Aは、その上に成長する結晶の最稠密面(最低表面エネルギー面)配向を生み出すことが可能となる。さらに、第1磁性下地層41Aの上に積層される非磁性下地層42は、上述したようにPt、Au、Pd、Irのいずれかで構成されてなり、これらからなる膜はそれ自体がfcc構造を有しているため、結晶の最稠密面がfcc(111)面に配向して成長する。このような構造の非磁性下地層42の上方に、fcc構造を有し、(111)配向した場合に強い垂直磁気異方性を発現する磁性膜を形成することにより、強い垂直磁気異方性を有するデータ記憶層10を実現することができる。ここで、第1磁性下地層41Aが形成されていることにより、非磁性下地層42の膜厚が薄くても強い垂直磁気異方性を有するデータ記憶層10を形成できることに留意されたい。
【0092】
ここで、第2の実施形態の第1磁性下地層41Aは、Co又はFeを主成分として含み、且つ、Zr、Ta、W、Hf及びVからなる群から選択された少なくとも一の非磁性元素を含む材料で形成されるが、このような材料は本来的には面内磁気異方性を示す。これは、一見、データ記憶層10の垂直磁気異方性を低下させるように見えるかもしれない。しかしながら、実際には、このような材料で形成された第1磁性下地層41Aは、0.5nm〜3nmのような薄い膜厚においては、弱い垂直磁気異方性を持つアモルファス磁性体として形成される。弱い垂直磁気異方性を持つ第2の実施形態の第1磁性下地層41Aでも、磁化がほとんど消失した状態で形成される第1の実施形態の第1磁性下地層41と同様に、データ記憶層10の垂直磁気異方性は阻害されない。したがって、第2の実施形態の第1磁性下地層41Aも、強い垂直磁気異方性を有するデータ記憶層10を形成するために有効である。
【0093】
その一方で、第1磁性下地層41Aの磁化固定層50a、50bの上方にある部分については、データ記憶層10と磁化固定層50a、50bとの間の磁気的結合を強くすることができる。一般的な磁化固定層50a、50bとしてCo/Pt膜やCo−Pt合金のような強い垂直磁気異方性を発現する硬質磁性材料を使用した場合、磁化固定層50a、50bの上に上述した軟磁性体で形成される第1磁性下地層41Aと非磁性下地層42とを積層すると、磁化固定層50a、50bからの磁気的作用により、第1磁性下地層41Aの磁化が磁化固定層50a、50bと同じ垂直方向にそろう現象がみられる。この磁気的な相互作用は、さらに非磁性下地層42を介して、データ記憶層10の一部分(磁化固定領域11a、11b)の磁化を固定し、結果として、データ記憶層10に磁化固定領域11a、11bが形成される。本実施形態では、非磁性下地層42の膜厚が薄い(0.5nm〜4.0nm)ため、データ記憶層10と磁化固定層50a、50bとの間に強固な磁気的結合が得られることに留意されたい。
【0094】
後述の実験結果らから理解されるように、第2の実施形態の第1磁性下地層41Aは、第1の実施形態の第1磁性下地層41と比較して、データ記憶層10の強い垂直磁気異方性を促進する効果が高く、磁気抵抗効果素子のMR比を増大することができる。加えて、第2の実施形態の第1磁性下地層41Aは、第1の実施形態の第1磁性下地層41と比較して、データ記憶層10と磁化固定層50a、50bとの間の磁気的結合を強める作用が高い。以下では、その実験結果について説明する。
【0095】
(実験1:磁気トンネル接合のMR比の下地層依存性)
まず、データ記憶層10、スペーサ層20、及び参照層30で構成される磁気トンネル接合のMR比の第1磁性下地層41及び41Aの材料に対する依存性を調べた。基板の上に層間絶縁層60に対応する絶縁膜が形成され、その上に、下地層40又は40A、データ記憶層10、スペーサ層20、及び参照層30が形成された。下地層40、40Aとしては、第1磁性下地層41、41Aと非磁性下地層42と第2磁性下地層43とが順次この順に形成された。
【0096】
第1磁性下地層41又は41Aとしては、膜厚1.5nmのNiFeZr膜、CoTa膜、CoZr膜又はFeZr膜が用いられた。NiFeW膜の組成は、Wが12.5(at%)であり、残部がNiFe母材であった。ここで、NiFe母材におけるNiとFeとの比は、Niが77.5に対してFeが22.5であった。CoTa膜の組成は、Taが20(at%)であり、残部がCo母材であった。CoZr膜の組成は、Zrが20(at%)であり、残部がCo母材であった。FeZr膜の組成は、Zrが20(at%)であり、残部がFe母材であった。NiFeZr膜は、第1の実施形態の第1磁性下地層41に対応しており、CoTa膜、CoZr膜又はFeZr膜は、第2の実施形態の第1磁性下地層41Aに対応している。
【0097】
更に、非磁性下地層42として膜厚2nmのPt膜、第2磁性下地層として膜厚0.4nmのCo膜と膜厚0.8nmのPt膜とが交互に複数回積層された積層磁性膜を用いた。またデータ記憶層10としては、膜厚0.3nmのCo膜と膜厚0.6nmのNi膜を交互に5回積層したCo/Ni積層膜を用いた。このように形成された試料の幅は100nmであった。また、これらの試料は、下地層(40又は40A)、データ記憶層10、スペーサ層20、及び参照層30を形成した後に、真空中で300〜350℃、2時間のアニール処理を行っている。
【0098】
図13Aは、MR比の第1磁性下地層(41又は41A)に対する依存性を示すグラフである。図13Aに図示されているように、NiFeZr膜(第1の実施形態の第1磁性下地層41に対応)については、磁気トンネル接合が23〜42程度のMR比を示した(これは、実用上は十分な値である)。一方、CoTa膜、CoZr膜及びFeZr膜(第2の実施形態の第1磁性下地層41に対応)については、磁気トンネル接合が53〜65程度のMR比を示し、得られたMR比は、NiFeZr膜よりも高かった。MR比の向上の効果は、特に、アニール処理の温度が低い場合(具体的には、アニール温度が300℃の場合)に顕著であった。この結果は、第2の実施形態の第1磁性下地層41Aが、第1の実施形態の第1磁性下地層41と比較してデータ記憶層10の強い垂直磁気異方性を促進する効果が高く、磁気抵抗効果素子のMR比を増大できることを示唆している。
【0099】
(実験2:磁化固定層50a、50bとデータ記憶層10の結合状態の評価)
続いて、磁化固定層50a、50bとデータ記憶層10の結合状態の評価が行われた。基板の上に磁化固定層50a、50bに対応する磁性体膜が形成され、その上に、下地層40又は40Aとデータ記憶層10とが形成された。下地層40、40Aとしては、第1磁性下地層41、41Aと非磁性下地層42と第2磁性下地層43とが順次この順に形成された。
【0100】
第1磁性下地層41又は41Aとしては、膜厚1.5nmのNiFeZr膜、CoTa膜が用いられた。NiFeZr膜は、第1の実施形態の第1磁性下地層41に対応しており、CoTa膜は、第2の実施形態の第1磁性下地層41Aに対応している。NiFeZr膜の組成は、Zrが12.5(at%)であり、残部がNiFe母材であった。ここで、NiFe母材におけるNiとFeとの比は、Niが77.5に対してFeが22.5であった。CoTa膜の組成は、Taが20(at%)であり、残部がCo母材であった。
【0101】
更に、非磁性下地層42として膜厚2nmのPt膜、第2磁性下地層として膜厚0.4nmのCo膜と膜厚0.8nmのPt膜とが交互に複数回積層された積層磁性膜を用いた。データ記憶層10としては、膜厚0.3nmのCo膜と膜厚0.6nmのNi膜を交互に5回積層したCo/Ni積層膜を用いた。試料の幅は100nmであった。また、これらの試料は、下地層40、データ記憶層10を形成した後に、真空中で300〜350℃、2時間のアニール処理を行っている。
【0102】
図13B〜図13Eは、このようにして得られた試料の磁界−磁化曲線を示す。詳細には、図13B、図13Cは、NiFeZr膜を用いた第1磁性下地層41を含む試料のヒステリシスループを示しており、図13D、図13Eは、CoTa膜を用いた第1磁性下地層41Aを含む試料の磁界−磁化曲線を示している。磁化固定層50a、50bに対応する磁性体膜とデータ記憶層10に対応するCo/Ni積層膜の間に十分大きな磁気結合が発現している場合には、当該磁性体膜とCo/Ni積層膜とが一体となって磁化反転を起こし、磁界−磁化曲線として段差のない綺麗なヒステリシスループが観測されることになる。その一方で、発現している磁気結合が弱い場合には、当該磁性体膜とCo/Ni積層膜とが別々に磁化反転を起こすため、磁界−磁化曲線として段差のあるヒステリシスループが観測されることになる。
【0103】
図13B、図13Cに図示されているように、NiFeZr膜を用いた第1磁性下地層41については、アニール処理が350℃である場合に段差のないヒステリシスループが得られるものの、アニール処理が300℃である場合には段差のあるヒステリシスループが観測される。これは、アニール処理が300℃であり、第1磁性下地層41としてNiFeZr膜を用いた場合には、磁化固定層50a、50bに対応する磁性体膜とデータ記憶層10に対応するCo/Ni積層膜の間の磁気的結合が弱くなることを示している。
【0104】
一方、図13D、図13Eに図示されているように、CoTa膜を用いた第1磁性下地層41Aについては、アニール処理が300℃、350℃のいずれの場合でも段差のないヒステリシスループが観測される。これは、第1磁性下地層41AとしてCoTa膜を用いた場合には、磁化固定層50a、50bに対応する磁性体膜とデータ記憶層10に対応するCo/Ni積層膜の間に十分に強い磁気的結合が発現することを示している。言い換えれば、第1磁性下地層41AとしてCoTa膜を用いることで、磁化固定層50a、50bとデータ記憶層10との間の磁気的結合を強くすることができる。
【0105】
(実験3:第1磁性下地層41Aの磁気特性)
続いて、第1磁性下地層41Aの磁気特性、及び、好適な膜厚範囲について述べる。第1磁性下地層41Aの層間絶縁層60(SiN膜又はSiO2膜)に接した部分について考察するために、Si基板の表面にSiN膜が20nm成膜された基板上にCoTa膜が形成され、その磁化が測定された。成膜されたCoTa膜の膜厚は、0.5nm〜5nmの範囲にあった。また、成膜されたCoTa膜の組成は、Taが20(at%)であり、残部がCo母材であった。各々の試料は真空中で350℃2時間のアニール処理が行われている。
【0106】
図14Aは、磁化の計測時に膜面垂直方向に磁界を印加した場合における、CoTa膜の磁化−磁界曲線をプロットした図を示しており、図14Bは、CoTa膜の膜厚に対する磁化の大きさをプロットした図を示している。これは、各試料の垂直磁気異方性を計測していることに相当する。図14Aに示されているように、膜厚が0.5nmの場合には、CoTa膜には、ほぼ磁化が存在しなかった。(面内磁気異方性を発現しない)かかるCoTa膜は、データ記憶層10の垂直磁気異方性の発現に磁気的な影響を及ぼさないので、第1磁性下地層41Aとして適している。
【0107】
膜厚が1.0nm〜3.0nmの範囲では、磁化−磁界曲線がヒステリシスを示した。ただし、図14Bに図示されているように、1.0nm〜3nmの範囲におけるCoTa膜の膜面垂直方向の磁化の大きさは小さい。膜面垂直方向の磁化は、膜厚が増加すると微小な増加を示した。これは、1.0nm〜3nmの範囲において、CoTa膜は、微小な垂直磁気異方性を示すことを意味している。(面内磁気異方性を発現しない)かかるCoTa膜は、データ記憶層10の垂直磁気異方性の発現に磁気的な影響を及ぼさないので、第1磁性下地層41Aとして適している。
【0108】
ただし、膜厚が0.5nmよりも薄い場合には、結晶成長を促すという第1磁性下地膜41Aの本来の機能を果たさなくなる。したがって、第1磁性下地膜41AとしてCoTa膜が使用される場合には、その膜厚は0.5nm以上3.0nm以下であることが好ましい。
【0109】
一方、膜厚が4.0nmの場合には、図14Aから理解されるように、膜面垂直方向の磁化の大きさは小さくなった。ただし、これは、CoTa膜において面内方向に大きな磁化が発生した、即ち、大きな面内磁気異方性が発生したためである。CoTa膜の膜厚が4.0nm以上であると大きな面内磁気異方性が発生し、かかるCoTa膜は、第1磁性下地層41Aとしては不適である。
【0110】
以上の結果から、第1磁性下地層41Aとして適切なCoTa膜の厚さは、0.5nm以上3.0nm以下であることが分かった。
【0111】
発明者は、同様の議論が、上述したCoTa膜のみならず、CoZr膜、FeTa膜、FeZr膜についても成立することを確認した。
【0112】
(実験4:第2磁性下地層43の構造の効果)
更に、上述された、第2の実施形態の第1磁性下地層41Aが適用された磁気抵抗効果素子における第2磁性下地層43の積層回数の効果が確かめられた。具体的には、次のような構造の試料が作成された。下地層40Aとしては、第1磁性下地層41Aと非磁性下地層42と第2磁性下地層43が順次この順に形成された。第1磁性下地層41Aとして膜厚1.5nmのCoTa膜、非磁性下地層42として膜厚2nmのPt膜が使用された。CoTa膜の組成は、Taが20(at%)であり、残部がCo母材であった。第2磁性下地層として膜厚0.4nmのCo膜と膜厚0.8nmのPt膜とが積層された積層磁性膜を用いた。またデータ記憶層10としては、膜厚0.3nmのCo膜と膜厚0.6nmのNi膜を交互に5回積層したCo/Ni積層膜を用いた。上述した構成において、第2磁性下地層43として用いたCo膜とPt膜の積層回数を0回〜4回の間で変化させた磁気抵抗効果素子100を作製した。なお、作製した試料の幅は100nmであった。また、これらの試料は、下地層40A及びデータ記憶層10を形成後に、真空中で350℃、2時間のアニール処理を行っている。
【0113】
図15A〜図15Cに、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数を0回〜2回の範囲で変化させた場合の、データ記憶層10の磁化−磁界曲線を測定した図を示す。図15Aに示されているように、積層回数がゼロの場合はデータ記憶層10の垂直磁気異方性が相対的に弱く面内成分が混ざった膜となっている。一方、図15B〜図15Cに図示されているように、積層回数が増えるに従い、M−Hループの角型性が向上し、垂直磁気異方性が強くなる傾向にあることが判る。このことは、データ記憶層10として比較的fcc(111)配向が得られにくいCo/Ni積層膜について、第2磁性下地層43を使用することによって350℃、2時間のアニール処理を行った後も強い垂直磁気異方性を得る事ができる事を意味している。
【0114】
このことには、2つの技術的意味がある。第1に、データ記憶層10としてCo/Pt積層磁性膜を使用することで、垂直磁気異方性が強いデータ記憶層10が得られる。第2に、Co/Pt積層磁性膜を第2磁性下地層43として用いることによって、良好なfcc(111)配向を持つ第2磁性下地層43を形成でき、更には、その上に形成されるデータ記憶層10(例えば、Co/Pt積層磁性膜)の垂直磁気異方性を向上させることができる。
【0115】
更に、第1磁性下地層41AとしてCoTa膜を用い、第2磁性下地層43としてCo/Pt積層磁性膜を用い、データ記憶層10としてCo/Pt積層磁性膜を使用した場合のデータ記憶層10について飽和磁界Hsが測定された。図16に、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数を0回〜4回の範囲で変化させた場合のデータ記憶層10の飽和磁界Hsと積層回数の関係を示す。図16より、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数の増加に伴って飽和磁界Hsが増加し、垂直磁気異方性が強くなっていることが判る。
【0116】
図17に、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数と、飽和磁界Hs及び書き込み電流の関係を示す。書き込み電流の電流値は、データ記憶層10で磁壁移動を起こすために必要な書き込み電流の最小値を示している。なお、実験方法の詳細については、非特許文献7(T.Suzuki et al., “Evaluation of Scalability for Current-Driven Domain
Wall Motion in a Co/Ni Multilayer Strip for Memory Applications”,IEEE TRANSACTIONS
ON MAGNETICS, VOL.45, NO.10, pp.3776-3779, (2009).)に記載されている。
【0117】
第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数がゼロの場合(即ち、第2磁性下地層43が存在しない場合)、電流による明確な磁壁移動が観測されなかったため、書き込み電流の計測ができなかった。これは、図15Aに示されているように、データ記憶層10の垂直磁気異方性が相対的に弱く面内成分が混ざった膜であることに起因していると考えられる。
【0118】
第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数がゼロでない場合、積層回数が増加するに従い書き込み電流は徐々に増加した。積層回数が4回になると、飽和磁界Hsが10000(Oe)近傍になると共に、急激に書き込み電流が増加し、0.5mAを超えた。上述した非特許文献1によれば、書き込み電流を0.5mA以下に低減することでセル面積が既存の混載SRAMと同等になることが示されている。
【0119】
以上に説明されているように、第1磁性下地層41AとしてCoTa膜を使用し、データ記憶層10としてCo/Ni積層膜を使用した場合、第2磁性下地層43としてCo/Pt積層膜を使用することによってデータ記憶層10の垂直磁気異方性を強化できることが分かった。加えて、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数を調節することにより、データ記憶層10の垂直磁気異方性を適当な大きさに制御し、磁壁移動を起こすための書き込み電流(磁壁移動電流)をより低くすることができることが分かった。垂直磁気異方性を適当な大きさにする飽和磁界Hsの範囲は3000(Oe)≦Hs≦10000(Oe)であり、これに対応する第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数は1回〜3回の範囲であった。
【0120】
更に、第2磁性下地層43における、Pt膜とCo膜の膜厚の比の効果が調べられた。詳細には、下地層40Aとして第1磁性下地層41Aと非磁性下地層42と第2磁性下地層43が順次この順に形成された。第1磁性下地層41Aとして膜厚1.5nmのCoTa膜、非磁性下地層42として膜厚2nmのPt膜が使用された。また、第2磁性下地層43としては、Co膜とPt膜とが交互に複数回積層された積層磁性膜を用いた。またデータ記憶層10としては、膜厚0.3nmのCo膜と膜厚0.6nmのNi膜を交互に5回積層したCo/Ni積層膜を用いた。各々の試料は真空中で350℃、2時間のアニール処理を行っている。上述した構成において、第2磁性下地層43のPt膜とCo膜の膜厚の比と積層回数を変化させた場合の飽和磁界Hsとの関係を調べた。
【0121】
図18に、Pt膜厚とCo膜厚の比を変化させて、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数を逐次変化させた場合の飽和磁界Hsとの関係を示す。図18より、Pt膜厚とCo膜厚の比が1.0〜5.0の範囲では、第2磁性下地層43のCo膜とPt膜の積層回数が1回〜3回の場合に飽和磁界Hsが3000(Oe)〜5500(Oe)の範囲となり、データ記憶層10が電流による磁壁駆動が可能となる垂直磁気異方性を有していることが判る。
【0122】
第3の実施形態:
図19Aは、本発明の第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子100Bの構成を示す断面図であり、図19Bは、第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の磁気記録層の構成を示す断面図である。ただし、図19Bは、図19AにおけるSS’断面図である。
【0123】
第3の実施形態の磁気抵抗効果素子100Bは、第1の実施形態の磁気抵抗効果素子100と類似した構造を有しているが、下地層の構造が異なっている。第1の実施形態では、下地層40が、第1磁性下地層41と、非磁性下地層42と、第2磁性下地層43とを含んでいる。一方、第3の実施形態では、下地層40Bが、磁性下地層41と、中間層42B(非磁性下地層に相当)とを含んでいる一方で、第1の実施形態の第2磁性下地層43に相当する構成要素を含んでいない。データ記憶層10は、中間層42Bの上に形成される。第1の実施形態において第2磁性下地層43が必須の構成要素ではないことは既に議論されているが、本実施形態では、第2磁性下地層43がない場合の最適な構造が提示される。
【0124】
層間絶縁層60に形成された溝に磁化固定層50a、50bが埋め込まれている。なお、層間絶縁層60(例示:SiO、SiNx)の下方には、素子(例示:選択トランジスタTra、Trb)や配線(例示:ワード線WL及びビット線BL、/BL)が埋設される。
【0125】
磁性下地層41は、層間絶縁層60及び磁化固定層50a、50bの上面の上に形成されている。磁性下地層41は、その下側(−z側)の両端部(x方向)で磁化固定層50a、50bの上面に接している。磁性下地層41は、磁性体であり、強磁性体であることが好ましい。上述のように、磁性下地層41が強磁性体であることは、磁化固定層50a、50bとデータ記憶層10との磁気的結合を補助するためである。
【0126】
磁性下地層41は、アモルファス又は微結晶構造であることが好ましい。磁性下地層41の表面の平坦性が高くなるからである。ただし、微結晶構造は、例えば、数nm〜20nm程度の粒径の結晶を有する結晶相を含み、アモルファス相との混相であっても良い。磁性下地層41の表面が平坦であることは、その上に中間層42Bを介して積層されるデータ記憶層10を所望の結晶性を有する膜にするために好ましい。例えば、データ記憶層10が[Co/Ni]n/Pt膜の場合、Co/Niを、垂直磁気異方性が高くなるfcc(111)に配向させるために好ましい。
【0127】
磁性下地層41は、材料として、Ni、Fe及びCoの少なくとも一つを主成分として含み、Zr、Hf、Ti、V、Nb、Ta,W、B、Nからなる群から選択された少なくとも一種類の非磁性元素を含む。ただし、主成分とは、最も多い成分を意味する。例えば、磁性下地層41として、NiFeZr、CoFeB、CoZrMo、CoZrNb、CoZr、CoZrTa、CoHf、CoTa、CoTaHf、CoNbHf,CoZrNb、CoHfPd、CoTaZrNb、CoZrMoNi、CoTiがある。
【0128】
中間層42Bは、磁性下地層41を覆うように積層された非磁性体である。中間層42Bは、その上に積層されるデータ記憶層10の垂直磁気異方性を高めるべく、結晶配向しやすいように表面エネルギーの小さい材料で形成することが好ましい。例えば、中間層42Bは、Ta膜に例示される。中間層42Bは、Ta膜の場合、後述されるように、膜厚0.1nm以上2.0nm以下であることが好ましい。膜厚がこれより薄い場合にはデータ記憶層10の垂直磁気異方性を高めるという効果が著しく低下し、膜厚がこれより厚い場合には磁化固定層50a、50bとデータ記憶層10との磁気的結合が切れてしまうからである。
【0129】
データ記憶層10は、中間層42Bを覆うように積層され、垂直磁気異方性を有する強磁性体である。磁化固定領域11a、11b及び磁化自由領域13は、このデータ記憶層10に形成される。すなわち、データ記憶層10は、磁壁が形成され、磁化自由領域13の磁化方向又は磁壁の位置でデータが記憶される領域である。データ記憶層10は、第1の実施形態及び第2の実施形態で記述されているような、垂直磁気異方性を有する強磁性体材料を用いることができる。
【0130】
以下、第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の実施例について、比較例と比較しながら説明する。垂直磁気異方性の大きさの指標としては飽和磁界が使用される。なお、飽和磁界の定義は、上記において図7を参照しながら定義されている通りである。
【0131】
[比較例1]
図20A及び図20Bは、比較例の磁気抵抗効果素子300Bの構成を示す断面図及び側面図である。ただし、スペーサ層20及び参照層30は省略している。層間絶縁層60は、一例としてSiOを用いた。また、データ記憶層10としては、一例として、垂直磁気異方性を有する材料の中で磁壁移動に適している材料である、Pt膜10bと、CoとNiの積層膜[Co/Ni]n膜10aとを積層した[Co/Ni]n/Pt膜を用いた。なお、ここでは、更にキャップ層としてPt膜10cを積層した。
【0132】
[Co/Ni]n/Pt膜は、Co/Niがfcc(111)に配向するとき垂直磁気異方性が高くなる。しかし、下地膜の材料により結晶配向性が変わり、垂直磁気異方性の大きさも異なる。比較例1では、中間層42Bを用いず、磁性下地層41の上に直接にデータ記憶層10を積層した。磁性下地層41としては、NiFeZr膜を用いた。膜厚は、2.0nmとした。ここでは、膜本来の磁気特性を評価するために、膜にはパターニングを施していない。すなわち、as−deopsoted膜(Pt/[Co/Ni]n/Pt膜/NiFeZr膜)の状態で、データ記憶層10の膜の磁気特性を評価した。磁気特性の評価は、VSM(Vibrating Sample Magnetometer)を用いた(以下、同様)。
【0133】
まず、成膜後に処理を施していないデータ記憶層10の膜の磁気特性について説明する。
図21A及び図21Bは、図20A及び図20Bの構成を有するデータ記憶層の膜に外部磁場を印加した場合の磁化曲線の一例を示すグラフである。縦軸は磁化M×膜厚t(任意単位)、横軸は印加磁場H(Oe)である。ここで、図21Aは、膜面に対し垂直に外部磁場Hを印加した場合の磁化曲線を示している。図21Bは、面内に対し平行に外部磁場Hを印加した場合の磁化曲線を示している。垂直磁場を印加したときの磁化曲線(垂直ループ:図21A)が立っていて、且つそのヒステリシスが大きく、一方で、面内磁場を印加したときの磁化曲線(面内ループ:図21B)が寝ていることがわかる。このことから、このデータ記憶層10の膜は垂直磁気異方性を有する。すなわち、NiFeZr膜上の[Co/Ni]n/Pt膜は垂直磁気異方性を有し、磁壁移動に適している可能性がある。
【0134】
次に、データ記憶層10を300℃、2時間、不活性ガス中で熱処理した後のデータ記憶層10の膜の磁気特性について説明する。
図22A及び図22Bは、図20A及び図20Bの構成を有するデータ記憶層の膜に熱処理を施した後に外部磁場を印加した場合の磁化曲線の一例を示すグラフである。縦軸は磁化M×膜厚t(任意単位)、横軸は印加磁場H(Oe)である。ここで、図22Aは、膜面に対し垂直に外部磁場Hを印加した場合の磁化曲線(垂直ループ)を示している。図22Bは、面内に対し平行に外部磁場Hを印加した場合の磁化曲線(面内ループ)を示している。図21A及び図21Bと比較すると、垂直ループ(図22A)がやや倒れて斜めになり、面内ループ(図22B)が更に立って傾きが急になることがわかる。このことは、300℃の熱処理によりこのデータ記憶層10の膜の垂直磁気異方性が低下したことを示している。更に、図21Aと図22Aとを比較すると、図22Aの方がグラフの縦軸の値、すなわち飽和磁化と膜厚との積(Ms×t)が大きくなっている。これは、300℃の熱処理により面内磁気異方性を有するNiFeZr膜と[Co/Ni]n/Pt膜とが磁気的に結合することで磁化が増大したためである。また、磁気結合により垂直磁気異方性が低下したためと考えられる。
【0135】
[比較例2]
比較例2では、データ記憶層10の構成は比較例1と同様であるが、磁性下地層41としてTa膜を用いた点で、比較例1(磁性下地層41:NiFeZr膜)と異なっている。この場合、Co/Niがfcc(111)に配向する(垂直磁気異方性を有する)ために、Ta膜を用いた場合、膜厚として4.0nm以上が必要であった。この膜厚は、比較例1のNiFeZr膜の膜厚2.0nmと比較して2倍程度であり非常に厚い。このように非磁性体であるTa膜の膜厚が厚いため、比較例2では、磁化固定層50a、50bとデータ記憶層10との間で磁気結合が困難となった。そうなると、磁化固定領域11a、11bの磁化が固定されず、データ記憶層10でデータを記憶できなくなってしまう。
【0136】
以上の比較例1や比較例2から、熱処理後にNiFeZr膜と[Co/Ni]n/Pt膜とが不必要に磁気的に結合しないことや、磁化固定層50a、50bとデータ記憶層10との間での磁気的結合が切れないこと等を考慮して、以下のような実施例を見出した。
【0137】
[実施例1]
図23A及び図23Bは、実施例1の磁気抵抗効果素子の構成を示す断面図及び側面図である。ただし、スペーサ層20及び参照層30は省略している。層間絶縁層60は、一例としてSiOを用いた。また、データ記憶層10としては、比較例1と同様に、垂直磁気異方性を有する材料の中で磁壁移動に適している材料である、Pt膜10bと、CoとNiの積層膜[Co/Ni]n膜10aとを積層した[Co/Ni]n/Pt膜を用いた。なお、ここでも、更にキャップ層としてPt膜10cを積層した。
【0138】
実施例1では、比較例1の構成に対して、磁性下地層41(NiFeZr膜)とデータ記憶層10([Co/Ni]n/Pt膜)とが磁気的に結合をしないように、両層の間に中間層42Bを挿入した。中間層42Bとしては、Ta膜を用いた。膜厚は、2.0nmとした。各層が形成されたPt/[Co/Ni]n/Pt膜/Ta膜/NiFeZr膜の状態で、300℃、2時間、不活性ガス中で熱処理を施した。
【0139】
次に、300℃、2時間、不活性ガス中での熱処理後のデータ記憶層の磁気特性について説明する。
図24A及び図24Bは、図23A及び図23Bの構成を有するデータ記憶層の膜に外部磁場を印加した場合の磁化曲線の一例を示すグラフである。縦軸は磁化M×膜厚t(任意単位)、横軸は印加磁場H(Oe)である。ここで、図24Aは、膜面に対し垂直に外部磁場Hを印加した場合の磁化曲線(垂直ループ)を示している。図24Bは、面内に対し平行に外部磁場Hを印加した場合の磁化曲線(面内ループ)を示している。図21A、図21B、図22A及び図22Bと比較すると、面内ループが寝ていることから350℃熱処理後にも垂直磁気異方性が大きいことがわかる。また、図22Bと比較すると、図24Bの方が、飽和磁界Hs(図7参照)が高いことが分かる。すなわち、図24Bの方が、磁化の向きを外部磁界の方向に向けるのに必要な磁界が高い。従って、中間層42BであるTa膜を挿入した図23A及び図23Bのデータ記憶層10の方が、中間層42Bのない図20A及び図20Bのデータ記憶層10と比較して、データ記憶層10の垂直磁気異方性が大きいことが分かる。
【0140】
上記図23A及び図23Bの構成について、中間層42Bの膜厚及び熱処理の温度と飽和磁界Hsとの関係について説明する。図25は、中間層42Bの膜厚及び熱処理の温度と飽和磁界Hsとの関係の一例を示すグラフである。縦軸は飽和磁界Hs(Oe)、横軸は中間層42BのTa膜の膜厚である。丸印は200℃の熱処理、三角印は350℃の熱処理をそれぞれ示している。200℃の熱処理及び350℃の熱処理のいずれも、Ta膜が無いデータ記憶層10と比較して、Ta膜を膜厚0.1nm以上成膜したデータ記憶層10は、飽和磁界Hsが高い、すなわち、垂直磁気異方性が大きいことがわかる。一方で、Ta膜を膜厚2.0nm以上成膜した構成では、飽和磁界Hsが飽和している。従って、Ta膜の膜厚は2.0nmより厚くする必要はない。特に、上述のように非磁性体であるTa膜の膜厚を厚くし過ぎると、磁化固定層50a、50bとデータ記憶層10との間で磁気結合が困難となる。そうなると、磁化固定領域11a、11bの磁化が固定され
ず、データ記憶層10でデータを記憶できなくなってしまう。加えて、磁性下地層41及び中間層42Bの膜厚が大きくなると、データ記憶層10を含めた書き込み電流の流れる経路が増えるため、製造ばらつき等を考慮すると、書き込み電流の制御が難しくなるおそれがある。したがって、Ta膜の膜厚は0.1nm以上2.0nm以下が好ましい。より好ましくは、0.2nm以上1.0nm以下である。
【0141】
以上の結果に示されるように、中間層42B(例示:Ta膜)の挿入により350℃という高温での熱処理後においても、図23A及び図23Bのデータ記憶層10は、中間層42Bを有さない(Ta膜の膜厚0nm)場合と比較して、高い垂直磁気異方性を有していることが分かる。これは、面内磁気異方性を持つNiFeZr膜(磁性下地層41)と[Co/Ni]n/Pt膜(データ記憶層10)との磁気結合が、Ta膜(中間層42B)により抑制されているためと考えられる。
【0142】
また、中間層42B+磁性下地層41の膜厚が4.0nmと厚い場合にもかかわらず、磁化固定層50a、50bとデータ記憶層10との間での磁気結合が維持されていることが確認された。すなわち、磁化固定領域11a、11bの磁化が磁化固定層50a、50bにより固定されていた。これは、膜厚が4.0nmであるとはいえ、非磁性体のTa膜のみの膜厚を厚くしたのではなく、磁性体のNiFeZr膜の膜厚と合わせた膜厚が厚くなったためと考えられる。この場合、磁性体のNiFeZr膜が、磁化固定層50a、50bとデータ記憶層10との間での磁気結合に何らかの貢献をしていると考えられる。
【0143】
以上のように、中間層42BであるTa膜を膜厚0.1nm以上2.0nm以下で磁性下地層41とデータ記憶層10との間に挿入することにより、データ記憶層の垂直磁気異方性や磁壁移動に対する適性を高くすることができる。また、磁化固定層とデータ記憶層の磁化固定領域との磁気的結合に悪影響を与えず、データ記憶層を熱処理に強くすることができる。その結果、磁気メモリ製造過程を終了した後であっても、データ記憶層が強い垂直磁気異方性を有する磁気メモリを得ることができる。
【0144】
[実施例2]
実施例2では、データ記憶層10の構成は実施例1と同様であるが、中間層42BとしてRu膜及びMg膜を用いた点で、実施例1(中間層42B:Ta膜)と異なっている。図26は、図23A及び図23Bの構成を有するデータ記憶層の膜に外部磁場を印加した場合の磁化曲線の一例を示すグラフである。縦軸は磁化M×膜厚t(任意単位)、横軸は印加磁場H(Oe)である。ここで、図26は、面内に対し平行に外部磁場Hを印加した場合の磁化曲線(面内ループ)を示している。図中の磁化曲線EがTa膜の場合(実施例1)、磁化曲線FがRu膜の場合、磁化曲線GがMg膜の場合をそれぞれ示している。ただし、Ru膜、Mg膜、Ta膜の膜厚はいずれも1.0nmとし、熱処理はいずれも行っていない。
【0145】
図26に示されるように、Ta膜の面内ループ(磁化曲線E)が最も傾きが小さく、飽和磁界Hsが高いことがわかる。Ru膜及びMg膜とTa膜との間の磁気特性の差は、[Co/Ni]n/Pt膜のfcc(111)配向の違いであると考えられる。以上の結果から、[Co/Ni]n/Pt膜の垂直磁気異方性と関係が深いfcc(111)配向には、中間層42BとしてTa膜が非常に適していることが分かる。また、少なくともRu膜及びMg膜は単独では中間層42Bとして必ずしも適しているとは言えないということがわかった。これらRu膜及びMg膜は、例えばTa膜との積層膜により使用可能な場合があると考えられる。
【0146】
磁気メモリ及びメモリセルの構成:
上述の実施形態の磁気抵抗効果素子100、100A、100Bは、磁気メモリのメモリセルとして使用される。以下では、一実施形態における磁気メモリ及びメモリセルの構成を説明する。
【0147】
図27は、本発明の一実施形態の磁気メモリ90の構成例を示すブロック図である。磁気メモリ90は、メモリセルアレイ91、Xドライバ92、Yドライバ93、及びコントローラ94を備えている。メモリセルアレイ91は、アレイ状に配置された複数のメモリセル80と、複数のワード線WLと、複数のビット線対BLa、BLbと、複数のグラウンド線GLとを備えている。各メモリセル80は、対応するワード線WL、グラウンド線GL、及びビット線対BLa、BLbに接続されている。Xドライバ92は、複数のワード線WLのうちアクセス対象のメモリセル80につながる選択ワード線を駆動する。Yドライバ93は、ビット線対BLa、BLbに接続されており、各ビット線を書き込み動作あるいは読み出し動作に応じた状態に設定する。コントローラ94は、書き込み動作あるいは読み出し動作に応じて、Xドライバ92とYドライバ93のそれぞれを制御する。
【0148】
図28は、本発明の一実施形態におけるメモリセル80の構成例を示す模式回路図である。メモリセル80は、2T−1MTJ(2 Transistors-1 Magnetic Tunnel Junction)構成を有しており、具体的には、上述の磁気抵抗効果素子(100、100A、100B)と2つのトランジスタTRa、TRbを含む。該磁気抵抗効果素子(100、100A、100B)は、3つの端子を有している。該磁気抵抗効果素子(100、100A、100B)の参照層30につながる端子は、グラウンド線GLに接続されている。データ記憶層10の磁化固定領域11aにつながる端子は、トランジスタTRaを介してビット線BLaに接続され、磁化固定領域11bにつながる端子は、トランジスタTRbを介してビット線BLbに接続されている。トランジスタTRa、TRbのゲートは、ワード線WLに共通に接続されている。
【0149】
メモリセル80へのアクセスは、下記のようにして行われる。書き込み動作時、ワード線WLはHighレベルに設定され、トランジスタTRa、TRbがONされる。また、ビット線対BLa、BLbのいずれか一方がHighレベルに設定され、他方がLowレベル(グラウンドレベル)に設定される。その結果、トランジスタTRa、TRb、データ記憶層10を経由して、ビット線BLaとビット線BLbとの間で書き込み電流が流れる。これにより、所望のデータがデータ記憶層10に書き込まれる。
【0150】
一方、読み出し動作時には、ワード線WLはHighレベルに設定され、トランジスタTRa、TRbがONされる。また、ビット線BLaはオープン状態に設定され、ビット線BLbはHighレベルに設定される。その結果、読み出し電流Ireadが、ビット線BLbから該磁気抵抗効果素子(100、100A、100B)のMTJを貫通してグラウンド線GLへ流れる。この読み出し電流Ireadを検知することにより、磁気抵抗効果素子100のデータ記憶層10に記憶されているデータが判別される。
【0151】
以上には、本発明の実施形態、実施例が具体的に説明されているが、本発明は、上述の実施形態、実施例に限定して解釈されてはならない。本発明は、当業者には自明な様々な変更がなされて実施され得ることに留意されたい。
【符号の説明】
【0152】
100、100A、100B、300、300B:磁気抵抗効果素子
10:データ記憶層
10a:[Co/Ni]n膜
10b、10c:Pt膜
11a、11b:磁化固定領域
12:磁壁
13:磁化自由領域
20:スペーサ層
30:参照層
40、40A、40B:下地層
41、41A:第1磁性下地層
42:非磁性下地層
42B:中間層
43:第2磁性下地層
50a、50b:磁化固定層
60:層間絶縁層
70:下地層
71:第1磁性下地層
72:非磁性下地層
80:メモリセル
90:磁気メモリ
91:メモリセルアレイ
92:Xドライバ
93:Yドライバ
94:コントローラ
200: 磁気抵抗効果素子
110:データ記憶層
111a、111b:磁化固定領域
112、112a、112b:磁壁
113:磁化自由領域
115a、115b:磁化固定層
120:スペーサ層
130:参照層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気異方性を有し、磁化方向が固定された磁化固定層と、
層間絶縁層と、
前記磁化固定層と前記層間絶縁層の上面に形成された下地層と、
前記下地層の上面に形成された、垂直磁気異方性を有するデータ記憶層
とを備え、
前記下地層は、
磁性材料で形成された第1磁性下地層と、
前記第1磁性下地層の上に形成された非磁性下地層
とを備え、
前記第1磁性下地層が、前記層間絶縁層の上において面内磁気異方性を発現しないような膜厚で形成された
磁気メモリ。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気メモリであって、
前記第1磁性下地層の膜厚が、前記層間絶縁層の上において前記第1磁性下地層が強磁性を発現しないように調節された
磁気メモリ。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気メモリであって、
前記第1磁性下地層は、NiFeを主成分として含み、且つ、Zr、Ta、W、Hf及びVからなる群から選択された少なくとも一の非磁性元素を含む
磁気メモリ。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気メモリであって、
前記第1磁性下地層の膜厚が0.5nm以上、3nm以下である
磁気メモリ。
【請求項5】
垂直磁気異方性を有し、磁化方向が固定された磁化固定層と、
層間絶縁層と、
前記磁化固定層と前記層間絶縁層の上面に形成された下地層と、
前記下地層の上面に形成された、垂直磁気異方性を有するデータ記憶層
とを備え、
前記下地層は、
第1磁性下地層と、
前記第1磁性下地層の上に形成された非磁性下地層
とを備え、
前記第1磁性下地層は、NiFeを主成分として含み、且つ、Zr、Ta、W、Hf及びVからなる群から選択された少なくとも一の非磁性元素を含み、
前記第1磁性下地層の膜厚が0.5nm以上、3nm以下である
磁気メモリ。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の磁気メモリであって、
前記第1磁性下地層の膜厚が0.5nm以上、2nm未満である
磁気メモリ。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれかに記載の磁気メモリであって、
前記第1磁性下地層に含まれる前記少なくとも一の非磁性元素の添加量が10at%以上25at%以下である
磁気メモリ。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気メモリであって、
前記第1磁性下地層が、本質的には面内磁気異方性を示す磁性材料で形成される一方で、前記層間絶縁層の上において垂直磁気異方性を発現するような膜厚で形成された
磁気メモリ。
【請求項9】
請求項8に記載の磁気メモリであって、
前記第1磁性下地層は、Co又はFeを主成分として含み、且つ、Zr、Ta、W、Hf及びVからなる群から選択された少なくとも一の非磁性元素を含むアモルファス磁性体として形成された
磁気メモリ。
【請求項10】
請求項9に記載の磁気メモリであって、
前記第1磁性下地層の膜厚が0.5nm以上、3nm以下である
磁気メモリ。
【請求項11】
垂直磁気異方性を有し、磁化方向が固定された磁化固定層と、
層間絶縁層と、
前記磁化固定層と前記層間絶縁層の上面に形成された下地層と、
前記下地層の上面に形成された、垂直磁気異方性を有するデータ記憶層
とを備え、
前記下地層は、
第1磁性下地層と、
前記第1磁性下地層の上に形成された非磁性下地層
とを備え、
前記第1磁性下地層は、Co又はFeを主成分として含み、且つ、Zr、Ta、W、Hf及びVからなる群から選択された少なくとも一の非磁性元素を含み、
前記第1磁性下地層の膜厚が0.5nm以上、3nm以下である
磁気メモリ。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の磁気メモリであって、
更に、前記非磁性下地層と前記データ記憶層の間に設けられた第2磁性下地層を備え、
前記第2磁性下地層は、Pt又はPdからなる層とFe、Co又はNiのいずれかからなる層とからなる積層膜が、少なくとも1つ積層されて構成されている
磁気メモリ。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載の磁気メモリであって、
前記非磁性下地層が、Pt、Au、Pd及びIrからなる群から選択された元素で構成された
磁気メモリ。
【請求項14】
請求項13に記載の磁気メモリであって、
前記非磁性下地層の膜厚が0.5nm以上、4.0nm未満である
磁気メモリ。
【請求項15】
請求項1乃至9のいずれかに記載の磁気メモリであって、
前記非磁性下地層は、膜厚0.1nm以上2.0nm以下のTaである
磁気メモリ。
【請求項16】
強磁性体の下地層と、
前記下地層上に設けられた非磁性体の中間層と、
前記中間層上に設けられ、垂直磁気異方性を有する強磁性体のデータ記憶層と、
非磁性層を介して前記データ記憶層に接続された参照層と、
前記下地層の下側に接して設けられた第1磁化固定層及び第2磁化固定層と
を具備し、
前記データ記憶層は、
反転可能な磁化を有し前記参照層とオーバーラップする磁化自由領域と、
前記磁化自由領域の第1境界に接続され、前記第1磁化固定層に磁化の向きが第1方向に固定された第1磁化固定領域と、
前記磁化自由領域の第2境界に接続され、前記第2磁化固定層に磁化の向きが前記第1方向と反平行な第2方向に固定された第2磁化固定領域と
を備え、
前記中間層は、膜厚0.1nm以上2.0nm以下のTaである
磁気メモリ。
【請求項17】
請求項16に記載の磁気メモリにおいて、
前記下地層は、アモルファス又は微結晶構造である
磁気メモリ。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の磁気メモリにおいて、
前記下地層は、
Ni、Fe及びCoの少なくとも一つを主成分として含み、
Zr、Hf、Ti、V、Nb、Ta,W、B、Nからなる群から選択された少なくとも一種類の非磁性元素を含む
磁気メモリ。
【請求項19】
請求項16乃至18のいずれか一項に記載の磁気メモリにおいて、
前記データ記憶層は、Fe、Co、Niのうちから選択された少なくとも一つの材料を含む第1層と、Fe、Co、Niのうちから選択された少なくとも一つの材料を含み前記第1層と異なる第2層とを積層させた積層膜をn層(nは自然数)重ねた積層体である
磁気メモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23A】
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【図23B】
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【図24A】
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【図24B】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2012−178541(P2012−178541A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237544(P2011−237544)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】