説明

磁気抵抗素子、及び磁気メモリ

【課題】非磁性層を挟む2つの磁性層間のショートを防ぎつつ、素子形状のばらつきを低減する。
【解決手段】磁気メモリは、基板20上に設けられた層間絶縁層26と、層間絶縁層26上に設けられた導電性の下地層11と、下地層11上に設けられ、かつ2つの磁性層12、13と、これらに挟まれた非磁性層13とを有する磁気抵抗素子とを含む。下地層11のエッチングレートは、各磁性層のそれよりも低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子、及び磁気メモリに係り、例えば磁気抵抗(magnetoresistive)効果を利用して情報を記憶する磁気抵抗素子、及び磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果を情報読み出しに利用した磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:magnetic random access memory)は、高速動作、不揮発性、書き換え回数の面からメモリにとって必要な要素すべてを持つユニバーサルメモリとして、実用化に対し大きな期待を受けている。
【0003】
磁気抵抗効果のうち、トンネル磁気抵抗(TMR: tunneling magnetoresistive)効果を示す素子を用いたMRAMが数多く報告されている。TMR効果素子としては、2枚の磁性層とこれらに挟まれた非磁性層(トンネルバリア層)とからなる積層構造を有し、スピン偏極トンネル効果による磁気抵抗の変化を利用したMTJ(magnetic tunnel junction)素子を使用するのが一般的である。MTJ素子は、2枚の磁性層の磁化配列によって、低抵抗状態と高抵抗状態とをとり得る。低抵抗状態を“0”と定義し、高抵抗状態を“1”と定義することで、MTJ素子に1ビットの情報を記録することができる。
【0004】
また、スピン角運動量移動(SMT:Spin Momentum Transfer、以下、スピン注入という)を利用した書き込み方式を用いたMRAMが知られている。スピン注入型MRAMにおいては素子サイズが書き込み電流に直接影響を及ぼす。すなわち、スピン注入型MRAMの集積化においては、素子サイズを極限まで縮小した上で、なおかつ不良セルを生まない高い歩留まりの加工プロセスが重要である。
【0005】
MTJ素子をスパッタエッチングにより加工する場合、反応生成物がMTJ側面に付着するリデポジションが問題となる。基本的にスパッタエッチングにおいては、エッチングとこのリデポジションとが競合しているが、MTJ側面ではスパッタエッチングに用いるイオンビームの入射角が大きくなるため、エッチングレートに対してリデポジションのほうが優勢になる。一般的にエッチングレートは、入射角がエッチング面の法線に対して大きく(例えば70度以上)なると急激に減少する。このため、MTJのエッチング後のサイズがハードマスク作成時のものより大きくなってしまい微細化を困難にする。
【0006】
さらには、トンネルバリア層を含むMTJをエッチングする際に、リデポジションによる堆積物がトンネルバリア層の側面に付着する。これによって、磁性層間にショートパスを生んでしまい、MTJ素子、ひいてはMRAMの不良発生率を大幅に増大させてしまう。したがって、MTJのエッチングに際してはリデポジションを抑制ないしは除去するプロセスの開発が重要である。
【0007】
また、この種の関連技術として、トップピン構造のMTJを加工する際に、固定層までのエッチングを一度行い、絶縁膜によって固定層を覆った後に記録層をエッチングするプロセスが開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−349671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、非磁性層を挟む2つの磁性層間のショートを防ぎつつ、素子形状のばらつきを低減することが可能な磁気抵抗素子、及び磁気メモリを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る磁気メモリは、基板上に設けられた層間絶縁層と、前記層間絶縁層上に設けられた導電性の下地層と、前記下地層上に設けられ、かつ2つの磁性層と、これらに挟まれた非磁性層とを有する磁気抵抗素子とを具備し、前記下地層のエッチングレートは、各磁性層のそれよりも低いことを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る磁気メモリは、基板上に設けられた層間絶縁層と、前記層間絶縁層内に設けられたコンタクトと、前記コンタクトを囲むようにして前記層間絶縁層上に設けられた絶縁性のストッパ層と、前記コンタクト上に設けられ、かつ2つの磁性層と、これらに挟まれた非磁性層とを有する磁気抵抗素子とを具備し、前記ストッパ層のエッチングレートは、各磁性層のそれよりも低いことを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る磁気抵抗素子は、下地層上に設けられ、かつ第1の磁性層、非磁性層、第2の磁性層が順に積層された積層構造と、前記第2の磁性層の側面を覆い、かつ前記第1の磁性層より低いエッチングレートを有し、かつ前記第1の磁性層に対して3以上のエッチング選択比を有する絶縁材料からなる側壁とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非磁性層を挟む2つの磁性層間のショートを防ぎつつ、素子形状のばらつきを低減することが可能な磁気抵抗素子、及び磁気メモリを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0014】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るMTJ素子10の構成を示す断面図である。MTJ素子10は、それに含まれる2枚の磁性層の相対的な磁化方向によって情報を記憶する記憶素子である。図1中の矢印は、磁化方向を示している。
【0015】
MTJ素子10は、導電性の下地層11、記録層(自由層ともいう)12、非磁性層(トンネルバリア層)13、固定層(参照層ともいう)14、上部電極15(ハードマスク層)が順に積層された積層構造を有する。以下の説明において、記録層12、トンネルバリア層13、及び固定層14からなる部分を、単にMTJと称する。なお、記録層12と固定層14とは、積層順序が逆であってもよい。
【0016】
下地層11は、この上の磁性層の結晶性を制御する下地層11としての機能に加えて、下部電極としての機能と、後述するように、MTJを加工する際のストッパ層としての機能とを備えている。上部電極15は、MTJを加工する際のハードマスク層としての機能を兼ねている。
【0017】
記録層12は、磁化(或いはスピン)の方向が可変である(反転する)。固定層14は、磁化の方向が不変である(固着している)。「固定層14の磁化方向が不変である」とは、記録層12の磁化方向を反転するために使用される磁化反転電流を固定層14に流した場合に、固定層14の磁化方向が変化しないことを意味する。従って、MTJ素子10において、固定層14として反転電流の大きな磁性層を用い、記録層12として固定層14よりも反転電流の小さい磁性層を用いることによって、磁化方向が可変の記録層12と磁化方向が不変の固定層14とを備えたMTJ素子10を実現することができる。スピン偏極電子により磁化反転を引き起こす場合、その反転電流は減衰定数、異方性磁界、及び、体積に比例するため、これらを適切に調整して、記録層12と固定層14との反転電流に差を設けることができる。また、固定層14の磁化を固定する方法としては、固定層14の上に反強磁性層(図示せず)を設けることで、固定層14の磁化方向を固定することができる。
【0018】
記録層12及び固定層14の容易磁化方向は、膜面(或いは積層面)に対して垂直であってもよいし(以下、垂直磁化という)、膜面に対して平行であってもよい(以下、面内磁化という)。垂直磁化の磁性層は、膜面に垂直方向の磁気異方性を有しており、面内磁化の磁性層は、面内方向の磁気異方性を有している。垂直磁化の場合、面内磁化のように磁化方向を決定するのに素子形状を制御する必要がなく、微細化に適しているという利点がある。
【0019】
なお、記録層12及び固定層14の各々は、図示するような単層に限定されず、複数の磁性層からなる積層構造であってもよい。また、記録層12及び固定層14の各々は、第1の磁性層/非磁性層/第2の磁性層の3層からなり、第1及び第2の磁性層の磁化方向が反平行状態となるように磁気結合(交換結合)した反強磁性結合構造であってもよいし、第1及び第2の磁性層の磁化方向が平行状態となるように磁気結合(交換結合)した強磁性結合構造であってもよい。
【0020】
MTJ素子10の平面形状については特に制限がなく、円、楕円、正方形、長方形等のいずれを用いてもよい。また、正方形或いは長方形の角が丸くなった形状、或いは角が欠けた形状であってもよい。
【0021】
次に、MTJ素子10の材料について説明する。記録層12及び固定層14は、高い保磁力を持つ磁性材料から構成され、具体的には、1×10erg/cc以上の高い磁気異方性エネルギー密度を有することが好ましい。記録層12及び固定層14の磁性材料としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つの元素と、クロム(Cr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)のうちの少なくとも1つの元素とを含む合金が挙げられる。飽和磁化の調整、結晶磁気異方性エネルギーの制御、結晶粒径及び結晶粒間結合の調整のために、上記磁性材料に、B(ホウ素)、C(炭素)、Si(シリコン)などの不純物を添加してもよい。トンネルバリア層13としては、絶縁材料が用いられ、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al)が挙げられる。ハードマスク層15としては、タンタル(Ta)等の金属が挙げられる。
【0022】
ところで、MTJを所望の平面形状に加工するためには、ハードマスク層15をマスクとしてMTJ膜をスパッタエッチングする。このスパッタエッチング工程において、エッチングによる反応生成物がMTJ側面に付着するリデポジションが発生する。リデポジションによるMTJ側面への堆積物は、記録層12と固定層14とをショートさせてしまう。
【0023】
そこで、本実施形態では、MTJ側面への堆積物を除去するために、MTJ膜をスパッタエッチングする際、このスパッタエッチングが下地層11まで達した後の過剰なエッチング、いわゆるオーバーエッチングを行う。オーバーエッチングの程度は、MTJ側面への堆積物が除去されるまで行われる。
【0024】
図2は、MTJ側面の堆積物を除去するオーバーエッチングを説明する図である。まず、層間絶縁層(図示せず)上に、下地層11、MTJ膜(記録層12、トンネルバリア層13、固定層14)、ハードマスク層15を順に堆積する。そして、リソグラフィ及び例えばRIE(Reactive Ion Etching)法を用いて、ハードマスク層15を所望の平面形状に加工する。
【0025】
続いて、図2(a)に示すように、アルゴン(Ar)などの希ガスのプラズマを発生させ、プラズマ中のArイオン(Ar+)を用いて、MTJ膜をスパッタエッチングする。スパッタエッチングでは、Arイオンは、磁性層のエッチングレートが大きくなるように、MTJ膜の上面にほぼ垂直に入射される。このMTJ膜のスパッタエッチングによって、MTJ側面に、リデポジションによる堆積物16が形成される。
【0026】
図2(b)は、スパッタエッチングによって下地層11が露出した様子を示す図である。図2(b)に示すように、MTJ側面には、リデポジションによる堆積物16が形成されている。
【0027】
この後、さらにスパッタエッチングを継続して、MTJをオーバーエッチングする。図2(c)は、オーバーエッチングによってMTJ側面の堆積物16を除去した様子を示す図である。このオーバーエッチングにより、MTJのショートを防ぐことができる。
【0028】
なお、堆積物16除去のためにオーバーエッチングをする際には、下地層11もエッチングされるため、エッチングレートが十分低くないと下地層11が薄くなり、下地層11の抵抗が上昇する。結果的に、MTJ素子10の寄生抵抗が増大して信号比を悪化させる。このため、本実施形態では、磁性層をエッチングする条件での下地層11のエッチングレートが低い、すなわち高エッチング選択比になるように、下地層11の導電材料が選択される。換言すると、下地層11のエッチングレートは、磁性層のそれより低く、さらに、下地層11と磁性層とのエッチング選択比が高くなるように設定される。エッチング選択比とは、「エッチング対象のエッチングレート/エッチング非対象のエッチングレート」である。このエッチング選択比は、高いほど好ましいが、オーバーエッチング時に下地層11の抵抗が増加しないようにするためには、3以上であることが好ましい。
【0029】
また、堆積物16の側面は下地層11の上面に対して大きく傾いているため、堆積物16の側面にArイオンが入射する角度(イオン入射角)は大きくなる。なお、入射角とは、エッチング面の法線とイオン入射ベクトルとの間のなす角である。下地層11からMTJ側面へのリデポジションを抑制するためには、下地層11には、エッチング面への垂直入射時に対してエッチングレートの角度依存性が大きい導電材料が必要となる。
【0030】
図3は、エッチングレートとイオン入射角との関係を示すグラフである。横軸がイオン入射角θ(度)、縦軸がエッチングレート(Å/min)である。エッチング時のイオンとしては、例えばアルゴン(Ar)イオンを用いており、Arイオンの加速電圧は例えば200Vである。図3には、下地層11に使用される導電材料の一例として、タンタル(Ta)及び窒化チタン(TiN)のエッチングレートを示している。また、この他に、記録層12或いは固定層14に使用される磁性材料の一例として、FePtBのエッチングレートを図3に示している。
【0031】
図3に示すように、エッチング面への垂直入射(イオン入射角θ=0)時におけるTiNとFePtBとのエッチング選択比は、3以上である。また、TiNは、イオン入射角θが0度以上60度以下の範囲においてエッチングレートの変化量が大きく、かつ、イオン入射角θが0度以上40度以下の範囲においてイオン入射角θが大きくなるにつれてエッチングレートが大きくなっている。このような条件を満たす導電材料としては、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(TaN)、窒化クロム(CrN)、TaSiNなどが挙げられる。これらの導電材料に共通する特性は、磁性層(FePtB)とのエッチング選択比が3以上であり、イオン入射角θが0度以上60度以下の範囲においてエッチングレートが大きくなる箇所を有することである。
【0032】
オーバーエッチング時における下地層11からの反応生成物の発生量は、下地層11のエッチングレートに比例するが、このときの発生量はイオン入射角θ=0の時のエッチングレートとなる。一方、MTJ側面に付着した下地層11からの堆積物は、Arイオンによって除去されるが、このときのエッチングレートはイオン入射角が大きい場合のエッチングレートとなる。このため、前述した導電材料からなる下地層11を用いることで、下地層11からMTJ側面へのリデポジションを抑制し、かつ、MTJ側面に付着した下地層11からの堆積物を効果的に除去することが可能となる。
【0033】
次に、図1に示したMTJ素子10を用いたMRAMの構成例について説明する。図4は、第1の実施形態に係るMRAMの構成を示す断面図である。
【0034】
P型導電性の基板20は、例えばP型半導体基板、P型ウェルを有する半導体基板、P型半導体層を有するSOI(Silicon On Insulator)型基板などである。半導体基板20としては、例えばシリコン(Si)が用いられる。
【0035】
半導体基板20は、表面領域に素子分離絶縁層21を具備し、素子分離絶縁層21が形成されていない半導体基板20の表面領域が素子を形成する素子領域(活性領域)となる。素子分離絶縁層21は、例えばSTI(Shallow Trench Isolation)により構成される。STI21としては、例えば酸化シリコン(SiO)が用いられる。
【0036】
半導体基板20には、NチャネルMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)からなる選択トランジスタ22が設けられている。選択トランジスタ22は、半導体基板20内に互いに離間して形成されたソース領域23A及びドレイン領域23Bと、ソース領域23A及びドレイン領域23B間のチャネル領域上にゲート絶縁膜24を介して形成されたゲート電極25とを備えている。ソース領域23A及びドレイン領域23Bはそれぞれ、半導体基板20内に高濃度のn型不純物(リン(P)、ヒ素(As)等)を導入して形成されたn型拡散領域により構成される。ゲート電極25は、ワード線として機能する。ソース領域23Aは、コンタクトを介してソース線(図示せず)に接続される。このソース線を介してMTJ素子10に電流が供給される。
【0037】
半導体基板20上には、選択トランジスタ22を覆うように、例えば酸化シリコン(SiO)からなる層間絶縁層26Aが設けられている。層間絶縁層26A内には、ドレイン領域23Bに電気的に接続された導電性プラグ(コンタクト)27が設けられている。層間絶縁層26A及びコンタクト27上には、下部電極として機能する導電性の下地層11が設けられている。
【0038】
下地層11上には、記録層12、トンネルバリア層13、固定層14が順に積層されたMTJが設けられている。MTJ上には、上部電極15が設けられている。下地層11上、かつ、MTJ及び上部電極15の周囲には、層間絶縁層26Bが設けられている。層間絶縁層26B及び上部電極15上には、上部電極15に電気的に接続された配線層(ビット線)28が設けられている。このビット線28を介してMTJ素子10に電流が供給される。このようにして、第1の実施形態に係るMRAMが構成される。
【0039】
次に、MTJ素子10への情報の書き込み動作について説明する。情報の書き込み時、MTJ素子10は、膜面(或いは積層面)に垂直な方向において、双方向に通電される。なお、この説明において、電流とは、電子の流れをいう。
【0040】
まず、記録層12と固定層14との磁化状態を反平行状態から平行状態にする動作について説明する。この場合、MTJ素子10に、固定層14から記録層12へ向かう電流を供給する。これにより、固定層14の磁化方向と同じ向きのスピンを持つ電子が反対向きのスピンを持つ記録層12に注入され、電流密度JcP→APを超えた時点で、記録層12全体の磁化反転が起こり、MTJ素子10が平行状態となる。電流密度JcP→APは、記録層12と固定層14との磁化状態が平行状態(P)から反平行状態(AP)に変化する場合の電流密度である。この平行状態のときはMTJ素子10の抵抗値は最も小さくなり、この場合を“0”データと規定する。
【0041】
次に、記録層12と固定層14との磁化状態を平行状態から反平行状態にする動作について説明する。この場合、MTJ素子10に、記録層12から固定層14へ向かう電流を供給する。これにより、記録層12から固定層14に固定層14と同じ向きのスピンを持つ電子が注入されるが、スピンの反射によって記録層12の電子のスピンの向きと反対向きのスピンを持つ電子が記録層12に注入され、電流密度JcAP→Pを超えた時点で、記録層12全体の磁化反転が起こり、MTJ素子10が反平行状態となる。電流密度JcAP→Pは、記録層12と固定層14との磁化状態が反平行状態(AP)から平行状態(P)に変化する場合の電流密度である。この反平行状態のときはMTJ素子10の抵抗値は最も大きくなり、この場合を“1”データと規定する。このようにして、MTJ素子10に1ビットデータを記録させることができる。
【0042】
データの読み出しは、MTJ素子10に読み出し電流を供給することで行われる。平行状態の抵抗値をR0、反平行状態の抵抗値をR1とすると、“(R1−R0)/R0”で定義される値を磁気抵抗比(MR比)と呼ぶ。磁気抵抗比はMTJ素子10を構成する材料やプロセス条件によって異なるが、数10%から数100%程度の値を取り得る。この磁気抵抗比に起因する読み出し電流の大きさを検知することで、MTJ素子10に記憶された情報の読み出しを行なう。読み出し動作時にMTJ素子10に流す読み出し電流は、スピン注入により記録層12の磁化が反転する電流よりも十分小さい電流値に設定する。
【0043】
(MRAMの製造方法)
次に、本実施形態に係るMRAMの製造方法を図面を参照しながら説明する。まず、素子分離絶縁層21を有する半導体基板20の素子領域に、公知なプロセスを用いて、選択トランジスタ22を形成する。
【0044】
続いて、図5に示すように、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて、半導体基板20上に、選択トランジスタ22を覆うように、層間絶縁層26Aを堆積する。続いて、リソグラフィ及びRIE(Reactive Ion Etching)法を用いて、層間絶縁層26A内に、ドレイン領域23Bを露出する開口部30を形成する。
【0045】
続いて、図6に示すように、例えばスパッタにより、開口部30内に、例えばタングステン(W)からなる導電体を埋め込む。そして、層間絶縁層26Aの上面、及び導電体の上面をCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いて平坦化する。これにより、層間絶縁層26A内に、ドレイン領域23Bに電気的に接続されたコンタクト27が形成される。
【0046】
続いて、図7に示すように、層間絶縁層26A及びコンタクト27上に、例えばスパッタにより、下地層(下部電極)11、MTJ(記録層12、トンネルバリア層13、固定層14)、ハードマスク層(上部電極)15を順に成膜する。下地層11は、前述した導電材料のいずれかを用いて形成される。続いて、図8に示すように、リソグラフィ及びRIE法を用いて、ハードマスク層15をMTJ素子10の平面形状と同じ形状に加工する。
【0047】
続いて、図9に示すように、ハードマスク層15をマスクとして、例えばスパッタエッチングによりMTJ膜を加工し、ハードマスク層15の形状をMTJに転写する。この際、下地層11が露出した後に、オーバーエッチングを行い、MTJ側面に付着した堆積物を除去する。オーバーエッチングは、MTJ側面に付着した堆積物が除去されるまで行われる。このオーバーエッチング工程において下地層11はほとんど削れないため、下地層11の膜厚が薄くなるのを抑制することができる。また、下地層11のリデポジションも抑制することができる。これにより、所望の平面形状を有し、かつ記録層12と固定層14とのショートパスがないMTJを形成することができる。
【0048】
続いて、図10に示すように、下地層11を下部電極として機能させるために、リソグラフィ及びRIE法を用いて、下地層11を所望の平面形状に加工する。続いて、図11に示すように、例えばCVD法を用いて、層間絶縁層26A上に、下地層11、MTJ及びハードマスク層15を覆うように、層間絶縁層26Bを堆積する。続いて、CMP法を用いて、層間絶縁層26Bの上面を平坦化するとともに、ハードマスク層15の上面を露出させる。
【0049】
続いて、図4に示すように、例えばスパッタにより、ハードマスク層15上及び層間絶縁層26B上に、例えばアルミニウム(Al)からなる導電体を堆積し、この導電体をリソグラフィ及びRIE法を用いて加工する。これにより、ハードマスク層15に電気的に接続された配線層(ビット線)28が形成される。このようにして、第1の実施形態に係るMRAMが製造される。
【0050】
以上詳述したように第1の実施形態では、MTJ素子10は、記録層12、トンネルバリア層13、固定層14が順に積層されたMTJと、このMTJの下に設けられかつ下部電極として機能する下地層11とを備えている。そして、MTJの加工時に、オーバーエッチングを行うようにしている。また、下地層11を構成する導電材料として、磁性層とのエッチング選択比が高い材料が用いられ、さらに、エッチング時のイオン入射角θが0度以上60度以下の範囲においてエッチングレートの変化量が大きく、かつ、上記範囲においてエッチングレートが大きくなる箇所を有している。
【0051】
従って第1の実施形態によれば、MTJのスパッタエッチングによってMTJ側面に付着した堆積物16を、オーバーエッチングによって除去することができる。これにより、MTJ素子10のショート、すなわち記録層12と固定層14とのショートパスが形成されるのを防ぐことができる。この結果、MTJ素子10ひいてはMRAMの不良発生率を低減することが可能となる。
【0052】
また、MTJの加工時に、下地層11からMTJ側面へのリデポジションを抑制することができ、なおかつ、MTJ側面に付着した下地層11からの堆積物を効果的に除去することが可能となる。これにより、MTJ側面の堆積物16を、オーバーエッチングによって効率よく除去することができる。
【0053】
また、MTJの加工時のオーバーエッチングによって下地層11の膜厚が薄くなるのを抑制することができる。これにより、MTJ素子10の寄生抵抗が増大するのを防ぐことができるため、MTJ素子10の信号比が悪化するのを防ぐことができる。
【0054】
また、絶縁材料からなる側壁を設けずにMTJ側面への磁性層からのリデポジションを防ぐことができるため、MTJ素子10の微細化が可能であるとともに、MTJ素子10の形状ばらつきを低減することができる。
【0055】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態で用いた導電性の下地層11に代えて、MTJの下に絶縁性のストッパ層31を新たに設け、このストッパ層31を磁性層とのエッチング選択比が高い絶縁材料によって構成するようにしている。
【0056】
図12は、本発明の第2の実施形態に係るMRAMの構成を示す断面図である。層間絶縁層26A上、かつ導電性プラグ(コンタクト)27の周囲には、絶縁性のストッパ層31が設けられている。ストッパ層31は、層間絶縁層26A全面に形成されている。ストッパ層31の上面は、コンタクト27の上面と同じ位置である。
【0057】
コンタクト27上には、記録層12、トンネルバリア層13、固定層14が順に積層されたMTJが設けられている。すなわち、第2の実施形態のMRAMは、コンタクト27直上にMTJが配置される構造であり、第1の実施形態のMRAMと異なり、導電性の下地層11が省略されている。MTJ上には、上部電極15が設けられている。ストッパ層31上、かつ、MTJ及び上部電極15の周囲には、層間絶縁層26Bが設けられている。層間絶縁層26B及び上部電極15上には、上部電極15に電気的に接続された配線層(ビット線)28が設けられている。このようにして、第2の実施形態に係るMRAMが構成される。
【0058】
ここで、ストッパ層31のエッチングレートは、磁性層のそれより低く、さらに、ストッパ層31と磁性層とのエッチング選択比が高くなるように設定される。このエッチング選択比は、高いほど好ましいが、MTJのオーバーエッチング時に発生する反応生成物を少なくするためには、3以上であることが好ましい。
【0059】
また、ストッパ層31に用いられる絶縁材料は、イオン入射角θが0度以上60度以下の範囲において、エッチングレートの変化量が大きく、イオン入射角θが0度以上60度以下の範囲においてエッチングレートが大きくなる箇所を有する材料が選択される。このような条件を満たす絶縁材料としては、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、五酸化タンタル(Ta)、酸化チタン(TiO)、DLC(Diamond Like Carbon)などが挙げられる。DLCとは、ダイヤモンド的な化学結合(sp混成軌道)を含むカーボン膜である。図3には、ストッパ層31に用いられる絶縁材料の一例として酸化アルミニウム(Al)が示してある。酸化アルミニウム(Al)は、入射角θが0度以上60度以下の範囲において、エッチングレートの変化量が大きく、入射角が大きくなるにつれてエッチングレートも大きくなっている。
【0060】
第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様に、MTJの加工工程において、スパッタエッチングによってストッパ層31が露出した後、さらにスパッタエッチングを継続して、MTJをオーバーエッチングする。そして、このオーバーエッチングによってMTJ側面の堆積物16を除去する。
【0061】
オーバーエッチング時におけるストッパ層31からの反応生成物の発生量は、ストッパ層31のエッチングレートに比例するが、このときの発生量はイオン入射角θ=0の時のエッチングレートとなる。一方、MTJ側面に付着したストッパ層31からの堆積物は、Arイオンによって除去されるが、このときのエッチングレートはイオン入射角が大きい場合のエッチングレートとなる。このため、前述した絶縁材料からなるストッパ層31を用いることで、ストッパ層31からMTJ側面へのリデポジションを抑制し、かつ、MTJ側面に付着したストッパ層31からの堆積物を効果的に除去することが可能となる。
【0062】
次に、第2の実施形態に係るMRAMの他の構成例について説明する。図12のように、コンタクト27上に直接MTJを形成した場合、MTJパターンの位置合せマージンを取るためにストッパ層31とMTJとの間にコンタクト27の頂上部が一部露出する。このため、MTJ膜をスパッタエッチングする際に、コンタクト27の反応生成物がMTJ側面に付着する可能性がある。ストッパ層31の面積に比べて露出したコンタクト27の面積は大幅に小さいため、付着する反応生成物の量は少ないが、コンタクト27の反応生成物がMTJ側面に付着するのを完全に防ぐために、コンタクト27とMTJとの間に下地層11を挟む。この下地層11は、第1の実施形態と同じ導電材料が用いられる。
【0063】
図13は、第2の実施形態に係るMRAMの他の構成例を示す断面図である。コンタクト27上には、下地層11が設けられている。下地層11の上面は、ストッパ層31の上面と同じ位置である。下地層11の平面形状は、コンタクト27のそれと同じである。下地層11上には、MTJが設けられている。
【0064】
図13の構成では、MTJを低エッチングレート層(下地層11及びストッパ層31)上に形成できるため、オーバーエッチング時の反応生成物を低減することができる。これにより、MTJ側面への堆積物を低減でき、さらに、この堆積物を効果的に除去することが可能となる。
【0065】
(MRAMの製造方法)
次に、第2の実施形態に係るMRAMの製造方法を図面を参照しながら説明する。まず、素子分離絶縁層21を有する半導体基板20の素子領域に、公知なプロセスを用いて、選択トランジスタ22を形成する。
【0066】
続いて、図14に示すように、例えばCVD法を用いて、半導体基板20上に、選択トランジスタ22を覆うように、層間絶縁層26Aを堆積する。続いて、層間絶縁層26Aの上面をCMP法を用いて平坦化する。続いて、例えばスパッタにより、層間絶縁層26A全面に、ストッパ層31を堆積する。続いて、リソグラフィ及びRIE法を用いて、層間絶縁層26A及びストッパ層31内に、ドレイン領域23Bを露出する開口部30を形成する。
【0067】
続いて、図15に示すように、例えばスパッタにより、開口部30内に、例えばタングステン(W)からなる導電体を埋め込む。そして、ストッパ層31の上面、及び導電体の上面をCMP法を用いて平坦化する。これにより、層間絶縁層26A及びストッパ層31内に、ドレイン領域23Bに電気的に接続されたコンタクト27が形成される。
【0068】
続いて、図16に示すように、層間絶縁層26A及びコンタクト27上に、例えばスパッタにより、MTJ(記録層12、トンネルバリア層13、固定層14)、ハードマスク層(上部電極)15を順に成膜する。続いて、リソグラフィ及びRIE法を用いて、ハードマスク層15をMTJ素子10の平面形状と同じ形状に加工する。この際、ハードマスク層15は、コンタクト27の直上に残るように加工される。
【0069】
続いて、図17に示すように、ハードマスク層15をマスクとして、例えばスパッタエッチングによりMTJ膜を加工し、ハードマスク層15の形状をMTJに転写する。この際、ストッパ層31が露出した後に、オーバーエッチングを行い、MTJ側面に付着した堆積物を除去する。オーバーエッチングは、MTJ側面に付着した堆積物が除去されるまで行われる。このオーバーエッチング工程においてストッパ層31はほとんど削れないため、ストッパ層31の反応生成物がMTJ側面に付着するのを抑制することができる。また、ストッパ層31のリデポジションも抑制することができる。これにより、所望の平面形状を有し、かつ記録層12と固定層14とのショートパスがないMTJを形成することができる。
【0070】
続いて、図18に示すように、例えばCVD法を用いて、ストッパ層31上に、MTJ及びハードマスク層15を覆うように、層間絶縁層26Bを堆積する。続いて、CMP法を用いて、層間絶縁層26Bの上面を平坦化するとともに、ハードマスク層15の上面を露出させる。
【0071】
続いて、図12に示すように、例えばスパッタにより、ハードマスク層15上及び層間絶縁層26B上に、例えばアルミニウム(Al)からなる導電体を堆積し、この導電体をリソグラフィ及びRIE法を用いて加工する。これにより、ハードマスク層15に電気的に接続された配線層(ビット線)28が形成される。このようにして、第2の実施形態に係るMRAMが製造される。
【0072】
次に、図13に示したMRAMの製造方法について説明する。コンタクト27を層間絶縁層26及びストッパ層31内に埋め込んだ後、図19に示すように、コンタクト27のみを選択的にエッチバックすることで、層間絶縁層26及びストッパ層31内にリセス32を形成する。
【0073】
続いて、図20に示すように、例えばスパッタにより、リセス32内に下地層11を堆積し、リセス32からはみ出した導電材料についてはCMP法を用いて除去する。これ以降のプロセスは、図16乃至図18と同じである。
【0074】
以上詳述したように第2の実施形態では、コンタクト27の周囲に形成された層間絶縁層26A上にストッパ層31を設け、コンタクト27の直上にMTJを設けている。そして、MTJの加工時に、オーバーエッチングを行うようにしている。また、ストッパ層31を構成する絶縁材料として、磁性層とのエッチング選択比が高い材料が用いられ、さらに、エッチング時のイオン入射角θが0度以上60度以下の範囲においてエッチングレートの変化量が大きく、かつ、上記範囲においてエッチングレートが大きくなる箇所を有している。
【0075】
従って第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、MTJのスパッタエッチングによってMTJ側面に付着した堆積物16を、オーバーエッチングによって除去することができる。これにより、MTJ素子10のショート、すなわち記録層12と固定層14とのショートパスが形成されるのを防ぐことができる。この結果、MTJ素子10ひいてはMRAMの不良発生率を低減することが可能となる。
【0076】
また、MTJの加工時に、ストッパ層31からMTJ側面へのリデポジションを抑制することができ、なおかつ、MTJ側面に付着したストッパ層31からの堆積物を効果的に除去することが可能となる。これにより、MTJ側面の堆積物16を、オーバーエッチングによって効率よく除去することができる。
【0077】
また、絶縁材料からなる側壁を設けずにMTJ側面への磁性層からのリデポジションを防ぐことができるため、MTJ素子10の微細化が可能であるとともに、MTJ素子10の形状ばらつきを低減することができる。
【0078】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、記録層12、トンネルバリア層13、固定層14が順に積層されたMTJにおいて、固定層14の側面に磁性層よりエッチングレートの低い絶縁材料からなる側壁40を設けるようにしている。そして、この側壁40をマスクとして、基板傾斜スパッタエッチングにより記録層12を加工するようにしている。
【0079】
図21は、本発明の第3の実施形態に係るMTJ素子10の構成を示す平面図である。図22は、図21に示したA−A´線に沿ったMTJ素子10の断面図である。第3の実施形態では、MTJ素子10の平面形状が円である場合を一例として示している。
【0080】
下部電極11上には、記録層12、トンネルバリア層13、固定層14が順に積層されたMTJが設けられている。MTJ上には、上部電極としても機能するハードマスク層15が設けられている。下部電極11は、第1の実施形態のような材料の制約はなく、タンタル(Ta)などの導電材料が用いられる。
【0081】
トンネルバリア層13上、かつ、固定層14及びハードマスク層15の側面には、固定層14及びハードマスク層15に接しかつこれらを囲むように、側壁40が設けられている。よって、記録層12及びトンネルバリア層13の上面の面積は、固定層14の底面の面積より大きい。すなわち、固定層14とトンネルバリア層13とは段状になっている。換言すると、断面形状において、固定層14の底面の直径は、トンネルバリア層13(或いは記録層12)の上面の直径よりも小さい。
【0082】
側壁40下部の外周は、トンネルバリア層13及び記録層12の外周と同じである。側壁40は、DLC(Diamond Like Carbon)からなる。DLC膜は、アモルファスカーボン薄膜でありながら、sp混成軌道をもつ炭素原子を多く含む膜であり、絶縁性を有する。
【0083】
図23は、エッチングレートとイオン入射角との関係を示すグラフである。横軸がイオン入射角θ(度)、縦軸がエッチングレート(Å/min)である。エッチング時のイオンとしては、例えばアルゴン(Ar)イオンを用いており、Arイオンの加速電圧は例えば200Vである。図23には、DLCの他に、比較例として酸化アルミニウム(Al)及び酸化シリコン(SiO)、さらに、記録層12或いは固定層14に使用される磁性材料の一例としてFePtBのエッチングレートを示している。
【0084】
図23に示すように、DLCは、非常に低いエッチングレートを有しており、そのエッチングレートは、イオン入射角θが70度以下において10未満である。また、DLCは、他の絶縁膜材料であるAlやSiOに比べて、イオン入射角θが20度以上においてきわめて低いエッチングレートを有している。さらに、DLCと磁性材料とは、あらゆるイオン入射角においても3以上のエッチング選択比となっている。
【0085】
従って、側壁40にDLCを用いることで、記録層12をエッチングによって加工するプロセスにおいて、イオン入射角θが大きい場合でも側壁40のエッチング量を少なくすることができる。このため、側壁40をマスクとして用いた記録層12の加工時に、側壁40が除去されるのを防ぐことができる。
【0086】
なお、側壁40の絶縁材料としてDLCを例示しているが、DLCと同じような特性、すなわち、あらゆるイオン入射角において磁性材料とのエッチング選択比が3以上であり、特にイオン入射角が大きくなってもエッチングレートがそれほど大きくならない絶縁材料であれば、本実施形態の同じ効果を得ることができる。
【0087】
なお、第3の実施形態に係るMRAMの構成は、MTJ素子10の構成が図22に代わる以外は、図4と同じである。
【0088】
(製造方法)
次に、第3の実施形態に係るMRAMの製造方法を図面を参照しながら説明する。まず、図示は省略するが、第1の実施形態と同様に、半導体基板20に選択トランジスタ22を形成し、半導体基板20上の層間絶縁層26A内にドレイン領域23Bに電気的に接続されたコンタクト27を形成する。
【0089】
続いて、図24に示すように、層間絶縁層26A及びコンタクト27上に、例えばスパッタにより、下部電極11、MTJ(記録層12、トンネルバリア層13、固定層14)、ハードマスク層15を順に成膜する。続いて、図25に示すように、リソグラフィ及びRIE法を用いて、ハードマスク層15をMTJ素子10の平面形状と同じ形状に加工する。
【0090】
続いて、図26に示すように、ハードマスク層15をマスクとして、例えばスパッタエッチングにより、固定層14を加工し、ハードマスク層15の形状を固定層14に転写する。このスパッタエッチングは、トンネルバリア層13に至る直前で終了させる。これにより、トンネルバリア層13の上面が露出される。
【0091】
続いて、図27に示すように、例えばECR−CVD(Electron Cyclotron Resonance CVD)法や陰極アーク堆積法(cathodic arc deposition)を用いて、ハードマスク層15及び固定層14を覆うようにしてトンネルバリア層13上に、DLC膜40を堆積する。続いて、図28に示すように、DLC膜40をエッチバックし、ハードマスク層15及び固定層14の側面を覆う側壁40を形成する。このエッチバックの方法の一例としては、スパッタエッチングや、酸素ガス等を用いたRIE法が挙げられる。
【0092】
続いて、図29に示すように、記録層12及びトンネルバリア層13を、側壁40をマスクとして、基板傾斜スパッタエッチングにて加工する。図29(a)は、基板傾斜スパッタエッチングを説明する概略図である。図29(a)に示したウェハは、図28に示したMTJ素子10を備えた半導体基板20に対応する。例えばアルゴン(Ar)からなるイオンビームは、垂直方向に進行している。これに対し、ウェハ(具体的には、ウェハが載置されるステージ)を10度乃至30度傾斜させて、同時にウェハを回転させてスパッタエッチングを行う。これを、ウェハ面を基準に考えると、図29(b)に示すように、イオンビームの入射方向が円錐状に回転しているようになる。よって、側壁40の表面に対するイオン入射角が小さくなるため、記録層12の反応生成物が側壁40に付着した堆積物のエッチングが促進され、記録層12のリデポジションが抑制される。これにより、形状ばらつきなく記録層12の加工を行うことができる。この際、DLCからなる側壁40のエッチングレートが低いため、側壁40が除去されるのを防ぐことができる。
【0093】
その後は、第1の実施形態と同様に、層間絶縁層26Bの堆積工程と、配線層(ビット線)28の形成工程とを経る。このようにして、第3の実施形態に係るMRAMが製造される。
【0094】
なお、DLCからなる側壁40を新たに設けたことにより、側壁40の応力に起因して、MTJを構成する磁性層にひずみが発生する可能性がある。この対策法としては、図29の記録層12の加工工程の後に、図30に示すように、例えば酸素プラズマを用いたアッシングにより、側壁40を選択的に除去する。
【0095】
この後、MTJ側面を保護する必要がある場合は、図31に示すように、酸化シリコン(SiO)などの比較的応力の小さい絶縁体からなる新たな側壁41を形成する。これにより、MTJへの応力を低減することができるため、MTJを構成する磁性層のひずみを低減することができる。
【0096】
以上詳述したように第3の実施形態では、記録層12、トンネルバリア層13、固定層14が順に積層されたMTJにおいて、固定層14のみを加工した後、この固定層14の側面にエッチングレートの低いDLCからなる側壁40を設ける。そして、この側壁40をマスクとして、基板傾斜スパッタエッチングにより記録層12を加工するようにしている。
【0097】
従って第3の実施形態によれば、スパッタエッチングに用いるイオンビームが側壁40に入射する際のイオン入射角θを小さくすることができる。これにより、記録層12のリデポジションを抑制することができるため、記録層12の反応生成物が側壁40に残ることによる記録層12の形状ゆがみを抑制することができる。この結果、MTJ素子10の形状ばらつきを低減することができる。
【0098】
また、側壁40にDLCを用いることで、記録層12をスパッタエッチングによって加工する際に、イオン入射角θが大きい場合でも側壁40のエッチング量を少なくすることができる。このため、記録層12の加工時に、側壁40が除去されるのを防ぐことができる。これにより、側壁40による磁性層の保護性を向上でき、MTJ素子10の信頼性及び歩留まりを向上できる。具体的には、固定層14のイオンダメージによる磁気特性の劣化や、トンネルバリア層13に含まれる酸素原子がノッキングされることで生じる酸素欠損によるリーク電流を防ぐことができる。
【0099】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で、構成要素を変形して具体化できる。また、実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を構成することができる。例えば、実施形態に開示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るMTJ素子10の構成を示す断面図。
【図2】MTJ側面の堆積物を除去するオーバーエッチングを説明する図。
【図3】エッチングレートとイオン入射角との関係を示すグラフ。
【図4】第1の実施形態に係るMRAMの構成を示す断面図。
【図5】第1の実施形態に係るMRAMの製造工程を示す断面図。
【図6】図5に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図7】図6に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図8】図7に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図9】図8に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図10】図9に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図11】図10に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図12】本発明の第2の実施形態に係るMRAMの構成を示す断面図。
【図13】第2の実施形態に係るMRAMの他の構成例を示す断面図。
【図14】第2の実施形態に係るMRAMの製造工程を示す断面図。
【図15】図14に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図16】図15に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図17】図16に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図18】図17に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図19】MRAMの他の構成例の製造工程を示す断面図。
【図20】図19に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図21】本発明の第3の実施形態に係るMTJ素子10の構成を示す平面図。
【図22】図21に示したA−A´線に沿ったMTJ素子10の断面図。
【図23】エッチングレートとイオン入射角との関係を示すグラフ。
【図24】第3の実施形態に係るMRAMの製造工程を示す断面図。
【図25】図24に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図26】図25に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図27】図26に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図28】図27に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図29】図28に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【図30】MRAMの他の構成例の製造工程を示す断面図。
【図31】図30に続くMRAMの製造工程を示す断面図。
【符号の説明】
【0101】
10…MTJ素子、11…下地層(下部電極)、12…記録層、13…トンネルバリア層、14…固定層、15…上部電極(ハードマスク層)、16…堆積物、20…半導体基板、21…素子分離絶縁層、22…選択トランジスタ、23A…ソース領域、23B…ドレイン領域、24…ゲート絶縁膜、25…ゲート電極、26A,26B…層間絶縁層、27…コンタクト、28…配線層、30…開口部、31…ストッパ層、32…リセス、40,41…側壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられた層間絶縁層と、
前記層間絶縁層上に設けられた導電性の下地層と、
前記下地層上に設けられ、かつ2つの磁性層と、これらに挟まれた非磁性層とを有する磁気抵抗素子と、
を具備し、
前記下地層のエッチングレートは、各磁性層のそれよりも低いことを特徴とする磁気メモリ。
【請求項2】
基板上に設けられた層間絶縁層と、
前記層間絶縁層内に設けられたコンタクトと、
前記コンタクトを囲むようにして前記層間絶縁層上に設けられた絶縁性のストッパ層と、
前記コンタクト上に設けられ、かつ2つの磁性層と、これらに挟まれた非磁性層とを有する磁気抵抗素子と、
を具備し、
前記ストッパ層のエッチングレートは、各磁性層のそれよりも低いことを特徴とする磁気メモリ。
【請求項3】
前記下地層或いは前記ストッパ層のエッチングレートは、エッチング時のイオン入射角が0度以上60度以下の範囲において変化量が大きく、かつ前記範囲においてイオン入射角が大きくなるにつれて大きくなることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気メモリ。
【請求項4】
下地層上に設けられ、かつ第1の磁性層、非磁性層、第2の磁性層が順に積層された積層構造と、
前記第2の磁性層の側面を覆い、かつ前記第1の磁性層より低いエッチングレートを有し、かつ前記第1の磁性層に対して3以上のエッチング選択比を有する絶縁材料からなる側壁と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記絶縁材料は、DLC(Diamond Like Carbon)であることを特徴とする請求項4に記載の磁気抵抗素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2010−103224(P2010−103224A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271847(P2008−271847)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】