説明

積層板用樹脂組成物、プリプレグ及び積層板

【課題】特にドリル加工性、低熱膨張性、耐熱性、及び電気絶縁性に優れ、半導体パッケージ等に好適に用いられる、積層板用樹脂組成物、プリプレグ及び積層板を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂と、シリカと、亜鉛及びモリブデンの原子比率が3:2である含水モリブデン酸亜鉛(Zn3Mo28(OH)2)とを含有する樹脂組成物であって、前記シリカの含有量が前記樹脂組成物全体の40体積%以上60体積%以下であり、前記含水モリブデン酸亜鉛(Zn3Mo28(OH)2)の含有量が樹脂組成物全体の0.5体積%以上10体積%以下である樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体パッケージ用として好適な積層板用樹脂組成物、プリプレグ及び積層板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体パッケージ用プリント配線板(以降インターポーザと称する)では、配線の層間接続用等として多数のドリル穴加工が行われるのが一般的である。従って、インターポーザ用積層板には高いドリル加工性が求められる。
一方、近年の半導体パッケージの薄型化の進展により、パッケージそりによる実装不良が多発するようになり、インターポーザ用積層板の熱膨張率をシリコンチップに近付ける、すなわち低熱膨張化することによるそり低減が強く求められるようになっている。
【0003】
積層板の低熱膨張化のためには、積層板に用いられる樹脂組成物中の無機充填材のうち、シリカのような熱膨張率の小さい充填材の含有量を増やすことが有効である。しかし、シリカのような硬い充填材の含有量を増やすと、積層板のドリル加工性が低下するという問題があった。
そこで、無機充填材としてシリカより軟らかい焼成タルク等の板状粒子を加えたり、無機充填材の含有量を減らしたりしてドリル加工性の低下を防ぐ試みが行われている(例えば特許文献1)が、ドリル加工性の低下防止効果が不十分であったり、積層板が高熱膨張化して半導体パッケージのそり抑制効果が不十分になる等の不都合があった。
【0004】
また、ドリル加工性を向上させるために、無機固形潤滑剤粒子として二硫化モリブデンのような金属ジカルコゲナイドを添加する試みが行われている(例えば特許文献2)が、二硫化モリブデンを添加すると積層板の電気絶縁性が著しく低下するという問題があり、満足できる結果が得られるまでには至っていない。
さらに、インターポーザ用積層板は、電子材料として十分な耐熱性を有することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−162787号公報
【特許文献2】特表2002−527538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、こうした現状に鑑み、特にドリル加工性、低熱膨張性、耐熱性、及び電気絶縁性に優れ、半導体パッケージ用に好適な積層板用樹脂組成物、プリプレグ及び積層板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、熱硬化性樹脂、シリカ及び特定の含水モリブデン酸亜鉛を含有する樹脂組成物、それを用いたプリプレグ及び積層板が上記目的に適うものであることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の積層板用樹脂組成物、プリプレグ及び積層板に関するものである。
[1]熱硬化性樹脂と、シリカと、亜鉛及びモリブデンの原子比率が3:2である含水モリブデン酸亜鉛(Zn3Mo28(OH)2)とを含有する樹脂組成物であって、前記シリカの含有量が前記樹脂組成物全体の40体積%以上60体積%以下であり、前記含水モリブデン酸亜鉛(Zn3Mo28(OH)2)の含有量が樹脂組成物全体の0.5体積%以上10体積%以下である樹脂組成物。
[2]前記シリカが平均粒子径0.1μm以上1μm以下の球状シリカである[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記Zn3Mo28(OH)2の平均粒子径が0.5μm以上2μm以下である[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4][1]〜[3]のいずれか1項に記載の樹脂組成物を、ガラスクロスに塗工した後、半硬化させてなるプリプレグ。
[5][4]に記載のプリプレグを積層成形することにより得られる積層板。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物をガラスクロスに塗工した後、半硬化させてプリプレグを作製し、このプリプレグを積層成形することにより得られる積層板は、熱膨張率が低く、耐熱性及び電気絶縁性に優れ、かつドリル加工の際のドリル切刃磨耗量が少なく穴位置精度に優れる。従って、本発明の積層板を用いてインターポーザを製造すれば、低コストでそりの少ない半導体パッケージを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、シリカと、亜鉛及びモリブデンの原子比率が3:2である含水モリブデン酸亜鉛(Zn3Mo28(OH)2)とを含有する樹脂組成物であって、前記シリカの含有量が前記樹脂組成物全体の40体積%以上60体積%以下であり、前記含水モリブデン酸亜鉛(Zn3Mo28(OH)2)の含有量が樹脂組成物全体の0.5体積%以上10体積%以下であるものである。
【0011】
<熱硬化性樹脂>
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和イミド樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、オキセタン樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリル樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、シリコーン樹脂、トリアジン樹脂、メラミン樹脂等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用できる。
これらの中で、成形性や電気絶縁性の点からエポキシ樹脂を単独又は混合して用いることが好ましい。用いるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、多官能フェノール類及びアントラセン等の多環芳香族類のジグリシジルエーテル化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0012】
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、必要に応じて該エポキシ樹脂の硬化剤や硬化促進剤を使用することができる。硬化剤の例としては、例えば、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の多官能フェノール化合物、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン等のアミン化合物、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、無水マレイン酸共重合体等の酸無水物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用できる。
また、硬化促進剤の例としては、例えば、イミダゾール類及びその誘導体、有機リン系化合物、第二級アミン類、第三級アミン類、及び第四級アンモニウム塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0013】
<シリカ>
シリカとしては、例えば、湿式法で製造され含水率の高い沈降シリカと、乾式法で製造され結合水等をほとんど含まない乾式法シリカが挙げられ、乾式法シリカとしてはさらに、製造法の違いにより溶融シリカ、気相合成シリカ等が挙げられる。これらの中で、低熱膨張性及び樹脂に配合した際の高流動性から、乾式法で製造された球状シリカが好ましい。
【0014】
シリカとして球状シリカを用いる場合、その平均粒子径は0.1μm以上1μm以下であることが好ましい。球状シリカの平均粒子径を0.1μm以上にすることで樹脂に配合した際の流動性を良好に保つことができ、1μm以下にすることでドリル加工の際のドリル切刃磨耗を抑えることができる。この観点から、球状シリカの平均粒子径は、0.4μm以上1μm以下であることがより好ましい。
ここで平均粒子径とは、粒子の全体積を100%として粒子径による累積度数分布曲線を求めた時、ちょうど体積50%に相当する点の粒子径のことであり、レーザ回折散乱法を用いた粒度分布測定装置等で測定することができる。
シリカの含有量は、樹脂組成物全体の40体積%以上60体積%以下である必要がある。シリカの含有量が樹脂組成物全体の40体積%未満であると積層板を低熱膨張化することができず、60体積%を超えると成形性とドリル加工性を良好に保つことができない。この観点から、シリカの含有量は樹脂組成物全体の45体積%以上60体積%以下であることが好ましく、50体積%以上60体積%以下であることがより好ましい。
【0015】
<含水モリブデン酸亜鉛(Zn3Mo28(OH)2)>
含水モリブデン酸亜鉛としては、亜鉛とモリブデンとの原子比率が3:2である含水モリブデン酸亜鉛(Zn3Mo28(OH)2)を用いる必要がある。
含水モリブデン酸亜鉛は、シリカと共に積層板に用いた際に、焼成タルク等よりドリル加工性の低下防止効果が大きく、かつ二硫化モリブデンのように電気絶縁性を著しく低下させることもない。含水モリブデン酸亜鉛化合物としては、亜鉛とモリブデンの原子比が1:1の化合物(ZnMoO4・0.8H2O)、3:2の化合物(Zn3Mo28(OH)2)、5:2の化合物(Zn5Mo211・5H2O)等が知られているが、これらの中でZn3Mo28(OH)2は脱水温度が360℃付近と耐熱性が高く、水溶性も小さく、電気絶縁性も高いため、電子材料として十分な特性を持つ。一方、ZnMoO4・0.8H2OとZn5Mo211・5H2Oは脱水温度が250℃付近と耐熱性が低く、電子材料としては不十分で、また、ZnMoO4・0.8H2Oには水溶性が大きいという問題もある。
【0016】
Zn3Mo28(OH)2の合成方法としては特に限定されるものではないが、水溶液中で合成されたものが好ましい。例えば、酸化亜鉛の水分散液に亜鉛とモリブデンが原子比で3:2になるように三酸化モリブデンを加え、攪拌することにより合成される。合成温度は50℃以上100℃以下が好ましい。温度を50℃以上とすることでZn3Mo28(OH)2が合成されやすくなり、100℃以下とすることで圧力容器を使用しなくても合成が可能となり、実用的な面から好ましい。合成時間は1時間以上5時間以下が好ましい。時間を1時間以上とすることで反応を十分進行させることができ、また、5時間を超えて合成を行っても反応はそれ以上ほとんど進行しなくなる。
【0017】
合成後、ろ過、乾燥してZn3Mo28(OH)2の粉体を得る。乾燥温度は構造水が分解脱水しない範囲であれば良いが、100℃以上300℃以下であることが好ましい。温度を100℃以上とすることで十分乾燥することができ、300℃以下とすることで構造水が脱水して無水物となるのを防ぐことができる。
【0018】
ここで、上記Zn3Mo28(OH)2の平均粒子径は0.5μm以上2μm以下であることが好ましく、0.7μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。平均粒子径を0.5μm以上とすることで粒子の解砕が容易になり、分散性の良好な樹脂組成物を作製できる。一方、2μm以下とすることで樹脂組成物ワニス中での粒子の沈降を抑制でき、成分偏りのない、均質な樹脂組成物を作製できる。
【0019】
含水モリブデン酸亜鉛(Zn3Mo28(OH)2)の含有量は、樹脂組成物全体の0.5体積%以上10体積%以下であることが必要である。含水モリブデン酸亜鉛(Zn3Mo28(OH)2)の含有量が樹脂組成物全体の0.5体積%未満であると積層板のドリル加工性を良好に保つことができず、10体積%を超えると成形性の低下を良好に防ぐことができない。この観点から、含水モリブデン酸亜鉛(Zn3Mo28(OH)2)の含有量は、好ましくは1体積%以上8体積%以下であり、更に好ましくは1体積%以上5体積%以下である。
【0020】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物には、上記以外にも、任意に公知の熱可塑性樹脂、エラストマー、無機充填材、有機充填材、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤及び接着性向上剤等を用いることができる。
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、キシレン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、シリコーン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられる。
【0021】
エラストマーとしては、例えば、ポリブタジエン、アクリロニトリル、エポキシ変性ポリブタジエン、無水マレイン酸変性ポリブタジエン、フェノール変性ポリブタジエン及びカルボキシ変性アクリロニトリル等が挙げられる。
【0022】
無機充填材としては、例えば、アルミナ、タルク、マイカ、カオリン、水酸化アルミニウム、ベーマイト、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム、EガラスやSガラス、Dガラス等のガラス粉や中空ガラスビーズ等が挙げられる。
【0023】
有機充填材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル樹脂、シリコーン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂等よりなる均一構造の樹脂粒子、アクリル酸エステル系樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂、共役ジエン系樹脂等よりなるゴム状態のコア層と、アクリル酸エステル系樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂、芳香族ビニル系樹脂、シアン化ビニル系樹脂等よりなるガラス状態のシェル層を持つコアシェル構造の樹脂粒子等が挙げられる。
難燃剤としては、例えば、臭素や塩素を含有する含ハロゲン系難燃剤、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、赤リン等のリン系難燃剤、スルファミン酸グアニジン、硫酸メラミン、ポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレート等の窒素系難燃剤、シクロホスファゼン、ポリホスファゼン等のホスファゼン系難燃剤、三酸化アンチモン等の無機系難燃剤等が挙げられる。
【0024】
紫外線吸収剤の例としてはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、酸化防止剤の例としてはヒンダードフェノール系やヒンダードアミン系酸化防止剤、接着性向上剤の例としてはシラン系、チタネート系、アルミネート系のカップリング剤等が挙げられる。
本発明のプリプレグは、上記成分を用いた樹脂組成物をガラスクロスに塗工し、半硬化させて得ることができる。また、本発明の積層板は、上記プリプレグを積層成形することにより得ることができる。
【0025】
[プリプレグ]
本発明の樹脂組成物をガラスクロスに塗工する際には、樹脂組成物を有機溶媒に溶かしてワニス化してから用いることが好ましい。樹脂組成物をワニス化してから塗工することにより、均一で欠陥の少ないプリプレグを得ることができる。
【0026】
樹脂組成物をワニス化する際用いる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の窒素原子含有溶媒、ジメチルスルホキシド等の硫黄原子含有溶媒等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0027】
これらの中で、樹脂の溶解性の点からメチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンが好ましく、低毒性である点からプロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンがより好ましい。
ワニス中の樹脂組成物の割合は、ワニス全体の50質量%以上80質量%以下にすることが好ましい。ワニス中の樹脂組成物の割合を50質量%以上80質量%以下にすることで、ガラスクロスに対する塗工性を良好に保つことができる。
【0028】
塗工の際用いるガラスクロスとしては、例えば、Eガラス、Sガラス、Dガラス及びQガラス等のガラス繊維を、平織り、綾織り等にしたクロス(織布)が挙げられる。これらの中で、Eガラスの平織りクロスを用いることが好ましい。Eガラスの平織りクロスを用いることで、積層板の低熱膨張化と高ドリル加工性化を両立させることができる。
これらのガラスクロスは、0.01mmから0.2mmの厚さで、機械的に開繊処理を施したり、カップリング剤等で表面処理したりしたものを用いることが好ましい。
ガラスクロスに樹脂組成物ワニスを塗工、半硬化させてプリプレグを得るには、例えば、ガラスクロスを樹脂組成物ワニス中に潜らせてワニスを含浸させた後、カットバー、スクイズロール等を用いてプリプレグ中の樹脂組成物の割合が20質量%から90質量%となるようにワニスの付着量を調整し、続いて100℃から200℃の乾燥炉中を1分から30分かけて通して半硬化させる、等の方法によることができる。
【0029】
[積層板]
こうして得られたプリプレグを積層成形して積層板を得るには、例えば、プリプレグを必要な厚さになるように複数枚(例えば、2枚から20枚)重ね、片面又は両面に銅、アルミニウム等の金属箔を配置し、多段プレス、多段真空プレス、連続成形機、オートクレーブ成形機等を用いて、温度は100℃以上260℃以下、圧力は0.2MPa以上10MPa以下の条件で0.1時間から5時間かけて加熱加圧成形する、等の方法によることができる。また、プリプレグを必要な厚さになるように、例えば1枚から20枚重ね、片面又は両面に銅、アルミニウム等の金属箔を配置し、多段プレス、多段真空プレス、連続成形機、オートクレーブ成形機等を用いて、温度は100℃以上260℃以下、圧力は0.2MPa以上10MPa以下の条件で0.1時間から5時間かけて加熱加圧成形する、等の方法によることができる。
【実施例】
【0030】
次に、下記の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
〔Zn3Mo28(OH)2の作製(C−1)〕
純水1000gに酸化亜鉛24.4g(0.3mol)と三酸化モリブデン28.8g(0.2mol)を添加し、80℃で4時間加熱攪拌し、亜鉛とモリブデンの原子比が3:2の含水モリブデン酸亜鉛化合物Zn3Mo28(OH)2を合成した。合成後、ろ過しケーキ状となったZn3Mo28(OH)2を120℃で水分量0.5質量%以下になるまで乾燥した。乾燥後、乳鉢を用いて粉砕し、Zn3Mo28(OH)2粉を得た。こうして得られたZn3Mo28(OH)2粉の平均粒子径をレーザ回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定したところ、1.2μmであった。
【0031】
〔ZnMoO4・0.8H2Oの作製(C−2)〕
純水1000gに酸化亜鉛24.4g(0.3mol)と三酸化モリブデン43.2g(0.3mol)を添加し、50℃で5時間加熱攪拌し、亜鉛とモリブデンの原子比が1:1の含水モリブデン酸亜鉛化合物ZnMoO4・0.8H2Oを合成した。合成後、ろ過しケーキ状となったZnMoO4・0.8H2Oを100℃で水分量0.5質量%以下になるまで乾燥した。乾燥後、乳鉢を用いて粉砕し、ZnMoO4・0.8H2O粉を得た。こうして得られたZnMoO4・0.8H2O粉の平均粒子径をレーザ回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定したところ、0.8μmであった。
【0032】
〔Zn5Mo211・5H2Oの作製(C−3)〕
純水1000gに酸化亜鉛24.4g(0.3mol)と三酸化モリブデン17.3g(0.12mol)を添加し、50℃で5時間加熱攪拌し、亜鉛とモリブデンの原子比が5:2の含水モリブデン酸亜鉛化合物Zn5Mo211・5H2Oを合成した。合成後、ろ過しケーキ状となったZn5Mo211・5H2Oを100℃で水分量0.5質量%以下になるまで乾燥した。乾燥後、乳鉢を用いて粉砕し、Zn5Mo211・5H2O粉を得た。こうして得られたZn5Mo211・5H2O粉の平均粒子径をレーザ回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定したところ、3.2μmであった。
【0033】
〔Zn3Mo28(OH)2の作製(C−4)〕
以下の点以外は上記のZn3Mo28(OH)2の作製(C−1)と同様にして、Zn3Mo28(OH)2(C−4)を作製した。すなわち、乾燥後、メタノール80gを加えて乳鉢を用いて粉砕した後、メタノールをろ別除去し、真空乾燥機で80℃、1時間乾燥して得られたZn3Mo28(OH)2粉の平均粒子径を、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定したところ、0.1μmであった。
【0034】
〔Zn3Mo28(OH)2の作製(C−5)〕
以下の点以外は上記のZn3Mo28(OH)2の作製(C−1)と同様にして、Zn3Mo28(OH)2(C−5)を作製した。すなわち、乳鉢を用いて粉砕して得られたZn3Mo28(OH)2粉の平均粒子径を、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定したところ、3.0μmであった。
【0035】
実施例1〜3、及び比較例1〜7
表1−1及び表1−2に示した配合のうち、まず、熱硬化性樹脂と硬化剤を有機溶媒に完全に溶解させ、次にシリカスラリーを加えて両者が十分に混合するまで攪拌した。この後、含水モリブデン酸亜鉛及び/又は無機充填材を少しずつ加えて凝集塊がなくなるまで攪拌を続け、最後に硬化促進剤を加えて全体が均一になるよう1時間攪拌し、樹脂組成物ワニス(ワニス中の樹脂組成物の割合:70質量%)を得た。
【0036】
こうして得られた樹脂組成物ワニスを、厚さ0.1mmのEガラスクロス〔日東紡績株式会社製、WEA116E〕に含浸塗工し、160℃で5分間加熱乾燥して半硬化させ、樹脂組成物の割合が48質量%のプリプレグを得た。
このプリプレグを各評価測定において必要な厚さになるように重ね、厚さ12μmの電解銅箔〔古河電気工業株式会社製、GTS−12〕を両面に配置し、真空プレスを用いて温度:185℃、圧力:4MPaで90分間加熱加圧成形を行って銅張積層板を得た。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
表1−1及び表1−2中、各成分の配合量は、(A)の熱硬化性樹脂の合計配合量を100とした場合の質量部で示した。
ただし、(B)のシリカスラリーについては、表中の上段に、(A)の熱硬化性樹脂の合計配合量を100とした場合のシリカスラリー全体の質量部を示すと共に、表中の下段の括弧内に、樹脂組成物全体に対するシリカスラリー中のシリカの体積%の値も示した。また、(C)の含水モリブデン酸亜鉛については、括弧内に樹脂組成物全体に対する体積%の値を示した。
また、表1−1及び表1−2中、(C)の含水モリブデン酸亜鉛としては上述のものを用い、その他の各成分は、それぞれ次のものを用いた。
【0040】
(A)熱硬化性樹脂
A−1:フェノールノボラック型エポキシ樹脂〔DIC株式会社製、エピクロンN−770〕
A−2:ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂〔DIC株式会社製、エピクロンN−865〕
A−3:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂〔日本化薬株式会社製、NC−3000〕
硬化剤:クレゾールノボラック型フェノール樹脂〔DIC株式会社製、フェノライトKA−1165〕
硬化促進剤:2−エチル−4−メチルイミダゾール〔四国化成株式会社製、キュアゾール2E4MZ〕
【0041】
(B)シリカ
B−1:球状シリカスラリー〔株式会社アドマテックス製、SC2050−KC、平均粒子径0.5μm、固形分70質量%〕
B−2:球状シリカスラリー〔株式会社アドマテックス製、SC4050−KNA、平均粒子径1.0μm、固形分70質量%〕
B−3:球状シリカスラリー〔株式会社アドマテックス製、SX009−LJH、平均粒子径0.05μm、固形分45質量%〕
B−4:球状シリカスラリー〔株式会社アドマテックス製、SC5050−KOI、平均粒子径1.5μm、固形分75質量%〕
【0042】
無機充填材1:焼成タルク〔日本タルク株式会社製、BST〕
無機充填材2:二硫化モリブデン〔株式会社ダイゾーニチモリ事業部製、Aパウダー〕
無機充填材3:水酸化アルミニウム〔住友化学工業株式会社製、C−303〕
有機溶媒:シクロヘキサノン〔株式会社ゴードー製〕
【0043】
以上の実施例及び比較例で得られた積層板は、以下の方法で特性を測定・評価した。測定・評価結果を表2−1及び表2−2に示す。
【0044】
(1)ドリル加工性の評価
厚さ0.4mmの銅張積層板を2枚重ねたものの上に厚さ0.4mmの紙フェノール板、下に厚さ1.5mmの紙フェノール板を配置し、直径0.2mmのドリルによりドリル穴あけ機〔日立ビアメカニクス株式会社製、ND−1V212〕を用いて回転数160krpm、送り速度1.8m/min、チップロード11.25μm/revの条件で6000穴の穴あけを行い、以下の方法でドリルの切刃磨耗量および穴位置精度を測定することによりドリル加工性を評価した。
【0045】
a)ドリル切刃磨耗量
新品と穴あけ後のドリル切刃部分を、ドリル中心軸上から走査型電子顕微鏡〔株式会社日立製作所製、S−4700〕を用いて観察し、切刃先端の磨耗後退量(μm)を測定してドリル切刃磨耗量とした。
b)穴位置精度
2枚重ねの銅張積層板のうち、2枚目下側(ドリル出口側)の穴の位置ずれ量を穴位置精度測定機〔日立ビアメカニクス株式会社製、HT−1AM〕を用いて測定し、4001〜6000ヒット目の穴の位置ずれ量の平均+3σ(μm)(σ:標準偏差)を計算して穴位置精度とした。
【0046】
(2)熱膨張率の測定
厚さ0.8mmの銅張積層板の銅箔をエッチング液により取除いた後、5mm角の大きさに切断して試験片を作製した。この試験片の、50℃から120℃における縦方向(ガラスクロスの長手方向)の平均線熱膨張率(10-6/℃)を、TMA試験装置〔ティー・エー・インスツルメント株式会社製、TMA2940〕を用いて昇温速度10℃/minで測定した。
【0047】
(3)電気絶縁性の測定
厚さ0.1mmの銅張積層板の片面の銅箔を直径20mmの円形部分を残してエッチング液により取除いた後、円形部分が中央に来るように50mm角の大きさに切断して試験片を作製した。この試験片をフロリナート〔住友スリーエム株式会社製〕中に浸漬し、耐電圧計〔東亜電波工業株式会社製、PT−1011〕を用いて昇圧速度5kV/10秒の条件で絶縁破壊試験を行い、絶縁破壊電圧(kV)を測定した。
【0048】
(4)耐熱性の評価
厚さ0.4mmの銅張積層板を25mm角の大きさに切断して端部のバリを取除き、105℃で1時間乾燥させて試験片を作製した。この試験片を288℃に保ったはんだ槽のはんだ上に浮かべ、銅箔に膨れが生じるまでの時間(分)を測定して耐熱性を評価した。
【0049】
(5)成形性の評価
厚さ0.4mmの銅張積層板を5mm角の大きさに切断して注型樹脂で注型し、切断面を研磨して断面観察用試験片を作製した。この試験片の研磨断面をフラットミリング装置〔株式会社日立製作所製、E−3200〕でミリングした後、走査型電子顕微鏡〔株式会社日立製作所製、S−4700〕を用いて観察し、ボイドの有無を調べて成形性を評価した。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
表2−1から明らかなように、本発明の実施例はいずれもドリル加工性、低熱膨張性に優れ、また電気絶縁性、耐熱性、成形性にも問題がない。
一方、表2−1から明らかなように、比較例1は本発明の含水モリブデン酸亜鉛を含まず、焼成タルクを含んでいるため、ドリル加工性が著しく劣っている。比較例2は本発明の含水モリブデン酸亜鉛を含まず、二硫化モリブデンを含んでいるため、電気絶縁性が著しく劣っている。また、表2−2から明らかなように、比較例3はシリカの含有量が樹脂組成物全体の60体積%を超えているため、成形性が著しく劣っており、ドリル加工性、電気絶縁性、耐熱性も低下している。比較例4はシリカの含有量が樹脂組成物全体の40体積%を下回り、また含水モリブデン酸亜鉛の含有量も樹脂組成物全体の0.5体積%を下回っているため、熱膨張率が大きく耐熱性にも劣る。比較例5は含水モリブデン酸亜鉛の含有量が樹脂組成物全体の10体積%を超えているため、成形性が著しく劣っており、電気絶縁性、耐熱性も低下している。比較例6及び7は、本発明の含水モリブデン酸亜鉛を含まず、それぞれZn5Mo211・5H2O及びZnMoO4・0.8H2Oを含んでいるため、いずれも耐熱性が劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と、
シリカと、
亜鉛及びモリブデンの原子比率が3:2である含水モリブデン酸亜鉛(Zn3Mo28(OH)2)と
を含有する樹脂組成物であって、
前記シリカの含有量が前記樹脂組成物全体の40体積%以上60体積%以下であり、
前記含水モリブデン酸亜鉛(Zn3Mo28(OH)2)の含有量が樹脂組成物全体の0.5体積%以上10体積%以下である樹脂組成物。
【請求項2】
前記シリカが平均粒子径0.1μm以上1μm以下の球状シリカである請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記Zn3Mo28(OH)2の平均粒子径が0.5μm以上2μm以下である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物を、ガラスクロスに塗工した後、半硬化させてなるプリプレグ。
【請求項5】
請求項4に記載のプリプレグを積層成形することにより得られる積層板。

【公開番号】特開2013−10861(P2013−10861A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144357(P2011−144357)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】