説明

窒化アルミニウム膜によって被覆された部材

【課題】窒化アルミニウム被覆膜が基材表面に強固に密着してなる耐熱・耐腐食性部材を提供すること。
【解決手段】窒化アルミニウムを主成分とした被覆膜によって、基材の少なくとも一部が覆われた部材。前記被覆膜が、その最表面に0.5原子%以上40原子%以下のフッ素を含有する窒化アルミニウム膜であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系の腐食性ガスに対する耐性に優れた部材に関し、特に、放熱用基板や半導体デバイスの製造工程に好適に使用される静電チャック、ウエハを加熱するセラミックスヒーター、半導体製造装置内で使用される円板、シャワープレート及びリング形状の部材等に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程において、CVD装置を用いてシリコンウエハ上に酸化膜や配線のメタル膜等を形成させる場合、ウエハ以外の余分な箇所にも膜成分が付着する。この余分に付着した膜成分を除去するために行われる定期的なセルフクリーニングのために、或いは、エッチング装置を用いて熱エッチングやプラズマエッチングにより形成した膜を除去する際に、腐蝕性の高い、NF3、CF4、ClF3 等のフッ素系ガスが用いられている。
【0003】
このような高腐蝕性ガス中という厳しい条件下で使用する、ウエハを載置するサセプタやクランプリング、フォーカスリング等の、半導体装置を構成する部材としては、従来、シリコン(Si)や石英ガラス、炭化珪素等が、用途に応じて選択され適用されてきた。しかしながら、従来用いられているこれらの材料には、以下のような種々の問題があった。
【0004】
例えば、石英ガラスの場合には、反応性の高いフッ素系ガスの存在下においては、フッ化珪素等の反応生成物の蒸気圧が高く、気体となって揮散するため、腐蝕が連続的に進行し部材の消失が生じるという欠点があった。
【0005】
また炭化珪素の場合には、基本的には石英ガラスよりも耐蝕性が優れているものの、半導体製造装置用として使用する炭化珪素は、主にシリコン含浸炭化珪素であるため、シリコン部がフッ素系ガスとの反応により消失する。このため、構造組織が緻密化された基材から炭化珪素が離脱し易く、半導体不良の原因となるパーティクルを発生し易くなるという欠点があった。
【0006】
一方、窒化アルミニウム焼結体の場合には、上記材料に比べて耐蝕性に優れているので、最近は、窒化アルミニウム焼結体部材が、特に半導体製造工程で使用される耐蝕部材として多く採用されるようになった。しかしながら、窒化アルミニウム焼結体を成型体とした場合には、微量の焼結助剤を含有すると共に、製法特有の粒界が存在する。したがって、長時間フッ素系ガスに曝されると、助剤部分や粒界部分付近が選択的にエッチングされ、上記石英や炭化珪素の場合ほどではないものの、徐々に劣化するため、長時間使用すると前記パーティクルを発生し易くなると言う欠点があった。
【0007】
近年、前記したような従来の欠点を改善するために、窒化アルミニウム焼結体の表面にフッ化アルミニウム膜を設けて、フッ素系腐蝕性ガスに対する耐蝕性を改善することが提案された(特許文献1)。しかしながらこの場合には、窒化アルミニウム焼結体(セラミックス)基材の熱膨張率が4×10-6/℃であるのに対し、フッ化アルミニウムの熱膨張率は1.9×10-5/℃と5倍程度の差があるために、フッ化アルミニウム膜にクラックが発生し、ヒートサイクルを伴う使用においては、酷い場合には、フッ化アルミニウム膜が剥がれるという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-251365
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明の目的は、フッ素系腐蝕性ガスに対する耐蝕性に優れるだけでなく、ヒートサイクルを伴う使用にも十分耐え、熱膨張差によるクラックの発生や剥離が生じ難い、基材との密着性に優れた被覆膜を有する部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、基材を被覆する膜として、被覆膜表面から内部に向けて熱膨張率が徐々に変化する耐蝕性の膜を使用した場合には、該膜にクラック等が発生し難く、被覆膜の基材への密着性が良好となることを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、窒化アルミニウムを主成分とした被覆膜によって、基材の少なくとも一部が覆われた部材であって、前記被覆膜が、その最表面に0.5原子%以上40原子%以下のフッ素を含有する窒化アルミニウム膜であることを特徴とする部材である。
本発明においては、前記被覆膜中のフッ素の含有量が、被覆膜表面から内部に向かって漸次減少する被覆膜であることが好ましく、特に、該前記被覆膜が、化学気相成長法によって相対密度70〜98%に調製した窒化アルミニウム膜の表面を、フッ素系腐食性ガス雰囲気中で加熱することにより形成してなる被覆膜であることが好ましく、上記加熱は、100℃以上500℃未満の温度でなされることが好ましい。
更に、被覆膜で被覆される前の基材の材質は、窒化アルミニウム、熱分解窒化硼素、窒化硼素と窒化アルミニウムの混合焼結体、熱分解窒化硼素コートグラファイト、希土類酸化物、酸化アルミニウム、酸化珪素、ジルコニア、サイアロン、グラファイト、シリコン、タングステンやニッケルなどの高融点金属及びインコネルなどの高融点合金からなる群の中から選択される1種を主成分としてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の部材においては、被覆膜の基材への密着性が優れているので、ヒートサイクルに曝されてもクラックや膜剥がれ等が発生し難い上、フッ素プラズマガスに対する耐蝕性にも優れるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】基材の表面をフッ素含有窒化アルミニウム被覆膜で保護した、本発明の部材の断面概念図である。
【図2】本発明の部材の具体的使用例を説明するための、フッ素含有窒化アルミニウム被覆膜によって耐蝕性部材の表面が保護された、内部にウエハを加熱するヒーターが内蔵されており、表面が本発明の部材からなる静電チャックの断面概念図である。
【図3】本発明の部材の具体的使用例を説明するための、フッ素含有窒化アルミニウム被覆膜によって耐蝕性部材の表面が保護された、表面が本発明の部材からなる試料ホルダ(ウエハホルダ)の断面概念図である。
【図4】本発明の部材の具体的使用例を説明するための、フッ素含有窒化アルミニウム被覆膜によって耐蝕性部材の表面が保護された、表面が本発明の部材からなるリング部品の断面概念図である。
【図5】基材の表面をフッ素含有窒化アルミニウム被覆膜で保護した部材における、前記基材と被覆膜の間の密着強度を測定する方法を説明するための概念図である。
【図6】耐熱性部材の表面をフッ素含有窒化アルミニウム被覆膜で保護した耐蝕性部材の、断面のEDX分析データを示すグラフである。
【図7】図6の表面付近を拡大した、EDX分析データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、基材101の表面をフッ素含有窒化アルミニウム被覆膜103で保護した、本発明の部材の断面概念図である。
【0014】
前記フッ素含有窒化アルミニウムによって被覆される基材は、通常、高温で腐蝕性の高い、NF3、CF4、ClF3 等のフッ素系ガスに曝される環境に使用される部材である。したがって、これらの部材は、上記腐食性ガスに対する耐性が比較的高い材質であることが好ましい。このような基材は、通常、シリコン、タングステン及びニッケル等の高融点金属、窒化アルミニウム、熱分解窒化硼素、窒化硼素と窒化アルミニウムの混合焼結体、熱分解窒化硼素コートグラファイト、希土類酸化物、酸化アルミニウム、酸化珪素、ジルコニア、サイアロン、及びグラファイト等のセラミックス、並びにインコネル等の高融点合金からなる群の中から選択される何れかを主成分とすれば良い。このようにすることにより、半導体製造装置内における800℃程度の高温成膜プロセスにも十分に対応することができる。
【0015】
図2〜図4は、本発明の部材を応用した具体例であり、図2は静電チャックの断面概念図、図3はウエハホルダの断面概念図、図4はリング部品の断面概念図である。図5は、基材101の表面をフッ素含有窒化アルミニウム被覆膜103で保護した本発明の部材における、前記基材と被覆膜の間の密着強度を測定する方法を説明するための概念図である。
【0016】
本発明においては、上記基材表面の少なくとも一部を覆うように、基材表面に窒化アルミニウム被覆膜等の保護膜を形成させる。これによって、基材に、フッ素系ガスのような高腐蝕性ガスに対する耐性を付与する。この場合、上記窒化アルミニウム被覆膜を、表面におけるフッ素含有量が1原子%〜40原子%である窒化アルミニウム被覆膜とすることが必要である。これによって、基材と窒化アルミニウム被覆膜との密着強度を高め、部材としての機械的特性を向上させることができるので、ヒートサイクルに曝しても、クラックや膜剥離が発生することを抑制することができ、したがって膜厚を十分厚くしても割れることが無く、半導体の不良率を高めるパーティクルの発生を抑えることができる。
【0017】
前記フッ素含有量が1原子%未満では被覆膜の十分な密着強度が得られず、フッ素系ガスに対する耐蝕性が不十分となり、40原子%以上となると膜が脆くなりクラックが発生し易く、密着強度も低下する。本発明においては、前記フッ素含有量を2原子%以上30原子%以下とすることが好ましい。
【0018】
本発明においては、前記フッ素含有窒化アルミニウム被覆膜中のフッ素含有量が、被覆膜表面から膜内部に向かって漸次減少することが好ましい。このようにすることにより、密着強度を飛躍的に向上させることができる。
【0019】
上記のようなフッ素含有量の勾配は、化学気相成長法(CVD)によって相対密度70〜98%に調整した窒化アルミニウム被覆膜を基材表面に成膜した後に、該窒化アルミニウム被覆膜の表面をフッ素系腐食性ガス雰囲気中で100℃以上500℃未満の温度で加熱することによって容易に形成することができる(図6及び図7参照)。
【0020】
上記被覆膜の相対密度が70%以下であると、フッ素系腐食性ガスによる処理によって導入されるフッ素含有量が多くなり、膜が膨張して割れが生じる。一方相対密度が98%以上であるとフッ素系腐食性ガスによる処理によって導入されるフッ素含有量が少なく、期待する効果が得られない。本発明においては、特に、相対密度が80%以上95%以下であることが好ましい。
【0021】
前記CVD法とは、具体的には、アルミニウムの有機金属化合物又は塩化アルミニウムとアンモニアを原料とした化学気相成長法であり、その反応温度は800℃〜1200℃の間であることが好ましい。これにより、結晶性に優れた高純度の窒化アルミニウム被覆膜が得られる。このように化学気相成長法を利用することは、金属不純物が50ppm以下と非常に少ない窒化アルミニウム被覆膜とすることができるので、高純度を要求される半導体製造装置の部材、ヒーター、静電チャック等に、特に好都合である。
【0022】
これに対し、窒化アルミニウム焼結体の表面を単純にフッ素で置換する表面処理を施した場合には、焼結体中の金属不純物(焼結助剤やCa、Na、重金属等)がフッ素で置換される箇所にも存在するので、金属汚染が懸念される。金属不純物の少ない被覆膜であれば、金属不純物のコンタミネーションによる半導体への影響が少ないという優位性も付与される。
【0023】
本発明においては、前記窒化アルミニウム被覆膜の厚さを5μm以上500μm以下とすることにより、使用条件によって多少異なるものの、十分に所望する耐蝕性が得られる。
被覆膜の厚さが5μm未満であると、部分的に欠陥があった場合に下地の母材が腐蝕され、半導体の不良率を高めるパーティクルが発生するという危険性がある。また、そこから金属不純物が飛散するという可能性もある。一方、500μmを超えると、膜の内部応力により基材との境界部分から分離する危険性があるだけでなく、製造するのに膨大な時間がかかってコスト的に見合わない。したがって本発明においては、窒化アルミニウム被覆膜の厚さを10μm以上300μm以下とすることが特に好ましい。
以下、実施例及び比較例によって更に本発明を説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0024】
[実施例及び比較例]
長さ50mm、幅15mm、厚さ0.5mmの窒化アルミ焼結体基材の表面全体に、熱CVD法によって被覆膜を設けた。
上記被覆膜を成膜するに際しては、原料であるアルミニウムの有機金属化合物としてトリメチルアルミニウムをバブラー法によって供給し、バブリング用のガスとしてArガスを用いた。なお、Arガスの代わりにN2、H2、He等を用いても同様の結果が得られる。
【0025】
トリメチルアルミニウムを、25℃の温度で一定になるように恒温槽に入れ、バブリング用のArガス流量を1〜4L/分とし、シリンダ内の圧力をゲージ圧で10kPaとなるように制御した。成膜に際するトリメチルアルミニウムの供給量を0.1〜0.4mol/hrの間で変え、種々の相対密度の被覆膜を形成させた。
一方、アンモニア原料については、直接加熱気化させて供給量が1.7mol/hrとなるようにMFC(マスフローコントローラー)で調整して供給した。反応炉内を真空状態となるように真空ポンプでガスを排気しながら、圧力が絶対圧で50Pa程度になるように調整し、厚さ95μm、相対密度65%〜99%の被覆膜を形成させた。
【0026】
被覆膜が形成された基材を、室温から550℃まで種々変更して、フッ素気流中(50sccm)で4時間加熱処理を行った。比較例として、加熱処理を行わない基材も準備した。
各条件で作製された被覆膜について、表面のフッ素量と膜の密着強度を調べた。相対密度が90%の被覆膜を形成させた後に、フッ素気流中で加熱処理温度を変えて、フッ素含有量を変化させた部材に関する結果を表1に示し、相対密度が65%〜99%の被覆膜を形成させた後に、400℃のフッ素気流中で加熱処理した部材に関する結果を表2に示した。
【0027】
被覆膜中のフッ素量は、サンプルの断面をSEM-EDX(EDAX社)を用いて測定し、Al,N,O,Fの総和を100%として、定量分析によって決定した。一方、被覆膜の密着強度は、薄膜密着強度測定機Romulus(QUAD GROUP社)を用い、エポキシ接着剤付Al製のスタットピン(先端φ2.7mm)を加熱して被覆膜に接着し、室温まで十分に冷却した後に該スタットピンをロードセルで引張り、剥がれる強度を測定した。
【0028】
フッ素気流中25℃の加熱処理温度で処理した被覆膜の密着強度は925kgf/cm2、90℃の加熱処理温度では955kg/cm2の密着強度を有していたが、何れも被覆膜と基材との界面で剥がれた。一方、100℃以上500℃以下で処理した被覆膜においては、エポキシ接着材部が1200kgf/cm2の負荷時に剥がれ、被覆膜側は全く剥がれずに、基材に密着したまま完全に残っていた。
又、500℃を超える高温で加熱処理した場合には、被覆膜と基材との界面で膜剥がれが生じた。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表1及び表2の結果は、本発明の有効性を実証するものである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の部材は、被覆膜表面がフッ素系腐蝕性ガスに対する耐蝕性に優れるだけでなく、基材と被覆膜との密着性が優れており、ヒートサイクルを伴う使用にも十分耐え、熱膨張差によるクラックの発生や剥離が生じ難いので、産業上極めて有意義である。
【符号の説明】
【0033】
100 静電チャック
101、102 基材
103 フッ素含有窒化アルミニウム被覆膜
104a、104b 電極
105 ヒーター
106 冷却用ガス孔
107 スタッドピン
108 エポキシ接着剤
109 密着強度測定用基材固定部品
110 ロードセル加重


【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウムを主成分とした被覆膜によって、少なくとも基材表面の一部が覆われてなる部材であって、前記被覆膜が、その最表面に0.5原子%以上40原子%以下のフッ素を含有する窒化アルミニウム膜であることを特徴とする部材。
【請求項2】
前記被覆膜中のフッ素含有量が、被覆膜表面から内部に向かって漸次減少する、請求項1に記載された部材。
【請求項3】
前記被覆膜が、化学気相成長法によって相対密度70〜98%に調製した窒化アルミニウム膜の表面を、フッ素系腐食性ガス雰囲気中で処理することにより形成されてなるフッ素含有被覆膜である、請求項1又は2に記載された部材。
【請求項4】
前記フッ素系腐食性ガス雰囲気中における処理が、100℃〜500℃の温度における加熱処理である、請求項3に記載された部材。
【請求項5】
前記被覆膜によって被覆される基材が、高融点金属、高融点合金又はセラミックスを主成分としてなる基材である、請求項1〜4の何れかに記載された部材。
【請求項6】
前記主成分が、窒化アルミニウム、熱分解窒化硼素、窒化硼素と窒化アルミニウムの混合焼結体、熱分解窒化硼素コートグラファイト、希土類酸化物、酸化アルミニウム、酸化珪素、ジルコニア、サイアロン、グラファイト、シリコン、タングステン及びニッケルからなる群の中から選択される1種である、請求項5に記載された部材。
【請求項7】
前記高融点合金がインコネルである、請求項5に記載された部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−229149(P2012−229149A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220004(P2011−220004)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】