説明

窒化物半導体装置

【課題】高耐圧でスイッチングスピードに優れ高い高周波特性を有するノーマリオフ型のHEMTを提供すること。
【解決手段】第1のバンドギャップを有する第1の窒化物半導体層2と前記第1のバンドギャップよりも大きい第2のバンドギャップを有し前記第1の窒化物半導体層上とヘテロ接合される第2の窒化物半導体層3とを備える主半導体領域と、前記主半導体領域上に形成されるソース電極5と、前記主半導体領域上において前記ソース電極5と離間して形成されるドレイン電極6と、前記第1の窒化物半導体層上において前記ソース電極5と前記ドレイン電極6との間に形成される第3の窒化物半導体層10と、前記第3の窒化物半導体層10上に形成されるゲート電極7とを備え、前記第3の窒化物半導体層10が前記第1のバンドギャップよりも小さい第3のバンドギャップを有することを特徴とする窒化物半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体装置から構成されるノーマリオフ型(エンハンスメント型)の高電子移動度トランジスタ(HEMT)に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体は、SiやGaAsに比して非常に高い絶縁破壊電界強度と電界ドリフト速度とを有し、窒化物半導体同士によるヘテロ接合界面には、分極効果により2次元キャリアガスと呼ばれる高密度キャリア層が形成される。これらの特徴から、例えばAlGaN/GaNヘテロ接合構造を有する高電子移動型トランジスタ(HEMT)は、高電圧且つ大電流で動作する電源用スイッチングデバイスとして応用される。
【0003】
ところで、GaN(0001)面を利用した従来構造のHEMTは、負のゲート閾値電圧を有し、ゲート電極にゲート制御電圧を印加しない状態でソース電極とドレイン電極との間に電流が流れてしまう即ちノーマリオン型(デプレッション型)の特性を有する。しかし、スイッチングデバイスには異常時の安全確保のため、正のゲート閾値電圧を有するノーマリオフ型(エンハンスメント型)であることが求められる。
【0004】
そこで、GaN/AlGaNヘテロ接合において、AlGaNからなるバリア層上にGaNからなるチャネル層を形成された従来のHEMTが特許文献1に開示される。従来のHEMTによれば、チャネル層の格子定数がバリア層の格子定数よりも大きいため、チャネル層に発生する自発分極とピエゾ分極とを相殺させることにより、チャネル層に形成される2次元電子ガス(2DEG)のキャリア濃度を低減でき、ノーマリオフ型の特性を有するHEMTを得られる。

【特許文献1】特開2007−269534
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のHEMTにおいては、その構造からゲート電極とドレイン電極との距離が、ゲート電極表面に形成された絶縁体層の膜厚と等しくなるため、距離が近接してしまい高い耐圧が得られなかった。また、ゲート長が増大することによるゲート容量の増加は、HEMTのスイッチングスピードの低下や高周波特性の低下を引き起こしてしまう。これらのことから従来のHEMTは、パワーデバイス或いはRF(高周波)デバイスには適さなかった。
【0006】
従って、本発明が解決しようとする課題は、高耐圧でスイッチングスピードに優れ高い高周波特性を有するノーマリオフ型のHEMTを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような課題を解決するために、請求項1記載の発明は、
第1のバンドギャップを有する第1の窒化物半導体層と前記第1のバンドギャップよりも大きい第2のバンドギャップを有し前記第1の窒化物半導体層上とヘテロ接合され且つ前記ヘテロ接合に基づいて前記第1の窒化物半導体層内に2次元電子ガス層を生じさせることができる第2の窒化物半導体層とを備える主半導体領域と、
前記主半導体領域上に形成されるソース電極と、
前記主半導体領域上において前記ソース電極と離間して形成されるドレイン電極と、
前記第1の窒化物半導体層上において前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に形成される第3の窒化物半導体層と、
前記第3の窒化物半導体層上に形成されるゲート電極と、を備え、
前記第3の窒化物半導体層が前記第1のバンドギャップよりも小さい第3のバンドギャップを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の各請求項に係る発明によれば、高耐圧でスイッチングスピードに優れ高い高周波特性を有するノーマリオフ型のHEMTを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、図面を参照して本発明の実施形態に係るHEMTを説明する。
【0010】
図1に示す本発明の実施例1に係るHEMT1aは、図示しない単結晶シリコン半導体基板上に形成された本発明の第1の窒化物半導体層としてのチャネル層2と、チャネル層2上に形成された本発明の第2の窒化物半導体としてのバリア層3と、バリア層3上に形成されたソース電極5と、バリア層3上においてソース電極5と離間して形成されたドレイン電極6と、チャネル層2上におけるソース電極5とドレイン電極6との間において、バリア層3を貫通しチャネル層2上に接するように形成された本発明の第3の窒化物半導体層としてのゲート層10と、ゲート層10上に形成されたゲート電極7と、を備える。チャネル層2とバリア層3とを併せて本発明の主半導体領域と換言できる。
【0011】
チャネル層2は、例えばAlxGa1−xN(0<x≦1)で構成され、図示しない単結晶半導体基板上に周知のMOCVD法等のエピタキシャル成長法を用いて形成される。本実施例においてはAl0.3Ga0.7N層を0.5〜2.0μm形成することで得られる。またバリア層3は、チャネル層2よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体材料で構成され、本実施例においてはAlyGa1−yN(0<y≦1、x<y)で形成される。バリア層3は、チャネル層2と同様の手法によりAl組成比を大きくすることで形成される。本実施例においてはAl0.5Ga0.5N層を20nm形成することで得られる。チャネル層2はバリア層3よりもバンドギャップが大きいため、チャネル層2とバリア層3とが形成するヘテロ接合に基づき、チャネル層2にはピエゾ分極と自発分極とによる2次元電子ガス層(2DEG層)4が形成される。このピエゾ分極に基づく電界方向は、チャネル層2の自発分極に基づく電界方向と等しいため、従来のHEMTよりも高い2DEG層4のキャリア濃度が得られる。
【0012】
ゲート層10は、チャネル層2よりも小さなバンドギャップを有する窒化物半導体材料で構成され、本実施例においてはGaNで形成される。ゲート層10は、バリア層3にゲート層10が形成される位置に開口を有するようにマスクを形成し、周知のRIE等のドライエッチングを施しチャネル層2に達する開口部を形成した後、MOCVD法等のエピタキシャル成長法によりノンドープGaN層を10〜50nm形成することで得られる。ここで、ノンドープとは、半導体不純物が添加されていないことを意味する。ゲート層10は、チャネル層2のAlGaNに格子整合するように成長し、且つ、チャネル層2よりもバンドギャップが小さいため、チャネル層2とゲート層10とが形成するヘテロ接合に基づき、ゲート層10には圧縮応力によるピエゾ分極が誘起される。即ち、局所的に見れば、チャネル層2がバリア層として作用し、ゲート層10がチャネル層として作用すると言い換えることができる。このピエゾ分極に基づく電界方向は、ゲート層10の自発分極に基づく電界方向と逆の方向になるため、ゲート層10におけるチャネル層2とゲート層10との接合界面付近には2DEG層が形成されにくくなる。
【0013】
なお、上記の製造方法以外に、チャネル層2の全面にノンドープGaN層を成長させ、ゲート層10を形成する位置を除いてドライエッチングを施した後、チャネル層2上にバリア層3を選択的に成長させても良い。また、ゲート層10をAl組成比が小さいAlGaNで形成しても良い。
【0014】
ソース電極5、ドレイン電極6およびゲート電極7は、例えばアルミ(Al)及び金(Au)を含む積層構造で構成され、バリア層3およびゲート層10上に蒸着した後、フォトリソ工程によりパターニングすることで形成される。ソース電極5およびドレイン電極6は、バリア層3上に形成されるが、バリア層3の厚みは非常に薄く、厚み方向の抵抗は極めて小さい。従って、ソース電極5およびドレイン電極6は、バリア層3を介して2DEG層4に電気的に接続されると言える。また、ゲート電極7はゲート層10に電気的に接続されるように形成される。
【0015】
次に、本実施例に係るHEMT1aの動作について説明する。
【0016】
ゲート層10が、チャネル層2のAlGaNに格子整合するように成長し、且つ、チャネル層2よりもバンドギャップが小さいため、チャネル層2とゲート層10とのヘテロ接合に基づき、ゲート層10に形成される2DEG層のキャリア濃度が非常に低く、2DEG層は実質的に存在しない。そのため、ゲート電極7に正のゲート制御電圧が印加されていない状態では、電流経路がゲート層10において分断されている。従って、ドレイン電極6の電位をソース電極5の電位より高くしてもHEMT1aに電流は流れない。
【0017】
一方、ゲート電極7に正のゲート制御電圧を印加すると、エネルギーバンドの変化により、ゲート層10中にキャリアが生じ、電流経路となるチャネルが形成される。この状態でドレイン電極6の電位をソース電極7の電位より高くすると、2DEG層4及びゲート層10中のチャネルを経由してドレイン電極6とソース電極7との間にドレイン電流が流れる。即ち、ノーマリオフ特性を有する窒化物半導体装置が得られる。
【0018】
さらに、本実施例に係るHEMT1aによれば、ゲート電極7とドレイン電極6とを離間させることで、高耐圧化が容易に実現できる。さらに、ゲート長が増大することがないため、優れたスイッチングスピードが得られる。また、チャネル層2の自発分極に基づく電界方向と、チャネル層2とバリア層3とのヘテロ接合に基づくピエゾ分極に基づく電界方向とが等しいため、従来のHEMTに比して、2DEG層4のキャリア濃度を容易に高くでき、HEMT1aのオン抵抗を低減することができる。従って、高耐圧で大電流での動作が可能なスイッチングスピードに優れたパワーデバイス或いは高い高周波特性を有するデバイスが得られる。
【0019】
本発明の実施例1に係るHEMT1aにおいて、図2に示すようにソース電極5及びドレイン電極6をチャネル層2に接するように形成しても良い。
【0020】
ソース電極5及びドレイン電極6が形成される開口部は、HEMT1aにおいてゲート層10が形成される開口部と同時に形成するとができ、ゲート層10を形成した後、バリア層3およびゲート層10上に蒸着した後、フォトリソ工程によりパターニングすることで形成することができる。
【0021】
このように構成されたHEMT1bによれば、本発明の実施例1に係るHEMT1aと同様の効果が得られる。また、ソース電極5及びドレイン電極6と2DEG層4との間の電気的抵抗値を極めて小さくでき、HEMT1bのオン抵抗を低減できる。
【0022】
また、図3に示すように、バリア層3に側面12を有するリセス13を形成しても良く、さらに、ゲート層10及びゲート電極7がチャネル層2及び側面12を含むバリア層3上に延伸して形成されても良い。側面12を有するリセス13は、バリア層3に所定の開口を有するようにマスクを形成し、RIE等のドライエッチングによって形成することができる。なお、側面12は、バリア層3の厚みが徐々に変化するように形成しても良く、段階的に変化するように形成しても良い。
【0023】
ゲート層10は、主半導体領域上にリセス13を形成した後、MOCVD法等のエピタキシャル成長法により形成される。
【0024】
本実施例に係るHEMT1cによれば、実施例1に係るHEMT1aと同様の効果を得ることができる。また、ゲート層10及びゲート電極7が、チャネル層2及びバリア層3上に延伸するように形成されるため、フィールドプレート効果による電界集中の緩和を良好に達成でき、より高耐圧化が実現できる。
【0025】
次に、図4に示す本発明の実施例2に係るHEMT1dについて説明する。但し、図4において図1と実質的に同一の部分には同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0026】
本実施例に係るHEMT1dは、ゲート層10とゲート電極7との間に化合物層11を形成される点で実施例1と異なり、それ以外は同様に形成される。
【0027】
本実施例における化合物層11は、酸化シリコン(SiO、SiO2)、窒化シリコン(SiN)、酸化アルミ(Al2O3)あるいは酸化ハフニウム(HfO)等の絶縁物を含み、ゲート層10が形成された後、プラズマCVD法等を施すことにより形成される。例えば、本実施例における化合物層11は、SiO2層を10〜100nm形成することで得られる。
【0028】
このように構成されたHEMT1dによれば、本発明の実施例1に係るHEMT1aと同様の効果が得られる。また、ゲート層10とゲート電極7との間に化合物層11が形成されることで、ゲートリーク電流を低減することができる。また、図4に示すように化合物層11をバリア層3及びゲート層10上に延伸するように形成することで、より確実にゲートリーク電流を低減することができる。
【0029】
本発明の実施例2に係るHEMT1dにおいて、化合物層11は、例えば酸化ニッケル、酸化鉄、酸化コバルト及び酸化マンガン等の金属酸化物を含む単層又は積層構造であっても良い。ゲート層10上に酸素を含む雰囲気中で金属または酸化金属をスパッタリングする等の方法により形成される。金属酸化物を含む化合物層11が形成されたHEMT1dによれば、ゲートリーク電流をより低減でき、また、ノーマリオフ特性を容易に得ることができる。
【0030】
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能であり、また各実施例或いは各変形例の組合せが可能である。例えば、実施例2に係るHEMT1dにおいて、ソース電極5及びドレイン電極6の一方又は双方をチャネル層2に接するように形成しても良い。また、各半導体層の厚みを変更しても良く、チャネル層2及びバリア層3のAl組成比を変更しても良い。また、バリア層3上にSiOを含むパッシベーション層を形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1に係るHEMT1aの構造断面図である。
【図2】本発明の実施例1の変形例に係るHEMT1bの構造断面図である。
【図3】本発明の実施例1の変形例に係るHEMT1cの構造断面図である。
【図4】本発明の実施例2に係るHEMT1dの構造断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 HEMT
2 チャネル層
3 バリア層
4 2次元電子ガス層
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 ゲート電極
10 ゲート層
11 化合物層
12 側面
13 リセス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のバンドギャップを有する第1の窒化物半導体層と前記第1のバンドギャップよりも大きい第2のバンドギャップを有し前記第1の窒化物半導体層上とヘテロ接合され且つ前記ヘテロ接合に基づいて前記第1の窒化物半導体層内に2次元電子ガス層を生じさせることができる第2の窒化物半導体層とを備える主半導体領域と、
前記主半導体領域上に形成されるソース電極と、
前記主半導体領域上において前記ソース電極と離間して形成されるドレイン電極と、
前記第1の窒化物半導体層上において前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に形成される第3の窒化物半導体層と、
前記第3の窒化物半導体層上に形成されるゲート電極と、を備え、
前記第3の窒化物半導体層が前記第1のバンドギャップよりも小さい第3のバンドギャップを有することを特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項2】
前記第3の窒化物半導体層と前記ゲート電極との間に絶縁物を含む化合物層を備えることを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体装置。
【請求項3】
前記第3の窒化物半導体層と前記ゲート電極との間に化合物層を備え、前記化合物層が金属酸化物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項4】
前記第3の窒化物半導体層が、ノンドープGaNから構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−98047(P2010−98047A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266278(P2008−266278)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】