説明

粗さ測定方法及び粗さ測定装置

【課題】基板上に形成された多層膜の内部界面のナノスケールの粗さを光学的に非破壊・非接触で測定すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る粗さ測定装置100は、基板上に形成された第1層と第2層との間の測定対象界面の粗さを測定するための粗さ測定装置であって、第1層及び第2層が形成された試料30の多層膜形成面からの反射スペクトルが最小となる最適波長の光を選択する波長選択部24と、試料30の多層膜形成面及び参照面に最適波長の光を照射する光源11と、試料30の多層膜形成面で反射された測定光と、参照面で反射された参照光とを合成した干渉光を受光する光検出器22と、干渉光の強度変化に基づいて、測定光と参照光との位相差から、試料の多層膜形成面の粗さを算出し、当該多層膜形成面の粗さに基づいて、測定対象界面の粗さを決定する粗さ算出部43とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗さ測定方法及び粗さ測定装置に関し、特に詳しくは、基板上に形成された複数の薄膜からなる多層膜の内部界面のナノスケールの粗さを光学的に非破壊・非接触で測定する測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
SOI(silicon on insulator)ウエハは、Siウエハ中に酸化膜を埋め込み、Si基板上にSiO/Siの二層の薄膜が形成された構造を有している。基板上の各層の膜厚は、数十〜数百nm程度である。このような多層膜構造の内部界面のナノスケールの粗さ(凹凸)を測定することにより、良品/不良品の判別を短時間で行うことが求められている。
【0003】
従来、多層膜の内部界面の構造を観察する方法として、例えば、光学顕微鏡による方法と、原子間力顕微鏡による方法とがある。しかしながら、上記の各方法にはそれぞれ問題点がある。すなわち、通常の明視野光学顕微鏡では、膜厚が数十〜数百nmのほとんどの薄膜は可視光に対して透明であるので、多層膜の各界面からの反射光が全て合成されて観察され、測定対象界面の情報を抽出することができない。また、最表面の反射率が高い場合には、内部界面を観察するのは難しい。特に、上述したSOI構造の場合、最表面層であるSi膜の反射率が下層にあるSiO膜よりも高いため、内部界面のコントラストが付かない。また、各界面の反射光は互いに干渉しあうため、膜厚と光学定数に依存して、干渉コントラストが見えてしまう。
【0004】
共焦点顕微鏡では、膜厚が数μm以上でないと、各界面からの反射光を分離することはできない。SOI構造のように各層の膜厚がサブミクロン程度の薄膜では、全ての界面が同じ焦点の中に入ってしまい、分離することができない。
【0005】
白色光源を用いた干渉計では、多層膜からの反射光は、膜厚と光学定数に依存して特徴的な反射スペクトルになる。このため、参照光と反射スペクトルが変化してしまい、正しい白色干渉縞を実現することができない。また、単一波長光源を用いた干渉計では、測定対象の膜厚や材質により反射率が大きく変化してしまう。このため、表面の反射率が高い場合には、内部界面を観察するのは困難である。特許文献1には、多波長干渉計により多層膜の表面形状を測定する方法が開示されているが、多層膜の内部界面を光学的に測定する方法は確立されていない。
【0006】
原子間力顕微鏡では、観察することができるのは最表面である。従って、内部の界面を観察するためには、上層からエッチングなどで一層ずつ除去しなければならず、破壊検査となる。また、カンチレバーによる走査では、数十μm程度の領域を測定するのに、数十分もの膨大な時間がかかる。
【特許文献1】特開2004−286689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情を背景としてなされたものであり、本発明の目的は、基板上に形成された複数の薄膜からなる多層膜の内部界面のナノスケールの粗さを光学的に非破壊・非接触で測定する粗さ測定方法及び粗さ測定装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る粗さ測定方法は、基板上に形成された第1層と、前記第1層の上に形成された第2層とを有する試料の、前記第1層と前記第2層との間の測定対象界面の粗さを測定する粗さ測定方法であって、前記試料の前記第1層及び前記第2層が形成された多層膜形成面に、所定の波長幅の照明光を照射し、前記試料の多層膜形成面からの反射光強度が極小近傍となる、前記照明光の波長幅に含まれる第1波長の光を選択し、前記試料の多層膜形成面及び参照面に前記第1波長の光を照射し、前記試料の多層膜形成面で反射された測定光と、前記参照面で反射された参照光とを合成した干渉光を受光し、前記干渉光の強度変化に基づいて、前記測定光と前記参照光との位相差から、前記試料の多層膜形成面の粗さを算出し、前記試料の多層膜形成面の粗さに基づいて、前記測定対象界面の粗さを決定する。これにより、多層膜の界面の粗さを非破壊・非接触で測定することができる。
【0009】
本発明の第2の態様に係る粗さ測定方法は、上記の測定方法において、前記第1波長の光として、前記測定対象界面以外の界面からの反射光と、前記反射光により生じる干渉光とが打ち消しあう波長の光を選択することを特徴とする。これにより、多層膜の界面の粗さを非破壊・非接触でより正確に測定することができる。
【0010】
本発明の第3の態様に係る粗さ測定方法は、上記の測定方法において、前記第1層及び前記第2層の膜厚と、前記第1層及び前記第2層の屈折率に基づいて、前記第1層及び前記第2層からの反射光強度及び干渉光強度を算出し、前記反射光強度及び干渉光強度に基づいて、前記第1波長の光として、前記測定対象界面以外の界面からの反射光と、前記反射光により生じる干渉光とが打ち消しあう波長の光を選択することを特徴とする。これにより、多層膜の界面の粗さを非破壊・非接触でより正確に測定することができる。
【0011】
本発明の第4の態様に係る粗さ測定方法は、上記の測定方法において、前記反射光強度及び前記干渉光強度は、前記第1層及び前記第2層に入射した光が各界面により1回反射された1回反射モデルにより算出される。これにより、短時間で観察する光の波長を選択することができる。
【0012】
本発明の第5の態様に係る粗さ測定方法は、上記の測定方法において、前記測定対象界面の粗さは、以下の式に基づいて算出されることを特徴とする。
【数3】

ここで、
Rq:前記試料の多層膜形成面の二乗平均粗さ
RMS(a):前記第2層と媒質との界面の二乗平均粗さ
RMS(b):前記第1層と前記第2層との間の前記測定対象界面の二乗平均粗さ
:前記第2層の屈折率
:前記媒質の屈折率
とする。このように、簡単な演算式により基板上に形成された多層膜の界面の粗さを算出することができる。
【0013】
本発明の第6の態様に係る粗さ測定方法は、上記の測定方法において、前記試料の多層膜形成面と前記参照面との光学的距離を変動させ、前記測定光と前記参照光との間に複数の位相差を与え、前記干渉光の強度変化を生じさせることを特徴とする。これにより、位相測定を高分解能で行うことができ、多層膜の界面の粗さをより正確に測定することができる。
【0014】
本発明の第7の態様に係る粗さ測定装置は、基板上に形成された第1層と、前記第1層の上に形成された第2層とを有する試料の、前記第1層と前記第2層との間の測定対象界面の粗さを測定するための粗さ測定装置であって、前記試料の第1層及び前記第2層が形成された多層膜形成面からの反射光強度が極小近傍となる第1波長の光を選択する波長選択部と、前記試料の多層膜形成面及び参照面に前記第1波長の光を照射する光源と、前記試料の多層膜形成面で反射された測定光と、前記参照面で反射された参照光とを合成した干渉光を受光する光検出器と、前記干渉光の強度変化に基づいて、前記測定光と前記参照光との位相差から、前記試料の多層膜形成面の粗さを算出し、前記試料の多層膜形成面の粗さに基づいて、前記測定対象界面の粗さを決定する算出部とを備えるものである。これにより、多層膜の界面の粗さを非破壊・非接触で測定することができる。
【0015】
本発明の第8の態様に係る粗さ測定装置は、上記の測定装置において、前記波長選択部は、前記第1波長の光として、前記測定対象界面以外の界面からの反射光と、前記反射光により生じる干渉光とが打ち消しあう波長の光を選択することを特徴とするものである。これにより、多層膜の界面の粗さを非破壊・非接触でより正確に測定することができる。
【0016】
本発明の第9の態様に係る粗さ測定装置は、上記の粗さ測定装置において、前記波長選択部は、前記第1層及び前記第2層の膜厚と、前記第1層及び前記第2層の屈折率に基づいて、前記第1層及び前記第2層からの反射光強度及び干渉光強度を算出し、前記反射光強度及び干渉光強度に基づいて、前記第1波長の光として、前記測定対象界面以外の界面からの反射光と、前記反射光により生じる干渉光とが打ち消しあう波長の光を選択することを特徴とするものである。これにより、多層膜の界面の粗さを非破壊・非接触でより正確に測定することができる。
【0017】
本発明の第10の態様に係る粗さ測定装置は、上記の測定装置において、前記反射光強度及び前記干渉光強度は、前記第1層及び前記第2層に入射した光が各界面により1回反射された1回反射モデルにより算出されるものである。これにより、短時間で観察する光の波長を選択することができる。
【0018】
本発明の第11の態様に係る粗さ測定装置は、上記の測定装置において、前記算出部は、以下の式に基づいて前記測定対象界面の粗さを算出することを特徴とするものである。
【数4】

ここで、
Rq:前記試料の多層膜形成面の二乗平均粗さ
RMS(a):前記第2層と媒質との界面の二乗平均粗さ
RMS(b):前記第1層と前記第2層との間の前記測定対象界面の二乗平均粗さ
:前記第2層の屈折率
:前記媒質の屈折率
とする。このように、簡単な演算式により基板上に形成された多層膜の界面の粗さを算出することができる。
【0019】
本発明の第12の態様に係る粗さ測定装置は、上記の測定装置において、前記試料の多層膜形成面と前記参照面との光学的距離を変動させ、前記測定光と前記参照光との間に複数の位相差を与え、前記干渉光の強度変化を生じさせることを特徴とするものである。これにより、位相測定を高分解能で行うことができ、多層膜の界面の粗さをより正確に測定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、基板上に形成された複数の薄膜からなる多層膜の内部界面のナノスケールの粗さを光学的に非破壊・非接触で測定する粗さ測定方法及び粗さ測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。以下の説明は、本発明の好適な実施の形態を示すものであって、本発明の範囲が以下の実施の形態に限定されるものではない。以下の説明において、同一の符号が付されたものを実質的に同様の内容を示している。
【0022】
本発明の実施の形態に係る粗さ測定装置100の構成について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る粗さ測定装置100の構成を模式的に示す図である。図2は、本実施の形態に係る粗さ測定装置100に用いられる処理装置40の構成を示すブロック図である。本実施の形態においては、干渉計の一例として、マイケルソン型の位相シフト干渉計を用いた例について説明する。なお、干渉計については特に制限されず、ミラウ干渉計、フィゾー干渉計等、他の二光束干渉計を用いてもよい。また、位相を精密に測定できる方法であれば、位相シフト法に限定されず、どのような方法を採用してもよい。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態に係る粗さ測定装置100は、光源11、干渉フィルター12、レンズ13、21、25、ビームスプリッタ14、15、20、測定用対物レンズ16、ステージ17、参照用対物レンズ18、参照用ミラー19、光検出器22、分光計23、波長選択部24、処理装置40を備えている。また、図2に示すように、処理装置40は、ステージ駆動部41、波長変換制御部42、粗さ算出部43、メモリ44等を備えている。
【0024】
本発明に係る粗さ測定装置100では、Siウエハに酸素を打ち込むことにより、Si基板上にSiO/Siの二層の薄膜が形成された構造を有するSIMOX(Separation by Implanted Oxygen)ウエハを測定対象とする。なお、SIMOXウエハは、SOIウエハの一例であり、Siウエハに酸素イオンを注入した後、高温で熱処理することにより埋め込み酸化膜が形成されたものである。もちろん、SIMOXウエハに限定されず、例えば、貼り合わせタイプのSOIウエハも測定対象とすることができる。図3に、このような試料30の構成を示す。図3に示すように、試料30は、Si基板31(Substrate)上にSiO層32(Layer2、請求項中の第1層)が形成され、その上にSi層33(Layer1、請求項中の第2層)が形成された構成を有している。Si基板31のSiO層32及びSi層33が形成された面を多層膜形成面とする。空気(Air)とSi層33との界面(Si層33の表面)を界面01とし、Si層33とSiO層32との界面を界面12とし、SiO層32とSi基板31との界面を界面23とする。ここでは、Si層33とSiO層32との界面12を測定対象界面とする。
【0025】
図3において、空気の屈折率をN=n−ik、Si層33の屈折率をN=n−ik、SiO層32の屈折率をN=n−ik、Si基板31の屈折率をN3=n3−ik3とする。また、ここでは、Si層33、SiO層32、Si基板の各層の厚みは未知であるものとし、Si層33の膜厚をd、SiO層32の膜厚をd、Si基板の厚みをdとする。
【0026】
本発明では、白色光源を使って多層膜が形成された試料の反射スペクトルを分光計で測定し、この反射スペクトルを解析することにより着目した測定対象界面のコントラストが大きくなる波長を見出す。具体的には、着目した測定対象界面以外の界面の反射光が打ち消しあうような波長を見つける。そして、この解析結果の波長の光を用いて、二光束干渉計により干渉コントラストを生じさせ、位相シフト干渉法を使ってコントラストから凹凸形状(粗さ)を計算する。位相シフト法を適用する場合には、単波長の照明光を使用しなければならない。この場合、測定対象界面のコントラストが大きくなる最適波長を選択する必要がある。最適ではない波長を選択した場合には、干渉のコントラストが低くなり、位相シフト干渉法による計算が現実的に不可能であるためである。
【0027】
多層膜形成面の見かけの二乗平均平方根粗さを算出することにより、界面12の二乗平均平方根粗さを決定する。なお、多層膜形成面の見かけの二乗平均平方根粗さとは、Si基板31、SiO層32及びSi層33のそれぞれの界面(界面01、界面12、界面23)の情報を含んだままの位相情報から、見かけ上空気と固体(多層膜(SiO層32及びSi層33で覆われたSi基板31)の界面の粗さとして算出したものである。なお、以下の説明においては、媒質の一例として空気とした場合について説明するが、これに限定されるものではなく、アルゴンガス等他の気体中で測定してもよい。
【0028】
本実施の形態に係る粗さ測定装置100は、波長選択が可能な位相シフト干渉計の光路中に分光計23を組み合わせた構成を有している。本実施の形態では、分光計23を用いて、分光干渉法により試料30の各層の膜厚を測定する。なお、本実施の形態では、粗さ測定装置100内に分光計23を組み合わせたが、試料30の各層の膜厚を測定する測定装置と、測定対象界面の観察をする顕微鏡とを別々に設けてもよい。また、分光干渉法以外の手法で各層の平均膜厚を求めてもよい。なお、各層の材質と膜厚が既知である場合は必ずしも膜厚の測定をする必要はない。膜厚d、dは膜の設計厚さでもかまわない。
【0029】
また、本実施の形態に係る粗さ測定装置100は、干渉計を利用して試料30の粗さを測定する。粗さ測定装置100は、光学系の中にマイケルソン型干渉計を備えている。試料30の各界面01、12、23でそれぞれ反射された測定光(多層膜形成面で反射された光)と、参照面となる参照用ミラー19で反射された参照光とを合成して受光している。
【0030】
光源11としては、キセノンランプのような白色光源が用いられる。例えば、紫外から赤外域(185nm〜2000nm)に幅広い連続スペクトルを有するキセノンランプを用いることができる。なお、連続スペクトルを有する光源でなくても、水銀キセノンランプのように連続スペクトルに複数の輝線を含む光源でもよい。もちろん、光源11としては、キセノンランプに限らず、白色ダイオード、白色レーザ等を用いてもよい。後述するように、波長が選択できればどのような光源を用いてもよい。光源11は、分光計23で反射スペクトルを測定する場合は白色光を出射する。そして、後述するように反射スペクトルの解析により、測定対象界面の粗さを測定するための最適波長が決定した後に、その波長に最も近い干渉フィルター12を挿入することにより、試料30の観察のための単波長照明に切替えることができる。
【0031】
なお、光源11として単波長のレーザ光を出射するレーザ光源を用い、干渉フィルター12の代わりに波長変換素子を設けてもよい。例えば、第二高調波発生により、波長変換素子に入射する光源11からの単波長の光の波長変換を行うことができる。また、光源11として、可変波長レーザを用いることも可能である。さらに、異なる波長のレーザ光を出射する複数の光源を設けて、複数の光源のうちの所望の波長の光を出射するようにしてもよい。
【0032】
光源11からの光によって、試料30及び参照用ミラー19を照明するための光学系について説明する。光源11から出射された光は、干渉フィルター12を通過し、特定の波長の光に変換される。干渉フィルター12としては、例えば、特定波長の光を選択的に透過させる複数のバンドパスフィルタを用いることができる。これにより、特定の波長の光を選択的に透過させる。処理装置40の波長変換制御部42は、複数のバンドパスフィルタの切り替えを行うことにより、透過させる光の波長を変更する。そして、第1波長の光はレンズ13を透過して、ビームスプリッタ14に入射する。ビームスプリッタ14は、偏光状態によらずに、反射光と透過光の光量が略1:1になるように、光を分岐する。従って、第1波長の光の略半分がビームスプリッタ14で反射する。
【0033】
ビームスプリッタ14で反射された光は図1中下方に進み、ビームスプリッタ15に入射する。ビームスプリッタ15は、偏光状態によらずに、反射光と透過光の光量が略1:1になるように、光を分岐する。従って、第1波長の光の略半分がビームスプリッタ15と透過し、残りの略半分がビームスプリッタ15で反射する。従って、ビームスプリッタ15によって、入射した第1波長の光が2本の光ビームに分岐される。ビームスプリッタ15の反射面は、光軸に対して、45°傾いている。ビームスプリッタ15を透過した光は、測定用対物レンズ16に入射する。すなわち、ビームスプリッタ15で分岐された2本の光ビームのうち、一方の光ビームは測定用対物レンズ16に入射する。測定用対物レンズ16は、入射した光ビームを集光して、試料30に出射する。すなわち、ビームスプリッタ15を透過した光ビームは、測定用対物レンズ16によって試料30上に縮小投影される。これにより、試料30が第1波長の光によって照明される。
【0034】
試料30は、ステージ17上に載置されている。ステージ17はX−Y−Zステージであり、処理装置40に設けられたステージ駆動部41からの駆動信号に基づいて、試料30と照明光その相対位置を移動させる。すなわち、試料30を載置しているステージ17を、ピエゾ素子等の圧電素子を用いて駆動させ、試料30と測定用対物レンズ16との距離を変化させる。これにより、光ビームにより試料30上をZ方向にスキャンすることができる。つまり、光学距離を機械的に変化させることにより、測定光と参照光との間に複数の位相差を与えることができる。換言すると、本実施の形態に係る二光束干渉計には位相シフト干渉法を実現するための位相変調機構が備わっている。
【0035】
なお、測定用対物レンズ16をピエゾ素子により駆動して、測定用対物レンズ16と試料30との距離を変化させるようにしてもよい。また、測定用対物レンズ16と試料30との距離を変える代わりに、参照用対物レンズ18と参照用ミラー19との距離を変えるようにしてもよい。このように、光学距離を機械的に変える方法で測定光と参照光との間に位相差を与えることにより、無偏光の光を使うことができ、光学異方性を有する測定対象物でも偏光による測定光と参照光の位相ズレを起こすことがなく、正確に測定を行うことができる。
【0036】
測定光と参照光との間に複数の位相差を与える方法としては、上述したような光学距離を機械的に変える方法のほか、偏光干渉を使って位相差を与える方法がある。具体的には、測定光と参照光の偏光の回転角を考慮して、位相差板等を用い、測定光と参照光との間に複数の位相差を与えることができる。この場合、図1に示すビームスプリッタ15を偏光ビームスプリッタに置き換えて、測定光と参照光とがそれぞれp偏光とs偏光になるようにする。また、光検出器22の前にλ/4波長板を挿入して、これらのp偏光とs偏光とが干渉するようにする。なお、ガルバノミラーなどの振動ミラーや音響光学偏向器等を組み合わせて、照明光が試料30上をX−Y方向に走査するようにしてもよい。
【0037】
一方、ビームスプリッタ15で反射した光ビームは、図1中側方に設けられた参照用対物レンズ18に入射する。すなわち、参照用対物レンズ18は、ビームスプリッタ15で分岐された2本の光ビームのうち、他方の光ビームを集光して、参照用ミラー19に入射させる。すなわち、ビームスプリッタ15で反射された光ビームは、参照用対物レンズ18によって、参照用ミラー19に縮小投影される。これによって、参照用ミラーが第1波長の光によって照明される。このように、ビームスプリッタ15によって分岐された光ビームのうちの1本が、試料30を照明する照明光となり、他方が参照用ミラー19を照明する照明光となる。
【0038】
参照用ミラー19は、例えば、平坦で反射率が略100%の平面鏡である。従って、参照用ミラー19は、入射光のほとんど全てを正反射する。参照用ミラーの反射率は、測定対象物の反射率と同程度であることが好ましい。測定対象物と参照用ミラーの反射強度が等しいと、干渉縞の明暗のコントラストが強くなり、ノイズの少ない測定が可能となる。逆に参照用ミラーと測定対象物の反射率の差が大きいと、干渉縞のコントラストが悪くなる。従って、測定対象物の反射率に合わせて、反射率の異なる参照用ミラーに交換できるようになっていることが好ましい。なお、参照用対物レンズ18と、測定用対物レンズ16は、例えば、同じタイプに対物レンズであり、焦点距離や、光路長のみならず、波面収差特性等の収差特性までも等しくなっている。
【0039】
なお、参照用ミラー19の裏面側には、図示しない焦点調整機構と角度調整機構とが取り付けられている。焦点調整機構は、焦点を調整するためのネジ等を備えている。このネジを回転させることによって、参照用ミラー19が参照用対物レンズ18の光軸に沿って、平行移動する。これにより、参照用対物レンズ18の焦点を参照用ミラー19の表面にあわせ、参照用ミラー19を参照用対物レンズ18の合焦点位置に配置することができる。角度調整機構は、参照用ミラー19の角度を調整するため、例えば、参照用ミラー19の対角に設けられたネジを備えている。このネジを回転させることによって、参照用ミラー19の反射面の角度を変化させることができる。これにより、測定光と参照光の位相差に基づく干渉縞パターンの疎密を変化させることができる。
【0040】
次に、試料30で反射した光と、参照用ミラー19で反射した光を検出するための検出光学系について説明する。上述したように、本実施の形態に係る粗さ測定装置100には、マイケルソン型干渉計が挿入されている。マイケルソン型干渉計には、測定用対物レンズ16と参照用対物レンズ18が配設されている。
【0041】
試料30で反射した測定光は、測定用対物レンズ16に入射する。そして、測定光は、測定用対物レンズ16を介して、ビームスプリッタ15に入射する。ビームスプリッタ15は、上述の通り偏光状態によらず、入射光を略1:1に分岐する。従って、入射した測定光の略半分は、ビームスプリッタ15を透過する。一方、参照用ミラー19で反射した参照光は、参照用対物レンズ18に入射する。すなわち、参照用ミラー19は、参照用対物レンズ18で集光された光ビームを反射して、参照用対物レンズ18に参照光として入射させる。そして、参照光は、参照用対物レンズ18を介してビームスプリッタ15に入射する。入射した参照光の略半分は、ビームスプリッタ15で反射される。
【0042】
従って、ビームスプリッタ15によって測定光と参照光とが合成され、1本の光ビームとなる。ここで、ビームスプリッタ15によって、合成された1本の光ビームを合成光とする。すなわち、測定光と参照光とが、ビームスプリッタ15によって合成されることによって、合成光が生成される。このように、マイケルソン型干渉計では、照明光がビームスプリッタ15で分岐されるとともに、試料30で反射した測定光と、参照用ミラー19で反射された参照光とがビームスプリッタ15で1本の光ビームに合成される。
【0043】
ビームスプリッタ15から出射した合成光は上方に進み、ビームスプリッタ14に入射する。ビームスプリッタ14は、上述の通り、偏光状態によらず、入射光を略1:1に分岐する。従って、ビームスプリッタ14に入射した合成光のうち、略半分が透過する。すなわち、ビームスプリッタ14に入射した測定光の略半分と参照光の略半分とが、ビームスプリッタ14を透過する。このビームスプリッタ14によって、合成光と照明光とを分岐することができる。すなわち、照明光の光路から合成光が分離される。
【0044】
照明光から分離された合成光は、ビームスプリッタ20に入射する。ビームスプリッタ20は、偏光状態によらずに、反射光と透過光の光量が略1:1になるように、光を分岐する。入射した合成光のうち略半分がビームスプリッタ20を透過し、レンズ21を介してレンズ21を介して光検出器22に入射する。レンズ21は、光検出器22の受光面に合成光を結像させる。光検出器22は、例えば、CCDセンサであり、検出画素となる受光素子が設けられたものを用いることができる。光検出器22では、受光した光量に応じた信号電荷が画素ごとに蓄積される。ステージ17をZ方向に駆動して試料30上を走査することにより、測定光と参照光とに複数の位相差を与え、複数の干渉縞パターンを撮像することができる。
【0045】
光検出器22は、入射した光の強度に応じた検出信号を処理装置40の粗さ算出部43に出力する。光検出器22からの検出信号は、処理装置40に入力される。処理装置40に出力された検出信号の強度が、測定光と参照光の位相差に応じた干渉光強度に基づくものとなる。本発明では、この多層膜形成面の二乗平均平方根粗さから、多層膜の界面の粗さを決定する。処理装置40は、例えば、検出信号をA/D変換して、メモリ44に記憶させる。粗さ算出部43は、メモリ44に記憶された画素ごとの検出信号に対応する干渉光強度に応じた測定光と参照光との位相差から、試料30のSi基板31上にSiO層32及びSi層33とからなる多層膜が形成された多層膜形成面の見かけの表面粗さを算出する。そして、多層膜形成面の見かけの表面粗さに基づいて、SiO層32とSi層33との界面12の粗さを算出する。この界面12の粗さの算出方法については、後に詳述する。なお、処理装置40は、物理的に単一な装置に限るものではない。
【0046】
一方、光源11からの光によって、試料30の膜厚を測定するための光学系について説明する。本実施の形態においては、分光計23を用い、分光干渉法により試料30の膜厚を測定する。従って、光源11から出射される白色光を試料30に照射する必要がある。このため、試料30の膜厚を測定するときには、光源11から出射した光が干渉フィルター12を通過しないように、干渉フィルター12を移動させる。光源11から出射した光は、直接レンズ13を透過し、ビームスプリッタ14に入射する。ビームスプリッタ14により、特定の波長の光の略半分が反射される。そして、図1中下方に進む光は、測定用対物レンズ16により集光され、試料30に照射される。そして、図1中下方に進む光は、測定用対物レンズ16により集光され、試料30に照射される。
【0047】
試料30に白色光が入射されると、膜内部で多重反射が起こる。このそれぞれの反射光は、互いの位相差に応じて干渉する。従って、分光計23により、試料30からの反射スペクトルを測定し、解析することにより膜厚を測定することができる。試料30で反射された測定光は、測定用対物レンズ16を通過し、ビームスプリッタ14に入射する。そして、入射した光の略半分がビームスプリッタ14を透過し、ビームスプリッタ20に入射する。ビームスプリッタ17に照射された光の半分は、レンズ25を通過し、分光計21に入射する。分光計23は、入射した光から公知の分光干渉法を用いて、反射スペクトルを測定し、試料30の膜厚の測定を行う。
【0048】
なお、試料30の膜厚を測定するための白色光源と、観察を行うための異なる波長の複数の光源とを別々に備えるようにしてもよい。観察を行うための光源として単波長のレーザ光を出射するレーザ光源を用い、波長変換素子を設けてもよい。例えば、第二高調波発生により、波長変換素子に入射する単波長の光の波長変換を行うことができる。また、光源11として、可変波長レーザを用いることも可能である。さらに、異なる波長のレーザ光を出射する複数のレーザ光源を設けて、複数のレーザ光源のうちの所望の波長の光を選択するようにしてもよい。
【0049】
波長選択部24は、反射シミュレーションを行い、試料30の測定対象界面以外の界面からの反射光と測定対象界面以外の界面からの干渉光とが打ち消しあう波長の光を、試料30を観察するための最適波長の光として選択する。具体的には、波長選択部24は、多層膜の各層の膜厚と屈折率とに基づいて、各界面からの反射光強度及び干渉光強度を算出し、当該反射光強度及び干渉光強度に基づいて、試料30を観察するための最適波長を選択する。最適波長を決定する方法については、後に詳述する。
【0050】
処理装置40は、波長選択部24によって選択された波長の光を出射させるため、干渉フィルター12の切り替えを行い、透過させる光の波長を変更する。この選択された波長の光を用いて、試料30の測定対象界面を測定することにより、測定対象界面以外の各界面からの反射光の影響を抑制することができ、測定対象界面上のナノスケールの凹凸のコントラストを最適化することができる。この波長の光を用いて、二光束干渉計により干渉コントラストを生じさせ、位相シフト干渉法を使ってコントラストから凹凸形状(粗さ)を計算する。これにより、多層膜の界面の粗さを非破壊・非接触で測定することができる。
【0051】
ここで、本発明に係る粗さ測定方法について説明する。本実施の形態に係る多層膜の名部界面の粗さ測定方法の手順を簡単に示すと、以下の通りである。
(1)最適波長の決定
本実施の形態においては、まず、分光スペクトルを測定する。試料30を白色光で照明し、その反射スペクトルを分光計23で分光することにより、試料30の多層膜構造の平均的な膜厚を測定する。そして、試料30の各層の膜厚と屈折率とを用いて分光スペクトルを解析し、各界面(界面01、界面12、界面23)からの反射光強度及び干渉光強度を計算により分離し、粗さ測定を行うための光の最適波長を決定する。
(2)測定対象界面の観察
干渉フィルター12を用いて、導き出された最適波長の光(単色光)を光源11から出射し、この波長の光を用いて二光束干渉計で、測定対象界面の粗さの測定を行う。
【0052】
これにより、試料30の測定対象界面以外の各界面からの反射光の影響を抑制することができ、測定対象界面上のナノスケールの凹凸のコントラストを最適化することができる。このため、多層膜の内部界面のナノスケールの凹凸(粗さ)を非接触・非破壊で短時間に測定することができ、良品/不良品の判定を行うことができる。
【0053】
以下、上述の粗さ測定装置100を用いて、本実施の形態に係る多層膜の内部界面の粗さ測定方法について詳細に説明する。上述したように、本実施の形態に係る粗さ測定装置は、波長を選択することが可能な二光束干渉計と分光計23とを組み合わせたものである。ここでは、図2に示したような、Si層33/SiO層32/Si基板31の構造を考える。測定対象界面は、Si層33とSiO層32との界面12である。
【0054】
まず、測定対象界面の粗さ測定に最適な波長を決定する。本例では各層の膜厚が未知であることから、最初に各層の膜厚を測定する。図2に示すような試料30では、3つの界面(界面01、界面12、界面23)が存在する。試料30のSi層33/SiO層32が形成された面から、白色光を入射させる。Si基板31は、その裏面からは反射しない程度に厚いものとする。
【0055】
入射光は、各界面で1回以上繰り返し反射し、最終的にそれらが全て合成(干渉)されて、反射光として出射する。反射光の強度は、入射波長、膜厚d1、d2と各層の複素屈折率Nにより決定される。複素屈折率は、実部は屈折率n、虚部は消衰係数kである。ここでは、上述したように、N=n−ikと表記する。屈折率n及び消衰係数kを光学定数とよぶ。一般に、これらの光学定数は波長依存性があり、様々な物質についてデータベース化されている。従って、各層の光学的な厚みについても波長によって変化する。このため、薄膜の干渉条件が変化する。
【0056】
様々な波長について、反射光強度を測定する代わりに、入射光として白色光を用いることにより、反射光は特徴的な色を示す。この反射光を分光し、分光干渉法により、得られたスペクトルを解析する。これにより、Si層33の膜厚d、及びSiO層32の膜厚dを決定することができる。なお、屈折率n、消衰係数kを同時に決定することもできる。
【0057】
上記の膜厚測定で、Si層33の膜厚dとSiO層32の膜厚dとがそれぞれ得られたとする。これに、各層の既知の光学定数(屈折率n、消衰係数k)のデータを用いて、各界面からの反射光を再現する。その結果より界面12のナノスケールの粗さを測定できる波長を決定する。
【0058】
一般的な分光干渉のスペクトルのシミュレーションは、多層膜構造全体(各界面の反射光の合成)反射率の波長依存性を再現するものである。従って、精密には、各界面での多重反射を全て考慮した複雑な数値計算が必要となる。しかしながら、各界面の反射を分離するためには、多重反射の従来の複雑な公式は、最終的な総合的な反射率は計算できるが、見通しが悪い。本発明では、最も単純に解析的に考えるために、各界面で1回だけ反射が起こるものとして計算する。これにより、観察する光の波長の選択のための計算に係る時間を短くすることができる。
【0059】
本実施の形態では、入射光は、試料30のSi層33、SiO層33、が形成された面に垂直に入射するものとし、Si基板31の裏面の反射は考慮しない。光源11からの照明光は、ビームスプリッタ15で2つの光線に分割され、一方は入射光Eとして試料に入射し、各界面で反射する(E、E、E)。他方の光線は参照鏡で反射し参照光Eとなる。試料で反射された測定光と参照光は合成され、いわゆる干渉縞(干渉コントラスト)を生じる。
【0060】
図4に、光が入射したときの、各界面での光の反射及び透過の状態を示している。図4に示すように、入射光の電場をE、界面01で1回反射した反射光の電場をE、界面12で1回反射した反射光の電場をE2、界面23で1回反射した反射光の電場をEとする。また、参照用ミラー19で1回反射した反射光の電場をEとする。なお、図4においては、説明のため入射光E及び反射光E、E、E、Eを斜めに図示している。
【0061】
光の進行方向をz、波数をβ、各周波数をω、振幅をAとすると、入射光の波動方程式は、以下の式(1)となる。
【数5】

【0062】
また、各界面の反射光の位相をそれぞれ、δ、δ、δとすると、各反射光の波動関数は以下式(2)、(3)、(4)のようになる。
【数6】

【数7】

【数8】

【0063】
参照光EとEとの位相差をεとすると、次の式(5)と書ける。
【数9】

このとき、干渉強度をIIFとすると、次の式(6)のように各界面からの反射振幅と参照光の反射振幅の総和の絶対値の2乗で求めることができる。
【数10】

【0064】
ここで、
【数11】

【数12】

【数13】

【数14】

とする。
【0065】
式(6)において、Iは試料30の反射スペクトルである。IRRは波長によらず一定とみなす。式(8)−式(10)の振幅の波長による変化は緩やかなものである場合、ほぼ一定とみなすことができる。従って、IIFのコントラストを大きくするには、試料30の反射スペクトルIが小さければよいことになる。
【0066】
このとき、試料30の反射強度をIとすると、反射強度Iは、以下の式(11)のように各界面からの反射振幅の総和の絶対値の2乗で求めることができる。
【数15】

11は界面01の反射光強度、I22は界面12の反射光強度、I33は界面23の反射光強度、I12は反射光E、Eの干渉光強度、I23は反射光E、Eの干渉光強度、I31は反射光E、Eの干渉光強度を示している。
【0067】
ここで、Iは、以下の式(12)−式(17)のような6つの項の和として考えることができる。
【数16】

【数17】

【数18】

【数19】

【数20】

【数21】

【0068】
複素屈折率と膜厚から、振幅と位相をそれぞれ計算すれば、反射強度Iを得ることができる。波長を変えて計算することで反射スペクトルを近似的に再現することができる。反射光の振幅と位相を計算するために、入射光を(i)振幅A項の変換、(ii)位相項の変換に分けて考える。
【0069】
(i)振幅Aの変換
入射光の振幅A(実数)が各界面の反射と透過によりそれぞれA、A、A(複素数)に変換されるとする。この変換は、各界面で光の進行方向に対して上層(Layer a)と下層(Layer b)の複素屈折率NとNによって決まる、振幅反射率rabと振幅透過率tab(一般にフレネル係数と呼ばれている)の組み合わせで行われる。振幅反射率rabと振幅透過率tabとは、以下の式(18)、(19)で表される。
【数22】

【数23】

【0070】
従って、振幅反射率rabと振幅透過率tabとを順番に考慮することで、振幅Aを以下の式(20)−(22)のように変換することができる。
【数24】

【数25】

【数26】

このとき、反射と透過で新たに位相がθだけ追加されることになる。
【0071】
(ii)位相項の変換
複素屈折率Nの膜厚dの膜を透過するときの位相変化をΔ(複素数)とすると、光路長の変化による位相φと吸収による振幅の減衰率γを考慮して、以下の式(23)のように表される。
【数27】

【0072】
各層の膜厚と複素屈折率から、各界面での位相φと振幅の減衰率γは、以下の式(24)−(29)のように表される。
【数28】

【数29】

【数30】

【数31】

【数32】

【数33】

【0073】
(i)、(ii)の変換を総合すると、変換された振幅と位相は、式(30)−(35)のようになる。
【数34】

【数35】

【数36】

【数37】

【数38】

【数39】

【0074】
ここで、具体的な例として、厚さ1mmのSi基板の上に、膜厚d=150nmのSi膜、膜厚d=100nmのSiO膜が積層して形成された多層膜構造の反射スペクトルを式(11)から計算した結果を図5に示す。図5に示す具体例では、波長400nm〜800nmまで計算を行った。なお、図5中、実線は、汎用ソフトで多重反射を考慮して計算された反射スペクトルを示している。この結果から、1回反射モデルで計算した場合でも、多順反射を考慮した反射スペクトルのピーク位置と略一致する。
【0075】
1回反射モデルで計算した反射スペクトルを各界面からの反射と干渉とに分離して計算した、6つの項をそれぞれ図6、図7に示す。図6は、各界面からの反射光強度を示す図である。また、図7は、各界面での干渉光強度を示す図である。これにより、試料30の反射スペクトルの内訳を評価することができる。
【0076】
図6に示すように、界面01の反射光強度I11が最も強く、これが内部の界面(界面12:測定対象面)を観察する妨げとなっていると考えられる。特に、波長が短い場合は、Siに対して不透明となる。従って、界面01の反射光が、干渉光I12、I31と打ち消しあうような波長の光を選択することが必要と考えられる。すなわち、測定対象界面である界面12以外の他の界面(界面01、界面23)からの反射光と干渉光とが打ち消しあう波長を選択する。つまり、Si層33(Layer1)が反射防止膜の役割を果たすような波長の光で観察することが必要となる。
【0077】
この条件を単純化すると、試料30の反射スペクトルにおいて、反射強度が極小近傍(谷)、より好ましくは最小になっているような波長を選択することで、界面12を二光束干渉計で測定することができる。図5に示す反射スペクトルのシミュレーション結果から、自動的に反射強度が最小になる最適波長を選択することも可能である。従って、本実施例では、例えば、波長が約600nmの光を選択することができる。
【0078】
このようにして決定した最適波長に対して、仮に、式(6)を以下の式(36)のようにまとめることができるとすると、参照光の位相εを変調することで、位相シフト法の計算により、試料全体の位相δを求めることができる。
【数40】

【0079】
例えば、位相シフト法で3ステップの場合、εを0、π/2、πだけ変化させたときの干渉強度をIIF1、IIF2、IIF3とすると。位相δは以下のように計算される。
【数41】

【0080】
ここで、式(6)を
【数42】

とする。各項は、以下のように表される。
【0081】
【数43】

【数44】

【数45】

【数46】

【0082】
式(36)の形になる場合は、
【数47】

すべてのεで式が成り立つには、
【数48】

【数49】

であればいい。
【0083】
従って、δとδ、δ、δの一般関係は式(46)のようにかける。
【数50】

【0084】
また、式(44)、(45)から、Cは、以下式(47)のようにかける。
【数51】

【数52】

【0085】
ここから、Si基板31/SiO層32/Si層33の構造の場合について解いていく。
(i)C=Cと置ける場合
式(41)、(42)から、
【数53】

となる。
【0086】
SiO層32のように、ほとんど吸収のない透明膜の場合、k=0となる。従って、CとCは、SiO層32の膜厚d1にだけ依存する。しかし、式(28)(29)から、γ=γとなるため、I22とI33の比は膜厚に依存しなくなる。この結果を図8に示した。
【0087】
図8に示すように、I22とI33の比は1.5程度である。ここで、C=Cとして扱い、解析的に計算を進める。可視光波長で膜厚d1、d2によらず式(50)のようにかける。
【数54】

【0088】
さらに、(ii)
【数55】

と置くことのできる場合について考える。この関係が成り立つ条件を探すために、以下の式(51)と式(52)を波長に対してプロットする。式(51)は膜厚d1で変化し、式(52)は膜厚d2で変化する。その結果をそれぞれ図9、図10に示す。
【数56】

【数57】

【0089】
図9、図10から、波長550nm以上の場合、0<d1<150nmで式(51)、50nm<d2<100nmで式(52)が成立するとみなす。この場合、式(50)はさらに計算することができ、式(53)のようにかける。
【数58】

【0090】
ここで、εの変調に対して、B、δ、δ、δは変化しないので、式(36)の関係を満たすことになる。従って、以下の式が満たされる。
【数59】

【0091】
さらに、界面01、界面12、界面23上にそれぞれ、h、h、hのナノスケールの凹凸があるとする。凹凸による位相変化をΔδとすると、θは同一界面上では一定であるので、
【数60】

【0092】
ここで、各界面01、界面12、界面23での位相変化との関係は式(56)〜式(58)となる。
【数61】

【数62】

【数63】

【0093】
干渉計測の結果から得られる位相差Δδを空気中の表面の高さとして換算したものを(みかけの高さ)をhとすると、
【数64】

となる。式(55)に、式(56)−(59)を代入して、hについて整理すると、
【数65】

【0094】
ここで、概算値として屈折率n=1、n=3.8、n=1.4を入れて計算する。
【数66】

【0095】
これにより、干渉測定から得られる見かけの高さhの各界面01、12、23の寄与の内訳が分かる。式(61)から、界面12の高さ分布は、見かけの高さ分布に55%含まれる。最表面、つまり、界面01の凹凸がほとんど無視できるような平坦とみなせる場合には、80%が界面12の凹凸情報として計測できる。
【0096】
また、表面粗さ(RMS)を測定する場合には、あらかじめAFMなどで最表面のRMS(a)を測定しておき、見かけの高さ分布から計算したRMSから以下の式(62)によって、界面12のRMS(b)を計算することができる。なお、界面23の寄与は無視する。
【数67】

【0097】
これから、測定対象界面である界面12の二乗平均粗さRMS(b)は、以下のように表される。
【数68】

【0098】
式(63)から、界面12に二乗平均粗さRMS(b)を位相シフト干渉法を使って近似的に求めることができる。なお、界面01の粗さはAFM以外の方法で測定してもよい。例えば、紫外線などのSiに不透明な波長で測定することが可能である。
【0099】
なお、
【数69】

と置ける場合、干渉強度IIFは、以下のように表される。
【数70】

【0100】
式(65)に示すように、この場合には、式(36)の形となる。従って、位相シフト計算から、δを求めることができる。すなわち、δ=δとなるので、Δδ=Δδ=Δφとなる。従って、表面の高さと見かけの高さは、それぞれ以下のようになる。
【数71】

【数72】

【0101】
式(66)、(67)から、以下の式となる。
【数73】

従って、式(64)の上限が成立するならば、最表面(界面01)の凹凸を測定することができる。このような条件について考える。
【数74】

【0102】
【数75】

【数76】

【0103】
図10に示すように、SiO層32の膜厚d=150nmでは波長450nm付近で、d=200nmでは波長580nm近で式(64)を満たす。この場合には、見かけ上の結果は最表面の凹凸を表すことになり、内部を測定することはできない。
【0104】
このように、本発明によれば、試料30の測定対象界面以外の各界面からの反射光の影響を抑制することができ、測定対象界面上のナノスケールの凹凸のコントラストを最適化することができる。このため、多層膜の内部界面のナノスケールの凹凸(粗さ)を非接触・非破壊で短時間に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】実施の形態に係る粗さ測定装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】実施の形態に係る処理装置の構成を模式的に示す図である。
【図3】実施の形態に係る試料の構成を模式的に示す図である。
【図4】試料に光が入射したときの、各界面での光の反射及び透過の状態を示す図である。
【図5】実施例に係る多層膜の反射スペクトルを計算した結果を示す図である。
【図6】実施例に係る多層膜の各界面からの反射光強度を示す図である。
【図7】実施例に係る多層膜の各界面での干渉光強度を示す図である。
【図8】CとCの比を波長に対してプロットした図である。
【図9】式(51)の関係を波長に対してプロットしたグラフである。
【図10】式(52)の関係を波長に対してプロットしたグラフである。
【符号の説明】
【0106】
11 光源
12 干渉フィルター
13、21 レンズ
14、15、20 ビームスプリッタ
15 対物レンズ
16 測定用対物レンズ
17 ステージ
18 参照用対物レンズ
19 参照用ミラー
22 光検出器
23 分光計
24 波長選択部
25 レンズ
30 試料
31 Si基板
32 SiO
33 Si膜
40 処理装置
41 ステージ駆動部
42 波長変換制御部
43 粗さ算出部
44 メモリ
100 粗さ測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された第1層と、前記第1層の上に形成された第2層とを有する試料の、前記第1層と前記第2層との間の測定対象界面の粗さを測定する粗さ測定方法であって、
前記試料の前記第1層及び前記第2層が形成された多層膜形成面に、所定の波長幅の照明光を照射し、
前記試料の多層膜形成面からの反射光強度が極小近傍となる、前記照明光の波長幅に含まれる第1波長の光を選択し、
前記試料の多層膜形成面及び参照面に前記第1波長の光を照射し、
前記試料の多層膜形成面で反射された測定光と、前記参照面で反射された参照光とを合成した干渉光を受光し、
前記干渉光の強度変化に基づいて、前記測定光と前記参照光との位相差から、前記試料の多層膜形成面の粗さを算出し、
前記試料の多層膜形成面の粗さに基づいて、前記測定対象界面の粗さを決定する粗さ測定方法。
【請求項2】
前記第1波長の光として、前記測定対象界面以外の界面からの反射光と、前記反射光により生じる干渉光とが打ち消しあう波長の光を選択することを特徴とする請求項1に記載の粗さ測定方法。
【請求項3】
前記第1層及び前記第2層の膜厚と、前記第1層及び前記第2層の屈折率に基づいて、前記第1層及び前記第2層からの反射光強度及び干渉光強度を算出し、
前記反射光強度及び干渉光強度に基づいて、前記第1波長の光として、前記測定対象界面以外の界面からの反射光と、前記反射光により生じる干渉光とが打ち消しあう波長の光を選択することを特徴とする請求項2に記載の粗さ測定方法。
【請求項4】
前記反射光強度及び前記干渉光強度は、前記第1層及び前記第2層に入射した光が各界面により1回反射された1回反射モデルにより算出される請求項3に記載の粗さ測定方法。
【請求項5】
前記測定対象界面の粗さは、以下の式に基づいて算出されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の粗さ測定方法。
【数1】

ここで、
Rq:前記試料の多層膜形成面の二乗平均粗さ
RMS(a):前記第2層と媒質との界面の二乗平均粗さ
RMS(b):前記第1層と前記第2層との間の前記測定対象界面の二乗平均粗さ
:前記第2層の屈折率
:前記媒質の屈折率
とする。
【請求項6】
前記試料の多層膜形成面と前記参照面との光学的距離を変動させ、前記測定光と前記参照光との間に複数の位相差を与え、前記干渉光の強度変化を生じさせることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の粗さ測定方法。
【請求項7】
基板上に形成された第1層と、前記第1層の上に形成された第2層とを有する試料の、前記第1層と前記第2層との間の測定対象界面の粗さを測定するための粗さ測定装置であって、
前記試料の第1層及び前記第2層が形成された多層膜形成面からの反射光強度が極小近傍となる第1波長の光を選択する波長選択部と、
前記試料の多層膜形成面及び参照面に前記第1波長の光を照射する光源と、
前記試料の多層膜形成面で反射された測定光と、前記参照面で反射された参照光とを合成した干渉光を受光する光検出器と、
前記干渉光の強度変化に基づいて、前記測定光と前記参照光との位相差から、前記試料の多層膜形成面の粗さを算出し、前記試料の多層膜形成面の粗さに基づいて、前記測定対象界面の粗さを決定する算出部とを備える粗さ測定装置。
【請求項8】
前記波長選択部は、前記第1波長の光として、前記測定対象界面以外の界面からの反射光と、前記反射光により生じる干渉光が打ち消しあう波長の光を選択することを特徴とする請求項7に記載の粗さ測定装置。
【請求項9】
前記波長選択部は、前記第1層及び前記第2層の膜厚と、前記第1層及び前記第2層の屈折率に基づいて、前記第1層及び前記第2層からの反射光強度及び干渉光強度を算出し、前記反射光強度及び干渉光強度に基づいて、前記第1波長の光として、前記測定対象界面以外の界面からの反射光と、前記反射光により生じる干渉光とが打ち消しあう波長の光を選択することを特徴とする請求項8に記載の粗さ測定装置。
【請求項10】
前記反射光強度及び前記干渉光強度は、前記第1層及び前記第2層に入射した光が各界面により1回反射された1回反射モデルにより算出される請求項9に記載の粗さ測定装置。
【請求項11】
前記算出部は、以下の式に基づいて前記測定対象界面の粗さを算出することを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の粗さ測定装置。
【数2】

ここで、
Rq:前記試料の多層膜形成面の二乗平均粗さ
RMS(a):前記第2層と媒質との界面の二乗平均粗さ
RMS(b):前記第1層と前記第2層との間の前記測定対象界面の二乗平均粗さ
:前記第2層の屈折率
:前記媒質の屈折率
とする。
【請求項12】
前記試料の多層膜形成面と前記参照面との光学的距離を変動させ、前記測定光と前記参照光との間に複数の位相差を与え、前記干渉光の強度変化を生じさせることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の粗さ測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−115503(P2009−115503A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286361(P2007−286361)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000115902)レーザーテック株式会社 (184)
【Fターム(参考)】