説明

結晶成長装置および結晶成長方法

【課題】シャワーヘッドの反りを防止することが可能な結晶成長装置および結晶成長方法を提供する。
【解決手段】結晶成長装置1において、シャワーヘッド20は、前面部21と、冷却層23と、ガス供給層25とを含む。前面部21は、基板SUBに対向して設けられ、原料ガスを基板SUBに吐出する複数の吐出孔を有する。冷却層23は、前面部21の上に積層して設けられ、冷媒が流れる冷媒通路を有する。ガス供給層25は、冷却層23の上に積層して設けられ、導入された原料ガスを充満させるバッファ空間が形成される。バッファ空間は複数の吐出孔の各々と冷却層23を貫通するガス供給管を介して連通する。予熱器53は、結晶成長時にガス供給層25に供給する原料ガスを予熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原料ガスを反応させることによって基板上に結晶を成長させる結晶成長装置および結晶成長方法に関し、特に原料ガスをシャワー状に吐出するシャワーヘッドを有する結晶成長装置およびその装置を用いた結晶成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に結晶を成長させる方法の1つにCVD(Chemical Vapor Deposition)がある。シャワーヘッドを有するCVD装置の例が、たとえば特開2002−289601号公報(特許文献1)、特開2009−141343号公報(特許文献2)に記載されている。
【0003】
特開2002−289601号公報(特許文献1)に記載のCVD装置は、反応室を構成する気密な容器と、この容器内に配置されるサセプタと、容器の頂部に取り付けられたシャワーヘッドとを備えている。サセプタは、その上部にウェハを支持する。サセプタの下部にはサセプタを介してウェハを加熱するための加熱手段となるヒータが設けられる。シャワーヘッドは、ガス導入口からヘッド内に導入された反応ガスを均一化させるバッファ空間と、バッファ空間から多数の吐出孔を介して反応室内へ反応ガスをシャワー状に噴射するシャワー板とから構成される。
【0004】
特開2009−141343号公報(特許文献2)に記載のCVD装置は、シャワーヘッド内で気相反応が生じるのを避けるための工夫が施されている。具体的には、複数の供給ガスのそれぞれに対してシャワーヘッド内にバッファ空間が設けられ、このバッファ空間から各反応ガスがシャワー板の吐出孔を通して分離した状態で成長室へ供給される。さらに、ガス通路部を除くシャワー板の内部に冷媒が導入され、シャワー板およびガス通路部の温度上昇が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−289601号公報
【特許文献2】特開2009−141343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数枚の基板に同時に成膜するためにCVD装置が大型化するにつれ、シャワーヘッドも大型化する。上述の特開2009−141343号公報(特許文献2)に開示されたCVD装置のように冷却機構を備えたシャワーヘッドの場合には、サイズの大型化に伴って成膜中にシャワーヘッドに生じる反りが生じる場合がある。この結果、シャワーヘッドに亀裂が生じることもある。
【0007】
本願の発明者らは、この反りの原因がシャワーヘッド内の温度分布によるものであることを見出している。すなわち、成膜中に高温(たとえば1200℃)に加熱される基板およびサセプタに対向する面は熱輻射によって比較的高温(たとえば百数十度)になるのに対して、冷媒の通路より上側の部分は常温に保たれる。この温度差によって冷媒通路の上下で熱膨張が異なるためにシャワーヘッドに反りが生じる。
【0008】
この発明の目的は、シャワーヘッドの反りを防止することが可能な結晶成長装置および結晶成長方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は一局面において結晶成長装置であって、載置台と、ヒータと、シャワーヘッドと、予熱器とを備える。載置台は、結晶を成長させるための基板を載置する。ヒータは、載置台を介して基板を加熱する。シャワーヘッドは、基板に原料ガスをシャワー状に吐出する。より詳細には、シャワーヘッドは、前面部と、冷却層と、ガス供給層とを含む。前面部は、基板に対向して設けられ、原料ガスを基板に吐出する複数の吐出孔を有する。冷却層は、前面部の上に積層して設けられ、冷媒が流れる冷媒通路を有する。ガス供給層は、冷却層の上に積層して設けられ、導入された原料ガスを充満させるバッファ空間が形成される。バッファ空間は複数の吐出孔の各々と冷却層を貫通するガス供給管を介して連通する。予熱器は、結晶成長時にガス供給層に供給する原料ガスを予熱する。
【0010】
好ましくは、予熱器による原料ガスの予熱温度は、ヒータ、載置台、基板、および前面部のいずれかの温度またはヒータに供給される電力に応じた値に設定される。
【0011】
好ましくは、結晶成長装置は、ヒータ、載置台、および基板のいずれかの温度を測定する温度センサと、温度調整部とをさらに備える。温度調整部は、結晶成長時に、温度センサによって検出された温度が、与えられた設定温度に等しくなるように、ヒータに供給する電力を調整する。温度調整部は、さらに、この設定温度に基づいて予熱器による原料ガスの予熱温度を調整する。
【0012】
好ましくは、上記の温度調整部には、結晶成長時の原料ガスの流量設定値がさらに与えられる。この場合、温度調整部は、結晶成長時には、この流量設定値に応じて決定される比例係数と設定温度とを乗算した値になるように、予熱器による原料ガスの予熱温度を調整する。
【0013】
好ましくは、上記の比例係数は、流量設定値が増加するほど減少するように設定される。
【0014】
好ましくは、温度調整部は、ヒータによる加熱を行なう前には、原料ガスの予熱温度を結晶成長時のときよりも低い所定の温度になるように調整する。
【0015】
この発明は、他の局面において、結晶成長装置を用いて基板上に結晶を成長させる結晶成長方法である。ここで、上記の結晶成長装置は、基板を載置する載置台と、載置台を介して基板を加熱するヒータと、基板に原料ガスをシャワー状に吐出するシャワーヘッドとを含む。シャワーヘッドは、基板に対向して設けられ、原料ガスを基板に吐出する複数の吐出孔を有する前面部と、前面部の上に積層して設けられ、冷媒が流れる冷媒通路を有する冷却層と、冷却層の上に積層して設けられ、導入された原料ガスを充満させるバッファ空間が形成されたガス供給層とを有する。バッファ空間は複数の吐出孔の各々と冷却層を貫通するガス供給管を介して連通する。この発明による結晶成長方法は、上記の原料ガスを予熱するステップと、予熱された原料ガスをバッファ空間に供給することによって、複数の吐出孔から原料ガスを吐出するステップとを備える。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、冷却層に隣接したガス供給層に供給される原料ガスを予熱することによって、シャワーヘッド内の温度差を抑制することができ、これによってシャワーヘッドの反りを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施の一形態による結晶成長装置1の構成を示す図である。
【図2】図1の一部であるシャワーヘッド20の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】図1の温度調整機52の制御動作を示すブロック図である。
【図4】図3の温度制御器TC1の動作を示すフローチャートである。
【図5】図3の設定温度変換部54および温度制御器TC2の動作を示すフローチャートである。
【図6】V族ガスの流量[slm]の設定値Fcと比例定数αとの関係の一例を示す図である。
【図7】ヒータ温度設定値SP1、ガス流量設定値Fa,Fb,Fc、およびV族ガスの予熱温度の設定値SP2の変化の一例を示すタイミング図である。
【図8】図7の比較例を示すタイミング図である。
【図9】V族ガスの予熱を行なわない場合におけるシャワープレートの変形量の計算結果を示す図である。
【図10】V族ガスの予熱を行なった場合におけるシャワープレートの変形量の計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
【0019】
[結晶成長装置の構成]
図1は、この発明の実施の一形態による結晶成長装置1の構成を示す図である。図1にはMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法による結晶成長装置1(MOCVD装置1とも記載する)が示される。
【0020】
図2は、図1の一部であるシャワーヘッド20の構成を模式的に示す断面図である。
図1、図2を参照して、この実施の形態によるMOCVD装置1は、InGaAs(インジウムガリウム砒素)、InGaP(インジウムガリウムリン)、InGaN(窒化インジウムガリウム)などのIII−V族半導体結晶の薄膜を基板上に成長させるための装置である。MOCVD装置1は、反応容器10と、サセプタ(載置部)11と、ヒータ13と、ヒータ電源51と、シャワーヘッド20と、原料ガス供給源42,43,44と、冷却ポンプ41と、ガス排気部40と、ガス予熱器53とを含む。
【0021】
サセプタ11は反応容器10内部の中央付近に設けられ、複数の基板SUBが載置される。サセプタ11は下方に設けられた回転軸112によって支持される。この回転軸112は、図示を省略した反応容器10外部のアクチュエータによって回転し、これによって各基板SUBに成長する結晶の均一化を図る。サセプタ11の下方には、サセプタ11を介してサセプタ11に載置された基板SUBを加熱するためにヒータ13が設けられる。反応容器10の外部には、ヒータ13に電力を供給するためのヒータ電源51が設けられる。サセプタ11、ヒータ13および回転軸112の周囲には被覆板14が設けられる。
【0022】
シャワーヘッド20は、サセプタ11に対向するように反応容器10の上部に設けられ、サセプタ11に載置された基板SUB上に原料ガスをシャワー状に吐出する。InGaAsを結晶成長させる場合には、III族元素In(インジウム)の原料ガスとしてTMIn(Tri-Methyl-Indium)などが用いられ、III族元素Ga(ガリウム)の原料ガスとしてTMGa(Tri-Methyl-Gallium)などが用いられ、V族元素As(砒素)の原料ガスとしてアルシンなどが用いられる。InGaP、InGaNを結晶成長させる場合には、V族元素P(リン)、N(窒素)の原料ガスとしてホスフィン、アンモニアがそれぞれ用いられる。これらの原料ガスは原料ガス供給源42,43,44からガス流量を調整するマスフローコントローラ45,46,47をそれぞれ介してシャワーヘッド20に供給される。
【0023】
シャワーヘッド20は、基板SUBに対向する前面部21と、冷却層23と、V族ガス供給層25と、III族ガス供給層27(27A,27B)とを含む。冷却層23、V族ガス供給層25、およびIII族ガス供給層27は、この順で前面部21の上に積層される。
【0024】
前面部21には、原料ガスを吐出する吐出孔33,34が多数設けられている。図2では図解を容易にするために合計で21個の吐出孔しか示されていないが、実際には、たとえば数千個程度の吐出孔が互いにほぼ等間隔に設けられる。前面部21は、成膜中には、基板SUBおよびサセプタ11からの輻射熱によって加熱される。
【0025】
前面部21の冷却のために冷却層23が設けられる。冷却層23の内部には、ガス供給管35,36を除いた部分に、前面部21に沿った方向に冷媒(たとえば、冷却水)を流すための冷媒通路22が形成されている。冷媒通路22は冷媒用の配管71,72と接続される。冷却ポンプ41から送出された冷媒は、配管71を通って冷媒通路22に供給され、配管72を通って排出される。冷媒通路22を冷媒が流れることによって前面部21およびガス供給管35,36が冷却され、これによって、ガス供給管35,36および吐出孔33,34に原料ガスの成分が堆積して目詰まりを起こすことを防止する。
【0026】
V族ガス供給層25は、その内部にガス供給管36を介して吐出孔34と連通するバッファ空間24が形成されている。ガス供給管36は、冷媒通路22および隔壁30を貫通するように設けられる。V族ガス供給源44からガス配管75を介して導入されたV族ガスは、バッファ空間24内に充満する。バッファ空間24を設けることによって、吐出孔34にV族ガスを均一に導くことができる。
【0027】
III族ガス供給層27は、その内部にガス供給管35を介して吐出孔33と連通するバッファ空間26A,26Bが形成されている。ガス供給管35は、V族ガス用のバッファ空間24、冷媒通路22、および隔壁30,31を貫通するように設けられる。バッファ空間26A,26Bは、隔壁32によって内側のバッファ空間26Aと外側のバッファ空間26Bに仕切られる。III族ガス供給源42からガス配管73を介して導入されたIII族ガスA(たとえば、TMInおよびTMGaのうちいずれか一方)は、内側に設けられたバッファ空間26Aに充満する。III族ガス供給源43からガス配管74を介して導入されたIII族ガスB(たとえば、TMInおよびTMGaのうちいずれか一方)は、外側に設けられたバッファ空間26Bに充満する。バッファ空間26A,26Bを設けることによって、吐出孔33にIII族ガスを均一に導くことができる。
【0028】
GaAs(ガリウム砒素)、GaN(窒化ガリウム)などのように1種類のIII族元素からなる半導体結晶を成膜する場合には、バッファ空間26A,26Bには同種の原料ガスが導入される。III族ガスを1種類しか用いない場合、もしくは、2種類以上のIII族ガスをバッファ室内で混合してから基板SUBに吐出する場合には、隔壁32を設けずにIII族ガス用のバッファ空間を1つだけ設けるようにしてもよい。
【0029】
ガス排気部40は、反応容器10内のガスを外部に排気するために反応容器10の下部に接続される。ガス排気部40は、たとえば、ロータリポンプおよびメカニカルブースターポンプなどの真空ポンプと、排気ガスを無害化するための排ガス処理装置とによって構成される。
【0030】
ガス予熱器53は、V族ガス供給源44とシャワーヘッド20との間のガス配管75の経路に設けられ、V族ガス供給層25内部のバッファ空間24に供給するV族ガスを予熱する。これによって、冷媒通路22の下側に設けられた前面部21と冷媒通路22の上側に設けられた隔壁30との温度差が緩和されるので、熱膨張の違いによるシャワーヘッド20の反りを防止することができる。効果的に反りを防止するためには、冷却層23に隣接したV族ガス供給層25に供給するV族ガスを予熱するのが望ましい。冷却層23から離れた位置に設けられたIII族ガス供給層27に供給するIII族ガスA,Bについては予熱してもよいし、予熱しなくてもよい。
【0031】
冷却層23の上側と下側での温度差をできるだけ小さくするには前面部21の温度に応じてV族ガスの予熱温度を決める必要がある。前面部21は基板SUBおよびサセプタ11からの輻射熱によって加熱されるので、基板SUB、サセプタ11、およびヒータ13のいずれかの温度、もしくはヒータ電源51の出力電圧に基づいて、V族ガスの予熱温度を制御することができる。以下に説明するように、この実施の形態のMOCVD装置1では、ヒータ温度の設定値およびV族ガスの流量の設定値に基づいてガス予熱器53の予熱温度が調整される。熱電対を前面部21に埋め込むなどの方法によって前面部21の温度を正確に測定可能であれば、前面部21の測定温度に基づいてV族ガスの予熱温度を制御することも無論可能である。
【0032】
[ヒータおよびガス予熱器の温度制御]
ヒータ13およびガス予熱器53の温度制御を行なうために、図1に示すMOCVD装置1は、主制御機器としてのPLC(Programmable Logic Controller)50と、温度調整機52と、温度センサTS1,TS2とを含む。温度センサTS1は、ヒータ13の温度を測定する。温度センサTS2は、ガス予熱器53によって予熱されたガスの温度を測定する。温度センサTS1,TS2として、たとえば熱電対が用いられる。
【0033】
PLC50は、予めプログラムされた手順に従って、MOCVD装置1をシーケンス制御する。図1の場合には、PLC50は、予めプログラムされた手順に従って、III族ガスA,Bの流量の設定値Fa,Fbをマスフローコントローラ45,46にそれぞれ出力するとともに、V族ガスの流量設定値Fcをマスフローコントローラ47および温度調整機52に出力する。PLC50は、さらに、ヒータ13の温度の設定値SP1を温度調整機52に出力する。
【0034】
図3は、図1の温度調整機52の制御動作を示すブロック図である。図1、図3を参照して、温度調整機52は、ヒータ13の温度をフィードバック制御するとともに、ガス予熱器53の予熱温度をフィードバック制御する。PLC50と独立して温度調整機52を設けることによって、PLC50の処理時間に依存することなく温度制御を行なうことができる。図3に示すように温度調整機52は、概念的には、温度制御器TC1と、設定温度変換部54と、温度制御器TC2とを含む。以下、図3〜図6を参照してこれらの各要素の機能を説明する。
【0035】
図4は、図3の温度制御器TC1の動作を示すフローチャートである。図3、図4を参照して、温度制御器TC1は、ヒータ13の温度の設定値SP1をPLC50から取得するとともに(ステップS1)、ヒータ13の現在の温度検出値PV1を温度センサTS1から取得する(ステップS2)。温度制御器TC1は、ヒータ温度の設定値SP1と現在の検出値PV1とに対してPID演算を行なうことによってヒータ電源51の出力電力の指令値(操作量MV1)を算出し、ヒータ電源51に出力する(ステップS3)。ここで、PID演算では、設定値SP1と検出値PV1との偏差に対して比例演算(P)、積分演算(I)、および微分演算(D)を行ない、これらの演算結果を合算することによって操作量MV1が算出される。以上のステップS1〜S3が繰り返されることによって、各時点におけるヒータ13の温度設定値SP1に温度センサTS1による検出値PV1が等しくなるように制御される。上記のステップS3におけるPID演算に代えて、PI演算など他の演算を行なうことによって操作量MV1を算出するようにしてもよい。
【0036】
図5は、図3の設定温度変換部54および温度制御器TC2の動作を示すフローチャートである。
【0037】
図3、図5を参照して、まず、設定温度変換部54は、ヒータ13の温度の設定値SP1およびV族ガスの流量の設定値FcをPLC50から取得する(ステップS11,S12)。そして、設定温度変換部54は、結晶成長を行なうためにヒータ13による加熱を行なっているときには、これらの設定値SP1,Fcに基づいて、ガス予熱器53によるV族ガスの予熱温度の設定値SP2を決定する(ステップS16)。具体的には、予熱温度の設定値SP2は、ヒータ温度の設定値SP1に比例定数αを乗じた値に等しい。比例定数αは、V族ガスの流量の設定値Fcに応じて予め決定される(ステップS13)。
【0038】
図6は、V族ガスの流量[slm]の設定値Fcと比例定数αとの関係の一例を示す図である。図3、図6を参照して、比例係数αは、V族ガス流量の設定値Fcが増加するほど減少するように設定される。比例係数αとV族ガス流量の設定値Fcとの関係はテーブルまたは数式として予め温度調整機52内のメモリ(図示省略)に記憶される。設定温度変換部54は、このテーブルまたは数式に従ってV族ガス流量の設定値Fcに対応する比例係数αを決定する。
【0039】
一方、ヒータ13による加熱を行なう前には、設定温度変換部54は、V族ガスの予熱温度の設定値SP2を、結晶成長時のときよりも低く室温よりも高い所定温度ST(たとえば、40℃)に設定する(図5のステップS15)。ガス予熱器53の温度を所定温度STに予熱しておくことによって、基板加熱時にV族ガスの温度を設定温度(SP2=SP1×α)に到達させる時間を短縮できる。
【0040】
ヒータ13による加熱を開始した後、ヒータ温度の設定値SP1と比例係数αとを乗算した値(SP1×α)が上記の所定温度STに達するまでの間は(ステップS14でNO)、ガス予熱器53の設定温度SP2は所定温度STに等しい値に維持される(ステップS15)。SP1×αが上記の所定温度ST以上となってから(ステップS14でYES)、ガス予熱器53の設定温度SP2はSP1×αに設定される(ステップS16)。
【0041】
次に、図3の温度制御器TC2は、設定温度変換部54から出力されたV族ガスの予熱温度の設定値SP2を取得するとともに、ガス予熱器53の現在の温度検出値PV2を温度センサTS2から取得する(図5のステップS17)。温度制御器TC2は、予熱温度の設定値SP2と温度センサTS2の現在の検出値PV2とに対してPID演算を行なうことによって制御信号(操作量MV2)を算出してガス予熱器53に出力する(ステップS18)。以上のステップS11〜S18が繰り返されることによって、各時点におけるガス予熱器53の設定値SP2に温度センサTS2の検出値PV2が等しくなるように制御される。上記のステップS18におけるPID演算に代えて、PI演算などの他の演算を行なうことによって操作量MV2を算出するようにしてもよい。
【0042】
図7は、ヒータ温度設定値SP1、ガス流量設定値Fa,Fb,Fc、およびV族ガスの予熱温度設定値SP2の変化の一例を示すタイミング図である。
【0043】
図1、図7を参照して、時刻t1以前の初期状態は、ヒータ13による加熱開始前であり(ヒータ13の温度は室温RTに等しい)、ガス流量の設定値Fa,Fb,Fcは0である。ただし、ガス予熱器53の温度設定値SP2は所定温度ST(たとえば、40℃)に設定されている。
【0044】
時刻t1で、PLC50は、V族ガスの流量設定値Fcを成膜時の流量に切替え、次の時刻t2で、ヒータ13の温度設定値SP1を徐々に増加させる。ヒータ13の温度設定値SP1の上昇に伴って時刻t3以降に、ガス予熱器53によるV族ガスの予熱温度の設定値SP2も上昇を開始する。
【0045】
次の時刻t4で、ヒータ温度の設定値SP1が成膜時のヒータ温度Tdepに到達すると、PLC50は、III族ガスA,Bの流量設定値Fa,Fbを0から成膜時の流量に切替える。この結果、III族およびV族の原料ガスが反応容器10内で気相反応することによって基板SUB上にIII−V族の半導体結晶が成長する。成膜中のガス予熱器53の設定温度SP2は、成膜時のヒータ温度Tdepに前述の比例係数αを乗算した値に等しい。
【0046】
次の時刻t5で、PLC50は、III族ガスA,Bの流量設定値Fa,Fbを成膜時の所定流量から0に戻すことによって成膜を終了させる。成膜終了と同時にPLC50は、ヒータ13の温度設定値SP1を徐々に減少させる。ヒータ13の温度設定値SP1の減少に伴って、ガス予熱器53の温度設定値SP2も徐々に減少する。
【0047】
次の時刻t6で、ガス予熱器53の温度設定値SP2が初期温度STに戻り、次の時刻t7でヒータ13の温度設定値SP1が初期値(室温RT)まで戻る。次の時刻t8で、PLC50は、V族ガスの流量設定値Fcを0に戻すことによって、制御シーケンスを終了させる。
【0048】
図8は、図7の比較例を示すタイミング図である。図8では、上から順に、ヒータ温度設定値SP1、ガス流量設定値Fa,Fb,Fc、V族ガスの予熱温度の設定値SP2、および温度センサTS2による予熱温度の検出値PV2が示される。
【0049】
図8に示す比較例では、V族ガスの予熱温度の設定値SP2が図7の場合と異なる。すなわち、図8に示すように、ガス予熱器53の温度設定値SP2は、ヒータ温度の設定値SP1が成膜時の温度Tdepに到達した成膜開始時(時刻t4)に、初期設定温度STから成膜時の設定温度Tdep×αに切替わり、成膜終了時(時刻t5)に成膜時の設定温度Tdep×αから初期設定温度STに戻る。ガス予熱器53の温度設定値SP2を図8のように急激に変化させた場合には、設定温度SP2の立上がり時に温度センサTS2で検出された実際のV族ガスの予熱温度が安定しない。このため、V族ガスの予熱温度を設定温度SP2に等しくするのに時間がかかるという問題がある。これに対して、図7の場合には、成膜時間帯(時刻t4から時刻t5までの間)にガス予熱器53の温度がほぼ一定値になるように制御できる。
【0050】
[数値計算結果]
以下、図9、図10を参照して、MOCVD装置1の効果について、数値計算を用いて検証した結果を説明する。
【0051】
図9は、V族ガスの予熱を行なわない場合におけるシャワープレートの変形量の計算結果を示す図である。
【0052】
数値計算では、図2において冷媒通路22を設けずに、図2の隔壁30から前面部21までが1枚の金属板(以下、水冷板60と称する)によって構成されるものとした。水冷板60の直径は800mm、厚みは26mmであり、その材質はSUS304である。水冷板60の端部はフランジ61に接続され、フランジ61の外縁部の下端61Cが固定される。水冷板60およびフランジ61の表面温度は実測値に等しくなるように設定した。そして、このときの水冷板60およびフランジ61の各部の変形量を、自重を加味して計算した。なお、冷媒通路22の有無によって水冷板60の強度はほとんど変わらないので、冷媒通路22を設けた場合と比べて反り量に大きな違いはないと考えられる。
【0053】
具体的な表面温度の設定値は図9に示すとおりである。具体的には、水冷板60の下側表面の温度を125℃とし、上側表面の温度を40℃とした。フランジ61下側に設けられた凹部の内側面61Aの温度を75℃とし、凹部の上底61Bの温度を50℃とした。その他のフランジ61の表面温度を30℃とした。以上の表面温度で計算したときの各部の変形量は水冷板60の中央付近で最も大きく、その大きさは約0.6mmであった。
【0054】
図10は、V族ガスの予熱を行なった場合におけるシャワープレートの変形量の計算結果を示す図である。図10に示す数値計算では、水冷板60の上側の表面温度を125℃とした点が図9の場合と異なり、その他の点は図9の場合と同じである。計算された変形量は水冷板60の中央付近で最も小さく、その大きさは約0.2mmであった。したがって、図9に示す結果と図10に示す結果とを比較すれば、水冷板60に隣接するガス供給層25に供給する原料ガスを予熱することによってシャワープレートの反りを防止できることがわかる。
【0055】
[変形例]
図1では、温度センサ(熱電対)TS1がヒータ13に設けられていたが、ヒータ13に代えてサセプタ11に温度センサ(熱電対)TS1を設けてもよい。この場合、サセプタ11の温度設定値SP1がPLC50から出力され、温度調整機52は、サセプタ11の温度設定値SP1と温度センサTS1の検出値PV1とが等しくなるようにヒータ電源51の出力を制御する。
【0056】
もしくは、温度センサTS1として放射温度計を用い、この放射温度計によって基板SUBの温度を測定するようにしてもよい。この場合、基板温度の設定値SP1がPLC50から出力され、温度調整機52は、基板温度の設定値SP1と温度センサTS1の検出値とが等しくなるようにヒータ電源51の出力を制御する。
【0057】
図1、図2では、冷却層23に隣接したガス供給層25にV族ガスが供給され、冷却層23から離れたガス供給層27にIII族ガスが供給されていた。これとは逆に、冷却層23に隣接したガス供給層25にIII族ガスを供給し、冷却層23から離れたガス供給層27にV族ガスを供給してもよい。この場合、ヒータ13などの温度に応じてIII族ガスが予熱される。
【0058】
上記の実施の形態と異なり、冷却層23に隣接して設けられたバッファ空間24内で、III族ガスとV族ガスとを混合してから基板SUBに供給するようにしてもよい。この場合、ヒータ13などの温度に応じてIII族ガスおよびV族ガスの両方を予熱する必要がある。
【0059】
図1では、PLC50と温度調整機52とが別個に設けられていたが、高性能のマイクロコントローラを用いた1つの制御装置で、PLC50の機能と温度調整機52の機能とを兼ねるようにしてもよい。
【0060】
上記の実施の形態では、MOCVD装置の場合について説明したが、有機金属ガスを原料ガスとして用いない他のCVD装置の場合にもこの発明を当然に適用することができる。さらに、熱CVDに限らずプラズマCVDや光CVDなどの場合についても、基板からの輻射熱によって水冷式のシャワーヘッド内に温度分布が生じる場合には上記の方法によってシャワーヘッドの反りを防止することができる。
【0061】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
1 結晶成長装置(MOCVD装置)、10 反応容器、11 サセプタ(載置台)、13 ヒータ、20 シャワーヘッド、21 前面部、22 冷媒通路、23 冷却層、24,26A,26B バッファ空間、25 V族ガス供給層、27 III族ガス供給層、33,34 吐出孔、35,36 ガス供給管、51 ヒータ電源、52 温度調整機、53 ガス予熱器、54 設定温度変換部、SUB 基板、TC1,TC2 温度制御器、TS1,TS2 温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶成長装置であって、
結晶を成長させるための基板を載置する載置台と、
前記載置台を介して前記基板を加熱するヒータと、
前記基板に原料ガスをシャワー状に吐出するシャワーヘッドとを備え、
前記シャワーヘッドは、
前記基板に対向して設けられ、前記原料ガスを前記基板に吐出する複数の吐出孔を有する前面部と、
前記前面部の上に積層して設けられ、冷媒が流れる冷媒通路を有する冷却層と、
前記冷却層の上に積層して設けられ、導入された前記原料ガスを充満させるバッファ空間が形成されたガス供給層とを含み、
前記バッファ空間は前記複数の吐出孔の各々と前記冷却層を貫通するガス供給管を介して連通し、
前記結晶成長装置は、さらに、結晶成長時に前記ガス供給層に供給する前記原料ガスを予熱する予熱器を備える、結晶成長装置。
【請求項2】
前記予熱器による前記原料ガスの予熱温度は、前記ヒータ、前記載置台、前記基板、および前記前面部のいずれかの温度または前記ヒータに供給される電力に応じた値に設定される、請求項1に記載の結晶成長装置。
【請求項3】
前記ヒータ、前記載置台、および前記基板のいずれかの温度を測定する温度センサと、
結晶成長時に、前記温度センサによって検出された温度が、与えられた設定温度に等しくなるように、前記ヒータに供給する電力を調整する温度調整部とをさらに備え、
前記温度調整部は、さらに、前記設定温度に基づいて前記予熱器による前記原料ガスの予熱温度を調整する、請求項1または2に記載の結晶成長装置。
【請求項4】
前記温度調整部には、結晶成長時の前記原料ガスの流量設定値がさらに与えられ、
前記温度調整部は、結晶成長時には、前記流量設定値に応じて決定される比例係数と前記設定温度とを乗算した値になるように、前記予熱器による前記原料ガスの予熱温度を調整する、請求項3に記載の結晶成長装置。
【請求項5】
前記比例係数は、前記流量設定値が増加するほど減少するように設定される、請求項4に記載の結晶成長装置。
【請求項6】
前記温度調整部は、前記ヒータによる加熱を行なう前には、前記原料ガスの予熱温度を結晶成長時のときよりも低い所定の温度になるように調整する、請求項4に記載の結晶成長装置。
【請求項7】
結晶成長装置を用いて基板上に結晶を成長させる結晶成長方法であって、
前記結晶成長装置は、
前記基板を載置する載置台と、
前記載置台を介して前記基板を加熱するヒータと、
前記基板に原料ガスをシャワー状に吐出するシャワーヘッドとを含み、
前記シャワーヘッドは、
前記基板に対向して設けられ、前記原料ガスを前記基板に吐出する複数の吐出孔を有する前面部と、
前記前面部の上に積層して設けられ、冷媒が流れる冷媒通路を有する冷却層と、
前記冷却層の上に積層して設けられ、導入された前記原料ガスを充満させるバッファ空間が形成されたガス供給層とを有し、
前記バッファ空間は前記複数の吐出孔の各々と前記冷却層を貫通するガス供給管を介して連通し、
前記結晶成長方法は、
前記原料ガスを予熱するステップと、
予熱された前記原料ガスを前記バッファ空間に供給することによって、前記複数の吐出孔から前記原料ガスを吐出するステップとを備える、結晶成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−104640(P2012−104640A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251672(P2010−251672)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】