説明

繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物

【課題】ハニカムパネルの面板用自己接着性プリプレグに使用するマトリックス樹脂組成物として、プリプレグの自己接着性を改良しつつ、プリプレグの作業性及び外観品質を向上するようにした繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】常温で液状のエポキシ樹脂(A)、該エポキシ樹脂(A)に温度90℃以上で溶解する熱可塑性樹脂(B)、前記エポキシ樹脂(A)に温度90℃未満で完全に溶解せず、かつ軟化点が120℃以上の熱硬化性樹脂の粒子(C)及び硬化剤(D)を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、ハニカムパネルの面板用自己接着性プリプレグに使用するエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂にする繊維強化複合材料は、その優れた力学物性などから、航空機、自動車、産業用途に幅広く使用されている。特に航空機用構造材料や内装材においては、軽量化の観点から、ハニカムパネルの面板として繊維強化複合材料を用いるケースが増加している。
【0003】
従来、ハニカムパネルは、ハニカムコアの両面に、フィルム状接着剤を介在させて、面板となるプリプレグ(未硬化の繊維強化複合樹脂材料)を積層し、プリプレグを構成する樹脂の硬化と、面板とハニカムコアとの接着とを同時に行なう、いわゆるコキュア成形によって製造されている。しかし、ハニカムパネルをより一層軽量化するため及び成形コストを低減するためハニカムコアとプリプレグを直接接着させる、いわゆる自己接着技術が求められている。しかし、プリプレグの自己接着性は、樹脂の粘度や靭性が関係するため、それらの調整如何により、ハニカムコアに積層したプリプレグにポロシティが発生したり、プリプレグのタック性・ドレープ性が損なわれることにより生産性が低下するなどするため自己接着性を向上させることは非常に難しい課題であった。
【0004】
プリプレグの自己接着性を向上するためには、加熱硬化の際にハニカムコアとプリプレグの接合面をプリプレグの樹脂で濡らし隅肉を形成すること、いわゆるフィレットを形成し、その形状及び強度を良好にすることが重要である。フィレットは、プリプレグからハニカムコアの厚み方向に、ハニカムの壁に沿って樹脂が垂れ又はせり上がった状態で形成される。このフィレットの形状は樹脂の粘度との関係が深く、垂れ又はせり上がりが大きすぎるとポロシティができやすくなり表面の凹凸として現れ、粘度が高すぎるとタック性(粘着性)・ドレープ性(しなやかさ)が損なわれる。また、フィレットの強度は、プリプレグを構成する樹脂の靭性に左右される。
【0005】
特許文献1は、自己接着性プリプレグとして、そのマトリックス樹脂組成物が、熱硬化性樹脂、熱硬化性樹脂に溶解する熱可塑性樹脂からなる粘度調整剤、熱硬化性樹脂に溶解させない熱可塑性樹脂の微粒子及び硬化剤からなるものを提案している。同様に、特許文献2は、マトリックス樹脂組成物が、熱可塑性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物、熱可塑性樹脂の樹脂粒子からなる織物プリプレグを提案している。しかし、これらの自己接着性プリプレグは、樹脂組成物の粘度特性を改善しフィレットの形状を改良するものの、プリプレグを取り扱うときの作業性の重要な特性であるタック性及びドレープ性が乏しいという問題並びにプリプレグのポロシティ(表面の凹凸)に劣るという問題がある。したがって、上記提案の自己接着性プリプレグは、接着性はある程度改良しているが、プリプレグの作業性及び外観品質が十分ではないという問題があった。
【特許文献1】特表2005−506394号公報
【特許文献2】特許第3661194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ハニカムパネルの面板用自己接着性プリプレグに使用するマトリックス樹脂組成物として、プリプレグの自己接着性を改良しつつ、プリプレグの作業性及び外観品質を向上するようにした繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、常温で液状のエポキシ樹脂(A)、該エポキシ樹脂(A)に温度90℃以上で溶解する熱可塑性樹脂(B)、前記エポキシ樹脂(A)に温度90℃未満で完全に溶解せず、かつ軟化点が120℃以上の熱硬化性樹脂の粒子(C)及び硬化剤(D)を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、常温で液状のエポキシ樹脂(A)及びこのエポキシ樹脂(A)に温度90℃以上で溶解する熱可塑性樹脂(B)を主成分とすることから、熱可塑性樹脂(B)がエポキシ樹脂(A)に容易に均一に溶解されるので、プリプレグの強化繊維への含浸性を向上することができる。さらに、この主成分に、エポキシ樹脂(A)に温度90℃未満で完全に溶解せず、かつ軟化点が120℃以上である熱硬化性樹脂の粒子(C)を添加するので、加熱硬化工程において、樹脂温度が高温になるまで熱硬化性樹脂の粒子(C)がエポキシ樹脂(A)に溶解しないようにしている。このため、プリプレグをハニカムコアに積層して加熱硬化させる加熱硬化工程において、樹脂組成物の昇温に伴う粘度の挙動を適正化し、樹脂組成物が、過度にフィレットに流れて表面のポロシティが増加するのを防止することができる。また、加熱硬化工程前には、タック性及びドレープ性を向上させ優れた作業性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、常温で液状のエポキシ樹脂(A)及びエポキシ樹脂(A)に温度90℃以上で溶解する熱可塑性樹脂(B)を主成分とする。エポキシ樹脂(A)は常温で液状であり、常温で半固形、固形である場合には熱可塑性樹脂(B)を確実に溶解することが難しくなる。エポキシ樹脂(A)の性状は、温度25℃の粘度が、好ましくは1〜100ポイズ、より好ましくは5〜50ポイズにするとよい。温度25℃の粘度は、BH型回転粘度計を用いて測定する値であり、具体的にはエポキシ樹脂の入った缶を温度25℃の恒温槽に入れBH回転粘度計の負荷が安定した目盛りをもって測定する値である。
【0010】
エポキシ樹脂(A)としては、常温で液状のものであれば特に限定されるものではないが、官能基の数が2乃至4のエポキシ樹脂が好ましく、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジフェニルフルオレン型エポキシ樹脂、トリグリシジルアミノフェノール樹脂、トリグリシジルアミノクレゾール樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂、テトラグリシジルm−キシリレンアミン樹脂、N,N−ジアミノクレゾール樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、及びこれら各種変性エポキシ樹脂等が挙げられ、これらの中から分子量が低いタイプのエポキシ樹脂を適宜選択して使用するとよい。エポキシ樹脂(A)は、プリプレグの要求特性に合わせて、前述したエポキシ樹脂のなかから、単独又は2種以上を組み合わせて使用するとよい。
【0011】
なお、常温で半固形又は固形のエポキシ樹脂を、本発明の効果を損なわない範囲で、常温で液状のエポキシ樹脂と併用してもよいが、常温で固形のエポキシ樹脂は、常温で液状のエポキシ樹脂(A)100重量部に対して、20重量部以下にすることが好ましい。
【0012】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)に温度90℃以上で溶解する熱可塑性樹脂(B)を溶解させた状態で含んでいる。熱可塑性樹脂(B)は、温度90℃以上、好ましくは95℃〜150℃でエポキシ樹脂(A)に溶解するものであり、このような性状を有することにより、エポキシ樹脂(A)に均一に溶解させることができる。エポキシ樹脂(A)に熱可塑性樹脂(B)を溶解させることにより、プリプレグを構成するエポキシ樹脂組成物の粘度の調整が容易となり良好なフィレットを形成しやすくなる。
【0013】
熱可塑性樹脂(B)の種類は、特に限定されるものではないが、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリアリールエーテル樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂及びポリエーテルエーテルケトン樹脂から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。熱可塑性樹脂(B)は、とりわけポリエーテルスルホン樹脂及び/又はポリエーテルイミド樹脂が好ましく、エポキシ樹脂成分との相溶性又は親和性が、他の熱可塑性樹脂と比べて高く、樹脂硬化物の靭性を向上することができる。
【0014】
熱可塑性樹脂(B)は、粒子状のものを配合することが好ましく、より好ましくはその粒子径を、200μm以下、さらに5〜100μmにすることが好ましい。このような粒子径を有する微細粒子の熱可塑性樹脂を使用することにより、エポキシ樹脂に配合するときに大きな粒子が解け残ることを防止して素早く均一に溶解するため、樹脂組成物の粘度特性及び靭性を向上させることができる。すなわち、微細粒子の粒子径を200μm以下にすることにより、熱可塑性樹脂(B)がエポキシ樹脂(A)へ均一に溶解するようになり、樹脂組成物の物性、特に靭性を向上することができる。粒子径200μm以下の微細粒子を調整する方法は、特に制限されることはないが衝撃粉砕法、噴霧乾燥法により微細化することが好ましい。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂組成物は熱硬化性樹脂の粒子(C)を含み、熱硬化性樹脂の粒子(C)は、エポキシ樹脂(A)に温度90℃未満、好ましくは60℃〜90℃で完全に溶解せず、かつ軟化点が120℃以上、好ましくは130℃〜160℃である。なお、軟化点は、JIS K−7234に準拠して測定する値である。
【0016】
熱硬化性樹脂の粒子(C)は、加熱硬化工程において樹脂温度が高温になるまで、エポキシ樹脂(A)に完全に溶解せず、所定の温度になると均一に溶解するため、エポキシ樹脂組成物の粘度を適正化し、プリプレグを構成する樹脂が過度にフィレットに流れて表面のポロシティが低下するのを防止しながら、かつ良好なフィレットを形成することができる。また、熱可塑性樹脂(B)の配合量を低減することができるので、加熱硬化工程前には、プリプレグのタック性及びドレープ性を向上させ、優れた作業性を得ることができる。さらに、熱可塑性樹脂の粒子を溶解させないようにして配合した場合に比べて、熱硬化性樹脂の粒子(C)を配合すると、エポキシ樹脂組成物の靭性を向上させる効果に優れているのでフィレットの強度を改善し、ハニカムコアとの接着強度をさらに強くして自己接着性を向上させることができる。
【0017】
本発明において、熱硬化性樹脂の粒子(C)の種類は、特に制限されるものではないが、例えば、マレイミド系樹脂、シアネート系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂又はエポキシ系樹脂が挙げられ、常温で固形のエポキシ系樹脂、マレイミド系樹脂、シアネート系樹脂が好ましく、とりわけ常温で固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。常温で固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を精製し純度を高めると共にその分子量を高くすることにより調製することができ、軟化点が高くプリプレグの作業性を改善すると共に、ポロシティを改善する効果があり好ましい。
【0018】
また、熱硬化性樹脂の粒子(C)は、その粒子径が、好ましくは100μm以下、より好ましくは5〜50μmであるとよい。熱硬化性樹脂の粒子(C)の粒子径をこのような範囲内にすることで、加熱硬化工程で所定の温度になると均一に溶解するため、エポキシ樹脂組成物の粘度を適正に調整することができる。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化剤(D)を含むものである。硬化剤(D)の種類は、エポキシ基と反応し得る活性基を有する化合物であれば、特に限定されるものではないが、芳香族ポリアミン、脂肪族ポリアミン、イミダゾール化合物、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、カルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリフェノール化合物、ノボラック樹脂、ポリメルカプタン等が好ましく挙げられる。とりわけ樹脂硬化物の靭性向上の観点からジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンのような芳香族ポリアミンを使用することが好ましい。具体的には、3,3′ジアミノジフェニルスルホン(3,3′−DDS)及び/又は4,4′ジアミノジフェニルスルホン(4,4′−DDS)を使用することが特に好ましい。
【0020】
また、硬化剤(D)は、さらに、潜在性硬化剤を共に使用することが好ましい。潜在性硬化剤は、有機酸ジヒドラジド、ジシアンジアミド、アミンイミド、第三アミン塩、イミダゾール塩、ルイス酸及びブレンステッド酸から選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、とりわけ有機酸ジヒドラジド又はジシアンジアミドが好ましい。潜在性硬化剤を共に使用することにより、樹脂硬化物の靭性を向上することができプリプレグの自己接着性を向上することができる。
【0021】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)100重量部に対して、熱可塑性樹脂(B)を好ましくは20〜60重量部、より好ましくは30〜50重量部、熱硬化性樹脂の粒子(C)を好ましくは2〜20重量部、より好ましくは5〜15重量部の配合割合で含むとよい。
【0022】
熱可塑性樹脂(B)の配合量を20〜60重量部の範囲内にすると、エポキシ樹脂組成物の粘度を適正に調整することが可能になり、タック性及びドレープ性を向上することができる。熱硬化性樹脂の粒子(C)の配合量を2〜20重量部の範囲内にすると、エポキシ樹脂組成物の粘度が適正に調整され、2重量部以上にすると硬化物の靭性の向上効果が得られ、また20重量部以下にするとプリプレグを適度な硬さにしてタック性及びドレープ性が向上することが可能になる。
【0023】
硬化剤(D)は、エポキシ樹脂(A)100重量部に対して、好ましくは25〜50重量部、より好ましくは30〜45重量部を配合するのがよい。硬化剤(D)の配合量を25〜50重量部にすることにより、面板として樹脂硬化物が要求される強度、靭性、耐熱性などの物性を十分に確保することができる。
【0024】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、上記(A)〜(D)成分を必須とするものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて上記(A)〜(D)成分以外の公知の硬化剤、充填剤、安定剤、難燃剤、顔料等の各種添加剤を配合してもよい。
【0025】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、昇温速度2℃/分における動的粘弾性測定による最低粘度が、好ましくは10〜150Pa・s、より好ましくは20〜100Pa・sであるとよい。動的粘弾性測定の最低粘度を上記の範囲内にすることは、プリプレグの生産性及び自己接着性を発現する上で有効であり、良好なフィレットを形成して自己接着性を向上すると共に、プリプレグ製造時に強化繊維に樹脂組成物を含浸させる生産性を向上することができる。なお、本発明において動的粘弾性測定による最低粘度は、エポキシ樹脂組成物を試料にして、温度25℃から200℃までの間で、昇温速度2℃/秒、周波数10rad/秒、ひずみ1%の動的粘弾性測定における複素粘性率の最低値をいうものとする。
【0026】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、これを硬化した後の硬化物の破壊靭性値が、ASTM D5045−91に準拠して測定する破壊靭性値で、好ましくは1.8MPa・√m以上、より好ましくは1.8〜2.5MPa・√mであるとよい。エポキシ樹脂組成物の硬化物の破壊靭性値が、1.8MPa・√m以上であると、フィレット部分の靭性が高く、面板(プリプレグ)とハニカムコアの接着後の剥離試験において、ハニカムコアの材料破断が部分的に生じ始めるほど、剥離強度を向上することができる。
【0027】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではないが、好ましくは、エポキシ樹脂(A)に、熱可塑性樹脂(B)を好ましくは温度95〜150℃、より好ましくは温度100〜125℃で溶解させた後、この混合溶液を好ましくは温度60〜90℃、より好ましくは温度70〜80℃に冷却後、熱硬化性樹脂の粒子(C)及び硬化剤(D)を配合するようにして製造するものである。具体的には、エポキシ樹脂(A)と、熱可塑性樹脂(B)とを、温度95〜150℃に設定したプラネタリミキサを用いて、均一に溶解するまで約0.5〜3時間、撹拌・混合するとよい。その後、この混合溶液を温度60〜90℃まで冷却し、熱硬化性樹脂の粒子(C)及び硬化剤(D)を加え、均一に分散・混合して調製することが好ましい。このような製造方法により、熱可塑性樹脂(B)を確実に溶解し、かつ熱硬化性樹脂の粒子(C)をむらなく均一に分散することにより、プリプレグの自己接着性を改良しつつ、プリプレグの作業性及び外観品質を向上させることができる。
【0028】
本発明の繊維強化プリプレグは、上述した繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂とし、このマトリックス樹脂を強化繊維と複合させたものである。強化繊維は、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等を好ましく挙げることができ、なかでも炭素繊維織物が特に好ましい。
【0029】
繊維強化プリプレグは、マトリックス樹脂の含有量が、好ましくは30〜50重量%、より好ましくは35〜45重量%にするとよい。繊維強化プリプレグにおけるマトリックス樹脂の割合がこのような範囲内であれば、プリプレグの自己接着性を向上すると共に作業性及び外観品質を向上させ、さらに炭素繊維強化複合材料の力学特性を十分に発揮させることができる。
【0030】
繊維強化プリプレグを製造する方法は、本発明のエポキシ樹脂組成物を離型紙の上に薄いフィルム状に塗布したいわゆる樹脂フィルムを、強化繊維の上下に配置し、加熱及び加圧することでエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させるホットメルト法が好ましい。このようにして得られたプリプレグは、特定のエポキシ樹脂組成物を使用することから、タック性及びドレープ性に優れ、プリプレグ作業性を良好にするため、プリプレグの生産効率を向上させることができる。
【0031】
このようにして得られた繊維強化プリプレグをハニカムコアの両面に積層して、通常のオートクレーブ成形又はホットプレス成形等の熱硬化成形することにより、繊維強化複合材料を製造することができる。このようにして得られた繊維強化複合材料は、良好なフィレットが形成され、プリプレグのハニカムコア接着性に優れるばかりでなく、プリプレグの表面の平滑性に優れ、ポロシティ(表面の凹凸)が少ない優れた外観と表面性を有する。
【0032】
本発明に使用するハニカムコアは、好ましくはアラミドハニカム、アルミハニカム、ペーパーハニカム、ガラスハニカムから選ばれるいずれかであるとよく、中でもアラミドハニカムが好ましい。
【0033】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
〔実施例1〜3及び比較例1〜4〕
常温で液状のエポキシ樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)、熱硬化性樹脂の粒子(C)及び硬化剤(D)を下記に列記されたものの中から、それぞれ表1の実施例1〜3、比較例1〜4に記載する配合割合において、エポキシ樹脂組成物を調製し、その特性を評価した。先ずエポキシ樹脂(A)の全量及び熱可塑性樹脂(B)の溶解分を、温度125℃に設定したプラネタリミキサを用いて、均一な溶液になるまで75分間、撹拌・混合した。その後、このプラネタリミキサの温度を70℃に設定し、樹脂温度が均一になったところで、熱硬化性樹脂の粒子(C)及び硬化剤(D)の全量並びに比較例2について熱可塑性樹脂(B)の非溶解分をこの溶液中に加え、撹拌・混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0035】
・常温で液状のエポキシ樹脂(A)
樹脂A−1:N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノール樹脂(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製MY−0510)、常温で液状、温度25℃の粘度が7ポイズ。
樹脂A−2:トリグリシジル化アルキルアミノフェノール樹脂(住友化学社製ELM−100)、常温で液状、温度25℃の粘度が10ポイズ。
樹脂A−3:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(東都化成社製YDF−170)、常温で液状、温度25℃の粘度が35ポイズ。
樹脂A−4:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業社製N−775)、常温で固形、温度25℃の粘度は測定できない。
【0036】
・熱可塑性樹脂(B)
樹脂B−1:ポリエーテルスルホン樹脂(住友化学社製スミカエクセルPES5003P)衝撃粉砕により、粒子径100μm以下の微細粒子
・熱硬化性樹脂の粒子(C)
粒子C−1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成社製YD−020N)、軟化点135℃〜150℃、衝撃粉砕により粒子径100μm以下のの微細粒子。
粒子C−2:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業社製HP−7200H)、軟化点75℃〜90℃、衝撃粉砕により粒子径100μm以下の粒子。
【0037】
・硬化剤(D)
硬化剤D−1:3,3′−ジアミノジフェニルスルホン(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製ARADUR9719−1)
硬化剤D−2:ジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン社製エピキュアDICY 15)、潜在性硬化剤
上述のようにして得られた7種類のエポキシ樹脂組成物(実施例1〜3、比較例1〜4)について、それぞれ下記に示す方法で、プリプレグのタック性及びドレープ性、ハニカムパネルのポロシティ及び剥離強度を評価した。その測定結果を表1に示す。
【0038】
〔プリプレグのタック性及びドレープ性〕
得られたエポキシ樹脂組成物を用いて離型紙上に樹脂フィルムを形成し、このフィルムを炭素繊維平織織物(東レ社製T−300−3K)に、樹脂含有量が41重量%となるように加熱加圧して転写しプリプレグを得た。
【0039】
得られたプリプレグを触手により、タック性及びドレープ性を以下の三段階基準により、評価した。
プリプレグのタック性評価
○: 十分な粘着性が感じられたもの
△: やや粘着性が感じられたもの
×: ほぼ粘着性が感じられなかったもの
プリプレグのドレープ性評価
○: 十分な柔軟性が感じられたもの
△: やや柔軟性が感じられたもの
×: ほぼ柔軟性が感じられなかったもの
【0040】
〔ハニカムパネルのポロシティ〕
得られたエポキシ樹脂組成物からなるプリプレグを2枚積層し、これをハニカムコア(昭和飛行機工業社製ノーメックスハニカムSAH−1/8−8.0)の両面に配置した後、バッグに入れ、これをオ−トクレ−ブ内で温度180℃、2時間(昇温速度2.8℃/分)加熱し、硬化させてハニカムパネルを作製した。この間、オ−トクレ−ブ内を圧空で0.32MPaに加圧した。
得られたハニカムパネルの面板の平滑性を、目視評価し以下の三段階基準により、評価した。
○: 面板に凹凸が認められず平滑なもの
△: 面板に僅かに凹凸が認められたもの
×: 面板に凹凸が認められたもの
【0041】
〔ハニカムパネルの剥離強度〕
上記で得られたハニカムパネルを、ASTM D1781に準拠して、加熱硬化工程にハニカムコアの上側及び下側に配置された面板をそれぞれ所定の寸法に加工し温度23℃(乾燥状態)における上側面板及び下側面板の試験片の剥離強度(lb−in/3in)を測定した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1の結果から、本発明の実施例1〜3は、プリプレグのタック性及びドレープ性、ハニカムパネルのポロシティ並びに剥離強度のすべてに優れた特性を示した。これに対し、熱硬化性樹脂の粒子(C)を配合しない比較例1は、ハニカムパネルのポロシティ及び剥離強度が劣る結果となり、熱硬化性樹脂の粒子(C)の代わりに熱可塑性樹脂(B)の一部を非溶解の状態で配合した比較例2は、プリプレグのタック性及びドレープ性が劣る結果となることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で液状のエポキシ樹脂(A)、該エポキシ樹脂(A)に温度90℃以上で溶解する熱可塑性樹脂(B)、前記エポキシ樹脂(A)に温度90℃未満で完全に溶解せず、かつ軟化点が120℃以上の熱硬化性樹脂の粒子(C)及び硬化剤(D)を含む繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリエーテルスルホン樹脂の粒子及び/又はポリエーテルイミド樹脂の粒子であり、その粒子径が200μm以下である請求項1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂の粒子(C)が、常温で固形のエポキシ系樹脂、マレイミド系樹脂、又はシアネート系樹脂からなる請求項1又は2に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂の粒子(C)の粒子径が、100μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記硬化剤(D)が、3,3′ジアミノジフェニルスルホン及び/又は4,4′ジアミノジフェニルスルホンである請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記硬化剤(D)を、潜在性硬化剤と共に使用する請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂組成物が、前記エポキシ樹脂(A)100重量部に対して、前記熱可塑性樹脂(B)を20〜60重量部、前記熱硬化性樹脂の粒子(C)を2〜20重量部配合する請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂組成物の昇温速度2℃/分における動的粘弾性測定による最低粘度が10〜150Pa・sである請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
前記エポキシ樹脂組成物の硬化後に、ASTM D5045−91に準拠して測定される破壊靭性値が、1.8MPa・√m以上である請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
前記エポキシ樹脂(A)に、前記熱可塑性樹脂(B)を温度95〜150℃で溶解させ、温度60〜90℃に冷却後、前記熱硬化性樹脂の粒子(C)及び硬化剤(D)を配合する請求項1〜9のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として、強化繊維と複合させた繊維強化プリプレグ。
【請求項12】
前記マトリックス樹脂の含有量が30〜50重量%である請求項11に記載の繊維強化プリプレグ。
【請求項13】
前記強化繊維が炭素繊維である請求項11又は12に記載の繊維強化プリプレグ。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれかに記載の繊維強化プリプレグとハニカムコアとを積層したハニカムサンドイッチパネル。
【請求項15】
前記ハニカムコアが、アラミドハニカム、アルミハニカム、ペーパーハニカム、ガラスハニカムから選ばれるいずれかである請求項14に記載のハニカムサンドイッチパネル。

【公開番号】特開2007−291235(P2007−291235A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120696(P2006−120696)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】