説明

薄膜の形成方法

【課題】埋め込み金属との密着性及び埋め込み特性の改善を図ることができるのみならず、エレクトロマイグレーション耐性も向上させることが可能な薄膜の形成方法を提供する。
【解決手段】表面に凹部8を有する被処理体Wの表面に薄膜を形成する形成方法において、被処理体の表面に埋め込み用の金属膜16して凹部を埋め込む埋め込み工程と、金属膜を覆うようにして被処理体の表面の全面に拡散防止用の金属膜18を形成する拡散防止膜形成工程と、被処理体をアニールするアニール工程とを有する。これにより、埋め込み金属との密着性及び埋め込み特性の改善を図ることができるのみならず、エレクトロマイグレーション耐性も向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の形成方法に係り、特に半導体ウエハ等の被処理体に形成されている凹部を埋め込む時等の薄膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスを製造するには、半導体ウエハに成膜処理やパターンエッチング処理等の各種の処理を繰り返し行って所望のデバイスを製造するが、半導体デバイスの更なる高集積化及び高微細化の要請より、線幅やホール径が益々微細化されている。そして、配線材料や埋め込み材料としては、従来は主としてアルミニウム合金が用いられていたが、最近は線幅やホール径が益々微細化されて、且つ動作速度の高速化が望まれていることからタングステン(W)や銅(Cu)等も用いられる傾向にある。
【0003】
そして、上記Al、W、Cu等の金属材料を配線材料やコンタクトのためのホールの埋め込み材料として用いる場合には、例えばシリコン酸化膜(SiO )等の絶縁材料と上記金属材料との間で例えばシリコンの拡散が生ずることを防止したり、膜の密着性を向上させる目的で、或いはホールの底部でコンタクトされる下層の電極や配線層等の導電層との間の密着性等を向上する目的で、上記絶縁層や下層の導電層との間の境界部分にバリヤ層を介在させることが行われている。そして、上記バリヤ層としてはTa膜、TaN膜、Ti膜、TiN膜等が広く知られている(特許文献1〜4)。
【0004】
また最近にあっては、上記バリヤ層の上層に、埋め込み金属との密着性を向上させる目的で薄いライナ層を設けることも行われている。このライナ層は、上述のように埋め込み金属との密着性を向上させる目的から、埋め込み金属層と格子間隔が近い材料が主に用いられ、例えば埋め込み金属が銅の場合には、最近にあってはライナ層の材料として主にRu(ルテニウム)を用いることが注目されている。
【0005】
ここで図9及び図10を参照して従来の薄膜の成膜方法について説明する。図9は従来の薄膜の形成方法における半導体ウエハの各工程を示す断面図、図10は従来の薄膜の形成方法の各工程を示すフローチャートである。図9(A)に示すように、被処理体として例えばシリコン基板等よりなる半導体ウエハの表面に形成された絶縁層1、2の絶縁層2の中には例えば配線層等となる導電層4が形成されており、この導電層4を覆うようにして絶縁層2の表面全体に例えばSiO 膜等よりなる絶縁層6が所定の厚さで形成されている。上記導電層4がトランジスタやコンデンサ等の電極等に対応する場合もある。また絶縁層2と絶縁層6の界面にあるエッチストップ層や、導電層4の側面や底面を覆うバリヤ層等は図示を省略している。
【0006】
そして、上記絶縁層6には、上記導電層4に対して電気的コンタクトを図るためのスルーホールやビアホール等のコンタクト用の凹部8が形成されている。上記凹部8として配線用の細長いトレンチ(溝)を形成する場合もあるし、この細長いトレンチの底部に上述のようなコンタクト用の穴を形成して、その底部に下層の導電層を露出させて電気的なコンタクトを図るようにした構造もある。この図示例では、断面が2段構造になっており、このような構造をDual Damascene構造と称す。まず、表面に凹部8が形成されている半導体ウエハに対してデガス処理を行い、表面に付着している水分や有機物等を飛ばしてこれらを除去する(S1)。次に、図9(B)に示すように、この凹部8内の底面及び側面を含めた半導体ウエハの表面全体に、すなわち絶縁層6の上面全体に上述したような機能を有するバリヤ層10を所望の厚さで形成する(S2)。
【0007】
ここで上記バリヤ層10としては種々存在し、例えばTi膜及びTiN膜を順次積層してなる2層構造のバリヤ層や、TaN膜及びTa膜を順次積層してなる2層構造のバリヤ層や、更には、Ti膜、TiN膜、Ta膜及びTaN膜の内の1層のみを用いたバリヤ層も存在する。また更には、W膜の1層構造や、W膜とWN膜の2層構造のバリヤ層を用いることができる。いずれにしても、このバリヤ層10の上層に形成される導電層12の種類によってバリヤ層10の材質及び構造が決定される。
【0008】
次に、図9(C)に示すように、上記バリヤ層10上にライナ層12を形成する(S3)。このライナ層12は、これ以降の工程で行われる埋め込み工程で用いられる埋め込み金属との密着性及び埋め込み特性を向上させるためのものである。ここでは後述するように、埋め込み金属として銅が用いられる。上記ライナ層12としては、例えばRu(ルテニウム)やCo(コバルト)やTa(タンタル)等が用いられる。上記ライナ層12としてRu膜を形成する場合には、原料として例えばRu (CO)12が用いられ、例えばCVD法により形成されることになる。
【0009】
次に、図9(D)に示すように、上記ライナ層12の上にシード層14を形成する(S4)。このシード層14は、この後に行われる埋め込み工程における効率を高めるためのものである。このシード層14としては基本的には埋め込み金属と同じ材料、例えばここでは銅が用いられる。このシード層14は、例えばPVD(Physical Vapor Deposition)法、いわゆるスパッタリング法により形成することができる。尚、このシード層を用いないで省略することもできる。
【0010】
次に、図9(E)に示すように、上記凹部8内を埋め込み金属により埋め込むための埋め込み工程を行って埋め込み用の金属膜16を形成する。これにより、埋め込み用の金属膜16により上記凹部8内を完全に埋め込めようにする。この埋め込み用の金属膜16を形成する埋め込み金属としては、上述のように銅を用いる。この埋め込み工程は、主としてメッキ法を用いることができるが、その他にCVD法、原料ガスと反応ガスとを交互に繰り返して流して薄膜を一層ずつ形成するALD(Atomic Layerd Deposition)法やPVD法、すなわちスパッタリング法等を用いることができる。
【0011】
次に、図9(F)に示すように、上記埋め込みがなされた半導体ウエハを高温状態に晒してアニール処理を行い、各金属元素の結晶構造を安定化させる(S6)。次に、図9(G)に示すように、半導体ウエハの表面上にある余分な薄膜を削り取って除去する除去工程を行う(S7)。この除去工程では、上記凹部8の外側や半導体ウエハの表面に存在する不要な薄膜を例えばCMP(Chemical Mechanical Polising)処理によって除去する。これにより、凹部の埋め込み処理が完了することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−142425号公報
【特許文献2】特開2006−148074号公報
【特許文献3】特開2004−335998号公報
【特許文献4】特開2006−303062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように埋め込み工程の前にライナ層12として特にRu膜を形成することにより、線幅やホール径の微細化が進んでも、埋め込み金属である例えば銅との密着性や銅の埋め込み特性の改善を図ることができた。しかしながら、上述のようにRu膜よりなるライナ層12を用いた場合には、銅との密着性等は改善できたが、ライナ層12として例えばTa膜を用いた場合と比較して、エレクトロマイグレーション耐性が低下してしまう、という新たな問題が発生した。
【0014】
ここで上記エレクトロマイグレーション耐性の向上を目的として特許文献3に示すように、埋め込み用の銅膜を形成した後に化学機械的研磨により埋め込み部以外の余分な銅膜を除去して銅金属配線を形成し、この銅金属配線上に選択的にチタニウムやルテニウムを積層してからアニール処理する方法が提案されている。しかしながら、この特許文献3に示す成膜方法では、アニール処理を行っても上記銅膜における結晶粒の粒径が比較的小さく、エレクトロマイグレーションの耐性を十分に向上させることができない、という問題があった。
【0015】
また、この点に関して特許文献4では、凹部を銅の導電膜で埋め込んだ後に、余分な導電膜を除去することなくチタンやルテニウム等よりなる被覆膜を形成し、更に熱処理を行うことが提案されている。しかし、この特許文献4では、導電膜中の結晶欠陥を、上記導電膜と被覆膜との界面へ移動させてこれを最終的に除去することを目的としており、エレクトロマイグレーション耐性の向上を目的としているものではない。
【0016】
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明は、埋め込み金属との密着性及び埋め込み特性の改善を図ることができるのみならず、エレクトロマイグレーション耐性も向上させることが可能な薄膜の形成方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、半導体ウエハ表面の凹部の埋め込み時の成膜方法について鋭意研究した結果、埋め込み用の金属膜の上面に、この金属膜の金属材料と格子間隔が近い金属膜を形成した状態でアニール処理を施すことにより、埋め込み用の金属膜中の結晶の成長が効率的に行われてエレクトロマイグレーション耐性を向上させることができる、という知見を得ることにより、本発明に至ったものである。
【0018】
請求項1に係る発明は、表面に凹部を有する被処理体の表面に薄膜を形成する形成方法において、前記凹部を含む前記被処理体の表面に埋め込み用の金属膜を形成して前記凹部を埋め込む埋め込み工程と、前記金属膜を覆うようにして前記被処理体の表面の全面に拡散防止用の金属膜を形成する拡散防止膜形成工程と、前記被処理体をアニールするアニール工程と、を有することを特徴とする薄膜の形成方法である。
【0019】
このように、表面に凹部を有する被処理体の表面に薄膜を形成する形成方法において、被処理体の表面に埋め込み用の金属膜を形成して凹部の埋め込みを行い、金属膜を覆うようにして被処理体の表面の全面に拡散防止用の金属膜を形成し、この被処理体をアニールするようにしたので、埋め込み金属との密着性及び埋め込み特性の改善を図ることができるのみならず、エレクトロマイグレーション耐性も向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る成膜方法によれば、次のような優れた作用効果を発揮することができる。
表面に凹部を有する被処理体の表面に薄膜を形成する形成方法において、被処理体の表面に埋め込み用の金属膜を形成して凹部の埋め込みを行い、金属膜を覆うようにして被処理体の表面の全面に拡散防止用の金属膜を形成し、この被処理体をアニールするようにしたので、埋め込み金属との密着性及び埋め込み特性の改善を図ることができるのみならず、エレクトロマイグレーション耐性も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の薄膜の形成方法における半導体ウエハの各工程を示す断面図である。
【図2】本発明の薄膜の形成方法の各工程を示すフローチャートである。
【図3】銅を中心とする各金属の結晶構造の状態を示す図である。
【図4】ライナ層に依存してCu層が積層される時の面間隔の状態を示す模式図である。
【図5】拡散防止用の金属膜の作用を確認する実験を行った時の薄膜積層構造を示す断面図である。
【図6】拡散防止用の金属膜を形成した状態でアニール処理した時のCu結晶を成長の状態を模式的に示す図である。
【図7】Cu膜厚に対するアニール温度とCu結晶粒の粒径との関係を示すグラフである。
【図8】凹部である溝状のトレンチ部内へCu膜を埋め込んだ時の断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図9】従来の薄膜の形成方法における半導体ウエハの各工程を示す断面図である。
【図10】従来の薄膜の形成方法の各工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る薄膜の形成方法の一実施例を添付図面に基づいて詳述する。ここでは埋め込み用の金属膜として銅(Cu)を用い、ライナ層としてルテニウム(Ru)を用いる場合を例にとって説明する。本発明方法の特徴は、埋め込み用の金属膜を形成した後に、この上面に後工程で行われるアニール時に表面の元素が拡散することを防止するための拡散防止用の金属膜を形成した点にある。
【0023】
図1は本発明の薄膜の形成方法における半導体ウエハの各工程を示す断面図、図2は本発明の薄膜の形成方法の各工程を示すフローチャートである。尚、図9及び図10に示す部分と同一部分については同一参照符号を付して説明する。まず、先に図9を参照して説明したと同様に、図1(A)に示すように、被処理体として例えばシリコン基板等よりなる半導体ウエハの表面に形成された絶縁層1、2の絶縁層2の中には例えば配線層等となる導電層4が形成されており、この導電層4を覆うようにして絶縁層2の表面全体に例えばSiO 膜等よりなる絶縁層6が所定の厚さで形成されている。上記導電層4がトランジスタやコンデンサ等の電極等に対応する場合もある。また絶縁層2と絶縁層6の界面にあるエッチストップ層や、導電層4の側面や底面を覆うバリヤ層等は図示を省略している。
【0024】
そして、上記絶縁層6には、上記導電層4に対して電気的コンタクトを図るためのスルーホールやビアホール等のコンタクト用の凹部8が形成されている。上記凹部8として配線用の細長いトレンチ(溝)を形成する場合もあるし、この細長いトレンチの底部に上述のようなコンタクト用の穴を形成して、その底部に下層の導電層を露出させて電気的なコンタクトを図るようにした構造もある。この図示例では、断面が2段構造になっており、このような構造をDual Damascene構造と称す。まず、表面に凹部8が形成されている半導体ウエハに対してデガス処理を行い、表面に付着している水分や有機物等を飛ばしてこれらを除去する(S1)。ここで上記ウエハWの表面の凹部8以外の表面の部分をフィールド部9と称する。すなわち、このフィールド部9は、ここでは絶縁層6に形成された凹部8を除く上面の平坦部側を指すことになる。次に、図1(B)に示すように、この凹部8内の底面及び側面を含めた半導体ウエハの表面全体に、すなわち絶縁層6の上面全体に上述したような機能を有するバリヤ層10を所望の厚さで形成する(S2)。
【0025】
ここで上記バリヤ層10としては種々存在し、例えばTi膜及びTiN膜を順次積層してなる2層構造のバリヤ層や、TaN膜及びTa膜を順次積層してなる2層構造のバリヤ層や、更には、Ti膜、TiN膜、Ta膜及びTaN膜の内の1層のみを用いたバリヤ層も存在する。また更には、W膜の1層構造や、W膜とWN膜の2層構造のバリヤ層を用いることができる。いずれにしても、このバリヤ層10の上層に形成されることになる導電層であるライナ層12の種類によってバリヤ層10の材質及び構造が決定される。このバリヤ層10の厚さは、例えば1〜20nm程度である。
【0026】
次に、図1(C)に示すように、上記バリヤ層10上にライナ層12を形成する(S3)。このライナ層12は、これ以降の工程で行われる埋め込み工程で用いられる埋め込み金属との密着性及び埋め込み特性を向上させるためのものである。ここでは後述するように、埋め込み金属として銅が用いられる。上記ライナ層12としては、例えばRu(ルテニウム)やCo(コバルト)やTa(タンタル)等が用いることができるが、上記したように、密着性及び埋め込み特性を向上させるにはRuを用いるのが好ましい。上記ライナ層12としてRu膜を形成する場合には、原料として例えばRu (CO)12が用いられ、例えばCVD法により形成されることになる。このRu膜を形成するには、例えば特開2010−037631号公報に開示されているようなCVDの成膜装置を用いることができる。このライナ層12の厚さは、例えば1〜10nm程度である。
【0027】
次に、図1(D)に示すように、上記ライナ層12の上にシード層14を形成する(S4)。このシード層14は、この後に行われる埋め込み工程における効率を高めるためのものである。このシード層14としては基本的には埋め込み金属と同じ材料、例えばここでは銅が用いられる。このシード層14は、例えばPVD(Physical Vapor Deposition)法、いわゆるスパッタリング法により形成することができる。このシード層14の厚さは、例えば2〜100nm程度である。尚、このシード層を用いないで省略することもできる。
【0028】
次に、図1(E)に示すように、上記凹部8内を埋め込み金属により埋め込むための埋め込み工程を行って埋め込み用の金属膜16を形成する。これにより、埋め込み用の金属膜16により上記凹部8内を完全に埋め込めようにする。この埋め込み用の金属膜16を形成する埋め込み金属としては、上述のように銅を用いる。この埋め込み工程は、主としてメッキ法を用いることができるが、その他にCVD法、原料ガスと反応ガスとを交互に繰り返して流して薄膜を一層ずつ形成するALD(Atomic Layerd Deposition)法やPVD法、すなわちスパッタリング法等を用いることができる。
【0029】
この場合、好ましくは、ウエハWの表面の上記凹部8以外の表面であるフィールド部9における上記埋め込み用の金属膜16の厚さaが、上記凹部8の深さb以上の厚さになるように埋め込み用の金属膜16を厚く形成する。すなわち、”a≧b”となるまで埋め込み用の金属膜16の成膜を行う。これにより、後述するように後工程で行われるアニール処理時に成長する埋め込み用の金属膜16である銅の結晶粒の粒径を大きくすることが可能となる。
【0030】
次に、図1(F)に示すように、上記埋め込み用の金属膜16の上面全体を覆うようにして半導体ウエハの表面の全面に、本発明方法の特徴とする拡散防止用の金属膜18を形成する拡散防止膜形成工程を行う(S5−1)。この拡散防止用の金属膜18としては、上記埋め込み用の金属膜16の金属材料と格子間隔が近い金属材料を用いるようにする。ここでは、埋め込み用の金属膜16として銅を用いているので、この銅に最も格子間隔が近い金属材料としてRu(ルテニウム)を用いている。このRu膜の成膜方法は図1(C)で説明したRu膜よりなるライナ層12の形成方法と同じである。
【0031】
このような拡散防止用の金属膜18を形成しておくことにより、後工程で行われるアニール処理時に、埋め込み用の金属膜16の表面での元素の拡散を抑制することにより、拡散によって消費されるべきエネルギーを金属膜中のグレインの成長に振り向けることができる。この結果、グレイン(結晶粒)の成長が効率的に行われてこの成長を促進させることができる。
【0032】
この場合、上記拡散防止用の金属膜18の厚さは、0.5nm以上であり、0.5nmよりも薄いと、埋め込み用の金属膜16の上面にこの金属膜18を均一に形成できなくなって成膜がまだらになり、上記作用を効率的に発揮できないおそれが生ずる。また、上記拡散防止用の金属膜18の厚さが過度に厚くなると、後述する除去工程に多くの時間を要するのでスループットが低下してしまう。従って、膜厚の上限は50nm程度である。
【0033】
次に、図1(G)に示すように、上記拡散防止用の金属膜18が形成された半導体ウエハを高温状態に晒してアニール処理を行い、各金属元素の結晶構造を安定化させる(S6)。このアニール温度は100〜500℃の範囲内であり、好ましくは150〜400℃の範囲内、より好ましくは200〜350℃の範囲内である。このアニール温度が100℃よりも低い場合には、アニールの効果が十分に発明できず、また、500℃よりも高過ぎると、元素の吸い上がり現象が生じて好ましくない。
【0034】
上記埋め込み用の金属膜16の表面に拡散防止用の金属膜18を形成しておくことにより、上記アニール処理が行われた時に、格子間隔が非常に近似して密着性が高くなっていることから、Cu表面でのCu元素の熱拡散が抑制される。この結果、この熱拡散に消費されるべきエネルギーが結晶成長に向けられて結晶粒、すなわちグレインの成長が効率的に行われてこの成長を促進させることができる。この結果、エレクトロマイグレーションが生ずる傾向にある結晶粒同士の界面の長さ、或いは面積が少なくなるので、その分、エレクトロマイグレーションの発生を抑制することが可能となる。
【0035】
次に、図1(H)に示すように、半導体ウエハの表面上にある余分な薄膜を削り取って除去する除去工程を行う(S7)。この除去工程では、上記凹部8の外側や半導体ウエハの表面に存在する不要な薄膜を例えばCMP(Chemical Mechanical Polising)処理によって除去する。これにより、凹部の埋め込み処理が完了することになる。
【0036】
<本発明方法の評価>
次に、上述したような本発明の薄膜の形成方法について実験を行ったので、その評価結果について説明する。まず、拡散防止用の金属膜18の作用の説明に先立ってライナ層12の作用について説明する。このライナ層12は前述したように、埋め込み用の金属膜16である銅との密着性を主に改善するものである。このように、密着性を改善するためには、銅の格子間隔とできるだけ近似する材料をライナ層12として用いることが好ましい。図3は銅を中心とする各金属の結晶構造の状態を示す図、図4はライナ層に依存してCu層が積層される時の面間隔の状態を示す模式図である。
【0037】
図3に示すように、ここではCu、Ru、Ta、Tiの各元素の最密面の結晶構造、格子パラメータ、格子間隔(面間隔及びCuに対するずれ量)が示されている。特に格子間隔において、面間隔及びCuに対する面間隔のずれ量に着目すると、Cu(111)面に対してRuの面間隔が最も近い。そして、上記Ta、Tiの結晶格子のずれ量はそれぞれ11.9%、9.77%であるのに対して、Ruの結晶格子のずれ量は僅か2.57%であり、最もずれ量が少ない。
【0038】
従って、Ru金属をライナ層12として用いることにより、Cu膜との密着性を向上でき、凹部の埋め込み特性も向上できることが判る。図4はCuの結晶格子のずれの大小を示しており、図4(A)に示すように下地のライナ層として面間隔のずれ量が大きいTaやTiを用いた場合には、この上に積層されるCu膜の格子間隔L1は本来の格子間隔よりも大きくずれてしまい、ここに歪が生じて両者間の密着性が劣ってしまう。
【0039】
これに対して、図4(B)に示すように下地のライナ層として面間隔のずれ量が小さいRuを用いた場合には、この上に積層されるCu膜の格子間隔L2は本来の格子間隔に近くなり、この結果、両者間の密着性を大幅に向上できることが判る。
【0040】
ところが、Cu膜の結晶サイズを比較すると、Cu/Ru界面での良好な密着性があることから、アニール処理を行ってもCu結晶の成長が起き難い状態となっている。この結果、Ru膜上のCu膜の結晶サイズは、Ta膜やTi膜上のCu膜の結晶サイズと比較して小さくなってしまう。例えば、厚さが4nmのTaN及び厚さ2nmのTa膜の積層構造上にCu膜を成膜してアニール処理を行った時のCu(111)面の結晶サイズは15nmであった。これに対して、Ru膜の積層構造上にCu膜を成膜してアニール処理を行った時のCu(111)面の結晶サイズは11nmであった。このように、Ru層をライナ層として用いると、密着性等は向上するが、Cu膜の結晶サイズが小さくなってしまう。
【0041】
ここで、エレクトロマイグレーションはCu膜中の結晶(グレイン)界面において粒界拡散として生ずる傾向にある。従って、上述のようにCu膜の結晶サイズが小さいと、その分、Cu結晶同士の界面の長さ、或いは面積が増加して粒界拡散が生じ易くなってエレクトロマイグレーション耐性が劣化してしまう。更には、Cu膜の結晶サイズが小さいと、その後のプロセスにおいてCu結晶の成長が起こると、その際、Cu膜中にボイドが発生するおそれもある。
【0042】
そこで、本発明では上述したように、埋め込み用の金属膜16であるCu膜上に拡散防止用の金属膜18を形成して、Cu膜表面の拡散を抑制しつつ結晶成長を促進させるようにしている。上記拡散防止用の金属膜18の作用を確認するために、図5に示すように拡散防止用の金属膜を形成した半導体ウエハと形成していない半導体ウエハを用意してCu結晶の成長について確認を行った。
【0043】
図5は拡散防止用の金属膜の作用を確認する実験を行った時の薄膜積層構造の断面図を示し、図5(A)は埋め込み用の金属層16上に拡散防止用の金属膜18を形成していない試料を示し、図5(B)は埋め込み用の金属層16上に拡散防止用の金属膜18を形成した試料を示す。図6は拡散防止用の金属膜を形成した状態でアニール処理した時のCu結晶を成長の状態を模式的に示す図である。図5(A)は従来方法に対応し、シリコン基板である半導体ウエハ上にSiO よりなる絶縁層6、Ti膜よりなるバリヤ層10、Ru膜よりなるライナ層12及び埋め込み用の金属膜16に相当するCu層20を順次積層している。
【0044】
これに対して、図5(B)は本発明方法に対応し、シリコン基板である半導体ウエハ上にSiO よりなる絶縁層6、Ti膜よりなるバリヤ層10、Ru膜よりなるライナ層12及び埋め込み用の金属膜16に相当するCu層20及びRu膜よりなる拡散防止用の金属膜18を順次積層している。
【0045】
図5(A)及び図5(B)に示すように、各種の薄膜を形成した各試料に対して、それぞれ150℃の温度で30分間のアニール処理を施した。そして、各Cu層20におけるCu結晶の大きさをそれぞれ測定した。この結果、図5(A)に示す従来方法の場合には、Cu層20中におけるCu結晶の平均値は58nm程度であった。これに対して、図5(B)に示す本願発明方法の場合には、Cu層20中におけるCu結晶の平均値は122nm程度であり、略2倍の大きさにCu結晶が成長していることを確認することができた。
【0046】
図6は上記アニール処理時の本願発明方法の場合を模式的に示している。図6(A)に示すように、アニール処理前にあっては、Cu膜20中の結晶サイズはかなり細かい部分が多いが、アニール処理後にあっては、図6(B)に示すようにCu結晶が成長して大きくなっている。
【0047】
このように、埋め込み用の金属膜16に相当するCu層20の表面には拡散防止用の金属膜18を形成した状態でアニール処理することにより、結晶の成長を促進させることができる理由は次のように考えられる。すなわち、通常は、Cu層の金属膜の表面のエネルギーが一番高いことから、表面での原子は非常に動き易くて熱拡散し易い状態になっている。しかし、このCu層の表面にCuに対して格子間隔のずれ量が少ないRu膜が存在すると、両者の界面で強く結合されて熱拡散が抑制される。その結果、本来は熱拡散で消費されるべきエネルギーがCu結晶の成長の方に使われることになり、上述したようなCu層中の結晶が成長することになる。このように、本発明によれば、埋め込み金属との密着性及び埋め込み特性の改善を図ることができるのみならず、Cu粒界の拡散によるエレクトロマイグレーション耐性も向上させることができる。
【0048】
また、前述したように上記埋め込み用の金属膜16の形成に際し、フィールド部9における埋め込み用の金属膜16の厚さaをかなり厚くし、この厚さaを上記凹部8の深さb以上(a≧b)の厚さに設定することにより、アニール処理時において埋め込み用の金属膜16である銅の結晶粒を一層大きく成長させることができる。すなわち、銅膜の上側部分から下方に向けてCu結晶粒の成長は生じるので、フィールド部9上に多量の膜厚の厚い銅膜が存在して上述のように”a≧b”にすると、その分、結晶粒の成長が促進されて銅膜の下側部分まで十分な大きな結晶粒が成長することになる。従って、凹部8内の底部側に堆積しているCu膜(金属膜16)まで十分に大きな結晶粒となるまで成長させるためには、上述のようにフィールド部9における埋め込み用の金属膜16の厚さaを、凹部8の深さb以上の厚さに設定するのがよいことが判る。
【0049】
上述のように埋め込み用の金属膜16であるCu膜の厚さを厚くすればする程、アニール処理時におけるこのCu膜の結晶粒の粒径を大きくすることができる。図7は上記関係を示し、Cu膜厚に対するアニール温度とCu結晶粒の粒径との関係を示すグラフである。ここでは、シリコン基板のウエハ上にSiO 膜、TaN膜(4nm)、Ru膜(2nm)及び埋め込み用の金属膜16としてCu膜を順次形成し、更にその表面に拡散防止用の金属膜としてRu膜を形成し、この状態でアニール処理(圧力:10Torr、30分)を行っている。上記Cu膜の厚さは30nmの場合と50nmの場合とについて行った。上記結晶粒の粒径は、XRD(蛍光X線分析器)を用いて測定した。
【0050】
このグラフから明らかなように、埋め込み用の金属膜であるCu膜の厚さを、30nmから50nmへ厚くすると、Cu結晶粒の粒径の大きさはアニール温度にもよるが、13〜16nmから18〜19nmへ拡大している。すなわち、Cu膜の厚さを大きくすればする程、その結晶粒の粒径を大きくすることができることが判る。
【0051】
また、上記した成膜方法を用いて、深さ(b)が132nmであり、幅が80nmの溝状のトレンチ部よりなる凹部8内を銅膜で埋め込み、この時のフィールド部の銅膜の厚さ(a)を340nmにした時のアニール処理後のCu結晶粒の粒径を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により測定した。この時の結果を図8に示す。図8は凹部である溝状のトレンチ部内へCu膜を埋め込んだ時の断面を示す電子顕微鏡写真を示す。ここでは、図8中の右上に併記した図に示すように、トレンチ部の中央を縦方向に切断した時の断面を示している。この図8から得られたCu結晶粒の平均粒径の大きさは98nm程度であり、トレンチ幅である80nmよりも大きな粒径が得られることが判った。
【0052】
この場合、Cu結晶粒の粒径の大きさは、トレンチ部である凹部8の幅以上、すなわち配線幅以上の大きさにするのがよく、実際的には粒径の大きさを、凹部8の幅(開口幅)の1〜2倍程度の範囲内の大きさに設定するのが好ましい。また現状の半導体集積回路では、凹部の幅、すなわちトレンチ幅は10〜200nm程度である。また凹部であるトレンチ部の深さは100〜250nm程度であり、トレンチ幅と凹部であるトレンチ部の深さとの比、すなわちアスペクト比ARは”2〜10”程度である。
【0053】
尚、上記実施例では、埋め込み用の金属膜16として銅を用いた場合を例にとって説明したが、これに限定されず、上記埋め込み用の金属膜16は、銅、タングステン及びアルミニウムよりなる群から選択される1の材料を用いることができる。また上記実施例では、拡散防止用の金属膜18としてルテニウム(Ru)を用いた場合を例にとって説明したが、これに限定されない。どのような金属であっても埋め込み用の金属膜16を上から押さえ込んでいれば表面での元素の拡散は抑制されるので、上記拡散防止用の金属膜18は、Ru、Co、Ta及びTiよりなる群から選択される1の材料を用いることができる。
【0054】
また、ここでは被処理体として半導体ウエハを例にとって説明したが、この半導体ウエハにはシリコン基板やGaAs、SiC、GaNなどの化合物半導体基板も含まれ、更にはこれらの基板に限定されず、液晶表示装置に用いるガラス基板やセラミック基板等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 絶縁層
2 絶縁層
4 導電層
6 絶縁層
8 凹部
9 フィールド部
10 バリヤ層
12 ライナ層
14 シード層
16 埋め込み用の金属膜
18 拡散防止用の金属膜
20 Cu層
a 埋め込み用の金属膜の厚さ
b 凹部(トレンチ部)の深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹部を有する被処理体の表面に薄膜を形成する形成方法において、
前記凹部を含む前記被処理体の表面に埋め込み用の金属膜を形成して前記凹部を埋め込む埋め込み工程と、
前記金属膜を覆うようにして前記被処理体の表面の全面に拡散防止用の金属膜を形成する拡散防止膜形成工程と、
前記被処理体をアニールするアニール工程と、
を有することを特徴とする薄膜の形成方法。
【請求項2】
前記埋め込み工程では、前記被処理体の表面の凹部以外の表面であるフィールド部における前記埋め込み用の金属膜の厚さが、前記凹部の深さ以上の厚さになされることを特徴とする請求項1記載の薄膜の形成方法。
【請求項3】
前記アニール工程では、前記埋め込み用の金属膜の結晶粒の粒径は、前記凹部の幅以上の大きさになされることを特徴とする請求項1又は2記載の薄膜の形成方法。
【請求項4】
前記埋め込み工程の前工程として、バリヤ層を形成するためのバリヤ層形成工程を更に有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜の形成方法。
【請求項5】
前記バリヤ層形成工程と前記埋め込み工程との間に行われる工程であって、シード層を形成するためのシード層形成工程を更に有することを特徴とする請求項4記載の薄膜の形成方法。
【請求項6】
前記埋め込み工程の前工程として、バリヤ層を形成するためのバリヤ層形成工程とライナ層を形成するためのライナ層形成工程とを更に有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜の形成方法。
【請求項7】
前記ライナ層形成工程と前記埋め込み工程との間に行われる工程であって、シード層を形成するためのシード層形成工程を更に有することを特徴とする請求項6記載の薄膜の形成方法。
【請求項8】
前記アニール工程の温度は、100〜500℃の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の薄膜の形成方法。
【請求項9】
前記拡散防止用の金属膜と前記凹部以外の余分な前記埋め込み用の金属膜を除去する除去工程を更に有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の薄膜の形成方法。
【請求項10】
前記埋め込み用の金属膜は、銅、タングステン及びアルミニウムよりなる群から選択される1の材料よりなることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の薄膜の形成方法。
【請求項11】
前記拡散防止用の金属膜は、Ru、Co、Ta及びTiよりなる群から選択される1の材料よりなることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の薄膜の形成方法。
【請求項12】
前記埋め込み用の金属膜は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ALD(Atomic Layered Deposition)法、PVD(Physical Vapor Deposition)法及びメッキ法よりなる群から選択される1の方法で形成されることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の薄膜の形成方法。
【請求項13】
前記拡散防止用の金属膜は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ALD(Atomic Layered Deposition)法、PVD(Physical Vapor Deposition)法及びメッキ法よりなる群から選択される1の方法で形成されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の薄膜の形成方法。
【請求項14】
前記拡散防止用の金属膜の厚さは、0.5nm〜50nmであることを特徴とする 請求項1乃至13のいずれか一項に記載の薄膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−216867(P2011−216867A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41774(P2011−41774)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】