薄膜トランジスタの半導体層用酸化物およびスパッタリングターゲット、並びに薄膜トランジスタ
【課題】薄膜トランジスタのスイッチング特性に優れており、特にZnO濃度が高い領域であっても、また保護膜形成後およびストレス印加後も良好な特性を安定して得ることが可能な薄膜トランジスタ半導体層用酸化物を提供する。
【解決手段】本発明に係る薄膜トランジスタの半導体層用酸化物は、薄膜トランジスタの半導体層に用いられる酸化物であって、前記酸化物は、ZnおよびSnを含み、Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を更に含んでいる。
【解決手段】本発明に係る薄膜トランジスタの半導体層用酸化物は、薄膜トランジスタの半導体層に用いられる酸化物であって、前記酸化物は、ZnおよびSnを含み、Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を更に含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置に用いられる薄膜トランジスタの半導体層用酸化物および上記酸化物を成膜するためのスパッタリングターゲット、並びに薄膜トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アモルファス(非晶質)酸化物半導体は、汎用のアモルファスシリコン(a−Si)に比べて高いキャリア移動度を有し、光学バンドギャップが大きく、低温で成膜できるため、大型・高解像度・高速駆動が要求される次世代ディスプレイや、耐熱性の低い樹脂基板などへの適用が期待されている。
【0003】
酸化物半導体の例として、例えばIn含有の非晶質酸化物半導体(In−Ga−Zn−O、In−Zn−Oなど)が挙げられるが、希少金属であるInを使用しており、大量生産プロセスにおいては材料コストの上昇が懸念される。そこで、Inを含まず材料コストを低減でき、大量生産に適した酸化物半導体として、ZnにSnを添加してアモルファス化したZTO系の酸化物半導体が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−142196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化物半導体を薄膜トランジスタの半導体層として用いる場合、キャリア濃度が高いだけでなく、TFTのスイッチング特性(トランジスタ特性、TFT特性)に優れていることが要求される。具体的には、(1)オン電流(ゲート電極とドレイン電極に正電圧をかけたときの最大ドレイン電流)が高く、(2)オフ電流(ゲート電極に負電圧を、ドレイン電圧に正電圧を夫々かけたときのドレイン電流)が低く、(3)S値(Subthreshold Swing、サブスレッショルド スィング、ドレイン電流を1桁あげるのに必要なゲート電圧)が低く、(4)しきい値(ドレイン電極に正電圧をかけ、ゲート電圧に正負いずれかの電圧をかけたときにドレイン電流が流れ始める電圧であり、しきい値電圧とも呼ばれる)が時間的に変化せず安定である(基板面内で均一であることを意味する)、などが要求される。
【0006】
更に、ZTOなどの酸化物半導体層を用いたTFTは、電圧印加や光照射などのストレスに対する耐性(ストレス耐性)に優れていることが要求される。例えば、ゲート電圧に正電圧または負電圧を印加し続けたときや、光吸収が始まる青色帯を照射し続けたときに、しきい値電圧が大幅に変化(シフト)するが、これにより、TFTのスイッチング特性が変化することが指摘されている。また、液晶パネル駆動の際や、ゲート電極に負バイアスをかけて画素を点灯させる際などに液晶セルから漏れた光がTFTに照射されるが、この光がTFTにストレスを与えて特性劣化の原因となる。特にしきい値電圧のシフトは、TFTを備えた液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置自体の信頼性低下を招くため、ストレス耐性の向上(ストレス印加前後の変化量が少ないこと)が切望されている。
【0007】
ところでZTO系酸化物半導体では、キャリア濃度が高濃度化し易く、TFT素子の保護膜(絶縁膜)形成プロセスの際、半導体層が導体化し、安定したスイッチング挙動が得られないという問題がある。安定したスイッチング挙動を得るためにZTO系酸化物半導体中のZnO濃度を低減する方法があるが、ZnO濃度をあまり下げすぎた場合はZTO系酸化物半導体のスパッタリングターゲットの導電率が低下し、装置構成が簡易で制御も容易なDCスパッタリング法で成膜することが難しくなる。よって、ZnO濃度をいかに高濃度に保つZTO系酸化物半導体の材料設計ができるかが重要である。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ZTO系酸化物半導体を備えた薄膜トランジスタのスイッチング特性およびストレス耐性に優れており、特にZnO濃度が高い領域であっても、また保護膜形成後およびストレス印加後も良好なTFT特性を安定して得ることが可能な薄膜トランジスタ半導体層用酸化物、当該酸化物を用いた薄膜トランジスタ、および当該酸化物の形成に用いられるスパッタリングターゲットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明に係る薄膜トランジスタの半導体層用酸化物は、ZnおよびSnを含み、Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を更に含むところに要旨を有するものである。
【0010】
本発明の好ましい実施形態において、半導体層用酸化物に含まれるZnおよびSnの含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]および[Sn]としたとき、[Zn]/([Zn]+[Sn])の比は0.8以下である。
【0011】
本発明の好ましい実施形態において、前記X群の元素としてGaを含むとき、半導体層用酸化物に含まれるGaの含有量(原子%)を[Ga]とすると、[Ga]/([Zn]+[Sn]+[Ga])の比は0.01以上0.5以下であり;前記X群の元素としてGa以外の元素(X1)を含むとき、半導体層用酸化物に含まれるX1の合計量(原子%)を[X1]とすると、[X1]/([Zn]+[Sn]+[X1])の比は0.01以上0.3以下である。
【0012】
本発明には、上記酸化物を薄膜トランジスタの半導体層として備えた薄膜トランジスタも包含される。
【0013】
上記半導体層の密度は5.8g/cm3以上であることが好ましい。
【0014】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、上記酸化物を形成するためのスパッタリングターゲットであって、ZnおよびSnを含み、Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を更に含むところに要旨を有するものである。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、スパッタリングターゲットに含まれるZnおよびSnの含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]および[Sn]としたとき、[Zn]/([Zn]+[Sn])の比は0.8以下である。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、前記X群の元素としてGaを含むとき、スパッタリングターゲットに含まれるGaの含有量(原子%)を[Ga]とすると、[Ga]/([Zn]+[Sn]+[Ga])の比は0.01以上0.5以下であり、前記X群の元素としてGa以外の元素(X1)を含むとき、スパッタリングターゲットに含まれるX1の合計量(原子%)を[X1]とすると、[X1]/([Zn]+[Sn]+[X1])の比は0.01以上0.3以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、薄膜トランジスタのスイッチング特性およびストレス耐性に優れた半導体層用ZTO系酸化物が得られた。本発明の半導体層用酸化物を用いれば、酸化物半導体中のZnO濃度が高い領域(具体的には、酸化物半導体を構成するZnおよびSn中に占めるZnの比率(原子比)がおおむね、0.6以上の領域)であっても、また保護膜形成後およびストレス印加後も良好な特性を安定して得ることが可能な薄膜トランジスタを提供することができる。その結果、上記薄膜トランジスタを用いれば、信頼性の高い表示装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、酸化物半導体を備えた薄膜トランジスタを説明するための概略断面図である。
【図2】図2は、ZTO(従来例)を用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図3】図3は、ZTO−Alを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図4】図4は、ZTO−Hfを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図5】図5は、ZTO−Taを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図6】図6は、ZTO−Tiを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図7】図7は、ZTO−Nbを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図8】図8は、ZTO−Mgを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図9】図9は、ZTO−Scを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図10】図10は、ZTO−Yを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図11】図11は、ZTO−Gaを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図12】図12は、ZTO−Mgを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図13】図13は、ZTO−Nbを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図14】図14は、ZTO−Scを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図15】図15は、ZTO−Tiを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図16】図16は、ZTO−Alを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図17】図17は、ZTO−Hfを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図18】図18は、ZTO(従来例)を用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図19】図19は、ZTO−Taを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図20】図20は、ZTO−Gaを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図21】図21は、ZTO−Yを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、ZnおよびSnを含む酸化物(ZTO)をTFTの活性層(半導体層)に用いたときのTFT特性(特に保護膜形成後およびストレス印加後のTFT特性)を向上させるため、種々検討を重ねてきた。その結果、ZTO中に、Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を更に含むZTO−XをTFTの半導体層に用いれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。後記する実施例に示すように、上記X群に属する元素(X群元素)を含む酸化物半導体を備えたTFTは、X群元素を添加しない従来のZTOを用いた場合に比べ、特に保護膜形成後およびストレス印加後のTFT特性に極めて優れていることが分った。
【0020】
すなわち、本発明に係る薄膜トランジスタ(TFT)の半導体層用酸化物は、ZnおよびSnと;Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなるX群から選択される少なくとも一種の元素(X群元素で代表させる場合がある。)と、を含むところに特徴がある。本明細書では、本発明の酸化物をZTO−XまたはZTO+Xで表わす場合がある。
【0021】
まず、本発明の酸化物を構成する母材成分である金属(ZnおよびSn)について説明する。
【0022】
上記金属(Zn、Sn)について、各金属間の比率は、これら金属を含む酸化物(ZTO)がアモルファス相を有し、且つ、半導体特性を示す範囲であれば特に限定されない。結晶相が形成されると、トランジスタ特性のバラツキが大きくなるなどの問題が生じる。
【0023】
ここで、半導体層用酸化物に含まれるZnおよびSnの含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]および[Sn]としたとき、[Zn]/([Zn]+[Sn])の好ましい比は0.8以下であり、これにより所望のTFT特性が得られる。一方、上記比が小さくなるとエッチング性が低下するなどの問題があるため、上記比を0.2以上とすることが好ましく、より好ましくは0.3以上である。
【0024】
本発明の酸化物は、ZTO中にX群元素を含んでいる。Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなる群(X群)から選択される少なくとも一種のX群元素をZTO中に添加することにより、Zn量が多い領域であってもZTO−Xが導体化することなく良好なTFT特性を安定して得ることができる。また、X群元素の添加によるウェットエッチング時のエッチング不良などの問題も見られないことを実験により確認している。これらは単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても良い。ここで「希土類元素」とは、ランタノイド元素(周期表において、原子番号57のLaから原子番号71のLuまでの合計15元素)に、Sc(スカンジウム)とY(イットリウム)とを加えた元素群を意味し、希土類元素は1種または2種以上を用いることができる。
【0025】
上記X群元素の添加による特性向上の詳細なメカニズムは不明であるが、X群元素は、酸化物半導体中で余剰電子の原因となる酸素欠損の発生抑制効果があると推察される。X群元素の添加により、酸素欠損が低減され、酸化物が安定な構造を有することによりZTO−X全体が導体化することを防止するものと考えられる。
【0026】
本発明の酸化物(ZTO−X)を構成する全金属(Zn、Sn、X群元素)に含まれるX群元素の好ましい比率[X/(Zn+Sn+X)]は、キャリア密度や半導体の安定性などを考慮して決定されるが、X群元素の種類によっても若干相違し、X群元素としてGaを含むときは、Gaを含まない場合に比べて上記比率の好ましい上限を大きくすることができる。具体的には、酸化物(ZTO−X)中に含まれるGaの含有量(原子%)を[Ga]とすると、[Ga]/([Zn]+[Sn]+[Ga])の好ましい比は0.01以上0.5以下であり、一方、前記X群の元素としてGa以外の元素(X1)を含むとき、酸化物中に含まれるX1の合計量(原子%)を[X1]とすると、[X1]/([Zn]+[Sn]+[X1])の好ましい比は0.01以上0.3以下である。より好ましくは0.25以下、さらに好ましくは0.2以下である。[X1]について、Ga以外のX群元素を2種以上含むときはこれらの合計量であり、Ga以外のX群元素を単独で含むときは単独の量である。[Ga]または[X1]の添加比率が少なすぎると、酸素欠損の発生抑制効果が十分に得られない。一方、[Ga]または[X1]の添加比率が多すぎると半導体中のキャリア密度の低下、または移動度が低下するため、オン電流が減少し易い。移動度の好ましい範囲は飽和領域にて3cm2/Vs以上であり、より好ましくは5cm2/Vs以上、さらに好ましくは7.5cm2/Vs以上である。
【0027】
上記X群元素の添加による特性向上の詳細なメカニズムは不明であるが、X群元素は、酸化物半導体中で余剰電子の原因となる酸素欠損の発生抑制効果があると推察される。X群元素の添加により、酸素欠損が低減され、酸化物が安定な構造を有することにより電圧や光などのストレスに対するストレス耐性などが向上するものと考えられる。
【0028】
以上、本発明の酸化物について説明した。
【0029】
上記酸化物は、スパッタリング法にてスパッタリングターゲット(以下「ターゲット」ということがある。)を用いて成膜することが好ましい。塗布法などの化学的成膜法によって酸化物を形成することもできるが、スパッタリング法によれば、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成することができる。
【0030】
スパッタリング法に用いられるターゲットとして、前述した元素を含み、ZnO、SnO2、X群元素−Oの各比率を適切に合成することで、所望の組成比の薄膜を形成することができる。具体的にはターゲットとして、ZnおよびSnと;Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物ターゲットを用いることができる。
【0031】
あるいは、組成の異なる二つのターゲットを同時放電するコスパッタ法(Co−Sputter法)を用いても成膜しても良く、これにより、同一基板面内にX元素の含有量が異なる酸化物半導体膜を成膜することができる。例えば後記する実施例に示すように、ZnOのターゲットと、ZTO(またはSnO2)のターゲットと、X群元素の酸化物からなるターゲットの三つを用意し、コスパッタ法によって所望とするZTO−Xの酸化物を成膜することができる。
【0032】
上記ターゲットは、例えば粉末焼結法によって製造することができる。
【0033】
上記ターゲットを用いてスパッタリングするに当たっては、基板温度を室温とし、酸素添加量を適切に制御して行なうことが好ましい。酸素添加量は、スパッタリング装置の構成やターゲット組成などに応じて適切に制御すれば良いが、おおむね、酸化物半導体のキャリア濃度が1015〜1016cm-3となるように酸素量を添加することが好ましい。本実施例における酸素添加量は添加流量比でO2/(Ar+O2)=2%とした。
【0034】
また、上記酸化物をTFTの半導体層としたときの、酸化物半導体層の好ましい密度は5.8g/cm3以上である(後述する。)が、このような酸化物を成膜するためには、スパッタリング成膜時のガス圧、スパッタリングターゲットへの投入パワー、基板温度などを適切に制御することが好ましい。例えば成膜時のガス圧を低くするとスパッタ原子同士の散乱がなくなって緻密(高密度)な膜を成膜できると考えられるため、成膜時の全ガス圧は、スパッタの放電が安定する程度で低い程良く、おおむね0.5〜5mTorrの範囲内に制御することが好ましく、1〜3mTorrの範囲内であることがより好ましい。また、投入パワーは高い程良く、おおむねDCまたはRFにて2.0W/cm2以上に設定することが推奨される。成膜時の基板温度も高い程良く、おおむね室温〜200℃の範囲内に制御することが推奨される。
【0035】
上記のようにして成膜される酸化物の好ましい膜厚は30nm以上200nm以下であり、より好ましくは30nm以上150nm以下である。
【0036】
本発明には、上記酸化物をTFTの半導体層として備えたTFTも包含される。TFTは、基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁膜、上記酸化物の半導体層、ソース電極、ドレイン電極、保護膜(絶縁膜)を少なくとも有していれば良く、その構成は通常用いられるものであれば特に限定されない。
【0037】
ここで、上記酸化物半導体層の密度は5.8g/cm3以上であることが好ましい。酸化物半導体層の密度が高くなると膜中の欠陥が減少して膜質が向上し、また原子間距離が小さくなるため、TFT素子の電界効果移動度が大きく増加し、電気伝導性も高くなり、光照射に対するストレスへの安定性が向上する。上記酸化物半導体層の密度は高い程良く、より好ましくは5.9g/cm3以上であり、更に好ましくは6.0g/cm3以上である。なお、酸化物半導体層の密度は、後記する実施例に記載の方法によって測定したものである。
【0038】
以下、図1を参照しながら、上記TFTの製造方法の実施形態を説明する。図1および以下の製造方法は、本発明の好ましい実施形態の一例を示すものであり、これに限定する趣旨ではない。例えば図1には、ボトムゲート型構造のTFTを示しているがこれに限定されず、酸化物半導体層の上にゲート絶縁膜とゲート電極を順に備えるトップゲート型のTFTであっても良い。
【0039】
図1に示すように、基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3が形成され、その上に酸化物半導体層4が形成されている。酸化物半導体層4上にはソース・ドレイン電極5が形成され、その上に保護膜(絶縁膜)6が形成され、コンタクトホール7を介して透明導電膜8がドレイン電極5に電気的に接続されている。
【0040】
基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3が形成する方法は特に限定されず、通常用いられる方法を採用することができる。また、ゲート電極2およびゲート絶縁膜3の種類も特に限定されず、汎用されているものを用いることができる。例えばゲート電極2として、電気抵抗率の低いAlやCuの金属、これらの合金を好ましく用いることができる。また、ゲート絶縁膜3としては、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜などが代表的に例示される。そのほか、Al2O3やY2O3などの酸化物や、これらを積層したものを用いることもできる。
【0041】
次いで酸化物半導体層4を形成する。酸化物半導体層4は、上述したように、薄膜と同組成のスパッタリングターゲットを用いたDCスパッタリング法またはRFスパッタリング法により成膜することが好ましい。あるいは、コスパッタ法により成膜しても良い。
【0042】
酸化物半導体層4をウェットエッチングした後、パターニングする。パターニングの直後に、酸化物半導体層4の膜質改善のために熱処理(プレアニール)を行うことが好ましく、これにより、トランジスタ特性のオン電流および電界効果移動度が上昇し、トランジスタ性能が向上するようになる。
【0043】
プレアニールの後、ソース・ドレイン電極5を形成する。ソース・ドレイン電極5の種類は特に限定されず、汎用されているものを用いることができる。例えばゲート電極2と同様AlやCuなどの金属または合金を用いても良いし、後記する実施例のように純Tiを用いても良い。
【0044】
ソース・ドレイン電極5の形成方法としては、例えばマグネトロンスパッタリング法によって金属薄膜を成膜した後、リフトオフ法によって形成することができる。あるいは、上記のようにリフトオフ法によって電極を形成するのではなく、予め所定の金属薄膜をスパッタリング法によって形成した後、パターニングによって電極を形成する方法もあるが、この方法では、電極のエッチングの際に酸化物半導体層にダメージが入るため、トランジスタ特性が低下する。そこで、このような問題を回避するために酸化物半導体層の上に予め保護膜を形成した後、電極を形成し、パターニングする方法も採用されており、後記する実施例では、この方法を採用した。
【0045】
次に、酸化物半導体層4の上に保護膜(絶縁膜)6をCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって成膜する。酸化物半導体層4の表面は、CVDによるプラズマダメージによって容易に導通化してしまう(おそらく酸化物半導体表面に生成される酸素欠損が電子ドナーとなるためと推察される。)ため、上記問題を回避するため、後記する実施例では、保護膜の成膜前にN2Oプラズマ照射を行った。N2Oプラズマの照射条件は、下記文献に記載の条件を採用した。
J. Parkら、Appl. Phys. Lett., 1993,053505(2008)。
【0046】
次に、常法に基づき、コンタクトホール7を介して透明導電膜8をドレイン電極5に電気的に接続する。透明導電膜およびドレイン電極の種類は特に限定されず、通常用いられるものを使用することができる。ドレイン電極としては、例えば前述したソース・ドレイン電極で例示したものを用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0048】
実施例1
前述した方法に基づき、図1に示す薄膜トランジスタ(TFT)を作製し、保護膜形成前後のTFT特性を評価した。
【0049】
まず、ガラス基板(コーニング社製イーグル2000、直径100mm×厚さ0.7mm)上に、ゲート電極としてTi薄膜を100nm、およびゲート絶縁膜SiO2(200nm)を順次成膜した。ゲート電極は純Tiのスパッタリングターゲットを使用し、DCスパッタ法により、成膜温度:室温、成膜パワー:300W、キャリアガス:Ar、ガス圧:2mTorrにて成膜した。また、ゲート絶縁膜はプラスマCVD法を用い、キャリアガス:SiH4とN2Oの混合ガス、成膜パワー:100W、成膜温度:300℃にて成膜した。
【0050】
次に、表1に記載の種々の組成の酸化物薄膜を、スパッタリングターゲット(後記する。)を用いてスパッタリング法によって成膜した。酸化物薄膜としては、ZTO中にX群元素を含むZTO−X(本発明例)のほか、比較のため、X群元素を含まないZTO(従来例)も成膜した。スパッタリングに使用した装置は(株)アルバック製「CS−200」であり、スパッタリング条件は以下のとおりである。
基板温度:室温
ガス圧:5mTorr
酸素分圧:O2/(Ar+O2)=2%
膜厚:50〜150nm
使用ターゲットサイズ:φ4インチ×5mm
【0051】
ZTO(従来例)の成膜に当たっては、Zn:Snの比(原子%比)が6:4である酸化物ターゲット(ZTO)とZnOのターゲットを同時放電するCo−Sputter法を用いて成膜した。また、ZTO中にX群元素を含む酸化物薄膜の成膜に当たっては、上記ZTOの成膜に用いたターゲット[すなわち、Zn:Snの比(原子%比)が6:4である酸化物ターゲット(ZTO)とZnOのターゲット]と、X群元素の酸化物ターゲットとを同時放電するCo−Sputter法を用いて成膜した。
【0052】
このようにして得られた酸化物薄膜中の金属元素の各含有量は、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)法によって分析した。詳細には、最表面から1nm程度深さまでの範囲をArイオンにてスパッタリングした後、下記条件にて分析を行なった。
X線源:Al Kα
X線出力:350W
光電子取り出し角:20°
【0053】
上記のようにして酸化物薄膜を成膜した後、フォトリソグラフィおよびウエットエッチングによりパターニングを行った。ウェットエッチャント液としては、関東科学製「ITO−07N」を使用した。本実施例では、実験を行なった酸化物薄膜について光学顕微鏡観察によりウェットエッチング性を評価した。評価結果より実験を行なった全ての組成でウエットエッチングによる残渣はなく、適切にエッチングできたことを確認している。
【0054】
酸化物半導体膜をパターニングした後、膜質を向上させるためプレアニール処理を行った。プレアニールは、大気圧下にて、350℃で1時間行なった。
【0055】
次に、純Tiを使用し、リフトオフ法によりソース・ドレイン電極を形成した。具体的にはフォトレジストを用いてパターニングを行った後、Ti薄膜をDCスパッタリング法により成膜(膜厚は100nm)した。ソース・ドレイン電極用Ti薄膜の成膜方法は、前述したゲート電極の場合と同じである。次いで、アセトン中で超音波洗浄器にかけて不要なフォトレジストを除去し、TFTのチャネル長を10μm、チャネル幅を200μmとした。
【0056】
このようにしてソース・ドレイン電極を形成した後、酸化物半導体層を保護するための保護膜を形成した。保護膜として、SiO2(膜厚200nm)とSiN(膜厚200nm)の積層膜(合計膜厚400nm)を用いた。上記SiO2およびSiNの形成は、サムコ製「PD−220NL」を用い、プラズマCVD法を用いて行なった。本実施例では、N2Oガスによってプラズマ処理を行った後、SiO2、およびSiN膜を順次形成した。SiO2膜の形成にはN2OおよびSiH4の混合ガスを用い、SiN膜の形成にはSiH4、N2、NH3の混合ガスを用いた。いずれの場合も成膜パワーを100W、成膜温度を150℃とした。
【0057】
次にフォトリソグラフィ、およびドライエッチングにより、保護膜にトランジスタ特性評価用プロービングのためのコンタクトホールを形成した。次に、DCスパッタリング法を用い、キャリアガス:アルゴンおよび酸素ガスの混合ガス、成膜パワー:200W、ガス圧:5mTorrにてITO膜(膜厚80nm)を成膜し、図1のTFTを作製した。
【0058】
このようにして得られた各TFTについて、以下のようにして、保護膜形成前後における(1)トランジスタ特性(ドレイン電流−ゲート電圧特性、Id−Vg特性)、(2)しきい値電圧、および(3)S値を調べた。
【0059】
(1)トランジスタ特性の測定
トランジスタ特性の測定はNational Instruments社製「4156C」の半導体パラメータアナライザーを使用した。詳細な測定条件は以下のとおりである。本実施例では、Vg=30Vのときのオン電流(Ion)を算出した。
ソース電圧 :0V
ドレイン電圧:10V
ゲート電圧 :−30〜30V(測定間隔:1V)
【0060】
(2)しきい値電圧(Vth)
しきい値電圧とは、おおまかにいえば、トランジスタがオフ状態(ドレイン電流の低い状態)からオン状態(ドレイン電流の高い状態)に移行する際のゲート電圧の値である。本実施例では、ドレイン電流が、オン電流とオフ電流の間の1nA付近であるときの電圧をしきい値電圧と定義し、各TFT毎のしきい値電圧を測定した。
【0061】
(3)S値
S値は、ドレイン電流を一桁増加させるのに必要なゲート電圧の最小値とした。
【0062】
これらの結果を表1および表2に示す。表1には、保護膜形成前後のオン電流(Ion)、しきい値電圧およびS値の各値を記載した。本実施例では、Ion≧1×10-5A、−10V≦Vth≦10V、S≦1.0V/decの場合を各特性が良好であると判定した。表1および表2の最右欄には「判定」の欄を設け、保護膜形成前後の各特性がすべて良好なものに○を付け、いずれか一つの特性が良好でないものに「×」を付けた。以下の表および図において、「E−0X」とは、E×10-0Xを意味する。例えば2.E−04は、2×10-4の意味である。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表1および表2において、例えばZTO+Al(表1のNo.3)は、X群元素としてAlを含む例である。詳細には、酸化物中の金属がZnとSnとAlとから構成されており、[Zn]+[Sn]+[Al]に対する[Al]の原子比が0.04であり、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の原子比が0.70であることを意味する。同様に、表2のNo.25は、X群元素としてAlおよびLaを両方含む複合添加例(X=Al+La)であり、酸化物中の金属がZnとSnとAlとLaとから構成されている。詳細には、[Zn]+[Sn]+[Al]+[La]に対する[Al]の原子比が0.02であり、[Zn]+[Sn]+[Al]+[La]に対する[La]の原子比が0.02であり、且つ、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の原子比が0.70であることを意味する。
【0066】
また、図2〜11には、種々の酸化物を用いたときにおける、保護膜形成前後のドレイン電流−ゲート電圧特性(Id−Vg特性)の結果を示す。図2は、従来例のZTOを用いた結果であり、図3〜11は、本発明で規定するX群元素を含むZTO+Xを用いた結果である。各図において、(a)は保護膜形成前の結果を、(b)は保護膜形成後の結果をそれぞれ示している。図3〜図11には原子%の値を示しており、例えば図3は、X群元素としてAlを含み、酸化物中の金属がZnとSnとAlとから構成されている例であり、[Zn]+[Sn]+[Al]に対する[Al]の原子比が0.04であり、且つ、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の原子比が0.7であることを意味する。図4〜11も同様である。
【0067】
まず、従来例のZTOを用いた結果について考察する。
【0068】
保護膜形成前は、オン電流Ion、S値、およびしきい値電圧Vthはいずれも良好であったが、保護膜形成後は、しきい値の測定ができず、また、S値が増加または測定できなかった。また、図2をみると、保護膜形成前はゲート電圧Vgが−10V付近からドレイン電流Idが増加し始めており、スイッチング動作が見られた[図2(a)を参照]のに対し、保護膜形成後は、図2(b)に示すようにスイッチング動作が全く見られなかった。
【0069】
これに対し、本発明で規定するX群元素を含むZTO+X膜を用いた場合は、保護膜形成前後のいずれにおいても良好な特性が見られた(表1および表2、並びに図3〜11を参照)。また、表1および表2より、上記特性向上に寄与するX群元素の含有量の範囲は、X群元素の種類によって若干相違する傾向が見られることが分った。すなわち、X群元素がGa以外の場合、酸化物を構成する全金属元素中のX群元素の比率(原子比)が増加するにつれ、概して、Ionは低下し、S値およびVthは増加する傾向が見られたのに対し、X群元素がGaの場合、酸化物を構成する全金属元素中のGaの比率(原子比)が増加しても良好なTFT特性が維持される傾向にあり、IonおよびVthはいずれも殆ど変化せず、S値のみ僅かに増加する傾向が見られた。
【0070】
また、ZnおよびSnの合計量に対するZn量の比(原子比)は、上記比率が小さくなる程、TFT特性が低下する(Ionの増加、S値およびVthの減少)傾向が見られたが、本発明によれば、上記比率を約0.5〜0.8近傍と多くしても(すなわち、ZnO量の多い領域であっても)、良好なTFT特性が得られることが確認された。
【0071】
以上の実験結果より、本発明で規定するX群元素を所定量含む酸化物半導体を用いれば、保護膜形成前後で酸化物が導体化することなく、保護膜の形成によっても安定したTFT特性が得られることが確認された。また、ウェットエッチング加工も良好に行なわれたことから、X群元素を添加した酸化物は、アモルファス構造であると推察される。
【0072】
実施例2
本実施例では、表2に記載の種々の酸化物薄膜を用い、実施例1と同様にして作製した各TFTについて、以下のようにして、(4)ストレス印加前後におけるストレス耐性を評価した。
【0073】
(4)ストレス耐性の評価(ストレスとして光照射+負バイアスを印加)
本実施例では、実際のパネル駆動時の環境(ストレス)を模擬して、ゲート電極に負バイアスをかけながら光を照射するストレス印加試験を行った。ストレス印加条件は以下のとおりである。光の波長としては、酸化物半導体のバンドギャップに近く、トランジスタ特性が変動し易い400nm程度を選択した。
ゲート電圧:−20V
ドレイン電圧:10V
基板温度:60℃
光ストレス
波長:400nm
照度(TFTに照射される光の強度):80nW/cm2
光源:OPTOSUPPLY社製LED(NDフィルターによって光量を調整)
ストレス印加時間:1時間
【0074】
本実施例では、前述した実施例1と同様にして、(ア)ストレス印加前後のしきい値電圧(ドレイン電流が、オン電流とオフ電流の間の1nA付近であるときの電圧)の変化量(シフト量)、および(イ)トランジスタ特性[Vg=30Vのときのオン電流(Ion)]を測定した。
【0075】
これらの結果を表3および表4に示す。これらの表には、ストレス印加後のしきい値電圧シフト量、およびストレス印加前後におけるキャリア移動度の各値を記載した。キャリア移動度(電界効果移動度)は、以下の式を用いて飽和領域にて移動度を算出した。本実施例ではこのようにして得られる飽和移動度が、5cm2/Vs以上のものを合格とした。これらの表には、前述した実施例1で用いた酸化物薄膜と同じ組成のものも含まれており、表1および表2の「保護膜形成後」の各値は、表3および表4の「ストレス印加前」の各値に対応する。
【0076】
【数1】
【0077】
また、一部の例について、ストレス印加前後のドレイン電流−ゲート電圧特性(Id−Vg特性)の結果を図12〜21に示す。これらの図では、ストレス印加前の結果を点線で示し、ストレス印加後の結果を実線で示している。
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
まず、従来例のZTOを用いた結果(No.1、図18)について考察する。
【0081】
図18に示すように、ストレス印加前(図中、点線)では、ゲート電圧Vgが−3V付近からドレイン電流Idが増加し始めており、スイッチング動作が見られた。Vg=−30VのときのIdをオフ電流Ioff(A)、Vg=30VのときのIdをオン電流Ion(A)とすると、Ion/Ioffの比は8桁以上である。また、ストレス印加前のIonは1.0×10-3Aであった(表3を参照)。
【0082】
これに対し、ストレス印加後では、Ionは1.0×10-3Aであり(表3を参照)、これらの値はストレス印加前後で殆ど変化しなかったが、図18に示すようにしきい値電圧が大きく変化しており、0時間(ストレスなし)〜1時間(ストレス印加)におけるしきい値電圧シフト量は−9Vであった(表3を参照)。
【0083】
本実施例では、上記No.1の結果を基準とし、各結果がNo.1と同等かそれよりも小さいときを合格とした。
【0084】
表3中、No.2〜4(X群元素=Al)、6〜9(X群元素=Hf)、11〜17(X群元素=Ta)、18〜21(X群元素=Ti)、22〜25(X群元素=Nb)、26〜29(X群元素=Mg);表4中、No.1〜4(X群元素=Sc)、5〜8(X群元素=Y)、9〜11(X群元素=La)、12〜19(X群元素=Ga)、20〜22(X群元素=Al+Ta)、23(X群元素=Al+La)、24(X群元素=Al+Ga)、25(X群元素=Ta+Ga)、26(X群元素=Al+La)は、本発明で規定するX群元素を、好ましい所定範囲で含む酸化物半導体を用いた例であり、いずれもNo.1に比べ、しきい値電圧シフト量の絶対値が低くなっており、且つ、ストレス印加前後のIonも同等か小さくなっていた。
【0085】
なお、表3のNo.5(X群元素=Al)、10(X群元素=Hf)は、本発明で規定するX元素を、好ましい範囲で含まない酸化物半導体を用いた例であり、前述した実施例1に示すように、保護膜形成後のTFT特性は低下したが、ストレス印加前後のTFT特性自体は良好であった。
【0086】
このうち表3のNo.28(X群元素=Mg)、表3のNo.25(X群元素=Nb)、表4のNo.1(X群元素=Sc)、表3のNo.18(X群元素=Ti)、表3のNo.3(X群元素=Al)、表3のNo.6(X群元素=Hf)、表3のNo.12(X群元素=Ta)、表4のNo.17(X群元素=Ga)、表4のNo.6(X群元素=Y)のTFT特性の結果を、それぞれ図12〜17,19〜21に示す。
【0087】
以上の実験結果より、本発明で規定するX群元素を所定量含む酸化物半導体を用いれば、従来のZTOを用いたときと遜色のないTFT特性が得られることが確認された。また、ウエットエッチング加工も良好に行なわれたことから、X群元素を添加した酸化物は、アモルファス構造であると推察される。
【0088】
上記の実施例1および実施例2の結果より、本発明の酸化物を用いれば、保護膜形成後およびストレス印加後も良好なTFT特性が得られることが確認された。
【0089】
実施例3
本実施例では、表3のNo.3に対応する組成の酸化物(ZnSnO+3at%Al、[Zn]:[Sn]=6:4、Zn比=[Zn]/[Zn]+[Sn]=0.6、Al比=[Al]/[Zn]+[Sn]+[Al]=0.03)を用い、スパッタリング成膜時のガス圧を1mTorr、3mTorr、または5mTorrに制御して得られた酸化物膜(膜厚100nm)の密度を測定すると共に、前述した実施例2と同様にして作成したTFTについて、移動度およびストレス試験(光照射+負バイアスを印加)後のしきい値電圧の変化量(ΔVth)を調べた。膜密度の測定法方は以下のとおりである。
【0090】
(酸化物膜の密度の測定)
酸化物膜の密度は、XRR(X線反射率法)を用いて測定した。詳細な測定条件は以下のとおりである。
【0091】
・分析装置:(株)リガク製水平型X線回折装置SmartLab
・ターゲット:Cu(線源:Kα線)
・ターゲット出力:45kV−200mA
・測定試料の作製
ガラス基板上に各組成の酸化物を下記スパッタリング条件で成膜した(膜厚100nm)後、前述した実施例1のTFT製造過程におけるプレアニール処理を模擬して、当該プレアニール処理と同じ熱処理を施したしたものを使用
スパッタガス圧:1mTorr、3mTorrまたは5mTorr
酸素分圧:O2/(Ar+O2)=2%
成膜パワー密度:DC2.55W/cm2
熱処理:大気雰囲気にて350℃で1時間
【0092】
これらの結果を表5に示す。
【0093】
【表5】
【0094】
表5より、本発明で規定するX群元素のAlを含む表5の酸化物は、いずれも5.8g/cm3以上の高い密度が得られた。詳細には、ガス圧=5mTorrのとき(No.3)の膜密度は5.8g/cm3であったのに対し、ガス圧=3mTorrのとき(No.2)の膜密度は6.0g/cm3、ガス圧=1mTorrのとき(No.1)の膜密度は6.2g/cm3であり、ガス圧力が低くなるにつれ、より高い密度が得られた。また、膜密度の上昇に伴い、電界効果移動度が向上し、さらに、ストレス試験によるしきい値電圧シフト量ΔVthの絶対値も減少した。
【0095】
以上の実験結果より、酸化物膜の密度はスパッタリング成膜時のガス圧によって変化し、当該ガス圧を下げると膜密度が上昇し、これに伴って電界効果移動度も大きく増加し、ストレス試験(光照射+負バイアスストレス)におけるしきい値電圧シフト量ΔVthの絶対値も減少することが分かった。これは、スパッタリング成膜時のガス圧を低下させることにより、スパッタリングされた原子(分子)の動乱が抑えられ、膜中の欠陥が少なくなって移動度や電気伝導性が向上し、TFTの安定性が向上したためと推察される。
【符号の説明】
【0096】
1 基板
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁膜
4 酸化物半導体層
5 ソース・ドレイン電極
6 保護膜(絶縁膜)
7 コンタクトホール
8 透明導電膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置に用いられる薄膜トランジスタの半導体層用酸化物および上記酸化物を成膜するためのスパッタリングターゲット、並びに薄膜トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アモルファス(非晶質)酸化物半導体は、汎用のアモルファスシリコン(a−Si)に比べて高いキャリア移動度を有し、光学バンドギャップが大きく、低温で成膜できるため、大型・高解像度・高速駆動が要求される次世代ディスプレイや、耐熱性の低い樹脂基板などへの適用が期待されている。
【0003】
酸化物半導体の例として、例えばIn含有の非晶質酸化物半導体(In−Ga−Zn−O、In−Zn−Oなど)が挙げられるが、希少金属であるInを使用しており、大量生産プロセスにおいては材料コストの上昇が懸念される。そこで、Inを含まず材料コストを低減でき、大量生産に適した酸化物半導体として、ZnにSnを添加してアモルファス化したZTO系の酸化物半導体が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−142196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化物半導体を薄膜トランジスタの半導体層として用いる場合、キャリア濃度が高いだけでなく、TFTのスイッチング特性(トランジスタ特性、TFT特性)に優れていることが要求される。具体的には、(1)オン電流(ゲート電極とドレイン電極に正電圧をかけたときの最大ドレイン電流)が高く、(2)オフ電流(ゲート電極に負電圧を、ドレイン電圧に正電圧を夫々かけたときのドレイン電流)が低く、(3)S値(Subthreshold Swing、サブスレッショルド スィング、ドレイン電流を1桁あげるのに必要なゲート電圧)が低く、(4)しきい値(ドレイン電極に正電圧をかけ、ゲート電圧に正負いずれかの電圧をかけたときにドレイン電流が流れ始める電圧であり、しきい値電圧とも呼ばれる)が時間的に変化せず安定である(基板面内で均一であることを意味する)、などが要求される。
【0006】
更に、ZTOなどの酸化物半導体層を用いたTFTは、電圧印加や光照射などのストレスに対する耐性(ストレス耐性)に優れていることが要求される。例えば、ゲート電圧に正電圧または負電圧を印加し続けたときや、光吸収が始まる青色帯を照射し続けたときに、しきい値電圧が大幅に変化(シフト)するが、これにより、TFTのスイッチング特性が変化することが指摘されている。また、液晶パネル駆動の際や、ゲート電極に負バイアスをかけて画素を点灯させる際などに液晶セルから漏れた光がTFTに照射されるが、この光がTFTにストレスを与えて特性劣化の原因となる。特にしきい値電圧のシフトは、TFTを備えた液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置自体の信頼性低下を招くため、ストレス耐性の向上(ストレス印加前後の変化量が少ないこと)が切望されている。
【0007】
ところでZTO系酸化物半導体では、キャリア濃度が高濃度化し易く、TFT素子の保護膜(絶縁膜)形成プロセスの際、半導体層が導体化し、安定したスイッチング挙動が得られないという問題がある。安定したスイッチング挙動を得るためにZTO系酸化物半導体中のZnO濃度を低減する方法があるが、ZnO濃度をあまり下げすぎた場合はZTO系酸化物半導体のスパッタリングターゲットの導電率が低下し、装置構成が簡易で制御も容易なDCスパッタリング法で成膜することが難しくなる。よって、ZnO濃度をいかに高濃度に保つZTO系酸化物半導体の材料設計ができるかが重要である。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ZTO系酸化物半導体を備えた薄膜トランジスタのスイッチング特性およびストレス耐性に優れており、特にZnO濃度が高い領域であっても、また保護膜形成後およびストレス印加後も良好なTFT特性を安定して得ることが可能な薄膜トランジスタ半導体層用酸化物、当該酸化物を用いた薄膜トランジスタ、および当該酸化物の形成に用いられるスパッタリングターゲットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明に係る薄膜トランジスタの半導体層用酸化物は、ZnおよびSnを含み、Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を更に含むところに要旨を有するものである。
【0010】
本発明の好ましい実施形態において、半導体層用酸化物に含まれるZnおよびSnの含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]および[Sn]としたとき、[Zn]/([Zn]+[Sn])の比は0.8以下である。
【0011】
本発明の好ましい実施形態において、前記X群の元素としてGaを含むとき、半導体層用酸化物に含まれるGaの含有量(原子%)を[Ga]とすると、[Ga]/([Zn]+[Sn]+[Ga])の比は0.01以上0.5以下であり;前記X群の元素としてGa以外の元素(X1)を含むとき、半導体層用酸化物に含まれるX1の合計量(原子%)を[X1]とすると、[X1]/([Zn]+[Sn]+[X1])の比は0.01以上0.3以下である。
【0012】
本発明には、上記酸化物を薄膜トランジスタの半導体層として備えた薄膜トランジスタも包含される。
【0013】
上記半導体層の密度は5.8g/cm3以上であることが好ましい。
【0014】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、上記酸化物を形成するためのスパッタリングターゲットであって、ZnおよびSnを含み、Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を更に含むところに要旨を有するものである。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、スパッタリングターゲットに含まれるZnおよびSnの含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]および[Sn]としたとき、[Zn]/([Zn]+[Sn])の比は0.8以下である。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、前記X群の元素としてGaを含むとき、スパッタリングターゲットに含まれるGaの含有量(原子%)を[Ga]とすると、[Ga]/([Zn]+[Sn]+[Ga])の比は0.01以上0.5以下であり、前記X群の元素としてGa以外の元素(X1)を含むとき、スパッタリングターゲットに含まれるX1の合計量(原子%)を[X1]とすると、[X1]/([Zn]+[Sn]+[X1])の比は0.01以上0.3以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、薄膜トランジスタのスイッチング特性およびストレス耐性に優れた半導体層用ZTO系酸化物が得られた。本発明の半導体層用酸化物を用いれば、酸化物半導体中のZnO濃度が高い領域(具体的には、酸化物半導体を構成するZnおよびSn中に占めるZnの比率(原子比)がおおむね、0.6以上の領域)であっても、また保護膜形成後およびストレス印加後も良好な特性を安定して得ることが可能な薄膜トランジスタを提供することができる。その結果、上記薄膜トランジスタを用いれば、信頼性の高い表示装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、酸化物半導体を備えた薄膜トランジスタを説明するための概略断面図である。
【図2】図2は、ZTO(従来例)を用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図3】図3は、ZTO−Alを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図4】図4は、ZTO−Hfを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図5】図5は、ZTO−Taを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図6】図6は、ZTO−Tiを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図7】図7は、ZTO−Nbを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図8】図8は、ZTO−Mgを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図9】図9は、ZTO−Scを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図10】図10は、ZTO−Yを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図11】図11は、ZTO−Gaを用いたときの保護膜形成前後のTFT特性を示す図である。
【図12】図12は、ZTO−Mgを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図13】図13は、ZTO−Nbを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図14】図14は、ZTO−Scを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図15】図15は、ZTO−Tiを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図16】図16は、ZTO−Alを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図17】図17は、ZTO−Hfを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図18】図18は、ZTO(従来例)を用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図19】図19は、ZTO−Taを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図20】図20は、ZTO−Gaを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図21】図21は、ZTO−Yを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、ZnおよびSnを含む酸化物(ZTO)をTFTの活性層(半導体層)に用いたときのTFT特性(特に保護膜形成後およびストレス印加後のTFT特性)を向上させるため、種々検討を重ねてきた。その結果、ZTO中に、Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を更に含むZTO−XをTFTの半導体層に用いれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。後記する実施例に示すように、上記X群に属する元素(X群元素)を含む酸化物半導体を備えたTFTは、X群元素を添加しない従来のZTOを用いた場合に比べ、特に保護膜形成後およびストレス印加後のTFT特性に極めて優れていることが分った。
【0020】
すなわち、本発明に係る薄膜トランジスタ(TFT)の半導体層用酸化物は、ZnおよびSnと;Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなるX群から選択される少なくとも一種の元素(X群元素で代表させる場合がある。)と、を含むところに特徴がある。本明細書では、本発明の酸化物をZTO−XまたはZTO+Xで表わす場合がある。
【0021】
まず、本発明の酸化物を構成する母材成分である金属(ZnおよびSn)について説明する。
【0022】
上記金属(Zn、Sn)について、各金属間の比率は、これら金属を含む酸化物(ZTO)がアモルファス相を有し、且つ、半導体特性を示す範囲であれば特に限定されない。結晶相が形成されると、トランジスタ特性のバラツキが大きくなるなどの問題が生じる。
【0023】
ここで、半導体層用酸化物に含まれるZnおよびSnの含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]および[Sn]としたとき、[Zn]/([Zn]+[Sn])の好ましい比は0.8以下であり、これにより所望のTFT特性が得られる。一方、上記比が小さくなるとエッチング性が低下するなどの問題があるため、上記比を0.2以上とすることが好ましく、より好ましくは0.3以上である。
【0024】
本発明の酸化物は、ZTO中にX群元素を含んでいる。Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなる群(X群)から選択される少なくとも一種のX群元素をZTO中に添加することにより、Zn量が多い領域であってもZTO−Xが導体化することなく良好なTFT特性を安定して得ることができる。また、X群元素の添加によるウェットエッチング時のエッチング不良などの問題も見られないことを実験により確認している。これらは単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても良い。ここで「希土類元素」とは、ランタノイド元素(周期表において、原子番号57のLaから原子番号71のLuまでの合計15元素)に、Sc(スカンジウム)とY(イットリウム)とを加えた元素群を意味し、希土類元素は1種または2種以上を用いることができる。
【0025】
上記X群元素の添加による特性向上の詳細なメカニズムは不明であるが、X群元素は、酸化物半導体中で余剰電子の原因となる酸素欠損の発生抑制効果があると推察される。X群元素の添加により、酸素欠損が低減され、酸化物が安定な構造を有することによりZTO−X全体が導体化することを防止するものと考えられる。
【0026】
本発明の酸化物(ZTO−X)を構成する全金属(Zn、Sn、X群元素)に含まれるX群元素の好ましい比率[X/(Zn+Sn+X)]は、キャリア密度や半導体の安定性などを考慮して決定されるが、X群元素の種類によっても若干相違し、X群元素としてGaを含むときは、Gaを含まない場合に比べて上記比率の好ましい上限を大きくすることができる。具体的には、酸化物(ZTO−X)中に含まれるGaの含有量(原子%)を[Ga]とすると、[Ga]/([Zn]+[Sn]+[Ga])の好ましい比は0.01以上0.5以下であり、一方、前記X群の元素としてGa以外の元素(X1)を含むとき、酸化物中に含まれるX1の合計量(原子%)を[X1]とすると、[X1]/([Zn]+[Sn]+[X1])の好ましい比は0.01以上0.3以下である。より好ましくは0.25以下、さらに好ましくは0.2以下である。[X1]について、Ga以外のX群元素を2種以上含むときはこれらの合計量であり、Ga以外のX群元素を単独で含むときは単独の量である。[Ga]または[X1]の添加比率が少なすぎると、酸素欠損の発生抑制効果が十分に得られない。一方、[Ga]または[X1]の添加比率が多すぎると半導体中のキャリア密度の低下、または移動度が低下するため、オン電流が減少し易い。移動度の好ましい範囲は飽和領域にて3cm2/Vs以上であり、より好ましくは5cm2/Vs以上、さらに好ましくは7.5cm2/Vs以上である。
【0027】
上記X群元素の添加による特性向上の詳細なメカニズムは不明であるが、X群元素は、酸化物半導体中で余剰電子の原因となる酸素欠損の発生抑制効果があると推察される。X群元素の添加により、酸素欠損が低減され、酸化物が安定な構造を有することにより電圧や光などのストレスに対するストレス耐性などが向上するものと考えられる。
【0028】
以上、本発明の酸化物について説明した。
【0029】
上記酸化物は、スパッタリング法にてスパッタリングターゲット(以下「ターゲット」ということがある。)を用いて成膜することが好ましい。塗布法などの化学的成膜法によって酸化物を形成することもできるが、スパッタリング法によれば、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成することができる。
【0030】
スパッタリング法に用いられるターゲットとして、前述した元素を含み、ZnO、SnO2、X群元素−Oの各比率を適切に合成することで、所望の組成比の薄膜を形成することができる。具体的にはターゲットとして、ZnおよびSnと;Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物ターゲットを用いることができる。
【0031】
あるいは、組成の異なる二つのターゲットを同時放電するコスパッタ法(Co−Sputter法)を用いても成膜しても良く、これにより、同一基板面内にX元素の含有量が異なる酸化物半導体膜を成膜することができる。例えば後記する実施例に示すように、ZnOのターゲットと、ZTO(またはSnO2)のターゲットと、X群元素の酸化物からなるターゲットの三つを用意し、コスパッタ法によって所望とするZTO−Xの酸化物を成膜することができる。
【0032】
上記ターゲットは、例えば粉末焼結法によって製造することができる。
【0033】
上記ターゲットを用いてスパッタリングするに当たっては、基板温度を室温とし、酸素添加量を適切に制御して行なうことが好ましい。酸素添加量は、スパッタリング装置の構成やターゲット組成などに応じて適切に制御すれば良いが、おおむね、酸化物半導体のキャリア濃度が1015〜1016cm-3となるように酸素量を添加することが好ましい。本実施例における酸素添加量は添加流量比でO2/(Ar+O2)=2%とした。
【0034】
また、上記酸化物をTFTの半導体層としたときの、酸化物半導体層の好ましい密度は5.8g/cm3以上である(後述する。)が、このような酸化物を成膜するためには、スパッタリング成膜時のガス圧、スパッタリングターゲットへの投入パワー、基板温度などを適切に制御することが好ましい。例えば成膜時のガス圧を低くするとスパッタ原子同士の散乱がなくなって緻密(高密度)な膜を成膜できると考えられるため、成膜時の全ガス圧は、スパッタの放電が安定する程度で低い程良く、おおむね0.5〜5mTorrの範囲内に制御することが好ましく、1〜3mTorrの範囲内であることがより好ましい。また、投入パワーは高い程良く、おおむねDCまたはRFにて2.0W/cm2以上に設定することが推奨される。成膜時の基板温度も高い程良く、おおむね室温〜200℃の範囲内に制御することが推奨される。
【0035】
上記のようにして成膜される酸化物の好ましい膜厚は30nm以上200nm以下であり、より好ましくは30nm以上150nm以下である。
【0036】
本発明には、上記酸化物をTFTの半導体層として備えたTFTも包含される。TFTは、基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁膜、上記酸化物の半導体層、ソース電極、ドレイン電極、保護膜(絶縁膜)を少なくとも有していれば良く、その構成は通常用いられるものであれば特に限定されない。
【0037】
ここで、上記酸化物半導体層の密度は5.8g/cm3以上であることが好ましい。酸化物半導体層の密度が高くなると膜中の欠陥が減少して膜質が向上し、また原子間距離が小さくなるため、TFT素子の電界効果移動度が大きく増加し、電気伝導性も高くなり、光照射に対するストレスへの安定性が向上する。上記酸化物半導体層の密度は高い程良く、より好ましくは5.9g/cm3以上であり、更に好ましくは6.0g/cm3以上である。なお、酸化物半導体層の密度は、後記する実施例に記載の方法によって測定したものである。
【0038】
以下、図1を参照しながら、上記TFTの製造方法の実施形態を説明する。図1および以下の製造方法は、本発明の好ましい実施形態の一例を示すものであり、これに限定する趣旨ではない。例えば図1には、ボトムゲート型構造のTFTを示しているがこれに限定されず、酸化物半導体層の上にゲート絶縁膜とゲート電極を順に備えるトップゲート型のTFTであっても良い。
【0039】
図1に示すように、基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3が形成され、その上に酸化物半導体層4が形成されている。酸化物半導体層4上にはソース・ドレイン電極5が形成され、その上に保護膜(絶縁膜)6が形成され、コンタクトホール7を介して透明導電膜8がドレイン電極5に電気的に接続されている。
【0040】
基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3が形成する方法は特に限定されず、通常用いられる方法を採用することができる。また、ゲート電極2およびゲート絶縁膜3の種類も特に限定されず、汎用されているものを用いることができる。例えばゲート電極2として、電気抵抗率の低いAlやCuの金属、これらの合金を好ましく用いることができる。また、ゲート絶縁膜3としては、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜などが代表的に例示される。そのほか、Al2O3やY2O3などの酸化物や、これらを積層したものを用いることもできる。
【0041】
次いで酸化物半導体層4を形成する。酸化物半導体層4は、上述したように、薄膜と同組成のスパッタリングターゲットを用いたDCスパッタリング法またはRFスパッタリング法により成膜することが好ましい。あるいは、コスパッタ法により成膜しても良い。
【0042】
酸化物半導体層4をウェットエッチングした後、パターニングする。パターニングの直後に、酸化物半導体層4の膜質改善のために熱処理(プレアニール)を行うことが好ましく、これにより、トランジスタ特性のオン電流および電界効果移動度が上昇し、トランジスタ性能が向上するようになる。
【0043】
プレアニールの後、ソース・ドレイン電極5を形成する。ソース・ドレイン電極5の種類は特に限定されず、汎用されているものを用いることができる。例えばゲート電極2と同様AlやCuなどの金属または合金を用いても良いし、後記する実施例のように純Tiを用いても良い。
【0044】
ソース・ドレイン電極5の形成方法としては、例えばマグネトロンスパッタリング法によって金属薄膜を成膜した後、リフトオフ法によって形成することができる。あるいは、上記のようにリフトオフ法によって電極を形成するのではなく、予め所定の金属薄膜をスパッタリング法によって形成した後、パターニングによって電極を形成する方法もあるが、この方法では、電極のエッチングの際に酸化物半導体層にダメージが入るため、トランジスタ特性が低下する。そこで、このような問題を回避するために酸化物半導体層の上に予め保護膜を形成した後、電極を形成し、パターニングする方法も採用されており、後記する実施例では、この方法を採用した。
【0045】
次に、酸化物半導体層4の上に保護膜(絶縁膜)6をCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって成膜する。酸化物半導体層4の表面は、CVDによるプラズマダメージによって容易に導通化してしまう(おそらく酸化物半導体表面に生成される酸素欠損が電子ドナーとなるためと推察される。)ため、上記問題を回避するため、後記する実施例では、保護膜の成膜前にN2Oプラズマ照射を行った。N2Oプラズマの照射条件は、下記文献に記載の条件を採用した。
J. Parkら、Appl. Phys. Lett., 1993,053505(2008)。
【0046】
次に、常法に基づき、コンタクトホール7を介して透明導電膜8をドレイン電極5に電気的に接続する。透明導電膜およびドレイン電極の種類は特に限定されず、通常用いられるものを使用することができる。ドレイン電極としては、例えば前述したソース・ドレイン電極で例示したものを用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0048】
実施例1
前述した方法に基づき、図1に示す薄膜トランジスタ(TFT)を作製し、保護膜形成前後のTFT特性を評価した。
【0049】
まず、ガラス基板(コーニング社製イーグル2000、直径100mm×厚さ0.7mm)上に、ゲート電極としてTi薄膜を100nm、およびゲート絶縁膜SiO2(200nm)を順次成膜した。ゲート電極は純Tiのスパッタリングターゲットを使用し、DCスパッタ法により、成膜温度:室温、成膜パワー:300W、キャリアガス:Ar、ガス圧:2mTorrにて成膜した。また、ゲート絶縁膜はプラスマCVD法を用い、キャリアガス:SiH4とN2Oの混合ガス、成膜パワー:100W、成膜温度:300℃にて成膜した。
【0050】
次に、表1に記載の種々の組成の酸化物薄膜を、スパッタリングターゲット(後記する。)を用いてスパッタリング法によって成膜した。酸化物薄膜としては、ZTO中にX群元素を含むZTO−X(本発明例)のほか、比較のため、X群元素を含まないZTO(従来例)も成膜した。スパッタリングに使用した装置は(株)アルバック製「CS−200」であり、スパッタリング条件は以下のとおりである。
基板温度:室温
ガス圧:5mTorr
酸素分圧:O2/(Ar+O2)=2%
膜厚:50〜150nm
使用ターゲットサイズ:φ4インチ×5mm
【0051】
ZTO(従来例)の成膜に当たっては、Zn:Snの比(原子%比)が6:4である酸化物ターゲット(ZTO)とZnOのターゲットを同時放電するCo−Sputter法を用いて成膜した。また、ZTO中にX群元素を含む酸化物薄膜の成膜に当たっては、上記ZTOの成膜に用いたターゲット[すなわち、Zn:Snの比(原子%比)が6:4である酸化物ターゲット(ZTO)とZnOのターゲット]と、X群元素の酸化物ターゲットとを同時放電するCo−Sputter法を用いて成膜した。
【0052】
このようにして得られた酸化物薄膜中の金属元素の各含有量は、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)法によって分析した。詳細には、最表面から1nm程度深さまでの範囲をArイオンにてスパッタリングした後、下記条件にて分析を行なった。
X線源:Al Kα
X線出力:350W
光電子取り出し角:20°
【0053】
上記のようにして酸化物薄膜を成膜した後、フォトリソグラフィおよびウエットエッチングによりパターニングを行った。ウェットエッチャント液としては、関東科学製「ITO−07N」を使用した。本実施例では、実験を行なった酸化物薄膜について光学顕微鏡観察によりウェットエッチング性を評価した。評価結果より実験を行なった全ての組成でウエットエッチングによる残渣はなく、適切にエッチングできたことを確認している。
【0054】
酸化物半導体膜をパターニングした後、膜質を向上させるためプレアニール処理を行った。プレアニールは、大気圧下にて、350℃で1時間行なった。
【0055】
次に、純Tiを使用し、リフトオフ法によりソース・ドレイン電極を形成した。具体的にはフォトレジストを用いてパターニングを行った後、Ti薄膜をDCスパッタリング法により成膜(膜厚は100nm)した。ソース・ドレイン電極用Ti薄膜の成膜方法は、前述したゲート電極の場合と同じである。次いで、アセトン中で超音波洗浄器にかけて不要なフォトレジストを除去し、TFTのチャネル長を10μm、チャネル幅を200μmとした。
【0056】
このようにしてソース・ドレイン電極を形成した後、酸化物半導体層を保護するための保護膜を形成した。保護膜として、SiO2(膜厚200nm)とSiN(膜厚200nm)の積層膜(合計膜厚400nm)を用いた。上記SiO2およびSiNの形成は、サムコ製「PD−220NL」を用い、プラズマCVD法を用いて行なった。本実施例では、N2Oガスによってプラズマ処理を行った後、SiO2、およびSiN膜を順次形成した。SiO2膜の形成にはN2OおよびSiH4の混合ガスを用い、SiN膜の形成にはSiH4、N2、NH3の混合ガスを用いた。いずれの場合も成膜パワーを100W、成膜温度を150℃とした。
【0057】
次にフォトリソグラフィ、およびドライエッチングにより、保護膜にトランジスタ特性評価用プロービングのためのコンタクトホールを形成した。次に、DCスパッタリング法を用い、キャリアガス:アルゴンおよび酸素ガスの混合ガス、成膜パワー:200W、ガス圧:5mTorrにてITO膜(膜厚80nm)を成膜し、図1のTFTを作製した。
【0058】
このようにして得られた各TFTについて、以下のようにして、保護膜形成前後における(1)トランジスタ特性(ドレイン電流−ゲート電圧特性、Id−Vg特性)、(2)しきい値電圧、および(3)S値を調べた。
【0059】
(1)トランジスタ特性の測定
トランジスタ特性の測定はNational Instruments社製「4156C」の半導体パラメータアナライザーを使用した。詳細な測定条件は以下のとおりである。本実施例では、Vg=30Vのときのオン電流(Ion)を算出した。
ソース電圧 :0V
ドレイン電圧:10V
ゲート電圧 :−30〜30V(測定間隔:1V)
【0060】
(2)しきい値電圧(Vth)
しきい値電圧とは、おおまかにいえば、トランジスタがオフ状態(ドレイン電流の低い状態)からオン状態(ドレイン電流の高い状態)に移行する際のゲート電圧の値である。本実施例では、ドレイン電流が、オン電流とオフ電流の間の1nA付近であるときの電圧をしきい値電圧と定義し、各TFT毎のしきい値電圧を測定した。
【0061】
(3)S値
S値は、ドレイン電流を一桁増加させるのに必要なゲート電圧の最小値とした。
【0062】
これらの結果を表1および表2に示す。表1には、保護膜形成前後のオン電流(Ion)、しきい値電圧およびS値の各値を記載した。本実施例では、Ion≧1×10-5A、−10V≦Vth≦10V、S≦1.0V/decの場合を各特性が良好であると判定した。表1および表2の最右欄には「判定」の欄を設け、保護膜形成前後の各特性がすべて良好なものに○を付け、いずれか一つの特性が良好でないものに「×」を付けた。以下の表および図において、「E−0X」とは、E×10-0Xを意味する。例えば2.E−04は、2×10-4の意味である。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表1および表2において、例えばZTO+Al(表1のNo.3)は、X群元素としてAlを含む例である。詳細には、酸化物中の金属がZnとSnとAlとから構成されており、[Zn]+[Sn]+[Al]に対する[Al]の原子比が0.04であり、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の原子比が0.70であることを意味する。同様に、表2のNo.25は、X群元素としてAlおよびLaを両方含む複合添加例(X=Al+La)であり、酸化物中の金属がZnとSnとAlとLaとから構成されている。詳細には、[Zn]+[Sn]+[Al]+[La]に対する[Al]の原子比が0.02であり、[Zn]+[Sn]+[Al]+[La]に対する[La]の原子比が0.02であり、且つ、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の原子比が0.70であることを意味する。
【0066】
また、図2〜11には、種々の酸化物を用いたときにおける、保護膜形成前後のドレイン電流−ゲート電圧特性(Id−Vg特性)の結果を示す。図2は、従来例のZTOを用いた結果であり、図3〜11は、本発明で規定するX群元素を含むZTO+Xを用いた結果である。各図において、(a)は保護膜形成前の結果を、(b)は保護膜形成後の結果をそれぞれ示している。図3〜図11には原子%の値を示しており、例えば図3は、X群元素としてAlを含み、酸化物中の金属がZnとSnとAlとから構成されている例であり、[Zn]+[Sn]+[Al]に対する[Al]の原子比が0.04であり、且つ、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の原子比が0.7であることを意味する。図4〜11も同様である。
【0067】
まず、従来例のZTOを用いた結果について考察する。
【0068】
保護膜形成前は、オン電流Ion、S値、およびしきい値電圧Vthはいずれも良好であったが、保護膜形成後は、しきい値の測定ができず、また、S値が増加または測定できなかった。また、図2をみると、保護膜形成前はゲート電圧Vgが−10V付近からドレイン電流Idが増加し始めており、スイッチング動作が見られた[図2(a)を参照]のに対し、保護膜形成後は、図2(b)に示すようにスイッチング動作が全く見られなかった。
【0069】
これに対し、本発明で規定するX群元素を含むZTO+X膜を用いた場合は、保護膜形成前後のいずれにおいても良好な特性が見られた(表1および表2、並びに図3〜11を参照)。また、表1および表2より、上記特性向上に寄与するX群元素の含有量の範囲は、X群元素の種類によって若干相違する傾向が見られることが分った。すなわち、X群元素がGa以外の場合、酸化物を構成する全金属元素中のX群元素の比率(原子比)が増加するにつれ、概して、Ionは低下し、S値およびVthは増加する傾向が見られたのに対し、X群元素がGaの場合、酸化物を構成する全金属元素中のGaの比率(原子比)が増加しても良好なTFT特性が維持される傾向にあり、IonおよびVthはいずれも殆ど変化せず、S値のみ僅かに増加する傾向が見られた。
【0070】
また、ZnおよびSnの合計量に対するZn量の比(原子比)は、上記比率が小さくなる程、TFT特性が低下する(Ionの増加、S値およびVthの減少)傾向が見られたが、本発明によれば、上記比率を約0.5〜0.8近傍と多くしても(すなわち、ZnO量の多い領域であっても)、良好なTFT特性が得られることが確認された。
【0071】
以上の実験結果より、本発明で規定するX群元素を所定量含む酸化物半導体を用いれば、保護膜形成前後で酸化物が導体化することなく、保護膜の形成によっても安定したTFT特性が得られることが確認された。また、ウェットエッチング加工も良好に行なわれたことから、X群元素を添加した酸化物は、アモルファス構造であると推察される。
【0072】
実施例2
本実施例では、表2に記載の種々の酸化物薄膜を用い、実施例1と同様にして作製した各TFTについて、以下のようにして、(4)ストレス印加前後におけるストレス耐性を評価した。
【0073】
(4)ストレス耐性の評価(ストレスとして光照射+負バイアスを印加)
本実施例では、実際のパネル駆動時の環境(ストレス)を模擬して、ゲート電極に負バイアスをかけながら光を照射するストレス印加試験を行った。ストレス印加条件は以下のとおりである。光の波長としては、酸化物半導体のバンドギャップに近く、トランジスタ特性が変動し易い400nm程度を選択した。
ゲート電圧:−20V
ドレイン電圧:10V
基板温度:60℃
光ストレス
波長:400nm
照度(TFTに照射される光の強度):80nW/cm2
光源:OPTOSUPPLY社製LED(NDフィルターによって光量を調整)
ストレス印加時間:1時間
【0074】
本実施例では、前述した実施例1と同様にして、(ア)ストレス印加前後のしきい値電圧(ドレイン電流が、オン電流とオフ電流の間の1nA付近であるときの電圧)の変化量(シフト量)、および(イ)トランジスタ特性[Vg=30Vのときのオン電流(Ion)]を測定した。
【0075】
これらの結果を表3および表4に示す。これらの表には、ストレス印加後のしきい値電圧シフト量、およびストレス印加前後におけるキャリア移動度の各値を記載した。キャリア移動度(電界効果移動度)は、以下の式を用いて飽和領域にて移動度を算出した。本実施例ではこのようにして得られる飽和移動度が、5cm2/Vs以上のものを合格とした。これらの表には、前述した実施例1で用いた酸化物薄膜と同じ組成のものも含まれており、表1および表2の「保護膜形成後」の各値は、表3および表4の「ストレス印加前」の各値に対応する。
【0076】
【数1】
【0077】
また、一部の例について、ストレス印加前後のドレイン電流−ゲート電圧特性(Id−Vg特性)の結果を図12〜21に示す。これらの図では、ストレス印加前の結果を点線で示し、ストレス印加後の結果を実線で示している。
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
まず、従来例のZTOを用いた結果(No.1、図18)について考察する。
【0081】
図18に示すように、ストレス印加前(図中、点線)では、ゲート電圧Vgが−3V付近からドレイン電流Idが増加し始めており、スイッチング動作が見られた。Vg=−30VのときのIdをオフ電流Ioff(A)、Vg=30VのときのIdをオン電流Ion(A)とすると、Ion/Ioffの比は8桁以上である。また、ストレス印加前のIonは1.0×10-3Aであった(表3を参照)。
【0082】
これに対し、ストレス印加後では、Ionは1.0×10-3Aであり(表3を参照)、これらの値はストレス印加前後で殆ど変化しなかったが、図18に示すようにしきい値電圧が大きく変化しており、0時間(ストレスなし)〜1時間(ストレス印加)におけるしきい値電圧シフト量は−9Vであった(表3を参照)。
【0083】
本実施例では、上記No.1の結果を基準とし、各結果がNo.1と同等かそれよりも小さいときを合格とした。
【0084】
表3中、No.2〜4(X群元素=Al)、6〜9(X群元素=Hf)、11〜17(X群元素=Ta)、18〜21(X群元素=Ti)、22〜25(X群元素=Nb)、26〜29(X群元素=Mg);表4中、No.1〜4(X群元素=Sc)、5〜8(X群元素=Y)、9〜11(X群元素=La)、12〜19(X群元素=Ga)、20〜22(X群元素=Al+Ta)、23(X群元素=Al+La)、24(X群元素=Al+Ga)、25(X群元素=Ta+Ga)、26(X群元素=Al+La)は、本発明で規定するX群元素を、好ましい所定範囲で含む酸化物半導体を用いた例であり、いずれもNo.1に比べ、しきい値電圧シフト量の絶対値が低くなっており、且つ、ストレス印加前後のIonも同等か小さくなっていた。
【0085】
なお、表3のNo.5(X群元素=Al)、10(X群元素=Hf)は、本発明で規定するX元素を、好ましい範囲で含まない酸化物半導体を用いた例であり、前述した実施例1に示すように、保護膜形成後のTFT特性は低下したが、ストレス印加前後のTFT特性自体は良好であった。
【0086】
このうち表3のNo.28(X群元素=Mg)、表3のNo.25(X群元素=Nb)、表4のNo.1(X群元素=Sc)、表3のNo.18(X群元素=Ti)、表3のNo.3(X群元素=Al)、表3のNo.6(X群元素=Hf)、表3のNo.12(X群元素=Ta)、表4のNo.17(X群元素=Ga)、表4のNo.6(X群元素=Y)のTFT特性の結果を、それぞれ図12〜17,19〜21に示す。
【0087】
以上の実験結果より、本発明で規定するX群元素を所定量含む酸化物半導体を用いれば、従来のZTOを用いたときと遜色のないTFT特性が得られることが確認された。また、ウエットエッチング加工も良好に行なわれたことから、X群元素を添加した酸化物は、アモルファス構造であると推察される。
【0088】
上記の実施例1および実施例2の結果より、本発明の酸化物を用いれば、保護膜形成後およびストレス印加後も良好なTFT特性が得られることが確認された。
【0089】
実施例3
本実施例では、表3のNo.3に対応する組成の酸化物(ZnSnO+3at%Al、[Zn]:[Sn]=6:4、Zn比=[Zn]/[Zn]+[Sn]=0.6、Al比=[Al]/[Zn]+[Sn]+[Al]=0.03)を用い、スパッタリング成膜時のガス圧を1mTorr、3mTorr、または5mTorrに制御して得られた酸化物膜(膜厚100nm)の密度を測定すると共に、前述した実施例2と同様にして作成したTFTについて、移動度およびストレス試験(光照射+負バイアスを印加)後のしきい値電圧の変化量(ΔVth)を調べた。膜密度の測定法方は以下のとおりである。
【0090】
(酸化物膜の密度の測定)
酸化物膜の密度は、XRR(X線反射率法)を用いて測定した。詳細な測定条件は以下のとおりである。
【0091】
・分析装置:(株)リガク製水平型X線回折装置SmartLab
・ターゲット:Cu(線源:Kα線)
・ターゲット出力:45kV−200mA
・測定試料の作製
ガラス基板上に各組成の酸化物を下記スパッタリング条件で成膜した(膜厚100nm)後、前述した実施例1のTFT製造過程におけるプレアニール処理を模擬して、当該プレアニール処理と同じ熱処理を施したしたものを使用
スパッタガス圧:1mTorr、3mTorrまたは5mTorr
酸素分圧:O2/(Ar+O2)=2%
成膜パワー密度:DC2.55W/cm2
熱処理:大気雰囲気にて350℃で1時間
【0092】
これらの結果を表5に示す。
【0093】
【表5】
【0094】
表5より、本発明で規定するX群元素のAlを含む表5の酸化物は、いずれも5.8g/cm3以上の高い密度が得られた。詳細には、ガス圧=5mTorrのとき(No.3)の膜密度は5.8g/cm3であったのに対し、ガス圧=3mTorrのとき(No.2)の膜密度は6.0g/cm3、ガス圧=1mTorrのとき(No.1)の膜密度は6.2g/cm3であり、ガス圧力が低くなるにつれ、より高い密度が得られた。また、膜密度の上昇に伴い、電界効果移動度が向上し、さらに、ストレス試験によるしきい値電圧シフト量ΔVthの絶対値も減少した。
【0095】
以上の実験結果より、酸化物膜の密度はスパッタリング成膜時のガス圧によって変化し、当該ガス圧を下げると膜密度が上昇し、これに伴って電界効果移動度も大きく増加し、ストレス試験(光照射+負バイアスストレス)におけるしきい値電圧シフト量ΔVthの絶対値も減少することが分かった。これは、スパッタリング成膜時のガス圧を低下させることにより、スパッタリングされた原子(分子)の動乱が抑えられ、膜中の欠陥が少なくなって移動度や電気伝導性が向上し、TFTの安定性が向上したためと推察される。
【符号の説明】
【0096】
1 基板
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁膜
4 酸化物半導体層
5 ソース・ドレイン電極
6 保護膜(絶縁膜)
7 コンタクトホール
8 透明導電膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜トランジスタの半導体層に用いられる酸化物であって、
前記酸化物は、ZnおよびSnを含み、Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を更に含むことを特徴とする薄膜トランジスタの半導体層用酸化物。
【請求項2】
半導体層用酸化物に含まれるZnおよびSnの含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]および[Sn]としたとき、[Zn]/([Zn]+[Sn])の比は0.8以下である請求項1に記載の酸化物。
【請求項3】
前記X群の元素としてGaを含むとき、半導体層用酸化物に含まれるGaの含有量(原子%)を[Ga]とすると、[Ga]/([Zn]+[Sn]+[Ga])の比は0.01以上0.5以下であり、
前記X群の元素としてGa以外の元素(X1)を含むとき、半導体層用酸化物に含まれるX1の合計量(原子%)を[X1]とすると、[X1]/([Zn]+[Sn]+[X1])の比は0.01以上0.3以下である請求項1または2に記載の酸化物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物を薄膜トランジスタの半導体層として備えた薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記半導体層の密度は5.8g/cm3以上である請求項4に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物を形成するためのスパッタリングターゲットであって、ZnおよびSnを含み、Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を更に含むことを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項7】
スパッタリングターゲットに含まれるZnおよびSnの含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]および[Sn]としたとき、[Zn]/([Zn]+[Sn])の比は0.8以下である請求項6に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記X群の元素としてGaを含むとき、スパッタリングターゲットに含まれるGaの含有量(原子%)を[Ga]とすると、[Ga]/([Zn]+[Sn]+[Ga])の比は0.01以上0.5以下であり、
前記X群の元素としてGa以外の元素(X1)を含むとき、スパッタリングターゲットに含まれるX1の合計量(原子%)を[X1]とすると、[X1]/([Zn]+[Sn]+[X1])の比は0.01以上0.3以下である請求項6または7に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項1】
薄膜トランジスタの半導体層に用いられる酸化物であって、
前記酸化物は、ZnおよびSnを含み、Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を更に含むことを特徴とする薄膜トランジスタの半導体層用酸化物。
【請求項2】
半導体層用酸化物に含まれるZnおよびSnの含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]および[Sn]としたとき、[Zn]/([Zn]+[Sn])の比は0.8以下である請求項1に記載の酸化物。
【請求項3】
前記X群の元素としてGaを含むとき、半導体層用酸化物に含まれるGaの含有量(原子%)を[Ga]とすると、[Ga]/([Zn]+[Sn]+[Ga])の比は0.01以上0.5以下であり、
前記X群の元素としてGa以外の元素(X1)を含むとき、半導体層用酸化物に含まれるX1の合計量(原子%)を[X1]とすると、[X1]/([Zn]+[Sn]+[X1])の比は0.01以上0.3以下である請求項1または2に記載の酸化物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物を薄膜トランジスタの半導体層として備えた薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記半導体層の密度は5.8g/cm3以上である請求項4に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物を形成するためのスパッタリングターゲットであって、ZnおよびSnを含み、Al、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Ga、および希土類元素よりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を更に含むことを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項7】
スパッタリングターゲットに含まれるZnおよびSnの含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]および[Sn]としたとき、[Zn]/([Zn]+[Sn])の比は0.8以下である請求項6に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記X群の元素としてGaを含むとき、スパッタリングターゲットに含まれるGaの含有量(原子%)を[Ga]とすると、[Ga]/([Zn]+[Sn]+[Ga])の比は0.01以上0.5以下であり、
前記X群の元素としてGa以外の元素(X1)を含むとき、スパッタリングターゲットに含まれるX1の合計量(原子%)を[X1]とすると、[X1]/([Zn]+[Sn]+[X1])の比は0.01以上0.3以下である請求項6または7に記載のスパッタリングターゲット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−33854(P2012−33854A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8324(P2011−8324)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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