説明

薄膜式半導体センサの製造方法及び薄膜式半導体センサ

【課題】メンブレンの機械強度がより向上した薄膜式半導体センサを製造することのできる薄膜式半導体センサの製造方法及び薄膜式半導体センサを提供する。
【解決手段】準備工程にて準備された半導体基板10の上表面12に熱酸化膜30を形成するストッパ膜形成工程、エッチングマスク形成工程にて形成されたエッチングマスク20を用いて半導体基板10を下表面11側からエッチングし凹部30bを形成する第1エッチング工程、及び、半導体基板10と熱酸化膜30とのエッチングレート比が「2:1」に設定されたエッチング液及びエッチングマスク20を用いて半導体基板10及び熱酸化膜30をエッチングすることで、熱酸化膜30における凹部30b側の平坦面30cの端部Tを、半導体基板10の下表面11側に向けて一定の勾配で傾斜した側面断面視テーパ状に形成し、この熱酸化膜30をメンブレン30aとする第2エッチング工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜式半導体センサの製造方法及び薄膜式半導体センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載の薄膜式半導体センサが知られている。この文献に記載の技術では、例えば単結晶シリコンからなる半導体基板と、この半導体基板の下表面から上表面側に向けて形成された凹部と、半導体基板の上表面(凹部の底面側)に形成された平面視矩形状のメンブレンと、メンブレンの輪郭を横断するように形成された膜状の配線リードとを備えている。このうち、配線リードは、メンブレンの輪郭の各頂点近傍において、メンブレンの輪郭をまたぐように形成されている。これにより、例えば配線リードの凹凸構造に起因してメンブレンに発生する応力が増大することを抑制することができるようになる。すなわち、メンブレンの機械強度の向上が図られている。
【0003】
しかしながら、この特許文献1に記載の技術では、配線リードの配置に関する工夫によりメンブレンの機械強度の向上が図られているものの、メンブレンにおける凹部側の平坦面の端部は角部として形成されている。こうした角部には応力集中が発生しやすく、せっかく高めた機械強度が低下してしまっている。
【0004】
これに対し、例えば特許文献2あるいは特許文献3に記載の技術では、例えば等方性エッチングを通じて、メンブレンにおける凹部側の平坦面の端部の角部が丸められ、該端部はアール部として形成されている。そのため、こうした技術を上記特許文献1に記載の技術と組み合わせることで、メンブレンの機械強度の向上を図ることができるようになると思われる。
【特許文献1】特開平2003−65819号公報
【特許文献2】特開11−97413号公報
【特許文献3】特開平2001−356061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、メンブレンにおける凹部側の平坦面の端部を丸めるべく等方性エッチングを単純に行うと、次のような事態が生じることもある。すなわち、上記等方性エッチングを行うにあたり、通常、例えば半導体基板の上表面側の表層部を熱酸化して形成される熱酸化膜(SiO2)を等方性エッチングのストッパ膜として使用する。このとき、半導体基板のエッチングレートよりも熱酸化膜のエッチングレートの方が大きいと、半導体基板のうちの単結晶シリコン(Si)にて構成されている基板部分が単位時間当たりにエッチングされる量よりも、熱酸化膜部分が単位時間当たりにエッチングされる量の方が多くなるため、半導体基板のうちの基板部分と熱酸化膜部分との境界に窪みが生じて、エッチング液がこの窪みに入り込み、特に酸化膜をエッチングしてしまうことがある。こうなると、この窪みにおけるエッチングがより進行してしまい、メンブレンにおける凹部側の平坦面の端部を精度良くアール部として形成することができなくなってしまう。そしてひいては、メンブレンの機械強度の向上を図るどころか、逆にメンブレンの機械強度の低下を招きかねない。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、メンブレンの機械強度がより向上した薄膜式半導体センサを製造することのできる薄膜式半導体センサの製造方法及び薄膜式半導体センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
こうした目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、半導体基板と、この半導体基板の下表面から上表面側に向けて形成された凹部と、前記凹部の底面側に形成されたメンブレンと、前記メンブレンを通じて物理量の変化を検出する検出部とを備える薄膜式半導体センサを製造する方法として、前記半導体基板を準備する準備工程と、前記準備工程にて準備された半導体基板の上表面に所定膜厚のストッパ膜を形成するストッパ膜形成工程と、開口を有するエッチングマスクを前記半導体基板の下表面に形成するエッチングマスク形成工程と、前記エッチングマスクを用いて前記半導体基板を下表面側からエッチングすることで、前記半導体基板の下表面から前記ストッパ膜の下表面に到達する凹部を前記半導体基板に形成する第1エッチング工程と、前記ストッパ膜のエッチングレートよりも前記半導体基板のエッチングレートの方が大きく設定されたエッチング液及び前記エッチングマスクを用いて前記半導体基板及び前記ストッパ膜をエッチングすることで、前記ストッパ膜における前記凹部側の平坦面の端部を、前記半導体基板の下表面側に向けて一定の勾配で傾斜した側面断面視テーパ状に形成し、このストッパ膜を前記メンブレンとする第2エッチング工程とを備えることとした。
【0008】
薄膜式半導体センサの製造方法としてのこのような方法では、第2エッチング工程において、ストッパ膜のエッチングレートよりも半導体基板のエッチングレートの方が大きく設定されたエッチング液を用いる。すなわち、エッチング液によって半導体基板がエッチングされる速度の方が、エッチング液によってストッパ膜がエッチングされる速度よりも大きい。換言すれば、単位時間当たりに半導体基板がエッチングされる量よりも、単位時間当たりにストッパ膜がエッチングされる量の方が多くなる。そのため、単位時間当たりにストッパ膜がエッチングされる量の方が単位時間当たりに半導体基板がエッチングされる量よりも多いことに起因して生じると考えられる、課題の欄に記載したような、半導体基板とストッパ膜との境界に窪みが生じて、この窪みにエッチング液が入り込むようなことはなくなるようになる。また、そうしたエッチング液を用いることで、ストッパ膜における凹部側の平坦面の端部を、半導体基板の下表面側に向けて一定の勾配で傾斜した側面断面視テーパ状に形成することが発明者らによって確認されており、こうした構造を有するストッパ膜をメンブレンとして使用することができる。これにより、背景技術の欄に記載した、メンブレンにおける凹部側の平坦面の端部が角部として形成された薄膜式半導体センサよりも、メンブレンの機械強度がより向上した薄膜式半導体センサを製造することができるようになる。さらに、そうした角部が丸められアール部として形成された薄膜式半導体センサを製造するよりも容易に、上記薄膜式半導体センサを製造することができるようになる。なお、こうした製造方法を用いることで、請求項5に記載の薄膜式半導体センサを製造することができるようになる。
【0009】
上記請求項1に記載の方法において、例えば請求項2に記載の発明のように、前記第2エッチング工程では、前記半導体基板のエッチングレートと前記ストッパ膜のエッチングレートとの比が「2:1」に設定されたエッチング液を用いることが望ましい。具体的には、上記請求項2に記載の方法において、例えば請求項3に記載の発明のように、前記第2エッチング工程では、重量パーセント濃度が「32%」の水酸化カリウム溶液を「82度」に設定したエッチング液を通じて異方性エッチングを行うことが望ましい。これにより、単位時間当たりに半導体基板がエッチングされる量と単位時間当たりにストッパ膜がエッチングされる量との比を略「2:1」に設定することができるようになる。したがって、こうした製造方法を用いることにより、請求項6に記載の薄膜式半導体センサを製造することができるようになる。
【0010】
また、上記請求項1〜3のいずれかに記載の方法において、例えば請求項4に記載の発明のように、前記準備工程では、単結晶シリコンにて形成された半導体基板を準備し、前記ストッパ膜形成工程では、前記半導体基板の上表面を熱酸化した熱酸化膜にて前記ストッパ膜を形成することとしてもよい。こうした製造方法を用いることにより、請求項7に記載の薄膜式半導体センサを製造することができるようになる。
【0011】
一方、上記目的を達成するため、請求項5に記載の発明では、半導体基板と、この半導体基板の下表面から上表面側に向けて形成された凹部と、前記半導体基板の一部として前記凹部の底面側に形成されたメンブレンと、前記メンブレンを通じて物理量の変化を検出する検出部とを備える薄膜式半導体センサとして、前記メンブレンにおける前記凹部側の平坦面の端部は、前記半導体基板の下表面側に向けて一定の勾配で傾斜した側面断面視テーパ状に形成されていることとした。これにより、背景技術の欄に記載したように、メンブレンにおける凹部側の平坦面の端部が角部として形成された薄膜式半導体センサよりも、メンブレンの機械強度が向上するようになる。なお、上述したように、こうした構造を有する薄膜式半導体センサは、上記請求項1に記載の方法によって製造される。
【0012】
具体的には、上記請求項5に記載の構造において、例えば請求項6に記載の発明のように、前記端部の勾配は、前記平坦面に平行な方向と垂直な方向との比が略「2:1」に形成されていることが望ましい。これも上述したように、こうした構造を有する薄膜式半導体センサは、上記請求項2または3に記載の方法によって製造される。
【0013】
また、上記請求項5または6に記載の構造において、例えば請求項7に記載の発明のように、前記半導体基板は単結晶シリコンにて形成されており、前記メンブレンは、この半導体基板が熱酸化された熱酸化膜にて形成されていることが好ましい。また、これも上述したように、こうした構造を有する薄膜式半導体センサは、上記請求項4に記載の方法によって製造される。
【0014】
なお、例えば請求項8に記載の発明のように、前記検出部として前記メンブレン上に配線回路を配設し、この配線回路の少なくとも一部を加熱すれば、流体の流量を検出するフローセンサとして当該薄膜式半導体センサを用いることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る薄膜式半導体センサ及びその製造方法の一実施の形態について、図1〜図6を参照しつつ説明する。なお、図1及び図2は、本実施の形態の薄膜式半導体センサの平面構造及び側面断面構造の一例をそれぞれ示す平面図及び側面断面図である。まず、これら図1及び図2を併せ参照しつつ、本実施の形態の薄膜式半導体センサの構造及び動作について説明する。
【0016】
本実施の形態の薄膜式半導体センサは、例えば図示しない車両の吸気管に配設され、空気の流量を計測するエアフローメータとして具体化されている。図1及び図2に示されるように、半導体基板10は、例えば単結晶シリコン(Si)から構成されており、半導体基板10の下表面11には、後述するエッチングマスク形成工程を通じて、所定の位置に開口21を有するエッチングマスク20が形成されているとともに、後述する第1エッチング工程を通じて、半導体基板10の下表面11から上表面12側に向けた凹部30bが形成されている。一方、半導体基板10の上表面12には、後述するストッパ膜形成工程を通じて、半導体基板10の上表面12側の表層部が熱酸化された熱酸化膜30がストッパ膜として形成されている。さらに、この熱酸化膜30の上表面32には、後述する検出部形成工程を通じて、検出部としての薄膜抵抗体(41a及び41b)及びパッド42並びに絶縁膜43が形成されている。
【0017】
詳しくは、図1に示すように、半導体基板10の上表面12には、正確には、熱酸化膜30の上表面32には、例えば白金やポリシリコン(Poly−Si)等を用い、スパッタリング法や蒸着法等を通じて薄膜抵抗体41が形成されており、薄膜抵抗体41の一部は、凹部30bに位置するようにパターニングされている。ちなみに、薄膜抵抗体41は、図1中の上方側に位置し、ヒータとして機能するヒータ部41aと、図1中の下方側に位置し、温度検出素子として機能する温度検出部41bとから構成されている。このうち、ヒータ部41aは、温度検出部41bを加熱するために形成されており、温度検出部41bは、その電気抵抗値が周囲の温度変化に伴って変化する。また、図1に示されるように、ヒータ部41a及び温度検出部41bは、凹部30bから半導体基板10の周辺部に延伸しており、この周辺部において、例えばアルミニウム(Al)等からなるパッド42に電気的に接続されている。このパッド42は、図示しないボンディングワイヤを通じて同じく図示しない検出回路とワイヤボンディングされる部位である。これらパッド42及び検出回路がボンディングワイヤされることにより、互いに電気的に接続されることになる。また、図2に示すように、上記温度検出部41bにおける温度検出精度を向上するべく、熱酸化膜30の一部が薄肉化されてメンブレン30aが形成されている。なお、このメンブレン30aの構造については、後述する。そして、図2に示すように、これら薄膜抵抗体41(ヒータ部41a及び温度検出部41b)やパッド42を覆うように、例えばシリコン窒化膜(SiN)等を用いて、例えばスパッタリング法や蒸着法を通じて、絶縁膜43が成膜されている。
【0018】
以上説明した構造を有するエアフローメータS1を通じて、空気流量を検出するに際し、例えば図1中の白抜き矢印Y方向から空気が流れてくるとする。ここで、上述したように、温度検出部41bは、ヒータ部41aによって加熱され、空気温度よりも高い温度となっている。そして、空気が流れることにより、温度検出部41bは熱を奪われて温度が下がり、薄膜抵抗体41の電気抵抗値が変動する。そして、上記検出回路によって、この電気抵抗の変動から温度を検出し、検出された温度変化の差に基づいて流量検出を行う。なお、本実施の形態では、薄膜抵抗体41のうち、図1中の上側に位置する薄膜抵抗体をヒータ部41aとして機能させ、図1中の下側に位置する薄膜抵抗体を温度検出部41bとして機能させていたが、これに限らない。これら薄膜抵抗体41を双方とも温度検出部として機能させることとしてもよい。そうした場合にあっては、2つの薄膜抵抗体間の温度差から、流体である空気の流量や流れる方向を検出することができるようになる。なお、こうした検出動作については、通常知られたエアフローメータにおいても同様に行われているため、ここでのこれ以上の詳しい説明を割愛する。
【0019】
ところで、背景技術及び課題の欄に記載したように、角部として形成されることが多かった、メンブレンにおける凹部側の平坦面の端部は、アール部として形成されることで、こうした角部に集中しやすい応力を緩和し、メンブレンの機械強度の向上が図られている。
【0020】
しかしながら、メンブレンにおける凹部側の平坦面の端部を丸めるべく等方性エッチングを単純に行うと、次のような事態が生じることもある。詳しくは、上記等方性エッチングを行うにあたり、通常、例えば半導体基板の上表面側の表層部を熱酸化して形成される熱酸化膜(SiO2)が等方性エッチングのストッパ膜として使用される。このとき、半導体基板10よりも熱酸化膜30のエッチングレートの方が大きいと、すなわち、エッチング選択比が大きいと、図3(a)に示すように、半導体基板10が単位時間当たりにエッチングされる量よりも、熱酸化膜30が単位時間当たりにエッチングされる量の方が多くなる。そのため、半導体基板10と熱酸化膜30との境界(半導体基板の上表面12)に窪みが生じて、エッチング液がこの窪みに入り込み、特に熱酸化膜30をエッチングしてしまうことがある。こうなると、この窪みにおけるエッチングがより進行してしまい、例えば図3(b)に示すような、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面30cの端部をきれいなアール部として形成することができなくなってしまう。そしてこの場合、窪みが奥まで進行したことに起因して応力が集中しやすくなり、メンブレン30aの機械強度の向上を図るどころか、逆に、メンブレン30aの機械強度の低下を招きかねない。
【0021】
そこで、本実施の形態では、図4に、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面30cの端部Tを拡大して示すように、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面の端部Tを、半導体基板10の下表面11側に向けて一定の勾配で傾斜した側面断面視テーパ状に形成することとした。具体的には、図4に示すように、端部Tは、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面30cに平行な方向の長さL1と垂直な方向の長さL2との比が略「2:1」に形成されており、換言すれば、端部Tにおける勾配は、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面30cに平行な方向と垂直な方向との比が「2:1」の勾配となっている。
【0022】
以下、こうした構造を有する薄膜式半導体センサの製造方法について、図5及び図6を参照しつつ説明する。なお、これら図5(a)〜(c)は、本実施の形態の薄膜式半導体センサの製造方法について、各製造工程をそれぞれ示す側面断面図であり、図6(a)〜(c)は、先の図5(c)に続く製造工程をそれぞれ示す側面断面図である。また、これら図5(a)〜(c)及び図6(a)〜(c)においては、左右対称であるため、左側半分についてのみ図示するとともに右側半分については図示を割愛している。
【0023】
薄膜式半導体センサを製造するにあたっては、まず、図5(a)に示すように、準備工程として、例えば単結晶シリコン(Si)からなる所定の基板厚さの半導体基板10を準備する。
【0024】
準備工程にて半導体基板10を準備すると、図5(b)に示すように、ストッパ膜形成工程として、準備した半導体基板10を高温の酸化性雰囲気に晒し、単結晶シリコンと酸素、あるいは、単結晶シリコンと水分をそれぞれ化学反応させることにより、半導体基板10の上表面12側の表層部を熱酸化し、熱酸化膜(ストッパ膜)30を半導体基板10の上表面12の全面に形成する。
【0025】
そして、図示を割愛するが、検出部形成工程として、例えばスパッタリング法や蒸着法等を通じて例えば白金やポリシリコンの膜を熱酸化膜30の上表面32に形成するとともに、これをフォトリソグラフィー技術等を用いてパターニングすることにより、薄膜抵抗体41のヒータ部41a及び温度検出部41bを形成する。こうした薄膜抵抗体41を形成すると、次に、例えばスパッタリング法等を通じて、例えばアルミニウム(Al)からなるパッド42を形成する。そして、例えばスパッタリングや蒸着法等を通じて、熱酸化膜30の上表面32に絶縁膜43を例えばシリコン窒化膜(SiN)にて形成する。その後、例えばドライエッチング等により、絶縁膜43のうちのパッド42に対向する部分を開口し、ボンディングワイヤにてワイヤボンディングする。このような検出部形成工程を通じて、検出部が形成されることになる。
【0026】
こうして検出部形成工程にて検出部を形成すると、図5(c)に示すように、エッチングマスク形成工程として、適宜のエッチングマスク材を用いて所定の膜厚及び所定の形状にて半導体基板10の下表面11にエッチングマスク20を形成する。詳しくは、このエッチングマスク20は、当該エッチングマスク形成工程の次の工程として実行される第1エッチング工程において、凹部30bを形成するために用いられる。そのため、エッチングマスク20は、所定の位置に開口21を有するように適宜の方法によりパターニングされている。したがって、半導体基板10の下表面11のうち、エッチングマスク20の開口21に位置する部分は、雰囲気に露出することとなる。
【0027】
エッチングマスク形成工程を終えると、次に、図6(a)に示すように、第1エッチング工程として、上記エッチングマスク20及び所定のエッチング液を用いて、半導体基板10を下表面11側から異方性エッチングし、半導体基板10の下表面11から熱酸化膜(ストッパ膜)30の下表面31に到達する凹部30bを半導体基板10に形成する。ここで、使用するエッチング液として、重量パーセント濃度が例えば「32%」のKOH(水酸化カリウム)溶液を例えば「82度」に設定したエッチング液を使用する。ちなみに、こうした条件を満足するエッチング液を用いると、半導体基板10の単結晶シリコンの(100面)、すなわち、図6(a)中の下方から上方へ向かう方向のエッチング速度はおよそ「1.18μm/分」となることが発明者らによって確認されている。そして、こうしたエッチング液にて、上下方向における単結晶シリコンのエッチングが完了する(以下、ジャストエッチとも記載する)と、すなわち、半導体基板10の下表面11から熱酸化膜30の下表面31に達する凹部30bが形成されると、続く第2エッチング工程に移行する。
【0028】
第2エッチング工程では、図6(b)に示すように、上記第1エッチング工程にて使用した所定のエッチング液をそのまま使用してエッチングを行う。ただし、上述したように、上記第1エッチング工程にて、上下方向における単結晶シリコンのエッチングは既に完了しているため、この第2エッチング工程では、熱酸化膜30及び半導体基板10を構成する単結晶シリコン(111面)がエッチングされることとなる。ちなみに、上記条件を満足するエッチング液を用いると、半導体基板10の単結晶シリコンの(111面)、すなわち、図6(b)中の右下から左上へ向かう方向のエッチング速度はおよそ「0.08μm/分」となり、熱酸化膜30の、図6(b)中の下方から上方へ向かう方向のエッチング速度は、およそ「0.04μm/分」となることが発明者らによって確認されている。なお、図6(b)では、先の図6(a)に示した、いわゆるジャストエッチの状態からおよそ「5分」経過時点における側面断面構造を示している。そのため、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面30cの端部Tの、平坦面30cに平行な方向の長さはおよそ「0.40μm」となっている。同様に、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面30cの端部Tの、平坦面30cに垂直な方向の長さはおよそ「0.20μm」となっている。このように、半導体基板10のエッチングレートが熱酸化膜30のエッチングレートの略「2倍」となっていることで、端部Tは、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面30cに平行な方向と垂直な方向との比が「2:1」の勾配を有する側面断面視テーパ状に形成されることと考えられている。これにより、端部Tに集中しやすい応力を緩和することができるようになる。さらに、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面30cから端部Tへの連続的な加工面を形成することができるようになる。
【0029】
また、図6(c)は、先の図6(b)に示した状態からさらにおよそ「5分」経過時点、すなわち、先の図6(a)に示したいわゆるジャストエッチの状態からおよそ「10分」経過時点における側面断面構造を示している。そのため、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面30cの端部Tの、平坦面30cに平行な方向の長さはおよそ「0.80μ」となっている。同様に、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面30cの端部Tの、平坦面30cに垂直な方向の長さはおよそ「0.40μm」となっている。これによっても、端部Tは、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面30cに平行な方向と垂直な方向との比が「2:1」の勾配を有する側面断面視テーパ状に形成されることになる。そして、端部Tに集中しやすい応力を緩和することができるようになる。さらに、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面30cから端部Tへの連続的な加工面を形成することができるようになる。
【0030】
(他の実施の形態)
なお、本発明に係る薄膜式半導体センサ及びその製造方法は、上記実施の形態にて例示した構造あるいは方法に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々に変形して実施することが可能である。すなわち、上記実施の形態を適宜変更した例えば次の形態として実施することもできる。
【0031】
上記実施の形態では、上記ストッパ膜形成工程において、熱酸化膜30をストッパ膜として形成し、この熱酸化膜30をメンブレン30aとしていたが、メンブレン30aの構成材料については熱酸化膜に限らない。要は、メンブレン30aを介しつつ上記検出部を通じて雰囲気の温度変化を検出することのできる材料であれば任意である。ただし、上記実施の形態のように、熱酸化膜をメンブレンとして用いれば、半導体基板10を熱酸化すればよく、ストッパ膜形成工程として特別な工程を必要としないため、薄膜式半導体センサの製造に係る時間やコスト等を削減することができるようになる。
【0032】
上記実施の形態では、上記第1エッチング工程及び第2エッチング工程において同一のエッチング液を同一のエッチング条件下にて使用していたが、これに限らない。第1エッチング工程において使用するエッチング液及びエッチング条件は、第2エッチング工程において使用するエッチング液及びエッチング条件と異なっていてもよい。第1エッチング工程においては、半導体基板10をいわゆるジャストエッチされた状態にすることができればよいのであって、使用するエッチング液及びエッチング条件は任意である。ただし、上記実施の形態のように、第1エッチング工程及び第2エッチング工程において、同一のエッチング液を同一のエッチング条件下にて使用すれば、これら工程を連続して実行することができるため、薄膜式半導体センサの製造に係る時間やコスト等を削減することができるようになる。
【0033】
また、当然のことながら、これら変形例として、ストッパ膜形成工程においてストッパ膜の形成材料を変えてもよいため、上記第1エッチング工程及び第2エッチング工程において使用するエッチング液やエッチング条件を変えることとしてもよい。要は、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面30cに平行な方向と垂直な方向との比が「2:1」の勾配となるようなエッチング液やエッチング条件とすればよい。なお、そうした勾配も必ずしも「2:1」に限らない。要は、メンブレン30aにおける凹部30b側の平坦面30cの端部Tを、半導体基板10の下表面11側に向けて一定の勾配で傾斜した側面断面視テーパ状に形成することができれば、その勾配については任意である。
【0034】
上記実施の形態では、薄膜式半導体センサとして、例えば図示しない車両の吸気管に配設され、空気の流量を計測するエアフローメータS1として具体化していたが、エアフローメータに限らない。他に例えば、ガスに反応して電気信号が変化するセンシング素子をメンブレン上に有するガスセンサ、湿度によって電気信号が変化するセンシング素子をメンブレン上に有する湿度センサ、あるいは、赤外線量によって電気信号が変化するセンシング素子をメンブレン上に有する赤外線センサ等、各種センサとして具体化することもできる。要は、半導体基板10と、この半導体基板10の下表面12から上表面側に向けて形成された凹部30bと、半導体基板10の一部として凹部30bの底面側に形成されたメンブレン30aと、メンブレン30aを通じて物理量の変化を検出する検出部とを備える薄膜式半導体センサであれば、同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る薄膜式半導体センサの一実施の形態について、平面構造を示す平面図。
【図2】同実施の形態の薄膜式半導体センサについて、側面断面構造を示す側面断面図。
【図3】(a)及び(b)は、メンブレンにおける凹部側の平坦面の端部がきれいなアール部として形成されていない場合ときれいなアール部として形成された場合における、メンブレンの側面断面構造をそれぞれ示す模式図。
【図4】同実施の形態の薄膜式半導体センサについて、主に、メンブレンの側面断面構造の一例を示す側面断面図。
【図5】本発明に係る薄膜式半導体センサの製造方法の一実施の形態について、(a)〜(c)は、各製造工程をそれぞれ示す側面断面図。
【図6】同実施の形態の薄膜式半導体センサの製造方法について、(a)〜(c)は、図5(c)に続けて実行される各製造工程をそれぞれ示す側面断面図。
【符号の説明】
【0036】
10…半導体基板、11…下表面、12…表層部、20…エッチングマスク、21…開口、30…熱酸化膜、30a…メンブレン、30b…凹部、30c…平坦面、31…下表面、32…上表面、41a、41b…薄膜抵抗体、42…パッド、43…絶縁膜、S1…エアフローメータ(薄膜式半導体センサ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、この半導体基板の下表面から上表面側に向けて形成された凹部と、前記凹部の底面側に形成されたメンブレンと、前記メンブレンを通じて物理量の変化を検出する検出部とを備える薄膜式半導体センサを製造する方法であって、
前記半導体基板を準備する準備工程と、
前記準備工程にて準備された半導体基板の上表面に所定膜厚のストッパ膜を形成するストッパ膜形成工程と、
開口を有するエッチングマスクを前記半導体基板の下表面に形成するエッチングマスク形成工程と、
前記エッチングマスクを用いて前記半導体基板を下表面側からエッチングすることで、前記半導体基板の下表面から前記ストッパ膜の下表面に到達する凹部を前記半導体基板に形成する第1エッチング工程と、
前記ストッパ膜のエッチングレートよりも前記半導体基板のエッチングレートの方が大きく設定されたエッチング液及び前記エッチングマスクを用いて前記半導体基板及び前記ストッパ膜をエッチングすることで、前記ストッパ膜における前記凹部側の平坦面の端部を、前記半導体基板の下表面側に向けて一定の勾配で傾斜した側面断面視テーパ状に形成し、このストッパ膜を前記メンブレンとする第2エッチング工程とを備えることを特徴とする薄膜式半導体センサの製造方法。
【請求項2】
前記第2エッチング工程では、前記半導体基板のエッチングレートと前記ストッパ膜のエッチングレートとの比が「2:1」に設定されたエッチング液を用いることを特徴とする請求項1に記載の薄膜式半導体センサの製造方法。
【請求項3】
前記第2エッチング工程では、重量パーセント濃度が「32%」の水酸化カリウム溶液を「82度」に設定したエッチング液を通じて異方性エッチングを行うことを特徴とする請求項2に記載の薄膜式半導体センサの製造方法。
【請求項4】
前記準備工程では、単結晶シリコンにて形成された半導体基板を準備し、
前記ストッパ膜形成工程では、前記半導体基板の上表面を熱酸化した熱酸化膜にて前記ストッパ膜を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の薄膜式半導体センサの製造方法。
【請求項5】
半導体基板と、この半導体基板の下表面から上表面側に向けて形成された凹部と、前記半導体基板の一部として前記凹部の底面側に形成されたメンブレンと、前記メンブレンを通じて物理量の変化を検出する検出部とを備える薄膜式半導体センサであって、
前記メンブレンにおける前記凹部側の平坦面の端部は、前記半導体基板の下表面側に向けて一定の勾配で傾斜した側面断面視テーパ状に形成されていることを特徴とする薄膜式半導体センサ。
【請求項6】
前記端部の勾配は、前記平坦面に平行な方向と垂直な方向との比が略「2:1」に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の薄膜式半導体センサ。
【請求項7】
前記半導体基板は単結晶シリコンにて形成されており、前記メンブレンは、この半導体基板が熱酸化された熱酸化膜にて形成されていることを特徴とする請求項5または6に記載の薄膜式半導体センサ。
【請求項8】
前記検出部は、前記メンブレン上に配設された配線回路であり、
当該薄膜式半導体センサは、前記配線回路の少なくとも一部を加熱して流体の流量を検出するフローセンサとして用いられることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の薄膜式半導体センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−31066(P2009−31066A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193827(P2007−193827)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】