触媒異常診断装置
【課題】適切なタイミングで診断を中止する。
【解決手段】内燃機関の触媒に対する排気空燃比を所定の中心空燃比(ストイキ)を境にリーン・リッチに切り替えるアクティブ空燃比制御を実行し、その実行中に触媒の吸蔵酸素量OSCaおよび放出酸素量を計測して触媒の異常を診断する。リーン・リッチの一方への切り替え中に実際の空燃比A/Ffが中心空燃比に対し他方側になっているとき、実際の空燃比と中心空燃比との差に基づく触媒の反吸蔵酸素量AOSCaまたは反放出酸素量を計測し、当該計測値が所定の判定値βを超えたときに診断を中止する。当該判定値βを、所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方に基づいて設定する。
【解決手段】内燃機関の触媒に対する排気空燃比を所定の中心空燃比(ストイキ)を境にリーン・リッチに切り替えるアクティブ空燃比制御を実行し、その実行中に触媒の吸蔵酸素量OSCaおよび放出酸素量を計測して触媒の異常を診断する。リーン・リッチの一方への切り替え中に実際の空燃比A/Ffが中心空燃比に対し他方側になっているとき、実際の空燃比と中心空燃比との差に基づく触媒の反吸蔵酸素量AOSCaまたは反放出酸素量を計測し、当該計測値が所定の判定値βを超えたときに診断を中止する。当該判定値βを、所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方に基づいて設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の異常診断に係り、特に、内燃機関の排気通路に配置された触媒の異常を診断する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用内燃機関において、その排気系には排気ガスを浄化するための触媒が設置されている。この触媒の中には酸素吸蔵能(O2ストレージ能)を有するものがある。この酸素吸蔵能を有する触媒は、触媒に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比(ストイキ)よりも大きくなると、即ちリーンになると排気ガス中に存在する過剰酸素を吸蔵し、排気ガスの空燃比がストイキよりも小さくなると、即ちリッチになると吸蔵した酸素を放出する。例えばガソリンエンジンでは触媒に流入する排気ガスがストイキ近傍となるよう空燃比制御が行われるが、酸素吸蔵能を有する三元触媒を使用すると、運転条件により実際の空燃比がストイキから多少ズレてしまっても、三元触媒の酸素吸蔵・放出作用により、かかる空燃比ズレを吸収することができる。
【0003】
一方、触媒が劣化すると触媒の浄化率が低下する。触媒の劣化度と酸素吸蔵能の低下度との間には相関関係がある。よって、酸素吸蔵能の低下を検出することで触媒の劣化ないし異常を検出することができる。一般的には、空燃比をリッチ及びリーンに交互に且つアクティブに切り替えるアクティブ空燃比制御を行い、触媒の酸素吸蔵容量を計測し、触媒の劣化を診断する方法(所謂Cmax法)が採用される。
【0004】
一般的に、アクティブ空燃比制御および診断は、所定条件が満たされる場合に限って実行される。またアクティブ空燃比制御および診断の実行中に所定条件が満たされなくなった場合、診断精度確保等の観点から、それらが中止される。
【0005】
なお、特許文献1に記載の装置では、診断完了前にアクティブ空燃比制御が中断された場合、中断までに積算されたパラメータを一旦保持する。そして所定条件が再び満たされたときにアクティブ空燃比制御を再開し、保持しておいたパラメータと再開後に積算されたパラメータとを用いて診断を完了させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−162681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、実際には、所定条件が満たされてアクティブ空燃比制御が実行され、空燃比がリーンおよびリッチの一方に切り替えられているときであっても、実際の空燃比が逆側、すなわちリーンおよびリッチの他方側になっていることがある。その原因は主に内燃機関の加速または減速、すなわち過渡運転がなされていることにある。
【0008】
このとき、その逆側になっているときの所定のパラメータを計測し、当該計測値が所定の判定値を超えたとき、過渡運転の度合いが高く所望の診断精度を確保できないとして、診断を中止することが考えられる。
【0009】
しかし、本発明者の鋭意研究によれば、中止の基準を定める判定値は、単なる一定値とすべきではないことが判明した。すなわち、単なる一定値とすると、適切なタイミングで診断を中止することができないことが判明した。
【0010】
そこで本発明は以上の事情に鑑みて創案されたものであり、その目的は、適切なタイミングで診断を中止することができる触媒異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一の態様によれば、
内燃機関の排気通路に配置された触媒に供給する排気ガスの空燃比を所定の中心空燃比を境にリーンおよびリッチに交互に切り替えるアクティブ空燃比制御を実行し、
前記空燃比のリーンへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリーン側になっているとき、前記触媒の吸蔵酸素量を計測すると共に、前記空燃比のリッチへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリッチ側になっているとき、前記触媒の放出酸素量を計測し、これら計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の値に基づいて触媒の異常を診断する装置であって、
前記空燃比のリーンへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリッチ側になっているとき、前記触媒の反吸蔵酸素量を計測すると共に、前記空燃比のリッチへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリーン側になっているとき、前記触媒の反放出酸素量を計測し、これら反吸蔵酸素量および反放出酸素量の一方の計測値が所定の判定値を超えたときに診断を中止し、
前記判定値を、所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の値に基づいて設定する
ことを特徴とする触媒異常診断装置が提供される。
【0012】
空燃比のリーンへの切り替え中に実際の空燃比が中心空燃比に対しリッチ側になっていると、本来酸素の吸蔵反応が行われるべきなのに、実際には逆の放出反応が生じていると考えられる。この放出された酸素量を表すパラメータが反吸蔵酸素量である。反吸蔵酸素量は、放出酸素量と同一の方法で、同一の演算式に基づいて計測される。つまり反吸蔵酸素量は放出酸素量と実質的に同じ性質の値である。空燃比のリーンへの切り替え中、実際の空燃比が中心空燃比に対しリーン側になっているときには吸蔵酸素量が計測されるが、実際の空燃比が中心空燃比に対しリッチ側になっているときには反吸蔵酸素量が計測される。このように吸蔵酸素量と反吸蔵酸素量とは、同一のリーンへの切り替え中に異なる期間で計測される値である。
【0013】
同様に、空燃比のリッチへの切り替え中に実際の空燃比が中心空燃比に対しリーン側になっていると、本来酸素の放出反応が行われるべきなのに、実際には逆の吸蔵反応が生じていると考えられる。この吸蔵された酸素量を表すパラメータが反放出酸素量である。反放出酸素量は、吸蔵酸素量と同一の方法で、同一の演算式に基づいて計測される。つまり反放出酸素量は吸蔵酸素量と実質的に同じ性質の値である。空燃比のリッチへの切り替え中、実際の空燃比が中心空燃比に対しリッチ側になっているときには放出酸素量が計測されるが、実際の空燃比が中心空燃比に対しリーン側になっているときには反放出酸素量が計測される。このように放出酸素量と反放出酸素量とは、同一のリッチへの切り替え中に異なる期間で計測される値である。
【0014】
これら吸蔵酸素量、放出酸素量、反吸蔵酸素量および反放出酸素量は、同一の方法で、同一の演算式に基づいて計測される。
【0015】
ところで、反吸蔵酸素量および反放出酸素量の一方の計測値が所定の判定値を超えたとき、所望の診断精度を確保できないとして、診断を中止する。そして判定値を、所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の値に基づいて設定する。こうすることで、触媒劣化度に応じた適切な判定値を設定し、診断の中止タイミングを適切化できる。
【0016】
好ましくは、所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の値が小さいほど、小さな前記判定値を設定する。
【0017】
好ましくは、前記所定回前の診断時が、1回前の診断時である。
【0018】
好ましくは、前記吸蔵酸素量および放出酸素量の両方の平均値に基づいて触媒の異常を診断し、前記判定値を、所定回前の診断時における前記平均値に基づいて設定する。
【0019】
好ましくは、前記平均値が小さいほど、前記判定値を小さくする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、適切なタイミングで診断を中止することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態の構成を示す概略図である。
【図2】触媒の構成を示す概略断面図である。
【図3】アクティブ空燃比制御のタイムチャートである。
【図4】図3と同様のタイムチャートであり、酸素吸蔵容量の計測方法を説明するための図である。
【図5】触媒前センサ及び触媒後センサの出力特性を示すグラフである。
【図6】ストイキ跨ぎが生じたときの空燃比の変化と、吸蔵酸素量および反吸蔵酸素量の積算の様子とを示すタイムチャートである。
【図7】オンボードで酸素吸蔵容量と反酸素吸蔵容量とを計測した場合の試験結果を示すグラフである。
【図8】異常診断処理のフローチャートである。
【図9】中止判定値算出マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適実施形態を添付図面に基づき説明する。
【0023】
図1は、本実施形態の構成を示す概略図である。図示されるように、内燃機関たるエンジン1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストン4を往復移動させることにより動力を発生する。本実施形態のエンジン1は自動車用多気筒エンジン(1気筒のみ図示)であり、火花点火式内燃機関、より具体的にはガソリンエンジンである。
【0024】
エンジン1のシリンダヘッドには、吸気ポートを開閉する吸気弁Viと、排気ポートを開閉する排気弁Veとが気筒ごとに配設されている。各吸気弁Viおよび各排気弁Veは図示しないカムシャフトによって開閉させられる。また、シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気に点火するための点火プラグ7が気筒ごとに取り付けられている。
【0025】
各気筒の吸気ポートは吸気マニホールドを介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気集合通路をなす吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、エンジンに流入する空気量すなわち吸入空気量を検出するためのエアフローメータ5と、電子制御式スロットルバルブ10とが設けられている。なお吸気ポート、吸気マニホールド、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
【0026】
吸気通路、特に吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタすなわち燃料噴射弁12が気筒ごとに配設される。インジェクタ12から噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気をなし、この混合気が吸気弁Viの開弁時に燃焼室3に吸入され、ピストン4で圧縮され、点火プラグ7で点火燃焼させられる。
【0027】
一方、各気筒の排気ポートは、排気マニホールドを介して排気集合通路をなす排気管6に接続されている。これら排気ポート、排気マニホールド及び排気管6により排気通路が形成される。排気管6には、その上流側と下流側に、酸素吸蔵能を有する三元触媒からなる触媒、即ち上流触媒11及び下流触媒19が直列に設けられている。例えば、上流触媒11は排気マニホールドの直後に配置され、下流触媒19は車両の床下などに配置される。
【0028】
上流触媒11の上流側及び下流側に、それぞれ、酸素濃度に基づいて排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ、即ち触媒前センサ17及び触媒後センサ18が設けられている。図5に示すように、触媒前センサ17は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能で、その空燃比に比例した値の信号を出力する。他方、触媒後センサ18は所謂O2センサからなり、理論空燃比を境に出力値が急変する特性(Z特性)を持つ。
【0029】
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10及びインジェクタ12等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU20には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、触媒前センサ17、触媒後センサ18のほか、エンジン1のクランク角を検出するクランク角センサ14、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、インジェクタ12、スロットルバルブ10等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。
【0030】
上流触媒11及び下流触媒19は、これに流入する排気ガスの空燃比A/Fが理論空燃比(ストイキ、例えばA/Fs=14.6)のときにNOx ,HCおよびCOを同時に高効率で浄化する。よってこの特性に合わせて、ECU20は、エンジンの通常運転時、上流触媒11及び下流触媒19に流入する排気ガスの空燃比がストイキに一致するよう、燃焼室3に供給される混合気の空燃比(具体的にはインジェクタ12からの燃料噴射量)を触媒前センサ17の出力に基づきフィードバック制御する。
【0031】
ここで、異常診断の対象となる上流触媒11についてより詳細に説明する。なお下流触媒19も上流触媒11と同様に構成されている。図2に示すように、触媒11においては、図示しない担体基材の表面上にコート材31が被覆され、このコート材31に微粒子状の触媒成分32が多数分散配置された状態で担持され、触媒11内部で露出されている。触媒成分32は主にPt,Pd等の貴金属からなり、NOx ,HCおよびCOといった排ガス成分を反応させる際の活性点となる。他方、コート材31は、排気ガスと触媒成分32との界面における反応を促進させる助触媒の役割を担うと共に、雰囲気ガスの空燃比に応じて酸素を吸放出可能な酸素吸蔵成分を含む。酸素吸蔵成分は例えば二酸化セリウムCeO2やジルコニアからなる。なお、「吸蔵」と同義で「吸収」または「吸着」を用いることもある。
【0032】
例えば、触媒内の雰囲気ガスが理論空燃比よりリーンであると、触媒成分32の周囲に存在する酸素吸蔵成分が雰囲気ガスから酸素を吸収し、この結果NOxが還元され、浄化される。他方、触媒内の雰囲気ガスが理論空燃比よりリッチであると、酸素吸蔵成分に吸蔵されていた酸素が放出され、この放出された酸素によりHCおよびCOが酸化され、浄化される。
【0033】
この酸素吸放出作用により、通常のストイキ空燃比制御に際して実際の空燃比がストイキに対して多少ばらついたとしても、このばらつきを吸収することができる。
【0034】
ところで、新品状態の触媒11では前述したように多数の触媒成分32が均等に分散配置されており、排気ガスと触媒成分32との接触確率が高い状態に維持されている。しかしながら、触媒11が劣化してくると、一部の触媒成分32に消失が見られるほか、触媒成分32同士が排気熱で焼き固まって焼結状態になるものがある(図の破線参照)。こうなると排気ガスと触媒成分32との接触確率が低下し、浄化率を落としめる原因となる。そしてこのほかに、触媒成分32の周囲に存在するコート材31の量、即ち酸素吸蔵成分の量が減少し、酸素吸蔵能自体が低下する。
【0035】
このように、触媒11の劣化度と触媒11の酸素吸蔵能低下度との間には相関関係がある。そこで本実施形態では、特にエミッションへの影響が大きい上流触媒11の酸素吸蔵能を検出することにより、上流触媒11の劣化度を検出し、上流触媒11の異常を診断することとしている。ここで触媒11の酸素吸蔵能は、現状の触媒11が吸蔵し得る最大酸素量である酸素吸蔵容量(OSC;O2 Storage Capacity、単位はg)の大きさによって表される。
【0036】
本実施形態の触媒異常診断は前述のCmax法によるものを基本とする。そして異常診断に際しては、ECU20によりアクティブ空燃比制御が実行される。すなわちECU20は、触媒11に供給される排気ガスの空燃比、具体的には燃焼室3内の混合気の空燃比を、中心空燃比であるストイキA/Fsを境にリッチ及びリーンに交互に且つアクティブに所定周期分切り替える。
【0037】
また、アクティブ空燃比制御および診断は、所定の前提条件が満たされているときに限って実行される。この前提条件については後述する。
【0038】
以下、図3及び図4を用いて、上流触媒11の酸素吸蔵容量の計測方法を説明する。
【0039】
図3(A)において、破線は目標空燃比A/Ft、実線は触媒前センサ17の出力(但し触媒前空燃比A/Ffrへの換算値)を示す。また図3(B)において、実線は触媒後センサ18の出力(但しその出力電圧Vr)を示す。
【0040】
図示するように、時刻t1より前では、空燃比をリーンに切り替えるリーン制御が実行され、目標空燃比A/Ftはリーン空燃比A/Fl(例えば15.1)とされ、触媒11には、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリーンガスが供給されている。このとき触媒11は酸素を吸蔵し続けているが、飽和状態即ち満杯まで酸素を吸蔵した時点でそれ以上酸素を吸蔵できなくなる。この結果、リーンガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後センサ18の出力がリーン側に変化し、出力電圧Vrが所定のリーン判定値VL(例えば0.21V)に達した時点t1で、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Fr(例えば14.1)に切り替えられる。これによりリッチ制御が開始され、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリッチガスが供給されるようになる。
【0041】
リッチガスが供給されると、触媒11は吸蔵酸素を放出し続ける。やがて触媒11から吸蔵酸素が放出され尽くすとその時点で触媒11は酸素を放出できなくなり、リッチガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後センサ18の出力がリッチ側に変化し、出力電圧Vrが所定のリッチ判定値VR(例えば0.59V)に達した時点t2で、目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flに切り替えられる。これにより再びリーン制御が開始され、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリーンガスが供給されるようになる。
【0042】
再び、触媒11が満杯まで酸素を吸蔵し、触媒後センサ18の出力電圧Vrがリーン判定値VLに達すると、その時点t3で、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられ、リッチ制御が開始される。
【0043】
こうして、触媒後センサ18の出力が反転する度に、リーン制御とリッチ制御とが交互に繰り返し実行される。
【0044】
このアクティブ空燃比制御の実行中、次の方法で触媒11の酸素吸蔵容量OSCが計測される。
【0045】
触媒11の有する酸素吸蔵容量が大きいほど、酸素を吸蔵或いは放出し続けることのできる時間が長くなる。つまり、触媒が劣化していない場合は触媒後センサ出力Vrの反転周期(例えばt1からt2までの時間)が長くなり、触媒の劣化が進むほどその反転周期は短くなる。
【0046】
そこで、このことを利用して酸素吸蔵容量OSCが次のようにして計測される。図4に示すように、時刻t1で目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられた直後、僅かに遅れて実際値としての触媒前空燃比A/Ffがリッチ空燃比A/Frに切り替わる。そして触媒前空燃比A/FfがストイキA/Fsに達した時点t11から、次に触媒後センサ出力Vrが反転する時点t2まで、次式(1)により、所定の演算周期毎の酸素吸蔵容量dOSCが逐次的に算出され、且つこの酸素吸蔵容量dOSCが時刻t11から時刻t2まで逐次的に積算される。こうして、リッチ制御時における最終積算値としての酸素吸蔵容量OSC、すなわち図4にOSCbで示す放出酸素量が計測される。
【0047】
【数1】
【0048】
Qは燃料噴射量であり、空燃比差ΔA/Fに燃料噴射量Qを乗じるとストイキに対し不足又は過剰分の空気量を算出できる。σは空気に含まれる酸素割合(約0.23)を表す定数である。
【0049】
リーン制御時にも同様に酸素吸蔵容量、すなわち図4にOSCaで示す吸蔵酸素量が計測される。この計測も同様に前式(1)に基づいて行われる。そしてリッチ制御とリーン制御が交互に行われる度に、放出酸素量と吸蔵酸素量が交互に計測される。
【0050】
こうして複数ずつの放出酸素量と吸蔵酸素量との計測値が得られたならば、次の方法により触媒の正異常判定が行われる。
【0051】
まずECU20は、これら放出酸素量と吸蔵酸素量との計測値の平均値OSCavを算出する。そしてこの平均値OSCavを所定の異常判定値αと比較する。ECU20は、平均値OSCavが異常判定値αより大きいときには触媒11を正常と判定し、平均値OSCavが異常判定値α以下のときには触媒11を異常と判定する。なお触媒を異常と判定した場合、その事実をユーザに知らせるため、チェックランプ等の警告装置(図示せず)を起動させるのが好ましい。
【0052】
なお、本実施形態では診断精度向上のため、複数ずつの放出酸素量と吸蔵酸素量との計測値の平均値OSCavに基づき正異常判定するが、この例に限られない。吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の計測値に基づいて正異常判定すればよい。例えば、吸蔵酸素量の計測値のみに基づいて正異常判定することが可能であり、この場合、複数の吸蔵酸素量計測値の平均値に基づいて正異常判定してもよく、任意の一つの吸蔵酸素量計測値に基づいて正異常判定してもよい。同様に、放出酸素量の計測値のみに基づいて正異常判定することが可能であり、この場合、複数の放出酸素量計測値の平均値に基づいて正異常判定してもよく、任意の一つの放出酸素量計測値に基づいて正異常判定してもよい。他方、各一つずつの放出酸素量と吸蔵酸素量との計測値の平均値に基づき正異常判定してもよい。
【0053】
さて、前述したように、実際には、所定の前提条件が満たされてアクティブ空燃比制御が実行され、目標空燃比A/Ftがリーンおよびリッチの一方に切り替えられているときであっても、実際の触媒前空燃比A/Ffが逆側、すなわちストイキを挟んでリーンおよびリッチの他方側になっていることがある。これを便宜上「ストイキ跨ぎ」(または「中心跨ぎ」)という。こうなる原因は、主に、内燃機関の加速または減速、すなわち過渡運転がなされていることにある。
【0054】
ここで前提条件には、例えば、実際の吸入空気量Gaと触媒温度Tcとが所定の関係を満たしているという条件が含まれる。実際の吸入空気量Gaはエアフローメータ5で検出される。実際の触媒温度Tcは、エンジン運転状態に基づきECU20により推定されるが、温度センサで直接検出してもよい。
【0055】
エンジンが定常運転している場合、即ちエンジンの回転速度と負荷がほぼ一定の場合、吸入空気量Gaと触媒温度Tcとの間には一定の相関関係が存在する。他方、両者が大きくかけ離れているときは、エンジンが定常運転状態になく、加速又は減速即ち過渡運転が行われている状態とみなせる。
【0056】
そこで定常運転時の吸入空気量Gaと触媒温度Tcとの関係を予めマップ化し、マップ値を中心とした所定範囲内に両者の実際値があるときに、定常運転中であるとしてアクティブ空燃比制御の実行を許可する。逆に、その所定範囲内に両者の実際値がないときは、非定常運転中であるとしてアクティブ空燃比制御の実行を禁止する。こうすることで一定以上の診断精度を確保可能となる。
【0057】
もっとも、この前提条件をあまりに狭めてしまうと診断機会を過度に失う。例えば1トリップ当たりに少なくとも1回、診断を行う要請がある。よって診断精度と診断機会とのバランスを考慮しつつも、前提条件はある程度広めに設定されることとなる。
【0058】
アクティブ空燃比制御が開始された後、激しい過渡運転がなされれば、前提条件自体が満たされなくなってアクティブ空燃比制御は途中で中止される。しかし、それ程激しい過渡運転でなく、前提条件が満たされる範囲内での過渡運転であれば、アクティブ空燃比制御は中止されることなく続行される。それ故、前述のストイキ跨ぎ現象が起こるのである。
【0059】
図6(A)に、ストイキ跨ぎが生じたときの空燃比の変化を示す。時刻t1で目標空燃比A/Ftがリッチからリーンに切り替えられ、リーン制御が開始されている。これに追従するよう、混合気の空燃比が切り替えられ、実際の触媒前空燃比A/Ffが時刻t2以降で一旦ストイキ以上となる。しかし、過渡運転がなされているため、その後実際の触媒前空燃比A/Ffは時刻t3以降でストイキ以下となり、ストイキ跨ぎ現象が発生する。その後も触媒前空燃比A/Ffは比較的荒れており、頻繁に増減し、結局、t3〜t4,t5〜t6,t7〜t8の各期間でストイキ跨ぎ現象が発生している。
【0060】
ストイキ跨ぎ現象の発生中は、目標空燃比A/Ftとは逆側のガスが触媒に供給され、触媒表面で逆の反応が生じていると考えられる。すなわち、図示例の場合だと、目標空燃比A/Ftがリーンなのに触媒にはリッチガスが供給され、本来酸素の吸蔵反応が行われるべきなのに実際には酸素の放出反応が生じていると考えられる。
【0061】
このようなストイキ跨ぎ現象が発生すると、酸素吸蔵容量OSCの計測精度が低下し、ひいては診断精度が低下する。そこでストイキ跨ぎ現象の発生期間(「跨ぎ有り期間」という)に、所定のパラメータである反酸素吸蔵容量AOSCを計測する。そしてこの計測値が所定の判定値を超えたときには、所望の診断精度を確保できない程の過渡運転がなされているとして、アクティブ空燃比制御および診断を中止する。ここで、「酸素吸蔵容量OSC」とは「吸蔵酸素量OSCa」と「放出酸素量OSCb」とを包括する用語であり、「反酸素吸蔵容量AOSC」とは「反吸蔵酸素量AOSCa」と「反放出酸素量AOSCb」とを包括する用語である。
【0062】
図6(B)に示すように、触媒前センサ17で検出された実際の触媒前空燃比A/Ffが最初にストイキに達した時点t2以降、通常通り、ストイキ以上となっている期間(t2〜t3,t4〜t5,t6〜t7、これを「跨ぎ無し期間」という)内に、前式(1)に基づき、演算周期毎の吸蔵酸素量が逐次的に算出、積算される。また、跨ぎ有り期間では吸蔵酸素量OSCaの積算が停止される。本実施形態の場合、停止時の積算値がホールドされる。跨ぎ有り期間では逆の反応が生じていると考えられるから、減算してもよいが、本実施形態の場合は積算値が減少するのを回避するためホールドすることとしている。
【0063】
他方、図6(C)に示すように、最初にストイキ跨ぎが発生した時点t3以降、跨ぎ有り期間内に、前式(1)に同様に基づき、演算周期毎の反吸蔵酸素量が逐次的に算出、積算される。即ち、反吸蔵酸素量AOSCaは、放出酸素量OSCbと同一の方法で、同一の演算式(1)に基づき、実際の触媒前空燃比A/FfとストイキA/Fsとの差に基づき算出、積算または計測される。なお跨ぎ無し期間では反吸蔵酸素量AOSCaの積算が停止され、且つ停止時の積算値がホールドされる。
【0064】
このように、跨ぎ有り期間内に本来とは逆の放出反応が生じているとき、放出された酸素量を表すパラメータが反吸蔵酸素量AOSCaである。反吸蔵酸素量AOSCaは、放出酸素量OSCbと同一の方法で、同一の演算式(1)に基づき積算計測され、放出酸素量OSCbと実質的に同じ性質の値である。空燃比のリーンへの切り替え中、跨ぎ無し期間では吸蔵酸素量OSCaが積算計測されるが、跨ぎ有り期間では反吸蔵酸素量AOSCaが積算計測される。このように吸蔵酸素量OSCaと反吸蔵酸素量AOSCaとは、同一のリーンへの切り替え中に異なる期間で計測される値である。
【0065】
図示例では、時刻t8で反吸蔵酸素量AOSCaの計測値ないし積算値が判定値β(中止判定値という)を超えており、これと同時にアクティブ空燃比制御および診断が中止されている。この時刻t8は触媒後センサ出力がリーンに反転する前のタイミングである。そしてこの時以降、目標空燃比A/Ftはストイキに切り替えられ、ストイキ制御が実施されている。
【0066】
なお、上述のストイキ跨ぎの例はリーン制御中に実際の触媒前空燃比A/Ffがストイキよりリッチになる例であったが、逆の例すなわち、リッチ制御中に実際の触媒前空燃比A/Ffがストイキよりリーンになる場合も同様である。
【0067】
この場合、跨ぎ有り期間内に本来とは逆の吸蔵反応が生じていると考えられ、この吸蔵された酸素量を表すパラメータが反放出酸素量AOSCbである。反放出酸素量AOSCbは、吸蔵酸素量OSCaと同一の方法で、同一の演算式(1)に基づき積算計測され、吸蔵酸素量OSCaと実質的に同じ性質の値である。空燃比のリッチへの切り替え中、跨ぎ無し期間では放出酸素量OSCbが積算計測されるが、跨ぎ有り期間では反放出酸素量AOSCbが積算計測される。このように放出酸素量OSCbと反放出酸素量AOSCbとは、同一のリッチへの切り替え中に異なる期間で計測される値である。
【0068】
以上で分かるように、吸蔵酸素量OSCa、放出酸素量OSCb、反吸蔵酸素量AOSCaおよび反放出酸素量AOSCbは、同一の方法で、同一の演算式(1)に基づいて積算計測される。
【0069】
ところで、本発明者の鋭意研究によれば、中止の基準を定める中止判定値βは単なる一定値とすべきではなく、逆に単なる一定値とすると適切なタイミングで診断を中止できないことが判明した。
【0070】
この点を図7の試験結果に基づいて説明する。図は、本実施形態の如き内燃機関1が搭載された車両において、オンボードで酸素吸蔵容量OSC(横軸)と反酸素吸蔵容量AOSC(縦軸)とを計測した場合の試験結果を示す。ここでいう酸素吸蔵容量OSCとは、1回の診断時に複数ずつ計測された吸蔵酸素量OSCaと放出酸素量OSCbとの平均値を意味し、反酸素吸蔵容量AOSCとは、アクティブ空燃比制御および診断を途中で中止することなく、1回の診断時に複数ずつ計測された反吸蔵酸素量AOSCaと反放出酸素量AOSCbとの平均値を意味する。酸素吸蔵容量OSCの値が大きいほど触媒の劣化度は小さい。
【0071】
図中の各プロットは次のデータを表す。
【0072】
黒菱形:劣化がかなり進んだ異常レベルの触媒を用い、定常運転とみなせるような静かな走行運転をした場合のデータ。
【0073】
黒三角:劣化が少ない正常レベルの触媒を用い、定常運転とみなせるような静かな走行運転をした場合のデータ。
【0074】
白四角:劣化がかなり進んだ異常レベルの触媒を用い、非定常運転とみなせるような荒い走行運転をした場合のデータ。ここでいう荒い走行運転とは、ドライバが故意に且つ頻繁にアクセルペダルをオンオフして走行する、いわゆる意地悪評価パターンで走行運転した場合のことをいう。
【0075】
白三角:劣化が少ない正常レベルの触媒を用い、非定常運転とみなせるような荒い走行運転をした場合のデータ。
【0076】
なお、当該試験結果に基づいて設定する好適な異常判定値αを図中に示す。
【0077】
白三角と白四角に着目すると分かるように、荒い走行運転をした場合の反酸素吸蔵容量AOSCの大きさは、正常触媒と異常触媒とで異なり、正常触媒では矢印Aで示すように大きくなり、異常触媒では矢印Bで示すように小さくなる傾向にある。また反酸素吸蔵容量AOSCのバラツキ幅も、正常触媒では矢印Aで示すように大きくなり、異常触媒では矢印Bで示すように小さくなる傾向にある。
【0078】
この理由は次の通りである。触媒の劣化度に応じてアクティブ空燃比制御の反転周期(リーンまたはリッチ制御期間)の長さは異なり、劣化度の小さい触媒では長くなり、劣化度の大きい触媒では短くなる傾向にある。すると、1反転周期内でストイキ跨ぎが発生する確率も、劣化度の小さい触媒では高くなり、劣化度の大きい触媒では低くなる。よって、反転周期の長い正常触媒では跨ぎ有り期間が長くなり、反酸素吸蔵容量AOSCの大きさ及びバラツキ幅が大きくなる傾向にある。他方、反転周期の短い異常触媒では跨ぎ有り期間が短くなり、反酸素吸蔵容量AOSCの大きさ及びバラツキ幅が小さくなる傾向にある。
【0079】
ここで、反酸素吸蔵容量AOSCの比較対象となる中止判定値は、静かな走行と荒い走行の境目を規定した値であるといえる。仮に、比較例として、触媒劣化度とは無関係な図示の如き一定の中止判定値βxを想定すると、この中止判定値βxでは、正常触媒を基準としているので、異常触媒の場合に適切な値とならない。すなわち異常触媒の場合だと中止判定値βxが大きすぎ、アクティブ空燃比制御および診断を中止するタイミングが遅すぎ、あるいは中止の頻度が少なすぎ、あるいは全く中止できない結果となる。
【0080】
図示しないが、逆に異常触媒を基準として、より小さな一定の中止判定値βxを想定すると、正常触媒の場合に中止判定値βxが小さすぎ、アクティブ空燃比制御および診断を中止するタイミングが早すぎ、あるいは中止の頻度が多すぎる結果となる。
【0081】
このように、触媒劣化度を考慮せず一定の中止判定値を設定しても、中止タイミングが適切とならず、診断精度と診断機会の好適なバランスを得ることができない。
【0082】
そこで以上の事情に鑑み、本実施形態では、触媒劣化度に応じて中止判定値を変えるようにしている。具体的には、図示の中止判定値βのように、触媒劣化度が大きいほど(酸素吸蔵容量OSCの値が小さいほど)、小さい中止判定値βを設定するようにしている。
【0083】
こうすることで、触媒劣化度に応じた適切な中止判定値βを設定することができ、アクティブ空燃比制御および診断の中止タイミングを適切化し、診断精度と診断機会の好適なバランスを得ることが可能となる。
【0084】
ここで、触媒劣化度は吸蔵酸素量OSCaおよび放出酸素量OSCbの少なくとも一方によって表すことができる。また現状の触媒の劣化度は、所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量OSCaおよび放出酸素量OSCbの少なくとも一方によって表すことができる。よって、本実施形態では、所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量OSCaおよび放出酸素量OSCbの少なくとも一方の値に基づいて中止判定値βを設定する。
【0085】
特に、本実施形態では、1回の診断時に複数ずつの吸蔵酸素量OSCaおよび放出酸素量OSCbの平均値OSCavを求め、この平均値OSCavにより触媒が正常か異常かを判定している。この平均値OSCavは触媒劣化度を表す非常に好適な値である。また、ある診断時において、その診断時に最も近い1回前(前回)の診断時に計測された平均値OSCavが、現状の触媒の劣化度を最も良く表していると考えられる。
【0086】
よって本実施形態では、前回の診断時に計測された平均値OSCavに基づいて中止判定値βを設定する。
【0087】
もっとも、必ずしも前回診断時に計測された平均値OSCavを用いる必要はない。現状の触媒劣化度を表していればよく、2回あるいは3回前の診断時に計測された平均値OSCavを用いてもよい。平均値OSCavの代わりに吸蔵酸素量OSCaおよび放出酸素量OSCbの一方の値を用いてもよい。すなわち、触媒の正異常判定に用いられ且つ触媒劣化度を表す所定回前の診断時の酸素吸蔵容量計測値(例えば1値もしくは平均値としての吸蔵酸素量、1値もしくは平均値としての放出酸素量、またはこれらの平均値)に基づき、中止判定値βが設定され、当該酸素吸蔵容量計測値が小さいほど小さい中止判定値βが設定される。
【0088】
中止判定値βの設定の仕方については、例えば図7に示すデータに基づくとすると、静かな走行をしたときのデータのうち、反酸素吸蔵容量AOSCが最大のデータを基準に設定する。当該最大データについては、正常触媒の場合プロットaが該当し、異常触媒の場合プロットbが該当する。そこでこれらプロットa,bに対し反酸素吸蔵容量AOSCが僅かに大きくなるようなラインを中止判定値βとして設定する。これにより、反酸素吸蔵容量AOSCが中止判定値βより大きいときには荒い走行、反酸素吸蔵容量AOSCが中止判定値β以下のときには静かな走行として、両者を好適に切り分けることができる。
【0089】
図8に、本実施形態に係る異常診断処理のルーチンを示す。このルーチンはECU20により所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
【0090】
まずステップS101では、所定の前提条件が成立しているか否かが判断される。この前提条件には、前述したように、(1)実際の吸入空気量Gaと触媒温度Tcとが所定の関係を満たしている、という条件が含まれる。また前提条件には、(2)少なくとも上流触媒11が活性化している、(3)触媒前センサ17および触媒後センサ18が活性化している、(4)現トリップ中で診断が未完了である、の各条件が含まれる。
【0091】
(2)については、ECU20によって推定される少なくとも上流触媒11の温度が所定の活性温度域に入っていれば、成立する。(3)については、ECU20によって推定される触媒前センサ17および触媒後センサ18の素子温度が所定の活性温度域に入っていれば、成立する。(4)について、トリップとは、エンジンの1回の始動から停止までの期間のことをいう。本実施形態では1トリップ当たりに1回、診断を実行するようにしており、現トリップ中で未だ診断が1回も完了していない場合に(4)が成立する。
【0092】
前提条件が成立していない場合、終了され、前提条件が成立している場合には、ステップS102においてアクティブ空燃比制御が実行される。
【0093】
ステップS103では、触媒前センサ17により検出された実際の触媒前空燃比A/Ffとストイキとの比較により、ストイキ跨ぎが発生しているか否かが判断される。
ストイキ跨ぎが発生している場合、ステップS104において、反酸素吸蔵容量AOSCが計測ないし積算される。ここで反酸素吸蔵容量AOSCには反吸蔵酸素量AOSCaと反放出酸素量AOSCbが含まれる。
【0094】
次にステップS105で、中止判定値βが算出される。ECU20は、前回計測された酸素吸蔵容量平均値OSCavの値をメモリ(RAM)から読み出すと共に、予め記憶しておいた図9に示すようなマップから、酸素吸蔵容量平均値OSCavに対応した中止判定値βを算出する。マップでは、前述したように、酸素吸蔵容量平均値OSCavの値が小さいほど(触媒劣化度が大きいほど)小さな中止判定値βが設定されている。
【0095】
次いでステップS106で、現在計測中ないし積算中の反酸素吸蔵容量AOSCの値と、中止判定値βとが比較される。なお反酸素吸蔵容量AOSCの積算値は目標空燃比A/Ftが切り替えられる度にリセットされる。
【0096】
反酸素吸蔵容量AOSCの値が中止判定値βを超えている場合、ステップS107に進んで、アクティブ空燃比制御が中止される。これにより診断も同時に中止される。そしてルーチンが終了される。
【0097】
他方、ステップS103でストイキ跨ぎが発生していないと判断された場合、ステップS108に進んで、酸素吸蔵容量OSCが計測ないし積算される。ここで酸素吸蔵容量OSCには吸蔵酸素量OSCaと放出酸素量OSCbが含まれる。
【0098】
次いでステップS109では、アクティブ空燃比制御が終了したか否か、すなわちアクティブ空燃比制御の所定周期数が終了したか否かが判断される。
アクティブ空燃比制御が終了してなければルーチンが終了される。他方、アクティブ空燃比制御が終了した場合には、ステップS110に進んで、酸素吸蔵容量平均値OSCavが算出されると共に、この値が異常判定値αと比較される。
【0099】
酸素吸蔵容量平均値OSCavが異常判定値αより大きい場合、ステップS111で触媒は正常と判定される。他方、酸素吸蔵容量平均値OSCavが異常判定値α以下の場合、ステップS112で触媒は異常と判定される。そしてルーチンが終了される。
【0100】
以上、本発明の実施形態について詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば内燃機関の用途や形式等は任意であり、自動車用以外であってもよいし、直噴式等であってもよい。
【0101】
本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 内燃機関
6 排気管
11 上流触媒
12 インジェクタ
17 触媒前センサ
18 触媒後センサ
20 電子制御ユニット(ECU)
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の異常診断に係り、特に、内燃機関の排気通路に配置された触媒の異常を診断する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用内燃機関において、その排気系には排気ガスを浄化するための触媒が設置されている。この触媒の中には酸素吸蔵能(O2ストレージ能)を有するものがある。この酸素吸蔵能を有する触媒は、触媒に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比(ストイキ)よりも大きくなると、即ちリーンになると排気ガス中に存在する過剰酸素を吸蔵し、排気ガスの空燃比がストイキよりも小さくなると、即ちリッチになると吸蔵した酸素を放出する。例えばガソリンエンジンでは触媒に流入する排気ガスがストイキ近傍となるよう空燃比制御が行われるが、酸素吸蔵能を有する三元触媒を使用すると、運転条件により実際の空燃比がストイキから多少ズレてしまっても、三元触媒の酸素吸蔵・放出作用により、かかる空燃比ズレを吸収することができる。
【0003】
一方、触媒が劣化すると触媒の浄化率が低下する。触媒の劣化度と酸素吸蔵能の低下度との間には相関関係がある。よって、酸素吸蔵能の低下を検出することで触媒の劣化ないし異常を検出することができる。一般的には、空燃比をリッチ及びリーンに交互に且つアクティブに切り替えるアクティブ空燃比制御を行い、触媒の酸素吸蔵容量を計測し、触媒の劣化を診断する方法(所謂Cmax法)が採用される。
【0004】
一般的に、アクティブ空燃比制御および診断は、所定条件が満たされる場合に限って実行される。またアクティブ空燃比制御および診断の実行中に所定条件が満たされなくなった場合、診断精度確保等の観点から、それらが中止される。
【0005】
なお、特許文献1に記載の装置では、診断完了前にアクティブ空燃比制御が中断された場合、中断までに積算されたパラメータを一旦保持する。そして所定条件が再び満たされたときにアクティブ空燃比制御を再開し、保持しておいたパラメータと再開後に積算されたパラメータとを用いて診断を完了させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−162681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、実際には、所定条件が満たされてアクティブ空燃比制御が実行され、空燃比がリーンおよびリッチの一方に切り替えられているときであっても、実際の空燃比が逆側、すなわちリーンおよびリッチの他方側になっていることがある。その原因は主に内燃機関の加速または減速、すなわち過渡運転がなされていることにある。
【0008】
このとき、その逆側になっているときの所定のパラメータを計測し、当該計測値が所定の判定値を超えたとき、過渡運転の度合いが高く所望の診断精度を確保できないとして、診断を中止することが考えられる。
【0009】
しかし、本発明者の鋭意研究によれば、中止の基準を定める判定値は、単なる一定値とすべきではないことが判明した。すなわち、単なる一定値とすると、適切なタイミングで診断を中止することができないことが判明した。
【0010】
そこで本発明は以上の事情に鑑みて創案されたものであり、その目的は、適切なタイミングで診断を中止することができる触媒異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一の態様によれば、
内燃機関の排気通路に配置された触媒に供給する排気ガスの空燃比を所定の中心空燃比を境にリーンおよびリッチに交互に切り替えるアクティブ空燃比制御を実行し、
前記空燃比のリーンへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリーン側になっているとき、前記触媒の吸蔵酸素量を計測すると共に、前記空燃比のリッチへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリッチ側になっているとき、前記触媒の放出酸素量を計測し、これら計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の値に基づいて触媒の異常を診断する装置であって、
前記空燃比のリーンへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリッチ側になっているとき、前記触媒の反吸蔵酸素量を計測すると共に、前記空燃比のリッチへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリーン側になっているとき、前記触媒の反放出酸素量を計測し、これら反吸蔵酸素量および反放出酸素量の一方の計測値が所定の判定値を超えたときに診断を中止し、
前記判定値を、所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の値に基づいて設定する
ことを特徴とする触媒異常診断装置が提供される。
【0012】
空燃比のリーンへの切り替え中に実際の空燃比が中心空燃比に対しリッチ側になっていると、本来酸素の吸蔵反応が行われるべきなのに、実際には逆の放出反応が生じていると考えられる。この放出された酸素量を表すパラメータが反吸蔵酸素量である。反吸蔵酸素量は、放出酸素量と同一の方法で、同一の演算式に基づいて計測される。つまり反吸蔵酸素量は放出酸素量と実質的に同じ性質の値である。空燃比のリーンへの切り替え中、実際の空燃比が中心空燃比に対しリーン側になっているときには吸蔵酸素量が計測されるが、実際の空燃比が中心空燃比に対しリッチ側になっているときには反吸蔵酸素量が計測される。このように吸蔵酸素量と反吸蔵酸素量とは、同一のリーンへの切り替え中に異なる期間で計測される値である。
【0013】
同様に、空燃比のリッチへの切り替え中に実際の空燃比が中心空燃比に対しリーン側になっていると、本来酸素の放出反応が行われるべきなのに、実際には逆の吸蔵反応が生じていると考えられる。この吸蔵された酸素量を表すパラメータが反放出酸素量である。反放出酸素量は、吸蔵酸素量と同一の方法で、同一の演算式に基づいて計測される。つまり反放出酸素量は吸蔵酸素量と実質的に同じ性質の値である。空燃比のリッチへの切り替え中、実際の空燃比が中心空燃比に対しリッチ側になっているときには放出酸素量が計測されるが、実際の空燃比が中心空燃比に対しリーン側になっているときには反放出酸素量が計測される。このように放出酸素量と反放出酸素量とは、同一のリッチへの切り替え中に異なる期間で計測される値である。
【0014】
これら吸蔵酸素量、放出酸素量、反吸蔵酸素量および反放出酸素量は、同一の方法で、同一の演算式に基づいて計測される。
【0015】
ところで、反吸蔵酸素量および反放出酸素量の一方の計測値が所定の判定値を超えたとき、所望の診断精度を確保できないとして、診断を中止する。そして判定値を、所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の値に基づいて設定する。こうすることで、触媒劣化度に応じた適切な判定値を設定し、診断の中止タイミングを適切化できる。
【0016】
好ましくは、所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の値が小さいほど、小さな前記判定値を設定する。
【0017】
好ましくは、前記所定回前の診断時が、1回前の診断時である。
【0018】
好ましくは、前記吸蔵酸素量および放出酸素量の両方の平均値に基づいて触媒の異常を診断し、前記判定値を、所定回前の診断時における前記平均値に基づいて設定する。
【0019】
好ましくは、前記平均値が小さいほど、前記判定値を小さくする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、適切なタイミングで診断を中止することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態の構成を示す概略図である。
【図2】触媒の構成を示す概略断面図である。
【図3】アクティブ空燃比制御のタイムチャートである。
【図4】図3と同様のタイムチャートであり、酸素吸蔵容量の計測方法を説明するための図である。
【図5】触媒前センサ及び触媒後センサの出力特性を示すグラフである。
【図6】ストイキ跨ぎが生じたときの空燃比の変化と、吸蔵酸素量および反吸蔵酸素量の積算の様子とを示すタイムチャートである。
【図7】オンボードで酸素吸蔵容量と反酸素吸蔵容量とを計測した場合の試験結果を示すグラフである。
【図8】異常診断処理のフローチャートである。
【図9】中止判定値算出マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適実施形態を添付図面に基づき説明する。
【0023】
図1は、本実施形態の構成を示す概略図である。図示されるように、内燃機関たるエンジン1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストン4を往復移動させることにより動力を発生する。本実施形態のエンジン1は自動車用多気筒エンジン(1気筒のみ図示)であり、火花点火式内燃機関、より具体的にはガソリンエンジンである。
【0024】
エンジン1のシリンダヘッドには、吸気ポートを開閉する吸気弁Viと、排気ポートを開閉する排気弁Veとが気筒ごとに配設されている。各吸気弁Viおよび各排気弁Veは図示しないカムシャフトによって開閉させられる。また、シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気に点火するための点火プラグ7が気筒ごとに取り付けられている。
【0025】
各気筒の吸気ポートは吸気マニホールドを介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気集合通路をなす吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、エンジンに流入する空気量すなわち吸入空気量を検出するためのエアフローメータ5と、電子制御式スロットルバルブ10とが設けられている。なお吸気ポート、吸気マニホールド、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
【0026】
吸気通路、特に吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタすなわち燃料噴射弁12が気筒ごとに配設される。インジェクタ12から噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気をなし、この混合気が吸気弁Viの開弁時に燃焼室3に吸入され、ピストン4で圧縮され、点火プラグ7で点火燃焼させられる。
【0027】
一方、各気筒の排気ポートは、排気マニホールドを介して排気集合通路をなす排気管6に接続されている。これら排気ポート、排気マニホールド及び排気管6により排気通路が形成される。排気管6には、その上流側と下流側に、酸素吸蔵能を有する三元触媒からなる触媒、即ち上流触媒11及び下流触媒19が直列に設けられている。例えば、上流触媒11は排気マニホールドの直後に配置され、下流触媒19は車両の床下などに配置される。
【0028】
上流触媒11の上流側及び下流側に、それぞれ、酸素濃度に基づいて排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ、即ち触媒前センサ17及び触媒後センサ18が設けられている。図5に示すように、触媒前センサ17は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能で、その空燃比に比例した値の信号を出力する。他方、触媒後センサ18は所謂O2センサからなり、理論空燃比を境に出力値が急変する特性(Z特性)を持つ。
【0029】
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10及びインジェクタ12等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU20には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、触媒前センサ17、触媒後センサ18のほか、エンジン1のクランク角を検出するクランク角センサ14、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、インジェクタ12、スロットルバルブ10等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。
【0030】
上流触媒11及び下流触媒19は、これに流入する排気ガスの空燃比A/Fが理論空燃比(ストイキ、例えばA/Fs=14.6)のときにNOx ,HCおよびCOを同時に高効率で浄化する。よってこの特性に合わせて、ECU20は、エンジンの通常運転時、上流触媒11及び下流触媒19に流入する排気ガスの空燃比がストイキに一致するよう、燃焼室3に供給される混合気の空燃比(具体的にはインジェクタ12からの燃料噴射量)を触媒前センサ17の出力に基づきフィードバック制御する。
【0031】
ここで、異常診断の対象となる上流触媒11についてより詳細に説明する。なお下流触媒19も上流触媒11と同様に構成されている。図2に示すように、触媒11においては、図示しない担体基材の表面上にコート材31が被覆され、このコート材31に微粒子状の触媒成分32が多数分散配置された状態で担持され、触媒11内部で露出されている。触媒成分32は主にPt,Pd等の貴金属からなり、NOx ,HCおよびCOといった排ガス成分を反応させる際の活性点となる。他方、コート材31は、排気ガスと触媒成分32との界面における反応を促進させる助触媒の役割を担うと共に、雰囲気ガスの空燃比に応じて酸素を吸放出可能な酸素吸蔵成分を含む。酸素吸蔵成分は例えば二酸化セリウムCeO2やジルコニアからなる。なお、「吸蔵」と同義で「吸収」または「吸着」を用いることもある。
【0032】
例えば、触媒内の雰囲気ガスが理論空燃比よりリーンであると、触媒成分32の周囲に存在する酸素吸蔵成分が雰囲気ガスから酸素を吸収し、この結果NOxが還元され、浄化される。他方、触媒内の雰囲気ガスが理論空燃比よりリッチであると、酸素吸蔵成分に吸蔵されていた酸素が放出され、この放出された酸素によりHCおよびCOが酸化され、浄化される。
【0033】
この酸素吸放出作用により、通常のストイキ空燃比制御に際して実際の空燃比がストイキに対して多少ばらついたとしても、このばらつきを吸収することができる。
【0034】
ところで、新品状態の触媒11では前述したように多数の触媒成分32が均等に分散配置されており、排気ガスと触媒成分32との接触確率が高い状態に維持されている。しかしながら、触媒11が劣化してくると、一部の触媒成分32に消失が見られるほか、触媒成分32同士が排気熱で焼き固まって焼結状態になるものがある(図の破線参照)。こうなると排気ガスと触媒成分32との接触確率が低下し、浄化率を落としめる原因となる。そしてこのほかに、触媒成分32の周囲に存在するコート材31の量、即ち酸素吸蔵成分の量が減少し、酸素吸蔵能自体が低下する。
【0035】
このように、触媒11の劣化度と触媒11の酸素吸蔵能低下度との間には相関関係がある。そこで本実施形態では、特にエミッションへの影響が大きい上流触媒11の酸素吸蔵能を検出することにより、上流触媒11の劣化度を検出し、上流触媒11の異常を診断することとしている。ここで触媒11の酸素吸蔵能は、現状の触媒11が吸蔵し得る最大酸素量である酸素吸蔵容量(OSC;O2 Storage Capacity、単位はg)の大きさによって表される。
【0036】
本実施形態の触媒異常診断は前述のCmax法によるものを基本とする。そして異常診断に際しては、ECU20によりアクティブ空燃比制御が実行される。すなわちECU20は、触媒11に供給される排気ガスの空燃比、具体的には燃焼室3内の混合気の空燃比を、中心空燃比であるストイキA/Fsを境にリッチ及びリーンに交互に且つアクティブに所定周期分切り替える。
【0037】
また、アクティブ空燃比制御および診断は、所定の前提条件が満たされているときに限って実行される。この前提条件については後述する。
【0038】
以下、図3及び図4を用いて、上流触媒11の酸素吸蔵容量の計測方法を説明する。
【0039】
図3(A)において、破線は目標空燃比A/Ft、実線は触媒前センサ17の出力(但し触媒前空燃比A/Ffrへの換算値)を示す。また図3(B)において、実線は触媒後センサ18の出力(但しその出力電圧Vr)を示す。
【0040】
図示するように、時刻t1より前では、空燃比をリーンに切り替えるリーン制御が実行され、目標空燃比A/Ftはリーン空燃比A/Fl(例えば15.1)とされ、触媒11には、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリーンガスが供給されている。このとき触媒11は酸素を吸蔵し続けているが、飽和状態即ち満杯まで酸素を吸蔵した時点でそれ以上酸素を吸蔵できなくなる。この結果、リーンガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後センサ18の出力がリーン側に変化し、出力電圧Vrが所定のリーン判定値VL(例えば0.21V)に達した時点t1で、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Fr(例えば14.1)に切り替えられる。これによりリッチ制御が開始され、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリッチガスが供給されるようになる。
【0041】
リッチガスが供給されると、触媒11は吸蔵酸素を放出し続ける。やがて触媒11から吸蔵酸素が放出され尽くすとその時点で触媒11は酸素を放出できなくなり、リッチガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後センサ18の出力がリッチ側に変化し、出力電圧Vrが所定のリッチ判定値VR(例えば0.59V)に達した時点t2で、目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flに切り替えられる。これにより再びリーン制御が開始され、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリーンガスが供給されるようになる。
【0042】
再び、触媒11が満杯まで酸素を吸蔵し、触媒後センサ18の出力電圧Vrがリーン判定値VLに達すると、その時点t3で、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられ、リッチ制御が開始される。
【0043】
こうして、触媒後センサ18の出力が反転する度に、リーン制御とリッチ制御とが交互に繰り返し実行される。
【0044】
このアクティブ空燃比制御の実行中、次の方法で触媒11の酸素吸蔵容量OSCが計測される。
【0045】
触媒11の有する酸素吸蔵容量が大きいほど、酸素を吸蔵或いは放出し続けることのできる時間が長くなる。つまり、触媒が劣化していない場合は触媒後センサ出力Vrの反転周期(例えばt1からt2までの時間)が長くなり、触媒の劣化が進むほどその反転周期は短くなる。
【0046】
そこで、このことを利用して酸素吸蔵容量OSCが次のようにして計測される。図4に示すように、時刻t1で目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられた直後、僅かに遅れて実際値としての触媒前空燃比A/Ffがリッチ空燃比A/Frに切り替わる。そして触媒前空燃比A/FfがストイキA/Fsに達した時点t11から、次に触媒後センサ出力Vrが反転する時点t2まで、次式(1)により、所定の演算周期毎の酸素吸蔵容量dOSCが逐次的に算出され、且つこの酸素吸蔵容量dOSCが時刻t11から時刻t2まで逐次的に積算される。こうして、リッチ制御時における最終積算値としての酸素吸蔵容量OSC、すなわち図4にOSCbで示す放出酸素量が計測される。
【0047】
【数1】
【0048】
Qは燃料噴射量であり、空燃比差ΔA/Fに燃料噴射量Qを乗じるとストイキに対し不足又は過剰分の空気量を算出できる。σは空気に含まれる酸素割合(約0.23)を表す定数である。
【0049】
リーン制御時にも同様に酸素吸蔵容量、すなわち図4にOSCaで示す吸蔵酸素量が計測される。この計測も同様に前式(1)に基づいて行われる。そしてリッチ制御とリーン制御が交互に行われる度に、放出酸素量と吸蔵酸素量が交互に計測される。
【0050】
こうして複数ずつの放出酸素量と吸蔵酸素量との計測値が得られたならば、次の方法により触媒の正異常判定が行われる。
【0051】
まずECU20は、これら放出酸素量と吸蔵酸素量との計測値の平均値OSCavを算出する。そしてこの平均値OSCavを所定の異常判定値αと比較する。ECU20は、平均値OSCavが異常判定値αより大きいときには触媒11を正常と判定し、平均値OSCavが異常判定値α以下のときには触媒11を異常と判定する。なお触媒を異常と判定した場合、その事実をユーザに知らせるため、チェックランプ等の警告装置(図示せず)を起動させるのが好ましい。
【0052】
なお、本実施形態では診断精度向上のため、複数ずつの放出酸素量と吸蔵酸素量との計測値の平均値OSCavに基づき正異常判定するが、この例に限られない。吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の計測値に基づいて正異常判定すればよい。例えば、吸蔵酸素量の計測値のみに基づいて正異常判定することが可能であり、この場合、複数の吸蔵酸素量計測値の平均値に基づいて正異常判定してもよく、任意の一つの吸蔵酸素量計測値に基づいて正異常判定してもよい。同様に、放出酸素量の計測値のみに基づいて正異常判定することが可能であり、この場合、複数の放出酸素量計測値の平均値に基づいて正異常判定してもよく、任意の一つの放出酸素量計測値に基づいて正異常判定してもよい。他方、各一つずつの放出酸素量と吸蔵酸素量との計測値の平均値に基づき正異常判定してもよい。
【0053】
さて、前述したように、実際には、所定の前提条件が満たされてアクティブ空燃比制御が実行され、目標空燃比A/Ftがリーンおよびリッチの一方に切り替えられているときであっても、実際の触媒前空燃比A/Ffが逆側、すなわちストイキを挟んでリーンおよびリッチの他方側になっていることがある。これを便宜上「ストイキ跨ぎ」(または「中心跨ぎ」)という。こうなる原因は、主に、内燃機関の加速または減速、すなわち過渡運転がなされていることにある。
【0054】
ここで前提条件には、例えば、実際の吸入空気量Gaと触媒温度Tcとが所定の関係を満たしているという条件が含まれる。実際の吸入空気量Gaはエアフローメータ5で検出される。実際の触媒温度Tcは、エンジン運転状態に基づきECU20により推定されるが、温度センサで直接検出してもよい。
【0055】
エンジンが定常運転している場合、即ちエンジンの回転速度と負荷がほぼ一定の場合、吸入空気量Gaと触媒温度Tcとの間には一定の相関関係が存在する。他方、両者が大きくかけ離れているときは、エンジンが定常運転状態になく、加速又は減速即ち過渡運転が行われている状態とみなせる。
【0056】
そこで定常運転時の吸入空気量Gaと触媒温度Tcとの関係を予めマップ化し、マップ値を中心とした所定範囲内に両者の実際値があるときに、定常運転中であるとしてアクティブ空燃比制御の実行を許可する。逆に、その所定範囲内に両者の実際値がないときは、非定常運転中であるとしてアクティブ空燃比制御の実行を禁止する。こうすることで一定以上の診断精度を確保可能となる。
【0057】
もっとも、この前提条件をあまりに狭めてしまうと診断機会を過度に失う。例えば1トリップ当たりに少なくとも1回、診断を行う要請がある。よって診断精度と診断機会とのバランスを考慮しつつも、前提条件はある程度広めに設定されることとなる。
【0058】
アクティブ空燃比制御が開始された後、激しい過渡運転がなされれば、前提条件自体が満たされなくなってアクティブ空燃比制御は途中で中止される。しかし、それ程激しい過渡運転でなく、前提条件が満たされる範囲内での過渡運転であれば、アクティブ空燃比制御は中止されることなく続行される。それ故、前述のストイキ跨ぎ現象が起こるのである。
【0059】
図6(A)に、ストイキ跨ぎが生じたときの空燃比の変化を示す。時刻t1で目標空燃比A/Ftがリッチからリーンに切り替えられ、リーン制御が開始されている。これに追従するよう、混合気の空燃比が切り替えられ、実際の触媒前空燃比A/Ffが時刻t2以降で一旦ストイキ以上となる。しかし、過渡運転がなされているため、その後実際の触媒前空燃比A/Ffは時刻t3以降でストイキ以下となり、ストイキ跨ぎ現象が発生する。その後も触媒前空燃比A/Ffは比較的荒れており、頻繁に増減し、結局、t3〜t4,t5〜t6,t7〜t8の各期間でストイキ跨ぎ現象が発生している。
【0060】
ストイキ跨ぎ現象の発生中は、目標空燃比A/Ftとは逆側のガスが触媒に供給され、触媒表面で逆の反応が生じていると考えられる。すなわち、図示例の場合だと、目標空燃比A/Ftがリーンなのに触媒にはリッチガスが供給され、本来酸素の吸蔵反応が行われるべきなのに実際には酸素の放出反応が生じていると考えられる。
【0061】
このようなストイキ跨ぎ現象が発生すると、酸素吸蔵容量OSCの計測精度が低下し、ひいては診断精度が低下する。そこでストイキ跨ぎ現象の発生期間(「跨ぎ有り期間」という)に、所定のパラメータである反酸素吸蔵容量AOSCを計測する。そしてこの計測値が所定の判定値を超えたときには、所望の診断精度を確保できない程の過渡運転がなされているとして、アクティブ空燃比制御および診断を中止する。ここで、「酸素吸蔵容量OSC」とは「吸蔵酸素量OSCa」と「放出酸素量OSCb」とを包括する用語であり、「反酸素吸蔵容量AOSC」とは「反吸蔵酸素量AOSCa」と「反放出酸素量AOSCb」とを包括する用語である。
【0062】
図6(B)に示すように、触媒前センサ17で検出された実際の触媒前空燃比A/Ffが最初にストイキに達した時点t2以降、通常通り、ストイキ以上となっている期間(t2〜t3,t4〜t5,t6〜t7、これを「跨ぎ無し期間」という)内に、前式(1)に基づき、演算周期毎の吸蔵酸素量が逐次的に算出、積算される。また、跨ぎ有り期間では吸蔵酸素量OSCaの積算が停止される。本実施形態の場合、停止時の積算値がホールドされる。跨ぎ有り期間では逆の反応が生じていると考えられるから、減算してもよいが、本実施形態の場合は積算値が減少するのを回避するためホールドすることとしている。
【0063】
他方、図6(C)に示すように、最初にストイキ跨ぎが発生した時点t3以降、跨ぎ有り期間内に、前式(1)に同様に基づき、演算周期毎の反吸蔵酸素量が逐次的に算出、積算される。即ち、反吸蔵酸素量AOSCaは、放出酸素量OSCbと同一の方法で、同一の演算式(1)に基づき、実際の触媒前空燃比A/FfとストイキA/Fsとの差に基づき算出、積算または計測される。なお跨ぎ無し期間では反吸蔵酸素量AOSCaの積算が停止され、且つ停止時の積算値がホールドされる。
【0064】
このように、跨ぎ有り期間内に本来とは逆の放出反応が生じているとき、放出された酸素量を表すパラメータが反吸蔵酸素量AOSCaである。反吸蔵酸素量AOSCaは、放出酸素量OSCbと同一の方法で、同一の演算式(1)に基づき積算計測され、放出酸素量OSCbと実質的に同じ性質の値である。空燃比のリーンへの切り替え中、跨ぎ無し期間では吸蔵酸素量OSCaが積算計測されるが、跨ぎ有り期間では反吸蔵酸素量AOSCaが積算計測される。このように吸蔵酸素量OSCaと反吸蔵酸素量AOSCaとは、同一のリーンへの切り替え中に異なる期間で計測される値である。
【0065】
図示例では、時刻t8で反吸蔵酸素量AOSCaの計測値ないし積算値が判定値β(中止判定値という)を超えており、これと同時にアクティブ空燃比制御および診断が中止されている。この時刻t8は触媒後センサ出力がリーンに反転する前のタイミングである。そしてこの時以降、目標空燃比A/Ftはストイキに切り替えられ、ストイキ制御が実施されている。
【0066】
なお、上述のストイキ跨ぎの例はリーン制御中に実際の触媒前空燃比A/Ffがストイキよりリッチになる例であったが、逆の例すなわち、リッチ制御中に実際の触媒前空燃比A/Ffがストイキよりリーンになる場合も同様である。
【0067】
この場合、跨ぎ有り期間内に本来とは逆の吸蔵反応が生じていると考えられ、この吸蔵された酸素量を表すパラメータが反放出酸素量AOSCbである。反放出酸素量AOSCbは、吸蔵酸素量OSCaと同一の方法で、同一の演算式(1)に基づき積算計測され、吸蔵酸素量OSCaと実質的に同じ性質の値である。空燃比のリッチへの切り替え中、跨ぎ無し期間では放出酸素量OSCbが積算計測されるが、跨ぎ有り期間では反放出酸素量AOSCbが積算計測される。このように放出酸素量OSCbと反放出酸素量AOSCbとは、同一のリッチへの切り替え中に異なる期間で計測される値である。
【0068】
以上で分かるように、吸蔵酸素量OSCa、放出酸素量OSCb、反吸蔵酸素量AOSCaおよび反放出酸素量AOSCbは、同一の方法で、同一の演算式(1)に基づいて積算計測される。
【0069】
ところで、本発明者の鋭意研究によれば、中止の基準を定める中止判定値βは単なる一定値とすべきではなく、逆に単なる一定値とすると適切なタイミングで診断を中止できないことが判明した。
【0070】
この点を図7の試験結果に基づいて説明する。図は、本実施形態の如き内燃機関1が搭載された車両において、オンボードで酸素吸蔵容量OSC(横軸)と反酸素吸蔵容量AOSC(縦軸)とを計測した場合の試験結果を示す。ここでいう酸素吸蔵容量OSCとは、1回の診断時に複数ずつ計測された吸蔵酸素量OSCaと放出酸素量OSCbとの平均値を意味し、反酸素吸蔵容量AOSCとは、アクティブ空燃比制御および診断を途中で中止することなく、1回の診断時に複数ずつ計測された反吸蔵酸素量AOSCaと反放出酸素量AOSCbとの平均値を意味する。酸素吸蔵容量OSCの値が大きいほど触媒の劣化度は小さい。
【0071】
図中の各プロットは次のデータを表す。
【0072】
黒菱形:劣化がかなり進んだ異常レベルの触媒を用い、定常運転とみなせるような静かな走行運転をした場合のデータ。
【0073】
黒三角:劣化が少ない正常レベルの触媒を用い、定常運転とみなせるような静かな走行運転をした場合のデータ。
【0074】
白四角:劣化がかなり進んだ異常レベルの触媒を用い、非定常運転とみなせるような荒い走行運転をした場合のデータ。ここでいう荒い走行運転とは、ドライバが故意に且つ頻繁にアクセルペダルをオンオフして走行する、いわゆる意地悪評価パターンで走行運転した場合のことをいう。
【0075】
白三角:劣化が少ない正常レベルの触媒を用い、非定常運転とみなせるような荒い走行運転をした場合のデータ。
【0076】
なお、当該試験結果に基づいて設定する好適な異常判定値αを図中に示す。
【0077】
白三角と白四角に着目すると分かるように、荒い走行運転をした場合の反酸素吸蔵容量AOSCの大きさは、正常触媒と異常触媒とで異なり、正常触媒では矢印Aで示すように大きくなり、異常触媒では矢印Bで示すように小さくなる傾向にある。また反酸素吸蔵容量AOSCのバラツキ幅も、正常触媒では矢印Aで示すように大きくなり、異常触媒では矢印Bで示すように小さくなる傾向にある。
【0078】
この理由は次の通りである。触媒の劣化度に応じてアクティブ空燃比制御の反転周期(リーンまたはリッチ制御期間)の長さは異なり、劣化度の小さい触媒では長くなり、劣化度の大きい触媒では短くなる傾向にある。すると、1反転周期内でストイキ跨ぎが発生する確率も、劣化度の小さい触媒では高くなり、劣化度の大きい触媒では低くなる。よって、反転周期の長い正常触媒では跨ぎ有り期間が長くなり、反酸素吸蔵容量AOSCの大きさ及びバラツキ幅が大きくなる傾向にある。他方、反転周期の短い異常触媒では跨ぎ有り期間が短くなり、反酸素吸蔵容量AOSCの大きさ及びバラツキ幅が小さくなる傾向にある。
【0079】
ここで、反酸素吸蔵容量AOSCの比較対象となる中止判定値は、静かな走行と荒い走行の境目を規定した値であるといえる。仮に、比較例として、触媒劣化度とは無関係な図示の如き一定の中止判定値βxを想定すると、この中止判定値βxでは、正常触媒を基準としているので、異常触媒の場合に適切な値とならない。すなわち異常触媒の場合だと中止判定値βxが大きすぎ、アクティブ空燃比制御および診断を中止するタイミングが遅すぎ、あるいは中止の頻度が少なすぎ、あるいは全く中止できない結果となる。
【0080】
図示しないが、逆に異常触媒を基準として、より小さな一定の中止判定値βxを想定すると、正常触媒の場合に中止判定値βxが小さすぎ、アクティブ空燃比制御および診断を中止するタイミングが早すぎ、あるいは中止の頻度が多すぎる結果となる。
【0081】
このように、触媒劣化度を考慮せず一定の中止判定値を設定しても、中止タイミングが適切とならず、診断精度と診断機会の好適なバランスを得ることができない。
【0082】
そこで以上の事情に鑑み、本実施形態では、触媒劣化度に応じて中止判定値を変えるようにしている。具体的には、図示の中止判定値βのように、触媒劣化度が大きいほど(酸素吸蔵容量OSCの値が小さいほど)、小さい中止判定値βを設定するようにしている。
【0083】
こうすることで、触媒劣化度に応じた適切な中止判定値βを設定することができ、アクティブ空燃比制御および診断の中止タイミングを適切化し、診断精度と診断機会の好適なバランスを得ることが可能となる。
【0084】
ここで、触媒劣化度は吸蔵酸素量OSCaおよび放出酸素量OSCbの少なくとも一方によって表すことができる。また現状の触媒の劣化度は、所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量OSCaおよび放出酸素量OSCbの少なくとも一方によって表すことができる。よって、本実施形態では、所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量OSCaおよび放出酸素量OSCbの少なくとも一方の値に基づいて中止判定値βを設定する。
【0085】
特に、本実施形態では、1回の診断時に複数ずつの吸蔵酸素量OSCaおよび放出酸素量OSCbの平均値OSCavを求め、この平均値OSCavにより触媒が正常か異常かを判定している。この平均値OSCavは触媒劣化度を表す非常に好適な値である。また、ある診断時において、その診断時に最も近い1回前(前回)の診断時に計測された平均値OSCavが、現状の触媒の劣化度を最も良く表していると考えられる。
【0086】
よって本実施形態では、前回の診断時に計測された平均値OSCavに基づいて中止判定値βを設定する。
【0087】
もっとも、必ずしも前回診断時に計測された平均値OSCavを用いる必要はない。現状の触媒劣化度を表していればよく、2回あるいは3回前の診断時に計測された平均値OSCavを用いてもよい。平均値OSCavの代わりに吸蔵酸素量OSCaおよび放出酸素量OSCbの一方の値を用いてもよい。すなわち、触媒の正異常判定に用いられ且つ触媒劣化度を表す所定回前の診断時の酸素吸蔵容量計測値(例えば1値もしくは平均値としての吸蔵酸素量、1値もしくは平均値としての放出酸素量、またはこれらの平均値)に基づき、中止判定値βが設定され、当該酸素吸蔵容量計測値が小さいほど小さい中止判定値βが設定される。
【0088】
中止判定値βの設定の仕方については、例えば図7に示すデータに基づくとすると、静かな走行をしたときのデータのうち、反酸素吸蔵容量AOSCが最大のデータを基準に設定する。当該最大データについては、正常触媒の場合プロットaが該当し、異常触媒の場合プロットbが該当する。そこでこれらプロットa,bに対し反酸素吸蔵容量AOSCが僅かに大きくなるようなラインを中止判定値βとして設定する。これにより、反酸素吸蔵容量AOSCが中止判定値βより大きいときには荒い走行、反酸素吸蔵容量AOSCが中止判定値β以下のときには静かな走行として、両者を好適に切り分けることができる。
【0089】
図8に、本実施形態に係る異常診断処理のルーチンを示す。このルーチンはECU20により所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
【0090】
まずステップS101では、所定の前提条件が成立しているか否かが判断される。この前提条件には、前述したように、(1)実際の吸入空気量Gaと触媒温度Tcとが所定の関係を満たしている、という条件が含まれる。また前提条件には、(2)少なくとも上流触媒11が活性化している、(3)触媒前センサ17および触媒後センサ18が活性化している、(4)現トリップ中で診断が未完了である、の各条件が含まれる。
【0091】
(2)については、ECU20によって推定される少なくとも上流触媒11の温度が所定の活性温度域に入っていれば、成立する。(3)については、ECU20によって推定される触媒前センサ17および触媒後センサ18の素子温度が所定の活性温度域に入っていれば、成立する。(4)について、トリップとは、エンジンの1回の始動から停止までの期間のことをいう。本実施形態では1トリップ当たりに1回、診断を実行するようにしており、現トリップ中で未だ診断が1回も完了していない場合に(4)が成立する。
【0092】
前提条件が成立していない場合、終了され、前提条件が成立している場合には、ステップS102においてアクティブ空燃比制御が実行される。
【0093】
ステップS103では、触媒前センサ17により検出された実際の触媒前空燃比A/Ffとストイキとの比較により、ストイキ跨ぎが発生しているか否かが判断される。
ストイキ跨ぎが発生している場合、ステップS104において、反酸素吸蔵容量AOSCが計測ないし積算される。ここで反酸素吸蔵容量AOSCには反吸蔵酸素量AOSCaと反放出酸素量AOSCbが含まれる。
【0094】
次にステップS105で、中止判定値βが算出される。ECU20は、前回計測された酸素吸蔵容量平均値OSCavの値をメモリ(RAM)から読み出すと共に、予め記憶しておいた図9に示すようなマップから、酸素吸蔵容量平均値OSCavに対応した中止判定値βを算出する。マップでは、前述したように、酸素吸蔵容量平均値OSCavの値が小さいほど(触媒劣化度が大きいほど)小さな中止判定値βが設定されている。
【0095】
次いでステップS106で、現在計測中ないし積算中の反酸素吸蔵容量AOSCの値と、中止判定値βとが比較される。なお反酸素吸蔵容量AOSCの積算値は目標空燃比A/Ftが切り替えられる度にリセットされる。
【0096】
反酸素吸蔵容量AOSCの値が中止判定値βを超えている場合、ステップS107に進んで、アクティブ空燃比制御が中止される。これにより診断も同時に中止される。そしてルーチンが終了される。
【0097】
他方、ステップS103でストイキ跨ぎが発生していないと判断された場合、ステップS108に進んで、酸素吸蔵容量OSCが計測ないし積算される。ここで酸素吸蔵容量OSCには吸蔵酸素量OSCaと放出酸素量OSCbが含まれる。
【0098】
次いでステップS109では、アクティブ空燃比制御が終了したか否か、すなわちアクティブ空燃比制御の所定周期数が終了したか否かが判断される。
アクティブ空燃比制御が終了してなければルーチンが終了される。他方、アクティブ空燃比制御が終了した場合には、ステップS110に進んで、酸素吸蔵容量平均値OSCavが算出されると共に、この値が異常判定値αと比較される。
【0099】
酸素吸蔵容量平均値OSCavが異常判定値αより大きい場合、ステップS111で触媒は正常と判定される。他方、酸素吸蔵容量平均値OSCavが異常判定値α以下の場合、ステップS112で触媒は異常と判定される。そしてルーチンが終了される。
【0100】
以上、本発明の実施形態について詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば内燃機関の用途や形式等は任意であり、自動車用以外であってもよいし、直噴式等であってもよい。
【0101】
本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 内燃機関
6 排気管
11 上流触媒
12 インジェクタ
17 触媒前センサ
18 触媒後センサ
20 電子制御ユニット(ECU)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置された触媒に供給する排気ガスの空燃比を所定の中心空燃比を境にリーンおよびリッチに交互に切り替えるアクティブ空燃比制御を実行し、
前記空燃比のリーンへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリーン側になっているとき、前記触媒の吸蔵酸素量を計測すると共に、前記空燃比のリッチへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリッチ側になっているとき、前記触媒の放出酸素量を計測し、これら計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の値に基づいて触媒の異常を診断する装置であって、
前記空燃比のリーンへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリッチ側になっているとき、前記触媒の反吸蔵酸素量を計測すると共に、前記空燃比のリッチへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリーン側になっているとき、前記触媒の反放出酸素量を計測し、これら反吸蔵酸素量および反放出酸素量の一方の計測値が所定の判定値を超えたときに診断を中止し、
前記判定値を、所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の値に基づいて設定する
ことを特徴とする触媒異常診断装置。
【請求項2】
所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の値が小さいほど、小さな前記判定値を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒異常診断装置。
【請求項3】
前記所定回前の診断時が、1回前の診断時である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の触媒異常診断装置。
【請求項4】
前記吸蔵酸素量および放出酸素量の両方の平均値に基づいて触媒の異常を診断し、前記判定値を、所定回前の診断時における前記平均値に基づいて設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒異常診断装置。
【請求項5】
前記平均値が小さいほど、前記判定値を小さくする
ことを特徴とする請求項4に記載の触媒異常診断装置。
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置された触媒に供給する排気ガスの空燃比を所定の中心空燃比を境にリーンおよびリッチに交互に切り替えるアクティブ空燃比制御を実行し、
前記空燃比のリーンへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリーン側になっているとき、前記触媒の吸蔵酸素量を計測すると共に、前記空燃比のリッチへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリッチ側になっているとき、前記触媒の放出酸素量を計測し、これら計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の値に基づいて触媒の異常を診断する装置であって、
前記空燃比のリーンへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリッチ側になっているとき、前記触媒の反吸蔵酸素量を計測すると共に、前記空燃比のリッチへの切り替え中に実際の空燃比が前記中心空燃比に対しリーン側になっているとき、前記触媒の反放出酸素量を計測し、これら反吸蔵酸素量および反放出酸素量の一方の計測値が所定の判定値を超えたときに診断を中止し、
前記判定値を、所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の値に基づいて設定する
ことを特徴とする触媒異常診断装置。
【請求項2】
所定回前の診断時に計測された吸蔵酸素量および放出酸素量の少なくとも一方の値が小さいほど、小さな前記判定値を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒異常診断装置。
【請求項3】
前記所定回前の診断時が、1回前の診断時である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の触媒異常診断装置。
【請求項4】
前記吸蔵酸素量および放出酸素量の両方の平均値に基づいて触媒の異常を診断し、前記判定値を、所定回前の診断時における前記平均値に基づいて設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒異常診断装置。
【請求項5】
前記平均値が小さいほど、前記判定値を小さくする
ことを特徴とする請求項4に記載の触媒異常診断装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−226430(P2011−226430A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98850(P2010−98850)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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