説明

車両のバネ上制振制御装置

【課題】適切な条件下でバネ上制振制御を介入させること。
【解決手段】路面からの入力又は運転者要求トルクに伴い車体に発生するバネ上振動を抑制させる為のバネ上制振制御量の設定を行うバネ上制振制御手段(バネ上制振制御部3)と、そのバネ上制振制御量を実現させるように車両駆動装置(エンジン20や変速機30)の出力を制御してバネ上制振制御を実行する駆動制御手段(駆動制御部2)と、を備えた車両のバネ上制振制御装置において、車両10の運転状態、車両10の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じて、バネ上制振制御の実行を許可又は禁止すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に発生するバネ上振動を抑制させる車両のバネ上制振制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体に発生したバネ上振動を所定の振動抑制手段を利用して抑え込むバネ上制振制御と言われる技術が知られている。例えば、下記の特許文献1には、車両のバネ上振動を抑制させる為に車両の駆動力を制御するという技術が開示されている。この特許文献1においては、その駆動力をエンジントルクの増減によって制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−69472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、バネ上制振制御は、車体にバネ上振動が発生するからといって必ずしもその発生に合わせて常に実行すべきものではない。例えば、運転者が違和感を覚える等の理由からバネ上制振制御の介入を望まない場合も考えられ、車両はバネ上制振制御が介入せずとも別の制御(所謂VSC等の車両挙動安定化装置など)によって挙動の安定化等が図られているので、その場合には、運転者の意志を尊重することが望ましい。また、車両そのものの状態や走行状態によっては、正確なバネ上制振制御が行われない可能性も考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、適切な条件下においてバネ上制振制御を介入させるバネ上制振制御装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為、請求項1記載の発明では、路面からの入力又は運転者要求トルクに伴い車体に発生するバネ上振動を抑制させる為のバネ上制振制御量の設定を行うバネ上制振制御手段と、そのバネ上制振制御量を実現させるように車両駆動装置の出力を制御してバネ上制振制御を実行する駆動制御手段と、を備えた車両のバネ上制振制御装置において、車両の運転状態、車両の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じて、前記バネ上制振制御の実行を許可又は禁止している。
【0007】
また、上記目的を達成する為、請求項2記載の発明では、上記請求項1記載の車両のバネ上制振制御装置において、バネ上制振制御を実行していない状態で当該バネ上制振制御の実行が許可されたときに、車両の運転状態、車両の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じて、直ちに前記バネ上制振制御量を実現させるバネ上制振制御開始形態又は徐々に前記バネ上制振制御量を実現させていくバネ上制振制御開始形態の内の何れかにバネ上制振制御開始時の制御形態を設定するバネ上制振制御開始形態設定手段を更に設ける。そして、駆動制御手段については、そのバネ上制振制御開始形態設定手段の設定結果に基づいて車両駆動装置の出力の制御を行うよう構成する。
【0008】
また、上記目的を達成する為、請求項3記載の発明では、上記請求項1又は2に記載の車両のバネ上制振制御装置において、バネ上制振制御を実行している状態で当該バネ上制振制御の実行が禁止されたときに、車両の運転状態、車両の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じて、直ちに前記バネ上制振制御を終了させるバネ上制振制御終了形態又は徐々に前記バネ上制振制御を終了させていくバネ上制振制御終了形態の内の何れかにバネ上制振制御終了時の制御形態を設定するバネ上制振制御終了形態設定手段を更に設ける。そして、駆動制御手段については、そのバネ上制振制御終了形態設定手段の設定結果に基づいて車両駆動装置の出力の制御を行うよう構成する。
【0009】
更に、上記目的を達成する為、請求項4記載の発明では、路面からの入力又は運転者要求トルクに伴い車体に発生するバネ上振動を抑制させる為のバネ上制振制御量の設定を行うバネ上制振制御手段と、そのバネ上制振制御量を実現させるように車両駆動装置の出力を制御してバネ上制振制御を実行する駆動制御手段と、を備えた車両のバネ上制振制御装置において、その駆動制御手段は、車両の運転状態、車両の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じて、バネ上制振制御を開始させるように構成している。
【0010】
また更に、上記目的を達成する為、請求項5記載の発明では、路面からの入力又は運転者要求トルクに伴い車体に発生するバネ上振動を抑制させる為のバネ上制振制御量の設定を行うバネ上制振制御手段と、そのバネ上制振制御量を実現させるように車両駆動装置の出力を制御してバネ上制振制御を実行する駆動制御手段と、を備えた車両のバネ上制振制御装置において、その駆動制御手段は、車両の運転状態、車両の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じて、バネ上制振制御を終了させるように構成している。
【0011】
上記請求項1,4又は5に記載の車両のバネ上制振制御装置において、バネ上制振制御手段は、請求項6記載の発明の如く、車両を設定上限車速で抑える上限車速制限制御が実行される場合、バネ上制振制御の実行を禁止させる又はバネ上制振制御量を小さく抑えるように構成することが好ましい。
【0012】
ここで、前記バネ上振動は、請求項7記載の発明の如く、車両におけるバウンス方向又はピッチ方向の内の少なくとも何れか一方の振動を含むものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る車両のバネ上制振制御装置は、様々な条件の下で適切にバネ上制振制御を介入させたり、禁止させたりすることができる。更に、この車両のバネ上制振制御装置は、同様に様々な条件の下で、バネ上制振制御を適切なバネ上制振制御開始形態に合わせて開始させることができ、また、実行中のバネ上制振制御を適切なバネ上制振制御終了形態に合わせて終了させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明に係るバネ上制振制御装置の適用対象たる車両の一例を示す図である。
【図2】図2は、本発明に係るバネ上制振制御装置におけるバネ上振動の状態変数を説明する図である。
【図3】図3は、本発明に係る実施例1のバネ上制振制御装置の機能構成の一例を制御ブロックの形式で示した模式図である。
【図4】図4は、本発明に係るバネ上制振制御装置において仮定されるバネ上振動の力学的運動モデルの一例について説明する図である。
【図5】図5は、本発明に係るバネ上制振制御装置において仮定されるバネ上振動の力学的運動モデルの他の例について説明する図である。
【図6】図6は、本発明に係る実施例2のバネ上制振制御装置の機能構成の一例を制御ブロックの形式で示した模式図である。
【図7】図7は、上限車速制限制御における上限車速制限ゲインのマップデータの一例を説明する図である。
【図8】図8は、図6に示すバネ上制振制御装置の制御動作について説明するフローチャートである。
【図9】図9は、本発明に係る実施例2のバネ上制振制御装置の機能構成の他の例を制御ブロックの形式で示した模式図である。
【図10】図10は、図9に示すバネ上制振制御装置の制御動作について説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係るバネ上制振制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
[実施例1]
本発明に係る車両のバネ上制振制御装置の実施例1を図1から図5に基づいて説明する。
【0017】
本実施例1の車両のバネ上制振制御装置は、図1に示す電子制御装置(ECU)1の一機能として用意されたものとする。その電子制御装置1は、図示しないCPU(中央演算処理装置)、所定の制御プログラム等を予め記憶しているROM(Read Only Memory)、そのCPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory)、予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等によって構成されている。
【0018】
最初に、このバネ上制振制御装置が適用される車両10の一例を図1に示す。ここでは、車両前側の動力源からの出力(出力トルク)を変速機等の動力伝達装置を介して車両後側の駆動輪WRL,WRRに車輪駆動力として伝えるFR(フロントエンジン・リアドライブ)車を例に挙げて説明する。尚、本実施例1のバネ上制振制御装置は、そのFR車以外にも、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車や四輪駆動車にも適用可能である。また、ミッドシップエンジンやリヤエンジンの車両にも適用できる。更に、その動力源として少なくともエンジンとモータを備えた所謂ハイブリッド車両にも適用可能である。
【0019】
この車両10には、動力源としてエンジン20が搭載されている。ここでは、そのエンジン20として、燃焼室内で燃料を燃焼させ、これにより発生した熱エネルギを機械的エネルギに変換する熱機関であって、図示しないピストンの往復運動によって出力軸(クランクシャフト)から機械的な動力を出力する往復ピストン機関たる内燃機関を例示する。具体的には、このエンジン20としては、ガソリンを燃料とするガソリンエンジンや軽油を燃料とするディーゼルエンジン等がある。
【0020】
このエンジン20には図示しない燃料噴射装置等が設けられており、その燃料噴射装置等は、その動作が電子制御装置1のエンジン制御手段によって制御される。そのエンジン制御手段は、例えばディーゼルエンジンであれば燃料噴射量を制御することによってエンジン20の出力を調整し、変速機30の変速段に変動が無ければ、その出力に応じた車輪トルク(車輪駆動力)を駆動輪WRL,WRRに発生させる。つまり、このエンジン20は、その車輪トルク(車輪駆動力)の大きさを調整する車両駆動装置として機能するものであり、目標車輪トルク(目標車輪駆動力)を実現させる為の出力(駆動トルク、駆動力)の発生が可能である。尚、その燃料噴射量(換言するならば目標車輪トルク若しくは目標車輪駆動力又は目標車両駆動トルク若しくは目標車両駆動力)は、運転者のアクセルペダル41の操作量や自動運転モード等が設定されていればその要求値に応じて決まる。そのアクセルペダル41の操作量とは、アクセルペダル41に入力されたペダル踏力やアクセルペダル41の踏み込み量(つまり移動量)などのことであり、アクセルペダル操作量取得手段42によって検出や推定等される。
【0021】
このエンジン20の出力(駆動トルク、駆動力)は、変速機30に入力され、その際の変速段又は変速比に従い変速されてプロペラシャフト51に出力される。この変速機30は、手動変速機、有段自動変速機又は無段自動変速機等である。ここでは、この変速機30として有段自動変速機を例に挙げる。この変速機30には図示しない油圧調整手段が設けられており、その油圧調整手段は、その動作が電子制御装置1の変速制御手段によって制御される。その変速制御手段は、例えば要求車輪駆動力や車速等に基づいて設定した目標変速段となるように油圧調整手段を制御する。変速機30の出力は、その大きさが変速段(変速比)に応じて変わる。つまり、この変速機30は、変速段を切り替えることによってプロペラシャフト51への出力の大きさを変化させ、これにより駆動輪WRL,WRRの車輪トルク(車輪駆動力)の大きさを調整することができる。従って、この変速機30は、変速段又は変速比に応じてその出力(駆動トルク、駆動力)を変化させ、その車輪トルク(車輪駆動力)の大きさを調整する車両駆動装置として機能する。
【0022】
そのプロペラシャフト51の回転トルクは、差動装置52に入力されて左右夫々のドライブシャフト53RL,53RRに分配され、そのドライブシャフト53RL,53RRに連結された駆動輪WRL,WRRに車輪トルク(車輪駆動力)として伝えられる。
【0023】
この車両10は、その夫々の駆動輪WRL,WRRに車輪トルク(車輪駆動力)を発生させることによって前進又は後退する。この車両10には、その走行中の車両10を停止又は減速させる制動装置が用意されている。その制動装置は、夫々の車輪WFL,WFR,WRL,WRRに対して個別の大きさで目標車輪制動トルク(目標車輪制動力)を発生させることができるよう構成されている。ここでは、ブレーキ液圧の力を利用して係合要素間に摩擦力を発生させ、これにより車輪WFL,WFR,WRL,WRRに目標車輪制動トルク(目標車輪制動力)を働かせるものについて例示する。
【0024】
この制動装置は、運転者が操作するブレーキペダル61と、このブレーキペダル61に入力されたペダル踏力を倍化させる制動倍力手段(ブレーキブースタ)62と、この制動倍力手段62により倍化されたペダル踏力をブレーキ液圧へと変換するマスタシリンダ63と、その変換されたブレーキ液圧を各車輪WFL,WFR,WRL,WRR毎に調節可能な油圧調節手段(以下、「ブレーキアクチュエータ」という。)64と、このブレーキアクチュエータ64を経たブレーキ液圧が伝えられる各車輪WFL,WFR,WRL,WRRのブレーキ液圧配管65FL,65FR,65RL,65RRと、この各ブレーキ液圧配管65FL,65FR,65RL,65RRのブレーキ液圧が各々供給されて夫々の車輪WFL,WFR,WRL,WRRに車輪制動トルク(車輪制動力)を発生させる制動力発生手段66FL,66FR,66RL,66RRと、を備えている。
【0025】
制動力発生手段66FL,66FR,66RL,66RRは、車輪WFL,WFR,WRL,WRRと一体になって回転する部材に対して摩擦力を加え、これにより車輪WFL,WFR,WRL,WRRの回転を抑えて制動動作を行う摩擦ブレーキ装置である。例えば、この制動力発生手段66FL,66FR,66RL,66RRは、図示しないが、車輪WFL,WFR,WRL,WRRと一体になるよう個別に取り付けたディスクロータと、このディスクロータに押し付けて摩擦力を発生させる摩擦材としてのブレーキパッドと、車両本体に固定され、ブレーキアクチュエータ64から供給されたブレーキ液圧によってブレーキパッドをディスクロータに向けて押動するキャリパと、を備えている。この制動力発生手段66FL,66FR,66RL,66RRは、ブレーキアクチュエータ64から送られてきたマスタシリンダ圧又は調圧後のブレーキ液圧に応じた押圧力でブレーキパッドがディスクロータに押し付けられる。従って、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRには、そのマスタシリンダ圧又は調圧後のブレーキ液圧に応じた大きさの車輪制動トルク(車輪制動力)が発生する。以下においては、そのマスタシリンダ圧によって発生する制動トルク、制動力のことを夫々「マスタシリンダ圧制動トルク」、「マスタシリンダ圧制動力」という。また、そのマスタシリンダ圧を加圧した調圧後のブレーキ液圧によって発生する制動トルク、制動力のことを夫々「加圧制動トルク」、「加圧制動力」という。
【0026】
また、ブレーキアクチュエータ64は、例えば、図示しないオイルリザーバ、オイルポンプ、夫々のブレーキ液圧配管65FL,65FR,65RL,65RRに対してのブレーキ液圧を各々に増減する為の増減圧制御弁等によって構成されている。このブレーキアクチュエータ64は、そのオイルポンプや増減圧制御弁等が電子制御装置1の制動制御手段によって制御される。その制動制御手段は、例えば運転者のブレーキペダル61の操作量や自動走行モードが設定されていればその要求値に基づいて各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの目標車輪制動トルク若しくは目標車輪制動力又は目標車両制動トルク若しくは目標車両制動力を設定する。そのブレーキペダル61の操作量とは、ブレーキペダル61に入力されたペダル踏力やブレーキペダル61の踏み込み量(つまり移動量)などであり、ブレーキペダル操作量取得手段67によって検出や推定等される。この制動制御手段は、マスタシリンダ圧制動トルク(マスタシリンダ圧制動力)が目標車輪制動トルク(目標車輪制動力)に対して不足していれば、その不足分を補うことが可能な各制動力発生手段66FL,66FR,66RL,66RRへの目標ブレーキ液圧を求め、その目標ブレーキ液圧に基づきブレーキアクチュエータ64を制御してマスタシリンダ圧の加圧を行い、その目標車輪制動トルク(目標車輪制動力)を満足させる加圧制動トルク(加圧制動力)を制動力発生手段66FL,66FR,66RL,66RRに発生させる。
【0027】
更に、この車両10には、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの車輪速度を取得する車輪速度取得手段71FL,71FR,71RL,71RRが各々用意されている。その車輪速度取得手段71FL,71FR,71RL,71RRとしては、例えば車輪速度の検出を行う車輪速度センサを利用すればよい。
【0028】
ところで、この車両10においては、例えば路面の凹凸等によって走行中の車輪WFL,WFR,WRL,WRRに外力やトルク(即ち外乱)が作用した際に、その外力等が車輪WFL,WFR,WRL,WRR及びサスペンション(図示略)を介して車体に伝わる。これが為、この車両10には、その走行中の路面からの入力によって、車体に車輪WFL,WFR,WRL,WRR及びサスペンションを介した1〜4Hzの振動、より正確には1.5Hz程度の振動(以下、「バネ上振動」という。)が発生し得る。このバネ上振動には、図2に示す車両10(厳密には車両重心Cg)の上下方向(Z方向)の成分(以下、「バウンス振動」という。)と、車両重心Cgを中心にしたピッチ方向(θ方向)の成分(以下、「ピッチ振動」という。)と、がある。このバネ上振動が発生したときには、バウンス振動又はピッチ振動の内の少なくとも何れか一方が発生している。尚、その図2は、ノーズリフト時の車両10の姿勢を例示している。また、運転者の駆動要求等に基づき車両駆動装置(エンジン20や変速機30)が作動して駆動輪WRL,WRRの車輪トルク(車輪駆動力)に変動が生じた場合にも、この車両10においては、同様のバネ上振動(バウンス振動又はピッチ振動の内の少なくとも何れか一方)が生じ得る。
【0029】
本実施例1の車両10には、かかるバネ上振動を抑制させるべく、上述したようにバネ上制振制御装置が電子制御装置1の一機能として用意されている。尚、バネ上制振制御とは、そのバネ上振動の抑制を図る制御のことを指す。そのバネ上制振制御装置は、上述した車両駆動装置(エンジン20又は変速機30)の内の少なくとも何れか1つを利用して駆動輪WRL,WRRの車輪トルク(車輪駆動力)を制御し、これにより車体に発生するバネ上振動の抑制を図るものである。
【0030】
本実施例1においては、車体のバネ上振動(バウンス振動及びピッチ振動)の運動モデルを構築し、その運動モデルでバネ上振動の状態変数を算出する。そのバネ上振動の状態変数とは、運転者の駆動要求に応じた運転者要求トルク(具体的にはこれを駆動輪WRL,WRRの車輪トルクに換算した値)と、現在の車輪トルク(具体的にはこれの推定値)と、を運動モデルに入力した際の車体の変位z、θとこれらの変化率dz/dt、dθ/dtのことをいう。そして、本実施例1においては、その状態変数が0に収束するように運転者要求トルクの修正を行って車両駆動装置の出力(駆動トルク、駆動力)を調節し、かかるバネ上振動が抑制されるようにする。
【0031】
このバネ上制振制御装置の構成について模式的に表した制御ブロック図を図3に示す。このバネ上制振制御装置は、運転者の駆動要求を車両10に与える駆動制御部2と、車体のバネ上振動(バウンス振動及びピッチ振動)を抑制させる為のバネ上制振制御量の設定を行うバネ上制振制御部3と、を備えている。
【0032】
そのバネ上制振制御量は、バネ上制振制御部3で求められた後述するC5における運転者要求車輪トルクTw0の修正量のことを指す。このバネ上制振制御においては、その運転者要求車輪トルクTw0の修正量を駆動輪WRL,WRRに作用させることによって、バネ上振動が抑制される。従って、このバネ上制振制御においては、その運転者要求車輪トルクTw0の修正量を後述する駆動トルク換算部3dで車両駆動装置(C3)の駆動トルクの単位に換算し、駆動制御手段たる駆動制御部2に車両駆動装置(C3)の出力(駆動トルク、駆動力)を制御させる。
【0033】
その駆動制御部2は、車両10に搭載された車両駆動装置(C3)の出力制御(駆動トルク制御、駆動力制御)を行う駆動制御手段のことであり、上述したエンジン制御手段又は変速制御手段の内の少なくとも何れか1つが該当する。この駆動制御部2は、運転者の駆動要求に応じた車両駆動装置(C3)の運転者要求トルク(換言するならば運転者要求駆動トルク)を求める運転者要求トルク算出部(C1)と、その運転者要求トルクに基づいて車両駆動装置への制御指令を決定する制御指令決定部(C2)と、に大別される。
【0034】
この駆動制御部2は、運転者の駆動要求(C0)、即ちアクセルペダル41の操作量(例えば踏み込み量θa)を車両駆動装置(C3)における運転者要求トルクに換算し(C1)、これを車両駆動装置(C3)への制御指令に変換して(C2)、車両駆動装置(C3)に送信する。具体的には、バネ上制振制御における制御対象の車両駆動装置(C3)がエンジン20であれば、エンジン制御手段は、運転者の駆動要求(C0)をエンジン20の要求出力トルクに換算し(C1)、これをエンジン20への制御指令に変換して(C2)、エンジン20に送信する。そのエンジン20への制御指令は、例えば、ガソリンエンジンであれば目標スロットル開度となり、ディーゼルエンジンであれば目標燃料噴射量となり、モータであれば目標電流量となる。一方、バネ上制振制御における制御対象の車両駆動装置(C3)が変速機30であれば、変速制御手段は、運転者の駆動要求(C0)を変速機30の要求出力トルクに換算し(C1)、これを変速機30への制御指令に変換して(C2)、変速機30に送信する。その変速機30への制御指令とは、要求出力トルクに応じた変速段又は変速比である。
【0035】
バネ上制振制御部3は、運転者要求トルク算出部(C1)の運転者要求トルクを駆動輪WRL,WRRにおける運転者要求車輪トルクTw0に換算する車輪トルク換算部3aと、フィードフォワード制御部3bと、フィードバック制御部3cと、運転者要求車輪トルクTw0の修正量を車両駆動装置(C3)の駆動トルクの単位に換算する駆動トルク換算部3dと、を備えている。
【0036】
そのフィードフォワード制御部3bは、所謂最適レギュレータの構成を有している。このフィードフォワード制御部3bにおいては、車輪トルク換算部3aで換算された運転者要求車輪トルクTw0が車体のバネ上振動の運動モデル部分(C4)に入力される。その運動モデル部分(C4)では、入力された運転者要求車輪トルクTw0に対する車体の状態変数の応答が算出され、その状態変数を最小に収束させる運転者要求車輪トルクTw0の修正量が算出される(C5)。
【0037】
フィードバック制御部3cも所謂最適レギュレータの構成を有している。このフィードバック制御部3cにおいては、後述するが如くして車輪トルク推定器(C6)で駆動輪WRL,WRRの車輪トルク推定値Twが算出され、その車輪トルク推定値TwにFBゲイン(運動モデル部分(C4)における運転者要求車輪トルクTw0と車輪トルク推定値Twとの寄与のバランスを調整する為のゲイン)を乗せる。このFBゲインが乗せられた車輪トルク推定値Twは、外乱入力として運転者要求車輪トルクTw0に加算されて運動モデル部分(C4)に入力される。これにより、外乱に対する運転者要求車輪トルクTw0の修正量も算出される。
【0038】
C5における運転者要求車輪トルクTw0の修正量は、駆動トルク換算部3dで車両駆動装置(C3)の駆動トルクの単位に換算されて、駆動制御部2の加算器(C1a)に送信される。その駆動制御部2においては、その修正量に基づいてバネ上振動が発生しないように運転者要求トルクを修正し、これを車両駆動装置(C3)の制御指令に変換して(C2)、車両駆動装置(C3)に送信する。
【0039】
このバネ上制振制御装置によって為されるバネ上制振制御においては、上述したように、車体のバネ上振動(バウンス振動及びピッチ振動)の力学的運動モデルを仮定して、運転者要求車輪トルクTw0及び車輪トルク推定値Tw(外乱)を入力としたバウンス方向及びピッチ方向の状態変数の状態方程式を構成する。そして、このバネ上制振制御では、その状態方程式から、最適レギュレータの理論を用いてバウンス方向及びピッチ方向の状態変数が0に収束する入力(トルク値)を決定し、そのトルク値に基づいて運転者要求トルクに係る車両駆動装置(C3)の制御指令の修正を行う。
【0040】
かかる力学的運動モデルとしては、図4に示す如く、車体を質量Mと慣性モーメントIの剛体Sと見做し、その剛体Sが弾性率kf及び減衰率cfの前輪サスペンションと弾性率kr及び減衰率crの後輪サスペンションによって支持されているものを例示する(車体のバネ上振動モデル)。この場合の車両重心Cgにおけるバウンス方向の運動方程式とピッチ方向の運動方程式については、各々下記の式1a,1bの如く表すことができる。
【0041】
【数1】



【0042】
その式1a,1bにおいて、Lf,Lrは、各々車両重心Cgから前輪軸までの距離と後輪軸までの距離を表しており、rは、車輪半径を表している。また、hは、路面から車両重心Cgまでの距離を表している。尚、その式1aにおいて、第1項と第2項は、前輪軸からの力の成分であり、第3項と第4項は、後輪軸からの力の成分である。また、式1bにおいて、第1項は、前輪軸からの力のモーメント成分であり、第2項は、後輪軸からの力のモーメント成分である。また、この式1bの第3項は、駆動輪WRL,WRRで発生している車輪トルクT(=Tw0+Tw)が車両重心Cg周りに与える力のモーメント成分である。
【0043】
これら式1a,1bは、車体の変位z、θとこれらの変化率dz/dt、dθ/dtを状態変数ベクトルX(t)として、下記の式2aの如く(線形システムの)状態方程式の形式に書き換えることができる。
【0044】
dX(t)/dt=A・X(t)+B・u(t) … (2a)
【0045】
この式2aにおいて、X(t)、A、Bは、夫々下記の通りである。
【0046】
【数2】



【0047】
その行列Aの各要素a1からa4及びb1からb4は、夫々上記の式1a,1bにz、θ、dz/dt、dθ/dtの係数をまとめることにより与えられ、
a1=−(kf+kr)/M、
a2=−(cf+cr)/M、
a3=−(kf・Lf−kr・Lr)/M、
a4=−(cf・Lf−cr・Lr)/M、
b1=−(Lf・kf−Lr・kr)/I、
b2=−(Lf・cf−Lr・cr)/I、
b3=−(Lf・kf+Lr・kr)/I、
b4=−(Lf・cf+Lr・cr)/I
となる。
【0048】
また、この式2aのu(t)は、
u(t)=T
であり、その式2aにて表されるシステムの入力である。
【0049】
従って、上記の式1bより、行列Bの要素p1は、
p1=h/(I・r)
となる。
【0050】
その式2a(状態方程式)においてu(t)を下記の式2bのようにおくと、式2aは、下記の式2cの様になる。
【0051】
u(t)=−K・X(t) … (2b)
【0052】
dX(t)/dt=(A−BK)・X(t) … (2c)
【0053】
従って、X(t)の初期値X(t)をX(t)=(0,0,0,0)と設定して(トルク入力がされる前には振動はないものとする)、状態変数ベクトルX(t)の微分方程式(式2c)を解いたときに、X(t)、即ちバウンス方向及びピッチ方向の変位及びその時間変化率の大きさを0に収束させるゲインKが決定されれば、バネ上振動を抑制するトルク値u(t)が決定されることになる。
【0054】
ゲインKは、所謂最適レギュレータの理論を用いて決定することができる。この理論によれば、2次形式の評価関数(積分範囲は0から∞)
J=∫(XQX+uRu)dt … (3a)
の値が最小になるとき、状態方程式(式2a)においてX(t)が安定的に収束し、評価関数Jを最小にする行列Kは、
K=R−1・B・P
により与えられることが知られている。
【0055】
ここで、Pは、リカッティ方程式
−dP/dt=AP+PA+Q−PBR−1
の解である。このリカッティ方程式は、線形システムの分野において知られている任意の方法により解くことができ、これによりゲインKが決定される。
【0056】
尚、評価関数J及びリカッティ方程式中のQ、Rは、夫々任意に設定される半正定対称行列、正定対称行列であり、システムの設計者により決定される評価関数Jの重み行列である。例えば、ここでの運動モデルの場合、Q、Rは、
【数3】



などと置いて、上記の式3aにおいて、状態変数ベクトルX(t)の成分の内の特定のもの(例えばdz/dt、dθ/dt)のノルム(大きさ)をその他の成分(例えばz、θ)のノルムより大きく設定すると、ノルムを大きく設定された成分が相対的に、より安定的に収束されることとなる。また、Qの成分の値を大きくすると、過渡特性重視、即ち状態変数ベクトルX(t)の値が速やかに安定値に収束し、Rの値を大きくすると、消費エネルギが低減される。
【0057】
本実施例1のバネ上制振制御装置の実際のバネ上制振制御においては、図3に示す如く、運動モデル部分(C4)でトルク入力値を用いて式2aの微分方程式を解くことにより、状態変数ベクトルX(t)が算出される。式1a,1bで表されるシステムにおいては、C5にて、上記のように状態変数ベクトルX(t)を0又は最小値に収束させるべく決定されたゲインKを運動モデル部分(C4)の出力である状態ベクトルX(t)に乗じた値U(t)が、車両駆動装置(C3)の駆動トルクの単位に換算されて加算器(C1a)で運転者要求トルクから差し引かれる。かかるシステムは、共振システムであり、任意の入力に対して状態変数ベクトルX(t)の値が実質的にシステムの固有振動数の成分のみとなる。従って、U(t)(の換算値)が運転者要求トルクに応じた制御指令から差し引かれるよう構成することによって、運転者要求トルクの内、システムの固有振動数の成分、即ち車体においてバネ上振動を引き起こす成分が修正され、そのバネ上振動が抑制されることになる。運転者から与えられる要求トルクにおいて、システムの固有振動数の成分がなくなると、車両駆動装置(C3)に入力される運転者要求トルク指令の内、システムの固有振動数の成分は、−U(t)のみとなり、Tw(外乱)による振動が収束することとなる。この図3においてはU(t)を運動モデル部分(C4)の入力側にループさせているが、かかるループについては、所望のバネ上制振性能が得られるならば、演算量の軽減を図るべく省略してもよい。また、この図3においてはフィードバック制御のみにFF,FB重み調整ゲインをかけているが、かかる調整ゲインは、フィードフォワード制御においてもかけてもよい。
【0058】
ここで、車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルとしては、例えば図5に示すように、図4の構成に加えて、前車輪及び後車輪のタイヤのバネ弾性を考慮したモデル(車体のバネ上・下振動モデル)が採用されてもよい。前車輪及び後車輪のタイヤが夫々弾性率ktf、ktrを有しているとすると、図5からも明らかなように、車体の重心のバウンス方向の運動方程式とピッチ方向の運動方程式は、下記の式4a〜4dのように表すことができる。
【0059】
【数4】



【0060】
これら各式において、xf、xrは、前車輪、後車輪のバネ下変位量であり、mf、mrは、前車輪、後車輪のバネ下の質量である。式4a〜4dは、z、θ、xf、xrとその時間微分値を状態変数ベクトルとして、図4の場合と同様に、上記の式2aのような状態方程式を構成し(但し、行列Aは、8行8列、行列Bは、8行1列となる。)、最適レギュレータの理論に従って状態変数ベクトルの大きさを0に収束させるゲイン行列Kを決定することができる。この場合の実際のバネ上制振制御についても、図4の場合と同様である。
【0061】
ここで、図3のバネ上制振制御部3のフィードバック制御部3cにおいて、外乱として入力される車輪トルクは、例えば各車輪WFL,WFR,WRL,WRRにトルクセンサを設け実際に検出するように構成してもよいが、ここでは走行中の車両10におけるその他の検出可能な値から車輪トルク推定器(C6)で推定した車輪トルク推定値Twを用いることにする。
【0062】
その車輪トルク推定値Twは、例えば駆動輪WRL,WRRの車輪速度取得手段71RL,71RR(車輪速度センサ)から得られる車輪回転速ω又は車輪速度値r・ωの時間微分を用いて、下記の式5により推定又は算出することができる。この式5において、Mは、車両の質量であり、rは、車輪半径である。
【0063】
Tw=M・r・dω/dt … (5)
【0064】
ここで、駆動輪WRL,WRRが路面の接地個所において発生している駆動力の総和が車両10の全体の駆動力M・G(Gは加速度)に等しいとすると、車輪トルク推定値Twは、下記の式5aにて与えられる。
【0065】
Tw=M・G・r … (5a)
【0066】
また、車両10の加速度Gは、車輪速度値r・ωの微分値より、下記の式5bによって与えられる。
【0067】
G=r・dω/dt … (5b)
【0068】
従って、車輪トルク推定値Twは、上記の式5のようにして推定される。
【0069】
ここで、車両10において抑制すべき振動成分としては、車輪WFL,WFR,WRL,WRRを介して路面から入力される振動成分の他に、エンジン20等の動力源において生じる振動成分、その動力源の動力の伝達経路にある変速機30や差動装置52等の動力伝達手段において生じる振動成分などが考え得る。そして、これらの各種振動成分に起因する車両10の振動を抑制する際には、振動成分の抑制の為に必要なトルク調整量を抑制対象となる振動成分毎に求め、その各々のトルク調整量を車両駆動装置の基本要求駆動トルク(基本要求駆動力)に反映させることが好ましい。その基本要求駆動トルク(基本要求駆動力)とは、車両駆動装置(厳密にはエンジン20等の動力源)に対して出力を要求する際の基準となる駆動トルク(駆動力)であり、運転者のアクセルペダル41の操作量やACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)等の自動運転制御における目標駆動トルク(目標駆動力)に基づいて設定されるものである。尚、この基本要求駆動トルク(基本要求駆動力)にて動力源を駆動させることにより車両走行の為の駆動トルク(駆動力)の出力は可能であるが、この基本要求駆動トルク(基本要求駆動力)のみでは、上述した各種振動成分を殆ど抑制することができない。
【0070】
その基本要求駆動トルク(基本要求駆動力)に対して上述した夫々のトルク調整量を反映させる場合、各トルク調整量は、その全てを加算してから基本要求駆動トルク(基本要求駆動力)に反映させてもよいのだが、その夫々を以下の順番で反映させることが望ましい。具体的には、抑制対象となる振動成分の周波数に着目して、その周波数が高いトルク調整量ほど重畳(つまり反映タイミング)が後になるように基本要求駆動トルク(基本要求駆動力)の補正を行うことが好ましい。例えば、車輪WFL,WFR,WRL,WRRを介して路面から入力される振動成分に係るトルク調整量と、上述した動力伝達手段において生じる振動成分に係るトルク調整量と、エンジン20等の動力源において生じる振動成分に係るトルク調整量と、を比較すると、これらは、抑制対象となる振動成分が一般的にその順に高くなる。これが為、振動抑制の観点で観ると、夫々のトルク調整量は、その順番で基本要求駆動トルク(基本要求駆動力)に対して反映させることが好ましい。
【0071】
トルク調整量は、車輪WFL,WFR,WRL,WRRを介して路面から入力される振動成分を抑制するにあたり、その振動成分のみに着目して設定してもよいが、その他の条件も加味して修正又は設定することが好ましい。例えば、車両10の運転状態として車速を取得し、その車速が高いほどトルク調整量が小さくなるようにしてもよい。また、動力源(エンジン10)の状態として水温等のエンジン温度を取得し、そのエンジン温度が高いほどトルク調整量が小さくなるようにしてもよい。また、トルク調整量は、変速機30の変速段の位置に応じて変更することも可能であり、エンジン10の出力(駆動トルク、駆動力)と回転数の関係が所定の条件を満たす場合(例えばサージが生じやすい条件下)に減らす構成にしてもよい。また、動力源から駆動輪WRL,WRRへ伝達すべき駆動トルク(駆動力)が実質的に0となる又はその近傍の場合、トルク調整量は、動力伝達手段のがたつきを抑える観点から、小さく又は制限することが望ましい。
【0072】
ところで、かかるバネ上制振制御は、前述したように、車体にバネ上振動が発生するからといって必ずしもその発生に合わせて常に実行すべきものではない。つまり、換言するならば、バネ上制振制御においては、その実行を許可すべき条件(以下、「バネ上制振制御許可条件」という。)のときと、その実行を禁止すべき条件(以下、「バネ上制振制御禁止条件」という。)のときと、が存在しており、かかる条件に応じて実行の要否を判断させることが望ましい。
【0073】
そこで、本実施例1においては、バネ上制振制御装置(電子制御装置1)にバネ上制振制御実行要否判定手段を設け、適切な条件下においてバネ上制振制御の介入が為されるように構成する。そのバネ上制振制御実行要否判定手段は、後述する車両10の運転状態、車両10の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じて、更に詳しくはその車両10の運転状態の中で下記の如く細分化された各種条件の内の少なくとも何れか1つに応じて、バネ上制振制御許可条件又はバネ上制振制御禁止条件の何れに合致するのかの判定を行う判定手段である。
【0074】
例えば、バネ上制振制御実行要否判定手段がバネ上制振制御の未実行時にバネ上制振制御禁止条件に合致したとの判定を行った場合には、バネ上制振制御を開始させない。一方、そのバネ上制振制御実行要否判定手段がバネ上制振制御の未実行時にバネ上制振制御許可条件に合致したとの判定を行った場合、前述した駆動制御手段(駆動制御部2)は、バネ上制振制御手段によるバネ上制振制御量の設定結果(バネ上制振制御部3による運転者要求車輪トルクTw0の修正量)に基づいて車両駆動装置(エンジン20や変速機30)の出力制御を行ってバネ上制振制御を開始する。そして、かかる判定はバネ上制振制御の実行中にも行われるので、再びバネ上制振制御許可条件に合致したとの判定が為された場合には、駆動制御手段がそのときのバネ上制振制御量に応じてバネ上制振制御を継続させる。また、バネ上制振制御の実行中にバネ上制振制御禁止条件に合致したと判定された場合、駆動制御手段は、バネ上制振制御を終了させる。
【0075】
ここで、そのバネ上制振制御の開始時と終了時には、夫々に合わせたバネ上制振制御開始時の制御形態(以下、「バネ上制振制御開始形態」という。)とバネ上制振制御終了時の制御形態(以下、「バネ上制振制御終了形態」という。)が設定される。つまり、後述する車両10の運転状態や車両10の状態、運転者要求によっては、直ちにバネ上制振制御を開始又は終了させた方が良い場合もある一方、徐々に適切な速度でバネ上制振制御を開始又は終了させた方が良い場合もある。例えば、一般に、駆動輪WRL,WRRの急激なトルク変動は好ましくないと考えられており、その駆動輪WRL,WRRには、適切な速度で徐々に車輪トルク(車輪駆動力)を増減させていくことが望ましい。このことは、バネ上制振制御についても当て嵌まる。これが為、本実施例1においては、そのような考えの下にバネ上制振制御開始形態やバネ上制振制御終了形態の設定を行って、車両10の運転状態等に応じたより適切な条件の下でバネ上制振制御を開始又は終了させるように構成する。
【0076】
そのバネ上制振制御開始形態については、車両10の運転状態、車両10の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じて、更に詳しくはその車両10の運転状態の中で下記の如く細分化された各種条件の内の少なくとも何れか1つに応じて設定されるものであり、バネ上制振制御装置(電子制御装置1)に設けたバネ上制振制御開始形態設定手段に設定させる。一方、バネ上制振制御終了形態も車両10の運転状態、車両10の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じて、更に詳しくはその車両10の運転状態の中で下記の如く細分化された各種条件の内の少なくとも何れか1つに応じて設定されるものであり、これについては、バネ上制振制御装置(電子制御装置1)に設けたバネ上制振制御終了形態設定手段に設定させる。
【0077】
以下においては、特に言及しなければ、所定時間(例えばコンマ数秒)かけて徐々にバネ上制振制御を開始させる(つまりバネ上制振制御量の設定値にする)ようにしたバネ上制振制御開始形態をバネ上制振制御開始形態設定手段に設定させるものとする。その際のバネ上制振制御開始形態とは、具体的に言えば、最初はバネ上制振制御開始時に設定されたバネ上制振制御量よりも小さな制御量(0又は0に近い制御量)で車両駆動装置の出力を決めさせ、その後、その値から徐々に所定時間かけてバネ上制振制御量の設定値まで増やすように(換言するならばバネ上制振制御量を徐々に設定値まで増やしていくように)車両駆動装置の出力も徐々に変えさせていくというものである。尚、直ちにバネ上制振制御を開始させる(つまりバネ上制振制御量の設定値を直ぐに実現させる)バネ上制振制御開始形態とは、バネ上制振制御の開始が決まったときに即座にバネ上制振制御量の設定値となるよう車両駆動装置の出力を制御させるというものである。
【0078】
また、以下においては、特に言及しなければ、所定時間(例えばコンマ数秒)かけて徐々にバネ上制振制御を終了させるバネ上制振制御終了形態をバネ上制振制御終了形態設定手段に設定させるものとする。その際のバネ上制振制御終了形態とは、具体的に言えば、最初はバネ上制振制御量の設定値を実現させる車両駆動装置の出力をこれまで通り決めさせ、その後、その値から徐々に所定時間かけてバネ上制振制御に係る車両駆動装置の出力を0にする(換言するならばバネ上制振制御量を徐々に0まで減らしていく)ようにしていくというものである。尚、直ちにバネ上制振制御を終了させるバネ上制振制御終了形態とは、バネ上制振制御の終了が決まったときに即座にバネ上制振制御に係る車両駆動装置の出力を0まで減らさせるというものである。
【0079】
[車両10の運転状態について]
先ず、車両10の運転状態について説明する。
【0080】
ここで言う車両10の運転状態とは、例えば、車速の状態、変速機30の変速段位置や変速レンジ位置の状態、変速機30(有段自動変速機及び無段自動変速機に限定)の変速動作状態、変速機30のトルクコンバータの作動状態、運転者のアクセル操作時やACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)等の自動運転モード時におけるスロットルバルブ作動状態、駆動輪WRL,WRRの回転状態、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の作動状態、VSC(ビークル・スタビリティ・コントロール)やTRC(トラクション・コントロール・システム)等の車両挙動制御装置の作動状態等が当て嵌まる。従って、バネ上制振制御実行要否判定手段には、これら各種の車両10の運転状態の内の少なくとも何れか1つに基づいて、バネ上制振制御許可条件又はバネ上制振制御禁止条件の何れに合致するのかを判定させればよい。また、バネ上制振制御開始形態設定手段やバネ上制振制御終了形態設定手段には、これら各種の車両10の運転状態の内の少なくとも何れか1つに基づいて、バネ上制振制御開始形態やバネ上制振制御終了形態を設定させればよい。
【0081】
[車速の状態]
一般に、車両10においては、車輪速度取得手段(車輪速センサ)71FL,71FR,71RL,71RRで得た各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの車輪速度に基づいて車速を推定する。従って、例えば車輪WFL,WFR,WRL,WRRと路面との間の状態によっては、車輪速度の検出精度が低くなり、結果として、推定される車速の値が実際の車速に対してずれてしまう可能性がある。そして、かかる可能性が見受けられるのは、低車速域においてである。これが為、本実施例1のバネ上制振制御装置においては、閾値たる所定車速(例えば8〜10km/h)よりも高速のときをバネ上制振制御許可条件とし、所定車速よりも低速のときをバネ上制振制御禁止条件とする。例えば、その具体例として、低車速域における車速の推定精度のばらつきを考慮して、車速が10km/h以上ならばバネ上制振制御許可条件に合致したとしてバネ上制振制御の実行を許可し、車速が8km/h以下ならばバネ上制振制御禁止条件に合致したとしてバネ上制振制御の実行を禁止させるようにバネ上制振制御実行要否判定手段を構成すればよい。尚、低車速域における車速を精度良く取得することができるのであれば、車速を条件にしてバネ上制振制御の実行要否を判定させなくてもよい。
【0082】
[変速機30の変速段位置や変速レンジ位置、変速動作状態]
図1で例示した車両10は、変速機30として有段自動変速機を搭載している。これが為、その変速機30には、現在の変速段の位置を把握可能な所謂シフトポジションセンサ31が用意されており、電子制御装置1は必要なときに現在の変速段の位置を知ることができる。一方、その変速機30が手動変速機の場合には、そのようなシフトポジションセンサが搭載されておらず、一般にエンジン20の出力値と変速機30の出力値とを比較して現在の変速段の位置を推定(判定)している。これが為、低速段のときには、高速段のときよりもエンジン20の出力変動等が大きいので、変速段の位置を誤判定してしまう可能性がある。従って、手動変速機が搭載された車両10のバネ上制振制御装置においては、誤判定の少ない第2速ギア段以上の高速段のときをバネ上制振制御許可条件とし、誤判定の可能性がある第1速ギア段のときをバネ上制振制御禁止条件とする。尚、手動変速機の現在の変速段の位置を正確に把握できる手段が車両に用意されているならば、第1速ギア段のときにもバネ上制振制御を実行させればよい。
【0083】
また、車両10が前進していないときや駆動輪WRL,WRRへの動力伝達ができないときには、上述した制御モデルがずれてしまう。これが為、バネ上制振制御装置においては、変速機30が車両10を前進させる状態のとき(前進側の変速段選択時、変速レンジ位置が所謂Dレンジのとき)や変速動作中でないときをバネ上制振制御許可条件とし、変速機30が車両10を前進させない状態のとき(後退側の変速段選択時、変速レンジ位置が所謂Pレンジ、Rレンジ、Nレンジのき)や変速動作中のときをバネ上制振制御禁止条件とする。更に、手動変速機においては、クラッチ切断時にも駆動輪WRL,WRRへの動力伝達が行えない。従って、手動変速機が搭載された車両10のバネ上制振制御装置においては、クラッチ切断時についてもバネ上制振制御禁止条件とする。ここで、バネ上制振制御の実行中に変速機30が車両10を前進させない状態になったときや変速動作中になったときは、制御モデルのずれが出てしまうので、バネ上制振制御を速やかに止めさせるべきである。また、バネ上制振制御の実行中に手動変速機のクラッチが切断されたときには、駆動輪WRL,WRRに動力を伝達できないので、バネ上制振制御を続ける意味が無くなる。これが為、バネ上制振制御を実行している状態で変速機30が車両10を前進させない状態になり又は手動変速機のクラッチが切断され、これによってバネ上制振制御禁止条件と判定された場合には、直ちにバネ上制振制御を終了させる上述したバネ上制振制御終了形態をバネ上制振制御終了形態設定手段に設定させることが望ましい。
【0084】
[変速機30のトルクコンバータの作動状態]
変速機30からの出力は、入力が同じ大きさでもトルクコンバータの作動状態によって変わる。例えば、トルクコンバータのロックアップクラッチが完全係合状態(所謂ロックアップ中)のときには、変速機30の入力と出力の関係を把握しやすいが、そのロックアップクラッチが半係合状態(係合部材同士の接触はあるが滑っている状態)や解放状態(係合部材同士に接触がない)のときには、変動が大きくその関係を把握しがたい。その関係を正確に把握できないということは、バネ上制振制御によって駆動輪WRL,WRRに働く車輪トルク(車輪駆動力)を正確な大きさで発生させることができない可能性がある。これが為、このバネ上制振制御装置においては、そのロックアップクラッチが完全係合状態のときをバネ上制振制御許可条件とし、そのロックアップクラッチが半係合状態や解放状態のときをバネ上制振制御禁止条件とする。
【0085】
ここで、バネ上制振制御を実行している状態でロックアップクラッチが半係合状態や解放状態になり、これによってバネ上制振制御禁止条件と判定された場合には、直ちにバネ上制振制御を終了させる上述したバネ上制振制御終了形態をバネ上制振制御終了形態設定手段に設定させることが望ましい。これは、ロックアップクラッチがかかる状態に移り変わったときには、上述したように、バネ上制振制御によって駆動輪WRL,WRRに働く車輪トルク(車輪駆動力)を正確な大きさで発生させることができない可能性があるからである。
【0086】
[スロットルバルブ作動状態]
駆動制御手段(エンジン制御手段)は、運転者のアクセル操作が行われているとき又は自動運転モードでアクセル制御中のときに、モータ44によってスロットルバルブ43を開け側に制御する。逆に言えば、その駆動制御手段(エンジン制御手段)は、アクセル操作を検知しなければ又は自動運転モードでアクセル制御中でなければ、そのスロットルバルブ43の開け側への制御を行わない。これが為、運転者がアクセル操作していないとき又は自動運転モードでアクセル制御中になっていないときには、スロットルバルブ43がISC(アイドル・スピード・コントロール)開度よりも小さくなっている。そして、スロットルバルブ43がISC開度よりも大きく開いていないときには、エンジン20の出力制御によるバネ上制振制御を行っても、減少側の出力(駆動トルク、駆動力)を適切な大きさで発生させることができない。これが為、このバネ上制振制御装置においては、スロットルバルブ43が開け側に制御されているとき(運転者のアクセル操作が行われているとき又は自動運転モードでアクセル制御中のとき)をバネ上制振制御許可条件とし、スロットルバルブ43が開閉何れにも制御されていないとき(運転者のアクセル操作が行われていないとき、又は運転者のアクセル操作が行われておらず且つ自動運転モードでアクセル制御されていないとき)をバネ上制振制御禁止条件とする。
【0087】
ここで、バネ上制振制御を実行している状態でスロットルバルブ43が閉じられ、これによってバネ上制振制御禁止条件と判定された場合には、直ちにバネ上制振制御を終了させる上述したバネ上制振制御終了形態をバネ上制振制御終了形態設定手段に設定させることが望ましい。これは、運転者のアクセル操作等が止められてスロットルバルブ43が閉じられたときには、上述したように、適切なバネ上制振制御を行えないからである。
【0088】
[駆動輪WRL,WRRの回転状態]
駆動輪WRL,WRRがスリップ状態にあるときには、上述した制御モデルにずれが生じてしまうので、その駆動輪WRL,WRRにバネ上振動を抑制する為の適切な車輪トルク(車輪駆動力)を発生させることができない。これが為、このバネ上制振制御装置においては、駆動輪WRL,WRRがスリップ状態にないときをバネ上制振制御許可条件とし、駆動輪WRL,WRRがスリップ状態にあるときをバネ上制振制御禁止条件とする。スリップ状態か否かについては、車輪速度取得手段(車輪速センサ)71FL,71FR,71RL,71RRから取得した夫々の車輪WFL,WFR,WRL,WRRの車輪速度に基づいて判断すればよい。例えば、従動輪WFL,WFRと駆動輪WRL,WRRの車輪速差が所定速度以上あればスリップ状態と判断させ、その車輪速差が所定速度よりも低ければスリップ状態にないと判断させる。また、ここでは、スリップ状態にないとの判断が所定時間(例えば数秒)以上継続したならば最終的にバネ上制振制御許可条件と判定させ、スリップ状態にあるとの判断が所定時間(例えばコンマ数秒)以上継続したならば最終的にバネ上制振制御禁止条件と判定させてもよい。
【0089】
ここで、バネ上制振制御を実行している状態で駆動輪WRL,WRRがスリップ状態になり、これによってバネ上制振制御禁止条件と判定された場合には、直ちにバネ上制振制御を終了させる上述したバネ上制振制御終了形態をバネ上制振制御終了形態設定手段に設定させることが望ましい。これは、駆動輪WRL,WRRがスリップ状態にあると、上述したように適切なバネ上制振制御を行えないからである。
【0090】
[ABSの作動状態、VSCやTRC等の車両挙動制御装置の作動状態]
ABS、VSCやTRC等が作動している状態では、これらの制御とバネ上制振制御とが干渉を起こし、相手側の制御に好ましくない影響を与えてしまう可能性がある。これが為、このバネ上制振制御装置においては、ABS、VSC又はTRC等の制御装置が作動していないときをバネ上制振制御許可条件とし、その制御装置が作動しているときをバネ上制振制御禁止条件とする。ここで、バネ上制振制御を実行している状態でその制御装置が作動し、これによってバネ上制振制御禁止条件と判定された場合には、直ちにバネ上制振制御を終了させる上述したバネ上制振制御終了形態をバネ上制振制御終了形態設定手段に設定させることが望ましい。これは、上述した制御間の干渉はできる限り早い段階で回避すべきだからである。
【0091】
[車両10の状態について]
続いて、車両10の状態について説明する。
【0092】
ここで言う車両10の状態とは、例えば、スロットルバルブ駆動用のモータ44の温度状態、バネ上制振制御に関連する装置や部品等の状態、電子制御装置(ECU)1の状態等が当て嵌まる。従って、バネ上制振制御実行要否判定手段には、これら各種の車両10の状態の内の少なくとも何れか1つに基づいて、バネ上制振制御許可条件又はバネ上制振制御禁止条件の何れに合致するのかを判定させればよい。また、バネ上制振制御開始形態設定手段やバネ上制振制御終了形態設定手段には、これら各種の車両10の状態の内の少なくとも何れか1つに基づいて、バネ上制振制御開始形態やバネ上制振制御終了形態を設定させればよい。
【0093】
[スロットルバルブ駆動用のモータ44の温度状態]
スロットルバルブ駆動用のアクチュエータ(モータ44)は、スロットルバルブ43の作動に伴って熱を持つ。従って、このモータ44は、バネ上制振制御の為に頻繁にスロットルバルブ43を作動させることによって温度上昇する可能性がある。しかしながら、例えばスロットルバルブ43の開度を大きく変化させるときのように、モータ44が高周波数且つ大振幅の制御電流でスロットルバルブ43を作動させようとすると、そのモータ44のブラシのブラケット部に熱が溜まってモータ44の応答性が低下し、好適なバネ上制振制御が行えなくなる可能性があるので、バネ上制振制御は、モータ44の温度に応じて禁止させてもよい。これが為、このバネ上制振制御装置においては、そのモータ44の温度が所定温度を超えていないときをバネ上制振制御許可条件とし、その温度が所定温度以上になったときをバネ上制振制御禁止条件とする。この場合の条件設定については、上述したフィードバック制御のときにのみ実行させることが好ましい。
【0094】
ここで、バネ上制振制御許可条件なのか、それともバネ上制振制御禁止条件なのかについては、モータ44の温度を直接検出する温度センサ等を設け、その検出結果を用いて判断させてもよい。また、車両駆動装置がガソリンエンジンの場合には、スロットルバルブ43の目標開度とモータ44の制御電流の周波数とをパラメータにしたマップデータを予め用意しておき、各パラメータがそのマップデータの中のバネ上制振制御禁止条件に所定時間(例えば数秒)以上入っていなければバネ上制振制御を実行させ、パラメータがそのマップデータの中のバネ上制振制御禁止条件に入っていればバネ上制振制御を禁止させるように構成してもよい。そのマップデータと各パラメータの対応関係は、予め実験やシミュレーションを行って設定しておく。
【0095】
[バネ上制振制御に関連する装置や部品等の状態]
バネ上制振制御に関連する装置や部品等に異常が検出されているときには、適切なバネ上制振制御が行えない可能性が高い。例えば、エンジン20にフェイルセーフ制御が介入しているときには、バネ上制振制御に所望のエンジン20の出力を得ることができず、適切なバネ上制振制御が行えない。また、車輪速度取得手段71FL,71FR,71RL,71RRに異常があれば、バネ上制振制御に係る演算処理結果にずれが生じてしまう。ここでの異常には、更に、ブレーキ制御の通信手段による通信が無効になった場合、変速機30の変速段又は変速比にずれが生じた場合、バネ上制振制御におけるミラー情報に異常が生じた場合等も該当する。尚、そのミラー情報とは、バネ上制振制御を行う際の制御指示の整合性を判定(所謂ミラーチェック)する為に用意されたものであり、その制御指示に係る制御信号との比較対象として当該制御信号が生成されたものである。従って、このバネ上制振制御装置においては、ここで例示したような異常が生じていないときをバネ上制振制御許可条件とし、そのような異常が生じたときをバネ上制振制御禁止条件とする。
【0096】
ここで、バネ上制振制御を実行している状態で上記のような異常が生じ、これによってバネ上制振制御禁止条件と判定された場合には、直ちにバネ上制振制御を終了させる上述したバネ上制振制御終了形態をバネ上制振制御終了形態設定手段に設定させることが望ましい。これは、そのような異常に伴って、上述したように適切なバネ上制振制御を行えないからである。
【0097】
[電子制御装置(ECU)1の状態]
一般に、電子制御装置1は、その負荷が高くなることによって制御周期が遅くなり、それに伴って、その制御周期に著しく大きなずれが生じると、正確な演算処理を行えなくなるという特徴を持っている。そして、バネ上制振制御は、上述したように各種の演算処理を行うことによって為されるものであり、制御モデルの演算処理やフィルタ演算処理等の定数として電子制御装置1の制御周期を使っている。これが為、電子制御装置1が正常な制御周期(例えば8ms前後)で作動していなければ、バネ上制振制御は、正確な演算結果を得ることができず、適切にバネ上振動を抑制することができなくなる。従って、このバネ上制振制御装置においては、電子制御装置1が正常な制御周期で作動しているとき(例えば12ms未満の制御周期が所定時間(数秒程度)継続されているとき)をバネ上制振制御許可条件とし、電子制御装置1が正常な制御周期で作動していないとき(例えば制御周期が12ms以上のとき)をバネ上制振制御禁止条件とする。
【0098】
ここで、バネ上制振制御を実行している状態で電子制御装置1が正常な制御周期で作動しなくなり、これによってバネ上制振制御禁止条件と判定された場合には、直ちにバネ上制振制御を終了させる上述したバネ上制振制御終了形態をバネ上制振制御終了形態設定手段に設定させることが望ましい。これは、電子制御装置1がそのような状態になることによって、上述したように適切なバネ上制振制御を行えないからである。
【0099】
[運転者要求について]
次に、運転者要求について説明する。
【0100】
ここで言う運転者要求とは、例えば、運転者によるブレーキペダル61の操作状態、運転者のバネ上制振制御の介入要否要求等が当て嵌まる。従って、バネ上制振制御実行要否判定手段には、これら各種の運転者要求の内の少なくとも何れか1つに基づいて、バネ上制振制御許可条件又はバネ上制振制御禁止条件の何れに合致するのかを判定させればよい。また、バネ上制振制御開始形態設定手段やバネ上制振制御終了形態設定手段には、これら各種の運転者要求の内の少なくとも何れか1つに基づいて、バネ上制振制御開始形態やバネ上制振制御終了形態を設定させればよい。
【0101】
[運転者によるブレーキペダル61の操作状態]
運転者によるブレーキペダル61の操作は、車両10を減速させたい又は停止させたいという運転者の意志を表している。これに反して、バネ上制振制御が実行された場合には、車両駆動装置の出力制御に伴って車両10に加速方向の力が作用することがある。このようなことから、運転者がブレーキペダル61を操作したときには、その運転者の減速等の意志を尊重してバネ上制振制御を実行させないように構成することが望ましい。従って、本実施例1のバネ上制振制御装置においては、運転者のブレーキ操作が検知されないときをバネ上制振制御許可条件とし、運転者のブレーキ操作が検知されたときをバネ上制振制御禁止条件とする。これにより、車両減速度が所望のものよりも小さくなる、加速感を覚える等の違和感を運転者に与えないものとなり、更に、ブレーキパッドの摩耗の抑制をも図ることができる。尚、そのブレーキ操作の有無は、例えばブレーキペダル操作量取得手段67の検出信号を電子制御装置1で受信したのか否かや、その検出信号の変化を電子制御装置1で関知したのか否かによって判断すればよい。
【0102】
ここで、かかるバネ上制振制御禁止条件のときに運転者の感じる効果をより有益なものとする為に、バネ上制振制御を実行している状態で運転者のブレーキ操作によりバネ上制振制御禁止条件に合致したと判定されたときには、直ちにバネ上制振制御を終了させる上述したバネ上制振制御終了形態をバネ上制振制御終了形態設定手段に設定させることが望ましい。
【0103】
また、バネ上制振制御には、車両駆動装置の出力を増加(例えばモータ44がスロットルバルブ43の開度を大きくしてエンジン出力を増加)させて駆動輪WRL,WRRの車輪トルク(車輪駆動力)を増加させる制御と、その出力を減少(例えばモータ44がスロットルバルブ43の開度を小さくしてエンジン出力を減少)させて駆動輪WRL,WRRの車輪トルク(車輪駆動力)を減少させる制御と、がある。車両駆動装置の出力を減少させる場合は、車両10に減速方向の力が作用するので、運転者のブレーキ操作による減速意志に合致する。これが為、運転者のブレーキ操作があっても、車両駆動装置の出力を増加させるバネ上制振制御のみをバネ上制振制御禁止条件とし、その出力を減少させるバネ上制振制御をバネ上制振制御実行条件にしてもよい。
【0104】
ここでは運転者のブレーキペダル61の操作に応じてバネ上制振制御の実行を許可又は禁止させるものとしたが、自動運転モード等で行われる自動ブレーキ制御(例えば前方の車両との車間距離に応じて自動的に制動力を発生させる制御)を車両10が有しているならば、その自動ブレーキ制御による制動力のオン・オフに応じてバネ上制振制御の実行を許可又は禁止させるよう構成してもよい。例えば、統合ECU156がブレーキアクチュエータ93を作動させて制動力を発生させるようブレーキECU154に指令したときをバネ上制振制御禁止条件とし、かかる指令がブレーキECU154に為されないときをバネ上制振制御許可条件とする。
【0105】
[運転者のバネ上制振制御の介入要否要求]
運転者によっては、バネ上制振制御の介入を望まない場合もある。例えば、バネ上制振制御で対処しきれない程に大きな入力が入る路面を走行する場合には、運転者がバネ上制振制御の介入を不要と考えることもあり得る。これが為、例えば、運転者が望んだときには、ディーラ等の指定工場においてダイアグスキャンツール等の設定変更装置を使って、バネ上制振制御が実行されないよう車両側の設定を変更できるように構成しておく。また、車両10にバネ上制振制御の介入停止用のスイッチ等を用意しておき、好みに応じて運転者が設定変更できるように構成しておく。このバネ上制振制御装置においては、バネ上制振制御の介入停止が設定されていないときをバネ上制振制御許可条件とし、バネ上制振制御の介入停止が設定されているときをバネ上制振制御禁止条件とする。この場合の条件設定については、上述したフィードバック制御のときにのみ実行させることが好ましい。
【0106】
このように本実施例1の車両のバネ上制振制御装置は、上述した様々な条件の下で適切にバネ上制振制御を介入させたり、禁止させたりすることができる。また、この車両のバネ上制振制御装置は、同様に上述した様々な条件の下で、バネ上制振制御を適切なバネ上制振制御開始形態に合わせて開始させることができ、且つ、実行中のバネ上制振制御を適切なバネ上制振制御終了形態に合わせて終了させることができる。
【0107】
ところで、本実施例1のバネ上制振制御実行要否判定手段は、上述したように、車両10の運転状態、車両10の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じてバネ上制振制御許可条件又はバネ上制振制御禁止条件の何れに合致するのかの判定を行うが、その車両10の運転状態、車両10の状態又は運転者要求の内から任意に選択した組み合わせのみに応じてその判定を行うように構成してもよい。更に、その判定においては、車両10の運転状態と車両10の状態と運転者要求だけでなく、これら以外の他の条件を加えてもよい。
【0108】
また、本実施例1のバネ上制振制御開始形態設定手段は、上述したように、車両10の運転状態、車両10の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じてバネ上制振制御開始形態の設定を行うが、その車両10の運転状態、車両10の状態又は運転者要求の内から任意に選択した組み合わせのみに応じてその設定を行うように構成してもよい。更に、そのバネ上制振制御開始形態の設定においては、車両10の運転状態と車両10の状態と運転者要求だけでなく、これら以外の他の条件を加えてもよい。これと同様に、バネ上制振制御終了形態設定手段についても、車両10の運転状態、車両10の状態又は運転者要求の内から任意に選択した組み合わせのみに応じてバネ上制振制御終了形態の設定を行うように構成してもよい。また、そのバネ上制振制御終了形態の設定においては、車両10の運転状態と車両10の状態と運転者要求だけでなく、これら以外の他の条件を加えてもよい。
【0109】
[実施例2]
次に、本発明に係る車両のバネ上制振制御装置の実施例2を図6から図10に基づいて説明する。
【0110】
本実施例2における車両のバネ上制振制御装置は、前述した実施例1と同様に構成されたものに以下の制御を加えたものである。また、ここで例示する車両10は、実施例1と同様の構成からなるものとする。
【0111】
本実施例2の車両10には、設定上限車速に抑えて走行させる上限車速制限制御装置が用意されており、この上限車速制限制御装置を成す電子制御装置1には、その上限車速制限制御を実行させる上限車速制限制御手段が用意されている。その上限車速制限制御とは、例えば車両10が設定上限車速より少し低い所定車速を超えた際に、最終的な運転者要求トルクに制限をかけて車両10に車両減速度を発生させ、この車両10が設定上限車速を超えないようにする制御のことである。具体的には、設定上限車速としての最高車速を予め設定し、その最高車速を車両10が超えないように制御するもの(所謂スピードリミッタ制御)のことを云う。尚、この上限車速制限制御には、運転者に所望の走行車速を設定させ、その車速を設定上限車速とすることによって、この設定上限車速で走行させる制御(所謂クルーズコントロール)についても含むことができる。ここでは、前者のスピードリミッタ制御を代表して例示するが、本発明に係る以下の制御については後者のクルーズコントロールにおいても同様にして実行される。
【0112】
この上限車速制限制御を実行する場合には、車両10が上記の所定車速を超えた際に最終的な運転者要求トルクが絞られるように、その運転者要求トルクを所定の上限車速制限ゲインの乗算によって小さくし、車両10が設定上限車速を超えないようにする。
【0113】
ここで、最終的な運転者要求トルクについては、厳密に言えば運転者の駆動要求に応じた運転者要求トルクに対して例えばなまし処理や上下限ガード処理等を行って決めることがあるので、バネ上制振制御の制御性を高める為には、そのなまし処理等が行われた後、つまり最終的な運転者要求トルクを決める演算工程に近い後工程寄りで(例えば最終的な運転者要求トルクを決める演算工程の直前に)バネ上制振制御量を駆動制御部2の加算器(C1a)における加算処理によって織り込むことが最も好ましい。これが為、上限車速制限ゲインの乗算処理は、その加算処理が為される前に行っている。本実施例2においては、この点を考慮して、バネ上制振制御装置と上限車速制限制御装置が構成される。
【0114】
本実施例2のバネ上制振制御装置と上限車速制限制御装置の構成について模式的に表した制御ブロック図を図6に示す。この図6の制御ブロック図における電子制御装置1の上限車速制限制御手段としての上限車速制限制御部4以外の駆動制御部2等の構成は、実施例1で示した図3のものと同じである。
【0115】
その上限車速制限制御部4は、車速Vに応じた上限車速制限ゲインK・Vlimを設定する上限車速制限ゲイン設定部4aと、その上限車速制限ゲインK・Vlimを運転者の駆動要求に応じた運転者要求トルク(運転者要求トルク算出部(C1)で求められた運転者要求トルク)に乗算する上限車速制限制御設定部4bと、で構成される。その上限車速制限ゲインK・Vlimは、上限車速制限制御の実行時に運転者要求トルク算出部(C1)で求められた運転者要求トルクを小さくして最終的な運転者要求トルクの大きさに制限をかける為の係数(上限車速制限の為の運転者要求トルク制限係数)であり、例えば図7に示すマップデータから導けばよい。このマップデータは、上記の所定車速V0(=Vmax−α)まで上限車速制限ゲインK・Vlimを「1」とし、この所定車速V0を超えてから設定上限車速Vmaxとなるまで徐々に上限車速制限ゲインK・Vlimを小さくしていくよう設定されている。ここでは、設定上限車速Vmaxでの上限車速制限ゲインK・Vlimを「0」にする。これが為、最終的な運転者要求トルクは、その所定車速V0を超えたときに、徐々に小さくなっていき、設定上限車速Vmaxに達すると「0」になる。従って、車両10は、所定車速V0を超えたときに、設定上限車速Vmaxを超えないように制御される。
【0116】
本実施例2においては、バネ上制振制御部3の車輪トルク換算部3aに入力される運転者要求トルク、つまり運転者の駆動要求に応じた運転者要求トルクが上限車速制限制御設定部4bへと入力されるものとする。そして、駆動制御部2の加算器(C1a)においては、その上限車速制限制御設定部4bにおける上限車速制限制御の為の乗算処理を経た運転者要求トルクに駆動トルク換算部3dを経たバネ上制振制御量の設定結果が加算されるものとする。
【0117】
ところで、このようなバネ上制振制御装置と上限車速制限制御装置の関係においては、車両10が所定車速V0を超えた際にバネ上制振制御と上限車速制限制御とが同時に実行される。その際、運転者要求トルク算出部(C1)で求められた運転者要求トルクは、上限車速制限制御部4で上限車速制限ゲインK・Vlim(<1)が乗算されて小さくなる。これが為、車両10においては、エンジン20の出力が抑えられるようになり、車両減速度が発生して設定上限車速Vmaxに車速Vが制限される。しかしながら、バネ上制振制御量の設定結果が正の値のときには、上限車速制限ゲインK・Vlimに応じて小さくなった運転者要求トルクに対してバネ上制振制御量の設定結果が加算器(C1a)において加算されるので、この加算処理で得られた最終的な運転者要求トルクが上限車速制限制御の為に低く抑え込んだ運転者要求トルクよりも大きくなり、上限車速制限制御による適切な車速Vに車両10の上限車速を制限できない可能性がある。
【0118】
そこで、本実施例2のバネ上制振制御装置においては、上限車速制限制御の実行中にバネ上制振制御を禁止させる。
【0119】
例えば、バネ上制振制御手段は、図8のフローチャートに示す如く、車速Vの情報を取得して(ステップST1)、この車速Vと上記の所定車速V0とを比較する(ステップST2)。そのステップST1においては、前述したように各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの車輪速度から推定した車速Vの情報を取得してもよく、図示しない車速センサ等の車速検出手段によって検出された車速Vの情報を取得してもよい。
【0120】
このバネ上制振制御手段は、そのステップST2で車速Vが所定車速V0以上の高速になっていると判定した場合、上限車速制限制御手段(上限車速制限制御部4)によって上限車速制限制御が実行されるので、バネ上制振制御の実行を禁止する(ステップST3)。例えば、このステップST3においては、バネ上制振制御禁止フラグを立てて、加算器(C1a)にバネ上制振制御量の設定結果を入力させず、上限車速制限制御設定部4bで乗算処理された運転者要求トルクを加算器(C1a)で加算処理することなく制御指令決定部(C2)に渡すようにする。これにより、その制御指令決定部(C2)には、上限車速制限制御設定部4bにおいて上限車速制限制御の為に小さく絞られた運転者要求トルクが最終的な運転者要求トルクとして入力される。
【0121】
この場合、上限車速制限制御手段は、上限車速制限ゲイン設定部4aにおいて上限車速制限ゲインK・Vlimを車速Vに応じた「1」よりも小さい値に設定し、上限車速制限制御設定部4bにおいてその上限車速制限ゲインK・Vlim(<1)を運転者要求トルク算出部(C1)で求められた運転者要求トルクに乗算する。そして、この上限車速制限制御手段は、その乗算結果を駆動制御手段(つまり駆動制御部3)に渡す。その乗算結果は、加算器(C1a)で加算処理されずに制御指令決定部(C2)へと入力される。これが為、駆動制御手段は、上限車速制限制御の為に上限車速制限制御設定部4bで絞り込まれた運転者要求トルクを最終的な運転者要求トルクとし、この最終的な運転者要求トルクを発生させるべく制御を行う。従って、車両10は、上限車速制限制御の制御量が変更されないので、車速Vの制限が必要とされるときに上限車速制限制御を実行して、設定上限車速Vmaxを上限とする適切な速度に車速Vを抑え込むことができる。尚、上限車速制限制御設定部4bの後工程で上述したなまし処理等の処理が実行される場合には、その処理を上限車速制限制御設定部4bで絞り込まれた運転者要求トルクに施したものが加算器(C1a)に入力される。
【0122】
一方、バネ上制振制御手段は、上記ステップST2で車速Vが所定車速V0よりも低速であると判定した場合、上限車速制限制御が実行されないので、バネ上制振制御の実行に支障無しとの判断を行って、バネ上制振制御の実行を許可する(ステップST4)。例えば、このステップST4においては、バネ上制振制御許可フラグを立てて、加算器(C1a)での加算処理が実行されるようにする。
【0123】
この場合、上限車速制限制御手段は、上限車速制限ゲイン設定部4aにおいて上限車速制限ゲインK・Vlimを「1」に設定し、上限車速制限制御設定部4bにおいてその上限車速制限ゲインK・Vlim(=1)を運転者要求トルク算出部(C1)で求められた運転者要求トルクに乗算する。そして、この上限車速制限制御手段は、その乗算結果(=運転者要求トルク算出部(C1)で求められた運転者要求トルク)を駆動制御手段に渡す。その乗算結果は、加算器(C1a)における駆動トルク換算部3dのバネ上制振制御量の設定結果との加算処理に供された後、制御指令決定部(C2)へと入力される。これが為、車両10においては、実施例1で示した様に、バネ上制振制御の実行が必要とされるときに、その必要に応じたバネ上制振制御量でバネ上制振制御が実行される。尚、この場合には、上限車速制限制御設定部4bにおける上限車速制限ゲインK・Vlimの乗算処理を行わないように構成してもよい。また、上限車速制限制御設定部4bの後工程で上述したなまし処理等の処理が実行される場合には、その処理を運転者要求トルク算出部(C1)における運転者要求トルクに施したものが加算器(C1a)に入力される。
【0124】
ここで示した図8の演算処理は、車両10の走行中に繰り返し実行される。従って、上限車速制限制御の実行後に車速Vが所定車速V0よりも低くなったときには、上記ステップST4に進み、バネ上制振制御について禁止状態から許可状態に切り替える。
【0125】
このように、本実施例2のバネ上制振制御装置は、車速Vの制限が必要とされるときにバネ上制振制御の実行を禁止することによって、適切な速度での上限車速制限制御を実行させることができる。他方、このときの車両10においては、車体に発生するバネ上振動を抑制することができなくなる。その際、そのバネ上振動が例えば運転者によって体感し得ない位に小さく、車両10の挙動等に変化を与えない程度のものならば、適切な上限車速制限制御の実行によって車速Vが設定上限車速Vmaxを超えないようにすることを優先すべきである。これに対して、そのバネ上振動が例えば運転者によって体感される位に大きく、車両10の挙動等に変化を与えるものならば、上限車速制限制御による車速Vの制限と共にバネ上制振制御によるバネ上振動の抑制も図ることが好ましい。
【0126】
そこで、本実施例2のバネ上制振制御装置は、車速Vが所定車速V0以上になったからといって直ぐにバネ上制振制御を禁止させるのではなく、車速Vが所定車速V0以上になった場合に、その車速Vに応じてバネ上制振制御量(具体的にはバネ上制振制御量の設定結果)を調整し、バネ上制振制御を実行しつつ上限車速制限制御を開始させるように構成してもよい。
【0127】
例えば、車速Vが遅いときほど設定上限車速Vmaxとなるまでに余裕があるので、車速Vが所定車速V0以上になった後は、その車速Vに応じてバネ上制振制御量の設定結果に上下限ガード処理又はレート処理を施し、そのバネ上制振制御量の設定結果を小さくするようにバネ上制振制御手段(つまりバネ上制振制御部3)を構成する。その上下限ガード処理等は、駆動トルク換算部3dに入力される運転者要求車輪トルクTw0の修正量又は駆動トルク換算部3dにおけるバネ上制振制御量の設定結果に対して行う。
【0128】
ここで、上下限ガード処理とは、上限ガード値で上記の運転者要求車輪トルクTw0の修正量又はバネ上制振制御量の設定結果における正の値に制限をかけて切り詰め、且つ、下限ガード値でその運転者要求車輪トルクTw0の修正量又はバネ上制振制御量の設定結果における負の値に制限をかけて切り詰める処理のことであり、バネ上制振制御量が小さくなるようにするものである。この上下限ガード処理を行うことによって、加算器(C1a)には、この上下限ガード処理を実行しないときよりも減少しているバネ上制振制御量の設定結果が入力される。
【0129】
その上限ガード値は、正の値であり、車速Vが低いほど正方向に大きな値を設定しておく。一方、下限ガード値は、負の値であり、車速Vが低いほど負方向に大きな値を設定しておく。これが為、車速Vが所定車速V0以上になったときには、その車速Vが遅い状態であるほどバネ上制振制御量の減少量が少なくなり、上限車速制限制御を実行しなければ行われたであろう上下限ガード処理前のバネ上制振制御量に近いバネ上制振制御が実行される。そして、その際には、上限車速制限制御の制御量はバネ上制振制御量に伴い大きくなるが、車速Vが遅い状態であれば、上限ガード値を良好な上限車速制限制御が行われるよう適切な値に実験等で設定しておくことによって、設定上限車速Vmaxを超えないように車速Vを抑えることができる。この上限ガード値は、所定車速V0から設定上限車速Vmaxまでの全範囲において可能な限り良好な上限車速制限制御がバネ上制振制御と共に実行できるように設定する。ここで、これら上限ガード値と下限ガード値は、例えば設定上限車速Vmaxで「0」となるように設定してもよく、これにより設定上限車速Vmaxとなったときにバネ上制振制御が実行されなくなり、その設定上限車速Vmaxを上限とする適切な上限車速制限制御が行えるようになる。
【0130】
また、レート処理とは、車速Vが所定車速V0以上になったときに、駆動トルク換算部3dに入力される運転者要求車輪トルクTw0の修正量又は駆動トルク換算部3dにおけるバネ上制振制御量の設定結果に対して、その変化量を制限するものである。このレート処理を行うことによって、加算器(C1a)には、このレート処理を実行しないときよりも減少しているバネ上制振制御量の設定結果が入力される。
【0131】
このレート処理に用いるバネ上制振制御量の変化量の制限値は、所望の制限をかけることのできる値を実験等で求めたものであり、予め定められた値でもよく、車速Vに応じて可変させるものにしてもよい。後者の車速Vに応じて可変させるものである場合には、高車速であるほど大きな制限値にするとよい。
【0132】
更に、車速Vが所定車速V0以上になった後で良好なバネ上制振制御と上限車速制限制御を同時に行わせる為には、次の様にしてもよい。
【0133】
例えば、その際のバネ上制振制御は、バネ上制振制御量CVに上限車速制限処理を施して減少補正し、この補正されたバネ上制振制御量CVを用いて実行させる。このバネ上制振制御量CVの補正値とは、バネ上制振制御手段(つまりバネ上制振制御部3)が求めたバネ上制振制御量CVを上限車速制限の為のバネ上制振制御量制限係数で補正して小さくしたものである。従って、この際のバネ上制振制御は、上限車速制限の為のバネ上制振制御量制限係数によって抑えめに制限される。
【0134】
その上限車速制限の為のバネ上制振制御量制限係数は、上限車速制限制御の実行時にバネ上制振制御手段の求めたバネ上制振制御量CVを小さく抑えてバネ上制振制御に制限をかける為の係数であり、例えば上限車速制限の為のバネ上制振制御量制限ゲインK・Vlim1として設定される。この上限車速制限の為のバネ上制振制御量制限ゲインK・Vlim1とは、前述した上限車速制限ゲインK・Vlimと同様に車速Vに応じて異なる値を示すものとしてマップデータに設定されたものであって、上述した所定車速V0(=Vmax−α)までを「1」とし、この所定車速V0を超えてから設定上限車速Vmaxとなるまで「1」から徐々に小さくしていったものである。これが為、車両10は、その所定車速V0を超えたときに、車速Vが高くなるほどバネ上制振制御に制限がかかる。その設定上限車速Vmaxでのバネ上制振制御量制限ゲインK・Vlim1は、必ずしも「0」である必要はない。従って、車両10は、設定上限車速Vmaxとなった際にバネ上制振制御が働いていることもある。ここでは、このバネ上制振制御量制限ゲインK・Vlim1として、上限車速制限ゲインK・Vlimを用いるが、バネ上制振制御と上限車速制限制御を夫々に好ましい状態で実行し得るのであれば、所定車速V0から設定上限車速Vmaxまでの傾きを上限車速制限ゲインK・Vlimに対して変化させてもよい。
【0135】
ここでのバネ上制振制御装置と上限車速制限制御装置の構成について模式的に表した制御ブロック図を図9に示す。この図9の制御ブロック図に示す構成は、前述した図6の制御ブロック図に対してバネ上制振制御量CVの補正に係る構成を加えたものである。
【0136】
その補正に係る構成としては、バネ上制振制御量制限ゲインK・Vlim1をバネ上制振制御量CV(つまり駆動トルク換算部3dに入力される運転者要求車輪トルクTw0の修正量又は駆動トルク換算部3dにおけるバネ上制振制御量の設定結果)に乗算するバネ上制振制御量補正部3eが用意されている。図9の制御ブロック図においては、駆動トルク換算部3dの下流側にバネ上制振制御量補正部3eを配置して、バネ上制振制御量制限ゲインK・Vlim1(=上限車速制限ゲインK・Vlim)と駆動トルク換算部3dにおけるバネ上制振制御量の設定結果とが乗算されるものを例示している。
【0137】
かかる構成におけるバネ上制振制御について図10のフローチャートを用いて説明する。
【0138】
先ず、バネ上制振制御手段は、前述した図8の例示のときと同様に、車速Vの情報を取得する(ステップST11)。
【0139】
また、このバネ上制振制御手段は、バネ上制振制御量CVを求める(ステップST12)。ここでは、駆動トルク換算部3dの演算結果、つまりバネ上制振制御量の設定結果が実施例1と同様にして求められる。
【0140】
続いて、このバネ上制振制御手段は、その車速Vと上述した所定車速V0とを比較する(ステップST13)。
【0141】
このバネ上制振制御手段は、そのステップST13で車速Vが所定車速V0以上の高速になっていると判定した場合、上限車速制限制御が実行されるので、ステップST12で求めたバネ上制振制御量CV(バネ上制振制御量の設定結果)を車速Vに応じて減少補正して、バネ上制振制御に制限をかける。
【0142】
具体的に、バネ上制振制御手段は、車速Vに応じた上限車速制限の為のバネ上制振制御量制限ゲインK・Vlim1を求める(ステップST14)。ここでは、前述したように、そのバネ上制振制御量制限ゲインK・Vlim1として上限車速制限ゲインK・Vlimを利用する。従って、バネ上制振制御手段は、上限車速制限ゲイン設定部4aで車速Vに応じて設定された上限車速制限ゲインK・Vlimを受け取って利用している。
【0143】
次に、このバネ上制振制御手段は、バネ上制振制御量補正部3eにおいて、そのバネ上制振制御量制限ゲインK・Vlim1(=上限車速制限ゲインK・Vlim)を上記ステップST12のバネ上制振制御量CV(バネ上制振制御量の設定結果)に乗算して、そのバネ上制振制御量CVの減少補正を行う(ステップST15)。このステップST15を経た場合には、その補正後のバネ上制振制御量CVがバネ上制振制御実行の為のバネ上制振制御量CVとして設定される。
【0144】
一方、このバネ上制振制御手段は、車速Vが所定車速V0よりも低速であると判定した場合、上限車速制限制御が実行されないので、バネ上制振制御の実行に支障無しとの判断を行って、上記ステップST12のバネ上制振制御量CV(バネ上制振制御量の設定結果)をバネ上制振制御実行の為のバネ上制振制御量CVとして設定する。
【0145】
この車両10においては、その設定されたバネ上制振制御量CVに応じたバネ上制振制御が実行される(ステップST16)。このステップST16においては、設定されたバネ上制振制御量CVが加算器(C1a)に入力されて、この設定されたバネ上制振制御量CVと上限車速制限制御設定部4bで上限車速制限ゲインK・Vlimの乗算処理が行われた運転者要求トルクとが加算される。そして、このステップST16においては、その加算処理の結果が制御指令決定部(C2)に入力され、ここで得られた制御指令に基づいてエンジン20の出力が制御される。
【0146】
例えば、車速Vが所定車速V0よりも低速のときには、上限車速制限制御が実行されずに、上記ステップST12のバネ上制振制御量CV(バネ上制振制御量の設定結果)に基づいた通常時のバネ上制振制御が実行される。これが為、車両10においては、車体に発生するバネ上振動が適切に抑えられる。尚、ここで云う通常時とは、バネ上制振制御量補正部3eでバネ上制振制御量CVが減少補正されていないときのことを指す。
【0147】
一方、車速Vが所定車速V0以上のときには、上記ステップST15における補正後のバネ上制振制御量CVに基づいて通常時よりも小さく制限された制御量でのバネ上制振制御が実行されると共に、上限車速制限制御も実行される。このときには、その補正後のバネ上制振制御量CVが加算されるので、通常時よりも同一車速での上限車速制限制御の制御量が大きくなって、所定車速V0を超えてからの車両減速度が通常時よりも低くなる。しかしながら、このときには、バネ上制振制御を完全に禁止せずに、良好な上限車速制限制御の実現を考慮に入れた通常時よりも小さいバネ上制振制御量CVでバネ上制振制御を実行しているので、上限車速制限制御による速度Vの制限効果と共に、バネ上振動の抑制に伴う有用な効果を得ることができる。
【0148】
ところで、車両10における制振制御には、上述したバネ上振動を抑制するバネ上制振制御だけでなく、様々なものがある。上述した実施例1,2の車両10においては、バネ上制振制御も含む複数の制振制御が同時期に実行されている場合、上述したようにバネ上制振制御禁止条件が成立したならば、そのバネ上制振制御のみを停止させるように構成する。
【0149】
また、これら各実施例1,2の車両10は、動力源(車両駆動装置)としてエンジン20を例に挙げているが、その車両がハイブリッド車両ならばモータも、電気自動車ならばモータがバネ上制振制御に係る車両駆動装置となる。
【0150】
また、この車両10において、制動装置が駆動輪WRL,WRRに発生させる車輪制動トルク(車輪制動力)は、別の言い方をすれば、その駆動輪WRL,WRRに発生している車輪トルク(車輪駆動力)の大きさを減少させる為の力と言える。従って、この制動装置は、エンジン20や変速機30と同様に、車両駆動装置として機能するものとしてバネ上制振制御に利用してもよい。その際には、駆動輪WRL,WRRの車輪トルク(車輪駆動力)を減らしてバネ上振動を抑制することになる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
以上のように、本発明に係る車両のバネ上制振制御装置は、バネ上振動の抑制を図るバネ上制振制御を行う際に有用である。
【符号の説明】
【0152】
1 電子制御装置(ECU)
2 駆動制御部(駆動制御手段)
3 バネ上制振制御部(バネ上制振制御手段)
3a 車輪トルク換算部
3b フィードフォワード制御部
3c フィードバック制御部
3d 駆動トルク換算部
10 車両
20 エンジン(車両駆動装置)
30 変速機(車両駆動装置)
41 アクセルペダル
42 アクセルペダル操作量取得手段
43 スロットルバルブ
44 モータ
61 ブレーキペダル
64 ブレーキアクチュエータ
66FL,66FR,66RL,66RR 制動力発生手段
67 ブレーキペダル操作量取得手段
71FL,71FR,71RL,71RR 車輪速度取得手段
FL,WFR,WRL,WRR 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面からの入力又は運転者要求トルクに伴い車体に発生するバネ上振動を抑制させる為のバネ上制振制御量の設定を行うバネ上制振制御手段と、該バネ上制振制御量を実現させるように車両駆動装置の出力を制御してバネ上制振制御を実行する駆動制御手段と、を備えた車両のバネ上制振制御装置において、
車両の運転状態、車両の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じて、前記バネ上制振制御の実行を許可又は禁止することを特徴とした車両のバネ上制振制御装置。
【請求項2】
前記バネ上制振制御を実行していない状態で当該バネ上制振制御の実行が許可されたときに、車両の運転状態、車両の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じて、直ちに前記バネ上制振制御量を実現させるバネ上制振制御開始形態又は徐々に前記バネ上制振制御量を実現させていくバネ上制振制御開始形態の内の何れかにバネ上制振制御開始時の制御形態を設定するバネ上制振制御開始形態設定手段を更に設け、
前記駆動制御手段は、前記バネ上制振制御開始形態設定手段の設定結果に基づいて前記車両駆動装置の出力の制御を行うよう構成したことを特徴とする請求項1記載の車両のバネ上制振制御装置。
【請求項3】
前記バネ上制振制御を実行している状態で当該バネ上制振制御の実行が禁止されたときに、車両の運転状態、車両の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じて、直ちに前記バネ上制振制御を終了させるバネ上制振制御終了形態又は徐々に前記バネ上制振制御を終了させていくバネ上制振制御終了形態の内の何れかにバネ上制振制御終了時の制御形態を設定するバネ上制振制御終了形態設定手段を更に設け、
前記駆動制御手段は、前記バネ上制振制御終了形態設定手段の設定結果に基づいて前記車両駆動装置の出力の制御を行うよう構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両のバネ上制振制御装置。
【請求項4】
路面からの入力又は運転者要求トルクに伴い車体に発生するバネ上振動を抑制させる為のバネ上制振制御量の設定を行うバネ上制振制御手段と、該バネ上制振制御量を実現させるように車両駆動装置の出力を制御してバネ上制振制御を実行する駆動制御手段と、を備えた車両のバネ上制振制御装置において、
前記駆動制御手段は、車両の運転状態、車両の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じて、前記バネ上制振制御を開始させるように構成したことを特徴とする車両のバネ上制振制御装置。
【請求項5】
路面からの入力又は運転者要求トルクに伴い車体に発生するバネ上振動を抑制させる為のバネ上制振制御量の設定を行うバネ上制振制御手段と、該バネ上制振制御量を実現させるように車両駆動装置の出力を制御してバネ上制振制御を実行する駆動制御手段と、を備えた車両のバネ上制振制御装置において、
前記駆動制御手段は、車両の運転状態、車両の状態又は運転者要求の内の少なくとも何れか1つに応じて、前記バネ上制振制御を終了させるように構成したことを特徴とする車両のバネ上制振制御装置。
【請求項6】
前記バネ上制振制御手段は、車両を設定上限車速で抑える上限車速制限制御が実行される場合、前記バネ上制振制御の実行を禁止させる又は前記バネ上制振制御量を小さく抑えるように構成したことを特徴とする請求項1,4又は5に記載の車両のバネ上制振制御装置。
【請求項7】
前記バネ上振動は、車両におけるバウンス方向又はピッチ方向の内の少なくとも何れか一方の振動を含むものである請求項1から6の内の何れか1つに記載の車両のバネ上制振制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−132254(P2010−132254A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35557(P2009−35557)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】