説明

車両の制御装置及び車両の制御方法

【課題】運転手によるブレーキ操作に基づき車両のエンジンを自動的に停止させる機能を有する車両において、制動制御を阻害することなくエンジンを速やかに再始動させることができる車両の制御装置及び車両の制御方法を提供する。
【解決手段】ブレーキ用ECUは、車輪に制動力が付与されない状態で走行する場合における車両の加速度の推定値として惰性加速度Dgを取得し(ステップS27)、該惰性加速度Dgに基づき第1車速推定値VS1を取得し(ステップS28)、取得した第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVS未満である場合に(ステップS29:YES)、エンジンの再始動を許可する(ステップS30)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジンを自動的に停止させるための停止制御及びエンジンを自動的に再始動させるための再始動制御を行う車両の制御装置及び車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の燃費向上などを目的として、車両の停止中又は停止直前にエンジンを自動的に停止させると共に、運転者による発進操作を契機にエンジンを自動的に再始動させる所謂アイドルストップ機能を有する車両の制御装置の開発が進められている。例えば、特許文献1に記載の車両の制御装置では、運転手によるブレーキペダルの操作に伴う車両減速時において、ブレーキペダルの操作量(以下、「ブレーキ操作量」ともいう。)が第1の閾値以上となったときに、エンジンを自動的に停止させるための停止制御が行われる。こうした停止制御によってエンジンが停止された状態で、ブレーキ操作量が第1の閾値以下の値に予め設定された第2の閾値以下になった場合には、エンジンを自動的に再始動させるための再始動制御が行われる。すると、車両に搭載されるバッテリから電力が供給されるスタータモータが作動することにより、エンジンが再始動されるようになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−63001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の車両の制御装置では、エンジンの再始動と、アンチロックブレーキ制御(「ABS制御」ともいう。)などの制動制御とが時間的に重複する可能性がある。このようにエンジンの再始動と制動制御とが時間的に重複する場合の一例として、以下に示すケースが考えられる。
【0005】
すなわち、運転手によるブレーキ操作量が第1の閾値以上となった場合には、エンジンが自動的に停止される。その後、車両が停車する前に運転手によるブレーキ操作量が第2の閾値以下となった場合には、エンジンの自動的な再始動が開始される。こうしたエンジンの再始動の最中に、運転手によるブレーキ操作によってABS制御の開始条件が成立した場合には、エンジンの再始動中であってもABS制御が開始される。
【0006】
この場合、車両のバッテリからは、ABS制御を行うためにブレーキアクチュエータの各弁やモータに電力が供給されると共に、スタータモータに対して電力が供給されることになる。そのため、特にバッテリの蓄電量が少なかった場合には、スタータモータに供給する電力に不足が生じ、エンジンの再始動に要する時間が長くなるおそれがあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。その目的は、運転手によるブレーキ操作に基づき車両のエンジンを自動的に停止させる機能を有する車両において、制動制御を阻害することなくエンジンを速やかに再始動させることができる車両の制御装置及び車両の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の車両の制御装置は、車両のエンジン(12)を自動的に停止させるための停止制御及び前記エンジン(12)を自動的に再始動させるための再始動制御を行う制御手段(55、S30)を備えた車両の制御装置であって、車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力が付与されない状態で走行する場合における車両の加速度の推定値を惰性加速度(Dg)として取得する惰性加速度取得手段(55、S27)と、前記停止制御を契機に前記エンジン(12)が停止された場合に、前記惰性加速度取得手段(55、S27)によって取得された惰性加速度(Dg)に基づき、前記エンジン(12)の再始動に要する再始動時間(Ts、Ts1)が経過した時点の車両の車体速度を車速推定値(VS1)として取得する惰性車体速度推定手段(55、S28)と、をさらに備え、前記制御手段(55、S30)は、前記惰性車体速度推定手段(55、S28)によって取得された車速推定値(VS1)が、制動制御の実行の可否を判断するために設定された制動制御許可基準値(KVS)未満である場合に、前記再始動制御を行うことを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、惰性加速度は、車輪に駆動力及び制動力が付与されていないと仮定した場合における車両の加速度の推定値である。こうした惰性加速度は、車両の走行する路面が登坂路である場合には負の値である一方、路面が降坂路である場合には正の値となる。そして、車輪に駆動力及び制動力が付与されていないと仮定した場合において、再始動時間が経過した時点の車体速度の推定値である車速推定値が、惰性加速度に基づき取得される。こうした車速推定値が制動制御許可基準値未満である場合とは、再始動制御を契機にエンジンの再始動が開始されたとしても、エンジンの再始動が完了した時点における車両の車体速度が制動制御許可基準値以上となる可能性が低い場合であると考えられる。そのため、制動制御とエンジンの再始動とが時間的に重複することが回避され、車両のバッテリからエンジン側に供給される電力が不足することが抑制される。したがって、運転手によるブレーキ操作に基づき車両のエンジンを自動的に停止させる機能を有する車両において、制動制御を阻害することなくエンジンを速やかに再始動させることができる。
【0010】
本発明の車両の制御装置において、前記制御手段(55、S37)は、前記惰性車体速度推定手段(55、S28)によって取得された車速推定値(VS1)が前記制動制御許可基準値(KVS)以上である場合には、前記再始動制御よりも前記制動制御を優先的に行うことが好ましい。
【0011】
取得された車速推定値が制動制御許可基準値以上である場合とは、再始動制御を契機にエンジンの再始動が開始されたときに、エンジンの再始動が完了した時点における車両の車体速度が制動制御許可基準値以上になっている可能性がある場合であると考えられる。すなわち、エンジンの再始動と制動制御とが時間的に重複する可能性がある。この点、本発明では、車速推定値が制動制御許可基準値以上である場合には、再始動制御よりも制動制御が優先的に行われる。そのため、エンジンの再始動と制動制御とが時間的に重複することを抑制できる。
【0012】
本発明の車両の制御装置において、車両には、車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力を付与するためのホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)と、該ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧を調整すべく作動する調整弁(35a,35b、37a,37b,37c,37d)とが設けられており、車両の加速度(DVS)を取得する車両加速度取得手段(55、S23)と、前記停止制御を契機に前記エンジン(12)が停止された場合に、前記車両加速度取得手段(55、S23)によって取得された車両の加速度(DVS)に基づき、前記再始動時間(Ts、Ts1)が経過した時点の車両の車体速度を車速推定値(VS2)として取得する予定車体速度推定手段(55、S33)と、をさらに備え、前記制御手段(55、S30,S32)は、前記惰性車体速度推定手段(55、S28)によって取得された車速推定値(VS1)が前記制動制御許可基準値(KVS)以上である場合には、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧の低下を抑制させるべく前記調整弁(35a,35b、37a,37b,37c,37d)を作動させる弁制御を行い、前記弁制御時において、前記予定車体速度推定手段(55、S33)によって取得された車速推定値(VS2)が前記制動制御許可基準値(KVS)以下である場合には、前記再始動制御を行うことが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、惰性車体速度推定手段によって取得された車速推定値が制動制御許可基準値以上である場合には、弁制御が行われるため、車輪に対する制動力の低下が抑制される。この状態で予定車体速度推定手段によって車速推定値が取得される。そして、この車速推定値が制動制御許可基準値以下である場合は、このタイミングからエンジンを再始動させても、該再始動中に車体速度が制動制御許可基準値を超える可能性が低い。よって、再始動制御が行われる。したがって、エンジンの再始動と制動制御との時間的な重複を抑制できると共に、エンジンを速やかに再始動させることができる。
【0014】
本発明の車両の制御装置は、前記停止制御を契機に前記エンジン(12)が停止された場合に、運転手に車両を発進させる意志があるか否かを判定する発進判定手段(55、S36)をさらに備え、前記制御手段(50、S30)は、前記発進判定手段(55、S36)によって運転手に車両を発進させる意志があると判定された場合に、前記再始動制御を行うことが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、運転手に車両を発進させる意志がある場合には、制動制御が行われる可能性が低いと考えられるため、エンジンの再始動が開始される。したがって、運転手の意向に沿った車両制御を行うことができる。
【0016】
本発明の車両の制御装置において、前記惰性車体速度推定手段(55、S28)は、前記エンジン(12)の駆動中において車両が減速される場合に、前記惰性加速度取得手段(55、S27)によって取得された惰性加速度(Dg)に基づき、前記エンジン(12)を停止させた後、該エンジン(12)の再始動が完了するまでに要する停止後再始動時間(Ts、Ts2)が経過した時点の車両の車体速度を車速推定値(VS1)として取得し、前記制御手段(55、S30,S37)は、前記エンジン(12)の駆動中において、前記惰性車体速度推定手段(55、S28)によって取得された車速推定値(VS1)が前記制動制御許可基準値(KVS)未満である場合には前記停止制御を行う一方、前記惰性車体速度推定手段(55、S28)によって取得された車速推定値(VS1)が前記制動制御許可基準値(KVS)以上である場合には前記停止制御を行わないことが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、取得された車速推定値が制動制御許可基準値未満である場合には、エンジンを停止させた直後にエンジンを再始動させたとしても、その再始動中に、車両の車体速度が制動制御開始閾値以上となる可能性が低い。そのため、停止制御が行われる。一方、取得された車速推定値が制動制御許可基準値以上である場合には、エンジンを停止させた直後にエンジンを再始動させるときに、その再始動中に、車両の車体速度が制動制御開始閾値以上となる可能性がある。そのため、停止制御が行われない。したがって、エンジンの再始動と制動制御とが時間的に重複することを抑制できる。
【0018】
本発明の車両の制御方法は、車両のエンジン(12)を自動的に停止させる停止ステップ(S30)と、前記エンジン(12)を自動的に再始動させる再始動ステップ(S30)と、を有する車両の制御方法であって、車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力が付与されない状態で走行する場合における車両の加速度の推定値を惰性加速度(Dg)として取得させる惰性加速度取得ステップ(S27)と、前記停止ステップ(S30)で前記エンジン(12)が停止された場合に、前記惰性加速度取得ステップ(S27)で取得した惰性加速度(Dg)に基づき、前記エンジン(12)の再始動に要する再始動時間(Ts、Ts1)が経過した時点の車両の車体速度を車速推定値(VS1)として取得させる惰性車体速度推定ステップ(S28)をさらに有し、取得した車速推定値(VS1)が、制動制御の実行の可否を判断するために設定された制動制御許可基準値(KVS)未満である場合に、前記再始動ステップ(S30)を行うことを要旨とする。
【0019】
上記構成によれば、上記車両の制御装置と同等の作用・効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の制御装置を搭載する車両の一例を示すブロック図。
【図2】制動装置の一例を示すブロック図。
【図3】勾配加速度とリニア電磁弁に対する電流値との関係を示すマップ。
【図4】アクセルオーバーライド判定処理ルーチンを説明するフローチャート。
【図5】アイドルストップ処理ルーチンを説明するフローチャート(前半部分)。
【図6】アイドルストップ処理ルーチンを説明するフローチャート(後半部分)。
【図7】エンジンを自動的に停止及び再始動させる際におけるMC圧、エンジンの回転数、車体速度及び路面勾配の変化を説明するタイミングチャート。
【図8】エンジンを自動的に再始動させる際におけるMC圧、エンジンの回転数、車体速度及び路面勾配の変化を説明するタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図8に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。
【0022】
本実施形態の車両は、燃費性能やエミッション性能を向上させるべく、車両走行中に所定の停止条件の成立に応じてエンジンを自動的に停止させ、その後、所定の始動条件の成立に応じてエンジンを自動的に再始動させる所謂アイドルストップ機能を有している。そのため、この車両では、運転手によるブレーキ操作による減速中又は停車中に、エンジンが自動的に停止される。
【0023】
次に、アイドルストップ機能を有する車両の一例について説明する。
図1に示すように、車両は、複数(本実施形態では4つ)ある車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RL)のうち、前輪FR,FLが駆動輪として機能する所謂前輪駆動車である。こうした車両には、運転手によるアクセルペダル11の操作量に応じた駆動力を発生するエンジン12を有する駆動力発生装置13と、該駆動力発生装置13で発生した駆動力を前輪FR,FLに伝達する駆動力伝達装置14とを備えている。また、車両には、運転手によるブレーキペダル15の操作量に応じた制動力を各車輪FR,FL,RR,RLに付与するための制動装置16が設けられている。
【0024】
駆動力発生装置13は、エンジン12の吸気ポート(図示略)近傍に配置され、且つ該エンジン12に燃料を噴射するインジェクタを有する燃料噴射装置(図示略)を備えている。こうした駆動力発生装置13は、図示しないCPU、ROM及びRAMなどを有するエンジン用ECU17(「エンジン用電子制御装置」ともいう。)の制御に基づき駆動する。このエンジン用ECU17には、アクセルペダル11の近傍に配置され、且つ運転手によるアクセルペダル11の操作量、即ちアクセル開度を検出するためのアクセル開度センサSE1が電気的に接続されている。そして、エンジン用ECU17は、アクセル開度センサSE1からの検出信号に基づきアクセル開度を演算し、該演算したアクセル開度などに基づき駆動力発生装置13を制御する。
【0025】
駆動力伝達装置14は、自動変速機18と、該自動変速機18の出力軸から伝達された駆動力を適宜配分して前輪FR,FLに伝達するディファレンシャルギヤ19と、自動変速機18を制御する図示しないAT用ECUとを備えている。自動変速機18は、流体継手の一例としてトルクコンバータ20aを有する流体式駆動力伝達機構20と、変速機構21とを備えている。
【0026】
制動装置16は、図1及び図2に示すように、マスタシリンダ25、ブースタ26及びリザーバ27を有する液圧発生装置28と、2つの液圧回路29,30を有するブレーキアクチュエータ31(図2では二点鎖線で示す。)とを備えている。各液圧回路29,30は、液圧発生装置28のマスタシリンダ25にそれぞれ接続されている。そして、第1液圧回路29には、右前輪FR用のホイールシリンダ32a及び左後輪RL用のホイールシリンダ32dが接続されると共に、第2液圧回路30には、左前輪FL用のホイールシリンダ32b及び右後輪RR用のホイールシリンダ32cが接続されている。
【0027】
液圧発生装置28においてブースタ26は、エンジン12の駆動時に負圧が発生する図示しないインテークマニホールドに接続されている。そして、ブースタ26は、インテークマニホールド内に発生する負圧と大気圧との圧力差を利用し、運転手によるブレーキペダル15の操作力を倍力する。
【0028】
マスタシリンダ25は、運転手によるブレーキペダル15の操作(以下、「ブレーキ操作」ともいう。)に応じた流体圧としてのマスタシリンダ圧(以下、「MC圧」ともいう。)を発生する。その結果、マスタシリンダ25からは、液圧回路29,30を介してホイールシリンダ32a〜32d内に流体としてのブレーキ液が供給される。すると、車輪FR,FL,RR,RLには、ホイールシリンダ32a〜32d内のホイールシリンダ圧(「WC圧」ともいう。)に応じた制動力が付与される。
【0029】
ブレーキアクチュエータ31において各液圧回路29,30は、連結経路33,34を介してマスタシリンダ25にそれぞれ接続されており、該各連結経路33,34には、常開型のリニア電磁弁(調整弁)35a,35bがそれぞれ設けられている。リニア電磁弁35a,35bは、弁座、弁体、電磁コイル及び弁体を弁座から離間する方向に付勢する付勢部材(例えば、コイルスプリング)を備えており、弁体は、後述するブレーキ用ECU55から電磁コイルに供給される電流値に応じて変位する。すなわち、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧は、リニア電磁弁35a,35bに供給される電流値に応じた液圧で維持される。
【0030】
また、連結経路33においてリニア電磁弁35aよりもマスタシリンダ25側には、該マスタシリンダ25で発生されたMC圧を検出するためのMC圧センサSE2が設けられている。このMC圧センサSE2からは、発生したMC圧に応じた検出信号がブレーキ用ECU55に出力される。
【0031】
第1液圧回路29には、ホイールシリンダ32aに接続される右前輪用経路36aと、ホイールシリンダ32dに接続される左後輪用経路36dとが形成されている。また、第2液圧回路30には、ホイールシリンダ32bに接続される左前輪用経路36bと、ホイールシリンダ32cに接続される右後輪用経路36cとが形成されている。したがって、本実施形態では、連結経路33,34及び各経路36a〜36dにより、マスタシリンダ25とホイールシリンダ32a〜32dとを連結する流路が構成される。また、経路36a〜36dには、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧の増圧を規制する際に作動する常開型の電磁弁である増圧弁37a,37b,37c,37dと、WC圧を減圧させる際に作動する常閉型の電磁弁である減圧弁38a,38b,38c,38dとが設けられている。
【0032】
また、液圧回路29,30には、ホイールシリンダ32a〜32dから減圧弁38a〜38dを介して流出したブレーキ液を一時貯留するためのリザーバ39,40と、モータ41の回転に基づき作動するポンプ42,43とが接続されている。リザーバ39,40は、吸入用流路44,45を介してポンプ42,43に接続されると共に、マスタ側流路46,47を介して連結経路33,34においてリニア電磁弁35a,35bよりもマスタシリンダ25側に接続されている。また、ポンプ42,43は、供給用流路48,49を介して液圧回路29,30における増圧弁37a〜37dとリニア電磁弁35a,35bとの間の接続部位50,51に接続されている。そして、ポンプ42,43は、モータ41が回転した場合に、リザーバ39,40及びマスタシリンダ25側から吸入用流路44,45及びマスタ側流路46,47を介してブレーキ液を吸引し、該ブレーキ液を供給用流路48,49内に吐出する。
【0033】
次に、ブレーキアクチュエータ31の駆動を制御するブレーキ用ECU55(「ブレーキ用電子制御装置」ともいう。)について説明する。
図2に示すように、制御手段としてのブレーキ用ECU55の入力側インターフェースには、MC圧センサSE2、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE3,SE4,SE5,SE6、車両の前後方向における加速度を検出するための加速度センサ(「Gセンサ」ともいう。)SE7が電気的に接続されている。また、ブレーキ用ECU55の入力側インターフェースには、ブレーキペダル15の近傍に配置され、且つブレーキペダル15が操作されているか否かを検出するためのブレーキスイッチSW1が電気的に接続されている。ブレーキ用ECU55の出力側インターフェースには、各弁35a,35b,37a〜37d,38a〜38d及びモータ41などが電気的に接続されている。なお、加速度センサSE7からは、車両が登坂路で停車する際に正の値となるような信号が出力される一方、車両が降坂路で停車する際に負の値となるような信号が出力される。
【0034】
また、ブレーキ用ECU55は、図示しないCPU、ROM及びRAMなどから構成されるデジタルコンピュータ、各弁35a,35b,37a〜37d,38a〜38dを作動させるための図示しない弁用ドライバ回路、及びモータ41を作動させるための図示しないモータ用ドライバ回路を有している。デジタルコンピュータのROMには、各種制御処理(後述するアクセルオーバーライド判定処理、アイドルストップ処理等)、各種マップ(図3に示すマップ等)及び各種閾値などが予め記憶されている。また、RAMには、車両の図示しないイグニッションスイッチがオンである間、適宜書き換えられる各種の情報などがそれぞれ記憶される。
【0035】
次に、ブレーキ用ECU55のROMに記憶される各種マップについて図3に基づき説明する。
図3に示すマップは、勾配加速度Agの絶対値と、リニア電磁弁35a,35bに対する電流値Iとの関係を示している。「勾配加速度Ag」とは、路面の勾配と対応関係にある加速度のことであって、車両の停止中に加速度センサSE7からの検出信号に基づき算出される車体加速度G(図5参照)又は該車体加速度Gに相当する値である。また、「リニア電磁弁35a,35bに対する電流値I」とは、エンジン12からの駆動力が前輪FR,FLに伝達されない場合に、車両の停車を維持するために必要な最低限度の制動力を各車輪FR,FL,RR,RLに付与するために必要な電流値Ixに対してオフセット値αを加算した値である。そのため、図3に示すように、リニア電磁弁35a,35bに対する電流値Iは、勾配加速度Agの絶対値、即ち路面勾配の絶対値が大きいほど、大きな値に設定される。
【0036】
本実施形態の車両において、エンジン用ECU17及びブレーキ用ECU55を含むECU同士は、図1に示すように、各種情報及び各種制御指令を送受信できるようにバス56を介してそれぞれ接続されている。例えば、エンジン用ECU17からは、アクセルペダル11のアクセル開度に関する情報などがブレーキ用ECU55に適宜送信される一方、ブレーキ用ECU55からは、エンジン12を自動的に停止させる旨の制御指令(「停止指令」ともいう。)やエンジン12を自動的に再始動させる旨の制御指令(「再始動指令」ともいう。)などがエンジン用ECU17に送信される。
【0037】
次に、本実施形態のブレーキ用ECU55が実行するアクセルオーバーライド判定処理ルーチンについて、図4に示すフローチャートに基づき説明する。このアクセルオーバーライド判定処理ルーチンは、車両の運転手が車両を発進させる意志があるか否かを判定するための処理ルーチンである。
【0038】
さて、ブレーキ用ECU55は、予め設定された所定周期(例えば、0.01秒周期)毎にアクセルオーバーライド判定処理ルーチンを実行する。このアクセルオーバーライド判定処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU55は、エンジン用ECU17から受信したアクセル開度AKに関する情報に基づき、アクセルペダル11が操作中であるか否か、即ちアクセルオンであるか否かを判定する(ステップS10)。この判定結果が否定判定(即ち、アクセルオフ)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を後述するステップS15に移行する。
【0039】
一方、ステップS10の判定結果が肯定判定(即ち、アクセルオン)である場合、ブレーキ用ECU55は、取得したアクセル開度AKが予め設定された開度閾値KAK以上であるか否かを判定する(ステップS11)。この開度閾値KAKは、運転手によるアクセルペダル11の踏込み量に基づき、運転手が車両を発進させる意志が有るか否かを判断するための基準値である。そして、ステップS11の判定結果が否定判定(AK<KAK)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を後述するステップS15に移行する。一方、ステップS11の判定結果が肯定判定(AK≧KAK)である場合、ブレーキ用ECU55は、取得したアクセル開度AKを時間微分した値であるアクセル開度変化率DAKが予め設定された変化率閾値KDAK以上であるか否かを判定する。この変化率閾値KDAKは、運転手によるアクセルペダル11の踏込み量の増加度合いに基づき、運転手に車両を発進させる意志が有るか否かを判断するための基準値である。
【0040】
ステップS12の判定結果が否定判定(DAK<KDAK)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を後述するステップS15に移行する。一方、ステップS12の判定結果が肯定判定(DAK≧KDAK)である場合、ブレーキ用ECU55は、ブレーキスイッチSW1からの検出信号に基づき、ブレーキペダル15が操作されていないか否か、即ちブレーキオフであるか否かを判定する(ステップS13)。この判定結果が肯定判定(即ち、ブレーキオフ)である場合、ブレーキ用ECU55は、アクセルオーバーライドフラグFLG2をオンにセットし(ステップS14)、アクセルオーバーライド判定処理ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS13の判定結果が否定判定(即ち、ブレーキオン)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を次のステップS15に移行する。
【0041】
ステップS15において、ブレーキ用ECU55は、アクセルオーバーライドフラグFLG2をオフにセットし、アクセルオーバーライド判定処理ルーチンを一旦終了する。すなわち、本実施形態では、ステップS10〜S13での各判定結果のうち少なくとも一つの判定結果が否定判定である場合には、運転手に車両を発進させる意志がないと判断される一方、ステップS10〜S13での各判定結果が全て肯定判定である場合には、運転手に車両を発進させる意思があると判断される。
【0042】
そして、ブレーキ用ECU55は、アクセルオーバーライド判定処理ルーチンの終了後、アイドルストップ処理ルーチンを実行する。そこで次に、ブレーキ用ECU55が実行するアイドルストップ処理ルーチンについて、図5及び図6に示すフローチャートと、図7及び図8に示す各タイミングチャートとに基づき説明する。このアイドルストップ処理ルーチンは、エンジン12の自動的な停止を許可するタイミングやエンジン12の自動的な再始動を許可するタイミングを設定する処理ルーチンである。また、図7及び図8は、車両が降坂路を走行する場合のタイミングチャートである。
【0043】
さて、アイドルストップ処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU55は、ブレーキアクチュエータ31が制動制御中であるか否かを判定する(ステップS20)。本実施形態における制動制御とは、ブレーキアクチュエータ31のポンプ42,43が作動するような制動制御のことを示す。制動制御の一例としては、アンチロックブレーキ制御や横滑り防止制御(ESC:Electronic Stability Control)などが挙げられる。そして、ステップS20の判定結果が肯定判定(即ち、制動制御中)である場合、ブレーキ用ECU55は、アイドルストップ処理ルーチンを一旦終了する。
【0044】
一方、ステップS20の判定結果が否定判定である場合、即ち制動制御中ではない場合、ブレーキ用ECU55は、アイドルストップフラグFLG1がオンであるか否かを判定する(ステップS21)。このアイドルストップフラグFLG1は、車両の乗員によるスイッチ操作によってオン又はオフにセットされるフラグである。すなわち、アイドルストップフラグFLG1は、エンジン12の自動的な停止及び再始動が乗員によって許可された場合にはオンにセットされる一方、エンジン12の自動的な停止及び再始動が乗員によって禁止された場合にはオフにセットされる。そして、ステップS20の判定結果が否定判定(FLG1=オフ)である場合、ブレーキ用ECU55は、アイドルストップ処理ルーチンを一旦終了する。
【0045】
一方、ステップS20の判定結果が肯定判定(FLG1=オン)である場合、ブレーキ用ECU55は、車両の車体速度VSを取得する(ステップS22)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、各車輪速度センサSE3〜SE6からの検出信号に基づき各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度を演算し、該各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度のうち少なくとも一つの車輪速度を時間微分して車輪加速度を取得する。そして、ブレーキ用ECU55は、前回のタイミングで取得した車体速度に対して車輪加速度を積算し、該積算結果を車体速度VSとする。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU55が、車体速度取得手段としても機能する。
【0046】
続いて、ブレーキ用ECU55は、ステップS22で取得した車体速度VSを時間微分して車体速度微分値(車両の実際の加速度)DVSを取得する(ステップS23)。なお、ブレーキ用ECU55は、ステップS22での処理時に取得した車輪加速度を車体速度微分値DVSとしてもよい。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU55が、車両加速度取得手段としても機能する。そして、ブレーキ用ECU55は、加速度センサSE7からの検出信号に基づき、車両の前後方向における車体加速度G(以下、単に「車体加速度」ともいう。)を演算する(ステップS24)。続いて、ブレーキ用ECU55は、ステップS24で演算した車体加速度GからステップS23で取得した車体速度微分値DVSを減算し、該減算結果を勾配加速度Agとする(ステップS25)。加速度センサSE7からの検出信号に基づき演算された車体加速度Gには、車両の実際の加速度成分と、車両の走行する路面の勾配に対応する加速度成分とが含まれている。そして、「車両の実際の加速度成分」は、車体速度VSの微分値である車体速度微分値DVSであり、勾配加速度Agは、車体加速度Gから車両の実際の加速度成分を取り除くことにより取得される。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU55が、勾配加速度取得手段としても機能する。
【0047】
そして、ブレーキ用ECU55は、再始動時間Tsを取得する(ステップS26)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、エンジン12の停止中には、エンジン12の再始動に要する時間、即ち再始動必要時間Ts1(図7参照)を取得し、該再始動必要時間Ts1を再始動時間Tsとする。また、ブレーキ用ECU55は、エンジン12の駆動中には、エンジン12を一旦停止させ、その後、直ぐにエンジン12を再始動させるのに要する時間、即ち停止再始動必要時間Ts2(図7参照)を取得し、該停止再始動必要時間Ts2を再始動時間Tsとする。なお、再始動必要時間Ts1は、再始動指令がブレーキ用ECU55からエンジン用ECU17に送信されてから、エンジン12の再始動が完了するまでの時間の予測値であって、一例として「1秒」に設定される。また、停止再始動必要時間Ts2は、再始動必要時間Ts1に対して、停止指令がブレーキ用ECU55からエンジン用ECU17に送信されてから、エンジン12の停止が完了するまでの時間の予測値を加算した値である。
【0048】
続いて、ブレーキ用ECU55は、車輪FR,FL,RR,RLに制動力が付与されない状態で車両が走行すると仮定した場合における該車両の加速度の推定値として惰性加速度Dgを演算する(ステップS27)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、ステップS25で演算した勾配加速度Agに対して「−1」を乗算することにより惰性加速度Dgを取得する。この惰性加速度Dgは、車輪FR,FL,RR,RLに駆動力及び制動力が共に付与されない状態で、車両が走行すると仮定した場合の該車両の加速度である。そのため、惰性加速度Dgは、路面が登坂路である場合には負の値となると共に、路面が降坂路である場合には正の値となり、さらに、路面が水平な路面である場合には「0(零)」となる。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU55が、惰性加速度取得手段としても機能する。また、ステップS25,S26,S27により、惰性加速度取得ステップが構成される。
【0049】
続いて、ブレーキ用ECU55は、車輪FR,FL,RR,RLに制動力が付与されないと仮定した場合に、現時点から再始動時間Tsが経過した時点の車体速度の推定値として第1車速推定値VS1を取得する(ステップS28)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、ステップS22で取得した車体速度VSに対して、惰性加速度Dgと再始動時間Tsとの乗算値を加算し、該加算結果を第1車速推定値VS1(=VS+Dg×Ts)とする。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU55が、惰性車体速度推定手段としても機能する。また、ステップS28が、惰性車体速度推定ステップに相当する。
【0050】
そして、ブレーキ用ECU55は、ステップS28で取得した第1車速推定値VS1が予め設定された制動制御許可基準値KVSよりも大きいか否かを判定する(ステップS29)。制動制御許可基準値KVSは、制動制御の許可又は禁止を判断するための基準値として設定された値であり、車体速度VSが制動制御許可基準値KVS以下である場合には制動制御の実行が禁止される。そして、ステップS29の判定結果が肯定判定(VS1>KVS)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を後述するステップS31に移行する。一方、ステップS29の判定結果が否定判定(VS1≦KVS)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を次のステップS30に移行する。
【0051】
ステップS30において、ブレーキ用ECU55は、エンジン12が駆動中である場合にはエンジン12の自動的な停止を許可する停止制御を行う。したがって、本実施形態では、ステップS30が、停止ステップに相当する。その後、ブレーキ用ECU55は、アイドルストップ処理ルーチンを一旦終了する。
【0052】
その後、停止制御を行ったブレーキ用ECU55は、MC圧センサSE2からの検出信号に基づき演算したマスタシリンダ25内のMC圧Pmcが停止制御開始基準値KPmc1(図7参照)以上である場合に、停止指令をエンジン用ECU17に送信する。停止制御開始基準値KPmc1は、車両の走行する路面の勾配(「路面勾配」ともいう。)に基づき設定される。そして、エンジン用ECU17は、停止指令を受信した場合に、エンジン12の駆動を停止させると共に、該停止処理が完了した旨の信号をブレーキ用ECU55に送信する。エンジン用ECU17から信号を受信したブレーキ用ECU55は、エンジン12の停止が完了したと判断する。
【0053】
すなわち、図7のタイミングチャートに示すように、エンジン12の駆動中において運転手によってブレーキ操作されると、車両は減速される。この間、第1車速推定値VS1が所定周期毎に算出される。そして、第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVSよりも大きい場合には、エンジン12の自動的な停止が禁止される。例えば、第1のタイミングt11で算出された第1車速推定値VS1は、車輪FR,FL,RR,RLに駆動力及び制動力が付与されていないと仮定した場合における第3のタイミングt13の車体速度の推定値である。第3のタイミングt13は、第1のタイミングt11から停止再始動必要時間Ts2が経過した後のタイミングである。これは、第1のタイミングt11でエンジン12を停止させ、その直後にエンジン12を再始動させる場合に、車両の車体速度VSが制動制御許可基準値KVSを超える可能性があることを意味している。換言すると、エンジン12の再始動と制動制御とが時間的に重複する可能性がある。そのため、第1のタイミングt11でのエンジン12の自動的な停止が禁止される。
【0054】
その一方で、第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVS以下である場合には、エンジン12の自動的な停止が許可される。例えば、第2のタイミングt12で算出された第1車速推定値VS1は、車輪FR,FL,RR,RLに駆動力及び制動力が付与されていないと仮定した場合における第4のタイミングt14の車体速度の推定値である。第4のタイミングt14は、第2のタイミングt12から停止再始動必要時間Ts2が経過した後のタイミングである。これは、第2のタイミングt12でエンジン12を停止させ、その直後にエンジン12を再始動させる場合に、車両の車体速度VSが制動制御許可基準値KVSを超える可能性が極めて低いことを意味している。換言すると、エンジン12の再始動と制動制御とが時間的に重複する可能性が極めて低い。そのため、第2のタイミングt12以降では、エンジン12の自動的な停止が許可される。この場合、第2のタイミングt12では、MC圧Pmcが停止制御開始基準値KPmc1以上であるため、エンジン12の自動的な停止が開始される。
【0055】
図6のフローチャートに戻り、ブレーキ用ECU55は、エンジン12が停止中である場合にはエンジン12の自動的な再始動を許可する再始動制御を行う。したがって、本実施形態では、ステップS30が、再始動ステップに相当する。その後、ブレーキ用ECU55は、アイドルストップ処理ルーチンを一旦終了する。
【0056】
その後、再始動制御を行ったブレーキ用ECU55は、MC圧センサSE2からの検出信号に基づき演算したMC圧Pmcが再始動制御開始基準値KPmc2(図7参照)以下である場合に再始動指令をエンジン用ECU17に送信する。再始動制御開始基準値KPmc2は、車両の走行する路面の勾配(「路面勾配」ともいう。)に基づき設定される。そして、エンジン用ECU17は、再始動指令を受信した場合に、エンジン12を再始動させると共に、該再始動処理が完了した旨の信号をブレーキ用ECU55に送信する。エンジン用ECU17から信号を受信したブレーキ用ECU55は、エンジン12の再始動が完了したと判断する。
【0057】
すなわち、図7のタイミングチャートに示すように、エンジン12の停止中において運転手によるブレーキ操作量が少なくなると、MC圧Pmcが減圧され、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が低下する。その結果、降坂路上に位置する車両は、徐々に加速する。この状態で算出された第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVSよりも大きい場合には、エンジン12の自動的な再始動が禁止される。第1車速推定値VS1は、車輪FR,FL,RR,RLに駆動力及び制動力が付与されていないと仮定した場合に、現時点から再始動必要時間Ts1が経過した後の車体速度の推定値である。そのため、第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVSよりも大きい場合とは、エンジン12の再始動中に、車両の車体速度VSが制動制御許可基準値KVSを超え、制動制御が開始される可能性があることを意味している。したがって、エンジン12の停止中であっても制動制御の開始条件が成立した場合には、再始動制御よりも制動制御のほうが優先的に行われる。
【0058】
その一方で、算出された第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVS以下である場合には、エンジン12の自動的な再始動が許可される。例えば、第5のタイミングt15で算出された第1車速推定値VS1は、車輪FR,FL,RR,RLに制動力が付与されていないと仮定した場合における第6のタイミングt16の車体速度の推定値である。第6のタイミングt16は、第5のタイミングt15から再始動必要時間Ts1が経過した後のタイミングである。これは、第5のタイミングt15でエンジン12の再始動を開始させたとしても、再始動が完了する第6のタイミングt16が経過するまでの間に、車両の車体速度VSが制動制御許可基準値KVSを超える可能性が極めて低いことを意味している。換言すると、エンジン12の再始動と制動制御とが時間的に重複する可能性が極めて低い。そのため、第5のタイミングt15では、MC圧Pmcが再始動制御開始基準値KPmc2以下であるため、エンジン12が自動的に再始動される。
【0059】
なお、図7では、車両が一旦停車した場合におけるエンジン12の自動的な再始動について説明している。しかし、本実施形態では、車両の減速中にエンジン12が自動的に停止された後、車両の停車前に第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVSとなり、エンジン12の再始動が許可されることもある。この状態でMC圧Pmcが再始動制御開始基準値KPmc2以下となった場合には、車両停車前であってもエンジン12が再始動される。
【0060】
ステップS31において、ブレーキ用ECU55は、エンジン用ECU17から受信した情報に基づきエンジン12が停止中であるか否かを判定する。この判定結果が否定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン12が駆動中であるため、その処理を後述するステップS37に移行する。一方、ステップS31の判定結果が肯定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジンが停止中であるため、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を保持させるための制動力保持処理を行う(ステップS32)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、ステップS25で取得した勾配加速度Agに対応する電流値Iを図3に示すマップに基づき取得し、該電流値Iをリニア電磁弁35a,35bに供給させる弁制御を行う。なお、弁制御では、モータ41(ポンプ42,43)を作動させないため、ブレーキアクチュエータ31での電力消費量は、モータ41を作動させる場合と比較して非常に少ない。すなわち、弁制御は、本実施形態でいう制動制御に含まれない。
【0061】
続いて、ブレーキ用ECU55は、現時点からエンジン12を再始動させたと仮定した場合に、再始動が完了した時点の車体速度の推定値を第2車速推定値VS2として演算する(ステップS33)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、ステップS23で演算した車体速度微分値DVS(=現時点の加速度)に再始動時間Ts(=Ts1)を乗算し、該乗算結果にステップS22で演算した車体速度VSを加算し、該加算結果を第2車速推定値VS2(=VS+DVS×Ts)とする。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU55が、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力の低下を抑制すべく弁制御が行われている場合に、再始動時間Tsが経過した時点の車体速度の推定値として第2車速推定値VS2を取得する予定車体速度推定手段としても機能する。
【0062】
そして、ブレーキ用ECU55は、ステップS33で演算した第2車速推定値VS2が制動制御許可基準値KVSよりも大きいか否かを判定する(ステップS34)。この判定結果が肯定判定(VS2>KVS)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を後述するステップS36に移行する。一方、ステップS34の判定結果が否定判定(VS2≦KVS)である場合、ブレーキ用ECU55は、ステップS22で演算した車体速度VSが制動制御許可基準値KVS未満であるか否かを判定する(ステップS35)。この判定結果が肯定判定(VS<KVS)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を前述したステップS30に移行する。すなわち、エンジン12の自動的な再始動を許可する再始動制御が実行される。一方、ステップS35の判定結果が否定判定(VS≧KVS)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を次のステップS36に移行する。
【0063】
ステップS36において、ブレーキ用ECU55は、アクセルオーバーライドフラグFLG2がオフであるか否かを判定する。この判定結果が否定判定(FLG2=オン)である場合、ブレーキ用ECU55は、運転手に車両を発進させる意志があると判断し、その処理を前述したステップS30に移行する。一方、ステップS36の判定結果が肯定判定(FLG2=オフ)である場合、ブレーキ用ECU55は、運転手に車両を発進させる意志がないと判断し、その処理を次のステップS37に移行する。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU55が、発進判定手段としても機能する。
【0064】
ステップS37において、ブレーキ用ECU55は、エンジン12が駆動中である場合には、エンジン12の自動的な停止を許可しない、即ち停止制御を禁止する。一方、ブレーキ用ECU55は、エンジン12が停止中である場合には、エンジン12の自動的な再始動を許可しない、即ち再始動制御を禁止する。その後、ブレーキ用ECU55は、アイドルストップ処理ルーチンを一旦終了する。
【0065】
ここで、図8のタイミングチャートに示すように、マスタシリンダ25内のMC圧Pmcが再始動制御開始基準値KPmc2以下になる第1のタイミングt21では、第1車速推定値VS1は制動制御許可基準値KVSよりも大きいため、リニア電磁弁35a,35bには、勾配加速度Agに対応する大きさの電流値Iが供給される。すなわち、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が保持される。また、第1のタイミングt21では、第2車速推定値VS2が算出される。この第2車速推定値VS2は、第1のタイミングt21から再始動必要時間Ts1が経過した第2のタイミングt22での車体速度VSの予測値であって、エンジン12の停止時において車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が保持される場合における車体速度VSの予測値である。そのため、第2車速推定値VS2は、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を加味した値である分、第1車速推定値VS1よりも小さい値となる。そして、車体速度VSが制動制御許可基準値KVS未満であって且つ第2車速推定値VS2が制動制御許可基準値KVS以下である場合には、エンジン12の再始動中に制動制御が開始される可能性が低いため、再始動制御が行われる。そして、第1のタイミングt21では、MC圧Pmcが再始動制御開始基準値KPmc2以下であるため、エンジン12が自動的に再始動される。
【0066】
なお、本実施形態では、リニア電磁弁35a,35bには、エンジン12の再始動が完了するまでの間、電流値Iが供給され続ける。そのため、エンジン12の再始動中における急速な発進が抑制される。そして、エンジン12の再始動が完了する第2のタイミングt22からは、リニア電磁弁35a,35bに対する電流値Iが低下される。
【0067】
本実施形態では、MC圧Pmcが再始動制御開始基準値KPmc2以下となる範囲内で、運転手によるブレーキペダル15の操作量を増大させることにより、第2車速推定値VS2が制動制御許可基準値KVS以下となり且つ車体速度VSが制動制御許可基準値KVS未満となることがあり得る。また、MC圧Pmcが再始動制御開始基準値KPmc2以下となる範囲内で、運転手によるブレーキペダル15の操作量を増大させることにより、第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVS以下となることがあり得る。すなわち、運転手によるブレーキペダル15の操作量が増大したことが契機となり、エンジン12が再始動されることもあり得る。
【0068】
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)惰性加速度Dgは、車輪FR,FL,RR,RLに駆動力及び制動力が付与されていないと仮定した場合における車両の加速度である。そして、車輪FR,FL,RR,RLに駆動力及び制動力が付与されていないと仮定した場合において、再始動必要時間Ts1が経過した時点の車体速度の推定値である第1車速推定値VS1が、惰性加速度Dgに基づき取得される。第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVS未満である場合とは、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が突然に「0(零)」になったとしても、再始動必要時間Ts1が経過した後の車体速度VSが制動制御許可基準値KVS以上となる可能性が限りなく低いと考えられる。そのため、第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVS未満である場合にエンジン12の再始動が開始されたとしても、制動制御とエンジン12の再始動とが時間的に重複することが回避される。つまり、車両のバッテリからエンジン12を始動させるための図示しないスタータモータに供給される電力が不足になることが抑制される。したがって、運転手によるブレーキ操作に基づき車両のエンジン12を自動的に停止させる機能を有する車両において、制動制御を阻害することなくエンジン12を速やかに再始動させることができる。
【0069】
(2)一方、第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVS以上である場合とは、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が突然に「0(零)」になったときに、再始動必要時間Ts1が経過した後の車体速度VSが制動制御許可基準値KVS以上となる可能性があると考えられる。そのため、本実施形態では、第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVS以上である場合には、第1車速推定値VS1と制動制御許可基準値KVSとの比較結果に基づき、停止制御が行われない。したがって、制動制御とエンジン12の再始動とが時間的に重複することを抑制できる。
【0070】
(3)第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVS以上である場合には、弁制御が行われるため、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力の低下が抑制される。本実施形態では、弁制御が行われた状態で第2車速推定値VS2が取得される。そして、この第2車速推定値VS2が制動制御許可基準値KV2以下である場合は、このタイミングからエンジン12を再始動させても、該再始動中に車体速度VSが制動制御許可基準値KVSを超える可能性が低い。
【0071】
また、第2車速推定値VS2が制動制御許可基準値KV2以下である場合には、現時点の車両の車体速度VSが制動制御許可基準値KV2未満であるか否かが判定される。そして、現時点の車両の車体速度VSが制動制御許可基準値KV2未満である場合とは、現時点から再始動必要時間Ts1が経過するまでの間に、車両の車体速度VSが制動制御許可基準値KVSを超える可能性が低いと判断され、再始動制御が行われる。したがって、エンジン12の再始動と制動制御との時間的な重複を抑制できると共に、エンジン12を速やかに再始動させることができる。
【0072】
(4)運転手に車両を発進させる意志がある場合、即ちアクセルオーバーライドフラグFLG2がオンである場合には、制動制御が行われる可能性が低いと考えられるため、エンジン12の再始動が許可される。したがって、運転手の意向に沿って車両を速やかに発進させることができる。
【0073】
(5)エンジン12の駆動中に取得された第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVS未満である場合には、エンジン12を停止させた直後にエンジン12を再始動させたとしても、その再始動中に、車両の車体速度VSが制動制御開始閾値KVS以上となる可能性が低い。そのため、停止制御が行われる。一方、エンジン12の駆動中に第1車速推定値VS1が制動制御許可基準値KVS以上である場合には、エンジン12を停止させた直後にエンジン12を再始動させる際に、その再始動中に、車両の車体速度VSが制動制御開始閾値KVS以上となる可能性がある。すなわち、エンジン12の再始動と制動制御とが時間的に重複する可能性があるため、停止制御が行われない。したがって、制動制御とエンジン12の再始動とが重複することを抑制できる。
【0074】
(6)バッテリの容量が多い場合やバッテリの現時点における蓄電量が多い場合には、エンジン12の再始動及び制動制御が時間的に重複したとしても、ブレーキアクチュエータ31を適切に駆動させることができると共に、エンジン12を速やかに再始動させることができる。しかしながら、バッテリの蓄電量が少ない場合(特に、夏場などでエアコンを利用して電力を大量に消費している場合)には、制動制御とエンジン12の再始動とが時間的に重複して行われると、スタータモータに十分な電力を供給できないおそれがある。この場合、エンジン12の再始動の完了が遅れ、運転手の意図に反して車両を速やかに発進させることができないおそれがある。
【0075】
この点、本実施形態では、制動制御とエンジン12の再始動とが時間的に重複する可能性が低減される。そのため、エンジン12の再始動時にはスタータモータに十分な電力が供給され、エンジン12を速やかに再始動させることができる。よって、運転手の意向に沿って車両を速やかに発進させることができる。また、エンジン12の再始動が完了した後に制動制御が実行される場合であっても、ブレーキアクチュエータ31のモータ41及び各弁35a,35b,37a〜37d,38a〜38dに十分な電力を供給できる。よって、車両の挙動を適切に制御できる。
【0076】
なお、実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・実施形態において、エンジン12の駆動中における停止制御を、運転手によってブレーキ操作がされる状態で、車両の車体速度VSが制動制御許可基準値KVS未満である場合に行ってもよい。
【0077】
また、停止制御を、該停止制御を契機としたエンジン12の停止が完了した時点の車体速度の予測値が制動制御許可基準値KVS未満である場合に行ってもよい。このように構成してもエンジン12の停止と制動制御とが時間的に重複する可能性を低くすることができる。
【0078】
・実施形態において、アクセルオーバーライドフラグFLG2を、上記ステップS10〜S13の各判定結果のうち少なくとも一つの判定結果が肯定判定である場合にオンにセットしてもよい。
【0079】
また、アクセルオーバーライド判定処理ルーチンは、ステップS10〜S13の各処理のうち、少なくとも一つの処理のみを含んだ処理ルーチンであってもよい。例えば、アクセルオーバーライド判定処理ルーチンは、ステップS10とステップS13とを含んだ処理ルーチンであってもよい。また、アクセルオーバーライド判定処理ルーチンは、ステップS11のみを含んだ処理ルーチンであってもよい。
【0080】
・実施形態において、アイドルストップ処理ルーチンは、ステップS36の判定処理を省略した処理ルーチンであってもよい。
・実施形態において、アイドルストップ処理ルーチンは、ステップS35の判定処理を省略した処理ルーチンであってもよい。すなわち、取得された第2車速推定値VS2が制動制御許可基準値KVS以下である場合は、このタイミングからエンジン12を再始動させても、該再始動中に車体速度VSが制動制御許可基準値KVSを超える可能性が低いため、再始動制御を行ってもよい。このように構成しても、エンジン12の再始動と制動制御との時間的な重複を抑制できると共に、エンジン12を速やかに再始動させることができる。
【0081】
・実施形態において、アイドルストップ処理ルーチンは、ステップS34,S35の各判定処理を省略した処理ルーチンであってもよい。
・実施形態において、アイドルストップ処理ルーチンは、ステップS29を省略した処理ルーチンであってもよい。この場合、ステップS32の処理を省略してもよい。
【0082】
・実施形態において、制動力保持処理では、リニア電磁弁35a,35bの変わりに、増圧弁37a〜37dを作動させる弁制御を行ってもよい。
・実施形態では、再始動必要時間Ts1は、一定値としたが、エンジン12内における水温やバッテリの蓄電量などに応じて変動させてもよい。例えば、再始動必要時間Ts1を、以下に示す関係式に基づき算出してもよい。基準時間Ts1_baseは、定数であって、例えば「1(秒)」に設定される。また、第1ゲインG1は、エンジン12内における水温が低いほど大きな値に設定される。例えば、第1ゲインG1を、水温が25℃の場合には「1」に設定し、水温が10℃の場合には「1.3」に設定してもよい。また、第2ゲインG2は、バッテリの蓄電量が少ないほど大きな値に設定される。例えば、第2ゲインG2を、蓄電量が所定量以上である場合には「1」に設定し、蓄電量が所定量未満である場合には「1.3」に設定してもよい。
【0083】
【数1】


・一般に、マスタシリンダ25内のMC圧Pmcが増圧されると、車体加速度Gが小さくなる。つまり、MC圧Pmcと車体加速度Gの変化量との間には対応関係がある。そこで、MC圧Pmcの変わりに、車体加速度Gに基づき、停止指令や再始動指令の送信の諾否を判断してもよい。
【0084】
・実施形態において、車体速度VSを、車両に搭載されるナビゲーション装置から取得してもよい。
・実施形態において、アクセルオーバーライドがありか否かを、エンジン用ECU17で判断させて、判断結果をブレーキ用ECU55に送信させてもよい。
【0085】
・実施形態において、アイドルストップ処理ルーチンを、エンジン用ECU17に実行させてもよい。この場合、ブレーキ用ECU55で取得された各種情報(MC圧Pmc、車体速度VS及び車体加速度Gなど)を、エンジン用ECU17に送信させてもよい。
【0086】
また、アイドルストップ処理ルーチンを、アイドルストップ機能に関する制御を専用に行うアイドルストップ用ECUに実行させてもよい。
次に、上記各実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
【0087】
(イ)路面の勾配に応じた車両の加速度を勾配加速度(Ag)として取得する勾配加速度取得手段(55、S25)と、
車両の車体速度(VS)を取得する車体速度取得手段(55、S22)と、をさらに備え、
前記惰性加速度取得手段(55、S27)は、前記勾配加速度取得手段(55、S25)によって取得された勾配加速度(Ag)に基づき惰性加速度(Dg)を取得し、
前記惰性車体速度推定手段(55、S28)は、前記車体速度取得手段(55、S22)によって取得された車体速度(VS)、前記惰性加速度取得手段(55、S27)によって取得された惰性加速度(Dg)及び前記再始動時間(Ts、Ts1)に基づき車速推定値(VS1)を演算することを特徴とする車両の制御装置。
【0088】
(ロ)車両の車体速度(VS)を取得する車体速度取得手段(55、S22)をさらに備え、
前記制御手段(55、S30,S34,S35)は、
前記弁制御時において、
前記予定車体速度推定手段(55、S33)によって取得された車速推定値(VS2)が前記制動制御許可基準値(KVS)以下であると共に、
前記車体速度取得手段(55、S22)によって取得された車体速度(VS)が前記制動制御許可基準値(KVS)未満であるときに、
前記再始動制御を行うことを特徴とする車両の制御装置。
【0089】
(ハ)車両のエンジン(12)を自動的に停止させるための停止制御及び前記エンジン(12)を自動的に再始動させるための再始動制御を行う制御手段(55、S30)を備えた車両の制御装置であって、
車両の加速度(DVS)を取得する車両加速度取得手段(55、S23)と、
前記停止制御を契機に前記エンジン(12)が停止された場合に、前記車両加速度取得手段(55、S23)によって取得された車両の加速度(DVS)に基づき、前記エンジン(12)の再始動に要する再始動時間(Ts、Ts1)が経過した時点の車両の車体速度を車速推定値(VS2)として取得する予定車体速度推定手段(55、S33)と、をさらに備え、
前記制御手段(55、S30,S34)は、前記予定車体速度推定手段(55、S33)によって取得された車速推定値(VS2)が前記制動制御許可基準値(KVS)以下である場合に、前記再始動制御を行うことを特徴とする車両の制御装置。
【符号の説明】
【0090】
12…エンジン、32a〜32d…ホイールシリンダ、35a,35b…調整弁としてのリニア電磁弁、37a〜37d…調整弁としての増圧弁、55…制御手段、惰性加速度取得手段、惰性車体速度推定手段、発進判定手段、勾配加速度取得手段、車体速度取得手段としてのブレーキ用ECU、Ag…勾配加速度、Dg…惰性加速度、FR,FL,RR,RL…車輪、KVS…制動制御許可基準値、Ts…再始動時間、Ts1…再始動必要時間、Ts2…停止再始動必要時間、VS…車体速度、VS1…第1車速推定値、VS2…第2車速推定値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジン(12)を自動的に停止させるための停止制御及び前記エンジン(12)を自動的に再始動させるための再始動制御を行う制御手段(55、S30)を備えた車両の制御装置であって、
車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力が付与されない状態で走行する場合における車両の加速度の推定値を惰性加速度(Dg)として取得する惰性加速度取得手段(55、S27)と、
前記停止制御を契機に前記エンジン(12)が停止された場合に、前記惰性加速度取得手段(55、S27)によって取得された惰性加速度(Dg)に基づき、前記エンジン(12)の再始動に要する再始動時間(Ts、Ts1)が経過した時点の車両の車体速度を車速推定値(VS1)として取得する惰性車体速度推定手段(55、S28)と、をさらに備え、
前記制御手段(55、S30)は、前記惰性車体速度推定手段(55、S28)によって取得された車速推定値(VS1)が、制動制御の実行の可否を判断するために設定された制動制御許可基準値(KVS)未満である場合に、前記再始動制御を行うことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段(55、S37)は、前記惰性車体速度推定手段(55、S28)によって取得された車速推定値(VS1)が前記制動制御許可基準値(KVS)以上である場合には、前記再始動制御よりも前記制動制御を優先的に行うことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
車両には、車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力を付与するためのホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)と、該ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧を調整すべく作動する調整弁(35a,35b、37a,37b,37c,37d)とが設けられており、
車両の加速度(DVS)を取得する車両加速度取得手段(55、S23)と、
前記停止制御を契機に前記エンジン(12)が停止された場合に、前記車両加速度取得手段(55、S23)によって取得された車両の加速度(DVS)に基づき、前記再始動時間(Ts、Ts1)が経過した時点の車両の車体速度を車速推定値(VS2)として取得する予定車体速度推定手段(55、S33)と、をさらに備え、
前記制御手段(55、S30,S32)は、
前記惰性車体速度推定手段(55、S28)によって取得された車速推定値(VS1)が前記制動制御許可基準値(KVS)以上である場合には、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧の低下を抑制させるべく前記調整弁(35a,35b、37a,37b,37c,37d)を作動させる弁制御を行い、
前記弁制御時において、前記予定車体速度推定手段(55、S33)によって取得された車速推定値(VS2)が前記制動制御許可基準値(KVS)以下である場合には、前記再始動制御を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記停止制御を契機に前記エンジン(12)が停止された場合に、運転手に車両を発進させる意志があるか否かを判定する発進判定手段(55、S36)をさらに備え、
前記制御手段(50、S30)は、前記発進判定手段(55、S36)によって運転手に車両を発進させる意志があると判定された場合に、前記再始動制御を行うことを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記惰性車体速度推定手段(55、S28)は、
前記エンジン(12)の駆動中において車両が減速される場合に、
前記惰性加速度取得手段(55、S27)によって取得された惰性加速度(Dg)に基づき、前記エンジン(12)を停止させた後、該エンジン(12)の再始動が完了するまでに要する停止後再始動時間(Ts、Ts2)が経過した時点の車両の車体速度を車速推定値(VS1)として取得し、
前記制御手段(55、S30,S37)は、
前記エンジン(12)の駆動中において、
前記惰性車体速度推定手段(55、S28)によって取得された車速推定値(VS1)が前記制動制御許可基準値(KVS)未満である場合には前記停止制御を行う一方、
前記惰性車体速度推定手段(55、S28)によって取得された車速推定値(VS1)が前記制動制御許可基準値(KVS)以上である場合には前記停止制御を行わないことを特徴とする請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
車両のエンジン(12)を自動的に停止させる停止ステップ(S30)と、前記エンジン(12)を自動的に再始動させる再始動ステップ(S30)と、を有する車両の制御方法であって、
車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力が付与されない状態で走行する場合における車両の加速度の推定値を惰性加速度(Dg)として取得させる惰性加速度取得ステップ(S27)と、
前記停止ステップ(S30)で前記エンジン(12)が停止された場合に、前記惰性加速度取得ステップ(S27)で取得した惰性加速度(Dg)に基づき、前記エンジン(12)の再始動に要する再始動時間(Ts、Ts1)が経過した時点の車両の車体速度を車速推定値(VS1)として取得させる惰性車体速度推定ステップ(S28)をさらに有し、
取得した車速推定値(VS1)が、制動制御の実行の可否を判断するために設定された制動制御許可基準値(KVS)未満である場合に、前記再始動ステップ(S30)を行うことを特徴とする車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−7553(P2012−7553A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144982(P2010−144982)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】