説明

車両の制御装置

【課題】燃料ポンプの作動を停止する制御装置の誤動作の可能性を低減し、信頼性を向上させることができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】車両1の制御装置は、車両1の加速度を検出する加速度センサ30,32と、加速度センサ30,32により検出された加速度に基づいてエアバッグ装置26,28を作動させるエアバッグ制御手段34と、燃料ポンプ4の作動を制御する燃料ポンプ制御手段36と、を備え、燃料ポンプ制御手段36は、エアバッグ装置26,28の作動に対して遅らせた時点での加速度に基づいて、燃料ポンプ4の作動を停止するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、特に、車両の加速度を検出して燃料ポンプの作動を制御する車両の制御装置に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突時に燃料ポンプの作動を停止する制御装置として、例えば特許文献1に記載されるようなものが提案されている。この特許文献1に記載の装置では、車体に設けられた加速度センサによって車体に強い衝撃を検出すると、高圧用電磁式プレッシャレギュレータを全開にして高圧ラインの燃料圧力を急激に低下させるとともに、フィードポンプの燃料供給動作を停止する。このような制御により、車両の衝突時に、燃料系の損傷箇所からの燃料噴出が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3133586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような制御装置では、加速度センサで検出された加速度が所定値以上であると、車体が衝突したと判断するように構成されている。しかしながら、実際の走行状況においては、例えば車両が段差に乗り上げた場合などに、加速度センサが一時的に大きな加速度を検出することがある。このような場合にも、高圧ラインの燃料圧力を低下させてしまうと、車両の走行が継続できず、かえって走行の妨げとなる。
【0005】
本発明の目的は、燃料ポンプの作動を停止する制御装置の誤動作の可能性を低減し、信頼性を向上させることができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、車両の加速度を検出する加速度検出手段と、加速度検出手段により検出された加速度に基づいてエアバッグを作動させるエアバッグ制御手段と、燃料ポンプの作動を制御する燃料ポンプ制御手段と、を備えた車両の制御装置であって、燃料ポンプ制御手段は、エアバッグの作動に対して遅らせた時点での加速度に基づいて、燃料ポンプの作動を停止するように構成される、ことを特徴としている。
【0007】
このように構成された本発明においては、燃料ポンプ制御手段は、エアバッグの作動に対して遅らせた時点での加速度に基づいて燃料ポンプの作動を停止する。ここで、例えば車両が段差に乗り上げる場合、一時的に加速度が大きくなっても、その後も継続的に加速度が大きくなることはない。本発明では、燃料ポンプ制御手段が、エアバッグの作動に対して遅らせた時点での加速度に基づいて燃料ポンプの作動の継続、停止を判断するので、車両の衝突により加速度が大きくなる場合と、単に車両が段差に乗り上げた場合等に一時的に加速度が大きくなる場合とを区別することが可能となる。このため、本発明の車両の制御装置では、加速度が所定値以上の場合に、即、燃料ポンプの作動を停止する従来の制御装置に比べて、適切でない場合にも燃料ポンプを停止してしまうという誤動作の可能性が低減し、より信頼性のある制御が可能になる。
【0008】
本発明では、好ましくは、エアバッグ制御手段は、加速度検出手段からの加速度の絶対値が第1の所定値より大きいときにエアバッグを作動させるように構成され、燃料ポンプ制御手段は、加速度検出手段からの加速度の絶対値が、第1の所定値より大きく設定された第2の所定値より大きいときに燃料ポンプの作動を停止するように構成される。
【0009】
このように構成された本発明においては、加速度の絶対値が増加して第1の所定値に達すると、まず、エアバッグが作動する。その後、エアバッグの作動に対して遅らせた時点での加速度が第2の所定値に達している場合、燃料ポンプの作動が停止される。燃料ポンプの作動を停止するための第2の所定値が、エアバッグを作動させるための第1の所定値よりも大きく設定されているので、車両の衝突により加速度が大きくなる場合と、車両の衝突以外の要因によって加速度が一時的に大きくなる場合とをより確実に区別することが可能となる。したがって、燃料ポンプの誤動作の可能性をより確実に低減することが可能となる。
【0010】
本発明では、好ましくは、加速度検出手段は、車両の複数箇所における加速度を検出可能に設けられており、第2の所定値は、加速度が検出された箇所に応じてそれぞれ設定されている。
このように構成された本発明においては、第2の所定値が、加速度が検出された箇所に応じてそれぞれ設定されているので、例えば、衝突による燃料ポンプの損傷の可能性が高い箇所における第2の所定値は低く、燃料ポンプの損傷の可能性が低い箇所における第2の所定値は高く設定する等の、場合に応じた設定が可能となり、より車両の状態に即した制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の制御装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両の構成部品の配置を示す概略図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両の制御装置の制御を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係る車両の衝突時の加速度の推移の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両の制御装置の構成を示す図である。この図1に示すように、車両1の制御装置は、燃料噴射弁12及び点火プラグ14を有するエンジン2と、エンジン2に燃料を圧送する燃料ポンプ4と、エンジン2を空冷する電動ファン6と、車両1の衝突を検知して作動するエアバッグ装置8と、エンジン2、燃料ポンプ4、電動ファン6、及びエアバッグ装置8の動作を制御する制御ユニット10と、を備える。
【0013】
図2は、本発明の一実施形態に係る車両の構成部品の配置を示す概略図である。この図2に示すように、エンジン2は、車両1の前方側に配置されており、車両1の底部に位置するアンダーフロア16の前方に取り付けられている。また、燃料ポンプ4は、燃料を貯蔵する燃料タンク20に取り付けられており、この燃料タンク20は、車両1の後方側において、アンダーフロア16上に取り付けられている。アンダーフロア16には、排気管(図示せず)を収容するための上方に突出するトンネル部18が形成されており、このトンネル部18は、車幅方向略中央に、車両の前後方向に沿って形成されている。
【0014】
エンジン2と燃料ポンプ4との間には、燃料タンク20からの燃料をエンジン2に供給するための燃料供給ライン22と、エンジン2からの余分な燃料を燃料タンク20に戻す燃料戻りライン24とで構成される燃料供給経路が設けられている。これらの燃料供給ライン22及び燃料戻りライン24は、アンダーフロア16のトンネル部18下方に配置された排気管の熱の影響を受けないように、トンネル部18から離して、つまり車幅方向中央に対して車幅方向左または右にオフセットして配置されている。本実施形態では、燃料供給ライン22及び燃料戻りライン24は、車幅方向左にオフセットして配置されている。
電動ファン6は、図2には示されないが、エンジン2の前方に配置される。
【0015】
エアバッグ装置8は、前後方向の衝突による衝撃から乗員を保護する前後突用エアバッグ装置26と、側方からの衝突による衝撃から乗員を保護する側突用エアバッグ装置28とを備える。前後突用エアバッグ装置26は、運転席のハンドル(図示せず)に取り付けられている。前後突用エアバッグ装置26は、車両1の前突または後突を検出するための前後突用加速度センサ30を有しており、この前後突用加速度センサ30は、例えばアンダーフロア16のトンネル部18に取り付けられている。
側突用エアバッグ装置28は、車両前方の運転席側(右側)及び助手席側(左側)のドア、及び車両後方の運転席側及び助手席側のドアに取り付けられている。側突用エアバッグ装置28は、車両1の側突を検出するための側突用加速度センサ32を有しており、この側突用加速度センサ32は、例えばBピラー(不図示)に取り付けられている。
【0016】
前後突用加速度センサ30及び側突用加速度センサ32は、本実施形態では、静電容量式のものが採用されており、可動電極及び固定電極を有する検出部を備える。このような構造の加速度センサ30,32では、車両1に衝撃が加わることにより可動電極が移動すると、固定電極との間に静電容量の変化が生じ、これを検出部で検出して加速度を計算する構造となっている。本実施形態では、前後突用加速度センサ30の可動電極は、車両1の前後方向に可動に配置されており、したがって前後突用加速度センサ30は、前方からの衝突に起因する車両1の加速度、及び後方からの衝突に起因する車両1の加速度の両方を1つの前後突用加速度センサ30で検出するようになっている。また、側突用加速度センサ32の可動電極は、車両1の車幅方向に可動に配置されており、したがって、側突用加速度センサ32は、左右両方の側方からの衝突に起因する車両1の加速度を1つの側突用加速度センサ32で検出するようになっている。そして、前後突用加速度センサ30及び側突用加速度センサ32で検出された加速度は、制御ユニット10に出力されるようになっている。
【0017】
制御ユニット10は、加速度センサ30,32からの加速度の信号に基づいて、エアバッグ装置26,28の動作を制御するエアバッグ制御手段34と、加速度センサ30,32からの加速度の信号に基づいて、燃料ポンプ4の動作を制御する燃料ポンプ制御手段36と、を備える。
エアバッグ制御手段34は、加速度センサ30,32から加速度の信号を受け、加速度の絶対値が所定加速度α1を超えているか否かを監視する。これらの加速度のうち少なくとも1つの絶対値が所定加速度α1より大きい場合には、エアバッグ制御手段34は、車両が衝突を受けたと判断して、所定加速度α1を超える加速度の検出箇所に応じてエアバッグ装置26,28に作動信号を出力するようになっている。
【0018】
燃料ポンプ制御手段36は、加速度センサ30,32のいずれかが所定加速度α1を超える加速度を検出した後、所定時間T、例えば50msの経過後に、加速度センサ30,32からの加速度の信号を受け、いずれかの加速度の絶対値が所定値よりも大きい場合には、車両1が衝突を受けたと判断して、燃料ポンプ4に作動停止信号を出力するようになっている。具体的には、燃料ポンプ制御手段36は、前後突用加速度センサ30で検出された前突による加速度の絶対値が所定加速度α2より大きい場合,前後突用加速度センサ30で検出された後突による加速度の絶対値が所定加速度α3より大きい場合,側突用加速度センサ32で検出された車両1の右側からの側突による加速度の絶対値が所定加速度α4より大きい場合,及び側突用加速度センサ32で検出された車両1の左側からの側突による加速度の絶対値が所定加速度α5より大きい場合には、車両1が衝突を受けたと判断して、燃料ポンプ4に作動停止信号を出力するようになっている。
制御ユニット10は、エアバッグ装置26,28及び燃料ポンプ4の動作の制御を行う他、燃料ポンプ制御手段36から出力された燃料ポンプ4作動停止信号に基づいて、エンジン2の燃料噴射弁12及び点火プラグ14と、電動ファン6に作動停止信号を出力するようになっている。
【0019】
ここで、燃料ポンプ4の作動停止を決定するための所定加速度α2、α3、α4、α5は、エアバッグ装置26,28を作動させるための所定加速度α1よりも大きく設定されている。
また、燃料ポンプ4の作動停止を決定するための所定加速度α2、α3、α4、α5は、加速度の検出箇所に応じて設定されている。本実施形態では、車両1の前方にエンジン2が配置されているため、後突の場合の方が、前突の場合よりもエンジン2を損傷する可能性が低い。そこで、後突の場合の加速度に対する所定加速度α3は、前突の場合の加速度に対する所定加速度α2よりも大きく設定されている。また、本実施形態では、燃料供給ライン22及び燃料戻りライン24が、車幅方向左にオフセットして配置されているため、右側からの側突の場合の方が、左側からの側突の場合よりもこれらの燃料供給経路を損傷する可能性が低い。そこで、右側突の場合の加速度に対する所定加速度α4は、左側突の場合の加速度に対する所定加速度α5よりも大きく設定されている。
【0020】
次に、本実施形態に係る車両1の制御装置の動作について説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る車両1の制御装置の動作を示すフローチャートである。この図3に示すように、まず、ステップS1において、制御ユニット10は、前後突用加速度センサ30及び側突用加速度センサ32から検出される加速度を読み込む。その後、ステップS2において、エアバッグ制御手段34は、検出された加速度の絶対値が所定加速度α1よりも大きいか否かを判断する。加速度の絶対値が所定加速度α1以下である場合には、車両1の衝突が発生していないと判断して、ステップS1に戻り、加速度の監視を続ける。
【0021】
一方、ステップS2において、検出された加速度の絶対値が所定加速度α1よりも大きい場合には、エアバッグ制御手段34は、車両1が衝突を受けたと判断して、ステップS3において、所定加速度α1より大きい加速度が検出された箇所に応じてエアバッグ装置26,28を作動させる。具体的には、所定加速度α1より大きい加速度が前後突用加速度センサ30で検出された場合、即ち衝突が前突または後突である場合には、エアバッグ制御手段34は、前後突用エアバッグ装置26を作動させる。また、所定加速度α1より大きい加速度が側突用加速度センサ32で検出された場合、即ち衝突が右側突または左側突である場合には、エアバッグ制御手段34は、側突用エアバッグ装置28を作動させる。
【0022】
次に、燃料ポンプ制御手段36は、ステップS4において、所定加速度α1より大きい加速度が検出された時点からの経過時間を監視し、所定時間Tの経過後、ステップS5に進み、再度加速度センサ30,32から加速度の信号を読み込む。その後、ステップS6〜ステップS13において、燃料ポンプ制御手段36は、各方向における加速度の絶対値がそれぞれの所定加速度α2,α3,α4,α5より大きいか否かを判断する。
具体的には、燃料ポンプ制御手段36は、ステップS6において、前後突用加速度センサ30で検出された、前方向からの衝撃に関する加速度の絶対値が、所定加速度α2より大きいか否かを判断する。ステップS6において、この加速度の絶対値が所定加速度α2よりも大きい場合には、燃料ポンプ制御手段36は、車両1に前突が生じたと判断して、ステップS7で燃料ポンプ4の作動停止信号を燃料ポンプ4に出力し、燃料ポンプ4の作動を停止する。また、制御ユニット10は、燃料ポンプ制御手段36の燃料ポンプ作動停止信号を受けて、ステップS8において、燃料噴射弁12の作動を停止し、ステップS9において点火プラグ14の作動を停止し、ステップS10において電動ファン6の作動を停止する。
【0023】
ステップS6において、前方向からの衝撃に関する加速度の絶対値が所定加速度α2以下である場合には、燃料ポンプ制御手段36は、前突はなかったと判断して、ステップS11に進み、前後突用加速度センサ30で検出された、後方向からの衝撃に関する加速度の絶対値が、所定加速度α3よりも大きいか否かを判断する。この加速度の絶対値が所定加速度α3よりも大きい場合には、燃料ポンプ制御手段36は、車両1に後突が生じたと判断して、前述と同様に、ステップS7において燃料ポンプ4の作動を停止し、制御ユニット10は、ステップS8からステップS10において、燃料噴射弁12、点火プラグ14、及び電動ファン6の作動を停止する。
【0024】
ステップS11において、後方向からの衝撃に関する加速度の絶対値が所定加速度α3以下である場合には、燃料ポンプ制御手段36は、後突はなかったと判断して、ステップS12に進み、側突用加速度センサ32で検出された右方向からの衝撃に関する加速度の絶対値が、所定加速度α4よりも大きいか否かを判断する。この加速度の絶対値が所定加速度α4よりも大きい場合には、燃料ポンプ制御手段36は、車両1に右側突が生じたと判断して、前述と同様に、ステップS7において燃料ポンプ4の作動を停止し、制御ユニット10は、ステップS8からステップS10において、燃料噴射弁12、点火プラグ14、及び電動ファン6の作動を停止する。
【0025】
ステップS12において、右方向からの衝撃に関する加速度の絶対値が所定加速度α4以下である場合には、燃料ポンプ制御手段36は、右側突はなかったと判断して、ステップS13に進み、側突用加速度センサ32で検出された左方向からの衝撃に関する加速度の絶対値が、所定加速度α5よりも大きいか否かを判断する。この加速度の絶対値が所定加速度α5よりも大きい場合には、燃料ポンプ制御手段36は、車両1に左側突が生じたと判断して、前述と同様に、ステップS7において燃料ポンプ4の作動を停止し、制御ユニット10は、ステップS8からステップS10において、燃料噴射弁12、点火プラグ14、及び電動ファン6の作動を停止する。
【0026】
ステップS13において、左方向からの衝撃に関する加速度の絶対値が所定加速度α5いかであル場合には、燃料ポンプ制御手段36は、左側突はなかったと判断する。この場合には、燃料ポンプ制御手段36は、車両1に衝突が生じていないと判断することとなるので、ステップS14において燃料ポンプ4の作動を継続し、またこの判断を受けて、制御ユニット10は、ステップS15からステップS17において、燃料噴射弁12、点火プラグ14、及び電動ファン6の作動を継続する。
【0027】
このように構成された本実施形態によれば、次のような優れた効果を得ることができる。
加速度センサ30,32による加速度の絶対値が、エアバッグ装置26,28の作動のための所定加速度α1を超えた時点、即ち、エアバッグ装置26,28が作動した時点から所定時間Tの経過後に、燃料ポンプ制御手段36が加速度センサ30,32からの加速度信号を再び受け取り、その加速度信号に基づいて車両1の衝突の有無、ひいては燃料ポンプ4の作動の継続、停止を判断するので、車両1の衝突以外の要因によって加速度が一時的に大きくなった場合を排除することができる。したがって、従来加速度が所定値を超えた場合に即、車両1の衝突が合ったと判断する手法に比べて、車両1の衝突の判断をより正確に行うことができるから、誤動作の可能性を低減することができ、車両1の制御装置の信頼性を向上させることができる。
【0028】
図4は、本発明の一実施形態に係る車両の衝突時の加速度の推移の例を示す図である。この図4では、車両1が衝突を受けた場合、及び車両1が段差に乗り上げた場合の加速度の推移の例を示す。
車両1が衝突を受けた場合、図4に実線で示すように、加速度は、増減しながら時間と共に全体的に増加していく。本実施形態では、エアバッグ装置26,28を作動させるための所定加速度α1は、最初の加速度のピークAよりも低く設定されている。このため、車両1が衝突を受けた場合に、最初の加速度のピークAを迎える前に加速度が所定加速度α1に達し、エアバッグ装置26,28が作動することとなる。
【0029】
一方、例えば、車両1が段差に乗り上げた場合には、図4に点線で示すように、初期に、衝突の場合の加速度のピークAよりも加速度のピークBが大きくなり、その後急激に減少することがある。このような場合には、車両の衝突ではなくても初期の加速度が所定加速度α1を超えてしまう。したがって、エアバッグ装置26,28で用いている所定加速度α1の閾値を燃料ポンプ4の作動停止のための閾値としても使用すると、燃料ポンプ制御手段36において、車両の衝突か段差の乗り上げかを区別することができないから、車両が段差に乗り上げたときにも、車両の衝突があったと判断され、燃料ポンプ4の作動が停止してしまう可能性がある。
【0030】
しかしながら、本実施形態では、燃料ポンプ制御手段36が、エアバッグ装置26,28が作動してから(加速度センサ30,32で検出された加速度が所定加速度α1を超えてから)所定時間Tの経過後の加速度に基づいて、燃料ポンプ4の作動の継続、停止を判断する。ここで、図4に実線で示すように、車両1が衝突した場合には加速度が増加していくので、所定時間Tの経過後には加速度は、所定加速度α2,α3,α4,α5に達しており、燃料ポンプ制御手段36は、車両が衝突したと正しく判断する。一方、図4に点線で示すように、車両1が段差に乗り上げた場合には、加速度はピークBまで増加するが、その後は急激に減少する。したがって、所定時間Tの経過後の加速度は所定加速度α2,α3,α4,α5を超えることがなく、燃料ポンプ制御手段36は、車両が衝突したとは判断せず、燃料ポンプ4の作動を停止しない。したがって、本実施形態の燃料ポンプ制御手段36の構成によれば、衝突による加速度の増大の場合と段差乗り上げ等の衝突以外の要因による加速度の増大の場合とを区別することができ、段差の乗り上げ等の衝突以外の要因による加速度の増大の場合に燃料ポンプ4が作動停止してしまうという不具合を防止することができる。
【0031】
所定時間Tの経過後の加速度に基づいて燃料ポンプ4の作動の継続、停止を判断するのに加えて、燃料ポンプ4の作動を停止するための所定加速度α2,α3,α4,α5を、エアバッグ装置26,28を作動するための所定加速度α1よりも大きく設定しているので、より確実に車両1の衝突の場合と衝突以外の場合との区別を行うことができ、より確実に燃料ポンプ4の作動停止の誤動作を防止することができる。
【0032】
車両1の後方向からの衝撃に関する加速度に対する所定加速度α3を前方向からの衝撃に関する加速度に対する所定加速度α2よりも高く設定し、車両1の右方向からの衝撃に関する加速度に対する所定加速度α4を左方向からの衝撃に関する加速度に対する所定加速度α5よりも高く設定しているので、エンジン2や燃料供給経路が損傷する可能性がある場合には、閾値を比較的低く設定することにより、迅速に燃料ポンプ4の作動を停止することができる。その一方で、エンジン2や燃料供給経路が損傷する可能性が低い場合には、燃料ポンプ4の作動を停止する閾値を比較的高くすることによって、燃料ポンプ4が作動停止する場合を少なくすることができる。したがって、車両1の運転状況により即した燃料ポンプ4の作動制御を行うことができる。
【0033】
エアバッグ装置26,28の作動のために設けられた加速度センサ30,32を用いて、燃料ポンプ4の作動の継続、停止を決定しているので、燃料ポンプ制御手段36のための追加の加速度センサを車両に設ける必要がない。したがって、車両の制御装置1の構造を簡略化でき、部品点数を低減することができる。
【0034】
燃料ポンプ制御手段36での燃料ポンプ4の作動継続、停止の判断に必要な加速度として、エアバッグ装置26,28の加速度センサ30,32の検出値を利用しながら、エアバッグ制御手段34とは異なる判断手法を用いている。つまり、エアバッグ制御手段34では加速度の絶対値が所定加速度α1を超えたか否かで車両の衝突を判断するのに対して、燃料ポンプ制御手段36は、加速度の絶対値が所定加速度α1に達してから所定時間T経過後の加速度の絶対値が所定加速度α2,α3,α4,α5を超えたか否かで車両の衝突を判断する。
エアバッグ装置26,28においては、車両の衝突時、瞬時にエアバッグが開く必要があるため、加速度を監視して加速度が所定値を超えた時点でエアバッグ装置26,28を作動させることによってその機動性を確保している。その一方で、前述のように、車両の衝突以外の理由によっても加速度が所定値を超えることも考えられ、この場合にはエアバッグ装置26,28が誤動作する可能性がある。
【0035】
これに対して、燃料ポンプ制御手段36においては、燃料の流出を防止するために迅速性は求められるものの、エアバッグ装置26,28ほどの短時間で作動しなければならないわけではない。そこで、本実施形態では、エアバッグ装置26,28の加速度センサ30,32を用いつつ、エアバッグ制御装置34が車両の衝突を判断したときから所定時間T経過後の加速度が所定値を超えた時点で燃料ポンプを停止する。この判断手法により、エアバッグ装置26,28で発生する可能性のある誤動作を防止して、確実性を高めることができる。
このように、本実施形態では、同じ加速度センサ30,32を用いながら、別々の判断基準を用いているので、エアバッグ装置26,28の迅速な作動と、燃料ポンプ4の確実な作動停止の両方を確保することができる。
【0036】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、例えば、加速度センサは、1つで2つの方向の加速度を計測できるものに限らず、1つの方向の加速度のみを計測できるものでもよい。この場合には、エアバッグ装置に加速度センサを4つ取り付ければ、前突、後突、右側突、及び左側突の衝突時の加速度を測定することができる。また、加速度センサは、任意の個数設けることができる。加速度センサは、静電容量式のものに限らず、任意のタイプのセンサを採用することができる。
【0037】
燃料ポンプの作動停止を判断するための所定加速度は、前述の実施形態では、後方向からの衝撃に関する加速度に対する所定加速度が前方向からの衝撃に関する加速度に対する所定加速度より高く、右方向からの衝撃に関する加速度に対する所定加速度が左方向からの衝撃に関する加速度に対する所定加速度より高く設定されていたが、これに限らず、エンジンや燃料供給経路の配置に応じて任意に設定してよい。また、これらの所定加速度は、全ての方向からの衝撃に関する加速度に対して同じ値に設定されていてもよいし、また全て異なる値に設定されていてもよい。
【0038】
エアバッグの作動に対して遅らせた時点での加速度に基づいて燃料ポンプの作動の継続、停止の判断をする方法は、エアバッグの作動から所定時間経過後の加速度を受入れ、この加速度が所定値を超えるか否かによって判断する手法に限らず、例えば燃料ポンプの作動の停止のための所定加速度を、エアバッグの作動のための所定加速度よりも高く設定しておき、燃料ポンプ制御手段が加速度を常に監視して加速度が燃料ポンプの作動の停止のための所定加速度を超えた時点で燃料ポンプの作動を停止させてもよい。通常、車両の衝突によって加速度が変化する場合、加速度の絶対値は時間と共に増加する。そこで、燃料ポンプの作動停止のための所定加速度をエアバッグの作動のための所定加速度よりも高く設定することにより、燃料ポンプの作動停止をエアバッグの作動よりも時間的に遅らせることができる。このようにして、燃料ポンプの作動の継続、停止の判断を行ってもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 車両の制御装置
2 エンジン
4 燃料ポンプ
10 制御ユニット
26 前後突用エアバッグ装置
28 側突用エアバッグ装置
30 前後突用加速度センサ(加速度検出手段)
32 側突用加速度センサ(加速度検出手段)
34 エアバッグ制御手段
36 燃料ポンプ制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の加速度を検出する加速度検出手段と、加速度検出手段により検出された加速度に基づいてエアバッグを作動させるエアバッグ制御手段と、燃料ポンプの作動を制御する燃料ポンプ制御手段と、を備えた車両の制御装置であって、
前記燃料ポンプ制御手段は、前記エアバッグの作動に対して遅らせた時点での加速度に基づいて、前記燃料ポンプの作動を停止するように構成される、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記エアバッグ制御手段は、前記加速度検出手段からの加速度の絶対値が第1の所定値より大きいときに前記エアバッグを作動させるように構成され、
前記燃料ポンプ制御手段は、前記加速度検出手段からの加速度の絶対値が、前記第1の所定値より大きく設定された第2の所定値より大きいときに前記燃料ポンプの作動を停止するように構成される、
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記加速度検出手段は、車両の複数箇所における加速度を検出可能に設けられており、前記第2の所定値は、加速度が検出された箇所に応じてそれぞれ設定されている、
請求項2に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−24114(P2013−24114A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159001(P2011−159001)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】