説明

車両の走行制御装置

【課題】複数の制御モードを有する車両挙動制御に対し、クルーズ制御において、演算を複雑にすることなく車両挙動制御で選択された車両挙動特性に適合する出力特性を得ることができ、良好なドライバビリティを得る。
【解決手段】車両挙動制御部1は、ABS制御と横滑り防止制御とトラクション制御の全てを実行する通常モードと、ABS制御と制限した横滑り防止制御とトラクション制御を実行するトラクションモードと、ABS制御のみを実行するOFFモードの3つのモードが設定されており、モード切換スイッチ14でドライバにより選択される。一方、クルーズ制御部2には、モード切換スイッチ14に応じたそれぞれのモードに対応する上限ガード値が設定されており、クルーズ制御時は、この上限ガード値で目標車速を制限することで、通常運転時の車両挙動制御のモードに適合する出力特性を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチロックブレーキシステム(以下、「ABS」と略称)や横すべり防止制御やトラクション制御等の車両挙動制御の機能とクルーズ制御の機能を搭載する車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、ABSや横すべり防止制御やトラクション制御等の様々な車両挙動制御の技術が搭載されるようになっており、このような車両挙動制御では、ドライバの好みに合わせ、制御形態や感度が選択自在に構成されたものも提案され、実用化されている。
【0003】
例えば、特開平6−99801号公報では、駆動輪のスリップ量が目標スリップ量となるように駆動輪の制動力を制御するブレーキトラクション制御を行うようにした車両のスリップ制御装置において、駆動輪速と従動輪速の差に基づいてブレーキトラクション制御を行う第1モードと、左右の駆動輪の駆動輪速の差に基づいてブレーキトラクション制御を行う第2モードと、ブレーキトラクション制御を行わない第3モードとを択一的に設定するためのマニュアルのモード設定スイッチを設けた技術が開示されている。
【0004】
同様に、クルーズ制御装置においても、例えば、特開2003−343305号公報には、ドライバの好みに応じて走行状態を選択できるように、制御パターンを選択できるようにし、エコランモードを選択したときは、スロットル開度の増加量、及びエンジン回転数の上限値を規制して低燃費化を実現する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平6−99801号公報
【特許文献2】特開2003−343305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献1に開示されているような、車両挙動制御に複数の特性(モード)が設定されている技術に、上述の特許文献2に開示されているような、複数の制御モードを有するクルーズ制御の技術を適用した場合、クルーズ制御においても、ドライバの意図する走行制御が行われ、例えば追従走行においても、車両挙動制御で選択したモードと同等の加速性能を得ることができるようになり、良好なドライバビリティを得ることができる。
【0006】
しかし、特許文献2に開示されている技術では、車両挙動制御での選択とは無関係に、ドライバが独自に特性(モード)を選択するようになっているため、車両挙動制御とクルーズ制御による運転とを適合させることができない問題がある。
【0007】
これに対処するに、クルーズ制御時において、車両挙動制御で選択したモードに対応する特性を読込み、この特性に基づいてクルーズ制御を行うことで、適合させることも考えられる。
【0008】
しかしながら、車両挙動制御は、車両に所定のヨーモーメントを発生させるため、或いは、車輪のグリップ力を所定に維持するために行う制御であるため、クルーズ制御とは用いるパラメータが相違し、両者を適合させることが困難であるという問題がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、複数の制御モードを有する車両挙動制御に対し、クルーズ制御において、演算を複雑にすることなく車両挙動制御で選択された車両挙動特性に適合する出力特性を得ることができ、良好なドライバビリティを得ることができる車両の走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数の車両挙動制御特性の中から特定の車両挙動制御特性を選択手段により選択自在で、ブレーキ制御手段とエンジン制御手段の少なくとも一方に信号出力して車両挙動を制御する車両挙動制御手段と、予め設定される目標車速と先行車の走行状態の少なくとも一方に基づいて自車両の制御用目標値を設定し、該制御用目標値に基づき走行制御を行うクルーズ制御手段とを備え、上記クルーズ制御手段は、上記選択手段で選択された上記特定の車両挙動制御特性に対応する上記制御用目標値における上限ガード値を上記クルーズ制御手段の走行制御の運転領域毎に設定し、該各上限ガード値と上記制御用目標値とを上記運転領域毎に比較し、該制御用目標値が該上限ガード値よりも高いときは該上限ガード値で上記制御用目標値を設定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明による車両の走行制御装置によれば、複数の制御モードを有する車両挙動制御に対し、クルーズ制御において、演算を複雑にすることなく車両挙動制御で選択された車両挙動特性に適合する出力特性を得ることができ、良好なドライバビリティを得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1乃至図6は本発明の実施の一形態を示し、図1は車両の走行制御装置全体の構成を示す機能ブロック図、図2はクルーズ制御部の機能ブロック図、図3は先行車間距離が設定車間距離よりも離れている状態と短い状態の説明図、図4は車間距離偏差マップの説明図、図5は追従目標車速と各制御モードに対応した加速ガード値との関係を示す説明図、図6はクルーズ制御時の追従走行と定速走行とにおいて設定する各ガード値の説明図である。
【0013】
図1に示すように、車両には、車両挙動制御手段としての車両挙動制御部1と、クルーズ制御手段としてのクルーズ制御部2とが搭載されている。
【0014】
車両挙動制御部1は、ヨーレートセンサ11からヨーレート(実ヨーレート)γが、ハンドル角センサ12からハンドル角θHが、4輪の車輪速センサ13(左前輪車輪速センサ13fl、右前輪車輪速センサ13fr、左後輪車輪速センサ13rl、右後輪車輪速センサ13rr)から4輪の車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrrが、選択手段としてのモード切換スイッチ14からドライバが選択した車両挙動制御のモード(本実施の形態では、例えば、通常モード、トラクションモード、OFFモードの3種のモードの何れか)が入力される。
【0015】
車両挙動制御部1は、制動時における制動力を制御して車輪のロック状態の発生を防止するABSの機能と、選択した車輪に制動力を付与して車両にヨーモーメントを発生させることで車両の横滑りの挙動を防止する横滑り防止制御の機能と、駆動輪のスリップを防止するトラクション制御の機能を有し、上述の各信号を基に、選択された車両挙動制御のモードに応じた制御機能が達成される。
【0016】
すなわち、これらの制御機能は何れも公知のものであり、例えばABSの機能は、各車輪の速度、加減速度及び擬似的演算車体速度(ブレーキペダルが踏まれており、且つ車輪速度の減速度が所定値以上の場合は急ブレーキと判断し、その時点の車輪速度を初期値として設定し、それ以降は所定の減速度で減速させて演算した値)などを演算し、擬似的演算車体速度と車輪速度との比較、車輪の加減速度の大きさなどから判断してABS作動の際に増圧、保持、減圧の3つの油圧モードを選択する。具体的には、擬似的演算車体速度と車輪速度との差が大きくなってスリップ状態を示すとき、この制動圧力をABS作動推定圧として、この制動圧力から減圧し、この減圧した制動圧力を所定に保持、増圧して、再び、ABS作動推定圧となってスリップ状態となったとき減圧し、これを繰り返すもので、選択された所定のブレーキ制御信号をブレーキ制御手段としてのブレーキ制御部21に出力する。
【0017】
また、車両挙動制御部1における横滑り防止制御の機能は、例えば、車両運動モデルに基づき、ハンドル角θH及び車速V(例えば、4輪車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrrの平均値)を基に目標ヨーレートγtを演算し、この目標ヨーレートγtと実ヨーレートγとの偏差Δγを算出して、車両がアンダステア傾向か、オーバステア傾向かを判定する。そして、アンダステア傾向の場合には、旋回内側後輪にヨーレート偏差Δγに応じた所定の制動力を付加するようにブレーキ制御部21に制御信号を出力する一方、オーバステア傾向の場合には、旋回外側前輪にヨーレート偏差Δγに応じた所定の制動力を付加するようにブレーキ制御部21に制御信号を出力する。更に、このブレーキ制御に加え、不要な駆動力が生じる場合には、この駆動力分のエンジントルクを減少するようにエンジン制御手段としてのエンジン制御部22に制御信号を出力するようになっている。
【0018】
更に、車両挙動制御部1におけるトラクション制御の機能は、例えば本出願人が、特開平8−207607号公報で提案したトラクション制御を実行する。具体的には、4輪の車輪速の信号により4輪の実際のスリップ率を演算し、マップ検索等で走行状態に応じて前後輪の目標スリップ率を定め、4輪のスリップ率のうちの1つでも目標スリップ率を超えた場合にトラクション制御作動を判断する。そして、トラクション制御作動時には、4輪のスリップ率と前後輪の目標スリップ率の偏差により4輪の目標ブレーキ圧を各別に演算して、これら目標ブレーキ圧の指示信号をブレーキ制御部21に出力する。また、トラクション制御作動時には、最も回転の速い車輪について目標スリップ量と実際のスリップ量を比較し、両者の偏差の分だけエンジン出力低下したエンジン目標トルクを定め、このエンジン目標トルクをトラクション制御の実施の信号と共にエンジン制御部22に出力する。
【0019】
車両挙動制御部1は、上述のABSの機能と、横滑り防止制御の機能と、トラクション制御の機能を備えており、モード切換スイッチ14によるドライバの選択により、以下のような車両挙動制御に切り換えが行われる。
【0020】
通常モードが選択されている場合には、ABSの機能と、横滑り防止制御の機能と、トラクション制御の機能は、上述の通りに実行される。
【0021】
トラクションモードが選択されている場合には、上述のABSの機能の通りに維持されるが、他の横滑り防止制御の機能とトラクション制御の機能は、エンジン制御部22に対する出力が制限されて実行される。このため、ドライバがスポーツ走行等を望むときに適した車両挙動制御が行われるようになっている。
【0022】
OFFモードが選択されている場合には、ABSの機能は上述の通りに維持されるが、他の横滑り防止制御の機能とトラクション制御の機能は、OFFされた状態となり、深い雪道やぬかるみ等での緊急脱出時に選択されるモードとなっている。
【0023】
クルーズ制御部2は、上述のモード切換スイッチ14からドライバが選択した車両挙動制御のモード(本実施の形態では、例えば、通常モード、トラクションモード、OFFモードの3種のモードの何れか)が入力され、アクセル開度センサ15からアクセル開度θACCが入力され、エンジン回転数センサ16からエンジン回転数Neが入力される。また、クルーズコントロール操作スイッチ17からは、クルーズ制御時の先行車との車間距離((以下「設定車間距離」と称する)、本実施形態では、「長」、「中」、「短」の三段階に設定することができるようになっている)、クルーズ制御のON/OFF信号、セット車速の設定信号(基本的に前回のセット車速に対する増減で設定される)等が入力される。更に、先行車検出部18からは、先行車情報(先行車捕捉の有無、先行車と自車両との車間距離(以下、先行車間距離)、先行車速等)が入力される。この先行車検出部18は、例えば、ステレオカメラ等からの距離画像に対して箱形パターンの特徴を抽出する等の画像処理を行い、立体物の中から自車両の前方に存在して自車両に対する障害物となる物体を特定して先行車を検出し、この先行車間距離を求めるものである。そして、この先行車間距離の時間による変化を演算して先行車の自車両に対する相対速度を演算すると共に、自車速(例えば、4輪の車輪速の平均値)にこの先行車の相対速度を加算することにより先行車速が求められる。
【0024】
そして、クルーズ制御部2は、後述するように、クルーズ制御が開始されると、先行車検出部18からの先行車情報を読込み、先行車が捕捉されていない場合は、セット車速を目標車速として設定し、一方、先行車が捕捉されているときは、先行車速と自車速との差分から目標車速を求め、この目標車速に対応する目標スロットル開度θαsを求めてエンジン制御部22に出力し、更に、擬似アクセル開度θhaを求めてトランスミッション制御部23に信号出力する。
【0025】
ブレーキ制御部21は、ブレーキに関する制御を行うものであり、ブレーキペダルの踏み込み量や車両挙動制御部1からの信号に応じて、ブレーキ駆動部(図示せず)に信号出力し、各車輪のホイールシリンダが、それぞれ独立にブレーキ圧を発生自在に構成されている。
【0026】
また、エンジン制御部22は、エンジンの運転状態を制御するもので、入力側に、エンジン回転数Ne、吸入空気量Q、アクセル開度θACC、スロットル開度θth、エンジン水温Tw等、車両及びエンジン運転状態を検出するセンサ類が接続され、更に、車両挙動制御部1、及び、クルーズ制御部2が接続されている。
【0027】
また、エンジン制御部22の出力側には、燃焼室に対して所定に計量された燃料を噴射するインジェクタ、電子制御スロットル装置に設けられて、スロットル弁を開閉動作させるスロットルアクチュエータ(以上、図示せず)等、エンジン駆動を制御するアクチュエータ類が接続されている。
【0028】
そして、エンジン制御部22は、入力された各センサ類からの検出信号に基づき、インジェクタに対する燃料噴射タイミング、及び、燃料噴射パルス幅(パルス時間)を設定する。更に、スロットル弁を駆動するスロットルアクチュエータに対してスロットル開度信号を出力してスロットル弁の開度を制御する。また、エンジン制御部22は、車両挙動制御部1から、エンジントルクの減少信号や、エンジン目標トルクの信号が入力されると、電子制御スロットル装置に対して、スロットル弁の開度が相当するエンジントルクを減少させるように、或いは、エンジン目標トルクに収束するように制御を行う。更に、クルーズ制御部2によりクルーズ制御が開始されると、クルーズ制御部2で算出した目標スロットル開度θαsを読込み、電子制御スロットル装置に対して、スロットル弁の開度が目標スロットル開度θαsに収束するように制御を行う。
【0029】
また、トランスミッション制御部23は、自動変速機の変速制御を行うもので、入力側に4輪の車輪速センサ13、インヒビタスイッチ(図示せず)、クルーズ制御部2等が接続され、4輪の車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrr、セレクトレバー位置、擬似アクセル開度θha等が入力される。更に、トランスミッション制御部23は、出力側に自動変速機の変速制御を行うコントロールバルブ、及び、ロックアップクラッチをロックアップ動作させるロックアップアクチュエータ(以上、図示せず)が接続されている。このトランスミッション制御部23では、インヒビタスイッチからの信号に基づきセレクトレバーのセットレンジを判定し、Dレンジにセットされているときは、車速とアクセル開度(クルーズ制御部2から擬似アクセル開度θhaが出力されている場合は、この擬似アクセル開度θha)とに基づき特定される変速パターンに従い、その変速信号をコントロールバルブへ出力して変速制御を行う。尚、この変速パターンは、モード切換スイッチ14で設定されているモード(通常モード、トラクションモード、OFFモード)に対応して可変設定される。
【0030】
次に、クルーズ制御部2で実行されるクルーズ制御処理を、図2に示す機能ブロックを用いて、より詳細に説明する。同図に示すように、クルーズ制御部2にはクルーズ制御を実行する機能として、目標車速演算部2a、追従目標車速演算部2b、追尾フラグ演算部2c、制御用目標車速演算部2d、クルーズ制御要求馬力(以下「クルコン要求馬力」と称する)演算部2e、クルーズ制御要求トルク(以下、「クルコン要求トルク」と称する)演算部2f、アクセル要求トルク演算部2g、要求トルク選択演算部2h、目標スロットル開度演算部2i、疑似アクセル開度演算部2jを備えている。
【0031】
次に、各演算部2a〜2jで実行されるクルーズ制御処理について説明する。車両の走行中にドライバが、クルーズコントロール操作スイッチ17をONすると、クルーズ制御が開始され、目標車速演算部2aは、クルーズコントロール操作スイッチ17で設定したセット車速Sst[Km/h]を目標車速St[Km/h]として設定する。
【0032】
また、追従目標車速演算部2bは、先行車検出部18で求めた先行車情報(先行車間距離L、先行車速Sn[Km/h])、4輪の車輪速センサ13からの信号で得られる自車速Si[Km/h]、及び、モード切換スイッチ14で選択した車両挙動制御のモード(通常モード、トラクションモード、OFFモードの何れか)に基づき、先行車に対する自車の追従目標車速Sfoを、次の(1)式から算出する。
Sfo←Sn+Sα …(1)
ここで、Sαは追尾応答速度[Km/h]であり、先行車間距離Lとクルーズコントロール操作スイッチ17でセットした設定車間距離Loとの差分(車間距離偏差)ΔL(=L−Lo)に応じて設定される。すなわち、クルーズ制御時の追従走行において、図3(a)に示すように、設定車間距離Loに対して先行車間距離Lが長い場合(ΔL>0)、自車速Siを加速させて設定車間距離Loを保持させる必要がある。逆に、同図(b)に示すように、設定車間距離Loよりも先行車間距離Lが短い場合(ΔL<0)、自車速Siを減速させて設定車間距離Loを確保する必要がある。従って、Lo=LのときはΔL=0であるため、追尾応答速度Sα=0に設定される。
【0033】
追尾応答速度Sαは、車間距離偏差ΔLに基づき、図4に示す車間距離偏差マップを参照して、車両挙動制御のモード別に設定される。図4に記載されている車間距離偏差マップの特性について説明する。
【0034】
追尾応答速度Sαは設定車間距離Loを維持しようとする際の応答強さであり、車間距離偏差ΔLに対して中心値(ΔL=0)を通り、マイナス側からプラス側へ増加する非線形の特性を有している。また、通常モード時の追尾応答速度Sαに対して、OFFモード時の追尾応答速度Sαは緩やかな立ち上がりの特性を有し、一方、トラクションモード時の追尾応答速度Sαは急な立ち上がり特性を有している。その結果、ドライバはアクセルペダル操作による通常の加速運転と同等の加速感を得ることができる。
【0035】
従って、追従走行において車間距離偏差ΔLがプラス側或いはマイナス側へ大きな値になると、車両挙動制御のモードとしてOFFモードが選択されている場合は、通常モードの場合に比し、緩やかに加速或いは減速して、先行車間距離Lをゆっくりと設定車間距離Loに近づける制御が行われる。一方、車両挙動制御のモードとしてトラクションモードが選択されている場合は、通常モードの場合に比し、比較的急な加速、或いは、減速により、先行車間距離Lを設定車間距離Loに近づける制御が行われる。
【0036】
また、その際、追従目標車速Sfoの変化量から加速度の勾配を算出し、この加速度の勾配と加速ガード値の勾配とを比較する。そして、加速度の勾配が、第1上限ガード値としての加速ガード値の勾配よりも大きいとき、追従目標車速Sfoを加速ガード値で制限する。
【0037】
この加速ガード値の勾配は、車両挙動制御のモード(通常モード、トラクションモード、OFFモード)毎に設定されており、図5に示すように、細線で示す通常モード時の加速ガード値の勾配に対して、破線で示すOFFモード時の加速ガード値の勾配が緩やかに設定されており、又、一点鎖線で示すトラクションモード時の加速ガード値の勾配が急勾配に設定されている。
【0038】
同図に示すように、例えば追従走行において、先行車が一定速で低速走行している状態から二点鎖線で示すように加速した場合、(1)式に基づいて算出される追従目標車速Sfoもある勾配で加速される。この場合、同図に太線で示す追従目標車速Sfoの加速度(勾配)が、破線で示すOFFモード時の加速ガード値より急で、且つ、細線で示す通常モードの加速ガード値の勾配よりも緩やかな場合において、車両挙動制御のモードとしてトラクションモード或いは通常モードが選択されている場合は、(1)式で算出した追従目標車速Sfoがそのまま出力される。
【0039】
一方、車両挙動制御のモードとしてOFFモードが選択されている場合は、(1)式で算出した追従目標車速Sfoの加速度(勾配)が、OFFモード時の加速ガード値の勾配よりも急であるため、追従目標車速Sfoの加速度(勾配)は、OFFモード時の加速ガード値の勾配で制限される。
【0040】
ところで、この加速ガード値は追従走行時の過大な加速を規制するためのものであるため、通常の追従走行では、(1)式で算出した追従目標車速Sfoが加速ガード値を越えることはない。例えば、車両挙動制御のモードとしてOFFモードが選択されている場合、(1)式の追尾応答速度Sαは、車間距離偏差ΔLに対して緩やかな変化を示しているため、追従目標車速Sfoの加速度(勾配)は、図5に太線で示すような急勾配とはならず、OFFモード時の加速ガード値の勾配よりも緩い傾斜で加速される。尚、先行車が捕捉されていない場合、先行車速Sn、先行車間距離Lが検出されないため、追従目標車速Sfoは設定されない。
【0041】
また、追尾フラグ演算部2cは、先行車検出部18からの先行車捕捉信号を読込み、先行車が捕捉されたとき追尾フラグFfoをセットし(Ffo←1)、先行車が捕捉されないときクリアする(Ffo←0)。
【0042】
制御用目標車速演算部2dは、目標車速演算部2aで設定した目標車速St(セット車速Sst)と追従目標車速演算部2bで求めた追従目標車速Sfoと追尾フラグ演算部2cで設定した追尾フラグFfoの値を読込み、制御用目標車速Soを求めると共に、各運転領域において制御用目標車速Soの上限を規制する第2の上限ガード値を設定する。この第2の上限ガード値は運転領域毎に設定され、追従走行時に設定されるものと定速走行へ移行する過渡時に設定されるものとがある。
【0043】
具体的には、追尾フラグFfoがクリアされているとき(Ffo=0)、すなわち、先行車が捕捉されていない定速走行では目標車速Stが優先され、この目標車速Stにて制御用目標車速Soが設定される(So←St)。また、追尾フラグFfoがセットされているとき(Ffo=1)、すなわち、先行車が捕捉されている追従走行では追従目標車速Sfoが優先され、この追従目標車速Sfoにて制御用目標車速Soが設定される(So←Sfo)。尚、追従目標車速Sfoの上限は目標車速St(セット車速Sst)である。
【0044】
追従目標車速Sfoにて制御用目標車速Soを設定するに際し、先行車が加速された場合、追従目標車速Sfoの加速度(勾配)は、上述した追従目標車速演算部2bにおいて、車両挙動制御のモード(通常モード、トラクションモード、OFFモード)毎に設定されている加速ガード値にて規制される。
【0045】
従って、図6に示すように、先行車の加速運転に追従して加速する追従加速に際し、追従目標車速Sfoは追従目標車速演算部2bにおいて設定された加速ガード値以上の加速度は発生しない。しかし、誤った加速の追従目標車速Sfoが追従目標車速演算部2bから出力された場合、急加速となってしまう。同様に追従目標車速Sfoの最大値はセット車速Sstであるが、追従目標車速Sfoがセット車速Sst、すなわち目標車速St以上の誤った値が設定される場合も考えられる。
【0046】
従って、図6に示すように、追尾フラグFfoがセットされている追従走行では(Ffo=1)、先行車の加速運転に追従して加速走行する際に設定される追従目標車速Sfoを規制する、追従加速ガード値が設定される。また、追従目標車速Sfoの上限値を規制するセット車速ガード値が設定される。
【0047】
追従加速ガード値は各車両挙動制御のモード(通常モード、トラクションモード、OFFモード)毎に設定されている。この追従加速ガード値はセーフティ機能としての役割を有しており、また、その勾配は、前述した追従目標車速演算部2bで設定する車両挙動制御のモード(通常モード、トラクションモード、OFFモード)毎の加速ガード値よりも急な勾配で設定されている。また、セット車速ガード値は、クルーズ制御時の最大車速であるセット車速Sst、すなわち目標車速Stにて設定される。
【0048】
また、追尾フラグFfoがクリアされたとき(Ffo←0)、すなわち、定速走行を開始するときは、まず最初に定速走行開始ガード値が設定される。この定速走行開始ガード値は、現在の自車速Siから設定速度ΔSg分だけ減速した値に設定される。尚、この設定速度ΔSgは本実施形態では固定値(例えば5[Km/h])であるが、定速走行開始時の自車速Siに基づいて設定する可変値であっても良い。この定速走行開始ガード値は設定時間維持され、その後、定速復帰加速ガード値が設定される。この定速復帰加速ガード値は、自車速Siを目標車速Stへ復帰させる際の加速度(勾配)を規制するもので、車両挙動制御のモード(通常モード、トラクションモード、OFFモード)毎に設定されており、通常モードが選択されている際に設定される定速復帰加速ガード値の勾配に比し、OFFモードが選択されている際に設定される定速復帰加速ガード値は、その例えば80[%]の緩やかな勾配で設定される。また、トラクションモードが選択されている際に設定される定速復帰加速ガード値の勾配は、通常モードが選択されている際に設定される定速復帰加速ガード値の、例えば110[%]の急な勾配で設定される。
【0049】
この制御用目標車速演算部2dでは、先ず追尾フラグFfoの値を参照して、Ffo=0の定速走行時は目標車速演算部2aで求めた目標車速Stで、制御用目標車速Soを設定する(So←St)。また、Ffo=1の追従走行時は追従目標車速演算部2bで求めた追従目標車速Sfoで、制御用目標車速Soを設定する(So←Sfo)。そして、追従走行時においては、制御用目標車速Soと、追従加速ガード値及びセット車速ガード値とを比較し、制御用目標車速Soが追従加速ガード値を越えているときは、この制御用目標車速Soを追従加速ガード値で設定する。その結果、追従目標車速演算部2bから誤った加速の追従目標車速Sfoが出力されても、急加速の制御用目標車速Soが設定されることはない。更に、制御用目標車速Soがセット車速ガード値を越えているときは、この制御用目標車速Soがセット車速ガード値で規制されるので、セット車速Sst以上の車速が制御用目標車速Soとして設定されることがない。
【0050】
一方、追従走行から定速走行へ移行するに際しては、先ず、定速走行開始ガード値が設定される。この定速走行開始ガード値は、現在の自車速Siから設定速度ΔSg分だけ減速した値で設定されているため、定速走行開始時においては必ず、制御用目標車速Soが定速走行開始ガード値で設定される。その結果、定速走行開始時において、先行車を一瞬ロストし、再び捕捉された場合であっても、ドライバに車両の飛び出し感を与えることが無く、良好なドライバビリティを得ることができる。
【0051】
更に、定速走行へ移行後、自車速Siを目標車速Stに復帰させるに際しては定速復帰加速ガード値が設定されるため、制御用目標車速Soは定速復帰加速ガード値に規制されて次第に増速される。追従走行から定速走行へ切り替わる際に、いきなり制御用目標車速Soを目標車速St(セット車速Sst)に設定すると、自車速Siと目標車速Stとの偏差が大きい場合は、急加速してしまうことがあるが、本実施形態では、定速復帰加速ガード値で加速の勾配を規制しているため、急加速されることが無く、しかも、この定速復帰加速ガード値が車両挙動制御のモード(通常モード、トラクションモード、OFFモード)毎に設定されているため、良好なドライバビリティを得ることができる。
【0052】
そして、この制御用目標車速Soは、クルーズ制御要求馬力(以下「クルコン要求馬力」と称する)演算部2eで読込まれる。このクルコン要求馬力演算部2eは、制御用目標車速Soと自車速Siとの速度差ΔS(=So−Si)に基づき、自車速Siを制御用目標車速Soに到達させるためのクルコン要求馬力HPsを、計算式或いはテーブル検索により求める。
【0053】
このクルコン要求馬力HPsがクルコン要求トルク演算部2fで読込まれる。クルコン要求トルク演算部2fは、クルコン要求馬力HPsとエンジン回転数Neとに基づきクルコン要求トルクTcsを計算式から求める(Tcs=k・(HPs/Ne)、ここでkは係数である)。
【0054】
一方、アクセル要求トルク演算部2gは、クルーズ制御中において、アクセル開度センサ15で検出したアクセルペダルの踏込み量であるアクセル開度θACCとエンジン回転数センサ16からのエンジン回転数Neとに基づき、予め設定されているアクセル開度θACCとエンジン回転数NeとエンジントルクTacsの特性マップを参照してアクセル要求トルクTacsを求める。
【0055】
要求トルク選択演算部2hは、クルコン要求トルクTcsとアクセル要求トルクTacsとを比較し、何れか値の高い方を要求トルクTsとして設定する。従って、ドライバがアクセルペダルを開放した状態ではクルコン要求トルクTcsが要求トルクTsとして設定される(Ts←Tcs)。一方、ドライバがアクセルペダルを踏み込んで、クルコン要求トルクTcsよりも高いアクセル要求トルクTacsが出力された場合は、クルーズ制御が一時中断され、このアクセル要求トルクTacsが要求トルクTsとして設定される(Ts←Tacs)。
【0056】
このクルコン要求トルクTcsは、アクセルペダル操作により走行する通常運転時に参照される、予め設定されているアクセル開度θACCとエンジン回転数Neとエンジントルクの特性マップを参照することなく、加減速運転時の特性を前述した第1、第2の上限ガード値を用いて規制されているだけであるため、演算が複雑化せず、上限ガード値がドライバの選択した車両挙動制御のモードに対応して設定されるため、通常運転時のエンジン出力特性と適合させることができ、良好なドライバビリティを得ることができる。
【0057】
更に、要求トルク選択演算部2hでは、要求トルクTsと第3の上限ガード値とを比較し、要求トルクTsが第3の上限ガード値を越えている場合は、この要求トルクTsを第3の上限ガード値で設定する。この第3の上限ガード値は、アクセルペダルを全踏みしたときの最大トルクに設定されている。アクセルペダルを操作して走行する通常運転では、スロットル弁の開度はアクセルペダルを全踏みしたときよりも大きく開弁することはないが、クルーズ制御では、要求トルクからスロットル弁の開度を設定するため、スロットル弁をアクセルペダル全踏み時よりも大きく開弁させることが可能となる。しかし、本実施形態では、要求トルクTsを第3の上限ガード値で規制しているので、スロットル開度がアクセルペダルを全踏みしたときよりも大きく開弁することがない。尚、この第3の上限ガード値は任意に設定することができるため、アクセルペダルを全踏みしたときの最大トルクよりも低い値、例えばアクセルペダルを全踏みしたときの最大トルクの80[%]程度に設定することも可能である。
【0058】
そして、この要求トルクTsが、目標スロットル開度演算部2iと疑似アクセル開度演算部2jとに読込まれる。
【0059】
目標スロットル開度演算部2iは、要求トルクTsに基づき、当該要求トルクTsに対応する目標スロットル開度θαsを求め、エンジン制御部22に出力する。
【0060】
一方、疑似アクセル開度演算部2jは、要求トルクTsとエンジン回転数Neとに基づき、予め設定されているアクセル開度θACCとエンジン回転数Neとエンジントルクの特性マップを参照し、疑似アクセル開度θhaを逆算して求め、トランスミッション制御部23に出力する。
【0061】
このように、本実施形態によれば、加速時における目標車速が、ドライバの選択した車両挙動制御のモード毎に設定されているガード値で規制されるため、アクセルペダルを操作して走行する通常運転時にドライバが選択した車両挙動制御のモード特性に適合する加速感をドライバに与えることができ、良好なドライバビリティを得ることができる。また、クルーズ制御では目標車速をガード値で規制するだけであるため、通常運転時に参照するモードマップに適合するマップを別途設ける必要が無く、制御が容易になる。
【0062】
また、本実施形態ではガード値によって規制される対象を目標車速としたが、自車両の加速度を検出する加速度検出手段を備えた上で、ガード値によって規制される対象を自車両において発生する加速度としても、同様の効果を得る事が出来る。
【0063】
更に、本実施形態では、追尾フラグをセット後、それがクリアされた時に定速走行制御に移行し、追従走行制御時とは異なる値のガード値を持つことになるが、先行車の不在が確定しない間は定速走行制御時におけるガード値を追従走行制御時におけるガード値よりも小さな値に設定し、先行車の不在が確定しない状態での急加速を防止することで安全性の向上を図る事が出来る一方、先行車の不在が確定している場合は定速走行制御時におけるガード値を追従走行制御時におけるガード値よりも大きな値に設定することで、ドライバの意思に添った加速を実現出来るので操作性が向上する。
【0064】
尚、上述した各ガード値は、各ガード値を個々に微調整することで、アクセルペダル操作による通常運転時のエンジン出力特性に対して、より高い適合を図ることができる。
【0065】
また、本実施形態では、車両挙動制御部1の選択を、前述のような通常モード、トラクションモード、OFFモードの3種のモードとしたが、4種以上、或いは、2種のモードから選択するような仕様のものであっても本発明が適応できることは言うまでもない。更に、車両挙動制御の選択の、通常モード、トラクションモード、OFFモードの形態は、あくまでもその一例であり、例えば、制御タイミング(横滑り防止制御の機能やトラクション制御の機能の作動感度)を変更したものを組み合わせて、これらの複数の選択可能なモードを設けるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】車両の走行制御装置全体の構成を示す機能ブロック図
【図2】クルーズ制御部の機能ブロック図
【図3】先行車間距離が設定車間距離よりも離れている状態と短い状態の説明図
【図4】車間距離偏差マップの説明図
【図5】追従目標車速と各制御モードに対応した加速ガード値との関係を示す説明図
【図6】クルーズ制御時の追従走行と定速走行とにおいて設定する各ガード値の説明図
【符号の説明】
【0067】
1 車両挙動制御部(車両挙動制御手段)
2 クルーズ制御部(クルーズ制御手段)
2a 目標車速演算部
2b 追従目標車速演算部
2c 追尾フラグ演算部
2d 制御用目標車速演算部
2e クルコン要求馬力演算部
2f クルコン要求トルク演算部
2g アクセル要求トルク演算部
2h 要求トルク選択演算部
2i 目標スロットル開度演算部
2j 疑似アクセル開度演算部
11 ヨーレートセンサ
12 ハンドル角センサ
13 4輪車輪速センサ
14 モード切換スイッチ(選択手段)
15 アクセル開度センサ
16 エンジン回転数センサ
17 クルーズコントロール操作スイッチ
18 先行車検出部
21 ブレーキ制御部(ブレーキ制御手段)
22 エンジン制御部(エンジン制御手段)
23 トランスミッション制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両挙動制御特性の中から特定の車両挙動制御特性を選択手段により選択自在で、ブレーキ制御手段とエンジン制御手段の少なくとも一方に信号出力して車両挙動を制御する車両挙動制御手段と、
予め設定される目標車速と先行車の走行状態の少なくとも一方に基づいて自車両の制御用目標値を設定し、該制御用目標値に基づき走行制御を行うクルーズ制御手段とを備え、
上記クルーズ制御手段は、上記選択手段で選択された上記特定の車両挙動制御特性に対応する上記制御用目標値における上限ガード値を上記クルーズ制御手段の走行制御の運転領域毎に設定し、該各上限ガード値と上記制御用目標値とを上記運転領域毎に比較し、該制御用目標値が該上限ガード値よりも高いときは該上限ガード値で上記制御用目標値を設定することを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
上記制御用目標値は、車速と加減速度の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
上記車両挙動制御手段は、制動時における制動力を制御して車輪のロック状態の発生を防止するアンチロックブレーキ制御の機能と、選択した車輪に制動力を付与して車両にヨーモーメントを発生させることで車両の横滑りの挙動を防止する横滑り防止制御の機能と、駆動輪のスリップを防止するトラクション制御の機能を有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両の走行制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−280098(P2009−280098A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134689(P2008−134689)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】