説明

車両制動装置

【課題】別々の車輪に連通している複数の液圧通路に対しひとつの液圧発生源から作動液が供給されている場合、各通路での液圧の応答性が異なる。
【解決手段】液圧ブレーキユニット20は、ブレーキペダル24の操作に応じて車両に設けられた複数の車輪に制動力を付与する。増圧リニア制御弁66は、アキュムレータ35からの作動液を各車輪のディスクブレーキユニット21FR〜21RLのホイールシリンダに供給する。連通弁60は、第1通路45aと第2通路45bとの連通路に配設され、必要に応じてこれら通路間を分離する。差圧調整ピストン80は、連通弁60と並列に配設される。差圧調整ピストン80は、第2通路45bの液圧が第1通路45aの液圧に対して所定値以上小さいとき、第2通路45bの容積を減じるように動作する。これによって、第2通路45bの液圧が上昇するため、第2通路45bの昇圧応答遅れが改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバによるブレーキペダルの操作に応じて、車両に設けられた複数の車輪に制動力を付与する車両制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、加圧源と液圧制御部とにより各ホイールシリンダに付与する液圧を調整して制動力を制御可能な電子制御式の車両制動装置が知られている。このような車両制動装置では、増圧用または減圧用の制御弁の設置数を減らすことによって、コストを低減することができる。特許文献1には、一組の増圧用リニア制御弁および減圧用リニア制御弁を有するとともに、連通弁によって、それぞれ異なる車輪に設置されたディスクブレーキのホイールシリンダに連通する二つの通路に分離された作動液通路を有する車両制動装置が開示されている。
【特許文献1】特開平11−180294号公報
【特許文献2】特開平10−315946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1のように、作動液通路において連通弁を挟んで二つの通路を連通させると、連通弁が絞りとして作用し、連通弁の両側で増減圧時の液圧応答性に格差が生じることがある。
【0004】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、別々の車輪に連通している複数の通路に対してひとつの液圧発生源から作動液が供給されているときに、各通路での液圧応答性の格差を緩和する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のある態様は、ドライバによるブレーキペダルの操作に応じて車両に設けられた複数の車輪に制動力を付与する車両制動装置である。この装置は、前記ブレーキペダルの操作量に応じた圧力の作動液を供給可能な液圧発生源と、複数の車輪のそれぞれに対応して設けられ、増圧によって制動力を発揮せしめるホイールシリンダと、前記液圧発生源からの作動液をブレーキペダルの操作に応じて前記各ホイールシリンダへ供給する増圧制御弁と、前記ホイールシリンダからの作動液を排出する減圧制御弁と、前記ホイールシリンダのうち、前記増圧制御弁に近接するものに連通する流路からなる第1通路と、残りのホイールシリンダに連通する流路からなる第2通路と、第1通路と第2通路との連通路に配設され、必要に応じてこれら通路間を分離する連通弁と、前記連通弁と並列に配設され、第1通路と第2通路との間に所定値以上の差圧があるとき、低圧側の通路の容積を減じる差圧調整手段と、を備える。
【0006】
この態様によれば、第1通路と第2通路との間に差圧が生じたとき、差圧調整手段が低圧側の通路の容積を減少させるので、低圧側の通路の昇圧がより早期に達成される。したがって、各ホイールシリンダに作動液を供給する昇圧制御時に、連通弁を介して連通する第1通路と第2通路に対しひとつの液圧発生源から作動液が供給されることに起因するいずれかの通路の昇圧応答遅れを緩和することができる。また、各ホイールシリンダから作動液を排出する減圧制御時に、連通弁を介して連通する第1通路と第2通路からひとつの減圧制御弁を通して作動液を排出することに起因するいずれかの通路の減圧応答遅れを緩和することができる。
【0007】
前記差圧調整手段は、前記連通弁と並列に第1通路と第2通路とを連通する流路に形成されたシリンダと、該シリンダ内に第1通路と第2通路とを分離するように配置され第1通路側または第2通路側に移動可能な可動壁と、該可動壁を中立位置に付勢する付勢手段とを含んでもよい。
【0008】
本発明の別の態様もまた、ドライバによるブレーキペダルの操作に応じて車両に設けられた複数の車輪に制動力を付与する車両制動装置である。この装置は、前記ブレーキペダルの操作量に応じた圧力の作動液を供給可能な液圧発生源と、前記ブレーキペダルの操作に応じて作動液を供給可能なマスタシリンダと、複数の車輪のそれぞれに対応して設けられ、増圧によって制動力を発揮せしめるホイールシリンダと、前記液圧発生源からの作動液を前記各ホイールシリンダへ供給する増圧制御弁と、前記ホイールシリンダからの作動液を排出する減圧制御弁と、前記ホイールシリンダのうち、前記増圧制御弁に近接するものに連通する流路からなる第1通路と、残りのホイールシリンダに連通する流路からなる第2通路と、第1通路と第2通路との連通路に配設され、必要に応じてこれら通路間を分離する連通弁と、前記マスタシリンダからの作動液を前記第2通路に供給する通路に配設されるマスタカット弁と、前記連通弁と並列に配設され、第1通路と第2通路との間に所定値以上の差圧があるとき、低圧側の通路の容積を減じる差圧調整手段と、を備える。
【0009】
この態様によれば、液圧発生源から第1通路に作動液が供給される場合、またはマスタシリンダから第2通路に作動液が供給される場合のいずれであっても、差圧調整手段が低圧側の通路の容積を減少させるので、低圧側の通路の昇圧がより早期に達成される。したがって、連通弁を介して連通する第1通路と第2通路に対しひとつの液圧発生源もしくはマスタシリンダから作動液が供給されることに起因するいずれかの通路の昇圧応答遅れを緩和することができる。また、各ホイールシリンダから作動液を排出する減圧制御時に、連通弁を介して連通する第1通路と第2通路からひとつの減圧制御弁を通して作動液を排出することに起因するいずれかの通路の減圧応答遅れを緩和することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、別々の車輪に連通している複数の通路に対してひとつの液圧発生源から作動液が供給されているときに、各通路での液圧応答性の格差を緩和することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両制動装置が適用された車両を示す概略構成図である。同図に示される車両1は、いわゆるハイブリッド車両として構成されており、エンジン2と、エンジン2の出力軸であるクランクシャフトに接続された3軸式の動力分割機構3と、動力分割機構3に接続された発電可能なモータジェネレータ4と、変速機5を介して動力分割機構3に接続された電動モータ6と、車両1の駆動系全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」といい、電子制御ユニットは、すべて「ECU」と称する。)7とを備える。変速機5には、ドライブシャフト8を介して車両1の駆動輪たる右前輪9FRおよび左前輪9FLが連結される。
【0013】
エンジン2は、例えばガソリンや軽油等の炭化水素系燃料を用いて運転される内燃機関であり、エンジンECU10により制御される。エンジンECU10は、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、エンジン2の作動状態を検出する各種センサからの信号に基づいてエンジン2の燃料噴射制御や点火制御、吸気制御等を実行する。また、エンジンECU10は、必要に応じてエンジン2の作動状態に関する情報をハイブリッドECU7に与える。
【0014】
動力分割機構3は、変速機5を介して電動モータ6の出力を左右の前輪9FR,9FLに伝達する役割と、エンジン2の出力をモータジェネレータ4と変速機5とに振り分ける役割と、電動モータ6やエンジン2の回転速度を減速あるいは増速する役割とを果たす。モータジェネレータ4と電動モータ6とは、それぞれインバータを含む電力変換装置11を介してバッテリ12に接続されており、電力変換装置11には、モータECU14が接続されている。モータECU14も、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号等に基づいて電力変換装置11を介してモータジェネレータ4および電動モータ6を制御する。なお、上述のハイブリッドECU7やエンジンECU10、モータECU14は、いずれもCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。
【0015】
ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、電力変換装置11を介してバッテリ12から電力を電動モータ6に供給することにより、電動モータ6の出力により左右の前輪9FR,9FLを駆動することができる。また、エンジン効率のよい運転領域では、車両1はエンジン2によって駆動される。この際、動力分割機構3を介してエンジン2の出力の一部をモータジェネレータ4に伝えることにより、モータジェネレータ4が発生する電力を用いて、電動モータ6を駆動したり、電力変換装置11を介してバッテリ12を充電したりすることが可能となる。
【0016】
また、車両1を制動する際には、ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、前輪9FR,9FLから伝わる動力によって電動モータ6が回転させられ、電動モータ6が発電機として作動させられる。すなわち、電動モータ6、電力変換装置11、ハイブリッドECU7およびモータECU14等は、車両1の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両1を制動する回生ブレーキユニットとして機能する。
【0017】
本実施形態の車両制動装置は、このような回生ブレーキユニットに加えて、液圧ブレーキユニット20を備えており、両者を協調させるブレーキ回生協調制御を実行することにより車両1を制動可能なものである。液圧ブレーキユニット20は、図2に示されるように、左右の前輪9FR,9FLおよび図示されない左右の後輪に対して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対する作動液としてのブレーキオイルの供給源となる液圧発生装置30と、液圧発生装置30からのブレーキオイルの液圧を適宜調整して各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLに供給することにより、車両1の各車輪に対する制動力を設定可能な液圧アクチュエータ40とを含む。
【0018】
各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22およびブレーキキャリパ23を含み、各ブレーキキャリパ23には、図示されないホイールシリンダが内蔵されている。そして、各ブレーキキャリパ23のホイールシリンダは、それぞれ独立の流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。ブレーキキャリパ23のホイールシリンダに液圧アクチュエータ40からブレーキオイルが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられ、各車輪に液圧制動トルクが加えられる。
【0019】
液圧発生装置30は、図2に示されるように、ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、リザーバ34、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。ブレーキペダル24に対しては、ブレーキペダル24の操作量を検出するブレーキストロークセンサ25が設けられている。
【0020】
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキオイルを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34とアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧(以下、「レギュレータ圧」という)を発生する。
【0021】
アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたリザーバ34からのブレーキオイルの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ(例えば14〜22MPa程度)に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35に対しては、リリーフバルブ35aが設けられている。アキュムレータ35におけるブレーキオイルの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキオイルはリザーバ34へと戻される。
【0022】
上述のように、液圧発生装置30は、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対するブレーキオイルの供給源(液圧源)として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32には流体通路37が、レギュレータ33には流体通路38が、アキュムレータ35には流体通路39が接続されている。これらの流体通路37、38および39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
【0023】
液圧アクチュエータ40は、複数の流体通路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含むものである。アクチュエータブロックに形成された流体通路には、個別通路41、42、43および44と、主通路45とが含まれる。個別通路41〜44は、それぞれ主通路45から分岐されて対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL、21RR、21RLに接続されている。これにより、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、主通路45と連通可能となる。また、個別通路41、42、43および44の中途には、増圧保持弁51、52、53および54が設けられている。各増圧保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。
【0024】
さらに、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、個別通路41〜44にそれぞれ接続された減圧通路46、47、48および49を介して減圧通路55に接続されている。減圧通路46、47、48および49の中途には、減圧制御弁56、57、58および59が設けられている。各減圧制御弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。
【0025】
主通路45は、中途に連通弁60を有しており、この連通弁60により個別通路43および44と接続される第1通路45aと、個別通路41および42と接続される第2通路45bとに区分けされている。すなわち、第1通路45aは、個別通路43および44を介して後輪側のディスクブレーキユニット21RRおよび21RLに接続され、第2通路45bは、個別通路41および42を介して前輪側のディスクブレーキユニット21FRおよび21FLに接続される。連通弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。
【0026】
また、主通路45には、連通弁60と並列に差圧調整ピストン80が配設されている。差圧調整ピストン80の構造および作用については後述する。
【0027】
また、主通路45には、マスタシリンダ32と連通する流体通路37に接続されるマスタ通路61、レギュレータ33と連通する流体通路38に接続されるレギュレータ通路62、およびアキュムレータ35と連通する流体通路39に接続されるアキュムレータ通路63が接続されている。より詳細には、マスタ通路61は、主通路45の第2通路45bに接続されており、レギュレータ通路62およびアキュムレータ通路63は、主通路45の第1通路45aに接続されている。さらに、減圧通路55は、液圧発生装置30のリザーバ34に接続される。
【0028】
マスタ通路61は、中途にマスタ圧カット弁64を有する。マスタ圧カット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。レギュレータ通路62は、中途にレギュレータ圧カット弁65を有する。レギュレータ圧カット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。また、アキュムレータ通路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有し、アキュムレータ通路63および主通路45の第1通路45aは、減圧リニア制御弁67を介して減圧通路55に接続されている。
【0029】
増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキオイルの圧力と主通路45におけるブレーキオイルの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主通路45におけるブレーキオイルの圧力と減圧通路55におけるブレーキオイルの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。したがって、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
【0030】
なお、増圧リニア制御弁66は上述のように常閉型電磁制御弁であることから、増圧リニア制御弁66が非通電状態にある場合、主通路45は、高圧液圧源としてのアキュムレータ35から遮断されることになる。また、減圧リニア制御弁67も上述のように常閉型電磁制御弁であることから、減圧リニア制御弁67が非通電状態にある場合、主通路45はリザーバ34から遮断されることになる。この点で、主通路45は、低圧液圧源としてのリザーバ34にも接続されているともいえる。
【0031】
一方、マスタ通路61には、マスタ圧カット弁64よりも上流側において、ストロークシミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。ストロークシミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、ストロークシミュレータカット弁68の開放時にドライバによるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、ドライバによるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のばね特性を有するものが採用されると好ましく、本実施形態のストロークシミュレータ69は4段階のばね特性を有する。
【0032】
上述のように構成された液圧発生装置30や液圧アクチュエータ40は、制御手段としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70はCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて液圧発生装置30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54、56〜59、60、64〜68を制御する。
【0033】
図1に示されるように、ブレーキECU70に接続されるセンサには、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が含まれる。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータ圧カット弁65の上流側でレギュレータ通路62内のブレーキオイルの圧力(レギュレータ圧)を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の下流側でアキュムレータ通路63内のブレーキオイルの圧力(アキュムレータ圧)を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主通路45の第2通路45b内のブレーキオイルの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域(バッファ)に所定量ずつ格納保持される。
【0034】
連通弁60が開放されて主通路45の第1通路45aと第2通路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、連通弁60が非通電状態にあって主通路45の第1通路45aと第2通路45bとが互いに分離されている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。さらに、連通弁60が開放されて主通路45の第1通路45aと第2通路45bとが互いに連通しており、各増圧保持弁51〜54が開放される一方、各減圧制御弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLのブレーキ圧(ホイールシリンダ圧)を示す。
【0035】
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、上述のブレーキストロークセンサ25も含まれる。ブレーキストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ブレーキストロークセンサ25の検出値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域(バッファ)に所定量ずつ格納保持される。なお、ブレーキストロークセンサ25に加えて、ブレーキペダル24の操作状態を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチがブレーキECU70に接続されてもよい。
【0036】
ところで、上述した液圧ブレーキユニット20では、ひとつの増圧リニア制御弁66およびひとつの減圧リニア制御弁67を用いて、四輪のディスクブレーキユニット21FR〜21RLのブレーキ圧を制御している。また、後輪側のディスクブレーキユニット21RL、21RRのホイールシリンダに連通する第1通路45aと、前輪側のディスクブレーキユニット21FL、21FRのホイールシリンダに連通する第2通路45bとの間には、連通弁60が配設されている。このような構成にすると、増減圧制御の実現のために必要となるリニア制御弁の数を少なくすることができるので、液圧ブレーキユニット20のコストを低下させることができる。
【0037】
しかしながら、上記構成では、液圧源たるアキュムレータ35からのブレーキオイルは一旦第1通路45aに流入したのち、連通弁60を通して第2通路45bに流入することになるから、連通弁60が絞りとして作用し、後輪側の第1通路45aに対して前輪側の第2通路45bの昇圧が遅れてしまうという問題が生じる。この問題は、急制動時にブレーキペダルが急踏みされ、昇圧勾配が高いときに特に顕著となる。
【0038】
図3は、液圧ブレーキユニット20において、制動要求に応じて設定される目標液圧に対する第1通路45aおよび第2通路45bの液圧の推移を示すグラフである。図示するように、増圧リニア制御弁66からより遠方に位置する第2通路45bの液圧は、増圧リニア制御弁66に近い第1通路45aに対して応答遅れが生じており、その大きさは図中の「D」で示される。このような応答遅れにより、第1通路45aに連通するディスクブレーキユニット21RL、21RRに対応する後輪と、第2通路45bに連通するディスクブレーキユニット21FL、21FRに対応する前輪とでは、応答遅れが解消されるまでの間、車輪に発生する制動力が異なることになる。これは、制動時の車両安定性の観点からは好ましくない。
【0039】
また、全ディスクブレーキユニット21FR〜21RLのホイールシリンダ圧が目標液圧に到達したか否かは、制御圧センサ73の出力値で判断される。上記のような液圧アクチュエータ40の構成では、第2通路45bの液圧、すなわち制御圧センサ73の出力値が目標液圧に到達するまでの間、増圧リニア制御弁66から第1通路45aを経由して第2通路45bにブレーキオイルが供給されるため、第1通路45aにおいては、図3中に「S」で示すように、液圧が目標液圧より上回るオーバーシュートが発生してしまう。このようなオーバーシュートは、第1通路45aと第2通路45bにおける液圧が速やかに同程度となることを妨げる。
【0040】
そこで、本実施形態では、第1通路45aと第2通路45bとの間に生じる昇圧応答遅れを改善し、また第1通路45aにおけるオーバーシュートを抑制するために、連通弁60と並列に差圧調整ピストン80を配設した。
【0041】
この差圧調整ピストン80は、連通弁60と並列に第1通路45aと第2通路45bとを連通する流路45cに形成されたシリンダ80aと、シリンダ80a内に第1通路45aと第2通路45bとを分離するように配置された可動壁80bと、可動壁80bを中立位置、すなわちシリンダ内の第1通路45a側に付勢するばね80cとから構成される。
可動壁80bは、シリンダ80aの内径より若干小さい外径を有し、可動壁80bの外周に取り付けられたOリング(図示せず)を介してシリンダ80aの内壁面と接触する。可動壁80bは、可動壁80bの両側の圧力差によってシリンダ80aの内壁面に対し摺動可能であり、かつ第1通路45aと第2通路45bとの間でブレーキオイルの流通がないように構成されている。ばね80cのばね係数を適宜調整することにより、可動壁80bが摺動を開始するために必要な、第1通路45aと第2通路45bとの間の差圧を定めることができる。なお、シリンダ80aの内径を例えば10mmとしたとき、可動壁80bのストロークは5mm程度確保すれば十分である。
【0042】
増圧リニア制御弁66による増圧制御が開始された後、第2通路45bの液圧が第1通路45aの液圧に対して所定値以上小さくなると、可動壁80bの両側の差圧がばね80cの発生する付勢力に打ち勝ち、可動壁80bはシリンダ80a内を第2通路45b側に向けて摺動する。これによって、第2通路45b側の容積が減少するので、制御圧センサ73により検出される第2通路45bの液圧が上昇する。この結果、第1通路45aに対する第2通路45bの昇圧応答遅れが改善される。また、第2通路45bの昇圧が通常より早く達成されるため、増圧リニア制御弁66の閉弁時間も早くなる。したがって、第1通路45aにおける目標液圧に対するオーバーシュートも抑制される。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によれば、ひとつの増圧リニア制御弁66およびひとつの減圧リニア制御弁67を用いて、四つのディスクブレーキユニット21FR〜21RLのブレーキ圧を制御する液圧ブレーキユニットにおいて、第1通路45aと第2通路45bとの液圧差が所定値以上となったとき、第2通路45bの容積を減少させる差圧調整ピストン80を設けた。これによって、増圧リニア制御弁66による増圧時に、液圧源であるアキュムレータから遠方に位置するために昇圧しにくい第2通路45bの応答遅れを改善することができる。同時に、液圧源であるアキュムレータに近いために昇圧しやすい第1通路45aのオーバーシュートを抑制することができる。
【0044】
一般に、車両の急制動時においては、前輪側のディスクブレーキユニット21FL、21FRのホイールシリンダに連通する第2通路45bを早期に昇圧させる必要がある。これは、後輪と比べて前輪の制動力が弱いと、急制動時に車両の安定性が低下するおそれがあるためである。本実施形態によれば、第1通路45aに対する第2通路45bの応答遅れを改善することによって、後輪と前輪の制動力の差が減少するため、急制動時の車両の安定性を向上させることができる。
【0045】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態どうしの任意の組合せ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組合せなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0046】
図4は、本発明の別の実施形態に係る液圧ブレーキユニット20’の系統図である。この実施形態では、連通弁60と並列に差圧調整ピストン82が配設されている点は上述の実施形態と同じであるが、その構造が一部異なっている。
差圧調整ピストン82は、連通弁60と並列に第1通路45aと第2通路45bとを連通する流路45cに形成されたシリンダ82aと、シリンダ82a内に第1通路45aと第2通路45bとを分離するように配置された可動壁82bと、可動壁82bを中立位置、すなわちシリンダ内の略中央に付勢するばね82c、82dとから構成される。可動壁82bの構造は、上述の可動壁80bと同様である。
【0047】
上述の実施形態は、第1通路45aに対する第2通路45bの昇圧遅れを改善するものであったが、この差圧調整ピストン82によれば、第2通路45bに対する第1通路45aの昇圧遅れが生じるような場合であっても、昇圧遅れを改善することができる。
【0048】
例えば、増圧リニア制御弁66およびレギュレータ圧カット弁65に故障が生じ、マスタシリンダ32からのブレーキオイルで車両を制動する非常時を想定する。この場合、マスタシリンダ32からのブレーキオイルは、マスタ通路61を介して第2通路45bに流入し、その後連通弁60を通して第1通路45aに流入する。したがって、連通弁60が絞りとして作用し、第2通路45bの液圧に対して第1通路45aの液圧が応答遅れする状況が生じ得る。この場合、差圧調整ピストン82の可動壁82bは、第1通路45aと第2通路45bとの差圧が所定値に達すると、第1通路45a側に摺動を開始し、第1通路45aの容積を減少させる。この結果、第2通路45bに対する第1通路45aの昇圧応答遅れが改善される。なお、差圧調整ピストン82は、正常時には上述の差圧調整ピストン80と同様の作用を発揮することができる。
【0049】
また、液圧ブレーキユニット20’の構成では、減圧制御時に、ディスクブレーキユニット21FR、21FLのホイールシリンダからのブレーキオイルは、第2通路45bを経由し、連通弁60を通して第2通路45bに流入し、さらに減圧リニア制御弁67を通ってリザーバ34に戻されることになる。したがって、昇圧時と同様減圧の場合にも連通弁60が絞りとして作用し、後輪側の第1通路45aに対して前輪側の第2通路45bの減圧が遅れる、つまり第1通路45a側の方が早期に減圧されることになる。この場合、差圧調整ピストン82の可動壁82bは、減圧時に第1通路45aと第2通路45bとの差圧が所定値に達すると、第1通路45a側に摺動を開始し、第2通路45bの容積を増大させる。この結果、第1通路45aに対する第2通路45bの減圧応答遅れが改善される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両制動装置が適用された車両を示す概略構成図である。
【図2】図1の車両制動装置を構成する液圧ブレーキユニットの系統図である。
【図3】目標液圧に対する第1通路および第2通路の液圧の推移を示すグラフである。
【図4】本発明の別の実施形態に係る液圧ブレーキユニットの系統図である。
【符号の説明】
【0051】
1 車両、20 液圧ブレーキユニット、21FR,21FL,21RR,21RL ディスクブレーキユニット、22 ブレーキディスク、23 ブレーキキャリパ、24 ブレーキペダル、25 ブレーキストロークセンサ、30 液圧発生装置、31 ブースタ、32 マスタシリンダ、33レギュレータ、34 リザーバ、35 アキュムレータ、35a リリーフバルブ、36 ポンプ、36a モータ、37,38,39 流体通路、40 液圧アクチュエータ、41,42,43,44 個別通路、45 主通路、45a 第1通路、45b 第2通路、46,47,48,49 減圧通路、51,52,53,54 増圧保持弁、55 減圧通路、56,57,58,59 減圧制御弁、60 連通弁、61 マスタ通路、62 レギュレータ通路、63 アキュムレータ通路、64 マスタ圧カット弁、65 レギュレータ圧カット弁、66 増圧リニア制御弁、67 減圧リニア制御弁、70 ブレーキECU、71 レギュレータ圧センサ、72 アキュムレータ圧センサ、73 制御圧センサ、 80,82 差圧調整ピストン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバによるブレーキペダルの操作に応じて車両に設けられた複数の車輪に制動力を付与する車両制動装置において、
前記ブレーキペダルの操作量に応じた圧力の作動液を供給可能な液圧発生源と、
複数の車輪のそれぞれに対応して設けられ、増圧によって制動力を発揮せしめるホイールシリンダと、
前記液圧発生源からの作動液をブレーキペダルの操作に応じて前記各ホイールシリンダへ供給する増圧制御弁と、
前記ホイールシリンダからの作動液を排出する減圧制御弁と、
前記ホイールシリンダのうち、前記増圧制御弁に近接するものに連通する流路からなる第1通路と、
残りのホイールシリンダに連通する流路からなる第2通路と、
第1通路と第2通路との連通路に配設され、必要に応じてこれら通路間を分離する連通弁と、
前記連通弁と並列に配設され、第1通路と第2通路との間に所定値以上の差圧があるとき、低圧側の通路の容積を減じる差圧調整手段と、
を備えることを特徴とする車両制動装置。
【請求項2】
前記差圧調整手段は、前記連通弁と並列に第1通路と第2通路とを連通する流路に形成されたシリンダと、該シリンダ内に第1通路と第2通路とを分離するように配置され第1通路側または第2通路側に移動可能な可動壁と、該可動壁を中立位置に付勢する付勢手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載の車両制動装置。
【請求項3】
ドライバによるブレーキペダルの操作に応じて車両に設けられた複数の車輪に制動力を付与する車両制動装置において、
前記ブレーキペダルの操作量に応じた圧力の作動液を供給可能な液圧発生源と、
前記ブレーキペダルの操作に応じて作動液を供給可能なマスタシリンダと、
複数の車輪のそれぞれに対応して設けられ、増圧によって制動力を発揮せしめるホイールシリンダと、
前記液圧発生源からの作動液を前記各ホイールシリンダへ供給する増圧制御弁と、
前記ホイールシリンダからの作動液を排出する減圧制御弁と、
前記ホイールシリンダのうち、前記増圧制御弁に近接するものに連通する流路からなる第1通路と、
残りのホイールシリンダに連通する流路からなる第2通路と、
第1通路と第2通路との連通路に配設され、必要に応じてこれら通路間を分離する連通弁と、
前記マスタシリンダからの作動液を前記第2通路に供給する通路に配設されるマスタカット弁と、
前記連通弁と並列に配設され、第1通路と第2通路との間に所定値以上の差圧があるとき、低圧側の通路の容積を減じる差圧調整手段と、
を備えることを特徴とする車両制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−118810(P2007−118810A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314771(P2005−314771)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】