車両制御装置
【課題】乗員の重量及びエネルギ残量を検出し、検出された乗員の重量及びエネルギ残量に応じて車両の起動制御を行うことによって、適切に駆動源の起動を制御することができ、安定した走行状態を実現することができる安全性の高い制御を行うようにする。
【解決手段】乗員が搭乗する搭乗部13を備える車体と、回転可能に該車体に取り付けられ、駆動源によって駆動される駆動輪と、前記駆動源にエネルギを供給するエネルギ源とを備える車両を制御する車両制御装置であって、前記乗員の重量を検出する乗員重量検出手段と、前記エネルギ源のエネルギ残量を検出するエネルギ残量検出手段と、検出された前記乗員の重量及び前記エネルギ残量に応じて前記車両の起動制御を行う制御手段とを有する。
【解決手段】乗員が搭乗する搭乗部13を備える車体と、回転可能に該車体に取り付けられ、駆動源によって駆動される駆動輪と、前記駆動源にエネルギを供給するエネルギ源とを備える車両を制御する車両制御装置であって、前記乗員の重量を検出する乗員重量検出手段と、前記エネルギ源のエネルギ残量を検出するエネルギ残量検出手段と、検出された前記乗員の重量及び前記エネルギ残量に応じて前記車両の起動制御を行う制御手段とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に係り、例えば、二次電池を電源とする電気自動車等の車両を制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車のような二次電池を主電源とする車両においては、二次電池が過放電とならずに安全に走行することができるように、起動時に二次電池の端子電圧を確認し、該端子電圧が所定値以下の場合には充電した後でないと、走行することができないように制御されている(例えば、特許文献1参照。)。これにより、車両は、所定以上の距離を安全に走行することができる。
【特許文献1】特開2007−146727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の車両の制御においては、二次電池の残容量が同一であっても走行可能距離が車両全体の重量によって変化するにも係わらず、重量の変化を考慮して走行可能か否かの判断基準を決定していない。そのため、走行可能か否かを適切に判断することができない。
【0004】
特に、車両が乗車定員の少ない小型車両である場合、乗員の重量が車両全体の重量に占める割合が高いので、乗員の重量の変化が走行可能距離に及ぼす影響が非常に大きくなる。
【0005】
本発明は、前記従来の問題点を解決して、乗員の重量及びエネルギ残量を検出し、検出された乗員の重量及びエネルギ残量に応じて車両の起動制御を行うことによって、適切に駆動源の起動を制御することができ、安定した走行状態を実現することができる安全性の高い制御を行う車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのために、本発明の車両制御装置においては、乗員が搭乗する搭乗部を備える車体と、回転可能に該車体に取り付けられ、駆動源によって駆動される駆動輪と、前記駆動源にエネルギを供給するエネルギ源とを備える車両を制御する車両制御装置であって、前記乗員の重量を検出する乗員重量検出手段と、前記エネルギ源のエネルギ残量を検出するエネルギ残量検出手段と、検出された前記乗員の重量及び前記エネルギ残量に応じて前記車両の起動制御を行う制御手段とを有する。
【0007】
本発明の他の車両制御装置においては、さらに、前記乗員の重量及び前記エネルギ残量に基づいて走行可能距離を算出する走行可能距離算出手段を更に有し、前記制御手段は、前記走行可能距離に応じて、前記車両の起動制御を行う。
【0008】
本発明の更に他の車両制御装置においては、さらに、現在位置を検出する現在位置検出手段と、目的地を入力する目的地入力手段と、前記現在位置から目的地までの目的距離を算出する目的距離算出手段とを更に有し、前記制御手段は、前記走行可能距離及び前記目的距離に応じて、前記車両の起動制御を行う。
【0009】
本発明の更に他の車両制御装置においては、さらに、前記目的地が入力されたか否かを判断する判断手段を更に有し、前記制御手段は、前記目的地が入力されていないと判断された場合、前記走行可能距離が所定距離以下であると前記車両の起動を禁止する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1及び2の構成によれば、乗員の重量に対してエネルギ残量が十分な場合にのみ車両を起動するので、走行の途中でエネルギがなくなり駆動源が停止する事態を未然に防止することができる。したがって、車両の走行状態の安定性を確保することができ、乗員の乗り心地及び快適性を維持することができる。特に、例えば、車両が乗車定員の少ない小型車両において、その効果が顕著に現れる。
【0011】
請求項3の構成によれば、目的地まで走行可能な場合にのみ車両を起動するので、確実に目的地に到達することができる。
【0012】
請求項4の構成によれば、ある程度の距離を走行可能な場合にのみ車両を起動するので、安心して走行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の制御状態の概要を示す図である。なお、図において(a)〜(c)は起立制御の状態を示し、(d)〜(f)は乗降停止制御の状態を示している。
【0015】
まず、本実施の形態の概要について説明する。なお、本実施の形態においては、車両が倒立振り子の姿勢制御を利用した車両、すなわち、倒立振り子車両であって、同軸上に配設された2つの駆動輪を有し、乗員の重心移動による車体の姿勢変化を感知して駆動する車両であるものとして説明する。
【0016】
倒立車両では、車両を直立させた状態よりも傾斜させた状態のほうが乗車、降車を行いやすい場合がある。例えば、地面から比較的高い位置に搭乗部がある倒立車両の場合、車両の直立状態では乗員が乗車することが困難であるため、傾斜状態とすることが好ましい。また、車両を傾斜させることで、その重心が低くなり、乗車及び降車時における車両の安定性が高くなる。
【0017】
本実施の形態における車両では、傾斜状態をさらに安定させるために、車体に固定された構造体としてストッパ(制限機構)を配設し、駆動輪の接地点とストッパの接地点から等距離の位置に車両本体(駆動輪と駆動モータを除き、乗員、ストッパ、車体等)の重心を移動させることで、傾斜状態の車両を安定的に停止させる。
【0018】
なお、本実施の形態においては、ストッパの前方端部が接地し、車体が傾斜して停止している状態を乗降停止という。
【0019】
乗降停止状態では、車両本体の重心が駆動輪の接地点の鉛直線上よりも前方に存在する。このため、車両をゆっくり起立させたり、傾斜させたりする場合に、起立や傾斜を制御するためのトルクを車体に作用させると、その反作用で車輪が回転してしまい、車両が前後に移動してしまう。
【0020】
そこで、本実施の形態においては、搭乗部を前後に移動させることにより、車両本体が傾いた状態でも、その重心が駆動輪接地点の鉛直線上にある状態をつくり、その重心が移動しないように、車体傾斜角と搭乗部位置とを制御することによって、車両を移動させることなく(車輪を回転させることなく)起立及び傾斜を実現する。
【0021】
本実施の形態においては、図1(a)及び(f)に示されるように、乗降停止状態において搭乗部13の接地点S1とストッパ17の接地点S2との間に重心Pが位置している。
【0022】
このように、搭乗部13の高さを低く前方に動かすことで、乗り降りが容易になる。
【0023】
この乗降停止状態において、乗員が搭乗した後に起立指令が出されると、図1(a)の矢印A1で示されるように、重心Pが接地点S1を通る鉛直線V上に位置するまで搭乗部13を後方に移動する。
【0024】
搭乗部13の後方移動開始から重心Pが鉛直線V上に移動するまでの間は、接地点S1及びS2の両者が接地しており、かつ、接地点S1と接地点S2との間の上に重心Pが位置しているため、車両本体の傾斜角は変化することはない。
【0025】
重心Pが鉛直線V上に移動したら、図1(b)に示されるように、重心Pが鉛直線V上から移動しないように、搭乗部13を矢印A2で示すように前方に移動させながら、矢印B1で示されるように車両本体を起立させる。図1(c)は起立制御が完了した状態を表している。
【0026】
ここで、搭乗部13の前方移動による重心移動量と車両本体の起立による重心移動量とが互いに相殺するように両者を移動させることで、重心Pの移動をなくしている。
【0027】
一方、乗降停止制御の場合、図1(d)に示されるように、重心Pが鉛直線V上に存在する状態から、重心Pが鉛直線V上から移動しないように、搭乗部13を矢印A3で示すように後方に移動させながら、矢印B2で示されるように車両本体を前方に傾斜させる。
【0028】
そして、ストッパ17の先端部が接地点S2で接地すると、車両は倒立状態から脱して安定的に停止する。その後、車両を乗降停止の初期状態とするため、搭乗部13を前方に移動することで、座面部を下げて降車を容易にする。図1(f)は乗降停止制御が完了した状態を表している。
【0029】
このような制御を行うことにより、次のような効果を得ることができる。
(a)乗降停止状態では、ストッパの前方端部が接地し、駆動輪とストッパ接地点との間に車両本体の重心が存在するので、車両を安定的に停止させることができ、乗員の乗車及び降車を容易にすることができる。
(b)車両が移動することなく、ゆっくりと起立及び傾斜を行うことができるので、起立完了まで、及び、乗降停止までの乗員の不快感をなくすことができる。
(c)起立及び乗降停止を車両の移動なしで行うことができるので、乗車及び降車の際に、前方に広いスペースを確保する必要がない。
【0030】
次に、本実施の形態について詳細に説明する。
【0031】
図2は本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図であり乗員が搭乗した状態で加速前進している状態を示す図である。
【0032】
図に示されるように、車両は、同軸上に配設された2つの駆動輪11a及び11bを備えている。そして、前記駆動輪11a及び11bは、それぞれ、駆動源としての駆動モータ12a及び12bで駆動されるようになっている。なお、駆動輪11a及び11b、並びに、駆動モータ12a及び12bを統括的に説明する場合には、駆動輪11及び駆動モータ12として説明する。
【0033】
駆動輪11及び駆動モータ12の上部には、重量体である荷物や乗員等が搭乗する搭乗部13(シート)が配設されている。
【0034】
該搭乗部13は、乗員が着座する座面部131、背もたれ部132、及び、ヘッドレスト133を有する。前記搭乗部13は、搭乗部移動機構として機能する図示されない移動機構を介して、支持部材14により支持されている。該支持部材14は駆動モータ12が収納されている駆動モータ筐(きょう)体に固定されている。
【0035】
移動機構としては、例えば、リニアガイド装置のような低抵抗の線形移動機構を用い、搭乗部駆動モータの駆動トルクにより、搭乗部13と支持部材14との相対的な位置を変更するようになっている。
【0036】
リニアガイド装置は、支持部材14に固定された案内レールと、搭乗部駆動モータに固定されたスライダと、転動体とを備えている。また、前記案内レールには、その左右側面部に2本の軌道溝が長手方向に沿って直線状に形成されている。
【0037】
スライダの幅方向に沿う断面はコ字状に形成されており、その対向する二つの側面部内側には、2本の軌道溝が、案内レールの軌道溝と各々対向するように形成されている。
【0038】
転動体は、前述した軌道溝の間に組み込まれて、案内レールとスライダとの相対的直線運動に伴って軌道溝内を転動するようになっている。なお、スライダには、軌道溝の両端をつなぐ戻し通路が形成されており、転動体は軌道溝と戻し通路とを循環するようになっている。
【0039】
リニアガイド装置には、該リニアガイド装置の動きを締結するブレーキ(クラッチ)が配設されている。搭乗部13の動作が不要であるときには、このブレーキにより、案内レールにスライダを固定することで、案内レールが固定されている支持部材14と、スライダが固定されている搭乗部13との相対的位置を保持する。そして、動作が必要であるときには、このブレーキを解除し、支持部材14側の基準位置と搭乗部13側の基準位置との距離が所定値となるように制御する。
【0040】
搭乗部13の脇(わき)には入力装置30が配設されている。該入力装置30は、乗員の操作により、車両の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の指示を行うとともに、本実施の形態における起立指示や乗降停止指示を行うためのものである。
【0041】
本実施の形態における入力装置30は、座面部131に固定されているが、有線又は無線で接続されたリモコンにより構成されていてもよい。また、肘(ひじ)掛けを設けその上部に入力装置30を配設するようにしてもよい。
【0042】
また、本実施の形態における車両には、入力装置30が配設されているが、あらかじめ決められた走行指令データに従って自動走行する車両の場合には、入力装置30に代えて走行指令データ取得部が配設される。該走行指令データ取得部は、例えば、半導体メモリ等の各種記憶媒体から走行指令データを取得する読み取り手段、又は/及び、無線通信により外部から走行指令データを取得する通信制御手段を備えていてもよい。ここでは、入力装置30の操作によって入力される操作信号に応じて、加減速等の制御が行われるものとして説明する。
【0043】
搭乗部13と駆動輪11との間には制御ユニット16が配設されている。本実施の形態において、制御ユニット16は、支持部材14に取り付けられている。なお、前記制御ユニット16は、搭乗部13の座面部131の下面に取り付けるようにしてもよい。この場合、制御ユニット16は移動機構によって搭乗部13とともに前後に移動する。
【0044】
支持部材14には、乗降停止状態で、一部が接地することで前記車体の傾斜角を制限する制限機構として機能する、1対のストッパ17が固定されている。該1対のストッパ17は、駆動輪11を挟むように配設されているが、駆動輪11aと駆動輪11bとの間に配設されていてもよい。
【0045】
ストッパ17は、固定される支持部材14の位置から車両の前後方向に延在した湾曲形状をしており、前方端部P1及び後方端部P2が地面に接地することで、車体の傾斜を制限するようになっている。前記ストッパ17は、駆動輪11の回転軸から前方端部P1までの距離と後方端部P2までの距離とが同じであり、車体の直立状態(車体の傾斜角がゼロの状態)においては、地面から前方端部P1までの高さと後方端部P2までの高さとは同じである。
【0046】
本実施の形態においては、前方端部P1が接地した状態において乗降停止であるが、この際の車体傾斜角は、15度に設定されている。この乗降停止時の傾斜角は、車両の最大加速時の車体傾斜角よりも大きければ、任意の角度に設定可能である。
【0047】
また、後方端部P2の接地時における傾斜角も、車両の最大減速時の車体傾斜角よりも大きければ、任意の角度に設定可能である。本実施の形態においては、この傾斜角度も同じ15度に設定されているが、要求される加速度又は減速度に合わせて、両者を異なる値に設定してもよい。
【0048】
駆動輪11の回転軸からストッパ17の前方端部P1までの距離は、前方端部P1が接地した状態において、乗員搭乗時の車両重心、及び、想定される体重、体型を有する乗員搭乗時の車両重心が、ともに駆動輪11の接地点から前方端部P1までの領域(2点間の鉛直上方)に位置するように設計されている。
【0049】
本実施の形態において、車両を構成する各部のうち、駆動輪11と駆動モータ12とを除く部分を車両本体と称する。該車両本体には、搭乗部13、ストッパ17、入力装置30、制御ユニット16、移動機構等が含まれる。また、車両本体は、移動機構により車両前後方向に移動する搭乗部13と、該搭乗部13以外の部分とを備える車体を含む。
【0050】
本実施の形態における車両は、エネルギ源である二次電池としてのバッテリを備えている。該バッテリは、駆動モータ12、搭乗部駆動モータ、制御ECU(Electronic Control Unit)20等に駆動用及び演算用のエネルギである電力を供給する。
【0051】
次に、車両を制御する車両制御装置としての車両制御システムについて説明する。
【0052】
図3は本発明の第1の実施の形態における車両制御システムの構成を示すブロック図である。
【0053】
図に示されるように、車両制御システムは、起立制御手段及び乗降停止制御手段として機能する制御ECU(電子制御装置)20、操縦装置31、起動・降車スイッチ32、角度計(角速度計)41、駆動輪回転角度計51、駆動輪アクチュエータ52(駆動モータ12)、シート駆動モータ回転角度計(位置センサ)71、及び、シート駆動アクチュエータ72(搭乗部駆動モータ)を備える。
【0054】
制御ECU20は、主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22を備え、駆動輪制御、車体制御(倒立制御)等を行い、車両の走行制御、姿勢制御等の制御を行う。また、制御ECU20は、シート制御ECU24を備え、搭乗部13の移動による起立・乗降停止制御を行うようになっている。制御ECU20は、起立・乗降停止制御プログラム等の各種プログラムやデータが格納されたROM、作業領域として使用されるRAM、外部記憶装置、インターフェイス部等を備えたコンピュータシステムである。
【0055】
主制御ECU21には、駆動輪回転角度計51、角度計41、シート駆動モータ回転角度計71、並びに、入力装置30として操縦装置31及び起動・降車スイッチ32が接続されている。
【0056】
操縦装置31は、乗員の操作に基づく走行指令を主制御ECU21に供給する。操縦装置31は、ジョイスティックを備えている。該ジョイスティックは、直立した状態を中立位置とし、前後方向に傾斜させることで加減速を指示し、左右に傾斜させることで左右方向の旋回曲率を指示する。傾斜角度に応じて、要求加減速度及び旋回曲率が大きくなる。
【0057】
起動・降車スイッチ32は、搭乗後の起動指示、及び、降車指示(乗降停止状態への移行指示)を、乗員が車両に対して行うためのスイッチである。起動・降車スイッチ32には、起動指示スイッチ及び降車指示スイッチが配設されている。
【0058】
主制御ECU21は、角度計41とともに、車体制御システム40として機能し、倒立車両の姿勢制御として、車体傾斜状態に基づき、駆動輪11の反トルクで車体の姿勢制御を行う。主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、駆動輪回転角度計51及び駆動輪アクチュエータ52とともに、駆動輪制御システム50として機能する。
【0059】
駆動輪回転角度計51は主制御ECU21に駆動輪11の回転角を供給し、主制御ECU21は駆動輪制御ECU22に駆動トルク指令値を供給し、駆動輪制御ECU22は駆動輪アクチュエータ52に駆動トルク指令値に相当する駆動電圧を供給する。駆動輪アクチュエータ52は、指令値に従って、駆動輪11a及び11bを各々独立して制御するようになっている。
【0060】
また、主制御ECU21は、シート制御ECU24、シート駆動モータ回転角度計71及びシート駆動アクチュエータ72とともに、シート制御システム70として機能する。
【0061】
シート駆動モータ回転角度計71は、主制御ECU21に、シート駆動モータの回転角又はシート位置を供給し、主制御ECU21は、シート制御ECU24に駆動推力指令値を供給し、シート制御ECU24は、シート駆動アクチュエータ72に駆動推力指令値に相当する駆動電圧を供給する。シート駆動アクチュエータ72は、指令値に従って、移動機構(リニアガイド装置)に沿う方向に搭乗部13を位置制御するようになっている。
【0062】
主制御ECU21は、駆動輪トルク決定手段として機能する。また、主制御ECU21は、起立制御手段及び乗降停止制御手段として機能する。
【0063】
次に、前記構成の車両制御システムの動作について説明する。まず、起立・乗降停止制御について説明する。
【0064】
図4は本発明の第1の実施の形態における車両の起立・乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【0065】
まず、主制御ECU21は、起動・降車スイッチ32の信号を取得する(ステップS1)。次に、主制御ECU21は、車体が倒立状態にあるか否かを判断する(ステップS2)。この判断は、例えば、車体傾斜角の計測値に基づいて行われる。
【0066】
そして、車体が倒立状態になく(ステップS2;N)、かつ、起動指示スイッチがON(ステップS3;Y)の場合、主制御ECU21は、後述する起立制御を実行し(ステップS4)、その後メインルーチンにリターンする。起立制御後のメインルーチンでは、通常の姿勢(倒立)制御及び走行制御が実行される。
【0067】
一方、車体が倒立状態であり(ステップS2;Y)、かつ、降車指示スイッチがON(ステップS5;Y)の場合、主制御ECU21は、車両が倒立状態で停止しているか否かについて判断する(ステップS6)。
【0068】
ここで、主制御ECU21は、車両が倒立状態で停止しているか否かの判断条件として、駆動輪11a及び11bの各々の回転速度の絶対値がともに所定の閾(しきい)値以下である場合に「停止」とみなす。例えば、停止するために減速中である場合のように、まだ倒立状態で停止していない場合(ステップS6;N)、主制御ECU21は、メインルーチンにリターンし、停止と判断(ステップS6;Y)するまで倒立姿勢制御を継続する。
【0069】
そして、主制御ECU21は、車両が倒立状態で停止していると判断した場合(ステップS6;Y)、後述する乗降停止制御を実行し(ステップS7)、その後メインルーチンにリターンする。
【0070】
乗降停止制御後のメインルーチンでは、車両の停止状態になるので、その後の起立制御指令やイグニッションキーのオフ(電源オフ指令)の監視など、対応する処理への移行を行う。
【0071】
なお、本実施の形態においては、車体が倒立状態になく、起動指示スイッチがONの場合に起立制御を行うようになっているが、荷重センサなどを搭乗部13の座面部131に配設し、起立制御の指令供給及び乗員の着座検知を条件に起立制御を開始するようにしてもよい。例えば、起立指令が与えられたとしても着座を検知することができない場合には、起立制御を開始しない。また、乗員の起動指示スイッチの操作がなくても、着座の検知のみを条件に起立制御を開始するようにしてもよい。
【0072】
また、車体が倒立停止状態にあり、降車指示スイッチがONである場合に乗降停止制御を行うようになっているが、主制御ECU21が何らかの異常を検出し、車両の姿勢制御を続行することが困難と判断した場合に、強制的に乗降停止制御に移行させるようにしてもよい。
【0073】
次に、前記起立制御について説明する。
【0074】
図5は本発明の第1の実施の形態における起立制御でのシート位置目標値及び車体傾斜角目標値の時間変化を説明する図、図6は本発明の第1の実施の形態における起立制御の動作を示すフローチャートである。
【0075】
なお、以下の説明において、搭乗部13をシートと称することもある。
【0076】
まず、主制御ECU21は、センサから車体傾斜と車輪回転の状態量を取得する(ステップS11)。すなわち、主制御ECU21は、シート駆動モータ回転角度計71から回転角(シート位置λS )を取得し、角度計41から車体傾斜角θ1 (角速度)を取得する。
【0077】
続いて、主制御ECU21は、ステップS11で取得した各状態量に基づいて、シート位置目標値λS * を決定する(ステップS12)。すなわち、主制御ECU21は、次の式(1)及び(2)により、シート位置の目標値λS * を決定する。
r<1のとき:λS * =λS,init(1−r)+λS,nr ・・・式(1)
r≧1のとき:λS * =λS,n ・・・式(2)
前記式(1)及び(2)においては、制御開始からの時間tを所定の時間T1 で無次元化した値(r=t/T1 )で表している。
【0078】
また、λS,initは、本制御開始時のシート位置(シートの初期位置)を表す。
【0079】
λS,n は、後述される式(3)で表されるシートの重心補正位置である。該重心補正位置は、乗員及びシートを含む車両本体の重心Pが、駆動輪11の接地点S1を通る鉛直線V上に位置している状態(図1(b)参照)におけるシートの位置である。
【0080】
T1 は、シート後方移動時間を表し、あらかじめ設定された値が使用される。
【0081】
本実施の形態においては、図5(a)に示されるように、シート後方移動時間T1 の間に、シートの初期位置λS,initから重心補正位置λS,n まで直線的に変化するように、シート目標位置λS * が決定される。
【0082】
ただし、図5(a)において点線で示されるように、初期位置λS,initから移動開始から重心補正位置λS,n までの移動完了前の変化量が、両者間の変化量よりも小さくなるように、シート目標位置λS * を設定するようにしてもよい。これにより、シート移動の加減速に伴う乗員へのショックを軽減することができる。
【0083】
シートの重心補正位置λS,n は、次の式(3)により設定する。ただし、θ1,initは、車体の初期傾斜角(本制御開始時の値)である。また、l1 は車両本体の車軸からの重心距離、mS は搭乗部質量、m1 は車両本体の質量(搭乗部13を含む)である。
λS,n =−l1 (m1 /mS )tanθ1,init ・・・式(3)
次に、主制御ECU21は、シート駆動アクチュエータ72によるシートの駆動推力指令値SS を決定する(ステップS13)。すなわち、主制御ECU21は、決定したシート目標位置λS * を使用して、次の式(4)により、シートの駆動推力指令値SS を決定する。
SS =SS,f −KS7(λS −λS * )−KS8({λS }−{λS * })・・・式(4)
ここで、{x}はXの時間微分を表し、例えば、{λS }はλS の時間微分を表す。なお、以下の説明においても同様の表記を用いることとする。また、λS は、シート駆動モータ回転角度計71で検出される現在のシート位置である。前記λS がステップS11で決定したシート位置目標値λS * と一致するように、フィードバック制御される。さらに、KS7及びKS8は、フィードバックゲインであり、例えば、極配置法によって、あらかじめ設定された値が使用される。さらに、SS,f は、対乾性摩擦用のフィードフォワードトルクを表す設定値であるが、その正負は移動方向に合わせて変化させる(後方移動の場合は、負の値)。なお、SS,f の代わりに、シート位置偏差(λS −λS * )の積分ゲインを与えるようにしてもよい。
【0084】
また、本実施の形態では、前記式(4)を使用するが、該式(4)における第1項及び第3項は、より精度を高めるための項であり、省略することもできる。つまり、
SS =−KS7(λS −λS * ) ・・・式(4’)
とすることもできる。
【0085】
次に、主制御ECU21は、シート制御システム70に決定した駆動推力指令値SS を与える(ステップS14)。すなわち、主制御ECU21は、決定したシートの駆動推力指令値SS をシート制御ECU24に供給し、該シート制御ECU24は、駆動推力指令値SS に対応した駆動電圧をシート駆動アクチュエータ72に供給する。これにより、シートは、シート目標位置λS * に向けて後方に移動する。
【0086】
次に、主制御ECU21は、移動させたシートが重心補正位置に到達したか否かを判断する(ステップS15)。ここで、重心補正位置は、図1(b)に示されるように、車両本体の重心Pが駆動輪11の接地点S1を通る鉛直線V上にあるときのシート位置である。そして、シートが重心補正位置に到達したと判断すると(ステップS15:Y)、主制御ECU21は、ステップS21以降の処理に移行し、車体の起立を開始する。
【0087】
一方、シートが重心補正位置に到達していない場合(ステップS15;N)、主制御ECU21は、車両本体が起き上がり始めているか否かを判断する(ステップS16)。車両本体が起き上がり始めているか否かの判断においては、例えば、車体傾斜角の初期値からの変化量が所定の閾値以上である場合に「起き上がり」と判断する。
【0088】
このように、前記式(3)に従って設定されたシートの重心補正位置λS,n にシートが到達する前(ステップS15;N)に車両本体が起き上がり始めたか否かを判断するのは、前記式(3)によって算出された計算値としての重心補正位置λS,n に対して、パラメータ誤差や外乱により、車体が起き上がり始めてしまう場合があるためである。例えば、実際の乗員重量が想定値と大きく異なっているために車両本体の重心が想定した位置からずれている場合や、風力等の外乱を受けたために起き上がる場合などが該当する。
【0089】
このように、車両本体の起き上がりを検出した場合(ステップS16;Y)、主制御ECU21は、実際の車両本体の重心Pが駆動輪11の接地点S1を通る鉛直線V上に到達している(図1(b)参照)とみなし、即時にシートの後方移動を中止して、ステップS21以降の車体起立へ移行する。
【0090】
シートが重心補正位置λS,n に到達しておらず(ステップS15;N)、車体も起き上がり始めていない場合(ステップS16;N)、主制御ECU21は、ステップS11に戻り、シートを重心補正位置に移動させる動作を繰り返す。
【0091】
以上説明したステップS11からステップS16までの処理が、乗降停止状態(図1(a))で起立制御指令が出されてから、シートを後方に移動させて、車両本体の重心Pが駆動輪11の接地点S1を通る鉛直線V上に到達(図1(b))するまでの処理である。
【0092】
続いて、車両本体の重心Pが駆動輪11の接地点S1を通る鉛直線V上に到達した後(ステップS15;Y、ステップS16;Y)、主制御ECU21は、ステップS21からステップS25までの処理により、車両本体を起立させる。ステップS21からステップS25までの処理が、車両本体の重心Pが重心補正位置(鉛直線V上の位置)に移動してから(図1(b))、車体の起立が完了するまで(図1(c))の処理である。この間の処理では、車両本体の重心位置P及び車両の位置を動かさないように制御される。
【0093】
まず、主制御ECU21は、センサから各状態量を取得する(ステップS21)。すなわち、主制御ECU21は、シート駆動モータ回転角度計71から回転角(シート位置λS )を、角度計41から車体傾斜角θ1 (角速度)を、駆動輪回転角度計51から駆動輪回転角θW を、それぞれ、取得する。
【0094】
次に、主制御ECU21は、シート位置の目標値λS * 及び車体傾斜角の目標値θ1 * を決定する(ステップS22)。すなわち、主制御ECU21は、次の式(5)及び(6)によりシート位置の目標値λS * を決定する。
r<1のとき:λS * =λS,init2 (1−r) ・・・式(5)
r≧1のとき:λS * =0 (r≧1) ・・・式(6)
さらに、主制御ECU21は、決定した目標値λS * を使用して、次の式(7)により、車体傾斜角の目標値θ1 * を決定する。
θ1 * =−tan-1(mS λS * /m1 l1 ) ・・・式(7)
前記式(5)及び(6)において、rは、本制御ループ(ステップS21〜ステップS25)開始からの時間tを、所定の時間T2 で無次元化した値(r=t/T2 )を表している。また、λS,init2 は、同開始時のシート位置(シートの初期位置)を表す。
【0095】
さらに、T2 は、シート前方移動時間を表し、あらかじめ設定された設定値である。本実施の形態においては、図5(b)に示されるように、シート前方移動時間T2 の間に、シートの初期位置λS,init2 からλS * =0のシート基準位置(車両倒立時に車両本体の重心Pが駆動輪11の接地点S1を通る鉛直線V上にあるようなシートの位置)まで直線的に変化するように、シート目標位置λS * が決定される。また、図5(c)に示されるように、シート前方移動時間T2 の間に、車体傾斜角の目標値θ1 * からθ1 * =0の直立姿勢まで、前記式(7)で示される曲線に沿って変化するように、車体傾斜目標値θ1 * が決定される。
【0096】
ただし、図5(b)及び(c)において点線で示されるように、初期位置から移動開始の際と、移動完了前の変化量が、両者間の変化量よりも小さくなるように、シート目標位置λS * 及び車体傾斜目標位置θ1 * を設定するようにしてもよい。これにより、シート移動及び車体起立の加減速に伴う乗員へのショックを軽減することができる。
【0097】
次に、主制御ECU21は、各アクチュエータの指令値SS 及びτW を決定する(ステップS23)。すなわち、主制御ECU21は、決定したシート位置の目標値λS * 及び車体傾斜角の目標値θ1 * から、次の式(8)によりシートの駆動推力指令値SS を決定し、次の式(9)により駆動輪のトルク指令値τW を決定する。
SS =SS,f KS7(λS −λS * )−KS8({λS }−{λS * }) ・・・式(8)
τW =−KW2{θW }+KW3(θ1 −θ1 * )+KW4({θ1 }−{θ1 * })
・・・式(9) ただし、KW2、KW3、KW4、KS7及びKS8はフィードバックゲインであり、例えば、極配置法によって、あらかじめ設定された値である。
【0098】
なお、前記式(9)によるフィードバック制御において、シートの位置及び速度を考慮するようにしてもよい。
【0099】
また、前記式(8)において、対乾性摩擦用のフィードフォワードトルクSS,f の代わりに、積分ゲインを与えるようにしてもよい。
【0100】
次に、主制御ECU21は、各制御システムに指令値SS 及びτW を与える(ステップS24)。すなわち、主制御ECU21は、シート制御ECU24及び駆動輪制御ECU22に、決定した指令値SS 及びτW をそれぞれ供給する。
【0101】
そして、駆動輪制御ECU22は、指令値τW に対応する駆動電圧を駆動輪アクチュエータ52に供給することで、駆動輪11に駆動トルクτW を与える。また、シート制御ECU24は、指令値SS に対応した駆動電圧をシート駆動アクチュエータ72に供給することで、シートを前方に移動させる。すると、駆動輪11からの駆動トルクτW によって、車両本体は徐々に傾斜角θを小さくしながら起立し、起立による重心移動量は、シートの前方移動により打ち消される。このため、車両が前後に移動することなく、起立動作が行われる。
【0102】
次に、主制御ECU21は、起立が完了し倒立状態となっているか否かを判断する(ステップS25)。この場合、主制御ECU21は、例えば、車体傾斜角(絶対値)が所定の閾値以下であるときに「倒立(=起立完了)」と判断する。そして、車両本体が倒立状態に至っていない場合(ステップS25;N)、主制御ECU21は、ステップS21に戻り、起立制御を続行する。
【0103】
一方、起立状態に至っている場合(ステップS25;Y)、主制御ECU21は起立制御処理を終了する。そして、主制御ECU21は、以後、倒立状態における車両の姿勢(倒立)制御及び走行制御を実行する。
【0104】
次に、前記乗降停止制御について説明する。
【0105】
図7は本発明の第1の実施の形態における乗降停止制御でのシート位置目標値及び車体傾斜角目標値の時間変化を説明する図、図8は本発明の第1の実施の形態における乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【0106】
図8に示されるフローチャートにおいて、ステップS31からステップS36までの処理が、倒立状態(図1(d))から、車両本体の重心Pを移動させることなく、かつ、車両を前後に移動させることなく、ストッパ17の前方端部P1を接地点S2に接地させる処理、すなわち、乗降停止状態(図1(f))までの処理である。
【0107】
また、ステップS41からステップS45までの処理が、乗降停止状態で乗員の降車を補助するために、シートを最前方位置(乗降補助位置)に移動させる処理である。
【0108】
まず、主制御ECU21は、センサから各状態量を取得する(ステップS31)。すなわち、主制御ECU21は、シート駆動モータ回転角度計71から回転角(シート位置λS )を取得し、角度計41から車体傾斜角θ1 (角速度)を取得し、駆動輪回転角度計51から駆動輪回転角θW を取得する。
【0109】
次に、主制御ECU21は、シート位置の目標値λS * 及び車体傾斜角の目標値θ1 * を決定する(ステップS32)。すなわち、主制御ECU21は、次の式(10)及び(11)によりシート位置の目標値λS * を決定する。また、決定したシート位置の目標値λS * を使用して、次の式(12)により車体傾斜角の目標値θ1 * を決定する。
λS * =λS,n r ・・・式(10)
λS,n =−l1 (m1 /mS )tanθ1,F ・・・式(11)
θ1 * =−tan-1(mS {λS * }/m1 l1 ) ・・・式(12)
前記式(10)において、rは、本制御ループ(ステップS31〜ステップS36)開始からの時間tを所定の時間T2 で無次元化した値(r=t/T2 )を表す。なお、T2 は、シート後方移動時間を表し、あらかじめ設定された値が使用される。
【0110】
また、λS,n はシートの重心補正位置であり、前記式(11)により算出される。重心補正位置は、車体接地時(乗降停止状態)において、車両本体の重心Pが駆動輪の接地点S1を通る鉛直線V上にあるときのシートの位置である。
【0111】
さらに、前記式(11)において、θ1,F は、ストッパ17の前方端部P1が接地点S2に接地した状態、すなわち、乗降停止状態における車両本体の傾斜角(車体接地傾斜角)を表し、あらかじめ設定した値を使用する。ただし、前述した起立制御の際に、車体が起立する直前の値(乗降停止状態における値)を記憶しておき、該値を使用するようにしてもよい。
【0112】
また、前記式(10)及び(11)により、シート後方移動時間T2 に対して、図7(a)及び(b)において実線で表されるようなシート位置の目標値λS * 及び車体傾斜角の目標値θ1 * が設定される。なお、図7(a)及び(b)における点線で示されるように動作を設定することにより、シート移動及び車体傾斜の加減速に伴う乗員へのショックを軽減するようにしてもよい。
【0113】
次に、主制御ECU21は、各アクチュエータの指令値SS 及びτW を決定する(ステップS33)。すなわち主制御ECU21は、前記式(10)〜(12)によって決定したシート位置の目標値λS * 及び車体傾斜角の目標値θ1 * から、次の式(13)によりシートの駆動推力指令値SS を決定し、次の式(14)により駆動輪のトルク指令値τW を決定する。
SS =SS,f −KS7(λS −λS * )−KS8({λS }−{λS * })・・・式(13)
τW =−KW2{θW }+KW3(θ1 −θ1 * )+KW4({θ1 }−{θ1 * })
・・・式(14)
ただし、KW2、KW3、KW4、KS7及びKS8はフィードバックゲインであり、例えば、極配置法によって、あらかじめ設定された値である。
【0114】
なお、前記式(14)によるフィードバック制御において、シートの位置及び速度を考慮するようにしてもよい。
【0115】
また、前記式(13)において、対乾性摩擦用のフィードフォワードトルクSS,f の代わりに、積分ゲインを与えるようにしてもよい。
【0116】
次に、主制御ECU21は、各制御システムに指令値SS 及びτW を与える(ステップS34)。すなわち、主制御ECU21は、シート制御ECU24及び駆動輪制御ECU22に、決定した指令値SS 及びτW をそれぞれ供給する。
【0117】
そして、駆動輪制御ECU22は、指令値τW に対応する駆動電圧を駆動輪アクチュエータ52に供給することで、駆動輪11に駆動トルクτW を与える。また、シート制御ECU24は、指令値SS に対応した駆動電圧をシート駆動アクチュエータ72に供給することで、シートを後方に移動させる。すると、駆動輪11からの駆動トルクτW によって、車両本体は徐々に傾斜角θを大きくしながら傾斜し、車両本体傾斜による重心移動量は、シートの後方移動により打ち消される。このため、車両が前後に移動することなく、前方傾斜の動作が行われる。
【0118】
次に、主制御ECU21は、シートが重心補正位置、すなわち、車体接地状態(乗降停止状態)における車両本体の重心Pが駆動輪の接地点S1を通る鉛直線V上にあるときのシート位置に到達したか否かを判断する(ステップS35)。そして、シートが重心補正位置に到達していなければ(ステップS35;N)、主制御ECU21は、ステップS31に戻ってシートの後方移動及び車両本体の前傾を続ける。
【0119】
一方、シートが重心補正位置に到達していると(ステップS35;Y)、主制御ECU21は、実際に車両本体が接地しているか否か、すなわち、ストッパ17の前方端部P1が接地点S2に接地しているか否かを判断する(ステップS36)。この場合、主制御ECU21は、例えば、車体傾斜角が所定の閾値以上であるとき「接地(=傾斜完了)」と判断する。
【0120】
そして、車両本体が接地していない場合(ステップS36;N)には、シートは計算上の重心補正位置に移動しているが、起立制御と同様に、パラメータ誤差や外乱等が原因で、車両本体の重心Pが実際には重心補正位置に到達していないことが想定される。そこで、主制御ECU21は、ステップS31に戻って、引き続きシートの後方移動及び車両本体の前傾を行う。
【0121】
以上説明したステップS31からステップS36までの倒立状態から乗降停止状態に到るまでの処理が完了すると、主制御ECU21は、ステップS41からステップS45までの降車補助の処理を行う。
【0122】
そして、主制御ECU21は、シート駆動モータ回転角度計71から、現在のシート位置(回転角)λS を取得する(ステップS41)。
【0123】
次に、主制御ECU21は、シート位置の目標値λS * を、次の式(15)及び(16)から決定する(ステップS42)。
r<1のとき:λS * =λS,init1 (1−r)+λS,end r ・・・式(15)
r≧1のとき:λS * =λS,end ・・・式(16)
前記式(15)及び(16)において、rは、シート移動開始からの時間tを所定の時間T1 で無次元化した値(r=t/T1 )を表している。また、λS,init1 は、同開始時のシート位置(シートの初期位置)を表す。
【0124】
さらに、λS,end は、次の式(17)で算出されるシートの乗降補助位置である。該乗降補助位置は、乗員が乗り降りを行うときのシートの設定位置であり、本実施の形態においては、駆動輪11の接地点S1とストッパ17の接地点S2(図1参照)から等距離の点に車両本体の重心Pが位置するような位置に設定されている。
λS,end =(d/2)(M/mS )−l1 (m1 /mS )tanθ1,init1
・・・式(17)
なお、本実施の形態における乗降補助位置は、乗員乗降時の車体安定性を最優先させたシート位置として前述のように設定されているが、乗員の乗り降りの容易さを重視して、乗降補助位置(シート位置)をより前方(ストッパ17の接地点S2側)に移動させるようにしてもよい。また、搭乗から起立まで、又は、傾斜から降車までの時間を短くするために、乗降補助位置をより後方(駆動輪11の接地点S1側)とすることによって、シート移動量を少なくしてもよい。
【0125】
また、T1 は、シート前方移動時間を表し、あらかじめ設定された値が使用される。本実施の形態において、図7(c)に示されるように、シート前方移動時間T1 の間に、シートの初期位置λS,init1 から乗降補助位置λS,end まで直線的に変化するように、シート目標位置λS * が決定される。ただし、図8(c)における点線で示されるように、初期位置λS,init1 から移動開始直後及び乗降補助位置λS,end までの移動完了直前における変化量が、両者間での変化量よりも小さくなるように、シート目標位置λS * を設定するようにしてもよい。これにより、シート移動の加減速に伴う乗員へのショックを軽減することができる。
【0126】
なお、前記式(17)において、dは車両本体の中心面(車両本体の重心と駆動輪11の車軸を通る平面)からストッパ17の前方端部P1の接地点S2までの距離であり、Mは車両全重量であり、θ1,init1 は車体傾斜角である。また、l1 は車両本体の車軸からの重心距離であり、mS は搭乗部質量であり、m1 は車両本体の質量(搭乗部を含む)である。
【0127】
次に、主制御ECU21は、シート駆動アクチュエータ72によるシートの駆動推力指令値SS を決定する(ステップS43)。すなわち、主制御ECU21は、決定したシート目標位置λS * を使用して、次の式(18)により、シートの駆動推力指令値SS を決定する。
SS =SS,f −KS7(λS −λS * )−KS8({λS }−{λS * })・・・式(18)
ただし、KS7及びKS8はフィードバックゲインであり、例えば、極配置法よって、あらかじめ設定された値である。また、SS,f は、対乾性摩擦用のフィードフォワードトルクを表す設定値であるが、その正負は移動方向に合わせて変化させる(後方移動の場合は、負の値)。なお、SS,f の代わりに、積分ゲインを与えるようにしてもよい。
【0128】
次に、主制御ECU21は、シート制御システム70に決定した推力指令値SS を与える(ステップS44)。すなわち、主制御ECU21は、決定したシートの駆動推力指令値SS をシート制御ECU24に供給し、該シート制御ECU24は、駆動推力指令値SS に対応した駆動電圧をシート駆動アクチュエータ72に供給する。これにより、シートは、シート目標位置λS * に向けて前方に移動する。
【0129】
次に、主制御ECU21は、移動させたシートが乗降補助位置に到達したか否かを判断する(ステップS45)。そして、到達していない場合(ステップS45;N)、主制御ECU21は、ステップS41に戻り、シートの前方移動を継続する。
【0130】
一方、シートが乗降補助位置に到達している場合(ステップS45;Y)、主制御ECU21は、シートの移動を終了し、乗降停止制御を終了する。
【0131】
なお、本実施の形態においては、シートが乗降補助位置に到達した場合にシート移動を終了するが、さらに、乗員が降車スイッチをオフに切り換えた場合にもシート移動を終了するようにしてもよい。
【0132】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0133】
図9は本発明の第2の実施の形態における車両制御システムの構成を示すブロック図である。
【0134】
本実施の形態において、搭乗部13(乗員及びシート)の質量を計測し、その計測値に応じて、制御パラメータを補正することによって、起立制御及び乗降停止制御をより安定的に行うようになっている。
【0135】
図に示されるように、本実施の形態における車両制御システムは、シート制御システム70の一部としてシート荷重計73を備え、搭乗部荷重(垂直荷重)WS を検出して、主制御ECU21に供給する。
【0136】
本実施の形態においては、搭乗部質量を荷重計を使って評価するようになっているが、より簡易なシステムによって、段階的に質量を評価するような離散的な測定方法を用いて評価してもよい。また、乗員自身が質量(体重)を入力するようにし、その入力値を使用するようにしてもよい。
【0137】
なお、その他の点の構成については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0138】
次に、本実施の形態における車両制御システムの動作について説明する。ここでは、起立制御及び乗降停止制御についてのみ説明する。まず、起立制御について説明する。
【0139】
図10は本発明の第2の実施の形態における起立制御の動作を示すフローチャートである。
【0140】
まず、主制御ECU21は、シート荷重計73から、シートに作用する垂直荷重(搭乗部荷重WS )を取得し(ステップS51) 搭乗部質量mS を次の式(19)により決定する(ステップS52)。
mS =mS,O +WS /gcosθ1 ・・・式(19)
ただし、mS,O は搭乗部質量の非変動分(乗員の有無に依らない質量;例えば、シート等)であり、WS はステップS51で取得した搭乗部荷重(垂直力)であり、gは重力加速度であり、θ1 は車体傾斜角である。
【0141】
ここで、搭乗部質量mS は、シート制御システムによって動かすことが可能な部分の質量であり、乗員だけでなく、荷物などを積載した場合にはその積載物の質量を含む。
【0142】
なお、本実施の形態において、垂直荷重(座面に垂直な成分)を計測する荷重計を使用しているが、水平成分も計測することができる荷重計を用いてもよい。この場合、車体傾斜角θ1 の値を用いることなく、搭乗部質量mS を決定することができる。
【0143】
また、前記式(19)によって求められる搭乗部質量mS に対して、ローパスフィルタをかけて、高周波成分を取り除くようにしてもよい。これにより、ノイズに起因する車体やシートの振動をなくすことができる。
【0144】
さらに、車両本体の質量m1 については、搭乗部質量の標準値(想定に基づいてあらかじめ設定した値)との差を加えておく。また、初期(起立制御の開始時)においては、車体傾斜角θ1 として、設計値、又は、前回の乗降停止制御終了時に記憶した値を使用する。
【0145】
なお、本実施の形態においては、車体質量m1 についてのみ、搭乗部質量変動の影響を考慮しているが、車体の重心距離l1 についても、搭乗部質量変動の影響を考慮して、補正するようにしてもよい。また、本実施の形態においては、搭乗部質量変動が直接影響するパラメータのみを修正しているが、例えば、フィードバックゲインについても、その影響を考慮して、修正してもよい。また、例えば、前記式(4)、(8)、(13)及び(18)におけるフィードバックゲインKS7について、次の式(20)に従って修正するようにしてもよい。なお、記号[x]はxの標準値を表す。
KS7=(mS /[mS ])[KS7] ・・・式(20)
そして、前記式(19)によって搭乗部質量mS を決定すると、主制御ECU21は、ステップS53からステップS58までの処理を実行する。なお、ステップS53からステップS58までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS11からステップS16までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0146】
ただし、重心補正位置λS,n を決定する前記式(3)においては、ステップS52で決定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0147】
続いて、車両本体の重心Pが駆動輪の接地点S1を通る鉛直線V上に移動すると、主制御ECU21は、ステップS51及びS52の場合と同様に、シート荷重計73から、シートに作用する垂直荷重(搭乗部荷重Ws)を取得し(ステップS59)、搭乗部質量mS を前記式(19)によって決定する(ステップS60)。
【0148】
そして、前記式(19)によって搭乗部質量mS を決定すると、主制御ECU21は、ステップS61からステップS65までの処理を実行する。なお、ステップS61からステップS65までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS21からステップS25までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0149】
ただし、車体傾斜角目標値θ1 * を決定する前記式(7)においては、ステップS60で決定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0150】
次に、乗降停止制御について説明する。
【0151】
図11は本発明の第2の実施の形態における乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【0152】
まず、主制御ECU21は、ステップS51及びS52の場合と同様に、シート荷重計73から、シートに作用する垂直荷重(搭乗部荷重WS )を取得し(ステップS71)、搭乗部質量mS を前記式(19)により決定する(ステップS72)。
【0153】
そして、前記式(19)によって搭乗部質量mS を決定すると、主制御ECU21は、ステップS73からステップS78までの処理を実行する。なお、ステップS73からステップS78までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS31からステップS36までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0154】
ただし、重心補正位置λS,n を決定する前記式(11)及び車体傾斜角目標値θ1 * を決定する前記式(12)においては、ステップS72で決定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0155】
そして、ステップS71からステップS78までの倒立状態から乗降停止状態に到るまでの処理が完了すると、続いて、主制御ECU21は、ステップS71及びS72の場合と同様に、シート荷重計73から、シートに作用する垂直荷重(搭乗部荷重WS )を取得し(ステップS79)、搭乗部質量mS を前記式(19)により決定する(ステップS80)。
【0156】
前記式(19)によって搭乗部質量mS を決定すると、主制御ECU21は、ステップS81からステップS85までの処理を実行する。なお、ステップS81からステップS85までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS41からステップS45までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0157】
ただし、乗降補助位置λS,end を決定する前記式(17)においては、ステップS80で決定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0158】
なお、本実施の形態においては、起立制御及び乗降停止制御の途中で搭乗部質量が変化した場合に対応するために、制御内で毎回搭乗部荷重を取得する例について説明したが、制御を開始する前に、1度だけ荷重を計測するようにしてもよい。この場合、制御中の質量変化には対応することができないが、制御の安定性を向上させることができる。
【0159】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0160】
図12は本発明の第3の実施の形態における起立制御の動作を示すフローチャートである。
【0161】
前記第2の実施の形態においては、搭乗部質量mS (及び、車体質量m1 )の値をシート荷重計73による実測値に基づき、前記式(19)によって算出する例について説明したが、本実施の形態においては、搭乗部質量を推定し、その推定値に応じて制御パラメータを補正するようになっている。なお、前記搭乗部質量は、例えば、状態オブザーバによって推定することができる。また、本実施の形態における車両制御システムは、図3に示されるような前記第1の実施の形態における車両制御システムと同様である。
【0162】
まず、起立制御の動作について説明する。
【0163】
起立制御が開始されると、主制御ECU21は、まず、搭乗部質量を推定する(ステップS91)。この場合、主制御ECU21は、シート移動の状態から、シート移動モデルを示す次の式(21)により、搭乗部質量mS を推定する。
mS =(−SS ±SS,f0+Cs{λS })/gsinθ1 ・・・式(21)
ただし、SS,f0は乾性摩擦であり、あらかじめ設定された値である。また、gは重力加速度であり、Csはシート移動に対する粘性摩擦係数である。なお、起立制御の開始時には、オブザーバの初期値として搭乗部質量にあらかじめ定められた標準値を与える。
【0164】
前記式(21)によれば、例えば、一定のシート移動速度{λS }において、シート移動に要する推力SS が大きいほど、大きな搭乗部質量mS が推定される。
【0165】
なお、前記式(21)によって示されるシート移動モデルでは、慣性を考慮しておらず、また、乾性摩擦も重量に依存しない一定値としているが、それらを厳密に考慮した、より詳細なモデルを用いて搭乗部質量mS を推定してもよい。さらに、前記式(21)によって求まる搭乗部質量mS に対して、ローパスフィルタをかけて、高周波成分を取り除くようにしてもよい。これにより、オブザーバを安定化させるとともに、ノイズに起因する車体やシートの振動をなくすことができる。
【0166】
そして、前記式(21)によって搭乗部質量mS を推定すると、主制御ECU21は、ステップS92からステップS97までの処理を実行する。なお、ステップS92からステップS97までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS11からステップS16までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0167】
ただし、重心補正位置λS,n を決定する前記式(3)においては、ステップS91で推定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0168】
そして、車両本体の重心Pが駆動輪11の接地点S1を通る鉛直線V上に移動すると、主制御ECU21は、再び搭乗部質量mS を推定する(ステップS98)。すなわち、主制御ECU21は、車体傾斜の状態(θ1 )から、車体傾斜モデルを示す次の式(22)により、搭乗部質量mS を推定する。
mS =((τW /g)−mC l1 sinθ1 )/(l1 sinθ1 +λS cosθ1 )
・・・式(22)
ただし、mC は車体重量の非変動分であり、[m1 ]−[mS ]で表される。なお、記号[x]はxの標準値を表す。また、なお、ステップS98からステップS103の制御の開始時には、オブザーバの初期値として搭乗部質量にあらかじめ定められた標準値を与える。
【0169】
前記式(22)によれば、例えば、一定の車体傾斜角θ1 及びシート位置λS において、車体起立に要するトルクτW が大きいほど、大きな搭乗部質量mS が推定される。
【0170】
なお、前記式(22)によって示される車体傾斜モデルでは、慣性や摩擦を考慮していないが、これらを厳密に考慮した、より詳細なモデルを用いて搭乗部質量mS を推定してもよい。また、駆動輪の回転など、別の力学系から推定してもよい。さらに、前記式(22)によって求まる搭乗部質量mS に対して、ローパスフィルタをかけて、高周波成分を取り除くようにしてもよい。これにより、オブザーバを安定化させるとともに、ノイズに起因する車体やシートの振動を抑制することができる。
【0171】
そして、前記式(22)によって搭乗部質量mS を推定すると、主制御ECU21は、S99からステップS103までの処理を実行する。なお、ステップS99からステップS103までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS21からステップS25までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0172】
ただし、車体傾斜角目標値θ1 * を決定する前記式(7)においては、ステップS98で推定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0173】
次に、乗降停止制御について説明する。
【0174】
図13は本発明の第3の実施の形態における乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【0175】
まず、主制御ECU21は、搭乗部質量を推定する(ステップS111)。この場合、主制御ECU21は、起立制御において車体傾斜モデルを示す前記式(22)により、搭乗部質量mS を推定する。
【0176】
続いて、主制御ECU21は、ステップS112からステップS117までの処理を実行する。なお、ステップS112からステップS117までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS31からステップS36までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0177】
ただし、重心補正位置λS,n を決定する前記式(11)及び車体傾斜角目標値θ1 * を決定する前記式(12)においては、ステップS111で推定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0178】
そして、ステップS111からステップS117までの倒立状態から乗降停止状態に到るまでの処理が完了すると、続いて、主制御ECU21は、搭乗部質量mS を推定する(ステップS118)。この場合、主制御ECU21は、前記式(21)により、搭乗部質量mS を推定する。
【0179】
続いて、主制御ECU21は、ステップS119からステップS123までの処理を実行する。なお、ステップS119からステップS123までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS41からステップS45までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0180】
ただし、乗降補助位置λS,end を決定する前記式(17)においては、ステップS118で推定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0181】
このように、本実施の形態における起立制御及び乗降停止制御については、制御ループと同じループ内(同じ周期)で搭乗部質量mS の推定を行っているが、別のループ(周期)で推定を行ってもよい。例えば、計算量が多い場合には、推定計算の周期を大きくしてもよい。
【0182】
また、本実施の形態においては、力学的モデルに基づくオブザーバによって、搭乗部質量mS を推定しているが、より簡単な方法を用いてもよい。例えば、前記式(21)に代えて、シートを動かすのに最低減必要な推力とそのときの搭乗部質量mS との関係を計測した結果を、あらかじめマップとして記憶しておき、該マップを用いて推定を行ってもよい。
【0183】
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第3の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0184】
図14は本発明の第4の実施の形態における車両制御システムの構成を示すブロック図、図15は本発明の第4の実施の形態におけるバッテリの放電特性を示す図、図16は本発明の第4の実施の形態におけるバッテリの端子電圧の変化を示す図である。
【0185】
本実施の形態において、車両制御装置としての車両制御システムは、乗員重量、及び、エネルギ残量としてのバッテリの充電量に応じて、駆動源としての駆動モータ12の起動制御を行うようになっている。そのため、図14に示されるように、車両制御システムは、バッテリ情報取得装置91及び位置測定システム80を有する。
【0186】
前記バッテリ情報取得装置91は、具体的には、バッテリの端子電圧を取得する電圧計等を含む装置であり、端子電圧に基づいてバッテリの充電量を示すSOC(State of Charge:充電状態)を把握することができる。
【0187】
また、前記位置測定システム80は、GPS(Global Positioning System)センサ等のように車両の現在位置を測定する現在位置取得装置81、乗員が操作して目的地等の情報を入力する地図情報入力装置82、及び、各種情報を記憶する記憶装置83を備える。そして、該記憶装置83は、一般の自動車等に搭載されている車両用ナビゲーション装置が備えるものと同様の地図データを記憶する地図データ記憶部83aと、自宅等のようにあらかじめ登録された登録地点の情報を記憶する登録地点記憶部83bとを含んでいる。
【0188】
前記現在位置取得装置81は、例えば、人工衛星(GPS衛星)から送信された電波を受信することによって地球上における車両の現在位置を測定する。また、前記地図データ記憶部83aは、道路の幅員、勾(こう)配、カント、高度、バンク、路面の状態等を含む地図データや、経路探索に必要なリンクデータ、ノードデータ等の探索データを記憶する。そのため、地図データ記憶部83aを参照することによって、現在位置取得装置81により測定された車両の現在位置から入力された目的地までの経路を探索し、前記目的地までの距離等を算出することができる。
【0189】
また、車両制御システムは、一般の自動車等に搭載されている車両用ナビゲーション装置が備える表示装置及び音声出力装置と同様の図示されない表示装置及び音声出力装置を有することが望ましい。この場合、探索された目的地までの経路は、前記表示装置に表示されるとともに、音声出力装置から音声ガイダンスが出力されることによって案内される。さらに、前記表示装置が、タッチパネルのような入力機能を兼ね備えるものである場合には、前記地図情報入力装置82としても機能する。この場合、乗員は、前記表示装置の画面に表示された地図上の地点にタッチすることによって、目的地等の情報を容易に入力することができる。なお、目的地が自宅等のような登録地点である場合には、登録地点をリスト表示させ、リスト表示された登録地点の中から選択するだけで目的地を入力することができる。
【0190】
そして、主制御ECU21は、シート荷重計73が取得した搭乗部荷重、及び、バッテリ情報取得装置91が取得したバッテリの端子電圧に基づいて走行可能距離を算出する。なお、搭乗部荷重の変動部分は乗員重量であるから、走行可能距離の算出に必要な搭乗部荷重は実質的に乗員重量である。また、主制御ECU21が備える図示されない半導体メモリ等の記憶手段には、乗員重量、バッテリの端子電圧及び走行可能距離の相互関係を示すデータがマップの形式であらかじめ記憶されている。
【0191】
図15は、バッテリの放電特性を示す図であり、具体的には、市販されている定格負荷電流が30〔A〕のリチウムイオン電池の放電特性を示す図である。なお、縦軸はバッテリの端子電圧〔V〕を示し、横軸はバッテリの放電時間〔分〕を示している。また、曲線αは負荷電流が定格負荷電流の50〔%〕である場合の放電特性を示し、曲線βは負荷電流が定格負荷電流の100〔%〕である場合の放電特性を示し、曲線γは負荷電流が定格負荷電流の200〔%〕である場合の放電特性を示し、曲線δは負荷電流が定格負荷電流の400〔%〕の電流を出力した場合の放電特性を示している。
【0192】
図15に示される曲線α〜δから、負荷電流が大きくなるほど放電時間が短くなることが分かる。一方、搭乗部質量mS が大きくなるほど、駆動モータ12の負荷が大きくなり、バッテリから駆動モータ12に供給する電流を大きくしなければならないのであるから、乗員重量が増加するほどバッテリの負荷電流が大きくなる。したがって、バッテリの充電量が同一であれば、すなわち、端子電圧が同一であれば、バッテリから供給される電流によって駆動モータ12を駆動することにより車両が走行可能な距離は、乗員重量が増加するほど短くなる。
【0193】
よって、図16に示されるようなバッテリの端子電圧と車両の走行可能距離との関係を得ることができる。なお、縦軸はバッテリの端子電圧〔V〕を示し、横軸は車両の走行可能距離〔km〕を示している。また、各曲線は、乗員重量が40〔kg〕、60〔kg〕、80〔kg〕及び120〔kg〕の場合を示している。図16から、バッテリの端子電圧及び乗員重量に基づいて車両の走行可能距離を算出可能であることが分かる。
【0194】
そして、主制御ECU21が備える記憶手段には、図16に示されるようなバッテリの端子電圧、乗員重量及び車両の走行可能距離の相互関係を示すマップがあらかじめ記憶されているので、主制御ECU21は、バッテリ情報取得装置91が取得したバッテリの端子電圧と、シート荷重計73が取得した搭乗部荷重に含まれる乗員重量とに基づいて、車両の走行可能距離を算出することができる。
【0195】
なお、その他の点の構成については、前記第1〜第3の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0196】
次に、本実施の形態における車両制御システムの動作について説明する。ここでは、車両を起動する場合の動作についてのみ説明する。
【0197】
図17は本発明の第4の実施の形態における車両制御システムの動作を示すフローチャートである。
【0198】
まず、乗員が起動・降車スイッチ32の起動指示スイッチをONにすると、車両の電源がONとなり、主制御ECU21は、乗員が乗車したことを検出する(ステップS131)。
【0199】
続いて、シート荷重計73が搭乗部荷重を検出し、これにより、乗員の体重、すなわち、乗員重量の検出が行われ(ステップS132)、主制御ECU21はシート荷重計73から乗員重量を取得する。なお、該乗員重量の取得は、前記第2及び第3の実施の形態において説明した起立制御の動作と同様にして取得することができる。また、バッテリ情報取得装置91がバッテリの端子電圧を検出し(ステップS133)、主制御ECU21はバッテリ情報取得装置91からバッテリの端子電圧を取得する。
【0200】
続いて、主制御ECU21は、走行可能距離X〔km〕を算出する(ステップS134)。この場合、主制御ECU21は、記憶手段にあらかじめ格納されているバッテリの端子電圧、乗員重量及び車両の走行可能距離の相互関係を示すマップに従い、取得した乗員重量及びバッテリの端子電圧の値から走行可能距離X〔km〕を算出する。さらに、位置測定システム80が車両の現在位置を測定し、主制御ECU21は位置測定システム80から車両の現在位置を取得する(ステップS135)。
【0201】
続いて、主制御ECU21は、乗員が地図情報入力装置82を操作して目的地を入力したか否かを判断する(ステップS136)。そして、目的地を入力した場合、主制御ECU21は、車両の現在位置から目的地までの距離Y〔km〕を算出する(ステップS137)。この場合、主制御ECU21は、現在位置取得装置81が測定した車両の現在位置から目的地までの経路を探索し、探索された経路に沿った車両の現在位置から目的地までの距離を算出する。なお、経路の探索及び距離の算出は、一般の車両用ナビゲーション装置と同様の方法によって行われるので、その説明は省略する。
【0202】
続いて、主制御ECU21は、走行可能距離X〔km〕が現在位置から目的地までの距離Y〔km〕より長いか否かを判断する(ステップS138)。そして、走行可能距離X〔km〕が現在位置から目的地までの距離Y〔km〕より長い場合には現在のバッテリの充電量で目的地に到達することが可能なので、主制御ECU21は、車両を起動し(ステップS139)、処理を終了する。
【0203】
一方、乗員が目的地を入力したか否かを判断し、目的地を入力しなかった場合、主制御ECU21は、走行可能距離X〔km〕が必要走行距離である5〔km〕より長いか否かを判断する(ステップS140)。なお、前記必要走行距離は、最小限の走行可能距離であるが、必ずしも5〔km〕である必要はなく、任意に設定することができる。そして、走行可能距離X〔km〕が5〔km〕より長い場合には現在のバッテリの充電量で必要走行距離を走行することが可能なので、主制御ECU21は、車両を起動して処理を終了する。
【0204】
また、走行可能距離X〔km〕が5〔km〕より長くない場合には現在のバッテリの充電量で必要走行距離を走行することが不可能なので、主制御ECU21は、車両を起動せずに、充電要求を行い(ステップS141)、例えば、表示装置にバッテリの充電を促すメッセージを表示したり、音声出力装置からバッテリの充電を促す音声ガイダンスを出力したりすることによって、乗員に対しバッテリの充電を要求する。なお、走行可能距離X〔km〕が現在位置から目的地までの距離Y〔km〕より長いか否かを判断して長くない場合にも、主制御ECU21は、車両を起動せずに、充電要求を行う。
【0205】
そして、バッテリの充電が行われると(ステップS142)、主制御ECU21は、ステップS131に戻り、乗員が乗車したことを検出し、以降の動作を繰り返す。
【0206】
なお、その他の点の動作については、前記第1〜第3の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0207】
このように、本実施の形態においては、乗員重量及びバッテリの端子電圧を検出し、検出された乗員重量及びバッテリの端子電圧に対応する走行可能距離X〔km〕を算出し、該走行可能距離X〔km〕が現在位置から目的地までの距離Y〔km〕又は必要走行距離より長い場合に車両を起動するようになっている。すなわち、走行可能距離X〔km〕が現在位置から目的地までの距離Y〔km〕又は必要走行距離以下である場合に車両の起動を禁止する。これにより、走行の途中でバッテリが過放電状態となって駆動モータ12が停止する事態を未然に防止することができる。したがって、車両の走行状態の安定性を確保することができ、乗員の乗り心地及び快適性を維持することができる。
【0208】
なお、走行可能距離X〔km〕を算出した後に、該走行可能距離X〔km〕を表示装置に表示することもできる。これにより、乗員は車両の起動前に走行可能距離X〔km〕を把握することができるので、安心して走行することができる。
【0209】
また、目的地の入力が行われる前に、表示装置の画面に表示された地図上に走行可能距離X〔km〕に該当する範囲を表示することもできる。さらに、前記表示装置の画面に走行可能距離X〔km〕に該当する範囲内の地図のみを表示することもできる。これにより、乗員は走行可能距離X〔km〕に該当する範囲を具体的に把握することができる。
【0210】
さらに、走行可能距離X〔km〕に該当する範囲外の目的地の入力を不可能にすることもできる。例えば、目的地が登録地点である場合、前記範囲外の目的地を登録地点のリスト表示から除外する。また、例えば、表示装置の画面に表示された地図上の地点にタッチして目的地を入力する場合には、前記範囲外の地点にタッチしても目的地として入力されないようにする。これにより、乗員は、安全に走行可能な目的地を設定することができ、かつ、充電時期の計画を効率的に立てることができる。
【0211】
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。なお、第1〜第4の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第4の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0212】
図18は本発明の第5の実施の形態におけるバッテリの端子電圧の変化を示す図、図19は本発明の第5の実施の形態におけるバッテリの端子電圧と乗員重量との関係を示す図である。
【0213】
本実施の形態においては、主制御ECU21が備える記憶手段に、前記第4の実施の形態と異なるマップがあらかじめ記憶されている。
【0214】
前記第4の実施の形態において説明した図16に示されるようなバッテリの端子電圧と車両の走行可能距離との関係から、乗員重量が同一であっても、車両の走行可能距離は、端子電圧が低いほど短くなることが分かる。よって、図18に示されるようなバッテリの端子電圧と車両の走行可能距離との関係を得ることができる。なお、縦軸はバッテリの端子電圧〔V〕を示し、横軸は車両の走行可能距離〔km〕を示している。また、曲線ε、ζ及びηの各々は、走行開始時、すなわち、走行可能距離が0〔km〕でのバッテリの端子電圧が異なる場合を示している。
【0215】
そして、図18に示されるようなバッテリの端子電圧と車両の走行可能距離との関係から、図19に示されるようなバッテリの端子電圧と乗員重量との関係を得ることができる。なお、縦軸は走行開始時のバッテリの端子電圧〔V〕を示し、横軸は乗員重量〔kg〕を示している。また、曲線κは走行可能距離が3〔km〕である場合の境界線を示し、曲線λは走行可能距離が5〔km〕である場合の境界線を示し、曲線μは走行可能距離が7〔km〕である場合の境界線を示している。さらに、横方向に延在する点線は、バッテリの上限電圧、すなわち、端子電圧の上限を示し、縦方向に延在する点線は、乗員重量の上限、すなわち、車両の搭乗部13に搭乗可能な乗員の重量の上限を示している。
【0216】
図19において、各曲線の上側の領域は該当する距離を走行可能な領域であり、各曲線の下側の領域は該当する距離を走行不可能な領域である。例えば、曲線λは走行可能距離が5〔km〕である場合の境界線であるから、バッテリの端子電圧を縦軸の座標値とし、乗員重量を横軸の座標値とする点を図19上にプロットした場合、当該点が曲線λより上側の領域内に位置するならば、バッテリの端子電圧及び乗員重量が当該点の座標値のときに、走行可能距離が5〔km〕よりも長いことを意味する。一方、当該点が曲線λより下側の領域内に位置するならば、バッテリの端子電圧及び乗員重量が当該点の座標値のときに、走行可能距離が5〔km〕よりも短いことを意味する。
【0217】
また、図19において、隣接する曲線同士が示す走行可能距離の間隔は2〔km〕であるが、該間隔がより微小な間隔となるように多数の曲線を密に描くことによって、前記プロットした点がいずれかの曲線上に位置することになる。したがって、当該点が位置する曲線を特定することによって、バッテリの端子電圧及び乗員重量が当該点の座標値のときの走行可能距離を取得することができる。
【0218】
そして、主制御ECU21が備える記憶手段には、図19に示されるようなバッテリの端子電圧、乗員重量及び車両の走行可能距離の相互関係を示すマップがあらかじめ記憶されているので、主制御ECU21は、バッテリ情報取得装置91が取得したバッテリの端子電圧と、シート荷重計73が取得した搭乗部荷重に含まれる乗員重量とに基づいて、特定の走行距離より長い距離を走行可能であるか否かを判断することができる。また、バッテリ情報取得装置91が取得したバッテリの端子電圧と、シート荷重計73が取得した搭乗部荷重に含まれる乗員重量とに基づいて、走行可能距離を取得することもできる。
【0219】
なお、その他の点の構成については、前記第4の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0220】
次に、本実施の形態における車両制御システムの動作について説明する。ここでは、車両を起動する場合の動作についてのみ説明する。
【0221】
図20は本発明の第5の実施の形態における車両制御システムの動作を示すフローチャートである。
【0222】
まず、車両の電源がONとなり、主制御ECU21が乗員が乗車したことを検出してから、バッテリの端子電圧を取得するまでのステップS151からステップS153までの動作は、前記第4の実施の形態におけるステップS131からステップS133までの動作と同様であるので、その説明を省略する。
【0223】
次に、位置測定システム80が車両の現在位置を測定し、主制御ECU21は位置測定システム80から車両の現在位置を取得する(ステップS154)。
【0224】
続いて、主制御ECU21は、乗員が地図情報入力装置82を操作して目的地を入力したか否かを判断する(ステップS155)。そして、目的地を入力した場合、主制御ECU21は、距離を算出する(ステップS156)。この場合、主制御ECU21は、前記第4の実施の形態におけるステップS137と同様に、現在位置取得装置81が測定した車両の現在位置から目的地までの経路を探索し、探索された経路に沿った車両の現在位置から目的地までの距離を算出する。
【0225】
続いて、主制御ECU21は、目的地まで走行可能であるか否かを判断する(ステップS157)。この場合、主制御ECU21は、記憶手段にあらかじめ格納されているバッテリの端子電圧、乗員重量及び車両の走行可能距離の相互関係を示すマップに従い、取得した乗員重量及びバッテリの端子電圧に基づいて、目的地までの距離より長い距離を走行可能であるか否かを判断する。つまり、図19において、取得した乗員重量及びバッテリの端子電圧を座標値とする点が、目的地までの距離に対応する曲線の上側の領域内にプロットされたか否かによって、目的地まで走行可能であるか否かを判断することができる。
【0226】
そして、目的地まで走行可能である場合、主制御ECU21は、車両を起動し(ステップS158)、処理を終了する。
【0227】
一方、乗員が目的地を入力したか否かを判断し、目的地を入力しなかった場合、主制御ECU21は、必要走行距離を走行可能であるか否かを判断する(ステップS159)。なお、前記必要走行距離は、例えば、5〔km〕に設定された最小限の走行可能距離であるが、必ずしも5〔km〕である必要はなく、任意に設定することができる。この場合、図19において、取得した乗員重量及びバッテリの端子電圧を座標値とする点が、走行可能距離が5〔km〕である場合の曲線λの上側の領域内にプロットされたか否かによって、走行可能であるか否かを判断することができる。また、この場合、車両の現在位置の取得を省略することもできる。そして、必要走行距離を走行可能である場合、主制御ECU21は、車両を起動して処理を終了する。
【0228】
また、必要走行距離を走行可能でない場合には、主制御ECU21は、車両を起動せずに、充電要求を行う(ステップS160)。なお、目的地まで走行可能であるか否かを判断して走行可能でない場合にも、主制御ECU21は、車両を起動せずに、充電要求を行う。
【0229】
そして、バッテリの充電が行われると(ステップS161)、主制御ECU21は、ステップS151に戻り、乗員が乗車したことを検出し、以降の動作を繰り返す。
【0230】
なお、その他の点の動作については、前記第1〜第3の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0231】
このように、本実施の形態においては、乗員重量及びバッテリの端子電圧を検出し、検出された乗員重量及びバッテリの端子電圧に応じて目的地まで走行可能であるか否かを判断し、走行可能である場合に車両を起動するようになっている。すなわち、走行可能でない場合に車両の起動を禁止する。これにより、走行の途中でバッテリが過放電状態となって駆動モータ12が停止する事態を未然に防止することができる。したがって、車両の走行状態の安定性を確保することができ、乗員の乗り心地及び快適性を維持することができる。
【0232】
なお、目的地まで走行可能であるか否かの判断に代えて、目的地を経由して自宅まで走行可能であるか否かの判断を行うようにしてもよい。これにより、確実に自宅に戻ることができるので、乗員は安心して走行することができる。なお、目的地が登録された友人宅や充電スタンドである場合には、自宅まで走行可能であるか否かの判断を行わないようにすることが望ましい。
【0233】
また、前記第1〜第5の実施の形態においては、エネルギ源が二次電池である場合について説明したが、エネルギ源は燃料電池であってもよい。この場合、エネルギ残量は、燃料電池の燃料である水素、メタノール、天然ガス等の残量となる。また、駆動源として駆動モータ12に代えて、自動車用エンジン等の内燃機関を使用することもできる。この場合、エネルギ残量は、内燃機関の燃料であるガソリン、軽油等の残量となる。
【0234】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0235】
【図1】本発明の第1の実施の形態における車両の制御状態の概要を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図であり乗員が搭乗した状態で加速前進している状態を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における車両制御システムの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態における車両の起立・乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施の形態における起立制御でのシート位置目標値及び車体傾斜角目標値の時間変化を説明する図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態における起立制御の動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第1の実施の形態における乗降停止制御でのシート位置目標値及び車体傾斜角目標値の時間変化を説明する図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態における乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施の形態における車両制御システムの構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態における起立制御の動作を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第2の実施の形態における乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の第3の実施の形態における起立制御の動作を示すフローチャートである。
【図13】本発明の第3の実施の形態における乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第4の実施の形態における車両制御システムの構成を示すブロック図である。
【図15】本発明の第4の実施の形態におけるバッテリの放電特性を示す図である。
【図16】本発明の第4の実施の形態におけるバッテリの端子電圧の変化を示す図である。
【図17】本発明の第4の実施の形態における車両制御システムの動作を示すフローチャートである。
【図18】本発明の第5の実施の形態におけるバッテリの端子電圧の変化を示す図である。
【図19】本発明の第5の実施の形態におけるバッテリの端子電圧と乗員重量との関係を示す図である。
【図20】本発明の第5の実施の形態における車両制御システムの動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0236】
11a、11b 駆動輪
12 駆動モータ
13 搭乗部
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に係り、例えば、二次電池を電源とする電気自動車等の車両を制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車のような二次電池を主電源とする車両においては、二次電池が過放電とならずに安全に走行することができるように、起動時に二次電池の端子電圧を確認し、該端子電圧が所定値以下の場合には充電した後でないと、走行することができないように制御されている(例えば、特許文献1参照。)。これにより、車両は、所定以上の距離を安全に走行することができる。
【特許文献1】特開2007−146727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の車両の制御においては、二次電池の残容量が同一であっても走行可能距離が車両全体の重量によって変化するにも係わらず、重量の変化を考慮して走行可能か否かの判断基準を決定していない。そのため、走行可能か否かを適切に判断することができない。
【0004】
特に、車両が乗車定員の少ない小型車両である場合、乗員の重量が車両全体の重量に占める割合が高いので、乗員の重量の変化が走行可能距離に及ぼす影響が非常に大きくなる。
【0005】
本発明は、前記従来の問題点を解決して、乗員の重量及びエネルギ残量を検出し、検出された乗員の重量及びエネルギ残量に応じて車両の起動制御を行うことによって、適切に駆動源の起動を制御することができ、安定した走行状態を実現することができる安全性の高い制御を行う車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのために、本発明の車両制御装置においては、乗員が搭乗する搭乗部を備える車体と、回転可能に該車体に取り付けられ、駆動源によって駆動される駆動輪と、前記駆動源にエネルギを供給するエネルギ源とを備える車両を制御する車両制御装置であって、前記乗員の重量を検出する乗員重量検出手段と、前記エネルギ源のエネルギ残量を検出するエネルギ残量検出手段と、検出された前記乗員の重量及び前記エネルギ残量に応じて前記車両の起動制御を行う制御手段とを有する。
【0007】
本発明の他の車両制御装置においては、さらに、前記乗員の重量及び前記エネルギ残量に基づいて走行可能距離を算出する走行可能距離算出手段を更に有し、前記制御手段は、前記走行可能距離に応じて、前記車両の起動制御を行う。
【0008】
本発明の更に他の車両制御装置においては、さらに、現在位置を検出する現在位置検出手段と、目的地を入力する目的地入力手段と、前記現在位置から目的地までの目的距離を算出する目的距離算出手段とを更に有し、前記制御手段は、前記走行可能距離及び前記目的距離に応じて、前記車両の起動制御を行う。
【0009】
本発明の更に他の車両制御装置においては、さらに、前記目的地が入力されたか否かを判断する判断手段を更に有し、前記制御手段は、前記目的地が入力されていないと判断された場合、前記走行可能距離が所定距離以下であると前記車両の起動を禁止する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1及び2の構成によれば、乗員の重量に対してエネルギ残量が十分な場合にのみ車両を起動するので、走行の途中でエネルギがなくなり駆動源が停止する事態を未然に防止することができる。したがって、車両の走行状態の安定性を確保することができ、乗員の乗り心地及び快適性を維持することができる。特に、例えば、車両が乗車定員の少ない小型車両において、その効果が顕著に現れる。
【0011】
請求項3の構成によれば、目的地まで走行可能な場合にのみ車両を起動するので、確実に目的地に到達することができる。
【0012】
請求項4の構成によれば、ある程度の距離を走行可能な場合にのみ車両を起動するので、安心して走行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の制御状態の概要を示す図である。なお、図において(a)〜(c)は起立制御の状態を示し、(d)〜(f)は乗降停止制御の状態を示している。
【0015】
まず、本実施の形態の概要について説明する。なお、本実施の形態においては、車両が倒立振り子の姿勢制御を利用した車両、すなわち、倒立振り子車両であって、同軸上に配設された2つの駆動輪を有し、乗員の重心移動による車体の姿勢変化を感知して駆動する車両であるものとして説明する。
【0016】
倒立車両では、車両を直立させた状態よりも傾斜させた状態のほうが乗車、降車を行いやすい場合がある。例えば、地面から比較的高い位置に搭乗部がある倒立車両の場合、車両の直立状態では乗員が乗車することが困難であるため、傾斜状態とすることが好ましい。また、車両を傾斜させることで、その重心が低くなり、乗車及び降車時における車両の安定性が高くなる。
【0017】
本実施の形態における車両では、傾斜状態をさらに安定させるために、車体に固定された構造体としてストッパ(制限機構)を配設し、駆動輪の接地点とストッパの接地点から等距離の位置に車両本体(駆動輪と駆動モータを除き、乗員、ストッパ、車体等)の重心を移動させることで、傾斜状態の車両を安定的に停止させる。
【0018】
なお、本実施の形態においては、ストッパの前方端部が接地し、車体が傾斜して停止している状態を乗降停止という。
【0019】
乗降停止状態では、車両本体の重心が駆動輪の接地点の鉛直線上よりも前方に存在する。このため、車両をゆっくり起立させたり、傾斜させたりする場合に、起立や傾斜を制御するためのトルクを車体に作用させると、その反作用で車輪が回転してしまい、車両が前後に移動してしまう。
【0020】
そこで、本実施の形態においては、搭乗部を前後に移動させることにより、車両本体が傾いた状態でも、その重心が駆動輪接地点の鉛直線上にある状態をつくり、その重心が移動しないように、車体傾斜角と搭乗部位置とを制御することによって、車両を移動させることなく(車輪を回転させることなく)起立及び傾斜を実現する。
【0021】
本実施の形態においては、図1(a)及び(f)に示されるように、乗降停止状態において搭乗部13の接地点S1とストッパ17の接地点S2との間に重心Pが位置している。
【0022】
このように、搭乗部13の高さを低く前方に動かすことで、乗り降りが容易になる。
【0023】
この乗降停止状態において、乗員が搭乗した後に起立指令が出されると、図1(a)の矢印A1で示されるように、重心Pが接地点S1を通る鉛直線V上に位置するまで搭乗部13を後方に移動する。
【0024】
搭乗部13の後方移動開始から重心Pが鉛直線V上に移動するまでの間は、接地点S1及びS2の両者が接地しており、かつ、接地点S1と接地点S2との間の上に重心Pが位置しているため、車両本体の傾斜角は変化することはない。
【0025】
重心Pが鉛直線V上に移動したら、図1(b)に示されるように、重心Pが鉛直線V上から移動しないように、搭乗部13を矢印A2で示すように前方に移動させながら、矢印B1で示されるように車両本体を起立させる。図1(c)は起立制御が完了した状態を表している。
【0026】
ここで、搭乗部13の前方移動による重心移動量と車両本体の起立による重心移動量とが互いに相殺するように両者を移動させることで、重心Pの移動をなくしている。
【0027】
一方、乗降停止制御の場合、図1(d)に示されるように、重心Pが鉛直線V上に存在する状態から、重心Pが鉛直線V上から移動しないように、搭乗部13を矢印A3で示すように後方に移動させながら、矢印B2で示されるように車両本体を前方に傾斜させる。
【0028】
そして、ストッパ17の先端部が接地点S2で接地すると、車両は倒立状態から脱して安定的に停止する。その後、車両を乗降停止の初期状態とするため、搭乗部13を前方に移動することで、座面部を下げて降車を容易にする。図1(f)は乗降停止制御が完了した状態を表している。
【0029】
このような制御を行うことにより、次のような効果を得ることができる。
(a)乗降停止状態では、ストッパの前方端部が接地し、駆動輪とストッパ接地点との間に車両本体の重心が存在するので、車両を安定的に停止させることができ、乗員の乗車及び降車を容易にすることができる。
(b)車両が移動することなく、ゆっくりと起立及び傾斜を行うことができるので、起立完了まで、及び、乗降停止までの乗員の不快感をなくすことができる。
(c)起立及び乗降停止を車両の移動なしで行うことができるので、乗車及び降車の際に、前方に広いスペースを確保する必要がない。
【0030】
次に、本実施の形態について詳細に説明する。
【0031】
図2は本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図であり乗員が搭乗した状態で加速前進している状態を示す図である。
【0032】
図に示されるように、車両は、同軸上に配設された2つの駆動輪11a及び11bを備えている。そして、前記駆動輪11a及び11bは、それぞれ、駆動源としての駆動モータ12a及び12bで駆動されるようになっている。なお、駆動輪11a及び11b、並びに、駆動モータ12a及び12bを統括的に説明する場合には、駆動輪11及び駆動モータ12として説明する。
【0033】
駆動輪11及び駆動モータ12の上部には、重量体である荷物や乗員等が搭乗する搭乗部13(シート)が配設されている。
【0034】
該搭乗部13は、乗員が着座する座面部131、背もたれ部132、及び、ヘッドレスト133を有する。前記搭乗部13は、搭乗部移動機構として機能する図示されない移動機構を介して、支持部材14により支持されている。該支持部材14は駆動モータ12が収納されている駆動モータ筐(きょう)体に固定されている。
【0035】
移動機構としては、例えば、リニアガイド装置のような低抵抗の線形移動機構を用い、搭乗部駆動モータの駆動トルクにより、搭乗部13と支持部材14との相対的な位置を変更するようになっている。
【0036】
リニアガイド装置は、支持部材14に固定された案内レールと、搭乗部駆動モータに固定されたスライダと、転動体とを備えている。また、前記案内レールには、その左右側面部に2本の軌道溝が長手方向に沿って直線状に形成されている。
【0037】
スライダの幅方向に沿う断面はコ字状に形成されており、その対向する二つの側面部内側には、2本の軌道溝が、案内レールの軌道溝と各々対向するように形成されている。
【0038】
転動体は、前述した軌道溝の間に組み込まれて、案内レールとスライダとの相対的直線運動に伴って軌道溝内を転動するようになっている。なお、スライダには、軌道溝の両端をつなぐ戻し通路が形成されており、転動体は軌道溝と戻し通路とを循環するようになっている。
【0039】
リニアガイド装置には、該リニアガイド装置の動きを締結するブレーキ(クラッチ)が配設されている。搭乗部13の動作が不要であるときには、このブレーキにより、案内レールにスライダを固定することで、案内レールが固定されている支持部材14と、スライダが固定されている搭乗部13との相対的位置を保持する。そして、動作が必要であるときには、このブレーキを解除し、支持部材14側の基準位置と搭乗部13側の基準位置との距離が所定値となるように制御する。
【0040】
搭乗部13の脇(わき)には入力装置30が配設されている。該入力装置30は、乗員の操作により、車両の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の指示を行うとともに、本実施の形態における起立指示や乗降停止指示を行うためのものである。
【0041】
本実施の形態における入力装置30は、座面部131に固定されているが、有線又は無線で接続されたリモコンにより構成されていてもよい。また、肘(ひじ)掛けを設けその上部に入力装置30を配設するようにしてもよい。
【0042】
また、本実施の形態における車両には、入力装置30が配設されているが、あらかじめ決められた走行指令データに従って自動走行する車両の場合には、入力装置30に代えて走行指令データ取得部が配設される。該走行指令データ取得部は、例えば、半導体メモリ等の各種記憶媒体から走行指令データを取得する読み取り手段、又は/及び、無線通信により外部から走行指令データを取得する通信制御手段を備えていてもよい。ここでは、入力装置30の操作によって入力される操作信号に応じて、加減速等の制御が行われるものとして説明する。
【0043】
搭乗部13と駆動輪11との間には制御ユニット16が配設されている。本実施の形態において、制御ユニット16は、支持部材14に取り付けられている。なお、前記制御ユニット16は、搭乗部13の座面部131の下面に取り付けるようにしてもよい。この場合、制御ユニット16は移動機構によって搭乗部13とともに前後に移動する。
【0044】
支持部材14には、乗降停止状態で、一部が接地することで前記車体の傾斜角を制限する制限機構として機能する、1対のストッパ17が固定されている。該1対のストッパ17は、駆動輪11を挟むように配設されているが、駆動輪11aと駆動輪11bとの間に配設されていてもよい。
【0045】
ストッパ17は、固定される支持部材14の位置から車両の前後方向に延在した湾曲形状をしており、前方端部P1及び後方端部P2が地面に接地することで、車体の傾斜を制限するようになっている。前記ストッパ17は、駆動輪11の回転軸から前方端部P1までの距離と後方端部P2までの距離とが同じであり、車体の直立状態(車体の傾斜角がゼロの状態)においては、地面から前方端部P1までの高さと後方端部P2までの高さとは同じである。
【0046】
本実施の形態においては、前方端部P1が接地した状態において乗降停止であるが、この際の車体傾斜角は、15度に設定されている。この乗降停止時の傾斜角は、車両の最大加速時の車体傾斜角よりも大きければ、任意の角度に設定可能である。
【0047】
また、後方端部P2の接地時における傾斜角も、車両の最大減速時の車体傾斜角よりも大きければ、任意の角度に設定可能である。本実施の形態においては、この傾斜角度も同じ15度に設定されているが、要求される加速度又は減速度に合わせて、両者を異なる値に設定してもよい。
【0048】
駆動輪11の回転軸からストッパ17の前方端部P1までの距離は、前方端部P1が接地した状態において、乗員搭乗時の車両重心、及び、想定される体重、体型を有する乗員搭乗時の車両重心が、ともに駆動輪11の接地点から前方端部P1までの領域(2点間の鉛直上方)に位置するように設計されている。
【0049】
本実施の形態において、車両を構成する各部のうち、駆動輪11と駆動モータ12とを除く部分を車両本体と称する。該車両本体には、搭乗部13、ストッパ17、入力装置30、制御ユニット16、移動機構等が含まれる。また、車両本体は、移動機構により車両前後方向に移動する搭乗部13と、該搭乗部13以外の部分とを備える車体を含む。
【0050】
本実施の形態における車両は、エネルギ源である二次電池としてのバッテリを備えている。該バッテリは、駆動モータ12、搭乗部駆動モータ、制御ECU(Electronic Control Unit)20等に駆動用及び演算用のエネルギである電力を供給する。
【0051】
次に、車両を制御する車両制御装置としての車両制御システムについて説明する。
【0052】
図3は本発明の第1の実施の形態における車両制御システムの構成を示すブロック図である。
【0053】
図に示されるように、車両制御システムは、起立制御手段及び乗降停止制御手段として機能する制御ECU(電子制御装置)20、操縦装置31、起動・降車スイッチ32、角度計(角速度計)41、駆動輪回転角度計51、駆動輪アクチュエータ52(駆動モータ12)、シート駆動モータ回転角度計(位置センサ)71、及び、シート駆動アクチュエータ72(搭乗部駆動モータ)を備える。
【0054】
制御ECU20は、主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22を備え、駆動輪制御、車体制御(倒立制御)等を行い、車両の走行制御、姿勢制御等の制御を行う。また、制御ECU20は、シート制御ECU24を備え、搭乗部13の移動による起立・乗降停止制御を行うようになっている。制御ECU20は、起立・乗降停止制御プログラム等の各種プログラムやデータが格納されたROM、作業領域として使用されるRAM、外部記憶装置、インターフェイス部等を備えたコンピュータシステムである。
【0055】
主制御ECU21には、駆動輪回転角度計51、角度計41、シート駆動モータ回転角度計71、並びに、入力装置30として操縦装置31及び起動・降車スイッチ32が接続されている。
【0056】
操縦装置31は、乗員の操作に基づく走行指令を主制御ECU21に供給する。操縦装置31は、ジョイスティックを備えている。該ジョイスティックは、直立した状態を中立位置とし、前後方向に傾斜させることで加減速を指示し、左右に傾斜させることで左右方向の旋回曲率を指示する。傾斜角度に応じて、要求加減速度及び旋回曲率が大きくなる。
【0057】
起動・降車スイッチ32は、搭乗後の起動指示、及び、降車指示(乗降停止状態への移行指示)を、乗員が車両に対して行うためのスイッチである。起動・降車スイッチ32には、起動指示スイッチ及び降車指示スイッチが配設されている。
【0058】
主制御ECU21は、角度計41とともに、車体制御システム40として機能し、倒立車両の姿勢制御として、車体傾斜状態に基づき、駆動輪11の反トルクで車体の姿勢制御を行う。主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、駆動輪回転角度計51及び駆動輪アクチュエータ52とともに、駆動輪制御システム50として機能する。
【0059】
駆動輪回転角度計51は主制御ECU21に駆動輪11の回転角を供給し、主制御ECU21は駆動輪制御ECU22に駆動トルク指令値を供給し、駆動輪制御ECU22は駆動輪アクチュエータ52に駆動トルク指令値に相当する駆動電圧を供給する。駆動輪アクチュエータ52は、指令値に従って、駆動輪11a及び11bを各々独立して制御するようになっている。
【0060】
また、主制御ECU21は、シート制御ECU24、シート駆動モータ回転角度計71及びシート駆動アクチュエータ72とともに、シート制御システム70として機能する。
【0061】
シート駆動モータ回転角度計71は、主制御ECU21に、シート駆動モータの回転角又はシート位置を供給し、主制御ECU21は、シート制御ECU24に駆動推力指令値を供給し、シート制御ECU24は、シート駆動アクチュエータ72に駆動推力指令値に相当する駆動電圧を供給する。シート駆動アクチュエータ72は、指令値に従って、移動機構(リニアガイド装置)に沿う方向に搭乗部13を位置制御するようになっている。
【0062】
主制御ECU21は、駆動輪トルク決定手段として機能する。また、主制御ECU21は、起立制御手段及び乗降停止制御手段として機能する。
【0063】
次に、前記構成の車両制御システムの動作について説明する。まず、起立・乗降停止制御について説明する。
【0064】
図4は本発明の第1の実施の形態における車両の起立・乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【0065】
まず、主制御ECU21は、起動・降車スイッチ32の信号を取得する(ステップS1)。次に、主制御ECU21は、車体が倒立状態にあるか否かを判断する(ステップS2)。この判断は、例えば、車体傾斜角の計測値に基づいて行われる。
【0066】
そして、車体が倒立状態になく(ステップS2;N)、かつ、起動指示スイッチがON(ステップS3;Y)の場合、主制御ECU21は、後述する起立制御を実行し(ステップS4)、その後メインルーチンにリターンする。起立制御後のメインルーチンでは、通常の姿勢(倒立)制御及び走行制御が実行される。
【0067】
一方、車体が倒立状態であり(ステップS2;Y)、かつ、降車指示スイッチがON(ステップS5;Y)の場合、主制御ECU21は、車両が倒立状態で停止しているか否かについて判断する(ステップS6)。
【0068】
ここで、主制御ECU21は、車両が倒立状態で停止しているか否かの判断条件として、駆動輪11a及び11bの各々の回転速度の絶対値がともに所定の閾(しきい)値以下である場合に「停止」とみなす。例えば、停止するために減速中である場合のように、まだ倒立状態で停止していない場合(ステップS6;N)、主制御ECU21は、メインルーチンにリターンし、停止と判断(ステップS6;Y)するまで倒立姿勢制御を継続する。
【0069】
そして、主制御ECU21は、車両が倒立状態で停止していると判断した場合(ステップS6;Y)、後述する乗降停止制御を実行し(ステップS7)、その後メインルーチンにリターンする。
【0070】
乗降停止制御後のメインルーチンでは、車両の停止状態になるので、その後の起立制御指令やイグニッションキーのオフ(電源オフ指令)の監視など、対応する処理への移行を行う。
【0071】
なお、本実施の形態においては、車体が倒立状態になく、起動指示スイッチがONの場合に起立制御を行うようになっているが、荷重センサなどを搭乗部13の座面部131に配設し、起立制御の指令供給及び乗員の着座検知を条件に起立制御を開始するようにしてもよい。例えば、起立指令が与えられたとしても着座を検知することができない場合には、起立制御を開始しない。また、乗員の起動指示スイッチの操作がなくても、着座の検知のみを条件に起立制御を開始するようにしてもよい。
【0072】
また、車体が倒立停止状態にあり、降車指示スイッチがONである場合に乗降停止制御を行うようになっているが、主制御ECU21が何らかの異常を検出し、車両の姿勢制御を続行することが困難と判断した場合に、強制的に乗降停止制御に移行させるようにしてもよい。
【0073】
次に、前記起立制御について説明する。
【0074】
図5は本発明の第1の実施の形態における起立制御でのシート位置目標値及び車体傾斜角目標値の時間変化を説明する図、図6は本発明の第1の実施の形態における起立制御の動作を示すフローチャートである。
【0075】
なお、以下の説明において、搭乗部13をシートと称することもある。
【0076】
まず、主制御ECU21は、センサから車体傾斜と車輪回転の状態量を取得する(ステップS11)。すなわち、主制御ECU21は、シート駆動モータ回転角度計71から回転角(シート位置λS )を取得し、角度計41から車体傾斜角θ1 (角速度)を取得する。
【0077】
続いて、主制御ECU21は、ステップS11で取得した各状態量に基づいて、シート位置目標値λS * を決定する(ステップS12)。すなわち、主制御ECU21は、次の式(1)及び(2)により、シート位置の目標値λS * を決定する。
r<1のとき:λS * =λS,init(1−r)+λS,nr ・・・式(1)
r≧1のとき:λS * =λS,n ・・・式(2)
前記式(1)及び(2)においては、制御開始からの時間tを所定の時間T1 で無次元化した値(r=t/T1 )で表している。
【0078】
また、λS,initは、本制御開始時のシート位置(シートの初期位置)を表す。
【0079】
λS,n は、後述される式(3)で表されるシートの重心補正位置である。該重心補正位置は、乗員及びシートを含む車両本体の重心Pが、駆動輪11の接地点S1を通る鉛直線V上に位置している状態(図1(b)参照)におけるシートの位置である。
【0080】
T1 は、シート後方移動時間を表し、あらかじめ設定された値が使用される。
【0081】
本実施の形態においては、図5(a)に示されるように、シート後方移動時間T1 の間に、シートの初期位置λS,initから重心補正位置λS,n まで直線的に変化するように、シート目標位置λS * が決定される。
【0082】
ただし、図5(a)において点線で示されるように、初期位置λS,initから移動開始から重心補正位置λS,n までの移動完了前の変化量が、両者間の変化量よりも小さくなるように、シート目標位置λS * を設定するようにしてもよい。これにより、シート移動の加減速に伴う乗員へのショックを軽減することができる。
【0083】
シートの重心補正位置λS,n は、次の式(3)により設定する。ただし、θ1,initは、車体の初期傾斜角(本制御開始時の値)である。また、l1 は車両本体の車軸からの重心距離、mS は搭乗部質量、m1 は車両本体の質量(搭乗部13を含む)である。
λS,n =−l1 (m1 /mS )tanθ1,init ・・・式(3)
次に、主制御ECU21は、シート駆動アクチュエータ72によるシートの駆動推力指令値SS を決定する(ステップS13)。すなわち、主制御ECU21は、決定したシート目標位置λS * を使用して、次の式(4)により、シートの駆動推力指令値SS を決定する。
SS =SS,f −KS7(λS −λS * )−KS8({λS }−{λS * })・・・式(4)
ここで、{x}はXの時間微分を表し、例えば、{λS }はλS の時間微分を表す。なお、以下の説明においても同様の表記を用いることとする。また、λS は、シート駆動モータ回転角度計71で検出される現在のシート位置である。前記λS がステップS11で決定したシート位置目標値λS * と一致するように、フィードバック制御される。さらに、KS7及びKS8は、フィードバックゲインであり、例えば、極配置法によって、あらかじめ設定された値が使用される。さらに、SS,f は、対乾性摩擦用のフィードフォワードトルクを表す設定値であるが、その正負は移動方向に合わせて変化させる(後方移動の場合は、負の値)。なお、SS,f の代わりに、シート位置偏差(λS −λS * )の積分ゲインを与えるようにしてもよい。
【0084】
また、本実施の形態では、前記式(4)を使用するが、該式(4)における第1項及び第3項は、より精度を高めるための項であり、省略することもできる。つまり、
SS =−KS7(λS −λS * ) ・・・式(4’)
とすることもできる。
【0085】
次に、主制御ECU21は、シート制御システム70に決定した駆動推力指令値SS を与える(ステップS14)。すなわち、主制御ECU21は、決定したシートの駆動推力指令値SS をシート制御ECU24に供給し、該シート制御ECU24は、駆動推力指令値SS に対応した駆動電圧をシート駆動アクチュエータ72に供給する。これにより、シートは、シート目標位置λS * に向けて後方に移動する。
【0086】
次に、主制御ECU21は、移動させたシートが重心補正位置に到達したか否かを判断する(ステップS15)。ここで、重心補正位置は、図1(b)に示されるように、車両本体の重心Pが駆動輪11の接地点S1を通る鉛直線V上にあるときのシート位置である。そして、シートが重心補正位置に到達したと判断すると(ステップS15:Y)、主制御ECU21は、ステップS21以降の処理に移行し、車体の起立を開始する。
【0087】
一方、シートが重心補正位置に到達していない場合(ステップS15;N)、主制御ECU21は、車両本体が起き上がり始めているか否かを判断する(ステップS16)。車両本体が起き上がり始めているか否かの判断においては、例えば、車体傾斜角の初期値からの変化量が所定の閾値以上である場合に「起き上がり」と判断する。
【0088】
このように、前記式(3)に従って設定されたシートの重心補正位置λS,n にシートが到達する前(ステップS15;N)に車両本体が起き上がり始めたか否かを判断するのは、前記式(3)によって算出された計算値としての重心補正位置λS,n に対して、パラメータ誤差や外乱により、車体が起き上がり始めてしまう場合があるためである。例えば、実際の乗員重量が想定値と大きく異なっているために車両本体の重心が想定した位置からずれている場合や、風力等の外乱を受けたために起き上がる場合などが該当する。
【0089】
このように、車両本体の起き上がりを検出した場合(ステップS16;Y)、主制御ECU21は、実際の車両本体の重心Pが駆動輪11の接地点S1を通る鉛直線V上に到達している(図1(b)参照)とみなし、即時にシートの後方移動を中止して、ステップS21以降の車体起立へ移行する。
【0090】
シートが重心補正位置λS,n に到達しておらず(ステップS15;N)、車体も起き上がり始めていない場合(ステップS16;N)、主制御ECU21は、ステップS11に戻り、シートを重心補正位置に移動させる動作を繰り返す。
【0091】
以上説明したステップS11からステップS16までの処理が、乗降停止状態(図1(a))で起立制御指令が出されてから、シートを後方に移動させて、車両本体の重心Pが駆動輪11の接地点S1を通る鉛直線V上に到達(図1(b))するまでの処理である。
【0092】
続いて、車両本体の重心Pが駆動輪11の接地点S1を通る鉛直線V上に到達した後(ステップS15;Y、ステップS16;Y)、主制御ECU21は、ステップS21からステップS25までの処理により、車両本体を起立させる。ステップS21からステップS25までの処理が、車両本体の重心Pが重心補正位置(鉛直線V上の位置)に移動してから(図1(b))、車体の起立が完了するまで(図1(c))の処理である。この間の処理では、車両本体の重心位置P及び車両の位置を動かさないように制御される。
【0093】
まず、主制御ECU21は、センサから各状態量を取得する(ステップS21)。すなわち、主制御ECU21は、シート駆動モータ回転角度計71から回転角(シート位置λS )を、角度計41から車体傾斜角θ1 (角速度)を、駆動輪回転角度計51から駆動輪回転角θW を、それぞれ、取得する。
【0094】
次に、主制御ECU21は、シート位置の目標値λS * 及び車体傾斜角の目標値θ1 * を決定する(ステップS22)。すなわち、主制御ECU21は、次の式(5)及び(6)によりシート位置の目標値λS * を決定する。
r<1のとき:λS * =λS,init2 (1−r) ・・・式(5)
r≧1のとき:λS * =0 (r≧1) ・・・式(6)
さらに、主制御ECU21は、決定した目標値λS * を使用して、次の式(7)により、車体傾斜角の目標値θ1 * を決定する。
θ1 * =−tan-1(mS λS * /m1 l1 ) ・・・式(7)
前記式(5)及び(6)において、rは、本制御ループ(ステップS21〜ステップS25)開始からの時間tを、所定の時間T2 で無次元化した値(r=t/T2 )を表している。また、λS,init2 は、同開始時のシート位置(シートの初期位置)を表す。
【0095】
さらに、T2 は、シート前方移動時間を表し、あらかじめ設定された設定値である。本実施の形態においては、図5(b)に示されるように、シート前方移動時間T2 の間に、シートの初期位置λS,init2 からλS * =0のシート基準位置(車両倒立時に車両本体の重心Pが駆動輪11の接地点S1を通る鉛直線V上にあるようなシートの位置)まで直線的に変化するように、シート目標位置λS * が決定される。また、図5(c)に示されるように、シート前方移動時間T2 の間に、車体傾斜角の目標値θ1 * からθ1 * =0の直立姿勢まで、前記式(7)で示される曲線に沿って変化するように、車体傾斜目標値θ1 * が決定される。
【0096】
ただし、図5(b)及び(c)において点線で示されるように、初期位置から移動開始の際と、移動完了前の変化量が、両者間の変化量よりも小さくなるように、シート目標位置λS * 及び車体傾斜目標位置θ1 * を設定するようにしてもよい。これにより、シート移動及び車体起立の加減速に伴う乗員へのショックを軽減することができる。
【0097】
次に、主制御ECU21は、各アクチュエータの指令値SS 及びτW を決定する(ステップS23)。すなわち、主制御ECU21は、決定したシート位置の目標値λS * 及び車体傾斜角の目標値θ1 * から、次の式(8)によりシートの駆動推力指令値SS を決定し、次の式(9)により駆動輪のトルク指令値τW を決定する。
SS =SS,f KS7(λS −λS * )−KS8({λS }−{λS * }) ・・・式(8)
τW =−KW2{θW }+KW3(θ1 −θ1 * )+KW4({θ1 }−{θ1 * })
・・・式(9) ただし、KW2、KW3、KW4、KS7及びKS8はフィードバックゲインであり、例えば、極配置法によって、あらかじめ設定された値である。
【0098】
なお、前記式(9)によるフィードバック制御において、シートの位置及び速度を考慮するようにしてもよい。
【0099】
また、前記式(8)において、対乾性摩擦用のフィードフォワードトルクSS,f の代わりに、積分ゲインを与えるようにしてもよい。
【0100】
次に、主制御ECU21は、各制御システムに指令値SS 及びτW を与える(ステップS24)。すなわち、主制御ECU21は、シート制御ECU24及び駆動輪制御ECU22に、決定した指令値SS 及びτW をそれぞれ供給する。
【0101】
そして、駆動輪制御ECU22は、指令値τW に対応する駆動電圧を駆動輪アクチュエータ52に供給することで、駆動輪11に駆動トルクτW を与える。また、シート制御ECU24は、指令値SS に対応した駆動電圧をシート駆動アクチュエータ72に供給することで、シートを前方に移動させる。すると、駆動輪11からの駆動トルクτW によって、車両本体は徐々に傾斜角θを小さくしながら起立し、起立による重心移動量は、シートの前方移動により打ち消される。このため、車両が前後に移動することなく、起立動作が行われる。
【0102】
次に、主制御ECU21は、起立が完了し倒立状態となっているか否かを判断する(ステップS25)。この場合、主制御ECU21は、例えば、車体傾斜角(絶対値)が所定の閾値以下であるときに「倒立(=起立完了)」と判断する。そして、車両本体が倒立状態に至っていない場合(ステップS25;N)、主制御ECU21は、ステップS21に戻り、起立制御を続行する。
【0103】
一方、起立状態に至っている場合(ステップS25;Y)、主制御ECU21は起立制御処理を終了する。そして、主制御ECU21は、以後、倒立状態における車両の姿勢(倒立)制御及び走行制御を実行する。
【0104】
次に、前記乗降停止制御について説明する。
【0105】
図7は本発明の第1の実施の形態における乗降停止制御でのシート位置目標値及び車体傾斜角目標値の時間変化を説明する図、図8は本発明の第1の実施の形態における乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【0106】
図8に示されるフローチャートにおいて、ステップS31からステップS36までの処理が、倒立状態(図1(d))から、車両本体の重心Pを移動させることなく、かつ、車両を前後に移動させることなく、ストッパ17の前方端部P1を接地点S2に接地させる処理、すなわち、乗降停止状態(図1(f))までの処理である。
【0107】
また、ステップS41からステップS45までの処理が、乗降停止状態で乗員の降車を補助するために、シートを最前方位置(乗降補助位置)に移動させる処理である。
【0108】
まず、主制御ECU21は、センサから各状態量を取得する(ステップS31)。すなわち、主制御ECU21は、シート駆動モータ回転角度計71から回転角(シート位置λS )を取得し、角度計41から車体傾斜角θ1 (角速度)を取得し、駆動輪回転角度計51から駆動輪回転角θW を取得する。
【0109】
次に、主制御ECU21は、シート位置の目標値λS * 及び車体傾斜角の目標値θ1 * を決定する(ステップS32)。すなわち、主制御ECU21は、次の式(10)及び(11)によりシート位置の目標値λS * を決定する。また、決定したシート位置の目標値λS * を使用して、次の式(12)により車体傾斜角の目標値θ1 * を決定する。
λS * =λS,n r ・・・式(10)
λS,n =−l1 (m1 /mS )tanθ1,F ・・・式(11)
θ1 * =−tan-1(mS {λS * }/m1 l1 ) ・・・式(12)
前記式(10)において、rは、本制御ループ(ステップS31〜ステップS36)開始からの時間tを所定の時間T2 で無次元化した値(r=t/T2 )を表す。なお、T2 は、シート後方移動時間を表し、あらかじめ設定された値が使用される。
【0110】
また、λS,n はシートの重心補正位置であり、前記式(11)により算出される。重心補正位置は、車体接地時(乗降停止状態)において、車両本体の重心Pが駆動輪の接地点S1を通る鉛直線V上にあるときのシートの位置である。
【0111】
さらに、前記式(11)において、θ1,F は、ストッパ17の前方端部P1が接地点S2に接地した状態、すなわち、乗降停止状態における車両本体の傾斜角(車体接地傾斜角)を表し、あらかじめ設定した値を使用する。ただし、前述した起立制御の際に、車体が起立する直前の値(乗降停止状態における値)を記憶しておき、該値を使用するようにしてもよい。
【0112】
また、前記式(10)及び(11)により、シート後方移動時間T2 に対して、図7(a)及び(b)において実線で表されるようなシート位置の目標値λS * 及び車体傾斜角の目標値θ1 * が設定される。なお、図7(a)及び(b)における点線で示されるように動作を設定することにより、シート移動及び車体傾斜の加減速に伴う乗員へのショックを軽減するようにしてもよい。
【0113】
次に、主制御ECU21は、各アクチュエータの指令値SS 及びτW を決定する(ステップS33)。すなわち主制御ECU21は、前記式(10)〜(12)によって決定したシート位置の目標値λS * 及び車体傾斜角の目標値θ1 * から、次の式(13)によりシートの駆動推力指令値SS を決定し、次の式(14)により駆動輪のトルク指令値τW を決定する。
SS =SS,f −KS7(λS −λS * )−KS8({λS }−{λS * })・・・式(13)
τW =−KW2{θW }+KW3(θ1 −θ1 * )+KW4({θ1 }−{θ1 * })
・・・式(14)
ただし、KW2、KW3、KW4、KS7及びKS8はフィードバックゲインであり、例えば、極配置法によって、あらかじめ設定された値である。
【0114】
なお、前記式(14)によるフィードバック制御において、シートの位置及び速度を考慮するようにしてもよい。
【0115】
また、前記式(13)において、対乾性摩擦用のフィードフォワードトルクSS,f の代わりに、積分ゲインを与えるようにしてもよい。
【0116】
次に、主制御ECU21は、各制御システムに指令値SS 及びτW を与える(ステップS34)。すなわち、主制御ECU21は、シート制御ECU24及び駆動輪制御ECU22に、決定した指令値SS 及びτW をそれぞれ供給する。
【0117】
そして、駆動輪制御ECU22は、指令値τW に対応する駆動電圧を駆動輪アクチュエータ52に供給することで、駆動輪11に駆動トルクτW を与える。また、シート制御ECU24は、指令値SS に対応した駆動電圧をシート駆動アクチュエータ72に供給することで、シートを後方に移動させる。すると、駆動輪11からの駆動トルクτW によって、車両本体は徐々に傾斜角θを大きくしながら傾斜し、車両本体傾斜による重心移動量は、シートの後方移動により打ち消される。このため、車両が前後に移動することなく、前方傾斜の動作が行われる。
【0118】
次に、主制御ECU21は、シートが重心補正位置、すなわち、車体接地状態(乗降停止状態)における車両本体の重心Pが駆動輪の接地点S1を通る鉛直線V上にあるときのシート位置に到達したか否かを判断する(ステップS35)。そして、シートが重心補正位置に到達していなければ(ステップS35;N)、主制御ECU21は、ステップS31に戻ってシートの後方移動及び車両本体の前傾を続ける。
【0119】
一方、シートが重心補正位置に到達していると(ステップS35;Y)、主制御ECU21は、実際に車両本体が接地しているか否か、すなわち、ストッパ17の前方端部P1が接地点S2に接地しているか否かを判断する(ステップS36)。この場合、主制御ECU21は、例えば、車体傾斜角が所定の閾値以上であるとき「接地(=傾斜完了)」と判断する。
【0120】
そして、車両本体が接地していない場合(ステップS36;N)には、シートは計算上の重心補正位置に移動しているが、起立制御と同様に、パラメータ誤差や外乱等が原因で、車両本体の重心Pが実際には重心補正位置に到達していないことが想定される。そこで、主制御ECU21は、ステップS31に戻って、引き続きシートの後方移動及び車両本体の前傾を行う。
【0121】
以上説明したステップS31からステップS36までの倒立状態から乗降停止状態に到るまでの処理が完了すると、主制御ECU21は、ステップS41からステップS45までの降車補助の処理を行う。
【0122】
そして、主制御ECU21は、シート駆動モータ回転角度計71から、現在のシート位置(回転角)λS を取得する(ステップS41)。
【0123】
次に、主制御ECU21は、シート位置の目標値λS * を、次の式(15)及び(16)から決定する(ステップS42)。
r<1のとき:λS * =λS,init1 (1−r)+λS,end r ・・・式(15)
r≧1のとき:λS * =λS,end ・・・式(16)
前記式(15)及び(16)において、rは、シート移動開始からの時間tを所定の時間T1 で無次元化した値(r=t/T1 )を表している。また、λS,init1 は、同開始時のシート位置(シートの初期位置)を表す。
【0124】
さらに、λS,end は、次の式(17)で算出されるシートの乗降補助位置である。該乗降補助位置は、乗員が乗り降りを行うときのシートの設定位置であり、本実施の形態においては、駆動輪11の接地点S1とストッパ17の接地点S2(図1参照)から等距離の点に車両本体の重心Pが位置するような位置に設定されている。
λS,end =(d/2)(M/mS )−l1 (m1 /mS )tanθ1,init1
・・・式(17)
なお、本実施の形態における乗降補助位置は、乗員乗降時の車体安定性を最優先させたシート位置として前述のように設定されているが、乗員の乗り降りの容易さを重視して、乗降補助位置(シート位置)をより前方(ストッパ17の接地点S2側)に移動させるようにしてもよい。また、搭乗から起立まで、又は、傾斜から降車までの時間を短くするために、乗降補助位置をより後方(駆動輪11の接地点S1側)とすることによって、シート移動量を少なくしてもよい。
【0125】
また、T1 は、シート前方移動時間を表し、あらかじめ設定された値が使用される。本実施の形態において、図7(c)に示されるように、シート前方移動時間T1 の間に、シートの初期位置λS,init1 から乗降補助位置λS,end まで直線的に変化するように、シート目標位置λS * が決定される。ただし、図8(c)における点線で示されるように、初期位置λS,init1 から移動開始直後及び乗降補助位置λS,end までの移動完了直前における変化量が、両者間での変化量よりも小さくなるように、シート目標位置λS * を設定するようにしてもよい。これにより、シート移動の加減速に伴う乗員へのショックを軽減することができる。
【0126】
なお、前記式(17)において、dは車両本体の中心面(車両本体の重心と駆動輪11の車軸を通る平面)からストッパ17の前方端部P1の接地点S2までの距離であり、Mは車両全重量であり、θ1,init1 は車体傾斜角である。また、l1 は車両本体の車軸からの重心距離であり、mS は搭乗部質量であり、m1 は車両本体の質量(搭乗部を含む)である。
【0127】
次に、主制御ECU21は、シート駆動アクチュエータ72によるシートの駆動推力指令値SS を決定する(ステップS43)。すなわち、主制御ECU21は、決定したシート目標位置λS * を使用して、次の式(18)により、シートの駆動推力指令値SS を決定する。
SS =SS,f −KS7(λS −λS * )−KS8({λS }−{λS * })・・・式(18)
ただし、KS7及びKS8はフィードバックゲインであり、例えば、極配置法よって、あらかじめ設定された値である。また、SS,f は、対乾性摩擦用のフィードフォワードトルクを表す設定値であるが、その正負は移動方向に合わせて変化させる(後方移動の場合は、負の値)。なお、SS,f の代わりに、積分ゲインを与えるようにしてもよい。
【0128】
次に、主制御ECU21は、シート制御システム70に決定した推力指令値SS を与える(ステップS44)。すなわち、主制御ECU21は、決定したシートの駆動推力指令値SS をシート制御ECU24に供給し、該シート制御ECU24は、駆動推力指令値SS に対応した駆動電圧をシート駆動アクチュエータ72に供給する。これにより、シートは、シート目標位置λS * に向けて前方に移動する。
【0129】
次に、主制御ECU21は、移動させたシートが乗降補助位置に到達したか否かを判断する(ステップS45)。そして、到達していない場合(ステップS45;N)、主制御ECU21は、ステップS41に戻り、シートの前方移動を継続する。
【0130】
一方、シートが乗降補助位置に到達している場合(ステップS45;Y)、主制御ECU21は、シートの移動を終了し、乗降停止制御を終了する。
【0131】
なお、本実施の形態においては、シートが乗降補助位置に到達した場合にシート移動を終了するが、さらに、乗員が降車スイッチをオフに切り換えた場合にもシート移動を終了するようにしてもよい。
【0132】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0133】
図9は本発明の第2の実施の形態における車両制御システムの構成を示すブロック図である。
【0134】
本実施の形態において、搭乗部13(乗員及びシート)の質量を計測し、その計測値に応じて、制御パラメータを補正することによって、起立制御及び乗降停止制御をより安定的に行うようになっている。
【0135】
図に示されるように、本実施の形態における車両制御システムは、シート制御システム70の一部としてシート荷重計73を備え、搭乗部荷重(垂直荷重)WS を検出して、主制御ECU21に供給する。
【0136】
本実施の形態においては、搭乗部質量を荷重計を使って評価するようになっているが、より簡易なシステムによって、段階的に質量を評価するような離散的な測定方法を用いて評価してもよい。また、乗員自身が質量(体重)を入力するようにし、その入力値を使用するようにしてもよい。
【0137】
なお、その他の点の構成については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0138】
次に、本実施の形態における車両制御システムの動作について説明する。ここでは、起立制御及び乗降停止制御についてのみ説明する。まず、起立制御について説明する。
【0139】
図10は本発明の第2の実施の形態における起立制御の動作を示すフローチャートである。
【0140】
まず、主制御ECU21は、シート荷重計73から、シートに作用する垂直荷重(搭乗部荷重WS )を取得し(ステップS51) 搭乗部質量mS を次の式(19)により決定する(ステップS52)。
mS =mS,O +WS /gcosθ1 ・・・式(19)
ただし、mS,O は搭乗部質量の非変動分(乗員の有無に依らない質量;例えば、シート等)であり、WS はステップS51で取得した搭乗部荷重(垂直力)であり、gは重力加速度であり、θ1 は車体傾斜角である。
【0141】
ここで、搭乗部質量mS は、シート制御システムによって動かすことが可能な部分の質量であり、乗員だけでなく、荷物などを積載した場合にはその積載物の質量を含む。
【0142】
なお、本実施の形態において、垂直荷重(座面に垂直な成分)を計測する荷重計を使用しているが、水平成分も計測することができる荷重計を用いてもよい。この場合、車体傾斜角θ1 の値を用いることなく、搭乗部質量mS を決定することができる。
【0143】
また、前記式(19)によって求められる搭乗部質量mS に対して、ローパスフィルタをかけて、高周波成分を取り除くようにしてもよい。これにより、ノイズに起因する車体やシートの振動をなくすことができる。
【0144】
さらに、車両本体の質量m1 については、搭乗部質量の標準値(想定に基づいてあらかじめ設定した値)との差を加えておく。また、初期(起立制御の開始時)においては、車体傾斜角θ1 として、設計値、又は、前回の乗降停止制御終了時に記憶した値を使用する。
【0145】
なお、本実施の形態においては、車体質量m1 についてのみ、搭乗部質量変動の影響を考慮しているが、車体の重心距離l1 についても、搭乗部質量変動の影響を考慮して、補正するようにしてもよい。また、本実施の形態においては、搭乗部質量変動が直接影響するパラメータのみを修正しているが、例えば、フィードバックゲインについても、その影響を考慮して、修正してもよい。また、例えば、前記式(4)、(8)、(13)及び(18)におけるフィードバックゲインKS7について、次の式(20)に従って修正するようにしてもよい。なお、記号[x]はxの標準値を表す。
KS7=(mS /[mS ])[KS7] ・・・式(20)
そして、前記式(19)によって搭乗部質量mS を決定すると、主制御ECU21は、ステップS53からステップS58までの処理を実行する。なお、ステップS53からステップS58までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS11からステップS16までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0146】
ただし、重心補正位置λS,n を決定する前記式(3)においては、ステップS52で決定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0147】
続いて、車両本体の重心Pが駆動輪の接地点S1を通る鉛直線V上に移動すると、主制御ECU21は、ステップS51及びS52の場合と同様に、シート荷重計73から、シートに作用する垂直荷重(搭乗部荷重Ws)を取得し(ステップS59)、搭乗部質量mS を前記式(19)によって決定する(ステップS60)。
【0148】
そして、前記式(19)によって搭乗部質量mS を決定すると、主制御ECU21は、ステップS61からステップS65までの処理を実行する。なお、ステップS61からステップS65までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS21からステップS25までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0149】
ただし、車体傾斜角目標値θ1 * を決定する前記式(7)においては、ステップS60で決定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0150】
次に、乗降停止制御について説明する。
【0151】
図11は本発明の第2の実施の形態における乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【0152】
まず、主制御ECU21は、ステップS51及びS52の場合と同様に、シート荷重計73から、シートに作用する垂直荷重(搭乗部荷重WS )を取得し(ステップS71)、搭乗部質量mS を前記式(19)により決定する(ステップS72)。
【0153】
そして、前記式(19)によって搭乗部質量mS を決定すると、主制御ECU21は、ステップS73からステップS78までの処理を実行する。なお、ステップS73からステップS78までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS31からステップS36までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0154】
ただし、重心補正位置λS,n を決定する前記式(11)及び車体傾斜角目標値θ1 * を決定する前記式(12)においては、ステップS72で決定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0155】
そして、ステップS71からステップS78までの倒立状態から乗降停止状態に到るまでの処理が完了すると、続いて、主制御ECU21は、ステップS71及びS72の場合と同様に、シート荷重計73から、シートに作用する垂直荷重(搭乗部荷重WS )を取得し(ステップS79)、搭乗部質量mS を前記式(19)により決定する(ステップS80)。
【0156】
前記式(19)によって搭乗部質量mS を決定すると、主制御ECU21は、ステップS81からステップS85までの処理を実行する。なお、ステップS81からステップS85までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS41からステップS45までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0157】
ただし、乗降補助位置λS,end を決定する前記式(17)においては、ステップS80で決定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0158】
なお、本実施の形態においては、起立制御及び乗降停止制御の途中で搭乗部質量が変化した場合に対応するために、制御内で毎回搭乗部荷重を取得する例について説明したが、制御を開始する前に、1度だけ荷重を計測するようにしてもよい。この場合、制御中の質量変化には対応することができないが、制御の安定性を向上させることができる。
【0159】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0160】
図12は本発明の第3の実施の形態における起立制御の動作を示すフローチャートである。
【0161】
前記第2の実施の形態においては、搭乗部質量mS (及び、車体質量m1 )の値をシート荷重計73による実測値に基づき、前記式(19)によって算出する例について説明したが、本実施の形態においては、搭乗部質量を推定し、その推定値に応じて制御パラメータを補正するようになっている。なお、前記搭乗部質量は、例えば、状態オブザーバによって推定することができる。また、本実施の形態における車両制御システムは、図3に示されるような前記第1の実施の形態における車両制御システムと同様である。
【0162】
まず、起立制御の動作について説明する。
【0163】
起立制御が開始されると、主制御ECU21は、まず、搭乗部質量を推定する(ステップS91)。この場合、主制御ECU21は、シート移動の状態から、シート移動モデルを示す次の式(21)により、搭乗部質量mS を推定する。
mS =(−SS ±SS,f0+Cs{λS })/gsinθ1 ・・・式(21)
ただし、SS,f0は乾性摩擦であり、あらかじめ設定された値である。また、gは重力加速度であり、Csはシート移動に対する粘性摩擦係数である。なお、起立制御の開始時には、オブザーバの初期値として搭乗部質量にあらかじめ定められた標準値を与える。
【0164】
前記式(21)によれば、例えば、一定のシート移動速度{λS }において、シート移動に要する推力SS が大きいほど、大きな搭乗部質量mS が推定される。
【0165】
なお、前記式(21)によって示されるシート移動モデルでは、慣性を考慮しておらず、また、乾性摩擦も重量に依存しない一定値としているが、それらを厳密に考慮した、より詳細なモデルを用いて搭乗部質量mS を推定してもよい。さらに、前記式(21)によって求まる搭乗部質量mS に対して、ローパスフィルタをかけて、高周波成分を取り除くようにしてもよい。これにより、オブザーバを安定化させるとともに、ノイズに起因する車体やシートの振動をなくすことができる。
【0166】
そして、前記式(21)によって搭乗部質量mS を推定すると、主制御ECU21は、ステップS92からステップS97までの処理を実行する。なお、ステップS92からステップS97までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS11からステップS16までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0167】
ただし、重心補正位置λS,n を決定する前記式(3)においては、ステップS91で推定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0168】
そして、車両本体の重心Pが駆動輪11の接地点S1を通る鉛直線V上に移動すると、主制御ECU21は、再び搭乗部質量mS を推定する(ステップS98)。すなわち、主制御ECU21は、車体傾斜の状態(θ1 )から、車体傾斜モデルを示す次の式(22)により、搭乗部質量mS を推定する。
mS =((τW /g)−mC l1 sinθ1 )/(l1 sinθ1 +λS cosθ1 )
・・・式(22)
ただし、mC は車体重量の非変動分であり、[m1 ]−[mS ]で表される。なお、記号[x]はxの標準値を表す。また、なお、ステップS98からステップS103の制御の開始時には、オブザーバの初期値として搭乗部質量にあらかじめ定められた標準値を与える。
【0169】
前記式(22)によれば、例えば、一定の車体傾斜角θ1 及びシート位置λS において、車体起立に要するトルクτW が大きいほど、大きな搭乗部質量mS が推定される。
【0170】
なお、前記式(22)によって示される車体傾斜モデルでは、慣性や摩擦を考慮していないが、これらを厳密に考慮した、より詳細なモデルを用いて搭乗部質量mS を推定してもよい。また、駆動輪の回転など、別の力学系から推定してもよい。さらに、前記式(22)によって求まる搭乗部質量mS に対して、ローパスフィルタをかけて、高周波成分を取り除くようにしてもよい。これにより、オブザーバを安定化させるとともに、ノイズに起因する車体やシートの振動を抑制することができる。
【0171】
そして、前記式(22)によって搭乗部質量mS を推定すると、主制御ECU21は、S99からステップS103までの処理を実行する。なお、ステップS99からステップS103までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS21からステップS25までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0172】
ただし、車体傾斜角目標値θ1 * を決定する前記式(7)においては、ステップS98で推定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0173】
次に、乗降停止制御について説明する。
【0174】
図13は本発明の第3の実施の形態における乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【0175】
まず、主制御ECU21は、搭乗部質量を推定する(ステップS111)。この場合、主制御ECU21は、起立制御において車体傾斜モデルを示す前記式(22)により、搭乗部質量mS を推定する。
【0176】
続いて、主制御ECU21は、ステップS112からステップS117までの処理を実行する。なお、ステップS112からステップS117までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS31からステップS36までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0177】
ただし、重心補正位置λS,n を決定する前記式(11)及び車体傾斜角目標値θ1 * を決定する前記式(12)においては、ステップS111で推定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0178】
そして、ステップS111からステップS117までの倒立状態から乗降停止状態に到るまでの処理が完了すると、続いて、主制御ECU21は、搭乗部質量mS を推定する(ステップS118)。この場合、主制御ECU21は、前記式(21)により、搭乗部質量mS を推定する。
【0179】
続いて、主制御ECU21は、ステップS119からステップS123までの処理を実行する。なお、ステップS119からステップS123までの処理は、前記第1の実施の形態におけるステップS41からステップS45までの処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0180】
ただし、乗降補助位置λS,end を決定する前記式(17)においては、ステップS118で推定した搭乗部質量mS (及び車体質量m1 )の値を用いる。
【0181】
このように、本実施の形態における起立制御及び乗降停止制御については、制御ループと同じループ内(同じ周期)で搭乗部質量mS の推定を行っているが、別のループ(周期)で推定を行ってもよい。例えば、計算量が多い場合には、推定計算の周期を大きくしてもよい。
【0182】
また、本実施の形態においては、力学的モデルに基づくオブザーバによって、搭乗部質量mS を推定しているが、より簡単な方法を用いてもよい。例えば、前記式(21)に代えて、シートを動かすのに最低減必要な推力とそのときの搭乗部質量mS との関係を計測した結果を、あらかじめマップとして記憶しておき、該マップを用いて推定を行ってもよい。
【0183】
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第3の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0184】
図14は本発明の第4の実施の形態における車両制御システムの構成を示すブロック図、図15は本発明の第4の実施の形態におけるバッテリの放電特性を示す図、図16は本発明の第4の実施の形態におけるバッテリの端子電圧の変化を示す図である。
【0185】
本実施の形態において、車両制御装置としての車両制御システムは、乗員重量、及び、エネルギ残量としてのバッテリの充電量に応じて、駆動源としての駆動モータ12の起動制御を行うようになっている。そのため、図14に示されるように、車両制御システムは、バッテリ情報取得装置91及び位置測定システム80を有する。
【0186】
前記バッテリ情報取得装置91は、具体的には、バッテリの端子電圧を取得する電圧計等を含む装置であり、端子電圧に基づいてバッテリの充電量を示すSOC(State of Charge:充電状態)を把握することができる。
【0187】
また、前記位置測定システム80は、GPS(Global Positioning System)センサ等のように車両の現在位置を測定する現在位置取得装置81、乗員が操作して目的地等の情報を入力する地図情報入力装置82、及び、各種情報を記憶する記憶装置83を備える。そして、該記憶装置83は、一般の自動車等に搭載されている車両用ナビゲーション装置が備えるものと同様の地図データを記憶する地図データ記憶部83aと、自宅等のようにあらかじめ登録された登録地点の情報を記憶する登録地点記憶部83bとを含んでいる。
【0188】
前記現在位置取得装置81は、例えば、人工衛星(GPS衛星)から送信された電波を受信することによって地球上における車両の現在位置を測定する。また、前記地図データ記憶部83aは、道路の幅員、勾(こう)配、カント、高度、バンク、路面の状態等を含む地図データや、経路探索に必要なリンクデータ、ノードデータ等の探索データを記憶する。そのため、地図データ記憶部83aを参照することによって、現在位置取得装置81により測定された車両の現在位置から入力された目的地までの経路を探索し、前記目的地までの距離等を算出することができる。
【0189】
また、車両制御システムは、一般の自動車等に搭載されている車両用ナビゲーション装置が備える表示装置及び音声出力装置と同様の図示されない表示装置及び音声出力装置を有することが望ましい。この場合、探索された目的地までの経路は、前記表示装置に表示されるとともに、音声出力装置から音声ガイダンスが出力されることによって案内される。さらに、前記表示装置が、タッチパネルのような入力機能を兼ね備えるものである場合には、前記地図情報入力装置82としても機能する。この場合、乗員は、前記表示装置の画面に表示された地図上の地点にタッチすることによって、目的地等の情報を容易に入力することができる。なお、目的地が自宅等のような登録地点である場合には、登録地点をリスト表示させ、リスト表示された登録地点の中から選択するだけで目的地を入力することができる。
【0190】
そして、主制御ECU21は、シート荷重計73が取得した搭乗部荷重、及び、バッテリ情報取得装置91が取得したバッテリの端子電圧に基づいて走行可能距離を算出する。なお、搭乗部荷重の変動部分は乗員重量であるから、走行可能距離の算出に必要な搭乗部荷重は実質的に乗員重量である。また、主制御ECU21が備える図示されない半導体メモリ等の記憶手段には、乗員重量、バッテリの端子電圧及び走行可能距離の相互関係を示すデータがマップの形式であらかじめ記憶されている。
【0191】
図15は、バッテリの放電特性を示す図であり、具体的には、市販されている定格負荷電流が30〔A〕のリチウムイオン電池の放電特性を示す図である。なお、縦軸はバッテリの端子電圧〔V〕を示し、横軸はバッテリの放電時間〔分〕を示している。また、曲線αは負荷電流が定格負荷電流の50〔%〕である場合の放電特性を示し、曲線βは負荷電流が定格負荷電流の100〔%〕である場合の放電特性を示し、曲線γは負荷電流が定格負荷電流の200〔%〕である場合の放電特性を示し、曲線δは負荷電流が定格負荷電流の400〔%〕の電流を出力した場合の放電特性を示している。
【0192】
図15に示される曲線α〜δから、負荷電流が大きくなるほど放電時間が短くなることが分かる。一方、搭乗部質量mS が大きくなるほど、駆動モータ12の負荷が大きくなり、バッテリから駆動モータ12に供給する電流を大きくしなければならないのであるから、乗員重量が増加するほどバッテリの負荷電流が大きくなる。したがって、バッテリの充電量が同一であれば、すなわち、端子電圧が同一であれば、バッテリから供給される電流によって駆動モータ12を駆動することにより車両が走行可能な距離は、乗員重量が増加するほど短くなる。
【0193】
よって、図16に示されるようなバッテリの端子電圧と車両の走行可能距離との関係を得ることができる。なお、縦軸はバッテリの端子電圧〔V〕を示し、横軸は車両の走行可能距離〔km〕を示している。また、各曲線は、乗員重量が40〔kg〕、60〔kg〕、80〔kg〕及び120〔kg〕の場合を示している。図16から、バッテリの端子電圧及び乗員重量に基づいて車両の走行可能距離を算出可能であることが分かる。
【0194】
そして、主制御ECU21が備える記憶手段には、図16に示されるようなバッテリの端子電圧、乗員重量及び車両の走行可能距離の相互関係を示すマップがあらかじめ記憶されているので、主制御ECU21は、バッテリ情報取得装置91が取得したバッテリの端子電圧と、シート荷重計73が取得した搭乗部荷重に含まれる乗員重量とに基づいて、車両の走行可能距離を算出することができる。
【0195】
なお、その他の点の構成については、前記第1〜第3の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0196】
次に、本実施の形態における車両制御システムの動作について説明する。ここでは、車両を起動する場合の動作についてのみ説明する。
【0197】
図17は本発明の第4の実施の形態における車両制御システムの動作を示すフローチャートである。
【0198】
まず、乗員が起動・降車スイッチ32の起動指示スイッチをONにすると、車両の電源がONとなり、主制御ECU21は、乗員が乗車したことを検出する(ステップS131)。
【0199】
続いて、シート荷重計73が搭乗部荷重を検出し、これにより、乗員の体重、すなわち、乗員重量の検出が行われ(ステップS132)、主制御ECU21はシート荷重計73から乗員重量を取得する。なお、該乗員重量の取得は、前記第2及び第3の実施の形態において説明した起立制御の動作と同様にして取得することができる。また、バッテリ情報取得装置91がバッテリの端子電圧を検出し(ステップS133)、主制御ECU21はバッテリ情報取得装置91からバッテリの端子電圧を取得する。
【0200】
続いて、主制御ECU21は、走行可能距離X〔km〕を算出する(ステップS134)。この場合、主制御ECU21は、記憶手段にあらかじめ格納されているバッテリの端子電圧、乗員重量及び車両の走行可能距離の相互関係を示すマップに従い、取得した乗員重量及びバッテリの端子電圧の値から走行可能距離X〔km〕を算出する。さらに、位置測定システム80が車両の現在位置を測定し、主制御ECU21は位置測定システム80から車両の現在位置を取得する(ステップS135)。
【0201】
続いて、主制御ECU21は、乗員が地図情報入力装置82を操作して目的地を入力したか否かを判断する(ステップS136)。そして、目的地を入力した場合、主制御ECU21は、車両の現在位置から目的地までの距離Y〔km〕を算出する(ステップS137)。この場合、主制御ECU21は、現在位置取得装置81が測定した車両の現在位置から目的地までの経路を探索し、探索された経路に沿った車両の現在位置から目的地までの距離を算出する。なお、経路の探索及び距離の算出は、一般の車両用ナビゲーション装置と同様の方法によって行われるので、その説明は省略する。
【0202】
続いて、主制御ECU21は、走行可能距離X〔km〕が現在位置から目的地までの距離Y〔km〕より長いか否かを判断する(ステップS138)。そして、走行可能距離X〔km〕が現在位置から目的地までの距離Y〔km〕より長い場合には現在のバッテリの充電量で目的地に到達することが可能なので、主制御ECU21は、車両を起動し(ステップS139)、処理を終了する。
【0203】
一方、乗員が目的地を入力したか否かを判断し、目的地を入力しなかった場合、主制御ECU21は、走行可能距離X〔km〕が必要走行距離である5〔km〕より長いか否かを判断する(ステップS140)。なお、前記必要走行距離は、最小限の走行可能距離であるが、必ずしも5〔km〕である必要はなく、任意に設定することができる。そして、走行可能距離X〔km〕が5〔km〕より長い場合には現在のバッテリの充電量で必要走行距離を走行することが可能なので、主制御ECU21は、車両を起動して処理を終了する。
【0204】
また、走行可能距離X〔km〕が5〔km〕より長くない場合には現在のバッテリの充電量で必要走行距離を走行することが不可能なので、主制御ECU21は、車両を起動せずに、充電要求を行い(ステップS141)、例えば、表示装置にバッテリの充電を促すメッセージを表示したり、音声出力装置からバッテリの充電を促す音声ガイダンスを出力したりすることによって、乗員に対しバッテリの充電を要求する。なお、走行可能距離X〔km〕が現在位置から目的地までの距離Y〔km〕より長いか否かを判断して長くない場合にも、主制御ECU21は、車両を起動せずに、充電要求を行う。
【0205】
そして、バッテリの充電が行われると(ステップS142)、主制御ECU21は、ステップS131に戻り、乗員が乗車したことを検出し、以降の動作を繰り返す。
【0206】
なお、その他の点の動作については、前記第1〜第3の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0207】
このように、本実施の形態においては、乗員重量及びバッテリの端子電圧を検出し、検出された乗員重量及びバッテリの端子電圧に対応する走行可能距離X〔km〕を算出し、該走行可能距離X〔km〕が現在位置から目的地までの距離Y〔km〕又は必要走行距離より長い場合に車両を起動するようになっている。すなわち、走行可能距離X〔km〕が現在位置から目的地までの距離Y〔km〕又は必要走行距離以下である場合に車両の起動を禁止する。これにより、走行の途中でバッテリが過放電状態となって駆動モータ12が停止する事態を未然に防止することができる。したがって、車両の走行状態の安定性を確保することができ、乗員の乗り心地及び快適性を維持することができる。
【0208】
なお、走行可能距離X〔km〕を算出した後に、該走行可能距離X〔km〕を表示装置に表示することもできる。これにより、乗員は車両の起動前に走行可能距離X〔km〕を把握することができるので、安心して走行することができる。
【0209】
また、目的地の入力が行われる前に、表示装置の画面に表示された地図上に走行可能距離X〔km〕に該当する範囲を表示することもできる。さらに、前記表示装置の画面に走行可能距離X〔km〕に該当する範囲内の地図のみを表示することもできる。これにより、乗員は走行可能距離X〔km〕に該当する範囲を具体的に把握することができる。
【0210】
さらに、走行可能距離X〔km〕に該当する範囲外の目的地の入力を不可能にすることもできる。例えば、目的地が登録地点である場合、前記範囲外の目的地を登録地点のリスト表示から除外する。また、例えば、表示装置の画面に表示された地図上の地点にタッチして目的地を入力する場合には、前記範囲外の地点にタッチしても目的地として入力されないようにする。これにより、乗員は、安全に走行可能な目的地を設定することができ、かつ、充電時期の計画を効率的に立てることができる。
【0211】
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。なお、第1〜第4の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第4の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0212】
図18は本発明の第5の実施の形態におけるバッテリの端子電圧の変化を示す図、図19は本発明の第5の実施の形態におけるバッテリの端子電圧と乗員重量との関係を示す図である。
【0213】
本実施の形態においては、主制御ECU21が備える記憶手段に、前記第4の実施の形態と異なるマップがあらかじめ記憶されている。
【0214】
前記第4の実施の形態において説明した図16に示されるようなバッテリの端子電圧と車両の走行可能距離との関係から、乗員重量が同一であっても、車両の走行可能距離は、端子電圧が低いほど短くなることが分かる。よって、図18に示されるようなバッテリの端子電圧と車両の走行可能距離との関係を得ることができる。なお、縦軸はバッテリの端子電圧〔V〕を示し、横軸は車両の走行可能距離〔km〕を示している。また、曲線ε、ζ及びηの各々は、走行開始時、すなわち、走行可能距離が0〔km〕でのバッテリの端子電圧が異なる場合を示している。
【0215】
そして、図18に示されるようなバッテリの端子電圧と車両の走行可能距離との関係から、図19に示されるようなバッテリの端子電圧と乗員重量との関係を得ることができる。なお、縦軸は走行開始時のバッテリの端子電圧〔V〕を示し、横軸は乗員重量〔kg〕を示している。また、曲線κは走行可能距離が3〔km〕である場合の境界線を示し、曲線λは走行可能距離が5〔km〕である場合の境界線を示し、曲線μは走行可能距離が7〔km〕である場合の境界線を示している。さらに、横方向に延在する点線は、バッテリの上限電圧、すなわち、端子電圧の上限を示し、縦方向に延在する点線は、乗員重量の上限、すなわち、車両の搭乗部13に搭乗可能な乗員の重量の上限を示している。
【0216】
図19において、各曲線の上側の領域は該当する距離を走行可能な領域であり、各曲線の下側の領域は該当する距離を走行不可能な領域である。例えば、曲線λは走行可能距離が5〔km〕である場合の境界線であるから、バッテリの端子電圧を縦軸の座標値とし、乗員重量を横軸の座標値とする点を図19上にプロットした場合、当該点が曲線λより上側の領域内に位置するならば、バッテリの端子電圧及び乗員重量が当該点の座標値のときに、走行可能距離が5〔km〕よりも長いことを意味する。一方、当該点が曲線λより下側の領域内に位置するならば、バッテリの端子電圧及び乗員重量が当該点の座標値のときに、走行可能距離が5〔km〕よりも短いことを意味する。
【0217】
また、図19において、隣接する曲線同士が示す走行可能距離の間隔は2〔km〕であるが、該間隔がより微小な間隔となるように多数の曲線を密に描くことによって、前記プロットした点がいずれかの曲線上に位置することになる。したがって、当該点が位置する曲線を特定することによって、バッテリの端子電圧及び乗員重量が当該点の座標値のときの走行可能距離を取得することができる。
【0218】
そして、主制御ECU21が備える記憶手段には、図19に示されるようなバッテリの端子電圧、乗員重量及び車両の走行可能距離の相互関係を示すマップがあらかじめ記憶されているので、主制御ECU21は、バッテリ情報取得装置91が取得したバッテリの端子電圧と、シート荷重計73が取得した搭乗部荷重に含まれる乗員重量とに基づいて、特定の走行距離より長い距離を走行可能であるか否かを判断することができる。また、バッテリ情報取得装置91が取得したバッテリの端子電圧と、シート荷重計73が取得した搭乗部荷重に含まれる乗員重量とに基づいて、走行可能距離を取得することもできる。
【0219】
なお、その他の点の構成については、前記第4の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0220】
次に、本実施の形態における車両制御システムの動作について説明する。ここでは、車両を起動する場合の動作についてのみ説明する。
【0221】
図20は本発明の第5の実施の形態における車両制御システムの動作を示すフローチャートである。
【0222】
まず、車両の電源がONとなり、主制御ECU21が乗員が乗車したことを検出してから、バッテリの端子電圧を取得するまでのステップS151からステップS153までの動作は、前記第4の実施の形態におけるステップS131からステップS133までの動作と同様であるので、その説明を省略する。
【0223】
次に、位置測定システム80が車両の現在位置を測定し、主制御ECU21は位置測定システム80から車両の現在位置を取得する(ステップS154)。
【0224】
続いて、主制御ECU21は、乗員が地図情報入力装置82を操作して目的地を入力したか否かを判断する(ステップS155)。そして、目的地を入力した場合、主制御ECU21は、距離を算出する(ステップS156)。この場合、主制御ECU21は、前記第4の実施の形態におけるステップS137と同様に、現在位置取得装置81が測定した車両の現在位置から目的地までの経路を探索し、探索された経路に沿った車両の現在位置から目的地までの距離を算出する。
【0225】
続いて、主制御ECU21は、目的地まで走行可能であるか否かを判断する(ステップS157)。この場合、主制御ECU21は、記憶手段にあらかじめ格納されているバッテリの端子電圧、乗員重量及び車両の走行可能距離の相互関係を示すマップに従い、取得した乗員重量及びバッテリの端子電圧に基づいて、目的地までの距離より長い距離を走行可能であるか否かを判断する。つまり、図19において、取得した乗員重量及びバッテリの端子電圧を座標値とする点が、目的地までの距離に対応する曲線の上側の領域内にプロットされたか否かによって、目的地まで走行可能であるか否かを判断することができる。
【0226】
そして、目的地まで走行可能である場合、主制御ECU21は、車両を起動し(ステップS158)、処理を終了する。
【0227】
一方、乗員が目的地を入力したか否かを判断し、目的地を入力しなかった場合、主制御ECU21は、必要走行距離を走行可能であるか否かを判断する(ステップS159)。なお、前記必要走行距離は、例えば、5〔km〕に設定された最小限の走行可能距離であるが、必ずしも5〔km〕である必要はなく、任意に設定することができる。この場合、図19において、取得した乗員重量及びバッテリの端子電圧を座標値とする点が、走行可能距離が5〔km〕である場合の曲線λの上側の領域内にプロットされたか否かによって、走行可能であるか否かを判断することができる。また、この場合、車両の現在位置の取得を省略することもできる。そして、必要走行距離を走行可能である場合、主制御ECU21は、車両を起動して処理を終了する。
【0228】
また、必要走行距離を走行可能でない場合には、主制御ECU21は、車両を起動せずに、充電要求を行う(ステップS160)。なお、目的地まで走行可能であるか否かを判断して走行可能でない場合にも、主制御ECU21は、車両を起動せずに、充電要求を行う。
【0229】
そして、バッテリの充電が行われると(ステップS161)、主制御ECU21は、ステップS151に戻り、乗員が乗車したことを検出し、以降の動作を繰り返す。
【0230】
なお、その他の点の動作については、前記第1〜第3の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0231】
このように、本実施の形態においては、乗員重量及びバッテリの端子電圧を検出し、検出された乗員重量及びバッテリの端子電圧に応じて目的地まで走行可能であるか否かを判断し、走行可能である場合に車両を起動するようになっている。すなわち、走行可能でない場合に車両の起動を禁止する。これにより、走行の途中でバッテリが過放電状態となって駆動モータ12が停止する事態を未然に防止することができる。したがって、車両の走行状態の安定性を確保することができ、乗員の乗り心地及び快適性を維持することができる。
【0232】
なお、目的地まで走行可能であるか否かの判断に代えて、目的地を経由して自宅まで走行可能であるか否かの判断を行うようにしてもよい。これにより、確実に自宅に戻ることができるので、乗員は安心して走行することができる。なお、目的地が登録された友人宅や充電スタンドである場合には、自宅まで走行可能であるか否かの判断を行わないようにすることが望ましい。
【0233】
また、前記第1〜第5の実施の形態においては、エネルギ源が二次電池である場合について説明したが、エネルギ源は燃料電池であってもよい。この場合、エネルギ残量は、燃料電池の燃料である水素、メタノール、天然ガス等の残量となる。また、駆動源として駆動モータ12に代えて、自動車用エンジン等の内燃機関を使用することもできる。この場合、エネルギ残量は、内燃機関の燃料であるガソリン、軽油等の残量となる。
【0234】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0235】
【図1】本発明の第1の実施の形態における車両の制御状態の概要を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図であり乗員が搭乗した状態で加速前進している状態を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における車両制御システムの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態における車両の起立・乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施の形態における起立制御でのシート位置目標値及び車体傾斜角目標値の時間変化を説明する図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態における起立制御の動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第1の実施の形態における乗降停止制御でのシート位置目標値及び車体傾斜角目標値の時間変化を説明する図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態における乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施の形態における車両制御システムの構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態における起立制御の動作を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第2の実施の形態における乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の第3の実施の形態における起立制御の動作を示すフローチャートである。
【図13】本発明の第3の実施の形態における乗降停止制御の動作を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第4の実施の形態における車両制御システムの構成を示すブロック図である。
【図15】本発明の第4の実施の形態におけるバッテリの放電特性を示す図である。
【図16】本発明の第4の実施の形態におけるバッテリの端子電圧の変化を示す図である。
【図17】本発明の第4の実施の形態における車両制御システムの動作を示すフローチャートである。
【図18】本発明の第5の実施の形態におけるバッテリの端子電圧の変化を示す図である。
【図19】本発明の第5の実施の形態におけるバッテリの端子電圧と乗員重量との関係を示す図である。
【図20】本発明の第5の実施の形態における車両制御システムの動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0236】
11a、11b 駆動輪
12 駆動モータ
13 搭乗部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が搭乗する搭乗部を備える車体と、
回転可能に該車体に取り付けられ、駆動源によって駆動される駆動輪と、
前記駆動源にエネルギを供給するエネルギ源とを備える車両を制御する車両制御装置であって、
前記乗員の重量を検出する乗員重量検出手段と、
前記エネルギ源のエネルギ残量を検出するエネルギ残量検出手段と、
検出された前記乗員の重量及び前記エネルギ残量に応じて前記車両の起動制御を行う制御手段とを有することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記乗員の重量及び前記エネルギ残量に基づいて走行可能距離を算出する走行可能距離算出手段を更に有し、
前記制御手段は、前記走行可能距離に応じて、前記車両の起動制御を行う請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
現在位置を検出する現在位置検出手段と、
目的地を入力する目的地入力手段と、
前記現在位置から目的地までの目的距離を算出する目的距離算出手段とを更に有し、
前記制御手段は、前記走行可能距離及び前記目的距離に応じて、前記車両の起動制御を行う請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記目的地が入力されたか否かを判断する判断手段を更に有し、
前記制御手段は、前記目的地が入力されていないと判断された場合、前記走行可能距離が所定距離以下であると前記車両の起動を禁止する請求項3に記載の車両制御装置。
【請求項1】
乗員が搭乗する搭乗部を備える車体と、
回転可能に該車体に取り付けられ、駆動源によって駆動される駆動輪と、
前記駆動源にエネルギを供給するエネルギ源とを備える車両を制御する車両制御装置であって、
前記乗員の重量を検出する乗員重量検出手段と、
前記エネルギ源のエネルギ残量を検出するエネルギ残量検出手段と、
検出された前記乗員の重量及び前記エネルギ残量に応じて前記車両の起動制御を行う制御手段とを有することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記乗員の重量及び前記エネルギ残量に基づいて走行可能距離を算出する走行可能距離算出手段を更に有し、
前記制御手段は、前記走行可能距離に応じて、前記車両の起動制御を行う請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
現在位置を検出する現在位置検出手段と、
目的地を入力する目的地入力手段と、
前記現在位置から目的地までの目的距離を算出する目的距離算出手段とを更に有し、
前記制御手段は、前記走行可能距離及び前記目的距離に応じて、前記車両の起動制御を行う請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記目的地が入力されたか否かを判断する判断手段を更に有し、
前記制御手段は、前記目的地が入力されていないと判断された場合、前記走行可能距離が所定距離以下であると前記車両の起動を禁止する請求項3に記載の車両制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−225564(P2009−225564A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67335(P2008−67335)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
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