説明

車両用エンジンの制御装置

【課題】無駄なピストン停止位置制御を抑制すること。
【解決手段】エンジン1の運転状態を判定する運転状態判定部101と、運転状態判定部101の判定に基づいて、少なくともエンジン1の自動停止と再始動制御とを司る燃焼制御部102と、停止中のエンジン1を始動アシスト可能な電動駆動装置としてのスタータ36と、運転状態判定部101の判定に基づく所定のアシスト条件が、再始動条件の成立時に成立した場合にスタータ36を駆動するスタータ制御部103とを備えている。燃焼制御部102は、エンジン停止条件が成立した場合において、再始動時に前記電動駆動装置の併用が見込まれる運転状態にあると運転状態判定部101が判定したときは、所定の制動処理(ステップS26等)を省略した簡易停止処理によってエンジン1を自動停止するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の自動停止条件が成立したときにエンジンを自動停止させ、その後、所定の再始動条件が成立したときにエンジンを自動的に再始動させる車両用エンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1、2に開示されているように、この種の車両用エンジンの制御装置において、所定のエンジン停止条件が成立したときにエンジンを自動停止し、該エンジンの自動停止後に所定の再始動条件が成立したときに、少なくともエンジン停止時に膨張行程にあった停止時膨張行程気筒で混合気を燃焼させてエンジンを再始動するものが知られている。
【0003】
エンジンを燃焼によって再始動するためには、停止時に膨張行程にあった停止時膨張行程気筒で得られる燃焼エネルギーを充分に確保することにより、これに続いて圧縮上死点を迎える停止時圧縮行程気筒がその圧縮反力に打ち勝って圧縮上死点を超えるようにしなければならない。そのためには停止時膨張行程気筒内に充分な空気量を確保しておく必要がある。またその空気を圧縮するために必要なエンジン逆回転エネルギーを得るためには、停止時圧縮行程気筒内にも一定量以上の空気量を確保しておく必要がある。
【0004】
かかる要請を充足させるために、特許文献1には、エンジンの自動停止時にスロットル弁の開度やオルタネータの制御によって、エンジンの制動と掃気を図る技術が開示されている。
【0005】
また、ピストンの停止位置は各気筒内の空気量のバランス等により決定される。そのため、エンジンの個体差やエンジンの温度および大気状態の変化に伴って、エンジン回転速度とピストンの停止位置との関係が変化する場合がある。このような場合には、予め設定したエンジン回転速度とピストンの停止位置との関係に基づいてオルタネータを制御してエンジン回転速度を調整しても、ピストンを所望の位置に停止することができない場合も少なくない。
【0006】
そこで、特許文献2に開示されている技術では、エンジンの停止後、再始動条件が成立した際に、エンジンの停止状況を判定し、判定結果が否定的な場合には、スタータ等の電動駆動装置でエンジンを再始動する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−293474号公報
【特許文献2】特開2004−245219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した各特許文献1、2に開示されている技術では、車両の運転状況に拘わらず、自動停止条件が成立した場合には、ピストンを所期の位置に停止させるための制御を実行することになる。しかし、上述のようなピストン停止位置制御は、エンジンの制動期間が相当長くなるため、電動駆動装置によって再始動が見込まれる運転状況下であるにも拘わらず、ピストン停止位置制御を画一的に実行することは時間的、経済的に好ましくない。
【0008】
本発明は上記不具合に鑑みてなされたものであり、無駄なピストン停止位置制御を抑制することのできる車両用エンジンの制御装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、所定のエンジン停止条件が成立したときにエンジンを自動停止し、該エンジンの自動停止後に所定の再始動条件が成立したときに、少なくともエンジン停止時に膨張行程にあった停止時膨張行程気筒で混合気を燃焼させて前記エンジンを再始動する車両用エンジンの制御装置において、前記エンジンの運転状態を判定する運転状態判定部と、前記運転状態判定部の判定に基づいて、少なくとも前記エンジンの自動停止と再始動制御とを司る燃焼制御部と、停止中のエンジンを始動アシスト可能な電動駆動装置と、前記運転状態判定部の判定に基づく所定のアシスト条件が、前記再始動条件の成立時に成立した場合に前記電動駆動装置を駆動する電動駆動装置制御部とを備え、前記燃焼制御部は、前記エンジン停止条件が成立した場合において、再始動時に前記電動駆動装置の併用が見込まれる運転状態にあると前記運転状態判定部が判定したときは、所定の制動処理を省略した簡易停止処理によって前記エンジンを自動停止するものであることを特徴とする車両用エンジンの制御装置である。この態様では、エンジンを自動停止する際、運転状況に応じて無駄なピストン停止位置制御を抑制することができる。すなわち、再始動時に前記電動駆動装置の併用が見込まれる運転状態では、ピストン停止位置を制御しても、徒に制動時間が長くなるだけで、再始動の効率化には何等寄与しないことになるが、本態様では、再始動時に電動駆動装置の併用が見込まれる運転状態にあると判定される場合には、所定の制動処理が省略された簡易停止処理によってエンジンが自動停止されるので、制動制御を単純化でき、制動時間が短くすることができる。
【0010】
好ましい態様において、前記燃焼制御部は、前記所定の制動処理として、前記エンジン停止条件の成立後に前記エンジンのアイドリング回転速度を所定速度に上昇させる回転速度制御処理を省略して前記簡易停止処理を実行するものである。この態様では、エンジンを自動停止する際、制動時間を短縮することができる。すなわち、ピストン停止位置を精緻に制御するためには、一旦、エンジンがアイドリングにあるときの回転速度を高め、その後の制動制御において、エンジン回転速度を低減することが好ましいのであるが、再始動時に電動駆動装置の併用が見込まれる場合には、そのようなピストン停止位置制御を実行する必要はないので、エンジン停止制御の初期に行われる回転速度制御処理を省略して、制動時間の短縮化を図ることができるのである。
【0011】
好ましい態様において、前記燃焼制御部は、前記エンジン停止条件が成立した場合において、燃料カット後の前記エンジンのスロットル開度を増加するものであるとともに、前記スロットル開度を、燃焼のみによる前記エンジンの再始動が見込まれる運転状態にあると前記運転状態判定部が判定したときは所定の第1の制動時開度に設定する一方、再始動時に前記電動駆動装置の併用が見込まれる運転状態にあると前記運転状態判定部が判定したときは前記第1の制動時開度よりも低い第2の制動時開度に設定するものである。この態様では、エンジンの燃焼再始動が見込まれる運転状態では、燃料カット後のエンジンのスロットル開度を所定の第1の制動時開度に増加し、充分な掃気を図るとともに、停止時膨張行程気筒での圧縮反力と停止時圧縮行程気筒での圧縮反力とを調整制御し、ピストン停止位置を所望の適正範囲内に停止させることができるとともに、再始動時に前記電動駆動装置の併用が見込まれる運転状態では、スロットル開度を第1の制動時開度よりも小さい第2の制動時開度に留めることによって、必要な掃気を図りつつ、スロットル開度の増加に伴う振動や燃費の悪化を抑制することができる。
【0012】
好ましい態様において、前記燃焼制御部は、前記エンジン停止条件が成立した場合には、燃料カット後に前記エンジンの発電機を一旦最大負荷に設定し、その後、前記発電機の負荷を所定の値まで低減するものであるとともに、前記発電機が最大負荷で運転される期間を、燃焼のみによる前記エンジンの再始動が見込まれる運転状態にあると前記運転状態判定部が判定したときは所定の第1の期間に設定する一方、再始動時に前記電動駆動装置の併用が見込まれる運転状態にあると前記運転状態判定部が判定したときは前記第1の期間よりも短い第2の期間に設定するものである。この態様では、発電機でエンジンの制動を図るに当たり、必要充分な制動期間でエンジンを停止することができる。すなわち、燃焼再始動が見込まれる運転領域では、発電機の作動時間を比較的長く設定して、エンジン回転速度を充分に低減し、所期の停止範囲にエンジンを停止することができるとともに、再始動時に前記電動駆動装置の併用が見込まれる運転状態では、発電機の作動時間を必要最低限の期間に短く設定して、電圧変動に伴うランプのちらつき等を可及的に防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明は、再始動時に電動駆動装置の併用が見込まれる運転状態にあると判定される場合には、所定の制動処理が省略された簡易停止処理によってエンジンが自動停止されるので、制動制御を単純化でき、制動時間が短くすることができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0015】
図1および図2は本発明の本実施形態に係る車両用エンジン1の概略構成を示す構成図である。
【0016】
各図に示すエンジン1は、4サイクル火花点火式ガソリンエンジンであって、4つの気筒12A〜12D(図2参照)が設けられている。また、各気筒12A〜12Dの内部には、図略のコネクティングロッドによってクランクシャフト3に連結されたピストン13が嵌挿されることにより、当該ピストン13の上方に燃焼室14が形成されている。各気筒12A〜12Dに設けられたピストン13は、所定の位相差をもってクランクシャフト3の回転に伴い上下運動を行うように構成されている。
【0017】
一般的に、多気筒4サイクルエンジンにおいては、各気筒が所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張、排気の各行程からなる燃焼サイクルを行うようになっている。本実施形態の4気筒エンジンの場合、気筒列方向一端側から1番気筒12A、2番気筒12B、3番気筒12C、4番気筒12Dと呼ぶと、1番気筒(#1)、3番気筒(#3)、4番気筒(#4)、2番気筒(#2)の順にクランク角で180度ずつの位相差をもって燃焼が行われるようになっている。さらに本実施形態では、エンジンの自動停止中に圧縮行程にあった気筒を停止時圧縮行程気筒、膨脹行程にあった気筒を停止時膨脹行程気筒と称する(同様に吸気行程にあった気筒を停止時吸気行程気筒、排気行程にあった気筒を停止時排気行程気筒と称する)。
【0018】
シリンダヘッド10には、各気筒12A〜12Dの燃焼室14の頂部に配置され、プラグ先端が燃焼室14内に臨むように点火プラグ15が設けられている。また、シリンダヘッド10には、燃焼室14の側方から内部に燃料を直接噴射する燃料噴射弁16が設けられている。この燃料噴射弁16は、図外のニードル弁およびソレノイドを内蔵し、エンジン制御ユニット100の燃焼制御部102(図3参照)から入力されたパルス信号のパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を上記点火プラグ15の電極付近に向けて噴射するように構成されている。
【0019】
また、各気筒12A〜12Dの上部には、燃焼室14に向かって開口する吸気ポート17および排気ポート18が設けられている。そして、これらのポート17、18と燃焼室14との連結部分には、吸気バルブ19および排気バルブ20がそれぞれ装備されている。この吸気ポート17および排気ポート18には、吸気通路21および排気通路22が接続されている。吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、図2に示すように、各気筒12A〜12Dに対応して独立した分岐吸気通路21aに分岐しており、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流側には共通吸気通路21cが設けられている。この共通吸気通路21cには、スロットルボディ24が設けられている。スロットルボディ24には、各気筒12A〜12Dに流入する空気量を調整可能なスロットル弁24aとこのスロットル弁24aを駆動するアクチュエータ24bと、アイドリング回転速度制御装置(ISC:Idling Speed Control device)24cとが設けられている。図示の実施形態において、ISC24cは、エンジン制御ユニット100の燃焼制御部102(図3参照)によって開弁量を変更可能な電磁駆動式のものである。スロットル弁24aの上流側および下流側には、それぞれ吸気流量を検出するエアフローセンサ25と、吸気圧力を検出する吸気圧センサ26とが設置されている。
【0020】
また、上記エンジン1には、図1に示すように、タイミングベルト等によりクランクシャフト3に連結された発電機としてのオルタネータ28が付設されている。このオルタネータ28は、図略のフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調節することにより発電量を調整するレギュレータ回路28aを内蔵し、このレギュレータ回路28aに入力されるエンジン制御ユニット100(図3参照)からの制御信号に基づき、車両の車両電気負荷および車載されたバッテリの電圧等に対応した発電量の制御が実行されるように構成されている。
【0021】
またエンジン1には、電動駆動装置としてのスタータ36が設けられている。このスタータ36は、モータ36a(電気モータ)とピニオンギア36dとを有し、エンジン1を駆動するものである。ピニオンギア36dの回転軸は、モータ36aの出力軸と同軸で、その回転軸に沿って往復移動する。またクランクシャフト3には、図略のフライホイールと、このフライホイールに固定されたリングギア35が、回転中心に対して同心に設けられている。そして、このスタータ36を用いてエンジンを始動する場合には、ピニオンギア36dが所定の噛合位置に移動して、リングギア35に噛合することにより、クランクシャフト3が回転駆動されるようになっている。
【0022】
スタータ36によってエンジンを始動させる形態には2通りある。第1の形態は運転者が図略のイグニションキースイッチを回してスタータ36を駆動させ、それによってエンジン1を始動させるものであり、キー始動と呼ばれるものである。第2の形態は、エンジンの自動停止後の再始動時に、エンジン制御ユニット100のスタータ制御部103(図3参照)が自動的にスタータ36を駆動させ、それによってエンジン1を始動させるものである。
【0023】
またエンジン1には、クランクシャフト3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30、31が設けられている。一方のクランク角センサ30から出力される検出信号(パルス信号)に基づいてエンジン回転速度Neが検出されるとともに、この両クランク角センサ30、31から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランクシャフト3の回転角度が検出されるようになっている。さらに、エンジン1には、吸気側カムシャフトの回転位置を検出するカム角センサ32と、冷却水温度を検出する水温センサ33と、運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ34とが設けられている。
【0024】
またエンジン1の各気筒24A〜24D内の空気密度状態を検出する空気密度状態検出手段として、エンジン制御ユニット100には、大気圧センサ39が接続されている。エンジン制御ユニット100は、大気圧センサ39による検出信号が高いほど、各気筒12A〜12D内の空気密度が高い状態であると判定する。
【0025】
図3は、本発明の本実施形態に係る車両のエンジン制御ユニット100を中心とする制御ブロック図である。図3では、特に本実施形態の説明に必要な部分のみを抽出して示している。
【0026】
エンジン制御ユニット100には、上述した各種のセンサやスイッチ類、すなわちエアフローセンサ25、吸気圧センサ26、クランク角センサ30、31、カム角センサ32、水温センサ33、アクセル開度センサ34、並びに大気圧センサ39等の入力要素からの信号が入力される。
【0027】
またエンジン制御ユニット100は、その制御対象である燃料噴射弁16、スロットル弁24a、点火装置27、オルタネータ28、スタータ36等の出力要素に対して制御信号を出力する。
【0028】
エンジン制御ユニット100は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェースおよびこれらを接続するバスを有するマイクロプロセッサで構成されている。そしてエンジン制御ユニット100は、燃焼制御部102、運転状態判定部101、スタータ制御部103、並びにオルタネータ制御部104を論理的に構成している。
【0029】
運転状態判定部101は、エアフローセンサ25、吸気圧センサ26、クランク角センサ30、31、カム角センサ32、水温センサ33、およびアクセル開度センサ34からのセンサ信号に基づきピストン13の位置や、筒内温度、或いはエンジン1が正転しているか否か等、種々の運転状態を判定するものである。
【0030】
この運転状態判定部101は、エンジン1が自動停止時しているときにおけるピストン13の停止位置を判定するものでもある。さらに運転状態判定部101に判定される運転状態としては、予めメモリに記憶されたデータに基づいて推定される各気筒の筒内温度や、アシスト条件、或いは燃焼再始動不可条件の成否も含まれる。
【0031】
アシスト条件とは、例えば、ピストン13の停止位置が予めメモリに記憶された所定の停止位置から外れている場合等に、スタータ36によるアシストを要するとされる条件をいう。
【0032】
また、燃焼再始動不可条件とは、エンジン1を自動停止させた後、エンジン1を燃焼によって再始動することができず、スタータ36のアシストが必要と見込まれる運転状態をいう。本実施形態において、燃焼再始動不可条件は、水温センサ33が検出したエンジン1の水温が80℃よりも高く110℃よりも低い場合、または、大気圧が標準大気圧(=1013hPa)よりも所定量低い高地、山岳地相当の値(例えば89.459hPa)の場合である。これらの運転状態においては、ピストン13の停止位置制御が困難であるか、または、停止時吸気行程気筒12Cにおいて、自着火(Autoignition)が生じやすい運転環境にあると判定されるので、燃焼のみによってエンジン1を再始動するのではなく、スタータ36を併用してエンジン1を再始動するように制御するためである。なお、本実施形態において、エンジン制御ユニット100のメモリには、フラグを記憶する記憶領域が設けられており、運転状態判定部101によって判定された運転状態が、燃焼再始動不可条件を満たしているときは、フラグFの値が1に設定され、それ以外の場合には、フラグFの値が0に設定されるようになっている。フラグFの初期値は、0に設定される。
【0033】
燃焼制御部102は、運転状態判定部101の判定に基づき、エンジン1の適正なスロットル開度(吸気量)、燃料噴射量とその噴射タイミング、および適正点火時期を設定し、その制御信号を燃料噴射弁16、スロットル弁24a(のアクチュエータ24b)、点火装置27に出力するものである。本実施形態においては、この燃焼制御部102の制御により、所定の自動停止条件が成立したときにエンジン1を自動停止させ、停止後、所定の再始動条件が成立したときに、エンジン1を自動的に再始動させるように構成されている。本実施形態では、再始動条件が成立したときに、エンジン1の自動停止時に膨張行程にあった停止時膨張行程気筒12B内での燃焼により自動的にエンジンを再始動させる燃焼再始動制御と、スタータ36を併用するスタータ併用再始動制御とのいずれかの制御方法が選択され実行される。
【0034】
スタータ制御部103は、キー始動時およびエンジン自動停止制御における再始動においてスタータ36の駆動が必要とされたときにスタータ36に駆動信号を送りスタータ36を駆動させるものである。
【0035】
オルタネータ制御部104は、オルタネータ28のDuty比を制御するものである。
【0036】
次に、本実施形態に係るエンジンの制御例について説明する。
【0037】
図4および図5は、本実施形態に係るエンジンの自動停止制御の一例を示すフローチャートである。また、図6は、図4および図5を実行した場合のエンジン回転速度を示すタイミングチャートである。なお、図6において、実線は、燃焼再始動不可条件が成立した場合の制御例を示しており、破線は、燃焼再始動不可条件が成立しなかった場合の制御例を示している。
【0038】
図4を参照して、エンジン制御ユニット100は、エンジン1の自動停止制御において、燃焼再始動不可条件に関するフラグFの値を初期化(F=0)する(ステップS20)。次いで、エンジン停止条件が成立するのを待機し(ステップS21)、成立した場合には、さらに、水温センサ33や大気圧センサ39のセンサ信号から、燃焼再始動不可条件の成否を判定する(ステップS22)。仮に、燃焼再始動不可条件が成立している場合、エンジン制御ユニット100は、フラグFの値を1に更新し(ステップS23)、スロットル開度Thを所定の制動時開度Th2(例えば、Th2=20%。第2の制動時開度)%に設定し(ステップS24)、オルタネータ28の駆動期間Taを所定の駆動期間Ta2(第2の駆動期間)設定する(ステップS25)。
【0039】
他方、ステップS22において、燃焼再始動不可条件が成立しないと判定した場合、エンジン制御ユニット100は、アイドリング回転速度を上昇する制御を実行する(ステップS26)。この制御により、エンジン1は、一旦、通常のアイドリング運転時の回転速度(例えば600rpm)よりも高い回転速度Ne(例えば、810rpm)で回転し、その後の制動制御の精度を高めることが可能になる。また、エンジン制御ユニット100は、スロットル開度Thを所定の制動時開度Th1(例えば、Th1=30%。第1の制動時開度)%に設定し(ステップS27)、オルタネータ28の駆動期間Taを所定の駆動期間Ta1(第1の駆動期間)設定する(ステップS28)。
【0040】
ステップS24、S25、S27、S28の各設定において、各設定値の関係は、
Th1>Th2、
Ta1>Ta2
になっている。
【0041】
次に、図5および図6を参照して、ステップS25またはステップS28までの処理が終了すると、エンジン制御ユニット100は、タイミングt1で、燃料カットを実行するとともに、スロットル開度をThに制御する(ステップS31)。この結果、エンジン1は、タイミングt1から減速することになるのであるが、運転状態が燃焼再始動不可条件を満たしている場合、ステップS26で示したアイドル回転速度の上昇制御が省略された簡易停止処理によってエンジン1が制動されるので、エンジン停止条件が成立したタイミングt0からタイミングt1までの期間を可及的に短縮することができる。他方、燃焼再始動不可条件を満たしていない場合、エンジン制御ユニット100は、ステップS26で示したアイドル回転速度の上昇制御を実行した後、燃料カット制御等を実行するので、精緻なピストン停止制御を実行できる反面、タイミングt0からタイミングt1までの期間は比較的長くなる。他方、このステップS31で設定されるスロットル開度Thは、燃焼再始動不可条件の成否によって異なっている(ステップS24、S27)。このため、本実施形態では、燃焼再始動不可条件が成立していない場合には、スロットル開度Thが比較的高い第1の制動時開度Th1に設定されるので、ブースト圧を上昇させ、充分な掃気を図ることができる一方、燃焼再始動不可条件が成立している場合には、第1の制動時開度Th1よりも低い第2の制動時開度Th2にスロットル開度Thが設定されるので、エンジン1の振動、特に、車両とのマウント部分における共振を防止し、騒音等を抑制することができる。
【0042】
燃料カットによって、エンジン1は減速する。エンジン制御ユニット100は、エンジン1が所定の回転速度N1以下に減速するのを待機する(ステップS32)。エンジン1が回転速度N1以下に減速すると、そのタイミングt2にて、エンジン制御ユニット100は、オルタネータ駆動Duty比を100%に増加する(ステップS33)。このDuty比の増加により、エンジン1の回転速度Neは、一層低減する。次いでスロットル開度Thを上述した設定値よりも低いTh3に低減するのであるが、本実施形態では、エンジン1の回転速度Neに基づいてスロットル開度Thを制御するのではなく、オルタネータ28の駆動Duty比を100%に変更したタイミングt2からの駆動期間Taで決定される。そして、駆動期間Taは、燃焼再始動不可条件が不成立の場合には、比較的長い第1の駆動期間Ta1に設定される一方、燃焼再始動不可条件が成立している場合には、第1の駆動期間Ta1よりも短いTa2に設定される(ステップS25、S28)。この結果、燃焼再始動不可条件が不成立の場合には、オルタネータ28によって、エンジン1を確実に制動できる一方、燃焼再始動不可条件が成立している場合には、オルタネータ28の負荷上昇に伴うランプのちらつき等を防止することができる。
【0043】
駆動期間Taを過ぎると、スロットル開度Thは、第2の制動時開度Th2よりも低いC%(例えば、C=10%)に設定される(ステップS35、S36)。この制御により、タイミングt3からやや遅れてブースト圧Btが減少し始め、エンジン1の各気筒12A〜12Dに吸入される吸気流量が減少する。スロットル弁24aを開放しているタイミングt1からタイミングt2までの間に吸入された空気は、共通吸気通路21cおよびサージタンク21bを経由して各気筒12A〜12Dの分岐吸気通路21aに導かれる。そして吸気行程を迎えた気筒12A〜12Dから順にその空気を吸入することになる。
【0044】
エンジン回転速度Neがさらに低下し、最後の圧縮上死点通過タイミング(図6に示すタイミングt4)を過ぎると、何れの気筒12A〜12Dも上死点を通過することがなく、行程の遷移はなされなくなる。ピストン13は、その行程内で減衰振動(逆向きに動くときはクランクシャフト3が逆転し、エンジン回転速度Neが負になる)する。
【0045】
そのため、エンジン制御ユニット100は、エンジン1の回転速度Neが、所定の基準速度N2以下に下がるのを待機する(ステップS37)。
【0046】
そして、回転速度Neが基準速度N2以下に低減した場合には、タイミングt4と略同時(やや遅らせてもよい)にスロットル弁24aの開度Thを例えば40%程度まで増大させる等、オルタネータ28の駆動Duty比をエンジン回転速度Neに応じて制御するようにし(ステップS38)、エンジン1が停止するまで、オルタネータ28の駆動Duty比の制御を繰り返すようにしている(ステップS39)。これによって停止時圧縮行程気筒12Aや停止時圧縮行程気筒12Aにおける吸気流量バランスに影響を及ぼすことなく、そのバランスに応じた狙いの位置にピストン13がより停止しやすくなっている。
【0047】
なお、ステップS37以降の制御は、フラグFが1のとき、すなわち、燃焼再始動不可条件が成立している場合には省略してもよい。
【0048】
図6を参照して、上述した制御手順では、燃焼再始動不可条件が成立している場合には、アイドル回転速度制御(ステップS26)等を省略した簡易停止処理によってエンジン1を制動することができるので、制動時間を短縮でき、しかも、燃費の低下を抑制することが可能になる。
【0049】
図7は、本実施形態に係るエンジン再始動時の制御例を示すフローチャートである。
【0050】
図7を参照して、エンジン制御ユニット100は、エンジン1の停止後に再始動条件が成立するのを待機する(ステップS40)。再始動条件は、例えば運転者によるアクセル操作をアクセル開度センサ34で検出する等によって判定される。
【0051】
再始動条件が成立した場合、エンジン制御ユニット100は、フラグFの値を参照し、フラグFの値が0であるか否かを判別する(ステップS41)。仮にフラグFの値が1である場合、すなわち、燃焼再始動不可条件が成立していた場合、エンジン制御ユニット100は、直ちにスタータ併用再始動サブルーチンを実行する(ステップS42)。他方、フラグFの値が0である場合、すなわち、燃焼再始動不可条件が成立していない場合、エンジン制御ユニット100は、さらに、ピストン13が所定の停止位置に停止しているか否かを判定し(ステップS43)、所定の停止位置に停止していない場合には、スタータ併用再始動サブルーチン(ステップS42)を実行する一方、停止している場合には、燃焼再始動サブルーチンを実行する(ステップS44)。フラグFの値が1である場合や、ピストン13が所定の停止位置に停止していない場合には、燃焼再始動制御を実行しても、エンジン1を燃焼のみによって駆動することは困難であるので、燃焼再始動サブルーチンに至るまでに、ステップS41、S43のような判定を行ない、燃焼再始動に適した状態でエンジン1が停止している場合にのみ、燃焼再始動サブルーチンを実行するようにしているのである。
【0052】
燃焼再始動サブルーチン、スタータ併用再始動サブルーチン自体は、公知の技術によって実施可能であるので、その詳細については説明を省略する。
【0053】
これらサブルーチンの何れかを実行した後、エンジン制御ユニット100は、公知の通常運転サブルーチンを実行し(ステップS45)、処理を終了する。
【0054】
以上説明したように本実施形態では、エンジン1を自動停止する際、運転状況に応じて無駄なピストン停止位置制御を抑制することができる。すなわち、再始動時にスタータ36の併用が見込まれる運転状態では、ピストン停止位置を制御しても、徒に制動時間が長くなるだけで、再始動の効率化には何等寄与しないことになるが、本実施形態では、再始動時にスタータ36の併用が見込まれる運転状態にあると判定される場合、すなわち、燃焼再始動不可条件が成立している場合には、所定の制動処理が省略された簡易停止処理によってエンジン1が自動停止されるので、制動制御を単純化でき、制動時間が短くすることができる。
【0055】
また本実施形態では、燃焼制御部102は、所定の制動処理として、エンジン停止条件の成立後にエンジン1のアイドリング回転速度を所定速度に上昇させる回転速度制御処理を省略して簡易停止処理を実行するものである。このため本実施形態では、エンジン1を自動停止する際、制動時間を短縮することができる。すなわち、ピストン停止位置を精緻に制御するためには、一旦、エンジン1がアイドリングにあるときの回転速度を高め、その後の制動制御において、エンジン1回転速度を低減することが好ましいのであるが、再始動時にスタータ36の併用が見込まれる場合には、そのようなピストン停止位置制御を実行する必要はないので、エンジン停止制御の初期に行われる回転速度制御処理を省略して、制動時間の短縮化を図ることができるのである。
【0056】
また本実施形態では、燃焼制御部102は、エンジン停止条件が成立した場合において、燃料カット後のエンジン1のスロットル開度Thを増加するものであるとともに、スロットル開度Thを、燃焼のみによるエンジン1の再始動が見込まれる運転状態にあると運転状態判定部101が判定したときは所定の第1の制動時開度Th1に設定する一方、再始動時にスタータ36の併用が見込まれる運転状態にあると運転状態判定部101が判定したときは第1の制動時開度Th1よりも低い第2の制動時開度Th2に設定するものである。このため本実施形態では、エンジン1の燃焼再始動が見込まれる運転状態では、燃料カット後のエンジン1のスロットル開度Thを所定の第1の制動時開度Th1に増加し、充分な掃気を図るとともに、停止時膨張行程気筒12Bでの圧縮反力と停止時圧縮行程気筒12Aでの圧縮反力とを調整制御し、ピストン停止位置を所望の適正範囲内に停止させることができるとともに、再始動時にスタータ36の併用が見込まれる運転状態では、スロットル開度Thを第1の制動時開度Th1よりも小さい第2の制動時開度Th2に留めることによって、必要な掃気を図りつつ、スロットル開度Thの増加に伴う振動や燃費の悪化を抑制することができる。
【0057】
また本実施形態では、燃焼制御部102は、エンジン停止条件が成立した場合には、燃料カット後にエンジン1の発電機としてのオルタネータ28を一旦最大負荷に設定し、その後、オルタネータ28の負荷を所定の値まで低減するものであるとともに、オルタネータ28が最大負荷で運転される期間を、燃焼のみによるエンジン1の再始動が見込まれる運転状態にあると運転状態判定部101が判定したときは所定の第1の期間Ta1に設定する一方、再始動時にスタータ36の併用が見込まれる運転状態にあると運転状態判定部101が判定したときは第1の期間Ta1よりも短い第2の期間Ta2に設定するものである。このため本実施形態では、オルタネータ28でエンジン1の制動を図るに当たり、必要充分な制動期間でエンジン1を停止することができる。すなわち、燃焼再始動が見込まれる運転領域では、オルタネータ28の作動時間を比較的長く設定して、エンジン回転速度Neを充分に低減し、所期の停止範囲にエンジン1を停止することができるとともに、再始動時にスタータ36の併用が見込まれる運転状態では、オルタネータ28の作動時間を必要最低限の期間に短く設定して、電圧変動に伴うランプのちらつき等を可及的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両用エンジンの概略構成を示す断面略図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る車両用エンジンの概略構成を示す平面略図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る車両のエンジン制御ユニットを中心とする制御ブロック図である。
【図4】本実施形態に係るエンジンの自動停止制御の一例を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態に係るエンジンの自動停止制御の一例を示すフローチャートである。
【図6】図4および図5を実行した場合のエンジン回転速度を示すタイミングチャートである。
【図7】本実施形態に係るエンジン再始動時の制御例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
1 車両用エンジン
12A 停止時圧縮行程気筒
12B 停止時膨張行程気筒
12C 停止時吸気行程気筒
24a スロットル弁
25 エアフローセンサ
26 吸気圧センサ
27 点火装置
28 オルタネータ
30、31 クランク角センサ
32 カム角センサ
33 水温センサ
34 アクセル開度センサ
35 リングギア
36 スタータ
39 大気圧センサ
100 エンジン制御ユニット
101 運転状態判定部
102 燃焼制御部
103 スタータ制御部
Ta 駆動期間
Ta1 第1の駆動期間
Ta2 第2の駆動期間
Th スロットル開度
Th1 第1の制動時開度
Th2 第2の制動時開度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のエンジン停止条件が成立したときにエンジンを自動停止し、該エンジンの自動停止後に所定の再始動条件が成立したときに、少なくともエンジン停止時に膨張行程にあった停止時膨張行程気筒で混合気を燃焼させて前記エンジンを再始動する車両用エンジンの制御装置において、
前記エンジンの運転状態を判定する運転状態判定部と、
前記運転状態判定部の判定に基づいて、少なくとも前記エンジンの自動停止と再始動制御とを司る燃焼制御部と、
停止中のエンジンを始動アシスト可能な電動駆動装置と、
前記運転状態判定部の判定に基づく所定のアシスト条件が、前記再始動条件の成立時に成立した場合に前記電動駆動装置を駆動する電動駆動装置制御部と
を備え、
前記燃焼制御部は、前記エンジン停止条件が成立した場合において、再始動時に前記電動駆動装置の併用が見込まれる運転状態にあると前記運転状態判定部が判定したときは、所定の制動処理を省略した簡易停止処理によって前記エンジンを自動停止するものである
ことを特徴とする車両用エンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用エンジンの制御装置において、
前記燃焼制御部は、前記所定の制動処理として、前記エンジン停止条件の成立後に前記エンジンのアイドリング回転速度を所定速度に上昇させる回転速度制御処理を省略して前記簡易停止処理を実行するものである
ことを特徴とする車両用エンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両用エンジンの制御装置において、
前記燃焼制御部は、前記エンジン停止条件が成立した場合において、燃料カット後の前記エンジンのスロットル開度を増加するものであるとともに、前記スロットル開度を、燃焼のみによる前記エンジンの再始動が見込まれる運転状態にあると前記運転状態判定部が判定したときは所定の第1の制動時開度に設定する一方、再始動時に前記電動駆動装置の併用が見込まれる運転状態にあると前記運転状態判定部が判定したときは前記第1の制動時開度よりも低い第2の制動時開度に設定するものである
ことを特徴とする車両用エンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の車両用エンジンの制御装置において、
前記燃焼制御部は、前記エンジン停止条件が成立した場合には、燃料カット後に前記エンジンの発電機を一旦最大負荷に設定し、その後、前記発電機の負荷を所定の値まで低減するものであるとともに、前記発電機が最大負荷で運転される期間を、燃焼のみによる前記エンジンの再始動が見込まれる運転状態にあると前記運転状態判定部が判定したときは所定の第1の期間に設定する一方、再始動時に前記電動駆動装置の併用が見込まれる運転状態にあると前記運転状態判定部が判定したときは前記第1の期間よりも短い第2の期間に設定するものである
ことを特徴とする車両用エンジンの制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−280919(P2008−280919A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125575(P2007−125575)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】