説明

車両用エンジンの制御装置

【課題】レンジポジションのニュートラルレンジへのシフトに拘わらず、エンジンを速やかに自動停止させ、レンジポジションがニュートラルレンジにシフトされたことに起因する低速域での制動の遅れを防止し、もって該低速域での共振による車体の振動を可及的に低減すること。
【解決手段】自動変速機50のレンジポジションを判別するレンジポジション判別手段と、エンジン1の自動停止制御中に自動変速機50のレンジポジションがドライブレンジからニュートラルレンジに変更された場合にエンジン1に対する外部負荷を増加させる外部負荷付与手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の自動停止条件が成立したときにエンジンを自動停止させ、その後、所定の再始動条件が成立したときにエンジンを自動的に再始動させる車両用エンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1、2に開示されているように、この種の車両用エンジンの制御装置において、所定のエンジン停止条件が成立したときにエンジンを自動停止し、該エンジンの自動停止後に所定の再始動条件が成立したときに、少なくともエンジン停止時に膨張行程にあった停止時膨張行程気筒で混合気を燃焼させてエンジンを再始動するものが知られている。そのようなエンジンの自動停止に際し、燃焼によってエンジンを円滑に再始動するためには、自動停止制御の際にピストンの停止位置を所期の適正範囲に収めることが要請される。
【0003】
そこで、特許文献1に開示された構成では、エンジンを自動停止させる際に、オルタネータの駆動Duty比を予め大きな値に設定された初期値に上昇させた後に低下させる制御を実行するとともに、駆動Duty比の低下量を燃料噴射の停止後に生じたエンジン回転速度の低下状態に対応した値に設定する自動停止制御手段を設けている。
【0004】
また、特許文献2に開示された構成では、三相インバータ回路によって発電と電動とが切り換えられる発電電動機を設け、エンジンのクランク角度が90°から180°または270°から360°の間では、発電電動機を電動駆動してクランクシャフトに逆トルクを与え、それ以外の位相では、発電電動機を発電駆動して、クランクシャフトに負荷を与えて、振動を吸収するようにしている。
【特許文献1】特開2005−315202号公報
【特許文献2】特開平9−133041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動変速機を採用した車両に自動停止/再始動システムを搭載した場合、エンジンが自動停止を開始すると、操縦者がレンジポジションをドライブレンジからニュートラルレンジにシフトする場合がある。そのようなレンジポジションのシフトが自動停止中に行われると、エンジンの制動力が低減し、エンジンが低回転速度になる期間が長くなって、エンジンマウントとの間に共振が生じやすくなることが、本件発明者らの鋭意研究の結果、分かってきた。
【0006】
本発明は上記不具合に鑑みてなされたものであり、レンジポジションのニュートラルレンジへのシフトに拘わらず、制動時間を可及的に低減し、もってエンジンの自動停止時の振動を防止することのできる車両用エンジンの制御装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、自動変速機が搭載された車両に設けられ、所定のエンジン停止条件が成立したときにエンジンを自動停止し、該エンジンの自動停止後に所定の再始動条件が成立したときに、少なくともエンジン停止時に膨張行程にあった停止時膨張行程気筒で混合気を燃焼させて前記エンジンを再始動する車両用エンジンの制御装置において、前記自動変速機のレンジポジションを判別するレンジポジション判別手段と、前記エンジンの自動停止制御中に前記自動変速機のレンジポジションがドライブレンジからニュートラルレンジに変更された場合に前記エンジンに対する外部負荷を増加させる外部負荷付与手段とを備えていることを特徴とする車両用エンジンの制御装置である。この態様では、エンジンの自動停止制御中にレンジポジションがドライブレンジからニュートラルレンジにシフトされると、エンジンに対する負荷が高まるので、エンジンの制動力が高まり、レンジポジションのニュートラルレンジへのシフトに拘わらず、エンジンを速やかに自動停止させることができる。この結果、レンジポジションがニュートラルレンジにシフトされたことに起因する低速域での制動の遅れを防止し、該低速域での共振による車体の振動を可及的に低減することができる。
【0008】
好ましい態様において、前記エンジンによって駆動され、給電要部に電力を供給する発電機を備え、前記外部負荷付与手段は、前記発電機の発電量を増加させることにより前記エンジンに対する外部負荷を増加させるものである。この態様では、外部負荷の具体的態様として、発電機を採用しているので、応答性を高めることができる。すなわち、車両に搭載されている一般的な負荷装置は、レンジポジションのシフトを検出してから負荷増加までに遅れが生じやすいが、発電機による発電量の増加によって負荷を高める場合には、迅速に負荷を高めることができるので、応答性が向上するのである。
【0009】
好ましい態様において、前記外部負荷付与手段は、前記エンジンの停止条件成立時に、一旦、前記発電機の負荷を最大値に増加させ、その後、当該エンジンの回転速度が所定値に低減した際に、前記発電機の負荷をエンジン回転速度の低下状態に対応して低減するものであり、前記エンジンの自動停止制御中に前記自動変速機のレンジポジションがドライブレンジからニュートラルレンジに変更された場合には、前記負荷の低減を中止するものである。この態様では、エンジンを自動停止させる際に、発電機の負荷(例えば、駆動Duty比)を初期値に上昇させることにより、発電機による最大限の負荷を付与し、大きな制動力を発揮させることができるとともに、エンジン回転速度の低下状態に対応して発電機の負荷を低下させる制御を実行することにより、エンジン回転速度の低下状態に対応してピストンの停止位置を所期の位置に停止しやすくすることができる。そして、自動停止制御中に前記自動変速機のレンジポジションがドライブレンジからニュートラルレンジに変更された場合には、負荷の低減を中止することによって、比較的高い制動力が付与されたままの状態を維持することができるので、レンジポジションのニュートラルレンジへのシフトに拘わらず、エンジンを速やかに自動停止させることができる。この結果、レンジポジションがニュートラルレンジにシフトされたことに起因する低速域での制動の遅れを防止し、該低速域での共振による車体の振動を可及的に低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明は、レンジポジションのニュートラルレンジへのシフトに拘わらず、エンジンを速やかに自動停止させることができるので、レンジポジションがニュートラルレンジにシフトされたことに起因する低速域での制動の遅れを防止し、該低速域での共振による車体の振動を可及的に低減することができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0012】
なお、以下に説明する各実施形態において、同等の部材には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
[第1実施形態]
図1および図2は本発明の第1実施形態に係る車両用エンジン1の概略構成を示す構成図である。
【0014】
各図に示すエンジン1は、4サイクル火花点火式ガソリンエンジンであって、4つの気筒12A〜12D(図2参照)が設けられている。また、各気筒12A〜12Dの内部には、図略のコネクティングロッドによってクランクシャフト3に連結されたピストン13が嵌挿されることにより、当該ピストン13の上方に燃焼室14が形成されている。各気筒12A〜12Dに設けられたピストン13は、所定の位相差をもってクランクシャフト3の回転に伴い上下運動を行うように構成されている。
【0015】
一般的に、多気筒4サイクルエンジンにおいては、各気筒が所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張、排気の各行程からなる燃焼サイクルを行うようになっている。第1実施形態の4気筒エンジンの場合、気筒列方向一端側から1番気筒12A、2番気筒12B、3番気筒12C、4番気筒12Dと呼ぶと、1番気筒(#1)、3番気筒(#3)、4番気筒(#4)、2番気筒(#2)の順にクランク角で180度ずつの位相差をもって燃焼が行われるようになっている。さらに第1実施形態では、エンジンの自動停止中に圧縮行程にあった気筒を停止時圧縮行程気筒、膨脹行程にあった気筒を停止時膨脹行程気筒と称する(同様に吸気行程にあった気筒を停止時吸気行程気筒、排気行程にあった気筒を停止時排気行程気筒と称する)。
【0016】
シリンダヘッド10には、各気筒12A〜12Dの燃焼室14の頂部に配置され、プラグ先端が燃焼室14内に臨むように点火プラグ15が設けられている。また、シリンダヘッド10には、燃焼室14の側方から内部に燃料を直接噴射する燃料噴射弁16が設けられている。この燃料噴射弁16は、図外のニードル弁およびソレノイドを内蔵し、エンジン制御ユニット100の燃焼制御部102(図4参照)から入力されたパルス信号のパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を上記点火プラグ15の電極付近に向けて噴射するように構成されている。
【0017】
また、各気筒12A〜12Dの上部には、燃焼室14に向かって開口する吸気ポート17および排気ポート18が設けられている。そして、これらのポート17、18と燃焼室14との連結部分には、吸気バルブ19および排気バルブ20がそれぞれ装備されている。この吸気ポート17および排気ポート18には、吸気通路21および排気通路22が接続されている。吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、図2に示すように、各気筒12A〜12Dに対応して独立した分岐吸気通路21aに分岐しており、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流側には共通吸気通路21cが設けられている。この共通吸気通路21cには、スロットルボディ24が設けられている。スロットルボディ24には、各気筒12A〜12Dに流入する空気量を調整可能なスロットル弁24aとこのスロットル弁24aを駆動するアクチュエータ24bと、アイドリング回転速度制御装置(ISC:Idling Speed Control device)24cとが設けられている。図示の実施形態において、ISC24cは、エンジン制御ユニット100の燃焼制御部102(図4参照)によって開弁量を変更可能な電磁駆動式のものである。スロットル弁24aの上流側および下流側には、それぞれ吸気流量を検出するエアフローセンサ25と、吸気圧力を検出する吸気圧センサ26とが設置されている。
【0018】
また、上記エンジン1には、図1に示すように、タイミングベルト等によりクランクシャフト3に連結された発電機としてのオルタネータ28が付設されている。このオルタネータ28は、図略のフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調節することにより発電量を調整するレギュレータ回路28aを内蔵し、このレギュレータ回路28aに入力されるエンジン制御ユニット100(図4参照)からの制御信号に基づき、車両の車両電気負荷および車載されたバッテリの電圧等に対応した発電量の制御が実行されるように構成されている。エンジン1が搭載された車両には、オルタネータ28によって給電される電気負荷80が設けられている(図4参照)。電気負荷80は、オルタネータ28で発電した電気で駆動される電気機器の総称である。電気負荷80には例えばエアコン81が含まれる。その他、詳細な図示は省略するが、例えばヘッドライト等のライト類、点火プラグ等のIG(イグニッション)系部品、オーディオやナビゲーションシステム等、ブロア(室内向けのファン)、および後部窓ガラスの曇りを除去するリヤデフォッガ(電熱線)等が含まれる。
【0019】
またエンジン1には、電動駆動装置としてのスタータ36が設けられている。このスタータ36は、モータ36a(電気モータ)とピニオンギア36dとを有し、エンジン1を駆動するものである。ピニオンギア36dの回転軸は、モータ36aの出力軸と同軸で、その回転軸に沿って往復移動する。またクランクシャフト3には、図略のフライホイールと、このフライホイールに固定されたリングギア35が、回転中心に対して同心に設けられている。そして、このスタータ36を用いてエンジンを始動する場合には、ピニオンギア36dが所定の噛合位置に移動して、リングギア35に噛合することにより、クランクシャフト3が回転駆動されるようになっている。
【0020】
スタータ36によってエンジンを始動させる形態には2通りある。第1の形態は運転者が図略のイグニションキースイッチを回してスタータ36を駆動させ、それによってエンジン1を始動させるものであり、キー始動と呼ばれるものである。第2の形態は、エンジンの自動停止後の再始動時に、エンジン制御ユニット100のスタータ制御部103(図4参照)が自動的にスタータ36を駆動させ、それによってエンジン1を始動させるものである。
【0021】
またエンジン1には、クランクシャフト3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30、31が設けられている。一方のクランク角センサ30から出力される検出信号(パルス信号)に基づいてエンジン回転速度が検出されるとともに、この両クランク角センサ30、31から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランクシャフト3の回転角度が検出されるようになっている。さらに、エンジン1には、吸気側カムシャフトの回転位置を検出するカム角センサ32と、冷却水温度を検出する水温センサ33と、運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ34とが設けられている。
【0022】
図3は、本発明の第1実施形態に係る始動装置における自動変速機の一例を示す概略図である。
【0023】
図3を参照して、エンジン1は、その出力軸であるクランクシャフト3を通じて自動変速機50に接続されている。この自動変速機50は、クランクシャフト3に連結されたトルクコンバータ51と、このトルクコンバータ51の出力軸であるタービンシャフト59に連結された多段変速機構52とを備え、この多段変速機構52に含まれる複数の摩擦締結要素を断続させることにより、車輪側への駆動力の伝達が切り離されたニュートラルレンジおよび車輪側への駆動力の伝達が可能なドライブレンジを含む複数レンジに切換可能で、かつ、ドライブ状態において多段変速可能に構成されている。この自動変速機50のレンジポジションの切り換えは、原則として図外の運転席に設けられたシフトレバーに基づいて行われるように構成されているが、エンジン制御ユニット100に接続された油圧機構66によっても行うことができるようになっている。
【0024】
なお、自動変速機50のさらに具体的な構成は、例えば、本件出願人が先に提案している特願2004−160229号(特開2005−337185号公報)に開示されている構成と同様であるため、その詳細については説明を省略する。
【0025】
図4は、本発明の第1実施形態に係る車両のエンジン制御ユニット100を中心とする制御ブロック図である。
【0026】
エンジン制御ユニット100には、上述した各種のセンサやスイッチ類、すなわちエアフローセンサ25、吸気圧センサ26、クランク角センサ30、31、カム角センサ32、水温センサ33、並びにアクセル開度センサ34等の入力要素からの信号が入力される。
【0027】
またエンジン制御ユニット100は、その制御対象である燃料噴射弁16、スロットル弁24a、点火装置27、オルタネータ28、スタータ36、油圧機構66、並びに電気負荷80等の出力要素に対して制御信号を出力する。
【0028】
エンジン制御ユニット100は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェースおよびこれらを接続するバスを有するマイクロプロセッサで構成されている。そしてエンジン制御ユニット100は、燃焼制御部102、運転状態判定部101、スタータ制御部103、オルタネータ制御部104、自動変速機制御部105、並びに電気負荷制御部106を論理的に構成している。
【0029】
運転状態判定部101は、エアフローセンサ25、吸気圧センサ26、クランク角センサ30、31、カム角センサ32、水温センサ33、およびアクセル開度センサ34からのセンサ信号に基づきピストン13の位置や、筒内温度、或いはエンジン1が正転しているか否か等、種々の運転状態を判定するものである。
【0030】
この運転状態判定部101は、エンジン1が自動停止時しているときにおけるピストン13の停止位置を判定するものでもある。さらに運転状態判定部101に判定される運転状態としては、予めメモリに記憶されたデータに基づいて推定される各気筒の筒内温度や、アシスト条件の成否も含まれる。アシスト条件とは、例えば、ピストン13の停止位置が予めメモリに記憶された所定の停止位置から外れている場合等に、スタータ36による始動アシストを要するとされる条件をいう。
【0031】
燃焼制御部102は、運転状態判定部101の判定に基づき、エンジン1の適正なスロットル開度(吸気量)、燃料噴射量とその噴射タイミング、および適正点火時期を設定し、その制御信号を燃料噴射弁16、スロットル弁24a(のアクチュエータ24b)、点火装置27に出力するものである。第1実施形態においては、この燃焼制御部102の制御により、所定の自動停止条件が成立したときにエンジン1を自動停止させ、停止後、所定の再始動条件が成立したときに、エンジン1を自動的に再始動させるように構成されている。第1実施形態では、再始動条件が成立したときに、エンジン1の自動停止時に膨張行程にあった停止時膨張行程気筒12B内での燃焼により自動的にエンジンを再始動させる燃焼再始動制御と、スタータ36を併用するスタータ併用再始動制御とのいずれかの制御方法が選択され実行される。
【0032】
スタータ制御部103は、キー始動時およびエンジン自動停止制御における再始動においてスタータ36の駆動が必要とされたときにスタータ36に駆動信号を送りスタータ36を駆動させるものである。
【0033】
オルタネータ制御部104は、オルタネータ28の適切な発電量を設定し、その駆動信号を上記レギュレータ回路に出力する。通常は、出力電圧(レギュレート電圧)の目標値(例えば13V)が設定され、エンジン回転速度等が変動してもその目標値を維持するように発電量をフィードバック制御する。またオルタネータ制御部104は、上記発電量制御において、オルタネータ28の発電量自体を調節することによってエンジン1の負荷を変化させ、ピストン13が再始動に適した適正範囲に停止するような制御を行っている。発電量制御が行われている間、出力電圧は電気負荷80の消費電力に応じて変動する。詳しくは後述するように、第1実施形態においては、このオルタネータ制御部104が、エンジン1の自動停止制御中に自動変速機50のレンジポジションがドライブレンジからニュートラルレンジに変更された場合にエンジン1に対する外部負荷を増加させる外部負荷付与手段を構成している。
【0034】
自動変速機制御部105は、自動変速機50の油圧機構66を制御するためのものであり、第1実施形態では、自動変速機50の変速制御の他、自動変速機のレンジポジションを判別するレンジポジション判別手段としても機能するものである。
【0035】
電気負荷制御部106は、エアコン81を含む電気負荷80への給電制御を行ない、エンジン1や車両に搭載されている各電装系部品を、エンジン1や車両等の状態に応じて自動的に、あるいは乗員の操作に応じて適宜駆動させる。
【0036】
図5は、本発明の第1実施形態に係るエンジン1の制御例を示すフローチャートであり、図6は、図5のフローチャートに基づく制御例を示すタイミングチャートである。
【0037】
図5および図6を参照して、エンジン制御ユニット100がエンジン制御を開始すると、まず、エンジン制御ユニット100は、自動停止条件の成立を待機する(ステップS20)。具体的には、ブレーキの作動状態が所定時間継続し、車速が所定値以下であるといった場合には、エンジンの自動停止条件が成立したと判定される。
【0038】
自動停止条件が成立すると、今度は、スロットル開度が例えば30%になるように、スロットル弁24aを開く(ステップS21)。これと並行して、エンジン制御ユニット100は、オルタネータ28の駆動Duty比を100%に設定する(ステップS22)。この結果、図6に示すように、自動停止条件が成立した時点で、スロットル弁24aのスロットル開度が30%に設定され、オルタネータ28がフル稼動する。これにより、停止時膨張行程気筒12Bおよび停止時圧縮行程気筒12Aへそれぞれ吸入される空気量が十分に多くなり、且つ該停止時膨張行程気筒12Bの空気量が停止時圧縮行程気筒12Aよりもやや多くなる。この結果、再始動時に駆動される2つの気筒12A、12B内の空気の圧縮圧力のバランスによって、停止時膨張行程気筒12Bのピストン13が行程中央部から多少、下死点(下死点)寄りの再始動に好適な範囲内に停止する。なお、図5のフローチャートでは省略されているが、ステップS20の自動停止条件が成立した後、各気筒12A〜12Dの掃気が十分に行われるように、アイドル回転速度よりもやや高い所定回転速度にエンジン1が制御され、その速度で燃料カットが実行される。
【0039】
次いで、エンジン制御ユニット100は、レンジポジションがドライブレンジからニュートラルレンジにシフトしたか否かを判別する(ステップS23)。この判定は、レンジポジション判別手段としての自動変速機制御部105によってなされる。レンジポジションがドライブレンジである場合、自動変速機50の回転抵抗がクランクシャフト3に伝達されるので、エンジン1には大きな制動力が作用することになるが、レンジポジションがニュートラルレンジに切り換えられると自動変速機50の回転抵抗も作用しなくなり、エンジン1が停止に要する時間も長くなる。そこで、第1実施形態では、レンジポジションがニュートラルレンジに切り換えられた場合には、スロットル弁24aのスロットル開度を0%にした後(ステップS25)、そのままエンジンが停止するのを専ら待機し(ステップS26)、通常行われるオルタネータ28の駆動Duty比の低減を中止するようにしている(ステップS26、ステップS31参照)。
【0040】
他方、ステップS23において、レンジポジションがニュートラルレンジに切り換えられなかった場合、エンジン制御ユニット100は、エンジン回転速度が所定値N1以下に下がるのを待機し(ステップS27)、エンジン回転速度が所定値N1以下に下がった場合には、スロットル開度を0%に設定した後(ステップS28)、エンジン回転速度が所定値N2(但しN2<N1)以下になるのを待機する(ステップS29)。そして、エンジン回転速度が所定値N2以下になった場合には、外部負荷付与手段としてのオルタネータ制御部104は、エンジン回転速度に応じてオルタネータ28の駆動Duty比を演算する(ステップS30)。これにより、オルタネータ制御部104は、エンジン1の回転速度が所定値N2以下に低減した際に、オルタネータ28の駆動Duty比をエンジン回転速度の低下状態に対応して低減することになる。
【0041】
ステップS25またはステップS30を経てエンジン1は、その回転速度を低減し、遂には停止する。ここで、エンジン1が停止していない間(ステップS26において、NOの場合)、自動変速機制御部105は、レンジポジションがドライブレンジからニュートラルレンジに切り換えられたか否かを判定し(ステップS31)、切り換えられた場合(ステップS31において、YESの場合)には、ステップS30の駆動Duty比の低減を中止してエンジン1が停止するのを待機する一方、切り換えられていない場合にのみ、ステップS30の駆動Duty比の低減制御を実行するようにしている。
【0042】
以上説明したように、本実施形態によれば、エンジン1の自動停止制御中にレンジポジションがドライブレンジからニュートラルレンジにシフトされると、エンジン1に対する負荷が高まるので、エンジン1の制動力が高まり、レンジポジションのニュートラルレンジへのシフトに拘わらず、エンジン1を速やかに自動停止させることができる。この結果、レンジポジションがニュートラルレンジにシフトされたことに起因する低速域での制動の遅れを防止し、該低速域での共振による車体の振動を可及的に低減することができる。
【0043】
また第1実施形態では、エンジン1によって駆動され、エアコン81等を初めとする電気負荷80(給電要部)に電力を供給するオルタネータ28を備え、オルタネータ制御部104は、オルタネータ28の発電量を増加させることによりエンジン1に対する外部負荷を増加させるものである。このように第1実施形態によれば、外部負荷の具体的態様として、オルタネータ28を採用しているので、応答性を高めることができる。すなわち、車両に搭載されている一般的な負荷装置は、レンジポジションのシフトを検出してから負荷増加までに遅れが生じやすいが、オルタネータ28による発電量の増加によって負荷を高める場合には、迅速に負荷を高めることができるので、応答性が向上するのである。
【0044】
また第1実施形態では、オルタネータ制御部104は、エンジン1の停止条件成立時に、一旦、オルタネータ28の駆動Duty比を最大値に増加させ、その後、当該エンジン1の回転速度が所定値に低減した際に、オルタネータ28の駆動Duty比をエンジン回転速度の低下状態に対応して低減するものであり、エンジン1の自動停止制御中に自動変速機50のレンジポジションが変速レバーによってドライブレンジからニュートラルレンジに変更された場合には、駆動Duty比の低減を中止するものである。このため第1実施形態によれば、エンジン1を自動停止させる際に、オルタネータ28の駆動Duty比を初期値に上昇させることにより、オルタネータ28による最大限の負荷を付与し、大きな制動力を発揮させることができるとともに、エンジン回転速度の低下状態に対応してオルタネータ28の駆動Duty比を低下させる制御を実行することにより、エンジン回転速度の低下状態に対応してピストン13の停止位置を所期の位置に停止しやすくすることができる。そして、自動停止制御中に自動変速機50のレンジポジションが変速レバーによってドライブレンジからニュートラルレンジに変更された場合には、駆動Duty比の低減を中止することによって、比較的高い制動力が付与されたままの状態を維持することができるので、レンジポジションのニュートラルレンジへのシフトに拘わらず、エンジン1を速やかに自動停止させることができる。この結果、レンジポジションがニュートラルレンジにシフトされたことに起因する低速域での制動の遅れを防止し、該低速域での共振による車体の振動を可及的に低減することができる。
【0045】
[第2実施形態]
第2実施形態は、外部負荷付与手段として、電気負荷制御部106も機能させる例である。
【0046】
図7は、本発明の第2実施形態に係るエンジン1の制御例を示すフローチャートであり、図8は、図7のフローチャートに基づく制御例を示すタイミングチャートである。
【0047】
図7を参照して、第2実施形態においては、第1実施形態の場合と同様に、エンジン制御ユニット100は、自動停止条件の成立を待機し(ステップS20)、自動停止条件が成立すると、スロットル開度を30%に設定してスロットル弁24aを開き(ステップS21)、オルタネータ28の駆動Duty比を100%に設定し(ステップS22)、レンジポジションがドライブレンジからニュートラルレンジにシフトしたか否かを判別する(ステップS23)。ステップS23において、レンジポジションがドライブレンジからニュートラルレンジにシフトしたと判定した場合、エンジン制御ユニット100の電気負荷制御部106は、エアコン81を作動させることにより、外部負荷付与手段として機能する(ステップS100)。この結果、エンジン1のクランクシャフト3には、大きな制動力が作用し、ニュートラルレンジにレンジポジションをシフトしているにも拘わらず、エンジン1を迅速に自動停止させることが可能になる。
【0048】
次いで、第2実施形態では、エンジン回転速度が所定値N1以下に低減するのを待機し(ステップS101)、エンジン回転速度が所定値N1以下に低減した場合には、スロットル開度を0%に変更する(ステップS102)。また、エンジン回転速度が所定値N1よりも高い場合には、ステップS23に戻って処理を繰り返す。次いで、エンジン制御ユニット100は、エンジン回転速度が所定値N2以下に低減するのを待機し(ステップS103)、エンジン回転速度が所定値N2以下に低減した場合には、エンジン回転速度に応じてオルタネータ28の駆動Duty比を演算する(ステップS104)。これにより、第1実施形態の場合と同様に、大きな制動力を発揮させることができるとともに、エンジン回転速度の低下状態に対応してオルタネータ28の駆動Duty比を低下させる制御を実行することにより、エンジン回転速度の低下状態に対応してピストン13の停止位置を所期の位置に停止しやすくすることができる。そして、エンジン制御ユニット100は、エンジン1が停止するのを待機し(ステップS105)、エンジン1が停止しない場合には、ステップS104の制御を実行し続ける。エンジン1が停止すると、電気負荷制御部106は、エアコン81を停止し(ステップS106)、処理を終了する。
【0049】
なお、ステップS23において、レンジポジションのシフトがなかった場合には、ステップS100をバイパスして、ステップS101以下の処理を実行する。
【0050】
第2実施形態においても、レンジポジションのニュートラルレンジへのシフトに拘わらず、エンジン1を速やかに自動停止させることができる。この結果、レンジポジションがニュートラルレンジにシフトされたことに起因する低速域での制動の遅れを防止し、該低速域での共振による車体の振動を可及的に低減することができる。
【0051】
その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両用エンジンの概略構成を示す断面略図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る車両用エンジンの概略構成を示す平面略図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る始動装置における自動変速機の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る車両のエンジン制御ユニットを中心とする制御ブロック図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るエンジンの制御例を示すフローチャートである。
【図6】図5のフローチャートに基づく制御例を示すタイミングチャートである。
【図7】本発明の第2実施形態に係るエンジンの制御例を示すフローチャートである。
【図8】図7のフローチャートに基づく制御例を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0053】
1 車両用エンジン
3 クランクシャフト
12A 停止時圧縮行程気筒
12B 停止時膨張行程気筒
13 ピストン
14 燃焼室
28 オルタネータ
50 自動変速機
80 電気負荷
81 エアコン
100 エンジン制御ユニット
101 運転状態判定部
102 燃焼制御部
103 スタータ制御部
104 オルタネータ制御部
105 自動変速機制御部
106 電気負荷制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機が搭載された車両に設けられ、所定のエンジン停止条件が成立したときにエンジンを自動停止し、該エンジンの自動停止後に所定の再始動条件が成立したときに、少なくともエンジン停止時に膨張行程にあった停止時膨張行程気筒で混合気を燃焼させて前記エンジンを再始動する車両用エンジンの制御装置において、
前記自動変速機のレンジポジションを判別するレンジポジション判別手段と、
前記エンジンの自動停止制御中に前記自動変速機のレンジポジションがドライブレンジからニュートラルレンジに変更された場合に前記エンジンに対する外部負荷を増加させる外部負荷付与手段と
を備えている
ことを特徴とする車両用エンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用エンジンの制御装置において、
前記エンジンによって駆動され、給電要部に電力を供給する発電機を備え、
前記外部負荷付与手段は、前記発電機の発電量を増加させることにより前記エンジンに対する外部負荷を増加させるものである
ことを特徴とする車両用エンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両用エンジンの制御装置において、
前記外部負荷付与手段は、前記エンジンの停止条件成立時に、一旦、前記発電機の負荷を最大値に増加させ、その後、当該エンジンの回転速度が所定値に低減した際に、前記発電機の負荷をエンジン回転速度の低下状態に対応して低減するものであり、前記エンジンの自動停止制御中に前記自動変速機のレンジポジションがドライブレンジからニュートラルレンジに変更された場合には、前記負荷の低減を中止するものである
ことを特徴とする車両用エンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−286049(P2008−286049A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130296(P2007−130296)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】