説明

車両用パワーユニット及び該パワーユニットを搭載した車両

【課題】プライマリ軸の軸長さを小さくできる車両用パワーユニットを提供する。
【解決手段】車両用パワーユニットにおいて、プライマリシーブ40の可動シーブ49に装着されプライマリ軸部17bにスライド可能に支持されたスライド筒体80と、該スライド筒体80に第1の軸受81を介して回転自在に支持された可動側送りねじ部材82と、該可動側送りねじ部材82に噛合し、エンジンケース26に回り止めされた固定側送りねじ部材83と、該固定側送りねじ部材83と上記プライマリ軸部17bとの間に配置された第2の軸受84とを備え、該第2の軸受84は、上記可動シーブ49がロー位置にあるとき、上記スライド筒体80の可動シーブと反対側の端部80aと径方向に重なるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマリシーブとセカンダリシーブとに伝動ベルトを巻回してなる無段変速機と、電動モータによりプライマリシーブのベルト巻径を変化させる巻径制御機構とを備えた車両用パワーユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、最近のスクータ型自動二輪車では、エンジンに一体化したVベルト式無段変速機と、該無段変速機のプライマリシーブのベルト巻径をエンジン回転数,車速等に基づいて電動モータによりロー位置とトップ位置との間で変化させる巻径制御機構とを備えたパワーユニットを搭載する場合がある。
【0003】
この種のパワーユニットとして、例えば、特許文献1では、プライマリ軸(1)にプライマリシーブ(2)の可動シーブ(5)を軸方向移動可能に配置し、該可動シーブ(5)に可動側送りねじ部材(6)を軸受(7)を介して回転自在に装着し、該可動側送りねじ部材(6)に噛合する固定側送りねじ部材(10)をケース(9)に固定するとともに、上記プライマリ軸(1)を軸受(8)を介してケース(9)で支持した構造を採用している。
【特許文献1】特許第2950957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来のパワーユニットでは、可動シーブ(5)の軸方向移動量を確保するには、上記軸受(8)の分だけプライマリ軸(1)を長くする必要があり、結果的にパワーユニットの幅寸法が大きくなるという問題がある。このような幅広のパワーユニットを、例えば自動二輪車に搭載した場合には、バンク角や足着き性等に影響を与えるという懸念がある。
【0005】
本発明は、上記従来の状況に鑑みてなされたもので、プライマリ軸の軸長さを小さくできる車両用パワーユニットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジンの出力が入力されるプライマリ軸に装着されたプライマリシーブ,駆動力が取り出されるセカンダリ軸に装着されたセカンダリシーブ及び上記プライマリシーブ,セカンダリシーブに巻回された伝動ベルトを備えた無段変速機と、アクチュエータからの回転力を上記プライマリシーブを構成する可動シーブの軸方向移動力に変換することにより上記プライマリシーブのベルト巻径を変化させる巻径制御機構とを備えた車両用パワーユニットであって、上記巻径制御機構は、上記プライマリシーブの可動シーブに装着され上記プライマリ軸にスライド可能に支持されたスライド筒体と、該スライド筒体に第1の軸受を介して回転自在に支持された可動側送りねじ部材と、該可動側送りねじ部材に噛合し、エンジンケースに回り止めされた固定側送りねじ部材と、該固定側送りねじ部材と上記プライマリ軸との間に配置された第2の軸受とを備え、該第2の軸受は、上記可動シーブがロー位置にあるとき、上記スライド筒体の可動シーブと反対側の端部と径方向に重なるように配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るパワーユニットによれば、第2の軸受を、可動シーブがロー位置にあるとき、スライド筒体の可動シーブ反対側の端部と径方向に重なるように配置したので、スライド筒体を第2の軸受に重なる位置まで移動させることができ、それだけプライマリ軸の軸長さを小さくでき、パワーユニット全体の幅寸法を小さくすることができる。その結果、例えば、自動二輪車に搭載した場合のバンク角,足着き性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1ないし図9は、本発明の一実施形態による車両用パワーユニットを説明するための図である。本実施形態では、スクータ型自動二輪車のパワーユニットの場合を説明する。なお、本実施形態でいう前後,左右とは、シートに着座した状態での前後,左右を意味する。
【0009】
図において、1はスクータ型自動二輪車を示しており、これは以下の概略構造を有している。不図示のアンダーボーン型車体フレームのヘッドパイプによりフロントフォーク2が枢支され、該フロントフォーク2の下端には前輪3が、上端には操向ハンドル4がそれぞれ配置されている。また上記車体フレームの中央部にはシート5が搭載され、さらに車体フレームのシート5の下方にはユニットスイング式パワーユニット6が上下揺動可能に搭載され、該パワーユニット6の後端部には後輪7が配置されている。
【0010】
上記フロントフォーク2の周囲はフロントカバー8で、上記シート5下方の周囲はサイドカバー9でそれぞれ覆われている。上記フロントカバー8とサイドカバー9との間には左,右のステップボード10,10が配設されている。
【0011】
上記パワーユニット6は、エンジン14と、該エンジン14の動力を後輪7に伝達する無段変速機15と、該無段変速機15のベルト巻径を可変制御する巻径制御機構16とを備えている。
【0012】
上記エンジン14は、気筒軸線を大きく前倒させて搭載された水冷式4サイクル単気筒エンジンであり、クランク軸17が収容されたクランクケース18の前合面にシリンダブロック19,シリンダヘッド20が結合され、該シリンダヘッド20にヘッドカバー21が装着されている。
【0013】
上記シリンダヘッド20の上壁部20aには吸気ポート(不図示)に連通する吸気管22が接続されている。この吸気管22は上壁部20aから車両後方に屈曲して延びており、該吸気管22の後端にはスロットルボディ23が接続されている。このスロットルボディ23はシリンダブロック19の上方に位置するよう配置されている。
【0014】
上記無段変速機15は、上記クランクケース18の左側部から車両後方に延びるよう設けられた伝動ケース25内に収容されている。この伝動ケース25は、上記クランクケース18に一体形成されて後輪7まで延びるケース本体26と、該ケース本体26の左側合面に着脱可能に装着されたケースカバー27とを備えている。このケースカバー27の外側には伝動ケース25内に走行風を導入する空気導入カバー(不図示)が装着されている。
【0015】
上記ケース本体26の前下壁部には、下方に突出する懸架部26aが一体形成されている。この懸架部26aには前方に延びる前ボス部26bが形成され、該前ボス部26bは不図示のピボット軸により車体フレームに回動可能に支持されている。また懸架部26aにはオイルフィルタ29が装着されている。
【0016】
上記ケース本体26の後端壁には後方に突出する後ボス部26cが一体形成され、該ボス部26cには車体フレームに連結されたリヤクッションユニット28の下端部が連結されている。
【0017】
上記クランク軸17は、左,右ジャーナル部17a,17aに配置された軸受30,30を介してクランクケース18により支持されており、該ジャーナル部17aとクランクケース17との間はシール部材35によりシールされている。
【0018】
また上記クランク軸17の左端にはプライマリ軸部17bが左ジャーナル部17aから左側に突出するように一体形成されており、該プライマリ軸部17bは上記伝動ケース25内に位置している。
【0019】
上記プライマリ軸部17bの左端部は、スペーサ31,軸受32を介して上記ケースカバー27により支持されている。
【0020】
上記無段変速機15は、エンジン14の出力が入力される上記プライマリ軸部17bに装着されたプライマリシーブ40と、後輪(駆動輪)7への出力が取り出されるセカンダリ軸41に装着されたセカンダリシーブ42と、上記プライマリシーブ40及びセカンダリシーブ42に巻回されたゴム製又は樹脂製の伝動ベルト43とを備えている。ここで、図4〜図6において、実線は伝動ベルト43のロー位置を、二点鎖線はトップ位置を示している。
【0021】
上記プライマリシーブ40は、上記プライマリ軸部17bに共に回転するようスプライン嵌合された円筒状のカラー部材48と、該カラー部材48に軸方向移動可能にかつ該カラー部材48と共に回転するよう装着された可動シーブ49と、上記カラー部材48の左端面に当接するよう上記プライマリ軸部17bにスプライン嵌合され、ロックナット33により軸方向移動不能に固定された固定シーブ50とを備えている。
【0022】
上記可動シーブ49は、上記カラー部材48上に装着された筒体部49aを備えており、該筒体部49aには軸方向に延びるスリット49bが形成されている。上記可動シーブ49は、上記スリット49b内に挿入されたキー47を上記カラー部材48に嵌合させることにより、軸方向移動可能にかつカラー部材48と共に回転するようになっている。
【0023】
また固定シーブ50の外側面には半径方向に延びる多数の冷却ファン50aが周方向に所定間隔をあけて一体形成されている。この冷却ファン50aにより冷却風を伝動ケース25内に導入するようになっている。
【0024】
上記伝動ケース25の後端部にはケース本体26とギヤケース44とで独立した油室44aが形成されている。この油室44a内には、上記セカンダリ軸41の右側半部41aが挿入されており、該右側半部41aと平行にメイン軸45,ドライブ軸46が配置されている(図4,図6参照)。このドライブ軸46のケース本体26から突出した部分に上記後輪7が装着されている。
【0025】
上記セカンダリ軸41の右側半部41aは、ケース本体26,ギヤケース44によりそれぞれ軸受47a,47bを介して支持されている。またセカンダリ軸41の左端部は、スペーサ36,軸受37を介して上記ケースカバー27により支持されている。
【0026】
上記セカンダリシーブ42は、上記セカンダリ軸41の左側半部41bに左,右の軸受51a,51bを介して回転自在にかつ軸方向移動不能に装着された固定シーブ52と、該固定シーブ52に軸方向移動可能にかつ該固定シーブ52と共に回転するよう装着された可動シーブ53とを備えている。
【0027】
上記固定シーブ52は、上記セカンダリ軸41に装着された円筒状のカラー部52aを備えている。また上記可動シーブ53は、上記カラー部52aに装着された円筒状の筒体部53aを備えており、該筒体部53aには軸方向に延びるスリット53bが形成されている。上記可動シーブ53は、上記スリット53b内に挿入されたキー57を上記カラー部52aに固定することにより、軸方向移動可能にかつ該カラー部52aと共に回転するようになっている。
【0028】
上記可動シーブ53は、該可動シーブ53と後述するウェイトアーム55aとの間に配設されたばね54によりセカンダリシーブ42の有効径が大きくなる方向に付勢されている。
【0029】
上記セカンダリシーブ42の左側のカラー部52aとセカンダリ軸41との間には遠心式クラッチ55が介設されている。この遠心式クラッチ55は、上記カラー部52aにウェイトアーム55aを該カラー部52aと共に回転するよう嵌合固定し、該ウェイトアーム55aにウェイト55bをセカンダリ軸41と平行な軸線回りに径方向に揺動可能に装着し、上記ウェイト55bの外方を囲む略碗状のアウタクラッチ55cを上記セカンダリ軸41に共に回転するよう嵌合固定した構造となっている。
【0030】
セカンダリシーブ42の回転速度が上昇するに伴ってウェイト55bが遠心力で径方向外側に移動し、アウタクラッチ55cの内面に当接し、これによりセカンダリシーブ42の回転がセカンダリ軸41に伝達される。該セカンダリ軸41の回転は上記メイン軸45,ドライブ軸46を介して後輪7に伝達される。
【0031】
上記巻径制御機構16は、上記変速ケース25の前端部に斜め上向きに膨出形成された巻径制御室25a内に配設されている。この巻径制御機構16は、電動モータ(アクチュエータ)60からの回転力を上記プライマリシーブ40の可動シーブ49の軸方向移動力に変換することにより該プライマリシーブ40のベルト巻径をロー位置とトップ位置との間で自動的に可変制御するようになっている。上記電動モータ60の回転はエンジン回転速度,車速等に基づいて、不図示のコントローラにより制御される。なお、上記アクチュエータは、電動モータに限定されるものではなく、例えば油圧モータであっても良い。
【0032】
上記巻径制御機構16は、上記電動モータ60からの回転力を可動シーブ49側のシーブ側ギヤ61に伝達する回転伝達ギヤ部58と、シーブ側ギヤ61の回転力を可動シーブ49の軸方向移動力に変換する軸方向変換ギヤ部59とを有している。
【0033】
上記回転伝達ギヤ部58は、上記シーブ側ギヤ61と、該シーブ側ギヤ61に噛合するモータ側ギヤ62と、上記電動モータ60の回転を減速してモータ側ギヤ62に伝達する減速大ギヤ66,減速小ギヤ67bとを備えており、詳細には以下の構造となっている。
【0034】
上記電動モータ60は、ケース本体26の外側で、かつシリンダブロック19とスロットルボディ23との間に配置されており、該ケース本体26の外側壁に複数のボルト63により固定されている。この電動モータ60の回転軸60aに形成された出力ギヤ60bはケース本体26を貫通して巻径制御室25a内に突出している。
【0035】
上記減速大ギヤ66は上記出力ギヤ60bに噛合し、減速ギヤ軸67に圧入により固定されている。また上記減速小ギヤ67bは上記減速ギヤ軸67に一体形成され、上記モータ側ギヤ62に噛合している。
【0036】
そしてこのモータ側ギヤ62はモータ側ギヤ軸65に装着されている。このモータ側ギヤ62は、モータ側ギヤ軸65に径方向に挿通されたピン75により該モータ側ギヤ軸65と共に回転するようになっている。
【0037】
上記モータ側ギヤ軸65及び減速ギヤ軸67の両端部65a,67aは中央部より小径に形成されており、該両端部65a,67aが軸受68,69を介して伝動ケース25により軸方向移動不能に支持されている。
【0038】
ここで車両側方から見ると、上記電動モータ60の回転軸60a,減速ギヤ軸67及びモータ側ギヤ軸65は、上記プライマリ軸部17bを中心とした円弧上に、かつプライマリシーブ40の外周に沿うよう配置されている(図2,図4参照)。
【0039】
また上記モータ側ギヤ軸65の前側にはセンサ軸70が配置されており、該センサ軸70に装着されたセンサギヤ71にはモータ側ギヤ62の一端に形成されたセンサ駆動ギヤ62bが噛合している。このセンサ軸70には検出ギヤ70aが形成されている。そして上記伝動ケース25の前端壁の検出ギヤ70aに臨む部分に回転数センサ72が配置されており、該回転数センサ72の入力ギヤ72aに上記検出ギヤ70aが噛合している。このようにして上記モータ60の回転状態ひいては上記可動シーブ49の軸方向移動位置が検出されるようになっている(図4,図8参照)。
【0040】
上記モータ側ギヤ62は、樹脂製であり、上記減速小ギヤ67bに噛合する大径ギヤ部62aと、上記センサギヤ71に噛合する小径ギヤ部62bとを有している。
【0041】
そして上記モータ側ギヤ62の大径ギヤ部62a,上記シーブ側ギヤ61及び減速小ギヤ67bはハスバ歯車により構成されている。このハスバ歯車は、各歯が軸線に対して斜めにねじれており、各歯のねじれ角の設定により上記シーブ側ギヤ61をトップ側に付勢するスラスト力の大きさが設定される。このようにして上記電動モータ60の回転が減速大ギヤ66,減速小ギヤ67bにより減速されてモータ側ギヤ62に伝達され、該モータ側ギヤ62の回転により上記シーブ側ギヤ61に伝達され、この際に該シーブ側ギヤ61ひいては可動シーブ49をトップ側に付勢するスラスト力が発生する。また上記モータ側ギヤ62に作用するスラスト反力は、モータ側ギヤ62からピン75を介してモータ側ギヤ軸65伝達される。
【0042】
ここで、上記モータ側ギヤ軸65にモータ側ギヤ62とは別に減速平歯車を装着し、該減速平歯車に電動モータ60側の平歯車を噛合させてもよい。このようにした場合には、モータ側ギヤ62とシーブ側ギヤ61のみをハスバ歯車とすることとなる。
【0043】
上記軸方向変換ギヤ部59は、上記可動シーブ49に固定された筒体部49aに装着されたスライド筒体80と、該スライド筒体80により第1の軸受81を介して回転自在に支持された可動側送りねじ部材82と、該可動側送りねじ部材82に噛合し、ケース本体26に回り止めされた固定側送りねじ部材83と、該固定側送りねじ部材83とプライマリ軸部17bとの間に配置された芯出し軸受 (第2の軸受)84とを備えており、詳細には以下の構造となっている。
【0044】
上記スライド筒体80は、可動シーブ49の筒体部49aにサークリップ85により軸方向移動不能にかつ可動シーブ49と共に回転するよう固定されている。
【0045】
このスライド筒体80は、左半部の大径部80bと該大径部80bに対して段落ち形成された右半部の小径部80aとを有している。該小径部80aに上記第1の軸受81が圧入され、該第1の軸受81はサークリップ86によりスライド筒体80に対して軸方向移動不能となっている。
【0046】
上記可動側送りねじ部材82は円筒状をなしており、上記第1の軸受81は該可動側送りねじ部材82の内周面の左側部分に圧入され、サークリップ87により軸方向移動不能に固定されている。これにより可動側送りねじ部材82は、第1の軸受81を介してスライド筒体80により回転自在に支持されている。
【0047】
上記可動側送りねじ部材82の外周面の左側端部にはボス部82bが形成され、該外周面の残りの部分には雄ねじ82aが形成されている。このボス部82bに上記シーブ側ギヤ61がプレートカバー88を介在させて圧入により結合されている。このシーブ側ギヤ61は、電動モータ60の最大トルク値より少し大きい値、例えば1.1倍程度のトルクを伝達可能の嵌合力でもって上記ボス部82bに圧入されている。これにより例えば第1の軸受81の焼き付き等の何らかの原因でシーブ側のギヤ61に過大トルクが作用した場合には、シーブ側ギヤ61が可動側ねじ部材82に対して相対回転することとなり、いわゆるトルクリミッタとして機能する。
【0048】
上記シーブ側ギヤ61は、上記第1の軸受81と径方向に重なっており、かつ可動側送りねじ部材82のボス部82b及び雄ねじ82aの左側半部と径方向に重なっている。具体的には、上記シーブ側ギヤ61は、環状の圧入部61aと該圧入部61aからエンジン側に偏位するよう形成されたギヤ部61bとを有しており、該ギヤ部61bはこれの略全幅が上記雄ねじ82aと重なっている。なお、上記シーブ側ギヤ61を可動側送りねじ部材82とを別部品としたので、上記雄ねじ82aの加工が可能となっている。
【0049】
上記芯出し軸受84は、可動側,固定側送りねじ部材82,83の芯出しをするためのものであり、軸受支持部材90を介してプライマリ軸部17bに支持されている。
【0050】
上記軸受支持部材90は、外側に開口する円筒状の保持部90aと、該保持部90aの底壁をなす円板状のフランジ部90bとを備えており、該フランジ部90bにはプライマリ軸部17bが挿通可能な大きさの挿通孔90cが形成されている。この保持部90aはフランジ部90bの外周縁より少し径方向内側に位置するよう形成されている。
【0051】
上記軸受支持部材90の保持部90aの外周面に上記芯出し軸受84が圧入により結合されている。そしてこの芯出し軸受84は、上記可動シーブ49がロー位置にあるとき、上記スライド筒体80の小径部80aの一部と径方向に重なるように配置されている。即ち、カラー部材48と軸受支持部材90の保持部90aとの間には、ロー位置における可動シーブ49の筒体部49a及びスライド筒体80の端部が進入可能な空間aが形成されている。
【0052】
上記フランジ部90bは、プライマリ軸部17bに形成された段部17dに係合しており、該段部17dと上記カラー部材48の内端面とで軸方向に移動不能に挟持されている。具体的には、フランジ部90bの挿通孔90cにプライマリ軸部17bを挿通させるとともに該フランジ部90bを段部17dに当接させ、プライマリ軸部17bにカラー部材48を装着して、該カラー部材48の内端面を上記フランジ部90bに当接させ、次いで固定シーブ50,スペーサ31を装着し、ロックナット33を締め付ける。これにより上記軸受支持部材90はカラー部材48,固定シーブ50及びスペーサ31とともにプライマリ軸部17bに共締め固定されている。
【0053】
上記ケース本体26には、上記固定側送りねじ部材83を支持する概ね環状の固定側支持部材92がボルト91により固定されている。この固定側支持部材92は、上記保持部90aを囲むように形成された内筒部92aと、該内筒部92aに続いて径方向外側に延びるフランジ部92bとを備えている。
【0054】
上記内筒部92aの内周面に上記芯出し軸受84が圧入により結合されており、該固定側支持部材92は芯出し軸受84を介して上記軸受支持部材90ひいてはプライマリ軸部17bと同軸をなすよう支持されている。
【0055】
上記フランジ部92bの外周部には環状の段部92dが形成されている。この段部92dに上記固定側送りねじ部材83の右側端部83bが嵌合されている。該右側端部83bには支持プレート93が結合されており、該支持プレート93を上記フランジ部92bに締結部材94で締結固定することにより、上記固定側送りねじ部材83は固定側支持部材92に固定されている。
【0056】
上記固定側送りねじ部材83は円筒状をなしており、これの内周面に上記可動側送りねじ部材82の雄ねじ82aに噛合する雌ねじ83aが形成されている。
【0057】
また上記固定側送りねじ部材83の外周面には環状のシール溝83cが形成されており、該シール溝83c内には上記プレートカバー88の内周面に摺接するシール部材95が装着されている。このプレートカバー88及び固定側,可動側送りねじ部材83,82で囲まれた部分が上記雄ねじ82a,雌ねじ83aの噛合部への潤滑剤を貯留する貯留室bとなっている。
【0058】
上記支持プレート93の外縁部にはロー側ストッパ部93aが上記シーブ側ギヤ61に対向するよう折り曲げ形成されている。このロー側ストッパ部93aにシーブ側ギヤ61を当接させることにより可動シーブ49のロー位置を規制している。
【0059】
またプライマリシーブ40の可動シーブ49及び固定シーブ50の互いに対向する内側基部には、それぞれ平坦なトップ側ストッパ面49c.50cが機械加工により形成されている。このストッパ面49c,50cは、走行距離が略ゼロの新車時において伝動ベルト43がトップ位置にある場合に、両ストッパ面49c,50c間に2mm程度の隙間が形成されるよう設定されている。そして走行距離の延長に伴って伝動ベルト43が磨耗すると、上記ストッパ面49c,50c同士が当接し、これにより可動シーブ49のトップ位置を規制するようになっている。
【0060】
アクセル操作に伴ってエンジン回転数が上昇すると、該エンジン回転数に応じて予め設定されたベルト巻径となるよう電動モータ60の回転が制御される。該電動モータ60の回転は減速大ギヤ66,小ギヤ67bを介してモータ側ギヤ62に伝達され、さらにモータ側ギヤ62からシーブ側ギヤ61に伝達される。シーブ側ギヤ61が回転すると、可動側送りねじ部材82がシーブ側ギヤ61とともに上記電動モータ60の回転量に応じた距離だけ軸方向に移動する。これに伴って可動シーブ49がトップ側に所定量移動し、プライマリシーブ40が上記設定されたベルト巻径となる。この場合、上記モータ側ギヤ62及びシーブ側ギヤ61がハスバ歯車であることから、可動シーブ49をトップ側に付勢するスラスト力が発生する。
【0061】
このように本実施形態によれば、固定側送りねじ部材83とプライマリ軸部17bとの間に配置された芯出し軸受84を、可動シーブ49がロー位置にあるときのスライド筒体80の可動シーブ反対側の小径部80aと径方向に重なるように配置したので、可動シーブ49をスライド筒体80が芯出し軸受84に径方向に重なる位置まで移動させることができ、それだけプライマリ軸部17bの軸長さ,ひいてはパワーユニット6の車幅寸法を小さくすることができる。その結果、バンク角を確保できるとともに、足着き性を高めることができる。ちなみに、本実施形態では、プライマリ軸部17bの軸方向寸法を略軸受84の幅程度縮小することが可能である。
【0062】
本実施形態では、上記芯出し軸受84を軸受支持部材90により支持し、該軸受支持部材90を、上記軸受84を外周面にて保持する保持部90aと、該保持部90aの底壁をなすフランジ部90bとを備えたものとし、該フランジ部90bを上記プライマリ軸部17bにより支持したので、上記保持部90aとカラー部材48との間には、ロー位置における可動シーブ49のスライド筒部80が進入可能な空間aが形成されることとなり、上記可動シーブ49をエンジン側に寄せて配置することを簡単な構造で実現できる。
【0063】
本実施形態では、可動側送りねじ部材82の内周面を第1の軸受81で支持するとともに外周面に雄ねじ82aを形成し、上記可動側送りねじ部材82の雄ねじ82aの左側半部を上記軸受81と径方向に重なるように配置したので、例えば可動側送りねじ部材の内周面に軸受とねじの両方を配置する場合に比べて可動側送りねじ部材82の軸方向長さを小さくすることができ、パワーユニット6の車幅寸法をより一層小さくすることができる。この場合、可動側送りねじ部材82を内側に、かつ固定側送りねじ部材83を外側に配置したので、上記車幅寸法のコンパクト化を実現できる。仮に可動側送りねじ部材を外側に、固定側送りねじ部材を内側に配置した場合、上記可動側送りねじ部材の内周面に軸受と雌ねじの両方を並列配置することとなり、上記車幅方向寸法が大きくなる。
【0064】
本実施形態では、上記可動側送りねじ部材82の左側端部のボス部82bにシーブ側ギヤ61を圧入し、該シーブ側ギヤ61を上記雄ねじ82aと径方向に重なるように配置したので、例えば可動側送りねじ部材とシーブ側ギヤとを軸方向に並列配置する場合に比べて軸方向寸法を小さくすることができる。この場合、シーブ側ギヤ61を圧入する前に雄ねじ82aの加工を実施することにより、該シーブ側ギヤ61が雄ねじ82aと径方向に重なるように構成しながらこのシーブ側ギヤ61が雄ねじ82aの加工の支障になることはない。
【0065】
本実施形態では、上記フランジ部90bを、上記プライマリ軸部17bに形成された段部17dと、該プライマリ軸部17bに挿着されたカラー部材48の内端部とで挟持し、上記プライマリ軸部17bに挿着された固定シーブ50を介在させてロックナット33により、上記フランジ部90b,カラー部材48及び固定シーブ50を軸方向移動不能に固定したので、既存の部品48,50,33を有効利用して軸受支持部材90をプライマリ軸部17bに固定することができ、部品点数の増加を回避できる。
【0066】
また上記フランジ部90bをプライマリ軸部17bの段部17dに当接させたので、軸受支持部材90の軸方向移動を確実に防止できる。
【0067】
本実施形態では、可動シーブ49に固定されたスライド筒体80に軸受81をサークリップ86により軸方向移動不能に固定し、該軸受81に可動側送りねじ部材82をサークリップ87により軸方向移動不能に固定し、該可動側送りねじ部材82にシーブ側ギヤ61を圧入する構造としたので、各部品の組み付けを容易に行なうことができ、また各部品を組み付けるための別部品を必要最小限に抑えることができる。
【0068】
なお、上記実施形態では、自動二輪車として、スクータ型自動二輪車を例示したが、本発明は、スクータ型に限らず、他の自動二輪車にも適用できる。また、本願明細書における「自動二輪車」とは、モーターサイクルの意味であり、原動機付自転車(モーターバイク)、スクータを含み、具体的には、車体を傾動させて旋回可能な車両のことをいう。したがって、前輪および後輪の少なくとも一方を2輪以上にして、タイヤの数のカウントで三輪車・四輪車(またはそれ以上)であっても、それは本願明細書における「自動二輪車」に含まれ得る。さらにまた本発明は、自動二輪車に限らず、本発明の効果を利用できる他の車両にも適用でき、例えば、自動二輪車以外に、四輪バギー(ATV:All Terrain Vehicle (全地形型車両))や、スノーモービルを含む、いわゆる鞍乗型車両に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態によるパワーユニットが搭載された自動二輪車の側面図である。
【図2】上記パワーユニットの側面図である。
【図3】上記パワーユニットの平面図である。
【図4】上記パワーユニットの側面図である。
【図5】上記パワーユニットのプライマリシーブ回りの断面図(図4のV-V 線断面図) である。
【図6】上記パワーユニットのセカンダリシーブ回りの断面図(図4のVI-VI 線断面図)である。
【図7】上記パワーユニットの巻径制御機構の拡大断面図である。
【図8】図4のVIII-VIII 線断面図である。
【図9】図4のIX-IX 線断面図である。
【符号の説明】
【0070】
6 パワーユニット
7 後輪(駆動輪)
14 エンジン
15 無段変速機
16 巻径制御機構
17b プライマリ軸部
17d 段部
40 プライマリシーブ
41 セカンダリ軸
42 セカンダリシーブ
43 伝動ベルト
48 カラー部材
49 可動シーブ
50 固定シーブ
60 電動モータ
61 シーブ側ギヤ
80 スライド筒体
81 第1の軸受
82 可動側送りねじ部材
82a 雄ねじ
83 固定側送りねじ部材
83a 雌ねじ
84 芯出し軸受 (第2の軸受)
90 軸受支持部材
90a 保持部
90b フランジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力が入力されるプライマリ軸に装着されたプライマリシーブ,駆動力が取り出されるセカンダリ軸に装着されたセカンダリシーブ及び上記プライマリシーブ,セカンダリシーブに巻回された伝動ベルトを備えた無段変速機と、アクチュエータからの回転力を上記プライマリシーブを構成する可動シーブの軸方向移動力に変換することにより上記プライマリシーブのベルト巻径を変化させる巻径制御機構とを備えた車両用パワーユニットであって、上記巻径制御機構は、上記プライマリシーブの可動シーブに装着され上記プライマリ軸にスライド可能に支持されたスライド筒体と、該スライド筒体に第1の軸受を介して回転自在に支持された可動側送りねじ部材と、該可動側送りねじ部材に噛合し、エンジンケースに回り止めされた固定側送りねじ部材と、該固定側送りねじ部材と上記プライマリ軸との間に配置された第2の軸受とを備え、該第2の軸受は、上記可動シーブがロー位置にあるとき、上記スライド筒体の可動シーブと反対側の端部と径方向に重なるように配置されていることを特徴とする車両用パワーユニット。
【請求項2】
請求項1において、上記第2の軸受は、軸受支持部材を介して上記プライマリ軸に支持されており、該軸受支持部材は、第2の軸受を保持する円筒状の保持部と、該保持部の底壁をなすフランジ部とを備え、上記保持部が上記スライド筒体の可動シーブと反対側の端部と径方向に重なり、かつ上記フランジ部が上記プライマリ軸により支持されていることを特徴とする車両用パワーユニット。
【請求項3】
請求項2において、上記フランジ部は、上記プライマリ軸に形成された段部と、該プライマリ軸と上記スライド筒体との間に介在されたカラー部材とで挟持されていることを特徴とする車両用パワーユニット。
【請求項4】
請求項2又は3において、上記軸受支持部材のフランジ部は、上記段部に圧入により結合されていることを特徴とする車両用パワーユニット。
【請求項5】
請求項1において、上記可動側送りねじ部材は、円筒体の内周面が上記第1の軸受で支持され、外周面に雄ねじが形成されており、該雄ねじの少なくとも一部が上記第1の軸受と径方向に重なっていることを特徴とする車両用パワーユニット。
【請求項6】
請求項5において、上記可動側送りねじ部材の上記雄ねじに隣接する部位に、上記アクチュエータからの回転力が伝達されるシーブ側ギヤが圧入により結合され、該シーブ側ギヤは上記雄ねじの少なくとも一部と径方向に重なっていることを特徴とする車両用パワーユニット。
【請求項7】
エンジンの出力が入力されるプライマリ軸に装着されたプライマリシーブ,駆動力が取り出されるセカンダリ軸に装着されたセカンダリシーブ及び上記プライマリシーブ,セカンダリシーブに巻回された伝動ベルトを備えた無段変速機と、アクチュエータからの回転力を上記プライマリシーブを構成する可動シーブの軸方向移動力に変換することにより上記プライマリシーブのベルト巻径を変化させる巻径制御機構とを備えた車両用パワーユニットであって、上記巻径制御機構は、上記プライマリシーブの可動シーブに装着され上記プライマリ軸にスライド可能に支持されたスライド筒体と、該スライド筒体に第1の軸受を介して回転自在に支持された可動側送りねじ部材と、該可動側送りねじ部材に噛合し、エンジンケースに回り止めされた固定側送りねじ部材とを備え、上記可動側送りねじ部材は、円筒体の内周面が上記第1の軸受で支持され、外周面に雄ねじが形成されており、該雄ねじの少なくとも一部が上記第1の軸受と径方向に重なっていることを特徴とする車両用パワーユニット。
【請求項8】
請求項7において、上記可動側送りねじ部材の上記雄ねじに隣接する部位に、上記アクチュエータの回転力が伝達されるシーブ側ギヤが圧入により結合され、該シーブ側ギヤは上記雄ねじの少なくとも一部と径方向に重なっていることを特徴とする車両用パワーユニット。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れかに記載のパワーユニットを搭載したことを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−10104(P2007−10104A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194746(P2005−194746)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】