説明

車両用冷却構造

【課題】簡単な構造で複数の被冷却機器を冷却することができる車両用冷却構造を得る。
【解決手段】車両用電気駆動システム10は、車両を走行させるための駆動力を発生する電動機12及び電動機12に電力を供給するためのバッテリ26を含む複数の被冷却機器と、複数の被冷却機器のそれぞれにおける少なくとも一部を収納するハウジング30と、ハウジング30に設けられ複数の被冷却機器のそれぞれを冷却するための冷媒を循環させる冷媒循環路40と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源としての電動機及び電源装置を含む被冷却機器を冷却するための車両用冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車において、駆動モータ及びインバータユニットを水冷システムにて冷却する一方、高電圧バッテリをエアコンの冷却風で冷却する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−168600号公報
【特許文献2】特開2005−47489号広報
【特許文献3】特開2005−138792号公報
【特許文献4】特開2005−86914号公報
【特許文献5】特開2004−210176号公報
【特許文献6】実用新案登録第3116127号明細書
【特許文献7】特開2003−291660号公報
【特許文献8】特開平6−244749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の如き従来の技術では、複数の冷却システムが必要であるため、構造が複雑化することが懸念される。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、簡単な構造で複数の被冷却機器を冷却することができる車両用冷却構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明に係る車両用冷却構造は、車両を走行させるための駆動力を発生する電動機と、前記電動機に電力を供給するための電源装置とを含む複数の被冷却機器と、前記複数の被冷却機器のそれぞれにおける少なくとも一部を収納する収納器と、前記収納器に設けられ、前記複数の被冷却機器を冷却するための冷却手段と、を備えている。
【0006】
請求項1記載の車両用冷却構造では、電動機及び電源装置を含む複数の被冷却機器は、それぞれの少なくとも一部が収納器に収納されており、該収納器に設けられた共通の冷却手段によって冷却される。これにより、複数の被冷却機器の冷却のために複数の冷却システムを用いる必要がなく、冷却システムの構成の簡素化が図られる。しかも、複数の被冷却機器が共通の収納器に収納されているため、例えば複数の被冷却機器を収納する収納器を個別に備えた構成のように、冷却システムの共通化のために収納器間を繋ぐ放熱経路(冷媒配管や放熱板等)を設ける必要がなく、構成の一層の簡単化を図ることができる。
【0007】
このように、請求項1記載の車両用冷却構造では、簡単な構造で複数の被冷却機器を冷却することができる。
【0008】
請求項2記載の発明に係る車両用冷却構造は、車両を走行させるための駆動力を発生する電動機と、前記電動機に電力を供給するための電源装置とを含む複数の被冷却機器と、前記複数の被冷却機器のそれぞれにおける少なくとも一部を収納する収納器と、前記収納器に設けられ、前記複数の被冷却機器のそれぞれを冷却するための冷媒を循環させる冷媒循環路と、を備えている。
【0009】
請求項2記載の車両用冷却構造では、電動機及び電源装置を含む複数の被冷却機器は、それぞれの少なくとも一部が収納器に収納されており、該収納器に設けられた共通の冷媒循環路を循環する冷媒との熱交換によって冷却される。これにより、複数の被冷却機器の冷却のために複数の冷却システムを用いる必要がなく、冷却システムの構成の簡素化が図られる。しかも、複数の被冷却機器が共通の収納器に収納されているため、例えば複数の被冷却機器を収納する収納器を個別に備えた構成のように、冷却システムの共通化のために収納器間を繋ぐ冷媒配管等を設ける必要がなく、構成の一層の簡単化を図ることができる。
【0010】
このように、請求項2記載の車両用冷却構造では、簡単な構造で複数の被冷却機器を冷却することができる。
【0011】
請求項3記載の発明に係る車両用冷却構造は、車両を走行させるための駆動力を発生する電動機と、前記電動機に電力を供給するための電源装置とを含む複数の被冷却機器と、前記複数の被冷却機器のそれぞれにおける少なくとも一部を収納し、前記複数の被冷却機器のそれぞれを冷却するための冷媒を循環させる冷媒循環路が一体的に形成された収納器と、を備えている。
【0012】
請求項3記載の車両用冷却構造では、電動機及び電源装置を含む複数の被冷却機器は、それぞれの少なくとも一部が収納器に収納されており、該収納器に一体に形成された共通の冷媒循環路を循環する冷媒との熱交換によって冷却される。これにより、複数の被冷却機器の冷却のために複数の冷却システムを用いる必要がなく、冷却システムの構成の簡素化が図られる。しかも、複数の被冷却機器が共通の収納器に収納されているため、例えば複数の被冷却機器を収納する収納器を個別に備えた構成のように冷却システムの共通化のために収納器間を繋ぐ冷媒配管等を設ける必要がなく、構成の一層の簡単化を図ることができる。また、冷媒循環路が収納器に一体化されているため、配管等で冷媒循環路を形成する構成の如き配管配索が不要で、より一層の構成の簡素化が図られる。
【0013】
このように、請求項3記載の車両用冷却構造では、簡単な構造で複数の被冷却機器を冷却することができる。なお、収納器に一体的に形成された冷媒循環路は、少なくとも一部が収納器に一体に形成されていれば足り、例えば、主要部が収納器に一体に形成されたものであっても良く、収納器を構成する収納器本体とカバーとの接合や収納器の半体同士の接合に伴って形成されるものであっても良い。
【0014】
請求項4記載の発明に係る車両用冷却構造は、請求項2又は請求項3記載の車両用冷却構造において、前記収納器には、前記冷媒を冷却するための冷媒冷却用機器が組み込まれている。
【0015】
請求項4記載の車両用冷却構造では、被冷却機器の冷却に伴って加熱された冷媒は、冷媒冷却用機器にて冷却され、被冷却機器の冷却用途に再度供される。これにより、冷媒の冷却(再生)まで収納器内で完結し、冷媒による被冷却機器の冷却系統と冷媒の冷却系統とのサブアセンブリ化が実現される。
【0016】
請求項5記載の発明に係る車両用冷却構造は、請求項2乃至請求項4の何れか1項記載の車両用冷却構造において、前記冷媒循環路は、前記複数の被冷却機器毎に設定された設定温度の高い順又は低い順に冷媒が循環できるように形成されている。
【0017】
請求項5記載の車両用冷却構造では、複数の被冷却機器は、それぞれの設定温度の高い順、又は低い順に冷媒との熱交換を行う。これにより、冷媒の温度勾配が局所的に大きく変化することが防止され、複数の被冷却機器との熱交換部を直列に配置する単純な冷媒循環路で、該副数の被冷却機器を冷却(又は加熱)することができる。なお、設定温度としては、例えば、通常運転時の温度である運転温度、想定される最適運転温度や最高運転温度、許容温度(設計温度)等を用いることができる。
【0018】
請求項6記載の発明に係る車両用冷却構造は、請求項2乃至請求項5の何れか1項記載の車両用冷却構造において、前記冷媒循環路における冷媒の循環経路を切り替え可能に経路変更手段を設けた。
【0019】
請求項6記載の車両用冷却構造では、冷媒の循環経路を切り替え可能な経路変更手段を設けたため、各被冷却機器の運転状態(温度)に応じて冷媒の循環経路を切り替えることができる。これにより、例えば、冷却が不要な機器について冷媒をバイパスさせたり、冷却の必要な(要求冷却量の大きな)機器に優先(集中)的に冷媒を流したりすることが可能になる。そして、複数の被冷却機器を共通の冷媒循環路を流れる冷媒で冷却(又は加熱)する構成において、例えば、発熱量の少ない被冷却機器(例えば空冷が一般的な電源装置としての電池等)や、温度等の環境によっては冷却に代えて加熱される方が好ましい被冷却機器(例えば、低温時に出力が低くなる電源装置としての電池等)を、所要の運転状態(温度)で安定して運転させることが可能になる。
【0020】
請求項7記載の発明に係る車両用冷却構造は、請求項1乃至請求項6の何れか1項記載の車両用冷却構造において、前記複数の被冷却機器のうち少なくとも前記電動機の外郭を、前記収納器の外郭に接触させた。
【0021】
請求項7記載の車両用冷却構造では、電動機を含む被冷却機器(電動機のみの場合を含む)の外郭から収納器の外郭に伝えられた熱が、該収納器の外郭(表面)に接触する空気に伝えられたり、該収納器の外表面から放射されたりして、電動機を含む被冷却機器が冷却される。すなわち、外気と接触する収納器(の外表面)自体が請求項1の冷却手段として、又は請求項2乃至請求項6の冷媒とは別の付加された冷却手段として機能する。このため、簡単な構成で冷却手段を構成することができ、又は、冷媒循環路を有する構成に適用された場合に構造を複雑化することなく冷却性能を向上することが可能になる。
【0022】
請求項8記載の発明に係る車両用冷却構造は、請求項7記載の車両用冷却構造において、前記収納器に冷却風を導く導風手段を備えた。
【0023】
請求項8記載の車両用冷却構造では、例えば請求項1記載の冷却手段として、又は請求項2乃至請求項6の冷媒に加えて、導風手段を備えており、電動機を含む被冷却機器の外郭から収納器の外郭に伝えられた熱が導風手段により収納器に導かれた冷却風に放熱されて、各被冷却機器が冷却される。このように、単に収納器に冷却風を導いて該収納器に収納した被冷却機器を冷却する構成であるため、簡単な構成で冷却手段の冷却能力を向上することができ、又は、冷媒循環路を有する構成に適用された場合に構造を複雑化することなく冷却性能を一層向上することが可能になる。なお、導風手段として、例えば、作動して空気流を生成する起風装置、車両の走行風を案内する空力部材、収納器を走行風が生じる位置に露出させる配置等を採用することができる。
【0024】
請求項9記載の発明に係る車両用冷却構造は、請求項1乃至請求項8の何れか1項記載の車両用冷却構造において、前記電動機を車体に対し支持するためのフレームユニットが、前記収納器を含んで構成されている。
【0025】
請求項9記載の車両用冷却構造では、電動機及び電源装置を含む被冷却機器を収納した収納器が、電動機を車体に対し支持しつつ該電動機の駆動反力を受けるフレームユニットの少なくとも一部を構成している。これにより、質量が大きい電動機及び電源装置を支持する収納器の剛性、強度を利用して、高強度、高剛性のフレームユニットを構成することができる。
【0026】
請求項10記載の発明に係る車両用冷却構造は、請求項9記載の車両用冷却構造において、前記フレームユニットは、車体の重心よりも車体前後方向の前側で車体に取り付けられる前側取付部と、車体の重心よりも車体前後方向の後側で車体に取り付けられる後側取付部とを有する。
【0027】
請求項10記載の車両用冷却構造では、収納器を含んで構成されたフレームユニットが車体重心に対する車体前後方向の両側でそれぞれ車体に取り付けられているため、電動機の駆動反力を車体の重心に対する前後両側で受けることになる。このため、走行時(加速時や減速時等)に車体が路面に対し傾斜する挙動を抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように本発明に係る車両用冷却構造は、簡単な構造で複数の被冷却機器を冷却することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の実施形態に係る車両用冷却構造が適用された車両用電気駆動システム10について、図1乃至図8に基づいて説明する。なお、図中矢印FRは、車両用電気駆動システム10が適用される車体の前後方向の前側を、矢印UPは車体上下方向の上側を、矢印Wは車幅方向(車両用電気駆動システム10の幅方向)をそれぞれ示す。
【0030】
図1には、車両用電気駆動システム10の概略全体構成が斜視図にて示されており、図2には、車両用電気駆動システム10の模式的な内部構造が平面図にて示されている。これらの図に示される如く、車両用電気駆動システム10は、適用された自動車A(図5参照)を走行させるための駆動源としての電動機(モータ)12を備えている。電動機12は、差動装置としてのディファレンシャルギヤボックス14を介して左右のアクスルシャフト16に駆動力を伝達可能に連結されている。
【0031】
左右のアクスルシャフト16の先端(車幅方向外端)は、それぞれアクスルブラケットに回転自在に支持されたハブ(何れも図示省略)を介して車輪18に連結されている。このアクスルブラケットすなわち車輪18は、サブフレーム(サスペンションメンバ)20の後部メンバ22に支持されたサスペンションアーム24の先端(車幅方向外端)に、車体(サブフレーム20)に対する上下動可能に支持されている。この実施形態では、車輪18は、自動車Aの後輪とされており、サスペンションアーム24はリヤサスペンション25の一部を構成している。
【0032】
また、車両用電気駆動システム10は、電源装置としての充放電可能なバッテリ(電池、蓄電池)26、バッテリ26からの直流電流を交流に変換して電動機12に供給するためのインバータ28を備えている。この実施形態では、車両用電気駆動システム10は、複数の(分割された)バッテリ26を備えて構成されている。図2に示される如く、車両用電気駆動システム10を構成するバッテリ26の数は6つとされている。
【0033】
そして、車両用電気駆動システム10は、電動機12、各バッテリ26、及びインバータ28を収納する収納器としてハウジング30を備えている。図1に示される如く、ハウジング30は、へ家面視で車体前後方向に長手の矩形状に形成されると共に、車体上下方向に扁平した略直方体状を成している。図3に示される如く、ハウジング30には、電動機12の一部を収納するモータ収納部32と、各バッテリ26を独立して収納する複数のバッテリ収納部34と、インバータ28を収納するインバータ収納部36とがそれぞれ上向きに開口する凹部として形成されている。より具体的には、複数のバッテリ収納部34は、車幅方向(左右)に並列して2列、車体前後方向に3行の計6つ形成されている。インバータ収納部36は、複数のバッテリ収納部34の一方の列に対する後方に配置されており、モータ収納部32は、複数のバッテリ収納部34の他方の列に対する後方に配置されている。
【0034】
図1及び図2に示される如く、各バッテリ26及びインバータ28は、バッテリ収納部34、インバータ収納部36に収納されており、この状態でカバー38に手上側から覆われることで、全体としてハウジング30(及びカバー38)にて収納されて保持されている。一方、電動機12は、その前下側の一部12Aがハウジング30内に収納されて保持される構成とされている。
【0035】
以上説明したハウジング30には、図3及び図4に示される如く、電動機12、バッテリ26、及びインバータ28を冷却するための冷媒としての冷却液を循環するための冷媒循環路40が形成されている。図4(A)乃至図4(C)に示される如く、冷媒循環路40は、それぞれ車体前後方向に長手とされハウジング30の車幅方向中央部に配置された上側縦流路42、下側縦貫路44を備えている。
【0036】
上側縦流路42は、下側縦貫路44は、それぞれ左右のバッテリ収納部34の列間に配置されると共に隔壁45(図4(A)参照)にて上下に隔てられている。また、上側縦流路42は、バッテリ収納部34の車幅方向の内側壁34Aが流路壁(熱交換隔壁)とされており、下側縦貫路44は、複数の内側壁34Aを含むと共に前後の内側壁34A間を繋ぐ流路壁44Aにてバッテリ収納部34、上側縦流路42に対し仕切られている。この実施形態では、図4(A)に示される如く、下側縦貫路44を構成する流路壁44Aの車幅方向両側の壁厚tlは、上側縦流路42を構成する内側壁34Aの壁厚tuよりも厚肉とされている。
【0037】
上側縦流路42は、図3に示される如く、ハウジング30の前壁30Aの車幅方向中央の上部で前向き開口しており、上側縦流路42は、ハウジング30の前壁30Aの車幅方向中央の下部で前向き開口している。また、この実施形態では、上側縦流路42の後端は、前側から第3行目の左右のバッテリ収納部34間に設けられたストッパ壁46にて前後方向に封止されている。一方、下側縦貫路44の後端は、後述する第4横流路54に開口している。
【0038】
さらに、冷媒循環路40は、それぞれ車幅方向に長手とされた第1乃至第4横流路48、50、52、54を備えている。図3(B)に示される如く、第1横流路48はハウジング30の前壁30Aと第1行目の左右のバッテリ収納部34との間に形成され、第2横流路50は第1行目及び第2行目の左右のバッテリ収納部34間に形成され、第3横流路52は第2行目及び第3行目の左右のバッテリ収納部34間に形成され、第4横流路54は第3行目の左右のバッテリ収納部34とインバータ収納部36、モータ収納部32(ハウジング30の後壁30B)との間に形成されている。
【0039】
図4(C)に示される如く、第1乃至第3横流路48、50、52は、それぞれの幅方向中央部の上部において上側縦流路42に連通されており、流路壁44Aにて下側縦貫路44に対しては仕切られている。一方、第4横流路54は、その幅方向中央部の下部において下側縦貫路44の後側開口端44Bに連通している。第4横流路54は、インバータ収納部36、モータ収納部32を部分的又は全体的に囲むように形成されている。
【0040】
またさらに、冷媒循環路40は、それぞれ車体前後方向に長手とされハウジング30の幅方向外端に配置された左右一対の縦流路56を備えている。各縦流路56は、ハウジング30を構成する左右の側壁30Cと、左右各列を成す3つのバッテリ収納部34との間に配置され、第1乃至第4横流路48のそれぞれの間を車体前後方向に連通している。
【0041】
以上説明したように、ハウジング30では、モータ収納部32、複数のバッテリ収納部34、インバータ収納部36のそれぞれを囲む共通の(互いに連通された)冷媒循環路40を有して構成されている。
【0042】
図3(A)に示される如く、ハウジング30における前壁30Aの前側には、本発明における冷媒冷却用機器を構成するラジエータ58を取り付けるためのラジエータ取付部60が設けられている。図1及び図2に示される如く、ラジエータ取付部60の前端には、自動車Aの走行風との熱交換により冷却液を冷却するためのラジエータ58が配設されている。
【0043】
ラジエータ58の一方の冷媒ポート(出入口)58Aには、冷媒ホース62の一端が液密状態で接続されており、冷媒ホース62の他端は、上側縦流路42の前側開口端42Aに液密状態で接続されている。また、ラジエータ58の他方の冷媒ポート(出入口)58Bには冷媒ホース64の一端が液密状態で接続されており、冷媒ホース64の他端は、下側縦貫路44の前側開口端44Cに液密状態で接続されている。また、冷媒ホース62の中間部には、冷媒循環路40、ラジエータ58、冷媒ホース62、64で形成された流路に冷媒を循環させるためのウォータポンプ65が配設されている。ウォータポンプ65は、正逆回転可能なポンプモータ(図示省略)を有し、該ポンプモータの回転方向(以下、ウォータポンプ65の正逆転という)に応じて送液方向を反転させる構成とされている。
【0044】
これにより、車両用電気駆動システム10では、ウォータポンプ65が正転している場合には、図7(A)に示される如く、冷媒ホース62内を上側縦流路42の前側開口端42Aに向けて吐出された冷却液が、上側縦流路42、第1乃至第3横流路48、50、52、左右一対の縦流路56、第4横流路54、下側縦貫路44、冷媒ホース64、ラジエータ58の順で循環するようになっている。すなわち、ウォータポンプ65が正転する場合には、運転に伴う発熱量の小さい(すなわち運転温度が低い)順である、ラジエータ58、バッテリ26、電動機12及びインバータ28の順に冷却液が流れる構成とされている。これにより、車両用電気駆動システム10では、バッテリ26が先ず冷却され、次いでバッテリ26と比較して発熱量の大きい(運転温度が高い)電動機12、インバータ28が並列して冷却される構成とされている。
【0045】
一方、ウォータポンプ65が逆転している場合には、図7(B)に示される如く、冷媒ホース62内をラジエータ58の冷媒ポート58Aに向けて吐出された冷却液が、ラジエータ58、冷媒ホース64、下側縦貫路44、第4横流路54、左右一対の縦流路56、第1乃至第3横流路48、50、52、上側縦流路42の順で循環するようになっている。これにより、ウォータポンプ65が逆転する場合には、運転に伴う発熱量の大きい(運転温度が高い)電動機12、インバータ28が先ず冷却され、この冷却に伴って加熱された冷却液と、電動機12、インバータ28と比較して運転温度の低いバッテリ26とが熱交換を行う構成とされている。したがって、バッテリ26は、ウォータポンプ65が逆転する場合における低温時には冷却液によって加熱されるようになっている。
【0046】
また、図1に示される如く、車両用電気駆動システム10は、ラジエータ58に冷却風を送風するためのファン66を備えている。ファン66は、作動されてラジエータ58を前後に通過する冷却風を発生する構成とされている。なお、ハウジング30における前壁30Aよりも前側には、ラジエータ58の背面側から冷却風を排出するための排出口30Dが形成されている(図3参照)。
【0047】
さらに、図2に示される如く、車両用電気駆動システム10は、制御装置としての冷却ECU68を備えている。冷却ECU68は、バッテリ26の温度に応じた信号を出力する温度センサ70、起動スイッチ72、及びウォータポンプ65に電気的に接続されており、起動スイッチ72のON状態で温度センサ70の出力信号に基づいてウォータポンプ65の正逆転を制御するようになっている。
【0048】
具体的には、冷却ECU68は、バッテリ26の温度Tbが所定の閾値Tb0を超えることに対応する信号が温度センサ70から入力されている場合にウォータポンプ65を正転させ、バッテリ26の温度Tbが上記閾値Tb0以下であることに対応する信号が温度センサ70から入力されている場合にウォータポンプ65を逆転させる構成とされている。したがって、この実施形態におけるウォータポンプ65及び冷却ECU68が本発明における経路変更手段を構成している。なお、この実施形態では、閾値Tb0は、バッテリ26が所定の電力を放出可能な温度として設定され、−10℃とされている。また、この実施形態では、冷却ECU68はファン66に電気的に接続されており、例えば起動スイッチ72がON状態である場合にファン66を作動させるようになっている。
【0049】
起動スイッチ72は、例えば自動車Aのメインスイッチ(イグニッションスイッチ)とすることができ、例えば起動スイッチ72のON状態が自動車Aの運転可能状態とされる。車両用電気駆動システム10が適用された自動車Aの運転可能状態では、アクセル(ペダル)の操作量に応じた電動機12の回転数、トルクが得られるように、図示しない走行ECUが電動機12等を制御するようになっている。
【0050】
さらに、以上説明した車両用電気駆動システム10では、電動機12、バッテリ26、インバータ28を収納したハウジング30が、上記した左右一対の後部メンバ22と共にサブフレーム20を構成している。具体的には、図1に示される如く、ハウジング30の前端近傍における幅方向(左右)両側部には、それぞれ前側取付部としてのフロントマウント部74が設けられている。また、ハウジング30の後端における幅方向の両端から後向きに延設されている左右の後部メンバ22の後端には、それぞれリヤマウント部76が設けられている。
【0051】
このサブフレーム20は、フロントマウント部74、リヤマウント部76の計4ヶ所において、自動車Aを構成する図示しない車体骨格に直接的(剛的)に又は弾性的に連結されている。弾性的に連結する構成では、フロントマウント部74、リヤマウント部76と車体骨格との間に、例えばラバーブッシュやラバーマウント等の弾性支持部材を介在させるようになっている。以上により、車両用電気駆動システム10では、駆動源である電動機12、リヤサスペンション25がサブフレーム20を介して車体に支持されたている。そして、図5に示される如く、フロントマウント部74(と車体骨格との連結部)は、自動車Aの重心Gよりも車体前後方向の前側に位置し、リヤマウント部76(と車体骨格との連結部)は、重心Gよりも車体前後方向の後側に位置している。
【0052】
以上説明したようにサブフレーム20を構成するハウジング30は、例えば、鋼材やアルミニウム(合金)等の金属材、炭素繊維やガラス繊維等にて補強された繊維強化プラスチック等にて構成することができる。
【0053】
次に、本実施形態の作用について、冷却ECU68の制御フローを示す図6のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0054】
上記構成の車両用電気駆動システム10では、冷却ECU68は、ステップS10で起動スイッチ72がON状態であるか否かを判断する。起動スイッチ72がON状態ではないと判断した場合、冷却ECU68は、ステップS10に戻り、起動スイッチ72がONされるまで以上の動作を繰り返す(待機する)。一方、起動スイッチ72がON状態であると判断した場合、すなわち電動機12、バッテリ26、インバータ28の冷却(又は加熱)が要求される場合、冷却ECU68は、ステップS12に進み、ファン66を作動させる。次いで冷却ECU68は、ステップS14に進み、温度センサ70からの信号に基づいてバッテリ26の温度Tbが閾値Tb0(−10℃)以下であるか否かを判断する。
【0055】
バッテリ26の温度Tbが閾値Tb0以下ではない、すなわちTb0を超える(ステップS14でNo)と判断した場合、冷却ECU68は、ステップS16に進み、ウォータポンプ65を正転させる(通常運転モードが選択される)。すると、冷却液は、図7(A)に示される如く、ウォータポンプ65から冷媒ホース62に上側縦流路42の前側開口端42Aに向けて吐出され、上側縦流路42、第1乃至第3横流路48、50、52、左右一対の縦流路56、第4横流路54、下側縦貫路44、冷媒ホース64、ラジエータ58の順で循環する。
【0056】
これにより、主に第1乃至第3横流路48、50、52を流通する冷却液によって各バッテリ26が冷却され、第4横流路54を流通する冷却液によって電動機12、インバータ28が冷却される。この際、下側縦貫路44を流れる冷却液は、流路壁44Aが厚肉であることにより、バッテリ26との熱交換(バッテリ26の加熱)が抑制される。また、バッテリ26、電動機12、インバータ28の冷却に伴って加熱された冷却液は、ラジエータ58を通過しつつ、ファン66による送風される冷却風との熱交換によって、冷却される。
【0057】
一方、ステップS14でバッテリ26の温度Tbが閾値Tb0以下である(ステップS14でYes)と判断した場合、冷却ECU68は、ステップS18に進み、ウォータポンプ65を逆転させる(冷間運転モードが選択される)。すると、冷却液は、図7(B)に示される如く、ウォータポンプ65から冷媒ホース62にラジエータ58の一方の冷媒ポート58Aに向けて吐出され、ラジエータ58、冷媒ホース64、上側縦流路42、第4横流路54、左右一対の縦流路56、第1乃至第3横流路48、50、52、上側縦流路42の順で循環する。
【0058】
これにより、第4横流路54を流通する冷却液によって電動機12、インバータ28が冷却され、第1乃至第3横流路48、50、52を流通する冷却液すなわち電動機12又はインバータ28にて加熱された冷却液がバッテリ26を加熱(促進)する。この際、下側縦貫路44を流れる冷却液は、流路壁44Aが厚肉であることにより、バッテリ26との熱交換(バッテリ26の冷却)が抑制される。また、電動機12、インバータ28の冷却に伴って加熱された冷却液は、ラジエータ58を通過しつつ、ファン66による送風される冷却風との熱交換によって、冷却される。
【0059】
次いで、バッテリ26は、ステップS14に戻り、バッテリ26の温度Tbが閾値Tb0を超えるまでウォータポンプ65を逆転させる動作を維持する。そして、ステップS14でバッテリ26の温度Tbが閾値Tb0を超えたと判断すると、冷却ECU68は、上記の通りステップS16に進み、ウォータポンプ65を正転させる。このため、車両用電気駆動システム10では、例えば冬季等の低温環境での始動時にバッテリ26を早期に暖めて、所要の電力を電動機12(インバータ28)に供給させることができる。
【0060】
ここで、車両用電気駆動システム10では、電動機12(の一部)と、各バッテリ26と、インバータ28とが共通のハウジング30に収納され、共通の冷媒循環路40を循環する冷却液にて冷却(又は加熱)されるため、電動機12、各バッテリ26、インバータ28のそれぞれに対応する複数の冷却システムを設ける必要がなく、冷却システムの構成の簡素化が図られる。すなわち、水冷システムと空冷システムとを共に備える構成では、例えば、ラジエータ用のファンと空冷用のファンとを共に備える必要があり、製造(部品)コスト、運転コスト(消費電力)が共に高くなりやすいが、冷却システムを統一することで、製造コスト、運転コストを低減することができる。
【0061】
また、車両用電気駆動システム10では、電動機12、各バッテリ26、インバータ28が共通のハウジング30に収納されているため、例えばこれらを個別のハウジング等に収納した構成のように、冷却システムの共通化のために個別の収納器間を繋ぐ冷媒配管等を設ける必要がなく、構成の一層の簡単化を図ることができる。
【0062】
しかも、車両用電気駆動システム10では、ハウジング30に冷媒循環路40が直接的に形成されているため、例えばハウジング30内に冷却水の循環用の配管を配索する構成と比較して、構成の簡単化を図ることができる。すなわち、より一層の構成の簡素化を図ることができる。また、電動機12、バッテリ26、インバータ28と冷却液との間は、モータ収納部32、バッテリ収納部34、インバータ収納部36の壁部のみで隔てられる構成であるため、例えばハウジング30内に冷却水の循環用の配管を配索する構成(配管の管壁をさらに介在させる構成)と比較して、熱交換(冷却又は加熱)効率が高い。
【0063】
さらに、車両用電気駆動システム10では、ハウジング30に冷媒冷却用機器としてのラジエータ58、冷媒ホース62、冷媒ホース64、ウォータポンプ65、ファン66が組み込まれているため、これらとハウジング30(冷媒循環路40)とを連通する配管等をハウジング30の外部に設ける必要がなく、より一層の構造の簡素化が果たされる。すなわち、車両用電気駆動システム10では、冷却液による電動機12、バッテリ26、インバータ28の冷却、及びこれらを冷却した後の冷却液の冷却(再生)までハウジング30内で完結させることができる。これにより、電動機12、バッテリ26、インバータ28の冷媒による冷却系と、冷媒の冷却系統とのサブアセンブリ化が実現される。
【0064】
またここで、車両用電気駆動システム10では、バッテリ26の温度が閾値を超える通常の運転状態において、冷却液は、ラジエータ58で冷却され、運転温度の低いバッテリ26を先に冷却した後、運転温度の高い電動機12、インバータ28を冷却する構成であるため、運転温度の異なる複数の機器であるバッテリ26、電動機12、インバータ28を効率的に冷却することができる。すなわち、ラジエータ58にて冷却された冷却液は、運転温度が低い(例えば最高60℃)バッテリ26を冷却することができ、このバッテリ26を冷却した後の冷却液は、温度上昇が小さいので、仮にバッテリ26の最高運転温度に対応する60℃になったとしても、電動機12、インバータ28を十分に冷却することができる。
【0065】
さらに、車両用電気駆動システム10では、上記の通り共通の冷媒循環路40に冷却液を循環させて電動機12、バッテリ26、インバータ28を冷却することができるので、これらの運転温度に合わせた複数の冷媒循環路を形成する必要がなくなり、循環経路を単純化した冷媒循環路40を採用することができ、冷却システム簡素化が図られた。また、運転温度の低い順に冷却液を循環させるため、冷却液の流れ方向に沿う温度勾配の変動が小さく冷却液の熱ロスを抑制することができる。特に、運転温度がそれぞれ(3段階以上に)異なる3つ以上の被冷却機器を運転温度順に冷却する構成では、その効果が一層顕著となる。
【0066】
そして、車両用電気駆動システム10では、バッテリ26の温度Tbが閾値Tb0以下である場合には、冷媒循環路40の冷媒循環を逆転させる構成であるため、換言すれば、冷却液の循環経路を切り替え可能な構成であるため、バッテリ26の安定運転(運転環境の安定化)に寄与する。すなわち、バッテリ26は、冷間時に出力が小さくなる場合があるが、電動機12、インバータ28の冷却に伴って加熱された冷却液にて加熱することで、短時間で(早期に)所要の電力を出力し得る通常状態に移行することができる。
【0067】
さらにここで、車両用電気駆動システム10では、ハウジング30がサブフレーム20を構成しているため、簡単な構造でサブフレーム構造を採用することが実現できた。すなわち、質量の大きいバッテリ26、電動機12を収納(搭載)するハウジング30は、高剛性、高強度に構成されており、このハウジング30(の剛性及び強度)を利用してサブフレーム20が構成されているので、補強部材の設置等による部品点数や質量増加を伴うことなくサブフレーム20の剛性、強度を確保することができる。しかも、ハウジング30には冷媒循環路40(モータ収納部32、複数のバッテリ収納部34、インバータ収納部36、流路壁44A,隔壁45、ストッパ壁46)が一体的に形成されているので、ハウジング30すなわちサブフレーム20の剛性が一層高められている。
【0068】
また、バッテリ26、電動機12、インバータ28を収納する大型部品であるハウジング30を用いてサブフレーム20を構成したため、サブフレーム20の車体への前後の取付スパンを大きく設定することができる。これにより、電動機12の駆動反力に対する強度、剛性を補強等に頼ることなく確保しやすい。
【0069】
そして、車両用電気駆動システム10では、自動車Aの重心Gを車体前後方向に跨ぐフロントマウント部74、リヤマウント部76にてサブフレーム20が車体骨格に連結されているため、自動車Aの走行時(加速時)に発生するスクォート(車体後部が沈み込むように路面に対し傾斜する挙動)の発生を抑制することができる。具体的には、図8(B)に示す如く、前後の車体取付点202、204が共に重心Gよりも後側にある比較例に係るサブフレーム200では、電動機12の動作(自動車Aの走行)に伴う駆動反力Fは、自動車Aの車体Bにおける重心Gの後側にのみ作用するので、後輪である車輪18がバンプすると共に車体Bの後部がダイブし、スクォートが生じる。これに対して、サブフレーム20では、重心Gを挟む前後両側で車体Bに取り付けられているため、図8(A)に示される如く、駆動反力Fが重心Gの前後両側に作用する。このため、車輪18の上下動に伴って車体Bは、路面に対し略平行な姿勢のまま上下動するので、車体Bを路面に対し傾斜させるスクォートが抑制される。
【0070】
このため、車両用電気駆動システム10が適用された自動車Aでは、アンチスクォート特性を得るための設計上の制約(ジオメトリやマウントゴムの特性等)が著しく少なくなり、サスペンションの設計自由度が向上する。
【0071】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。なお、上記した第1の実施形態又は前出の構成と基本的に同一の部品又は部分には、第1の実施形態又は前出の構成と同一の符号を付して説明を省略し、図示を省略する場合がある。
【0072】
(第2の実施形態)
図9には、本発明の第2の実施形態に係る車両用電気駆動システム80の模式的な内部構造が図2に対応する平面図にて示されている。この図に示される如く、車両用電気駆動システム80は、第2横流路50、第3横流路52を開閉するためのバルブ(シャッタ)82、84を備える点で、第1の実施形態に係る車両用電気駆動システム10とは異なる。以下、具体的に説明する。
【0073】
バルブ82は、第2横流路50における左右の縦流路56との連通部分を開閉可能に一対設けられている。各バルブ82は、それぞれ第1行目のバッテリ収納部34の後端でかつ幅方向外端の角部の外側に配設された支軸82A廻りに回動可能とされており、この回動によって、図9に実線にて示されるように第2横流路50を開放する開放姿勢と、想像線にて示されるように第2横流路50を閉止する閉止姿勢とを選択的にとり得る構成とされている。この実施形態では、開放姿勢を取るバルブ82は、縦流路56を閉止するようになっている。
【0074】
バルブ84は、第3横流路52における左右の縦流路56との連通部分を開閉可能に一対設けられている。各バルブ84は、それぞれ前後方向(縦流路56の長手方向)にスライド可能とされており、このスライドによって、図9に実線にて示されるように第3横流路52を開放する開放姿勢と、想像線にて示されるように第3横流路52を閉止する閉止姿勢とを選択的にとり得る構成とされている。
【0075】
各バルブ82、バルブ84は、ウォータポンプ65と共に、制御装置としての冷却ECU85にて制御されるようになっている。冷却ECU85は、温度センサ70、起動スイッチ72の他、電動機12の温度に対応する信号を出力する温度センサ86、インバータ28の温度に対応する信号を出力する温度センサ88とも電気的に接続されており、これらの信号に応じてウォータポンプ65、バルブ82、バルブ84を制御する構成とされている。冷却ECU85の制御については、第2の実施形態の作用と共に後述する。
【0076】
なお、第2の実施形態では、ウォータポンプ65、冷却ECU85、バルブ82、84で、本発明における経路変更手段を構成している。なお、バルブ82は、バルブ84と同様にスライドタイプとしても良い。車両用電気駆動システム80の他の構成は、ハウジング30がサブフレーム20を構成する点も含め、車両用電気駆動システム10の対応する構成と同じである。
【0077】
したがって、第2の実施形態に係る車両用電気駆動システム80では、電動機12、バッテリ26、インバータ28が共通のハウジング30に収納され、共通の冷却システムにて冷却(又は加熱)されるので、ハウジング30がサブフレーム20を構成することによる作用効果を含め、基本的に第1の実施形態に係る車両用電気駆動システム10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。以下、第2の実施形態に作用における主に第1の実施形態とは異なる部分を、図10に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0078】
上記構成の車両用電気駆動システム80では、冷却ECU85は、ステップS14までは、車両用電気駆動システム10の冷却ECU68と同様に動作する。そして、ステップS14でバッテリ26の温度Tbが閾値Tb0を超えていると判断した場合には、冷却ECU85は、ステップS20に進み、温度センサ86、温度センサ88の出力信号に基づいて、電動機12及びインバータ28の一方又は双方の温度Tm、Tiがそれぞれの許容運転温度Tm0、Ti0を超えている(過熱状態である)か否かを判断する。
【0079】
ステップS20で電動機12、インバータ28共に過熱状態ではないと判断した場合、すなわち通常運転状態である場合に、冷却ECU85は、ステップS22に進み、バルブ82、バルブ84をそれぞれの開放姿勢に保持すると共に、ウォータポンプ65を正転させる(通常運転モードが選択される)。すると、図11(A)に示される如く、冷却液は、上側縦流路42、第2横流路50、第3横流路52、左右の縦流路56、第4横流路54、下側縦貫路44、冷媒ホース64、ラジエータ58の順で循環する。この循環経路は、第1横流路48を冷却液が流れないことを除いて図7(A)に示す循環経路と同じであり、先ずバッテリ26が冷却され、次いでインバータ28、電動機12が並列して冷却される。
【0080】
一方、ステップS14で、バッテリ26の温度TbがTb0以下である判断した場合には、冷却ECU85は、ステップS24に進み、バルブ82、バルブ84をそれぞれの開放姿勢に保持すると共に、ウォータポンプ65を逆転させる(冷間運転モードが選択される)。すると、図11(B)に示される如く、冷却液は、ラジエータ58、下側縦貫路44、第4横流路54、左右の縦流路56、第3横流路52、第2横流路50、上側縦流路42の順で循環する。この循環経路は、第1横流路48を冷媒が流れないことを除いて図7(B)に示す循環経路と同じであり、先ずインバータ28、電動機12が冷却され、次いで低温のバッテリ26が冷却液にて加熱される。
【0081】
さらに、ステップS20で、電動機12及びインバータ28の少なくとも一方が加熱状態であると判断した場合、冷却ECU85は、ステップS26に進み、バルブ82、84を閉止姿勢に保持すると共に、ウォータポンプ65を逆転させる(過熱解消運転モードが選択される)。すると、図11(C)に示される如く、冷却液は、ラジエータ58、下側縦貫路44、第4横流路54、左右の縦流路56、第1乃至第3横流路48、上側縦流路42(の前側開口端42A)の順で循環する。これにより、冷却液によるバッテリ26の冷却が抑制され、冷却液は主に(殆ど)電動機12、インバータ28の冷却に供される。これにより、電動機12、インバータ28の過熱状態が短時間で解消される。
【0082】
冷却ECU85は、ステップS26の実行後にステップS20に戻り、電動機12、インバータ28の過熱状態が解消されるまで、すなわちステップS20で電動機12、インバータ28共に過熱状態ではないと判断されるまでステップS20、ステップS26を繰り返す。そして、ステップS20で電動機12、インバータ28共に過熱状態ではないと判断されると、上記の如くステップS22に進む。
【0083】
このように、車両用電気駆動システム80は、経路変更手段の構成要素として、吸入、吐出方向を切り替え可能なウォータポンプ65に加えて、冷媒循環路40の一部を開閉するバルブ82、バルブ84を備えるため、多様な運転モードの選択が可能になった。具体的には、電動機12、インバータ28の加熱時にバッテリ26の冷却路をバイパスしつつ電動機12、インバータ28の冷却用途(第4横流路54)に優先(集中)的に冷却液を供給する過熱解消運転モードを、通常運転モード、冷間運転モードに加えて選択可能とすることが実現された。
【0084】
(第3の実施形態)
図12には、本発明の第3の実施形態に係る車両用電気駆動システム90が図1に対応する斜視図にて示されている。この図に示される如く、車両用電気駆動システム80は、ラジエータ58、ウォータポンプ65、ファン66等で構成される冷媒冷却用機器を備えない空冷方式を採用する点で、冷媒として冷却液を用いた車両用電気駆動システム10とは異なる。
【0085】
具体的には、車両用電気駆動システム90は、冷媒循環路40が形成されたハウジング30に代えて、冷媒循環路40を有しない(図示省略)ハウジング92を備えている。図示は省略するが、ハウジング92は、モータ収納部32、複数のバッテリ収納部34、インバータ収納部36を有して構成され、電動機12の一部、各バッテリ26、及びインバータ28を収納して保持している。そして、この状態で、電動機12は、その外郭を成す金属製のヨーク12Bの一部(図12の符号12A参照)をハウジング92の外表面(特に下面)を構成する外郭に熱伝達可能(熱的)に接触させており、また、バッテリ26、インバータ28についてもそれぞれの外郭をハウジング92の外郭に熱伝達可能に接触させている。
【0086】
これにより、電動機12、バッテリ26、インバータ28が運転に伴い発生した熱は、外気と接触するハウジング92の外郭に伝わり分散される構成とされている。そして、ハウジング92の下面を成す下壁92Aからは、車体前後方向に長手とされた放熱フィン94が垂下されている。放熱フィン94は、車幅方向に並列して複数設けられており、それぞれが下壁92Aの略全長に亘り延在している。これにより、ハウジング92の外郭に伝わった熱が、複数の放熱フィン94と接触する外気に放熱されるようになっている。
【0087】
以上説明したハウジング92は、ハウジング30と同様に、左右一対の後部メンバ22とでサブフレーム20を構成している。このため、下壁92Aに設けられた放熱フィン94は、自動車Aのフロア下を流れる走行風が接触するように配置されている。したがって、この実施形態では、電動機12、バッテリ26、インバータ28に共通の冷却システムは、空冷システムとされており、ハウジング92の外郭、放熱フィン94、及びハウジング92の配置が本発明における冷却手段とされており、サブフレーム20を構成するハウジング92の配置は本発明における導風手段にも相当する。車両用電気駆動システム90の他の構成は、車両用電気駆動システム10の対応する構成と同じである。
【0088】
車両用電気駆動システム90では、自動車Aの走行に伴って、電動機12、バッテリ26、インバータ28が発生した熱がハウジング92の外郭すなわち広い表面積を有する部分に伝達、分散され、この熱は、放熱フィン94、下壁92Aを含むハウジング92の外郭に接触した外気に放熱される。これにより、電動機12、バッテリ26、インバータ28がそれぞれ冷却される。これにより、後輪駆動の自動車Aに適用されて、空冷システムを用いる構成を実現することができる。
【0089】
そして、第3の実施形態に係る車両用電気駆動システム80では、電動機12、バッテリ26、インバータ28が共通のハウジング30に収納され、共通の空冷システムにて冷却されるので、電動機12、各バッテリ26、インバータ28のそれぞれに対応する複数の冷却システムを設ける必要がなく、冷却システムの構成の簡素化が図られる。また、水冷システムである10、80のようにラジエータ58、ウォータポンプ65、ファン66、冷却ECU68等の制御系を備えないため、構造が一層簡単である。なお、この実施形態は、出力が比較的小さい電動機12を備えた構成に好適に適用される。
【0090】
また、車両用電気駆動システム90におけるハウジング30がサブフレーム20を構成することによる作用効果は、基本的に第1の実施形態に係る車両用電気駆動システム10同様である。さらに、車両用電気駆動システム90では、ハウジング92に設けられた複数の放熱フィン94によって、該ハウジング92の補強(剛性向上)効果が得られる。
【0091】
なお、第3の実施形態では、走行風をハウジング92(放熱フィン94)に接触させて電動機12、各バッテリ26、インバータ28を冷却する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、導風手段としてファンを設けた構成としても良く、空調風や空調排気(冷房後の車室外に排気される空調風)をハウジング92に導く構成としても良い。また、走行風をハウジング92に導く空力部品や装置を導風手段とすることも可能である。
【0092】
また、上記第1及び第2の実施形態では、電動機12、各バッテリ26、インバータ28に共通の冷却手段として、ハウジング30の冷媒循環路40に冷却液を循環させる水冷システムを備えた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、この水冷システムに第3実施形態の空冷システムを組み合わせて構成しても良い。この場合、例えば、空冷システムによる主たる冷却対象が金属製のヨーク12Bを有する電動機12である構成としても良い。
【0093】
さらに、上記第1乃至第3の実施形態では、電動機12が後輪である車輪18を駆動する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、電動機12が前輪を駆動する構成としても良い。この場合、ハウジング30、ハウジング92を含んでフロントサブフレームを構成することで、自動車Aの減速時のノーズダイブやフロントリフトを抑制することができる。
【0094】
さらにまた、上記第1乃至第3の実施形態では、ハウジング30、ハウジング92がサブフレーム20を構成する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、ハウジング30とリヤサスペンション25(左右一対の後部メンバ22)とを独立して車体に取り付ける構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両用電気駆動システムを示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る車両用電気駆動システムの内部構造を模式的に示す平面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る車両用電気駆動システムを構成するハウジングの要部を示す斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る車両用電気駆動システムを構成するハウジングを示す図であって、(A)は図4(B)の4A−4A線に沿った断面図、(B)は平面断面図、(C)は図4(B)の4C−4C線に沿った断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る車両用電気駆動システムが適用された自動車の模式的な側面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る車両用電気駆動システムを構成する冷却ECUによる制御フローを示すフローチャートである。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る車両用電気駆動システムを構成するハウジングを示す図であって、(A)は通常運転時の冷媒循環経路を示す平面図、(B)はバッテリ低温時の冷媒循環経路を示す平面図である。
【図8】(A)は、本発明の第1の実施形態に係る車両用電気駆動システムが適用された自動車の駆動反力の支持状態を示す模式図、(B)は、比較例に係る車両用電気駆動システムでの駆動反力の支持状態を示す模式図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る車両用電気駆動システムの内部構造を模式的に示す平面図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る車両用電気駆動システムを構成する冷却ECUによる制御フローを示すフローチャートである。
【図11】本発明の第1の実施形態に係る車両用電気駆動システムを構成するハウジングを示す図であって、(A)は通常運転時の冷媒循環経路を示す平面図、(B)はバッテリ低温時の冷媒循環経路を示す平面図、(C)は電動機・インバータ過熱時の冷媒循環経路を示す平面図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る車両用電気駆動システムを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0096】
10 車両用電気駆動システム(車両用冷却構造)
12 電動機
20 サブフレーム(フレームユニット)
26 バッテリ(電源装置)
28 インバータ(被冷却機器)
30 ハウジング(収納器)
40 冷媒循環路(冷却手段)
58 ラジエータ(冷媒冷却用機器)
65 ウォータポンプ(冷却手段、経路変更手段)
66 ファン(冷媒冷却用機器)
68 冷却ECU(経路変更手段)
74 フロントマウント部(前側取付部)
76 リヤマウント部(後側取付部)
80・90 車両用電気駆動システム
82・84 バルブ(経路変更手段)
85 冷却ECU(経路変更手段)
92 ハウジング(収納器、導風手段、冷却手段)
94 放熱フィン(冷却手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を走行させるための駆動力を発生する電動機と、前記電動機に電力を供給するための電源装置とを含む複数の被冷却機器と、
前記複数の被冷却機器のそれぞれにおける少なくとも一部を収納する収納器と、
前記収納器に設けられ、前記複数の被冷却機器を冷却するための冷却手段と、
を備えた車両用冷却構造。
【請求項2】
車両を走行させるための駆動力を発生する電動機と、前記電動機に電力を供給するための電源装置とを含む複数の被冷却機器と、
前記複数の被冷却機器のそれぞれにおける少なくとも一部を収納する収納器と、
前記収納器に設けられ、前記複数の被冷却機器のそれぞれを冷却するための冷媒を循環させる冷媒循環路と、
を備えた車両用冷却構造。
【請求項3】
車両を走行させるための駆動力を発生する電動機と、前記電動機に電力を供給するための電源装置とを含む複数の被冷却機器と、
前記複数の被冷却機器のそれぞれにおける少なくとも一部を収納し、前記複数の被冷却機器のそれぞれを冷却するための冷媒を循環させる冷媒循環路が一体的に形成された収納器と、
を備えた車両用冷却構造。
【請求項4】
前記収納器には、前記冷媒を冷却するための冷媒冷却用機器が組み込まれている請求項2又は請求項3記載の車両用冷却構造。
【請求項5】
前記冷媒循環路は、前記複数の被冷却機器毎に設定された設定温度の高い順又は低い順に冷媒が循環できるように形成されている請求項2乃至請求項4の何れか1項記載の車両用冷却構造。
【請求項6】
前記冷媒循環路における冷媒の循環経路を切り替え可能に経路変更手段を設けた請求項2乃至請求項5の何れか1項記載の車両用冷却構造。
【請求項7】
前記複数の被冷却機器のうち少なくとも前記電動機の外郭を、前記収納器の外郭に接触させた請求項1乃至請求項6の何れか1項記載の車両用冷却構造。
【請求項8】
前記収納器に冷却風を導く導風手段を備えた請求項7記載の車両用冷却構造。
【請求項9】
前記電動機を車体に対し支持するためのフレームユニットが、前記収納器を含んで構成されている請求項1乃至請求項8の何れか1項記載の車両用冷却構造。
【請求項10】
前記フレームユニットは、車体の重心よりも車体前後方向の前側で車体に取り付けられる前側取付部と、車体の重心よりも車体前後方向の後側で車体に取り付けられる後側取付部とを有する請求項9記載の車両用冷却構造。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2008−105645(P2008−105645A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292775(P2006−292775)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】