説明

車両用動力伝達装置

【課題】遊星歯車機構を利用してエンジンの減速比と電気モータの減速比を制御する技術において、エンジンの減速比と電気モータの減速比の対応関係を可変とする。
【解決手段】エンジン1の発生する動力が第1遊星歯車機構Peのキャリアに入力され、モータMGの発生する動力が第2遊星歯車機構Pmのサンギアに入力され、第1遊星歯車機構Peのリングギアおよび第2遊星歯車機構Pmのキャリアからの動力を結合して車両の駆動輪の車軸に伝達し、エンジン1の動力が第1遊星歯車機構Peのキャリアに入力される状態を保ちながら、第1遊星歯車機構Peのサンギアの回転を第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1のいずれかで規制し、また、モータMGの動力が第2遊星歯車機構Pmのサンギアに入力される状態を保ちながら、第2遊星歯車機構Pmのリングギアの回転を第2ブレーキB2、第3クラッチC3のいずれかで規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ハイブリッド車両の動力伝達装置として、遊星歯車機構を利用してエンジンの減速比と電気モータの減速比を制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−1234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、エンジンの減速比と電気モータの減速比の対応関係は固定的になっている。すなわち、エンジンの減速比を決定すると、電気モータの減速比も一意に決まってしまう。そのため、エンジンと電気モータの効率の良い運転条件を個別に選択することは不可能である。
【0005】
本発明は上記点に鑑み、遊星歯車機構を利用してエンジンの減速比と電気モータの減速比を制御する技術において、エンジンの減速比と電気モータの減速比の対応関係を可変とすることで、エンジンおよびモータの効率の良い運転条件を個別に設定することを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、走行用の動力を発生するエンジン(1)およびモータ(MG)を備えた車両用の動力伝達装置であって、サンギア、キャリア、リングギアという3つの回転部材を備える第1遊星歯車機構(Pe)と、サンギア、キャリア、リングギアという3つの回転部材を備える第2遊星歯車機構(Pm)と、前記エンジン(1)の発生する動力が入力され、前記エンジン(1)の動力を前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記3つの回転部材のうち第1エンジン側回転部材(Ce)に入力するエンジン入力軸(2)と、前記モータ(MG)の発生する動力が入力され、前記モータ(MG)の動力を前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記3つの回転部材のうち第1モータ側回転部材(Sm)に入力するモータ入力軸(3)と、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記3つの回転部材のうち第2エンジン側回転部材(Re)および前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記3つの回転部材のうち第2モータ側回転部材(Cm)からの動力を結合して前記車両の駆動輪の車軸に伝達する出力機構(4、7、9)と、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記3つの回転部材のうち第3エンジン側回転部材(Se)の回転をそれぞれ異なる機構で規制可能な複数の第1規制機構(C1、C2、B1)と、前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記3つの回転部材のうち第3モータ側回転部材(Rm)の回転をそれぞれ異なる機構で規制可能な複数の第2規制機構(B2、C3)と、を備えた車両用動力伝達装置である。
【0007】
このように、エンジン(1)の発生する動力を第1遊星歯車機構Peの第1エンジン側回転部材(Ce)に入力し、モータ(MG)の発生する動力を第2遊星歯車機構Pmの第1モータ側回転部材(Sm)に入力し、第1遊星歯車機構(Pe)の第2エンジン側回転部材(Re)および第2遊星歯車機構(Pm)の第2モータ側回転部材(Cm)からの動力を結合して駆動輪の車軸に伝達すると、第2エンジン側回転部材(Re)の回転数と第2モータ側回転部材(Cm)の回転数は互いに規制し合う。
【0008】
そして、第1遊星歯車機構(Pe)用の複数の第1規制機構(C1、C2、B1)のうち、使用する第1規制機構を切り替えることで、第1遊星歯車機構Peの入力と出力の減速比が切り替え可能となる一方、これとは別に、第2遊星歯車機構(Pm)用の第2規制機構(B2、C3)のうち、使用する第2規制機構を切り替えることで、第2遊星歯車機構Pmの入力と出力の減速比が切り替え可能となる。したがって、エンジン(1)の減速比とモータ(MG)の減速比の対応関係を可変とすることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、走行用の動力を発生するエンジン(1)およびモータ(MG)を備えた車両用の動力伝達装置であって、サンギア、キャリア、リングギアという3つの回転部材を備える第1遊星歯車機構(Pe)と、サンギア、キャリア、リングギアという3つの回転部材を備える第2遊星歯車機構(Pm)と、前記エンジン(1)の発生する動力が入力され、前記エンジン(1)の動力を前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記3つの回転部材のうち第1エンジン側回転部材(Ce)に入力するエンジン入力軸(2)と、前記モータ(MG)の発生する動力が入力され、前記モータ(MG)の動力を前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記3つの回転部材のうち第1モータ側回転部材(Sm)に入力するモータ入力軸(3)と、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記3つの回転部材のうち第2エンジン側回転部材(Re)および前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記3つの回転部材のうち第2モータ側回転部材(Cm)からの動力を結合して前記車両の駆動輪の車軸に伝達する出力機構(4、7、9)と、前記第1遊星歯車機構(Pe)および前記第2遊星歯車機構(Pm)の回転条件を規制する規制機構部(C1、C2、C3、B1、B2)と、を備え、前記規制機構部(C1、C2、C3、B1、B2)を制御することにより、前記エンジン(1)側の減速比と前記モータ(MG)側の減速比を独立に設定できるようになっていることを特徴とする車両用動力伝達装置である。
【0010】
このように、エンジン(1)の発生する動力を第1遊星歯車機構Peの第1エンジン側回転部材(Ce)に入力し、モータ(MG)の発生する動力を第2遊星歯車機構(Pm)の第1モータ側回転部材(Sm)に入力し、第1遊星歯車機構(Pe)の第2エンジン側回転部材(Re)および第2遊星歯車機構(Pm)の第2モータ側回転部材(Cm)からの動力を結合して駆動輪の車軸に伝達すると、第2エンジン側回転部材(Re)の回転数と第2モータ側回転部材(Cm)の回転数は互いに規制し合う。
【0011】
そして、規制機構部(C1、C2、C3、B1、B2)を制御することにより、エンジン(1)側の減速比とモータ(MG)側の減速比を独立に設定できるようになっていることで、エンジン(1)の減速比とモータ(MG)の減速比の対応関係を可変とすることができる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の車両用動力伝達装置において、前記規制機構部(C1、C2、C3、B1、B2)は、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記3つの回転部材のうち第3エンジン側回転部材(Se)の回転をそれぞれ異なる機構で規制可能な複数の第1規制機構(C1、C2、B1)と、前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記3つの回転部材のうち第3モータ側回転部材(Rm)の回転をそれぞれ異なる機構で規制可能な複数の第2規制機構(B2、C3)と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1または3に記載の車両用動力伝達装置において、前記第1遊星歯車機構Peにおいて、前記第1エンジン側回転部材(Ce)はキャリアであり、前記第2エンジン側回転部材(Re)はリングギアであり、前記第3エンジン側回転部材(Se)はサンギアであり、前記第2遊星歯車機構Pmにおいて、前記第1モータ側回転部材(Sm)はサンギアであり、前記第2モータ側回転部材(Cm)はキャリアであり、前記第3モータ側回転部材(Rm)はリングギアであることを特徴とする。
【0014】
この構成とすることで、エンジンの回転数を減速すること、直結することも、増速することも可能となる。また、モータについては、直結と減速をすることができる。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1、3および4のいずれか1つに記載の車両用動力伝達装置において、前記複数の第1規制機構(C1、C2、B1)の1つは、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記第3エンジン側回転部材(Se)の回転数を前記第2遊星歯車機構Pmの前記第1モータ側回転部材(Sm)と同じにするための第1クラッチ(C1)であり、前記複数の第1規制機構(C1、C2、B1)の他の1つは、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記第3エンジン側回転部材(Se)の回転数を前記第1エンジン側回転部材(Ce)および前記第2エンジン側回転部材(Re)と同じにするための第2クラッチ(C2)であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の車両用動力伝達装置において、前記複数の第1規制機構(C1、C2、B1)の他の1つは、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記第3エンジン側回転部材(Se)の回転を固定部材(W1)で減速するための第1ブレーキ(B1)であることを特徴とする。
【0017】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1および3ないし6のいずれか1つに記載の車両用動力伝達装置において、前記複数の第2規制機構(B2、C3)の1つは、前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記第3モータ側回転部材(Rm)の回転を固定部材(W2)で減速するための第2ブレーキ(B2)であり、前記複数の第2規制機構(B2、C3)の他の1つは、前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記第3モータ側回転部材(Rm)の回転数を前記第1モータ側回転部材(Sm)および前記第2モータ側回転部材(Cm)と同じにするための第3クラッチ(C3)であることを特徴とする。
【0018】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1または3に記載の車両用動力伝達装置において、前記第1遊星歯車機構Peにおいて、前記第1エンジン側回転部材(Ce)はキャリアであり、前記第2エンジン側回転部材(Re)はリングギアであり、前記第3エンジン側回転部材(Se)はサンギアであり、前記第2遊星歯車機構Pmにおいて、前記第1モータ側回転部材(Sm)はサンギアであり、前記第2モータ側回転部材(Cm)はキャリアであり、前記第3モータ側回転部材(Rm)はリングギアであり、前記複数の第1規制機構(C1、C2、B1)の1つは、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記第3エンジン側回転部材(Se)の回転数を前記第2遊星歯車機構Pmの前記第1モータ側回転部材(Sm)と同じにするための第1クラッチ(C1)であり、前記複数の第1規制機構(C1、C2、B1)の他の1つは、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記第3エンジン側回転部材(Se)の回転数を前記第1エンジン側回転部材(Ce)および前記第2エンジン側回転部材(Re)と同じにするための第2クラッチ(C2)であり、前記複数の第1規制機構(C1、C2、B1)の他の1つは、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記第3エンジン側回転部材(Se)の回転を固定部材(W1)で減速するための第1ブレーキ(B1)であり、前記複数の第2規制機構(B2、C3)の1つは、前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記第3モータ側回転部材(Rm)の回転を固定部材(W2)で減速するための第2ブレーキ(B2)であり、前記複数の第2規制機構(B2、C3)の他の1つは、前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記第3モータ側回転部材(Rm)の回転数を前記第1モータ側回転部材(Sm)および前記第2モータ側回転部材(Cm)と同じにするための第3クラッチ(C3)であり、前記エンジン(1)の減速比を第1エンジン減速比とし、前記モータ(MG)の減速比を第1モータ減速比とする場合、前記第1ブレーキ(B1)の規制を解除し、前記第2ブレーキ(B2)の規制を有効とし、前記第1クラッチ(C1)を繋ぎ、前記第2クラッチ(C2)を切り、前記第3クラッチ(C3)を切り、前記エンジン(1)の減速比を前記第1エンジン減速比よりも減速比の小さい第2エンジン減速比とし、前記モータ(MG)の減速比を前記第1モータ減速比とする場合、前記第1ブレーキ(B1)の規制を解除し、前記第2ブレーキ(B2)の規制を有効とし、前記第1クラッチ(C1)を切り、前記第2クラッチ(C2)を繋ぎ、前記第3クラッチ(C3)を切り、前記エンジン(1)の減速比を前記第2エンジン減速比とし、前記モータ(MG)の減速比を前記第1モータ減速比よりも減速比の小さい第2モータ減速比とする場合、前記第1ブレーキ(B1)の規制を解除し、前記第2ブレーキ(B2)の規制を解除し、前記第1クラッチ(C1)を切り、前記第2クラッチ(C2)を繋ぎ、前記第3クラッチ(C3)を繋ぎ、前記エンジン(1)の減速比を前記第2エンジン減速比よりも減速比の小さい第3エンジン減速比とし、前記モータ(MG)の減速比を前記第2モータ減速比とする場合、前記第1ブレーキ(B1)の規制を有効とし、前記第2ブレーキ(B2)の規制を解除し、前記第1クラッチ(C1)を切り、前記第2クラッチ(C2)を切り、前記第3クラッチ(C3)を繋ぎ、前記エンジン(1)の減速比を前記第3エンジン減速比とし、前記モータ(MG)の減速比を銭第1モータ減速比とする場合、前記第1ブレーキ(B1)の規制を有効とし、前記第2ブレーキ(B2)の規制を有効とし、前記第1クラッチ(C1)を切り、前記第2クラッチ(C2)を切り、前記第3クラッチ(C3)を切ることを特徴とする。このようにすることで、第1〜第3エンジン減速比、第1、第2モータ減速比の各種組み合わせを実現できる。
【0019】
なお、上記および特許請求の範囲における括弧内の符号は、特許請求の範囲に記載された用語と後述の実施形態に記載される当該用語を例示する具体物等との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用動力伝達装置の構成を示すスケルトン図である。
【図2】エンジン1、モータMGの減速比とブレーキB1、B2、クラッチC1〜C3の状態の対応関係を示す表である。
【図3】各減速比の組み合わせにおける第1遊星歯車機構Pe、第2遊星歯車機構Pmの接続関係を示す図である。
【図4】各減速比の組み合わせにおける第1遊星歯車機構Pe、第2遊星歯車機構Pmの共線図である。
【図5】従来の第1遊星歯車機構Pe、第2遊星歯車機構Pmの接続関係を示す図である。
【図6】車両の車速と最適な減速比の関係を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について説明する。図1に、本実施形態に係る車両用動力伝達装置の構成をスケルトン図で示す。この車両用動力伝達装置は、ハイブリッド車両の走行用の動力を発生する動力発生装置として、内燃機関であるエンジン1と、二次電池であるバッテリの電力で駆動されるモータMGを備えている。
【0022】
更に車両用動力伝達装置は、エンジン1の発生した動力が入力される第1遊星歯車機構Peと、モータMGの発生した動力が入力される第2遊星歯車機構Pmとを備えている。これら第1遊星歯車機構Peおよび第2遊星歯車機構Pmのそれぞれは、周知のサンギア、キャリア、リングギアという3つの回転部材を備えた周知のギア機構である。
【0023】
なお、第1遊星歯車機構Peにおいては、キャリアが第1エンジン側回転部材の一例に相当し、リングギアが第2エンジン側回転部材の一例に相当し、サンギアが第3エンジン側回転部材の一例に相当する。また、第2遊星歯車機構Pmにおいては、サンギアが第1モータ側回転部材の一例に相当し、キャリアが第2モータ側回転部材の一例に相当し、リングギアが第3モータ側回転部材の一例に相当する。
【0024】
また、車両用動力伝達装置は、エンジン入力軸2、モータ入力軸3、第1伝達軸4、第2伝達軸5、第3伝達軸6、第4伝達軸7、第5伝達軸8、カウンタドライブギア9、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3を備えている。
【0025】
エンジン入力軸2は、一端がエンジン1に接続され、他端が第1遊星歯車機構Peのキャリアに接続されており、それにより、エンジン1の発生する動力が入力され、エンジン1の動力を第1遊星歯車機構Peのキャリアに入力するようになっている。
【0026】
モータ入力軸3は、円筒形状の軸であり、モータMGのロータに接続されると共に、一端で第2遊星歯車機構Pmのサンギアに接続され、それにより、モータMGの発生する動力が入力され、モータMGの動力を第2遊星歯車機構Pmのサンギアに入力するようになっている。
【0027】
第1伝達軸4は、円筒形状の軸であり、一端が第1遊星歯車機構Peのリングギアに接続され、他端が第2遊星歯車機構Pmのキャリアに接続されることで、第1遊星歯車機構Peのリングギアと第2遊星歯車機構Pmのキャリアとを相互に接続するようになっている。これにより、第1遊星歯車機構Peのリングギアの回転数と第2遊星歯車機構Pmのキャリアの回転数は互いに規制し合う。より具体的には、第1遊星歯車機構Peのリングギアの回転数と第2遊星歯車機構Pmのキャリアの回転数は同じになる。
【0028】
第2伝達軸5は、一端が第1遊星歯車機構Peのサンギアに接続されていることで、第1遊星歯車機構Peのサンギアと共に一体回転するようになっている。
【0029】
第1ブレーキB1(第1規制機構の一例に相当する)は、第2伝達軸5と車体に固定された固定部材W1の間に取り付けられた周知の制動装置(例えば、多板式のブレーキ)であり、固定部材W1に対する第2伝達軸5の回転を規制可能となっている。具体的には、第1ブレーキB1が有効となった場合には、第2伝達軸5の回転が固定部材W1で減速され、第1ブレーキB1が解除された場合には、第2伝達軸5は固定部材W1に制限されずに回転可能となる。なお、固定部材W1による第2伝達軸5の回転の減速の方法は、第2伝達軸5の回転数がゼロになるような減速方法であってもよいし、第2伝達軸5の回転に強い粘性抵抗を与えることで、回転数をゼロより大きい値に減速する方法であってもよい。
【0030】
なお、第2伝達軸5は第1遊星歯車機構Peのサンギアに接続されているので、第1ブレーキB1は、第1遊星歯車機構Peのサンギアの回転数を固定部材W1で減速することで、第1遊星歯車機構Peのサンギアの回転を規制可能となっている。
【0031】
第1クラッチC1(第1規制機構の一例に相当する)は、モータ入力軸3の他端と第2伝達軸5の間に取り付けられ、モータ入力軸3と第2伝達軸5とを相互に断続する周知のクラッチ(例えば多板式のクラッチ)である。
【0032】
第3伝達軸6は、円筒形状の軸であり、一端が第1遊星歯車機構Peのリングギアに接続されることで、第1遊星歯車機構Peのリングギアと共に一体回転するようになっている。
【0033】
第2クラッチC2(第1規制機構の一例に相当する)は、第3伝達軸6の他端とエンジン入力軸2との間に取り付けられ、第3伝達軸6とエンジン入力軸2とを相互に断続する周知のクラッチ(例えば多板式のクラッチ)である。
【0034】
第2ブレーキB2(第2規制機構の一例に相当する)は、第2遊星歯車機構Pmのリングギアと車体に固定された固定部材W2の間に取り付けられた周知の制動装置(例えば、多板式のブレーキ)であり、固定部材W2に対する第2遊星歯車機構Pmのリングギアの回転を規制可能となっている。具体的には、第2ブレーキB2が有効となった場合には、当該リングギアの回転が固定部材W2で減速され、第2ブレーキB2が解除された場合には、当該リングギアは固定部材W2に制限されずに回転可能となる。なお、固定部材W2による当該リングギアの回転の減速の方法は、当該リングギアの回転数がゼロになるような減速方法であってもよいし、当該リングギアの回転に強い粘性抵抗を与えることで、回転数をゼロより大きい値に減速する方法であってもよい。
【0035】
第4伝達軸7は、円筒形状の軸であり、一端が第2遊星歯車機構Pmのキャリアに接続されることで、第2遊星歯車機構Pmのキャリアと共に一体回転するようになっている。
【0036】
カウンタドライブギア9は、第4伝達軸7の他端に接続された歯車であり、第4伝達軸7と共に一体回転するようになっている。
【0037】
第5伝達軸8は、円筒形状の軸であり、一端が第2遊星歯車機構Pmのリングギアに接続されることで、第2遊星歯車機構Pmのリングギアと共に一体回転するようになっている。
【0038】
第3クラッチC3(第2規制機構の一例に相当する)は、第4伝達軸7と第5伝達軸8の他端との間に取り付けられ、第4伝達軸7と第5伝達軸8の他端とを相互に断続する周知のクラッチ(例えば多板式のクラッチ)である。
【0039】
また、エンジン入力軸2および第2伝達軸5と平行に、すなわち第1遊星歯車機構Peと第2遊星歯車機構Pmの中心軸線と平行に、カウンタ軸11が配置されている。このカウンタ軸11の図1における右側の端部、すなわち各遊星歯車機構Pe、Pm側の端部に、カウンタドリブンギア12がカウンタ軸11と一体回転するように取り付けられている。
【0040】
このカウンタドリブンギア12は、カウンタドライブギア9に噛合している。また、カウンタ軸11の図1における左側の端部、すなわち遊星歯車機構Pe、Pmとは反対側の端部に、出力ギア13が取り付けられており、この出力ギア13は、ディファレンシャルギア14におけるリングギア14aに噛合している。また、ディファレンシャルギア14は、図示しない駆動輪の車軸に、出力ギア13から受けた動力を伝達する。したがって、エンジン1の動力およびモータMGの動力のうちいずれか一方または両方が、カウンタドライブギア9を介して駆動輪の車軸に伝達される。
【0041】
したがって、第1伝達軸4、第4伝達軸7、カウンタドライブギア9が、第1遊星歯車機構Peのリングギアおよび第2遊星歯車機構Pmの前記キャリアからの動力を結合して前記車両の駆動輪の車軸に伝達する出力機構として作用する。
【0042】
次に、車両用動力伝達装置の各部の配置について補足説明する。エンジン入力軸2と第2伝達軸5は同軸に配置されている。また、第1遊星歯車機構Peは第2遊星歯車機構Pmから見てエンジン1側に配置されており、第2遊星歯車機構Pmは第1遊星歯車機構Peから見てモータMG側に配置されている。
【0043】
また、第1伝達軸4は、第1遊星歯車機構Peと第2遊星歯車機構Pmの間の位置で、第2伝達軸5を囲んで第2伝達軸5と同軸に配置される。また、モータ入力軸3は、第2遊星歯車機構Pmから見てエンジン1の反対側において、第2伝達軸5を囲んで第2伝達軸5と同軸に配置される。
【0044】
また、第4伝達軸7は、モータ入力軸3を囲んでモータ入力軸3、第2伝達軸5と同軸に配置される。また、第5伝達軸8は、第4伝達軸7を囲んでモータ入力軸3、第2伝達軸5、第4伝達軸7と同軸に配置される。
【0045】
また、第1クラッチC1はモータ入力軸3から見てエンジン1の反対側に配置され、第1ブレーキB1はモータ入力軸3から見てエンジン1の反対側に配置されると共に第1クラッチC1よりもモータMGから遠い位置に配置される。また、第2クラッチC2は、第1遊星歯車機構Peから見てエンジン1側に配置され、第3伝達軸6は、第1遊星歯車機構Peと第2クラッチC2の間の位置で、エンジン入力軸2を囲んでエンジン入力軸2と同軸に配置される。
【0046】
また、車両用動力伝達装置は、制御装置20を有している。制御装置20は、車両内で取得された各種物理量に基づいて、上記のモータMGの駆動、非駆動、および、クラッチC1〜C3の接続、切断、ブレーキB1、B2の有効、解除を制御することで、エンジン1、モータMGが発生する動力の減速比を制御する。制御装置20としては、例えば、プログラムを実行するマイクロコントローラを備えた電子制御装置を用いる。
【0047】
より具体的には、車両の車速を示す車速信号、アクセル開度を示すアクセル開度信号等が、制御装置20に入力される。車速信号としては、例えば各車輪に対して搭載された車輪速センサから出力される信号を用いる。アクセル開度信号は、例えば、アクセル開度検出センサから出力される信号を用いる。
【0048】
また制御装置20は、これら入力された信号に基づいて、クラッチC1〜C3の接続、切断、ブレーキB1、B2の有効、解除を切り替えることで、エンジン1およびモータMGが発生する動力の減速比を制御する。具体的には、制御装置20は、クラッチC1〜C3のそれぞれに対して設けられた、対応する接続、切断を実現するアクチュエータ(例えばクラッチの断続のための油圧を発生するアクチュエータ)の作動を制御することで、クラッチC1〜C3の接続、切断を切り替える。また、制御装置20は、ブレーキB1、B2のそれぞれに対して設けられた、対応する有効、解除を実現するアクチュエータ(例えば油圧を発生するアクチュエータ)の作動を制御することで、ブレーキB1、B2の有効、解除を切り替える。
【0049】
ここで、エンジン1の減速比(第1遊星歯車機構Peにおけるエンジン1の動力の入力と出力の減速比)とモータMGの減速比(第2遊星歯車機構PmにおけるモータMGの動力の入力と出力の減速比)の各種組み合わせおよびそれら組み合わせを実現するためのクラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2の状態について説明する。
【0050】
図2に、エンジン1、モータMGの減速比とクラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2の状態の対応関係を示す。この図中、丸印が、クラッチの接続またはブレーキの有効(以降、どちらも単にオンという)を表し、丸印がないことが、クラッチの切断またはブレーキの解除(以降、どちらも単にオフという)を表し、この表の上の行から順に説明していく。
【0051】
また、以下の説明においては、第1遊星歯車機構Pe、第2遊星歯車機構Pmの接続関係を示す図3を参照し、第1遊星歯車機構Pe、第2遊星歯車機構Pmの状態の共線図である図4を参照する。
【0052】
なお、図3(a)〜(e)においては、Se、Ce、Reは、それぞれ第1遊星歯車機構Peのサンギア、キャリア、リングギアを表し、Sm、Cm、Rmは、それぞれ第2遊星歯車機構Pmのサンギア、キャリア、リングギアを表す。また、図4(a)〜(e)においては、縦軸は回転数を表し、横軸のSe、Ce、Reは、それぞれ第1遊星歯車機構Peのサンギア、キャリア、リングギアを表し、横軸のSm、Cm、Rmは、それぞれ第2遊星歯車機構Pmのサンギア、キャリア、リングギアを表す。
【0053】
図4(a)〜(e)においてCmとReを同じ位置にしているのは、第1伝達軸4を介して繋がっている第1遊星歯車機構Peのリングギアと第2遊星歯車機構Pmのキャリアの回転数が同じになるからである。また、SmとSeを同じ位置にしているのは、簡単のためであって、違う位置に配置しても以下で説明する特徴は同様である。
【0054】
(a)エンジン1速、モータ1速モード
まず、エンジン1の減速比を第1エンジン減速比とし、モータMGの減速比を第1モータ減速比とする場合、制御装置20は、図2に示すように、第2ブレーキB2、第1クラッチC1をオンに制御し、第1ブレーキB1、第2クラッチC2、第3クラッチC3をオフに制御する。
【0055】
このようにすると、図3(a)に示すように、エンジン1の発生する動力がエンジン入力軸2を介して第1遊星歯車機構Peのキャリアに入力される。また、モータMGの発生する動力がモータ入力軸3を介して第2遊星歯車機構Pmのサンギアに入力されるのみならず、クラッチC1を接続してたことにより、第1遊星歯車機構Peのサンギアと第2遊星歯車機構Pmのサンギアの回転数が等しくなるとともに、モータ入力軸3、エンジン1、第2伝達軸5を介して第1遊星歯車機構Peのサンギアにもトルクが伝達される。また、第2遊星歯車機構Pmのリングギアの回転は、第2ブレーキB2によって規制される。ここでは、当該リングギアの回転数はゼロになるものとする。
【0056】
したがって、図4(a)の共線図に示すように、Rmがゼロとなるので、モータMGの回転数Nmが決まれば、第2遊星歯車機構Pmの状態を表す直線41が決まり、その直線41に従い、Cmの回転数も決まる。
【0057】
また、CmとReの回転数は等しく、また、SmとSeの回転数も等しいので、第1遊星歯車機構Peの状態を表す直線も直線41になる。その直線41に従い、Ceに入力されるエンジン1の回転数Neが決まる。
【0058】
(b)エンジン2速、モータ1速モード
エンジン1の減速比を第1エンジン減速比よりも減速比の小さい第2エンジン減速比とし、モータMGの減速比を第1モータ減速比とする場合、制御装置20は、図2に示すように、第2ブレーキB2、第2クラッチC2をオンに制御し、第1ブレーキB1、第1クラッチC1、第3クラッチC3をオフに制御する。
【0059】
このようにすると、図3(b)に示すように、エンジン1の発生する動力がエンジン入力軸2を介して第1遊星歯車機構Peのキャリアに入力されると共に、エンジン入力軸2、第2クラッチC2、第3伝達軸6を介して第1遊星歯車機構Peのリングギアにも入力される。したがって、第1遊星歯車機構Peのキャリアとリングギアの回転数が等しくなる。また、第1遊星歯車機構Peのサンギアは、第1遊星歯車機構Peの外部から回転が規制されない状態になる。第2遊星歯車機構Pmの接続関係については、上記(a)のエンジン1速、モータ1速モードと同じである。
【0060】
したがって、図4(b)の共線図において、第2遊星歯車機構Pmの状態を表す直線41は上記(a)のエンジン1速、モータ1速モードと同じである。この直線41に従い、第1遊星歯車機構PeのReの回転数が決まる。そして、ReとCeの回転数が等しいので、第1遊星歯車機構Peの状態を表す直線42は水平になり、この直線42に従い、Ceに入力されるエンジン1の回転数Neが決まる。直線42が直線41よりも水平に近かった関係上、この回転数Neは、上記(a)のエンジン1速、モータ1速モードの回転数Neよりも低くなる。したがって、この場合の第2エンジン減速比は、第1エンジン減速比よりも確かに小さくなる。
【0061】
(c)エンジン2速、モータ2速モード
エンジン1の減速比を第2エンジン減速比とし、モータMGの減速比を第1モータ減速比よりも減速比の小さい第2モータ減速比とする場合、制御装置20は、図2に示すように、第2クラッチC2、第3クラッチC3をオンに制御し、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第1クラッチC1をオフに制御する。
【0062】
この場合、第1遊星歯車機構Peの接続関係については、上記(b)のエンジン2速、モータ1速モードと同じである。第2遊星歯車機構Pmの接続関係については、図3(c)に示すように、モータMGの発生する動力がモータ入力軸3を介して第2遊星歯車機構Pmのサンギアに入力され、第5伝達軸8、第3クラッチC3、第4伝達軸7を介して第2遊星歯車機構Pmのキャリアとリングギアが繋がるので、これらキャリアとリングギアの回転数が等しくなる。
【0063】
したがって、図4(b)の共線図に示すように、第1遊星歯車機構Peの状態を示す直線も第2遊星歯車機構Pmの状態を示す直線も同じ水平な直線42になる。したがって、エンジン1の回転数Neは上記(b)のエンジン2速、モータ1速モードと同じであり、モータMGの回転数Nmの回転数は上記(b)のエンジン2速、モータ1速モードに比べて低くなる。したがって、この場合の第2モータ減速比は、第1モータ減速比よりも確かに小さくなる。
【0064】
(d)エンジン3速、モータ2速モード
エンジン1の減速比を第2エンジン減速比よりも減速比の小さい第3エンジン減速比とし、モータMGの減速比を第2モータ減速比とする場合、制御装置20は、図2に示すように、第1ブレーキB1、第3クラッチC3をオンに制御し、第2ブレーキB2、第1クラッチC1、第2クラッチC2をオフに制御する。
【0065】
この場合、第2遊星歯車機構Pmの接続関係については、上記(c)のエンジン2速、モータ2速モードと同じである。第1遊星歯車機構Peについては、図3(d)に示すように、エンジン1の発生する動力がエンジン入力軸2を介して第1遊星歯車機構Peのキャリアに入力され、また、第1遊星歯車機構Peのサンギアの回転は、第1ブレーキB1によって規制される。ここでは、当該サンギアの回転数はゼロになるものとする。
【0066】
したがって、図4(d)の共線図に示すように、第2遊星歯車機構Pmの状態を示す直線42は上記(c)のエンジン2速、モータ2速モードと同じであるが、第1遊星歯車機構Peの状態を示す直線については、Seがゼロになり、ReがCmと同じになるので、右上がりの直線43となる。この直線43に従い、Ceに入力されるエンジン1の回転数Neが決まる。直線が右上がりになっているので、この回転数Neは、駆動輪の車軸への出力用の回転数(Reの回転数)よりも小さくなる。すなわち、エンジン1の回転は第1遊星歯車機構Peにおいて増速されることになる。したがって、この場合の第3エンジン減速比は、第2エンジン減速比よりも確かに小さくなる。
【0067】
(e)エンジン3速、モータ1速モード
エンジン1の減速比を第3エンジン減速比とし、モータMGの減速比を第1モータ減速比とする場合、制御装置20は、図2に示すように、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2をオンに制御し、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3をオフに制御する。
【0068】
この場合、図3(e)に示すように、第1遊星歯車機構Peの接続関係については、上記(d)のエンジン3速、モータ2速モードと同じであり、第2遊星歯車機構Pmの接続関係については、上記(b)のエンジン2速、モータ1速モードと同じである。
【0069】
なお、図示しないが、エンジン1速、モータ2速モードも実現可能である。具体的には、第2クラッチC2、第2ブレーキB2をオンに制御し、第1クラッチC1、第3クラッチC3、第1ブレーキB1をオフに制御すればよい。
【0070】
以上のように、このように、エンジン1が発生した動力とモータMGが発生した動力が別々の経路でカウンタドライブギア9を経て駆動輪の車軸に伝達される。
【0071】
そして、制御装置20は、エンジン1の減速比を制御する際は、エンジン1の動力が第1遊星歯車機構Peのキャリアに入力される状態を保ちながら、第1エンジン減速比を実現するために、第1クラッチC1を繋いで、第1遊星歯車機構Peのサンギアの回転を、第2遊星歯車機構Pmのサンギアと回転数が同じになるような機構で、規制し(図2の8行目参照)、第2エンジン減速比を実現するために、第2クラッチC2を繋いで、第1遊星歯車機構Peのサンギアの回転を、第1遊星歯車機構Peのキャリアおよびリングギアと回転数が同じになるような機構で、規制し(図2の9行目参照)、第3エンジン減速比を実現するために、第1ブレーキB1を有効とし、第1遊星歯車機構Peのサンギアの回転を、固定部材W1で減速させるような機構で、規制する(図2の10行目参照)。
【0072】
また制御装置20は、モータMGの減速比を制御する際は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1の制御とは別に(かつ独立に)、モータMGの動力が第2遊星歯車機構Pmのサンギアに入力される状態を保ちならが、第1モータ減速比を実現するために、第2ブレーキB2を有効とし、第2遊星歯車機構Pmのリングギアの回転を、固定部材W2で減速させるような機構で、規制し(図2の6行目参照)、第2モータ減速比を実現するために、第3クラッチC3を繋ぎ、第2遊星歯車機構Pmのリングギアの回転を、第2遊星歯車機構Pmのキャリアと回転数が同じになるような機構で、規制する(図2の7行目参照)。
【0073】
このように、第1遊星歯車機構Pe用の複数の第1規制機構C1、C2、B1のうち、使用する第1規制機構を切り替えることで、第1遊星歯車機構Peの入力と出力の減速比が切り替え可能となる一方、これとは別に、第2遊星歯車機構Pm用の第2規制機構B2、C3のうち、使用する第1規制機構を切り替えることで、第2遊星歯車機構Pmの入力と出力の減速比が切り替え可能となる。つまり、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2を有する規制機構部を制御することにより、エンジン1側の減速比とモータMG側の減速比を独立に設定できるようになっている。したがって、エンジン1の減速比とモータMGの減速比の対応関係を可変とすることができる。
【0074】
そして、エンジン1とモータMGの変速用のギア機構を共用し、更なる小型化を実現しつつ、エンジン1とモータMGの各々の最適なギア段を選択できることで、車両のシステム全体の効率を向上させることができる。
【0075】
また、図2の最下行に示すように、第1クラッチC1をオンとし、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第2クラッチC2、第3クラッチC3をオフとすることで、車両の停止中において、エンジン1の発生する動力でモータMGを回転させて発電し、バッテリに充電を行うことができる。これは、車両の停止中は、駆動輪の車軸が回転していないので、第1遊星歯車機構Peのリングギアが固定され、その結果、エンジン1の動力が、第1遊星歯車機構Peで減速されて第1遊星歯車機構Peのサンギアから出力され、更に第2伝達軸5、第1クラッチC1、モータ入力軸3を介してモータMGに伝達されるからである。
【0076】
参考として、図5に、特許文献1の車両用動力伝達装置における2つの減速比と遊星歯車機構の接続関係の組み合わせを示す。この図に示すように、特許文献1の車両用動力伝達装置では、一方の遊星歯車機構のリングギアと他方の遊星歯車機構のキャリアが常に一体に回転し、さらに、一方の遊星歯車機構のキャリアと他方の遊星歯車機構のリングギアが常に一体に回転するので、共線図で言えば、どちらの遊星歯車機構の状態も同じ直線で表されてしまい、その結果、減速比の組み合わせのバリエーションが乏しくなってしまう。そのため、エンジンと電気モータの効率の良い運転条件を個別に選択することは不可能である。一方、本実施形態では、エンジンおよびモータの効率の良い運転条件を個別に設定することが可能となっている。
【0077】
また、特許文献1の技術では、高速走行において、エンジンの効率の良い運転条件に設定することでモータの回転数が過大となるため、エンジン回転数に制限をかける必要がある。そのため、高速走行時の最高速度がモータの回転数によって決定されてしまう。
【0078】
とともに、高速走行時のモータ回転数の上昇を防止して、エンジン回転数を制限することなく走行することができる。
【0079】
次に、制御装置20がどのような条件に基づいてどのような減速比の組み合わせを選択するのかについて、一例を示す。図6に、本例における車両の車速と最適な減速比の関係を示す。
【0080】
この図中、一番上のグラフは、横軸がモータMGの回転数(例えばrpm単位)を示し、縦軸がモータMGのモータトルクを示しており、領域31が、モータMGの効率(車両の燃費に比例する)が所定基準以上となる領域を示している。
【0081】
また、上から二番目のグラフは、横軸がエンジン1の回転数(例えばrpm単位)を示し、縦軸がエンジン1のエンジントルクを示しており、領域32が、エンジン1の効率(車両の燃費に比例する)が所定基準以上となる領域を示している。
【0082】
また、一番下のグラフは、横軸がモータMGおよびエンジン1の回転数を示し、縦軸が車速を示し、直線33が第1モータ減速比におけるモータMGの車速と回転数の関係を示し、直線34が第1エンジン減速比におけるエンジン1の車速と回転数の関係を示し、直線35が第2エンジン減速比および第2モータ減速比におけるエンジン1およびモータMGの車速と回転数の関係を示し、直線36が第3エンジン減速比におけるエンジン1の車速と回転数の関係を示している。
【0083】
この図からわかるように、車速Aおよびその周辺のような低速域では、モータMGおよびエンジン1の回転数を領域31、32により近づけるため、制御装置20は、最も大きい減速比である第1モータ減速比と第1エンジン減速比の組み合わせを選択する。
【0084】
また、車速Bおよびその周辺のような中速域では、モータMGおよびエンジン1の回転数を領域31、32の中心により近づけるため、制御装置20は、第1モータ減速比と第2エンジン減速比の組み合わせを選択する。
【0085】
また、車速Cおよびその周辺のような高速域では、モータMGおよびエンジン1の回転数を領域31、32の中心により近づけるため、制御装置20は、第2モータ減速比と第3エンジン減速比の組み合わせを選択する。また、上述のような他の組み合わせも必要に応じて選択するようになっていてもよい。
【0086】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の各発明特定事項の機能を実現し得る種々の形態を包含するものである。例えば、以下のような形態も許容される。
【0087】
(1)上記実施形態においては、第1遊星歯車機構Peにおいて、第1エンジン側回転部材はキャリアであり、第2エンジン側回転部材はリングギアであり、第3エンジン側回転部材はサンギアであり、第2遊星歯車機構Pmにおいて、第1モータ側回転部材はサンギアであり、第2モータ側回転部材はキャリアであり、第3モータ側回転部材はリングギアであった。この構成とすることで、エンジンの回転数を減速すること、直結することも、増速することも可能となる。また、モータについては、直結と減速をすることができる。
【0088】
しかし、第1遊星歯車機構Peにおける第1〜第3回転部材とサンギア、キャリア、リングギアとの対応関係、および、第2遊星歯車機構Pmにおける第1〜第3回転部材とサンギア、キャリア、リングギアとの対応関係は、このようなものに限らない。
【0089】
(2)第3クラッチC3は、モータ入力軸3と第4伝達軸7を相互に断続することで、第2遊星歯車機構Pmのサンギアとキャリアの間の動力伝達を断続するようになっていてもよい。このようになっている場合でも、上記実施形態と同じ制御装置20の制御で、上記実施形態と同じ減速比が実現する。例えば、第2ブレーキB2の規制を解除して第3クラッチC3を繋げた場合、モータMGの第2の減速比が実現する。
【0090】
(3)また、第3クラッチC3は、モータ入力軸3と第5伝達軸8を相互に断続することで、第2遊星歯車機構Pmのサンギアとリングギアの間の動力伝達を断続するようになっていてもよい。このようになっている場合でも、上記実施形態と同じ制御装置20の制御で、上記実施形態と同じ減速比が実現する。例えば、第2ブレーキB2の規制を解除して第3クラッチC3を繋げた場合、モータMGの第2の減速比が実現する。
【0091】
(4)また、第2クラッチC2は、エンジン入力軸2と第2伝達軸5を相互に断続することで、第1遊星歯車機構Peのサンギアとキャリアの間の動力伝達を断続するようになっていてもよい。このようになっている場合でも、上記実施形態と同じ制御装置20の制御で、上記実施形態と同じ減速比が実現する。例えば、第1ブレーキB1の規制を解除して第2クラッチC2を繋げた場合、エンジン1の第2の減速比が実現する。
【0092】
(5)また、第2クラッチC2は、第2伝達軸5と第1伝達軸4を相互に断続することで、第1遊星歯車機構Peのサンギアとリングギアの間の動力伝達を断続するようになっていてもよい。このようになっている場合でも、上記実施形態と同じ制御装置20の制御で、上記実施形態と同じ減速比が実現する。例えば、第1ブレーキB1の規制を解除して第2クラッチC2を繋げた場合、エンジン1の第2の減速比が実現する。
【0093】
(6)第3クラッチC3は、ENG−2+MOT−2では、モータ入力軸3と第4伝達軸7を相互に断続することで、第2遊星歯車機構Pmのサンギアとキャリアの間の動力伝達を断続するようになっていてもよい。このようになっている場合でも、第2ブレーキB2の規制を解除して第3クラッチC3を繋げた場合、モータの第2の減速比が実現する。
【0094】
(7)第3クラッチC3およびカウンタドライブギア9は、両方が第4伝達軸7ではなく第1伝達軸4に直接接続されていてもよいし、いずれか一方が第4伝達軸7ではなく第1伝達軸4に直接接続されていてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 エンジン
2 エンジン入力軸
3 モータ入力軸
4〜8 伝達軸
9 カウンタドライブギア
11 カウンタ軸
12 カウンタドリブンギア
13 出力ギア
14 ディファレンシャルギア
14a リングギア
20 制御装置
MG モータ
Pe 第1遊星歯車機構
Pm 第2遊星歯車機構Pm
C1〜C3 クラッチ
B1、B2 ブレーキ
W1、W2 固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力を発生するエンジン(1)およびモータ(MG)を備えた車両用の動力伝達装置であって、
サンギア、キャリア、リングギアという3つの回転部材を備える第1遊星歯車機構(Pe)と、
サンギア、キャリア、リングギアという3つの回転部材を備える第2遊星歯車機構(Pm)と、
前記エンジン(1)の発生する動力が入力され、前記エンジン(1)の動力を前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記3つの回転部材のうち第1エンジン側回転部材(Ce)に入力するエンジン入力軸(2)と、
前記モータ(MG)の発生する動力が入力され、前記モータ(MG)の動力を前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記3つの回転部材のうち第1モータ側回転部材(Sm)に入力するモータ入力軸(3)と、
前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記3つの回転部材のうち第2エンジン側回転部材(Re)および前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記3つの回転部材のうち第2モータ側回転部材(Cm)からの動力を結合して前記車両の駆動輪の車軸に伝達する出力機構(4、7、9)と、
前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記3つの回転部材のうち第3エンジン側回転部材(Se)の回転をそれぞれ異なる機構で規制可能な複数の第1規制機構(C1、C2、B1)と、
前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記3つの回転部材のうち第3モータ側回転部材(Rm)の回転をそれぞれ異なる機構で規制可能な複数の第2規制機構(B2、C3)と、を備えた車両用動力伝達装置。
【請求項2】
走行用の動力を発生するエンジン(1)およびモータ(MG)を備えた車両用の動力伝達装置であって、
サンギア、キャリア、リングギアという3つの回転部材を備える第1遊星歯車機構(Pe)と、
サンギア、キャリア、リングギアという3つの回転部材を備える第2遊星歯車機構(Pm)と、
前記エンジン(1)の発生する動力が入力され、前記エンジン(1)の動力を前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記3つの回転部材のうち第1エンジン側回転部材(Ce)に入力するエンジン入力軸(2)と、
前記モータ(MG)の発生する動力が入力され、前記モータ(MG)の動力を前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記3つの回転部材のうち第1モータ側回転部材(Sm)に入力するモータ入力軸(3)と、
前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記3つの回転部材のうち第2エンジン側回転部材(Re)および前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記3つの回転部材のうち第2モータ側回転部材(Cm)からの動力を結合して前記車両の駆動輪の車軸に伝達する出力機構(4、7、9)と、
前記第1遊星歯車機構(Pe)および前記第2遊星歯車機構(Pm)の回転条件を規制する規制機構部(C1、C2、C3、B1、B2)と、を備え、
前記規制機構部(C1、C2、C3、B1、B2)を制御することにより、前記エンジン(1)側の減速比と前記モータ(MG)側の減速比を独立に設定できることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項3】
前記規制機構部(C1、C2、C3、B1、B2)は、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記3つの回転部材のうち第3エンジン側回転部材(Se)の回転をそれぞれ異なる機構で規制可能な複数の第1規制機構(C1、C2、B1)と、前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記3つの回転部材のうち第3モータ側回転部材(Rm)の回転をそれぞれ異なる機構で規制可能な複数の第2規制機構(B2、C3)と、を有することを特徴とする請求項2に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項4】
前記第1遊星歯車機構Peにおいて、前記第1エンジン側回転部材(Ce)はキャリアであり、前記第2エンジン側回転部材(Re)はリングギアであり、前記第3エンジン側回転部材(Se)はサンギアであり、
前記第2遊星歯車機構Pmにおいて、前記第1モータ側回転部材(Sm)はサンギアであり、前記第2モータ側回転部材(Cm)はキャリアであり、前記第3モータ側回転部材(Rm)はリングギアであることを特徴とする請求項1または3に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項5】
前記複数の第1規制機構(C1、C2、B1)の1つは、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記第3エンジン側回転部材(Se)の回転数を前記第2遊星歯車機構Pmの前記第1モータ側回転部材(Sm)と同じにするための第1クラッチ(C1)であり、
前記複数の第1規制機構(C1、C2、B1)の他の1つは、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記第3エンジン側回転部材(Se)の回転数を前記第1エンジン側回転部材(Ce)および前記第2エンジン側回転部材(Re)と同じにするための第2クラッチ(C2)であることを特徴とする請求項1、3および4のいずれか1つに記載の車両用動力伝達装置。
【請求項6】
前記複数の第1規制機構(C1、C2、B1)の他の1つは、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記第3エンジン側回転部材(Se)の回転を固定部材(W1)で減速するための第1ブレーキ(B1)であることを特徴とする請求項5に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項7】
前記複数の第2規制機構(B2、C3)の1つは、前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記第3モータ側回転部材(Rm)の回転を固定部材(W2)で減速するための第2ブレーキ(B2)であり、
前記複数の第2規制機構(B2、C3)の他の1つは、前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記第3モータ側回転部材(Rm)の回転数を前記第1モータ側回転部材(Sm)および前記第2モータ側回転部材(Cm)と同じにするための第3クラッチ(C3)であることを特徴とする請求項1および3ないし6のいずれか1つに記載の車両用動力伝達装置。
【請求項8】
前記第1遊星歯車機構Peにおいて、前記第1エンジン側回転部材(Ce)はキャリアであり、前記第2エンジン側回転部材(Re)はリングギアであり、前記第3エンジン側回転部材(Se)はサンギアであり、
前記第2遊星歯車機構Pmにおいて、前記第1モータ側回転部材(Sm)はサンギアであり、前記第2モータ側回転部材(Cm)はキャリアであり、前記第3モータ側回転部材(Rm)はリングギアであり、
前記複数の第1規制機構(C1、C2、B1)の1つは、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記3エンジン側回転部材(Se)の回転数を前記第2遊星歯車機構Pmの前記第1モータ側回転部材(Sm)と同じにするための第1クラッチ(C1)であり、
前記複数の第1規制機構(C1、C2、B1)の他の1つは、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記第3エンジン側回転部材(Se)の回転数を前記第1エンジン側回転部材(Ce)および前記第2エンジン側回転部材(Re)と同じにするための第2クラッチ(C2)であり、
前記複数の第1規制機構(C1、C2、B1)の他の1つは、前記第1遊星歯車機構(Pe)の前記3エンジン側回転部材(Se)の回転を固定部材(W1)で減速するための第1ブレーキ(B1)であり、
前記複数の第2規制機構(B2、C3)の1つは、前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記第3モータ側回転部材(Rm)の回転を固定部材(W2)で減速するための第2ブレーキ(B2)であり、
前記複数の第2規制機構(B2、C3)の他の1つは、前記第2遊星歯車機構(Pm)の前記第3モータ側回転部材(Rm)の回転数を前記第1モータ側回転部材(Sm)および前記第2モータ側回転部材(Cm)と同じにするための第3クラッチ(C3)であり、
前記エンジン(1)の減速比を第1エンジン減速比とし、前記モータ(MG)の減速比を第1モータ減速比とする場合、前記第1ブレーキ(B1)の規制を解除し、前記第2ブレーキ(B2)の規制を有効とし、前記第1クラッチ(C1)を繋ぎ、前記第2クラッチ(C2)を切り、前記第3クラッチ(C3)を切り、
前記エンジン(1)の減速比を前記第1エンジン減速比よりも減速比の小さい第2エンジン減速比とし、前記モータ(MG)の減速比を前記第1モータ減速比とする場合、前記第1ブレーキ(B1)の規制を解除し、前記第2ブレーキ(B2)の規制を有効とし、前記第1クラッチ(C1)を切り、前記第2クラッチ(C2)を繋ぎ、前記第3クラッチ(C3)を切り、
前記エンジン(1)の減速比を前記第2エンジン減速比とし、前記モータ(MG)の減速比を前記第1モータ減速比よりも減速比の小さい第2モータ減速比とする場合、前記第1ブレーキ(B1)の規制を解除し、前記第2ブレーキ(B2)の規制を解除し、前記第1クラッチ(C1)を切り、前記第2クラッチ(C2)を繋ぎ、前記第3クラッチ(C3)を繋ぎ、
前記エンジン(1)の減速比を前記第2エンジン減速比よりも減速比の小さい第3エンジン減速比とし、前記モータ(MG)の減速比を前記第2モータ減速比とする場合、
前記第1ブレーキ(B1)の規制を有効とし、前記第2ブレーキ(B2)の規制を解除し、前記第1クラッチ(C1)を切り、前記第2クラッチ(C2)を切り、前記第3クラッチ(C3)を繋ぎ、
前記エンジン(1)の減速比を前記第3エンジン減速比とし、前記モータ(MG)の減速比を銭第1モータ減速比とする場合、前記第1ブレーキ(B1)の規制を有効とし、前記第2ブレーキ(B2)の規制を有効とし、前記第1クラッチ(C1)を切り、前記第2クラッチ(C2)を切り、前記第3クラッチ(C3)を切ることを特徴とする請求項1または3に記載の車両用動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−30695(P2012−30695A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171882(P2010−171882)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】